【TRPG】下天の勇者達【クロスオーバー】
【ストーリー】
魔族が支配する国家[ゲヘナ帝国]
人族が築いた国家[タルタロス王国]
世界有数の力をもつ二国は、信仰する宗教と人種の違いから数十年に渡り戦争を続けていた
両国の力は拮抗しており、一進一退の攻防を繰り広げていたのだが……10年前、タルタロス王国が発見した一つの術式によって、その均衡は打ち崩される
[崩壊聖術 バベル]
空間から魔力を消失させる事であらゆる生命を崩壊へと導く破壊の術式は、タルタロス王国へと圧倒的な勝利を齎した
領土の8割が荒野と化した結果、ゲヘナ帝国は降伏。タルタロス王国は勝利の名の下に魔族を隷属させ、この世の春を謳歌する事となった
けれど、その血に濡れた春は直ぐに終わりを迎える事となる
外敵の襲来――バベルの強大過ぎる破壊の力が世界の境界を歪め、招かれざるモノを呼び込んだのだ
白色の体に、奇妙な模様が描かれた黒い仮面を被った怪物。通称[ナナシ]
ある日、バベルの発動地点から空間を割る様にして現れたこの怪物は、地上に降り立つと同時に無差別の殺戮を開始した
その身体能力は軽く拳を振るうだけで多数の命を刈り取る程に強く、更に恐ろしい事に、ナナシは命を奪った存在を自身と同じナナシの怪物と変貌させる能力も有していた
この事態を前にして、王国や帝国はあらゆる手段を用いてナナシの排除を試みたが――結果は失敗
ナナシにはこの世界の魔術や聖術が一切通じず、増え続ける怪物を前にして人類は打つ手無くその生存領域を減らしていった
そして、人族と魔族が協力し合わなければ生きることすらままならぬ程に人類が衰退した頃
ナナシ対策の研究を行っていた一人の魔術師が、こう提言した
『この世界の者が[ナナシ]を倒せないのであれば、異世界の人間に倒させればいいのではないか』と
妄言としか思えぬ言葉。けれど、追い詰められた人類は狂気的とも思えるその言葉に賭けた――賭けてしまった
遥か昔に存在した[勇者召喚]の術式。それを掘り起し、復元し、改造し、彼等は力持つ異世界人を呼び出す事に成功する
そうして身勝手な期待と絶望的な運命を背負わされ、勇者は――――[あなた]は、終わりゆくこの世界に召喚される。 【シャッタード・ライツ(T)】
――――この少女の生は、先天的に幾多の死を内包している。
静かに跪き続ける"ソレ"に歩み寄り、俺は手を差し伸べた。そうせずには、いられなかった。
……また、この頭痛だ。己を侵蝕するネームレスの因子が何かに共振しているのか。
衝動的に左腕が動く。少女の白く細い首を掴み、目線の高さまで吊り上げた。
縦に長い瞳孔の奥を探ってみても、怯え以外の感情は読み取れない。
「俺は、ブレイヴ……ネームレスを滅ぼす者だ。他の勇者達と同じだと思うな。
お前が所有物になると言うならば、この場で処分しても構わないという訳だ」
鷲掴みにした頸動脈の拍動は浅く、弱い。だが、その血流が帯びる魔性は真逆だった。
ソレは間違いなく、忌むべき簒奪者の――俺と同質の――白き悪魔の血統だ。
少女の生命には、ネームレスの因子が人工的に組み込まれている。
これが、王国魔術師の……人間の所業だと言うのか。
自己存続の為に、力を以って他者の生命と尊厳を毀損し、簒奪し、その在り方さえ歪曲させる。
人類の叡智が選択した到達点は、ネームレスの本能と全く同質の業だった。
そうであるならば、人とネームレスの違いは何処にある?
――――より罪深いのは、どちらだ。
誰か、俺に教えてくれ。
畢竟、両者の闘争は、白き姿の悪魔と紅き血の悪魔が、互いに殺し合いを演じているだけだ。
俺が断罪の執行者であろうとするならば、滅ぼすべき存在は、その一方のみである筈が無い。
ならば、俺は何の為に戦っていた?
俺が守ろうとしていたものは一体、何だったのか。
このまま少女の頸椎を砕いてしまえば、この頭痛は消えるのか。
誰でもいい、俺に教えてくれないか。
No.774のナンバリングがブラフでなければ、奴等の増殖は死を媒介とする制限から解放された。
魔術師達は、おそらく気付いていない。人類がネームレスという種を進化させた事に。
だが、俺は知っている。この本能は、人の理性が制御し得るモノでは無い。
いずれ制御を離れた人造ネームレスは、殺戮と複製を繰り返す。
オリジナルと同様に、この星の生命を喰らい尽くすまで。
「……わからないな。これだから記憶喪失というのは厄介だ」
死の連鎖を絶つ事が可能なのは、異界の力だけだ。
勇者の力を得た者は、それと同時に勇者の運命を背負う。
果たすべき使命は明確だった。そうであるのに俺は、わからない。
返事なんて、何でも構わない。もう一度、俺に声を聞かせてくれ、ミリヤ――――
「――――俺は、これから何人……お前を殺し続ければいいんだ!!」 【シャッタード・ライツ(U)】
左腕を水平に振り切って、少女を真横へと放り投げた。繋がれた鎖が大理石の床を打つ。
空になった左手が宿すのは、蒼く冷たい光輝。形成される長方形のヴィジョン。
死神は玉座を見据えたまま掌を上向け、そのアルカナを握り砕いた。
「オレは……俺は人間を救うぞ、ソロモン」
収束した極彩色の閃光が照射された。純粋な出力のみで玉座を覆う対魔術結界を貫通する。
異界の射撃魔方陣は、ダイレクトな完成形態を以って空間への投影を瞬時に終えていた。
本来あるべき描出過程の一切を、詠唱すらもキャンセルして発動する背理の外法だ。
「貴様も――」
流血する拳を正面へと突き出し、五指を開いた。新たに現界させた一枚も即座に砕く。
魔術回路を持たない肉体の限界を遥かに超越する、魔術の連続行使。
二枚目のアルカナと同時に、手首から先が爆散する。
「――貴様もだ!」
左手であった場所に限界させた三枚目のアルカナが、肘から先を吹き飛ばして激発する。
「貴様も! 貴様も! ……今、此処に居る悪魔共は一人残らず、この俺が守り抜く!!」
面布の魔術師達の背後の壁面は、それと同じだけの数の風穴を穿たれて石塊を零している。
低位の術師は、異界の術式の瞬間火力に恐怖したのだろう。
中位の術師は、術式の制御精度に驚愕したのだろう。
高位の術師は、おそらく呆れ果てたのだろう。
長年の研鑽と試行を積んだ魔術師であるほど、身動きが取れない。
術式に"任意複数の対象に決して命中しない"魔術特性を付与する難度と代償――
限りなく"必中"の魔術特性と等価に近い制約――その非合理性を彼等は識っているからだ。
「……そして、必ず償わせてやる。これまで貴様達が踏み躙って来た、全ての生命に」
色褪せて動かなくなった銀獣の左腕を垂れ下げて、俺は玉座に背を向けた。
欠損部位の再生が人のカタチを取り戻すまで進行する頃には、白霧へと辿り着く。
獣は言葉を持たない。言葉とは悪魔が目的を実現させる為の手段だ。故に、俺は言った。
「――――ついて来い、所有物。お前の血に用がある」 >「よくぞ参られた、異界の勇者殿。そして、ソロモン殿も」
>「よい、楽にせよ。此度お主らを呼んだのは、褒美を取らせる為なのだからな」
後方から鎖が這うような音が聞こえ、臨戦態勢で振り向く。
「いつの間に……!」
“褒美”と称してどんな化け物が登場するのかと思いきや、そこにいたのは動物の耳が生えた小さな少女だった。
>「その子は……」
>「貴様の残していった研究の一つが、実を結んだのだ」
>「『それ』には……平易な言い方をするなら、ナナシの血が混じっておる。であったな?」
>「は……左様にございます」
ナナシの血が混じっているということは、普通に考えれば危険だ。
鎖で繋がれているのもそのためだろう。
臨戦態勢は解除するが警戒は解かないまま、ひとまず事態を見守る。
>「生物的な帰巣本能を有した、不完全な、故に制御可能なナナシの創造。
成し遂げうる者がいましたとは、驚きを禁じ得ませぬ」
>「貴様が前線に出ておらねば、もっと早くに完成していた事だろうよ。
とにかく、『それ』を使えばナナシの巣を突き止める事が出来るであろう。
いや、貴様が言うには入り口、であったか」
「ナナシの巣を突き止めるだって!?」
>「そうだ。勇者達よ、お主らには『それ』を与えよう。
『それ』を連れて、あの白霧の中へと出征するがよい」
謎の白霧はナナシと関わりがあると考えられており、発生源である可能性が高いということだろう。
しかし、何度も調査団が派遣されたが今のところ誰一人として生きて帰って来ていないとソロモンが言っていた。
この人数で挑むにはあまりにも無謀、死ねと言っているようだものだ。
「念のため聞いてみるが私達だけでなんていうことは……」
小声で言ってみた質問は聞こえなかった振りをされ、王は言葉を続ける。
>「お主らにとっても悪い話ではあるまい。
ともすれば、元いた世界への道も見つかるやもしれぬぞ」
“誰一人として生きて帰って来ていない”とはいっても、全員が死んだとは限らない。
元いた世界に戻っていると考えるのは都合が良すぎるにしても、どこか別の世界への抜け道を通って避難した者もいるのかもしれない。
ソロモンは、当面の生活は王立魔法協会が保証するが霧が王都へ到達するまでの間と言っていた。
どのみちこのままでは遅かれ早かれ霧が王都へ到達してこの世界は崩壊同然、
後ろ盾を失った私達異界の者は露頭に迷ってのたれ死ぬしかないのだ。
王達にとっては私達がナナシの発生源に辿り着いて根源を絶つのが一番いいに決まっているが、
元いた世界へ帰ったとしても他の世界への抜け道がみつかるわけで、それはそれでいいのかもしれない。
そこまで考えた時だった、ブレイヴ殿が少女に手を差し伸べる。
共に行く覚悟を決めたということか――と思ったその時だった。突然ブレイヴは少女の首をつかみ、目線の高さまで吊り上げる。
「!?」
>「俺は、ブレイヴ……ネームレスを滅ぼす者だ。他の勇者達と同じだと思うな。
お前が所有物になると言うならば、この場で処分しても構わないという訳だ」 「ブレイヴ殿、やめるんだ……!」
ブレイヴの暴走を止めるべく、私はベルに変身する。
ブレイヴは記憶喪失の影響で混乱しているのかもしれない。
>「……わからないな。これだから記憶喪失というのは厄介だ」
>「――――俺は、これから何人……お前を殺し続ければいいんだ!!」
私は素早く飛び、真横へ放り投げられた少女を受け止める。
「大丈夫か!?」
ミスリル銀の刃で少女を繋ぐ鎖を断ち切る。
>「オレは……俺は人間を救うぞ、ソロモン」
ブレイヴは人間を救うと言いながら、どう見ても王達に攻撃魔法らしきものを放とうとしている。
「ぬわぁああああああ!?」
>「貴様も――」
>「――貴様もだ!」
>「貴様も! 貴様も! ……今、此処に居る悪魔共は一人残らず、この俺が守り抜く!!」
運良く外れた、と最初は思ったが、違った。
恐ろしい威力の魔法を連発しながら一発も当たらない――わざと外しているのだ。
>「……そして、必ず償わせてやる。これまで貴様達が踏み躙って来た、全ての生命に」
>「――――ついて来い、所有物。お前の血に用がある」
「し……失礼致しました!」
分からないことだらけだが、ここに長居しては碌な事にならないことだけは分かった。
王とその配下の魔術師達が唖然としている間に、穴だらけになった玉座の間を逃げるようにを跡にする。
こうして半ばどさくさのままに、私達はNo.774と共に謎の霧へ突入することになった。
ブレイヴがNo.774にいきなり攻撃したりしないか気を付けながら歩みを進める。
道中で簡単な自己紹介をし、No.774の名前の話になる。
「番号しか付いてないのか……。774と言うのも仰々しいしナナ嬢と呼んでもいいかな?」
白い霧の間近までやってきた時――前方に人影が現れた。
一瞬、以前派遣された調査団の者かと思ったが、それは人間ではなかった。
白い体に黒い仮面――限れも無くナナシだ。
敵は二体――あるいは少し前まで人間だった名残なのか、それらは人間サイズで剣と弓を構えている。
