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レトロファンタジーTRPG
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0001レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/05/31(日) 21:18:54.91ID:Nni+ZiO2
ここはアースギア……。
五つの大陸を舞台に数多の勇者達が冒険する世界。
あなたもまた、魔王打倒を目指して旅をするのです……。


◆概要
・ステレオタイプのファンタジー世界で遊ぶスレです。
・参加者はトリップ着用の上テンプレに必要事項を記入ください。
・〇日ルールとしては二週間以内になんとか投下するスレになります。
・投下が二週間以上空きそうな場合は一言書き込んでおくようにしましょう。
0002レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/05/31(日) 21:20:14.50ID:Nni+ZiO2
【テンプレート】

名前:
種族:
年齢:
性別:
身長:
体重:
性格:
職業:
出身:
所持品:
容姿の特徴・風貌:
簡単なキャラ解説:
0003レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/05/31(日) 21:21:36.08ID:Nni+ZiO2
ちゃいちゃい、投下ミス


【テンプレート】

名前:
種族:
年齢:
性別:
身長:
体重:
性格:
職業:
能力:
所持品:
容姿の特徴・風貌:
簡単なキャラ解説:
0004レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/05/31(日) 21:24:31.68ID:Nni+ZiO2
サマリア王国の首都である王都ナーブルスは城下町型の都市だ。
冒険を始める者が集まることから「はじまりの街」とも呼ばれる。
入り口を起点に一本の大通りが中央の噴水広場まで続いていて奥に王城が聳える。
――その広場に入ってすぐの酒場が、冒険者ギルドである。

酒場といっても昼間から飲んだくれるのが冒険者の仕事ではない。
ギルドで情報を集め、依頼を受け、現地で問題を解決するのが仕事だ。
王都の外れ、「水晶の洞窟」へ踏み入った一団もまたそうである。
古代から魔物の住処として知られるこのダンジョンは腕試しの洞窟とも呼ばれている。
と、いっても、彼らは元からパーティーを組んでいた間柄ではない。
一つの突発的な事件が発生し、その対処のため組まれた急ごしらえのパーティーだ。

「魔物だーっ!」

男の一人が叫ぶや、振り下ろされた鉄拳の前に大きく吹き飛んだ!
後ろが透けて自分の顔が映り込みそうなほどの透明度をもって巨躯を彩っていた。
人によれば、美しいとすら形容するかもしれない。

「クリスタルゴーレム……!古代王国の遺産か……!?」

眼前に姿を現した巨体の兵器を前にレインは誰と話すでもなく呟いた。
家から抜け出した貴族の御子息を連れ帰るだけの単純な依頼だが、
一人、また一人と紙屑のように人間が吹き飛んでいく光景を見て、全滅を想起させる。

「このっ――!」

いてもたってもいられなくなり、後列から飛び出す。
不意打ち気味に胴へはがねの剣を一閃!完璧なタイミングの一撃である!
だが剣の腹から先が何処かへ飛んで行ってしまった。折れたのだ。

「…………」

クリスタルゴーレムとレインの間で沈黙が続いた。




名前:レイン・エクセルシア
種族:人間
年齢:16
性別:男
身長:170
体重:68
性格:勇敢
職業:勇者
能力:召喚魔法
ダンジョンなどで入手した装備を収納・召喚できる。
魔法適正が低いレインが唯一使える魔法。
取り出せるシリーズ装備は【紅炎の剣士】【清冽の槍術士】【天空の聖弓兵】など。
所持品:はがねの剣、旅人の服、外套、旅の道具一式
容姿の特徴・風貌:旅人の服を着た軽装姿の少年

簡単なキャラ解説:
今やアースギアにどこにでもいる勇者の一人。光魔法が使えない落ちこぼれ。
自身の弱点をカバーするため強い武器や装備を求めて旅をしていた。
スペックは低いが今日も勇気ある心で魔物に立ち向かう。


【参加者募集中!】
0005レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/06/02(火) 20:28:28.40ID:+S4vtG7E
剣士と水晶質の巨体の間で重い膠着が続く。
クリスタルゴーレムの攻撃は、まさに一撃必殺。
人体を軽く吹き飛ばす拳を浴びれば間違いなく瀕死だ。

武器を失った剣士は迂闊に動き回れない。
しかし、剣士の運動能力は自身の攻撃を容易く躱せることを、
クリスタルゴーレムの魔導知能は理解していた。

沈黙を破ったのはやはり水晶の巨人。
堰を切ったかのように猛烈に連続で拳を振り下ろす!
一度、二度。三度目となって、レインは折れた剣を振った。

「――召喚」

降り注ぐ拳をすり抜けて跳躍。
ゴーレムを飛び越えて背後に着地したとき、その頭部は寸断されていた。
レインの手元から折れた剣は消滅し、代わりに戦斧が握られている。

バルディッシュ。
重量で敵を叩き切る事を目的としたポールウェポンである。
レインが召喚魔法によって呼び出した、近接武器だ。
もっとも単純に武器を斧に変えたから攻撃が通った訳ではない。
同じ水晶の鎧でも首関節ならば機能上胴より硬度で劣ると判断したのだ。

「もう眠るんだ。お前たちの主人は……ここにはいない」

肝要たる魔道性知能を積んだ頭部と胴が別たれた結果。
クリスタルゴーレムは完全に沈黙した。

魔物との戦闘が一段落し、急造パーティー達は一時話し合う事になった。
彼らは腕試しに水晶の洞窟に来たわけではない。
さる貴族の子息を屋敷まで連れ帰るために編成されてやってきたのだ。

「いくら冒険者に憧れてるからって、こんなとこに来なくても……」

「この洞窟、奥に行くほど強い魔物に遭遇すると聞く。子供ならそう深くまでは潜れまい」

「そりゃガセだ。出くわす魔物の強さに法則なんてねぇよ。
 運が良けりゃ一番奥まで入りこんじまってるかもな……」

現状のパーティーでクリスタルゴーレム級の敵と何度も戦うのは現実的でない。
引き返したいが、依頼を受けている手前引き返す訳にもいかない……。
誰もが絶望を感じはじめた時、端にいたレインが口を開いた。

「増援を呼ぶのはどうかな。時間がないけど、このまま進むのも危険だし」

こうして話はまとまり、冒険者ギルドに伝書鳩を送って増援のパーティーを要請する事になったのである。
洞窟から放たれた鳩は雲一つない空を飛び、王都ナーブルスを目指すのだった。


【引き続き参加者募集中です!気軽にご参加ください】
0006創る名無しに見る名無し垢版2020/06/02(火) 23:22:07.60ID:uBWDRASg
『いい子にしてるから』

 クリスマスイブのこと。
「今年もぼうやにサンタさんは来てくれるかな」
「ぼく、いい子にしてるから。きっとサンタさんはきてくれるんだ」
ある親子がそんなやり取りをしていた。
その晩、日付は変わってクリスマス。
ぼうやの部屋に、煙とともにサンタが現れた。
サンタはそっと、プレゼントを置こうとした。
「困ります。本物のサンタが来てプレゼントを置いていくなんて」
サンタが驚くと、すやすや眠っていたはずのぼうやがこちらを見ている。
「親はサンタを信じていないから、クリスマスプレゼントを用意するんです。
全員がサンタを信じたら、親はプレゼントを用意しなくなってしまう」
見つかってしまった。この子もサンタを初めて見たはずだが、その反応は非常に乏しかった。
最近のこどもたちに、増えているタイプだ。
「ぼくたちこどもはサンタを信じているふりを長く続けて、一回でも多くプレゼントをもらいたいんです」
「去年来てくれなかった本物が、来年も来てくれるでしょうか。本物に気まぐれで
クリスマスにプレゼントを配られると、長い目で見て損になるかもしれないんです」
「ですから、ぼくたちこどもとしては、26日の夜にでも配ってもらえると助かります」
サンタは何も言えず、プレゼントとともに煙と消えた。
0008レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/06/04(木) 20:27:32.42ID:Phrr7mrr
>>7
 敵役参加も歓迎です!ぜひご参加ください!
 敵NPCの操作という意味でしたら、>>1が登場させたNPCは参加者が自由に動かして大丈夫です!】
0009創る名無しに見る名無し垢版2020/06/05(金) 13:22:30.05ID:X3oh/yYO
切って、刻んで、すり潰す!
ああっ… 足が!
叩いて! 壊して! 殺す!

バラバラにしてやる!

足に当たった!
胸が…!
痛み?

お前!!
0010創る名無しに見る名無し垢版2020/06/05(金) 13:25:30.13ID:v3SLBkRl
ビッグホーン、きょうだいを殺した!

も、もう止めろ!
白い奴だ! 怖いよう!


ビッグホーン、きょうだいを殺した!


羊さん。なぜ羊なの?


白いフワフワを殺せ!

ダメ! 白い奴、来る! 逃げろ!
白い奴、きょうだいを殺した!

メェー! メェー! 怖い!



大きい奴! 怖いよう!
0011創る名無しに見る名無し垢版2020/06/05(金) 13:27:45.53ID:+abLYagk
どうして去るんだ? 空港に戻らないと!

お前がデルバートを撃ったから、去るしかない!

お前のせいだ!





俺のせいじゃない! デルバートが蹴ってきて…

だから撃った。あいつのせいだ!

関係ない、デルバートはボスだ。

絶対撃つな!

両方とも黙れ! うるさい!





見つかるぞ… 何の音だ?
0012創る名無しに見る名無し垢版2020/06/05(金) 13:34:48.82ID:4Gz83Y/6
あ、あのお話があるのですが…

死体がしゃべったんだ。

誓って言う、不可能だ。

死体は喋らない、ただ命令に従うだけだ、そうだろう?

コリン…いえMrモリアティ…今日はまた一段とご立派で…

なんてことだ!さっき言っただろう!仕事に戻れ、それとも頚になりたいのか!?

えっ、あ…はい

あ、あのお話があるのですが…

死体がしゃべったんだ。

誓って言う、不可能だ。

死体は喋らない、ただ命令に従うだけだ、そうだろう?

ただいまヌカコーラを切らしてまして、先にお伝えしたほうがよろしいかと

ゴブ、黙ってろ。

お前は口だけは動くな、しゃべりすぎだ。仕事に戻れ

うん・・・Mrモリアティ?

何、なんだと今なんて言った。

口を開いていいと誰が言ったんだ。

いやしい死体のくせに!

コリン…いえMrモリアティ…今日はまた一段とご立派で…

なんてことだ!さっき言っただろう!仕事に戻れ、それとも頚になりたいのか!?
神よ、オレに力を
0013創る名無しに見る名無し垢版2020/06/05(金) 22:39:02.64ID:3VQKCrCE
名前:クロン
種族:魔族
年齢:?(見た目は10代)
性別:男
身長:160
体重:50
性格:気分屋
職業:剣士
能力:魔装機神…自身の素早さ+攻撃力+防御力を上昇させる。魔法ではなく魔力を使った固有の特技。
所持品:悪鬼の剣…日本刀タイプの黒い剣。
      魔人の服…片掛けの胸当てと肩当て付きの黒い服。
      髑髏のイヤリング…髑髏型のイヤリング。
容姿の特徴・風貌:黒髪おかっぱの色白少年。瞳が赤くトンガリ耳。八重歯が鋭い。
簡単なキャラ解説:人間社会に浸透し内側から切り崩す事を目的に魔王によって創られた新種のヒト型魔族。
            彼はその中でも魔法が使えない剣士に似せて創られており、実際に魔法は一切使えない。
            彼自身は魔王の意思に必ずしも忠実ではなく、割と自由気ままに過ごしている。
            趣味は呪いの装備品を集めること(魔族なので呪いの影響を受けない)。
0015レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/06/06(土) 22:53:41.34ID:WoJ8+sVr
【浮かれて見落としてましたがクロンさん、お手数ですが
参加&本人識別のため一度トリップを使用して書き込みお願いします!】
0016クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/06/07(日) 17:20:21.62ID:ZgsRDliK
『水晶の洞窟』に今、一人の男が足を踏み入れた。
彼の名はクロム。
見た目は小柄で中性的な顔をした少年だが、その実単身世界中を旅してきた屈強な剣士の一人である。

「──お、いたいた。あんた達が例のパーティだろ? 俺はクロム。増援だ」

王都の冒険者ギルドに増援要請をした一団。クロムがそれを発見するのに時間は掛からなかった。
出入り口から然程遠くない地点で焚火を囲んで待機していてくれたからだ。

(ふぅん……思ったより統率が取れてるじゃんか)

それを見てクロムは思わず感心する。
一団の傍で横たわる巨大な首無し死体は、クリスタルゴーレムと名付けられた手強い魔物のそれである。
恐らく現状の戦力では同クラスの魔物との連戦は危険と判断し、大人しく増援を待つことに決めたのだろうが……
ともすれば烏合の衆と化す急造パーティでは意思統一と行動の徹底は簡単なようで難しいもの。
ましてや貴族の子息を救出するという時間との勝負でもある依頼を受けているなら尚のことである。
なのに特に足並みが乱れた様子がないのは個々が冷静なのかそれとも良いリーダーに恵まれたのか……。

「ちょっと待て、増援ってのはガキか!? 他は!?」

「まさか来ないんじゃ……」

口々に不安を漏らし始める一団を見渡して、クロムは後者であることを確信する。
そしてそのリーダーが──恐らくだが──誰なのかも。

「他の奴らの事までは知らないね。他にも来るかもしれないし来ないかもしれない。何なら待ってもいいけどどうする?」

クロムの視線はありふれた旅人の服を着た少年に向けられていた。

【名前をクロムに変えてますが>>13本人です。混乱させたら申し訳ないです。これからよろしくお願いします】
0017レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/06/07(日) 19:33:34.35ID:uw+JGGC1
洞窟の中というのは寒い。もっともサマリア王国は温暖な気候の土地である。
理由として空気が動かないということと、岩や土が自然の断熱材の効果を持つからである。
ともかく急造の救助パーティー一同は焚き火を囲って増援を待っていた。

>「──お、いたいた。あんた達が例のパーティだろ? 俺はクロム。増援だ」

そしてやってきた増援はというと、クロムと名乗った少年一人なのである。
パーティーのメンバーは口々に異を唱えたが、少年はどこ吹く風で軽やかに答えた。

>「他の奴らの事までは知らないね。他にも来るかもしれないし来ないかもしれない。何なら待ってもいいけどどうする?」

視線はレインに向けられていた。
こちらの実力を窺うかのような意味深長な視線――のようにレインは感じた。
あるいは、風のように気まぐれな事を言っているだけなのかもしれないが。

「……タイムリミットだ。これ以上は待つ時間が惜しい。先を急ごう。
 ギルドが寄越した増援が一人だってことは、そういうことなんだと思う」

――恐らくはかなりの実力者……。ありがたい、とレインは思った。
レインは修行の旅でサマリア王国各地のダンジョンを潜った事がある。無論水晶の洞窟も。

水晶の洞窟は古代王国時代の魔法使い達が創ったゴーレムや人工魔物を投棄する場所だった。
そのためか出現する魔物は一様に鉱物系である。鉱物系魔物は頑丈で有名だが索敵能力は然程高くない。
が、洞窟は単純な構造をしていて大人が隠れて進めるような道もない。奥に進むほど強力な魔物と戦うリスクは上がる。

「紹介が遅れてごめん。俺はレインって言うんだ、よろしく!
 今回限りの面子だけど一応勇者パーティーってことになるのかな?」

各々軽い自己紹介を済ませたところで、再び洞窟の探索がはじまった。
光を帯びた水晶が煌びやかに洞窟を彩る幻想的な景色の中を、ただ進む。

「……シッ、何かいる」

洞窟を半分ほど進んだ辺りで、レインがパーティーを制する。
壁越しに目を凝らすと、全身が水晶で構成された百足がそこにいた。
その全長は恐らく10メートルをゆうに超えているだろう。

「……クォーツセンチピードだ。気をつけた方がいい。あの巨体に反してかなり素早いぞ。
 油断してるとすぐ捕まって万力みたいに絞め殺されるか、首を食いちぎられるかってところだ」

水晶百足は身体をくねらせながら進路を妨害するように立ち塞がっている。前へ進むには倒すしかない。
その数、実に3匹。力はクリスタルゴーレムの方が上だろうが、物理防御の高さはひけをとらないだろう。

「クロムと俺で一体ずつ倒す。他の皆は残りの一体に牽制をかけてくれ。
 先に片付けた方が三匹目も倒す……で、どうかな、クロム?」


【まもののむれがあらわれた!(クォーツセンチピードは1ターンキル可能)】
【クロムさん、改めてよろしくお願いします!今回は休日なので早目に返せましたが
 平日はあまり時間が取れないので土日に返すことが多いかと思います。すみません】
0018クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/06/09(火) 20:54:55.75ID:X/RskrkA
>>17
>「……タイムリミットだ。これ以上は待つ時間が惜しい。先を急ごう。
> ギルドが寄越した増援が一人だってことは、そういうことなんだと思う」

少年の出した結論に、誰も異を唱えなかった。

>「紹介が遅れてごめん。俺はレインって言うんだ、よろしく!
> 今回限りの面子だけど一応勇者パーティーってことになるのかな?」

先程までクロムを子供と侮っていた者達が粛々と彼の──レインの言葉に従っている。
どうやら彼がリーダーであると見たクロムの目に狂いはなかったようである。

「あぁ、よろしくな。……勇者パーティね。ま、何でもいいけど」


──洞窟の中を進む事どれだけ経ったろうか。
『水晶の洞窟』とは良く言ったもので、どこまで行っても文字通りそこら中に水晶が散りばめられている。

そう、クリスタルゴーレムがそうであったように──この洞窟では敵も例外ではないらしい。
レインが周囲を制した直後、目の前に現れた巨大ムカデ型の魔物は、当然の如く水晶の輝きを放っていた。
クロムにとっては初見の──厳密には実物を見るのは初めての魔物『クォーツセンチピード』である。

>「クロムと俺で一体ずつ倒す。他の皆は残りの一体に牽制をかけてくれ。
> 先に片付けた方が三匹目も倒す……で、どうかな、クロム?」

クロムはムカデからレインに一旦視線を移して

「随分とここの魔物に詳しいじゃん。さてはお前、何度か来た事あるな?
 俺はこの洞窟もこの魔物にも慣れてねーからここのノルマは一匹だけにしてくれよ。
 第一めんどk……じゃなくて、信頼されてる奴に任せた方が皆も安心するだろうしな?」

などと答えた。が、それは完全な判断ミス、油断であった。

「ん? ──うをっ!?」

視線を戻した時、すなわち気が付いた時には、既にムカデは全身に巻き付いていたからである。

「こいつっ……いつの間にくそっ! 虫ってやつはどうして空気が読めねぇんだよっ……!」

とクロムは言うが、そもそも戦場においては敵から一瞬でも目を離した方が悪いのだ。
全身を絞め上げられるのはその報い。油断した方が容赦ない責苦を受ける。残酷だが、それが戦場だ。
0019クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/06/09(火) 21:01:47.69ID:X/RskrkA
全身を包む強い圧力。
レインはそれを万力に例えたが、なるほど確かに人体など軽く潰せるだけの力はあるらしい。
いくら二の腕に力を入れてもビクともしないばかりか、逆に締め付けが強くなる一方だ。

「んぐぐぐぐ……!! あぁもう! こりゃあ今のままじゃ解くのは無理っぽいなっ……!」

しかし、そんな諦めとも取れる言葉とは裏腹に、クロムの顔に絶望や悲観の色は一切なかった。
別に仲間が助けてくれるだろうと楽観視している訳ではない。
実際に攻撃を受けた事で確信できたのだ。ムカデの力は己の本気のそれに遠く及ばないという事を。

「……しゃーない。ちょっとマジにならなきゃ駄目……かっ!」

不意にその目にこれまでにない力強い光を宿して気張るクロム。
途端にギチギチギチと悲鳴に似たかつてない軋み音を発するムカデの肉体。
これは抑え込もうとする外側の力とそれを解こうとする内側の力。
その優劣があっさり逆転した事を意味していた。

──発動と同時に素早さ、攻撃力、防御力を爆発的に上昇させるクロム特有の技『魔装機神』。

その肉体が発揮する驚異的な力の前では水晶の硬度などもはや何の意味もなさない。
つまりムカデもまたミスを犯していたのである。
初めの奇襲で急所を噛み砕いてさえいれば、その時点で決着は尽いていた筈だから。


(剣も能力も使わないで済むレベルの洞窟と思ってたんだけど……少し甘く見てたな。やれやれ。
 ……さて、他の連中の実力は実際どんなもんかな? 今後の為にも情報収集は必要ってね)

ゴム輪を引き千切るようにムカデを解体したクロムは、その残骸を服から払いながらパーティの戦いぶりを観察する。

【クォーツセンチピードを一匹撃破。他の戦闘には静観中】
【気にしないで下さい。こちらも週に一度か良くて二度が限度ですので】
0020マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/06/10(水) 14:55:16.31ID:vdpM4pJN
名前:マグリット・ハーン
種族:獣人(貝)
年齢:22
性別:女
身長:185
体重:155
性格:野心家
職業:宣教師
能力:獣化、回復魔法
   貝類の能力を体に顕現させられる
     硬質な殻を生み出した手にしたり、放水したりなど
   種族特性として毒や瘴気を吸収し身に溜め込むことができ、肌の褐色度合いが毒の溜め込み度合いと言える
   神の奇蹟により傷の治療を出来るが、長く高い祈りが必要で戦闘中は実質使用不能
   また、効果が高いとは言い難い

所持品:白を基調とし金の縁や文様で装飾された法衣
    鈍器状態の聖典、聖遺物の入った聖印
    砂鉄、水の入った樽を背負っている

容姿の特徴・風貌:灰色髪を緩い夜会巻にして、巻貝のような髪型
         目鼻立ちはくっきりしており、肌は褐色、張り付いた営業スマイル
         大女ではあるが体格的には太っているわけではない

簡単なキャラ解説:
貝の獣人女性
各種貝の能力を扱う事ができ、その一環として砂鉄の摂取が習慣化している
砂鉄を吸収する事で体の外皮に鉄の鱗を生じさせることができる
それ故に見た目以上の体重になっている

宣教師をしているが、特に信心深いわけではない
自身の目的を達するために宣教師が都合が良かった、と言うだけだが一応建前は取り繕う模様
教会側も、未開の地に布教するには危険が伴い、戦闘力を持つマグリットは重宝する人材足りえると受け入れている
要するに教会の傭兵である

【ステレオタイプはよくわかっていませんがご精査お願いします】
0021レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/06/10(水) 19:18:52.33ID:cWoWWL2H
>>22
 参加ありがとうございます!よろしくお願いします!!
 ステレオタイプの世界観といいつつ私のお出しできるフレーバーがユルいだけとは言えな…げふん!
 それはともかく、どのタイミングで参戦しますか?クォーツセンチピード(名前長)との戦闘からであれば私が投下を待った方がいいのかな?
 もちろん百足との戦闘後に参戦されても大丈夫ですよ!その場合は私の投下を2、3日待って頂く感じになるでしょうが……。
 いずれにせよ状況的には@増援が遅れてやってきた、A何らかの事情で居合わせた、Bその他って感じでしょうか】
0023マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/06/10(水) 20:51:55.01ID:vdpM4pJN
>>21
ありがとうございます
@でいかせてもらおうと思います
投下ですが、ムカデとの戦闘中に乱入させてもらおうかな、と
それで質問ですが、MOBPTメンバーは何名ほどいるでしょうか?
そちらも取り入れて描写しようと思っていますので
お答えいただけてから1.2日でレス投下させてもらおうと思います】
0024レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/06/10(水) 22:06:51.75ID:cWoWWL2H
>>23
モブメンバーは全員で5名です。レインを入れて6名の救助パーティになります。
水晶の洞窟に詳しいレインをリーダーに依頼者のモブ貴族が編成しました(たぶん)】
0025マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/06/11(木) 16:32:05.09ID:C+DDNcz6
水晶の洞窟にて冒険者たちが巨大な水晶ムカデ、クォーツセンチピートと戦いを繰り広げている
激しい剣撃や怒号の飛び交う中でもドスドスと近づいてくる大きな足音は聞こえるだろう

クロムが体に巻き付いた水晶ムカデを引き裂いたところでその足音の主が現れた
「おーい、教会より派遣された宣教師マグリット、ただいま到着ですよー」
大きな体に褐色の肌を強調するかのような白を基調とした法衣に似合わぬ樽を背負った姿
宣教師マグリッドである

神の教えを説く他の神職とは違い、未開の地を切り開きそこに教えを広める宣教師は教会の尖兵ともいえる存在
貴族子息の救出という事でギルドから協力要請を受け戦力として派遣されてきたのだが、重鈍故に合流に遅れ今になって到着というわけだ

遅れてやってきたマグリットの目に入ったのは倒れて動かない冒険者一人
そして今、水晶ムカデの無数の脚に絡めとられようとしている冒険者
他の冒険者も抵抗しているようだが効果はあまりないようだ

「下がって!今助ける!圧流刃!」

状況を一目見て危機を察したマグリットはそう叫んで腕を振る
袖に隠れてはいるが腕とは別に伸びた放水管から高圧の水が刃となって水晶ムカデの胴を両断した

「皆さん大丈夫ですか?教会所属の宣教師マグリットがお助けしましたよ!
感謝の気持ちは改宗と喜捨にて受け付けて……!」

恩着せがましく布教の言葉を並べながらムカデの脚から解放された冒険者を起こそうとしたマグリットを強い衝撃が襲う
水晶ムカデは胴体を両断されても死んでいなかったのだ
切り落とされた体の後半部分を置き去りに、前半部分だけで這い進みマグリット胴体に突っ込み巨大な顎を突き立てたのだ

だが、マグリットは倒れない
そして突き立てられた顎が切り裂いたのは法衣だけで、その下の皮に傷つけることはできずにいた

海中の鉄分を吸収し、鋼の鱗を生やすスケーリーフットという貝がいる
マグリットも日常的に砂鉄を摂取する事で、外皮は文字通り鋼鉄となっている
その代償として体重は3桁を優に超え、移動速度は遅く、大きな足音を立てることになってしまっているのだが
しかしその重さと三桁体重で行動するが故に鍛えられた足腰の強さがあるからこそ、巨大な水晶ムカデの体当たりを食らっても倒されずに済んだのだ

「ふむう、虫の生命力を侮っていましたね
水晶の体と言うのであればこの周波数かな?くらいなさい、螺哮砲を」

大きな顎で食らいつく水晶ムカデを引きはがすでもなく、むしろ触角を掴み固定すると、マグリットの口から重低音の、まるで法螺貝の調べのような音が流れ出す
それは10秒15秒と続くうちに水晶で覆われたその頭部が振動をはじめ、やがてひびが入りそれは全身に広がっていく
たまらず顎を離しのたうつクォーツセンチピートに

「神の使いたる宣教師に牙をむいた罪は重いですよ!神罰覿面〜〜!」

その言葉と共に聖典が振り下ろされる
分厚く鋼鉄で補強された聖典はもはや鈍器も同然
ひび割れたクォーツセンチピートの頭部は粉々に砕かれ床にめり込みその動きを止めた

【戦場に乱入、クォーツセンチピード一体撃破】
【登場レスです。これからよろしくお願いします】
0026レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/06/12(金) 23:22:48.09ID:fkKYIbeT
クォーツセンチピード。名前まで百足の胴みたいに長くしなくても……と、ある魔物学者に評された魔物。
早い話が鉱物系の大百足である。全身が水晶でできており、その多脚で壁や死角から忍び寄ってくる。
気付いた時には既に遅く、ゆっくりといたぶられて殺される。

>「随分とここの魔物に詳しいじゃん。さてはお前、何度か来た事あるな?
> 俺はこの洞窟もこの魔物にも慣れてねーからここのノルマは一匹だけにしてくれよ。
> 第一めんどk……じゃなくて、信頼されてる奴に任せた方が皆も安心するだろうしな?」

本来なら「わかった、それじゃぁ3匹目はクロム以外の皆で仕留めよう」とでも返すべきだろう。
だが、薄暗い天井から忍び寄って来るクォーツセンチピードを前にそんな余裕はない。
頭上へバルディッシュを振り上げ攻撃を加えたが寸でのところで避けられてしまった。

>「こいつっ……いつの間にくそっ! 虫ってやつはどうして空気が読めねぇんだよっ……!」

一方、クロムは水晶百足に組みつかれ、まさに全身を絞めあげられている最中だ。
本来ならなりふり構わず助けに行くべきだろうが、その余裕がレインにはなかった。
クロムの方へと少しでも注意を逸らすとすかさず二匹目が攻撃を仕掛けてくる。
パーティー達も5名のうち3名が負傷しており長期戦は不利。長くは持たないだろう。

「これは……!」

クロムを戦力として当て込んで魔物の各個撃破を狙ったが、むしろ分断されてしまった。
手早く3匹を片付けなければパーティー全滅も考えられる。完全に作戦ミスだ。
どうしようもない後悔が波濤のように押し寄せてくる。

(こんなはずじゃぁ……!)

