婆さんはそういった。

「テンコサンってなに?」と聞いた。
元は人間で今は神様のような物らしく戦前にはよく居たらしい。
しかし婆さんは戦前をよく知らないので、見るのは初めてだそうだ。

昔はヒロポンなんかでラリった人が自然環境に放置されるとテンコサンになると言われていたらしい。
真相はわからないけど、婆さんのお母さんからそう聞いたんだとか。
ちなみに差別用語だそうだ。

テンコさんになると、あらゆるものの制御ができない。
そのためか、片手でものすごく大きな石を持ち上げたり投げたりしていた。
ガリガリのおばさんに到底できるような事じゃないなと思って婆さんの話を聞いていた。

テンコサンのそばに長居すると自分もテンコサンになるらしく引き返すことになった。
バッグは惜しいけど、人間をやめるくらいなら…と思い直し諦めた。

どうせバッグはテンコサンにボロボロにされていたから無事ではない。
婆さんも「エサが入っとる思って開けようとしてるんやろ」と言っていた。

船に帰って爺さんにその話をすると、爺さんもテンコサンを知っていた。
見たことは無いけど爺さんも母親から聞いたのだそうだ。

帰り道にテンコサンは捜索願が出ている人かもしれないという話が出た。
しかし爺さんも婆さんも
「あれを見たら親も悲しいやろうし、うちらの仕事には関係無いからほっとけ」
という事で警察に通報もせず帰った。

(2/2)終わり

正直、無表情で近づいてくるのを見た時はとても怖かったです。