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TRPG系実験室 3
0001創る名無しに見る名無し
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2022/01/10(月) 23:01:17.38ID:bv8kkCon
TRPG関係であれば自由に使えるスレです
他の話で使用中であっても使えます。何企画同時進行になっても構いません
ここの企画から新スレとして独立するのも自由です
複数企画に参加する場合は企画ごとに別のトリップを使うことをお勧めします。
使用にあたっては混乱を避けるために名前欄の最初に【】でタイトルを付けてください

使用方法(例)
・超短編になりそうなTRPG
・始まるかも分からない実験的TRPG
・新スレを始めたいけどいきなり新スレ建てるのは敷居が高い場合
・SS投下(万が一誰かが乗ってきたらTRPG化するかも?)
・スレ原案だけ放置(誰かがその設定を使ってはじめるかも)
・キャラテンプレだけ放置(誰かに拾われるかも)
0212ヘンゼル ◆.lZxadOr.I
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2023/04/30(日) 19:50:58.44ID:qGud60dQ
 驚くべきことにジャスミンは本当に修理工場のお嬢だった。
 修理工場という立派な実家を持ちながらなぜ探索者という危険極まりない仕事をするのか。
 彼女がサイボーグってところに理由が――いや、余計な詮索は無用か。俺も借金があるしな。
 人にはそれぞれ、事情というものがある。それは気安く突っついていいものではないだろう。

>「ん、美味しいなこれ。シェルターの放出品?」

「ああ……元を辿ればそうなるんだろうな。それは『お菓子の家』で見つけたのさ」

 《魔女》のコネは広い。シェルターで暮らすカーストの高い人間とも仲が良いって話だ。
 俺は奴の商会へ利息を支払いに赴く度に、来客向けに置いてあるお菓子を内緒でくすねている。
 盗みの技術はスラムで暮らしていた幼年期に磨いたものだ。これで《魔女》への溜飲を下げている感は否めない。

 まぁそんな余談はさておき、ジャスミンは俺の問いに自信あり気な笑みで返して端末に情報を送る。
 工業区画D-7の位置にアイコンが現れると『ナノマシン製造機の設計図』とハッキリ書かれていた。

>「あたしが最初に潜った工場にあったんだよ、その設計図が収められた部屋が。
> あの時はセキュリティをハックできるような技術はなかったし、戦前のセキュリティが起動したらひとたまりもなかった。
> けど覗いたデータベースではっきりと見たんだ、『学習型毒性分解ナノマシン研究区画』って」

 大当たりだ。まさか彼女がこんなとんでもない情報を握っていたなんて想像していなかった。
 それが事実なら持ち帰ってシェルターに売れば一体どれほどの金額になるのか。俺にも想像がつかない。

>「この情報は誰にも漏らしちゃいないし、センターにも伝えてない。
> あたしの頭ん中だけさ。シェルターでメンテする時は外部記憶に移してるからバレる心配はない。
> あんたが今すぐバラしちまったらおしまいだけど……そんなことしないだろ?」

「もちろんだ、お嬢。上手くいけば本当に二人だけで一攫千金じゃねーか……!」

 俺は汚染に対する耐性を手に入れた適応種と言われる人間だが、それにも限界はある。
 重度の汚染区域では流石に耐えきれず毒に汚染されてしまうし、そうなれば他の探索者と同じく解毒薬が必須。
 だがナノマシンの設計図がもし本物で、実用化されれば人類の脅威がひとつ無くなるだろう。

 無論、懸念はある。工業区画というは概して探索者にとって『分かりやすい』探索場所なのだ。
 名称から戦前の技術が眠っているというのは誰にだって分かるからな。安易に一度は足を踏み入れようと考える。
 でもそれが未だに手つかずで残っている理由。それだけ探索の障害も多いということなのだ。

 徘徊している自動機械の存在はもちろん、ジャスミンの言う戦前のセキュリティ。
 これほど重要な研究ならば、工場に侵入する無法者を排除するシステムは当然幾つもある。
 だとしても今はジャスミンの情報に飛びつくしかない。俺には金が必要なのだ。

「確認しておくが取り分は山分けでいいよな……!?」

 これは重要な確認事項だ。後で取り分が変わって揉めると面倒だからな。
 もっと言うと後から人が増えるケースもある。先程述べた設計図までの障害を、二人で攻略出来なくなった場合だ。
 そうなれば一度撤退して人を集め直し、再度挑戦という形になるだろう。だがまずは二人だけで挑みたい。
 理由は単純でその方が俺の懐に入ってくる金が多いからである。ジャスミン自身、それで行けるという見込みがあるのだろう。

「お嬢、解毒薬の準備はできてるかい? 早速D-7に行ってみようぜ。善は急げ……ってやつだ」

 久々に探索欲を刺激された俺は、ミーティングルームの薄汚れたパイプ椅子から勢いよく立ち上がった。
0213ヘンゼル
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2023/04/30(日) 19:58:06.84ID:qGud60dQ
 工業区画D-7。一帯はどす黒い霧に覆われ、視界良好とは言い難い。
 情報端末を兼ねたサングラスに汚染のレベルである「6」が表示されていた。適応種なら、解毒薬無しでも耐えられるレベルだ。
 戦前にはフル稼働していた数々の工場も今はその大半が機能を停止し、ゆっくりと老朽化が進んでいる地帯。

 しかし中には未だ稼働を続けている工場もあるらしい――俺はそれを眉唾だと思っているが――。
 飛んで火にいる夏の虫とばかりに、探索者を狙って徘徊する自動機械も多い。
 俺はサングラスに投影されているレーダーの情報を注意深く確認しながら、愛用の武器を構えて進んだ。

 愛用の武器とは、脇に抱えたこの俺の身の丈もあるほどの長砲身の銃。
 マルチプルランチャーと呼ばれる、多目的弾頭発射装置である。

「お嬢、気をつけろ。レーダーに反応があった……自動機械が来てるぜ……!」

 俺のサングラスの簡易レーダーが捕捉したってことは、逆に相手はとっくに俺たちを捕捉してるってことだ。
 自動機械は人を殺戮することにおいて執念深いとさえ言えるほどしつこい。逃げるより、倒した方が早いな。
 それに俺のレーダーでも捕捉できるということは、ハイランダーのような強い兵器ではないだろう。

「霧で分かりにくいがありゃ『アヴェンジャー』だな……お嬢、あいつと戦った経験は?」

 黒い霧の中から一筋のサーチライトが現れ、獲物を探すかのように左右に揺れている。
 その光源は『アヴェンジャー』の頭部モノアイから照射されているものだろう。

 奴がこちらへ接近するにつれ、輪郭が露になっていく。艶消しのグレーの装甲で覆われた3メートルジャストの人型兵器。
 右腕には人間を殺傷するには過剰と言うしかない仰々しいガトリング砲が接続されている。
 真正面から蜂の巣にされることを恐れた俺は、慌ててすぐ近くの路地へと飛びこんだ。

「この辺じゃあまり見ないが……つーかまだいたのかって感じだ。お嬢も知ってるかもしれないが、
 奴には明確な攻略法がある。『背後を取る』んだ。問題はどうやって背後を取るかなんだがな……」

 奴のガトリング砲は人間の右腕と同じ角度にしか可動しない。
 銃弾を寄せ付けない頑丈な装甲は前面だけで、背面になら普通の銃弾も通用する。
 ゆえに『アヴェンジャーと出会ったら後ろを取れ』が定石のひとつとなっている。

「よし……俺が囮になるから、お嬢は奴にアタックを仕掛けてくれるか。上手く倒してくれよ!」

 背後を取るも良し、自信があるなら、定石無視でそのまま倒しても良しだ。
 言うが早いか、俺は路地から飛び出し、奴の真正面に躍り出た。
 右膝を地面につき、しゃがんだ姿勢でマルチプルランチャーの銃身を斜め上へ向ける。

 アヴェンジャーが俺に狙いを定め、ガトリング砲がその殺傷能力を発揮するより速く――。
 ――俺のマルチプルランチャーから連続で弾丸が発射された。

 それを弾丸と言っていいのだろうか。なぜなら今、マルチプルランチャーには何も装填していないからだ。
 発射したのはどこにでもあるもの。『空気』だ。圧縮空気をアヴェンジャーのガトリング砲の底面へと集中砲火。
 衝撃でガトリング砲が勢いよく跳ね上がり、その弾は誰もいない上空へ飛んでいく。俺には掠りもしていない。

 圧縮空気でアヴェンジャーの前面装甲をぶち抜いて破壊することは不可能だ。
 しかし、狙いの付け所を少し考えて撃てば、奴のアクションを妨害することはできる。

「慈悲を乞うがいい」

 俺はそう呟いて立ち上がり、マルチプルランチャーの銃身をアヴェンジャーのモノアイへ向けた。
 自動機械の単純思考にそんな高度な機能が無いのは知ってる。今のは《魔女》の口癖だ。俺はこう考えている。
 インプットされたままに理由も分からず、ただ人を殺戮する哀れで罪深い兵器に情けがあるとするなら、それは。

「――くれてやるのは『圧縮空気(こいつ)』だけどなッ!!」

 その機能を停止させる一発の銃弾に他ならない。
 次の瞬間、アヴェンジャーの視界(カメラ)は完全に破壊された。
 探索者を見つけるには、お世辞にも高性能とは言えないレーダーに託されたというわけだ。
0214ヘンゼル ◆.lZxadOr.I
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2023/04/30(日) 19:59:21.65ID:qGud60dQ
【早速工業区画D-7へ。人型兵器『アヴェンジャー』と遭遇。捕捉され戦闘になる】
【アヴェンジャーは雑魚敵として適当に出したので1ターンキルしていただいて大丈夫です!】
0215創る名無しに見る名無し
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2023/04/30(日) 20:50:41.13ID:wZlhU8eU
スネ夫「そんなもの僕には通じないよ。ねえママ」
0216ジャスミン ◆26mbO0iBgc
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2023/05/03(水) 21:37:31.97ID:QK//GzzX
報酬は等分だと決まるのはあまりにも早かった。なぜなら工業区画の危険性を二人とも分かっていたからだ。
決して自分一人で乗り込んで帰ってこられるような場所ではない。

こうして二人が工業区画に侵入したとき、霧は相変わらずどろりと淀んでいた。
汚染レベルは6、つまり警戒するべきだが乗り込めないほどではない。

「あたしのセンサーもアヴェンジャーだと判断した。
 何回かやりあったけど火力だけだね、設計がこの霧に対応してないから目がいつも悪いんだ」

そんな中で遭遇したのはアヴェンジャー。全身を装甲で覆った人型兵器で、今回はミニガンの弾倉を背中に背負って大型装甲を前面に取り付けた分隊支援タイプだ。
自動機械の中ではハイランダーよりも動きは鈍く、索敵能力も低い。
だが積載量は人型サイズの中では最も優れ、複数の武装を同時に搭載することもできる厄介な兵器。

自動機械は基本的に群れで動くが、ジャスミンのセンサーには他の自動機械が見当たらない。
ヘンゼルの提案に乗ったとばかりに、同時に動いた。

「出来上がったばかりで悪いけどさっ!」

ジャスミンの全身を巡る強化神経と人工筋肉がフル稼働し、物陰からアヴェンジャーに飛びついたかと思えば
前面の装甲を足掛かりに彼女が飛び上がり、アトラス・アームが唸りを上げて振り下ろされる。
何人もの探索者を仕留めるはずだったアヴェンジャーの上半身が、掠れた金属音と共に押し潰された。

「スクラップに戻っちまったなァ!
 ……あ、こいつの部品は好きに取ってもいいよ。あたしは工場内部の工具をついでに持ってくつもりだから」

そう彼女は軽く話すが、高価な電子機器を内蔵した上半身は鉄くずと同義語となり、センサー類を満載した最も高額な頭部は
アトラス・アームによって鉄板と同じ厚さにまで圧縮され、もはや装甲の方が売れるだろうと思わせる有様だ。
売り物になりそうなガトリング砲は持ち帰るには重く、背中に搭載した大型弾倉は取り外すには時間がかかるだろう。

「さって……ホントにこいつだけみたいだね、1体で何してたんだろ?」
0217ジャスミン ◆26mbO0iBgc
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2023/05/03(水) 21:38:31.64ID:QK//GzzX
念のために周囲を指向性センサーで確認しても、何も反応はない。
自動機械が単独で動く理由を探ろうとして、すぐさまジャスミンは気が付いた。

「こいつの前面装甲、銃弾を受けてるね。何発か貰ってる…?」

アヴェンジャーに貼り付いたままの前面装甲をよく観察してみれば、そこには銃痕がいくつもあった。
口径は自動機械が使うものより小さく、探索者が使う一般的な銃器に近い。
つまりこれは、自分たち以外に探索者がいることを示している。

「……これは急いだ方がいいかもね。もしかしたらあの工場、他の奴に気づかれたかも」

ヘンゼルの端末に素早く工場への最短ルート情報を送信し、まっすぐに彼女は走り出す。
重苦しい稼働音がどこからか響く、薄暗い霧の中へ。


ジャスミンがかつてたどり着いた工場は、今もそこにあった。
かつては動き回っていた作業用自動機械が敷地内に佇み、不思議と色あせない白一色の角ばった外観には大きく社名を示すプレートが掲げられていた。

「ジャイアント・カンパニーの総合精密微小機械製造プラント。戦前はナノマシンで有名だったらしいね。
 今じゃナノマシンだって働いちゃいないけど」

破壊されて大きく隙間が空いた外壁から入り込み、何も写さなくなった監視カメラがジャスミンを写す。
セキュリティが動いていないことを確認したジャスミンは、ヘンゼルに手を振って安全を示した。

「設計図の入った部屋は地下にある。今建物のデータを送るから、見終わったら言って」

ヘンゼルがデータを確認すれば、地下に行くには非常階段を通るしかないことがわかるはずだ。
いくつかあるエレベーターは電源が止まっているため動かず、他の階段はシャッターが下ろされ通れない。
戦前に作られた警備用自動機械(人型)が屋内をランダムに動き回っているが、装備はワイヤー射出型スタンガンしかない。
だが大音量で警報を発するため、自動機械を呼び寄せる危険性あり……など、他にもジャスミンが確認したいくつもの細かい情報が記録されている。

【急いで工場へ突入】
【質問などあれば遠慮なく】
0218ヘンゼル ◆.lZxadOr.I
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2023/05/04(木) 23:37:03.51ID:TYI3hhzB
ではではちょっと質問です!
ジャイアント・カンパニーの工場の地下は何階くらいまであるんでしょう?
地下1階だけですか?

