TONO 「ひきだし」

基本「混ぜる」ことが気味が悪い
種類が違うもの、異質なものが混ざるあの不快さ…

主人公が結婚した相手には歳が変わらないくらいの娘がいた。
この義娘は大雑把な性格で、食後のデザートを出してくれるのは良いのだけれど
食べ終わったビーフシチューの皿にそのままケーキを載せて汚れたスプーンで食べるよう勧めてくるような子だ。
「お義母さんこういうの嫌だった?洗うの面倒だしお腹に入れば一緒だからあたし気にしないのよね」
とあっけらかんとしている。
そして、近所でおこった虐待死事件の話をはじめた。

死んだ少女は、厳しい親に見つかりたくないものをなんでも衣装箪笥のあちこちに隠す癖があった。
拾った鳥のひな、子犬、カエル、果ては魚まで…小さな子供が親に隠しながら
十分な世話ができるわけもなく、それらはそこで死に、子供はそのまま引き出しを閉じた。
親が食べ残しはいけないというから、食べ残したもの、無理に食べてはいたものも引き出しに隠した。
いくら叱っても子供はそれをやめられず、思い詰めた親はついに彼女を手にかけたのだという。

「タンスって洗濯した清潔なものや大切なものをいれるところよね、それは親も困ったでしょう」
義母がそういうと、義娘は
「まあ子供のすることよね、綺麗なものも汚いものも一緒くたに放置して。ああ子供なんてゾッとする」
と義母のまだ目立たない腹部に目を向けて顔をしかめた。
「だけどその親も子供の遺体をタンスに突っ込んで放置してたんですって」
まあ嫌だ、所詮親子よね、と義母は苦笑した。

義母にとってはこの娘も、同じように綺麗なもの汚いものものが混ざっても気にしない人間だ。
だからきづかないのだ、食事にずっと洗剤を混ぜていることを。
私だけの夫、子供、その家族にあなたを混ぜたくないのだ、と思うのだった。