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なかにはスポーツの精神論とビジネスマンの意識の高さを結びつけて語りたがるやつもいる。
私の会社の同じ営業部の新田という男が仕事における精神論についてよく語りたがるのだが、
彼曰く「判断は誤るものではない」ということである。
あれは会社の連中とオフィスでオリンピック中継を観ていた時のことだ。スノーボードのハーフパイプの決勝、ドイツの選手が凄い難易度の高い技を成功させて、
その後に滑った若い穴山という日本人が最後の技を繰り出せずに失敗した。それを観て新田は「穴山は判断を誤ったな。一回目のジャンプからおかしかったものな」と言った。
何でもスノーボードハーフパイプは半円形のデッキの縁の部分であるリップにボートが付いた瞬間から勝負が決まるのだという。
「ハーフパイプって競技は仕事と同じだ。始めに空中を飛ぶ瞬間に勝敗が決する。仕事もバランスを崩したら判断を誤る。一つの仕事に取り掛かる前が重要なんだよ。
一回目のジャンプに集中して、最後の大技を決めるために全てはある」と言った。更に新田は「人生だって同じだ。赤ん坊の時はしょうがないが、物事ついた時から意識を高く持ってるやつが人生に成功する」と続けた。
些か最後に付け加えた文句は滑稽だが、彼の精神論もまあ一理ある。しかし、判断というものはやはり誤るものだ。逆説的に言えば、誤らなければならない。流れに乗るために始めが重要ではある。だがどうやったってうまくいかないことはある。
失敗を繰り返さなければ成功することはない。そうでないとしたら、私のこれまでは無駄だったことになる。