>「……しゃーない。ちょっとマジにならなきゃ駄目……かっ!」

しかし、不利な流れを変えたのは他でもないクロムだった。
絞めあげられていたのも束の間、目映い光を全身から発すると
パンをむしるかのように硬い百足を容易く解体してみせたのだ。

>「おーい、教会より派遣された宣教師マグリット、ただいま到着ですよー」

百足が解体されたのと時を同じくして現れたのが、新たなる増援。
神懸かり的なタイミングだ。なぜならパーティーが3匹目の百足に苦戦を強いられ、
一人は昏倒し、一人は無数の脚に絡めとられようとしていたのだから。
クロムはというとノルマを達成し、静観を決め込んだようだ。
それはこちらの実力を図っているかのようにも感じられた。

>「皆さん大丈夫ですか?教会所属の宣教師マグリットがお助けしましたよ!
>感謝の気持ちは改宗と喜捨にて受け付けて……!」

取るに足らない事のように百足を両断すると、宣教師のさが(?)を発揮している。
そこでレインは意識を切り替えた。自分自身も目の前の敵を集中しなければならない。
0027レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/06/12(金) 23:26:05.57ID:fkKYIbeT
百足のオーソドックスな弱点はクリスタルゴーレムと同じく関節となる。
しかし、バルディッシュによる攻撃は大振りになりがちでどうにも当たらない。
機敏に動く百足をなかなか捉えられず、攻めあぐねているのが現状。

だから武器を替える。召喚魔法で両手武器のバルディッシュを消滅させて新しく召喚。
レインの手に現れたのはエストックだ。鎧通しとも呼ばれる、敵を突き刺すための剣。

「一気に畳みかけるっ!」

2匹目のクォーツセンチピードがレインを絞めあげようとその長い胴で包囲を始めた。
レインはぎりぎりまで引きつけたところで、両手で握ったエストックを硬い水晶の胴と胴を繋ぐ関節に突き刺す。
痛みに悶絶して怯んだ隙に百足へと飛び乗り、新たに召喚したエストックを頭と胴の間を深々と一突き。

ゆっくりと地面へと倒れ込むクォーツセンチピードを一瞥もせず、マグリットの方を見た。
粉々になった百足の頭部が地面にめり込んでいる……なるほど、頼んだ増援はかなりの強者揃いらしい。
回復役としてパーティーに一人欲しい僧侶職だが、回復以外の役割を持ち辛いのがネックになりがちだ。
マグリットの場合はそれを完全に克服している。これほど頼もしい追加パーティーもいない。

「ありがとう、マグリットさんがいなければどうなっていたか……俺はレイン。
 一応勇者だよ。回復魔法は使えないかな?連戦で仲間が負傷してて……」

負傷者が出たので手当てのため小休止。その間レインは軽く周囲を探索してみた。
洞窟の真ん中辺りまで来たはずだが、少年がいた形跡は見当たらない。
考えてみれば足下一面も硬質な水晶なのだから、足跡すら残らない。

「やっぱり、子供は最深部か……」

憂いを帯びた顔で奥を見据える。

「俺はこれまで、魔王を倒し得る伝説の武器や防具を求めて色々なダンジョンを潜ってきた。
 この水晶の洞窟もそのひとつだけど倒せずに逃げるしかなかった魔物も何体かいる。
 あいつとは……もう出くわしたくない」

いつになくレインは弱気だった。
結果的に無事ではあったが、マグリットとクロムがいなければどうなっていたことか。
駆け出しの頃、他の勇者に誘われてこの洞窟に潜った時を思い出す。手も足も出ず敗走した過去をだ。

戦わないに越したことはないが、虱潰しに探す手前、可能性は十分考えられる。
その魔物の名をアメトリンキマイラという。鉱物系の混合魔獣で高い知性に稲妻と猛毒を吐く能力をもつ。
五メートルを超える体躯は見る者全てを畏怖させるだろう。

「……子供が無事なら良いんだけれど」

その時だった。微かだが子供がすすり泣くような声が聞こえたのは。
同時に、僅かに瘴気が立ち込め、剣呑な気配が漂いはじめる……。
近くにまだ魔物が潜んでいるらしい。


【まもののむれをやっつけた!近くに子供と別の魔物が潜んでいる様子】
0028クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/06/13(土) 22:34:10.52ID:qrZkOW9R
>>25-27
クロムが戦闘観察を始めると同時に戦場に現れた褐色肌の長身美女──宣教師マグリット。
その戦闘力は一般的な僧侶のイメージに反した驚異的なものであった。

(…………そうか、こいつ)

そこに自分と同じ──いわば“人外”のニオイを鋭く嗅ぎ取ったクロムは、
口元にうっすらと笑みを貼り付けた顔でマグリットに話しかける。

「──あんた尼さんの癖に強いね、かなり。まさか美人の皮を被った“獣”じゃねーよな、中身は? ……なんてな。
 俺はクロム。このパーティの増援に来た助っ人さ。ま……あんたの“同類”ってわけだ。仲良くやってこうぜ?」

そして言い終えると同時に、視線をレインに向けると、

>「一気に畳みかけるっ!」

そこでは丁度ムカデが撃破されたところであった。
増援を除いたパーティの中でムカデを苦にしないレベルなのはやはりレインだけだったらしい。

(ってことは……ゴーレムも実質レイン一人で倒したってわけだ。これじゃ増援を呼ぶわけだ)

などとクロムが分析していると、勝利の後だというのに表情を一層暗く沈めたレインがぽつりと呟いた。

>「俺はこれまで、魔王を倒し得る伝説の武器や防具を求めて色々なダンジョンを潜ってきた。
> この水晶の洞窟もそのひとつだけど倒せずに逃げるしかなかった魔物も何体かいる。
> あいつとは……もう出くわしたくない」

それを聞いたクロムは、対照的なけろっとした表情で言葉を紡ぎ出す。

「ふーん。要するにボスっぽい奴がこの洞窟にも居て、そいつは恐らくまだ誰にも倒されてないってわけだ。
 それはつまり、隠し財宝がどこかにあればまだ誰にも回収もされてないってことでもあるな。
 ……いいねいいね。やる気が出てくるじゃん。実は俺も珍品、貴重品には目がなくてさ。
 探してるんだよ。特に“クセ”のある武器や防具をな」

まるで子供の救出はおまけとでも思ってるかのように。そういう意味でもレインとは対照的だ。


「お……何かありそうだな」

不意にクロムが興味を示したのは、子供の声が聞こえてくる通路の奥──
ではなく、通路の壁に空いた小さな穴であった。大きさは大人の頭がすっぽり入るくらいだろうか。
彼はそこにお宝のニオイを感じた取ったといわんばかりに、無造作に手を突っ込んで探り始める。

だが、ややってその手が掴んで引き出したのは、体長30pほどの蟻であった。
それも毒々しい色の謎の鉱物で構成された、一目で小型の魔物と判る。
咄嗟にクロムは「うわキモッ!」と地面に叩きつけ、グシャりと思いっきり踏み潰すのだったが──

──それが呼び水になったのだろうか。
突然、通路の奥からとてつもない雄叫びが発せられたかと思えば、
やがてそこからズシ、ズシと巨大な足音を鳴り響かせる何かが現れたのだ。
暗くて遠目にはその正体こそはっきりと見て取れないが、確実なのは大型の魔物であるということだろう。

「鬼かそれとも蛇か……。いずれにしてもパパッと片付けちまおうぜ? この洞窟虫ばかりで気持ち悪ぃわ」

【マグリットさんこれからよろしくお願いします!】
【魔物の正体はお任せします】
0029マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/06/16(火) 23:34:17.14ID:nfkDgj4n
>「──あんた尼さんの癖に強いね、かなり。まさか美人の皮を被った“獣”じゃねーよな、中身は? ……なんてな。
> 俺はクロム。このパーティの増援に来た助っ人さ。ま……あんたの“同類”ってわけだ。仲良くやってこうぜ?」


クォーツセンチピードを倒し、祈りをささげていたところでクロムからの言葉に顔を上げる
マグリットは貝の獣人、それも蜃と呼ばれるものであり、故に様々な貝の能力を使える

隠しているわけではないが、人あらざるものというのは説明を要し時として警戒心を抱かせてしまう
それは布教にとって不都合なものであり、人としての形態をとれるのであればあえて明かすこともないとしていた
故にクロムの探りの言葉も笑顔で流し、更にそこに勘違いも重ねる

「はい、出所は違えど同類ですし、是非とも仲良くしていただけると嬉しいです」

そのまま聞けばクロムが魔族、自分が獣人であるが同じ人外と言っているようにも捉えられるかもしれないがそのような意図はない
出所とは所属先が冒険者ギルドか教会かという違いであり、同類とは救援要請を受けてやってきた増援というところというクロムの言葉の表層をそのまま辿っただけなのだから

頭一つ分小さなクロムではあるが、ムカデを引きちぎるさまを見てその実力を認め固く握手をするのだった
職業的には僧侶ではあるが、宣教師という職種柄考えをめぐらすより肉体言語の方を重視する、それがマグリットなのだ


>「ありがとう、マグリットさんがいなければどうなっていたか……俺はレイン。
> 一応勇者だよ。回復魔法は使えないかな?連戦で仲間が負傷してて……」

そうしている間にレインも水晶ムカデを倒しやってきた
こちらも単独で撃破という力を見てマグリットは満足げにその言葉に応える

「いいえ、こちらこそ貴族の子息救援に呼んでいただきありがとうございます
教会を代表して感謝と尽力を尽くしますですよー!」

教会と言えどもその内情は慈善事業をしているわけではない
信仰を得て勢力を拡大するために日々活動しているのだし、王都の教会ならば様々な利権、利害、権力闘争にまみれている
そういった中で【冒険者ギルドからの要請】で【貴族の子息の救出応援要請】となれば二重に美味しいのだ

応援要請に応えた時点で冒険者ギルドとの関係強化
救出に向かったという事で貴族へ恩を売れる
もしも救出失敗したとしても主導が冒険者ギルド故に責任も負う必要がない

「それでは負傷者の方々の治療を行います。
ただ治療には深い祈りと時間がかかりますのでしばしお待ちを」

レインとクロムが話している間にマグリットは重症者から回復の祈りをささげていく
ぼんやりとした光が倒れている冒険者を包み、ゆっくりとだが傷はふさがり顔色が戻っていくがその進みは遅々としたもの
戦闘力重視のマグリットの回復魔法は時間がかかるうえに効果が薄いものであるが故、全快するまで時間は待ってくれなかった

重傷者の一人が何とか動ける程度まで回復したところで辺りに瘴気が漂ってくる
それとともに子供のすすり泣きが聞こえたのだが、それはすぐに巨大な雄叫びにてかき消されてしまった
大きな足音を響かせながら接近してくるそれにマグリットの顔は青ざめる
動けない重傷者はもう一人いるのだから

「拙いですね、こういった場所で雄叫びを上げ足音を響かせるというのは、自分の位置が相手に知られても問題ない存在であるという事でしょう
すなわちこの洞窟で一番強い魔物なのかもしれません
傷ついた者は後ろへ!
重傷者はもう一人います。
動けるまで回復させたらお手伝いしますので、それまで時間を稼いでください」

マグリットは一心不乱に祈りをささげ、倒れている冒険者に回復の光を当て続けている
0030レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/06/18(木) 20:27:31.76ID:BRoNnMuI
ダンジョンといえば探索、探索と言えば財宝。冒険者は一獲千金を求めてダンジョンを潜る。
レインもそうであり、増援として参じた剣士クロムもまたそうであるようで。

>「お……何かありそうだな」

子供の声を聴き取ろうと耳をそばだてていると、クロムが魔物の気配がする方を向く。
そして無造作に通路に空いた穴に手を突っ込む。中から出てきたのは一山の金銀財宝……。
……ではなく、何とも毒々しい鉱物でできた、巨大な蟻だった。30センチほどもある。
鉱物と虫の合いの子は、クロムの生理的嫌悪によって踏み潰されてしまった。

「メノウアント……さっき感じた気配はこいつだったのか」

この洞窟内で出現する魔物の中で最弱の存在だ。
特徴は骨ごともっていかれかねない顎の力だが、
数の暴力で襲い掛かられるとまぁまぁ厄介ではある。

「……今、揺れた?」

洞窟内が揺れてざわついたような、くぐもった振動。
足音だ。人間のものではない。もっと巨大な何かだ。
それが魔物である、というのは想像に難くない。

>「拙いですね、こういった場所で雄叫びを上げ足音を響かせるというのは、自分の位置が相手に知られても問題ない存在であ>るという事でしょう
>すなわちこの洞窟で一番強い魔物なのかもしれません
>傷ついた者は後ろへ!
>重傷者はもう一人います。
>動けるまで回復させたらお手伝いしますので、それまで時間を稼いでください」

「わかった。負傷者は頼む!」

エストックを召喚したまま前衛に出た。
巨大な魔物はやや離れた暗がりの位置から動く気配がない。
いまいち正体が判然としない距離感のまま、緊張を保っている。
だがその威容、気配はどことなく覚えがある気がした。

>「鬼かそれとも蛇か……。いずれにしてもパパッと片付けちまおうぜ? この洞窟虫ばかりで気持ち悪ぃわ」

「確かに。でも先に仕掛けるのは危険だよ。
 相手の正体が分からない以上、ここは慎重に――……」
0031レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/06/18(木) 20:28:53.47ID:BRoNnMuI
レインが喋り終わらぬ内に痺れを切らした魔物が接近をはじめた。
距離が近付くにつれ、正体が露になる。
獅子の頭、山羊の胴、毒蛇の尻尾を持ち、紫水晶と黄水晶が混じり合った体躯。
その巨体を揺らし、足音を立てながら突進を敢行する。

「……アメトリンキマイラ!?」

洞窟の番人(ボス)、混水晶の魔獣が姿を現したのだ。
まずはこの突進を止めなくてはいけない。
背後には回復のため祈りを捧げるマグリットと怪我人がいる。
と、いっても5メートルはある巨大な魔物だ。
そんな魔物の突進を単純な腕力で止められるわけがない。

レインは壁へ素早くよじ登ると、丁度良い水晶の突起に掴まり、天井にぶら下がる。
そしてタイミングを見計らって魔獣の背中に飛び乗った。
そのまま頸椎へ向けて渾身の刺突を繰り出した。

「くそっ、硬すぎる!」

刀身が根元から折れた。
クォーツセンチピードやクリスタルゴーレムとはまるで硬度が違う。
アメトリンキマイラは勢いを緩めることなくマグリット達の方へと猛進する。

「クロムッ、気をつけろ!こいつの攻撃方法は電撃と猛毒の……」

言い終わらぬ内に口部に閃光が灯った。
それは電撃となって不規則な挙動で拡散しクロムへと迫る。


【洞窟のボスが登場。突進しながらクロム目掛けて電撃を吐く】
0032クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/06/21(日) 15:39:56.02ID:3XzpGLRb
獅子の頭、山羊の胴体、蛇の尻尾……そしてそれらを構成する物質は希少な輝きを放つ鉱石。
レインは正体が露わになったその魔獣をこう呼んだ。

>「……アメトリンキマイラ!?」

「正に文字通りってやつだな。捕まえて売ったら結構な高値がつくんじゃねーか?」

などと、軽口を交えるクロムだが、その表情はいつになく締っている。
凝らすように目を若干細めるその仕草は、警戒に値する相手と見做しているからに他ならない。
これまで積み重ねてきた数多の実戦経験。それが彼に語り掛けているのだ。
『こいつはこの洞窟の“主《ボス》”だ。油断するな』──と。

突進してくるキマイラに飛び乗り、隙だらけのその背中にエストックを繰り出すレイン。
しかし、効かない──。
刃は皮膚に触れた瞬間粉々となったのだ。キマイラには蚊に刺された程の感覚もないだろう。

(ありふれた武器じゃレインの腕でも傷一つ付けられない……そんなレベルの硬度か)

クロムは流石に素手じゃ無理だな、と内心続けて、いよいよ鯉口を切る。
前からはキマイラ。後ろには仲間を治療中で動けないマグリット。
そしてレインも再び得物を手にして攻撃に移るまで数秒は要するであろうこの状況の前では本気にならざるを得ない。
パーティの大量死という最悪の事態を防ぐには、差し当たってクロムが一人で何とかするしかないのだから。

>「クロムッ、気をつけろ!こいつの攻撃方法は電撃と猛毒の……」

キマイラの口部から激しい光が飛び出したのはその時だった。
不規則な軌道を描くそれは、レインの言う電撃に違いない。
世の中には雷系魔法の威力を半減させる装備も存在するが、今のクロムの装備では直撃すれば丸焦げであろう。
かといって躱すことはできない。軌道を読み難い電撃を躱すのは困難、という意味ではない。
躱せば、後ろに居るマグリット達が代わりに直撃を受けてしまうのが明らかだったからだ。
0033クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/06/21(日) 15:48:06.68ID:3XzpGLRb
(──なら)

素早く剣を抜き放つと同時──クロムは自身の前方の空間に“鞘”を投げ放つ。
これは自身の身代わりを兼ねたキマイラへの目くらまし。

『グォォオオオオオオオオオオオ!』

かくしてその目論見は成功する。
電撃を受け止めた鞘が撒き散らす激しい光と火花が、獅子頭を絶叫させて前進をストップさせたのである。
しかし、その隙を突いて一気にキマイラの側面に回ったクロムを待ち構えていた者が居た。

『シャアアアアアアアアア!』

尻尾《蛇》である。それも大口を開けて正に飛び掛かってきているではないか。
視界が効かないにもかかわらず、動きを完全に把握していなければできない反応を目の当たりにして、
クロムは蛇には体温を感知する器官があるという話を思い出すが──

「──お前ぐらいの速さなら、まだ何とかなるんだな、これが」

強力な顎による奇襲を柔軟かつ素早い体捌きをもって紙一重で躱したクロムは、
手にした特徴的な黒剣を地面に向けてこれ見よがしに一振りする。

蛇の上顎から頭部にかけてがいきなり首から別れ落ちたのはその直後だった。
既に斬っていたのである。躱した際に、そのすれ違いざまとなった時に、とてつもない速さで。

ぶしゅぅぅぅ! と紫色の液体が傷口から噴水のように溢れ出し、戦場を見慣れない色に変えていく。
これには蛇の奇襲にも顔色一つ変えなかったクロムも思わず目を丸くした。
この洞窟の魔物は鉱物を基に創られた人造物の筈で、それが本物の生物のように体液を有していた事に驚いたのだ。
実際、ムカデもアリも、引き千切ろうが粉々に踏み潰そうが体液は一滴も出なかったのだが……。

(あるいはこいつだけ駆動の為の溶液が内部に満たされていた特別なタイプだったのか……)

そう解釈したところで、クロムは一旦、頭を横に振って考えを振り払おうとする。
まだ獅子と山羊の二つを残しており、戦闘が終わったわけではない。余計な事を考えている暇はないからだ。

しかし、頭を横に振った際、たまたま視界の端に飛び込んできた光景が、彼にそれを許さなかった。

「……!」

メノウアント。恐らく戦場に迷い出たのであろう一匹が、紫色の体液を浴びてひっくり返っている。
見た目は無傷であるにもかかわらず、如何にも虫の息という感じに、ピクピクと痙攣して。
これは典型的状態異常の症状。故にクロムは直感する。

「やべぇ! こいつは“毒液”だ!」

【キマイラの足止めに成功し、蛇の頭部をぶった切るが、そのせいで猛毒が周囲にばら撒かれてしまう】
0034創る名無しに見る名無し垢版2020/06/21(日) 17:11:22.80ID:0WATSczn
いいね
0035マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/06/25(木) 19:23:42.81ID:3Ua9o/92
ホタテは全周囲に複数の眼が配置されており、360度の視界を得ることができる
しかしその視覚情報を処理するには脳が未発達過ぎるのが問題ではある
貝の獣人であるマグリットはその能力が使え、そしてその視覚情報を処理できる脳を持っていた

故に、見ていた
負傷者を回復させる祈りを捧げながら、こめかみに、うなじに、肌の露出部に発生させた目で背後に出現したアメトリンキマイラの姿を
内心悲鳴を上げるが、一応とはいえ神職につくものが治療を投げだして逃げるわけにもいかず
少しでも治療を早く終わらせようと念を込めるが、所詮は一応の神職でしかなく、回復は遅々として進まない

天井にしがみつき、渾身の力で繰り出されたレインの刺突が弾かれ、クロムに電撃が発せられたところで覚悟を決め身を固くする
協力体制ではあるし、水晶ムカデでとの戦いである程度の力はわかっているが、流石に全幅の信頼で背中を任せられるほどの信頼関係はない
神職としての体面もあるが、自身の任務と命には代えられない
義務感と体面と保身の我慢比べがマグリットの中で繰り広げられていたのだが、それが見た時には手遅れだった

吐き出された電撃を防ぐ術はマグリットは持ち合わせていない
それどころか、水を満載した樽を担いでいるので効果は抜群であろう
重量ゆえに素早い移動もできず逃亡はもちろん回避すら不能
ならばあとは耐える覚悟を決めるだけ、だったのだが

来たのは雷撃の衝撃ではなく耳を切り裂くようなアメトリンキマイラの鳴き声
クロムが投げた鞘が電撃を受け止め激しく光と火花をまき散らしその突進を止めたのだ

それだけでなく、その閃光の中で襲ってきた尻尾部分の鎌首をすれ違いざまに切って落とす鮮やかな手際
改めてクロムの強さに驚きつつも、ここに至りてようやく冒険者の意識が回復した

「気が付きましたね、まだ回復させ切っていませんが動けるはずです
這ってでもいいので下がってください」

自力で動けるようになったところで治療を中断
アメトリンキマイラの単純な強さだけでなく、体液が毒液である旨の声を聞きそちらの対処を優先させざる得なくなったからだ

「お待たせしました。他の皆さんは自力で動けるようになりましたのでお手伝いしますよ」

声を掛けながらアメントリンキマイラに向き合うのだが、周囲は既に毒液がばらまかれ、それは気化して周囲を冒していく
電撃に話す術もないマグリットだが、毒液ならば対処の術を持っているのだ
0036マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/06/25(木) 19:27:39.74ID:3Ua9o/92
「皆さん、私は貝の獣人です。
ですので驚かずに戦いに集中してくださいませ
これは生態濾過機と呼ばれる貝の能力です!」

宣言と共にマグリットのうなじ辺りから太くぬめった管が伸びて頭上にうねる
これは貝の給水管であり、普段は樽に繋がっており水を吸い込んでいる
それを腕に添うように伸びる放水管を通じて吐き出し、その吐き出す圧力によって砲弾にもなれば刃にもなる
のだが、今は空中に霧のように漂う毒を吸い込んでいるのだ
マグリットの褐色の肌の濃さが徐々に増してきているのは、それだけ毒を吸収していると言えるだろう

「むむむ、これはかなり強力な毒ですね
あまり長く時間をかけていては浄化しきれないかも
鉱石の装甲が邪魔なようですし螺哮砲で……!」

鉱石は硬くはあるが、特定周波数の音波を当てると崩すことができる
その技が螺哮砲といい、クォーツセンチピートの装甲も脆くして倒したのだ
黄色か紫か的を絞ればある程度時間がかかっても崩す事ができるし、そこをつけば倒せるという算段だったのだが、一瞬マグリットの思考が停止する

その隙を見逃すわけもなく、アメントリンキマイラの前足がマグリットを薙ぎ払ったのだ
巨大ムカデの体当たりにも耐えたマグリットの足腰をもってしてもこの一撃には耐えられるものではなかった
軽々と吹きとばされ壁に叩きつけられたのだが、その体制は崩れていなかった

前腕部から生やした巨大な二枚貝の殻を盾としてギリギリのところで直撃を下げていたのだった
しかし背負っていた樽は砕け、法衣もボロボロになって出血部分もある
直撃を防いでもその威力は十分なものであった

しかしマグリットの思考はそこにはない

「この近くで子供の泣き声が聞こえましたよ!
件の御子息がいるのかもしれません
毒は浄化していますが完全ではなく子供では耐えられないかもしれませんので探してください!」

そう、今回の目的はアメントリンキマイラの討伐ではなく、貴族の子息の保護なのだから
キマイラの動きに注意しつつ、目の数を増やし周囲に子供の姿がないか探している

【負傷者の応急処置完了】
【周囲の毒を吸収し浄化】
【キマイラの一撃を食らい吹きとばされるもガード成功】
【子供の泣き声に気づき伝達】
0037レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/06/26(金) 21:58:49.66ID:/2lJVEUx
自身の攻撃が失敗に終わり、新たに召喚を試みる。
――駄目だ。どうしても間に合わない。
レインの思考をよそに、クロムは遂に剣を抜く。
そして、前方の空間目掛けて鞘を投げつけたのだ。

「その手があったのか……!」

咄嗟に手で目を覆うと、目映い閃光が洞窟内でスパークする!
不用意に電撃の光を浴びたキマイラは絶叫を響かせながら突進を停止した。
それだけではない。クロムは怯んだ隙を突いて、既に側面へと回りこんでいる。

(凄い……単に防御するだけじゃなく次の動きに繋がっている!)