「早速お出迎えのようだ……!」
私はティンカーベルに変身し、ブレイヴとNo.774に魔法の粉をかけた。 ブレイブの左手が、No.774の首筋を掴む。持ち上げる。
息が出来ない。苦しい。痛い。
それでも774は藻掻いたり、左手を解こうとはしない。
所有者に抵抗すれば更なる苦痛を与えられる。
そう学習させられているからだ。
>「俺は、ブレイヴ……ネームレスを滅ぼす者だ。他の勇者達と同じだと思うな。
お前が所有物になると言うならば、この場で処分しても構わないという訳だ」
しかしブレイブがそう言った瞬間、774の目から恐怖の色が和らいだ。
>「……わからないな。これだから記憶喪失というのは厄介だ」
「あなたは――」
>「――――俺は、これから何人……お前を殺し続ければいいんだ!!」
「――――私を、死なせてくれるのですか?」
774が、ブレイブの頬に触れようと右手を伸ばす。
そして直後に投げ飛ばされて、辛うじてベルに受け止められた。
>「大丈夫か!?」
774は、断ち切られた拘束具の鎖を見つめていた。
その手枷と足枷は本来、装着者に苦痛を与える為の「学習装置」だった。
同時にネームレスの因子を持つ兵器に備えられた「安全装置」でもあった。
しかし、それが破壊されても774は自発的な行動を起こそうとはしない。
生まれた時から虐げられ続けてきた存在が、その仕打ちに恨みを抱く事はない。
自分のある環境と比べるべき「普通」を、知らないのだから。
>「オレは……俺は人間を救うぞ、ソロモン」
>「貴様も――」
>「――貴様もだ!」
「それが、あなたの目的。なら……良かった。私は、お役に立てます」
安堵の表情は、期待外れにならずに済んだから。
主人の期待に背けば、苦痛を与えられる。それも774が学習してきた事だ。
>「貴様も! 貴様も! ……今、此処に居る悪魔共は一人残らず、この俺が守り抜く!!」
「……ここには人間しか、いないはずです」
周囲を見回す774。
もし悪魔がいるのなら、人間を、守らなくてはならない。
>「……そして、必ず償わせてやる。これまで貴様達が踏み躙って来た、全ての生命に」
償う。生命を踏み躙る。その意味が、774には理解出来ない。
理解出来ないから疑問を抱く。
>「――――ついて来い、所有物。お前の血に用がある」
「――はい」
だが次の瞬間には、その疑問は774の頭の中から消え去っていた。
命令されて、動く。そうしなければ苦痛がもたらされる。
774はずっと、そのように学習してきた。 そうして異界の勇者達は王宮からの逃亡後、使い魔越しにソロモンと通信。
馬車を手配され、白霧へと送り出された。
馬車と言っても馬は使い魔だ。
消えゆく者達に家畜をくれてやる理由はない。
774はブレイブの隣に座って、ずっとその顔を見ていた。
ついて来いという命令を、遵守する為だった。
名前を聞かれても、ベルへ振り向きもせず
「名前はありません。私はNo.774です」
そう答えるだけだった。
>「番号しか付いてないのか……。774と言うのも仰々しいしナナ嬢と呼んでもいいかな?」
「私に、私の呼称を決める権利はありません」
続く問いへの答えも、それだけだった。 やがて白霧との距離が近くなると、馬車を引く使い魔が自壊した。
ソロモンの使い魔は、形こそ崩れていないが体が重そうだった。
二体のネームレスが現れると、破壊される事を恐れてかベルの肩に止まった。
>「早速お出迎えのようだ……!」
ネームレスが、774へと襲いかかる。
一体は剣で斬りつけ、もう一体は矢を射かける。
774は、一歩も動かない。
だが、その背の翼が急速に広がり、矢を弾き、ネームレスを捕らえた。
そして、774はそのままネームレスの胸に触れる。
触れて、それでも右手を前に突き出す。
指先がネームレスの胸に沈む。
右手を握り締める。
ネームレスが霧散する。
後に残った774の右手は銀毛に覆われ、爪が鋭く伸びていた。
まるで、人狼のようだった。
「――ところで、そこの三流魔術師さんよ」
ふと、774が振り返って声を発した。
ソロモンの使い魔へと。
「私は、この世界がどうなろうと知った事じゃない。
貴様らと違って、黙って人が死ぬのを眺めている趣味はないから、
やるだけはやってやるがな。だが――」
それは明らかに774の言葉ではなかった。
774の元となった、誰かの言葉だ。
より厳密には、774の元となった死者達が宿していた、誰かの記憶が紡ぐ言葉。
774の原材料に含まれる異界の勇者、その殆どは【偽者】だ。
自分の能力を熟知した真の勇者よりも、
力はあれど、記憶の同期が不完全な偽者の方が遥かに死にやすい。
当然の事だ。
そして774は、それらの不完全な記憶を、更に不完全に継承している。
記憶とは人格。
整合性のない記憶は、時に異常な言動や振る舞いを生むようだった。
「――あんた、何か隠してるだろ。この事態に関して……いけ好かねえな。
テメェの絵が描きたけりゃ、テメェのキャンバスだけに描きやがれ」
返答はない。
もう一体のネームレスが774へ飛びかかる。
774の翼が左右へ広がる。
その間に、赤い魔力線と、青い稲妻が張り巡らされた。
翼が一度羽ばたくと、ネームレスはバラバラになって、霧散した。
「でないと、誰かの落書きが混じって台無しになっちゃっても、知りませんよう?」
『……心に留めておこう』
フクロウはたった一言だけ、主の言葉を代弁した。 さておき、最早、異界の勇者の進行を阻むものはない。
霧の奥へ進むと、奇妙な光景が見えた。
木立や、畑。石畳に舗装された街路や、古い石造りの住居。
或いは艷やかな、SFめいた素材で構築された、直方体の建造物。
それらが全て「高いところから落とされて散らばった」ような光景が。
そして、その奥で、不意に何かが動いた。
何かは急速に、異界の勇者達へと近づいてくる。
まず脚が見えた。八本の、刃のように鋭い脚だった。
次に、おおよそ蜘蛛のようなと称して差し支えのない下半身が見えた。
下半身に対して異様に細い、ヒトのような上半身も見えた。
最後に、首が見えた。
「――縺翫?繧後♀縺ョ繧後♀縺ョ繧」
ネームレスによって完全に取って代わられた、頭部が。
「謌代′譛ォ陬斐?蛻?圀縺ァ繧医¥繧よ?縺碁ヲ悶r――」
怪物の八本脚、その内の二本が閃く。
一秒の間に、それぞれが数十回。
地面が切り刻まれ、爆風と化して、異界の勇者に襲いかかる。
怪物は、身体の制御が上手く出来ていないようだった。
ネームレスの汚染、寄生は明らかに不完全だった。
だが、にもかかわらず、それは霧の外の完全なネームレスよりも遥かに強大だった。
「――魔族」
774が、小さく呟いた。
宿した記憶の断片の中にあった、それらしき単語が無意識に声に出た。
ただそれだけの呟きだった。 >「名前はありません。私はNo.774です」
>「私に、私の呼称を決める権利はありません」
No.774は、自分の意思を持たずひたすら命令に忠実に従うように仕込まれているようだった。
玉座の間で鎖に繋がれていた姿が思い返された。
「では……そなたが自分で決めるまで仮にナナ嬢と呼ばせてもらおう」
ネームレス2体との戦闘が始まる。
No.774が矢を射られるが、彼女は避ける様子が無い。
「危な……い!?」
No.774が矢を難なく弾き返すと、右手一本でネームレスを霧散させてみせた。
>「――ところで、そこの三流魔術師さんよ」
No.774が突然、私の肩に停まったソロモンの使い魔に話しかける。
>「私は、この世界がどうなろうと知った事じゃない。
貴様らと違って、黙って人が死ぬのを眺めている趣味はないから、
やるだけはやってやるがな。だが――」
>「――あんた、何か隠してるだろ。この事態に関して……いけ好かねえな。
テメェの絵が描きたけりゃ、テメェのキャンバスだけに描きやがれ」
「疑問は多々あるだろうが今は……」
私はNo.774の唐突な変化に驚きつつも、もう一体のネームレスを迎撃しようとする。
元になったナナシの生前の姿であった異界の勇者の記憶の断片を受け継いでいるということか……。
>「でないと、誰かの落書きが混じって台無しになっちゃっても、知りませんよう?」
No.774が翼をはばたかせると、ネームレスは雷撃の魔法のようなもので霧散した。
「想像以上の実力だな……すっかり助けられてしまった」 私達は霧の奥へと進んでいく。
そこには様々な時代のものや、私のいた世界やこの世界には存在しないような素材のものもごちゃまぜに散らばっていた。
「これは……あらゆる世界のものが混在しているのか……?」
奥に何かの気配を感じ、私は2人に魔法の粉を掛け直す。
「先程説明し忘れたがこれは空を飛べるようになる粉でな……」
>「――縺翫?繧後♀縺ョ繧後♀縺ョ繧」
>「謌代′譛ォ陬斐?蛻?圀縺ァ繧医¥繧よ?縺碁ヲ悶r――」
「飛べ!!」
二人に叫ぶと同時に、地を這うように放たれた疾風の刃を舞い上がって避ける。
敵は、蜘蛛のような下半身に人のような上半身のネームレスらしきもの――
>「――魔族」
No.774が呟く。
魔族が元となったネームレスだとすれば通常のそれよりも強力なのは想像に難くない。
ミスリル銀の剣に粉をかけ、宙を舞わせて切りつけてみるも、高速で蠢く八本脚によって巧みに阻まれる。
「固い……!」
幸い周囲には瓦礫が転がっているので、武器になり得るものはたくさんある。
私は空中を逃げ回っている振りをしながら瓦礫に魔法の粉をかけはじめた。
大量の瓦礫を一気にぶつけて動きを封じている隙に大火力を持つ二人に撃破してもらう等も可能だろう。 >「固い……!」
「バカが。この手のクソを分解(バラ)したけりゃ、頭を使いやがれ」
774の翼から、赤い魔力線が舞う。
純白の翼には何か魔術的効果が宿っているようだった。
774自身も、翼と魔法の粉、二つの推進力によって宙を舞う。
瓦礫によって動きを制限された魔族の、周囲や脚の間を、何度も行き交う。
魔力線が、魔族の脚部関節を的確に縛り上げていく。
「さあ、好きなだけ暴れるがいい」
脆い関節に、超高速斬撃の圧力が、魔力線を通して伝わる。
「藻掻けば藻掻けば糸は食い込む。蜘蛛さんにはお似合いの処刑方法だぞ」
魔族の脚部関節が、絡みつく魔力線を通じて、自身の怪力によって破壊される。
脚を失った魔族はその場に崩れ落ちる。
「……指示を、お願いします」
774がブレイブを振り返ってそう言った。
記憶の断片による暴走がなければ、彼女は自発的な判断が殆ど出来ない。
だがそうしている間に、魔族の脚部が再生を始めた。
単なる再生ではない。
白霧が収束して、ネームレスの組織を形成している。
そして魔族は再び立ち上がり、背中を見せた774に斬りかかった。 【ブランク・シェル(T)】
その少女は、まるで生まれたばかりの小動物だった。
先程から健気に見上げてくる視線に応えてしまえば、懐かれる恐れがある。
近づく白霧の濃度が増す前に煙草に火を点けた。面倒事は、面倒見の良いベルに預ける構えだ。
『名前はありません。私はNo.774です』
『番号しか付いてないのか……。774と言うのも仰々しいしナナ嬢と呼んでもいいかな?』
『私に、私の呼称を決める権利はありません』
『では……そなたが自分で決めるまで仮にナナ嬢と呼ばせてもらおう』
「―――俺が、与えてやる」
この世界に拡散されたネームレスの因子は、この手で全て消し去る。
そうであるが故に、己が殺すべき少女に名を与える心算は無かった。
「お前に、お前の全てを決める権利を与えてやる。
お前は、この世界で俺が最後から二番目に殺すネームレスだ。
今まで誰からも与えられなかった、ただ一つの苦痛を、この俺が与えてやる」
やがて車輪が止まった。メンチ二号と三号が役割を終えて、一号の待つ場所へと旅立つ。
火が消えた。時は人を待たない。永劫を流れ行き、遍く事象を終焉へと運び去るだけだ。
『早速お出迎えのようだ……!』 【ブランク・シェル(U)】
剣と弓の人型ネームレスは、此処に送り込まれた調査団だったのだろう。
今は地に伏している、No.774が魔族と呼んだ異形も、おそらくは異界の種族だ。
彼等の生命を奪ったネームレスが悪だとしても、あるいは、その所業が罪だとしても――
――ネームレスを滅ぼす事が、善なる裁きに値しない事は明白だ。
少なくとも、この場に集った者達は正義の執行者ではない。
守る為に倒す。生きる為に殺す。己の目的の為に障害を排除する。
ただ、それだけの事実と死の積み重ねの上に、生き残った者が立つだけだ。
『……指示を、お願いします』
振り下ろされる蜘蛛の斬撃と少女の背中との間に、逆手持ちの刀剣を割り込ませた。
一撃で刃鋭を欠いた剣身の裏へと、さらに投影した左刃を打ち当て、十字に受ける。
「しばらく、そこで苦痛を味わう時間を稼いでやる……自分で考え、自分で決めろ」
剣身を傾け右に流した鋼爪が精霊銀の表面を滑る様に削り、掻音と火花を撒き散らす。
前脚と共に大地に突き立った右刃の投影を解除し、裏の左刃で脚関節を斬り飛ばした。
「現時刻を以って所有物No.774を放棄する。お前は自由だ」 >「バカが。この手のクソを分解(バラ)したけりゃ、頭を使いやがれ」
>「さあ、好きなだけ暴れるがいい」
>「藻掻けば藻掻けば糸は食い込む。蜘蛛さんにはお似合いの処刑方法だぞ」
No.774が魔力線の糸を関節に絡みつかせ、脚の破壊に成功する。
が、脚はすぐに再生をはじめ、774に襲い掛かる。
>「……指示を、お願いします」
ブレイヴが774に向けられた攻撃を防いだ。
>「しばらく、そこで苦痛を味わう時間を稼いでやる……自分で考え、自分で決めろ」
>「現時刻を以って所有物No.774を放棄する。お前は自由だ」
ブレイヴは突然、774の所有権放棄宣言をした。
“自由”こそがブレイヴが言う所の苦痛なのだろう。
しかし自由だ、と言われたところで774には帰る場所も無い。
この世界にいる限りネームレスの因子を持つ者として迫害されるかもしれない。
それに、正直774の協力が無ければこの先に進むのは難しそうというのもある。
「そなた、ナナ嬢のことを”この世界で最後から二番目に殺すネームレス”と言ったな。
ならばこの世界からいなくなれば殺す必要もなくなるということか」
瓦礫を怒涛のようにネームレスの頭部にぶつけつつ、774に持ち掛ける。
「この世界にいる限りきっと自由は手に入らないだろう。共に他の世界への抜け道を探してみないか?
もしも他の世界に行けたら、その時こそそなたは自由だ。
賛同してくれるなら……先程みたいにそいつの脚を封じておいてくれ」 >「しばらく、そこで苦痛を味わう時間を稼いでやる……自分で考え、自分で決めろ」
「そのような事は許可されていません。私は、あなたの所有物で――」
>「現時刻を以って所有物No.774を放棄する。お前は自由だ」
「……自由?」
774は硬直した。概念としての自由なら知っている。
「自由……それは……なんですか?私は……何をすればいいんですか?」
だが自分にそれが適用された状態を、774は想像出来なかった。
「――要するに、今ここでそいつの背中を刺してもいいって事だろ」
「そうだ。そして刺さなくてもいい……てめえのしたい事を、てめえで決めるんだ」
「想像出来ないか?お前は、選んでもいいという事だ。どこへ行くか。誰を生かして誰を殺すか」
「そうそう。誰も生かさない事を選んでもいいし、誰もかもを殺してもいいんだぞ」
うわ言のように呟く774。
>「そなた、ナナ嬢のことを”この世界で最後から二番目に殺すネームレス”と言ったな。
ならばこの世界からいなくなれば殺す必要もなくなるということか」
>「この世界にいる限りきっと自由は手に入らないだろう。共に他の世界への抜け道を探してみないか?
もしも他の世界に行けたら、その時こそそなたは自由だ。
賛同してくれるなら……先程みたいにそいつの脚を封じておいてくれ」
「私……は……私には……分かりません……自由……その、意味が……」
774がブレイブの背中を見上げる。
「……所有物でなくなって、自由になれ。その命令は……ごめんなさい。すぐには、実行出来ないようです」
774の翼から無数の羽が矢のように飛ぶ。
「なので――時間を、頂けますか?……その、考えて、みますので……」
羽は魔族を斬りつけながら、その全身に魔力線を絡ませる。
そして……その直後だった。
どこからともなく現れた人影が、拘束された魔族を一瞬で細切れにした。
「――何ボサっとしてんだ!逃げるぞ!こっちだ!」
そして人影――恐らくは軍服、に身を包んだ若い男は774の手を掴んで駆け出した。
その動きはとても速い。
またいかなる理由か、その足跡はまるで切創のような形をしていた。 「――危なかったな、あんたら」
未成年者略取の現行犯は、しばらく走った後で立ち止まると、そう言った。
「アイツ、どんなに斬り刻んでやってもすぐに再生するんだ。
あのままじゃ、死ぬまでアイツと踊る羽目になってたぜ」
「……それで、あんたら、どっちだ?落っこちてきた方か?それとも引きずり込んでくれた方か?」
「いや、まぁ、どっちでもいいんだけどな。どちらにせよ提案は一つだ。
手を組もうぜ。世界の裂け目を探すんだ」
落っこちてきた方なら、それは帰り道になるかもしれない。
引きずり込んでくれた方も、それを塞ぐ事でこの世界を少しマシに出来るかもしれない。
「俺は落っこちてきた方で、はぐれた仲間を探してるんだ。ついでに帰り道もな。
あんたらがどっちであれ、戦力が多くて困る事はないだろ」
ところで、男は自己紹介をするつもりはないようだった。
忘れているのか、長い付き合いにはなるまいという考えかは分からない。
「どうせツレを探さなきゃいけないから、行動指針はあんたら優先でいいよ。
元いた世界への帰り道を探すか、この霧の中でゴミ掃除をするかは、任せる。
どうよ、悪い話じゃないだろ?」 【フリーフォール・イン・アロングサイド(T)】
『……自由?』
少女が動きを止めた。だが、蜘蛛は違った。瞬爪の軌道で空気密度が歪む。
衝撃の輪郭が胸板を僅かに掠め、牛皮のビブ・エプロンに派手な裂傷が刻まれる。
これでもう、後戻りは出来ない――――客前はおろか、厨房にすら立てない装いになった。
『自由……それは……なんですか?私は……何をすればいいんですか?』
「……俺は哲学者じゃない。自由それ自体の定義を決めるのが、自由だ。
フィールド・ワークの手始めに、玩具屋の生き様でも観察しておくといい」
『そなた、ナナ嬢のことを”この世界で最後から二番目に殺すネームレス”と言ったな』
「少なくともNo.774に関しては、その通りだ。俺の方が先に倒れる心算は無い」
『ならばこの世界からいなくなれば殺す必要もなくなるということか』
「おそらく今のお前と俺では、世界の認識が違っている。
そして俺は、世界を守る為に戦っているわけではない」
刃を伏せた前傾姿勢。瓦礫の弾幕を遮蔽にして、死角から蜘蛛の旋回半径へと踏み込んだ。
『この世界にいる限りきっと自由は手に入らないだろう。共に他の世界への抜け道を探してみないか?
もしも他の世界に行けたら、その時こそそなたは自由だ。
賛同してくれるなら……先程みたいにそいつの脚を封じておいてくれ』
「その願いが叶う時、ソレは、自由な世界で俺が最初に殺すネームレスになるだけだ。
障害となるならば、お前は、自由な世界で俺が最初に戦う中年玩具屋になるだろう」
『私……は……私には……分かりません……自由……その、意味が……』
横薙ぎの爪撃を受けて左刃が砕けた。追撃を再投影した右刃で打ち上げ、反動で飛び退る。
――――前脚が、二本揃っている。蜘蛛の再生速度は、剣の投影速度を上回りかけていた。
『……所有物でなくなって、自由になれ』
「そうだ。命令を即座に実行しろ」
『その命令は……ごめんなさい。すぐには、実行出来ないようです』
「それでいい。今、その迷いと答えを生み出した"何か"が、お前の中には在った筈だ」
『なので――時間を、頂けますか?……その、考えて、みますので……』
「時間は稼ぐと言った。ついでに、もう一つインストラクションを与えてやる―――」
背後を見なくても判った。今は未だ名も無き翼が、その羽根を広げようとしている。
ならば、俺の役割は一つだ。魔術師は振り向きもせず、己の両掌に白銀を投影した。
「―――考えるんじゃない。感じるんだ」 【フリーフォール・イン・アロングサイド(U)】
『――危なかったな、あんたら』
「承知の上だ。奴を放置しておけば、いずれ霧の外の人類が同様の危機に晒される」
『アイツ、どんなに斬り刻んでやってもすぐに再生するんだ。
あのままじゃ、死ぬまでアイツと踊る羽目になってたぜ』
「構わない。死の舞踏であれば、多少の心得はある」
『……それで、あんたら、どっちだ?落っこちてきた方か?それとも引きずり込んでくれた方か?』
「俺は、そのどちらでもない。ネームレスを消滅させる為だけに存在するブレイヴだ。
そこの玩具屋は掴み落とされ、引きずり込まれた手合いだ……そうだな、ベル?」
―――この男、軍属か。敵意は見せていないが、現時点で信用を置く事は出来ない。
異世界からの来訪者であるという点に於いて、奴と境遇が等しいベルの反応を探る。
『いや、まぁ、どっちでもいいんだけどな』
「……どっちでもいいらしいぞ、ベル」
『どちらにせよ提案は一つだ。手を組もうぜ。世界の裂け目を探すんだ』
「目的を聞かせろ。場合によっては、互いの利害を喰い合う事になる」
『俺は落っこちてきた方で、はぐれた仲間を探してるんだ。ついでに帰り道もな。
あんたらがどっちであれ、戦力が多くて困る事はないだろ』
「こちらと行動原理の異なる戦力など、俺にとっては敵対勢力と大差が無い」
『どうせツレを探さなきゃいけないから、行動指針はあんたら優先でいいよ。
元いた世界への帰り道を探すか、この霧の中でゴミ掃除をするかは、任せる。
どうよ、悪い話じゃないだろ?』
無作為抽出した異界の玩具箱をファンタスティックに打ち撒いたかの如き光景。
転がる瓦落芥の中から、前のめりに倒れていたハイバック・ソファを蹴り起こす。
「ならば、一時的なアライアンスと割り切った上で、条件が二つある。
一つ、お前達の身上、この世界で得た経験と情報を可能な範囲で全て話せ。
一つ、そちらに名乗る心算が無いのならば、今後は"フォール"とでも呼ばせてもらう」
俺は、上張りが破れた埃まみれのソファに腰を下ろし、少女を膝に乗せた。
「こいつは、不確定名称"ナナ"……今は未だ俺の所有物だ」 >「おそらく今のお前と俺では、世界の認識が違っている。
そして俺は、世界を守る為に戦っているわけではない」
私は元の世界に帰るための手段として他に宛てもないので結果的に召喚者側に協力しているような形になっているだけで、別に世界を守るために戦っているわけではない。
ブレイヴの方こそ世界を守るために戦っているようにも見えるが……。
>「その願いが叶う時、ソレは、自由な世界で俺が最初に殺すネームレスになるだけだ。
障害となるならば、お前は、自由な世界で俺が最初に戦う中年玩具屋になるだろう」
「どうして……そこまで……」
ここで私は一つの仮説に思い至った。
ブレイヴがネームレスというネームレスを殺すことを定義付けられた存在だとしたら、辻褄が合う。
そうだとすれば、ナナが”この世界で最後から二番目に殺すネームレス”ということは、優先順位としてはかなり最後の方となるわけで。
そしてブレイヴの言う所の”世界”からネームレスがいなくなる可能性は絶望的に低いように思える。
つまり、実質あまり心配する必要はないのかもしれない。
待てよ? ナナが最後から二番目ということは、世界で最後に殺すネームレスは――誰だ?
先程ブレイヴは“俺の方が先に倒れる心算は無い”と言った。
そして、その時は気のせいで流したが、ソロモンがブレイヴがいる厨房を透視したとき、ネームレスがいるような状態に見えたという。
ブレイヴが世界で最後に殺すネームレスは、まさか――
>『私……は……私には……分かりません……自由……その、意味が……』
>『……所有物でなくなって、自由になれ』
>「そうだ。命令を即座に実行しろ」
>『その命令は……ごめんなさい。すぐには、実行出来ないようです』
>「それでいい。今、その迷いと答えを生み出した"何か"が、お前の中には在った筈だ」
>『なので――時間を、頂けますか?……その、考えて、みますので……』
>「時間は稼ぐと言った。ついでに、もう一つインストラクションを与えてやる―――」
>「―――考えるんじゃない。感じるんだ」
二人のやりとりを見ていると、突如として現れた何者かによって魔族は一瞬にして細切れになった。
>「――何ボサっとしてんだ!逃げるぞ!こっちだ!」
ナナの手を掴んで走り去る男。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
慌てて男を追う。
>「――危なかったな、あんたら」
>「アイツ、どんなに斬り刻んでやってもすぐに再生するんだ。
あのままじゃ、死ぬまでアイツと踊る羽目になってたぜ」 >「構わない。死の舞踏であれば、多少の心得はある」
「いや……私は構うぞ。とりあえず助けてくれて礼を言う」
>「……それで、あんたら、どっちだ?落っこちてきた方か?それとも引きずり込んでくれた方か?」
>「俺は、そのどちらでもない。ネームレスを消滅させる為だけに存在するブレイヴだ。
そこの玩具屋は掴み落とされ、引きずり込まれた手合いだ……そうだな、ベル?」
「その通りだ。引きずり込んだ側とも一応面識はあるが元の世界に帰す手段は持って無さそうだ。
あるいは多大なコストがかかるか成功率が低くて実質無理といったところか」
>「いや、まぁ、どっちでもいいんだけどな。どちらにせよ提案は一つだ。
手を組もうぜ。世界の裂け目を探すんだ」
>「目的を聞かせろ。場合によっては、互いの利害を喰い合う事になる」
>「俺は落っこちてきた方で、はぐれた仲間を探してるんだ。ついでに帰り道もな。
あんたらがどっちであれ、戦力が多くて困る事はないだろ」
>「こちらと行動原理の異なる戦力など、俺にとっては敵対勢力と大差が無い」
>「どうせツレを探さなきゃいけないから、行動指針はあんたら優先でいいよ。
元いた世界への帰り道を探すか、この霧の中でゴミ掃除をするかは、任せる。
どうよ、悪い話じゃないだろ?」
「確かに……ネームレスを消滅させるにしてもどこに発生源があるのかも分からない。
帰り道を探すにしてもどこにあるのか分からない。
つまりこの中を虱潰しに探索しなければならず、道中で出くわしたどのみちネームレスは倒さなければならない。
行動原理は異なっても当面やる事自体は対立はしないように思うな」
ブレイヴは何故かソファを蹴り起しながら、条件を提示した。
>「ならば、一時的なアライアンスと割り切った上で、条件が二つある。
一つ、お前達の身上、この世界で得た経験と情報を可能な範囲で全て話せ。
一つ、そちらに名乗る心算が無いのならば、今後は"フォール"とでも呼ばせてもらう」
「私は橘川鐘、またの名をティンカーベル。いきなりこの世界に召喚されてそれから……」
私は自分の素性と今までの経緯をかいつまんで正直に話した。
仮に相手が悪意を持っていたとしても、情報開示したところで悪用できるほどの大した情報も持っていない。
私に続いて、ブレイヴがナナを紹介する。それはいいのだがブレイヴの方を見ると……
ブレイヴは何故かソファに座ってナナを膝に乗せていた。
>「こいつは、不確定名称"ナナ"……今は未だ俺の所有物だ」
「誤解を生みかねない表現はやめないか!?」
私はブレイブにとりあえずツッコむと、謎の男に慌てて言い訳を始める。
「あ、あれは別にそういう意味ではない! 膝の上に乗せてるのも多分深い意味はない!」 >「ならば、一時的なアライアンスと割り切った上で、条件が二つある。
一つ、お前達の身上、この世界で得た経験と情報を可能な範囲で全て話せ。
一つ、そちらに名乗る心算が無いのならば、今後は"フォール"とでも呼ばせてもらう」
「ああ、そういや自己紹介がまだだったか……でも、フォールか。
いいな、それ。響きがかなりカッコいいじゃん、気に入ったぜ。
俺の事は是非、『フォール』と呼んでくれ」
>「私は橘川鐘、またの名をティンカーベル。いきなりこの世界に召喚されてそれから……」
「またの名を?どっちでも呼んでもいいって事か?」
>「こいつは、不確定名称"ナナ"……今は未だ俺の所有物だ」
>「誤解を生みかねない表現はやめないか!?」
ブレイブの膝に乗せられた774はブレイブの胸に体を預けて寄り添っている。
彼女の素体には従順性と帰巣本能を植えつける為に、犬が使われている。
触れ合いに安堵を覚え、また目を合わせるように主を見上げているのはその為だった。
「あー……オーケイ。キッカワは言いにくいし、ベルって呼ばせてもらうよ。構わないよな?」
>「あ、あれは別にそういう意味ではない! 膝の上に乗せてるのも多分深い意味はない!」
「深い意味がないってそれ直球で『膝の上に乗せてる』って意味だろ!?
なおさらこえーよ!いいよいいよ!変に取り繕わなくても!」
『――時に、ブレイブ。それにベルよ』
突然、ベルの肩に留まったフクロウが声を発する。
『協力者が得られた事も、目的の優先順位を譲ってもらえる事も良い事だが……
……ならば、君達の行動原理を説明しない事には行動が取れないのではないか?』
「うお、なんだそれ……念信器か?随分デカいな」
フォールの呟き――彼の故郷における魔導技術の水準は、この世界よりも高いらしい。
「ていうか、オペレーターがいるのか。だったら丁度いいや。
そっちの事情について、言える範囲でいいから教えてくれよ。
この二人は――まぁ、人には得手不得手があるもんな、うん」
暫しの時間が説明に費やされた。
「……なるほど。そこのナナちゃんが世界の穴みてーなモンを探せるから、
とりあえず行き当たりばったりで人を送り込んでみたって事か」
フォールの理解は状況を完全に把握していると言えた。 「……いや、どーせろくでもない感じなんだろうなとは思ってたけど、ひどいな!
一から十まで自業自得じゃねえか!そりゃ世界も滅ぶ……っと、まだ滅んじゃいないか」
「多分、時間の問題だけどな」とフォールはぼやいた。
「まぁ、いいや。とりあえず……その子を頼って世界の穴を探す。
出会った、あの……この世界じゃネームレスか。
アイツらは見つけ次第殺す。ただし戦略的撤退はアリ……って感じでいいか?」
ところで、とフォールがフクロウを見た。
「ネームレスとこの霧の正体とか、なんでこの世界に流れ込んできたのかとか。あんたは何も分かってないのか?」
『……うむ、残念だが』
「……そうかい。ん、お?どうした?」
不意に774がブレイブの膝から降りて歩き出した。
「なんだ?世界の穴がどこか分かったのか?」
フォールが尋ねるも答えはない。
ただふらふらと彷徨うように歩いていく。
その後を追っていくと程なくして、またネームレスが現れた。
厳密にはネームレスに汚染された何かが。
流線型の、両手が刃で出来た、殺人以外に用途などない――それは、機械だった。
それは元いた世界では『ハイランダー』と呼ばれていた。
フォールが腰のサーベルを抜く。
ハイランダーは恐らく774を攻撃する。それを防ぐ為だった。
だがそうはならなかった。ハイランダーは、
「……消えた?」
本来有していたステルス能力。その存在に染み付いていた、隠れ潜み殺める者という概念。
それがネームレスによって魔術的な形で再現された結果だった。
そしてその直後には、ハイランダーはブレイブの背後にいた。
ヒートブレード、無形の刃が閃光と化して「ブレイブとベルを」襲った。
ハイランダーは隠れ潜み殺める者。
最初に見つけた一体目とは別に、もう一体が隠れていたとしても何もおかしな事はない。 【メタル・ブレイク・ドライバー(V)】
[□]―――[打て]のマーカーだ。予想以上の衝撃で、俺は身体のバランスを崩した。
適当に狙いを付けて打ち込んだシリンダーが、"サンプル"の表面に弾かれている。
「なん…だと?」
《打突時の反動に対する身構え、気構え、面構えが充分ではありませんでしたね。
負傷までには至らなかった模様ですが、これは貴方の幸運度のテストではありません。
どうですか? 痛いですか? 痛覚を残された状態で再出荷された事を後悔していますか?》
「何も知らされないで、構えられるものかよ……選んでないコトなら、後悔だって出来ない」
《事前告知はしています。"身体に覚えてもらいます"、と。"痛くなければ覚えません"とも》
[□]―――マーカーに変化は無い。正確な位置を打突するまで続けろ、ってコトか。
「だったら……痛みが足りてなかったんだろうな、その事前告知とやらは!」
怒りに任せた一打が、初めて"サンプル"の表面に密着した状態で停止した。
[○]―――[回せ]だ。連続する指示に従い、今度は集中して精神のトリガーを引く。
打ち付けたシリンダーが高速回転し、先端部分のカッタービットで試験標本を削り始めた。
《なるほど……先程の支援機さんは優しすぎたのですね? 今後は方針を修正しましょう》
「……っ! こいつ硬いぞ!!」
《高硬度であるのは当然です……いいえ、そうでなくては貴方の存在意義はありません。
私たち【小川のせせらぎの音】が持つ【小鳥のさえずりの音】技術を甘く見ないことです》
「今の環境音は? 支援機が実は、森に棲んでる妖精か何かだったんなら、そう言ってくれ」
《特定の部署名および任務内容を伏せる為の【修正音】です。それらの情報を貴方が――》
「――知る必要ない、だろ? わかってるって……ああもう、耳にタコが出来そうだ」
《ミニスカートに興味が? マスラオタイプのゲノムには深い業が刻まれていたものですね》
「……耳にタコスでも詰まってるのか? 道理で辛酸を極めた人生を送ってそうじゃないか」
《実に快適な環境ですよ? 頭蓋骨にナチョスが詰め込まれてしまっている貴方と比べれば》 【メタル・ブレイク・ドライバー(W)】
[■>◇]―――やってやる。シリンダーを格納し、俺は右腕を引き絞って改めて狙いを定めた。
脳裏に電流の様な――不可視のレティクルがターゲットと噛み合った――感覚が走る。
撃ち出せ! そう思った時には、すでに鋼柱が台座ごとサンプルを貫通していた。
《なるほど……かなり意外なデータが取れましたね。これは、予想外の不出来です》
「そこは上出来って言うのが正解なんじゃないのか」
《不出来で正解です。と言いますか……あまり、いい気にならないでください。
今のは、サンプル四天王の中でも最弱の小物。次以降から順次、手強くなります。
毎回、形状・硬度・質量の異なる第二、第三のサンプルが供給されますから、そのつもりで》
[▲>■]―――シリンダーが引き抜かれたサンプルは、まるで現れた時の逆戻しの様に消えた。
唯一、現れた時と違っているのは、マーカーがあった位置に丸い風穴が開いたという事だけだ。
「小鳥の巣箱の玄関でも作らされてるのか、俺は? ……いや、今の質問は無しでいい」
《……それは残念です。私たちが協力して成し遂げた、初の共同作業を終えての感想は?》
「協力とか共同とか支援って言葉の意味を考えさせられる事件だったよ。それと、腹が減った」
《今回の貴方は、空腹感や消化機能を試験実装されていたのでしたね。
ですが、喜んでください。食事のことでしたら当分、気にする必要はありません。
味付けが雑なテクス・メクスの代わりに次のサンプルがすぐに……来たようです、準備を》
――――その後の事は、良く覚えていない。
つまるところ、この単純作業の反復が俺の生活の全てだった。
不意に再生されるひどく断片的な記憶の例外は、支援機の無機質な"声"だけだ。
幾度となく繰り返される"昨日と全く同じ今日"の中で、ただ真っ白な空間に破壊音が響き続けた。 【ロスト・ロジスティクス】
ARL-X100、実務稼働から一年、冬。
己の肉体はともかく技術と知能に限界を感じる。
悩む頭脳すら持たない結果、俺が辿り着いた境地は"無我"だった。
支援対象に対して特に支援を行わないタイプの支援機への限りなく大きな疑念。
自分なりに少しでも忘れようと思い立ったのが、一日一万回、基準作業量(ノルマ)の杭撃ち!!