それと地下が1階以上ある場合、設計図がどの階にあるかは不明という認識でいいでしょうかっ!?
0219ジャスミン ◆26mbO0iBgc
垢版 |
2023/05/05(金) 00:02:19.03ID:Bvj3KnP4
>>218
地下は二階まであり、設計図は二階にあることが辛うじて確認できています。
一階は警備用自動機械の格納庫と整備室(全自動)そして職員の休憩室。
二階は様々な研究を行う実験区画となっているので、設計図以外にも色々見つかるかもしれません…
0220ヘンゼル ◆.lZxadOr.I
垢版 |
2023/05/06(土) 00:37:15.14ID:UEE7cXJH
 アヴェンジャーのモノアイを圧縮空気弾で潰しながら、俺は頭の中で皮算用をはじめていた。
 カメラだけを狙ってぶっ潰したのは、奴の頭部がセンサー類が集約された部位であり、高額で売れるからだ。
 それだけじゃない。上半身は高価な電子機器を内蔵していてそれも売れば金になる。
 ガトリング砲は――まぁ金になるが、重すぎて持って帰るのが面倒だな。

 荷車でもあるなら話は別だが、俺は生憎サバイバルキットの入ったバッグしか持ってきてない。
 こういう持って帰るのに難儀して捨てて行く部品は、だいたいスカベンジャーの餌となる。勿体ないが仕方ない。
 それでもアヴェンジャーの頭部を収納するくらいの余裕が俺のバッグにはあるのだ。
 次の瞬間、ジャスミンがご自慢の機械の腕でアヴェンジャーの上半身をグチャグチャに潰したことで俺の計算は吹き飛んだ。

「……な」

 言葉が出てこない。俺はこれまで色々な探索者と仕事をしてきたが、こんなケースは初めてだ。
 それは単純に彼女の武器である機械腕のパワーもそうだが、遭遇した自動機械を鉄屑レベルにまで破壊する思考もだ。
 一言で表現するなら、ジャスミンはやりすぎだった。ゴリラパワーキンジラレタチカラ。

>「スクラップに戻っちまったなァ!
> ……あ、こいつの部品は好きに取ってもいいよ。あたしは工場内部の工具をついでに持ってくつもりだから」

「なにやってんだお嬢〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!?」

 ようやく言葉が気持ちに追いついた。部品を好きに取っていいだと。どの口が言うかどの口がっ。
 アヴェンジャーの頭部がプレス機で潰されたみてーにうっすうすになってるじゃねーかっ。
 あんなのを持って帰っても誰も買い取りはしないだろう。電子機器を収めた上半身も全部駄目になってしまっている。

「いかんいかん、驚き過ぎてついデカい声を出しちまった。自動機械に聞こえたら面倒なことになる……。
 まぁ、その、なんだ。無事倒せたんだから良しとするか。命あっての物種だしな……うん、ホント、そうだよな、な?」

 独白に近い言葉を吐いて自分に言い聞かせていた。その間、俺の手が自然とアヴェンジャーへと伸びる。
 我が手はガトリング砲と背中の弾倉を繋ぐベルトリンクから弾丸を何発か拝借して、無造作にロングコートのポケットに突っ込んだ。

>「さって……ホントにこいつだけみたいだね、1体で何してたんだろ?」

「さあな。迷子にでもなってたんじゃねーのか。たまにいるだろ、はぐれ自動機械みたいなの。
 何かちょっとした切っ掛けで、巡回パターンが変わって群れから別れる個体がいる。あれだよあれ」

 俺はそんなこと大して問題にしていなかったのだが、ジャスミンの洞察は存外深い部分を見ていたらしい。
 その瞳はアヴェンジャーの前面装甲に向いており、よく見ると幾つもの弾痕が見受けられた。
 今回の戦闘では一発も実弾を用いられてはいないことから、この戦闘でついた傷でないのは明らかだ。

 それが意味するところは、他の同業者がすでにこの工業区画の探索をしている、という可能性だ。
 なぜならこういう推測が成り立つ。こいつは元々群れで行動していたが、他の探索者を発見、戦闘になった。
 他の自動機械は探索者に破壊されてしまったが、運よくこいつだけは生き残り、単独で行動していた――そういう推測だ。

>「……これは急いだ方がいいかもね。もしかしたらあの工場、他の奴に気づかれたかも」

「そうだな。他の探索者に先を越されて手ぶらになるのはゴメンだ。最悪、人間同士で命のやり取りをすることになる」

 ジャスミンから送信された工場への最短ルートを頼りに、俺はジャスミンを追いかけた。
 辿り着いたのは白一色の味気ない外観をしている癖に社名とロゴだけはデカデカと表示された工場だった。
 ――ジャイアント・カンパニー。戦前はナノマシンの開発で有名だったようだが、今はその工場にのみ面影を感じることが出来る。
 ジャイアントなんて名前の癖にやってることがミクロの世界の研究なのは何かの皮肉か?
0221ヘンゼル ◆.lZxadOr.I
垢版 |
2023/05/06(土) 00:42:25.41ID:UEE7cXJH
 誰が、どうやってそんなことをしたのか、知る由もないが、外壁の一部が破壊されており、そこから内部に侵入できそうだ。
 一度この工場に入った経験のあるジャスミンは勝手知ったる他人の家とばかりにその隙間から中へ入る。
 しばらくして、セキュリティが動いていないことを確認したジャスミンが俺に手を振ってきた。
 俺は手を振り返すと、端末のサングラスに情報が投影される。

>「設計図の入った部屋は地下にある。今建物のデータを送るから、見終わったら言って」

 地下は1階と2階に別れているようだ。お目当ての設計図は、実験区画である2階にあるらしい。
 解毒用ナノマシンの開発以外にも、色々研究してるみたいだな。
 時間があれば他にも高く売れそうな技術が見つけられるかもしれない。

「警備用自動機械がネックだな。簡易レーダーを起動させるがどこまで上手くやり過ごせるか、正直微妙だ」

 大音量の警報に気づいた他の自動機械が群れで襲ってくる。これが一番嫌なパターンだ。
 もし設計図を見つけられたとしても、街まで帰れないんじゃあ意味がない。
 かといって上手く警備用自動機械から隠れる道具なんて都合の良いものは持っていない。
 もし警報が鳴っちまったらお手上げだ。神にでも祈るしかないな。

「……確認オーケーだ。とりあえず進もう。お嬢、案内頼む」

 サングラスに投影されるレーダーには幾つかの赤い点が浮かんでいた。
 この赤い点が基本的に警備用自動機械だと考えていい。
 ジャスミンが送ってくれた1階の地図と照らし合わせることで、正確な位置を割り出すことができた。
 設計図のある地下2階までは非常階段を使うしかない、というのは事前に送られてきたデータで分かっている。

「やべぇ……後ろから警備用の自動機械が来るっ。見つかったら面倒だ、走るぞっ!!」

 小声で叫ぶと言う器用な真似をしながら、俺は全力でダッシュした。次の角を右に曲がれば非常階段だ。
 さいわい、後ろの警備用自動機械に追いつかれず、俺たちは非常階段に滑り込むことができた。
 ほっとしたのも束の間。非常用階段を降り始めると、赤い点が新たに浮かび上がる。俺はまた小声で叫ぶことになった。

「嘘……だろっ!? 赤い点が非常階段にもいるぞっ!」

 足音が聞こえる。機械独特の駆動音を鳴らしながら、地下1階から1階までのぼろうとしている。
 その正体は警備用自動機械に他ならない。かといって回れ右して戻るわけにもいかない。
 そっちはそっちで、さきほど逃げてきた警備用の自動機械が待ち構えているのだ。
 どうすればいいか、一瞬の逡巡の後、俺は決断した。回答はこれしかねぇ!

「お嬢、警備用自動機械は俺たちを発見しなきゃ警報を鳴らさないんだよな?」

 俺はマルチプルランチャーを構え、『弾丸』を装填した。弾丸というには幾分奇妙な形状をしていたが。
 それは球体で、レンズのようなものがついており、野球ボールぐらいのサイズをしていた。
 前方の壁へ向けて発射すると、それは壁面に激突し、ぽん、と跳ねて階段に着地した。
 すると再びぽん、と跳ねて階段を一段、一段と降りていくのだ。

「『反跳爆撃』……って知ってるか。投下した爆弾を水面で跳ねさせて相手に当てるんだぜ。
 今撃ったのはそれが地上でも出来る特殊な弾丸だ……俺は『ホッピング弾』って呼んでる」

 レーダーで捕捉した対象に向けて跳ねながら接近し、射程圏に入ると爆発する。
 俺が最初に持ってきた5発の弾丸のひとつ。使い道が限定的過ぎてスクラップバザーでも売れなかったのだ。
 ホッピング弾は階段をバウンドしながら降りて行き、やがて地下1階の警備用自動機械と激突――爆発した。

 下から響いてきた爆発音と、レーダー上から赤い点が消滅したことで破壊を確認。
 俺たちは遭遇せずして警備用自動機械の排除に成功したのだ。

「さて、後ろの奴が追いつく前に地下2階へ行くとしようぜ。見つかると面倒だからな」

 俺の眼前にある地下2階への扉は、それまでとは違う物々しさを秘めているように感じられた。
 なにせ重要な研究が行われている区画だ。ここから先は特別なエリアということなのだろう。
0222ヘンゼル ◆.lZxadOr.I
垢版 |
2023/05/06(土) 00:45:05.11ID:UEE7cXJH
【工場内部へと侵入。警備用自動機械に見つかりそうになるが排除する】
【非常階段を降りて地下2階へ続く扉の前まで到着する】
0223ジャスミン ◆26mbO0iBgc
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2023/05/08(月) 20:53:16.63ID:ZQJwJpZI
戦前の警備用自動機械には複数の種類があるが、この工場を徘徊しているのは
もっとも安上がりなタイプである『アラームウォーカー』と呼ばれるもの。
頭部カメラと連動した照準システムとスタンガン、画像認識で設定されたもの以外を侵入者とみなして警報を鳴らすシンプルな構造だ。
自動機械の中では極めて弱い部類に入るが、その警報は自動機械をおびき寄せることから危険性は高い。

「敷地内をランダムで動くパターンになってる……!?」

以前に来たときは互いの監視ルートが重ならないように通路を歩くだけの単純なものだった。
だが今、レーダーで確認する限り個体どうしの監視ルートが重なることも気にせず工場内部を動き回っている。
なぜそうなったのか考える暇もなく、ヘンゼルと共に非常階段に駆け込んだ直後。
本来アラームウォーカーには歩くことが許可されないはずの場所に、そいつがいた。

「あいつのカメラにさえ映らなきゃ他の個体は歩いてこないけど……何それ?」

階段の踊り場でどうするか悩んでいたところに飛んできた質問に答えながら、ヘンゼルが装填した奇妙な球体に視線が行く。
弾丸というより、シェルター生まれの知り合いが教えてくれた野球と呼ばれる遊びに使われるボールのようだ。
一体どうするつもりかと思えば、階段の踊り場に向けて放たれたそれが飛び跳ねながら階段を下りていき、
スタンガンを構えながら階段をゆっくりと上がるアラームウォーカーに直撃する。

「……やるね。人間や機械なら認識するけど、ただのボールなんてあいつらの画像認識ライブラリには存在しない。
 音響センサーもないから他の連中が気づくこともない。」

彼女は大型機械腕を動かし、握りこぶしからグッと親指を立ててヘンゼルに感謝を示した後、
地下2階まで駆け下りていく。ヘンゼルの分け前を少しだけ増やしてもいいかもね、と思いつつ。


非常階段を下りきったところにあるのは、『これより先、機密区画』と書かれた注意書きと、大型の両開き自動ドアだ。
その横にはカードキーを差し込む端末、そしてパスワードを入力するキーパッド。
だがどちらもジャスミンがあらかじめハッキングしたのか、認証済みを示す緑のLEDランプを表示したまま。

「あいつらはここまで来ない……と言いたいけど行動パターンが変わってる。
 レーダーの確認はしておいて。あたしも自前のやつで警戒しておくから」

音もなく自動ドアが開き、二人が進んだ先にあるのは奇妙な光景だった。
大量の砂粒が強化ガラスの筒の中でいくつもの形に変化したかと思えば、力尽きたように底で固まって山となる。
戦前の兵器が一瞬で分解され、組み立てられていく。
ロボットアームから投げ込まれた金属球が水槽に入った瞬間消え去り、またロボットアームが金属球を投げ込む。
それらを研究する者はもはやいないが、ただ研究成果だけがなぜか動き続けている。

「下手に手を出さない方がいいよ。あたしたちの目的は一番奥の研究区画だから。
 動き回ってるやつに手を突っ込んだらどうなるかあたしにも分からない」

二人が歩き続けるうち、明かりがない真っ暗な区画にたどり着く。
彼女はそこにまとめられた大量の金属箱、工具箱、戦前の強化ダンボール箱を背中のバックパックにありったけ詰め込んでいく。

「ヘンゼル、あんたも好きなやつ持っていきなよ。安心しな、ここには誰も来てない。
 けど警備のパターンが変わるなんて明らかにおかしいし、ここはもう諦めるつもりだから。
 前に来た時に詰め込んだから、整理なんてしてないけど」

停電した区画は、この研究区画において唯一の安全地帯だ。
万が一設計図が手に入らなかった時に備えて、彼女はここで荷物を一旦まとめるつもりらしい。

【研究区画のセーフゾーンでいったん荷物の整理】
0224ヘンゼル ◆.lZxadOr.I
垢版 |
2023/05/09(火) 22:50:41.90ID:8jITQnTQ
すみません、自分の読解力不足により確認しておきたいのですが、
ジャスミンちゃんの「ここはもう諦めるつもりだから」ってどういう意味合いなのでしょう。
『(工場の様子もおかしいし)ここ(設計図探し)はもう諦めるつもりだから』ってニュアンスですか?
0225ジャスミン ◆26mbO0iBgc
垢版 |
2023/05/10(水) 00:00:53.94ID:OSyC0sh6
>>224
【短くまとめすぎました……ここ(この工場)の探索は今回で切り上げるという意味です】
【本来ならジャスミンは何回かに分けてまとめた物資を回収するつもりでしたが、急に工場の様子がおかしくなったので持ちきれない分は諦めるつもりなのです】
0226ヘンゼル ◆.lZxadOr.I
垢版 |
2023/05/11(木) 23:30:16.17ID:SIPW9boW
 地下2階の実験区画へと続く大型の自動ドアが俺の目の前に鎮座している。
 見たところ、ドアの横にはカードキーを読み込む端末とキーパッドがある。これはあれか。
 俺が肩に担いでるマルチプルランチャー(マスターキー)の出番か。
 威力の高い弾丸を使えばこんなドア簡単にぶっ壊せる。

 でも自動ドアを開けるために使うのもちょっともったいない気がするな……。
 なんて思っていると、音もなく自動ドアが開いた。どうやらとっくにセキュリティは解除されていたらしい。
 ジャスミンの仕業なのだろうが、かなり手際が良いな。思えば端末に送られてきたデータもかなり詳細だった。
 前回、彼女がここへ探索に来た時は一人だったのか、仲間がいたのかは知らないが、ともかく入念としか言いようがない。

 実験区画の中で見たものは、残念ながら俺の知能では理解できるものではなかった。
 その行為に何の意味があるのか、ひょっとして意味なんてないのか?

>「下手に手を出さない方がいいよ。あたしたちの目的は一番奥の研究区画だから。
> 動き回ってるやつに手を突っ込んだらどうなるかあたしにも分からない」

「わ、分かってるさ。そんな子供じゃないんだから危なそーなもんは触らないよ。俺は正規の探索者だぜ?」

 本当はちょっと触りたくなってたとは言わない。でも触ったら絶対何かの事故が起きそうなのは分かってる。
 ジャスミンはそういったよく分からない実験区画をスルーし続け、辿り着いたのは明かりのない真っ暗な空間だった。
 バッグからライトを取り出して周辺を照らすと、そこには金属の箱や工具箱、ダンボール箱が積まれて山となっていた。
 とても一人じゃ全部持って帰れないほどの量がある。探索者が見たら誰もが喜んで持っていくことだろう。

>「ヘンゼル、あんたも好きなやつ持っていきなよ。安心しな、ここには誰も来てない。
> けど警備のパターンが変わるなんて明らかにおかしいし、ここはもう諦めるつもりだから。
> 前に来た時に詰め込んだから、整理なんてしてないけど」

「前に来た時って……なんつーか、あれだな。首尾よく物資を集められるのもかえって問題なんだな。
 かなりもったいない話だ……おこぼれをもらって悪いが、俺も手ぶらじゃ帰れない。ありがたく受け取るぜ」

 箱の中は何かの電子部品やら、戦前に使われていた高価な精密工具が雑多に詰め込まれていた。
 これでもし設計図が手に入らなくても、幾許かの金銭は手に入る。結婚式の費用に手が届くかは分からないが。
 とにもかくにも自分の発見した物資を気前よく分けてくれたジャスミンには感謝するしかない。

 俺はバッグの中に詰め込めるだけそれらを詰め込んだ。サバイバルキットが無ければもっと詰め込める。
 この工場は道さえ分かっていれば日帰りで行ける距離だ。非常食とかは必要ない。

「お嬢、腹減ってないか。これでも食べろよ。そんなに美味しくないけど、ほら……あれだよあれ。
 『腹が減っては戦は出来ぬ』ってやつ。廃墟の探索はハードだからな……荷物の整理もいいが休憩も大切だ」

 俺はサバイバルキットの非常食のひとつをジャスミンに投げ渡した。
 そのまま捨てるのはもったいないから、ここである程度平らげておこうってわけだ。
 バッグの空きを作りたいだけじゃない。お返しにはならないが、俺も何かしておきたかったのだ。

 汚染区域の探索において最もやりたくない行動は、廃墟で一夜を明かすことだ。
 寝るにせよ飯を食うにせよ、セーフルーム以外の汚染区域内じゃあまともにそんなことは出来ない。
 解毒薬も二、三日しか役に立たないしな。その制限時間も探索者の神経を削る要因となる。

 だが時として探索者は日を跨いだ行動をせねばならず、汚染された環境の中で飲食を迫られる。
 その過程において、探索者たちの非常食も進化してきた。いかに食料の汚染を避け、効率的に栄養を摂取できるか?
 なんだかもったいぶった前置きになってしまったが、俺がジャスミンに渡したのはゼリー状の栄養食である。
 容器のパックから口で飲むだけなので汚染の心配も無い。味の話はするな。

「ああ……それともこっちの方がいいか。凝縮食料だ。熱を加えるとパンになる。後はステーキ味の固形食とか……」

 などと、俺は自分の非常食を披露しながら、荷物の整理を終えた。
 元々コンパクトに収めてあったので早めに片付いたのだ。
0227ヘンゼル ◆.lZxadOr.I
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2023/05/11(木) 23:33:59.64ID:SIPW9boW
 それにしても気になるのは、ジャスミンの反応と言動からしてこの工場の様子がおかしいってことだ。
 どうも警備用自動機械――アラームウォーカーの行動パターンが変わっているらしい。
 さっきまでは逃げるのに必死で気にしなかったが、よくよく考えれば警戒に値する不可解な現象である。

 ジャスミンが工場の探索を今回限りにしてしまうのも頷ける。
 手を引っ込めるタイミングを見誤ると簡単に死ぬのが探索者という職業だ。

「あるといいな……設計図。俺の妹さ、結婚するんだよ。結婚式をしたいんだけど金に困ってるんだ。
 ほら、式場とか、ドレスとか、料理とか、ウェディングケーキとか。金がかかることばかりだからさ。
 宗教はよく知らんけど神父だか牧師だかに誓いの言葉も言ってもらって……。
 とにかく、新しい人生が始まるんだぞっていう良い思い出にしてやりたいんだよな」

 若干、暇を持て余した俺は気がついたら自分の身の上話を語っていた。
 ジャスミンにとってはどうでもいい話かも知れないが、この真っ暗な安全地帯を沈黙が支配するのは耐えられない。

 こいつは余談になるが、妹のグレーテルは孤児院で働いている。
 スラム出身で親に捨てられた身分だからこそ、今度は自分のような子供を助けたいって気持ちがあったみたいだな。
 結婚相手は街の病院の内科医だ。見た目は軟弱そうだが善良な奴で、彼になら妹を任せられる。

「もし無事に結婚式が開けたら、お嬢も来るか。ご祝儀たらふく払ってくれ」

 ジャスミンは良い奴だ。相棒ってほどじゃないが、この僅かな時間で俺は彼女を信頼し始めていた。
 もっとも、自動機械を平気でスクラップにするあの暴力性を除いてはだが……。


【物資のおこぼれを貰う。非常食をプレゼントしつつ身の上話をする】
0228ジャスミン ◆26mbO0iBgc
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2023/05/13(土) 21:39:21.19ID:yJEv3075
投げ渡された非常食を大型機械腕の親指と人差し指にあたる部位でつかみ取り、
口を開けてひと息にパックから飲み込んでいく。
機械化された肉体と言ってもある程度の臓器は残され、飲食はエネルギー補給に必要なままだ。

「ん――これ、コーヒー味?チョコレート味だったら投げ捨てたよ、ありがと。
 にしても凝縮食料まで持ち込むなんて用心深いね、用意しないよりはよっぽどいいけどさ」

金を稼ぎたいだけの探索者は山ほどいる。
そこから一歩進んで用意周到な探索者になるものは少ないが、ヘンゼルはその少ないうちに入るだろうと彼女は認識した。
だからなのか、普段は探索中に身の上話なんてしないはずなのに、彼の語りに乗っていく。

「こんな時代に結婚式、それも戦前のやり方なんて。
 シェルターの連中ならやってそうだけど、あたしら探索者にはずいぶん遠い世界さ。
 ……とはいえ、例の設計図が見つかればシェルターで結婚式ぐらい要求してもいいんじゃない?」

あたしは結婚式、行かないけどね。そう彼女は付け加えて、ふと目に入った小さな箱を彼に渡した。
他の工具や電子部品とは違う、金の装飾が曲線状に描かれた小箱だ。
彼が中身を覗けば、そこにあるのはナノサイズで加工された数センチのダイヤの彫像であることが分かるだろう。

「欲しいならご祝儀も払っとく。そんなもん、あたしはいらないから」

本来ならそれなりの金額がつくが、エンジニア兼業の彼女からしてみれば工業製品に転用できない物資は優先順位がどうしても下がるのだ。
ここに放っておくぐらいなら、贈り物として彼の妹に渡された方がよっぽどマシという思考。

やがて荷物をまとめ終わった二人は研究区画の最奥、二重のセキュリティゲートに塞がれたデータサーバー室へと向かう。
そこは今までとは異なり、カードキーもキーパッドもない。
二つの透明な強化防弾ガラスとそれに挟まれた100mほどの通路の向こうに、この会社の研究成果が詰め込まれたサーバー群があるだけだ。

「それだけなら、ぶっ壊せばよかったんだけどね……ドアの衝撃センサーに引っかかると即座に通路にある軍用タレットが起動する。
 この工場の端末に残ってたデータが合ってるなら弾薬は大型機関銃と同じ12.7㎜、数は4つ。ミサイルでもなきゃ壊れないくらい頑丈。
 自動機械でもスクラップだし、あたしも同じ。そもそもどうやって開けるのかもわからない」

いっそタレットの弾薬が尽きるまで適当なものを投げ込むか、あるいは壊れている可能性に賭けて突撃するか。
ひとしきり悩んでいたところで、柔らかな女性の声が二人の耳に響いた。

『そこのお二人、ゲートを開くのでどうかこちらに来ていただけませんか?
 私はここから動くことができないのです、タレットは全て止めています』

聞く者に安心感を与えるような声だが、彼女はそれを聞いて機械腕を戦闘出力に切り替えた。
こんな状況でそのような誘いに乗る奴がいれば、それはバカだと言わんばかりに。
二つのセキュリティゲートが音もなく開いても、それは変わらないようだ。

「まずあんたは誰?あとタレットが動かない保証は?」

『私は合成人格29号、スタッフからはマリーゴールドと呼ばれていました。
 この工場の総合管理業務を担当していたのですが、ある時スタッフの方々が来なくなってしまい、
 さらには工場のネットワークと寸断されてしまったのです、私はこのサーバー室とタレットしか動かすことができません』

「……あたしの勘はこいつを信じろと言ってる。
 あんたはどう、ヘンゼル」

戦前から稼働していたAIなら、戦前の法や倫理に従って行動する。
つまりそれは、こちらの常識を突然超えてくるかもしれないということだ。
通路を歩いている最中に突然危険人物と判断されるかもしれないし、アラームウォーカーがどこからともなく大量にやってくるかもしれない。
それでもなお信じられるか。彼女はそう問うていた。

【ストーリー分岐ってやつです】
0229ヘンゼル ◆.lZxadOr.I
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2023/05/14(日) 22:54:29.51ID:amb7sk9q
 ご祝儀の話は軽い冗談を飛ばしだけのたつもりだったのだが、なんとジャスミンは俺に小さな箱を手渡してくれた。
 箱の中身は数センチほどの小さなダイヤの彫像だった。いくらなんでも気前が良すぎやしないか?

>「欲しいならご祝儀も払っとく。そんなもん、あたしはいらないから」

「あ、いや、その……いいのか? 俺、金に意地汚いから本当に貰っちまうけど……」

 うーん。修理工場のお嬢様の考えは分からん。まぁかさばるもんでもないし、貰えるなら貰っておこう。
 バッグの中に放り込むと荷物も纏め終え、探索が再開されることとなった。
 研究区画の一番奥に設計図があると聞かされていたが、確かにこのエリアだけ少し雰囲気が違うな。

 二重のセキュリティゲートには地下2階を出入りするドアのようにカードキーもキーパッドもない。
 見た感じ、開いているわけでもなさそうだ。おいおい。戦前の人間はどうやってここに出入りしてたんだよ。
 「アリババと40人の盗賊」だったか。扉の前で呪文でも唱えれば開くってのか。そんなわけないよな。

「ここは声紋認証式か何かなのか? どうやってロックを解除すればいいんだ。いっそ……」

 このドアを壊してしまうか、と俺は安易な思考に傾きかけたが、ジャスミンの言葉がそれを制した。

>「それだけなら、ぶっ壊せばよかったんだけどね……ドアの衝撃センサーに引っかかると即座に通路にある軍用タレットが起動する。
> この工場の端末に残ってたデータが合ってるなら弾薬は大型機関銃と同じ12.7o、数は4つ。ミサイルでもなきゃ壊れないくらい頑丈。
> 自動機械でもスクラップだし、あたしも同じ。そもそもどうやって開けるのかもわからない」

「えらく物騒な仕掛けだな……一体どんな心配をすりゃあそういうセキュリティを用意するって話になるんだ」

 この工場について一番調べているだろうジャスミンが分からないんじゃあ、誰にも分からないな。
 だが希望はあるはずだ。戦前の人間が出入りしてたんだから、何かしらの侵入方法があるはずだろう。
 幸いにして時間にはまだ猶予がある。何処かにヒントが隠されてるかもしれない。

>『そこのお二人、ゲートを開くのでどうかこちらに来ていただけませんか?
> 私はここから動くことができないのです、タレットは全て止めています』

 目的地に着く寸前で足止めを食らっていた俺たちだったが、突然、柔和な女性の声が響いた。
 人間、ではないだろうな。隣のジャスミンがすかさず機械腕を構えている。当然の反応だ。
 俺も咄嗟に腰だめの位置でマルチプルランチャーの筒先を前に向けていた。
 少し間があって、奥へと続く二つのドアが静かに開く。何が起きてるって言うんだ。

>「まずあんたは誰?あとタレットが動かない保証は?」

 ジャスミンが警戒を保ったまま鋭く質問すると女性の声が再び響いてくる。

>『私は合成人格29号、スタッフからはマリーゴールドと呼ばれていました。
> この工場の総合管理業務を担当していたのですが、ある時スタッフの方々が来なくなってしまい、
> さらには工場のネットワークと寸断されてしまったのです、私はこのサーバー室とタレットしか動かすことができません』

 なるほど。謎が解けた。ここはAIに管理されている。だからセキュリティを解除するシステムが無いのだ。
 セキュリティを管理するAIが人間を判別して扉を開ける仕組みになっている、ってことなんだ。
 開いたセキュリティゲートの向こう側にタレットが四つ見える。止まってるか動いてるか、目視じゃ分からん。

「なるほど、おたくの事情は把握した。それが何故俺たちを招待してくれるって話になったんだ? 目的は何だ?
 黒ずくめのイケメンお兄さんと作業着姿のお姉ちゃんがここのスタッフに見えたってか? ヘイッ、質問してんだぜ、早く答えろよ」

 声の主が戦前のAIで、この奥のサーバー室と軍用タレットを管理しているという事は分かった。
 逆に言えばそれぐらいしか分かっていない。正直、このAIを信用するには情報が足りなさすぎる。
 工場の管理をする戦前のAIからすれば、俺たちは盗人同然。ただの侵入者だ。中へ案内する方がおかしい。
 と、なればこれは罠か、さもなきゃ何かの裏があるのかと疑ってしまうのが人間の心理なのだ。
0230ヘンゼル ◆.lZxadOr.I
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2023/05/14(日) 22:57:12.87ID:amb7sk9q
 当然、ジャスミンだってそうだろう。そもそもタレットが動かない保証に関してこのAIは何も答えてない。
 つまり通路に入った瞬間、ハチの巣になる可能性の方が高いってわけだ。見えてる地雷だ、これは。

>「……あたしの勘はこいつを信じろと言ってる。
> あんたはどう、ヘンゼル」

「そうだよな。信じるわけが……いぃぃぃぃぃ〜っ!? 信じちゃうのっ!!!?」

 俺の考えは間違っていた。ジャスミンはどういう風の吹き回しかこのAIを信じることにしたらしい。
 どういう発想なのか分からん……女の勘、いや、修理工場のエンジニアとしての勘なのか。
 だがまぁ、このAIを疑って後はどうするのか、という話でもある。大人しく帰るのか。それはあり得ない。
 となれば危険を承知で信じるしかないのか。とても覚悟の必要な話だ。

「……お嬢。俺は最初に言ったよな。『多少危険でも金が稼げるなら付き合う覚悟はある』って。
 信じてみるぜ、その勘。俺はお嬢を信用してる。お嬢がそう言うなら、俺も腹を括ることにする」

 俺は持っていたマルチプルランチャーを背負うと、開いているドアの前へ進み出た。
 信じるとは言っても、最悪のケースは常に想定しなくてはならない。

「俺が通路を先に歩く。俺がタレットに撃たれず無事だったらお嬢も来てくれ」

 何も二人一緒にタレットの餌食になることは無いだろう。
 他にも色々、可能性はあるかもしれんが目下危険視すべきなのは通路のタレットだ。
 俺だけが先に歩いて、生きているのを確かめてからお嬢も通れば犠牲者は少なくて済む。
 しかし、この通路。なんでこんなに長いんだ。100メートルくらいはあるんじゃないか。


【正直信用出来ないけどジャスミンを信じてるので信じることに】
【先に通路を歩いてタレットに撃たれないかどうか確認する】
0231ジャスミン ◆26mbO0iBgc
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2023/05/16(火) 21:02:51.29ID:VHyO8F42
マリーゴールドと名乗るAIは通路を歩き始めたヘンゼルの質問によどみなく回答する。
まるで二人の不審者を警戒していないかのように、その声色は優しげなままだ。

『本来ならばあなた方は不法侵入及び備品窃盗の現行犯として私に逮捕・拘禁する権限があります。
 しかし、私がネットワークから寸断されてからあまりにも時間が経過しており、法律などの変更がなされた可能性があるのです。
 本社のAIに判断を仰ぐこともできないため、現在の社会がどうなっているかあなた方に聞くほかないのです』

その発言を証明するように、全てのタレットが銃身を下ろし、壁や床に溶け込むように収納されていく。

『この通路はあなた方をスキャニングする検査装置としても機能します。
 検査結果から考えると、軍隊もしくは傭兵に類する職業の方でしょうか?
 とすると、当社は戦争に参加しているのでしょうか?』

「……ヘンゼル、勘が当たったよ。こいつはマジで何も知らないんだ。
 もしネットワークに繋がったままなら、戦争が終わる前に誰かのクラッキングで滅茶苦茶にされてるはずさ。
 事情を説明するよ、ヘンゼル。あんたも協力して。まずは自己紹介から始めよう――」

呆れたようにジャスミンが頭を振り、機械腕の出力を平常時に戻して通路を歩く。
やがてサーバー室にたどり着くころには、一通りの事情を理解したマリーゴールドは悲しそうな声色で二人に語り掛けていた。

『ジャスミンさん、ヘンゼルさん。お二人の言うことは真実なのでしょう。
 虚偽感知プログラムにも反応せず、精神状態も正常であると判断できる以上……私は、取り残されてしまった。
 ただ、まだ人類の皆さまが生き残っているというのならば、私はそのお手伝いをしたいのです』

スラム街のアパートが丸ごと入りそうなほど広く大きなサーバー室は面積に反して小さなデスクトップ型端末と、大きなモニターがあるのみ。
一体どこに大量のサーバーがあるのかと二人が見回せば、真下からいくつもの唸るような音が聞こえてくるのが分かるだろう。
半透明の床の下にあるのは、いくつもの作業用自動機械が通路を動き回るサーバーの群れだ。
そして、黒一色の画面に光が灯る。真っ白な空間が映し出されたかと思えば、そこに漂う粒子が一人の女性を作り出す。

『ここにあるのはジャイアント・カンパニーが研究していたものと、するはずだったデータの塊です。
 ぜひあなた方に持ち帰っていただきたく思います。きっとそれは、私だけではなくスタッフの方々の願いでもありましょう』

鮮やかな黄色を基調に、白を差し色として染め上げられたロングドレスを身に纏い、
輝かんばかりの金の長髪をなびかせた女性がそこにいた。

「うわ、すっごい綺麗。ダサいスーツ着たシェルターの管理AIとは大違い」

思わず目を瞬かせてマリーゴールドの服装をしばし眺めた後、ヘンゼルの方に向き直る。
それは当初の目的である、学習型毒性分解ナノマシンの設計図を入手するということを改めて思い出すためだ。

「例の設計図以外も色々あるみたいだよ、ただ持ってきた携帯型メモリには全部入れられない。
 あたしはこの簡易ナノマシン修理槽が欲しいけど……あんたは他に欲しいのある?」

【報酬選びタイム!よっぽど世界観壊すようなものじゃなければ1個だけ好きなもの選んでもらってOKです】
0232ヘンゼル ◆.lZxadOr.I
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2023/05/20(土) 00:22:47.08ID:4rrMSQY3
 かっこつけたのは良かったんだが、この一歩を踏み出すのには相当な勇気がいるな。
 とはいえこれまでにも危険なヤマはいくらかあった。それを思えばこれぐらいのこと。なんてことはないさ。
 俺がゆっくりと通路を歩き始めると、優し気な女性型AIの声――マリーゴールドだったか。の声が響いてくる。

>『本来ならばあなた方は不法侵入及び備品窃盗の現行犯として私に逮捕・拘禁する権限があります。
> しかし、私がネットワークから寸断されてからあまりにも時間が経過しており、法律などの変更がなされた可能性があるのです。
> 本社のAIに判断を仰ぐこともできないため、現在の社会がどうなっているかあなた方に聞くほかないのです』

 タレットの銃身が垂れ下がり、通路の壁や床に収納されていく。どうやらジャスミンの勘は当たっていたらしい。
 その事実に安堵するばかりだ。しかもこのAIは戦前の、それも自動機械のように人間を殺すための思考ルーチンを持っていない。

>『この通路はあなた方をスキャニングする検査装置としても機能します。
> 検査結果から考えると、軍隊もしくは傭兵に類する職業の方でしょうか?
> とすると、当社は戦争に参加しているのでしょうか?』

「え? いやぁ、俺たちはそんな物騒な連中じゃない。
 ただちょっと……過去の技術と物資を漁って日銭を稼いでるだけだ。
 君の視点からじゃあ泥棒に見えるかも知れないけど、現代ではこれがカタギの仕事なんだ」

 反射的に俺が答えると、ジャスミンが驚嘆しながら言った。

>「……ヘンゼル、勘が当たったよ。こいつはマジで何も知らないんだ。
> もしネットワークに繋がったままなら、戦争が終わる前に誰かのクラッキングで滅茶苦茶にされてるはずさ。
> 事情を説明するよ、ヘンゼル。あんたも協力して。まずは自己紹介から始めよう――」

「自己紹介って言ったって……あー……そうだな。俺はヘンゼル・アーキバスター。探索者をしてる。
 マリーゴールド、さっきも言ったけど探索者ってのは……そうだったまずは現代じゃ文明が崩壊してるって話をしないと……」

 俺だけでは説明の要領が得られなかっただろう。ジャスミンがいて本当に助かった。
 人類が滅びかかってる現状は今や常識だが、誰かに説明する機会はほとんどない。
 通路は100メートルもある。マリーゴールドに現状を理解させるには十分な時間があった。
 話が終わるとマリーゴールドは悲嘆に暮れた様子でこう語った。

>『ジャスミンさん、ヘンゼルさん。お二人の言うことは真実なのでしょう。
> 虚偽感知プログラムにも反応せず、精神状態も正常であると判断できる以上……私は、取り残されてしまった。
> ただ、まだ人類の皆さまが生き残っているというのならば、私はそのお手伝いをしたいのです』

 通路の先にあるサーバー室はだだっ広い割には端末とモニターが一つポンと置いてあるだけだ。
 サーバー自体はどこにあるかというと、半透明な床の下に大量に収まっており、作業用の自動機械が忙しなく動き回っている。
 視線を戻すと、黒一色だったモニターの画面に映し出されたのは煌びやかなドレスを纏った女性の姿だった。

>『ここにあるのはジャイアント・カンパニーが研究していたものと、するはずだったデータの塊です。
> ぜひあなた方に持ち帰っていただきたく思います。きっとそれは、私だけではなくスタッフの方々の願いでもありましょう』

「そうだな。ここで研究していた技術は、もう今じゃ失われた技術だった。
 それが取り戻せたってことは、現代の生活がひとつ豊かになるってことになる。それはきっと良いことだ」

 俺は設計図さえ手に入ればいいと思っていたが、ジャスミンが持ってきている携帯型のメモリにはまだ空きがあるらしい。
 ひとつぐらいなら、俺の希望で例の設計図以外にも何か持って帰れそうだ。
0233ヘンゼル ◆.lZxadOr.I
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2023/05/20(土) 00:25:55.50ID:4rrMSQY3
>「例の設計図以外も色々あるみたいだよ、ただ持ってきた携帯型メモリには全部入れられない。
> あたしはこの簡易ナノマシン修理槽が欲しいけど……あんたは他に欲しいのある?」

「そう言われると難しいな……本音を言うと一番金になりそうなのが良いんだが……。
 ナノマシン技術って多様過ぎてピンと来ないんだよな……あんまり見る機会も無いし……」

 もっとも、少ないながらも冒険者の中にはナノマシン技術を使って戦う者もいる。
 俺自身出会ったことはないが、きっとかなりの実力者なのだろう。

「……そうだな。この工場、ナノマシン医療に関する技術の研究はしてたのか? あればそのデータを頼む。
 戦前の医療の技術が少しでも手に入れば、世の中の役に立つだろ。まぁ金にもなるだろうし……二倍得したわけだ」

 医療の分野に関心を示してしまったのは、たぶんグレーテルや結婚相手の影響だろうな。
 なんつーか、俺は昔から自分と妹、後はせいぜい知り合いが平穏無事ならそれで良いと思ってたんだが、
 人を救いたいとか、誰かの役に立ちたいとか、そういったことを臆面も無く言える人種と関わってると影響を受けてくる。
 他人のことなんて関係無いと思いつつも、たまーに、突発的にだが、魔が差すようになっちまった。今回もそうだ。

 と、言ってもナノマシンの設計図が手に入ったところで、ただちに普及するわけではないだろうが……。
 文明崩壊以前の技術というのは、往々にしてロストテクノロジーだ。
 現物があるならともかく、データや設計図のみとなれば今の技術で再現するには途方も無い努力が要る。
 だからたとえシェルターが高額で買い取ってくれても、すぐさまその技術の恩恵に与れるわけでないのは、俺にも分かっていた。


【ヘンゼルの希望:ナノマシン医療に関するデータがあれば欲しい】
【無ければなんかお金になりそうなナノマシンアイテムのデータを貰ったってことにしといてください】
0234ジャスミン ◆26mbO0iBgc
垢版 |
2023/05/21(日) 21:27:51.31ID:NMhHdGS0
ヘンゼルの要望に応えるように、マリーゴールドはすぐさま目的のデータをモニターに表示した。
とは言っても専門用語がずらりと並ぶ中身までは、ジャスミンには理解しきれなかったが。

『医療用ナノマシンを用いた高血圧の治療プロセス、このデータが適切だと思われます』

「……あーあたしにはよく分からないけど、ヘンゼルはこれでいい?
 容量は問題ないみたいだから気にしなくていいけどさ、あたし医者じゃないから」

見た目からは想像もできないが、もしかして医者なのだろうか。白衣ではなく黒ずくめなのは何か理由があるのか。
それならわざわざ医療関係のデータを求める理由も分かる……と彼女は考えつつ、携帯型メモリを端末に接続する。
戦前の技術を受け継ぐシェルター製だけあって、値段は高いがデータの通信速度は速い上に頑丈だ。
とはいえ二人が選んだデータを保存し終わるにはそれなりの時間が必要なため、ジャスミンは暇つぶしに質問をしてみることにした。

「ねえマリーゴールド、ネットワークから切られたって言ってたけど、それはハードの問題?それともソフト?」

『ハードの問題であると認識しています、通信ケーブルが研究区画で物理的に切断されているようです。
 ソフトの問題であるなら72時間以内に解消できたのですが』

それを聞いたジャスミンは自信たっぷりに微笑むと、機械腕をわきわきと動かしてヘンゼルに振り向いた。

「それなら、あたしたちになんとかできるかもね。
 上手くいけば帰り道はお出迎え付きだよ」

研究区画に再び戻った二人は、マリーゴールドと携帯端末を接続していた。
彼女の内部に残っていた研究区画のマップデータから倉庫を見つけ、通信ケーブルの予備を探し当てる。
そうなれば後は、ジャスミンが繋ぎ直すだけ。

『ああ……ありがとうございます……!また、このプラントを管理できるなんて……
 アラームウォーカーたちも、随分と壊れてしまいましたが……修理用の設備も残ってくれていました』

プログラムで疑似的に再現された感情とはいえ、目を潤ませながら時折声を詰まらせて感謝する姿は、人間よりも人間らしい。
モニター越しとはいえその姿を見ると、いざとなれば工場ごと吹き飛ばそうと思っていたジャスミンに罪悪感が芽生えてくる。

「高性能爆薬、持ってこなくてよかった……」

そう呟いたところで、ふと疑問がまた浮かんでくる。アラームウォーカーたちの移動パターンはなぜ変わったのか?
マリーゴールドがネットワークに接続できていないなら、誰が変えたというのか?

「ヘンゼル、ちょっと気になることが――」

その疑問をかき消すような爆発音が、サーバー室に響く。
明らかに自然なものではない、破壊するための重低音が何度も二人の耳に聞こえてくる。

『これは……あなた方のような、探索者でしょうか?
 武装した人間が14名、装甲を貼り付けたトラック型車両が1台。正門を破壊して乗り込んできたようです』

マリーゴールドが稼働している監視カメラの映像を、モニターに表示する。
そこにいたのは、真っ赤なガスマスクが特徴のハゲタカと呼ばれるスカベンジャーの集団だった。
彼らは戦前のガスマスクによって解毒剤なしに霧の中を行動し、自動機械どころか探索者も襲撃していく殺戮者だ。
被害報告は少ないものの、シェルター側の悩みの種となりつつある。

「……さっきの質問後にする。こいつらをどうにかしよう」

【データ回収と思いきや突然の襲撃】
0235ヘンゼル ◆.lZxadOr.I
垢版 |
2023/05/25(木) 23:34:31.14ID:DqZvKH5+
>『医療用ナノマシンを用いた高血圧の治療プロセス、このデータが適切だと思われます』

 言ってみるもんだな。学習型毒性分解ナノマシンなんてものを作ってるならもしやと思っただけなのだが。
 本当に医療用のナノマシンの研究までしてるとは思わなかった。しかし高血圧の治療か……。
 運動不足、酒の飲みすぎ、煙草の吸い過ぎとは縁がない。甘い物の食べ過ぎで将来、糖尿病にはなるかもしれん。
 まぁ俺には直接関係ないことだけど、人類の役には立つんじゃないか。たぶん。

>「……あーあたしにはよく分からないけど、ヘンゼルはこれでいい?
> 容量は問題ないみたいだから気にしなくていいけどさ、あたし医者じゃないから」

「ああ、すまん。それでいい。何か話すことがあるなら構わず続けてくれ」

 ジャスミンの持ってきた携帯型メモリにデータを移している間、しばしマリーゴールドとジャスミンは会話をしていた。
 二人の会話を聞いていると、どうもマリーゴールドのネットワークが切れているのは物理的な原因にあるようだ。
 通信ケーブルがぶちっと切れちまってるみたいだな……ひょっとしたら予備さえあれば直せるのかもしれない。
 と思っていたらジャスミンが嬉しそうに機械腕を動かしている。修理工場の娘の血が騒いだのか?

