石じじいの話です。

じじいの歩く山には猿がたくさんいましたが、
なかなか賢いやつもいたようです。
山で石集めをして、石をハンマーで叩いて、小さく
割っていた時に(形ではなく中身重視なときは
軽くするために割ったとか)、猿の群れと遭遇した
そうです。猿は弁当を盗るので警戒しました。
その場を離れて遠くで見ていると、群れのなかから、
一匹、ひ弱そうな、やさがたの個体がおずおずと
じじいが石を割っていたところに近寄ってきて、
石の破片をひとかけら取り上げたそうです。
『それは食いもんやないがぁ』と思って見てると
その猿は、その石片を持って群れに戻って、
それでいきなり、近くの猿に切りつけたそうです。
すぐに群れは騒然となりました。その刃物猿は
別の個体にも襲いかかったようでしたが、
群れの混乱で、じじいはその後を見失って
しまいました。
『あがいなちいさな猿が、がいなことするもんよ。』
『猿まね、ゆうけど、あがいなことお、どがいして
おぼえたんやろうのう』

そのあと、猿を山で見かけるとちょっと怖かったそうです。