マーカーを読み取り、構えて、杭を撃つ。
一連の動作を一回こなすのに当初は五秒から六秒。
一万回を打ち終えるまでに、初日は十八時間以上を費やした。
《何をしているのですか貴方は。このまま試験効率の改善が無ければ光源(ごはん)抜きです》
撃ち終えれば倒れるように寝る。
起きてまた撃つを繰り返す日々。
二年が過ぎた頃、異変に気付く。
《悪くありません。私の方から管理官に追加(おかわり)を申請しておきますね。サンプルの》
一万回打ち終えても、日が暮れていない。
稼働期間五年を超えて完全に羽化する。
ノルマの杭撃ち一万回、三時間を切る!
代わりに――――
《貴方を、上出来です。これなら【修正音】に出向しての【修正音】も兼任できそうですね》
――――労働時間が増えた。ついでに職場が二ヵ所になった。
"代わりに"の用法は、限りなく正しかった。
そのうち俺は考えるのをやめた。 【インフラックス・インフェクション】
『ネームレスとこの霧の正体とか、なんでこの世界に流れ込んできたのかとか。あんたは何も分かってないのか?』
『……うむ、残念だが』
「俺は、この霧そのものがネームレスの正体である可能性を考えていた。
魔術的な呪霧だと解釈しても構わないが、厳密には微細な魔導ゴーレムの群体――
――端的に表現するならば、ナノマシン・ウィルスを想定する事で、現状の理解が容易になる」
過去の報告事例からは、増殖には死の媒介を必要とする性質が確認されていた。
即ち、ウィルス本体の環境中に於ける生存能力ないし拡散能力自体は低く、脆弱な筈だ。
だが、汚染対象を他生体の殺傷手段へと変貌させる特性により、事実上の"感染力"は著しく高い。
「一度、宿主となった対象の変質が始まれば、その影響範囲は有機物・無機物を問わない。
魔導技術の産物すら侵蝕された事例を、俺は少なくとも三人……いや、三つ知っている」
『……そうかい。ん、お?どうした?』
言葉を発する事も無く、ナナが夢遊病の足取りでソファから離れて行く。
察するに、余程、俺の膝の上の座り心地が良くなかったのだろう。
……あるいは、煙草を取り出そうとした気配を読まれたか。
『なんだ?世界の穴がどこか分かったのか?』
スラックスの埃を払って立ち上がり、歩き煙草で後を追う。これが賭博師の臨戦態勢だった。
紫煙と白霧の向こう側に、オレと同業者のシルエットが浮かび上がる。2m級のネームレスだ。
「コード・レッドを発令しろ……死神のお通りだ」
この状況には僅かな、だが、確かな違和感があった……何かが違っている。
死線を越える度に増幅されている"魔術師"の観測能力では無い。"賭博師"の直感でも無い。
それらとは別の、汚染され荒廃した異界の勇者の記憶と意志が、俺に一瞬先の未来を直観させていた。
『……消えた?』
「……避けろ!」
――――"奴"が獲物を狙う時に、姿を現している筈が無い。 謎の男は暫定フォール、私は謎の男からベルと呼ばれることになった。
(私の能力についてと、橘川が元の姿、ベルは変身した姿の名であることを軽く説明しておいた。
敢えて元の姿を見せてはいないが、単にここではいつ敵が襲い掛かってくるか分からないから常に変身しているだけで他意は無い)
>「ネームレスとこの霧の正体とか、なんでこの世界に流れ込んできたのかとか。あんたは何も分かってないのか?」
>『……うむ、残念だが』
>「俺は、この霧そのものがネームレスの正体である可能性を考えていた。
魔術的な呪霧だと解釈しても構わないが、厳密には微細な魔導ゴーレムの群体――
――端的に表現するならば、ナノマシン・ウィルスを想定する事で、現状の理解が容易になる」
「そうだとすれば我々が”ネームレス”と呼んでいる物は”霧”に乗っ取られた生物の死骸、ということか……。
我々がこうして霧の中を動き回れている、ということは乗っ取るには対象が死亡する必要がある、
そして“霧”そのものは殺傷能力を持たない、というところかな。
最初の”ネームレス”はこの霧の中で野垂れ死んだ者だったのかもしれないな」
>「一度、宿主となった対象の変質が始まれば、その影響範囲は有機物・無機物を問わない。
魔導技術の産物すら侵蝕された事例を、俺は少なくとも三人……いや、三つ知っている」
「無機物だって!?」
>「……そうかい。ん、お?どうした?」
ナナがおもむろにブレイヴの膝から降りて歩き始め、会話が中断する。
>「なんだ?世界の穴がどこか分かったのか?」
「世界の穴かは分からないが何かを感知したのかもしれない」
>「コード・レッドを発令しろ……死神のお通りだ」
ナナの後を追っていくと、2m級の”ネームレス”が姿を現した。
奇しくも、つき先刻“ネームレス”になるのは有機物無機物問わないと言ったブレイヴの言葉が立証されることになった。
それは見るからに機械だった。それも、この世界の系統の中世ファンタジーではなく未来風世界かSFを彷彿とさせるようなデザインだ。
>「……消えた?」
一番後方にいた私は、機械型ネームレスがブレイヴの背後に瞬間移動したのが見えた。 「危な……」
>「……避けろ!」
ブレイヴが発したのは、まるで自分が狙われているのは大前提としているような、他の者への警告。
ナナやフォールに危険が迫っている様子はない、ということは……私しかいない!
奇跡的に一瞬でその結論に行き着いた私は、反射的に飛び上がった。
下を見ると、閃光の刃が一瞬前まで私がいた空間を切り裂いていた。
ネームレスは二体――最初に姿を現した方が陽動だったようだ。
「少しの間相手を頼めるか? 試してみたい事がある!」
地上にいる者達に声をかけ、私は戦闘域一帯に粉を撒いた。
私の魔法の粉の効果の一つは、“物体にかけた場合は、その物を念動力のように操れる”。
もしもブレイヴの予想通り、霧の正体が概念的なものではなく形があるもので
且つ生物よりはナノマシン等の物体に近い物だった場合、私の能力で操れるかもしれない。
思い返せば、霧の外で遭遇したネームレスは私達異界の者の力を使えば比較的すぐに倒されていたが、
この霧の中に突入して最初に戦った魔族のネームレスは並外れた再生能力を持っていた。
そして、それから私達を助けた時、フォールはこう言った。
>『――何ボサっとしてんだ!逃げるぞ!こっちだ!』
鮮やかに倒したように見えたが、その時は深くは考えなかったが本当に倒したなら急いで逃げる必要は無かったはず。
この霧の中にいる限り、ネームレスは無尽蔵の再生能力を持つのだとしたら――
「動け……!」
霧は私の意思に応え戦闘域から排除され、局地的に霧が晴れた地帯が出来た。
「霧が再生能力を与えているのだとしたら……霧の供給を排除してやればそなた達の力なら容易に倒せる……!」
眼下で激しい戦いが繰り広げられている中、戦闘域への霧の流入を阻止し続ける。
対象に粉を撒く必要がある関係上、広域の霧を操ることなどは出来ず、戦闘域から霧を排除するのがせいぜいだが、
それでもこの予想が当たっていた場合、今後の探索において大いに役立つだろう。 >「……避けろ!」
ブレイブとベルに襲いかかるハイランダー。
774は翼を広げ、しかし動かない。
どう動いたものか決めかねているのだ。
ブレイブは避けろと言った。だが自分はハイランダーに狙われなかった。
なら、どうするか。ブレイブとベル、どちらを援護するべきなのか。
>「少しの間相手を頼めるか? 試してみたい事がある!」
ベルの援護要請。だが774は動かない。
774の主はブレイブだ。そして敵戦力は未知数。
主が危険に晒される可能性は否定出来ない。
ならば自分がまず無力化するべきは、ブレイブに襲いかかる敵性存在なのではないか。
それとも、そうではないのか。774には分からない。
>「動け……!」
能力行使の為に動きを止めたベルに、ハイランダーが襲いかかる。
774は、気づけばベルに駆け寄っていた。
そして迫るヒートブレードを翼で受け止める。
「…………私は、何を」
続けざまに繰り出される斬撃を、今度は翼から舞い散った羽が食い止めた。
宙に舞う魔力の羽は、なんらかの技法によって空中に固定されていた。
「――ああ、ごめんなさい。私があなたの体をお借りしてしまいました」
774の口から意図しない言葉が紡がれる。
774が宿した異界の勇者の記憶、人格の断片によるもの。
「ですが今の行動に、あなたの意思がまったく存在しなかった訳ではありません。
何故なら……私は、あなたの一部だから。あなたは私の記憶の断片を宿している。
それはつまり……私と価値観の一部を、共有しているという事です」
774は自分の口から勝手に言葉が紡がれている事に。
また言葉そのものに、首を傾げている。
「大丈夫。私はただの、あなたの一部……すぐに、ただのあなたになる」
その眼前からハイランダーが消える。ステルス能力だ。
そして再び、それがベルの背後へ現れる。
閃くヒートブレードを、774が再び、翼で受け止めた。
今度は、774自身が咄嗟にその行動を取っていた。
「ほら、ね?」
微笑みを伴う、一言。
それきり、774の口は独りでに言葉を紡ぐ事をやめた。 ハイランダーは、774から距離を取るように飛び退いた。
相性が悪いと判断したのだ。
『エナジー・ソリディフィ』。エネルギーを固体化し、固定するテクノロジー。
翼と羽によって全方位を防御可能な774は、あくまでも刀剣のようにしか熱エネルギーを利用出来ないハイランダーでは攻めあぐねる。
故に、狙いを変えた。
既に一体のハイランダーを相手取っているブレイブへと。
2対1の形に持ち込んで、畳み掛ける算段だ。
フォールは、どうやら更に追加で現れたハイランダーと戦っているようで、援護は期待出来ない。
とは言え、それでもハイランダーはブレイブを仕留める事は出来ないだろう。
また仕留められない以上、いつかは逆に仕留められる。
二体のハイランダーの内、一体が破壊された時だった。
残されたもう一体のハイランダーがブレイブから大きく距離を取った。
そしてその背後、白霧の奥に、体高10メートルほどの影が現れた。
影には、大きな翼が生えていた。その頭部の上には、光輪が浮遊していた。
