別役実の冗談エッセイ「鳥づくし/[続]真説・動物学大系」から

「はととは」
ノア、水が引いたのでハトを飛ばす。ハト、戻る。
ノア、再びハトを飛ばす。ハト、オリーブの若葉をくわえて戻る。
ノア、三たびハトを飛ばす。ハト、戻らず。
ノア、二度目に飛ばしたハトが戻ってきた方角に方舟を進め、陸を見る。

ノアはなぜ、(やっとの事で探したに違いない)オリーブの若葉をくわえて(おそらく疲労困憊して)戻った功労者を船から追放したのか。
疲れ果てたハトは陸にたどり着けず、海に落ちたのだ。
なのに我々は神社仏閣にハトの群れがいるように振る舞う。
筆者が子供たちに、ハトを知っているか、ハトはどこにいるかと訊ねると、子供たちは無邪気に、
「ほら、ここにいるよ」
と笑い、ハトとやらを追い掛けるそぶりをする。
筆者は何も見えない足元に小動物の群なす気配を感じ、慄然とする。
国電ガード下にはハト豆無人販売の屋台があり、数が減って箱に小銭が入っているから誰かが買っているんてしょうよ、と主人は言う。
ノアの子孫である我々は、ノアの悪意と落ち度で絶滅した鳩への罪悪感から集団幻覚を見ているのだ、と筆者は結論づける。

「威風ドードー」
奇鳥ドードー。モーリシャス島に入植したオランダ人が持ち込んだ犬猫により、絶滅。
縫い目のあるカッコー、太りすぎたトキなどと言われていたが、現代ではハトの仲間とほぼ断定されている。
方舟を追われたハトは楽園モーリシャス島にたどり着き、ぬくぬくと住み着いた。
天敵がいないので翼は退化し、足は遅く、木登りもできず、巣は地上に無造作に。
「ノアの奴め、ざまあみろ」とほくそ笑んでいたドードーはオランダ陣を見て、「しまった!奴め生き延びていたか!」と後悔したに違いない。

まあ全部冗談なんですが。