星新一のショートショートの広場より「絶対反対」

その国(日本とは言ってない)でオリンピックが行われる事になった
しかし会場建設予定地の住宅が数年かけて次々に立ち退いていく中
とある一人暮らしの初老の男性(以下じいさん)だけが頑として立ち退かない

爺さんはいろいろ社会問題勉強しているらしく
あの公害の補償だ戦災孤児の救済だ農業軽視で荒地増加になってるのを対策しろ
失業者はどうすんだ等いろいろ挙げて、
五輪に税金使ってる場合じゃねえだろ絶対反対だと頑固に主張し続ける

近所でも他の同年代の男性達と比べても輪をかけての頑固者で知られており
今一人暮らしなのも20年くらい前に妻と娘が耐えかねて出て行ったかららしい
その頑固ジジイが五輪フィーバーに真っ向から喧嘩売ってる絵面が面白いのか
次第に新聞記者や週刊誌記者が来たりTV局が来たりで世間に知られていく

マスコミが煽ったせいで五輪賛成派vs反対派で議論が起きたりして
爺さんは一躍時の人となり、五輪反対派の団体が爺さんを支持したりの大騒ぎ
しかしついに行政側が法律に基づき強制執行に出て、爺さんの翌日立ち退きが決まる
マスコミはなおのこと爺さんの家に群がり、団体はイメージ低下を恐れて逃げた

その夜、爺さんは家の中で首を吊った
翌朝近所の住民が心配して入って発見し、マスコミがそのニュースに食いついた
命をかけて五輪反対を貫き通したこの初老男性の自殺は大きく世間を揺るがした

しかしこの家の取り壊しは、見守る近所の人達を別の意味で揺るがした
床下から爺さんの妻と娘と思われる女性二人の死体が発見されたからだ