昔勤めていた動物病院には看板犬の大きな雑種がいました。おとなしい子で、お客さんたちのアイドル的存在だったのですが、ある時飼い犬の診察に来ていたお客さんの高校生のお子さんの手を噛んで、まあまあの問題になりました。
傷は数針縫う程度のものでしたが、スタッフは全員看板犬が人を噛んだことが信じられませんでした。かといって被害者の高校生の女の子はよく病院に来ていて、優しい可愛らしい子です。犬にいたずらをするとも思えませんでした。

しばらくして一件落着した頃、院長先生がその事件の日の院内監視カメラの映像を数人のスタッフに見せました。私は新入りだったため見せてもらってはいないのですが、その場にいた仲の良い先輩獣医師が教えてくれました。
監視カメラに映っていたのは、しゃがみこんで看板犬を撫でる女の子の腰あたりからにょきっと上半身だけのぞかせた人のような黒い影。それが犬に触れようとした瞬間、犬がビクッと体を震わせ女の子の手に噛み付く映像だったそうです。