TRPG関係であれば自由に使えるスレです
他の話で使用中であっても使えます。何企画同時進行になっても構いません
ここの企画から新スレとして独立するのも自由です
複数企画に参加する場合は企画ごとに別のトリップを使うことをお勧めします。
使用にあたっては混乱を避けるために名前欄の最初に【】でタイトルを付けてください
使用方法(例)
・超短編になりそうなTRPG
・始まるかも分からない実験的TRPG
・新スレを始めたいけどいきなり新スレ建てるのは敷居が高い場合
・SS投下(万が一誰かが乗ってきたらTRPG化するかも?)
・スレ原案だけ放置(誰かがその設定を使ってはじめるかも)
・キャラテンプレだけ放置(誰かに拾われるかも)
探検
TRPG系実験室 3
2022/01/10(月) 23:01:17.38ID:bv8kkCon
274セレス ◆pFeH1SoQRU
2025/04/18(金) 01:04:38.01ID:jPETlofo 「ヒーローは、どれほど困難な状況であっても諦めません。必ず最善を尽くします」
自分に言い聞かせるように、その言葉を噛みしめるように唱える。
そうあればみんなを救える。そうあればみんなは安心して生きられる。
だからセレスはどんな時でも、どんなことがあっても、その理想を実現できるよう努力する。
胸に手を当てて、セレスは笑顔で言った。つまるところ、これが今、司令官に言いたいことなのである。
「そしてヒーローは、絶対に負けません。最後には勝つんです」
この言葉を信じたわけではないが、セレスの要望は叶えられた。
道に詳しい兵士三名を連れて、西の森を目指して出発することになった。
兵士二人は連絡・護衛のために人員で、一人は副官で道案内を務めてくれる。
ユーリと名乗ったその青年兵士は、普段なら司令官を補佐している人物である。
司令官と作戦会議室で話している最中に報告に現れたのも実はこのユーリなのだ。
「それにしても、司令官は結局、結界を張っているコードホルダーを紹介してくれませんでしたね」
西の森へ向かいながら、ライがそんなことを言った。
セレスとは明らかに異なる無機質な声が響いて、ユーリたちが驚いている。
これは自分の神話武装が喋っているんだとセレスは慌てて説明して、みんなを落ち着かせた。
「ライ……結界を張ってる神話武装は要塞で保管してるから所有者はいないじゃないの?」
「それはあり得ません。神話武装は、コードホルダーがいなければ力を発揮できないのです。
どれほど強力な能力があろうと魂があろうと我々は武器に過ぎません。これは基本であり、原則なのです」
となると、所有者がいなければ結界は維持できないことになる。
だが現実として結界は張られており、古竜の脅威からこの国を守っているのだ。
セレスもライも、オーロラのように美しい結界をこの目で見た。神話武装はどう考えても機能している。
「でもそれだとおかしいよ……結界が張られたのは200年前なんだよ。使い手はもう寿命で亡くなってると思うよ」
「そうですね。同じ使い手ではないでしょう。ですが、コードホルダーになるための条件である神の因子は、
子孫に受け継がれる可能性が高いのです。だから私は200年前のコードホルダーの子どもや孫が
代々この国の結界の維持を果たしているのだと思っていたのですが」
要塞の兵士であるユーリなら知っているのではないかと、セレスは前を歩くユーリに尋ねた。
ユーリは頭を横に振って「結界に関しては機密情報なので、司令官以外は誰も知りません」と返した。
「ただ、実を言うとお恥ずかしいのですが……僕は200年前に結界を張った英雄アレンの子孫です」
「えっ! そうなんですか!? じゃあユーリさんが結界の神話武装のコードホルダー!?」
「いっ、いえ……そうではないんです。ただ僕は先祖のようにこの国の役に立ちたくて兵士になっただけで……。
正直、セレス様が要塞に来るまで神話武装のことなんて何も知りませんでした。お恥ずかしいとはそういう意味です」
「でも凄いですよ〜。ユーリさんが英雄の血を引いてるなんて。憧れちゃうなぁ」
「そう言われるとこそばゆいです。僕自身は大した人間ではありませんが……強さも知力も並みの兵士です」
セレスたちはそのまま西の森を進み、兵士の一人を斥候に出して戻って来た。
すぐ近くまで来ている。もうシュテルベン傭兵団といつ接触してもおかしくない距離らしい。
【とりあえず話を進めてみました。参加者は常に募集してるので興味があれば是非ご参加ください!】
【私がクソ長い導入を書いてしまっていますがレスの長さとかは気にしなくていいので!】
自分に言い聞かせるように、その言葉を噛みしめるように唱える。
そうあればみんなを救える。そうあればみんなは安心して生きられる。
だからセレスはどんな時でも、どんなことがあっても、その理想を実現できるよう努力する。
胸に手を当てて、セレスは笑顔で言った。つまるところ、これが今、司令官に言いたいことなのである。
「そしてヒーローは、絶対に負けません。最後には勝つんです」
この言葉を信じたわけではないが、セレスの要望は叶えられた。
道に詳しい兵士三名を連れて、西の森を目指して出発することになった。
兵士二人は連絡・護衛のために人員で、一人は副官で道案内を務めてくれる。
ユーリと名乗ったその青年兵士は、普段なら司令官を補佐している人物である。
司令官と作戦会議室で話している最中に報告に現れたのも実はこのユーリなのだ。
「それにしても、司令官は結局、結界を張っているコードホルダーを紹介してくれませんでしたね」
西の森へ向かいながら、ライがそんなことを言った。
セレスとは明らかに異なる無機質な声が響いて、ユーリたちが驚いている。
これは自分の神話武装が喋っているんだとセレスは慌てて説明して、みんなを落ち着かせた。
「ライ……結界を張ってる神話武装は要塞で保管してるから所有者はいないじゃないの?」
「それはあり得ません。神話武装は、コードホルダーがいなければ力を発揮できないのです。
どれほど強力な能力があろうと魂があろうと我々は武器に過ぎません。これは基本であり、原則なのです」
となると、所有者がいなければ結界は維持できないことになる。
だが現実として結界は張られており、古竜の脅威からこの国を守っているのだ。
セレスもライも、オーロラのように美しい結界をこの目で見た。神話武装はどう考えても機能している。
「でもそれだとおかしいよ……結界が張られたのは200年前なんだよ。使い手はもう寿命で亡くなってると思うよ」
「そうですね。同じ使い手ではないでしょう。ですが、コードホルダーになるための条件である神の因子は、
子孫に受け継がれる可能性が高いのです。だから私は200年前のコードホルダーの子どもや孫が
代々この国の結界の維持を果たしているのだと思っていたのですが」
要塞の兵士であるユーリなら知っているのではないかと、セレスは前を歩くユーリに尋ねた。
ユーリは頭を横に振って「結界に関しては機密情報なので、司令官以外は誰も知りません」と返した。
「ただ、実を言うとお恥ずかしいのですが……僕は200年前に結界を張った英雄アレンの子孫です」
「えっ! そうなんですか!? じゃあユーリさんが結界の神話武装のコードホルダー!?」
「いっ、いえ……そうではないんです。ただ僕は先祖のようにこの国の役に立ちたくて兵士になっただけで……。
正直、セレス様が要塞に来るまで神話武装のことなんて何も知りませんでした。お恥ずかしいとはそういう意味です」
「でも凄いですよ〜。ユーリさんが英雄の血を引いてるなんて。憧れちゃうなぁ」
「そう言われるとこそばゆいです。僕自身は大した人間ではありませんが……強さも知力も並みの兵士です」
セレスたちはそのまま西の森を進み、兵士の一人を斥候に出して戻って来た。
すぐ近くまで来ている。もうシュテルベン傭兵団といつ接触してもおかしくない距離らしい。
【とりあえず話を進めてみました。参加者は常に募集してるので興味があれば是非ご参加ください!】
【私がクソ長い導入を書いてしまっていますがレスの長さとかは気にしなくていいので!】
275セレス ◆pFeH1SoQRU
2025/04/27(日) 21:49:42.43ID:cHmanagR セレスはユーリたちに待機して欲しいと頼み、単独で傭兵団の眼前へと姿を現わした。
こちらが傭兵団を察知しているということは向こうもこちらを察知しているだろうと思っていたが、
予想通り、武器を持って陣形を組み、いつでも攻撃できる準備を整えて待ち構えていた。
中央には隊長らしき中年の男が葉巻を吸いながら立っている。
たった一人で現れたセレスを見るや、獲物を発見した肉食獣のごとく獰猛に笑った。
この男がシュテルベンを率いるビネガーで間違いないだろう。漂う気配が年季の入った厚みを感じさせる。
「おやおやおや。こんな辺境の森の中に可愛いお嬢ちゃんを見つけたぞ? いったいどこから来たんだろうなぁ?」
と、ビネガーは葉巻を吸いながら嘲笑うかのように言った。周囲の部下たちも愉快そうに笑う。
傭兵団は敵に話しかける余裕を見せつけつつも、弓やクロスボウはしっかりセレスに狙いを定めている。
「私はセレス! アストレア機関の剣士です! 皆さんが要塞を襲っている傭兵さんたちで間違いないですね!」
「襲っている、なんて大層なもんじゃねぇよ。軟弱者の情けない連中しかいねぇからなぁ、あそこは。
ベテランの俺たちがちょっと遊んでるだけよ。戦いってもんを教えてやってるんだ、むしろ授業料を取りたいくらいだぜ」
「答えてください。誰に雇われてるんですか」
ビネガーの顔から笑いが消え、葉巻を吸いながら言った。
「……そいつぁ答えられねぇな。傭兵にも守秘義務ってもんがあるんだ」
「なら、懲らしめてから尋問させてもらいます。嫌なら今のうちに吐いた方がいいですよ」
「ガキが。舐めたこと抜かすんじゃねぇよ。手足斬り落として木に吊るしてやる。やれ!」
矢が一斉に解き放たれた。それと同時に剣や斧を持った傭兵たちが突撃してくる。
たかが小娘一人相手とは思えないほどの本気ぶりだ。しかしセレスは恐れない。
セレスの胸から光の球が飛び出したかと思うと、それは具現化して大剣となった。
命中するはずだった矢の雨は巨大な大剣の刀身がすべて弾き返し、セレスは大剣を引き抜く。
「行くよ、ライ! 次は……こっちの番だっ!!」
柄から刀身まで純白の大剣を、横一文字に振り抜き、虚空を薙ぎ払う。
その一撃によって生まれた風圧は小さな竜巻のごとく吹き荒れ、
突撃してきた傭兵を一人残らず吹き飛ばした。
「う、嘘だろ……なんだこのクソガキ!?」
後方にいたビネガーにも僅かながらその風圧は届いたようで、腕で風をガードしながら狼狽している。
セレスの攻撃は、これで終わりではない。天空剣ライディアラスは空を司る神話武装だ。
一振りすれば風を起こし、二振りすれば裁きの稲妻を呼ぶ。
ライの純白の刀身が火花を散らすような音を鳴らし、青い電撃を纏い始める。
それを頭上高くに掲げると、電撃はより激しさを増して夜の森を照らし出す。
セレスはライを勢いよく傭兵団めがけて振り下ろした。閃光と共に電撃が奔る。
「いっ……けぇぇぇぇーーーーーーっ!!!!」
「き、聞いてねえ……こんな化け物がいるなんて聞いて……ねえ…………!」
陣形を組んで固まっていた傭兵団を電撃の光が包み込んだ。
戦闘開始から1分も経たず、一人で兵士10人分と恐れられたシュテルベン傭兵団は壊滅した。
たった一人の少女の手によって。
こちらが傭兵団を察知しているということは向こうもこちらを察知しているだろうと思っていたが、
予想通り、武器を持って陣形を組み、いつでも攻撃できる準備を整えて待ち構えていた。
中央には隊長らしき中年の男が葉巻を吸いながら立っている。
たった一人で現れたセレスを見るや、獲物を発見した肉食獣のごとく獰猛に笑った。
この男がシュテルベンを率いるビネガーで間違いないだろう。漂う気配が年季の入った厚みを感じさせる。
「おやおやおや。こんな辺境の森の中に可愛いお嬢ちゃんを見つけたぞ? いったいどこから来たんだろうなぁ?」
と、ビネガーは葉巻を吸いながら嘲笑うかのように言った。周囲の部下たちも愉快そうに笑う。
傭兵団は敵に話しかける余裕を見せつけつつも、弓やクロスボウはしっかりセレスに狙いを定めている。
「私はセレス! アストレア機関の剣士です! 皆さんが要塞を襲っている傭兵さんたちで間違いないですね!」
「襲っている、なんて大層なもんじゃねぇよ。軟弱者の情けない連中しかいねぇからなぁ、あそこは。
ベテランの俺たちがちょっと遊んでるだけよ。戦いってもんを教えてやってるんだ、むしろ授業料を取りたいくらいだぜ」
「答えてください。誰に雇われてるんですか」
ビネガーの顔から笑いが消え、葉巻を吸いながら言った。
「……そいつぁ答えられねぇな。傭兵にも守秘義務ってもんがあるんだ」
「なら、懲らしめてから尋問させてもらいます。嫌なら今のうちに吐いた方がいいですよ」
「ガキが。舐めたこと抜かすんじゃねぇよ。手足斬り落として木に吊るしてやる。やれ!」
矢が一斉に解き放たれた。それと同時に剣や斧を持った傭兵たちが突撃してくる。
たかが小娘一人相手とは思えないほどの本気ぶりだ。しかしセレスは恐れない。
セレスの胸から光の球が飛び出したかと思うと、それは具現化して大剣となった。
命中するはずだった矢の雨は巨大な大剣の刀身がすべて弾き返し、セレスは大剣を引き抜く。
「行くよ、ライ! 次は……こっちの番だっ!!」
柄から刀身まで純白の大剣を、横一文字に振り抜き、虚空を薙ぎ払う。
その一撃によって生まれた風圧は小さな竜巻のごとく吹き荒れ、
突撃してきた傭兵を一人残らず吹き飛ばした。
「う、嘘だろ……なんだこのクソガキ!?」
後方にいたビネガーにも僅かながらその風圧は届いたようで、腕で風をガードしながら狼狽している。
セレスの攻撃は、これで終わりではない。天空剣ライディアラスは空を司る神話武装だ。
一振りすれば風を起こし、二振りすれば裁きの稲妻を呼ぶ。
ライの純白の刀身が火花を散らすような音を鳴らし、青い電撃を纏い始める。
それを頭上高くに掲げると、電撃はより激しさを増して夜の森を照らし出す。
セレスはライを勢いよく傭兵団めがけて振り下ろした。閃光と共に電撃が奔る。
「いっ……けぇぇぇぇーーーーーーっ!!!!」
「き、聞いてねえ……こんな化け物がいるなんて聞いて……ねえ…………!」
陣形を組んで固まっていた傭兵団を電撃の光が包み込んだ。
戦闘開始から1分も経たず、一人で兵士10人分と恐れられたシュテルベン傭兵団は壊滅した。
たった一人の少女の手によって。
276セレス ◆pFeH1SoQRU
2025/04/27(日) 21:52:51.95ID:cHmanagR 「あ、あのー……セレス様。戦いは終わりましたか?」
待機していたユーリが茂みから出てきて、おずおずといった調子でセレスに尋ねた。
セレスはというと、電撃を食らって意識を失っている隊長ビネガーの手足をロープで縛っていたところだ。
この男には聞きたいことがある。なぜ要塞を襲ったのか。誰がそんなことを依頼したのか。
「はい。もう大丈夫です。ライを……神話武装を使ったので、手こずったりはしませんでした」
「ビネガーは生きてるんですか……いや、他の傭兵たちも。凄まじい光でしたが……」
「気絶してるだけです。電撃を浴びせましたけど、手加減しましたから。でもしばらく痺れて動けな……あ」
ビネガーの身体がびくんと跳ねて痙攣したかと思うと、目を覚ました。恐ろしい生命力だ。
確かに手加減こそしているが、普通の人間はこんなに短時間で意識を取り戻したりしないのに。
手足を縛っていたのが功を奏して、ビネガーはロープを解こうと暴れたが、きつく縛っているので芋虫のように動くだけだ。
「く、くそがっ。これが神話武装って奴の力なのか。こんなことなら断っておけば良かったぜ」
「ビネガーさん。さっきも尋ねた通り、教えてください。誰に雇われたんですか?」
「だから守秘義務ってもんがあると言っただろ。俺の口からは何も言えねぇな」
だが、とビネガーは口角の片側だけを上げて嘲笑うかのように言った。
「忠告だけしておいてやる。こっちにばかり気を取られていると要塞が危ないぜ? 俺たちは囮なんだからなぁ?」
直後、何かが崩れるような激しい衝撃の音が響いた。セレスは振り返って背後を見た。
要塞の方角から煙のようなものがもうもうと上がっている。ビネガーは「な、言っただろ」と笑った。
やられた。シュテルベン傭兵団は要塞の戦力を手薄にするための餌に過ぎなかったのだ。
本命は隠れ潜み、主戦力がいない隙に要塞を攻める。そんな作戦だったようだ。
「くっ……! ユーリさん、急いで戻りましょう! 要塞が危ない!!」
ユーリの案内で急ぎ要塞に戻ったセレスだったが、手遅れだった。
要塞の城壁の一部が破壊され、そこから何者かたちが侵入している様子だ。
それにしても、強力な魔法でも使ったのだろうか。城壁を力技で破壊するなど並みの人間には到底できない。
攻城兵器の類を使った形跡はないし、考えられるとすれば魔法以外にないのだが。
セレスは城壁の近くで倒れていた兵士を見つけると、駆け寄って生きているか確認した。
まだ息がある。意識もあるらしい。セレスはその兵士に聞かずにいられなかった。何があったのかと。
「ば、化け物……魚のような化け物が城壁を壊して……あれは魔物とも違う怪物でした……」
兵士は力を振り絞って答えたのだろう。その言葉を最後に意識を失った。
後ろにいたユーリがその兵士に応急処置を施し、セレスに尋ねる。
「セレス様、どうしますか。我々は何をすれば……」
「たぶん敵の狙いはこの要塞の神話武装です。どこに保管してるんですか? そこへ案内してください」
「それは司令官の許可がなければ……いえ、そんな状況ではないですね。分かりました。ご案内します」
ユーリが先を行こうとした瞬間、城壁の上から何かが飛んできた。投げナイフだ。
セレスは腰のベルトに吊ってある鞘から剣を抜き、ナイフを弾き返してユーリを守る。
城壁の上に誰かいる。黒いローブに身を包み、フードを目深に被って顔を隠した二人組だ。
そういう服装を好んでいる集団には心当たりがあった。
「マレブランケ……! やっぱり貴方たちの仕業だったんだね……!」
確定した。傭兵団の雇い主はマレブランケだ。彼らを使って要塞を襲い、神話武装を奪う気だったのだ。
待機していたユーリが茂みから出てきて、おずおずといった調子でセレスに尋ねた。
セレスはというと、電撃を食らって意識を失っている隊長ビネガーの手足をロープで縛っていたところだ。
この男には聞きたいことがある。なぜ要塞を襲ったのか。誰がそんなことを依頼したのか。
「はい。もう大丈夫です。ライを……神話武装を使ったので、手こずったりはしませんでした」
「ビネガーは生きてるんですか……いや、他の傭兵たちも。凄まじい光でしたが……」
「気絶してるだけです。電撃を浴びせましたけど、手加減しましたから。でもしばらく痺れて動けな……あ」
ビネガーの身体がびくんと跳ねて痙攣したかと思うと、目を覚ました。恐ろしい生命力だ。
確かに手加減こそしているが、普通の人間はこんなに短時間で意識を取り戻したりしないのに。
手足を縛っていたのが功を奏して、ビネガーはロープを解こうと暴れたが、きつく縛っているので芋虫のように動くだけだ。
「く、くそがっ。これが神話武装って奴の力なのか。こんなことなら断っておけば良かったぜ」
「ビネガーさん。さっきも尋ねた通り、教えてください。誰に雇われたんですか?」
「だから守秘義務ってもんがあると言っただろ。俺の口からは何も言えねぇな」
だが、とビネガーは口角の片側だけを上げて嘲笑うかのように言った。
「忠告だけしておいてやる。こっちにばかり気を取られていると要塞が危ないぜ? 俺たちは囮なんだからなぁ?」
直後、何かが崩れるような激しい衝撃の音が響いた。セレスは振り返って背後を見た。
要塞の方角から煙のようなものがもうもうと上がっている。ビネガーは「な、言っただろ」と笑った。
やられた。シュテルベン傭兵団は要塞の戦力を手薄にするための餌に過ぎなかったのだ。
本命は隠れ潜み、主戦力がいない隙に要塞を攻める。そんな作戦だったようだ。
「くっ……! ユーリさん、急いで戻りましょう! 要塞が危ない!!」
ユーリの案内で急ぎ要塞に戻ったセレスだったが、手遅れだった。
要塞の城壁の一部が破壊され、そこから何者かたちが侵入している様子だ。
それにしても、強力な魔法でも使ったのだろうか。城壁を力技で破壊するなど並みの人間には到底できない。
攻城兵器の類を使った形跡はないし、考えられるとすれば魔法以外にないのだが。
セレスは城壁の近くで倒れていた兵士を見つけると、駆け寄って生きているか確認した。
まだ息がある。意識もあるらしい。セレスはその兵士に聞かずにいられなかった。何があったのかと。
「ば、化け物……魚のような化け物が城壁を壊して……あれは魔物とも違う怪物でした……」
兵士は力を振り絞って答えたのだろう。その言葉を最後に意識を失った。
後ろにいたユーリがその兵士に応急処置を施し、セレスに尋ねる。
「セレス様、どうしますか。我々は何をすれば……」
「たぶん敵の狙いはこの要塞の神話武装です。どこに保管してるんですか? そこへ案内してください」
「それは司令官の許可がなければ……いえ、そんな状況ではないですね。分かりました。ご案内します」
ユーリが先を行こうとした瞬間、城壁の上から何かが飛んできた。投げナイフだ。
セレスは腰のベルトに吊ってある鞘から剣を抜き、ナイフを弾き返してユーリを守る。
城壁の上に誰かいる。黒いローブに身を包み、フードを目深に被って顔を隠した二人組だ。
そういう服装を好んでいる集団には心当たりがあった。
「マレブランケ……! やっぱり貴方たちの仕業だったんだね……!」
確定した。傭兵団の雇い主はマレブランケだ。彼らを使って要塞を襲い、神話武装を奪う気だったのだ。
277創る名無しに見る名無し
2025/07/22(火) 15:11:33.97ID:P75ya3Iq 支援
278セレス ◆pFeH1SoQRU
2025/07/24(木) 00:11:36.98ID:utTVPrJ+ えっえっ。私以外にも人がいたの……!? ありがとう。
2レス分はもう書き上がってるから近いうちにまた更新するね!
(一人芝居だけど結果的に不定期更新でよかった本当に……)
2レス分はもう書き上がってるから近いうちにまた更新するね!
(一人芝居だけど結果的に不定期更新でよかった本当に……)
279セレス ◆pFeH1SoQRU
2025/07/25(金) 23:41:16.03ID:Dv7WSiBZ セレスの脳裏にかつての過去が蘇る。自分の故郷の村を焼き、大切な家族や友達を殺された過去が。
要塞の神話武装が奪われれば結界は消える。そうなれば、自身の故郷などとは比べ物にならない被害が及ぶ。
そんなことはさせない。させるわけがない。心の中が急速に怒りの感情で占められていく。
「アストレア機関のコードホルダーだな。ここで死ね」
黒いローブを纏った二人組の片割れが静かに言った。男の声だった。セレスが攻めに転じるより速く、再びナイフを投げる。
大丈夫だ。軌道はちゃんと見えている。セレスはさっきと同じように剣を振るい、迫りくるナイフを剣で叩き落とす。
「剣が武器で残念だね。貴女は我々に触れることすらできない……火炎球!」
女の声。二人組のもう一人は、手にかざすと魔力を集めて火球を形成し、合計三発、セレスに向かって飛ばしてくる。
攻撃魔法の初歩、火炎球。魔法使いが最初に習う魔法だ。とはいえ当たれば人間一人を殺傷するに十分な威力がある。
セレスは反射神経に任せて火炎球を回避。ユーリたちも応戦の構えを見せたが、セレスはそれを止めた。
「ユーリさんたちは下がっていてください、ここは私が対処します!」
このローブの二人組はマレブランケの構成員。戦闘技術を修めたエージェントである。
神話武装を所持しているわけではないが、それでも油断ならない相手である。
しかも、二人とも遠距離攻撃を得意としている様子。城壁の上という位置取りも地の利は敵にあると言える。
剣による接近戦しかできないセレスは不利だ。
ライを使えば倒すのは簡単だが、ライを使った攻撃は魔力の消費も多い。
ここは補助的な能力の使用のみに留めておいて、普通の剣で戦うべきだろう。
相手がマレブランケなら、後には必ずコードホルダーとの戦いが控えている。無駄な消耗はできない。
まずは接近戦に持ち込む。セレスは足に力を入れると、飛んだ。
空を蹴って縦横無尽に飛び回り、二人組とセレスとの間の距離を埋める。
これもライの能力。天空を司るライディアラスは、空を歩く力を使い手に授けるのだ。
「ちぃっ……羽虫のように鬱陶しい奴だ。こちらには近づけさせん!」
男がまた片手に三本つつナイフを構えて投げる。完全に見切っている攻撃だが、今度の投擲は今までとは違う。
違和感の正体。それは合計六本握っていたナイフが投げられた瞬間、四本になっていることだ。
残りの二本はどこへいった。この手の小細工にセレスは覚えがあった。
「っ……透明魔法だね……!」
見えているナイフの中に見えないナイフを忍ばせている。
今までの調子で弾いたら、見えないナイフにグサリとやられるわけだ。
セレスは即座に回避に切り換え、空中を横に走った。肩を何かが掠める。見えないナイフだ。
「このまま一気に接近して……片付けさせてもらうよ!!」
城壁に足をかけた瞬間。魔法を使う女の口元が不気味につり上がった。
女が手のひらを上にして、下からすくい上げるように手を振るう。
手に込められた魔力が炎となり、爪のような形状となってセレスに襲いかかる。
「火炎爪!!」
炎を爪の形状に変えて放つ攻撃魔法の一つ。射程距離は短いが威力は火炎球の比ではない。
これは近接用の魔法だ。魔法使いは接近戦に弱い傾向にあるが、この女は接近戦も得意なのか。
しかし、セレスもまた厳しい訓練を受けたコードホルダー。ヒーローは最後に必ず勝つ。
接近中に火炎爪を使われたら、横や後ろに逃げても避けられない。
本能的にはそうしたくなるだろうが、どうしても回避が間に合わず食らってしまう。
ならばどうすればいいか。さらに踏み込んで前に進むのだ。そして使い手の魔法使いに体当たりをする。
そうすれば最悪、相打ちに持ち込めるし、上手くいけば驚いた相手が魔力の制御を失い、不発に終わることだってある。
要塞の神話武装が奪われれば結界は消える。そうなれば、自身の故郷などとは比べ物にならない被害が及ぶ。
そんなことはさせない。させるわけがない。心の中が急速に怒りの感情で占められていく。
「アストレア機関のコードホルダーだな。ここで死ね」
黒いローブを纏った二人組の片割れが静かに言った。男の声だった。セレスが攻めに転じるより速く、再びナイフを投げる。
大丈夫だ。軌道はちゃんと見えている。セレスはさっきと同じように剣を振るい、迫りくるナイフを剣で叩き落とす。
「剣が武器で残念だね。貴女は我々に触れることすらできない……火炎球!」
女の声。二人組のもう一人は、手にかざすと魔力を集めて火球を形成し、合計三発、セレスに向かって飛ばしてくる。
攻撃魔法の初歩、火炎球。魔法使いが最初に習う魔法だ。とはいえ当たれば人間一人を殺傷するに十分な威力がある。
セレスは反射神経に任せて火炎球を回避。ユーリたちも応戦の構えを見せたが、セレスはそれを止めた。
「ユーリさんたちは下がっていてください、ここは私が対処します!」
このローブの二人組はマレブランケの構成員。戦闘技術を修めたエージェントである。
神話武装を所持しているわけではないが、それでも油断ならない相手である。
しかも、二人とも遠距離攻撃を得意としている様子。城壁の上という位置取りも地の利は敵にあると言える。
剣による接近戦しかできないセレスは不利だ。
ライを使えば倒すのは簡単だが、ライを使った攻撃は魔力の消費も多い。
ここは補助的な能力の使用のみに留めておいて、普通の剣で戦うべきだろう。
相手がマレブランケなら、後には必ずコードホルダーとの戦いが控えている。無駄な消耗はできない。
まずは接近戦に持ち込む。セレスは足に力を入れると、飛んだ。
空を蹴って縦横無尽に飛び回り、二人組とセレスとの間の距離を埋める。
これもライの能力。天空を司るライディアラスは、空を歩く力を使い手に授けるのだ。
「ちぃっ……羽虫のように鬱陶しい奴だ。こちらには近づけさせん!」
男がまた片手に三本つつナイフを構えて投げる。完全に見切っている攻撃だが、今度の投擲は今までとは違う。
違和感の正体。それは合計六本握っていたナイフが投げられた瞬間、四本になっていることだ。
残りの二本はどこへいった。この手の小細工にセレスは覚えがあった。
「っ……透明魔法だね……!」
見えているナイフの中に見えないナイフを忍ばせている。
今までの調子で弾いたら、見えないナイフにグサリとやられるわけだ。
セレスは即座に回避に切り換え、空中を横に走った。肩を何かが掠める。見えないナイフだ。
「このまま一気に接近して……片付けさせてもらうよ!!」
城壁に足をかけた瞬間。魔法を使う女の口元が不気味につり上がった。
女が手のひらを上にして、下からすくい上げるように手を振るう。
手に込められた魔力が炎となり、爪のような形状となってセレスに襲いかかる。
「火炎爪!!」
炎を爪の形状に変えて放つ攻撃魔法の一つ。射程距離は短いが威力は火炎球の比ではない。
これは近接用の魔法だ。魔法使いは接近戦に弱い傾向にあるが、この女は接近戦も得意なのか。
しかし、セレスもまた厳しい訓練を受けたコードホルダー。ヒーローは最後に必ず勝つ。
接近中に火炎爪を使われたら、横や後ろに逃げても避けられない。
本能的にはそうしたくなるだろうが、どうしても回避が間に合わず食らってしまう。
ならばどうすればいいか。さらに踏み込んで前に進むのだ。そして使い手の魔法使いに体当たりをする。
そうすれば最悪、相打ちに持ち込めるし、上手くいけば驚いた相手が魔力の制御を失い、不発に終わることだってある。
280セレス ◆pFeH1SoQRU
2025/07/25(金) 23:43:24.46ID:Dv7WSiBZ セレスの取った行動はその定石に則ったものだ。接近戦の距離、そのさらに先へと踏み込む。
驚く暇もないような速度によるタックルで、相手にぶつかった。女が倒れる。背後の火炎爪が消える。
その残り火はセレスの背中をチリチリと焼いた。熱さを感じたが、構うものか。
「き、貴様。よくも……!」
男の方が動揺しつつもナイフを握って突進してくる。セレスは剣を石床に突き立てた。
そしてナイフを持っている手を掴み、男を投げ飛ばす。
受け身を取り損ねたらしく、頭を思い切り城壁の石床にぶつけた。気絶している。
倒れている女がまだ魔法を使おうとしたので、剣の切っ先を喉元に突きつけ、静かに言う。
「やりたくないけど、抵抗したら命はないと思って。もう大人しくしていた方がいいよ」
「セレス様! その者たちの拘束は我々にお任せください!」
ユーリたちが城壁の内側に備えつけられた梯子を登ってやって来た。
持っていたロープでマレブランケのエージェント二人をきつく縛り上げ、石床に転がす。
彼らを見た瞬間、セレスの胸中に沸き起こった怒りの感情はすでに鳴りを潜めていた。
どんな理由があっても戦いは冷静でなければならない。平常心を失えば死あるのみ。
そういう教えを受けていたおかげだろう。彼らとの戦いがセレスを逆に落ち着かせたのだ。
「……ここはもう大丈夫そうですね。ユーリさん、神話武装の保管先への案内をお願いします」
ユーリ以外の兵士二人は仲間に加勢することになり、ここで別れることになった。
要塞の中に入ると、そこかしこに戦闘の痕跡が残されていた。要塞の兵士たちの死体も、よく見かけた。
なのにマレブランケの者らしき死体はほとんど見ない。敵の方が優勢らしい。そう遠くない末来に、この要塞は制圧される。
ユーリがある袋小路で立ち止まると、呪文を唱えながら壁に何度も触れる。適当に触っているわけではない。
なにか、規則的な順番があるらしい。唱えるのが終わったかと思うと、行き止まりだった壁が左右に開き、下への階段が出現した。
「さあ、行きましょう。私も入り方を知っているだけで、実際に中に立ち入ったことはありません」
薄暗い階段を降りると、ひたすらに一本道が続いている。その道が終わったら今度は巨大な扉が待ち受けていた。
扉の前に誰かが立っている。司令官だ。今まさに扉を開けようとしていたところだったようだ。
「ユーリ。それにセレス様まで。ここに部外者を連れてくるなど……と叱っている場合ではないな。
むしろ正しい判断だった。結界を維持するためにここだけは守り抜かねばならん。
それにはセレス様の力が必要となります。セレス様、ご存知でしょうが敵はマレブランケです。コードホルダーもいます」
「……分かりました。それに関しては私に任せてください。この先に神話武装を保管してるんですよね?」
「ええ。神話武装はこの中に保管しています。その力で結界を維持して……」
「待って頂きたいですね、司令官殿。ひとつ知りたいことがあります。
コードホルダー抜きでどうやって結界を維持しているんでしょうか」
セレスの胸の内から声が響く。ライだ。司令官はすぐには答えず、扉の方に顔を向けて言った。
「……それは中に入れば分かります。結界の維持方法は極秘ですが、この状況です。セレス様たちにもお見せしましょう」
巨大な扉が開かれる。扉の中で待ち受けていたものは、巨大な水晶。
水晶は透き通るような青白い光を放っており、その中で20代半ばくらいの青年が眠っていた。
眠っている、と表現したのは死んでいるわけではなさそうだからだ。肌の血色はいいし、痩せ衰えた様子もない。
起こしたらすぐにでも目を覚ましそうな、心地の良い眠り。セレスにはそんな印象を受けたのである。
その水晶の前には台座があり、一本の剣が突き立っている。その剣こそが神話武装94番。結界剣アウラアジールだ。
驚く暇もないような速度によるタックルで、相手にぶつかった。女が倒れる。背後の火炎爪が消える。
その残り火はセレスの背中をチリチリと焼いた。熱さを感じたが、構うものか。
「き、貴様。よくも……!」
男の方が動揺しつつもナイフを握って突進してくる。セレスは剣を石床に突き立てた。
そしてナイフを持っている手を掴み、男を投げ飛ばす。
受け身を取り損ねたらしく、頭を思い切り城壁の石床にぶつけた。気絶している。
倒れている女がまだ魔法を使おうとしたので、剣の切っ先を喉元に突きつけ、静かに言う。
「やりたくないけど、抵抗したら命はないと思って。もう大人しくしていた方がいいよ」
「セレス様! その者たちの拘束は我々にお任せください!」
ユーリたちが城壁の内側に備えつけられた梯子を登ってやって来た。
持っていたロープでマレブランケのエージェント二人をきつく縛り上げ、石床に転がす。
彼らを見た瞬間、セレスの胸中に沸き起こった怒りの感情はすでに鳴りを潜めていた。
どんな理由があっても戦いは冷静でなければならない。平常心を失えば死あるのみ。
そういう教えを受けていたおかげだろう。彼らとの戦いがセレスを逆に落ち着かせたのだ。
「……ここはもう大丈夫そうですね。ユーリさん、神話武装の保管先への案内をお願いします」
ユーリ以外の兵士二人は仲間に加勢することになり、ここで別れることになった。
要塞の中に入ると、そこかしこに戦闘の痕跡が残されていた。要塞の兵士たちの死体も、よく見かけた。
なのにマレブランケの者らしき死体はほとんど見ない。敵の方が優勢らしい。そう遠くない末来に、この要塞は制圧される。
ユーリがある袋小路で立ち止まると、呪文を唱えながら壁に何度も触れる。適当に触っているわけではない。
なにか、規則的な順番があるらしい。唱えるのが終わったかと思うと、行き止まりだった壁が左右に開き、下への階段が出現した。
「さあ、行きましょう。私も入り方を知っているだけで、実際に中に立ち入ったことはありません」
薄暗い階段を降りると、ひたすらに一本道が続いている。その道が終わったら今度は巨大な扉が待ち受けていた。
扉の前に誰かが立っている。司令官だ。今まさに扉を開けようとしていたところだったようだ。
「ユーリ。それにセレス様まで。ここに部外者を連れてくるなど……と叱っている場合ではないな。
むしろ正しい判断だった。結界を維持するためにここだけは守り抜かねばならん。
それにはセレス様の力が必要となります。セレス様、ご存知でしょうが敵はマレブランケです。コードホルダーもいます」
「……分かりました。それに関しては私に任せてください。この先に神話武装を保管してるんですよね?」
「ええ。神話武装はこの中に保管しています。その力で結界を維持して……」
「待って頂きたいですね、司令官殿。ひとつ知りたいことがあります。
コードホルダー抜きでどうやって結界を維持しているんでしょうか」
セレスの胸の内から声が響く。ライだ。司令官はすぐには答えず、扉の方に顔を向けて言った。
「……それは中に入れば分かります。結界の維持方法は極秘ですが、この状況です。セレス様たちにもお見せしましょう」
巨大な扉が開かれる。扉の中で待ち受けていたものは、巨大な水晶。
水晶は透き通るような青白い光を放っており、その中で20代半ばくらいの青年が眠っていた。
眠っている、と表現したのは死んでいるわけではなさそうだからだ。肌の血色はいいし、痩せ衰えた様子もない。
起こしたらすぐにでも目を覚ましそうな、心地の良い眠り。セレスにはそんな印象を受けたのである。
その水晶の前には台座があり、一本の剣が突き立っている。その剣こそが神話武装94番。結界剣アウラアジールだ。
281セレス ◆pFeH1SoQRU
2025/07/25(金) 23:44:14.93ID:Dv7WSiBZ 水晶の中の青年を見つめながら、セレスは司令官に問いかけた。
「司令官さん……この水晶の中の人は一体……? これは何なんですか……?」
「これは、人間の肉体時間を止め、生命を維持する装置です。結界を維持するために200年前に作られました」
「結界を維持するために……って……ということは、この人は結界を張った英雄アレンなんですか……!?」
「……そうです。古竜から人々を、この国を守るために。英雄アレンには生き続けてもらう必要がありました。
そこでこの国の宮廷魔法使いはこの装置を作り出し、同意を得て、アレンは永遠の眠りに就いたのです」
司令官の顔は、苦しそうだった。おそらく司令官本人も不本意なのだろう。だってそうだ。
これではまるで英雄アレンが結界を維持するための部品だ。とてもこの国を守った人間に対してやる所業ではない。
いくら同意があったからと言って、許されるはずがないし、許してはいけない。
「分かっています。セレス様の言いたいことは。ですがこれが、この国を守るために仕方のないことだった。
我々の力ではどうにもならんのです! 古竜という存在は……! 私の命でどうにかなるなら、とっくにそうしています!」
「そんな……先祖の英雄アレンが……こんなことになってるなんて」
隣にいたユーリも少なからず衝撃を受けている。無理もない。
結界の真実を知り、気持ちを乱したセレスだったが、そんな暇はない。この要塞はすでに戦場なのだ。
背後から扉が開く音が響く。セレスは恐ろしい反射速度で振り返り、ユーリと司令官を背後にして剣を抜いた。
「あらあらあら。ようやく目的の94番を見つけたと思ったら。面白いことになってるじゃない〜。
へぇ。コードホルダーを生体部品にして神話武装の能力を永久に維持する。人権を無視した素晴らしい魔導装置だわ」
その顔を見た瞬間、セレスの心臓は跳ね上がった。忘れもしない。忘れるわけがない。
腰まで伸ばした青黒い髪。妖艶な美貌にうさんくさい笑顔を張りつけ、黒いロングコートを羽織っている。
マレブランケの十二幹部、その一人。カメリア・カルカブリーナ。セレスの故郷を滅ぼした張本人だ。
「貴女……貴女は。なんで……なんでこんなところに……!?」
「……あら? あらぁ〜。あらあらあら。まぁまぁまぁ! そこのお嬢さん、もしかして71番のコードホルダーじゃない?
すっかり大きくなって……もう立派な大人の女の子ね。見違えたわ〜。思わず運命を感じちゃった」
「……本当に久しぶりだね。カメリア。貴女を倒すチャンスが訪れたことを、嬉しく思えばいいのかな……!」
「嬉しく思っていいのよ。私、これでも母性が強い方なの。貴女のこと心配してたんだから〜。
一人で生きていくのは大変だろうな、とか、アストレア機関の人にいじめられてないかな、とか。
あの時、ちょっと無理をしてでも殺してあげた方が幸せな人生だったんじゃないかなって、ずっと考えてたのよ」
カメリアは笑顔を崩さないまま、胸から出現した光の球を右手で掴んだ。すると光は青い長剣に変化する。
その長剣こそがカメリアの神話武装32番、水鱗剣ダームデュラックである。
「でも躾がなっていないわ。アストレア機関は教育もまともにできないのかしら。
年上のお姉さんを名前で呼ぶなら『お姉様』をつけないと駄目でしょう? 私が傷ついちゃうじゃない〜」
セレスとカメリアの間にあった距離が一瞬で詰まった。カメリアが接近したのだ。両者は剣を振るい、鍔迫り合いになる。
その速さを前にセレスは反応が遅れそうになった。持っていた剣でカメリアの斬撃を防げたのは偶然に近い。
「ところで、名前を教えてほしいのだけれど。四年前は聞きそびれちゃったから〜。
ずっと71番のコードホルダーさんじゃあ、長ったらしくて呼ぶのが大変だもの。ねぇ、お、し、え、て?」
カメリアは妖艶な顔を近づけながら、甘く蕩けるような声でセレスに囁いた。
見るからに細腕にも関わらず、とてつもない腕力だ。セレスが徐々に押されている。
セレスはそれを勢いに任せて弾き飛ばし、一歩踏み込みながら剣を振って叫んだ。
「私はシアリーズ・アリシア!! 神話武装の71番、天空剣ライディアラスのコードホルダーだ!!」
「司令官さん……この水晶の中の人は一体……? これは何なんですか……?」
「これは、人間の肉体時間を止め、生命を維持する装置です。結界を維持するために200年前に作られました」
「結界を維持するために……って……ということは、この人は結界を張った英雄アレンなんですか……!?」
「……そうです。古竜から人々を、この国を守るために。英雄アレンには生き続けてもらう必要がありました。
そこでこの国の宮廷魔法使いはこの装置を作り出し、同意を得て、アレンは永遠の眠りに就いたのです」
司令官の顔は、苦しそうだった。おそらく司令官本人も不本意なのだろう。だってそうだ。
これではまるで英雄アレンが結界を維持するための部品だ。とてもこの国を守った人間に対してやる所業ではない。
いくら同意があったからと言って、許されるはずがないし、許してはいけない。
「分かっています。セレス様の言いたいことは。ですがこれが、この国を守るために仕方のないことだった。
我々の力ではどうにもならんのです! 古竜という存在は……! 私の命でどうにかなるなら、とっくにそうしています!」
「そんな……先祖の英雄アレンが……こんなことになってるなんて」
隣にいたユーリも少なからず衝撃を受けている。無理もない。
結界の真実を知り、気持ちを乱したセレスだったが、そんな暇はない。この要塞はすでに戦場なのだ。
背後から扉が開く音が響く。セレスは恐ろしい反射速度で振り返り、ユーリと司令官を背後にして剣を抜いた。
「あらあらあら。ようやく目的の94番を見つけたと思ったら。面白いことになってるじゃない〜。
へぇ。コードホルダーを生体部品にして神話武装の能力を永久に維持する。人権を無視した素晴らしい魔導装置だわ」
その顔を見た瞬間、セレスの心臓は跳ね上がった。忘れもしない。忘れるわけがない。
腰まで伸ばした青黒い髪。妖艶な美貌にうさんくさい笑顔を張りつけ、黒いロングコートを羽織っている。
マレブランケの十二幹部、その一人。カメリア・カルカブリーナ。セレスの故郷を滅ぼした張本人だ。
「貴女……貴女は。なんで……なんでこんなところに……!?」
「……あら? あらぁ〜。あらあらあら。まぁまぁまぁ! そこのお嬢さん、もしかして71番のコードホルダーじゃない?
すっかり大きくなって……もう立派な大人の女の子ね。見違えたわ〜。思わず運命を感じちゃった」
「……本当に久しぶりだね。カメリア。貴女を倒すチャンスが訪れたことを、嬉しく思えばいいのかな……!」
「嬉しく思っていいのよ。私、これでも母性が強い方なの。貴女のこと心配してたんだから〜。
一人で生きていくのは大変だろうな、とか、アストレア機関の人にいじめられてないかな、とか。
あの時、ちょっと無理をしてでも殺してあげた方が幸せな人生だったんじゃないかなって、ずっと考えてたのよ」
カメリアは笑顔を崩さないまま、胸から出現した光の球を右手で掴んだ。すると光は青い長剣に変化する。
その長剣こそがカメリアの神話武装32番、水鱗剣ダームデュラックである。
「でも躾がなっていないわ。アストレア機関は教育もまともにできないのかしら。
年上のお姉さんを名前で呼ぶなら『お姉様』をつけないと駄目でしょう? 私が傷ついちゃうじゃない〜」
セレスとカメリアの間にあった距離が一瞬で詰まった。カメリアが接近したのだ。両者は剣を振るい、鍔迫り合いになる。
その速さを前にセレスは反応が遅れそうになった。持っていた剣でカメリアの斬撃を防げたのは偶然に近い。
「ところで、名前を教えてほしいのだけれど。四年前は聞きそびれちゃったから〜。
ずっと71番のコードホルダーさんじゃあ、長ったらしくて呼ぶのが大変だもの。ねぇ、お、し、え、て?」
カメリアは妖艶な顔を近づけながら、甘く蕩けるような声でセレスに囁いた。
見るからに細腕にも関わらず、とてつもない腕力だ。セレスが徐々に押されている。
セレスはそれを勢いに任せて弾き飛ばし、一歩踏み込みながら剣を振って叫んだ。
「私はシアリーズ・アリシア!! 神話武装の71番、天空剣ライディアラスのコードホルダーだ!!」
282創る名無しに見る名無し
2025/07/27(日) 02:04:43.73ID:xdCVTblM がんばってー
283セレス ◆pFeH1SoQRU
2025/08/04(月) 23:32:45.48ID:oTlWsiLv セレスの力任せの一撃をカメリアは後退によって紙一重で避けた。最小限の動きで凌がれたのだ。
「シアリーズって言うのね。素敵なお名前じゃない。それじゃあセレスって呼ぶわね?」
避けられはしたものの、セレスもそれで終わりではない。諦めず、もう一度斬撃を放つ。
次は袈裟斬り。肩から斜め下へと切り抜ける軌道だ。カメリアはこれを剣で軽々と受け流す。
受け流されたセレスの剣が外側へと逃げていく。相手の剣が来る。大上段に構えた振り下ろし。
セレスは受け流された勢いに身を委ね、剣と共に外側へと跳ぶ。カメリアの剣が空を切る。
空振りになってもカメリアは剣の軌道を素早く切り替え、追撃とばかりに横薙ぎの一閃を放つ。
「……くっ……!」
それを間一髪、剣で受け止めた。衝撃が重い。カメリアは妖艶な笑みを浮かべたまま、じわりと距離を詰めてくる。
腕力でも速度でも技量でも、カメリアが一枚上手だ。それでもなんとか戦いが成立しているのは、相手が本気ではないから。
まるで食事でも味わうかのようにこの戦いを楽しんでいる。セレスにはそんな余裕、一切ないのに。
「あらぁ〜。思ったより頑張るのね。ベーシックな剣術勝負もいいけど、私たちは神話武装の使い手。
選ばれしコードホルダーよ。そろそろ、能力を全開に使った本気の戦いをしましょう。そっちの方が盛り上がるでしょう?」
鍔迫り合いの状態の最中、カメリアの頭上に何かが形成されていく。それは手のひらほどの水の球体だ。
それが三つほど浮かんだかと思うと、細長い針へと変わってセレスの頭めがけて飛んできた。
大きく後ろへと跳ぶ。セレスのいた石床に水の針が深々と突き刺さり、小さな穴が開く。
反射神経に優れているセレスでなければ、その不意打ちで死んでいただろう。
「シアリーズ、気をつけてください。32番は『水鱗剣』の異名通り、水を生み出し、自在に操ることができます。
質量に任せた攻撃も、水圧による刃物のような攻撃もお手の物です。口で説明する以上に万能なのです」
「分かってるよ、ライ。さっきの攻撃はもう見切った。同じことをされても余裕で回避できる」
「あら。それじゃあ本当に避けられるのか、試してみましょうか?」
カメリアが軽く剣を振ると、セレスの周囲、360度すべてに水球が浮かぶ。完全に包囲された。
水球が変形して水の針となり、一斉にセレスへと襲いかかる。その瞬間、セレスはカメリアの頭上へと移動していた。
天空剣ライディアラスの能力で移動速度を上げたのだ。そして空を歩く能力で上昇し、水球の包囲網から逃げた。
「はぁぁぁぁぁっ!!」
そこからさらに空を蹴って加速。真下のカメリアへと一直線に降下して斬りかかる。
カメリアはそれを正面から剣で受け止めた。金属音が響き、火花が飛び散る。
「セレス、神話武装は使わないの? 補助的な能力だけで私に勝てると思うなら大間違いよ。
私は本気の貴女が見てみたいわ。そ、れ、と、も〜。何か使えない理由でもあるのかしら?」
「分かってて言ってるよね。それ……!」
室内でライの能力を全開で使うことはできない。もしそんなことをすればこの部屋が壊れてしまう。
そうなったら結界を維持するための魔導装置も無事では済まない。
人道的とは言い難い装置だが、だとしても古竜を封じるために必要なものだ。
「セレス様! お下がりください!!」
不意に横から声がした。ユーリの声だ。セレスは反射的に後退すると、空気の砲弾がカメリアへと飛んでいく。
魔法によるものだろう。だがその程度の魔法が通用するはずもなく、見もせずに難なく避けられた。
カメリアは笑顔を張りつけたまま、戦いに横入りしてきた邪魔者を見て目を微かに細める。
「ああ、そういえばいたわね。誰? 貴方には興味ないのだけれど。死にたいならすぐ殺してあげましょうか」
「シアリーズって言うのね。素敵なお名前じゃない。それじゃあセレスって呼ぶわね?」
避けられはしたものの、セレスもそれで終わりではない。諦めず、もう一度斬撃を放つ。
次は袈裟斬り。肩から斜め下へと切り抜ける軌道だ。カメリアはこれを剣で軽々と受け流す。
受け流されたセレスの剣が外側へと逃げていく。相手の剣が来る。大上段に構えた振り下ろし。
セレスは受け流された勢いに身を委ね、剣と共に外側へと跳ぶ。カメリアの剣が空を切る。
空振りになってもカメリアは剣の軌道を素早く切り替え、追撃とばかりに横薙ぎの一閃を放つ。
「……くっ……!」
それを間一髪、剣で受け止めた。衝撃が重い。カメリアは妖艶な笑みを浮かべたまま、じわりと距離を詰めてくる。
腕力でも速度でも技量でも、カメリアが一枚上手だ。それでもなんとか戦いが成立しているのは、相手が本気ではないから。
まるで食事でも味わうかのようにこの戦いを楽しんでいる。セレスにはそんな余裕、一切ないのに。
「あらぁ〜。思ったより頑張るのね。ベーシックな剣術勝負もいいけど、私たちは神話武装の使い手。
選ばれしコードホルダーよ。そろそろ、能力を全開に使った本気の戦いをしましょう。そっちの方が盛り上がるでしょう?」
鍔迫り合いの状態の最中、カメリアの頭上に何かが形成されていく。それは手のひらほどの水の球体だ。
それが三つほど浮かんだかと思うと、細長い針へと変わってセレスの頭めがけて飛んできた。
大きく後ろへと跳ぶ。セレスのいた石床に水の針が深々と突き刺さり、小さな穴が開く。
反射神経に優れているセレスでなければ、その不意打ちで死んでいただろう。
「シアリーズ、気をつけてください。32番は『水鱗剣』の異名通り、水を生み出し、自在に操ることができます。
質量に任せた攻撃も、水圧による刃物のような攻撃もお手の物です。口で説明する以上に万能なのです」
「分かってるよ、ライ。さっきの攻撃はもう見切った。同じことをされても余裕で回避できる」
「あら。それじゃあ本当に避けられるのか、試してみましょうか?」
カメリアが軽く剣を振ると、セレスの周囲、360度すべてに水球が浮かぶ。完全に包囲された。
水球が変形して水の針となり、一斉にセレスへと襲いかかる。その瞬間、セレスはカメリアの頭上へと移動していた。
天空剣ライディアラスの能力で移動速度を上げたのだ。そして空を歩く能力で上昇し、水球の包囲網から逃げた。
「はぁぁぁぁぁっ!!」
そこからさらに空を蹴って加速。真下のカメリアへと一直線に降下して斬りかかる。
カメリアはそれを正面から剣で受け止めた。金属音が響き、火花が飛び散る。
「セレス、神話武装は使わないの? 補助的な能力だけで私に勝てると思うなら大間違いよ。
私は本気の貴女が見てみたいわ。そ、れ、と、も〜。何か使えない理由でもあるのかしら?」
「分かってて言ってるよね。それ……!」
室内でライの能力を全開で使うことはできない。もしそんなことをすればこの部屋が壊れてしまう。
そうなったら結界を維持するための魔導装置も無事では済まない。
人道的とは言い難い装置だが、だとしても古竜を封じるために必要なものだ。
「セレス様! お下がりください!!」
不意に横から声がした。ユーリの声だ。セレスは反射的に後退すると、空気の砲弾がカメリアへと飛んでいく。
魔法によるものだろう。だがその程度の魔法が通用するはずもなく、見もせずに難なく避けられた。
カメリアは笑顔を張りつけたまま、戦いに横入りしてきた邪魔者を見て目を微かに細める。
「ああ、そういえばいたわね。誰? 貴方には興味ないのだけれど。死にたいならすぐ殺してあげましょうか」
284セレス ◆pFeH1SoQRU
2025/08/04(月) 23:35:19.49ID:oTlWsiLv 「マレブランケ。貴女の言う通り、私など取るに足らない存在なのでしょう。
ですが兵士として、私は貴女に立ち向かわねばなりません。この国を守ろうとした英雄アレンのためにも……!」
「素晴らしい心構えね。でも……うふ。うふふ。94番のコードホルダーを英雄と呼ぶなんて滑稽だわ。
だってアレンは多数を生かすために捧げられた生贄なんだもの。それに英雄というラベルを貼って誤魔化しているだけ」
「だとしても! ここで貴女に神話武装を渡すことだけはしちゃいけないでしょう! 結界が消えればこの国は滅ぶ!
それは我が先祖であるアレンの想いを踏みにじる行為だ! だから、私は貴女と戦うのです!」
「そう。ならいいわ。じゃあ私が憐れな生贄を本物にしてあげる。
英雄というものはね……死んで初めて英雄として完成するのよ!!」
カメリアの手に握られたダームデュラックの刀身が水気を纏う。
剣を振りかぶり、横薙ぎの一閃を放つと、水の刃が伸びた。水の刃は英雄アレンを内包する水晶を切り裂く。
水晶が砕かれる。中にいるアレンが露出し、石床に転がった。
「あら。中身ごと一刀両断するつもりだったのに。思った以上に硬いのね。
今の一撃で殺せていたら私に資格が移っていたのだけれど……残念だわ」
「ああ……なんてことを! アレン様っ!」
ユーリは水晶から放り出されたアレンのところへ駆け寄り、その身体を抱き起こしていた。
その間もセレスは現在いる位置から一歩も動けなかった。隙を見せればすかさずカメリアに攻撃されるだろう。
「お……おお……なんという……装置が……壊れた……のか」
それは老人のようでもあり、若者でもある声だった。ユーリの腕の中で意識を取り戻したアレンが、震える声で呟いたのだ。
魔導装置の力で肉体の時間を止めていたアレンの瑞々しい身体が急速に老い、痩せ衰えていく。
数秒経たず直視に抵抗を覚えるほど老い、やがて罅が入りはじめ、徐々に身体が崩壊する。
「頼む……誰か……私の代わりに、この国を……守っ…………」
最後には砂の城を崩したかのように、塵となって消えた。英雄と呼ばれた男の最期に、ユーリは涙ぐんでいる。
それを見届けたセレスは、握っていた剣を鞘に収める。胸から光の球が浮かぶと、右手に収まり大剣へと変化した。
もう、力を抑える理由がなくなった。それでも部屋が壊れる心配と、味方を巻き込まない配慮は必要だが。
「カメリア。貴女の望み通りの展開だよ。これで満足なの?」
「ええ。とっても。それじゃあ存分に踊ってもらいましょうか。死の舞踏をね」
お互いが神話武装を構える。次の瞬間、セレスはカメリアの背後へと高速で移動していた。
驚異的な反応速度でカメリアが振り向く。大質量の大剣がその頭を吹き飛ばさんと迫る。
カメリアの笑顔が消えた。焦った様子で身を屈め、片手を石床につけてしゃがみ、大剣を避ける。
頭があったところをライがすり抜けていくと、セレスは流れるように剣の軌道を変え、今度は縦一直線に振り下ろす。
だがこの攻撃も避けられた。カメリアは立ち上がりつつ後ろに跳躍し、寸前のところで大剣の切っ先から逃れる。
セレスはそのまま石床にライを叩きつけた。砕かれた石材が散弾のようにカメリアめがけて飛んでいく。
「案外、器用な真似をするのね……!」
避けきれないと踏んだのか、カメリアが選んだのは防御。彼女を中心として水の渦が生じる。
激しい渦は水流の力で飛んでくる石つぶてを弾き返す。
それならば。セレスもまたライの天空剣としての能力を行使し、風を呼ぶ。
その身に激しい風の渦を身に纏うと、カメリアめがけて一直線に突っ込んだ。
ですが兵士として、私は貴女に立ち向かわねばなりません。この国を守ろうとした英雄アレンのためにも……!」
「素晴らしい心構えね。でも……うふ。うふふ。94番のコードホルダーを英雄と呼ぶなんて滑稽だわ。
だってアレンは多数を生かすために捧げられた生贄なんだもの。それに英雄というラベルを貼って誤魔化しているだけ」
「だとしても! ここで貴女に神話武装を渡すことだけはしちゃいけないでしょう! 結界が消えればこの国は滅ぶ!
それは我が先祖であるアレンの想いを踏みにじる行為だ! だから、私は貴女と戦うのです!」
「そう。ならいいわ。じゃあ私が憐れな生贄を本物にしてあげる。
英雄というものはね……死んで初めて英雄として完成するのよ!!」
カメリアの手に握られたダームデュラックの刀身が水気を纏う。
剣を振りかぶり、横薙ぎの一閃を放つと、水の刃が伸びた。水の刃は英雄アレンを内包する水晶を切り裂く。
水晶が砕かれる。中にいるアレンが露出し、石床に転がった。
「あら。中身ごと一刀両断するつもりだったのに。思った以上に硬いのね。
今の一撃で殺せていたら私に資格が移っていたのだけれど……残念だわ」
「ああ……なんてことを! アレン様っ!」
ユーリは水晶から放り出されたアレンのところへ駆け寄り、その身体を抱き起こしていた。
その間もセレスは現在いる位置から一歩も動けなかった。隙を見せればすかさずカメリアに攻撃されるだろう。
「お……おお……なんという……装置が……壊れた……のか」
それは老人のようでもあり、若者でもある声だった。ユーリの腕の中で意識を取り戻したアレンが、震える声で呟いたのだ。
魔導装置の力で肉体の時間を止めていたアレンの瑞々しい身体が急速に老い、痩せ衰えていく。
数秒経たず直視に抵抗を覚えるほど老い、やがて罅が入りはじめ、徐々に身体が崩壊する。
「頼む……誰か……私の代わりに、この国を……守っ…………」
最後には砂の城を崩したかのように、塵となって消えた。英雄と呼ばれた男の最期に、ユーリは涙ぐんでいる。
それを見届けたセレスは、握っていた剣を鞘に収める。胸から光の球が浮かぶと、右手に収まり大剣へと変化した。
もう、力を抑える理由がなくなった。それでも部屋が壊れる心配と、味方を巻き込まない配慮は必要だが。
「カメリア。貴女の望み通りの展開だよ。これで満足なの?」
「ええ。とっても。それじゃあ存分に踊ってもらいましょうか。死の舞踏をね」
お互いが神話武装を構える。次の瞬間、セレスはカメリアの背後へと高速で移動していた。
驚異的な反応速度でカメリアが振り向く。大質量の大剣がその頭を吹き飛ばさんと迫る。
カメリアの笑顔が消えた。焦った様子で身を屈め、片手を石床につけてしゃがみ、大剣を避ける。
頭があったところをライがすり抜けていくと、セレスは流れるように剣の軌道を変え、今度は縦一直線に振り下ろす。
だがこの攻撃も避けられた。カメリアは立ち上がりつつ後ろに跳躍し、寸前のところで大剣の切っ先から逃れる。
セレスはそのまま石床にライを叩きつけた。砕かれた石材が散弾のようにカメリアめがけて飛んでいく。
「案外、器用な真似をするのね……!」
避けきれないと踏んだのか、カメリアが選んだのは防御。彼女を中心として水の渦が生じる。
激しい渦は水流の力で飛んでくる石つぶてを弾き返す。
それならば。セレスもまたライの天空剣としての能力を行使し、風を呼ぶ。
その身に激しい風の渦を身に纏うと、カメリアめがけて一直線に突っ込んだ。
285セレス ◆pFeH1SoQRU
2025/08/04(月) 23:40:41.01ID:oTlWsiLv 「くっ……速い。これが71番の……いえ。セレスの力……!?」
「私は四年前とは違う! 貴女のような人に立ち向かうために! 強くなったんだぁぁぁぁっ!!」
水と風の渦が激しくぶつかり合う。その中でセレスは突きを放ち、カメリアもまた斬撃を繰り出す。
お互いに防御を無視した一撃だ。一歩間違えれば相打ちになりかねない。その結果は。
「……シアリーズ。無茶は控えてください。今日の貴女は、少し危ない橋を渡りすぎています」
「大丈夫だよ、これくらい……この程度で十二幹部を倒せるなら、いくらでも無茶できる……!」
セレスは平然としているがライの忠告はもっともだ。傷口は浅いが左腕を斬られた。ライは両手剣。
片腕をやられては剣を振るう速度が落ちる。威力も下がるだろう。しかもカメリア側はセレスの突きを避けている。
「良い一撃だったわ。でも武器が巨大な分、私の剣の方がわずかに速かった。
残念ね。せっかく頭を狙ったのに。片腕を斬られたことで突きが逸れて、当たらなか……」
カメリアが言葉を言い終えることはなかった。剣を持っていない左手を首筋にあてがい、手のひらを見る。
手袋が微かに血で染まっている。セレスの突きは完全に外れたわけではなかった。首を薄皮一枚裂いていたのだ。
「……あはっ。あはははは。あはぁ……素晴らしい。素晴らしいわ。傷をつけられたのなんて何年ぶりかしら。
四年前、私は貴女に何もかも足りていないと言ったけれど、訂正しましょう。貴女は強い。私が間違ってた。
貴女となら、面白い戦いができそうね。弱者を蹂躙するのも愉快だけれど、戦いはやっぱりある程度拮抗していないと!」
狂ったような笑い方だった。この女は、戦いを娯楽か何かのように思っている。だからこんなに楽しそうなのだ。
油断なくライを構え直すと、対するカメリアは剣を構えず、無防備なまま。何を考えている。
するとカメリアの剣、ダームデュラックが光を放ち、徐々にその形状が変わっていく。
「これは……適合率が急上昇している。まさか……セカンドステージに移行する気ですか……!」
ライが驚きの声を上げる。セレスは何も言わなかったが、内心ではライと同じだった。
神話武装は神の因子に反応して所有者かどうか選ぶわけだが、そこには『適合率』というものが存在する。
平たく言えば、神話武装の力をどれだけ引き出せるかを表す数値だ。この数値が高いほど、様々な能力を発揮できる。
基本能力を行使できる段階、ファーストステージはコードホルダーなら誰もが到達できる領域。
そこから更に適合率を上昇させ、次の段階に踏み込んだのがセカンドステージだ。
能力の向上はもちろん、武器の形態変化や、新たな能力を獲得することもある。
コードホルダーでもこの領域に到達できるものは限られており、アストレア機関でも数えるほどしかいない。
ダームデュラックの形状が魚の鱗を思わせる両刃の剣から、鋸めいた鋭い片刃の剣へと変わり、サイズも一回り大きくなる。
「さあ。戦いを再開しましょうか。ダームの真の力、思う存分に味わうといいわ!!」
カメリアが剣を振るう。激しい水飛沫を撒き散らしつつ、水の衝撃波が地を這いながら迫ってくる。
見た目は派手だが、そんなに速い攻撃ではない。どれほどの威力か知らないが、今のセレスの移動速度なら十分避けられる。
「……これは……何かある。シアリーズ、風で水を吹き飛ばしてください。これは避けきれない!」
「え……? でもこれぐらいのスピードなら、避けるくらい……」
「最小限で回避すれば、飛び散る水飛沫の一滴一滴を浴びるかもしれません。早く!」
「わ、分かった!」
セレスは指示通り、ライを石床に突き立て、風を巻き起こした。自身を中心として風の防壁が生まれ、水を完全に遮断した。
周囲に飛び散った飛沫が辺りに飛び散ると、煙を生じさせながら石床を溶かした。
よく見ると、地を這う水の衝撃波が通った跡も、まるでぐずぐずに溶けてしまったようかのようだ。
「私は四年前とは違う! 貴女のような人に立ち向かうために! 強くなったんだぁぁぁぁっ!!」
水と風の渦が激しくぶつかり合う。その中でセレスは突きを放ち、カメリアもまた斬撃を繰り出す。
お互いに防御を無視した一撃だ。一歩間違えれば相打ちになりかねない。その結果は。
「……シアリーズ。無茶は控えてください。今日の貴女は、少し危ない橋を渡りすぎています」
「大丈夫だよ、これくらい……この程度で十二幹部を倒せるなら、いくらでも無茶できる……!」
セレスは平然としているがライの忠告はもっともだ。傷口は浅いが左腕を斬られた。ライは両手剣。
片腕をやられては剣を振るう速度が落ちる。威力も下がるだろう。しかもカメリア側はセレスの突きを避けている。
「良い一撃だったわ。でも武器が巨大な分、私の剣の方がわずかに速かった。
残念ね。せっかく頭を狙ったのに。片腕を斬られたことで突きが逸れて、当たらなか……」
カメリアが言葉を言い終えることはなかった。剣を持っていない左手を首筋にあてがい、手のひらを見る。
手袋が微かに血で染まっている。セレスの突きは完全に外れたわけではなかった。首を薄皮一枚裂いていたのだ。
「……あはっ。あはははは。あはぁ……素晴らしい。素晴らしいわ。傷をつけられたのなんて何年ぶりかしら。
四年前、私は貴女に何もかも足りていないと言ったけれど、訂正しましょう。貴女は強い。私が間違ってた。
貴女となら、面白い戦いができそうね。弱者を蹂躙するのも愉快だけれど、戦いはやっぱりある程度拮抗していないと!」
狂ったような笑い方だった。この女は、戦いを娯楽か何かのように思っている。だからこんなに楽しそうなのだ。
油断なくライを構え直すと、対するカメリアは剣を構えず、無防備なまま。何を考えている。
するとカメリアの剣、ダームデュラックが光を放ち、徐々にその形状が変わっていく。
「これは……適合率が急上昇している。まさか……セカンドステージに移行する気ですか……!」
ライが驚きの声を上げる。セレスは何も言わなかったが、内心ではライと同じだった。
神話武装は神の因子に反応して所有者かどうか選ぶわけだが、そこには『適合率』というものが存在する。
平たく言えば、神話武装の力をどれだけ引き出せるかを表す数値だ。この数値が高いほど、様々な能力を発揮できる。
基本能力を行使できる段階、ファーストステージはコードホルダーなら誰もが到達できる領域。
そこから更に適合率を上昇させ、次の段階に踏み込んだのがセカンドステージだ。
能力の向上はもちろん、武器の形態変化や、新たな能力を獲得することもある。
コードホルダーでもこの領域に到達できるものは限られており、アストレア機関でも数えるほどしかいない。
ダームデュラックの形状が魚の鱗を思わせる両刃の剣から、鋸めいた鋭い片刃の剣へと変わり、サイズも一回り大きくなる。
「さあ。戦いを再開しましょうか。ダームの真の力、思う存分に味わうといいわ!!」
カメリアが剣を振るう。激しい水飛沫を撒き散らしつつ、水の衝撃波が地を這いながら迫ってくる。
見た目は派手だが、そんなに速い攻撃ではない。どれほどの威力か知らないが、今のセレスの移動速度なら十分避けられる。
「……これは……何かある。シアリーズ、風で水を吹き飛ばしてください。これは避けきれない!」
「え……? でもこれぐらいのスピードなら、避けるくらい……」
「最小限で回避すれば、飛び散る水飛沫の一滴一滴を浴びるかもしれません。早く!」
「わ、分かった!」
セレスは指示通り、ライを石床に突き立て、風を巻き起こした。自身を中心として風の防壁が生まれ、水を完全に遮断した。
周囲に飛び散った飛沫が辺りに飛び散ると、煙を生じさせながら石床を溶かした。
よく見ると、地を這う水の衝撃波が通った跡も、まるでぐずぐずに溶けてしまったようかのようだ。
286セレス ◆pFeH1SoQRU
2025/08/04(月) 23:44:14.63ID:oTlWsiLv 「ライ、これは……!?」
「おそらくこれが32番のセカンドステージの能力です。水を溶解液に変える力、といったところでしょうか」
ライの判断は正しかった。もし回避を選んでいたら、水飛沫を少しは浴びていたかもしれない。
そうなったらセレスの身体はこの石床のように溶けてしまい、もう戦うどころではなかっただろう。
「お見事。理解するのが早いわね。でも今度の攻撃も凌ぎ切れるかしら?」
カメリアが剣で虚空を薙ぐ。水が生じて、大波が生まれた。まずい。逃げ場がない。
このままではセレスはもちろんのこと、ユーリも司令官も溶解液の餌食になってしまう。
「……ユーリさん! 司令官さん! 私の後ろに!!」
そう叫びつつ、セレスはライの切っ先を頭上に向け、天高く掲げた。大波から身を守るにはこれしかない。
大波が迫りつつある中、ユーリと神話武装を抱えた司令官がセレスの背後まで走ってくる。
今だ。ライの力を解放する。暴風と雷撃が生じ、天井に向かって命中すると、大小様々な瓦礫が勢いよく落ちてくる。
その破壊規模はといえば、カメリアはおろかセレスやユーリたちすらも巻き込みかねないものだ。
それでもセレスは天井への攻撃を止めない。やがて大波がうず高く積まれていく瓦礫の山と接触する。
溶解液と化した大波は瓦礫を溶かすが、完全には溶かしきれていない。
結果、瓦礫の背後にいたセレスたちまで溶解液は届かず、凌ぎ切ることに成功した。
遮蔽物が何もない空間ではそうするしかなかった。たとえ自分たちが瓦礫の下敷きになる危険性があったとしても。
「……シアリーズ。やはり今日の貴女は無茶をし過ぎています。今後は控えてください」
「心配させてごめんね、ライ。室内じゃなければ空を歩いて避けられたんだけど……」
「天井を崩落させて溶解液の大波を防ぐなんて……やるじゃない。荒っぽいけど嫌いじゃない発想よ。
もっと貴女と戦いたいけど……そろそろタイムリミットのようね。この要塞は間もなく地図から消える」
不意に上から声がして、セレスは身構えた。積み上がった瓦礫の山の上にカメリアが立っている。
「タイムリミットって……何のこと……!?」
「セレス、貴女は魔力探知が苦手みたいね。いいわ、教えてあげる。
私が魔導装置を破壊したから結界は消えているのよ。だからもうじきこの国に古竜がやってくる。
そのタイムリミットが来たというわけ。あいつは生きた災害みたいなものだから、要塞くらい簡単に消し去るわ」
そうだった。コードホルダーを失った結界剣アウラアジールは、もうその能力を発揮させていない。
だから結界で隔離していた古竜はもういつ来てもおかしくない状態だ。だとしても動きが早い。
「貴女と古竜の相手を同時にするのは私でもちょっと面倒かな。だから折を見てまた奪いに来させてもらうわ。
セレス、頑張って。応援してる。心の底からね。貴女とはまだ決着がついてないから……また会いましょう」
随分と勝手なことを言う。結界を維持する魔導装置を破壊したのは他でもないカメリアなのに。
懐から魔石を取り出したカメリアは石に施された魔法を起動させる。
地面に魔法陣が浮かぶと、やがてその姿は消えた。
【司令官のセレスの呼び方が「セレス殿」と「セレス様」の二通りありますが
正しくは「セレス殿」なので脳内保管してくださるとありがたいです(汗)】
「おそらくこれが32番のセカンドステージの能力です。水を溶解液に変える力、といったところでしょうか」
ライの判断は正しかった。もし回避を選んでいたら、水飛沫を少しは浴びていたかもしれない。
そうなったらセレスの身体はこの石床のように溶けてしまい、もう戦うどころではなかっただろう。
「お見事。理解するのが早いわね。でも今度の攻撃も凌ぎ切れるかしら?」
カメリアが剣で虚空を薙ぐ。水が生じて、大波が生まれた。まずい。逃げ場がない。
このままではセレスはもちろんのこと、ユーリも司令官も溶解液の餌食になってしまう。
「……ユーリさん! 司令官さん! 私の後ろに!!」
そう叫びつつ、セレスはライの切っ先を頭上に向け、天高く掲げた。大波から身を守るにはこれしかない。
大波が迫りつつある中、ユーリと神話武装を抱えた司令官がセレスの背後まで走ってくる。
今だ。ライの力を解放する。暴風と雷撃が生じ、天井に向かって命中すると、大小様々な瓦礫が勢いよく落ちてくる。
その破壊規模はといえば、カメリアはおろかセレスやユーリたちすらも巻き込みかねないものだ。
それでもセレスは天井への攻撃を止めない。やがて大波がうず高く積まれていく瓦礫の山と接触する。
溶解液と化した大波は瓦礫を溶かすが、完全には溶かしきれていない。
結果、瓦礫の背後にいたセレスたちまで溶解液は届かず、凌ぎ切ることに成功した。
遮蔽物が何もない空間ではそうするしかなかった。たとえ自分たちが瓦礫の下敷きになる危険性があったとしても。
「……シアリーズ。やはり今日の貴女は無茶をし過ぎています。今後は控えてください」
「心配させてごめんね、ライ。室内じゃなければ空を歩いて避けられたんだけど……」
「天井を崩落させて溶解液の大波を防ぐなんて……やるじゃない。荒っぽいけど嫌いじゃない発想よ。
もっと貴女と戦いたいけど……そろそろタイムリミットのようね。この要塞は間もなく地図から消える」
不意に上から声がして、セレスは身構えた。積み上がった瓦礫の山の上にカメリアが立っている。
「タイムリミットって……何のこと……!?」
「セレス、貴女は魔力探知が苦手みたいね。いいわ、教えてあげる。
私が魔導装置を破壊したから結界は消えているのよ。だからもうじきこの国に古竜がやってくる。
そのタイムリミットが来たというわけ。あいつは生きた災害みたいなものだから、要塞くらい簡単に消し去るわ」
そうだった。コードホルダーを失った結界剣アウラアジールは、もうその能力を発揮させていない。
だから結界で隔離していた古竜はもういつ来てもおかしくない状態だ。だとしても動きが早い。
「貴女と古竜の相手を同時にするのは私でもちょっと面倒かな。だから折を見てまた奪いに来させてもらうわ。
セレス、頑張って。応援してる。心の底からね。貴女とはまだ決着がついてないから……また会いましょう」
随分と勝手なことを言う。結界を維持する魔導装置を破壊したのは他でもないカメリアなのに。
懐から魔石を取り出したカメリアは石に施された魔法を起動させる。
地面に魔法陣が浮かぶと、やがてその姿は消えた。
【司令官のセレスの呼び方が「セレス殿」と「セレス様」の二通りありますが
正しくは「セレス殿」なので脳内保管してくださるとありがたいです(汗)】
287創る名無しに見る名無し
2025/08/07(木) 04:40:59.42ID:NnXKG5Fu たのしみに読んでるよ~
288セレス ◆pFeH1SoQRU
2025/08/23(土) 13:48:24.87ID:wFl19Zn+ 古竜。それは人類が二足歩行を始める前から、この世界に住まう神話の竜。
絶大な力を誇り、一国を容易く滅ぼす力を持つことから「生きた災害」などとも呼ばれている。
カメリアが去った要塞の地下を、重い沈黙が支配していた。やがてそれを破るかのようにユーリが口を開く。
「あ、あの……司令官。セレス様。ひとつ考えがあるのですが。結界を張り直す方法があるかもしれません」
「結界を張り直す、だと……ユーリ。それは本当か。それができるなら、今すぐやってもらいたいところだ」
「はい。セレス様、仰っていましたよね。神話武装の使い手になるための『神の因子』は、子孫に受け継がれる可能性が高いと。
なら……英雄アレンの子孫である僕なら、結界剣のコードホルダーに選ばれる可能性は高いのではないでしょうか」
確かにそんな話をしていた。ユーリがコードホルダーとなり、結界を張ることができれば古竜の脅威は去る。
英雄の子孫がその力を受け継ぎ、凶悪な魔物を退ける。そうなればユーリはまさしく英雄だ。
だが、本当にそれでいいのだろうか。たとえ今この時は良かったとしても、その後のユーリの身は保障されるのか。
カメリアはまた機を見てまた襲撃すると宣言していた。そのときユーリはカメリアを対処できるのか。
セレスがこの要塞に居続けるのは不可能だ。アストレア機関の戦士として、他にも任務が待っている。
それに、この国が英雄アレンにしたことと同じ所業をユーリにはしないと、誰が言えるのだろうか。
ユーリの声は震えていた。押し殺したつもりでも、その微かな恐れをセレスは見逃さなかった。
分かっているのだ。自分が英雄となれば最悪の結末が待っているかもしれないと。その可能性が高いことも。
それでもコードホルダーになる道を選ぼうとしている。多くを救うための犠牲になろうとしている。
「……駄目。駄目だよ、ユーリさん。ユーリさんはコードホルダーになっちゃいけない。
それで問題が解決したなんて私は言わせない。絶対に……!」
「ではどうすればいいんです、セレス様。アレン様は死の間際までこの国を想っていました。塵になって消える最後まで。
僕もこの国を、大切な人や家族が住むこの国を守りたいです。誰にも死んで欲しくない……。
そ、それに古竜から国を守れば僕は英雄として名を残せる。それも悪くないかも……はは……」
「確かに英雄アレンは、自分が犠牲になったなんて、考えていなかったかもしれない。
生きたまま装置の一部になったのも、当時はそれしか方法がなかっただけで……」
「そうです。だから僕もそうするんです。覚悟はできています」
「嘘ですね。ユーリさんは違う。だってユーリさん、本当は怖いんですよね。
ユーリさん、誰も自分を犠牲にしなくていいんです。英雄だけが不幸にならなくていいんです。
もし英雄を助ける人がいないのなら……私が助けます。だって私は」
セレスが不意に笑顔を作ると、ユーリは目を丸くした。胸に手を当てて、セレスは言う。
「……ヒーローを目指してるから。困ってる人を助ける人を、私が助けます。助けてみせます。
だから、決めました。私が……古竜を倒します。アストレア機関のシアリーズ・アリシアの名に懸けて」
無理だ。できない。勝てるわけがない。そんなことは、やってみなくては分からない。
英雄という犠牲を強いるのは、自分が試した後でも構わないだろう。セレスはそう思ったのだ。
この要塞に到着した時と同じく、北部側の城壁にセレスは一人で立っていた。
風が強い。空気が張り詰めている。肌を刺すような緊張感が、要塞を支配している。
マレブランケの襲撃によって、要塞にいた少なくない兵士が負傷していた。
司令官は古竜との戦闘の援護に兵を出すと言っていたが断った。気持ちだけで十分だ。
全力を尽くした戦いになれば、確実に味方を巻き込んでしまうからだ。また、古竜から庇う余裕も当然ない。
まだ距離は遠いが、古竜の姿はすでに見えている。なんという大きさか。なんという威容か。
100メートルをゆうに超える巨大な身体。それが森の木々を文字通り蹴散らしながら、四足歩行で近づいてくる。
実感が追いついた。これほどの巨大生物が本気で暴れ回ったら、たしかに要塞はおろか国だって無事では済まないだろう。
絶大な力を誇り、一国を容易く滅ぼす力を持つことから「生きた災害」などとも呼ばれている。
カメリアが去った要塞の地下を、重い沈黙が支配していた。やがてそれを破るかのようにユーリが口を開く。
「あ、あの……司令官。セレス様。ひとつ考えがあるのですが。結界を張り直す方法があるかもしれません」
「結界を張り直す、だと……ユーリ。それは本当か。それができるなら、今すぐやってもらいたいところだ」
「はい。セレス様、仰っていましたよね。神話武装の使い手になるための『神の因子』は、子孫に受け継がれる可能性が高いと。
なら……英雄アレンの子孫である僕なら、結界剣のコードホルダーに選ばれる可能性は高いのではないでしょうか」
確かにそんな話をしていた。ユーリがコードホルダーとなり、結界を張ることができれば古竜の脅威は去る。
英雄の子孫がその力を受け継ぎ、凶悪な魔物を退ける。そうなればユーリはまさしく英雄だ。
だが、本当にそれでいいのだろうか。たとえ今この時は良かったとしても、その後のユーリの身は保障されるのか。
カメリアはまた機を見てまた襲撃すると宣言していた。そのときユーリはカメリアを対処できるのか。
セレスがこの要塞に居続けるのは不可能だ。アストレア機関の戦士として、他にも任務が待っている。
それに、この国が英雄アレンにしたことと同じ所業をユーリにはしないと、誰が言えるのだろうか。
ユーリの声は震えていた。押し殺したつもりでも、その微かな恐れをセレスは見逃さなかった。
分かっているのだ。自分が英雄となれば最悪の結末が待っているかもしれないと。その可能性が高いことも。
それでもコードホルダーになる道を選ぼうとしている。多くを救うための犠牲になろうとしている。
「……駄目。駄目だよ、ユーリさん。ユーリさんはコードホルダーになっちゃいけない。
それで問題が解決したなんて私は言わせない。絶対に……!」
「ではどうすればいいんです、セレス様。アレン様は死の間際までこの国を想っていました。塵になって消える最後まで。
僕もこの国を、大切な人や家族が住むこの国を守りたいです。誰にも死んで欲しくない……。
そ、それに古竜から国を守れば僕は英雄として名を残せる。それも悪くないかも……はは……」
「確かに英雄アレンは、自分が犠牲になったなんて、考えていなかったかもしれない。
生きたまま装置の一部になったのも、当時はそれしか方法がなかっただけで……」
「そうです。だから僕もそうするんです。覚悟はできています」
「嘘ですね。ユーリさんは違う。だってユーリさん、本当は怖いんですよね。
ユーリさん、誰も自分を犠牲にしなくていいんです。英雄だけが不幸にならなくていいんです。
もし英雄を助ける人がいないのなら……私が助けます。だって私は」
セレスが不意に笑顔を作ると、ユーリは目を丸くした。胸に手を当てて、セレスは言う。
「……ヒーローを目指してるから。困ってる人を助ける人を、私が助けます。助けてみせます。
だから、決めました。私が……古竜を倒します。アストレア機関のシアリーズ・アリシアの名に懸けて」
無理だ。できない。勝てるわけがない。そんなことは、やってみなくては分からない。
英雄という犠牲を強いるのは、自分が試した後でも構わないだろう。セレスはそう思ったのだ。
この要塞に到着した時と同じく、北部側の城壁にセレスは一人で立っていた。
風が強い。空気が張り詰めている。肌を刺すような緊張感が、要塞を支配している。
マレブランケの襲撃によって、要塞にいた少なくない兵士が負傷していた。
司令官は古竜との戦闘の援護に兵を出すと言っていたが断った。気持ちだけで十分だ。
全力を尽くした戦いになれば、確実に味方を巻き込んでしまうからだ。また、古竜から庇う余裕も当然ない。
まだ距離は遠いが、古竜の姿はすでに見えている。なんという大きさか。なんという威容か。
100メートルをゆうに超える巨大な身体。それが森の木々を文字通り蹴散らしながら、四足歩行で近づいてくる。
実感が追いついた。これほどの巨大生物が本気で暴れ回ったら、たしかに要塞はおろか国だって無事では済まないだろう。
289セレス ◆pFeH1SoQRU
2025/08/23(土) 13:49:48.60ID:wFl19Zn+ 不意に古竜が立ち上がった。その頭部が、要塞の城壁より高い位置まで昇る。
古竜が口を開く。口部に光が灯り、魔力が充填されていくのが分かった。ドラゴンブレスだ。
発射されるのはただの炎ではない。炎よりも遥かに高温で、遥かに破壊力を持つ光線のようなものだ。
「……ライ。私たちも行くよ。セカンドステージの力を解放しよう。無闇に使うなって、副局長からは止められてるけど……」
「私はセレスの決断に異存ありません。あの神話の怪物を止めるのに、中途半端な攻撃は無意味でしょう」
カメリアとの戦いで使う機会はなかったが、実はセレスとライも到達しているのだ。セカンドステージの段階に。
使わずに戦っていたのは、破壊規模が大きすぎるうえ、セレスたちも完全に制御できていないためである。
アストレア機関の副局長であるロザリーからは使用厳禁を言い渡されていた。だが使うなら、今しかない。
切っ先を上に向け、ライを頭上高く掲げる。ライが魔力を帯びると、それは上空へと放出される。
高く、高く、その魔力は輝きを放ちながら天高くへと昇り、夜の雲を貫いて、大気を刺激した。
セレスとライの力によって、刺激された大気はみるみる暗雲を呼び寄せ、嵐が起きる。
次の瞬間、頭上高く掲げているライに雷が落ちた。
ライはその大自然の威力を自身の力に変え、雷を纏って眩いばかりの光を放つ。
ドラゴンブレスの充填を完了させた古竜が光線を発射した。セレスを巻き込んで要塞ごと吹っ飛ばす気だ。
「はぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!!!」
セレスは跳躍すると、下から上へとライを振るい、光線をかち上げるように軌道を上空へ逸らした。
古竜の放った光線は要塞に命中することも、セレスを焼き尽くすこともなく、暗雲に覆われた夜空に吸われていく。
ドラゴンブレスは魔法の一種なので、魔法を相殺する要領で弾けると思ったが、予想通り上手くいった。
「シアリーズ、気をつけてください。古竜がまたドラゴンブレスを使うつもりのようです」
「分かった! その前にこっちの攻撃なんだからね!!」
雷鳴が鳴り響いたかと思うと、激しい落雷が何度も古竜に直撃した。
その稲光は、まるで神の怒りに触れたかのように激しく轟き、さしもの古竜も怯んだ様子だ。
ドラゴンブレスの充填が中断され、呻き声を漏らして苦しんでいる。
言うまでもないことだが、その威力はライが剣から発する電撃の比ではない。
風も、電撃も、天空剣ライディアラスの真なる能力の一端に過ぎず、その本質とは少し違う。
ライのセカンドステージの能力。それは天候操作。付随して大気のエネルギーを吸収・自らの力にすることもできる。
古竜が生きた災害なら、ライとセレスもまた生きた災害に等しい存在である。
これはただの戦いではない。環境を一変させるもの同士の全力のせめぎ合いなのだ。
「落雷、あまり効いてないね。あれが竜の鱗(ドラゴンスケイル)の力なの……?」
「の、ようですね。我々の雷が鱗を通らず、地面や大気に拡散しています。斬撃の方が有効かもしれません」
ならば大気の力を剣に込めて、全力の一撃で竜の首を斬り落とす。剣を天空に掲げ、力を集中させる。
ライの刀身が淡く光を放ち、その刀身が徐々に巨大化していく。それを見た古竜も再びドラゴンブレスの構えを見せる。
その威力は先ほどの比ではないだろう。小細工をしないところが潔い。真っ向勝負だ。
空中歩行の能力を使って空気を蹴り、セレスが空を走る。巨大な光剣と化したライを構え、正面から突撃する。
呼応するかのごとく、ドラゴンブレスが解き放たれる。セレスがライを振るい、光線と光剣がぶつかり合う。
二つの力はほぼ互角。紙一重ほどの差もない。ただ一点、違いがあるとすれば。それは想いの差。
古竜が口を開く。口部に光が灯り、魔力が充填されていくのが分かった。ドラゴンブレスだ。
発射されるのはただの炎ではない。炎よりも遥かに高温で、遥かに破壊力を持つ光線のようなものだ。
「……ライ。私たちも行くよ。セカンドステージの力を解放しよう。無闇に使うなって、副局長からは止められてるけど……」
「私はセレスの決断に異存ありません。あの神話の怪物を止めるのに、中途半端な攻撃は無意味でしょう」
カメリアとの戦いで使う機会はなかったが、実はセレスとライも到達しているのだ。セカンドステージの段階に。
使わずに戦っていたのは、破壊規模が大きすぎるうえ、セレスたちも完全に制御できていないためである。
アストレア機関の副局長であるロザリーからは使用厳禁を言い渡されていた。だが使うなら、今しかない。
切っ先を上に向け、ライを頭上高く掲げる。ライが魔力を帯びると、それは上空へと放出される。
高く、高く、その魔力は輝きを放ちながら天高くへと昇り、夜の雲を貫いて、大気を刺激した。
セレスとライの力によって、刺激された大気はみるみる暗雲を呼び寄せ、嵐が起きる。
次の瞬間、頭上高く掲げているライに雷が落ちた。
ライはその大自然の威力を自身の力に変え、雷を纏って眩いばかりの光を放つ。
ドラゴンブレスの充填を完了させた古竜が光線を発射した。セレスを巻き込んで要塞ごと吹っ飛ばす気だ。
「はぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!!!」
セレスは跳躍すると、下から上へとライを振るい、光線をかち上げるように軌道を上空へ逸らした。
古竜の放った光線は要塞に命中することも、セレスを焼き尽くすこともなく、暗雲に覆われた夜空に吸われていく。
ドラゴンブレスは魔法の一種なので、魔法を相殺する要領で弾けると思ったが、予想通り上手くいった。
「シアリーズ、気をつけてください。古竜がまたドラゴンブレスを使うつもりのようです」
「分かった! その前にこっちの攻撃なんだからね!!」
雷鳴が鳴り響いたかと思うと、激しい落雷が何度も古竜に直撃した。
その稲光は、まるで神の怒りに触れたかのように激しく轟き、さしもの古竜も怯んだ様子だ。
ドラゴンブレスの充填が中断され、呻き声を漏らして苦しんでいる。
言うまでもないことだが、その威力はライが剣から発する電撃の比ではない。
風も、電撃も、天空剣ライディアラスの真なる能力の一端に過ぎず、その本質とは少し違う。
ライのセカンドステージの能力。それは天候操作。付随して大気のエネルギーを吸収・自らの力にすることもできる。
古竜が生きた災害なら、ライとセレスもまた生きた災害に等しい存在である。
これはただの戦いではない。環境を一変させるもの同士の全力のせめぎ合いなのだ。
「落雷、あまり効いてないね。あれが竜の鱗(ドラゴンスケイル)の力なの……?」
「の、ようですね。我々の雷が鱗を通らず、地面や大気に拡散しています。斬撃の方が有効かもしれません」
ならば大気の力を剣に込めて、全力の一撃で竜の首を斬り落とす。剣を天空に掲げ、力を集中させる。
ライの刀身が淡く光を放ち、その刀身が徐々に巨大化していく。それを見た古竜も再びドラゴンブレスの構えを見せる。
その威力は先ほどの比ではないだろう。小細工をしないところが潔い。真っ向勝負だ。
空中歩行の能力を使って空気を蹴り、セレスが空を走る。巨大な光剣と化したライを構え、正面から突撃する。
呼応するかのごとく、ドラゴンブレスが解き放たれる。セレスがライを振るい、光線と光剣がぶつかり合う。
二つの力はほぼ互角。紙一重ほどの差もない。ただ一点、違いがあるとすれば。それは想いの差。
290セレス ◆pFeH1SoQRU
2025/08/23(土) 13:52:14.37ID:wFl19Zn+ 「……ヒーローは、たとえどんな相手だろうと逃げない。必ず立ち向かう!!」
ライの刀身を押し込み、空気を踏みしめ、光線に向かって一歩進む。
「……ヒーローは、どれほど困難な状況であっても諦めない。必ず最善を尽くす!!」
足取りは確かに。力強く。少しずつ。少しずつ光線を押し返していく。
「そしてヒーローは……絶対に負けない。最後には、勝つんだぁぁぁぁぁ!!」
光線が真っ二つに割れて、か細く消えていく。ライの光剣が光線に押し勝った。眼前には、古竜の頭がある。
古竜の首めがけて横薙ぎに光剣を叩きつける。硬い竜の鱗に覆われたそれを、一撃で断ち切り。
その頭は真っ逆様に地面に落ちていった。制御を失った古竜の身体は前のめりに倒れ、要塞の城壁を完全に破壊した。
「やった……勝った…………」
古竜の首を斬った。腕に残るその感触だけを頼りに勝利を理解したセレスは、己の体力に限界が来たことを悟った。
ライのセカンドステージの能力は、魔力も気力も体力も、著しく消耗する。もう指一本だって動かせない。
空中歩行もままならなくなったセレスは程なく墜落し、森の木々の中へと消えた。
◆
目が覚めたらベッドの上だった。まだ10代前半としか思えない、幼い顔立ちの少女がセレスの顔をじっと覗き込んでいる。
アストレア機関、副局長のロザリー・リンクリットだ。セレスより若く見えるが、実年齢は37歳である。若さの秘訣が知りたい。
「私が来たら、すぐ目覚めたわね。局長の勘は本当に当たるわ。まずは任務ご苦労様。一人でよくやってくれたわ」
「ロザリー副局長……要塞は……エンダル要塞はどうなったんですか。私、古竜を倒した後に気を失って……」
「そうね。傭兵団を雇ったのが誰か、調べろとは言ったけど……それがなんで古竜退治になったのかよく分からない。
でも、まぁいいわ。結果的にはマレブランケに神話武装を渡さずに済んだ。そこは褒めてあげましょう」
セレスは起き上がろうとしたが、身体に力が入らない。ロザリーが「無理せず寝ていなさい」と言った。
「要塞に保管されてた94番だけど、レムリア王国の頼みで機関が預かることになったわ。古竜が死んで必要が無くなったからってね。
正しい判断ね。所有し続ければマレブランケに狙われただろうから。執拗にね。貴女が気にしていたのはそのことでしょう?」
「え……あ……はい。そうです。安心しました」
「なら良かった。あと、もうひとつ。要塞の司令官と部下のユーリって兵士が言っていたわ。
貴女には要塞を救ってもらった、感謝しても仕切れない……とね。確かに伝えたから。後は報告書を読んでおいて」
ロザリーは懐から懐中時計を取り出すと「2分ピッタリ。これで失礼するわ」と言った。
そして胸から光の球が出現し、巨大な一対のチャクラムへと形を変える。神話武装11番、魔戦輪アーカディアン。
その能力は「転移」で、持ち主の望んだ場所へワープできる。ロザリーはそれを利用して分単位のスケジュールで行動しているのだ。
チャクラムの輪が広がり、別の場所へ繋がるゲートになると、輪を通り抜けてロザリーはどこかへと消えた。
残されたセレスはやることもないので黙って報告書を読んだ。本来ならセレスが作成するべきなのだが、
気を失った後、駆けつけたロザリーが要塞の司令官やユーリに聞き取りをして書いたらしい。
古竜はきちんと倒せていたようだ。だが古竜を倒しても、エンダル要塞の役目が終わったわけではない。
魔物の生息圏との境界線上に存在する要塞だ。結界が失われた今、その重要性はかえって増した。
古竜ほどではないにしても恐ろしい魔物との戦いの日々が待っているはずなのだ。
それを知ってなお要塞は、いやレムリア王国は94番を手放す覚悟を決めた。
もう一人の英雄だけに任せたりしない。全員の力で国を守り抜く。
これはその意思表示なのだと、セレスには思えてならなかった。
ライの刀身を押し込み、空気を踏みしめ、光線に向かって一歩進む。
「……ヒーローは、どれほど困難な状況であっても諦めない。必ず最善を尽くす!!」
足取りは確かに。力強く。少しずつ。少しずつ光線を押し返していく。
「そしてヒーローは……絶対に負けない。最後には、勝つんだぁぁぁぁぁ!!」
光線が真っ二つに割れて、か細く消えていく。ライの光剣が光線に押し勝った。眼前には、古竜の頭がある。
古竜の首めがけて横薙ぎに光剣を叩きつける。硬い竜の鱗に覆われたそれを、一撃で断ち切り。
その頭は真っ逆様に地面に落ちていった。制御を失った古竜の身体は前のめりに倒れ、要塞の城壁を完全に破壊した。
「やった……勝った…………」
古竜の首を斬った。腕に残るその感触だけを頼りに勝利を理解したセレスは、己の体力に限界が来たことを悟った。
ライのセカンドステージの能力は、魔力も気力も体力も、著しく消耗する。もう指一本だって動かせない。
空中歩行もままならなくなったセレスは程なく墜落し、森の木々の中へと消えた。
◆
目が覚めたらベッドの上だった。まだ10代前半としか思えない、幼い顔立ちの少女がセレスの顔をじっと覗き込んでいる。
アストレア機関、副局長のロザリー・リンクリットだ。セレスより若く見えるが、実年齢は37歳である。若さの秘訣が知りたい。
「私が来たら、すぐ目覚めたわね。局長の勘は本当に当たるわ。まずは任務ご苦労様。一人でよくやってくれたわ」
「ロザリー副局長……要塞は……エンダル要塞はどうなったんですか。私、古竜を倒した後に気を失って……」
「そうね。傭兵団を雇ったのが誰か、調べろとは言ったけど……それがなんで古竜退治になったのかよく分からない。
でも、まぁいいわ。結果的にはマレブランケに神話武装を渡さずに済んだ。そこは褒めてあげましょう」
セレスは起き上がろうとしたが、身体に力が入らない。ロザリーが「無理せず寝ていなさい」と言った。
「要塞に保管されてた94番だけど、レムリア王国の頼みで機関が預かることになったわ。古竜が死んで必要が無くなったからってね。
正しい判断ね。所有し続ければマレブランケに狙われただろうから。執拗にね。貴女が気にしていたのはそのことでしょう?」
「え……あ……はい。そうです。安心しました」
「なら良かった。あと、もうひとつ。要塞の司令官と部下のユーリって兵士が言っていたわ。
貴女には要塞を救ってもらった、感謝しても仕切れない……とね。確かに伝えたから。後は報告書を読んでおいて」
ロザリーは懐から懐中時計を取り出すと「2分ピッタリ。これで失礼するわ」と言った。
そして胸から光の球が出現し、巨大な一対のチャクラムへと形を変える。神話武装11番、魔戦輪アーカディアン。
その能力は「転移」で、持ち主の望んだ場所へワープできる。ロザリーはそれを利用して分単位のスケジュールで行動しているのだ。
チャクラムの輪が広がり、別の場所へ繋がるゲートになると、輪を通り抜けてロザリーはどこかへと消えた。
残されたセレスはやることもないので黙って報告書を読んだ。本来ならセレスが作成するべきなのだが、
気を失った後、駆けつけたロザリーが要塞の司令官やユーリに聞き取りをして書いたらしい。
古竜はきちんと倒せていたようだ。だが古竜を倒しても、エンダル要塞の役目が終わったわけではない。
魔物の生息圏との境界線上に存在する要塞だ。結界が失われた今、その重要性はかえって増した。
古竜ほどではないにしても恐ろしい魔物との戦いの日々が待っているはずなのだ。
それを知ってなお要塞は、いやレムリア王国は94番を手放す覚悟を決めた。
もう一人の英雄だけに任せたりしない。全員の力で国を守り抜く。
これはその意思表示なのだと、セレスには思えてならなかった。
291セレス ◆pFeH1SoQRU
2025/08/23(土) 13:55:50.69ID:wFl19Zn+ これで第一章完です。一応、第四章まで構想ありますが、果たして全部書けるのだろうか……。
あと実を言うとライディアラスの能力はわりと適当に考えていたので今改めて決めてしまうと……。
ファーストステージ:スピードアップ+空中歩行、セカンドステージ:天候操作といったところでしょうか?
雷と風を出すのは天候操作の力を部分的に引き出してるイメージですね。
なんか……ライのファーストステージってショボくね……?(自分のせい)
最後に読んで下さっている方、支援ありがとうございます。励みになります!!
あと実を言うとライディアラスの能力はわりと適当に考えていたので今改めて決めてしまうと……。
ファーストステージ:スピードアップ+空中歩行、セカンドステージ:天候操作といったところでしょうか?
雷と風を出すのは天候操作の力を部分的に引き出してるイメージですね。
なんか……ライのファーストステージってショボくね……?(自分のせい)
最後に読んで下さっている方、支援ありがとうございます。励みになります!!
292創る名無しに見る名無し
2025/08/23(土) 17:39:20.58ID:w94iXZZ+ い.ん.ぎ..,
まぎまぎ..,
よごは、おんが、つねあだな、。いらんやつないみ
むかしは、わしらに
まぎまぎ..,
よごは、おんが、つねあだな、。いらんやつないみ
むかしは、わしらに
293創る名無しに見る名無し
2025/08/23(土) 17:40:45.10ID:w94iXZZ+ ぃ、●めあまり、こないみ
み.ん.ぐ..,ごんぎ..,
ほしのワルツに、なるなあも、
み.ん.ぐ..,ごんぎ..,
ほしのワルツに、なるなあも、
294創る名無しに見る名無し
2025/08/23(土) 17:42:23.76ID:w94iXZZ+ I.x.uu.ui..,まぎ、まぎ、
ほしのアメリカは、アジアすくない、らしい
から。
ほしのアメリカは、アジアすくない、らしい
から。
295創る名無しに見る名無し
2025/08/26(火) 19:30:40.00ID:uwz8wbWn 楽しく読ませてもらった!乙!
296創る名無しに見る名無し
2025/09/01(月) 14:59:58.76ID:C2MvwAzJ おもしろかったよ~乙乙
297セレス ◆pFeH1SoQRU
2025/09/20(土) 19:11:18.57ID:CClXHFCQ エンダル要塞における古竜との戦いの影響で、セレスは数日ほど療養の身となった。
そのためアストレア機関の本部、トリニタス城の病室で安静にさせられている。
明日には任務に復帰していいらしい。ライも顔色や肌ツヤが元気になったと言ってくれた。
セレスも一応、女の子なので肌ツヤは大事だ。まだ若いのに肌がボロボロだったらさすがにショックを受ける。
トリニタス城は、大陸の果てにある大瀑布のさらに向こう側に存在していて、厳かな白亜の城である。
三つの城で構成されているこの本部は、南西と南東の支城と、北の本城で成り立つ。セレスの病室は本城にある。
アクセスが悪すぎてセレスは滅多にここに来ない。ロザリーが能力で本部に運んでいなかったら滞在することもなかっただろう。
「は〜。それにしても暇だね〜。寝てるだけなんだもん。私、あんまりジッとしてるのって好きじゃないし……」
「シアリーズ、そう言わずに寝てください。体調管理も立派な仕事です。
もしヒーローが風邪で休んでしまったら、その間に誰が悪者から人々を守るんですか」
「ライってばズル〜い。そう言われたら休んでおくしかないよ……でも時間はまだお昼だし全然眠たくなくて……」
暇を持て余したセレスはライとお喋りをして時間を潰していた。しばらくすると、部屋に近づく足音が聞こえる。
一人ではない。三人。誰かが見舞いにでも来てくれたのだろうか。みんな任務で忙しいだろうに、嬉しいことだ。
病室のドアが開くと、眼鏡をかけた爽やかな青年が現れる。先輩コードホルダーのナハト・エヴァラックだ。
「やあ、セレス。久しぶり。医者の世話になったと聞いてお見舞いに来たよ。思ったより元気そうだね」
そう言って、フルーツ盛り合わせが入った籠を手渡してくれた。籠の上にはフルーツで手紙を挟んである。
気になるのはナハトの後ろにいる二人の女の子だ。間違いなく初対面。新入りなのだろうか。
一人は赤髪をポニーテールにしている子で、三白眼のせいか目つきが鋭く、まるで睨まれているように感じる。
もう一人は内気そうな背の低い子。薄緑の髪を首の辺りまで伸ばし、ナハトの背中に隠れている。
「ナハトさん。お久しぶりです、お見舞いありがとうございます。ところでその後ろの人たちは……?」
「ああ。君の次の任務で一緒になる子たちだ。新入りだから色々教えてあげてほしい。
二人とも自己紹介を。彼女はシアリーズ・アリシア。みんなはセレスって呼んでるよ。君たちの先輩だ」
赤髪の女の子が内気そうな方の子をちらと見て、面倒くさそうな態度を隠そうともせず名乗る。
「……自己紹介ね。私はマユラ・マグナマーテル。神話武装83番のコードホルダーだ。まーよろしく」
次に内気そうな子がおずおずといった調子で小声で呟いた。
「ぼ、僕は……フロウ・ヴィントホーゼです。神話武装26番のコードホルダーです……よろしくお願いしますっ」
「マユラちゃんにフロウちゃんだね。じゃあ、次の任務はよろしく!! ナハトさん、任務内容はこの手紙に?」
フルーツに挟まれた手紙を抜き取ると、ナハトは「うん。後は三人で頼むよ」と言って部屋を去っていった。
セレスはさっそく手紙を開封し、次の任務内容を確認する。その内容は、エーディト教会の聖女ソフィアの護衛。
どうも元々はナハトが担当する予定だったらしいが、急遽別の任務を任されたことでセレスにお鉢が回ったらしい。
エーディト教は世界でもっとも信仰者の多い宗教だ。そして、アストレア機関とはあまりソリが合わない。
神話武装は神々から使命を与えられたる我らが管理するべきだ、という主張をたびたび機関にするからだ。
そして機関は神話武装を誰にも「揃えさせない」ために活動するが、教会はある意味マレブランケ寄りの思想をしている。
神々の力を正しく振るえるのはエーディト教の神官のみであり、神官であれば世界をより良く導ける、というもの。
機関は神話武装を全て揃えた時に授かる力は、人類には過ぎたものであり、誰も手にしてはならないと考えている。
そういった意見の対立があるので、教会が機関を頼ることは少ない。今回は珍しい事例だ。
護衛任務の経緯は、最近、聖女ソフィアが何者かに襲われる事件が何度も発生しており、
マレブランケが関与している可能性があると判断したからである。
教会が頼んだというよりは機関が勝手に言い出して大ごとにした感があるが、それは置いておこう。
ともかくセレスは次の日、新入り二人を連れて護衛任務のために教会の本部、神都エウリルへと向かった。
そのためアストレア機関の本部、トリニタス城の病室で安静にさせられている。
明日には任務に復帰していいらしい。ライも顔色や肌ツヤが元気になったと言ってくれた。
セレスも一応、女の子なので肌ツヤは大事だ。まだ若いのに肌がボロボロだったらさすがにショックを受ける。
トリニタス城は、大陸の果てにある大瀑布のさらに向こう側に存在していて、厳かな白亜の城である。
三つの城で構成されているこの本部は、南西と南東の支城と、北の本城で成り立つ。セレスの病室は本城にある。
アクセスが悪すぎてセレスは滅多にここに来ない。ロザリーが能力で本部に運んでいなかったら滞在することもなかっただろう。
「は〜。それにしても暇だね〜。寝てるだけなんだもん。私、あんまりジッとしてるのって好きじゃないし……」
「シアリーズ、そう言わずに寝てください。体調管理も立派な仕事です。
もしヒーローが風邪で休んでしまったら、その間に誰が悪者から人々を守るんですか」
「ライってばズル〜い。そう言われたら休んでおくしかないよ……でも時間はまだお昼だし全然眠たくなくて……」
暇を持て余したセレスはライとお喋りをして時間を潰していた。しばらくすると、部屋に近づく足音が聞こえる。
一人ではない。三人。誰かが見舞いにでも来てくれたのだろうか。みんな任務で忙しいだろうに、嬉しいことだ。
病室のドアが開くと、眼鏡をかけた爽やかな青年が現れる。先輩コードホルダーのナハト・エヴァラックだ。
「やあ、セレス。久しぶり。医者の世話になったと聞いてお見舞いに来たよ。思ったより元気そうだね」
そう言って、フルーツ盛り合わせが入った籠を手渡してくれた。籠の上にはフルーツで手紙を挟んである。
気になるのはナハトの後ろにいる二人の女の子だ。間違いなく初対面。新入りなのだろうか。
一人は赤髪をポニーテールにしている子で、三白眼のせいか目つきが鋭く、まるで睨まれているように感じる。
もう一人は内気そうな背の低い子。薄緑の髪を首の辺りまで伸ばし、ナハトの背中に隠れている。
「ナハトさん。お久しぶりです、お見舞いありがとうございます。ところでその後ろの人たちは……?」
「ああ。君の次の任務で一緒になる子たちだ。新入りだから色々教えてあげてほしい。
二人とも自己紹介を。彼女はシアリーズ・アリシア。みんなはセレスって呼んでるよ。君たちの先輩だ」
赤髪の女の子が内気そうな方の子をちらと見て、面倒くさそうな態度を隠そうともせず名乗る。
「……自己紹介ね。私はマユラ・マグナマーテル。神話武装83番のコードホルダーだ。まーよろしく」
次に内気そうな子がおずおずといった調子で小声で呟いた。
「ぼ、僕は……フロウ・ヴィントホーゼです。神話武装26番のコードホルダーです……よろしくお願いしますっ」
「マユラちゃんにフロウちゃんだね。じゃあ、次の任務はよろしく!! ナハトさん、任務内容はこの手紙に?」
フルーツに挟まれた手紙を抜き取ると、ナハトは「うん。後は三人で頼むよ」と言って部屋を去っていった。
セレスはさっそく手紙を開封し、次の任務内容を確認する。その内容は、エーディト教会の聖女ソフィアの護衛。
どうも元々はナハトが担当する予定だったらしいが、急遽別の任務を任されたことでセレスにお鉢が回ったらしい。
エーディト教は世界でもっとも信仰者の多い宗教だ。そして、アストレア機関とはあまりソリが合わない。
神話武装は神々から使命を与えられたる我らが管理するべきだ、という主張をたびたび機関にするからだ。
そして機関は神話武装を誰にも「揃えさせない」ために活動するが、教会はある意味マレブランケ寄りの思想をしている。
神々の力を正しく振るえるのはエーディト教の神官のみであり、神官であれば世界をより良く導ける、というもの。
機関は神話武装を全て揃えた時に授かる力は、人類には過ぎたものであり、誰も手にしてはならないと考えている。
そういった意見の対立があるので、教会が機関を頼ることは少ない。今回は珍しい事例だ。
護衛任務の経緯は、最近、聖女ソフィアが何者かに襲われる事件が何度も発生しており、
マレブランケが関与している可能性があると判断したからである。
教会が頼んだというよりは機関が勝手に言い出して大ごとにした感があるが、それは置いておこう。
ともかくセレスは次の日、新入り二人を連れて護衛任務のために教会の本部、神都エウリルへと向かった。
298セレス ◆pFeH1SoQRU
2025/09/20(土) 19:12:57.22ID:CClXHFCQ 神都エウリルの外縁部は猥雑で混沌とした街並みが広がっていた。
大神殿を中心としたこの都市は、いつも他所者が勝手に住み着き、際限なく拡張され続けている。
中心部は富裕層が占めていて区画整備も為されているが、外側はスラム同然だ。
そのため神の都に訪れた者たちは、まずその無秩序な様相に驚かされる。
浮浪者が多いものの、教会の積極的な支援活動のおかげで暮らすのに不自由はないと聞く。
勝手に人が住み着いて街が広がる関係上、城壁の類がないのも特徴だ。
それでも魔物が寄ってこないのは主神たる女神エーディトの加護だと言われている。
エウリルに到着したセレスたちは馬車を呼び止めて大神殿に直行した。
セレスは前から後ろへと流れていく街並みを眺め、この都市の景色を満喫する。
「すごいねぇ。さすが大陸の五大都市のひとつだよ。すごく広いんだね。人も多いよ。あんなにたくさん!」
「こんな街、来ても退屈なだけだろ。いるのはほとんど浮浪者じゃねぇか。観光名所も宗教関係ばっかだし。
宗教とか嫌なんだよね。なんか説教くさくてさ。別に神様がいるのを否定するわけじゃねーんだけど」
「むー。マユラちゃん、楽しまないのは損だよ。時間があったら街を見て回ったりしたいなぁ」
なんてことを言っていると大神殿に到着した。幾つもの巨大な柱に支えられた、巨大な建物だ。
この神殿だけで小さな村くらいの大きさがあり、施された装飾や彫刻は職人の技術の粋が集められている。
よもや神話の時代に建てられたものとは思えない。時を超えた悠久の美しさを、この神殿は秘めているのだ。
それもすべてはこの世界を生み出した神々を祀るため。入り口の階段を上っていくと、槍を持った衛兵二人に止められた。
「何の用だ? ここは観光場所ではないぞ」
「私たちはアストレア機関の者です。聖女ソフィア様の護衛のために来ました。通してください」
「ソフィア様の……ああ。そういえば。機関の人間なら証明の首飾りを持っていると聞いている。持っているか?」
セレスは服の内側にかけていた首飾りを取り出し、衛兵に見せた。
首飾りは銀製で天秤の形をした紋章が刻まれている。
衛兵はそれを見るや「失礼しました。ご案内します」と言って神殿の中へ案内してくれた。
通されたのは祭壇の置かれた部屋だ。祭壇の前には祈りを捧げている一人の男性がいた。
部屋に入ってきたセレスたちの気配を察したのか、立ち上がってこちらへ振り向く。
髭を生やしているが、髪はない。眼はどことなく鋭く、齢を重ねた者だけが身に着ける威厳を纏っている。
「ヴォルムス大神官、アストレア機関の方がお見えです。ソフィア様の護衛を任されることになったという……」
「よい。お前は下がれ。後は私に任せよ」
衛兵が部屋から退出すると、ヴォルムスと呼ばれた大神官は眉を寄せた険しい表情でセレスたちを睨む。
大神官と言えば教会の神官の中でもトップに君臨する者が授かる役職。
彼から見ればセレスなどどこにでもいる小娘に過ぎないだろう。少なくともそんなことを思っていそうな顔だ。
「ふん……メルクリウスの奴、腕利きを寄こすとほざいていたが、年端もいかない少女三人が護衛とはな。
アストレア機関は人手不足なのか。護衛は子どものお使いとは違うのだぞ。本当に大丈夫なんだろうな」
ヴォルムスが口にしたのはアストレア機関の局長の名前だった。メルクリウス・オーライデン。
機関の人間からはもっぱらメルク局長と呼ばれている。局長には特技があって、異常なほど勘が鋭い。
根拠なんて何ひとつないのに、その勘は良いことにしろ、悪いことにしろ、大抵当たってしまう。
今回の護衛任務だって局長が聖女の話を聞いて突然、マレブランケが関わっていそうだと勘を働かせたのが発端だ。
だから機関とソリの合わない教会は最初、根拠がないから必要ないと護衛を突っぱねていたくらいである。
確かにそうなのだが、最悪のケースを考えた場合、聖女の身に何かあってはまずいどころでは済まない。
と、機関の説得の末に教会が折れた形で現在に至る。
大神殿を中心としたこの都市は、いつも他所者が勝手に住み着き、際限なく拡張され続けている。
中心部は富裕層が占めていて区画整備も為されているが、外側はスラム同然だ。
そのため神の都に訪れた者たちは、まずその無秩序な様相に驚かされる。
浮浪者が多いものの、教会の積極的な支援活動のおかげで暮らすのに不自由はないと聞く。
勝手に人が住み着いて街が広がる関係上、城壁の類がないのも特徴だ。
それでも魔物が寄ってこないのは主神たる女神エーディトの加護だと言われている。
エウリルに到着したセレスたちは馬車を呼び止めて大神殿に直行した。
セレスは前から後ろへと流れていく街並みを眺め、この都市の景色を満喫する。
「すごいねぇ。さすが大陸の五大都市のひとつだよ。すごく広いんだね。人も多いよ。あんなにたくさん!」
「こんな街、来ても退屈なだけだろ。いるのはほとんど浮浪者じゃねぇか。観光名所も宗教関係ばっかだし。
宗教とか嫌なんだよね。なんか説教くさくてさ。別に神様がいるのを否定するわけじゃねーんだけど」
「むー。マユラちゃん、楽しまないのは損だよ。時間があったら街を見て回ったりしたいなぁ」
なんてことを言っていると大神殿に到着した。幾つもの巨大な柱に支えられた、巨大な建物だ。
この神殿だけで小さな村くらいの大きさがあり、施された装飾や彫刻は職人の技術の粋が集められている。
よもや神話の時代に建てられたものとは思えない。時を超えた悠久の美しさを、この神殿は秘めているのだ。
それもすべてはこの世界を生み出した神々を祀るため。入り口の階段を上っていくと、槍を持った衛兵二人に止められた。
「何の用だ? ここは観光場所ではないぞ」
「私たちはアストレア機関の者です。聖女ソフィア様の護衛のために来ました。通してください」
「ソフィア様の……ああ。そういえば。機関の人間なら証明の首飾りを持っていると聞いている。持っているか?」
セレスは服の内側にかけていた首飾りを取り出し、衛兵に見せた。
首飾りは銀製で天秤の形をした紋章が刻まれている。
衛兵はそれを見るや「失礼しました。ご案内します」と言って神殿の中へ案内してくれた。
通されたのは祭壇の置かれた部屋だ。祭壇の前には祈りを捧げている一人の男性がいた。
部屋に入ってきたセレスたちの気配を察したのか、立ち上がってこちらへ振り向く。
髭を生やしているが、髪はない。眼はどことなく鋭く、齢を重ねた者だけが身に着ける威厳を纏っている。
「ヴォルムス大神官、アストレア機関の方がお見えです。ソフィア様の護衛を任されることになったという……」
「よい。お前は下がれ。後は私に任せよ」
衛兵が部屋から退出すると、ヴォルムスと呼ばれた大神官は眉を寄せた険しい表情でセレスたちを睨む。
大神官と言えば教会の神官の中でもトップに君臨する者が授かる役職。
彼から見ればセレスなどどこにでもいる小娘に過ぎないだろう。少なくともそんなことを思っていそうな顔だ。
「ふん……メルクリウスの奴、腕利きを寄こすとほざいていたが、年端もいかない少女三人が護衛とはな。
アストレア機関は人手不足なのか。護衛は子どものお使いとは違うのだぞ。本当に大丈夫なんだろうな」
ヴォルムスが口にしたのはアストレア機関の局長の名前だった。メルクリウス・オーライデン。
機関の人間からはもっぱらメルク局長と呼ばれている。局長には特技があって、異常なほど勘が鋭い。
根拠なんて何ひとつないのに、その勘は良いことにしろ、悪いことにしろ、大抵当たってしまう。
今回の護衛任務だって局長が聖女の話を聞いて突然、マレブランケが関わっていそうだと勘を働かせたのが発端だ。
だから機関とソリの合わない教会は最初、根拠がないから必要ないと護衛を突っぱねていたくらいである。
確かにそうなのだが、最悪のケースを考えた場合、聖女の身に何かあってはまずいどころでは済まない。
と、機関の説得の末に教会が折れた形で現在に至る。
299セレス ◆pFeH1SoQRU
2025/09/20(土) 19:16:41.64ID:CClXHFCQ とりあえずヴォルムスに挨拶をして、セレスが事務的な自己紹介を済ませた。
ヴォルムスは神官服の袖の下で腕を組みつつ、それをじっと聞いていた。やがて溜息混じりに口を開く。
「……マレブランケの仕業かは分からぬが、最近、聖女の身柄を狙った事件が複数回が起きているのは事実だ。
こちらとしては聖女を守ってくれるならなんでもいい。早速、今日から護衛を始めていただこう。聖女の部屋まで案内する」
「その必要はありません、ヴォルムス大神官。そちらの方々がアストレア機関のコードホルダーですか?
はじめまして。私はソフィア・グノーシス。お恥ずかしながらみんなからは聖女と呼ばれています」
背後に気配を感じて、セレスは反射的に振り返った。その速度はマユラとフロウよりも早い。
部屋に入ってきたのは純白の神官服を身に纏う、優しい顔つきをした清廉な少女だった。
綺麗な金髪を肩辺りまで伸ばし、首には教会が認定した聖女のみが着けることを許される聖印を下げている。
まさしく聖女に相応しい容貌だ。体調が良くないのか、少し顔色が悪そうではあるが。
「貴女が聖女ソフィア様ですね。私はセレス。機関から派遣された護衛の者です。
後ろにいるのは同じく護衛のマユラとフロウ。精一杯頑張りますのでよろしくお願いします」
「まぁ。私とそう年が変わらなさそうなのに、お強いのですね。こちらこそよろしくお願いします。
今日は病に苦しむ教徒の方々を治癒する仕事があるので、外に出るんです。付き合っていただけますか?」
「もちろん、私たちにお任せください。じゃあ二人とも、行こっか!」
こうして護衛任務が始まった。移動に馬車を使うので、ソフィアが馬車に乗る。
その後ろをセレスとマユラが徒歩で追いかける。誰かが外から襲ってこないか見張るためだ。
中にはフロウを待機させており、状況次第ではフロウがソフィアを連れて逃げることも視野に入れてある。
日が昇っている時間帯ということもあって、怪しい人物は見かけなかったし、気になる出来事もなかった。
着いたのは貴族の屋敷だ。中に通されると執事に屋敷の主人の部屋の前まで案内された。
どうも最近、主人が流行り病にかかったらしく、ずっと寝たきりだそうだ。薬も処方してもらったが効き目がないらしい。
「大変な状態ですね。では私にお任せください。女神様から授かった癒やしの力で、その病を治しましょう」
執事は真剣な表情でお願いします、と頭を下げていた。ソフィアが主人の部屋に入り、扉が閉まる。
セレスたちは部屋の外で待機するようにソフィアから頼まれた。護衛の任務上、ずっと一緒の方が良いのだが。
ヴォルムス大神官に「女神から授かりし奇跡の力は、安易に見せびらかすものではない」とか、そんなことを言われているらしい。
その理由に少しだけ納得がいかなかったので、部屋の前で同じく待機するマユラとフロウに愚痴った。
「でも女神様の力って言っても、ようするに治癒魔法なんだよね? 別に見せてもいいと思うけど……」
「そ、それはそうですけど……セレスさん、聖女の治癒魔法は特別なんです……普通の治癒魔法とは少し違うというか」
「そうなの? フロウちゃん、詳しいんだね。どういう風に違うの?」
「普通の治癒魔法は人間が持つ自然治癒力を強化するのが一般的です。
対して聖女の治癒魔法は原理が判明していない。なのにどんな病も治してしまいます。
欠損した腕を新しく再生したり、死んで間もない人間を蘇らせることすら可能と言われているんです……」
そんな常識破りの治癒魔法を、聖女ソフィアは物心ついた頃から使えたという。まさしく女神の恩寵だ。
ソフィアが12歳になる頃、存在をようやく把握した教会は、彼女を慌てて聖女に認定したそうだ。
「……終わりました。もうこの方の病は大丈夫です。さあ、次の教徒のところへ向かいましょう」
20分ほどで部屋から出てきたソフィアはどこか顔色を悪くしていた。呼吸も乱れている。
魔法を使うと魔力を消耗するだけでなく、肉体にも特有の疲労が蓄積されるというが、
ソフィアの体調も同種のものなのだろうか。セレスは心配でソフィアの顔を覗き込みながら言った。
「大丈夫ですか、ソフィアさん。顔色が悪そうですけれど……大神殿に帰りますか?」
「……気になさらないでください。生まれつき身体が弱くて。何をしてもすぐ疲れてしまうんです」
ヴォルムスは神官服の袖の下で腕を組みつつ、それをじっと聞いていた。やがて溜息混じりに口を開く。
「……マレブランケの仕業かは分からぬが、最近、聖女の身柄を狙った事件が複数回が起きているのは事実だ。
こちらとしては聖女を守ってくれるならなんでもいい。早速、今日から護衛を始めていただこう。聖女の部屋まで案内する」
「その必要はありません、ヴォルムス大神官。そちらの方々がアストレア機関のコードホルダーですか?
はじめまして。私はソフィア・グノーシス。お恥ずかしながらみんなからは聖女と呼ばれています」
背後に気配を感じて、セレスは反射的に振り返った。その速度はマユラとフロウよりも早い。
部屋に入ってきたのは純白の神官服を身に纏う、優しい顔つきをした清廉な少女だった。
綺麗な金髪を肩辺りまで伸ばし、首には教会が認定した聖女のみが着けることを許される聖印を下げている。
まさしく聖女に相応しい容貌だ。体調が良くないのか、少し顔色が悪そうではあるが。
「貴女が聖女ソフィア様ですね。私はセレス。機関から派遣された護衛の者です。
後ろにいるのは同じく護衛のマユラとフロウ。精一杯頑張りますのでよろしくお願いします」
「まぁ。私とそう年が変わらなさそうなのに、お強いのですね。こちらこそよろしくお願いします。
今日は病に苦しむ教徒の方々を治癒する仕事があるので、外に出るんです。付き合っていただけますか?」
「もちろん、私たちにお任せください。じゃあ二人とも、行こっか!」
こうして護衛任務が始まった。移動に馬車を使うので、ソフィアが馬車に乗る。
その後ろをセレスとマユラが徒歩で追いかける。誰かが外から襲ってこないか見張るためだ。
中にはフロウを待機させており、状況次第ではフロウがソフィアを連れて逃げることも視野に入れてある。
日が昇っている時間帯ということもあって、怪しい人物は見かけなかったし、気になる出来事もなかった。
着いたのは貴族の屋敷だ。中に通されると執事に屋敷の主人の部屋の前まで案内された。
どうも最近、主人が流行り病にかかったらしく、ずっと寝たきりだそうだ。薬も処方してもらったが効き目がないらしい。
「大変な状態ですね。では私にお任せください。女神様から授かった癒やしの力で、その病を治しましょう」
執事は真剣な表情でお願いします、と頭を下げていた。ソフィアが主人の部屋に入り、扉が閉まる。
セレスたちは部屋の外で待機するようにソフィアから頼まれた。護衛の任務上、ずっと一緒の方が良いのだが。
ヴォルムス大神官に「女神から授かりし奇跡の力は、安易に見せびらかすものではない」とか、そんなことを言われているらしい。
その理由に少しだけ納得がいかなかったので、部屋の前で同じく待機するマユラとフロウに愚痴った。
「でも女神様の力って言っても、ようするに治癒魔法なんだよね? 別に見せてもいいと思うけど……」
「そ、それはそうですけど……セレスさん、聖女の治癒魔法は特別なんです……普通の治癒魔法とは少し違うというか」
「そうなの? フロウちゃん、詳しいんだね。どういう風に違うの?」
「普通の治癒魔法は人間が持つ自然治癒力を強化するのが一般的です。
対して聖女の治癒魔法は原理が判明していない。なのにどんな病も治してしまいます。
欠損した腕を新しく再生したり、死んで間もない人間を蘇らせることすら可能と言われているんです……」
そんな常識破りの治癒魔法を、聖女ソフィアは物心ついた頃から使えたという。まさしく女神の恩寵だ。
ソフィアが12歳になる頃、存在をようやく把握した教会は、彼女を慌てて聖女に認定したそうだ。
「……終わりました。もうこの方の病は大丈夫です。さあ、次の教徒のところへ向かいましょう」
20分ほどで部屋から出てきたソフィアはどこか顔色を悪くしていた。呼吸も乱れている。
魔法を使うと魔力を消耗するだけでなく、肉体にも特有の疲労が蓄積されるというが、
ソフィアの体調も同種のものなのだろうか。セレスは心配でソフィアの顔を覗き込みながら言った。
「大丈夫ですか、ソフィアさん。顔色が悪そうですけれど……大神殿に帰りますか?」
「……気になさらないでください。生まれつき身体が弱くて。何をしてもすぐ疲れてしまうんです」
300セレス ◆pFeH1SoQRU
2025/09/20(土) 19:18:34.34ID:CClXHFCQ 結局その日は八件ほど治癒魔法を行使して病に苦しむ教徒を救った。
その誰もがこの神都の中心部付近で暮らす富裕層だ。
聞くところによれば誰を治癒するかはヴォルムス大神官が決めるらしい。
出発時は日が昇っていた空にも夜の帳が下り、街を不気味な闇が支配しつつあった。
夜の街を馬車がゆっくりと進む。ソフィアは馬車の中で横になって休んでいる。相当疲れているようだ。
馬車の後ろを追いかけるセレスとマユラ。護衛任務としては異常のない普通の一日だった。
気になる点がひとつあるとすれば、他人を治癒するほどに体調が悪くなるソフィアそのものである。
「あの聖女様、大丈夫かよ。まるで自分の寿命を削ってるみたいだぜ。近いうちに死ぬんじゃねーの」
「マユラちゃん、さらっと酷いことを言うね。でも確かに気になる。今回は護衛任務だけど、
聖女様を守るだけじゃなくてマレブランケが関与していないかも調べる必要があるから……」
「そういやそうだったな。今んところ一番怪しいのは聖女様そのものだけどな。何か隠してる気がすんだよ」
それはセレスも感じていることだ。怪しいとまでは言わないが、少し気になる点がある。
その原因こそ、マレブランケが関わってくる理由のような思えてならない。
だが調べるなら明日以降だ。明日はソフィアも外出しないらしいので、全員で護衛する必要もない。
護衛担当は二人だけにして、残る一人が調査を行う形で問題ないだろう。
「……マユラちゃん。馬車の左側を警戒して。私は右側を。誰かが私たちを待ち伏せしてる」
「……あ? そんな気配したか……? 全然分かんねぇけど……」
腰のベルトに吊ってある鞘から剣を抜く。セレスはすでに臨戦態勢に入っていた。
戦いの匂いを嗅いだらしいマユラは、獰猛に笑うと馬車の左側へと移動する。セレスは剣を構えた状態で右側へ。
馬車が移動している通りは、もう少し進むと左右に路地裏に繋がる狭い道が見えてくる。
何者かが隠れ潜んでいるとしたら、そこしかない。
やがて馬車を曳く二頭の馬が路地裏に差しかかる。その時、複数の人影が飛び出してきた。
「……やっぱり、ね!! 聖女様に手出しはさせないよ!!」
その人影に向かって、セレスは容赦なく剣を振るった。
【思うように時間が取れませんでしたが、ようやく書けたので二章開始します!】
【とりあえず仲間(NPC)を増やしてみました。スローペースですが暇潰しに読んで頂けると幸いです】
その誰もがこの神都の中心部付近で暮らす富裕層だ。
聞くところによれば誰を治癒するかはヴォルムス大神官が決めるらしい。
出発時は日が昇っていた空にも夜の帳が下り、街を不気味な闇が支配しつつあった。
夜の街を馬車がゆっくりと進む。ソフィアは馬車の中で横になって休んでいる。相当疲れているようだ。
馬車の後ろを追いかけるセレスとマユラ。護衛任務としては異常のない普通の一日だった。
気になる点がひとつあるとすれば、他人を治癒するほどに体調が悪くなるソフィアそのものである。
「あの聖女様、大丈夫かよ。まるで自分の寿命を削ってるみたいだぜ。近いうちに死ぬんじゃねーの」
「マユラちゃん、さらっと酷いことを言うね。でも確かに気になる。今回は護衛任務だけど、
聖女様を守るだけじゃなくてマレブランケが関与していないかも調べる必要があるから……」
「そういやそうだったな。今んところ一番怪しいのは聖女様そのものだけどな。何か隠してる気がすんだよ」
それはセレスも感じていることだ。怪しいとまでは言わないが、少し気になる点がある。
その原因こそ、マレブランケが関わってくる理由のような思えてならない。
だが調べるなら明日以降だ。明日はソフィアも外出しないらしいので、全員で護衛する必要もない。
護衛担当は二人だけにして、残る一人が調査を行う形で問題ないだろう。
「……マユラちゃん。馬車の左側を警戒して。私は右側を。誰かが私たちを待ち伏せしてる」
「……あ? そんな気配したか……? 全然分かんねぇけど……」
腰のベルトに吊ってある鞘から剣を抜く。セレスはすでに臨戦態勢に入っていた。
戦いの匂いを嗅いだらしいマユラは、獰猛に笑うと馬車の左側へと移動する。セレスは剣を構えた状態で右側へ。
馬車が移動している通りは、もう少し進むと左右に路地裏に繋がる狭い道が見えてくる。
何者かが隠れ潜んでいるとしたら、そこしかない。
やがて馬車を曳く二頭の馬が路地裏に差しかかる。その時、複数の人影が飛び出してきた。
「……やっぱり、ね!! 聖女様に手出しはさせないよ!!」
その人影に向かって、セレスは容赦なく剣を振るった。
【思うように時間が取れませんでしたが、ようやく書けたので二章開始します!】
【とりあえず仲間(NPC)を増やしてみました。スローペースですが暇潰しに読んで頂けると幸いです】
301創る名無しに見る名無し
2025/09/26(金) 09:10:43.15ID:4c53XRtX キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
302セレス ◆pFeH1SoQRU
2025/10/12(日) 17:22:35.35ID:XU0FAufV セレスの剣が人影の持つなにかに激突した。手に伝わってくるのは硬い物質に食い込む感触だ。
路地裏から飛び出してきたのはやつれた男性だった。手には剣を握っている。
ただしその剣、年季が入りすぎている。どこも刃毀れしており、セレスの斬撃を受け止めたことでさらに罅割れていた。
「っ……誰なんだお前は。教会の人間じゃないだろう。なぜ邪魔をするっ!?」
やつれた男はそう叫ぶと、セレスの剣を押し返して、刃毀れした剣を振るい、袈裟斬りを放つ。
その太刀筋から、多少なりとも剣の心得があることが分かる。セレスはそれを外側に移動して避ける。
素早く相手の側面に回り込みつつ、腕を切断しない程度に斬ろうと剣を構える。
利き腕を適当に傷つけてやれば、まともに戦うこともできなくなるだろう。
このやつれた男は、どう見てもマレブランケの人間ではない。ただの暴漢のように見える。
それでもマレブランケとまったくの無関係かどうか、確認しなくてはならない。だから殺さず制圧する。
「私たちは聖女様の護衛だよ。懲らしめてあげるから、覚悟してね……!」
「黙れ、懲らしめるのは俺たちの方だ! どうせ金で雇われているだけなんだろう。邪魔するなら容赦しない!」
セレスが斬りかかろうとした瞬間、矢が飛んできた。路地裏から飛び出してきたのはやつれた男だけではない。
その背後にはクロスボウを持った男がいる。さらにその隣に、薪割り用の斧を持った男もいる。三対一の状況だ。
セレスは超人的な反射神経で反応して矢を掴み取ると、そのままクロスボウの男に投げ返した。
クロスボウで発射した時ほどの速さではないが、それでも当たれば身体に刺さり、無視できない怪我になる。
斧を持った男が間一髪で矢を弾いたので、結局当たりはしなかった。その間にやつれた男がセレスに再び斬りかかる。
真上からの振り下ろし。クロスボウの対処で反応が遅れると考えての大振りだろうか。
ならばやつれた男の想定は誤りと言わざるを得ない。
クロスボウを持った男と斧を持った男に視線を向けたまま、わずかに横へと身体をずらして避ける。
相手の剣が空を切ったのと同時。腹に膝蹴りを入れるとやつれた男は姿勢を崩して前に倒れた。
「こ、こんのぉ!!」
弾かれたように斧を持った男が飛び出してくる。腕力はそこそこありそうだ。
だがこの男に関しては、戦い方が腕力任せすぎる。武器を持っているだけの素人だ。
何度も斧を振りまわして攻撃してくるが、闇雲に振っているだけで隙しかない。
「ごめんね、ちょっと痛いよ!」
斧が振り抜かれた直後に、セレスが距離を詰める。剣の柄頭でこめかみをぶん殴った。
男がふらつく。気絶させるつもりだったが、中々の頑丈さだ。仕方なく、追撃で肘打ちを胸に入れた。
肺の中の空気をすべて吐き出させるような重い打撃。男は斧を手放し、よろよろと膝をつく。
「あわ、あわわ! なんなんだお前! なんで年端もいかないガキがそんなに強いんだ!」
最後に残ったクロスボウの男は、動揺し切った様子でそう叫んでいた。
なんなんだと問われたらヒーローだからと答えたいところだが、まだその域にはいない。
だからこう返すしかない。セレスは自信満々に言った。
「当然だよ。だって私はヒーローを目指しているから。それが私の目標なんだ。
目標があると成長も早いってメルク局長が言ってたよ。で、どうするの? まだ続ける?」
「よく分からねぇことを言うんじゃねぇよっ! こんなところで諦められるかっ!!」
クロスボウの男が矢を放つ。もうやぶれかぶれなのだろう。セレスはまた向かってくる矢を掴み取った。
その辺に放り捨てると、ゆっくりと歩いて距離を詰めていく。クロスボウが発射されることはもう、ない。
誰でも容易に扱えるクロスボウだが、この武器には装填にやや時間がかかるという欠点もある。
やがて剣が届く距離まで近づくと、クロスボウの男は降参と言わんばかりにへなへなと地面に座り込んだ。
路地裏から飛び出してきたのはやつれた男性だった。手には剣を握っている。
ただしその剣、年季が入りすぎている。どこも刃毀れしており、セレスの斬撃を受け止めたことでさらに罅割れていた。
「っ……誰なんだお前は。教会の人間じゃないだろう。なぜ邪魔をするっ!?」
やつれた男はそう叫ぶと、セレスの剣を押し返して、刃毀れした剣を振るい、袈裟斬りを放つ。
その太刀筋から、多少なりとも剣の心得があることが分かる。セレスはそれを外側に移動して避ける。
素早く相手の側面に回り込みつつ、腕を切断しない程度に斬ろうと剣を構える。
利き腕を適当に傷つけてやれば、まともに戦うこともできなくなるだろう。
このやつれた男は、どう見てもマレブランケの人間ではない。ただの暴漢のように見える。
それでもマレブランケとまったくの無関係かどうか、確認しなくてはならない。だから殺さず制圧する。
「私たちは聖女様の護衛だよ。懲らしめてあげるから、覚悟してね……!」
「黙れ、懲らしめるのは俺たちの方だ! どうせ金で雇われているだけなんだろう。邪魔するなら容赦しない!」
セレスが斬りかかろうとした瞬間、矢が飛んできた。路地裏から飛び出してきたのはやつれた男だけではない。
その背後にはクロスボウを持った男がいる。さらにその隣に、薪割り用の斧を持った男もいる。三対一の状況だ。
セレスは超人的な反射神経で反応して矢を掴み取ると、そのままクロスボウの男に投げ返した。
クロスボウで発射した時ほどの速さではないが、それでも当たれば身体に刺さり、無視できない怪我になる。
斧を持った男が間一髪で矢を弾いたので、結局当たりはしなかった。その間にやつれた男がセレスに再び斬りかかる。
真上からの振り下ろし。クロスボウの対処で反応が遅れると考えての大振りだろうか。
ならばやつれた男の想定は誤りと言わざるを得ない。
クロスボウを持った男と斧を持った男に視線を向けたまま、わずかに横へと身体をずらして避ける。
相手の剣が空を切ったのと同時。腹に膝蹴りを入れるとやつれた男は姿勢を崩して前に倒れた。
「こ、こんのぉ!!」
弾かれたように斧を持った男が飛び出してくる。腕力はそこそこありそうだ。
だがこの男に関しては、戦い方が腕力任せすぎる。武器を持っているだけの素人だ。
何度も斧を振りまわして攻撃してくるが、闇雲に振っているだけで隙しかない。
「ごめんね、ちょっと痛いよ!」
斧が振り抜かれた直後に、セレスが距離を詰める。剣の柄頭でこめかみをぶん殴った。
男がふらつく。気絶させるつもりだったが、中々の頑丈さだ。仕方なく、追撃で肘打ちを胸に入れた。
肺の中の空気をすべて吐き出させるような重い打撃。男は斧を手放し、よろよろと膝をつく。
「あわ、あわわ! なんなんだお前! なんで年端もいかないガキがそんなに強いんだ!」
最後に残ったクロスボウの男は、動揺し切った様子でそう叫んでいた。
なんなんだと問われたらヒーローだからと答えたいところだが、まだその域にはいない。
だからこう返すしかない。セレスは自信満々に言った。
「当然だよ。だって私はヒーローを目指しているから。それが私の目標なんだ。
目標があると成長も早いってメルク局長が言ってたよ。で、どうするの? まだ続ける?」
「よく分からねぇことを言うんじゃねぇよっ! こんなところで諦められるかっ!!」
クロスボウの男が矢を放つ。もうやぶれかぶれなのだろう。セレスはまた向かってくる矢を掴み取った。
その辺に放り捨てると、ゆっくりと歩いて距離を詰めていく。クロスボウが発射されることはもう、ない。
誰でも容易に扱えるクロスボウだが、この武器には装填にやや時間がかかるという欠点もある。
やがて剣が届く距離まで近づくと、クロスボウの男は降参と言わんばかりにへなへなと地面に座り込んだ。
303セレス ◆pFeH1SoQRU
2025/10/12(日) 17:23:56.09ID:XU0FAufV 一方、セレスが三人の男と戦っているのと同じように、マユラも武器を持った不審者と相対していた。
槍を持っている男が二人。鞭を持っている男が一人だ。武装こそしているが格好はどことなくみすぼらしい。
マユラの胸から光の球が出現すると、それは剣ほどの大きさの巨大な鋏となってその手に収まる。
神話武装83番、真紅鋏ガルテンシェーレだ。マユラは舌なめずりをして相手に確認した。
「なぁおっさん共、いいんだな? 戦うってことで。武器を持ってるってことは相応の覚悟で来てるんだよなぁ?
何の目的か知らねーが、やる気なら殺されちまってもあの世で文句垂れるんじゃねぇぞ……!?」
相手は槍による突きでその問いに返答した。槍持ち二名の突きをマユラは突進しながら半身になることで避ける。
そのまま肉薄して巨大な鋏を振るおうとしたとき、鞭使いの男が鞭を使って鋏を絡め取る。
普通の武器ならこれで動きを封じられたも同然。鞭を引っ張りながら、男は得意気に語る。
「子どもが生意気言うな。邪魔するつもりなら、お前のような小娘は折檻してやる」
「あー。悪いな、おっさん。私の神話武装はそういうの効かねぇんだわ。理由は簡単だ。ガルテの能力は……」
軽く鋏を振り回すと、ぶちぶちと絡みつく鞭が千切れた。より正確に表現すれば斬れたというべきであろう。
鞭の強度が低かったわけではない。これこそが真紅鋏ガルテンシェーレの能力。
「……『絶対切断』だからな。この鋏に触れたものは、どれだけ硬くても頑丈でも、必ず切り裂く」
男たちは後退しつつ、再び槍でマユラを突いた。マユラはそれを完全に見切っており、紙一重で躱す。
そして相手が突きで伸ばした腕を戻すより先に、鋏で槍の柄に触れると、柄が切断される。
槍の片方も鞭も破壊した。これで残る相手の武器は槍一本のみ。
「くっ……神話武装だかなんだか知らないが、ここまで来て引き下がれるかぁ!!」
「諦めが悪いってのも救いがねぇな。さっさと逃げちまえば命だけは助かるのにさぁ」
槍を持った最後の男が自ら距離を詰め、薙ぎ払う軌道で攻めてくる。
鋏の刃で防御すると、絶対切断の能力が発動し、槍が切れる。これで武器はなくなった。
鳩尾に蹴りを叩きこんだら男は簡単に倒れた。マユラは男の腹を踏んで鋏を地面に突き刺し、その刃を首筋にあてがう。
「そこの二人は動くんじゃねぇ。動いたらこいつの首を刎ねる。まあ私としては動いても構わねぇがな?
今回は正当防衛だ。お前ら殺したところで咎める奴はいねぇ。すぐ殺さなかったのは私の慈悲だ」
物騒なことを言うマユラだが、思考はあくまで冷静だ。彼らが何者なのか尋問する必要性は理解している。
だからすぐに殺さずあえて生かしている。武器を失った男たちは何も言わず、その場からも動かない。
少しするとセレスがこちらの様子を見に現れた。向こう側にも武装した男たちが現れたものの、無事制圧したらしい。
◆
馬車を襲撃した謎の集団を全員縄で縛ると、セレスは彼らに質問をした。
「……なんで聖女様の乗った馬車を襲ったんですか? 目的は?」
男たちは何も答えない。沈黙を貫こうとしていたが、マユラがいきなり男の一人を殴りつけた。
セレスはその行動に驚き、一瞬反応が遅れる。胸倉を掴みながら脅すようにマユラは吐き捨てる。
「身体に聞かなきゃ分からねーか? 甘い顔してればつけ上がりやがって……」
「ま、マユラちゃん落ち着いて……そこまでしなくていいよ。人道的に行こう」
マユラを無理矢理引き剥がしてセレスは彼女が短気な傾向にあることを知った。
今回の任務は先輩であるセレスがリーダーなので、そういう一面があることを理解しておく必要がある。
そしてまだ慣れていないマユラとフロウを上手く導いてやるのも自身の役割なのだ。
槍を持っている男が二人。鞭を持っている男が一人だ。武装こそしているが格好はどことなくみすぼらしい。
マユラの胸から光の球が出現すると、それは剣ほどの大きさの巨大な鋏となってその手に収まる。
神話武装83番、真紅鋏ガルテンシェーレだ。マユラは舌なめずりをして相手に確認した。
「なぁおっさん共、いいんだな? 戦うってことで。武器を持ってるってことは相応の覚悟で来てるんだよなぁ?
何の目的か知らねーが、やる気なら殺されちまってもあの世で文句垂れるんじゃねぇぞ……!?」
相手は槍による突きでその問いに返答した。槍持ち二名の突きをマユラは突進しながら半身になることで避ける。
そのまま肉薄して巨大な鋏を振るおうとしたとき、鞭使いの男が鞭を使って鋏を絡め取る。
普通の武器ならこれで動きを封じられたも同然。鞭を引っ張りながら、男は得意気に語る。
「子どもが生意気言うな。邪魔するつもりなら、お前のような小娘は折檻してやる」
「あー。悪いな、おっさん。私の神話武装はそういうの効かねぇんだわ。理由は簡単だ。ガルテの能力は……」
軽く鋏を振り回すと、ぶちぶちと絡みつく鞭が千切れた。より正確に表現すれば斬れたというべきであろう。
鞭の強度が低かったわけではない。これこそが真紅鋏ガルテンシェーレの能力。
「……『絶対切断』だからな。この鋏に触れたものは、どれだけ硬くても頑丈でも、必ず切り裂く」
男たちは後退しつつ、再び槍でマユラを突いた。マユラはそれを完全に見切っており、紙一重で躱す。
そして相手が突きで伸ばした腕を戻すより先に、鋏で槍の柄に触れると、柄が切断される。
槍の片方も鞭も破壊した。これで残る相手の武器は槍一本のみ。
「くっ……神話武装だかなんだか知らないが、ここまで来て引き下がれるかぁ!!」
「諦めが悪いってのも救いがねぇな。さっさと逃げちまえば命だけは助かるのにさぁ」
槍を持った最後の男が自ら距離を詰め、薙ぎ払う軌道で攻めてくる。
鋏の刃で防御すると、絶対切断の能力が発動し、槍が切れる。これで武器はなくなった。
鳩尾に蹴りを叩きこんだら男は簡単に倒れた。マユラは男の腹を踏んで鋏を地面に突き刺し、その刃を首筋にあてがう。
「そこの二人は動くんじゃねぇ。動いたらこいつの首を刎ねる。まあ私としては動いても構わねぇがな?
今回は正当防衛だ。お前ら殺したところで咎める奴はいねぇ。すぐ殺さなかったのは私の慈悲だ」
物騒なことを言うマユラだが、思考はあくまで冷静だ。彼らが何者なのか尋問する必要性は理解している。
だからすぐに殺さずあえて生かしている。武器を失った男たちは何も言わず、その場からも動かない。
少しするとセレスがこちらの様子を見に現れた。向こう側にも武装した男たちが現れたものの、無事制圧したらしい。
◆
馬車を襲撃した謎の集団を全員縄で縛ると、セレスは彼らに質問をした。
「……なんで聖女様の乗った馬車を襲ったんですか? 目的は?」
男たちは何も答えない。沈黙を貫こうとしていたが、マユラがいきなり男の一人を殴りつけた。
セレスはその行動に驚き、一瞬反応が遅れる。胸倉を掴みながら脅すようにマユラは吐き捨てる。
「身体に聞かなきゃ分からねーか? 甘い顔してればつけ上がりやがって……」
「ま、マユラちゃん落ち着いて……そこまでしなくていいよ。人道的に行こう」
マユラを無理矢理引き剥がしてセレスは彼女が短気な傾向にあることを知った。
今回の任務は先輩であるセレスがリーダーなので、そういう一面があることを理解しておく必要がある。
そしてまだ慣れていないマユラとフロウを上手く導いてやるのも自身の役割なのだ。
304セレス ◆pFeH1SoQRU
2025/10/12(日) 17:25:13.30ID:XU0FAufV 「……娘が病気なんだ。薬も効き目がない。医者に診せてもお手上げだ。だから、聖女の力に頼るしかなかった」
縛られた状態のやつれた男が呟くように答えた。彼はセレスが制圧した一人であり刃毀れした剣で襲ってきた。
多少なりとも剣術に心得があるようだったから、昔は冒険者稼業でもしていたのかもしれない。
「……そうなんですか。でもだからって、攫うような真似しなくても……」
セレスの反論を潰すように、誘拐犯たちは次々に口を開く。
「仕方ないだろ。聖女は教会に多額の寄付をした奴しか治してくれない。
俺たちみたいなスラム出身の人間なんか、助けてくれないよ。だからこうするしかないんだ」
「昔はそんなんじゃなかったけど……聖女様は人が変わっちまった。まるで別人みたいだ。
たとえどんな人間にでも救いの手を差し伸べてくれる、あの聖女ソフィア様はもういないんだよ」
誘拐犯たちの言い分に対する返し文句をセレスは思いつかなかった。でも。だとしても。
聖女を攫って無理に治すような真似はすべきではなかった。強硬な手段は悪手だった、と思う。
力ずくでなんとかしようとすれば、より大きな力に叩き潰されてしまう。今、セレスが彼らを制圧したように。
背後にマレブランケの影がないかも確認しておきたかったが、それには時間がかかりそうだ。
疲労困憊で馬車の中で眠っているソフィアもいる。帰り道の途中で、とりあえず衛兵に引き渡そう。
そう考えて、セレスは御者に指示して馬車を走らせ、大神殿へと帰った。
大神殿に着くなり、ソフィアはすぐ自室で眠った。やはり病人の治癒にはかなりの気力と体力を消耗するらしい。
セレスたちの護衛任務は24時間体制なので、部屋の前で見張り番をすることになっている。
誘拐犯と戦ったマユラを先に休ませ、セレスはフロウと二人きりで護衛を続けた。
「……フロウちゃん、明日はマユラちゃんと二人で護衛を任せてもいい?
明日はちょっとマレブランケのことやソフィア様のことを調べてこようと思うんだ。それも任務だからね」
「あっ……は、はい。僕は大丈夫です。セレスさんはお一人で良いんですか……?」
「うん。さすがに護衛が一人だけなのは問題だからね。大変だろうし。私にはライがついてるから大丈夫。
マユラちゃん、戦いになるとわりと容赦なくなるタイプみたいだから、上手くコントロールしてあげて」
「が、頑張りまひゅ……」
そうして夜を過ごして朝を迎えると、セレスは早速、大神殿を出発してある場所へ向かった。
昨夜の誘拐犯たちは衛兵に引き渡したので、今は牢屋に放り込まれているはずだ。
衛兵に頼んで薄暗い地下牢に案内してもらうと、誘拐犯の一人であるやつれた男に話を聞いた。
誰かにそそのかされて聖女を誘拐しようとしたのか、マレブランケという名前に心当たりはないかとか、色々聞いた。
しかし、彼はそんなものは知らない、自分たちの意思でやったと答えるばかり。
それが真実かはまだ断定できないが、この質問を続けるのは無意味というものだろう。
仕方ないので次の話に移る。ソフィアについてだ。こちらに関してはある程度の情報を引き出せた。
まずソフィアは元々孤児であり、両親がいないということ。聖女の認定を受けるまで孤児院で暮らしていたことなど。
その孤児院の場所も男が教えてくれた。次はここを当たってみるべきだろう。
「……俺が知ってる情報なんてそれくらいだ。調べれば誰でも分かる。最後に聞いていいか。なぜ誰も殺さなかった。
お前は本気を出してなかった。情報源は一人いれば十分だ。なのに……なぜ全員を生かしたんだ?」
「ヒーローは無駄な殺しをしません。それに貴方が死んで悲しむ人がいるかもと思ったら、剣が鈍ったんです」
「……優しいな。優しすぎる。聖女も、昔はそういう評判だったんだがな……」
今は違うとでも言うのか。ソフィアと会って間もないセレスでは、どうも判断がつかない。
男の発言に気になるものを感じながら地下牢を後にして孤児院へと向かった。
縛られた状態のやつれた男が呟くように答えた。彼はセレスが制圧した一人であり刃毀れした剣で襲ってきた。
多少なりとも剣術に心得があるようだったから、昔は冒険者稼業でもしていたのかもしれない。
「……そうなんですか。でもだからって、攫うような真似しなくても……」
セレスの反論を潰すように、誘拐犯たちは次々に口を開く。
「仕方ないだろ。聖女は教会に多額の寄付をした奴しか治してくれない。
俺たちみたいなスラム出身の人間なんか、助けてくれないよ。だからこうするしかないんだ」
「昔はそんなんじゃなかったけど……聖女様は人が変わっちまった。まるで別人みたいだ。
たとえどんな人間にでも救いの手を差し伸べてくれる、あの聖女ソフィア様はもういないんだよ」
誘拐犯たちの言い分に対する返し文句をセレスは思いつかなかった。でも。だとしても。
聖女を攫って無理に治すような真似はすべきではなかった。強硬な手段は悪手だった、と思う。
力ずくでなんとかしようとすれば、より大きな力に叩き潰されてしまう。今、セレスが彼らを制圧したように。
背後にマレブランケの影がないかも確認しておきたかったが、それには時間がかかりそうだ。
疲労困憊で馬車の中で眠っているソフィアもいる。帰り道の途中で、とりあえず衛兵に引き渡そう。
そう考えて、セレスは御者に指示して馬車を走らせ、大神殿へと帰った。
大神殿に着くなり、ソフィアはすぐ自室で眠った。やはり病人の治癒にはかなりの気力と体力を消耗するらしい。
セレスたちの護衛任務は24時間体制なので、部屋の前で見張り番をすることになっている。
誘拐犯と戦ったマユラを先に休ませ、セレスはフロウと二人きりで護衛を続けた。
「……フロウちゃん、明日はマユラちゃんと二人で護衛を任せてもいい?
明日はちょっとマレブランケのことやソフィア様のことを調べてこようと思うんだ。それも任務だからね」
「あっ……は、はい。僕は大丈夫です。セレスさんはお一人で良いんですか……?」
「うん。さすがに護衛が一人だけなのは問題だからね。大変だろうし。私にはライがついてるから大丈夫。
マユラちゃん、戦いになるとわりと容赦なくなるタイプみたいだから、上手くコントロールしてあげて」
「が、頑張りまひゅ……」
そうして夜を過ごして朝を迎えると、セレスは早速、大神殿を出発してある場所へ向かった。
昨夜の誘拐犯たちは衛兵に引き渡したので、今は牢屋に放り込まれているはずだ。
衛兵に頼んで薄暗い地下牢に案内してもらうと、誘拐犯の一人であるやつれた男に話を聞いた。
誰かにそそのかされて聖女を誘拐しようとしたのか、マレブランケという名前に心当たりはないかとか、色々聞いた。
しかし、彼はそんなものは知らない、自分たちの意思でやったと答えるばかり。
それが真実かはまだ断定できないが、この質問を続けるのは無意味というものだろう。
仕方ないので次の話に移る。ソフィアについてだ。こちらに関してはある程度の情報を引き出せた。
まずソフィアは元々孤児であり、両親がいないということ。聖女の認定を受けるまで孤児院で暮らしていたことなど。
その孤児院の場所も男が教えてくれた。次はここを当たってみるべきだろう。
「……俺が知ってる情報なんてそれくらいだ。調べれば誰でも分かる。最後に聞いていいか。なぜ誰も殺さなかった。
お前は本気を出してなかった。情報源は一人いれば十分だ。なのに……なぜ全員を生かしたんだ?」
「ヒーローは無駄な殺しをしません。それに貴方が死んで悲しむ人がいるかもと思ったら、剣が鈍ったんです」
「……優しいな。優しすぎる。聖女も、昔はそういう評判だったんだがな……」
今は違うとでも言うのか。ソフィアと会って間もないセレスでは、どうも判断がつかない。
男の発言に気になるものを感じながら地下牢を後にして孤児院へと向かった。
305創る名無しに見る名無し
2025/10/18(土) 17:43:37.51ID:8GdZ5Iwv 支援
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306セレス ◆pFeH1SoQRU
2025/10/27(月) 23:09:17.50ID:JT0stisi 孤児院の敷地内では、どこにいても無邪気に遊ぶ子どもたちの声が聞こえてくる。
部屋の窓に視線を移せば、楽しそうに走り回る姿も見える。鬼ごっこでもしているのだろう。
セレスは孤児院を営む院長が淹れてくれた紅茶を飲みながら、聖女ソフィアの幼い頃の話を聞いた。
院長はエーディト教の神官でもあり、若い頃に孤児院を任されて以来、ずっと子どもたちの面倒を見ているらしい。
こうして身寄りのない子どもたちの支援に力を入れているのは教会の美点と言っていい。
神都エウリルには、ここ以外にも教会が経営する孤児院が幾つかあるそうだ。
「でもいいのかしら。こんな昔話ばかりで。ソフィアが今、何をしているかは私もよく知らないの」
「いいんです。私は聖女様のこと、もっと何も知らないので。だからまずはそれを知りたいと思って」
「ああ、そうだわ。たくさんお菓子をくださってありがとうね。子どもたちもすごく喜んでたわ」
照れくさくなって「えへへ」と笑って紅茶を飲んだ。孤児院の子どもが喜ぶと思ってお菓子をいっぱい買って渡したのだ。
セレスも幼い頃、故郷にあった教会の人からお菓子をもらって嬉しかった記憶がある。
いきなり押しかけて話だけ聞くのは悪いと思い、持ってきたのだ。お菓子代は経費で落とせばいいし。
「……それにしても、不思議ね。治癒魔法を使うとそれほど疲れてしまうなんて。昔は頻繁に使っていたのよ。
私が病になったときも、あの子がすぐに治してくれたの。医師にも治せない、性質の悪い流行り病で……」
治癒魔法は、誰からも教わってないのに発現することがある。
他者を助けたい、救いたいという純粋で必死な想いが魔法となって発動するのだ。
だから幼い頃から治癒魔法を使うソフィアも、そういう形で発現したのだろうと院長は思い込んでいた。
実際は普通の魔法より遥かに優れた奇跡の力だったと、院長を助けたことで発覚したらしい。
「そうなんですか。聖女様が変わってしまったと言う話を聞きましたが、そのことについては何か知りませんか?」
「そうね。そういう評判を耳にしたことは確かにあるわ。私も理由までは分からないのだけれど。
たぶん二年前ぐらいから……神の奇跡をみだりに使ったりしなくなった、救う人を選ぶようになった、とか。
でもなぜソフィアがそういう行動を取りはじめたのかは私にも分からない。力になれなくてごめんなさい」
「いえ。いいんです。一応確認したかっただけなので……」
「……もしもアリサがいれば何か知っていたかもしれないわ。
あの子とソフィアは親友同士でね。ソフィアが聖女になってからも付き合いがあったみたいだから」
知らない人物だ。院長が言うには、ソフィアの親友だった少女らしい。
なら彼女からも話を聞きたいと思ったが、院長が首を横に振った。
「アリサはもういないの。二年前、突然行方不明になったのよ。だからもう会えない」
「そう……ですか。色々とお話してくださってありがとうございました。では、私はそろそろ……」
これ以上は長居をしても得られるものはなさそうだ。セレスは立ち上がり、孤児院を出ようとする。
途中で子どもたちがお菓子をくれてありがとう、とセレスを取り囲んで喜んでくれた。
みんな元気でいい子だ。子どもたちに手を振りながら去ることとなった。
「シアリーズ。あまり、収穫はありませんでしたね。
少なくとも現段階ではマレブランケが関わっている気配を感じ取れませんでした」
大神殿へと戻る帰り道で、ライがそう話しかけてきた。
確かに今のところはソフィアがマレブランケに狙われる理由が見いだせずにいる。
だとしても気になる点は幾つか浮上しており、何かがある、と思わせた。
「でもライ、聖女様の評判が変わった時期と友達の女の子が行方不明になった時期。
これが同じなのは気になるよ。何かあったのかもしれない……」
それがマレブランケとどう繋がっているのかは、もちろんセレスにもまだ分からない。
部屋の窓に視線を移せば、楽しそうに走り回る姿も見える。鬼ごっこでもしているのだろう。
セレスは孤児院を営む院長が淹れてくれた紅茶を飲みながら、聖女ソフィアの幼い頃の話を聞いた。
院長はエーディト教の神官でもあり、若い頃に孤児院を任されて以来、ずっと子どもたちの面倒を見ているらしい。
こうして身寄りのない子どもたちの支援に力を入れているのは教会の美点と言っていい。
神都エウリルには、ここ以外にも教会が経営する孤児院が幾つかあるそうだ。
「でもいいのかしら。こんな昔話ばかりで。ソフィアが今、何をしているかは私もよく知らないの」
「いいんです。私は聖女様のこと、もっと何も知らないので。だからまずはそれを知りたいと思って」
「ああ、そうだわ。たくさんお菓子をくださってありがとうね。子どもたちもすごく喜んでたわ」
照れくさくなって「えへへ」と笑って紅茶を飲んだ。孤児院の子どもが喜ぶと思ってお菓子をいっぱい買って渡したのだ。
セレスも幼い頃、故郷にあった教会の人からお菓子をもらって嬉しかった記憶がある。
いきなり押しかけて話だけ聞くのは悪いと思い、持ってきたのだ。お菓子代は経費で落とせばいいし。
「……それにしても、不思議ね。治癒魔法を使うとそれほど疲れてしまうなんて。昔は頻繁に使っていたのよ。
私が病になったときも、あの子がすぐに治してくれたの。医師にも治せない、性質の悪い流行り病で……」
治癒魔法は、誰からも教わってないのに発現することがある。
他者を助けたい、救いたいという純粋で必死な想いが魔法となって発動するのだ。
だから幼い頃から治癒魔法を使うソフィアも、そういう形で発現したのだろうと院長は思い込んでいた。
実際は普通の魔法より遥かに優れた奇跡の力だったと、院長を助けたことで発覚したらしい。
「そうなんですか。聖女様が変わってしまったと言う話を聞きましたが、そのことについては何か知りませんか?」
「そうね。そういう評判を耳にしたことは確かにあるわ。私も理由までは分からないのだけれど。
たぶん二年前ぐらいから……神の奇跡をみだりに使ったりしなくなった、救う人を選ぶようになった、とか。
でもなぜソフィアがそういう行動を取りはじめたのかは私にも分からない。力になれなくてごめんなさい」
「いえ。いいんです。一応確認したかっただけなので……」
「……もしもアリサがいれば何か知っていたかもしれないわ。
あの子とソフィアは親友同士でね。ソフィアが聖女になってからも付き合いがあったみたいだから」
知らない人物だ。院長が言うには、ソフィアの親友だった少女らしい。
なら彼女からも話を聞きたいと思ったが、院長が首を横に振った。
「アリサはもういないの。二年前、突然行方不明になったのよ。だからもう会えない」
「そう……ですか。色々とお話してくださってありがとうございました。では、私はそろそろ……」
これ以上は長居をしても得られるものはなさそうだ。セレスは立ち上がり、孤児院を出ようとする。
途中で子どもたちがお菓子をくれてありがとう、とセレスを取り囲んで喜んでくれた。
みんな元気でいい子だ。子どもたちに手を振りながら去ることとなった。
「シアリーズ。あまり、収穫はありませんでしたね。
少なくとも現段階ではマレブランケが関わっている気配を感じ取れませんでした」
大神殿へと戻る帰り道で、ライがそう話しかけてきた。
確かに今のところはソフィアがマレブランケに狙われる理由が見いだせずにいる。
だとしても気になる点は幾つか浮上しており、何かがある、と思わせた。
「でもライ、聖女様の評判が変わった時期と友達の女の子が行方不明になった時期。
これが同じなのは気になるよ。何かあったのかもしれない……」
それがマレブランケとどう繋がっているのかは、もちろんセレスにもまだ分からない。
307セレス ◆pFeH1SoQRU
2025/10/27(月) 23:11:08.28ID:JT0stisi 「そうですね。ですがシアリーズ、マレブランケとは無関係の可能性もあります。
藪蛇になってしまっても面白くありません。そこは今、気にしすぎない方がいいのでは?」
セレスは「そうかもね」と相槌を打ちながら、道を歩く。ライが何か言いたそうな雰囲気をしている。
待機状態のままでも、慣れると神話武装の感情というか細かな機微が分かってくるのだ。
「……ライ。言いたいことがあるなら言っていいよ。私の頭じゃあ今のところ推理もできないから」
「いいんですか、シアリーズ。では……私の推理を言わせてください。
まだ証拠はありませんが、聖女ソフィアはコードホルダーなのを隠しているのでは……!?」
ライがすごく嬉しそうに予想を語った。意外とライは推理とか謎解きが好きなのだ。
と、言っても、セレスが知っている限りライの推理が完全に当たったことは少ない。下手の横好きだ。
だが当たらずとも遠からず、部分的に正解なこともしばしば。耳を傾ける価値は多少なりともある。
「……つまり聖女様の治癒魔法は神話武装の能力ってこと? そういう神話武装ってあるの?」
「あります。神話武装13番、治癒杖ヘリクシオン。その能力はずばり『治癒』です。
ヘリクシオンに治せないものはありません。死んで間もない人間なら蘇生することだってできます」
確かにそれならソフィアの治癒魔法の効果とも一致しているし、治癒の現場を見られたくないのも理解できる。
もし聖女の力が女神から授かった奇跡でなく、武器の能力によるものだとしたら、聖女の神秘性が失われる。
まあ正直どっちにしても神の力であることに変わりない気もするが、教会としてはその辺り気にするだろう。
「ライ。仮にそれが事実だとして、判別する方法はあるの? 待機状態で使われたら区別できないと思うんだけど」
「大丈夫です。使っている現場をシアリーズが目視すれば、それを介して私が判別できます。
神話武装の能力を使うとコードホルダーに宿る『神の因子』が反応するはずなので、絶対に分かります」
それが難しいのだ。聖女側はその現場を見せたがっていない。だがもしソフィアが本当にコードホルダーだとすれば。
どうにかして確認する必要がある。セレスの任務は護衛とマレブランケの関与の有無の調査。
もしマレブランケが現在関与していなかったとしても、これから関与する可能性があるかも知れない。
神話武装があるところにマレブランケの影がある。そして無関係の人を巻き込み、死者を生む。
セレスの故郷がそうだったように。そうでなくても神話武装の所在は常に把握するというのが機関の方針だ。
「……でもどうやって直接見ればいいのかな。見せてくださいってお願いしても断られるだろうし……」
「シアリーズ、幸いにして今回の任務は私たちだけではありません。頼もしい後輩が二人います。
三人寄らば文殊の知恵です。マユラとフロウに相談してみましょう。なにか良い案が出るかもしれませんよ」
◆
護衛の任務は、正直暇だった。聖女の部屋の前で見張り番をするだけだ。異常も何もない。
フロウはずっと黙ったままでお喋り相手にもならない。護衛の任務中だからお喋りに夢中になるのも具合が悪いのだが。
そうして何事もなく午後の三時を迎える頃、おもむろに部屋の扉が開いた。ソフィアが部屋の中へ手招きしている。
「二人とも、護衛の任務ご苦労様です。退屈じゃありませんか? 一緒にお茶でも飲みましょう」
「それはありがたいお誘いだね。立ちっぱで足も疲れたし。でも体調の方は問題ないのかよ?
私たちの相手したせいで身体の具合が悪くなられると、怒られるのはこっちなんだよね」
「大丈夫です。今は体調もそんなに悪くありませんから。お菓子もありますよ。美味しいですよ」
「あのなー……子どもじゃねぇんだから、お茶菓子ぐらいで釣られるわけねぇだろ……?」
そう言いつつも、マユラの足はすでにソフィアの部屋へ向かい、椅子にしっかり座っていた。
一緒に護衛をしていたフロウも場の空気に流されたようで、おずおずといった調子でマユラの隣に座る。
藪蛇になってしまっても面白くありません。そこは今、気にしすぎない方がいいのでは?」
セレスは「そうかもね」と相槌を打ちながら、道を歩く。ライが何か言いたそうな雰囲気をしている。
待機状態のままでも、慣れると神話武装の感情というか細かな機微が分かってくるのだ。
「……ライ。言いたいことがあるなら言っていいよ。私の頭じゃあ今のところ推理もできないから」
「いいんですか、シアリーズ。では……私の推理を言わせてください。
まだ証拠はありませんが、聖女ソフィアはコードホルダーなのを隠しているのでは……!?」
ライがすごく嬉しそうに予想を語った。意外とライは推理とか謎解きが好きなのだ。
と、言っても、セレスが知っている限りライの推理が完全に当たったことは少ない。下手の横好きだ。
だが当たらずとも遠からず、部分的に正解なこともしばしば。耳を傾ける価値は多少なりともある。
「……つまり聖女様の治癒魔法は神話武装の能力ってこと? そういう神話武装ってあるの?」
「あります。神話武装13番、治癒杖ヘリクシオン。その能力はずばり『治癒』です。
ヘリクシオンに治せないものはありません。死んで間もない人間なら蘇生することだってできます」
確かにそれならソフィアの治癒魔法の効果とも一致しているし、治癒の現場を見られたくないのも理解できる。
もし聖女の力が女神から授かった奇跡でなく、武器の能力によるものだとしたら、聖女の神秘性が失われる。
まあ正直どっちにしても神の力であることに変わりない気もするが、教会としてはその辺り気にするだろう。
「ライ。仮にそれが事実だとして、判別する方法はあるの? 待機状態で使われたら区別できないと思うんだけど」
「大丈夫です。使っている現場をシアリーズが目視すれば、それを介して私が判別できます。
神話武装の能力を使うとコードホルダーに宿る『神の因子』が反応するはずなので、絶対に分かります」
それが難しいのだ。聖女側はその現場を見せたがっていない。だがもしソフィアが本当にコードホルダーだとすれば。
どうにかして確認する必要がある。セレスの任務は護衛とマレブランケの関与の有無の調査。
もしマレブランケが現在関与していなかったとしても、これから関与する可能性があるかも知れない。
神話武装があるところにマレブランケの影がある。そして無関係の人を巻き込み、死者を生む。
セレスの故郷がそうだったように。そうでなくても神話武装の所在は常に把握するというのが機関の方針だ。
「……でもどうやって直接見ればいいのかな。見せてくださいってお願いしても断られるだろうし……」
「シアリーズ、幸いにして今回の任務は私たちだけではありません。頼もしい後輩が二人います。
三人寄らば文殊の知恵です。マユラとフロウに相談してみましょう。なにか良い案が出るかもしれませんよ」
◆
護衛の任務は、正直暇だった。聖女の部屋の前で見張り番をするだけだ。異常も何もない。
フロウはずっと黙ったままでお喋り相手にもならない。護衛の任務中だからお喋りに夢中になるのも具合が悪いのだが。
そうして何事もなく午後の三時を迎える頃、おもむろに部屋の扉が開いた。ソフィアが部屋の中へ手招きしている。
「二人とも、護衛の任務ご苦労様です。退屈じゃありませんか? 一緒にお茶でも飲みましょう」
「それはありがたいお誘いだね。立ちっぱで足も疲れたし。でも体調の方は問題ないのかよ?
私たちの相手したせいで身体の具合が悪くなられると、怒られるのはこっちなんだよね」
「大丈夫です。今は体調もそんなに悪くありませんから。お菓子もありますよ。美味しいですよ」
「あのなー……子どもじゃねぇんだから、お茶菓子ぐらいで釣られるわけねぇだろ……?」
そう言いつつも、マユラの足はすでにソフィアの部屋へ向かい、椅子にしっかり座っていた。
一緒に護衛をしていたフロウも場の空気に流されたようで、おずおずといった調子でマユラの隣に座る。
308セレス ◆pFeH1SoQRU
2025/10/27(月) 23:19:53.60ID:JT0stisi ソフィアがティーセットを運んでくるとお茶を淹れはじめる。ティーカップの中に注がれた紅茶は柑橘類の良い香りがした。
お茶菓子のマフィンもフワッと、そしてしっとり食感。甘さも程よい。この紅茶によく合っている。
「昨日はありがとうございました。ごめんなさい、馬車の中にいるだけで何もいえなくて。
私の身柄を狙う誘拐犯から助けてくださったんですよね。そのお礼がずっと言いたかったんです」
「ああ、そのこと? まあだから私たちが護衛してるんでね。気にしないでくれよ。それよりこのお菓子美味いな」
「ふふっ。そのお菓子は私が作ったんですけど、お口に合ってるみたいでよかったです。
昔からそれだけが趣味なんです。聖女になってから披露する機会になかなか恵まれなくて」
「女子力高ぇなぁ……私は聖女様のこと、ちょっと見直した。案外やる人みたいだな」
そう言いつつも、マユラはパクパクとマフィンを平らげていく。
フロウが一個食べ終わる頃、マユラはもう四個目に手をつけている。
その食いっぷりが面白かったのか、ソフィアは嬉しそうにずっと微笑んでいた。
「そういやさぁ、誘拐犯の連中が言ってたけど。聖女様が変わっちゃったって。なんかあったの?
心境の変化とか。なんか辛いこととか、嫌な事件とか。何もねえってんなら、それでもいいんだけどさ」
しかし浮かべていた微笑も、マユラが投げかけた問いで消え失せた。
ソフィアはゆっくり、石橋を叩いて渡るみたいに、自分の発した言葉を確かめながら言う。
「……ある時から、治癒魔法を使うとすごく疲れるようになってしまって。
それからはヴォルムス大神官の選んだ人を優先的に治すようにしています」
「なるほどね。ということは、あの爺さんとんでもなくがめつい奴なんだな。
教会にたくさん寄付してくれてる奴を最優先で選んでるのは聖女様じゃないんだろ?」
「……そう、ですね。ヴォルムス大神官は……そういう基準で選んでいたんですか。
お恥ずかしながら……知りませんでした。私はただ治すだけだったので……」
別に隠すことでもないと思い、マユラは昨日の誘拐犯がなぜソフィアを襲ったのかを語った。
そいつらはスラム出身で、病で苦しんでいる娘を助けたくて事に及んだのだと。
「でも、別に気にしなくていいと思うけど。同情できる理由があっても、誘拐はしちゃいけないだろ。
それとこれとは話が別だかんな。別に聖女様が思い悩む必要なんて……」
「……マユラさん。私はこれでも聖女に選ばれた人間です。全員を救ってみせるとまでは言いません。
でもこの手から零れ落ちる命は少しでも減らしたい。救う命を寄付金の額で選ぶのは、私の本意ではありません。
明日にでもその方の娘さんのところへ行きましょう。私が治してみせます。聖女ソフィアの名に懸けて」
ということが今日の午後あった。だから明日、誘拐犯の娘のところへ行く。
もちろん護衛である自分たちも同行しなければならない、という話を夕方帰ってきたセレスに報告した。
するとセレスが人差し指を立てて、小声で「この話はしーっだよ」といきなり言い出したので、何事かと思った。
何かを察したらしいフロウが胸から光の球を出現させ、右手で握り締める。光の球は金属の箒に変化した。
神話武装26番、蒼穹箒トゥールビヨン。その能力は大気や風の操作、とマユラは聞いている。
「……ビヨンの能力で空気中に伝わる振動が離れるほど拡散するように調節しました。
つまり、僕たちの声は極間近でしか聞こえません……これで内緒話ができると思います」
理屈はよく分からないが、ここは聖女の部屋の前だ。他ならぬ聖女に話を聞かれるかもしれない。良い対応だ。
セレスから聞かされた内緒話はある推理だった。ソフィアがコードホルダーかもしれない、という内容の。
証拠はないが機関としてはその可能性があるのなら、確認する必要があるらしい。
「……でも、問題はどうやって確認するかなんだよね。ライが言うには現場を目視できれば分かるらしいんだけど」
丁度いいタイミングではある。まさに明日、誘拐犯の娘の病を治しに行くのだ。覗き見のチャンスはそこしかない。
その方法はマユラにも思いつかなかったが、フロウが小さく挙手した。ビヨンの能力を使えばいいかも、と自信なさそうに言った。
お茶菓子のマフィンもフワッと、そしてしっとり食感。甘さも程よい。この紅茶によく合っている。
「昨日はありがとうございました。ごめんなさい、馬車の中にいるだけで何もいえなくて。
私の身柄を狙う誘拐犯から助けてくださったんですよね。そのお礼がずっと言いたかったんです」
「ああ、そのこと? まあだから私たちが護衛してるんでね。気にしないでくれよ。それよりこのお菓子美味いな」
「ふふっ。そのお菓子は私が作ったんですけど、お口に合ってるみたいでよかったです。
昔からそれだけが趣味なんです。聖女になってから披露する機会になかなか恵まれなくて」
「女子力高ぇなぁ……私は聖女様のこと、ちょっと見直した。案外やる人みたいだな」
そう言いつつも、マユラはパクパクとマフィンを平らげていく。
フロウが一個食べ終わる頃、マユラはもう四個目に手をつけている。
その食いっぷりが面白かったのか、ソフィアは嬉しそうにずっと微笑んでいた。
「そういやさぁ、誘拐犯の連中が言ってたけど。聖女様が変わっちゃったって。なんかあったの?
心境の変化とか。なんか辛いこととか、嫌な事件とか。何もねえってんなら、それでもいいんだけどさ」
しかし浮かべていた微笑も、マユラが投げかけた問いで消え失せた。
ソフィアはゆっくり、石橋を叩いて渡るみたいに、自分の発した言葉を確かめながら言う。
「……ある時から、治癒魔法を使うとすごく疲れるようになってしまって。
それからはヴォルムス大神官の選んだ人を優先的に治すようにしています」
「なるほどね。ということは、あの爺さんとんでもなくがめつい奴なんだな。
教会にたくさん寄付してくれてる奴を最優先で選んでるのは聖女様じゃないんだろ?」
「……そう、ですね。ヴォルムス大神官は……そういう基準で選んでいたんですか。
お恥ずかしながら……知りませんでした。私はただ治すだけだったので……」
別に隠すことでもないと思い、マユラは昨日の誘拐犯がなぜソフィアを襲ったのかを語った。
そいつらはスラム出身で、病で苦しんでいる娘を助けたくて事に及んだのだと。
「でも、別に気にしなくていいと思うけど。同情できる理由があっても、誘拐はしちゃいけないだろ。
それとこれとは話が別だかんな。別に聖女様が思い悩む必要なんて……」
「……マユラさん。私はこれでも聖女に選ばれた人間です。全員を救ってみせるとまでは言いません。
でもこの手から零れ落ちる命は少しでも減らしたい。救う命を寄付金の額で選ぶのは、私の本意ではありません。
明日にでもその方の娘さんのところへ行きましょう。私が治してみせます。聖女ソフィアの名に懸けて」
ということが今日の午後あった。だから明日、誘拐犯の娘のところへ行く。
もちろん護衛である自分たちも同行しなければならない、という話を夕方帰ってきたセレスに報告した。
するとセレスが人差し指を立てて、小声で「この話はしーっだよ」といきなり言い出したので、何事かと思った。
何かを察したらしいフロウが胸から光の球を出現させ、右手で握り締める。光の球は金属の箒に変化した。
神話武装26番、蒼穹箒トゥールビヨン。その能力は大気や風の操作、とマユラは聞いている。
「……ビヨンの能力で空気中に伝わる振動が離れるほど拡散するように調節しました。
つまり、僕たちの声は極間近でしか聞こえません……これで内緒話ができると思います」
理屈はよく分からないが、ここは聖女の部屋の前だ。他ならぬ聖女に話を聞かれるかもしれない。良い対応だ。
セレスから聞かされた内緒話はある推理だった。ソフィアがコードホルダーかもしれない、という内容の。
証拠はないが機関としてはその可能性があるのなら、確認する必要があるらしい。
「……でも、問題はどうやって確認するかなんだよね。ライが言うには現場を目視できれば分かるらしいんだけど」
丁度いいタイミングではある。まさに明日、誘拐犯の娘の病を治しに行くのだ。覗き見のチャンスはそこしかない。
その方法はマユラにも思いつかなかったが、フロウが小さく挙手した。ビヨンの能力を使えばいいかも、と自信なさそうに言った。
309創る名無しに見る名無し
2025/11/04(火) 13:37:32.12ID:4qfZM1mR 支援
楽しく読ませてもろとるよー
楽しく読ませてもろとるよー
310セレス ◆pFeH1SoQRU
2025/11/22(土) 17:38:00.21ID:31aeD83H 大神殿の前に準備されていた馬車の中へ、ソフィアとマユラが入っていく。
今回はフロウが外で周囲を警戒する役のようだ。胸から光の球が飛び出して金属の箒に変化する。
馬車が走りだすと、フロウは箒に跨って飛んだ。トゥールビヨンは大気や風を操ると聞いたが、飛ぶこともできるらしい。
その後ろから、セレスはそろそろと尾行を開始した。周囲に人間がいてもセレスは見えていないはずだ。
今、セレスは透明になっており、誰にも視認できない状態なのである。これもフロウのトゥールビヨンの能力だ。
フロウいわく、大気を通る光の屈折率を調節して、実質的に透明な状態にしているらしい。
そして透明人間になったセレスがこっそりとソフィアの治癒魔法の正体を確かめる。
これが今回の覗き見作戦の概要である。いたってシンプルな内容だが、注意事項もある。
ひとつは、セレスの気配や物音までは消せないので、行動には注意が必要であること。
勘の鋭い人間や生き物は気配で察知するし、もちろん魔力探知などの能力でも存在がバレてしまう。
あくまで目に見えないだけであり、その存在感までは消せない。セレスは細心の注意を払って馬車を追跡する。
馬車を追いかけるうち、街並みがどんどん変わる。立派な建物が徐々に減り、物置小屋のような粗末な民家が増えていく。
これは馬車が神都エウリルの外側へと移動しているためだ。この都市は街の外側ほど貧困層が増えてスラムになる。
やがて到着したのは小さな一軒の家。古い木造建築で、はっきり言ってあばら小屋の部類に入る。
「ここが……病に苦しんでいる娘さんの家なんですね……」
「らしいよ。私も聞いただけだから、合ってるか分からねーけど。
まあこんなことで誘拐犯のおっさんも嘘は吐かないだろ。そんなメリットねーしな」
馬車から降りたソフィアとマユラが会話をしている。先んじて家の中に入るべきだろうか。
いや、この家は窓も閉め切っているし扉ももちろん固く閉ざされている。今、不用意に開けたら怪しまれる。
様子を見守っているとマユラがなんの遠慮もなく、扉をどんどん叩いた。
「……どちら様ですか?」
家の扉を半分ほど開けて、姿を現したのは少しやつれた顔の女性だった。どこか疲れ切っていて、元気がない。
顔も知らない女の子が三人押しかけてきたことを、明らかに不審に思っている。見えないセレスも含めれば四人だが。
「申し遅れました。私、エーディト教会のソフィア・グノーシスです。クロードさんの奥様ですね?
突然の訪問をお許しください。お子さんが病で苦しんでいると聞いて治しに来ました」
女性は一瞬呆気に取られた顔をしてから、目に涙を浮かべた。
「本当……ですか……? アイナの病気を……治してくださるんですか?
お医者様でも無理だったのに……聖女様が……でも、どうしてそのことを知っているのですか……?」
「旦那様であるクロードさんからお聞きしたんです。アイナちゃんの容態を確認させてください。
……大丈夫です。私が必ず治してみせます。中に入ってもよろしいですか?」
女性が扉を開けると、ソフィア、マユラが順番に入っていく。最後にフロウが家の中に入ろうとする。
前のマユラと微妙に間隔を空けて、だ。セレスが取り残されないようにするためだろう。まったくフロウは気の利く子だ。
そうして無事に家の中に入ると、女性が娘のアイナが寝ている部屋の扉を開けた。
このチャンスは逃せない。セレスは忍び足かつ早歩きで部屋の中に侵入し、邪魔にならないよう壁際に移動する。
完璧だ。第一関門はクリアされた。後は静かにソフィアの治癒の様子を見守るだけだ。
誘拐犯の男、クロードの娘アイナは粗末な作りのベッドで寝ているようだった。
布団をきっちり被っており、熱があるのか顔が少しだけ赤くなっている。表情は苦しそうだ。
「では……マユラさんとフロウさんはここで待機を。奥様も部屋の外でお待ちください。
申し訳ありませんが、大神官に治癒の様子を見せてはならないと制限されているんです」
「は、はぁ……分かりました。それでは部屋の前で待っていますね」
今回はフロウが外で周囲を警戒する役のようだ。胸から光の球が飛び出して金属の箒に変化する。
馬車が走りだすと、フロウは箒に跨って飛んだ。トゥールビヨンは大気や風を操ると聞いたが、飛ぶこともできるらしい。
その後ろから、セレスはそろそろと尾行を開始した。周囲に人間がいてもセレスは見えていないはずだ。
今、セレスは透明になっており、誰にも視認できない状態なのである。これもフロウのトゥールビヨンの能力だ。
フロウいわく、大気を通る光の屈折率を調節して、実質的に透明な状態にしているらしい。
そして透明人間になったセレスがこっそりとソフィアの治癒魔法の正体を確かめる。
これが今回の覗き見作戦の概要である。いたってシンプルな内容だが、注意事項もある。
ひとつは、セレスの気配や物音までは消せないので、行動には注意が必要であること。
勘の鋭い人間や生き物は気配で察知するし、もちろん魔力探知などの能力でも存在がバレてしまう。
あくまで目に見えないだけであり、その存在感までは消せない。セレスは細心の注意を払って馬車を追跡する。
馬車を追いかけるうち、街並みがどんどん変わる。立派な建物が徐々に減り、物置小屋のような粗末な民家が増えていく。
これは馬車が神都エウリルの外側へと移動しているためだ。この都市は街の外側ほど貧困層が増えてスラムになる。
やがて到着したのは小さな一軒の家。古い木造建築で、はっきり言ってあばら小屋の部類に入る。
「ここが……病に苦しんでいる娘さんの家なんですね……」
「らしいよ。私も聞いただけだから、合ってるか分からねーけど。
まあこんなことで誘拐犯のおっさんも嘘は吐かないだろ。そんなメリットねーしな」
馬車から降りたソフィアとマユラが会話をしている。先んじて家の中に入るべきだろうか。
いや、この家は窓も閉め切っているし扉ももちろん固く閉ざされている。今、不用意に開けたら怪しまれる。
様子を見守っているとマユラがなんの遠慮もなく、扉をどんどん叩いた。
「……どちら様ですか?」
家の扉を半分ほど開けて、姿を現したのは少しやつれた顔の女性だった。どこか疲れ切っていて、元気がない。
顔も知らない女の子が三人押しかけてきたことを、明らかに不審に思っている。見えないセレスも含めれば四人だが。
「申し遅れました。私、エーディト教会のソフィア・グノーシスです。クロードさんの奥様ですね?
突然の訪問をお許しください。お子さんが病で苦しんでいると聞いて治しに来ました」
女性は一瞬呆気に取られた顔をしてから、目に涙を浮かべた。
「本当……ですか……? アイナの病気を……治してくださるんですか?
