>>660
つづき:
ちょっとおせんちになったじじいは、前の年に少年と出会った丘に立ち寄りました。
そよ風が吹く、すがすがしい夏の昼下がりだったそうです。
頂上にたたずみ「人の人生などわからないものだ、かわいそうに」を考えていたそうです。
急に、後ろでがさっと音がしました。じじいはふりむきましたが、だれもいません。待っていてもそのあと音はしない。
じじいは、リュックに手を伸ばしましたが、そのときにまたがさっと音が。
ふりむくとなにもいない。そのあと無音。
じじいは、再びリュックに視線を戻して、じっと待ちました。
すると、ガサっ
もう、じじいは振り向きませんでした。
すると、さらにガサっ
ガサっ
ガサっ
人が歩いて近づいてきていると思ったそうです。
じじいはちょっと怖くなりましたが、がまんして顔を伏せていました。
その「足おと」はどんどん近づいてきます。
じじいはがまんしました。
その人物は彼の背後で立ち止まったそうです。
じじいはふりむきませんでした。
『どがいなかな?ええ石はみつかったかな?おっちゃんはきれいな石をもってきてあげたで。あげるけんもっていったらええが。』
背後の人物はなにも答えなかったそうです。
『おじいちゃんらにおうてきたで。たいへんやったな。ようこらえたな。』
『さてぇ、おっちゃんもそろそろいこうまい。元気でおりんさいよ。』
そういって、じじいは、少年へのおみやげとして持ってきた青い石をそこに置いて、ゆっくりと立ち上がりました。そして振り向かず手を振ってそこを離れました。
足おとは、すこしのあいだじじいのあとをついてきたように思えたそうですが、その気配はすぐに消えたそうです。
セミが喧しく鳴いていることに、歩き始めて気がついたそうです。
つづく: