掌編。酷評よろ。


あの時期、僕はどれだけ自分を見つめ直してきただろう? どれだけ日々繰り返し内省してきたことか? 光のない闇ばかりの長いトンネルを進んで行っているような苦しい日々。
五月の関東選手権大会の県大会でこの日、四本目の矢が的を中て皆中させた時に、僕は嬉しいというより、安堵して手に力が入らなくなったのを覚えている。
私生活の悩みを抱えたまま、僕はスランプに陥っていた。みゆきに別れを告げられたあの日から僕の放った矢が的を外すことが多くなった。みゆきがいたことで精神の均等が保たれていたのだろうか?
あの後、散々、泣きはらしたし気分転換をしようと部活をサボって山に登ったり、池袋の街を当ても無く歩いたりもした。友人とカラオケに行ったりもした。
だけど、そのどれもが虚しい気持ちを抱えたままはっきりとしない空模様のように太陽が現れるのをただ願うばかりの日々だった。
僕がこの心の空白を埋めるために弓道ともう一度、真剣に向き合わなければならなかった。弓道場に戻って弓を引いて矢を放ちたい、一周して僕は漸く、そういう気持ちになった。
一週間ぶりに場に姿を現した僕をコーチは黙って迎い入れてくれた、何かを察しているかのように何も言わずに。
「右肘を少し下にして、顎を少し上向きに……そう……」
コーチは、ピンと張った和紙に風を送って震わせたような低い声で私の姿勢を正した。この一言の後で、矢は的を中た。
「……膝を曲げずに曲げたような感覚を持て」と二矢目の前のコーチのアドバイス。再び矢は的を中る。
不思議な感覚だった。静寂の中、蝋燭に灯った火のように揺ら揺らとした精神は振り子のように火の形を保ちながら燃えている、そのような状態だった。僕はコーチの声に耳を傾けつつ無心になっていた。
三矢目、今度は的を外した。
コーチは黙っていた。僕は四回目の弓引きの時に完全に無になっていた。そしてコーチのアドバイスをもう一度思い出して矢を放った。的中。的を中た後に私は目を瞑る。みゆきが掛けた呪いを振り払うかのように……
目を瞑った瞬間に、僕はみゆきとの決別を決心したのだと思う。みゆきと過ごした日々、僕はみゆきと付き合い始めた時から僕の精神の一部が彼女の存在によって成り立っていたのだ。