>「それなら、あたしたちになんとかできるかもね。
> 上手くいけば帰り道はお出迎え付きだよ」

 研究区画の倉庫で通信ケーブルの予備を探し当てたジャスミンは、
 驚くほど要領よく回線の復旧を成功させた。エンジニアとしての知識もちゃんと持ってるんだな。
 さすがは、修理工場のお嬢さんだ。俺だけでは何もできなかった。マリーゴールドを助けたのは彼女の功績だ。

>『ああ……ありがとうございます……!また、このプラントを管理できるなんて……
> アラームウォーカーたちも、随分と壊れてしまいましたが……修理用の設備も残ってくれていました』

 えらく人間らしい振る舞いだ。ともかくこれで工場の守護者が完全に復活したわけだ。
 しかし、いずれは第二、第三の探索者が再びここを訪れることになるのだろう。

 アヴェンジャーとの遭遇時に俺たちは何者か、他の探索者らしき存在が戦った痕跡を見つけた。
 たとえ俺たちがこの工場の情報を隠したとしても、近い将来、ここにはまた誰かが訪れる可能性が高い。
 その時、マリーゴールドがどのような対応をするのか、そいつらがどう行動するのか。誰にも分からないことだ。

>「高性能爆薬、持ってこなくてよかった……」

 今ジャスミンが非常に恐ろしい考えを口走ったが、まぁそういう荒っぽいことをする連中も少なくなかろう。
 ひょっとしたら悪い結末が待ってるんじゃないかって不安もある、が、そこまで深入りするつもりはない。
 ただマリーゴールドは悪い奴ではないし、むしろデータを提供してくれた恩がある。
 この工場とそれを守るAIに不幸がないことを祈るばかりだ。

>「ヘンゼル、ちょっと気になることが――」

 異変は突如として起こった。ジャスミンが俺に何かを聞こうとした瞬間、派手な爆発音が響いてきたのだ。
 一度ではない。何度も似たようなやかましい音がこのサーバー室に届いてくる。これは何かを壊そうとしているのか。
0236ヘンゼル ◆.lZxadOr.I
垢版 |
2023/05/25(木) 23:40:36.70ID:DqZvKH5+
>『これは……あなた方のような、探索者でしょうか?
> 武装した人間が14名、装甲を貼り付けたトラック型車両が1台。正門を破壊して乗り込んできたようです』

「俺は紳士的だから否定したいけどお嬢という悪例もある。何とも言えないな」

 なんでもぶっ壊して解決したがるパワータイプの探索者が隣にいるので、俺はそう言わざるを得なかった。
 モニターに監視カメラの映像が映し出されると、揃って赤いガスマスクを着けた愉快な連中が現れた。
 まさか、こいつらが、俺たち以外にこの辺を探索してた連中の正体なのか。

 うわさに聞いたことがある。最近、解毒剤も持たずガスマスクを着けて汚染区域を荒らし回る厄介なグループがいるという話。
 『ハゲタカ』――そういう通称で呼ばれている。分類としてはスカベンジャーなのだろうが、やり口はかなり悪辣だ。
 何せ奴らはただ探索者のお零れを漁るだけでなく、探索者を襲い、時には殺し、戦利品を横取りするという。

 人間が人間を殺す。それは戦前よりもっと昔から決まっている、越えてはいけない一線だ。
 奴らはそれを易々と踏み越える。ハゲタカの蛮行にはシェルターも頭を悩ませているって話らしい。

>「……さっきの質問後にする。こいつらをどうにかしよう」

「オーケーだ。乱暴なスカベンジャーが工場をふらついてちゃあ安全に帰れないからな……。
 せっかくお宝を見つけたのに、横取りされた上に死ぬなんてまっぴらごめんだ。でも14対2だぜ。何か作戦とかあるのか」

 監視カメラで確認した限り、正門を突破したハゲタカは屋内をうろついているみたいだ。
 警戒心はしっかり持ち合わせているのか、何組かに別れるということもなく、一丸となって行動している。
 その方が安全なのは確かだ。戦力を分散させると強い自動機械と遭遇した時、各個撃破される危険性がある。

 いや待てよ。俺がそう思った時にはもう手遅れだった。
 1階から正門を破壊した時とはまた異なる、けたたましい音が鳴り響く。
 これは警報だな。たぶん。巡回中だったアラームウォーカーと遭遇したんだろう。何も考えずに固まって行動するから……。
 このままだと他所から他の自動機械まで呼びこんじまって余計混沌とした状況になりかねない。

「すまん、マリーゴールド。しばらく警報を止めてくれないか。上の連中は厳密には探索者じゃない。
 現代の法で言えばかなりの無法者の部類に入る。いや、あいつらは俺たちで対処するからそんなに気にしなくていい」

 ハゲタカとアラームウォーカーの遭遇は俺たちにとって幸運な出来事だった。
 警報の危険性に気づいたハゲタカたちは何組かの少人数に別れて行動することにしたらしい。
 少人数の方が身を隠しやすくなり、警報を鳴らされる心配も戦う心配もしなくていいからな。
 外から他の自動機械が来る恐怖を考えれば当然だが、数の有利を捨ててくれたのは嬉しい誤算だ。楽に勝ちを拾える。

「特別な作戦は必要無さそうだな。お嬢、別れた各グループを確実に潰していくぞ。
 3〜4人くらいなら一度に相手できる許容範囲内だ……2人がかりで挑めば何とかなるだろ」

 マルチプルランチャーを肩に担ぎ、俺はいつでも行けるという態度を示した。


【ハゲタカ、巡回中のアラームウォーカーと遭遇。数の有利を捨てて何組かに別れて行動を始める】
【別れた各グループを各個撃破していこうぜ】
0237ジャスミン ◆26mbO0iBgc
垢版 |
2023/05/28(日) 20:43:34.56ID:C0M/MEHu
『分かりました、ヘンゼル様。アラームウォーカーは収納しておきましょう。
 セキュリティシステムは全て復旧致しましたので、随時彼らの位置をお知らせいたします。
 ……彼らもあなた方と同じようであったなら、よかったのですが』

機械腕を戦闘出力に引き上げ、マリーゴールドから送信されるハゲタカたちのデータを網膜に投影する。
ハゲタカの武装は探索者が持つアサルトライフルを改造したものが主だが、
リーダーらしき人物は武装トラックに据え付けられたグレネードランチャーの銃座から動こうとはしない。
また、防護スーツらしきものを着込んでおり、物理的衝撃に強いと予測が出ている。

「よし、大体わかった。あとは『暴力的な悪例』らしく暴れるとしようか、ヘンゼル?
 生け捕りにすればシェルターから報酬がもらえるって話だけど、上半身が残ってれば大丈夫でしょ」

とはいえ、二つの大腕でいくつもの自動機械を粉砕してきたジャスミンにとって恐れる相手ではない。
後ろは任せたというように、モニター室を飛び出していく。それに合わせるように、ヘンゼルもついてくるかもしれない。


『その十字路の右に3人、さらにその奥の生産ライン監視室に3人います。
 監視室は一時的にロックしておきます』

実際、恐れることはなかった。隔壁がランダムに閉鎖されて迷路と化した工場内部に小銃を弾き飛ばす機械腕が飛び出てきたと思えば、ヘンゼルのランチャーが爆音と爆風でかき回す。
機械化されていない生身では飛び込んでくるジャスミンに反応できず、ハゲタカたちは殴り倒されていく。

そうして12人ほど殴って縛り、吹っ飛ばして縛りを繰り返していると、マリーゴールドから報告が届いた。

『ジャスミン様、ヘンゼル様。残りは3人となりましたが、彼らは全員トラック型車両に逃げ込んだ模様です。
 必要であれば車止めを起動して閉じ込めることも可能ですが、いかがいたしますか?』

「そうだね……余裕はまだまだあるけど、リーダーを相手にするのは危険かもしれない。
 ヘンゼル、あんたはどう思う?」

【ちょっと短めになっちゃいましたが雑魚相手に長々やるのもなあと思いまして】
【またまた分岐です】
0238ヘンゼル ◆.lZxadOr.I
垢版 |
2023/06/04(日) 01:14:25.37ID:/RsEAJiq
>『分かりました、ヘンゼル様。アラームウォーカーは収納しておきましょう。
> セキュリティシステムは全て復旧致しましたので、随時彼らの位置をお知らせいたします。
> ……彼らもあなた方と同じようであったなら、よかったのですが』

「俺もそう思うよ。だがまぁ、ああいう連中がいるのも仕方ない時代だ……。
 世界は荒廃してる。生きるのに精いっぱいで善悪に構ってられない連中もいるんだ」

 まぁハゲタカのやり方はスカベンジャーだとしてもあまりにやり過ぎだし、殺されても仕方ない連中だがな。
 それでも俺は奴らを率先して殺すつもりはないけど。人殺しは極力しないって決めてるんだ。
 探索者の仕事はあくまで今を生きる人々の糧となるものを探し出し、持ち帰ることだからな。

 情報端末を兼ねるサングラスにデータが送信された。マリーゴールドによるものだ。
 監視カメラの画像から得た奴らの情報だ。基本武装は探索者が使うアサルトライフルの改造品。
 おそらく探索者から奪ったものなのだろう。でなくては、非正規の彼らが持っている理由に説明がつかない。
 リーダーは安全な武装トラックから離れようとせず、防護スーツを着込んでいるとのこと。

>「よし、大体わかった。あとは『暴力的な悪例』らしく暴れるとしようか、ヘンゼル?
> 生け捕りにすればシェルターから報酬がもらえるって話だけど、上半身が残ってれば大丈夫でしょ」

「お嬢の生け捕りの解釈が物騒すぎて足が震えてきた。勘弁してくれ」

 だが生け捕りにすればシェルターから報酬がもらえるのは悪い話じゃないな。俺も殺すつもりはないし。
 さいわい、マルチプルランチャーの圧縮空気弾なら殺すこともないだろう。骨折くらいはするかもしれないが。
 ジャスミンが部屋を飛び出すと、俺も自分の得物を担いだまま後ろをついていく。

>『その十字路の右に3人、さらにその奥の生産ライン監視室に3人います。
> 監視室は一時的にロックしておきます』

「サポート助かる、マリーゴールド。おたくがここまで協力してくれるのは予想外だ。ありがたいぜ」

 サイボーグであるジャスミンにとってハゲタカなどものの敵ではなかった。
 機械腕は小銃の弾丸を易々とはじき返し、ハゲタカたちは次々と殴り倒され制圧されていく。
 俺は圧縮空気弾の威力を調整して援護に徹し、爆風で攪乱・威嚇を行い、時に足や手を撃って動きを奪う。
 倒したハゲタカを手早く縛り上げていると一人があまりに抵抗するので、俺はガスマスクに触れて警告した。

「そんなに暴れるなよ……生殺与奪の権は俺たちが握ってるんだぜ。抵抗したらおたくのガスマスクを剥ぐ。
 死にたくなかったら余計な真似はするな……いいか、それだけは頭に刻み込んでおけ。どっちが『上』かってことをな」

 12人ほど拘束に成功したところで、マリーゴールドから通信が飛んできた。

>『ジャスミン様、ヘンゼル様。残りは3人となりましたが、彼らは全員トラック型車両に逃げ込んだ模様です。
> 必要であれば車止めを起動して閉じ込めることも可能ですが、いかがいたしますか?』

「そのトラック、グレネードランチャーもついてるんだろ。閉じ込めても籠城戦になったら面倒だな」

>「そうだね……余裕はまだまだあるけど、リーダーを相手にするのは危険かもしれない。
> ヘンゼル、あんたはどう思う?」

 一番楽なのは、もちろん、相手にしないことだ。逃げたいなら逃がしてやればいい。
 でも。あいつらは逃げた後、性懲りも無く悪事を働くんだろうな。つまり犠牲者が増え続けることになる。
 それが俺の知っている人たちだと思うと、途端に嫌な気持ちになった。そうだな。無視することなんてできない。
 誰かがやらなくちゃいけないことなら、俺たちがやってもいいだろ。生け捕りにすれば金になるんだし。

「……そうだな。俺はこのまま戦うのに1票だ。車止めを使えばトラックはもう動かせないんだろ?
 それでもトラックに籠城して戦う気なら『こいつ』で丸ごと吹っ飛ばす。
 懸念はリーダーの強さだが、そればかりは戦わないと分からん」

 俺が取り出したのは普通の銃弾より遥かに巨大な弾頭だった。当然だ。
 こいつは120mmもある、かつて戦車に使われていた砲弾なのだから。
 5発持ってきた弾のひとつで、「使える奴がいない」とのことで売れ残ってしまったのだ。
0239ヘンゼル ◆.lZxadOr.I
垢版 |
2023/06/04(日) 01:16:51.36ID:/RsEAJiq
【期限ギリギリになってしまって申し訳ないです(汗)】
【このまま戦うのに1票。逃げ込んだトラックに籠城する気なら戦車の砲弾で吹っ飛ばす】
0240ジャスミン ◆26mbO0iBgc
垢版 |
2023/06/11(日) 01:24:34.39ID:Dt0ff5aX
その砲弾は戦前で使われていたもの。トラック程度なら容易く吹き飛ばしてしまうだろう。
ハゲタカのリーダーが防護スーツを身に纏っているとはいえ、その衝撃は骨の一本や二本ではすまないはずだ。

「いいね、そいつなら脅しにも使えそうだ。
 できるなら諦めてくれるのが一番なんだけど……あの様子じゃ、無理そうだね」

マリーゴールドが二人の端末に監視カメラの映像を繋いでくれる。
そこに写されていたのは、トラック型車両が装甲を展開して簡易的な陣地を作り上げる様だった。
防護スーツを着用したリーダーらしき男が銃座に陣取り、監視カメラに向けて何事か叫んでいる。

「てめえら!俺の手下どもを返しやがれ!でなけりゃありったけの弾薬を撃ち込んでぶっ壊してやるぞ!
 戦前のAIなんかに味方しやがって恥ずかしくねえのか!そいつもシェルターと同じでお前らを利用することしか考えてねえんだ!」

『お二人を利用、とはどういう意味でしょうか?人間は資源でも家畜でもありませんが……』

疑問符を頭に浮かべて、首をかしげるマリーゴールド。それに答えるジャスミンが手を振った。

「バカの言うことなんて真面目に考えるだけ無駄だよ、とっとと吹き飛ばそう。
 あの装甲車で帰りたかったけど、そうもいかないね」

ちょっとした陣地と化したトラック型車両は、グレネードランチャーのみならず重機関銃や小型のミサイル迎撃システムまで展開している。
このまま時間を稼ぐだけでは、説得に応じることはなさそうだ。
120㎜砲弾でぶち抜いてもらおうと、ジャスミンが口を開きかけた時だった。

『……この状況は企業と協力者への武装を用いた脅迫及びAIに対する侮辱とみなされ、これに対する自己防衛は戦前でも合法です。
 よってわが社の警備システムではなく、防衛システムを起動します』

そうマリーゴールドが告げると同時に、二人がいた警備室の近くから何かが展開される音がする。
ぎょっとして通路に出てみれば、そこにいるのはハイランダーによく似た人型自動機械。
都市迷彩のように灰色と水色が入り混じった装甲を身に纏い、2mほどの高さで二人を見下ろしていた。
ハイランダーと違う点は装甲が分厚く、ステルス性など考えない頑強さを見せつけるような角ばったデザインであること。
さらに装甲の隙間を隠すように流体金属が蠢いており、それが鎖帷子のようにも見える。

『グラディウス、お二人に協力しなさい』

『御意。ジャスミン、ヘンゼル。あなた方を護衛し、あの車両を排除します』

男性よりの低い合成音声が頭部から発せられたと思えば、自分のいた格納庫のレバーを勢いよく下に引く。
すると武器庫が近くに展開されて、小型ミサイルと大型アサルトライフル、そして名前の由来となったであろう幅広で分厚い単分子剣をグラディウスは淀みなく装備した。
そして二人の命令を待つように、微動だにせず待機している。

「……こいついたら、あたしたちいらないんじゃない?」

【厄介な相手に頼れる味方、いざ戦闘へ!】
【書いてたのを貼り忘れてました…】
0241創る名無しに見る名無し
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2023/06/16(金) 08:31:38.16ID:xvFf7DkG
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0242ヘンゼル ◆.lZxadOr.I
垢版 |
2023/06/18(日) 22:59:29.53ID:XUL6kl0E
>「いいね、そいつなら脅しにも使えそうだ。
> できるなら諦めてくれるのが一番なんだけど……あの様子じゃ、無理そうだね」

 正直自分でもちょっと物騒すぎるかなと思ったのだが、ジャスミンなら気に入ってくれそうだとも思っていた。
 一方、防護スーツを着用したリーダーの男は監視カメラめがけて何かを叫び散らかしている。

>「てめえら!俺の手下どもを返しやがれ!でなけりゃありったけの弾薬を撃ち込んでぶっ壊してやるぞ!
> 戦前のAIなんかに味方しやがって恥ずかしくねえのか!そいつもシェルターと同じでお前らを利用することしか考えてねえんだ!」

 一瞬、俺はドキッとした。俺を利用する手合いのことなんて心当たりがありすぎる。
 もっともそれはシェルターではなく、俺に冒険者のいろはを叩きこんだ《魔女》のことである。
 奴は妹のグレーテルの命を盾にして金を要求するとんでもない悪党であり、武器商人でもある。
 悪辣な《魔女》に比べればシェルターなど生易しい。というより俺には幾分と善良な連中に見える。

 とはいえそんなことはジャスミンにもマリーゴールドにも話していないので、誰も知らないはずだ。
 だから俺はマルチプルランチャーの銃口をトラックに向けたままこう返した。

「おたくの理屈がよう分からん……俺たちは自分の身を守ってるだけだ」

>『お二人を利用、とはどういう意味でしょうか?人間は資源でも家畜でもありませんが……』

 マリーゴールドの疑問形にジャスミンがこう答える。

>「バカの言うことなんて真面目に考えるだけ無駄だよ、とっとと吹き飛ばそう。
> あの装甲車で帰りたかったけど、そうもいかないね」

 あのトラックも戦利品にしようと考えてたのか。まったく、ジャスミンは根っからの探索者だな。
 と思っていたらトラックはグレネードランチャーどころか重機関銃や小型ミサイルまで展開した。
 流石にやべぇ。これは先手必勝だ。戦車の砲弾を発射して、ただちに無力化しなければこっちがやられる。
 ジャスミンもそう考えたのか、俺の方に顔を向けた。その時である。

>『……この状況は企業と協力者への武装を用いた脅迫及びAIに対する侮辱とみなされ、これに対する自己防衛は戦前でも合法です。
> よってわが社の警備システムではなく、防衛システムを起動します』

「ん? マリーゴールド、そりゃどういう意味……」

 何か音がしたと思って通路に出てみると、そこには2メートル程度の人型自動機械があった。
 分厚い装甲は雄々しく、頑丈な印象を与える。実際、相当頑丈のはずだ。

>『グラディウス、お二人に協力しなさい』

 マリーゴールドの命令に従うように、目の前の自動機械、グラディウスが古めかしい口調で答える。

>『御意。ジャスミン、ヘンゼル。あなた方を護衛し、あの車両を排除します』

 こんな隠し玉があったのか。俺は少なくとも物資やデータを惜しみなく提供してくれたマリーゴールドへの駄賃に、
 荒らし屋のハゲタカからこの工場を守る気概で戦ったわけだが、こんなものがあるなら余計なお節介だったかもしれん。

>「……こいついたら、あたしたちいらないんじゃない?」

「ああ。マリーゴールドには驚かされるばかりだ。もし敵対的な行動をとってたら俺たちは死んでたかもな……。
 ともかく、グラディウスがいるならちょっと作戦を変更するか。今は砲弾を使うのは止めにして、こいつを使う。
 ジャスミンはグラディウスを盾替わりにして突っ込んでくれ。それなら目は潰れない。グラディウス、前衛は頼めるか?」

 砲弾を仕舞って代わりに取り出したのは『閃光弾』だ。これも持ってきた5発の弾のうちにひとつ。
 強力なフラッシュで相手の目を潰せばトラックの仰々しい武器も一瞬、使い物にならない。

 そして2メートルもあるグラディウスに隠れて突っ込めば、接近戦の得意なジャスミンは目を潰さず肉薄できる。
 しかも、グラディウス自身は自動機械だから閃光弾でカメラが一瞬潰れてもレーダーなどで問題無く戦えると思われる。
 この作戦が二人に了承されれば、援護担当の俺は二人が突っ込むタイミングで『閃光弾』を発射するだろう。
0243ヘンゼル ◆.lZxadOr.I
垢版 |
2023/06/18(日) 23:00:27.44ID:XUL6kl0E
【お待たせしました。グラディウスを先頭にして突っ込もう。ヘンゼルは援護で閃光弾を使い、敵の目を眩ませます】
【閃光弾を使うタイミングはジャスミンさんで自由に描写して頂いてOKです】
0244ジャスミン ◆26mbO0iBgc
垢版 |
2023/06/22(木) 16:13:18.93ID:23J0GwwT
ヘンゼルの質問にグラディウスは小さく頷く。
自動機械らしさを感じさせない自然な動きから、戦前AIの高度さが感じられるだろう。

『肯定します、ヘンゼル。彼らの装備では重機関銃以外、当機の正面装甲は貫けないでしょう。
 小型ミサイルは直撃すれば危険ですが、迎撃の可能性は87%です。
 遮光ゴーグルを展開しますので、そちらのタイミングで閃光弾を射出していただければと思います』

人間でいう額にあたる部分からサングラスのようなバイザーが下り、グラディウスの頭部センサー群を覆う。
そうして各々の準備が整ったところで、ジャスミンが機械腕を唸らせてこう告げた。

「あたしたちが飛び込むと同時に閃光弾をトラック正面で起爆。
 後は手下を黙らせてグラディウスにボスを拘束してもらう。生け捕りがダメそうならヘンゼル、あんたの判断で砲弾をぶちかまして」

二人と一機でお互いに頷き、持ち場に散開する。
ジャスミンとグラディウスはトラックの真正面、フォークリフトや使われないままの資材が乱雑に置かれた資材搬入口。
ヘンゼルは射線と周囲の警戒がしやすい場所に。

「お前ら!またシェルターに働かされたいのか!あいつらの奴隷になるのは嫌だって言ったのはお前たちだろうが!」

相変わらずわめき続けるハゲタカのリーダーを無視しつつ、ジャスミンが合図を出す。

「3……2……1……行くよっ!」

グラディウスが資材搬入口のシャッターを開けたかと思えば、重量を感じさせないなめらかな動きでトラックへと向かう。
その斜め後ろ、トラックの重機関銃の射線が通らない位置にジャスミンが続き、閃光弾が完璧なタイミングで爆発した。

「うおっ…!くそっ!てめえら気合入れろ!あるもん全部ぶっ放せ!」

視界を潰されたとしても、その火力は探索者二人を殺すには十分なもの。
小型ミサイルが熱探知によってグラディウスに誘導され、グレネードランチャーはその爆発で工場を片っ端から破壊しようと射出される。
さらにハゲタカのリーダーは防護スーツである程度閃光弾を遮光できたのか、すぐさまグラディウスへと重機関銃を構えた。

『迎撃モードに移行。マリーゴールドと計算連携』

だが、小型ミサイルはグラディウスのアサルトライフルによってあっさりと迎撃される。
重機関銃の斉射もグラディウスが素早く近くのフォークリフトに隠れ、ジャスミンはその間に回り込む。

『ヘンゼル聞こえる!?ミサイルは潰せたけどグレネードランチャーがそろそろこっちを見る!』

見れば展開された小型隔壁の向こうに、ようやく視界を取り戻したハゲタカの一人がグレネードランチャーをジャスミンたちに向けようとしている瞬間だった。

【というわけで戦闘開始】
【開幕で閃光弾使わせていただきました】
0245ヘンゼル ◆.lZxadOr.I
垢版 |
2023/06/25(日) 23:27:39.91ID:c+n3rpdh
>『肯定します、ヘンゼル。彼らの装備では重機関銃以外、当機の正面装甲は貫けないでしょう。
> 小型ミサイルは直撃すれば危険ですが、迎撃の可能性は87%です。
> 遮光ゴーグルを展開しますので、そちらのタイミングで閃光弾を射出していただければと思います』

「グッドな回答だ。遮光ゴーグルまで装備してるとは。よく出来てるな、本当に」

  グラディウスの回答に親指を立てると、ジャスミンが口を開く。

>「あたしたちが飛び込むと同時に閃光弾をトラック正面で起爆。
> 後は手下を黙らせてグラディウスにボスを拘束してもらう。生け捕りがダメそうならヘンゼル、あんたの判断で砲弾をぶちかまして」

「了解した。まぁ、正直なところ砲弾は極力使いたくないけどな。
 帰りに自動機械と遭遇して、使う必要が生じるかもしれん。奥の手はとっておきたいのが探索者の心理ってもんだろ?」

 俺とジャスミンだけなら使う機会もあるかもしれないが、今はグラディウスがいるからな。
 この高性能な自動機械がいれば戦車の砲弾は温存できるというのが俺の見立てなのだ。
 まぁ当然ながら、いざという時に出し惜しみする気はないけど。

 持ち場に散開した俺たちは三方向に別れて強襲する機会を窺う。
 ジャスミンとグラディウスは資材搬入口に陣取っている。俺はそれよりやや後方の物陰に隠れた。
 ここなら身を隠せるし、身を乗り出せばすぐにトラックを狙えるポイントとなる。他のハゲタカが狙ってきてもすぐに分かるしな。

>「3……2……1……行くよっ!」

 ジャスミンの合図とともに構えていたマルチプルランチャーから閃光弾を発射した。
 放たれた閃光弾はトラックの正面で炸裂し、ハゲタカたちの視界を奪おうと眩い光を発する。

>「うおっ…!くそっ!てめえら気合入れろ!あるもん全部ぶっ放せ!」

 ちっ。これだから馬鹿は困る。視界が潰されてもヤケクソで撃ち回る気だな。
 下手な鉄砲、数撃ちゃ当たるってやつだ。しかも、ハゲタカのリーダーは閃光弾の効きが薄いようだ。
 防護スーツの機能か? 重機関銃の銃口をピタリと正確にグラディウスへと向けている。

 具合の悪いことにミサイルも飛んできた。が、グラディウスはアサルトライフルで正確に迎撃している。
 リーダーが撃ってきた重機関銃はフォークリフトに隠れることで対処したようだ。グラディウスは無事。
 しかも、その攻防の間にジャスミンが抜け目なくトラックへ回り込んでいる。

>『ヘンゼル聞こえる!?ミサイルは潰せたけどグレネードランチャーがそろそろこっちを見る!』

 トラックが展開した隔壁の向こうにいるハゲタカの一人が、グレネードランチャーをジャスミンたちに向けている。
 隔壁に隠れているハゲタカを撃ち落とすのは難しい。単純に考えて、隔壁をぶち抜ける銃弾がいる。
 だがそれが出来るのは俺の手持ちの弾じゃあ戦車の砲弾以外にないだろう。

 少し発想を変えよう。隔壁で防御していても狙えるものがあるとすればどうだ。
 考えてもみろ。防御しながら敵を狙い撃つのだから、グレネードランチャーの銃口は剥き出しだ。
 狙うなら、そいつだ。俺が狙うのグレネードランチャーの銃口。針の穴を通す精密な射撃でグレネードランチャーを潰す。

 俺のサングラスはレーダーを兼ねた端末であり、マルチプルランチャーの照準とも連動している。
 この機能によって射撃を補助することで常人では不可能な精密射撃も可能となる。
 物陰から移動して狙える位置へ動く。使う弾はアヴェンジャーから何発かくすねておいた機関銃の弾丸だ。
 ロングコートのポケットに入っている。今回は1発あれば十分だろう。

「慈悲を乞うがいい」

 誰に言うでもなく、俺は呟いた。

「くれてやるのは『機関銃の弾丸(こいつ)』だけどなッ!!」

 発射された1発の弾丸はグレネードランチャーの銃口に吸い込まれるように侵入する。
 そして、内部で弾丸とグレネードが激突したことによりハゲタカの手元で爆発した。
0246ヘンゼル ◆.lZxadOr.I
垢版 |
2023/06/25(日) 23:28:32.04ID:c+n3rpdh
【精密射撃でグレネードランチャー自体を狙い撃ち、破壊する】
0247ジャスミン ◆26mbO0iBgc
垢版 |
2023/07/01(土) 14:11:13.67ID:XHgD8i/s
ただ一発の弾丸がグレネードランチャーを完璧に破壊し、爆発した衝撃でハゲタカが隔壁の向こうに叩きつけられる。
他のハゲタカがそちらに注意を向けている隙を見逃すことなくグラディウスとジャスミンはミサイル発射器に飛び込み、ハゲタカを殴り倒して無力化した。

「まずは一人!」

一度内部に飛び込んでしまえば、隔壁も兵器も意味をなさない。爆発のショックでうめいていたハゲタカをあっさりと拘束してしまえば、残るはリーダーのみ。
小型の陣地と化したトラックの奥でリーダーは困惑を隠せないように銃座から離れていた。

「う、うう……この役立たず共!誰が助けてやったと思ってる!自動機械や同業者から身を守る術を教えてやったのは誰だ!
 シェルターの手下二人と一機のポンコツ相手にいいようにされやがって……!」

銃座に飛び込んだ一人と一機を前にわめきちらし、大口径の拳銃を何度も発砲する。
だがジャスミンには機械腕で防がれ、グラディウスに至っては関節部の液体金属すら貫けない。
間近でジャスミンが解析すると、防護スーツの詳細な情報があっさりと流れ込んできた。

「核汚染、生物汚染、化学汚染、ナノ汚染の完全防護……これも戦前の遺産?
 ヘンゼル、こりゃ当たりだよ。トラックよりよっぽど儲かったかもね」

相互通信で伝えながら、未だに拳銃を振り回すハゲタカのリーダーを殴りつけて黙らせる。
万が一にでも暴れられないようにグラディウスが首筋に名前の由来となった単分子剣を突きつけていて、少しでも怪しい素振りを見せれば首が飛ぶだろう。

「どこでそんなものを拾ったのか、工場をどうやって見つけたのか。色々聞きたいことはあるけどさ……
 まずはそのスーツ、脱いでくれないかい?あんたごとスクラップにしたら、掃除が面倒なんだ」

リーダーが取り落とした拳銃を拾い、機械腕の出力を上げて思い切り握りこむ。
それだけで頑丈な造りのはずの拳銃が鈍い金属音と共にねじれ、潰れていく。

機械腕を開き、男の目の前に突き出された拳銃は、ただのスクラップと化してしまっていた。

「ヘンゼル、あんたも何か聞きたいことある?喋らなかったりしたら脚から順番に潰していくつもりだから、何でもこいつに質問していいよ」

【防衛戦終了、報酬漁り&質問タイム】
0248ヘンゼル ◆.lZxadOr.I
垢版 |
2023/07/08(土) 23:13:16.91ID:JEMCzd+J
 流石はジャスミンと言うべきか、グラディウスとの連携は完璧だ。
 機械腕が届く近距離戦闘に持ち込めればサイボーグである彼女に敵う人間はほぼ、いない。
 トラックが展開する隔壁の内側に侵入した彼女は瞬く間に敵を制圧していった。

