>>797 あざっす!

では。

 大学受験で東京に出てきた折のことだから、すでに三十年前の話。
 池袋のビジネスホテルの随分上層の部屋に宿泊。
 その部屋は、転落事故あるいは自殺防止のためででもあろうか、窓は嵌めきりのガラス窓で開かないようになっていた。
 しかし、どうしたことかその開かない窓の窓枠に、とってつけたように錠がついている。例の耳タブのような形の金属片が180度回転するようになっている、あれ(何やらという名前がついているはずだが忘れてしまった)。
 「変なの」
とは思ったが、翌日に入試を控えていたため、あまり気にせず一晩をすごし、快眠のうえで臨んだ翌日の試験もまずまず上出来に終わった。
 東京観光のためにもう一泊したあと、チェックアウトの際、宿泊中何度か言葉を交わしていた若いホテルマンに、錠のことをたずねてみた。
 「ああ、あれ」
 彼は、特にどうということもない様子で答えた。
 「つけとかないとね、誰かが覗くんです。で、窓、開けようとするの。見えるところに、つけとかないと。ま、開けようとしても、開かないから大丈夫なんですけど。やっぱ、気分悪いでしょ、そんなことされると」
 誰かが覗き、開けようとする―。地上、何十メートルだかの高層の窓を、外側から開けようとする、誰か?

 上京して既に三十年が経つが、今でもあのあたりを通ると、ちょっと、薄ら寒い。