だが、待ち構えていたのはアメトリンキマイラの尻尾――蛇だ。
キマイラ本体から独立して動く蛇は、獰猛な鳴き声で威嚇しながら少年剣士へ迫る。

>「──お前ぐらいの速さなら、まだ何とかなるんだな、これが」

攻撃を躱したクロムの腕がとてつもない速さで蛇を斬った……はずである。
レインの目には、剣の軌道らしきものが視えただけで、はっきりとは捉えられなかった。

東方に伝わる抜刀術なるものを想起したが、恐らく単純に速すぎるのだ。
類稀なる戦闘センスと身体能力……どれも自分にはない才能だ。
そこまで思考を巡らせて、レインはようやく自分の愚に気がついた。

(しまった!クロムは蛇の尾には毒があることを知らない!?)

>「やべぇ! こいつは“毒液”だ!」

青白い燐光を灯した洞窟を紫の液体が染めていく。
周囲に猛毒の液体がばら撒かれてしまった。
レインは即座にキマイラから飛び降り、距離を取って口元を覆った。

(触れても即死級……だけど、あの毒液は即座に気化する……。
 吸入すればあっという間にあの世行きだ……撤退するしかないのか?)

目と鼻の先に子供がいるかもしれないのに、撤退するのか?
だが毒液が撒かれた今、撤退しなければ全員の命に関わる。
初めてこのダンジョンに挑んだ時とは逃走の重さが違う。

>「お待たせしました。他の皆さんは自力で動けるようになりましたのでお手伝いしますよ」

――心で揺らぐ天秤を止めたのは、回復に専念していたマグリットだった。
その強い意志を秘めた双眸は、何者よりも信頼に値するように感じた。
0038レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/06/26(金) 22:02:34.52ID:/2lJVEUx
「はじまりの街」と呼ばれるだけあって、王都の冒険者ギルドには玄人がほとんどいない。
この依頼を請け負った時も、増援を呼んだ時も、戦力としての期待は然程できなかった。
だから、レインは可能な限り仲間を生存させるため一人で戦うつもりだった。

だが、現実はその逆だ。
増援に来てくれたクロムとマグリットに助けられてばかりいる。
もし二人がいなければ、パーティーの誰かが水晶百足に殺されていただろう。
もし二人がいなければ、魔獣の雷と毒の前に、やはり命を失っていただろう。

自分ではない誰かに助けられながらダンジョンを潜る……。
ソロや急造パーティーで済ませてきた彼には初めての出来事だった。

>「皆さん、私は貝の獣人です。
>ですので驚かずに戦いに集中してくださいませ
>これは生態濾過機と呼ばれる貝の能力です!」

マグリットの貝としての能力が、気化した毒を吸い上げていく。
これで、まだ戦える。

>「むむむ、これはかなり強力な毒ですね
>あまり長く時間をかけていては浄化しきれないかも
>鉱石の装甲が邪魔なようですし螺哮砲で……!」

一瞬の間を置いてキマイラの前足がマグリットを吹き飛ばした。
猛烈な勢いで壁に叩きつけられ、常人ならばあるいは即死しているだろう。
現にマグリットの法衣はボロボロになり、出血すらしている。
……が、獣人ゆえタフなのかすぐさま起き上がって叱責を飛ばした。

>「この近くで子供の泣き声が聞こえましたよ!
>件の御子息がいるのかもしれません
>毒は浄化していますが完全ではなく子供では耐えられないかもしれませんので探してください!」

こう易々と見つからないのであれば、子供は目に見える場所にはいないのだろう。
レインの推測はこうだ。子供は自分達より奥にいた。
最深部まで到達したが、キマイラに見つかって逃げてきた……。
そしてキマイラは子供を見失い、『より強大な侵入者』と出会って標的を変えた。

――この洞窟は大人が隠れられるような場所はない。
が、小さい子供が入れそうな穴や、這っていけば進めそうな隙間なら探せばある。
子供はそのような場所に隠れている可能性が高い。
0039レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/06/26(金) 22:05:08.04ID:/2lJVEUx
しかし現実的な問題がひとつあった。
そんな場所に隠れている子をどうやって見つける?
声を頼りにキマイラが暴れている中を悠長に探し回れるのか。
できるのだ。レインが召喚できるのは、何もありふれた武器ばかりではない。

「子供は俺が見つけるよ。二人とも……キマイラを頼む」

返事は聞いていなかった。意識していなかったが、本来なら頼みもしないことを頼んでいた。
会って間もない関係にも関わらず、レインは二人をまるきり信頼していたのだ。

「召喚、天空の弓――『ストリボーグ』ッ!」

レインの身体が淡い光に包まれる。旅人の服や外套が消失し、
さしずめ薄緑色の狩人服といった趣の装備へと姿を変えた。
片眼鏡を掛け、手には長弓が握られている。
不思議なことに、番えるべき矢だけが存在しない。

装備、天空の聖弓兵。
遥か西のダンジョン『埋もれた王城』で手に入る魔法装備。
片眼鏡もまた魔法のアイテム……いわゆる魔導具と呼ばれるものである。
レンズをターレットのように回すことで遠見や透視の力を発揮できる。

「……見つけた。10時の方向、壁面の穴の奥に子供がいる」

首を振って辺りを見渡し、子供を捕捉すると同時。
レインの存在に気付いたキマイラが咆哮を上げ雷撃を放たんとする。
一方でレインもまた、ノールックで背後へ長弓を構えて魔力を込める。

ストリボーグは、魔力を風の矢に変換する魔法武器だ。
魔力を注げば注ぐほど強大かつ長射程の矢を形成できる。

キマイラの雷撃と風の矢が放たれたのは同時だった。
両者は激突し、激しい光と轟音を立てながら相殺されていく。
相殺を狙ったのは敢えてだ。子供の下へ向かう隙をつくため、二射も放たず駆け出す。

「もう大丈夫だよ。さあ、君の家へ帰ろう」

穴の中で泣きじゃくる子供を見てレインは手を差し伸べた。


【子供を保護。アメトリンキマイラの撃破はお任せします!】
0040レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/06/26(金) 22:11:00.97ID:/2lJVEUx
【ぐぁぁぁ!すみません、↑のレスはなかったことにしてください(汗)早とちりしました】
0041レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/06/26(金) 22:27:20.35ID:/2lJVEUx
>>39差し替え

しかし現実的な問題がひとつあった。
そんな場所に隠れている子をどうやって見つける?
声を頼りにキマイラが暴れている中を悠長に探し回れるのか。
できるのだ。レインが召喚できるのは、何もありふれた武器ばかりではない。

「召喚、天空の弓――『ストリボーグ』ッ!」

レインの身体が淡い光に包まれる。旅人の服や外套が消失し、
さしずめ薄緑色の狩人服といった趣の装備へと姿を変えた。
片眼鏡を掛け、手には長弓が握られている。
不思議なことに、番えるべき矢だけが存在しない。

装備、天空の聖弓兵。
遥か西のダンジョン『埋もれた王城』で手に入る魔法装備だ。
片眼鏡もまた魔法のアイテム。いわゆる魔導具と呼ばれるものだ。
レンズをターレットのように回すことで遠見や透視の力を発揮できる。

「……見つけた。10時の方向、壁面の穴の奥に子供がいる」

首を振って辺りを見渡し、子供を捕捉すると同時。
レインの存在に気付いたキマイラが咆哮を上げ雷撃を放たんとする。
一方でレインもまた、魔獣の方へと振り返り、長弓を構えて魔力を込める。

ストリボーグは、魔力を風の矢に変換する魔法武器だ。
魔力を注げば注ぐほど強大かつ長射程の矢を形成できる。

キマイラの雷撃が放たれるより速く、風の矢が《獅子》の口部から脳を射抜いた。
口で溜められていた稲妻は暴発し、キマイラは今まで聞いたことのないような鳴き声をあげる。
だが、それでも――……。キマイラは未だ健在。たとえ頭を失おうとも……。
《山羊》の胴で鼓動を続ける心臓を止めるまで、混水晶の魔獣は死なない。

「――――え?」

結果。子供の下へと駆け出した隙を突かれたレインは、《山羊》の不意のタックルを浴びる。
枯葉のように脆く吹き飛んだ弓兵は、猛烈な衝撃音を響かせながら水晶の壁面を粉々に砕いた。
もうもうと上がる煙の中、咄嗟に召喚した盾で防いでなお、瀕死の重傷だった。


【子供を発見。《獅子》の頭を射抜くも瀕死】
0042創る名無しに見る名無し垢版2020/06/28(日) 21:41:34.48ID:CD7DjitI
Ok
0043垢版2020/06/28(日) 22:57:26.11ID:fgMvjY6F
ですよね
0044クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/06/28(日) 23:23:24.47ID:WI+LwoIE
毒液が消えていく。
土に染み込んでいるわけではない。あっという間に気化しているのだろう。
周囲に漂い始めた言いようのない独特の刺激臭がそれを証明している。

(外気に触れた途端一気に気化する猛毒……タチが悪いぜ。洞窟という密閉空間ではこれ以上ない凶悪な武器だ)

やはり、この洞窟を少し甘く見ていた……と思わず舌打ちするクロム。
キマイラを倒せる屈強なパーティであればある程、尻尾を破壊して内部の毒を飛散させるケースが出てくる筈だ。
つまり尻尾の毒は弱者を効率良く狩る為の武器ではなく、むしろ強者を狙い撃ちにしたトラップなのではないだろうか。

とするならば、この洞窟を攻略するには単純な“強さ”以外の力も必要という事になる。
すなわち毒を無効化する魔法や能力である。
残念ながらクロム自身にそのような力はない。
だが、その代わりとなるモノを彼は既に身に纏っている。

かつて『魔導士の森』と呼ばれる場所で手に入れたアイテム『魔人の服』である。
これは装着した者を毒、麻痺、眠り、混乱などの状態異常から即時自動回復させる便利な服であるが、
一方で装着したら死ぬまで脱げない上に、常に生命力を奪い続ける“呪い”までもが付加された危険なシロモノでもある。
もっとも、“魔族”の特性で呪いを無視できるクロムにとっては危険など一切ない、ただ便利なだけの服に過ぎない。

つまり彼の懸念は、猛毒から自らの命を守れそうな者が、このパーティの中で自分以外に果たしているのか?
という点に尽きるのだ。
そして見たところ、解毒という高位な魔法を修得していそうな人材は居そうにもない。

(まずいな……。このままだと仲間がまとめてあの世に行きかねねぇ。貴族の息子を救うどころじゃなくなるぜ)

かといって一時的にせよ洞窟外に退避するという選択肢はありえない。
そもそも気化毒が洞窟内に充満して行けば、件の子の命すら絶たれかねない状況なのだ。
結果的に見殺しにしたことになれば依頼を受けた冒険者としての沽券に関わる話にもなるだろう。
では他のメンバーを洞窟外に退避させて、子の捜索と救出をクロムが引き受けるという手はどうだろうか?
いや駄目だ。この洞窟の出口は──恐らくだが── 一つしかない。
子供を救出したところで、毒が充満する道を戻らなければならないのであれば、解毒の術を持たない限り意味はなくなる。

>「皆さん、私は貝の獣人です。
>ですので驚かずに戦いに集中してくださいませ
>これは生態濾過機と呼ばれる貝の能力です!」

退避は駄目。このまま救出に向かうのも駄目。では他に有効な手段が何かあるのかと問われれば沈黙するしかない。
だが、そんな八方塞がりの状況を打開する手段を持つ者がいた。
マグリットである。
人間には無い獣人ならではの器官を用いて何と空気中の毒を吸い込んでいくではないか。

「魔法ではなく獣人の特技……! こいつぁ盲点だったね。ナイスだ宣教師!」

これにより意識を毒からキマイラに向けることができたクロムは、次なる黒剣の餌食となる箇所を見定めて跳躍する。
狙いは胴体。剣を両手持ちに切り替え、頭上に振りかぶる。上半身と下半身を真っ二つに切り離すつもりなのだ。
0045クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/06/28(日) 23:34:03.13ID:WI+LwoIE
(──な!?)

しかし、予想外の事が起きたのは、剣を振り下ろして刃を直撃させた正にその時であった。
甲高い金属音が響く同時に、刃が弾かれてしまったのである。
おまけにキマイラの表皮にはかすり傷一つ付いていない。ノーダメージというわけだ。

ダメージがなければ、キマイラが攻撃動作に移るのも当然容易く、そして早い。
もしクロムの一刀が決まっていれば決してできる筈のない前脚での攻撃。
それを真正面から受けてマグリットが勢いよく吹っ飛んだのは、クロムが唖然とした表情で着地した瞬間だった。

>「召喚、天空の弓――『ストリボーグ』ッ!」

レインがすかさず攻撃態勢に移る。
新たな武器である長久──彼は武器召喚の魔法が使えるのだろう──を手に、獅子目掛けてその弦を引いたのだ。
そこに本来ある筈の矢が見当たらないのはその武器が特殊なものである事の証左であろう。
要するに本物の矢を放つ為の武器ではなく、使用者の魔力を吸って魔法を撃ち出す魔導具。
それがストリボーグの正体に違いないのだ。でなければ矢の無い弓を引く説明がつかない。

そして、レインの指が弦から離れたのは、獅子の口部が光り、電撃が繰り出される──よりも早かった。
瞬間、クロムは見た。
風を起こし、周囲の土埃を巻き込んだ“空間の歪み”が、凄まじい速さで獅子に向かいその口部に突き刺さったのを。
歪みの正体は恐らく高密度の空気──それも先端が円錐形を成し、それが竜巻のように高速回転した矢。
小さいながらも暴風の如くの破壊力があったのだろう矢を受けて、獅子は電撃を暴発させ苦悶の声を挙げる。

これを断末魔と解釈するのに何の不思議があるだろう。
少なくともクロムはそう解釈したし、直ぐに子供の声の方向に駆け出したレインも恐らくそうだった筈だ
だが、それが単なる勘違いに過ぎない事を思い知らされるまでそう時間は掛からなかった。

頭を失って直ぐに、キマイラがその巨体で隙を見せたレインにぶつかり吹き飛ばしたのだ。

(こいつ──頭が中核じゃなかったのか! ってことは……)

丸くした目でキマイラを見据えながらも、クロムの頭は冷静に働いた。
蛇《尻尾》は切り落とされ、頭《獅子》は破壊された。それでも尚、動きを止めないということはそう──
残す胴体《山羊》こそがコアの働きを成しているからに違いない。
尻尾をあっさり切り裂いた剣をもってしても歯が立たなかった異常な防御力もこれで説明がつく。
胴体はコアを守る為に重点的に固められていたのだろう。

「動けるか? 獣人女──いや、マグリット」

と、不意にマグリットを見ずに口を開くクロム。
その時、既にその目はさながら獲物を定めた捕食者のように、静かだが確かな殺意を湛えていた。

「子供探しは後回しだ。動けるならレイン《あいつ》を回復させてやってくれ。俺がキマイラ《こいつ》を片付ける」

ひゅん、と横一文字に空を薙いだ剣が、洞窟内の輝きを反射して鈍く光る。
──いや、これは反射の光ではない。刀身そのものが微かだが自ら光を発しているのだ。
キマイラには知る由もないだろうが、これは『魔装機神』と並ぶもう一つの“奥の手”をクロムが発動した証。
0046クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/06/28(日) 23:38:34.24ID:WI+LwoIE
遥か東の果てにある『鬼の洞窟』。
その最深部に祀られていた黒剣『悪鬼の剣』は、黒色という点を除けば何ら変哲もない刀剣に見える。
しかしその実、持ち主の魔力を吸収してそれを攻撃力に変換する能力を持った魔導具なのである。
“黒妖石《こくようせき》”と呼ばれる希少な鉱物で創られたこの剣は、通常状態でもその殺傷力は非常に高い。
達人ならば魔力を込めずとも鉄の硬度を遥かに凌ぐ物質をも容易く切断できるだろう。
もっともクロムのような人外──それも魔族──でもなければ、自分の意思で手元から離せず、
しかも寝ていても歩いていても常に魔力を吸われ続ける“呪い”に頭を悩ませることになるだろうが……。

「おい化物。さっきは俺の一刀をその硬い皮膚で弾いてくれたが……次はそうはいかねぇぜ」

言うが早いか、クロムが再び跳躍しキマイラの背上を取る。
剣を両手持ちにし、頭上に振りかぶるところも先程と同じ。
そして秘かに『魔装機神』を発動し、身体能力を上昇させているところも同じだ。

「『魔装機神』の一撃も胴体《お前》には通用しなかった。だから──」

違うのは──手にした黒剣に魔力をたっぷり吸わせているか否か──の点一つ。
けれどもそのたった一つの違いが、結果を180度引っくり返すであろうという事をクロムは確信していた。


「俺の今の、本当の全力の一撃を見舞ってやるよ」


振り下ろされた刃が、空気を切り裂き混水晶を切り裂き、更にコアを切り裂き──

そして、その遥か先にある地面までをも剣圧で切り裂いて、鋭い切れ目を発生させる。

着地と同時に丁度足元に転がっていた焦げた鞘──といっても剣と同じ素材で創られているので元々黒色だが──
を拾い上げて腰に差し素早く納刀するクロム。

後ろでは真っ二つに分離したキマイラの上半身と下半身がズズン、と音を立てて地に沈む。
だが、クロムの視線がそこに向かうことはもはやなく、ただ子供の声がする方向にのみ向けられていた。

「誰でもいい。誰か救出に向かってやれよ。俺、ちょっと疲れちまったからそんな気分じゃねーのさ」

【レインの回復をマグリットに頼み、キマイラの胴体《山羊》を真っ二つに切り裂いて地に沈める】
【子供の救出はお任せ】
0047マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/07/02(木) 23:06:16.04ID:UcqGa+DT
救出対象である子供らしき泣き声が聞こえ、意識はキマイラから離れる
マグリットの第一の目的は貴族子息の救出
冒険者たちとの協力はその手段でしかないのだから

とはいえ目の前のキマイラという脅威を放置するわけにもいかない
実際に意識が離れたが故に強力な一撃を食らってしまっているのであるから、これ以上の被弾は避けたい所

その板挟み状態を解消するために、マグリットは目の数をさらに増やした
キマイラの動きに注視しつつ周囲を見回し子供の位置を特定するために
しかし、子供は怯え隠れているわけで、視線の届く範囲にいるこてゃなかった
それを見つけたのはレインのストリボーグによる遠隔透視能力だった

>「……見つけた。10時の方向、壁面の穴の奥に子供がいる」

「おお、良かった、さっそく救護を……」
安堵の息を漏らすが、勿論キマイラが大人しくしているはずもない
口内から雷を漏らしながら、特大の雷を吐き出す予備動作が始まっている

子供に法に駆け出そうとするマグリットの動きが止まる
先ほどはクロムの行動によって防がれたが、相変わらずマグリットに雷を防ぐ術はないのだから
近寄るによれずという状態のところでレインの魔力によってなされた矢が放たれた

今まさに雷を吐き出さんとしていたキマイラの口内を貫き脳を射抜くその一撃に絶叫と爆音と共に口内の雷が暴発する
通常で見れば閃光でしかないのだが、眼を増やしていた分その眩しさも倍増され脳に到達する衝撃も大きなものとなっていたのだ

「ぎいい、目が、目がぁ」

全ての眼を閉じ苦悶の表情を浮かべるマグリットにクロムが駆け寄る

>「動けるか? 獣人女──いや、マグリット」

その言葉にマグリットの動きが止まる
貝の獣人である事を隠していたのは、それが一般において説明を要するもの、すなわち不審と疑心を呼び起こすものだからだ
だがクロムは出会って間もなく貝の獣人である事を知った上で名前で呼んでくれた

>「子供探しは後回しだ。動けるならレイン《あいつ》を回復させてやってくれ。俺がキマイラ《こいつ》を片付ける」

「わかりました、動きますとも。彼の事はお任せください」

まだ視力が回復したわけではない
だが視界を増やすことはできる
新たに額に小さな眼を出現させ視界を確保し吹きとばされたクロムの元へ駆ける

クロムは水晶の瓦礫の中にいた
それを見たマグリットの表情は歪み声が漏れる

「ううぅ、こ、これは……」
5メートルを超すキマイラのタックルである
鉄分過剰なマグリットが盾で防いでさえ軽く吹きとばされた一撃以上の一撃を食らっているのだ
硬い水晶の壁面を粉々にするほどの衝撃
咄嗟に召喚したであろう盾で防いだが故に即死は免れたのだろうが、瀕死の重体である

マグリットの信仰心は薄く、教会とも利害関係で繋がっているに過ぎない
故に回復魔法の効果は低く、これ程の傷を癒せる能力はない
ならば第一目的である貴族の子息保護に動くべきだ
0048マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/07/02(木) 23:09:43.22ID:UcqGa+DT
だがマグリットはレインのわきに跪く

「死なせはしませんよ!このマグリット、全霊をもってお助けします」

意識を集中させ両腕を広げると、左右の前腕部に巨大な二枚貝の殻が形成されていく
先ほどキマイラの一撃を受ける為に盾にしたものが、更に大きく、巨大に
人ひとり十分飲み込むに足る大きさにまで成長すると腕から取り外し、巨大な二枚貝となりレインをその中に収納した

