石じじいの話です。

脳の障害は怖いですね。まさに他人事ではありません。
脳のやることはよくわかりません。

人生を二度生きた人がいたそうです。
これは、じじいが子供の頃に聞いた話なので、かなり古いものでしょう。
初老のその男性は、街で大きな遊郭を経営していましたが、それ以前の人生では僧侶だったそうです。
いわゆる「前世の記憶がある」ということでしょうか。
その以前の人生を明確に覚えていたらしいのです。
僧侶として托鉢をしながら修行に勤めていたのですが、いっこうに悟ることができる気配がない。
彼をとりまく世界は苦しみに満ちていて、毎日のたうちまわっていたそうです。
ある真夏の暑い日の午後、修行の旅の途中、彼は山村の橋に行きあたりました。
その川では、子供達が何人かものすごく楽しそうに泳いでいたそうです。
全く悩みもなく苦しみもないと思われました。
子供達は、今、涼しく楽しい世界に身をまかしているのだと考えて、自分の人生との大きな違いに「恍惚」となったそうです。
彼の体は自然と動いて、欄干の無い木橋から川に向かって歩を進めました。
つづく