端的に述べるなら、それは天使のシルエットだった。
影が大きく右手を伸ばし、ハイランダーを掴む。
霧の向こうから見えた右腕は、汚染された機械で出来ていた。
「……武神」
774が呟く。
天使型の武神はハイランダーを己の胸部へと押し付けた。
ハイランダーは天使の胸部へと埋まり、飲み込まれた。
たちまち、天使の右腕が光刃へと変化する。
左手には巨大な散弾銃。
加えて、天使の周囲では霧の流れが奇妙だった。
球体を描くような軌道。重力隔壁による現象だ。
「……おいおい、なんだよこのドデカいゴーレム。逃げた方がいいんじゃねえのか」
フォールがぼやく。
「――やめといた方がいいんじゃない?だって逃げるって、アイツを視界から外すって事だぜ」
だが、撤退は下策だ。
天使型はネームレスの力によってハイランダーと同化した。
そしてヒートブレードを得た。ならば同様に、ハイランダーの他の機能も吸収していると考えるべきだ
つまりステルス能力と、高感度のセンサー類だ。
ここで逃げれば後で巨大なヒートブレードか、散弾銃による暗殺を受ける事になる。
「ここで始末しといた方が、後々のためだと思うけどね」
774が魔力線をより合わせ、固め、槍を作り出す。
天使型の散弾銃がブレイブ達へと、砲弾のようなペレットを発射したのは、それと全く同時だった。 >「…………私は、何を」
私に迫るヒートブレードを翼で受け止めてから、不思議そうにするナナ。
ナナ自身、正確にはナナの中の一部がその疑問に答える。
>「――ああ、ごめんなさい。私があなたの体をお借りしてしまいました」
>「ですが今の行動に、あなたの意思がまったく存在しなかった訳ではありません。
何故なら……私は、あなたの一部だから。あなたは私の記憶の断片を宿している。
それはつまり……私と価値観の一部を、共有しているという事です」
>「大丈夫。私はただの、あなたの一部……すぐに、ただのあなたになる」
機械型ネームレスが眼前から消え、背後に気配を感じるが、私は能力の行使をやめない。
先程の挙動を見るに、ナナなら確実に敵の攻撃を防げると思ったからだ。
>「ほら、ね?」
「ナナ嬢、かたじけない。そなたは自由なるものを獲得しつつあるのかもしれないな」
ナナを相手取るのは不利と判断したのか、ネームレスはブレイヴに狙いを定め二体一の攻防が続く。
霧を排除しておけば倒せるという私の予測が当たっていたのか――やがて二体のうちの一体が破壊された。
「よし! このままいけば……何だ!?」
残った機械型ネームレスが突然ブレイヴから距離を取る。
それは自分の意思で退いたというよりも何かに引き寄せられたような……
背後から巨大な何者かが現れた。
頭上には光輪を頂き大きな翼をもつ、天使のシルエットをした――しかしこれまた機械。
>「……武神」
機械型ネームレスは、武神というらしい天使型ネームレスに吸収されてしまった。
すると機械型ネームレスの能力を取り込んだのか、その両腕が変化する。 >「……おいおい、なんだよこのドデカいゴーレム。逃げた方がいいんじゃねえのか」
>「――やめといた方がいいんじゃない?だって逃げるって、アイツを視界から外すって事だぜ」
>「ここで始末しといた方が、後々のためだと思うけどね」
ナナは魔力で槍を作り出し、迎撃の構えだ。
と、天使型ネームレスが散弾銃を撃ってきた。
散弾銃といっても巨大なので、弾の一個一個が砲弾のような大きさだ。
が、いかに謎の存在が放つ散弾銃といえど、その弾はいったん発射されてしまえば慣性に従い飛んでくる物体……のはず。
「止まれええええええええええ!!」
砲弾はすぐには止まらないが、幸い私の能力は通用し、ギリギリ対処できる程度に速度が落ちた。
砲弾を足場にするように蹴落としつつ、上空に舞い上がる。
霧を排除する作戦のために一帯に常時魔法の粉を撒いていたのが幸いした。
それがなければどうなっていたか分からない。
「距離を取っても散弾銃で攻撃されるなら……一気に畳み掛けるしかないようだ……!」
私は、蹴落とされたり慣性を失って地面に落ちた弾達を浮かび上がらせる。一斉攻撃の準備だ。
なんのことはない相手が撃ってきたものを撃ち返すといういつもの手口だが、今回は一個一個が巨大だ。
それ自体は大きなダメージには至らなくても、ナナやブレイヴが攻撃する際の目くらましには充分効果を発揮するだろう。 【インフラックス・インフェクション(U)】
『危な……』
攻撃を垂直方向に回避するベルを背にして、俺は水平方向に動く。
即ち、最初に一機目が出現した正面側に向かって飛び出していた。
『少しの間相手を頼めるか?』
「―――断る。持ち堪えて見せろ!」
ベルが上方への退避を選択した時点で、追撃から空中での防衛戦になると踏んだ。
敵機は二体。この戦局で最も警戒すべきは外側からの挟撃だった。
陸戦で足止めが出来れば、数的優位を保てる筈だ。
「俺が、道案内をしてやる。此処は貴様が……俺達が居るべき世界じゃない」 【ツイン・ブラッド(U)】
『そんなくだらない理由で、追いかけっこを始めたのかい? 勝手に僕を鬼にしてさ。
それとも隠れん坊をやってる心算だったのかな……探すのに随分と苦労したよ』
「イザヤ……何をしに来た」
『そんなに警戒しないでくれよ、傷付くじゃないか。僕は兄さんを迎えに来たんだ』
廃城のバルコニーを吹き抜ける風に梳かされた俺と同じ色の長髪が、空に流されている。
イザヤが髪を伸ばし始めたのは、何時からだったのか。そんな事も、もう思い出せない。
「親父は、どうした」
『あれからずっと、母さんとミリヤを探し回ってるよ。手掛かりは無いけどね。
二人が見つかった時に、兄さんが居なかったら、きっと悲しむ。
特に、ミリヤは寂しがり屋だったから――』
「――黙れ!」
『城の中、酷い有様だったね。あれを一人で全部やったんだとしたら、見直したよ。
すごい才能じゃないか。そして今は、僕の事まで殺そうとしてる……違うかい?』
「俺は、お前達とは違う。俺は……人間だ」
『嘘だね。力の強き者が、殺して、支配して、増殖する。
それが僕達の本能だ。この世界の、たった一つのルールだ。
ただ、人類よりもネームレスの方が強く純粋な存在だっただけの事さ』
鮮血の色をしたクリスタルを手の中で弄ぶイザヤの眼差しに、迷いは無い。空虚だ。
発展でも繁栄でも無い機械的な増殖は、単なる結果だ。それは目的ですらなかった。
「もう止めろ。それ以上、この力を使えば……引き返せなくなる」
『引き返す? そうか……兄さんは、まだ引き返す場所がある心算でいたんだね。
それって、この城の地下を移動してる生体反応の事かな? 一つ、二つ、三つ』
「―――イザヤ!!」
『……四つ。ああ、子供も居るね、可哀想に。兄さんを入れても、たった五つか。
これじゃあ、僕の鬼の番は直ぐに終わりそうだ。ブレイヴ・セッター……!!』
陽光に翳された血晶の紅い影が周囲の大気を染め上げ、風圧にイザヤの髪が逆立つ。
俺の胸部に癒着したクリスタルが共鳴し、ジャケットの襟口からラグナ粒子を吹き出す。
「うおおおおおおっ! ブレイヴ・セッター!!」 【インフラックス・インフェクション(V)】
現界した灰色の魔導騎士が白霧の前線を突き破り、ハイランダーを強襲する。
《メタル・ブレイク・ドライバー――――》
動力部の位置は、右腕が知っていた。
《――――イグニッション!!》
心臓を串刺しにされても尚、凶刃を振るう狩人の腕/末端関節部を騎士の左手が抑え込む。
ハイランダーの修復能力とMBDの掘削性能/トルクと魔導粒子の干渉が回転軸で拮抗する。
『試してみたい事がある!』
ベルとナナの周囲では、霧の消えた空間が形成されていた。あの領域を広げる算段らしい。
やがて、二名と交戦していた二機目が目標を変更する。こちらの膠着状況を察知されたか。
『動け……!』
スラスターを焚き、旋回をかけながら敵機を白いヴェールの向こう側へと押し込んで行く。
刺し貫いたままで霧の"台風の目"の中へと叩き込み、接近中の二機目へと激突させた。
《……貴様は其処で永遠に停止していろ、ハイランダー》
修復能力を失った一機目が沈黙。MBDを引き抜く動作で奇襲地点を振り返った。
オーバーヒートした鋼柱は歪み、白霧とは異なる燻んだ蒸気を立ち昇らせている。
『よし! このままいけば……何だ!?』
『……武神』
『……おいおい、なんだよこのドデカいゴーレム。逃げた方がいいんじゃねえのか』
衝突で弾き飛ばされた二機目は、新たに出現した10m級と融合を果たしていた。
フォールは、やや位置が遠いか。三機目の増援となるハイランダーと交戦中だ。
『止まれええええええええええ!!』
天使型の掃射に対応して、ベルは展開中の能力で減衰を掛けた。
その弾道を、さらにラグナ・フィールドの斥力が歪曲、散逸させる。
『距離を取っても散弾銃で攻撃されるなら……一気に畳み掛けるしかないようだ……!』
《―――ベル、直ぐに撃ち返して距離を取れ!》
散弾銃からの射出体が、通常の運動エネルギー弾であるとは限らない。
それらが彼我の間で浮遊状態にある戦術的リスクは、滞空時間と共に増大する。
対象の性質が不明である以上、少なくとも第二射による包囲を受ける事態は避けるべきだ。 >《―――ベル、直ぐに撃ち返して距離を取れ!》
ブレイヴの何か危険を予知したかのような言葉――彼の戦闘に関する感覚は確かだ。
私は言われた通りに、制御下にある砲弾を一斉にぶつけつつ距離を取る。
重力操作の能力だろうか、大半の砲弾が不自然に軌道が逸れていくが、
逸らし切れなかったのであろう何割かが当たり、ついにバランスを崩し転倒する。
その隙に接近したナナの持つ魔力の槍が、天使型ネームレスの胸部を貫いた。
「やったか……先に進もう」
歩き始めた途端、突然ナナに突き飛ばされる。
直後、私とナナのすぐ横を、巨大な魔力弾らしきものが通り過ぎていった。
「……また助けられたようだな」
天使型ネームレスが起き上がりつつこちらに散弾銃を向けている。
「まだ生きていたのか。しかも今度は魔力の弾だと……!?」
物理的な砲弾では撃ち返されることを学習したのか……!