本来は緊急避難シェルターとしての技であるが、ここでは治療ポットとして使用している
それは真珠貝のように
レインは貝の中で特殊な溶液に包まれ傷を癒していくだろう

しかしそれだけでは足りない
それほどまでにレインの傷は深く重いのだから
あくまでこれは応急的な措置、ここからが本来の治療であると言わんばかりにマグリットは叫ぶ

「おお神よ!願わくば汝の慈しみによりこの勇者に救い給え
彼は奮い立たせる者、救う者、多いなり試練に立ち向かえる勇敢なる者、まだ死なせるわけにはいきません!」

マグリットが施したのは治療魔法ではなく神の奇蹟による直接的な回復
本来マグリットの様な下位の神職には使え得ぬものであったが……それでも試みたその訳は

最初に出会った時から感じていた
レインが勇者と名乗る割にはそこから感じる光の波動があまりにも弱かったこと
その戦いは武器を召喚するというものであり、自身の勇者としての才覚が見られない
にも拘らずレインは常に先頭に立ち戦、周りに気を配り、負傷者への配慮も忘れない
そして今、子供を見つけ尚且つキマイラの対処まで行っている
力なき者がその力量を最大限に生かし自分の力以上のものに立ち向かい、周囲を奮い立たせる
そんなレインの姿にマグリットは勇者の在るべき姿を見たのだ

ならばマグリットは神の使途としてその使命を全うすべく全霊の祈りを捧げた

かくしてその願いは聞き遂げられた
レインを包んだ貝が眩しく発光し小さく震える

どれ程の奇蹟を賜り回復したかはマグリット自身分かってはいなかったが、二つ分かった事はある
聞き遂げられたこと自体が既に奇蹟であり、二度目三度目ができるとは思えない事
そして、レインは助かったであろうという事

回復用の貝は外部からの攻撃には強固であるが、内部からは簡単に出られる
命をとどめた程度であれば貝の内部で回復をしていくだろうし、動けるほどまでの回復であれば自力で出てくるだろう

事が済んだ後でマグリットはふらふらと歩きだす
戦いや回復用の貝の産出に奇跡を引き起こし体力的にも限界に近いのだがまだやる事があるのだから

血を拭い、ボロボロになった法衣を一応体裁を整え
レインのいたところから10時方向の壁面の穴をのぞき込み、にっこりとほほ笑む

「貴族のご子息様ですね?
ご安心ください、脅威は我らが勇者たちが取り除いてくれましたよ」

保護対象である子供を見つけ優しく手を伸ばし抱え抱きしめた
本来ならば「教会が」と強調すべき場面であったにもかかわらず「勇者たち」と言ってしまっていることにマグリット自身気づいていなかった

「皆さん、ご子息を保護しましたよ!さあ、街に戻りましょう」

子供を抱え振り返り、目的達成を告げたのであった
0049レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/07/04(土) 16:44:33.97ID:wA7TCePW
アースギアにおいて、勇者とは伝承により魔を打ち払う存在だと伝えられてきた。
伝承発祥の地としてサマリア王国には伝承に倣った勇者選別の風習が残っている。

教会が授かる神託に選ばれた少年へ試練を課す通称"勇者の試練"。
この試練で"勇気""知恵""意志"を問われ、クリアした者は勇者として潜在能力に目覚める。
その多くは至難とされる光魔法をはじめ数々の固有能力を身につけるという。
ただ一人を除いては。

目覚めたのは普通の魔法使いでも修得できる召喚魔法。
そんな落ちこぼれの勇者を指して、人は彼を『召喚の勇者』と呼ぶ。


――……朦朧とする意識の中で、レインは意識が深く沈んでいくのを感じた。
暗い海の底へ落ちていくにも関わらず、不思議と安堵を覚える自分がいた。

「気がついたか?」

目を開けると、そこには自分を覗き込む、見慣れた青年の顔。
魔導士風のローブを纏った、どこか育ちの良さを感じさせる男だ。
レインはゆっくりと起き上がると、あたりを見渡した。
ここはもう洞窟の中じゃないらしい。

「おっかねぇ魔物だったな。電撃は上手く躱せたのに!
 蛇の尻尾に毒があるなんて聞いてねぇよなー」

レインは目を擦りながら、ゆっくりと起き上がる。
そうか。自分は彼を庇って蛇の盾になったところを毒で死にかけたんだ。

「蛇に毒はベタか?まぁいいや。逃げる途中に魔法で解毒はしといたぜ。
 いくらなんでも冒険しょっぱなに水晶の洞窟は無謀だったかな!はははっ!」

ばしばしと肩を叩きながらレインはぎこちなくはにかんだ。
後に"魔導の勇者"と呼ばれ、最高峰の勇者となった男にしては、
どうにもフランクすぎる気がしたからだ。

だがレインと彼は不思議とうまが合った。
冒険者ギルドで偶然出会って以来すぐ親しい間柄となった。
パーティーを組まなかったのは、お互いに照れがあったからか。
0050レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/07/04(土) 16:49:54.94ID:wA7TCePW
後ろの方を何となしに振り返った。
ダンジョンに何か大事なものを置いてきた気がする。
そう――そうだ。まだ、やるべきことは山ほどある。

「アシェル……まだ君と同じ道は歩めない。
 俺は戻るよ。皆が……仲間が待ってるんだ」

レインは振り返らず洞窟の方へ走った。
全てを放り出すにはまだ早すぎるから。

――――……。

二枚貝の中から起き上がった時は、全てが終わっていた。
文字通りの奇跡によって、レインは死の淵から這い上がることに成功したのだ。

>「皆さん、ご子息を保護しましたよ!さあ、街に戻りましょう」

現状を見るにマグリットが子供を確保し、クロムがアメトリンキマイラを倒したようだ。
クロムがアメトリンキマイラを倒したからか、魔物が潜んでいる気配が消えた気がした。
今なら洞窟の最深部を探索して、隠された財宝を探すことも難しくないだろう。
だが、今はその時ではない。子供を確保したからには洞窟を早く脱出すべきだ。

「マグリットさん……助けてくれてありがとう。
 なんてお礼を言えばいいのか……その……とにかくありがとう」

それから、レインはしばし何かに悩んだような顔で洞窟の出口へ歩く。
しかし、王都へ戻る頃には覚悟を決めた顔に戻っていた。

「おお……よくぞ!よくぞ無事に帰ってきた!」

「父さん!!」

父と子は抱き合い、従者達は涙を流して無事を喜んでいる。
腕白かつ無鉄砲な少年ではあるが、愛されているのだろう。文句なしに一件落着。
報酬を得てパーティーは解散となり、皆それぞれの冒険に戻っていくはずだ。

「クロム、マグリット……ちょっといいかな。話があるんだ。
 いきなりだけど、その……俺とパーティーを組んでみないか?」

それは、レインが依頼の途中から考え始めていたことだ。
魔王を倒す冒険の旅……。それは過酷な当てのない旅だ。
慈善事業でもやってられない、メリットの少ない旅だと理解した上で、レインは提案した。

「二人となら絶対に辿り着ける気がするんだ。
 未踏のダンジョン"魔王城"を見つけ、攻略できる!……だめかな」


【依頼クリア!次章もよろしくお願いします!
 新規参加者も随時募集しております!(宣伝)】
0052クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/07/05(日) 21:51:07.62ID:0mkW+Peq
(さて、と……)

マグリットが子供を救い出したのを見届けると、クロムは黙って歩き出す。
これにて一件落着と洞窟の出口へ向かうのではなく、洞窟の奥へと。

古代の遺物が蠢くこの『水晶の洞窟』。
呪われた武具を求めて世界中を巡ってきたクロムにとって、ここはこのまま去るわけにはいかないダンジョンであった。

かといって今はがむしゃらに虱潰しに探していくというわけにはいかない。
キマイラとの戦いで体力を消耗しているにもかかわらず、食料も水も薬草も碌に持ち合わせていないのだ。
至る所に水晶が張り巡らされているせいで自生している植物も見当たらないし、出てくる魔物は鉱石を用いた人造物。
これでは食料の現地調達も見込めない。
もし洞窟の奥が際限のない迷路のような構造になっていれば迷ったが最期。やがて餓死の危機に直面するだろう。
それだけは御免である。

「腕試しの洞窟だなんて言われてるからとっくの昔に誰かが攻略済みと思ってつい軽装で来ちまったんだよなぁ。
 だから子供を救った報酬を貰うだけの小遣い稼ぎのつもりだったし…………チッ! ここはハズレのルートかよ!」

故に望ましいのは次に来る時の為に、迷わぬ範囲で構造調査しておき、宝探しは二の次というプランなのだが……
財宝など見当たらない行き止まりにぶつかればやはり無意識に落胆し不快になるもので、思わず舌打ちである。
もっともその壁面には子供なら這って入れそうな小さな穴が一つ空いているのだが、
それでもいくら小柄な体型のクロムと言えど流石に入れそうにない。

「まぁ……入れたとしても入らねーけどな」

と言ってクロムが穴の中に突き入れたのは、自らの手──ではなく、剣。
つい先程、いきなり手を入れて嫌悪感を催す存在を掴むという失敗を犯したばかりなのだ。
それを忘れるわけもない。まずは剣で様子見が同様の失敗を回避する確実な方法である。

そして手応えはあった。鋒が何かを突き刺した、そんな感触が手に伝わってきたのだ。
脳裏に串刺しになったメノウアントの姿が過ぎり、クロムはしてやったりと口角を吊り上げた。

「……大当たり」

後は剣を穴から引き抜くだけ。
予想通りならその時、串刺しになったメノウアントが一緒に穴から引きずり出される筈である。

「同じ手は二度もくわねーって…………あ、あれ?」

しかし、実際に彼の眼前に引きずり出されたのは蟻の死体などではなく、古びた鉄製の箱であった。

──────────。
0053クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/07/05(日) 22:08:39.86ID:0mkW+Peq
クロムがパーティの元へと戻った時には、既に瀕死の重傷だったレインがすっかり回復し、意識を取り戻していた。
そうなれば子供の救出という目的を果たしたパーティメンバーがここに留まる理由はなくなる。
誰かが言い出したわけでもないのに、誰もが出口へ向けて歩き出したのは自然の成り行きであろう。

彼らとは少し違った思惑を抱いていたクロムもその列に加わっていた。
手持ちの食料がない以上、洞窟が残す未踏のダンジョンを攻略するにはパーティの食料《協力》が必要である。
だが皆が目的を果たして満足気な顔をしている中、「お宝を探してこうぜ」等と呑気に言える雰囲気である筈もなく、
もはや付いて行く以外に選択肢はなかったのだ

いや、あるいはレインの意識が回復するまでの間に手に入れた洞窟の“遺物”。
それが彼をひとまず出口へ向かわせる動機になったのかもしれない。

出口。そこから数十分ほど歩けば、もうそこは都である。
酒場の前で再会を果たした親子の姿を見届ければ、後はパーティも報酬を受け取り解散するだけだ。
それぞれがまた各自の思惑を胸にいずこかへ散っていく。
次に会う時も味方なのか、それとも同じ獲物を狙うライバルとなるのか、それは神のみぞ知ると言ったところだろう。

>「クロム、マグリット……ちょっといいかな。話があるんだ。
> いきなりだけど、その……俺とパーティーを組んでみないか?」

レインが意外な提案を持ち掛けてきたのは、
クロムが散っていった冒険者達の後を追うようにして、その場を離れかけた丁度その時だった。

>「二人となら絶対に辿り着ける気がするんだ。
> 未踏のダンジョン"魔王城"を見つけ、攻略できる!……だめかな」

足を止め、思わずレインの言った事を反芻するクロム。

(魔王城の……攻略だと?)

勇者は今の世の中ではありふれた存在だ。だが勇者を名乗る者はある共通した目的を持っている。
それは“魔王の打倒”。
言葉にすると一言だが、魔族の頂点に立ち、絶大な力を持つ王を屠るのは当然ながら容易いことではない。
というより同じ魔族のクロムからすれば、それは夢物語であり幻想としか思えないものだ。
実際、魔王城を見つける旅の途中で挫折し、光を失って堕落する勇者は数えきれないほど存在する。

「……勇者らしい事を当然のように言うんだな。
 言うまでもないことかもしれねーけど、簡単なようでかなり難しいぜ、それ?」

故に勇者らしい事を言える勇者というのは、そいつがただの経験の浅い怖い者知らずというケースが大半だ。
だが、クロムの目には、レインがただの怖いもの知らずというようにはどうしても見えなかった。
それはつまり、彼が敵の強大さ、旅の過酷さを重々承知の上で尚、心の底から信じているからに違いない。
いつか魔王城を攻略できると。

「……なるほど、肩書だけじゃない。心も紛れもない勇者ってわけか。──面白い」

クロムも答えを決める。だからレインに投げた。洞窟で手に入れた“遺物”を。
それはキマイラの混水晶と同じ輝きを放つ宝石。

「さっき洞窟で手に入れたんだが、俺の趣味には合わないものだったんでね。お前にやるよ。
 別に遠慮することはねーよ? 仲間同士で宝を山分けするのは当たり前だからな。
 ……いつまでかは分からないが、しばらくつきあってやるよ。勇者の冒険にな」

【『水晶の洞窟』で手に入れた謎の宝石(名称不明)をレインに投げ渡し、パーティ入りを承諾する】
【宝石の効果、今後の取り扱いなどは自由にしていいです】
0054マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/07/10(金) 20:44:28.68ID:Zx/gsNoD
試しの洞窟より貴族の子息を救出し、数日
マグリットは教会の【燭台の間】と呼ばれる会議室に立っていた
前に居並ぶのは数名の司祭と、奥にはベールに阻まれ見ることは叶わないが、恐らくは司教がいるのであろう

「先の救出任務ご苦労であった
冒険者ギルド、モンタギュー家双方からの感謝状が届いておる」
「それで、宣教師の任から離れたい、と?」

「はい、天啓を受けました」

「天啓?それがレインなる者と?」
「かの者は光の加護なく勇者と飛べるかも怪しいと聞くが?」

司祭たちが怪訝な声を上げる
マグリットは神職としては下位の者であり、むしろ戦力として建前上神職となっているようなものである
そんなマグリットが天からの啓示が受けたという話を持ち出すのは司祭たちにすれば何の冗談だ?となるであろう
更に神職が勇者を補佐する事は珍しくないが、その相手が光の加護を持たないレインとなれば尚更であろう

「しかし、それでよいのかな?」
「内々ではあるが赴任地の選定が進んでおり、候補はいずれも其方の望む九似のいる可能性が高いのだぞ」

そう、マグリットには目的がある
九似に類される生物を探し手に入れる事
しかしそれを探し出す事自体困難であり、未知なる世界へと赴く必要がある

教会の情報網と未知なる世界に派遣される宣教師という立場はそれに最適だと言えた
だからこそ教会に属し、戦力として保持されながら選挙打ちへ派遣される日を待っていたのだ
のだが……マグリットは静かに口を開く

「私は、試しの洞窟にてかの者に対し……【奇蹟】を起こし命を救いました」

その言葉に司祭たちが驚きの声を上げた
天啓、奇蹟
どちらも名ばかりの宣教師に訪れるものではない
しかし本来の目的を曲げてでも宣教師の任を離れたいと言い出した事も真実味を帯びさせる

司祭たちが事実確認をするため奇跡認定委員を呼ぼうと動き出したところ、ベールの奥から声が響く

「良い……現時点をもってマグリット・ハーンの宣教師の任を解き、伝導師として勇者を補佐する事を命ずる」

その言葉に祭司たちは一言の異もなく静かに首を垂れる
マグリットは驚きのあまり目を見開き動くこと置できず直立不動であった

なぜならば、ベールの向こうから流れてきた声は司教ではなく、枢機卿のものであったからだ
マグリット程度だと司教ですら直接顔を見る機会はめったにない
それを司教どころか大司教も飛び越えて教皇に次する枢機卿がそこにいるという事実に驚きを隠せないでいた

なぜに枢機卿がマグリット如きの報告と進退について出向いていたのかは知る由もないが、ともあれマグリットは正式にレインとのパーティーを組む事を許されたのであった


数日後、冒険者ギルドの酒場スペースでくつろぐレインとクロムの元へ大柄な貝の獣人伝道師が笑顔で赴くことになるのだが、それはまた次回の機会にて
0055レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/07/11(土) 14:47:22.09ID:sjoo99uj
勇者であろうと、一介の冒険者だろうと、仲間は不可欠だ。
レインは誰かを誘って仲間を作るという行為を避けてきた。

それは落ちこぼれの仲間になってくれる人が見つからないというのもあったけれど、
何よりレイン自身が後回しにしてきた事にも原因がある。
故にその口説き文句はぎこちないものだ。
果たして彼の提案は受け入れられるのだろうか。

>「……なるほど、肩書だけじゃない。心も紛れもない勇者ってわけか。──面白い」

不意にクロムが何かを投げた。それをぱしっと受け取ると、硬質な感触。
宝石のようだ。こぶし大のそれを確認してみれば、アメトリンの輝きを放っていた。

>「さっき洞窟で手に入れたんだが、俺の趣味には合わないものだったんでね。お前にやるよ。
> 別に遠慮することはねーよ? 仲間同士で宝を山分けするのは当たり前だからな。
> ……いつまでかは分からないが、しばらくつきあってやるよ。勇者の冒険にな」

「クロム……!ありがとう」

クロムが仲間になった。マグリットの返事はその場で聞けず保留になったが、
宣教師という立場上、その場で決めることができなかったのだろう。

次にクロムから譲り受けた宝石のことだ。
軽く試したところ、宝石は魔力を込めると雷を帯びたり放てるらしい。
他にも色々な使い道がありそうだが、鑑定人が見つからないため詳しくは不明。

宝石が大きいので指輪にでもすれば数個作れそうだが、そんな加工技術は持ち合わせていない。
そこでレインが思いついたのは宝石を利用した、簡易的な新しい武器。
工程は単純で武器屋で魔法使い用の杖を購入し、宝石を先端に嵌め込むだけだ。
便宜的に雷霆の杖と命名し、召喚魔法で他の武器と同じく保管することにした。

そうして細かなタスクを片付けている内に、攻略から数日が経った。
話すことでもないが、瀕死の重傷を負ったにも関わらず予後は良い。
それはひとえにマグリットが起こした奇蹟の力と言えよう。

レインはギルドの一角にある席に座り、朝食もそこそこに地図を広げていた。
――そこにクロムとマグリット、二人の仲間がにいる事は言うまでもない。
0056レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/07/11(土) 15:11:36.15ID:sjoo99uj
財宝探しにせよ魔物退治にせよ、誰もが一度は門を叩くのが冒険者ギルド。
ギルドには多くの冒険者達がいるし、情報も仕事も自然と集まってくる。
その活動範囲は広く、各大陸の主要な街には必ずあると言っていい。

「よし、皆集まったところでこれからの相談をしよう」

勇者になる理由は様々だがどの勇者も目的だけは同じだ。
それは魔王城を見つけ出し、人々を苦しめる魔王を倒すこと。
……だが、重要な問題がひとつある。

「魔王城の居場所を見つけた勇者は、伝承の勇者を除いていないとされている。
 存在自体に懐疑的な冒険者もいるけれど、ないなんて事は考えられない」

だからこそ冒険者達の間で勇者との旅は過酷とされている。
それは羅針盤も役に立たぬ果てしない旅だ。

「……現実として魔王軍は村や街を襲っているし、次々と新しいダンジョンを築く。
 どこかに大元の拠点が存在するに違いない。その手掛かりを知っているのは……」

未開の場所にダンジョンを築き、そこを拠点に街や村に侵攻する。
人間社会において魔王軍の侵略スタイルは一貫してそうだと言われている。
無論、レインもその認識であり、他の手段で侵略を企てているなど考えた事がない。

「……現状は魔王軍しかいない。だから奴らのダンジョンを積極的に攻略していこう。
 ちょうど『精霊の森』に、魔王軍が侵攻したっていう情報がある」

精霊の森。サマリア王国の秘境、遥か南端に存在すると言われている森だ。
その名の通り、精霊や妖精が舞う美しい場所で、人はエルフが僅かにいるだけらしい。
サマリア王国領でありながら、王国との交流を断ち自然と共存して暮らしているようだ。
そのような場所だからか、王国側も侵攻されようが兵団も騎士団も派遣しようとしない。

「ギルドからも一応調査の依頼が出てるんだ。
 報酬額は手間暇に見合わないけれど、受けてみる価値はあると思う」

獣人の伝道師マグリットに、凄腕の剣士クロム。
やや近距離戦闘に特化しているが、実力は折り紙つきだ。

「異論がなければ『精霊の森』を目指そうと思う。どうかな?」


【ではでは新章スタートします!改めてよろしくお願いします!】
0057クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/07/15(水) 20:16:53.06ID:fKONmfdo
アメトリンキマイラを倒して数日後の朝。
クロムはギルド内の酒場の一角に居た。
別に朝っぱらから飲んだくれているわけではない。朝食を兼ねた話し合いの為に、ここに居るのだ。
“召喚の勇者”の仲間となった以上、もはや単身好き勝手に動き回れる身ではない。
次なる冒険の舞台を定めるのもリーダーたる勇者との相談が必要なのである。

「しっかし遅せーなあの女。予定の時刻はとっくに……って、噂をすればだ。おい、こっちこっち!」

干し肉を挟んだ指を頭上で揺らしながらクロムが呼んだのは、ギルドの出入口から入ってきたばかりのマグリット。
笑顔をもって即座に応えてくれたのは、無事教会にパーティ入りを認めて貰えたという事なのだろう。

>「よし、皆集まったところでこれからの相談をしよう」

マグリットが席に着くと同時に、レインが丸テーブルの上に地図を広げる。
クロムは空いた椅子に足を投げ出し、手にした干し肉を齧りながら地図を流し見て、レインの言葉に聞き耳を立てた。





レインの言った事を要約するとこうだ。
懐疑的な見方をする者もいるが、自分は魔王とその本拠地はこの世のどこかに確実に存在すると思っている。
だからその手掛かりを得る為にも魔王軍が築いたダンジョンを積極的に攻略していきたい。
その手始めとして魔王軍が侵攻したとの情報がある王国の辺境地『精霊の森』を目指したいがどうか?

魔王城の場所を知る者は魔族の中でも魔王に選ばれた幹部だけと言われている。
事実、クロム自身は魔王と直接面識は無いし、その本拠地がどこにあるのかも知らない。
だから「あそこに行けば手掛かりが得られる」とは言ってやれない。

だが、魔王軍が築くダンジョンに手掛かりがあると見るのは地味だが堅実な判断であろう。
何故なら幹部の多くは自らの拠点を人間界に持つ軍の司令官なのだ。
確かにダンジョンを片っ端から攻略していけば、いつかは幹部の元へ辿り着けるかもしれない。

ならば反対する理由は何もない。結論は異論なしで決まりである。

「場所はここから南。徒歩だと少し時間がかかるところか」

そう言ってクロムは干し肉の残りを一気に口の中に放り込むと誰よりも早く立ち上がり、

「折角だから“アレ”に乗ってこうぜ?」

とギルドの出入り口の前に停まっていた、一頭の馬に引かれた車を指差した。
馬車である。貴族が乗るような豪勢かつ綺麗な造りのものでは勿論ない。
むしろ如何にも農家のおっさんが乗り回しているような貧相で小汚いものだが、
それでも足の役割ならば充分に果たしてくれるだろう。

「キマイラの残骸を店に持ってったら、馬車と交換してくれるって奴を見つけてね。喜んで応じたってわけだ。
 あ、でも御者はいねーからお前らのどっちかに任せるわ。
 俺が用意した馬車なんだから俺は荷台でゆっくりさせて貰うけどな。ははは」

言うだけ言ってさっさと馬車に乗り込み、業者に予め運ばせておいた酒樽と食料袋を早くも開け始めるクロム。
旅を楽しむ気満々といった感じだが、戦いに行くとは言え常に張り詰めていては体はあっという間に悲鳴を挙げる。
娯楽が少ないこの世界で美味い酒と食料は息抜きにかかせない必需品なのである。

【馬車に乗り込む】
【一応馬車は今後魔物に潰されたりするなどのトラブルで使い捨てになっても構わない前提で出してます】
0058マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/07/18(土) 23:43:00.81ID:0AQQoKBx
正式にPTを組み冒険者ギルドに三人は次なる行き先について相談していた
最終的な目的は魔王の居城を探し出し倒すこと
しかし今はその場所すらわからぬ状態であり、各地の魔王軍を倒しながらそれを辿っていくしかないというものだ

そこで今回の目的となった場所はサマリア王国南端にある秘境精霊の森である

「むむむ、それは是非もなしですね!
教会でも精霊の森については話に上がっていましたし、これもお導きでしょう」

交流を断った独立した地域というのはマグリット、ひいては教会からしてみれば違って見えてくるものがあるのだ
即ち信仰の空白地帯
宣教師から伝道師になったとはいえ、やはりこういった領土的野心は根本に植え付けられているものだ

話がまとまったところでクロムが先んじて立ち上がり、アレを指し示す
そこに留まっていたのは荷馬車
キマイラの残骸を持ち帰り荷馬車と交換してきたというのだ

「おお、素晴らしいですね。
これで旅も捗るというもの!
そして今や私は正式に勇者につく伝道師となりましたので、各地の教会で様々な支援を受けられます
お馬さんの餌なども提供を受けられると思いますのでご安心ください!」

そういいながら馬の頭をなで、荷馬車と既に乗り込んでいるクロム、そしてレインを見回し一つ咳払い

「で、では、私が御者をしましょう
貝とはいえ獣人の端くれですのでお馬さんともそれなりに意思疎通ができるのですよ」

そういいつついつも担いでいる樽を荷台に乗せ、自身は前方の御者席に登る
ゆっくりと足をかけ登ると、きしむ音が低く響いた

そう、鉄分過多で天然装甲皮膚になっているマグリットの体重は3桁を越える
更にいつも背負っている樽には水が入っているのだが、今回は伝道師になったという事で教会で祝福を受けた聖水が支給され満杯になっており捨てるわけにはいかない
要するにあまりにも重すぎるのだ
荷を乗せる為の馬車である以上重量的には大丈夫とは思うが、バランス的に危うさを感じ御者役を買って出たのであった

あえてそれを言わず馬との意思疎通を前面に出したのは、マグリットもこれでいて22歳乙女の端くれなのであった

【馬車の御者を買って出る】
【第二章よろしくお願いします】
0059レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/07/19(日) 13:20:20.70ID:/oE3g03i
秘境『精霊の森』行きが無事に決まったところで、クロムが指差したのは馬車。
どうやら先日の戦いの後、キマイラの残骸を抜け目なく持ち帰っていたらしい。

>「キマイラの残骸を店に持ってったら、馬車と交換してくれるって奴を見つけてね。喜んで応じたってわけだ。
> あ、でも御者はいねーからお前らのどっちかに任せるわ。
> 俺が用意した馬車なんだから俺は荷台でゆっくりさせて貰うけどな。ははは」

何らかの魔法的加工は施されているだろうが、アメトリンはアメトリンだ。
希少品であることに変わりはないし、職人に巡り合えば美しい装飾品になるだろう。

>「で、では、私が御者をしましょう
>貝とはいえ獣人の端くれですのでお馬さんともそれなりに意思疎通ができるのですよ」

マグリットの申し出に対して、レインは即座に『水晶の洞窟』での戦いを思い出した。
魔物の突進攻撃をものともしない天然の装甲や体重。戦闘中は頼りになるが、日常生活ではどうだろう。
よもやあげつらう者はいないだろうが、その申し出は彼女なりの恥じらいなのかもしれない。
背中の樽と自身を荷台、御者台に分ければ重量は分散されるからだ。

「『精霊の森』までの道のりは複雑だ。俺が地図で道を教えるよ」

レインが荷台に乗り込むと馬車がぎいっと走りはじめる。
王都を出るとしばらく続くのは綺麗に整備された街道だ。

この街道は各主要都市に繋がっており、『ラピス街道』と言われている。
石畳に魔物除けの魔法陣が刻まれていて、それが淡く瑠璃色に光ることからこの名で広まった。
と、言ってもこのまま進むと他の街に着くだけなので、街道を外れて南へ。

鬱蒼と茂る樹々の中の、迷路のごとき道を進む。
ラピス街道に比べて不整備なため、居心地は微妙なところだ。
とはいえ、嗜好品を堪能するくらいの余裕はあるだろう。

「『精霊の森』には、『ラピス街道』のように魔法が掛かってるらしいんだ。
 といっても、人払いの魔法だけどね。マグリットがいるから俺達は問題ないはず」

森の周辺に漂う魔法の霧が冒険者を惑わし、やがて離れた村などに追い返すという。
人払いは主にエルフや獣人といった亜人種が人間を追い払うためのものなので、
貝の獣人たるマグリットが(実はクロムでもそうだが)御者を務めていれば問題はない。

道を進んでいくと辺りに霧が立ち込めてきた。
どうやら順調に『精霊の森』へと近付いているらしい。
0060レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/07/19(日) 13:24:10.95ID:/oE3g03i
『精霊の森』には僅かながらエルフが暮らしていると聞いた。
だが、今のところそれらしい影はない。魔物の気配もない。
いったん馬車から降りて徒歩で探索した方がいいのかもしれない。
……そう考え始めていた頃だった。

「――――なんだ!?」

頭上の樹々から高速で何かが降ってきた。
レインは咄嗟に腰に帯びた剣の柄を掴んで、鞘ごと振り上げる。
鞘と短剣の刃が空中で交錯。敵は余った腕から何かを放った。

「……召喚っ!」

同時。召喚魔法で左腕に木製のラウンドシールドを呼び出す。
放たれた何かは、風だ。突風がレインの頬を叩く。
盾では防ぎきれずに後方へ吹っ飛ばされ、あわや荷台から落ちかけた。

「ちっ」

露骨な舌打ち。敵は真っ黒い外套にフードを被っているので、顔は判然としない。
レインが縁を掴んで荷台に立ち直す間、敵は荷台に着地して短剣をマグリットへ向けた。
言葉は発さないが、「余計な真似をすれば御者の獣人を殺す」と言いたいのだろう。

天然の装甲皮膚を持つマグリットにどこまで意味のある行為だろうか。
が、それを理解しているのはクロムとレインだけだ。

「獣人を連れてくるとは知恵が回る侵入者だ。これは脅しじゃないよ。
 森が傷つくところはもう見たくない……君達には消えてもらう」

「待ってくれ、俺達は怪しい者じゃない!」

「問答無用っ!」

声色から察するに女性らしい。女性は短剣を構えたまま清涼な声で呪文を唱えた。
魔法だ。レインを吹き飛ばした何かの正体も、彼女が放った風の魔法。
正確には風魔法の初歩『ツイスター』という。

「虹の女神、花の女神、美貌の王子。愛を巡り、荒れ狂う風を吹きつけよ」

詠唱を終え、振り払う仕草をすると、馬車の上で風の渦が吹き荒れた。
『タービュランス』と呼ばれる乱気流を起こす風魔法の一種である。
複数の風は狂ったようにレイン、クロム、マグリットを吹き飛ばすべく向かう。


【『精霊の森』に到着。謎の女性に強襲され、風魔法で攻撃される】
【敵の操作は自由です。装備は短剣、短弓。風の魔法を行使可能】
0061クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/07/23(木) 20:51:14.52ID:zlPkji4/
マグリットが御者を、レインが道案内役と決まり、馬車はいよいよ走り出す。
初めの内は整備された『ラピス街道』を行くが、途中からは道なき道を行く。
『ラピス街道』は南端の秘境の地には繋がっていないからだ。

でこぼこ道に容赦なく揺らされる安物の荷馬車はお世辞にも乗り心地が良いとは言えない。
だが、冒険者にとって、悪条件の中の船旅や馬車の旅などは慣れっこ。酒を進めるのに何ら問題はない。
鬱蒼とした森に入り、辺りに霧が立ち込めてきた頃には、クロムの開けた酒樽はほとんど空になっていた。

霧──。レイン曰く、『精霊の森』には人払いの魔法が掛けられているという。
もしこの霧が魔法によるものならば、レインの案内に間違いはなく、目的地はすぐ近くにあるという事だ。

(人との接触を好まないエルフが暮らす森……。俺達に対しても当然、好意的ではないだろうな)

エルフは一般的に争いを好まない種族とされている。
が、中には例外もいるだろうし、人間を嫌う余りに暴力で排除しようとする者もいるかもしれない。
覚悟はしておいた方がいいだろう──。

>「――――なんだ!?」

事件が起きたのは、クロムがそんなことを考えていた時だった。
何者かがいきなりレインの頭上に現れ、彼と激しく交錯したのである。
襲撃者の正体は外套とフードに遮られ見る事は叶わない。

>「獣人を連れてくるとは知恵が回る侵入者だ。これは脅しじゃないよ。
> 森が傷つくところはもう見たくない……君達には消えてもらう」

それでも少なくとも襲撃者が“女性”という事はその声質から判る。
そしてマグリットを一発で獣人と見抜きこちらを“侵入者”と表現したその言動から、
彼女は金品狙いの賊などではなく人払いの魔法を掛けた側の一員であろうという事も。

「物騒なモンを振り回して奇襲かよ。歓迎されたもんだな」

敵の得物を見て接近戦を得意とするタイプと呼んだクロムは、遅れを取る前に剣に手を掛けた。
しかし、それに対する敵の次の一手は意外。なんと詠唱。

唱え終えると同時に、突如として馬車の上で発生する風の渦。これは風魔法。
それも『ツイスター』より広い範囲に打撃を与える事ができる『タービュランス』である。
──要するに、馬車ごと三人を吹き飛ばす気なのだ。

「くそ! 問答無用の上に手段は選ばずか!」

風に肉体が翻弄される前にマグリットの腕を引っ張り車外へ向けて跳躍。
背後で荒れ狂う暴風が背中を押しそれが上手い具合に脱出を勢い付ける推進力の役割を果たしたことで、
クロムは馬車の破壊に巻き込まれずに済み無傷で大地に着地することに成功した。
勿論、彼に連れられ共に脱出したマグリットも大事はない筈である。

「ったく……折角手に入れた馬車《足》をいきなり滅茶苦茶にしやがって。
 例え相手が女だろうが何だろうが、こうなりゃ容赦はしねーぜ」

ぺっ、と唾を吐き捨てながら、粉々に潰された馬車の周囲を舞う土埃を凝視するクロム。
土埃の中で黒い影が動いている。馬だ。どうやら奇跡的に馬は無事だったらしいが、今はどうでもいい。
馬の安否などよりも敵が何処に居るか。重要なのはそこだ。
レインも恐らくそうだろうが、敵も当然、馬車が破壊される前に脱出している筈なのだ。
狙いがこちらの命ならば、攻撃がこれで終わるわけもない。

「ちっ、気配を消してやがる。この鬱蒼とした木々の中に同化されたら探すのは困難だぜ。
 このままだと受け身になっちまう。……マグリット。お前の“目”で何か見つけられるか?」

【『タービュランス』を躱すが、馬車が破壊されてしまう。襲撃者も気配を消す】
0062創る名無しに見る名無し垢版2020/07/23(木) 21:31:04.16ID:/wWwUg4t
あげ
0063マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/07/27(月) 17:49:09.98ID:SXyseJOJ
精霊の森には人払いの魔法がかけられている
立ち込めてくる霧の中を進みながらレインの言葉を思い出していた

「ふむむ、これがそうですか
しかし人に限定して私の様な獣人は受け入れてくれるところを見るに、森のエルフさんたちとお話くらいはできそうですね!」

整備されていない森の道を馬車で進むのはいささか難儀をする
手綱を引きながら馬を操作して進んでいった時だった

突如として出現する気配と共に激しい衝突音
振り返れば何者かにレインが吹き飛ばされており、それを認識した時にはマグリットに短剣がつきつけられていた

「いけません!」
マグリットが口に出すことが許されたのはこの短い一言だけだった
それはクロムが剣を手に取ったのを見て発せられた言葉だったのだが
それ以上続けようにも、レインが口を開いた瞬間に荷馬車には風が吹き荒れ吹きとばされてしまったからだ

吹きとばされた瞬間、マグリットの腕が強い力が引っ張る
それはクロムだ
暴風を背に受け飛翔し着地、マグリットもその救出により事なきを得ることができた

マグリットはクロムが魔族である事に気づいていない
故に自分より頭二つほど小さな男が重量級と自認する自分を引いて跳躍できたことに驚きを隠せないでいた

「ありがとうございます!私を引っ張れるとは驚きました
しかし、あの方とこれ以上事を荒立てるのはお控えください」

確かに奇襲を受けた以上反撃するのは当然である
が、クロムも気づいているように、攻撃者は森のエルフであり人払いの役割を持っているのであろう
自分たちの目的が精霊の森を襲う魔族であるならば、エルフは共闘すべき存在でありここで倒してしまえばそれが困難になる
という旨を伝える

とはいえ、状況は厳しくある
うっそうとしたきりの立ち込める森の中
相手は気配を消し木々と同化し発見は困難
土煙の中馬の影は見えるが、レインとははぐれてしまっている

「相手は森の専門家ですので、探り合いでは少々分が悪いですね
ですが私も神の使徒の端くれ、必ずや相手の方の心を開いてみせますよ!
むむむむ……」

マグリットがしゃがみ祈るような体制で低く唸り始める
それと共に大量の汗が噴き出している

「私が貝の獣人である事はご存知だとは思いますが、細かく言うと蜃という貝なのですよ
ではいきますので、なるべく傷つけないようにお願いしますね?」

その言葉とともにマグリットが無防備に立ち上がる
185センチの大柄の体で更に手を広げて見えない襲撃者に声をかける

「精霊の森のエルフさんとお見受けしました
我々は魔王軍の襲来の方を受け調査に来た勇者の一行で、私は勇者を導く伝道師マグリット・ハーン
奇襲をかけておきながら直接の攻撃をしない、風の魔法を使いながらも馬を傷つけていない
以上の事からあなたに敵意がない事はわかっております
そして【森が傷つくところは「もう」見たくない】とのお言葉からあなた方の窮状は察しました
どうか我らにお手伝いをさせていただけませんか?」

人間が森を荒らしたから、という可能性もあったが魔王軍が進行してきている現状ならばそちらの可能性が高いであろうとの判断であった
0064マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/07/27(月) 17:49:33.58ID:SXyseJOJ
呼びかけに返ってきたのは二本の矢
一本はマグリットの耳元を掠め飛び去り、もう一本は足元に
足元の矢に魔法が付与されていたようで、そこから突風が吹き荒れマグリットが散り散りになって吹き飛んだ
その様子を木の影から見ていたマグリットが小さく「あそこです」と合図する

マグリットの獣部分である蜃という貝は幻覚物質をまき散らし蜃気楼を作り出す
精霊の森の霧に紛れ幻覚物質の霧をまき散らし、襲撃者に幻を見せて攻撃を誘発したのだ
如何に気配を消し森と同化しようとも、攻撃する瞬間にその姿は露になるのだから

「エルフの皆さんとの共闘を望みますが、その為に我々の力も見せる必要があるでしょう。ご堪能下さいませ!」

クロムと茂みにいるであろうレインに合図するように、そして襲撃者にもわかるように声を上げるのであった

【蜃気楼で自分を作り説得しながら襲撃者を炙り出す】
0065レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/07/30(木) 20:33:04.74ID:tBhCleng
魔法。精霊や神々、悪魔といったこの世界(アースギア)を形作る超常の存在に干渉する技術。
生物が潜在的に持つ『魔力』をエネルギーに使い、呪文という式で引き出したい力を発動する。

魔法の威力や効力を決める条件は、魔力量でも高度な呪文でもない。
神格を感じとる感受性――そしてその存在を信じること。つまり、魔法には信仰が要る。
聖職者のように信心深くなれという訳ではないが、無神論者では魔法も不発に終わるだろう。

襲撃者の女性も何かを信仰しているから魔法が使える、ということだ。
青い双眸が捉えたのは、風の渦が霧を裂き、土埃を上げつつ迫る光景。
栗色の髪が揺れ『ツイスター』でふっ飛ばされた感覚が甦る。
広範囲を薙ぎ払うこの魔法はそれ以上の威力だろう。

>「くそ! 問答無用の上に手段は選ばずか!」

クロムはマグリットを連れて跳躍し馬車から脱出する。
二人が脱出したのと一歩遅れて、レインも跳躍して難を逃れる。
……が、荒れ狂う風に勢いよく飛ばされ、茂みに頭から突っ込んだ。
受け身をとってなんとか地面に着地して周囲を見渡す。はぐれたらしい。

(相手の気配を感じない……。どこだ?)

近接戦を得手とするのだと思い込んでいたが、そうではないらしい。
だが、遠隔から攻撃するのが本来の戦闘スタイルだとするなら、
なぜ彼女は最初に接近戦を仕掛けてきたのだろうか。

(――無駄な抵抗ばかりして……!何者だあの子らは……!)

襲撃者は苛立ちを隠せないでいた。
完璧な奇襲を躱され、風魔法も凌がれた。
後に残されたのは自身のもっとも得意とする弓矢。

>「ったく……折角手に入れた馬車《足》をいきなり滅茶苦茶にしやがって。
> 例え相手が女だろうが何だろうが、こうなりゃ容赦はしねーぜ」

襲撃者は気配を消し、ひと飛びで樹上へ登る。威勢のいい声がよく届く。
彼女にとって精霊の森は庭。身を隠し狙撃する位置の確保など造作もない。

>「相手は森の専門家ですので、探り合いでは少々分が悪いですね
>ですが私も神の使徒の端くれ、必ずや相手の方の心を開いてみせますよ!
>むむむむ……」

弓に矢を番え、きり――と弦を引いた。
心が冷えていく。呪われた氷の湖に沈むように。
0066レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/07/30(木) 20:38:39.36ID:tBhCleng
……奴らもきっと森を脅かしに来た連中と同じに違いない。
気がつかない内にきりきりと奥歯が軋んでいた。
怨念染みた思考が彼女を塗りつぶした。

>「精霊の森のエルフさんとお見受けしました
>我々は魔王軍の襲来の方を受け調査に来た勇者の一行で、私は勇者を導く伝道師マグリット・ハーン
>奇襲をかけておきながら直接の攻撃をしない、風の魔法を使いながらも馬を傷つけていない
>以上の事からあなたに敵意がない事はわかっております
>そして【森が傷つくところは「もう」見たくない】とのお言葉からあなた方の窮状は察しました
>どうか我らにお手伝いをさせていただけませんか?」

「――――っ!」

マグリットの声で矢を番えた手元が狂った。
狙いは頭から大幅にずれて、矢は耳を掠める軌道を進む。
襲撃者は慌てて矢に風魔法を込め、第二射を放った。

外敵に対する強い憎悪が、彼女の感覚を最後まで鈍らせた。
魔法の霧の中に今まで感じたことのない"何か"が混じっていることに。
狙い過たずマグリットの足元に矢が突き刺さると、風魔法が解き放たれた。
幻覚物質によって生み出されたマグリットの幻がちりぢりに消えていく。

>「エルフの皆さんとの共闘を望みますが、その為に我々の力も見せる必要があるでしょう。ご堪能下さいませ!」

「……しまった」

舌打ちする間もなく茂みの中からレインが顔を出す。
剣は抜いていない――が、居所が知れたいま、
正面から三対一はあまりに分が悪い。

「俺は"召喚の勇者"レインです。仔細は仲間のマグリットが言った通り、
 俺達はこの森を助けるため来ました。どうか信じて下さい……!」

召喚の、というフレーズに怪訝な反応を示した。

「召喚の……?私がお伽話で聞いた勇者様とはずいぶん違うようだね。
 助けになるかどうかは森が決めることだが……いいだろう。
 私を倒せたら、森番として彼女の話を信じよう」

この状況、レイン達の方が数的有利に違いない。
だが地の利は樹上にいる襲撃者――もとい、森番たる彼女にある。

居場所はばれてしまったが、森の隅から隅まで知り尽くしている彼女なら
逃げながら戦うこともできるし、こちらを撒いてもう一度隠れることなど造作もない。
だが、彼女にその考えはない。森番として勇者達の実力を確かめるべく、正面から戦う構えだ。
0067レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/07/30(木) 20:42:43.81ID:tBhCleng
魔力を練り上げ、呪文を詠唱のはじめる。
彼女が信奉するのは自然、それを形作る神格たち。そして動物を愛する。
主に木の精や四大精霊――とりわけ風の精霊と相性が良い。
魔法の霧が彼女の構えた弓矢を基点に渦を巻きはじめた――。

「食らい……なさいっ!」

先程マグリットの幻影を払ったのと同じく、使うのは風魔法の付与。
ただし、放つ弓矢は一度に十本以上。幻覚で居場所を欺瞞するならば、
無差別攻撃で殲滅すればいい……というのが、彼女の考えである。
矢が地面に刺さり、突風がそこかしこに吹き荒れる。

「遠距離戦は分が悪すぎる。樹上へどうにかして接近したい……!
 俺が陽動になって引っ掻き回すから、その間に彼女に近付いてみてくれ!」

言うなりレインが召喚したのは、前回手に入れた宝石で拵えた『雷霆の杖』。
魔力を込めると電撃を放つ力を持っているのは試験済み。
弓矢の類だと風で躱されるおそれがあるので、今回はこれを使う。

左に盾、右に杖の状態で、レインは疾駆。
突風吹き荒れる"風の雨"の中を突っ込んだ。
魔力を込めて杖の力を発動し、電撃を放射する。

「魔力で丸わかりだ。そんな単調な攻撃じゃ当たらないよ」

森番は別の樹上へと軽やかに飛び移り、攻撃を回避。
そして再度弓矢を構え、感知した魔力の方角へ"風の雨"を放った。
それこそが狙いだ。森番には分からないだろう。勇者の仲間が接近している事に。


【襲撃者は風魔法を付与した矢を雨のように降らせて無差別攻撃】
【レインは"雷霆の杖"を装備して陽動を買って出る】
0069クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/08/04(火) 03:55:46.00ID:1f+0vOSg
マグリットの呼びかけに弓矢でもって応える敵。
それは聞く耳持たぬの冷徹な意思表示か、それとも無謀とも思える堂々たる仁王立ちに刺激され思わず攻撃してしまったのか。
いずれにしてもこれはマグリットが仕掛けた罠に、敵がまんまとかかった証拠。
何故なら敵が射掛けたマグリットは彼女が作り出した幻なのだから。

(自力で見つけられないなら、敵に居場所を教えてもらえばいいってか。こいつの能力は思った以上に頼りになりそうだ)

本体が如何に上手く木々と同化しようとも、射掛けた矢の弾道を辿れてしまうなら意味はない。
クロムが“そこ”目掛けて大地を蹴ったのは、マグリットが「あそこ」と合図したのとほぼ同時であった。

視線の先では既にレインが敵と接触していたが、戦っているようには見えなかった。
口を忙しく動かしている様子から、話し合っている……いや、敵を説得しているのかもしれない。
だが、敵がそれに応じないであろうことはマグリットへの攻撃でも明らかだ。
だからクロムは木から木へと跳躍を繰り返し、敵の背後へ迫りながら抜刀する。

前にはレイン。後ろにはクロム。敵からすれば挟み撃ちの格好だ。
手持ちの武器は短剣と短弓。体術に余程の自信がない限り二対一の近接戦闘はできるだけ避けようとするだろう。
とすれば──

>「食らい……なさいっ!」

当然、まずは短弓による迎撃を図る。
だからこそ読めていた。故にどれだけどこに矢を放たれようとも、クロムは慌てない。
元々、種族としても肉体の能力も人外のそれである。
どれだけ乱射しようとも、彼にとって来ると分かっている方向から放たれた矢など容易く躱せるのだ。

>「遠距離戦は分が悪すぎる。樹上へどうにかして接近したい……!
> 俺が陽動になって引っ掻き回すから、その間に彼女に近付いてみてくれ!」

(って、アホか! 作戦を大声で言うか普通!? 丸聞こえじゃねーか!)

思わず枝からズッこけてしまいそうなところを何とか立て直し、接近を再開する。
この時点で敵との距離は当初の半分程度まで縮まっていたが、それでもまだクロムの間合いには程遠い。
敵もこちらの姿を認めてもまだ余裕の表情である。
なるほどこの森を知り尽くしているとはいえ、その軽快な身のこなしは正に鍛えられた者のそれだ。
接近を許しても、最終的には逃げ切れる。そんな自信があるのだろう。

だが──そこに隙がある。問題はない。次で追いつき、終わらせる。
クロムがその細めた目にそんな意思を込めた一段と鋭い光を湛えた時に、チャンスはやって来た。
レインが電撃を放ったのである。『水晶の洞窟』で手に入れた、あの宝石を嵌め込んだ杖を使って。
結果、それを躱す為に敵は樹上への退避を余儀なくされる。

──瞬間、枝を蹴ったクロムの体は爆発的な加速をもって一気に敵の背後に舞い上がった。
0070クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/08/04(火) 04:09:32.95ID:1f+0vOSg
「レインの魔力に惑わされて、俺の『魔装機神』の魔力には気付かなかったようだな。
 俺の“素”の速さで俺の全力を測ろうとしたのがお前の隙だ」

「!?」

舞い上がると同時に右手によって振り上げられていた黒剣が、容赦なく振り下ろされる。
背後からではあるが、相手の右肩から左脇腹にかけてを斬り下ろす袈裟斬りというやつだ。

「──甘い!」

だが、不発。刃を止めたのは敵の右手に握られていた短剣。
瞬時に弓から手を離し、武器を持ち替えて刃の軌道上に短剣を置いたのだ。
恐らく防げたのは偶然ではなく、殺気から軌道を読み取ったからに違いない。

「──私に気付かれずに後ろを取れるとは驚いたが、攻撃をこちらに気付かれちゃ意味はないね!
 特に声を出せばその瞬間に奇襲は意味を──」

「普通の奴なら声を出したって反応はできないさ。けど、あんたの動きを見たら多分ガード“してくれるだろう”と思ったんだよ」

「! “してくれる”だ──とっ!?」

不意にボギボギッ、という耳障りな音が空間を走り、敵が体を左に捩った。
その体──無防備な左脇腹には細長い黒い金属の塊が直撃している。
これは鞘。クロムの剣を収める為の、剣と同じ材質で創られた鉄よりも頑丈な。

「右に剣、左は逆手に持った鞘。俺の本命は剣じゃなく、鞘《これ》。最初からね。殺気で気付かなかったろ?」

「がっ……あぁ!」

苦痛の声をあげて、ぐらりと体勢を崩す敵。
放っておけば頭から真っ逆さまに落ちていくだろうが、マグリットにも指摘された手前、相手を死なせてしまうのは本意ではない。
なので落ちる寸前に腕を掴み、下のマグリットに向けて放り投げた。
少々乱暴な扱いに見えるだろうが、怪我をした敵を回復魔法の使えるマグリットに真っ先に渡したのは、彼なりの優しさである。

「事を荒立てるなって言われたけど、話し合いが無理なら流石に無傷でどうにかしろってのは戦士《俺》には無理だ。
 ……それより、こいつをこれからどうするんだ? 『くっ、殺せ』とかいう展開になったらかなり面倒だぜ。
 もっと強力な仲間が続々とやってきて戦いになっちまうだろうし、何とかそれだけは避けねーとな」

樹から飛び降り、マグリットとレインの二人の顔を交互に見て、クロムはこの謎の襲撃者の処遇を訊ねた。

【襲撃者を撃破。その処遇を二人に訊ねる】
【避難所設置乙です。規制の時や時間が空いた時などに使わせて頂きます!】
0071マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/08/07(金) 19:57:51.79ID:wucqVZrR
攻撃を誘発し、襲撃者の場所を特定
それを後ろのクロムに伝えた時には既にクロムの姿はマグリットを越えて飛びだしていた

射線を把握し動き出したのはクロムだけでなくレインもであった
一見言葉を交わそうにも拒絶されたようであったが、しっかりと言質を引き出していた

>私を倒せたら、森番として彼女の話を信じよう」

この言葉を引き出せたのは大きく、そして同時にマグリットの中に違和感を植え付けていた
そしてその違和感は直ぐに確信に変わる

レインとクロムが樹上の襲撃者に迫る中、それを見ていたマグリットの瞳は一つのみ
体中に生成された無数の目はその周囲をくまなく見ていたのだが……全ての目は閉じられることになる

樹上から矢が雨あられと無差別に降り注がれたからだ
それもただの矢ではなく、先ほどマグリットの幻影をかき消した風の魔法が付与されているのであろう
あたりかまわず突き刺さりそこを起点に突風が吹き荒れるのだ

「あばばば、なんという無茶苦茶な!しかしこれができるという事は……!」

マグリットは地に伏し両肘から生成した巨大な貝殻を被りその猛威を凌ぎながら、一つの結論に至っていた

吹き荒れる風が収待ったのを見て起き上がった時には、レインが雷霆の杖を振りかざしていた
しかし襲撃者も魔力を読み軽やかに回避し、矢を番える
瞬間、その背後に黒い影が、そう魔装機神を纏ったクロムが爆発的な跳躍力で舞い上がるのが見えた

ならばマグリットの撮るべき行動は一つだ

「ここはお任せください!」

森番とレインの間に飛び込み貝殻の盾をかざす
185センチのマグリットの全身を優に隠す貝殻の大盾を二枚並べてかざせばそれはもはや壁!
矢がどのような軌道を描こうと壁に突き立ちその進みを止めるほかなかった

しかし、この矢はそこからが本領である
突き立った盾を起点に突風が吹き荒れる
地面にしっかり足をつけているならばともかく、飛び込んだ状態では踏ん張る事も出来ず背後のレインを押しつぶすような形になってしまった

「いたたた……あ、レインさん、申し訳ない」

起き上がって自分の下敷きになっているレインを見つけた時には樹上の戦いは終わりを迎えていた
クロムの鞘が森番の脇腹にめり込んでいるのが見える
崩れ落ちる森番の手を取りマグリットの方へ投げ渡すのをみて慌てて抱きとめるのであった
0072マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/08/07(金) 20:01:00.13ID:wucqVZrR
「おお、やはりエルフさん、軽いですね!
いかがでしたか?我らの力は」

マグリットの腕の中で脂汗を浮かばせながら苦し気に睨み、口を開く

「ふん……その勇者とやらはお前の下で倒れているわけだが?
黒衣の男の方が強いのではないか?」

そういわれていまだに下敷きにしたままである事に気づき飛びのくと、満面の笑みを浮かべる

「あわわわ、失礼
勇者の強さとは武力の強さだけではありません
字のごとく勇気をもって踏み出す者です
彼は常に我らの先頭を踏み出してくれる、間違いなく勇者なのですよ」

諭すように答えると、大きく息を吐きかける
濃厚な幻覚物質を至近距離で浴びせる事で麻酔の代わりとしたのだ

「まずは傷を治しますので、しばしお眠りください」

森番の薄れゆく中でマグリットの言葉が遠くに聞こえたであろう

「さて、この戦いで色々と分かった事がありますが、まずは治療してからにしましょう
この方の仲間が続々とやってくるという事はないでしょうからきっと大丈夫ですよ」

レインとクロムに応え祈りに集中していくのであった

######################################

治療を終え、幻覚作用が切れて森番が目を覚ますまで、マグリットは今回の戦いで感じたことを二人に話していた

通常侵入者を察知すれば、まずは仲間に知らせる
その上で侵入者に倍する戦力を用意する
この森番が手練れである徐とは疑うべくもないが、それでも相手の戦力がどのくらいかもわからぬまま単独で戦闘を仕掛けることはあり得ない
だが、戦闘中森番以外の存在は確認できず、更には無差別に矢を降らせていた
これは仲間が近くにいるのであれば出来ない事だ

さらに続ける

「エルフさんたちは【森に住まう者】ではなく【森と共に生きる者】だと聞いたことがあります
自身の森の中では森の生気を得て回復力も有するとか」

しかし、クロムに一撃入れられた森番は悶絶し回復の兆しもなかった

「これらを勘案するに、侵入者への対処に人員を複数割けない程重大事が起きており、森自体も大きなダメージを負って衰えていると言えるのではないでしょうか
……もしかすると、我々が思っている以上に事態は深刻なのかもしれませんね」

そう締めくくり、うめき声を上げ始めた森番に視線を下す
幻覚効果も切れ覚醒が近いのであろう

「ともあれ、自分を倒せたら私の話を信じると言ってくれておりますし
目が覚めたらお話くらいしてくれるでしょう」


【避難所設置お疲れ様です、ありがとうございます】
0073創る名無しに見る名無し垢版2020/08/09(日) 19:56:37.80ID:N8DucUzb
3安打
0074レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/08/09(日) 22:33:47.31ID:OTcMNRqi
勇んで飛び出して雷を放ってみたがレインは即座に後悔した。
雨のように降ってくる矢を前にして、躱しきれる自信がなくなったからだ。
もし当たりそうになっても、左腕の盾で矢自体は防げようが、その後の風魔法はどうしようもない。
当たったが最後、どこかへ吹き飛ばされしたたかに身体を打ち付けるだろう。

>「ここはお任せください!」

「マグリット!?助かるっ!」

前に躍り出たのはマグリットだった。
となれば、クロムはこの攻撃の隙を突いて上手く接近できているだろう。
それはともかくマグリットは貝殻の盾を構えてレインの前に壁役として飛び出した。
――が、さしもの彼女といえど風魔法の暴風には抗えず、こちらへ吹き飛んでくる!

「おわぁっ!?」

>「いたたた……あ、レインさん、申し訳ない」

「だ、大丈夫……ありがとう。おかげで矢が直撃せずに済んだよ」

頑張って受け止めようとしてみたが、パワーが足りずそのまま下敷きになるレイン。
情けなくも地面に倒れ伏している間に戦いは終わっていた。

>「事を荒立てるなって言われたけど、話し合いが無理なら流石に無傷でどうにかしろってのは戦士《俺》には無理だ。
> ……それより、こいつをこれからどうするんだ? 『くっ、殺せ』とかいう展開になったらかなり面倒だぜ。
> もっと強力な仲間が続々とやってきて戦いになっちまうだろうし、何とかそれだけは避けねーとな」

「すまない、俺の力不足だ。話し合いでケリを着けるチャンスはあった。
 ただ……どう足掻いてもついて回って来るんだな。"召喚の勇者"は」

クロムに投げ飛ばされた森番をマグリットが抱き止める。
被っていたフードはその最中に剥かれており、素顔が露になっていた。
白皙に怜悧な美貌、尖った耳。間違いなくエルフだ。
眉を寄せて表情は苦し気だ。敵意は最早ないように感じた。

>「おお、やはりエルフさん、軽いですね!
>いかがでしたか?我らの力は」

>「ふん……その勇者とやらはお前の下で倒れているわけだが?
>黒衣の男の方が強いのではないか?」

「ぎくっ……いやっ、それよりマグリット、
 森番の人は多分肋骨あたりが折れてるかもしれない。
 回復を頼めないかな。そっちの方が話をスムーズに進められる」

実際にぎくっ……と発音した訳ではない。
だが、その時の鋭い指摘にレインはあまりに焦りを感じたので
冒険の記録の表現上そうなってしまうのだ。
0075レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/08/09(日) 22:38:00.56ID:OTcMNRqi
思えば、クロムのフォローがなければ陽動作戦も成功しているか怪しいものだった。
レイン・エクセルシア。彼を本当に勇者と呼んでもいいのか?

>「あわわわ、失礼
>勇者の強さとは武力の強さだけではありません
>字のごとく勇気をもって踏み出す者です
>彼は常に我らの先頭を踏み出してくれる、間違いなく勇者なのですよ」

幻覚物質を至近で浴びせて眠らせ、治療を開始するマグリット。
勇者の強さは武力だけではない――このことを真に理解するのは、まだ少し先の話だ。

……治療を終えて森番の女性が目を覚ますまでの間、
マグリットが戦いの中で得た情報から森の状況を推理してくれた。
森にはすでに何か重大な事件が起こっており、
森を守る森番はもちろん、森自体もダメージを負っている……というものだ。

(たとえ魔王軍でなくても、見過ごす訳にはいかないな……。
 こんな辺境の森だ。他の冒険者が事態に気付くのも時間がかかるはず)

>「ともあれ、自分を倒せたら私の話を信じると言ってくれておりますし
>目が覚めたらお話くらいしてくれるでしょう」

レインは何気なく森番のエルフの方へ視線を移した。
すると丁度、森番が形のよい目をゆっくりと見開いて、身体を起こす。
左脇腹の怪我はすっかり癒えていた。

……全霊をもって挑んで負けた。にも関わらず――……。
森を傷つけられて凍てついた心は、すっかり氷解しているような気がした。
これが勇者パーティーの力……なのだろうか。

「私を倒せば話を信じる……という約束だったな。
 まず、君達に攻撃を加えた非礼を詫びたい。……すまなかった」

そう言ってエルフは頭を下げた。
そして翡翠のような澄んだ瞳で、三人をじーっと見る。

「私はエルミア。この『精霊の森』で森番をしている。
 言い訳がましいだろうが外界の情報に疎くてね。
 そこの彼がお伽話で聞いた、伝承の勇者のようには見えなかった。
 だが……そうか。強さや魔力の波動ばかりが、勇者の条件ではない、か」

魔王が世に現われた年数だって、エルフの寿命ほど長くはない。
長きに渡って森から離れず守り続ければ、外の情報にも疎くなろう。
0076レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/08/09(日) 22:53:15.11ID:OTcMNRqi
戦いの時とは打って変わって、エルミアの表情と喋り方は落ち着いたものに変わった。
どうやら、勇者の一行だと本当に信じてくれたらしい。

「……今、この森ではその魔王の尖兵達が跋扈している。
 奴らは突然やってきてこの森の樹々を……焼き払った。
 そして焼き払った土地に魔法でダンジョンを作ったのさ。
 ……この森の樹は、ただの樹木じゃない。神格が宿った精霊の樹なんだ」

『精霊の森』の樹々には木の精霊(ドリアード)が宿っている、ということなのだろう。
エルミアはそっと一本の樹に手で触れると、樹に燐光が灯った。
燐光は精霊を形作り、一本の枝にちょこんとドリアードを座らせた。

エルミアはぼそぼそとドリアードと何か言葉を交わすと、
再び三人の方へと翡翠の瞳を向ける。

「……森は今の勇者と、その仲間の力を信じると言っている。
 魔王軍と戦ってくれるならダンジョンへ案内しよう。
 だが攻略には協力できない。連中との戦いで他の森番は傷を負っていてね」

まともに動ける森番はエルミアだけで、後は非戦闘員らしい。
ダンジョンを攻略することは森を救うことに他ならないが、
今森で暴れている魔王配下の魔物を駆除しなければならない、と言った。

「君達にあの魔族……"猛炎獅子"サティエンドラが倒せるとは思わないが……」

「サティエン……?ダンジョンのボスですか?」

エルミアは首肯する。それはこの森に築かれたダンジョンの主の名だ。
炎を操り、炎を纏った部下達を従え、魔王城より侵攻してきた魔族……!
当てのない旅の一番目で当たりを引いたことに、レインは不気味さを感じた。
それは今まで止まっていた巨大な歯車の装置が廻りはじめたかのようだった。

「ちょっと待った!ダンジョンへ行く前に色々準備したいな。
 壊れた馬車も放置したままだし……エルミアさん、いいかな?」

レインが気になったのは、馬車の残骸だ。
茂みに吹っ飛ばされたのでどうなったのかよく確認していないが、
馬やマグリットの樽が無事なら今の内に確保しておきたい、と咄嗟に思ったのだ。
もっとも、風魔法が直撃した馬車に乗せていたものだ。樽だけキレイに残っているかは分からない。

それにレインの戦闘スタイルは多種多様な武器で相手の弱点を突く……
……つまり、メタを張ることを基本とする。ダンジョンの情報も多い方が良い。

「必要なものがあればある程度は用意してやろう。
 ……聞きたいことがあるなら今の内に言うといい。
 私で答えられる範囲であればだけど、ね」


【ダンジョン攻略準備フェイズ(情報収集&何かあれば)】
0077クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/08/13(木) 01:03:07.48ID:1zHu+zmX
治療を受けて一時的に眠りに入った敵が目覚めるまでの間、クロムはマグリットから以下の内容の話を聞かされた。

森番である筈の彼女が、仲間に侵入者の存在を知らせた様子がなく、単独で対処しようとした事は不自然である。
更にエルフは森の生気で回復する事が出来るが、その回復の兆候は彼女から確認できなかった。
それは仲間を呼びたくても呼べる状況にはなく、森は吸える生気もない程衰えている事を意味するのではないか。
つまり、何かしらの重大事が既にこの森で発生しているという事ではないのか……。

「なるほどね……」

呟くクロムの脳裏に、旅立つ前にレインが言った一言が甦る。

『ちょうど『精霊の森』に、魔王軍が侵攻したっていう情報がある』

その言葉と、マグリットの言う重大事は正にピタリと符合する。
ただ、実際に魔王軍の姿を目にしたわけではない。
人間、あるいは魔族と無関係の亜人種の軍勢が何らかの理由で侵攻している可能性もある。
むしろ勇者《人間》にとって、より悩むのはその手のケースの方かもしれない。

(ま……相手が何の種族であろうと、見過ごす訳にはいかねーって顔してるがな、お前は)

レインを見て一つ溜息をつくクロム。
それは愚直なほど真っ直ぐな生き方に対する感嘆か、それとも呆れを意味していたのか、彼自身分からなかった。


意識を取り戻した森番──エルミアと名乗ったエルフ──はこの森で起きた事を話してくれた。
彼女によると攻めてきたのはやはり魔王軍であり、そいつらは森を焼き払うと型通りにダンジョンを構築したのだという。
それを指揮したのは『サティエンドラ』と名乗る炎の使い手。
魔王軍が相手となれば、回復の全てをマグリットの魔法に頼るのは危険。せめて薬草を用意して置いた方が良いだろう。
いや、その前にまずは破壊された馬車に残してきた物資を回収しなければならない。

>「必要なものがあればある程度は用意してやろう。
> ……聞きたいことがあるなら今の内に言うといい。
> 私で答えられる範囲であればだけど、ね」

等と思っていると、エルミアと目が合った。
一つの間を置いて、クロムは口を開く。

「レイン。馬はさっき無事を確認してる。まだそこら辺に居るはずだ。
 馬車にはマグリットの樽の他にも俺の食料袋を載せてあったから、中身が無事なら一緒に回収した方が良い。
 腹が減ったら戦えねーからな。──っつーわけで、早速皆を代表して行って来てくれ、リーダー。
 美人達の前で良いところ見せるチャンスだ。ははは、頼んだぜー色男ぉー」

強引かつ言葉巧みにレインに雑事を押し付けるこの男を、エルミアは何と思っただろう。
抜け目のない奴。これではどちらがチームのリーダーか分かったものではない。
そんなところだろうか?

「常に先頭を踏み出してくれる者……それにはパシリという意味も含まれていたのか?」

どうやら呆れた目つきでポツリと漏らしたところを見ると、その読みは当たっていたらしい。

「……それはお前が本当に聞きたいことじゃねーよな?
 聞きたいことがあるならと言ったが、実際は俺達に聞きたいことがあったんだろ。レインを除いた俺達に」

だが、レインに雑事を押し付けたのは、面倒を嫌っただけが理由ではない。
クロムはエルミアの真意を察して、彼女の為にお膳立てをしたのである。

「……! やれやれ……益々呆れたね。さっきのは芝居か。どうりで強引だったわけだ。
 じゃあ聞くよ、一つだけ……」

「何故、君は……いや、何故人外《君達》が人間《彼》の味方を?」
0078クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/08/13(木) 01:21:38.09ID:1zHu+zmX
クロムは、厳密には魔族の魔法によって生み出された魔族──『魔造人間』である。

魔族は主に二つの方法をもって異形の怪物たる魔物を造り出す。
一つは生物を魔法で禍々しく変質・強化させる──つまり既存の生命体を利用《加工》する──方法。
もう一つは魔法で無生物に意思と形を与える方法である

魔造人間──通称『魔人』は前者の方法によって生み出される。
ただ、見た目が人間の形を残しただけの化物でないのは、加工の際に異形への変質を抑制されたからだ。
意図して。つまり異形本来が持つ圧倒的な力強さを半減させてでも、そのように敢えて調整されたのだ。

何故そんな手の込んだことをわざわざ?
理由はそれによって人間の姿形とその知性を保てるからだ。
魔族が魔人を造った目的は主に人間界のスパイと破壊工作。それによって疑心暗鬼を生じさせ、結束を弱める為。
人間に酷似した見た目だからこそ人間社会に溶け込めるし、人間並の知性があるから人間を欺ける。

しかも人間界で生きる亜人種が何も魔人だけとは限らないこの世界。
その赤い瞳と尖った耳程度の差異で、魔王軍の放ったスパイと看破されるケースはあったとしても極めて稀だろう。
事実、レインもマグリットも、クロムを魔なる者と疑っている様子は見られない。少なくとも今のところは。

「……どこに居るのかも分からない、誰も倒したことのない伝説の敵を倒すって言ったんだよ、あいつ」

エルミアも精々、何らかの獣人種と思っているだけで、気が付いていない筈だ。
でなければ味方として受け入れようとするわけがない。現在この森は魔族の侵攻の最中にあるのだから。

「使えるのは召喚の魔法。勇者としての弱さを誰よりも知ってるのに、それでもあいつの目は正気で本気だった。
 ……そんな人間《ヤツ》、今時珍しいぜ。だから興味が沸いた。それが旅に同行した理由……の半分」

とにかく余計な事は言うべきではない。
これからダンジョンに乗り込もうという時に聞かれてもいない事を告白して、トラブル発生となっては目も当てられない。
だから答えるのは、聞かれた部分だけ。しかし正直にだ。嘘はつけない。
別に正直に言ったところで困る事はないし、何より嘘をつけば見抜かれた時に警戒されるだけなのだから。

「残りの半分は……ま、欲しいモノを手に入れたいってのと、色々だな」

「……」

「薬草」

「え?」

「必要なものを用意してくれるって言ったろ? 回復アイテムはいくらあっても困るもんじゃねーからな。用意してくれ」

「あぁ、それくらいならお安い御用だ。後で用意しよう。……それで」

クロムから視線を外したエルミアが、今度はマグリットを見た。

【エルミアと話して待機中】
0079マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/08/16(日) 22:41:53.68ID:OBa49NJ6
傷を癒し目を覚まして襲撃者は一行を勇者と認め話し合いに応じる姿勢を見せる
その中で自身を森番のエルミアと名乗った

エルミアの話によれば魔王の尖兵が森にやってきて、木々を焼き払いダンジョンを作ったとの事
その影響で他の森番は負傷し、森自体も衰弱しているようだ

「成程、強力なエルフさんたちを退けた魔物が猛炎獅子サティエンドラと炎を纏った魔物たちですか
炎の魔物となるとエルフさんたちとは相性が悪いですねえ」

エルミリアの話を聞き納得するようにうなずくマグリット
そうしていると隣でクロムが言葉巧みにレインを荷物の回収に向かわせる

「あ、それならば……あ〜、えっと……
私の樽は伝道師になるに当たって教会から特別に頑丈に作られたものが支給されました
ですので多分無事でしょうが、とても重いので転がして運んでくださって結構ですよ」

マグリットの持ってきた樽は特性の樽で多少の衝撃では壊れることはない
しかし中は聖水で満たされており、かなりの重量であるしと立ち上がろうとしたのだが、クロムの視線を感じ慌ててレインを送り出す体をとり見送った

レインが馬の方へ向かったのを確認したところでクロムが口を開いた
どうやらあえてレインを外し、三人だけで話があるようだ
促されたエルミリアが紡いだ言葉は驚きのものだった

>「何故、君は……いや、何故人外《君達》が人間《彼》の味方を?」

「え、達?……という事は……!」

ワンテンポ遅れて言葉の意味を察したマグリットが慌てて自分の口を両手で塞ぐ
今この時までクロムが人間と思って疑っていなかったからだ
人間の他には様々な亜人や獣人がいる
一口に獣人と言っても様々な種類の獣と人のハイブリットがいるわけで、クロムがどういった人外かは人でないと言われた今もわかりはしない

しかしだからと言って、どういった種族かを聞くのは憚られ、それを口にすることはできない
『亜』人、『獣』人などこれらの呼び名は『人』を基準にした呼び名だ
即ちこの世界は『人間』が中心になっている
その中で暮らすうえで軋轢を避けるために人でないことを隠すのはままある事であり、かくいうマグリットも隠すまではいかなくともわざわざ自分から言う事もないのだから

ここであえてクロムに聞き出そうとは思えなかった
しかしエルミリアの問いに答えるクロムの答えが効ければそれで充分であると思えていた
なぜならば、マグリットもまたそう感じる部分があったからだ
0080マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/08/16(日) 22:45:28.26ID:OBa49NJ6
クロムの答えに満足したようで、次にマグリットに答えを促すエルミリア
その視線を受け僅かな躊躇の時間を置き小さく息を吐く

「ここからの戦いを考えれば下手にごまかしたりするのは得策ではなさそうなのでぶっちゃけますが」

肩をすくめながらそう前置きを置いてからマグリットは語る
『人間』に味方する理由は『人間』がこの世界で最大版図を持っており、その組織力や情報網がマグリットの目的達成に必要なものだったから
それを利用するために『人間』に味方し『教会』に属して協力関係を構築していたのだと

その一環でレインに協力する事となったのだが、その際にレインの率先して先を切り開く行動に感銘を受けた
エルミリアも感じている通り、決して万能でも無敵でもない、それどころか光魔法が使えない勇者でもあるにもかかわらず
そんな彼がそれでも前に進んでいこうとする強い意志を見た
そして救命する際に奇跡を賜り、レインと共に進む事に指名を感じたのだ

「そもそも利害関係で神職になった私などが奇跡を起こしたというのは信じるに足る根拠といって良いでしょう?」

人に味方する理由とレインに味方する理由をこう締めくくり誇らしげに胸を張るのだった
が、思い出したように体を縮め付け加える

「ま、まあそんな分けてそんなに信仰深い訳でもなく、お恥ずかしながら回復術も戦闘時にささっとかけられるような腕ではありませんので
クロムさんの言ったように回復薬を用意していただけるとありがたいですね」

PTの回復役としては己の存在意義をかなぐり捨てるような発言ではあるが、実際問題回復力としては乏しすぎるので仕方がない

「後は……」

と腕組みをして少し考え
出現時期や判っている魔物数や種類、耐火炎用の装備、近くの水源・水脈、ダンジョン内の探索の有無などを尋ねていく

出現時期によりダンジョン形成の規模が予測できるし、炎を纏う魔物と言っても実体を持つ魔物か炎そのもののような魔物かによっても対処は異なる
更にエルフが持つ耐火装備や炎に対する耐性魔法などがあれば、利用できるものがあれば何でも利用したいというのが本音であり
地形や地質もその一環であるし、ダンジョンの探索が行われているかにより攻略難易度も変わるだろう

考えるべきところは多くあるが

「それにしても猛炎『獅子』ですか
やはりレインさんについてきて正解ですね
運命の歯車の様なものを感じます」

戻ってくるレインの姿を認め、そんな呟きを漏らすのであった
0081レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/08/19(水) 21:54:35.34ID:Pj6AJEUv
エルミアの口から語られた魔族の名。その名は"猛炎獅子"サティエンドラ――!
果たして彼のダンジョンに魔王城への手がかりはあるのだろうか。
いずれにせよ、準備を怠っていい相手でないことは確かだ。

>「レイン。馬はさっき無事を確認してる。まだそこら辺に居るはずだ。
>馬車にはマグリットの樽の他にも俺の食料袋を載せてあったから、中身が無事なら一緒に回収した方が良い。
>腹が減ったら戦えねーからな。──っつーわけで、早速皆を代表して行って来てくれ、リーダー。
>美人達の前で良いところ見せるチャンスだ。ははは、頼んだぜー色男ぉー」

>「あ、それならば……あ〜、えっと……
>私の樽は伝道師になるに当たって教会から特別に頑丈に作られたものが支給されました
>ですので多分無事でしょうが、とても重いので転がして運んでくださって結構ですよ」

