登山の話。
その山は標高が低く、小学校の遠足でも利用される程度の
穏やかな山で、ストレス発散がてら時々お弁当を持参して登り、
頂上付近で食べて帰ってくることが当時の習慣でした。
その日も山道を気分良く登っていると、上の方からノソノソと
大きな塊のような物が下って来るのが見えました。
最初は熊かと思いギョッとしましたが、近づいてくるそれは
見たこともない生き物でした。
頭の先から長い毛に全身覆われて、身体の真ん中辺りに毛を
かき分けるようにして大きく丸い目が一つありました。
手は見えませんでしたが足は人間のような足で、2メートルは
あったと思います。
私は立ち尽くしてしまい、その怪物が近づいて来るのに
一歩も動けませんでした。
とうとうその怪物がすぐ近くまで来た時、自分でも分かりませんが
ペコリと頭を下げてしまいました。するとその怪物も
会釈をするように腰を屈めて私のすぐそばを通り抜けました。
私は怪物が下って見えなくなると急に力が抜け、座り込んでしまいました。
私はしばらくして落ち着くと山頂を目指して登り、お弁当を
食べて帰りました。