いったん排除していた霧が、まるで引き寄せられるかのように周囲に集まってきていた。
その時だった。
「チェストぉおおおおおおおおおおおおお!!」
奇声と共に赤い閃光(※ガ〇ダム的な意味ではない)が閃いた。
突如として現れたその謎の物体は天使型ネームレスに札を貼りつけ、ドヤ顔で三点着地をキメていた。
球体に顔と手足がついたような、漫画に出てきそうな謎生物だ。
見れば変な札が天使型ネームレスの額に貼り付いている。
「狙いが外れてしまったか……。まあいい、どこに貼ろうが効果に影響はない。
本来ならすでにオーバーキル状態、ならば名を与えてやれば容易く自壊する!」
謎の生物が何か言っている。
狙いが外れたのではなくわざとじゃないだろうか。程なくして天使型ネームレスはド派手に爆発した。
「もう逃がさないぜシェアワールドの1! 貴様がこの世界に逃げ込んだのは分かっている……!」
「えーと……かたじけない、そなたは……?」
謎の生物が指パッチンすると、天麩羅定食が現れた。何かの手品だろうか。
「いただきます!」
「あ、自分で食べるのか……別に構わないが」
「食べないと皿の底の文字が見えないからな」
言われてみれば定食の皿の底に、何か書いてある。 【天麩羅プレート】
名前:首領パッチ
種族:アルプス山脈の純粋な水にのみ生息する妖精(自称)
年齢:?
性別:男?
身長:可変。人間の腰ぐらいまでの大きさに描かれていることが多い
体重:可変
性格: ハジケリスト(直訳するとバカ)
所持品:首領パッチソード(長ネギ)、彼氏の”やっくん”(変な顔の人形)
容姿の特徴・風貌:トゲトゲと手足と顔がついた赤い球体
簡単なキャラ解説:NPCにつき操作自由なんだぜ!
【属性】
真か偽かなど愚問、何故なら首領パッチとは一にして全、全にして一なる存在だからだ……!
【所属世界】:
なんでもいいからここをTRPGスレにしろ ttps://w.atwiki.jp/narikiriitatrpg/pages/345.html
東方TRPG ttps://w.atwiki.jp/narikiriitatrpg/pages/162.html 私が皿の底を読んでいる間に、謎の生物は爆心地に残っていた札を回収した。
札には「とっとこハム次郎」と書いてある。
「その札は……?」
謎の生物は、とっとこハム次郎の文字をこすって消しながら応える。(何回も書いたり消したり出来るらしい)
「この札は“ネームプレート”――彷徨える魂に名を与えることにより世の理に引き戻しその不死性を絶つ。
”ナナシ””ネームレス”とはあらゆる生命が持つ”名”の枷から解き放たれることにより世界の理から外れた存在……」
書く名前は真名を書かないと効果を発揮しないとかではなく別に適当でいいんだ……
と思った私であった。
「よく分からないが貼ったらネームレスを倒せるアイテムだということは分かった。
先程口走ったシェアワールドの1というのは何だ?」
「オレ達はそう呼んでいるが他の呼び名もあるかもしれないな。
分かりやすく言えば大魔王とか悪の帝王とかラスボス候補とかネームレスの王とかいうやつだ。
最近の流行に乗っ取って例えると鬼〇辻無惨ポジション的な!?」
「その例えいるか!?」
「奴はこの世界を拠点として多元世界征服を目論んでいる!
全ての生命をネームレスとして自らの手中におさめた暁にはそれを走狗とし他の世界に侵略する算段だ……!
というわけでここで会ったのも何かの縁、力を貸してくれ! 共にシェアワールドの1を倒そう!」
半信半疑、というより適当言ってそうな要素しかないが、
ネームレスの無限の再生力を封じるアイテムを持っているというのは大きすぎる。
謎の生物は長ネギを地面に立てて手を離し、長ネギが倒れた方向を指さしながら自信満々に言った。
「こっちだ……! 濃厚な奴の気配を感じるぜ!」
「今棒倒ししたように見えたのは気のせいだろうか」
なし崩し的に付いていった先には、いかにもなデザインの重厚っぽい扉があった。 ゴゴゴゴゴゴ……
まるで我々を歓迎しているかのように、重々しい音を立てながら扉が開いた。
尚、ブレイヴは霧の中に潜んでいるネームレスを駆逐すると言って単独行動に移ってしまった。
「これ、入っていいのか……? 明らかに罠じゃないのか!?」
「えいやっさー!」
入っていいものか躊躇っていると、首領パッチに後ろから突き飛ばされて強制的に入れられた。
部屋の中には、濃霧が立ち込めていた。
「フハハハハ!! よく来たな―― 我こそは名も知られぬ混沌の神……この”霧”を作り出した元凶よ!」
ファンタジー悪役あるあるの銀髪長髪の超絶美青年が、これまたありがちな悪役笑いをしながら出迎える。
ただ、ケモミミキャラが被ったら丁度耳を出すのに良さそうなデザインの変な帽子を被っているところだけがあるあるでは無かった。
名前:名も知られぬ混沌の神
種族:邪神
年齢:少なくとも1億と2、3歳以上
性別:可変
身長:可変
体重:可変
性格: 常に世界を混沌に陥れようとする(意訳するとバカ)
所持品:いかにも邪神っぽい仰々しいデザインの杖
容姿の特徴・風貌:銀の長髪の超絶美青年の姿を取っているが変な帽子を被っている
簡単なキャラ解説:闇黒波動を自在に操り混沌の異名を持つ高貴なる神
世界征服を目論む帝国の幼女皇帝の側近
【属性】
真か偽かなど愚問、何故なら我は原初の混沌だからだ……!
【所属世界】:
闇黒神話TRPG ttps://w.atwiki.jp/narikiriitatrpg/pages/576.html
「ここまで来れたことは誉めてやろう! だがッ! 飛んで火に入る夏の虫とはこのことよ!
貴様らはまんまと我が罠にかかったのだ。
間もなくあらゆる世界が交差する“クロスワールドの刻(とき)”が訪れる……。
それを皮切りに私は多次元への侵略を開始するッ!
喜べ、貴様らは最強のネームレスの素体となり我が幼女皇帝陛下の悲願達成の礎となるのだ……!」
「幼女皇帝のパシリめー! やーいロリコン!」
「ロリコンちゃうわ! この1.5頭身が!」
首領パッチと混沌の神がののしりあっているところに、知らない人が乱入。
「そうよ、幼女を馬鹿にしちゃ駄目!
唐突に思い出したけどそういえば昔の仲間に幼女が好きな神官がいた気がするわ」 名前:アイラ・フォーチュン
種族:古代エルフの末裔のハーフエルフ
年齢:少なくともアラ240歳以上
性別:女
身長:元スレで明記無し・少し高めと思われる
体重:元スレで明記無し・少し軽めと思われる
性格: ツッコミ属性と見せかけて天然ボケ・お宝好きで儲け話好きで貧乏性
所持品:王道なデザインの魔導士の杖
容姿の特徴・風貌:公式設定で決まっているのは少し尖った耳程度
簡単なキャラ解説:かつて真性幼女勇者(オリキャラRPG)とか見た目幼女ドワーフ(オリキャラRPG2)と共に世界を救った魔法使い
【属性】
真
【所属世界】:
オリキャラRPG ttps://w.atwiki.jp/narikiriitatrpg/pages/417.html
オリキャラRPG2 ttps://w.atwiki.jp/narikiriitatrpg/pages/38.html
「そなた、いつの間にいた……?」
「さっきからいたわよ?」
よく見ると彼女の後ろにも扉がある。
どうやらこの部屋に私達が入ってきた扉以外にも色々と別ルートがあったらしい。
更に、もう一人――いや、一人と一匹が登場した。夏っぽいイメージの人型生物が小さい犬を肩に乗せている。
「名前忘れたけど週一ペースで現れる有象無象の魔王や邪神の一人め! よくも我を異次元に飛ばしてくれたな……!
おかげでうっかり記憶喪失になって南国の島で店舗経営をしていて遅くなってしまった!」
「覚悟しいや!」
名前:アクエリアス・シラート
種族:半妖(母親が水の大精霊)
年齢:?
性別:女
身長:可変
体重:可変
性格: 夏休みを全力で楽しむ中学生のような性格
所持品:精霊魔導銃“ツインマーキュリー”
精霊魔導器“タイタン”
容姿の特徴・風貌:装備は上からゴーグル/タンキニにパーカー/ショートパンツ/サンダル
簡単なキャラ解説:神木によって多数の異次元と連結して週一ペースで魔王や邪神が攻め込んでくる世界の公務員
しょっちゅう任務中に他の世界に飛ばされては行方不明になるらしい
【属性】
真
【所属世界】:
こちら"ミルダンティア王都立市街魔術迷宮捜査局"!
ttps://w.atwiki.jp/narikiriitatrpg/pages/398.html
南国の楽園バハラマルラTRPG
ttps://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1475651973/l50 名前:紅蓮再帰(ブラッディマルス)チャロ
種族:犬
年齢:元スレでは0歳だったが今は不明
性別:漢
身長:犬サイズ
体重:犬サイズ
性格: 関西弁で喋る犬
所持品:赤い星のペンダント
容姿の特徴・風貌:右耳が白、左耳が茶色の犬。マッパに首輪に赤い星のペンダント。
簡単なキャラ解説:元々はN〇Kの英語の勉強用ラジオ番組のキャラだがほぼ面影が無い
当時のPLが何を思って”紅蓮再帰(ブラッディマルス)”の枕詞を付けたのか、今となっては誰にも分からない
【属性】
真
【所属世界】
古代神聖チャロッゼン帝国の憂鬱 ttps://w.atwiki.jp/narikiriitatrpg/pages/396.html
こちら"ミルダンティア王都立市街魔術迷宮捜査局"!
ttps://w.atwiki.jp/narikiriitatrpg/pages/398.html
「自己紹介は済んだか――そろそろ行くぞ! いでよ、混沌の魔獣――闇黒灼熱地獄《ダークインフェルノ》!」
混沌の神がいかにもな技名を叫ぶと、仰々しい演出と共に空間が歪み、混沌の魔獣が召喚される。
両手にバチを持った褌一丁の筋骨隆々の暑苦しい漢達(※混沌の魔獣)の集団が突撃してきた。
「あの集団、久しぶりに見た気がする……いや、何を言っているんだ私は。あんなのを見たことがあってたまるか」
「キャー! 変態! こっち来ないで――! マ〇カンタ!」
アイラがわざとらしい悲鳴をあげながら魔法を跳ね返すバリアーを張る。
アイラの出身世界は、魔法とかがしれっとド〇クエに準拠している世界らしい。
魔法の障壁が展開され、混沌の魔獣達が障壁にぶちあたってUターンし、混沌の神に突撃していく。
「なかなかやるな――だがッ! マジックリフレクション!」
混沌の神も魔法反射の障壁を展開する。
混沌の魔獣(※見た目はマッチョ軍団)が二つの障壁の間をエンドレスで往復するシャトルラン状態となった。
「うぎゃあああああああ!! 開幕早々絵面が酷い!!」
あまりの暑苦しさに、首領パッチが床を転げ回っている。
「マッチョ軍団は放っといてこっちからいくぞ!」
アクエリアスの略でエアリス……じゃなかった、
エリアス(とチャロ)が精霊魔導器“タイタン”(空飛ぶキックスクーター)に乗って突撃する。
最近リメイクが発売されたせいかつい間違えてしまった。
噂によると単語って最初の文字と最後の文字が一緒だと同じに見えるらしい。
「アクアカッター!」
「ダークスラッシャー!」 エリアスは、二丁一組の精霊魔導銃“ツインマーキュリー”を操り、超高圧の水の刃を矢継ぎ早に放つ。
闇の波動を放つオーソドックスな闇魔法みたいなやつで対抗する混沌の神。
「普通にバトルしている……だと!?」
さりげなく背景で驚き役になろうとしていた私だったが、首領パッチが息も絶え絶えにネームプレートを差し出してきた。
「オレはもう駄目だ……。アイツにこれを貼りつけろ……!」
「分かった!」
「えっ、心配するリアクションとか全く無し!?」
「省略した!」
私は躊躇いなくネームプレートを受け取り、混沌の神の背後に向かって飛ぶ。
アイラは背景で解説役と化していた。
「闇黒灼熱地獄《ダークインフェルノ》……
あまりの暑苦しさにより気温を上昇させ敵を熱中症で死に至らしめる恐ろしい技だったのね……!」
「貰ったぁああああああ!!」
混沌の神がエリアスとの戦闘に気を取られている隙にあっさり背中にネームプレートを貼りつける事に成功した。
よく見るとネームプレートには「ラスボス」と書いてあった。
「き、貴様―っ、何を貼った!?」
辺りに濃霧が立ち込め、何も見えなくなる。
「この機材ここでいいんすかね!?」「ばっきゃろー! それはこっちだ!」「電飾が付きません!」
混沌の魔獣達が忙しそうに走り回っているのは気のせいだろうか。
その間にエリアスは首領パッチに青いジュースをぶっかけていた。
「ふぅ、生き返ったぜ!」
「運が良かったな、我はステータス異常:熱中症に対しては無類の強さを誇る……!」 そうしているうちに霧が晴れ、形態変化した混沌の神の巨大な姿が目の前に現れた。
俗に言うところのラスボス第二形態だ!
