つい最近あった幽霊とかでなく人間の話。

転職をきっかけに都内に引っ越ししたんだが、家が借り上げ社宅なもんで家探し等はせず、引っ越し費用だけで済んだ。新しい環境に不安もあったがワクワク感のほうが強かった。なんせ、前職はパワハラや残業の嵐で仕事が嫌で嫌でしょうがなかったから。
そんな中必死に転職活動してやっと、理想とまではいかないが普通レベルの会社に入ることができた。これから俺の新しい人生が始まるのかと、慣れない環境ながらも喜びのほうが大きかったんだ。

入社日より1週間ほど前に引っ越ししたんで、俺は家の周りを見て回ることにした。元々荷物が少なくて必要最低限のものしかもってないから家の中の整理は大体終わってたしな。
家の近くにはコンビニやドラックストアが徒歩でいける距離にあった。会社からは徒歩10分以内で行ける距離だったし特に不便を感じなかった。気になるところといえば最寄り駅が徒歩20分で多少遠いな、と感じる程度だった。

他になにか新たな発見はないかと外をウロウロしていると、ヒョロっとした背の高い上下ジャージの男か女か見分けがつかないやつがじっと地面を見つめて立っているのを発見した。
全く動く気配がなくじっと地面を見つめ続けるだけだった。不思議に思って近づいたら、キラッと光る家鍵らしきものがやつの側に落ちていた。ピンときてそれを拾い上げて声をかけた。
「これ落としませんでしたか?」
するとやつはゆっくり振り返りこっちを見た。髪は短髪で顔もひょろっとしててとにかく痩せすぎてる印象だった。でもそのわりに目が大きくて目力が半端ねぇな、って思ったのを覚えてる。

やつは何かモゴモゴ言ってた。聞き取れなかったが素直に鍵を受け取ったので、ああこの鍵を探して途方に暮れて地面を見つめてたのか…くらいに思って立ち去ろうとしたら、「ありがとう…」
蚊の鳴くような声がした。その低い声を聞いてやつが男だと認識した。
「いいんすよ。良かったですね、見つかって」俺はニッと愛想笑いを浮かべてまた探索に戻った。

それがヤツとのはじめての出会いだった。