……言い出したまでは良かったが、残骸の回収に行くのは自分に決まってしまった。
クロムは基本的に面倒くさがる性分なので、こう切り返してきても不思議はなかったが……。
……それでも、残骸回収にレインを指名したのには理由がありそうだ。

恐らくエルミアの胸にはまだ疑念が燻っているのだろう。
森は信じると言ってくれたようだが、彼女自身はどうであろうか。。
エルフは長寿で仲間意識が強く、利口で魔法の扱いにも長けているが、
裏を返せば排他的であり、疑り深いということでもある。

思えばクロムはどことなく亜人に近い顔立ちをしていなくもない。
彼の人種を気にしたことはないが、仮にクロムが亜人だったとしてだ。
二人と共に居ることは、同族の繋がりを重視するエルフからは奇異に映るのだろうか?
ともかく、クロムはエルミアが秘めていた真意を察したに違いない。

「分かった、ちょっと待ってて。すぐに戻ってくるよ」

ならば邪魔をするのは野暮だ。レインは立ち上がり、元来た道を戻り始めた。
さて、エルミアと会った場所に辿り着くと馬車の残骸が散らばっていた。
積んであったクロムの食料袋も周辺に散乱している。

(食料袋は全滅っぽいな……)

風魔法の直撃を受けたのだから仕方あるまい。
レインは周辺の草木を掻き分けて樽を探し始めた。
エルミアの話によれば敵の魔族は炎を使うと聞く。
樽があれば戦闘を優位に運べるはずだ。

「あっ……あれだ!」

かくして聖水を湛えた水樽は発見された。やはり特別製であることがさいわいしたのか。
マグリットの樽は中身を零すことなく、ゴロッと茂みの中に転がっていた。
更に待っていた言わんばかりにクロムの馬もそこにいるではないか。

……が、馬を連れて樽をごろんごろん転がしていくのは若干骨が折れる。
そこでレインはごそごそと白紙のスクロールを取り出した。
魔法使いでない者がたまに使う、使い捨て式の魔導具である。
レインはこれに召喚魔法の魔法陣を書き込んで樽を収納する作戦だ。
0082レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/08/19(水) 22:01:47.81ID:Pj6AJEUv
スクロールに刻んだ召喚魔法が発動すると樽は燐光を残して消え去っていく。
かくして巻物を片手に馬を引き連れ、レインは三人の下へ戻る。
エルミアとの話はどうなっているのだろうか。

考えてみれば二人が仲間になってくれた理由をちゃんと聞いたことがない。
レインがクロムとマグリットを誘った理由は、端的に言えば運命を感じた。
理屈をつければ、あの二人となら、もっと多くの誰かを助けられると思ったからである。

レインは三人の中で一番弱い。光魔法は使えないし、戦闘技術も一流とは呼べない。
一人の頃は、それでも強くなろうと頑なにダンジョンを潜った。
それは儚い憧れを追いかけていたに等しいかもしれないが。

(……二人とも、冒険をする理由は何だろう。
 魔王城を探す冒険の中で、求めているものが見つかればいいけど)

仲間になったのだから、二人が冒険に求める"何か"を、レインは一緒に探したい。
そう、目的は何も魔王城の攻略だけではない。彼らの冒険に協力する義務がレインにはある。
……この一件が終わったら聞いてみよう。そう決意を固めて三人の所へと戻るのだった。

「待たせたかな。樽は無事だったけど食料袋は全滅だったよ」

スクロールを開くと、ぼんっ!と樽がマグリットの前に現われた。
召喚魔法しか使えないレインだが、ものを運ぶときには便利だとつくづく思う。

「ダンジョンについて話していたところさ。
 そういえば君がいないことを忘れていた」

いなかったレインのために、エルミアは再度ダンジョンについて語ってくれた。
半年ほど前、精霊の森を焼き払い構築されたその迷宮の名を『紅蓮魔宮』という。
いちからサティエンドラの魔法によって生み出され、大量の魔物を内部に秘めている。
最低でも一個中隊程度の数が潜んでいると考えてよいとのこと。

近くに水源はあったが、ダンジョン構築の際に埋め立てられたらしい。
……と、ここまで話して、森番たちも実際にダンジョンに入った訳ではないことを打ち明けた。
十数名程度の森番では、森に放たれた魔物と炎の対処で精一杯だったという。
0083レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/08/19(水) 22:04:37.54ID:Pj6AJEUv
森番たちが確認している魔物は第一にトーチゴブリン。
文字通り火の棒を持ったゴブリンで、周辺のものを焼いてくる危ない魔物だ。
次にヘルハウンド。凶暴な猟犬型の魔物で敏捷性も厄介だが怒ると口から火を吹く。
そしてフレイムリザード。精霊サラマンダーが魔物化し実体を得たもの。火炎を操れる。
残るは溶岩兵士。溶岩に意志を与え生まれた魔物。マグマを血に動く。

これはあくまでも森番が確認した魔物でしかない。
ダンジョンの中にいる魔物も全て同じではないだろう。

最後にマグリットの希望にあった耐火装備についてだが、
エルミアが着ている外套と同じものであれば用意できるそうだ。

「これは『精霊の外套』と言ってね。
 四大精霊の力を込めた糸で編んだ外套なんだ」

曰く『精霊の森』の森番だけが纏うことを許される特別なものらしい。
火、水、風、土、それぞれに攻撃に対して反発属性で威力を軽減してくれる。
ゆえに火では燃えず、水を弾き、風に流されず、衝撃を和らげる。

「薬草と同じく、人数分用意しておくよ。気休めにはなってくれるだろう」

薬草と装備を取りに一度皆のところへ戻る、とエルミアは言った。
ダンジョンを攻略している間、クロムの馬も預かってくれるそうだ。
去り際に三人のことを見て、こんな言葉を掛けた。

「今は君達を信じよう。召喚の勇者にその仲間達の無事を、
 森の精霊と、この大地を創りたもうた神々に祈ることにするよ」


――――――…………。


サティエンドラが構築したダンジョンは森の中央に聳え立っている。
本来ならそこに樹齢数万年を超える精霊の樹が存在していたが、
魔王軍によって燃やされてしまいもう存在していない。

ダンジョンとは言うが外観は宮殿そのものだ。
玉ねぎ型の屋根が特徴的なこの世の贅を凝らした建築物。
エルミアと共に木陰から覗き込みながら、レインは言った。

「半年前には森があったなんて信じられない大きさだ。
 ……でも用心するべきだ。魔法で作られたということは、
 外観と内部の構造は一致していないかもしれない」
0084レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/08/19(水) 22:10:23.34ID:Pj6AJEUv
宮殿や城にはじまる、建物型の迷宮は内部に魔法が掛けられている事がある。
魔法によって形成された虚数空間は、外観以上の広さをダンジョンに与えるのだ。

虚数空間――。すなわち魔法によって構築される異空間のことだ。
身近な例で言えばレインの召喚魔法も武器の収納先はこの虚数空間だ。
ダンジョンよりはよっぽど簡易的なもののため、比べることも烏滸がましいが……。

話を戻そう。広いだけなら生易しい。場合によっては内部の構造が逐一変わる意地悪い例もあるのだ。
駆け出しの冒険者なら、道に迷っている内にアイテムが尽きて全滅なんてこともあり得る。

「私が案内できるのはここまでだ。……くれぐれも気をつけて欲しい。
 私の知る限り、このダンジョンの主ほど強い者は見た事がない」

物憂げな表情でエルミアはそう言った。
自分達の身を案じてくれているのだろう。
だとしても、このダンジョンだけは必ず攻略したい。

今魔王軍を止めなければ、近い将来この森は焦土と化すだろう。
精霊と少数のエルフだけの辺境なら切り捨ててしまってもいいのか?
あるいは、サマリア王国はそうなのかも知れない。だがレインはそう考えなかった。
『精霊の外套』を翻して、自分の胸をとん、と拳で叩く。心配せずに任せろという仕草だ。

「三人で帰ってきます。絶対に!」

宮殿の入り口らしき場所は正面しかない。ならばこそこそする必要も無いだろう。
勢いよく扉を開け放つと、待ち受けていたのはだだっ広い空間だった。
奥には通路らしきものが見えており、宮殿の深部へ続いているのだろう。
……そして、まるで待ち構えるかのように魔物達が立ち塞がっている。

めいめい武装したトーチゴブリンの群れ。
魔犬ヘルハウンドに火炎を操るフレイムリザード。
そして身体が燃え滾る溶岩で出来ているという溶岩兵士。
どれもエルミアから聞いた情報通りの魔物たちだ。

強いて言えば、厄介なのは溶岩兵士か。
高温の溶岩で出来た手足から放つ攻撃は、それだけで一撃必殺。
剣や槍で斬ろうものならマグマの血が噴出する。武器も冒険者も溶かすことだろう。
この魔物達が、魔王軍の魔族へと続く道の第一関門とでも言ったところか。
――やがて、痺れを切らした魔物達がクロム、マグリット、レインに殺到した!


【いよいよダンジョン『紅蓮魔宮』に突入】
【魔物の群れに囲まれて戦闘開始】
0085クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/08/24(月) 04:11:22.38ID:lmucn47R
森の中央部に聳え立つダンジョン。
その外観は、軍事拠点《城》というよりはどこぞの王朝の王都にありそうな豪華な宮殿だ。
だが、その優雅な見た目もどこかうそ寒く感じられるのは、恐らく気のせいではないのだろう。

(外は美しく、中は醜くってか)

宮殿の入口は正面の扉しかない。
だからレインを先頭にした三人はそこに立ったのだが、見張りが一匹もいないそこは余りに静か過ぎた。
それを嵐の前の静けさと解釈する者が居たとして何の不思議があるだろうか。

先頭のレインが勢いよく扉を開け放ち、露となった宮殿内部。
そこに広がっていた光景は予想通り、あるいは懸念通りというべき、ひしめく魔物の群れ、群れ、群れ。
トーチゴブリン、ヘルハウンド、フレイムリザード、溶岩兵士──……
しかしどれもエルミアの情報通りの魔物達なのは救いだ。
もっとも、敵がどんな魔物であろうと、魔法の使えないクロムに自身の戦闘スタイルを変える余地はほぼないのだが。

「先に行くぜ」

様々な魔法を駆使して多様な戦術が可能な魔法使いとは違い、戦士は“力”に特化した分、不器用だ。
クロムの場合は言ってしまえば剣を振るうだけ。
それでも、いや……だからこそか。彼は、マグリットより、レインよりも早く前に出る。
パーティで己の特徴を最も生かす役割こそ“先陣を切る”であると信じているからだ。

弾き出されるように飛び出してきた魔物達の顔触れを見渡して、柄に手を掛けるクロム。
一斉に殺到、という状況とはいえ、魔物達にも身軽な者、鈍重な者とでそのスピードには差が生まれる。
最も前面に集中している魔物は、やはり身軽なゴブリンやヘルハウンド。

(好都合だ)

一人突出した形となったクロムの姿を認めた魔物達が、前から右から左から、そして頭上から殺到する。

「──」

だが、彼らの持つ爪や牙、そして得物がクロムに届く事は無かった。
それよりも早く空間を横一文字に薙いだ剣が、正面左右から跳びかかってきたヘルハウンド数匹の首をぶっ飛ばし、
すかさず手首を返して左斜め上に切上げた鋒が今度は頭上のゴブリン数匹の腹を切り裂き、腸をぶち撒けさせたからだ。

瞬時に仲間が肉塊と化す異様な光景を目の当たりにしても、恐れ知らずの魔物達は仲間の屍を文字通り踏み越えて向かってくる。
恐れないのは狂気に支配されているからか、あるいは恐怖すら認識できない知性を原因とするものか。
いずれにしてもこれはクロムにとっても望むところである。

「こちとらこれからボスと斬《や》り合わなきゃならないんでね。体力の消耗はできるだけ抑えたいんだ。
 だから仲間がどれだけ殺されても恐れず自分から剣の餌食になりに来てくれるお前らは楽でいいぜ」

無数の火の棒、無数の牙を躱し、吐かれた火炎を『精霊の外套』で耐える。
そしてその黒剣でカウンター。一匹、また一匹と頭を割り、胴体を切り裂き、首を飛ばして血の海に沈めていく。

だが、レインもマグリットもそろそろ気が付いているだろうか。
クロムが次から次へと斬り捨てている魔物のほぼ全てが、ゴブリンとヘルハウンドだということに。
そして溶岩兵士とフレイムリザードには攻撃を一切仕掛けてはいないということに。

これは溶岩兵士とフレイムリザードには剣よりも魔法の方が相性が良さそうだというクロムなりの判断。
つまり「“そっち”はお前らに任せたぜ」というメッセージである。

【ゴブリン・ヘルハウンドと戦闘開始。溶岩兵士とフレイムリザードはお任せ。ただ頼まれれば加勢するつもり】
0086マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/08/28(金) 19:57:23.87ID:ssOFUTP0
「こ、これは凄いですねえ」

思わず感嘆の呟きを漏らしてしまうマグリット
エルミアに案内され辿り着いた紅蓮魔宮はそんな言葉が漏れてしまうのにふさわしい荘厳さであった
深い森の中に不自然に聳え立つ魔宮はその威容を惜しみなく振りまいていた

「半年でこれだけの魔宮を築き上げるとは、"猛炎獅子"サティエンドラというのはよほどの魔物のようですね」

この奥に待ち構えるサティエンドラを想像しごくりと唾をのむ
火炎系の魔物が揃っているという事で、水源があればレインが樽をスクロールに入れて運んだように、水源から水を大量にスクロールに入れて魔宮を水浸しにしようと考えていたのだが、当然のように埋め立てられていた
しかしこの規模の魔宮を見るにそれが可能であったからと言ってすんなりと勝てるとは思えなかった

>「三人で帰ってきます。絶対に!」

レインの言葉にマグリットも覚悟を決め、その門をくぐるのであった


広間に入ると魔物の群れが待ち構えていた
見渡す限り、エルミアの言っていた通りの魔物たち
それぞれが火の棒を持ったり火を吐いたりしている

「むむむ、多勢には幻覚で混乱させようかと思ったのですが、幻覚物質が炎に舐められてしまって効果が期待できませんね」

>「先に行くぜ」

さてどうしたものかと困っていると、隣のクロムが先んじて飛び出していく
殺到してくるゴブリンやヘルハウンドの攻撃をすり抜けるように白刃を舞わせ、そのたびに血煙が上がっていく

「これはありがたい、ではこちらは引き受けますよ!」

数が多く動きの速い魔物に囲まれては、重鈍なマグリットはその対処で身動きが取れなくなっていたであろう
しかしクロムが引き受けてくれたことにより、落ち着いて狙いが定められる
腰を落とし右手を掲げるその先には、溶岩兵士

「火には水、水浸しになって冷え固まりなさい」

掲げられた右手の袖口に覗くは貝の放水管
水晶の洞窟では、その口を限界まで絞り水圧をかけウォーターカッターとしていたが、今回は大きく広げ拳大の水球を勢いよく射出した

水球は狙い違わず溶岩兵士の顔面に直撃したが、マグリットが狙ったように水浸しになり冷え固まる事はなかった
溶岩に意思を与えた魔物であり、すなわち体は溶けた岩
思った以上に柔らかく、水球はその顔にめり込んでしまったのだ
そして次の瞬間、マグマの血液により急激に熱せられ沸騰し膨張し、水球は溶岩兵士の頭部諸共爆ぜたのだ

「熱つつつ!
あんなになるとは……精霊の外套があって良かった」

爆発した溶岩兵はあたりにマグマを飛び散らせ熱気を拡散させていく
近くに魔物も破片に当たり傷つくが、熱気はマグリットの元まで辿り着いていた

「ま、まあ、一撃必殺という事で、お二人とも破片にはお気を付けください!」

周囲への被害は大きいが、多勢は相手方であり被害が大きく及ぶのも相手側
ならば思いがけず手に入れた当たれば一撃必殺の特攻効果の攻撃を渋る理由もない
動きの鈍い溶岩兵士を撃ち抜くことはたやすい事だ
次々に水球を射出し溶岩兵士を爆発させていくのであった
0087レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/08/29(土) 15:39:44.77ID:BfUHJ3F6
扉を開けば相手は四種の魔物による混成部隊。
襲い掛かる魔物の群れを前にこちらも今更うろたえはしない。
クロムは切り込み隊長としてトーチゴブリンとヘルハウンドを。
マグリットは弱点属性を活かして溶岩兵士を相手取る。

レインも負けてはいられない。
この紅蓮魔宮の魔物は一様に火属性である。
ならばここは所有する三つの魔法武器のひとつが役立つ。

「召喚変身――清冽の槍術士!」

空間に魔法陣が浮かぶと身体を包み込んだ。
舞い散る燐光を弾けさせて現れたのは、槍を構えた水の勇者。
水気を持った槍に和洋折衷の装束と長靴が特徴的だ。

呼び出した武器は天空の聖弓『ストリボーグ』と同じ魔法武器。
水を生成する清冽の槍『アクアヴィーラ』。それに伴う付加装備である。
この形態のレインは装備している波紋の長靴の効果で素早さと跳躍力が向上する。
さらに、長靴に刻まれた魔法の力で水の上を歩くこともできるのだ。

「グオオオオオッ……!」

レインを標的と定めたフレイムリザードはその力で五つの火球を生み出した。
分類すると炎魔法の初歩『フレイムスフィア』に該当するのだろう。
神格が低いとはいえ元は精霊。その程度は造作もない。
槍を向けて突っ込むと、火球は過たずレインへと迫る。

「舞踊槍術――……」

身体を捻らせて火球を躱しつつ一閃。
フレイムリザードを真っ二つに切り裂く。

「……――睡蓮の舞!」

舞踊槍術。レインがさる東方の島国を訪れた際に着想を得た独自の戦闘方法である。
のらりくらりと動いて敵の調子を崩して、痛烈なカウンターを叩き込む。
乱戦で使うのは始めてだが魔物の単調な炎攻撃は避けやすい。

魔物との戦いは順調そのもの。全員撃破も不可能ではない。
だからといって、ここで体力を無駄に消耗すると後が続かなくなる。
深部へ続く道が手薄になったところで、レインは一気に突破することに決めた。

「このまま通路まで突っ切ろう!舞踊槍術……流麗の舞!」

アクアヴィーラを高速回転させながら水流を発生させて突撃。
炎はすべて水の壁に防がれて、強引に魔物の群れの中に道を切り開いていく。
クロムとマグリットが通路まで来るのを見計らったところで、召喚魔法を発動。

「換装召喚――天空の聖弓兵!」

風の弓を持った狩人のごとき姿へ再変身すると、頭上めがけて『風の矢』を放つ!
放たれた矢は石造りの天井を崩し、瓦礫となって通路の道を閉塞してしまった。
0088レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/08/29(土) 15:42:24.04ID:BfUHJ3F6
これで魔物達が追いかけてくることはないだろう。
帰りはまたストリボーグで穴を開けてやればいい。

「道を進もう。虱潰しに、まずはまっすぐに探索してみよう」

深部へと続く道は幾つか別れていたが、レインはまっすぐ進むことを選んだ。
さいわいと言うべきか、魔物と遭遇することもなく、ひとつの扉まで辿り着く。
中は先のようにモンスターハウスとなっている可能性もあるが……。
知るのを恐れていては先に進めない。レインは意を決して扉を開いた。

三人を待っていたのは――巨大なコロシアムと耳を聾する大歓声。
なんと観客席には人間ではなくゴブリンなどの魔物で溢れている。
おそらくその全てがサティエンドラ配下の魔物たちだろう。

「話が違うぞ……一個中隊なんてもんじゃない。
 これだけの数の魔物がいるなんて!」

数だけならサマリア王国の戦力に匹敵するほどではないだろうか。
ここにいる魔物が全て武装して襲い掛かってきたとしたら……。
話の規模は『精霊の森』どころではなくなる。

「――よくぞ俺様の試練を潜り抜けた!合格だ勇者諸君!」

歓声を切り裂いて、威厳をもった声が響いた。
その声が聞こえた途端、観客席は水を打ったように静まり返る。

「俺様の名は"猛炎獅子"サティエンドラ!
 この紅蓮魔宮を創り出した主にして、魔王軍幹部の一人!!」

サティエンドラは、観客席の中でもひと際高い位置のVIP席に座っていた。
獅子の毛皮を被ったような服装に、頭には魔族を示す二本の巨大な角。
自身の鬣を撫でながら、ふんぞり返った姿勢で座っている。

「大方、俺様の首を獲りに来たんだろう?
 生憎と雑魚には興味ねぇんでな……試させてもらった」

サティエンドラは話を続ける。

「この退屈な世界で、俺様が愉悦としているのは『闘争』!
 血沸き肉躍る、飽くなきまでの純粋な闘いよッ!!」

「どういう事だ……!?」

「数の暴力でテメェやこの国を潰すのは簡単だ。が、それじゃつまらねぇ。
 だから……俺様を殺すチャンスをくれてやるって言ってんのさ!」

獅子のごとき魔族は立ち上がるや跳躍し、
クロム、マグリット、レインの前に着地した。

恐ろしいほどの威圧感。その偉丈夫と鋭い眼光もさながら、
迸る魔力は炎を思わせるほどに揺らめき、陽炎の如く空間へ散っていく。

勇者も含めて、連中の素性など意にも返さないとばかりに。
そう、彼は――何も考えずに、ただ純粋に闘争を楽しみたいのだ。
構えもせずに、剣が届き得る距離まで無防備に近付いて口を開いた。

「……どうした?先手は譲ってやるぜ」


【第一関門通過。第二関門にして紅蓮魔宮のボス登場】
0089クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/09/02(水) 01:18:07.44ID:o4rixJR0
魔物の断末魔が挙がる度に、物言わぬ肉塊が一つ、また一つと増えていく。
初めはゴブリン、ヘルハウンドのものばかりだったそれらの上に、次第に溶岩兵士、フレイムリザードが積み重なっていく。
どうやら任せて正解。レインもマグリットも臆することなく魔物を倒しているようだ。順調である。

とはいえ、ボス戦を控える身で、ここで体力を消耗してまで魔物を全滅させるというのも些か馬鹿正直というものだ。
無駄な戦いを回避できるのならばそれに越した事は無い。

>「このまま通路まで突っ切ろう!舞踊槍術……流麗の舞!」

そして、それを可能にする手段を持っていたのはレインだった。
召喚させた魔法の武器で、水流を発生。火炎《魔物の群れ》のど真ん中に、文字通り“道”を切り開いて見せたのだ。

「行け! ここは俺が殿《しんがり》だ!」

後ろから魔物がついてくる万が一の事態に備えて、クロムは動きの遅いマグリットを先にレインの後に続かせる。
道を渡る先頭はレイン、真ん中にマグリット、最後尾にクロム──。
その最後のクロムが“道”を渡り切ったところで、次にレインが放ったのはキマイラを貫いたあの風の矢。
だが、ターゲットは三人の後に続こうとする魔物などではなく、天井。その目的はなるほど、足止めという事らしい。

激しい風が天井を崩落させ、“道”を物理的に塞いでいく。
勿論、生き残りの魔物達がそれに巻き込まれて潰れるのもレインの計算の内だろう。
道は閉ざされ、戦力は壊滅的。となれば追跡はもはや困難である。

(追手の心配はなくなった。後は、落ち着いて次の道を決めるだけだが……さて)

奥の暗がりの先に佇む、迷宮にありがちな分かれ道。
次のステージに通じるのは間違いなくその内の一つだけしかないだろう。
つまり他の道は罠が盛り沢山のダミーというのは想像に難くない。

>「道を進もう。虱潰しに、まずはまっすぐに探索してみよう」

だが、罠などをいちいち恐れていては、冒険者などましてやサティエンドラの命を狙う戦士など務まらないのだ。
ここは迷いのないレイン《勇者》の一言と直感に、四の五の言わずただ黙って従うのみである。

──……。

それが視界に現れたのは、レインの後を歩いて十何分か、あるいは何十分かが経った頃だった。
行く手を阻むのように立ちふさがる大きな扉──
──いや、扉なのだからむしろその逆で、入って来いと誘っているようにも受け取れる。
いずれにしても次のステージの入口を告げるものであることは確かであろう。

(……この気配)

扉の先から感じる妙な気配に違和感を覚えながらも、クロムはレインが扉を開くのを黙って見届ける。
彼がその違和感の正体を異様な熱気である事を知るのは、扉が開かれた直後だった。
0090クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/09/02(水) 01:26:33.28ID:o4rixJR0
歓声。耳を劈くような歓声。
扉を潜り、辺りを見回せばそこは円形闘技場。
観客席を所狭しと埋め尽くした数百匹、数千匹の魔物達がその口から、全身から興奮の熱気を捻り出している。
──ただ一匹を除いては。

観客席の中でも最も高い席にどっかり腰を据え堂々たる雰囲気を醸し出す魔物。
クロムは初め、サティエンドラの側近と見当をつけたが、それを否定したのは他でもないその魔物であった。

>「俺様の名は"猛炎獅子"サティエンドラ!
> この紅蓮魔宮を創り出した主にして、魔王軍幹部の一人!!」

何とサティエンドラ本人を名乗ったのである。

「馬鹿な」

薬草一つ、回復魔法を一回も使わずにボスに辿り着けるダンジョンなど、余りに手応えがなさすぎる。
故にクロムは罠を警戒する。
しかし、自称サティエンドラは闘争を望むが故に敢えてチャンスを与えたとまるでこちらの疑問を見透かしたように説明すると、リングへと着地した。
すなわち、こちらの目と鼻の先に。

これを罠に掛ける為の挑発と解釈するか、それとも闘争を望む真実の態度と受け取るか、判断は難しい。
通常の悪辣な魔族、その手口を考えれば十中八九、罠と考えて良いのだが……。

(いずれにしてもこいつを避けて通るわけにはいかねぇ……か)

考えている内に、サティエンドラは剣の間合いに堂々と入り込んで来ていた。
クロムはレインとマグリットに一瞥をくれて左右に散らせると、やや半身となって剣の柄に手を伸ばす。

>「……どうした?先手は譲ってやるぜ」

「随分と気前がいいんだな。じゃあ遠慮なく──」

クロムの目に光が宿る。固有の能力『魔装機神』が発動した証である。
更に鞘に収まる黒剣もにわかに輝きを増す。魔力を喰わせて剣の能力を引き出しているのだ。
つまりこれらは様子見や手加減なしの本気を意味する。

「──喰らいな!」

柄を掴むと同時、鞘から抜き放たれた黒剣が空間を走る。
常人ならばその過程を視認することはおろか、黒い光が走ったとすら認識できないであろう神業的超速。
『魔装機神』で身体能力が飛躍的に強化されているからこそ可能な抜刀術だ。

そして、魔力を喰った『悪鬼の剣』が吐き出すその打撃力は、文字通り通常の剣など比ではない。
『魔装機神』との併せ技で発揮される威力は、強化されたキマイラの胴体すら容易く真っ二つにする。
今までこれをまともに喰らい、無事で済んだ者はいない。人間は勿論、亜人も魔族も。

(──っ!!?)