巨大な舞台装置のようなものの上に人が乗っているようなデザインの、ありがちなラスボス第二形態である。
「少々見くび」
キィイイイイン! とマイクのハウリングのような雑音が響く。
「音響、何やってる!」
「サーセーン!」
「あーあー、マイクテストマイクテスト。少々見くびっていたようだな、まさか貴様らがネームプレートを持っていたとは……。
お遊びはここまでだ……本気でいくとしよう!」
「いわゆる小林〇子系ラスボスだな!」
首領パッチが、皆が思っているけど言っていいものか迷っていることを容赦なく言ってしまった。
ネームプレートに”ラスボス”と書いたからラスボス(小〇幸子)になったのかもしれない。
「小林〇子ちゃうわ!! 必殺、千本桜!!」
「やっぱ小〇幸子じゃん!」
ラスボス(小林〇子系)は千体ぐらいに増殖した。桜は桜でも囮的な意味のサクラだったらしい。
「どうだ、どれが本物か分かるまい!」
「くっ、流石に本物だけが喋っていて丸わかりなんていうご都合展開ではなかった……! 」
「ワイに任しいや! これでも幻術を解くのは得意なんや!」
チャロが赤い星のペンダントを頭に乗せてヒゲダンスを踊りながら英語教材の宣伝を始めた。
「リトルチャロ完全版発売中! 1枚1000万円のところを今だけ800万円!
更に一枚買えばもう一枚ついてくる! 今から30分間オペレーターを増員して受け付けるでー!」
「きゃーすごーい!」「とってもお買い得ね!」
「貴様らァ! そんな悪徳商法に騙されるんじゃない!」
サクラだけあって、サクラ達はチャロの前に一斉に行列を作った!
首領パッチが皆を鼓舞する。 「でかしたチャロ! よーし、ティン! 一気にたたみかけるぞ!」
「ティン?」
「ティン……名前が言えない……!」
「……気付かれてしまっては仕方がない。
その通り、この空間では徐々に名前が消えていき最終的にはネームレスと化すのだ!
もう少し行数……じゃなくて時間を稼げばお前達は完全に名を無くしネームレスと化す!」
「くっ、ラスボスの割に超強力な攻撃を仕掛けてこないと思っていたら
このグダグダの全ては行数稼ぎ……じゃなくて時間稼ぎだったのか…!」
どうせならティンではなくベルの方を残して欲しかった! などと思っている場合ではない。
「やっとみつけたぞー! 今日こそは我が王国の秘宝、”名前が一文字ずつ消えていく呪いのサルマタ”を返してもらう!」
名前:ハロキティア・ギャグファンタジー
種族:何か知らんけど白い猫耳と猫尻尾が生えてる
年齢:元スレでは25歳だったがギャグ仕様につき可変
性別:基本女だがギャグ仕様につき可変
身長:ギャグ仕様につき可変
体重:ギャグ仕様につき可変
性格:直球のバカ
所持品:笑いの金メダル略してワラキン
容姿の特徴・風貌:猫耳猫尻尾、金髪ショート
簡単なキャラ解説:元々トロの勇者の末裔たるギャグファンタジア王国の王女で、
従兄弟で隣国サルマタ―リ王国の王子の二足歩行の白猫と世界を救う冒険の果てにコンビ結成。
ギャグファンタジア=サルマターリ連合王国の女王となった。
【属性】
真
【所属世界】
ギャグファンタジーTRPG ttps://w.atwiki.jp/narikiriitatrpg/pages/204.html
「どうでもいいわよ!」
「ゴルゥアアアアア!! クソみたいな自己紹介で尺を取るんじゃねぇ!!」
哀れ、最悪のタイミングで登場してしまったハロキティアは罵倒の集中砲火を受けた!
「えっ、何この風当たり!?」
「まぁ……タイミングが悪かったと思って気にしないでくれ」 ハロキティアは、混沌の神がかぶっている変な帽子を指さして言った。
「あれが我が王国の秘宝たる呪いのサルマタ! あれを奪えば名前が消えていくのが止まるはずだ!」
「あれサルマタだったのか! 変な帽子かと思っていたが確かに言われてみればサルマタだな!」
「え、これ……サルマタだったのか……? 帽子じゃなくて!?」
「どう見てもサルマタっしょ!」
「かっこいい帽子だと思って被っていたのに……私は今までサルマタを被ってドヤ顔をしていたというのか……!
ぬわ―――――――――――――――ッ!!」
サルマタを被って意気揚々としていたのが余程ショックだったのか、断末魔の絶叫をあげて悶え苦しむ混沌の神。隙だらけだ。
「今よ! 極大消滅呪文、メ〇ローア!」
アイラの放った極大消滅呪文が舞台装置部分を消し飛ばし、混沌の神を地面に引きずり下ろす。
混沌の神は手に持つ杖を柄に、闇の魔力で鎌を作り出して襲い掛かってきた。ありがちな最後の悪あがきだ。
「よくもこの私をコケにしてくれたなぁ! 皆殺しだぁああああああああ!!」
「ブレイヴ殿、私に力を貸してくれ……!」
ブレイヴから貰ったミスリル銀の剣を宙に舞わせ、応戦する。
「うりゃっ」
背後から忍び寄ったハロキティアがワラキン(見た目はおもちゃの金メダルっぽい)で後頭部を殴り、昏倒させた。
「とどめだ! 首領パッチエキス注入!」
首領パッチがすかさず自らのトゲを引っこ抜いてそれをぶっ刺し、首領パッチエキスを注入。
「安心しろ、首領パッチエキスを注入されても死にはしない。オレと同じ思考回路になるだけだ……!」
「そうか、それなら安心だな!」
サルマタを頭から引っこ抜いて奪還しながらハロキティアは同意した。 「……はっ、私は何をしていたのだ……!?」
「きっと呪いのサルマタをかぶって混乱していたのさ」
その時、混沌の神のケータイ(ちなみにガラケー)が鳴った。
「あっ、皇帝様! どこで道草くってるのかって……!? 滅相も無い!
うっかり帽子を被ったら呪われてしまったようで……言い訳無用!? は、はい! すぐ帰ります!」
混沌の神はケータイ(ガラケー)をしまい、気を取り直して口上をする。
「今思い出したんだけど我は通称カオス、皇帝様にはかーくんって呼ばれてるんだったわ!
よくぞ私を倒したな! だがっ、この世界が続く限り我は何度でも」
口上を言い終わる前に容赦なく強制送還っぽいエフェクトが発動する。
「あ、ちょっと待って! 台詞を言い終わるまで強制送還ちょっと待って! ウボァ!」
混沌の神もといかーくんが消えた空間を見つめながら、首領パッチが感慨深げに呟いた。
「終わった……のか」
「世界征服を目論む幼女の帝国の側近の混沌の神が名前を消す力を持つ呪いのサルマタをかぶって自らの名を忘れ
ネームレスの本体たる霧をまき散らしていた……という解釈で合っているのか?」
「何も考えるな、考えたらいけない気がする……! ほら、帰りのゲートが開いたぜ!」
「そうだな――帰り道が開いたということはこれで良かったのだろう」
首領パッチに諭され、私は考えるのをやめることにした。
ゲートは、扉のような形をしている物もあれば、渦巻のようなものもある。
各々の出身世界に対応しているようだ。
フォールが、ゲートのうちの一つの先に、仲間の世界を感じるという。今すぐくぐる気満々だ。
どうやら即くぐるのが正解らしく、ソロモンによると、このゲートは非常に不安定なもので、いつ消えてしまうか分からないらしい。
「そうか、ゆっくり話している時間は無さそうだな。
ノイン殿、イトリ嬢、フォール殿――そなたらも自分の世界に帰るのだろう? ここまで世話になった」
途中から妙に影が薄かったって? 多分背景にいたのだ。
ラスボス戦でいきなり出現した者達も、彼らと同様に元の世界に帰るのだろう。 「ソロモン殿、ブレイヴ殿を連れてこなければ……」
ソロモン(の使い魔)はかぶりを振り、ブレイヴには自分が伝えるから私は早くゲートをくぐるように促した。
続けておそらく新規のネームレスは発生しないことを告げ、私達に礼を言う。
そして、所在無さげに立っているナナの方に目をやり、彼女を連れて帰るようにと。
「分かった――。ソロモン殿、世話になったな。ナナ嬢――私で良ければ共に来るか?」
ソロモン(の使い魔)は話もそこそこに、ブレイヴや他の勇者達に伝えるべく飛び去った。
私はナナの手を引き、共にゲートをくぐる。潜った直後――大変なことに気付いてしまった。
”しまった、ナナ嬢は私の変身していない姿を知らなかった――!”
次の瞬間には、ナナ嬢と手をつないだまま私の経営する玩具屋ネバーランドの店内に佇んでいた。
後ろを振り返ってみると、ゲートはすでに跡形もなく消えていた。後の祭りである。
「……店長!?」
いきなり現れた私達を見て、住み込みバイトの安半(やすなか)くんが腰を抜かしていた。
私は今までの経緯をかいつまんで説明する。
「いきなり行方不明になっていきなり帰ってきたと思ったら
異世界でいろんな世界から集った人達と一緒に名を無くした化け物と戦っていたと……
夢でも見てたんじゃないですか!?
……と言いたいところですけどその子連れて帰ってきちゃいましたもんねぇ
ところでその子、店長の普段の姿は知ってるんですか……? 知った上で着いてきたんですよね?」
「その、実は……まだ知らない」
「ファッ!?」 そして少し時は流れた。
安半くんは異世界での出来事に興味津々のようなので、私は聞かれる都度答えている。
「ああ、そういえば美味しいアンパンが売りの冒険者の店があってな――
そこのアンパンは君の作るアンパンにそっくりだったよ」
「そうなんですか!」
ナナは安半くんが作ったアンパンをむしゃむしゃ食べている。
幸い彼女は、私の普段の姿を知っても大して気にする様子もなく、そのまま私の店に住むことになった。
(ちなみに安半くんは寸止めパンチでアンパンを作り出す能略者だ。そしてそのアンパンは超美味しい)
その時私のスマホが鳴った。
「過激派勢力が暴れていると!? 分かったすぐ行く!」
私は仲間達の方に向き直ると、出動を告げた。
「安半くん、ナナ嬢、出動だ!」
ブレイヴから貰ったミスリル銀の剣を携え、街の平和を守るために美少女妖精戦士ティンカー・ベルは今日も戦う。
ブレイヴがあれからどうしたのか――結局分からず終いだ。
だが、一つだけ分かる事がある。ブレイヴは、自分が死んだらこのミスリルの剣も消えると言っていた。
裏を返せば、この剣が存在している限り、ブレイヴ殿はどこかで生きているということ。
その剣に向かって、有耶無耶のうちに別れて結局言えずじまいだった礼を告げた。
「ブレイヴ殿、かたじけない。機会があればまた……いつかどこかで――」
【TRPG】下天の勇者達【クロスオーバー】 ベル編完! ご愛読ありがとうございました!