そういや昔、俺は仕事帰りによく定食屋に通っていた
その定食屋の定員さんの一人に、いつも鼻毛が出てる中年のオッサンがいた。鼻毛は出てるけど屈託の無い笑顔が可愛いオッサンだった。年齢的に考えるともしかしたら店長だったのかもしれない
俺はその定食屋の天ぷらうどんの天ぷらが大好物で、天ぷらうどんじゃない別の料理(例えば、しょうが焼き定食とか)を注文する際にも、本来メニューには無い天ぷら自体を単品で注文して特注で作ってもらったりしていた

その後、仕事を辞めて職を転々とするようになる時期があって、それに伴って定食屋とも疎遠になった
一年ぶりくらいに気が向いたから久々に定食屋に行った時、女性の店員さんに天ぷら単品を注文したら、厨房の奥からサササッと音がして、あの鼻毛のオッサンがチラッと顔を出してこちらを覗きこんできた
オッサンは俺の姿を見るとパッと微笑んで「常連さんだ」と小声で嬉しそうに他の店員さんと話してた
俺は気恥ずかしさと嬉しさが入り交じった妙な気持ちになった

それからさらに一年ほどしてから、またあの定食屋に向かった
この時俺はまたあの定食屋が建っている方角の職場に就職していて、その日は給料日だったから、今まで疎遠だったぶんも料理を注文しようと思っていた
しかし、悲しいことに定食屋は潰れていた
かなりショックだった。いつ潰れたのかは知らないけど、たぶん俺が最後に行った時には既に経営が傾いてたんだと思う(営業時間が縮められてたし)

数年後に、俺の家からも職場からも遠い位置に、あの定食屋のチェーン店(または本店?)があるのを発見した
俺は懐かしくてついその店に足を運んだ
そうしたらそこであの鼻毛のオッサンが黙々と働いていた
俺は普通に天ぷらうどんを注文したから、鼻毛のオッサンが俺に気付いて顔を上げたりすることは無かった
でも俺としてはそれで良かった。ただオッサンの安否を確認出来て安心した

それからさらに一年くらいしてからまたその店に行ってみた
また潰れてた
もうあの定食屋は地球上のどこにも存在し無い
涙が出た
あれ以来、あの鼻毛のオッサンを見ていない