お医者様でも無理だったのに……聖女様が……でも、どうしてそのことを知っているのですか……?」
「旦那様であるクロードさんからお聞きしたんです。アイナちゃんの容態を確認させてください。
……大丈夫です。私が必ず治してみせます。中に入ってもよろしいですか?」
女性が扉を開けると、ソフィア、マユラが順番に入っていく。最後にフロウが家の中に入ろうとする。
前のマユラと微妙に間隔を空けて、だ。セレスが取り残されないようにするためだろう。まったくフロウは気の利く子だ。
そうして無事に家の中に入ると、女性が娘のアイナが寝ている部屋の扉を開けた。
このチャンスは逃せない。セレスは忍び足かつ早歩きで部屋の中に侵入し、邪魔にならないよう壁際に移動する。
完璧だ。第一関門はクリアされた。後は静かにソフィアの治癒の様子を見守るだけだ。
誘拐犯の男、クロードの娘アイナは粗末な作りのベッドで寝ているようだった。
布団をきっちり被っており、熱があるのか顔が少しだけ赤くなっている。表情は苦しそうだ。
「では……マユラさんとフロウさんはここで待機を。奥様も部屋の外でお待ちください。
申し訳ありませんが、大神官に治癒の様子を見せてはならないと制限されているんです」
「は、はぁ……分かりました。それでは部屋の前で待っていますね」
311セレス ◆pFeH1SoQRU
2025/11/22(土) 17:39:18.94ID:31aeD83H ソフィアは部屋の扉を閉めると、ベッドの前に移動し、眠っているアイナの寝汗をハンカチで拭いながら優しく呟く。
「すぐに治してあげますからね。こんな病気、私の力があれば……」
そしてアイナの額の辺りに手のひらをかざす。淡い青色の光が浮かび、治癒が開始された。
セレスが目視する分には、それが治癒魔法とどう違うのかはまるで分からない。表面上はまったく一緒だ。
ライに聞けばすぐにでも判別の結果が分かるだろうが、覗き見している今、声を出すわけにはいかない。
やがて治癒が終わったのか、青色の光がふっと消えた。アイナの表情が安らかな寝顔に変わっている。
おそらく病はこれで治ったのだろう。だが、今度は治癒の力を行使したソフィアの顔色が悪くなっていた。
ソフィアが部屋の扉を開けて治癒の終わりを告げ、全員を部屋の中に入れる。
退散するならこのタイミングしかない。セレスが部屋から出ようと歩いた瞬間。
古くなっていた木の床が、ぎぃぃ、と軋む音がした。ソフィアが素早く音のした方向へ振り向く。まずい。
「……誰かいるのっ!!?」
今までの慈愛に満ちた優し気な表情が、とてつもない剣幕に変わる。
透明になっているはずのセレスがまるで見えているかのように近づいてきて、手を伸ばす。
やばい。ばれる。早く逃げなくては。それだけが頭に浮かび、掴みかかるソフィアの手をすり抜ける。
そのまま早歩きで部屋を飛び出し、家の扉を開けて逃げ出した。玄関を出るところは見られていないはずだ。
「っはぁ……はぁ……あ、危なかった〜〜今のはセーフ……だよね……!?」
透明状態のまま、大神殿目指して歩きながらライに話しかける。スラム街の通りには誰もいない。
なぜかライの反応が悪いので、セレスは「ライ、聞いてるの? どうだった?」と判別の結果を催促する。
「すみません、シアリーズ。判別の結果、神話武装の能力を使っているのは確かです。ですがその……」
「え? なに? なんか、すっごく歯切れが悪いけど……何かあったの?」
「その……少し違和感が。神の因子が普通とは違っていたような……こんな反応は初めてです。
もしかしたら私が想像していた以上に聖女ソフィアの力は特殊なのかもしれません……」
「……でも、神話武装の能力なのは確かなんだよね?」
「はい。それは確実です。おそらく13番の治癒杖ヘリクシオンで間違いないかと」
今日、セレスはマレブランケに関する情報収集を行うため街に出かけているという体裁なので、
すぐに戻るのも怪しいと思い、透明なまま時間を潰して夕方頃に大神殿へと帰還した。
マユラとフロウはいつも通り、部屋の前で護衛を続けていた。
透明なままだったが、フロウはすぐ気づいたらしく透明化を解除してくれた。
そして声が聞こえないようにトゥールビヨンで空気中に伝わる音の振動を操作する。
「お帰りなさいだな。で、結果はどうだった?」
「謎も増えたけど……聖女様が神話武装を使ってるのは確かみたい。とりあえず副局長に報告するね。
護衛の任務も続行するよ。本当にマレブランケが襲ってくるかもしれない。あと、誰にもこの話はしないで。
聖女様たちにも。隠し事を暴いて騒ぐ気はないから。事実を把握できてさえいれば、今はそれで十分なんだ」
「ふーん……そういうもんか。分かった」
「フロウちゃんとマユラちゃんも疲れてると思うから、私、今から当番代わるね。どっちが先に休みたい?」
こういう時、マユラもフロウも意外と遠慮をする。結局二人はじゃんけんをして、勝った方が先に休むことになった。
勝ったのはマユラだったので、用意されている部屋に戻ってもらい休憩させた。
「すぐに治してあげますからね。こんな病気、私の力があれば……」
そしてアイナの額の辺りに手のひらをかざす。淡い青色の光が浮かび、治癒が開始された。
セレスが目視する分には、それが治癒魔法とどう違うのかはまるで分からない。表面上はまったく一緒だ。
ライに聞けばすぐにでも判別の結果が分かるだろうが、覗き見している今、声を出すわけにはいかない。
やがて治癒が終わったのか、青色の光がふっと消えた。アイナの表情が安らかな寝顔に変わっている。
おそらく病はこれで治ったのだろう。だが、今度は治癒の力を行使したソフィアの顔色が悪くなっていた。
ソフィアが部屋の扉を開けて治癒の終わりを告げ、全員を部屋の中に入れる。
退散するならこのタイミングしかない。セレスが部屋から出ようと歩いた瞬間。
古くなっていた木の床が、ぎぃぃ、と軋む音がした。ソフィアが素早く音のした方向へ振り向く。まずい。
「……誰かいるのっ!!?」
今までの慈愛に満ちた優し気な表情が、とてつもない剣幕に変わる。
透明になっているはずのセレスがまるで見えているかのように近づいてきて、手を伸ばす。
やばい。ばれる。早く逃げなくては。それだけが頭に浮かび、掴みかかるソフィアの手をすり抜ける。
そのまま早歩きで部屋を飛び出し、家の扉を開けて逃げ出した。玄関を出るところは見られていないはずだ。
「っはぁ……はぁ……あ、危なかった〜〜今のはセーフ……だよね……!?」
透明状態のまま、大神殿目指して歩きながらライに話しかける。スラム街の通りには誰もいない。
なぜかライの反応が悪いので、セレスは「ライ、聞いてるの? どうだった?」と判別の結果を催促する。
「すみません、シアリーズ。判別の結果、神話武装の能力を使っているのは確かです。ですがその……」
「え? なに? なんか、すっごく歯切れが悪いけど……何かあったの?」
「その……少し違和感が。神の因子が普通とは違っていたような……こんな反応は初めてです。
もしかしたら私が想像していた以上に聖女ソフィアの力は特殊なのかもしれません……」
「……でも、神話武装の能力なのは確かなんだよね?」
「はい。それは確実です。おそらく13番の治癒杖ヘリクシオンで間違いないかと」
今日、セレスはマレブランケに関する情報収集を行うため街に出かけているという体裁なので、
すぐに戻るのも怪しいと思い、透明なまま時間を潰して夕方頃に大神殿へと帰還した。
マユラとフロウはいつも通り、部屋の前で護衛を続けていた。
透明なままだったが、フロウはすぐ気づいたらしく透明化を解除してくれた。
そして声が聞こえないようにトゥールビヨンで空気中に伝わる音の振動を操作する。
「お帰りなさいだな。で、結果はどうだった?」
「謎も増えたけど……聖女様が神話武装を使ってるのは確かみたい。とりあえず副局長に報告するね。
護衛の任務も続行するよ。本当にマレブランケが襲ってくるかもしれない。あと、誰にもこの話はしないで。
聖女様たちにも。隠し事を暴いて騒ぐ気はないから。事実を把握できてさえいれば、今はそれで十分なんだ」
「ふーん……そういうもんか。分かった」
「フロウちゃんとマユラちゃんも疲れてると思うから、私、今から当番代わるね。どっちが先に休みたい?」
こういう時、マユラもフロウも意外と遠慮をする。結局二人はじゃんけんをして、勝った方が先に休むことになった。
勝ったのはマユラだったので、用意されている部屋に戻ってもらい休憩させた。
312セレス ◆pFeH1SoQRU
2025/11/22(土) 17:40:19.29ID:31aeD83H 大神殿にも夜が訪れ、暗闇を照らす明かりがぽつぽつと灯り出す。
近年の大きな街では魔導灯と呼ばれる魔石で動く照明が使われることも増えてきた。
夜になっても昼かと錯覚するくらいの明るさのため、大陸で急速に普及している文明の利器だ。
しかしこの大神殿に関して言えば、まだ燭台やランプを使っている。夜は非常に暗い。
聖女の部屋の前で護衛をするセレスは、通路から人の気配を感じた。
時間的に聖女の夕食が運ばれてくる頃だったので、最初は気に留めなかったが、違う。
金属と金属が擦れ合う音がする。これは板金鎧を纏った者が発する音だ、と思った。
それが両側の通路から聴こえてくる。まるで聖女の部屋を挟み撃ちにするかのように。
フロウも異変を察知したようで、セレスの指示を待つかのように視線を送ってくる。
セレスは頷き、聖女に部屋から出ないよう注意を促すため扉を軽く叩く。返事がない。
無論、部屋の扉は閉まっており、見張っていたのだから誰も扉からは出入りしていない。
「セレスさん、僕に任せてください。解錠」
フロウが手で扉に触れると、鍵が開く音がした。解錠魔法。金庫破りや迷宮の宝箱を開けるのに使われる魔法だ。
といってもあまりに複雑な鍵は開けられないので、あくまでちょっとしたことに使える便利な魔法、程度の代物である。
扉を開けて確認すると、中はもぬけの殻だった。風の流れに気づいて視線を向ける。窓が開いている。
「どういうことなの……!? 聖女様が部屋から逃げ出した……?」
動揺している時間はない。もう鎧を纏った者が近づきつつある。通路の両側から一名ずつだ。
セレスが扉の部屋を閉めると、白銀に金の装飾が施された、豪奢な鎧の騎士がもう数メートル先まで来ていた。
顔は兜で隠れて分からない。だがその派手な鎧で何者か分かる。彼らは神殿騎士だ。
神殿騎士はエーディト教会が擁する最高戦力であり、教会のトップである大神官の命令でのみ動く。
正義の名の下に動き、悪を滅する誇り高き存在などと自称しているが、ようは大神官の私兵にすぎない。
「粉砕してやろう、虫けら!!」
二人の神殿騎士のうち一人が武器を抜く。巨大な戦鎚だ。うっかり打撃を食らったら本当に粉砕されるだろう。
もう一人も腰のベルトに吊った鞘から剣を抜く。一本ではない。両手に二本。双剣の使い手だ。
そして戦鎚の騎士と同じくまるで神に宣誓するかのように言葉を発した。
「女神エーディトの名の下に、裁きを実行する!!」
状況ははっきりしないが、理解できるのは神殿騎士の狙いが自分とフロウにあることだ。
応戦しないと死ぬ。セレスは腰の鞘から剣を抜く。フロウも光の球を出現させ、トゥールビヨンを構える。
位置的に言えば戦鎚の騎士をセレスが、双剣の騎士をフロウが相手をする構図となっている。
最初に動いたのは戦鎚の騎士。高々と戦鎚を持ち上げると、セレスの頭めがけて振り下ろす。
セレスはそれを横に躱して、すれ違いざまに腹部を斬りつけた。金属がぶつかり合い、火花が散る。
目標を見失った戦鎚は通路の床に叩きつけられ、小規模なクレーターを生み出した。
「愚かなり、そのような剣で祝福を受けし我らの鎧を傷つけることなど叶わぬ!!」
この騎士の言う通りだった。セレスの腕力と細身の剣では正面から鎧を突破できない。
戦鎚の騎士が振り返りつつ、今度は横に戦鎚をフルスイングする。セレスは速度を見切って数歩後退。
紙一重の回避だ。剛腕による風圧が胸の辺りを撫でつけるのが分かる。
そして戦鎚を空振りした後には、どうしても構え直すまでの僅かな隙がある。反撃の好機だ。
セレスが狙うのは騎士のヘルムの覗き穴。そこは鎧でも守り切れない数少ない弱点。
覗き穴めがけて放たれた突きは、まさしく針の穴に糸を通すがごとく正確無比だった。
しかし敵とて手練れである。狙いを読んでいた戦鎚の騎士は顔を少しだけズラして、突きを防いだ。
「そこぉッ!!」
同時、戦鎚の騎士は両手持ちの得物から片手を離し、セレスの腹に拳が捻じ込まれた。
近年の大きな街では魔導灯と呼ばれる魔石で動く照明が使われることも増えてきた。
夜になっても昼かと錯覚するくらいの明るさのため、大陸で急速に普及している文明の利器だ。
しかしこの大神殿に関して言えば、まだ燭台やランプを使っている。夜は非常に暗い。
聖女の部屋の前で護衛をするセレスは、通路から人の気配を感じた。
時間的に聖女の夕食が運ばれてくる頃だったので、最初は気に留めなかったが、違う。
金属と金属が擦れ合う音がする。これは板金鎧を纏った者が発する音だ、と思った。
それが両側の通路から聴こえてくる。まるで聖女の部屋を挟み撃ちにするかのように。
フロウも異変を察知したようで、セレスの指示を待つかのように視線を送ってくる。
セレスは頷き、聖女に部屋から出ないよう注意を促すため扉を軽く叩く。返事がない。
無論、部屋の扉は閉まっており、見張っていたのだから誰も扉からは出入りしていない。
「セレスさん、僕に任せてください。解錠」
フロウが手で扉に触れると、鍵が開く音がした。解錠魔法。金庫破りや迷宮の宝箱を開けるのに使われる魔法だ。
といってもあまりに複雑な鍵は開けられないので、あくまでちょっとしたことに使える便利な魔法、程度の代物である。
扉を開けて確認すると、中はもぬけの殻だった。風の流れに気づいて視線を向ける。窓が開いている。
「どういうことなの……!? 聖女様が部屋から逃げ出した……?」
動揺している時間はない。もう鎧を纏った者が近づきつつある。通路の両側から一名ずつだ。
セレスが扉の部屋を閉めると、白銀に金の装飾が施された、豪奢な鎧の騎士がもう数メートル先まで来ていた。
顔は兜で隠れて分からない。だがその派手な鎧で何者か分かる。彼らは神殿騎士だ。
神殿騎士はエーディト教会が擁する最高戦力であり、教会のトップである大神官の命令でのみ動く。
正義の名の下に動き、悪を滅する誇り高き存在などと自称しているが、ようは大神官の私兵にすぎない。
「粉砕してやろう、虫けら!!」
二人の神殿騎士のうち一人が武器を抜く。巨大な戦鎚だ。うっかり打撃を食らったら本当に粉砕されるだろう。
もう一人も腰のベルトに吊った鞘から剣を抜く。一本ではない。両手に二本。双剣の使い手だ。
そして戦鎚の騎士と同じくまるで神に宣誓するかのように言葉を発した。
「女神エーディトの名の下に、裁きを実行する!!」
状況ははっきりしないが、理解できるのは神殿騎士の狙いが自分とフロウにあることだ。
応戦しないと死ぬ。セレスは腰の鞘から剣を抜く。フロウも光の球を出現させ、トゥールビヨンを構える。
位置的に言えば戦鎚の騎士をセレスが、双剣の騎士をフロウが相手をする構図となっている。
最初に動いたのは戦鎚の騎士。高々と戦鎚を持ち上げると、セレスの頭めがけて振り下ろす。
セレスはそれを横に躱して、すれ違いざまに腹部を斬りつけた。金属がぶつかり合い、火花が散る。
目標を見失った戦鎚は通路の床に叩きつけられ、小規模なクレーターを生み出した。
「愚かなり、そのような剣で祝福を受けし我らの鎧を傷つけることなど叶わぬ!!」
この騎士の言う通りだった。セレスの腕力と細身の剣では正面から鎧を突破できない。
戦鎚の騎士が振り返りつつ、今度は横に戦鎚をフルスイングする。セレスは速度を見切って数歩後退。
紙一重の回避だ。剛腕による風圧が胸の辺りを撫でつけるのが分かる。
そして戦鎚を空振りした後には、どうしても構え直すまでの僅かな隙がある。反撃の好機だ。
セレスが狙うのは騎士のヘルムの覗き穴。そこは鎧でも守り切れない数少ない弱点。
覗き穴めがけて放たれた突きは、まさしく針の穴に糸を通すがごとく正確無比だった。
しかし敵とて手練れである。狙いを読んでいた戦鎚の騎士は顔を少しだけズラして、突きを防いだ。
「そこぉッ!!」
同時、戦鎚の騎士は両手持ちの得物から片手を離し、セレスの腹に拳が捻じ込まれた。
313セレス ◆pFeH1SoQRU
2025/11/22(土) 17:48:50.48ID:31aeD83H314セレス ◆pFeH1SoQRU
2025/12/11(木) 23:58:51.31ID:XtqPSMNx 腹を殴られたセレスの身体は大きく後方に吹っ飛んだ。それほど威力が高かった、というわけではない。
命中の瞬間に自分から後ろに跳んだことで打撃の威力を殺し、さらに仕切り直しを図ったのだ。
ヘルムで表情は読めないが戦鎚の騎士が笑った、気がする。なのでセレスも不敵に笑い返した。
「半端な打撃では殺しきれんようだ。ならばやはり……『こいつ』を当てるしかないか?」
騎士は戦鎚を構え直してわざとらしく見せつける。
確かにあんなものを食らったら、華奢なセレスなど一撃であの世逝きだ。
だがやはり一番の問題はどのように鎧を突破して中身の人間を無力化するかであろう。
「私の攻撃などいくらでも避けられる。そういう顔だな。
その考え、改めさせよう。そしてエーディト教に仇なす者に神の鉄槌を!!」
戦鎚が通路の床に叩きつけられる。周囲にその衝撃が伝わり、セレスの足下が大きく揺れ動いた。
平衡感覚が狂い、ただ立っているだけなのに転びそうになった。これは極震と呼ばれる魔法だ。
地面に衝撃を与えて魔法で増幅し、局所的な地震を生み出すことで敵のバランスを奪って動きを封じる。
「くっ……しまった。魔法まで使えるなんて……!!」
相手が一気に距離を詰めてくる。機動力を奪われた今のセレスでは戦槌を避けられない。
それは水平に振るわれ、横から暴力の塊とも呼べる一撃が迫ってくる。ここは、防御を。
そう念じるとセレスの胸から光の球が出現し、身の丈ほどある大剣が出現。
分厚い鋼の剣が戦鎚と激突し、大きな音が鳴り響く。
「間一髪でしたね、シアリーズ。ここは遠慮なく私を使ってください。
襲ってくる理由は分かりかねますが、神殿騎士は本気で私たちを殺す気のようです」
「ほう。それが話に聞く神話武装というやつか! いいだろう、使ってみろッ!!」
戦鎚の騎士はそう言って素早く後退し、大剣の届かない距離に身を置いた。
セレスは出現させたライを持とうとせず、通路に突き刺したまま普段使いの剣を構える。
ライの質量と切断力ならたとえ鎧を着込んでいても力技で殺せる。だがセレスは可能なら殺さない主義だ。
多少の手間はかかるものの、この騎士を無力化する方法を思いついた。であればそっちを試したいのだ。
「ライ、速度強化行くよ。力を貸して……!」
「ふん。大剣を使わぬか。ならばこのまま死ぬるがよい!!」
動き出したのは同時。戦鎚の騎士が得物を振るう。頭上高くから鎚を叩きつける、必殺の一撃を繰り出す。
果たしてそれは命中したかのように見えた。だが、捉えたはずのセレスは霧のように掻き消えて、もうそこにいない。
高速移動により生じた残像である。真正面から突っ込み、高速でステップを踏んで後ろに回り込んでいる。
「鎧も完全無欠じゃないよね。守り切れない部分もある。たとえば……関節の隙間とか!」
そう言って刺突を繰り出し、戦鎚の騎士の膝裏を貫く。バランスを失った騎士がうつ伏せに転倒した。
遠慮はしてない。貫通させるつもりで突き刺した。最早立ち上がるのは無理というものだ。
「……わ、我が神エーディトよ、お許しください。私は任務に失敗しました……!」
騎士の呟きは夜の静寂に支配された通路によく響いた。神に許しを乞う、悲痛な声だ。
命中の瞬間に自分から後ろに跳んだことで打撃の威力を殺し、さらに仕切り直しを図ったのだ。
ヘルムで表情は読めないが戦鎚の騎士が笑った、気がする。なのでセレスも不敵に笑い返した。
「半端な打撃では殺しきれんようだ。ならばやはり……『こいつ』を当てるしかないか?」
騎士は戦鎚を構え直してわざとらしく見せつける。
確かにあんなものを食らったら、華奢なセレスなど一撃であの世逝きだ。
だがやはり一番の問題はどのように鎧を突破して中身の人間を無力化するかであろう。
「私の攻撃などいくらでも避けられる。そういう顔だな。
その考え、改めさせよう。そしてエーディト教に仇なす者に神の鉄槌を!!」
戦鎚が通路の床に叩きつけられる。周囲にその衝撃が伝わり、セレスの足下が大きく揺れ動いた。
平衡感覚が狂い、ただ立っているだけなのに転びそうになった。これは極震と呼ばれる魔法だ。
地面に衝撃を与えて魔法で増幅し、局所的な地震を生み出すことで敵のバランスを奪って動きを封じる。
「くっ……しまった。魔法まで使えるなんて……!!」
相手が一気に距離を詰めてくる。機動力を奪われた今のセレスでは戦槌を避けられない。
それは水平に振るわれ、横から暴力の塊とも呼べる一撃が迫ってくる。ここは、防御を。
そう念じるとセレスの胸から光の球が出現し、身の丈ほどある大剣が出現。
分厚い鋼の剣が戦鎚と激突し、大きな音が鳴り響く。
「間一髪でしたね、シアリーズ。ここは遠慮なく私を使ってください。
襲ってくる理由は分かりかねますが、神殿騎士は本気で私たちを殺す気のようです」
「ほう。それが話に聞く神話武装というやつか! いいだろう、使ってみろッ!!」
戦鎚の騎士はそう言って素早く後退し、大剣の届かない距離に身を置いた。
セレスは出現させたライを持とうとせず、通路に突き刺したまま普段使いの剣を構える。
ライの質量と切断力ならたとえ鎧を着込んでいても力技で殺せる。だがセレスは可能なら殺さない主義だ。
多少の手間はかかるものの、この騎士を無力化する方法を思いついた。であればそっちを試したいのだ。
「ライ、速度強化行くよ。力を貸して……!」
「ふん。大剣を使わぬか。ならばこのまま死ぬるがよい!!」
動き出したのは同時。戦鎚の騎士が得物を振るう。頭上高くから鎚を叩きつける、必殺の一撃を繰り出す。
果たしてそれは命中したかのように見えた。だが、捉えたはずのセレスは霧のように掻き消えて、もうそこにいない。
高速移動により生じた残像である。真正面から突っ込み、高速でステップを踏んで後ろに回り込んでいる。
「鎧も完全無欠じゃないよね。守り切れない部分もある。たとえば……関節の隙間とか!」
そう言って刺突を繰り出し、戦鎚の騎士の膝裏を貫く。バランスを失った騎士がうつ伏せに転倒した。
遠慮はしてない。貫通させるつもりで突き刺した。最早立ち上がるのは無理というものだ。
「……わ、我が神エーディトよ、お許しください。私は任務に失敗しました……!」
騎士の呟きは夜の静寂に支配された通路によく響いた。神に許しを乞う、悲痛な声だ。
315セレス ◆pFeH1SoQRU
2025/12/12(金) 00:01:28.26ID:2y6BVPyN セレスと戦鎚の騎士が戦う一方で、双剣の騎士とフロウもまた攻防を繰り広げていた。
二本の剣で繰り出される連撃を、フロウは蒼穹箒トゥールビヨンでどうにか凌いでいるという状況。
フロウは接近戦が得意ではない。杖術を学んだことはあるがそれもあくまで基礎的なレベルだ。
それでもフロウが即座に斬り殺されない理由はトゥールビヨンの風を操る能力のおかげだった。
危なくなったら突風を巻き起こして騎士を物理的に吹っ飛ばし、距離を置いて仕切り直す。
もう何度も吹っ飛ばしているが、その度に双剣の騎士は起き上がり、また突っ込んでくる。
「風を操るようだが、芸がないぞ! それでは祝福を受けし我が鎧には通用せん!!」
祝福というのは魔法学における付与、エンチャントと呼ばれる技術を指している。
神学から魔法を齧った者がよく使う表現だ。言葉通り、鎧には付与魔法が施されているのだろう。
魔力探知を働かせてちゃんと観察すれば、鎧が魔力を微かに帯びているのが読み取れる。
鎧の耐久力が通常より上がっているからフロウの突風を何度食らっても平気なのだ。
とはいえ周囲への被害を無視すれば一瞬で殺せる。そんな考えも脳裏に浮かぶが、内心で握り潰す。
可能な限り、殺さず制圧すべきだろう。それはセレスの方針だからというだけではない。
フロウ自身の意思で考えた結果である。過激なやり方は歪みを生む。殺さずに済むならそれが一番いい。
双剣の騎士の連撃が来る。そのとき、騎士の両腕がブレた。あまりの速さに剣の軌道が見えない。
これまでは相手も本気ではなかったようだ。フロウは当てずっぽうでトゥールビヨンを使って防いだ。金属音が鳴る。
初撃は偶然防御できたが、そう何度も上手くはいかない。なにせ両腕が見えなくなるほどの高速の剣術である。
腕や足を剣が掠め、徐々に傷が深くなっていく。極限まで鍛えれば、魔法なしでここまでやれるのか。
フロウは今、剣士のひとつの到達点のようなものを垣間見た気がした。このまま嵐のような斬撃が続けば負ける。
危機を感じて今まで同じく突風を生み出して吹っ飛ばそうとする。だが、双剣の騎士はそれを耐えた。
片方の剣を通路の床に突き刺し、真正面から風に逆らったのである。
「芸がないと言った! 貴様との戦いはこれまでだ! 決着をつけさせてもらうッ!!」
突風が止んだ瞬間、双剣の騎士が攻勢に出る。即座に放たれた刺突がフロウの額めがけて迫る。
死ぬ。そう思ったらフロウは怖くなって、足から力が抜けてしまった。結果的にそれが功を奏した。
フロウが膝をついたことにより双剣の騎士の突きは頭の上を通り過ぎて外れた。
「……ふっ。怖気づいたことで命を拾うとはな。運がいいのか? だが次は外さな……」
ふらり。双剣の騎士がよろめき、ヘルムを手で抑えた。頭痛だろうか。息切れもしている。
片膝をついて苦しそうな双剣の騎士を見て、フロウはようやく自分が仕掛けた攻撃が効いてきたのだと思った。
「き、貴様……私になにをした? 毒でも盛ったのか……?」
「……毒じゃありません。僕はただ、空気を操っただけです。この通路の酸素を少し薄くしました。
貴方のその症状は、いわゆる高山病と同じものです。その様子を見ると、少し症状が酷いみたいですね……」
「馬鹿な。そんなことをしたら、私だけでなく貴様も同じ症状にならなければ理屈が合わん……!」
「そうですね。僕も近いうちにそうなるかも。でも、貴方が一番最初に酸素不足になるのは分かっていました。
連撃による激しい運動。顔を覆うヘルムという呼吸がし難い装備。条件はあまりに十分だったんです」
震える足で立ち上がる。少し危ない橋ではあったが、これで敵を無力化できた。
「くっ……まさかこのような少女にしてやられるとは。女神よ、非力な私をお許しください」
「……あ、あの。話せるなら聞いていいでしょうか。貴方たちはなぜこのようなことを……?」
「その問いには答えられん。だが、逃げるなら早くした方がよいだろう。刺客は我々だけではない。
お前たちは知りすぎた……いや、知ろうとしすぎたと言った方がいいか……」
セレスの方を確認すると、あちらも戦いは終わったようだ。さすがは先輩。敵を殺さず無力化している。
アイコンタクトで頷き合いフロウはセレスと一緒にその場から立ち去った。まずマユラと合流しなければ話が進まない。
二本の剣で繰り出される連撃を、フロウは蒼穹箒トゥールビヨンでどうにか凌いでいるという状況。
フロウは接近戦が得意ではない。杖術を学んだことはあるがそれもあくまで基礎的なレベルだ。
それでもフロウが即座に斬り殺されない理由はトゥールビヨンの風を操る能力のおかげだった。
危なくなったら突風を巻き起こして騎士を物理的に吹っ飛ばし、距離を置いて仕切り直す。
もう何度も吹っ飛ばしているが、その度に双剣の騎士は起き上がり、また突っ込んでくる。
「風を操るようだが、芸がないぞ! それでは祝福を受けし我が鎧には通用せん!!」
祝福というのは魔法学における付与、エンチャントと呼ばれる技術を指している。
神学から魔法を齧った者がよく使う表現だ。言葉通り、鎧には付与魔法が施されているのだろう。
魔力探知を働かせてちゃんと観察すれば、鎧が魔力を微かに帯びているのが読み取れる。
鎧の耐久力が通常より上がっているからフロウの突風を何度食らっても平気なのだ。
とはいえ周囲への被害を無視すれば一瞬で殺せる。そんな考えも脳裏に浮かぶが、内心で握り潰す。
可能な限り、殺さず制圧すべきだろう。それはセレスの方針だからというだけではない。
フロウ自身の意思で考えた結果である。過激なやり方は歪みを生む。殺さずに済むならそれが一番いい。
双剣の騎士の連撃が来る。そのとき、騎士の両腕がブレた。あまりの速さに剣の軌道が見えない。
これまでは相手も本気ではなかったようだ。フロウは当てずっぽうでトゥールビヨンを使って防いだ。金属音が鳴る。
初撃は偶然防御できたが、そう何度も上手くはいかない。なにせ両腕が見えなくなるほどの高速の剣術である。
腕や足を剣が掠め、徐々に傷が深くなっていく。極限まで鍛えれば、魔法なしでここまでやれるのか。
フロウは今、剣士のひとつの到達点のようなものを垣間見た気がした。このまま嵐のような斬撃が続けば負ける。
危機を感じて今まで同じく突風を生み出して吹っ飛ばそうとする。だが、双剣の騎士はそれを耐えた。
片方の剣を通路の床に突き刺し、真正面から風に逆らったのである。
「芸がないと言った! 貴様との戦いはこれまでだ! 決着をつけさせてもらうッ!!」
突風が止んだ瞬間、双剣の騎士が攻勢に出る。即座に放たれた刺突がフロウの額めがけて迫る。
死ぬ。そう思ったらフロウは怖くなって、足から力が抜けてしまった。結果的にそれが功を奏した。
フロウが膝をついたことにより双剣の騎士の突きは頭の上を通り過ぎて外れた。
「……ふっ。怖気づいたことで命を拾うとはな。運がいいのか? だが次は外さな……」
ふらり。双剣の騎士がよろめき、ヘルムを手で抑えた。頭痛だろうか。息切れもしている。
片膝をついて苦しそうな双剣の騎士を見て、フロウはようやく自分が仕掛けた攻撃が効いてきたのだと思った。
「き、貴様……私になにをした? 毒でも盛ったのか……?」
「……毒じゃありません。僕はただ、空気を操っただけです。この通路の酸素を少し薄くしました。
貴方のその症状は、いわゆる高山病と同じものです。その様子を見ると、少し症状が酷いみたいですね……」
「馬鹿な。そんなことをしたら、私だけでなく貴様も同じ症状にならなければ理屈が合わん……!」
「そうですね。僕も近いうちにそうなるかも。でも、貴方が一番最初に酸素不足になるのは分かっていました。
連撃による激しい運動。顔を覆うヘルムという呼吸がし難い装備。条件はあまりに十分だったんです」
震える足で立ち上がる。少し危ない橋ではあったが、これで敵を無力化できた。
「くっ……まさかこのような少女にしてやられるとは。女神よ、非力な私をお許しください」
「……あ、あの。話せるなら聞いていいでしょうか。貴方たちはなぜこのようなことを……?」
「その問いには答えられん。だが、逃げるなら早くした方がよいだろう。刺客は我々だけではない。
お前たちは知りすぎた……いや、知ろうとしすぎたと言った方がいいか……」
セレスの方を確認すると、あちらも戦いは終わったようだ。さすがは先輩。敵を殺さず無力化している。
アイコンタクトで頷き合いフロウはセレスと一緒にその場から立ち去った。まずマユラと合流しなければ話が進まない。
316セレス ◆pFeH1SoQRU
2025/12/12(金) 00:03:23.95ID:2y6BVPyN 瞼を閉じると、そのときの光景が色鮮やかに甦る。燃え盛る炎。暗い夜の中、星空みたいに火の粉が舞っている。
炎の中に手を伸ばそうとしても、届くはずなんかなくて。家族が焼かれる様子を眺めることしかできなかった。
家族だけじゃない。その城で暮らしていた人は、誰もかれもが残酷に殺されていった。無慈悲に。無惨に。
「もう駄目よ。助けられるのは貴女だけなの。この状況で目の前の一人が救えるなら。
……私は他の可能性を切り捨てる。辛いのは分かるけれど……ここは割り切るのよ。マユラ」
小柄な身体で必死に制止するロザリーが、叫ぶように言った。
そのときのマユラは気が動転していた。正しい判断など、なにもできていなかった。
できようはずがない。今まで当然だった日常が。平穏が。なんの前触れもなく崩れ去ったのだから。
「でも……お父様が! お母様がっ! お兄様もお姉様も! みんな、みんなあそこに……!」
どこか遠くから気味の悪い哄笑が響き渡る。宵闇に踊る道化の声だ。
少しして声の主は城の屋根に現れた。仮面を着け、縦半分で割ったような奇妙な服を着ている。
右半分は緑で、左半分は黄色。道化は重力を忘れたように屋根を跳ねまわった。
「してやられたよ〜。僕が遊んでる間に本命を連れ去るなんて。今回は君の勝ちだロザリー。
さあ、逃げるがいい。そうして報告書にこの僕と戦うのが怖くて逃げましたと白状するんだね、メルクリウスに!」
ロザリーが大型のチャクラムを取り出すと、輪が広がって別の場所へ繋がる扉となる。
マユラは、憎しみと怒りを込めた眼で道化を睨みつけた。忘れない。絶対に忘れない。
みんなを殺したあいつを、必ず殺してやる。それができるなら死んだっていい。どんな地獄も屈辱も受け入れる。
「……いい眼をしているね、マユラちゃん。僕のこと、どうか覚えていてね。僕も君を忘れない」
覚醒した意識が最初に理解したのは、ここが大神殿の中だということだった。
護衛であるマユラたちにあてがわれた休憩用の部屋。来客用の四人部屋なのでそれなりに広い。
少なくとも冒険者が旅で使うような安宿よりもよっぽど上等である。ベッドの質も届けられる食事も悪くない。
「うなされていたザマス。またあの夢をみていたザマスか?」
胸の内から声が響く。自身の神話武装であるガルテンシェーレが心配してくれているようだ。
ガルテが自発的に喋ることは滅多にない。コードホルダーであるマユラが話しかけない限り、基本は無言だ。
だからセレスの神話武装が自分からぺらぺら喋っているところを見たときは、そんな奴もいるのかと驚いたくらいだ。
「……夢っていうか、思い出してるだけなんだけどな。たぶん、忘れないために」
シーツがぐっしょり汗で濡れている。神殿の世話係が用意してくれたネグリジェを着ていたが、それも寝汗でべとべとだ。
身体を手早く拭くと、さっさと普段着に着替えてしまった。できればお風呂でさっぱりしたい。だがその猶予まではなさそうだ。
「……おい。部屋の外にいる奴。出てこいよ。もう着替えたからいつでもどうぞ。相手になってやる」
ベッドに腰かけながらそう告げると、部屋の扉を蹴っ飛ばして板金鎧を身に纏った男が荒々しく部屋に入ってきた。
その妙に豪華な意匠の鎧を見る限り、こいつはエーディト教の戦力である神殿騎士であろう。
神殿騎士は大神官の命令でしか動かない。そして部屋に押し入ってくるような理由にはひとつ心当たりがある。
「良き覚悟だ! 死装束を選び終えたようだな! いや、部屋に入ろうとしたら衣擦れの音が聴こえたのでな。
いくら命令とはいえ、着替え中の婦女子の部屋に突然押し入るのは淫らな行為だと思い、控えていたのだが……」
「そりゃどうも。おかげで私も恥ずかしくない格好で戦える。いやーありがたいな本当に。
でもさー。あんた、どう見たって神殿騎士だよね。誰の差し金かすぐ分かっちゃうんだけど、いいの?」
「問題なかろう。死人に口なし。貴殿の死後のことは万事任されよ」
神殿騎士は手に握っていた武器を構えた。短槍だ。
長柄である普通の槍は室内のような狭い場所だと使いにくいとよく言われている。
だが短槍であるならば、この室内に限って言えば特に問題なく振り回すことができるだろう。
炎の中に手を伸ばそうとしても、届くはずなんかなくて。家族が焼かれる様子を眺めることしかできなかった。
家族だけじゃない。その城で暮らしていた人は、誰もかれもが残酷に殺されていった。無慈悲に。無惨に。
「もう駄目よ。助けられるのは貴女だけなの。この状況で目の前の一人が救えるなら。
……私は他の可能性を切り捨てる。辛いのは分かるけれど……ここは割り切るのよ。マユラ」
小柄な身体で必死に制止するロザリーが、叫ぶように言った。
そのときのマユラは気が動転していた。正しい判断など、なにもできていなかった。
できようはずがない。今まで当然だった日常が。平穏が。なんの前触れもなく崩れ去ったのだから。
「でも……お父様が! お母様がっ! お兄様もお姉様も! みんな、みんなあそこに……!」
どこか遠くから気味の悪い哄笑が響き渡る。宵闇に踊る道化の声だ。
少しして声の主は城の屋根に現れた。仮面を着け、縦半分で割ったような奇妙な服を着ている。
右半分は緑で、左半分は黄色。道化は重力を忘れたように屋根を跳ねまわった。
「してやられたよ〜。僕が遊んでる間に本命を連れ去るなんて。今回は君の勝ちだロザリー。
さあ、逃げるがいい。そうして報告書にこの僕と戦うのが怖くて逃げましたと白状するんだね、メルクリウスに!」
ロザリーが大型のチャクラムを取り出すと、輪が広がって別の場所へ繋がる扉となる。
マユラは、憎しみと怒りを込めた眼で道化を睨みつけた。忘れない。絶対に忘れない。
みんなを殺したあいつを、必ず殺してやる。それができるなら死んだっていい。どんな地獄も屈辱も受け入れる。
「……いい眼をしているね、マユラちゃん。僕のこと、どうか覚えていてね。僕も君を忘れない」
覚醒した意識が最初に理解したのは、ここが大神殿の中だということだった。
護衛であるマユラたちにあてがわれた休憩用の部屋。来客用の四人部屋なのでそれなりに広い。
少なくとも冒険者が旅で使うような安宿よりもよっぽど上等である。ベッドの質も届けられる食事も悪くない。
「うなされていたザマス。またあの夢をみていたザマスか?」
胸の内から声が響く。自身の神話武装であるガルテンシェーレが心配してくれているようだ。
ガルテが自発的に喋ることは滅多にない。コードホルダーであるマユラが話しかけない限り、基本は無言だ。
だからセレスの神話武装が自分からぺらぺら喋っているところを見たときは、そんな奴もいるのかと驚いたくらいだ。
「……夢っていうか、思い出してるだけなんだけどな。たぶん、忘れないために」
シーツがぐっしょり汗で濡れている。神殿の世話係が用意してくれたネグリジェを着ていたが、それも寝汗でべとべとだ。
身体を手早く拭くと、さっさと普段着に着替えてしまった。できればお風呂でさっぱりしたい。だがその猶予まではなさそうだ。
「……おい。部屋の外にいる奴。出てこいよ。もう着替えたからいつでもどうぞ。相手になってやる」
ベッドに腰かけながらそう告げると、部屋の扉を蹴っ飛ばして板金鎧を身に纏った男が荒々しく部屋に入ってきた。
その妙に豪華な意匠の鎧を見る限り、こいつはエーディト教の戦力である神殿騎士であろう。
神殿騎士は大神官の命令でしか動かない。そして部屋に押し入ってくるような理由にはひとつ心当たりがある。
「良き覚悟だ! 死装束を選び終えたようだな! いや、部屋に入ろうとしたら衣擦れの音が聴こえたのでな。
いくら命令とはいえ、着替え中の婦女子の部屋に突然押し入るのは淫らな行為だと思い、控えていたのだが……」
「そりゃどうも。おかげで私も恥ずかしくない格好で戦える。いやーありがたいな本当に。
でもさー。あんた、どう見たって神殿騎士だよね。誰の差し金かすぐ分かっちゃうんだけど、いいの?」
「問題なかろう。死人に口なし。貴殿の死後のことは万事任されよ」
神殿騎士は手に握っていた武器を構えた。短槍だ。
長柄である普通の槍は室内のような狭い場所だと使いにくいとよく言われている。
だが短槍であるならば、この室内に限って言えば特に問題なく振り回すことができるだろう。
317セレス ◆pFeH1SoQRU
2025/12/12(金) 00:06:23.93ID:2y6BVPyN 胸から光の球が出現すると、球を右手で掴み取った。光が真紅の巨大鋏へと形を変える。
マユラは不意打ち気味に短槍の騎士へと肉薄し、縦に鋏を一閃する。当てる自信はあったが、避けられた。
突きの反撃が来るか。身構えたものの、短槍の騎士は攻めてこない。代わりに、部屋の中に白い霧が充満していく。
「おいおい……なんだこりゃ。霧か……水魔法だな。いったい何を始めようってんだよ」
「然り。水魔法、霧音域。私は慎重な性格なのだ。安全に、そして確実に……始末させてもらう」
部屋の中はいつの間にか白に染まり、騎士の姿などどこにも見当たらなかった。いつの間にか鎧が動く音も消えている。
左手を前に伸ばしたり、顔の間近まで近づけたりしてみる。30〜40センチ程度離れるともう見えない。
次に踵で強く床を踏み鳴らしたが、音がほとんど聴こえなかった。声を発してみる。
「ガルテ、返事をしろ。私が何を喋ってるか聞こえてるか?」
「この近さならさすがに聞き取れるザマス。でもくぐもって聞こえたザマス」
「消音効果のある霧か……暗殺向きの魔法だな。派手な鎧着てる癖に戦法がセコいんじゃないの」
と、声を発した次の瞬間、眼前に槍が迫っていた。鋭い突きが眉間めがけて飛んでくる。
マユラは慌てて横へ跳びつつ、首を曲げることで寸前で躱すことに成功した。
槍は頬をざっくり切り裂くと、瞬時に引っ込んで霧の中に消える。
「っぶねぇ……! 偶然避けたけど何度も同じことできねぇぞ……!!」
自分に危機感が無さすぎた。想像以上に厄介だ。なにより、相手の位置が分からないのが痛い。
ガルテンシェーレの「絶対切断」は当たれば必殺だが、当たらなければまったく無意味な能力だ。
どうすればいい。霧の中の短槍の騎士は、次に背後から突きを放ってきた。槍は正確に頭を狙っている。
忙しなく360度を把握しようと周囲を見渡していたおかげで、今回も命中の寸前に目の端で槍を捉えられた。
槍が外れる。マユラはその方向へと鋏を振ってみたが、槍は瞬時に引っ込み、鋏は空を切った。
三度目は、ない。マユラは完全に自分の位置も距離感も見失っている。
なにより何も見えないという不慣れな状況が、マユラの冷静さを徐々に奪いつつあった。
自暴自棄になりかかり、こうなったらわざと食らって刺し違えてやると破綻した作戦を立てつつあったが、そのとき。
あることに気づいた。そしてそれを実行に移す。三度目の突きは、程なくしてやって来た。
だが今まで正確無比だった槍の軌道が外れており、マユラの脇の下を素通りする。
ここだ。マユラはガルテンシェーレを両手で握り締め、鋏を開く。槍が引っ込むより先にマユラは突進する。
巨大な顎門のように開かれた鋏が短槍の騎士の身体を腕ごと挟み込み、その身体を壁に叩きつけた。
「ば……馬鹿な。なぜ外れた! 確かに貴殿の位置を捉えたはずだったのに!!」
「簡単な話だ。あんた、魔力探知で私の位置を探ってただろ。それに気づいたらピンときたのさ。
でたらめな位置に魔力の塊を放出しておいて、私自身の魔力は消す。そうすりゃ槍は当たらないってね」
ぶっつけ本番だ。上手くいったのは偶然でしかない。ぎりぎりとガルテンシェーレに力を込め、万力のように締め上げる。
魔力を消していたので絶対切断を使わず拘束したが、この状態に持ち込めばいつでも殺せる。
「ぐ……し、しかし私の鎧には祝福が施されていて簡単に斬ることは……」
「どうかな。私の神話武装の能力は『絶対切断』だ。魔法が施されてても確実に真っ二つだぜ。
死にたく無ければ私の質問に答えろ。ひとつ、私を襲った理由。ふたつ、聖女がコードホルダーなのを隠してた理由」
「わ……私は何も知らぬ! その質問には答えられん!」
「嘘つけ、それならちょっとでも知ってることを話せ! どうせヴォルムス大神官の差し金なんだろ!」
不意に短槍の騎士が小さく声を漏らし、がくりと力を失った。
ガルテンシェーレを収納形態に戻してからヘルムを脱がすと騎士は泡を吹いて死んでいた。
奥歯に毒でも仕込んでいたのだろう。情報漏洩を恐れて自害したのだ。
マユラは不意打ち気味に短槍の騎士へと肉薄し、縦に鋏を一閃する。当てる自信はあったが、避けられた。
突きの反撃が来るか。身構えたものの、短槍の騎士は攻めてこない。代わりに、部屋の中に白い霧が充満していく。
「おいおい……なんだこりゃ。霧か……水魔法だな。いったい何を始めようってんだよ」
「然り。水魔法、霧音域。私は慎重な性格なのだ。安全に、そして確実に……始末させてもらう」
部屋の中はいつの間にか白に染まり、騎士の姿などどこにも見当たらなかった。いつの間にか鎧が動く音も消えている。
左手を前に伸ばしたり、顔の間近まで近づけたりしてみる。30〜40センチ程度離れるともう見えない。
次に踵で強く床を踏み鳴らしたが、音がほとんど聴こえなかった。声を発してみる。
「ガルテ、返事をしろ。私が何を喋ってるか聞こえてるか?」
「この近さならさすがに聞き取れるザマス。でもくぐもって聞こえたザマス」
「消音効果のある霧か……暗殺向きの魔法だな。派手な鎧着てる癖に戦法がセコいんじゃないの」
と、声を発した次の瞬間、眼前に槍が迫っていた。鋭い突きが眉間めがけて飛んでくる。
マユラは慌てて横へ跳びつつ、首を曲げることで寸前で躱すことに成功した。
槍は頬をざっくり切り裂くと、瞬時に引っ込んで霧の中に消える。
「っぶねぇ……! 偶然避けたけど何度も同じことできねぇぞ……!!」
自分に危機感が無さすぎた。想像以上に厄介だ。なにより、相手の位置が分からないのが痛い。
ガルテンシェーレの「絶対切断」は当たれば必殺だが、当たらなければまったく無意味な能力だ。
どうすればいい。霧の中の短槍の騎士は、次に背後から突きを放ってきた。槍は正確に頭を狙っている。
忙しなく360度を把握しようと周囲を見渡していたおかげで、今回も命中の寸前に目の端で槍を捉えられた。
槍が外れる。マユラはその方向へと鋏を振ってみたが、槍は瞬時に引っ込み、鋏は空を切った。
三度目は、ない。マユラは完全に自分の位置も距離感も見失っている。
なにより何も見えないという不慣れな状況が、マユラの冷静さを徐々に奪いつつあった。
自暴自棄になりかかり、こうなったらわざと食らって刺し違えてやると破綻した作戦を立てつつあったが、そのとき。
あることに気づいた。そしてそれを実行に移す。三度目の突きは、程なくしてやって来た。
だが今まで正確無比だった槍の軌道が外れており、マユラの脇の下を素通りする。
ここだ。マユラはガルテンシェーレを両手で握り締め、鋏を開く。槍が引っ込むより先にマユラは突進する。
巨大な顎門のように開かれた鋏が短槍の騎士の身体を腕ごと挟み込み、その身体を壁に叩きつけた。
「ば……馬鹿な。なぜ外れた! 確かに貴殿の位置を捉えたはずだったのに!!」
「簡単な話だ。あんた、魔力探知で私の位置を探ってただろ。それに気づいたらピンときたのさ。
でたらめな位置に魔力の塊を放出しておいて、私自身の魔力は消す。そうすりゃ槍は当たらないってね」
ぶっつけ本番だ。上手くいったのは偶然でしかない。ぎりぎりとガルテンシェーレに力を込め、万力のように締め上げる。
魔力を消していたので絶対切断を使わず拘束したが、この状態に持ち込めばいつでも殺せる。
「ぐ……し、しかし私の鎧には祝福が施されていて簡単に斬ることは……」
「どうかな。私の神話武装の能力は『絶対切断』だ。魔法が施されてても確実に真っ二つだぜ。
死にたく無ければ私の質問に答えろ。ひとつ、私を襲った理由。ふたつ、聖女がコードホルダーなのを隠してた理由」
「わ……私は何も知らぬ! その質問には答えられん!」
「嘘つけ、それならちょっとでも知ってることを話せ! どうせヴォルムス大神官の差し金なんだろ!」
不意に短槍の騎士が小さく声を漏らし、がくりと力を失った。
ガルテンシェーレを収納形態に戻してからヘルムを脱がすと騎士は泡を吹いて死んでいた。
奥歯に毒でも仕込んでいたのだろう。情報漏洩を恐れて自害したのだ。
318せれす
2025/12/12(金) 13:23:42.07ID:2y6BVPyN あっ収納形態じゃなくて待機形態だっけ……間違えちゃった
でもニュアンスで分かる……よね?