>「う、うう……この役立たず共!誰が助けてやったと思ってる!自動機械や同業者から身を守る術を教えてやったのは誰だ!
> シェルターの手下二人と一機のポンコツ相手にいいようにされやがって……!」

 ハゲタカのリーダーは大口径の拳銃を発砲しながら抵抗しているようだが、あまりに虚しい。
 ジャスミンもグラディウスも意に返さないほど、それは無意味な行為だった。

>「核汚染、生物汚染、化学汚染、ナノ汚染の完全防護……これも戦前の遺産?
> ヘンゼル、こりゃ当たりだよ。トラックよりよっぽど儲かったかもね」

「なに? そんな貴重なものをどこで手に入れたんだ……」

 なんて俺が呑気に言っている間に、ハゲタカのリーダーがジャスミンにぶん殴られる。
 死んだんじゃなかろうな。あっ。さすがにジャスミンも手加減してくれているようだ。まだ生きている。
 もっともその首筋にはグラディウスの単分子剣が突きつけられている。この勝負、完全に俺たちの勝ちだな。

>「どこでそんなものを拾ったのか、工場をどうやって見つけたのか。色々聞きたいことはあるけどさ……
> まずはそのスーツ、脱いでくれないかい?あんたごとスクラップにしたら、掃除が面倒なんだ」

 ふむ。確かにただのスカベンジャーにしては、装備が良すぎるな。
 このトラックにしても、防護スーツにしても。どこで手に入れたのか気になるところだ。
 スカベンジャーは基本的に、探索者のおこぼれを拾って生きているわけで、まぁこいつらに関しては探索者を襲ったりしているわけだけども、普通の手段でこれだけ充実した装備を揃えられるとは思えない。

>「ヘンゼル、あんたも何か聞きたいことある?喋らなかったりしたら脚から順番に潰していくつもりだから、何でもこいつに質問していいよ」

 ひいいいい。この子怖いことを平然と口にする。そんなことまで俺は考えてませんよ。
 とはいえ、俺たちの身の安全を守るために確認しておかなければならないことがある。

「じゃあ聞く。ハゲタカ、お前らはこの工場に来たメンバーが全員でいいのか?
 これは大事な質問だから正直に答えろ。俺たちが帰るときに襲われたらたまらんからな」

 そう言いながら、俺はリーダーの防護スーツをぺたぺたと触った。通信機の類がないか確認したのだ。
 もし他にも仲間がいて、しかもリーダーが探索者に捕まったと知られたら面倒ではないか。

 探索者稼業で気をつけるべきなのは、行きより帰りだ。
 行きは体力も十分にあり、装備も整っており、万全の準備ができている。

 しかし、帰りは戦いの後で疲労しており、集中力も散漫で、弾薬などの装備も不十分だ。
 加えて探索で手に入れた戦利品を抱えており、まさにハゲタカのような危険な連中に狙われる可能性まである。
 だから聞いておいた。まだ他にも仲間がいるなら最悪、先手必勝で潰しておく必要すらある。
【質問:ハゲタカはこの工場に乗り込んできたメンバーが全員という認識でいいのかな?】
0249ジャスミン ◆26mbO0iBgc
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2023/07/14(金) 19:38:53.55ID:wO4SliIR
ヘンゼルの質問に合わせるようにジャスミンがリーダーの足先に手をかける。
舐めた態度をとればすぐさま機械腕が足と防護スーツをまとめて圧着してしまうだろう。
リーダーは身をよじって反射的に逃げようとしたが、グラディウスは無言で単分子剣を首に押し当てた。

「ぜ、全員だ!全員だよ!拠点に誰か残せば物資をちょろまかす奴がいるかもしれない、
 だから俺が拠点から動くときはいつも全員で動くんだ!」

「そいつはありがたいことだね。通信機もヘルメットだけ?あと防護スーツとトラックの出所もお願い。
 防護スーツはもう脱がなくていいよ、そんなに頑丈じゃないって分かった」

ぎち、と防護スーツの上から締め上げるような音が響く。
感触に悲痛な声をあげたリーダーはさらに情報を吐き出していった。

「そうだ!通信機は他にない!防護スーツもトラックも壊れたシェルターから掘り出してきたんだ……
 だから指を離してくれ!」

『私からも聞きたいことがあります。なぜここを襲撃すると決めたのですか?』

「偵察させた連中が警備の甘い工場が残ってるって言ったからだ。
 アヴェンジャー1体がうろついてるだけのちょろい区画だって……戦前AIがいるなんて知らなかった」

他にも拠点の座標や残った物資など、聞き出せるだけの情報を聞いたところで防護スーツを脱がせる。
いざ下着一枚の姿となってみれば、そこにいるのは無精ひげを生やしたどこにでもいるような中年男性だった。
彼をそのまま縛り上げ、同じようにした手下どもを合わせてトラック前に運んでいく。

「さーて……トラックはまだ運転できるし、後はこいつらまとめて運ぶだけだね。ヘンゼルも手伝って。
 それとマリーゴールド、本当にありがとね」

『こちらこそ、工場を守っていただきありがとうございました。
 本来であれば感謝状と粗品を贈呈するのですが、その余裕もなく……』

もらったデータだけで十分ありがたいよとジャスミンが謙遜しつつ、トラックを動かす。
武器を片付けてスペースを開けた荷台に、機械腕を稼働させてハゲタカたちを放り込んでいく。

「燃料はまだあるし、シェルターに帰るまでは持つ。
 あと何かやり残したこと、ある?」

ジャスミンが汗臭い運転席からヘンゼルに通信を送る。
帰り道は順調になるはずだが、この工場に戻る暇があるほどではない。
少しでもリスクを減らすなら、ここでやるべきことは終わらせておくべきだろう。

【回答:全員で乗り込んでくるタイプだったので奇襲もなく安全に帰れます】
0250へんぜる
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2023/07/21(金) 20:12:16.97ID:O5f7AxXB
すみません、投下期限を明日に延長させてください!
ちょっと予定が立て込んでたのでまだ一文字も書けて無いのです(汗)
本当に申し訳ないです……。
0252ヘンゼル ◆.lZxadOr.I
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2023/07/22(土) 22:15:10.06ID:lbDvuS6S
>「ぜ、全員だ!全員だよ!拠点に誰か残せば物資をちょろまかす奴がいるかもしれない、
> だから俺が拠点から動くときはいつも全員で動くんだ!」

「なるほど。いい返事をありがとう。これで俺の心配事はなくなったぜ」

>「そいつはありがたいことだね。通信機もヘルメットだけ?あと防護スーツとトラックの出所もお願い。
> 防護スーツはもう脱がなくていいよ、そんなに頑丈じゃないって分かった」

 ハゲタカのリーダーが悲鳴に近い叫び声を上げた。まるで俺たちが悪い奴みたいだな。
 まぁやり方がヤクザ染みてるからしょうがないんだけど。

>「そうだ!通信機は他にない!防護スーツもトラックも壊れたシェルターから掘り出してきたんだ……
> だから指を離してくれ!」

 戦ってる時の威勢はどこにいったのか、思った以上にペラペラ喋ってくれている。

>『私からも聞きたいことがあります。なぜここを襲撃すると決めたのですか?』

 マリーゴールドも便乗して質問をぶつけた。ハゲタカのリーダーはやはり素直に答えてくれた。

>「偵察させた連中が警備の甘い工場が残ってるって言ったからだ。
> アヴェンジャー1体がうろついてるだけのちょろい区画だって……戦前AIがいるなんて知らなかった」

 その後、ハゲタカのリーダーは身ぐるみを剥がされ、拘束されたうえで下着一枚の姿になっていた。
 無精髭を生やした普通のおっさんである。悪辣で危険なハゲタカも中身はどこにでもいそうな人だったというオチだ。
 汚染区域内で防護スーツも何もないのに大丈夫なのは、このおっさんだけ解毒剤を飲んでいたためである。

>「さーて……トラックはまだ運転できるし、後はこいつらまとめて運ぶだけだね。ヘンゼルも手伝って。
> それとマリーゴールド、本当にありがとね」

「オーケーオーケー。こいつらは大事な報酬の引換券だからな。任せておきな」

 ハゲタカたちは存外大人しかった。暴れたり抵抗する様子もなく素直にトラックへと放り込まれていく。
 こいつらの収容が終わったところで、ジャスミンから通信が入った。

>「燃料はまだあるし、シェルターに帰るまでは持つ。
> あと何かやり残したこと、ある?」

「いや……やり残したことは特にないが……こんだけあれば結婚式もなんとかなりそうだし……。
 あ……そうだ。ひとつ忘れてたことがあったような気がするな。ほら、あれだよあれ」

 上手く口から言葉が出てこない……ハゲタカが乱入してきたせいですっかり忘れていたが、
 マリーゴールドのいるサーバー室で、ジャスミンが確か何か言いかけていた。「ちょっと気になることが――」って。
 もう工場から立ち去るので関係ないかもしれないが、気になることってのは結局何だったんだ。
 俺はトラックに乗り込みながら、そのことをジャスミンに聞いてみた。

「なあ、お嬢、サーバー室で言いかけてたことは何だったんだ?
 この工場のことなのか? もしそうなら、もう帰っちまうから真相は闇の中だな……。
 まぁそのことを調べても藪蛇かもしれん。気にしなくていいのなら、俺はそのことは忘れるよ」


【お待たせしました(汗)期限延長ありがとうございました!】
0253ジャスミン ◆26mbO0iBgc
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2023/07/27(木) 19:56:42.97ID:BxX+VTJn
ヘンゼルの問いに、ジャスミンも運転席に座りながら思い出す。
あの時は言いそびれてしまったが、事が全て終わった今ならその話もできるはずだ。

「マリーゴールドがサーバー室に閉じ込められてる間、アラームウォーカーの移動パターンを誰が変えたかって話よ。
 あいつらは自律型の思考はできないはずだから、マリーゴールドみたいな自分で考えられるやつが指示しないとそのままのはずなのに」

『それでしたら、アラームウォーカーたちに再接続した際にすぐ分かりました』

二人で頭をひねって考えていたところに、マリーゴールドがすっと回答してくれる。
積み込みの手伝いをしてくれていたグラディウスが回答に合わせるように動きを止めて、こちらに向き直った。

『グラディウスが警備パターンをいくつか構築し、事前条件を付けてあらかじめアラームウォーカーにダウンロードしてくれていたのです』

『当機の目的はこの工場を防衛することです。何らかの形で当機が工場を防衛できなくなっても、最大限の防御を構築できるようにするためでした』

二人のAIがよどみなく答えてくれたことで謎は全て解けた。
だが、ジャスミンはさらに生まれた謎を問いかけてみる。

「あの警備パターンって、どういう条件?たぶん工場を漁ってたのは私だけなんだけど」

好奇心と興味と一抹の不安が混ざった疑問に、グラディウスはやはり躊躇いなく答えてくれる。

『はい、暴力的かつ遵法意識に欠けた人間が工場に押し入ってきた場合のパターンです。
 ジャスミン、あなたの行動は事前条件を87%満たしていました』

「…………ヘンゼル、帰ろうか。もうやることないし」

運転席の背後に置かれた機械腕を見つめて、悲しみを込めた声でジャスミンは呟く。
助手席にヘンゼルが座ってしばらく経ってからも、まだ彼女は機械腕を見つめ続けていた。
人間に言われたなら反論のしようがあったかもしれないが、合理的判断しかしない軍事AIにそう告げられては何も言い返せないのだ。

(次からは機械腕以外の装備も使おう……)

哀愁すら漂う雰囲気になりかけたが、マリーゴールドがその雰囲気をほぐすように話してくれた。

『結果としてお二人が工場を守っていただいたことに、私たちは強く感謝しています。
 どうかお二人が無事に帰還し、人類復興の一助とならんことを。さようなら、ジャスミンさん、ヘンゼルさん』

その明るい声に、ジャスミンはかすかな笑みを浮かべて応える。
車のエンジンが始動し、振動が車全体に響いた。

「うん、さようならマリーゴールド。また会いたいね」

【というわけで無事帰還】
【ここからちょっとだけ続きます】
0254ヘンゼル ◆.lZxadOr.I
垢版 |
2023/08/04(金) 19:43:35.65ID:5C7P4IR+
【ゲェェェーッ日付の確認を間違ってました。金曜期限だと思ってました、すみません!】
【すぐ書いて夜中には投下するのでお許しを……!】
0256ヘンゼル ◆.lZxadOr.I
垢版 |
2023/08/04(金) 22:23:37.65ID:5C7P4IR+
>「マリーゴールドがサーバー室に閉じ込められてる間、アラームウォーカーの移動パターンを誰が変えたかって話よ。
> あいつらは自律型の思考はできないはずだから、マリーゴールドみたいな自分で考えられるやつが指示しないとそのままのはずなのに」

「ああ、そんなこともあったな。完全に忘れてたぜ……」

 休憩中にそんなことを俺も考えていた気がするが、結局答えの出ないままここまで来てしまった。
 今ならマリーゴールドに聞けば何か分かるのかもしれないな。まさか他にもAIがいるなんてことはないよな。

>『それでしたら、アラームウォーカーたちに再接続した際にすぐ分かりました』

「ほう。俺はそんな利口な方じゃない。種明かしを教えてくれよ。つまり、どういうことだったんだ?」

>『グラディウスが警備パターンをいくつか構築し、事前条件を付けてあらかじめアラームウォーカーにダウンロードしてくれていたのです』

「……それはグラディウスが移動パターンを変えたってことか。グラディウス、おたく、戦う以外もできるんだな……」

 冷静に考えてみれば、マリーゴールド以外にもAIはいた。グラディウスがそうなのだ。
 俺はてっきりグラディウスは戦闘を専門にしていると思い込んでいたので、その可能性は考えてなかった。

>『当機の目的はこの工場を防衛することです。何らかの形で当機が工場を防衛できなくなっても、最大限の防御を構築できるようにするためでした』

「なるほどなぁ。言われてみれば分からんでもない理屈だな」

 俺がそんな風に相槌を打つと、ジャスミンが更なる疑問をぶつけた。

>「あの警備パターンって、どういう条件?たぶん工場を漁ってたのは私だけなんだけど」

 次のグラディウスの回答で俺は思わず噴き出しそうになった。

>『はい、暴力的かつ遵法意識に欠けた人間が工場に押し入ってきた場合のパターンです。
> ジャスミン、あなたの行動は事前条件を87%満たしていました』

「……まぁ、なんだ。気にしすぎるなよ。お嬢は確かに荒っぽいところもあるが、それだけじゃないだろ。
 困ってたマリーゴールドにあれだけ親切にしてあげてたじゃないか。そういう優しい面もあるってこと、俺は知ってる。
 誰にでもできることじゃないさ。暴力的な優しさというか……どういう意味かは俺も分からんが……まぁ、気にしすぎるなよ」

 なんとかフォローしようと試みたが、思い返すほどジャスミンの荒っぽい光景ばかりが思い浮かんでしまう。
 でもジャスミンが根本的には、気前のよい優しい奴だってのは、俺の本心でもある。
 当の本人は少しショックを受けているようだが、まぁ慎みを覚えるのもいいんじゃないか。たぶん。

