あれっと思いながら、その彼が自分の名前を名乗ったら、インターホンはガチャっと切れた。
部屋番号の押し間違いはない。確かに押した。
カードの件と関係あるかわからないけど、なんか怪しいし、怖いな、と思ってすぐに大家に電話したそうです。カードが届いてないことやら、これまでの経緯も含めて。
大家は「変な話ですが、まあ一応調べます」と答えた。

どうなることやら、と思ってしばらく彼は待っていたそうです。
ところが、1週間経っても音沙汰がなかった。しびれを切らしてもう一度大家に電話したら

「そんな話いただいてましたっけ」

と、とぼけられたそうです。
そこで彼はかんかんに怒った。たしかに電話しただろと。
それで、大家、というかまあ、正確には大家と契約してるメンテ業者を呼び出して、インターホンがおかしいか確かめさせたんですね。
ところが不思議なことに、メンテ業者がインターホンを押したら、ちゃんと自分の部屋につながったんです。

何かがおかしい。納得いかない。
で、彼はこれまでのことを思い返して、こう想像したんですね。
これはきっと、インターホンになにか手違いがあって、このマンションの別の部屋につながってしまっていたのではないか。
で、運の悪いことに、そいつは悪知恵の働く奴で、インターホンで自分に成りすまして、玄関まで迎えにいったりすれば、部屋番号が違ってるのも気づかれずに、配達業者から書留やらなにやら受け取れたのではないか。
たんなる悪戯なのか、いやがらせなのか、具体的に何か被害があったわけではないけれど、気分が悪い。
それに加えて、きっと大家の奴はこの手違いが面倒沙汰になるとみて、しれっとインターホンを直してしらを切ってるのではないか。

僕も話を聞くに、それが一番もっともらしいと思いました。

何が嫌かと言って、自分を騙った男が同じマンションに住んでるのに、それが誰なのかもうわからないってことです。
マンションですれ違う奴全員が怪しく見えてくる。
彼がもう引越ししようか、迷っていたある日、
部屋の郵便受けに紙切れが一枚投函してあって、印刷された文章が一行

「お前の部屋番号知ってるぞ」