でもニュアンスで分かる……よね?
319創る名無しに見る名無し
2025/12/24(水) 11:02:01.80ID:ZGWdfsai いつも楽しみにしてるよ~
支援
支援
320セレス ◆pFeH1SoQRU
2026/01/02(金) 17:29:08.48ID:vzX4uU8W 特に支障もなくマユラと合流することができた。やはりマユラも神殿騎士の襲撃に遭ったという。
神殿騎士は教会のトップである大神官の指示でしか動かない。
だから指示を出したのはヴォルムス大神官であろう。その理由はおそらく口封じだ。
聖女ソフィアの治癒の力は女神から授かった奇跡なんかじゃない。神話武装の能力によるものだ。
セレスたちがその秘密を暴いたから。相手にバレないように探ったつもりだったが、勘づかれてしまったのだろう。
聖女の看板に偽りがあるのは教会にとってかなり都合が悪いはずだ。他に理由が思いつかない。
「……でも、本当にそれだけなんでしょうか。それにしては過剰すぎるやり方な気がします……」
このセレスの考えに疑問を投げかけたのがフロウであった。セレスが理由を聞くと、フロウはおずおずと答えた。
「あのぅ……そのぅ。これは僕の憶測でしかないんですけど……。
確かに口封じの原因の一端だとは思います。でも神話武装だって神々が生み出した武器ですし、
広義には女神から授かった力と言えなくもない……そこまでひた隠しにする必要はないように思えます……」
「つまり……どういうことだよ? なにか別の理由があって襲ってきてんの。あいつら」
「たぶん。教会は、いえ、大神官と聖女様にはもっと隠しておきたい秘密があるような気がするんです」
その予想が正しいかどうか、セレスには判断がつかないが不思議な説得力は感じる。
だが神話武装の所在を知る必要はあったものの、それ以上の秘密を暴きたかったわけでもない。
マユラは「なるほどね。まあ大神官は腹に一物ありそうな顔してたけど」と言って、セレスに顔を向ける。
「で、これからどうするの。もう護衛がどうとか言ってられる状況じゃないな。任務失敗?」
「そうだね……上手く立ち回れなくてごめん。私のせいだ。とりあえず、ここから脱出して機関に報告しよう。
マレブランケの存在を掴めなかったのは残念だけど、任務はもう終わりにするしか……」
そこから先の言葉が途切れた。鎧ががしゃがしゃと動く音と、複数の足音が聴こえたからだ。
刺客である神殿騎士は三人だけではなかった。まだまだいたということである。
全部で何人いるのか想像もつかないが、何回も戦っていたらきりがない。セレスたちはすぐさま逃げた。
「セレス。逃げるのはいいけどさ、どこに逃げんだよ? こんな調子じゃあたぶん入り口にも神殿騎士がいるぞ」
「そうだね……いったん外に出よう。そこから私の空中歩行とフロウちゃんのトゥールビヨンで逃げるよ」
外に出るとは言ったが、通路には窓もなにもない。だがこのときセレスは楽観的に考えていた。
適当な部屋に入れば窓くらいあるだろうと。だが大神殿の中をよく把握している騎士たちは、
何度も先回りしてセレスたちを追い詰めた。そうして逃げ回っているうちに辿り着いたのが。
「……って行き止まりじゃねぇかっ。窓すらないじゃん! どうやって外に出るんだよっ」
マユラのつっこみが炸裂した。セレスたちは窓もなにもない祭壇だけが置かれた部屋に逃げ込んでしまった。
この部屋は大神殿に訪れて最初に案内された場所であり、ここでヴォルムス大神官と聖女ソフィアと顔合わせをした。
セレスはばつが悪そうに「たはは……ごめーん」と軽く謝ったが、そんなことで許される誤りではない。
「しょうがねぇな。こうなったら籠城戦だ。朝まで粘ればあいつらも殺しはできねぇだろ。
礼拝者やら観光客やらも出入りするんだ。過激なことはしねーはずだ」
そう言ってがたがたと祭壇を動かし始めた。祭壇を扉の前に置いてバリケードを作るつもりらしい。
残された手段はもう戦うか籠城かしかなかったので、セレスはマユラを手伝って祭壇を動かそうとした。
ガコン、と妙な音が鳴った。祭壇を持ち上げたことでなんらかの機械が作動したらしい。
祭壇を置いていた場所の石床がスライドしていく。数十秒経って、下へと続く階段が出現した。
「……なんだこりゃ。隠し部屋への入り口かなにかか……? 凝った仕掛けしてんな……」
三人でまじまじと地下へ続く階段を覗く。階段は真っ暗な闇の中へと続いていた。
神殿騎士は教会のトップである大神官の指示でしか動かない。
だから指示を出したのはヴォルムス大神官であろう。その理由はおそらく口封じだ。
聖女ソフィアの治癒の力は女神から授かった奇跡なんかじゃない。神話武装の能力によるものだ。
セレスたちがその秘密を暴いたから。相手にバレないように探ったつもりだったが、勘づかれてしまったのだろう。
聖女の看板に偽りがあるのは教会にとってかなり都合が悪いはずだ。他に理由が思いつかない。
「……でも、本当にそれだけなんでしょうか。それにしては過剰すぎるやり方な気がします……」
このセレスの考えに疑問を投げかけたのがフロウであった。セレスが理由を聞くと、フロウはおずおずと答えた。
「あのぅ……そのぅ。これは僕の憶測でしかないんですけど……。
確かに口封じの原因の一端だとは思います。でも神話武装だって神々が生み出した武器ですし、
広義には女神から授かった力と言えなくもない……そこまでひた隠しにする必要はないように思えます……」
「つまり……どういうことだよ? なにか別の理由があって襲ってきてんの。あいつら」
「たぶん。教会は、いえ、大神官と聖女様にはもっと隠しておきたい秘密があるような気がするんです」
その予想が正しいかどうか、セレスには判断がつかないが不思議な説得力は感じる。
だが神話武装の所在を知る必要はあったものの、それ以上の秘密を暴きたかったわけでもない。
マユラは「なるほどね。まあ大神官は腹に一物ありそうな顔してたけど」と言って、セレスに顔を向ける。
「で、これからどうするの。もう護衛がどうとか言ってられる状況じゃないな。任務失敗?」
「そうだね……上手く立ち回れなくてごめん。私のせいだ。とりあえず、ここから脱出して機関に報告しよう。
マレブランケの存在を掴めなかったのは残念だけど、任務はもう終わりにするしか……」
そこから先の言葉が途切れた。鎧ががしゃがしゃと動く音と、複数の足音が聴こえたからだ。
刺客である神殿騎士は三人だけではなかった。まだまだいたということである。
全部で何人いるのか想像もつかないが、何回も戦っていたらきりがない。セレスたちはすぐさま逃げた。
「セレス。逃げるのはいいけどさ、どこに逃げんだよ? こんな調子じゃあたぶん入り口にも神殿騎士がいるぞ」
「そうだね……いったん外に出よう。そこから私の空中歩行とフロウちゃんのトゥールビヨンで逃げるよ」
外に出るとは言ったが、通路には窓もなにもない。だがこのときセレスは楽観的に考えていた。
適当な部屋に入れば窓くらいあるだろうと。だが大神殿の中をよく把握している騎士たちは、
何度も先回りしてセレスたちを追い詰めた。そうして逃げ回っているうちに辿り着いたのが。
「……って行き止まりじゃねぇかっ。窓すらないじゃん! どうやって外に出るんだよっ」
マユラのつっこみが炸裂した。セレスたちは窓もなにもない祭壇だけが置かれた部屋に逃げ込んでしまった。
この部屋は大神殿に訪れて最初に案内された場所であり、ここでヴォルムス大神官と聖女ソフィアと顔合わせをした。
セレスはばつが悪そうに「たはは……ごめーん」と軽く謝ったが、そんなことで許される誤りではない。
「しょうがねぇな。こうなったら籠城戦だ。朝まで粘ればあいつらも殺しはできねぇだろ。
礼拝者やら観光客やらも出入りするんだ。過激なことはしねーはずだ」
そう言ってがたがたと祭壇を動かし始めた。祭壇を扉の前に置いてバリケードを作るつもりらしい。
残された手段はもう戦うか籠城かしかなかったので、セレスはマユラを手伝って祭壇を動かそうとした。
ガコン、と妙な音が鳴った。祭壇を持ち上げたことでなんらかの機械が作動したらしい。
祭壇を置いていた場所の石床がスライドしていく。数十秒経って、下へと続く階段が出現した。
「……なんだこりゃ。隠し部屋への入り口かなにかか……? 凝った仕掛けしてんな……」
三人でまじまじと地下へ続く階段を覗く。階段は真っ暗な闇の中へと続いていた。
321セレス ◆pFeH1SoQRU
2026/01/02(金) 17:30:34.18ID:vzX4uU8W 「……風の流れを感じます。どこかの出口に続いているみたいです……」
と、フロウが言った。それが正しいのなら渡りに船だ。少し危ない気配もするが、外に脱出できる。
ただ地下へ続く階段は明かりひとつなく、このままでは進めそうにない。残念ながらセレスは明かりを持ち合わせていない。
それを察したのかフロウが魔法を使い、揺らめく光を手のひらの上に生み出す。俗に「灯火」と呼ばれる基礎の魔法だ。
「いいねフロウちゃん。ここを進んでみよう。いつまで籠城できるかも分からないからね」
マユラとフロウも反論はしなかった。灯火を頼りにセレスが先頭を進んでいく。
階段を降り切ると、そこには石造りの地下空間が広がっていた。通路は広いが殺風景だ。
通路は一本道なのでそのまま進んでいく。セレスには遠慮も恐れもない。
冒険者でもあるセレスにとってこういった探索は日常であり、むしろ得意分野なのだ。
「ひぃぃぃぃぃっ、骸骨がぁ……!?」
フロウが突然、悲鳴を上げてマユラの背後に隠れた。さっきフロウが見ていた壁に視線を移す。
そこには所狭しと人間の頭蓋骨が並んでいる。インテリアとしてはまったく趣味が悪い。
「この地下造った奴はどういう神経してんだよ。別に怖くはないけどよぉ……」
「そうだね。アンデッド系の魔物でも出るのかと思ったけど、そういう気配はないし……意図が分からない」
マユラの背中に隠れたまま、フロウがちらちらと頭蓋骨の並んだ壁を見ている。
そしておずおずと言った調子で二人に話し始めた。
「あの……たぶんここは地下に作られた墓地だと思います……初期のエーディト教は異教として迫害されていて、
女神エーディトを信仰する教徒たちはそれを逃れるために地下の墓地で集会を開いたりしていたそうなので……。
きっとここは大神殿が建てられる前から存在していたんじゃないでしょうか……」
「ふうん、そうなのか……って、フロウ。そこまで知ってるのになんで一番驚いてるんだよ……」
「い、いえ……単純に骸骨って怖いなぁって……えっ怖くないですか……?」
「大丈夫だよフロウちゃん。よしよし。こわくない、こわくなーい。
私がヒーローの包容力で怖いのなんて吹っ飛ばしてあげるからね」
などと言ってセレスはフロウを抱き締め、頭をよしよしと撫でた。フロウも満更ではなさそうだ。
その光景を「なにやってんだこいつら……」みたいな冷めた目でマユラが眺めていた。
地下墓地を更に進むと、大量の墓が並んでいる場所などもあったが、魔物や刺客が現れたわけではない。
そのほとんどは今や朽ち果てていた。無理もない。エーディト教初期の時代の墓地なのだとしたら、
軽く2000年以上は昔の話ということだ。誰かが立ち入ることだってほとんどなかったはずだ。
「……あれ。なんだろう……?」
墓地にしては異質なものがそこにはあった。鉄格子だ。
今まで見てきた朽ちた墓などと違って、最近に後付けで作られたような真新しさがある。
フロウの灯火を頼りに進んできたが暗くてよく見えない。衣擦れの音がした。鉄格子の向こうに誰かいる。
「……誰かいらっしゃるのですか? こんなところに訪れる人がいるなんて……」
声がした。聞き覚えのある声だ。まさか、そんな馬鹿なことが。あるはずはない。
灯火の光を鉄格子の方へと近づける。中にいる人物の姿があらわになる。
まるで囚人のように粗末で薄汚れた衣服。髪や肌は長らく手入れがされておらず、綺麗とは言い難い。
しかしその声は。顔は。三人全員が知っている人物だ。困惑せざるを得なかった。
「聖女……ソフィア様…………?」
セレスの呟きが、地下墓地の暗闇に吸い込まれて消えていく。
と、フロウが言った。それが正しいのなら渡りに船だ。少し危ない気配もするが、外に脱出できる。
ただ地下へ続く階段は明かりひとつなく、このままでは進めそうにない。残念ながらセレスは明かりを持ち合わせていない。
それを察したのかフロウが魔法を使い、揺らめく光を手のひらの上に生み出す。俗に「灯火」と呼ばれる基礎の魔法だ。
「いいねフロウちゃん。ここを進んでみよう。いつまで籠城できるかも分からないからね」
マユラとフロウも反論はしなかった。灯火を頼りにセレスが先頭を進んでいく。
階段を降り切ると、そこには石造りの地下空間が広がっていた。通路は広いが殺風景だ。
通路は一本道なのでそのまま進んでいく。セレスには遠慮も恐れもない。
冒険者でもあるセレスにとってこういった探索は日常であり、むしろ得意分野なのだ。
「ひぃぃぃぃぃっ、骸骨がぁ……!?」
フロウが突然、悲鳴を上げてマユラの背後に隠れた。さっきフロウが見ていた壁に視線を移す。
そこには所狭しと人間の頭蓋骨が並んでいる。インテリアとしてはまったく趣味が悪い。
「この地下造った奴はどういう神経してんだよ。別に怖くはないけどよぉ……」
「そうだね。アンデッド系の魔物でも出るのかと思ったけど、そういう気配はないし……意図が分からない」
マユラの背中に隠れたまま、フロウがちらちらと頭蓋骨の並んだ壁を見ている。
そしておずおずと言った調子で二人に話し始めた。
「あの……たぶんここは地下に作られた墓地だと思います……初期のエーディト教は異教として迫害されていて、
女神エーディトを信仰する教徒たちはそれを逃れるために地下の墓地で集会を開いたりしていたそうなので……。
きっとここは大神殿が建てられる前から存在していたんじゃないでしょうか……」
「ふうん、そうなのか……って、フロウ。そこまで知ってるのになんで一番驚いてるんだよ……」
「い、いえ……単純に骸骨って怖いなぁって……えっ怖くないですか……?」
「大丈夫だよフロウちゃん。よしよし。こわくない、こわくなーい。
私がヒーローの包容力で怖いのなんて吹っ飛ばしてあげるからね」
などと言ってセレスはフロウを抱き締め、頭をよしよしと撫でた。フロウも満更ではなさそうだ。
その光景を「なにやってんだこいつら……」みたいな冷めた目でマユラが眺めていた。
地下墓地を更に進むと、大量の墓が並んでいる場所などもあったが、魔物や刺客が現れたわけではない。
そのほとんどは今や朽ち果てていた。無理もない。エーディト教初期の時代の墓地なのだとしたら、
軽く2000年以上は昔の話ということだ。誰かが立ち入ることだってほとんどなかったはずだ。
「……あれ。なんだろう……?」
墓地にしては異質なものがそこにはあった。鉄格子だ。
今まで見てきた朽ちた墓などと違って、最近に後付けで作られたような真新しさがある。
フロウの灯火を頼りに進んできたが暗くてよく見えない。衣擦れの音がした。鉄格子の向こうに誰かいる。
「……誰かいらっしゃるのですか? こんなところに訪れる人がいるなんて……」
声がした。聞き覚えのある声だ。まさか、そんな馬鹿なことが。あるはずはない。
灯火の光を鉄格子の方へと近づける。中にいる人物の姿があらわになる。
まるで囚人のように粗末で薄汚れた衣服。髪や肌は長らく手入れがされておらず、綺麗とは言い難い。
しかしその声は。顔は。三人全員が知っている人物だ。困惑せざるを得なかった。
「聖女……ソフィア様…………?」
セレスの呟きが、地下墓地の暗闇に吸い込まれて消えていく。
322セレス ◆pFeH1SoQRU
2026/01/02(金) 17:32:59.32ID:vzX4uU8W 「はい。私はソフィアです。すみません……私、皆様のことを存じ上げなくて。
どこかでお会いしたことがありますでしょうか? 差し支えなければ教えてくださっても……?」
「あ、ありえねぇ……聖女様は護衛中に部屋から消えちまったんだろ。それがなんでこんなところにいんだよ……!?」
物事に動じなさそうなマユラでさえも驚いている。
その驚きを落ち着かせるように、牢屋に閉じ込められているソフィアが言った。
「今、外がどういう状況なのか分かりませんが、私はずっとここにいました。二年前からです。
なので私と出会ったことがあったとしても、それは本物の私ではありません」
二年前。ちょうど聖女ソフィアの評判が変わり始めた時だ。
まさかここにいるのが本物の聖女で、偽物が今まで代役をしていたというのか。
今まで護衛をしていた聖女は、本物と同じ力に見せかけるため、神話武装を使っていたのか。
「あ、あの……なぜソフィア様はこんなところに? 何かしたんですか?」
「はい。何かしようとしました。教会のトップであるヴォルムス大神官をご存知でしょうか?
あの方は実はわるーい人で……教会への多額の寄付金を着服していたのです。
それ以外にも色々と悪事を重ねていて……戒律で禁じられているのに何人もの女性と淫らな関係を……」
あの人は隠し子が三人いるんですよ、とソフィアは大変そうな顔で言った。
正直、あまり善良な人とは思っていなかったのでセレスたちは「やっぱりか……」程度に捉えていた。
「私はそれを告発しようとしたのですが、捕まってしまってこの通りです。明るみに出たら大神官は終わりですから……。
かといって聖女である私を殺すと何かの神罰でも下ると恐れたのでしょう。命だけは取られずに済みました」
「……これで、大神官が神殿騎士を動かしてまで僕たちを口封じしようとした理由が分かります。
あの人は聖女ソフィアが偽物だとばれることを危惧したんでしょう。だから過激な手段を取ってしまった」
「大筋は分かったけど……でもフロウちゃん、細かいところが分からないよ。
どうやってあんなにそっくりな偽物を用意できたのかも分からないし、
その人が都合良くコードホルダーだったのも納得できない」
顔や身体を変化させる、いわゆる変身魔法というのは発展途上の技術だ。
何人もの魔法使いが挑戦して、その度に取り返しのつかない失敗をしている。
「そうですね。それに大神官だけでこんな手の込んだことをできる気がしないです。
誰か……他に協力者がいないと無理だと思います」
「とりあえず……本物の聖女ソフィア様を助けよう。マユラちゃん、鉄格子斬るのお願いしていいかな?」
マユラの胸から光の球が出現し、それを右腕で掴むと、巨大な真紅の鋏へと形状を変える。
鉄格子めがけて鋏を振るうといとも容易く切断され、出口が出現する。さすがは絶対切断だ。
「助かりました……ありがとうございます。あの、失礼ですがお名前を伺っても?」
牢屋の中からソフィアが出てくると、セレスは簡潔に自己紹介を済ませた。
このまま大神殿から逃げ出す予定だったが、作戦変更だ。人間一人をずっと監禁していたのだ。
見過ごしたまま逃げ帰るわけにはいかない。衛兵のところにでも行って事情を話すべきだろう。
先に進もうとしたとき、闇の中から人が姿を現した。先ほど助けたばかりのソフィアと同じ顔。
偽物の方の聖女だ。表情は険しく、聖女と呼ぶには不釣り合いな形相である。
「ここから先には通しません。貴女たちは、聖女を襲った異教徒の暗殺者と戦って相打ちで死んだ。
それで護衛任務は終わりという筋書きなんです。だから、大人しくここで死んでください」
偽の聖女の胸から光の球が出現し、右手でそれを掴み取る。光は形を変え杖になった。
それが何であるかは言うまでもないだろう。神話武装13番。治癒杖ヘリクシオンである。
どこかでお会いしたことがありますでしょうか? 差し支えなければ教えてくださっても……?」
「あ、ありえねぇ……聖女様は護衛中に部屋から消えちまったんだろ。それがなんでこんなところにいんだよ……!?」
物事に動じなさそうなマユラでさえも驚いている。
その驚きを落ち着かせるように、牢屋に閉じ込められているソフィアが言った。
「今、外がどういう状況なのか分かりませんが、私はずっとここにいました。二年前からです。
なので私と出会ったことがあったとしても、それは本物の私ではありません」
二年前。ちょうど聖女ソフィアの評判が変わり始めた時だ。
まさかここにいるのが本物の聖女で、偽物が今まで代役をしていたというのか。
今まで護衛をしていた聖女は、本物と同じ力に見せかけるため、神話武装を使っていたのか。
「あ、あの……なぜソフィア様はこんなところに? 何かしたんですか?」
「はい。何かしようとしました。教会のトップであるヴォルムス大神官をご存知でしょうか?
あの方は実はわるーい人で……教会への多額の寄付金を着服していたのです。
それ以外にも色々と悪事を重ねていて……戒律で禁じられているのに何人もの女性と淫らな関係を……」
あの人は隠し子が三人いるんですよ、とソフィアは大変そうな顔で言った。
正直、あまり善良な人とは思っていなかったのでセレスたちは「やっぱりか……」程度に捉えていた。
「私はそれを告発しようとしたのですが、捕まってしまってこの通りです。明るみに出たら大神官は終わりですから……。
かといって聖女である私を殺すと何かの神罰でも下ると恐れたのでしょう。命だけは取られずに済みました」
「……これで、大神官が神殿騎士を動かしてまで僕たちを口封じしようとした理由が分かります。
あの人は聖女ソフィアが偽物だとばれることを危惧したんでしょう。だから過激な手段を取ってしまった」
「大筋は分かったけど……でもフロウちゃん、細かいところが分からないよ。
どうやってあんなにそっくりな偽物を用意できたのかも分からないし、
その人が都合良くコードホルダーだったのも納得できない」
顔や身体を変化させる、いわゆる変身魔法というのは発展途上の技術だ。
何人もの魔法使いが挑戦して、その度に取り返しのつかない失敗をしている。
「そうですね。それに大神官だけでこんな手の込んだことをできる気がしないです。
誰か……他に協力者がいないと無理だと思います」
「とりあえず……本物の聖女ソフィア様を助けよう。マユラちゃん、鉄格子斬るのお願いしていいかな?」
マユラの胸から光の球が出現し、それを右腕で掴むと、巨大な真紅の鋏へと形状を変える。
鉄格子めがけて鋏を振るうといとも容易く切断され、出口が出現する。さすがは絶対切断だ。
「助かりました……ありがとうございます。あの、失礼ですがお名前を伺っても?」
牢屋の中からソフィアが出てくると、セレスは簡潔に自己紹介を済ませた。
このまま大神殿から逃げ出す予定だったが、作戦変更だ。人間一人をずっと監禁していたのだ。
見過ごしたまま逃げ帰るわけにはいかない。衛兵のところにでも行って事情を話すべきだろう。
先に進もうとしたとき、闇の中から人が姿を現した。先ほど助けたばかりのソフィアと同じ顔。
偽物の方の聖女だ。表情は険しく、聖女と呼ぶには不釣り合いな形相である。
「ここから先には通しません。貴女たちは、聖女を襲った異教徒の暗殺者と戦って相打ちで死んだ。
それで護衛任務は終わりという筋書きなんです。だから、大人しくここで死んでください」
偽の聖女の胸から光の球が出現し、右手でそれを掴み取る。光は形を変え杖になった。
それが何であるかは言うまでもないだろう。神話武装13番。治癒杖ヘリクシオンである。
323セレス ◆pFeH1SoQRU
2026/01/02(金) 17:35:43.47ID:vzX4uU8W 【あけおめです☆】
【今年もぼちぼち投下していくのでよろしくお願いします!】
【今年もぼちぼち投下していくのでよろしくお願いします!】
324創る名無しに見る名無し
2026/01/03(土) 04:38:00.37ID:EmBIO4LL あけおめー!
今年も楽しく読ませてもらうよ~
今年も楽しく読ませてもらうよ~
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