しかし──予想外。
貰ったチャンスを生かし、見事にその必殺の黒刃を敵の首筋に叩きつけた筈が──
紙一重の差でその軌道上に差し出された敵の手首によって防がれてしまったのである。

超速についてこれる敵のスピードにも驚くが、クロムが一瞬、思考を停止する程驚愕したのは敵の防御能力。
手首の甲で刃を受け止める。それがまず通常ではありえない光景だからだ。
普通ならば手首ごと首が切り落とされている。少なくともクロムはそれを確信できるだけの威力を剣に込めていた。

なのに現実はそれとは真逆。敵は首はおろか、手首すら負傷していない。
これは悪夢という名の幻か。やはり仕掛けられた敵の罠にまんまと掛かってしまったのか。
それとも、サティエンドラ《目の前の敵》が、単にクロムの予想を超えた実力の持ち主なのか──。
0091クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/09/02(水) 01:34:08.12ID:o4rixJR0
「──中々どうして、痛ェじゃねぇか。こんな手応え久しぶりだぜ!」

ニタァ、と口を歪めたサティエンドラが、手首を返して今度は掌で刃を掴んだ。

(こいつ……!)

とてつもない握力。剣を引くことも、押し出す事も出来ない。

「どういう手品か知らねぇがよ。テメェ、一風変わったワザを持ってやがるな? まぁ……どんなワザも」

クロムを再び違和感が襲ったのは、正にその時だった。
剣を握る手が熱い。……いや、柄が熱い。……違う。これは剣が熱いのだ。剣が急速に熱を発し始めている。

「俺様の“それ”に比べりゃ子供の遊びだがな」

「っ!」

突如として赤く染まる視界に──同時に全身を襲った痛みに、クロムは声にならない声をあげた。
熱い。体が燃えるように熱い。いや、実際に今、焼かれているのだ。突如として発生した紅蓮の火炎に。

「そら! 早く手を離さねぇと黒焦げになっちまうぜ?」

(そうか、火炎の使い手! 炎が刃を伝って──!)

咄嗟に柄から手を離し、思いきり後方に飛び退いて火炎を振り払うクロム。
だが、敵がそれを黙って見ているわけもない。
敵との距離十メートル程の地点に着地すると同時に、矢のように放たれた黒剣が右太ももを貫いたのだ。
相手の得物を追撃の一手として利用したわけだ。それも正確無比の投擲で。

「チッ!」

思わず舌打ち。
そして刺さった剣を引き抜きながら、懐から取り出した薬草を口に入れて、回復と止血を図る。
この時、一度は静まり返った観客席が、一気に興奮を取り戻していた。

この一連の攻防でサティエンドラは無傷。こちらは火炎に焼かれ、脚を刺傷。魔物達が狂喜するのも無理はない。

「……さて。次はどっちだ? 女か? それとも勇者サマか? 何なら二人纏めてか? ククク、どっちでもいいぜ」

クロムは唇を噛み、滲んだ血もろとも唾をその場にぺっと吐き出した。
『精霊の外套』のお陰で火炎のダメージは軽減されているに違いない。
にもかかわらず、肉体が負った火傷は大事に至っていないだけで、決して軽症ではない。
つまりそれだけのレベルの魔法を使えるということだ。
しかもサティエンドラという魔族、何も強力なのは魔法だけではない。体術もなのだ。

(やべぇな。こいつは半端じゃねぇぞ……! 正に『獅子』だ……!)

【サティエンドラと戦闘開始。全身を焼かれ右脚を負傷。一旦距離を取って薬草で応急手当中】
0092マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/09/06(日) 19:23:46.23ID:vvgkHqWT
マグリットの頭の中では最大級の警報が鳴り響いていた
逃げろ、と

辿り着いたコロシアムを埋め尽くす魔物の数は国軍が持って当たるべき数である
例え"猛炎獅子"サティエンドラを倒せたとしても、残る魔物が統率を失いなだれ込んで来たらどうなるであろうか?
だがそれ以前に、そもそも眼前に舞い降りたサティエンドラから発せられる圧倒的な強さを前に、全力で逃げ出したい衝動に駆られていた

ここで戦うより、この規模、この強さの魔物が出現している旨を外部に知らさなくてはならない、と

こっそりレインとクロムに逃げ出す事を耳打ちしようとしたところで、先端は開かれてしまった

決して油断はしていない
むしろ最大限に注意を払いそこかしこに目を出現させ複数の目でそれを追っていた
客席の魔物たちの動向、サティエンドラ、クロム、レインの一挙手一投足を

にも拘らず稼働時てみえたのは黒い閃光にしかすぎなかったのだが、サティエンドラにはしっかりと見えていたようだ
首筋に一戦する直前に手首でクロムの黒い剣を防いでいたのだ
恐るべき速さと硬さ
更に手首を返し刀身を掴めばそこから炎が吹き上がりクロムを焼こうとしているのだ

結果としてクロムは自身の獲物を手放すことで炎から逃れるが、正確無比な追撃……と言っていいのだろうか
無造作に奪った黒剣を投げ返しクロムの太ももに突き立てる芸当をして見せたのだから

「あわわわ、ク、クロムさん、少しでも回復を!」

魔物たちの大歓声が上がる中、クロムに駆け寄り祈りを捧げる
大した回復量は望めないだろうが、目的はそこではない

「一合当てて身に染みているとは思いますが、相手はとてつもなく強いです
あの強さ、魔物の数を外部に知らせなければいけません
レインさんは勇者である故に逃げられないですし、私は鈍足で逃げ切れませんし伝道師としてレインさんに付き添わねばなりません
ですがクロムさんなら、まだ今の状態なら追手を振り払い逃げられるはず
我々が戦っている隙を見て、に、逃げ……脱出して、この情報を王都に届けてくれませんか?」

祈る振りをしながらクロムの耳に震えるマグリットの声が囁かれる
レインが勇者であり逃げることができないであろうと同時に、クロムもまた誇り高い戦士である事を知ってはいるが、それでも後事を託すとすればこう言う他ないのであった

>「……さて。次はどっちだ? 女か? それとも勇者サマか? 何なら二人纏めてか? ククク、どっちでもいいぜ」

「安心してください、死ぬつもりはありません
一応私もレインさんも脱出できる可能性は見えていますから……」

促されるように立ち上がりクロムから離れる
レインの隣に並び目線はサティエンドラに向けた

「これだけの数を要しながら、あえて自ら戦いに赴いてくれるとは魔物と言えど武人と称えましょう
しかるにその強さを満足させるだけの強さは私にはありませんので、二人がかりで挑ませてもらいます!」

その言葉と共にマグリットの体が一回り大きくなっていく
全身から殻を形成し鎧と化していっているのだ
その鎧の隙間から小さな声でレインに声をかける

「レインさん、ありがとうございます
私が教会に属していたのは8体の魔物を倒すことにあります
目の前にいるサティエンドラはそのうちの一体に数えるに値します
どうか、ご助力をお願いします
足を止めますので、クロムさんの剣を受け止めた手首に追撃を」

クロムの斬撃をこともなげに防いだように見えたが、如何に強力な魔物と言えども全くの無傷とは思えない
例え小さな傷であろうとも、同じ場所に攻撃を加えれば……少なくとも無策で攻撃を加えるよりは可能性はあると思えたからだ
0093マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms 垢版2020/09/06(日) 19:25:00.51ID:vvgkHqWT
「では、伝道師マグリット、まいります!」

頭の中では相変わらず最大級の警報が鳴っている
逃げろ、と
例えコロシアムの魔物の数が0であったとしてもこの警報は変わらなかっただろう
それだけの強さをサティエンドラから感じている

だが同時に、ここで引くこともできないのだ
勇者を導く伝道師として
蜃の獣人として
己の使命と野望の為に

右腕を突き出しその裾に潜ませた放水管から特大の水弾を射出
水弾故に力で防げば形を崩し水浸しになるのみ

故にサティエンドラの動きを読む事が出来たのだが、誤算はその動きが早すぎたという事だ
水弾を躱し体勢が崩れたところでわき腹に体当たりするつもりが、躱すと同時に迎撃の体制をとられていた
繰り出される拳に咄嗟にガードを重ねるのだが、ガードした貝殻は砕け散りマグリットの体が衝撃で浮き上がる

が、それでもマグリットは止まらない
殻が砕けるそばから再生し、着地と共に再度地を蹴り、突き出たサティエンドラの腕をかいくぐりその腰にタックルをした
サティエンドラの足腰も強く、タックルを食らったにも拘らず僅かに下がったのみ

「さっきの剣士を見ていなかったのか?壺焼きになるぞ?」

サティエンドラに密着してどうなるか
勿論わかっている事だ
しかしマグリットは離さない
火だるまになりながらも全力で押し込んでいる

自身の身と殻の鎧の間に精霊の外套があり、そこに袖からひっこめた放水管から絶えず水を滴らせ炎を防いでいる

「今です!」

腰にタックルしてサティエンドラの機動を封じるだけでなく、押し込み続けることで重心を前に維持させ体捌きも制限させている
これでクロムが逃げ出してくれればサティエンドらの注意は更に逸れ、致命の隙となるかもしれない
それを願って炎に包まれながら押し込み続ける

【クロムに逃げて情報を外部に出すようにお願い】
【防火状態でサティエンドラにタックルして動きを止める】
【しがみついているマグリットがどうなるかは描写しちゃっても大丈夫です】
【振り払われるなり攻撃受けるなりお任せします】
0094レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/09/08(火) 18:03:16.60ID:hrQ57eBr
姿を現した"猛炎獅子"サティエンドラは何よりも闘争を望むバトルマニアだった。
相手は剣が届き得る距離まで無防備に近寄ると、「先手を譲る」と言い出したのだ!

(これだけの数の魔物を仕向けず、敢えて攻撃を譲る……。
 そして敵から感じる強大な魔力!俺達のレベルで勝てるのか……?)

戦闘前にも関わらずレインはすでに実力差を思い知ってしまっていた。
だが、この戦いに撤退の二文字はありえない。生き残るには勝つしかないのだ。
よってレインはストリボーグに手を添えたまま警戒を解かない。

クロムとマグリットには有利な戦闘距離だが『天空の聖弓兵』となったレインには不利。
戦闘になれば必ず換装召喚で近接武器への変更を余儀なくされるだろう。
それは単純に彼が狙撃を嫌ったのか、それとも――……。

>「随分と気前がいいんだな。じゃあ遠慮なく──」

警戒するレインとは対照的にクロムはちり――と魔力を解き放った。
『水晶の洞窟』でも目撃した技だ。すなわち魔力を用いた身体能力強化である。
また、鞘に収まっている剣にも魔力が集中しているのをレインは見逃さなかった。
クロムの全力を目撃するのは初めてだが、超速の一撃が待っているのは想像に難くない。

>「──喰らいな!」

常人の目には視認することさえ叶わない超速の抜刀術!
実際、レインの眼では捉えることができず、結果だけが映った。

>「──中々どうして、痛ェじゃねぇか。こんな手応え久しぶりだぜ!」

レインの目に映ったのは黒剣が手首の甲であっさり受け止められた光景。
それどころか、サティエンドラは素手で刃を掴み紅蓮の火炎を放ってみせた。
慌ててクロムは剣を離して飛び退くが、黒剣を投擲され右太腿を貫かれる。

はっとしたレインは慌ててクロムとサティエンドラの間に割って入った。
サティエンドラがその場から動く気配はない。その様子は食事を待つ賓客。
オードブルを平らげ、次はスープ、そしてメインディッシュを待つかのようだ。

「……そういうことか」

事ここに至ってレインはようやく理解した。
無防備に接近してきたのは単なるパフォーマンスなどではない。
近接戦闘において、サティエンドラは絶対的な自信を持っているのだ。
事実、あのクロムが彼の前では子供の遊び扱いだ。

>「……さて。次はどっちだ? 女か? それとも勇者サマか? 何なら二人纏めてか? ククク、どっちでもいいぜ」

現状、勝機は全く見えない。
相手の手の内も「炎を操る」とか「体術が得意」とか「高速戦闘に対応できる」とか。
そんなサティエンドラの上っ面しか判明していないのだ。
対策を立てる暇もなくやられてしまうかもしれない。
0095レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/09/08(火) 18:04:50.36ID:hrQ57eBr
だが、サティエンドラさえ倒せば『紅蓮魔宮』の魔物自体はどうにかできるかもしれない。
エルミアの言っていた通りこの宮殿が魔法で生み出したモノならば、間違いなく虚数空間。
術者たるサティエンドラが命を落とせばこの虚数空間もまた消滅するだろう。
つまり、コロシアムの魔物達を上手くこのダンジョンに閉じ込めることさえできれば解決する。

(けどもし倒せなかったら――……誰かに王都へ戻ってもらうか……?)

二人で時間を稼いで負傷したクロムに頼んでみるか。果たして引き受けてくれるだろうか。
たとえ勝ったとしても、疲弊した状態で統率を失った魔物達を上手く閉じ込められるだろうか。
逡巡している内にマグリットが隣に立ち、再び戦闘の様相を呈してきた。
そこで強制的に考えを打ち切った。まずは目の前の敵に集中する。

>「これだけの数を要しながら、あえて自ら戦いに赴いてくれるとは魔物と言えど武人と称えましょう
>しかるにその強さを満足させるだけの強さは私にはありませんので、二人がかりで挑ませてもらいます!」

「そうだね。俺達はか弱いから……どうかお手柔らかに」

『ストリボーグ』を構えて、レインはそう冗談を言った。
近接戦が得意だと言うのならそれには乗ってやらない。
遠距離からチクチク攻めて、相手の手札を出させず勝つ。
今のところ、レインが出来るのはそれが精いっぱいだ。

>「レインさん、ありがとうございます
>私が教会に属していたのは8体の魔物を倒すことにあります
>目の前にいるサティエンドラはそのうちの一体に数えるに値します
>どうか、ご助力をお願いします
>足を止めますので、クロムさんの剣を受け止めた手首に追撃を」

見ればいつの間にかマグリットは殻の鎧を纏っていた。
レインはマグリットの話を聞いて、心が研ぎ澄まされていくのを感じた。

「……そうだったのか。君といると、身体の底から勇気が湧いてくるよ。
 このクラスの魔物が後七体もいると聞いたんじゃあ……この程度で怯んでいられない」

戦闘再開の鐘はマグリットによって鳴らされた。
気勢よく突っ込むと特大の水弾を射出。
サティエンドラは水弾を回避すると素早く迎撃の拳を叩き込んだ。
モノが叩き割れる鋭い音が響く。ガードした箇所の殻が割れたらしい。

>「さっきの剣士を見ていなかったのか?壺焼きになるぞ?」

それでもマグリットはタックルを敢行して組みついた。
火達磨になりながらもサティエンドラを離さない。
精霊の外套と水の相乗効果で、ダメージを最大限軽減させているようだ。

>「今です!」

声に合わせて、レインは番えていた『風の矢』を解き放った。
矢は過たずサティエンドラの手首目掛けて直進する。
無論、組みついているマグリットに影響が出ぬよう風圧は引き絞っている。
0096レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/09/08(火) 18:06:57.42ID:hrQ57eBr
タックルで組みついたマグリットを眺めながら、サティエンドラは二人の品定めを行っていた。
強者ゆえの余裕。これでもサティエンドラは三人のレベルに合わせて戦ってやっているのだ。

「随分と泥くせぇファイトスタイルだな。
 嫌いじゃねぇが……しゃらくせぇっ!『爆炎装甲』!!」

刹那、しがみついていたマグリットが後方へ大きく吹き飛ばされた。
サティエンドラを覆っていた炎の魔力が爆発となって解き放たれたためだ。
零距離爆破によってタックルを無理矢理振り解き、結果――『風の矢』を対処する余裕が生まれる。

「『牙炎掌』ッ!!」

手のひらに紅蓮の炎が灯るや掌底で『風の矢』を弾き飛ばす。
炎と風の激突によって風はちりぢりに、跡形もなく霧散する。

これで無傷なのはレイン一人だけになってしまった。
サティエンドラは退屈そうに腕を組んだ姿勢のまま動かない。
相手は攻撃力も防御力も一級品だ。この化け物相手にレインは勝機を見出せようか。

「換装召喚――清冽の槍術士ッ!」

召喚したのは清冽の槍『アクアヴィーラ』。
そう、勝機はある。クロム、マグリットのおかげで光明が見えた。
上手くいけばサティエンドラに対する強力なメタを発揮できるかもしれない。

「いいねぇ!そうこなくっちゃなぁ!
 この程度で負けた気になられちゃ話にならねぇ!!」

サティエンドラが獅子の如く獰猛に攻め立てる。
両手足に炎を纏い、自慢の体術による一気呵成の連続攻撃。
いや――あるいは炎か。燃え盛る火炎のごとく、猛烈な勢いの攻め。
まさしく"猛炎獅子"。異名通りの攻撃がコロシアムを熱狂の渦に巻き込む。

「『牙炎掌』!『獄炎斧』!!『炎威戦槌』!!!」

掌底、ハイキック、上空からのダブルスレッジハンマー。
技の全てが超速にして即死級。だが当たらない。紙一重で躱されている。
――それどころか、レインはその一撃一撃に対してカウンターを命中させていた!

サティエンドラが僅かに苦悶の声を上げる。
無理もない。レインの持っている魔法武器は水を纏った槍。すなわち弱点属性だ。
思えばクロムの一刀や『風の矢』は真っ向から防いでおきながらマグリットの水弾だけは回避していた。
いかに頑丈な身体を持つサティエンドラといえど水属性は有効なのだろう。
0097レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/09/08(火) 18:09:42.28ID:hrQ57eBr
弱点属性に加えて更に狙ったのは相手の力を上乗せできるカウンター攻撃。
現在のレベルの攻撃が威力不足なら、レベルの足りている攻撃を用意すればいい。
すなわち――……それは敵自身だ。

結果。サティエンドラの身体に少しずつ血が滲んでいく。
槍の命中した箇所には刺し傷が浮かび上がり、攻撃が有効であることを示している。
もっとも傷はとても浅く、致命傷と呼べるものはひとつもないが……。

「……ひとつ教えろ。なんだその技……?」

「舞踊槍術……五月雨の舞。解説はしないよ、"猛炎獅子"」

「ちっ……そりゃそうか。だが薄々と分かっちゃいる。
 その戦法の基本運用がカウンタースタイルなのはすぐに見抜けたぜ。
 踊ってるみてぇな独特の動きは要するに円運動だな?軽やかなもんじゃねぇか」

(バレるの早っ……!)

表情を崩さないよう努めたつもりだが、顔色に出ていたらしい。
サティエンドラは友人と語らうかのように朗らかに笑った。

まさしく舞踊槍術の型は円運動を基本とする。
その動きがまるで東洋の舞踊であることからこの名がついた。
中でも五月雨の舞は高速の足捌きで連続攻撃を躱すことに長けている。
そして、その一発一発にカウンターをぶち込めるのだ。

相手の動きを読む肝は『第六感』だ。気配、殺気、魔力など。
目に見えないモノを鋭敏に察知する感性をレインは磨いていた。
そのためにサティエンドラの高速戦闘を目視できないながらも見切れている。

「勇者というと光魔法を始めとした万能タイプのイメージだが……。
 『静』の戦いができるタイプもいるとはな。あるもんだぜ、掘り出し物がよ」

レインは槍を構えたまま動かない。
カウンター狙いの槍術なのだから、自分から動くことは滅多にない。
まして戦いのネタまで割れてしまっている。迂闊に攻めるより出方を窺った方が得策だ。
0098レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/09/08(火) 18:20:20.43ID:hrQ57eBr
次の瞬間、サティエンドラの魔力が爆発的に高まった。
その全てが右拳に集約されていき――地面に向かって振り下ろしたのである!
まるで火山の噴火。コロシアムの石畳が轟音と共に割れていく。
レインは慌てて後方へと跳躍するが、崩壊する床の隙間から炎が噴き出す。

「褒めてやるぜ。子供の遊びで俺を本気にさせちまうとはな……。
 冥土の土産に受け取るがいい。俺様の『獅子奮迅拳』……その奥義のひとつをよぉ!」

「奥義……!?」

奥義。一部の冒険者や魔族が持ついわゆる必殺技だ。
乾坤一擲の秘技は、一瞬にして戦局を一変させてしまう。
サティエンドラの放った奥義――『地爆豪炎掌』もまたそうである。

床下から噴き出す業火がどこまでもレインを襲い続ける。
アクアヴィーラで追い払おうと穂先に水流を纏わせ、炎に触れたのが誤りだった。
この炎は生きている。いや、正確に表現するなら生きているというより。
炎と化したサティエンドラの右そのものなのだ。

「焼け石に水って知ってるか?いくら弱点属性だろうが
 その程度の水量じゃ怖くもなんともねぇよ!!」

かえって相手に捕縛される隙を生んでしまったらしい。
『アクアヴィーラ』ごと巨大な炎の右手に握り込まれるレイン。

「ぐ、うぅっ……!」

「粘るタイプも嫌いじゃねぇぜ。水の球体を纏って炎から身を守ったようだな。
 さぁて、そっからどうするつもりだ……?もっと俺様を楽しませて貰おうか!!」


【奥義『地爆豪炎掌』によって捕縛されてしまうレイン】
【サティエンドラに有効な攻撃:水属性とカウンター】
0099レイン ◆IiWdxl1r76 垢版2020/09/08(火) 18:27:25.19ID:hrQ57eBr
【×炎と化したサティエンドラの右そのものなのだ。 】
【〇炎と化したサティエンドラの右手そのものなのだ。】
【失礼しました】
0100クロム ◆gkBBhaTSK6 垢版2020/09/13(日) 13:27:08.71ID:S0wv/jiJ
痛みが和らぎ、血が止まる。
薬草と極めて短時間ながらも捧げられたマグリットの祈り。いわば二重の回復が効いたらしい。
鋭い刃が穿った深い傷口は既に、新たな皮膚で塞がれつつあった。

とはいえ所詮は治りかけだ。完治にはまだ時間を要する、そんな半端な状態に過ぎない。
直ぐに全力で動こうとすれば傷口は再び開いてしまうだろう。
それでも、クロムにのんびり全快を待つという選択肢はなかった。

『我々が戦っている隙を見て、に、逃げ……脱出して、この情報を王都に届けてくれませんか?』

マグリットの治療を受けた際、彼女から囁かれた一言。
それを脳裏に蘇らせながら、クロムは剣を石畳に突き立てる。

「……」

だが、その剣を杖代わりに立ち上がった時には既に、その言葉は頭の片隅にも残ってはいなかった。

どんな時でも最後まで戦意を保ち、最悪仲間を逃がす為に肉の盾になること。
それが戦士の役割であると心得るクロムにとって、仲間を残して戦場を立ち去る事は耐え難かったというのもある。
だが、感情だけが拒絶を即断させた理由の全てではなかった。

──そもそも魔王軍侵攻の情報を得ながら、ほぼ静観を決め込んでいたのは他でもないサマリア王国である。
その原因がエルフ勢力と王国《ニンゲン》の微妙な関係……相互不信にあるのは想像に難くない。
増援の要請をしたところで実行に移して貰えるかどうか、その見通しは極めて不透明だ。当てにはできない。

ならば、他に策はあるのか?

既に防御力はクロムの“本気”の攻撃力を上回り、スピードに置いても互角以上である事が証明されている。
他にも、全身を鎧で覆った超重量級のマグリットを軽く吹っ飛ばすほどの爆発的魔力。
水属性の特殊武器で果敢に挑むレインをあっさり窮地に追い込む多彩かつ強力な闘技が敵にはある。
二人のように水を使う能力も、武器も持たないクロムがこれらを捌き、ダメージを与える術を持っているのだろうか?

……実はあるのだ。たった一つだけ。その可能性を持つ武器が。
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