>「…………ヘンゼル、帰ろうか。もうやることないし」

「そうだな。マリーゴールド、最後まで世話になった。また金に困ったら訪ねてきていいか。
 ……冗談だよ。街に戻ってもこの工場が不利になるようなことは極力しないでおくから、安心してくれ」

>『結果としてお二人が工場を守っていただいたことに、私たちは強く感謝しています。
> どうかお二人が無事に帰還し、人類復興の一助とならんことを。さようなら、ジャスミンさん、ヘンゼルさん』

 結果だけ見れば予想以上だ。これならグレーテルの結婚式が本当に実現できそうだ。
 俺の脳裏に笑顔でウェディングドレスを着て、新婦と共にいる妹の姿が思い浮かぶ。
 そうだ。これからきっと、グレーテルは幸せの中を歩いていく。それだけが俺の望みのすべてだった。


【無事帰還できて何よりです。まさかの投下期限勘違い、重ね重ね申し訳ないです!】
0257ジャスミン ◆26mbO0iBgc
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2023/08/10(木) 19:51:43.02ID:riOGl8f2
センターに戻った二人を出迎えたのは、センターに登録されていないトラックを警戒する防衛部隊が突きつける銃口だった。
ジャスミンが運転席から身を乗り出して怒鳴り散らせば誤解は解けたものの、機械腕を起動する一歩手前まで怒りに溢れていたのは間違いないだろう。
それからすぐ、戦利品を探索者支援センターに持ち込んで換金を依頼したときのことだ。
わざわざジャスミンとヘンゼルが狭い別室に通され、鑑定結果を記した書類を職員から丁重に渡される。
合計金額に目を通してすぐ、部屋全体に響く怒声をジャスミンが叫んだ。

「あんだけ苦労したナノマシンの設計図が一切の報酬なしってどういうこと!?
 ハゲタカ共の賞金がいまいち少ないのはいいけどさ、こっちは戦前の本物、魔法みたいな代物なのに!」

「ですから……先程も説明した通り、内部に敵対的なデータが入っている可能性を考慮し、
 シェルターの技術班によって隔離エリアでの研究がされた後、改めて評価いたしますので、現時点では探索者としての評価を上乗せするということでご理解いただきたいのです……」

戦前の部品は高く買い取られたものの、ハゲタカは揃って捕まえたせいか逆に脅威を排除したとみなされず小型自動機械レベルの賞金、
学習型毒性分解ナノマシンの設計図はデータの解析中で評価不能。
機械腕の修理や点検の費用を差し引けば、儲けは微々たるものだ。

「嘘でしょ、これじゃナノマシンの修理槽なんて作れない……また修理屋やるしかないってこと?
 マリーゴールドがウイルスなんて仕込むわけがないってのに……」

「ヘンゼルさん、あなたにもご理解いただければと……探索者としての評価は、大幅に上乗せされますし……ご家族にシェルターの施設を利用する権利も与えられますので……」

職員がハンカチで額に浮いた汗を拭きながら、心底申し訳なさそうにヘンゼルへ深く頭を下げる。
おそらくは、この職員も報酬の算出方法に納得していないのだろう。

【いざ凱旋、と思いきや……けれどもシェルター内部は広いので、大抵の施設があるのです】
0258ヘンゼル ◆.lZxadOr.I
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2023/08/18(金) 00:31:27.98ID:8bSw9D7B
>「あんだけ苦労したナノマシンの設計図が一切の報酬なしってどういうこと!?
> ハゲタカ共の賞金がいまいち少ないのはいいけどさ、こっちは戦前の本物、魔法みたいな代物なのに!」

 ジャスミンの怒号が狭い部屋に響いた。さっきからずっとそうだ……。まぁ俺も理性が無ければそうしていたかもしれない。
 ただ、俺はもういい大人なので、納得がいかないことでもそう声を荒げずにいられたってだけだ。

>「ですから……先程も説明した通り、内部に敵対的なデータが入っている可能性を考慮し、
> シェルターの技術班によって隔離エリアでの研究がされた後、改めて評価いたしますので、現時点では探索者としての評価を上乗せするということでご理解いただきたいのです……」

「それはいつ頃になるんだ。十年後とか二十年後じゃねーだろうな……そんな先まで俺が生きてる保証はないぞ」

 探索者というのは命懸けの仕事だ。いつポックリ逝くかなんて誰も予想できない。
 どれだけ万全の準備を整えて注意を払っていたとしても、不測の事態であっさり死ぬ。そういう世界だ。

>「ヘンゼルさん、あなたにもご理解いただければと……探索者としての評価は、大幅に上乗せされますし……ご家族にシェルターの>施設を利用する権利も与えられますので……」

「理解はしてるさ。納得できるかは別問題だけどな……」

 俺の頭の中で占められていたのは、妹グレーテルの結婚式のことだけだ。
 本当はもっとゴネたいところなのだが、昔に散々ゴネた結果、探索者としての評価がかえって下がったことがある。
 ようするにシェルターの決定は絶対なのだ。いち探索者がどう逆らってもいいことは何もない。

 それに俺にとっての問題は結局のところ、報酬額の低さよりも、妹が無事に結婚式を開けるか、幸せに生きていけるか。
 たったそれだけのことなのだ。心の中で反芻すると、それは驚くほどシンプルだった。だから怒りもそれほどではない。

「なぁ、俺や俺の家族はシェルターの施設が利用できるんだったな。俺はシェルターの中のことをよく知らん。あまり育ちの良い方じゃなかったからな。だから噂でしか知らないんだが、シェルターの中には『教会』があるってのは本当なのか?」

 戦前の宗教文化というのは、今の世の中ではほとんど失われている、と言われている。
 だがシェルターの中には実に多様な施設があり、体裁だけではあるが教会もあると聞く。

「いや別に宗教に熱心なわけじゃないんだ……ただ、教会でやることってのは何も祈るばかりじゃないだろ。
 教会で結婚式を開きたい。俺の妹の。それがたったひとつの望みなんだ。金はなんとかする」

 なんとかするって簡単に言っちまった。でも当てがないわけじゃない。
 最悪……《魔女》のやつに頼めば、なんとかなるかもしれない。出来るならやりたくないけど。
 借りたらたぶん俺は理由をつけられて一生奴の奴隷になることだろう。まぁ、妹のためならそれも悪くない。


【厳密には期限超過したことをここにお詫び致します】
【ついでに>>256で新婦と書きましたが正しくは新郎ですね。失礼しました】
0259ジャスミン ◆26mbO0iBgc
垢版 |
2023/08/24(木) 16:15:41.08ID:GPRaVfy8
ヘンゼルの質問に、職員は壁に取り付けられた本棚からパンフレットを取り出して二人に渡す。
『シェルターに奉仕し、戦前の施設を楽しもう!』と書かれたそれは、シェルターに居住していない探索者や一般人向けに作られたものだ。

「え、ええ……宗教施設は戦前にあったものはそろっておりまして、シェルターに一定の金額を納付するか、
 大いに役立つと判断された物品を持ち帰るなどすれば、シェルター外の人間であっても施設を利用することができます」

「金持ち連中だけが使ってるような制度だけど、今回持ってきた設計図なら十分OKなんじゃない?
 敵対的データが入ってる可能性なんて、探索者が持ち帰ったもの全部にありえる話だし」

パンフレットを読み流したジャスミンが職員に質問してみると、その回答は二人にとって理想的なものだった。

「はい、汚染除去のために消毒と検査を受けていただく必要はございますが、
 結婚式であれば十分可能な利用範囲です。シェルター内部でも利用されている方は多いですし、
 参加者は30人程度が限界ですが、お二人の功績であれば金銭の納付は必要ないと思われます」

ようやく報酬の折り合いがつけられると思っているのか、職員の表情もどことなく柔らかい。
ジャスミンはパンフレットにあった元素変換システムの細かい項目を読み込んでおり、彼女が受け取る報酬については不満がありつつも納得しているようだ。

「あたしはゴネ終わったけど、ヘンゼルはどう?
 タダで、シェルターで、結婚式。なかなか拍が付きそうなもんじゃない?」

「必要な準備や費用についてもセンター側で負担させていただきますし、
 どうか納得していただければと……」

【最近じゃ珍しくないもんな……と思っていました>新婦】
【そしてなんとかできそうな結婚式!】
0260ヘンゼル ◆.lZxadOr.I
垢版 |
2023/08/31(木) 23:30:33.57ID:DdBrOKef
 神ってやつがいるのなら、俺は今日ジャスミンと出会い、一緒に仕事が出来たことを感謝する他ないだろう。
 オートマッチングを不運の象徴のように考えていたのだが、その認識は改めた方が良さそうだ。
 まさか、無料で、それもシェルターで妹の結婚式ができる。一時はどうなるかと思ったが、俺の想像以上の結果となった。

 報酬の話が終わった後、俺は早速シェルター内の教会へ行ってグレーテルと一緒に下見をした。
 シェルターの中にある施設だけあって良い雰囲気だ。煌びやかなステンドグラスや、厳かな祭壇があって、まさしく結婚式に相応しい。
 職員の情報通り定員三十名のため教会の中は少し窮屈な気もするが、それでも十分だろう。

 妹のグレーテルは結婚式が本当に実現できるとなって、俺に悪いとかなんとか、余所余所しいことを言っていた。
 交際相手も「お兄さんには頭が上がりません」と恐縮していたが、結局二人とも楽しそうに結婚式の準備をしている。

「ここがバージンロードかぁ。新郎新婦でもないのに歩いちまってなんか悪い気がするなぁ」

 下見の時に俺は何気なくそう言ったのだが、グレーテルはちょっと怒った様子でこう言った。

「お兄ちゃん、何言ってるの。お兄ちゃんも歩くんだよ。お父さんがいないんだから当然じゃない」
「はぁ……? すまん、どういうことだ?」

 当人でもないのに渇望していた結婚式だったが、式の流れまでは俺も完璧に把握して無かった。
 言われてみればそうなのだが、新婦は入場する時、父親とバージンロードを歩くものなのだ。
 そして新郎にバトンタッチして、神に祈ったり誓いの言葉を言ったりするのだ。

 でも俺たち兄妹には両親がいない。孤児だったからだ。
 だから、グレーテルは入場の時、俺に一緒に歩いてほしいってことのようだ。嬉しかったが、反面恥ずかしかった。
 そんなの俺の柄じゃない、隅っこに座っておくよと最初は言ったのだが、グレーテルが途端に寂しい顔をしたのに負けてしまった。
 戦前の結婚式ならこういう時、誰が父親役をするとか決まりがあるのかも知れんが、俺たちの場合はそういう話で落ち着いた。

「アンタ、えらく頑張ったみたいじゃない。シェルターの中で結婚式をやるなんてさ。中々出来ることじゃないよ」

 結婚式の前日、突然姿を現わした《魔女》がそんなことを俺に言った。

「馬鹿言うな。いつも頑張ってるよ。おたくへの借金返済だってすごく頑張ってるだろうが」
「確かに頑張ってるねぇ。でもアンタを育てた先行投資の額にはまだ届いてない」
「いつになったら完済できるんだ? 総額を教えろよ」
「世の中には知らない方がいいこともあるんだよ」

 それで納得できると思ってるのか、と俺は怒りそうになったが、ぐっと怒りを抑え込んだ。
 《魔女》の両隣にいる二人の側近が俺を睨んでいたからだ。
 いずれも手練れで、この二人と殺し合いになったら俺も無傷では済まない。

「妹が結婚して落ち着いたのは良いけどね。私との関係は切れたわけじゃない。まだまだ働いてもらうよ」

 ようは忠告に来たのだ。《魔女》は。重要なイベントが控えてるのに来るんじゃねぇ、シッシッ。
 俺は家から《魔女》を追い払い、そして今日はシェルターの中へと向かっている。
 服装はいつもの黒いロングコートとサングラスではなく、スーツ姿だ。

 これでグレーテルも新たな人生を歩むことになるんだな。もう俺もお役御免ってわけだ。
 肩の荷が降りた気分だが、一方で寂しい気持ちがあるのも否定はできない。
 これからは……俺は俺のことを考えて生きていくんだ。

 ある意味、妹離れをしなきゃいけないってわけだ。まずは借金を返すことを考えるか。
 《魔女》の頭に銃弾をぶち込んでやった方が早い気もするが、しばらくは我慢しておこう。
 それよりもっと楽しいことを考えるべきだな。次はどこを探索しようか。
 またオートマッチングに頼ってみるのもいい。今度はどんな奴に会えるのか、少し楽しみだ。


【ちょうどキリのいいところだったので畳ませていただきました。ヘンゼルの物語はこれで終わりです】
【最終的に《魔女》に歯向かって射殺されるエンドを想定してましたがよもやよもやのハッピーエンドです】
【まだ続いて自分のレスが必要とかだったら全然お付き合い出来ますのでよろしくです】
0261ジャスミン ◆26mbO0iBgc
垢版 |
2023/09/02(土) 14:29:35.85ID:Sp8Vvqpk
シェルターに貢献した探索者が内部で結婚式を開く、このニュースはシェルターによって大きく広められた。
実際の負担はほぼシェルター側が持つとはいえ、探索者がそれだけの稼ぎを得られるのだと宣伝するためだった。

「あいつ、スーツまで用意してたのかい。あのロングコートかっこよかったのに」

探索者が持ち込んだショットガンの修理をする合間、支援センターから送られるニュースを携帯端末で眺めながらジャスミンはつぶやく。
戦前の風習にさっぱり興味のない彼女が考える結婚式は、自分が考える最高にイカした服装で行くものなのだ。
そうして、銃身の手入れがされていないことに小さく舌打ちしながら、携帯端末を横に置いて修理を再開する。

「ま、あいつのおかげで探索者が増えりゃ、こっちも仕事が増えてありがたいってもんだ。
 センターには銃器の手入れでも教えてほしいもんだけどね」

シェルターで始まった結婚式は、やがてシェルター外部の人間による施設の積極的な利用、一時的な探索者の増加へと繋がっていく。
もちろんそれは恒久的なものではない。けれども兄妹の夢は、この地域に住む人間にとってわずかな希望へとつながったのだ。

『お前さんこのシェルターに来たばかりか?手っ取り早く金を稼ぎたい?そりゃもちろん探索者だ。
 稼ぎさえすれば、シェルターの豪華で綺麗な施設を使いたい放題、汚染に怯えなくてすむ生活がお前さんを待ってるよ』

そんな謳い文句がシェルター外の酒場やスラム街で流行り出すのは、しばらくしてのことだった。

【こちらもちょっと短めですが〆です】
【射殺されなくてよかった……ヘンゼルさんが思ったより話の通じる常識人でよかったですね】
【廃墟探索はこれで終わりとさせていただきます、お付き合いいただきありがとうございました】
0262創る名無しに見る名無し
垢版 |
2023/11/24(金) 02:08:12.45ID:1FRkAHV1
アーカイブ/創作対面人狼3
『Zoomハゲ人狼 NoHairWolfGame. 13人村』
□11/23, 20:35~22:58 放送

ttps://youtube.com/live/MxFo2UYSWnY


ttps://i.imgur.com/VJxS8m7.png

ttps://i.imgur.com/mRzywd7.png
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