獣人総合スレ 11もふもふ
うわ可愛い。塗りがいつもと少し違うような気がするけどこれはこれで良いな ttp://dl6.getuploader.com/g/sousaku_2/639/furry537.jpg LEDの明かりが溢れる電子の森を潜り抜ける芹沢と因幡を想像すると、教室の中の二人とは違った顔が思い浮かんだ。
「ツリーがきれいだったし!写メったし!」
煌々と青く照らされた街路樹、ちょっと早いクリスマスカラーの塔。いつもは幅を利かせている水銀灯も今夜は名脇役に徹する。
真っ暗闇になってしまったぼくらの街に舞い降りた期間限定なる贈り物。寒い季節になると空気が澄んで街がより一層に輝きを増す。
そんな光の街を通り抜けて、小高い丘の坂道を三人で登る。
日が落ちる時間が早くなり久しいが、その分ぼくらの時間も自由に使える至福。しんと底つく闇の中で、
明々なる光の門で出迎えてくれたのは、慣れ親しんだぼくらの学校だった。それでも芹沢はイルミネーションの話を続けていた。
「そうだ。犬上、この間教えてくれた本、面白かったよ」
「え?」
「一気読み!リオも読みなよ!」
「その作者のシリーズのコミカライズなら読んだけど……」
「リオ、そのマフラーかわいい!」
話がいきなり変わるのは女子の特権。それぐらい分かってる。分かってるつもり。
芹沢は嬉々としながら校舎の玄関でブーツを脱ぐ。きっと親に泣き付いて買ってもらったであろう、ファー付きの
ショートブーツが垢抜けない簀の子の前に並ぶ。いかにも芹沢のキャラにお誂えでかわいらしいな。
「ありがとう。あれって、読む人によって受け取り方が違うんだけど、芹沢ならきっと好みかなって思って」
一週間前に教えてあげた本の感想だった。ぼくが書いたわけではないが、勧めた本がほめられるとぼくもちょっと嬉しい。
靴を脱いだ因幡は片方の手でスカートを気にしながら簀の子の上で屈んでいた。
なんとなく女子をチラ見せする因幡は大人しい。やっぱり因幡もオンナノコなんだなぁ……褒めておこうっか。
「へー、いい本薦めたね。いいとこあるじゃん。犬上のくせに」
前言撤回。
「どういう意味だよ、因幡」
「犬上、行くよっ」
芹沢は自分のブーツが自分の靴箱に入らないことに夢中になっていた。女の子の悩みは細かいところでふりかかるんだと、感心。
ぼくらが一路目指すのは、教室でもなく、屋上でもなく、図書館だ。今夜の渡り廊下は老若男女で溢れかえって、静かに賑やかだ。 「こんばんは」
「こんばんは」
「こんばんっ」
図書館の入口で司書の織田(おりた)さんがぼくらを笑顔で出迎えてくれた。
眼鏡が良く似合う、長く柔らかそうな髪を束ねた織田さんは、きっとパンを焼くのが得意だろう。パンを焼いたって話は
聞いたことはないが、きっとそうなんだろう。そんな、柔らかな印象を持つ織田さんが忙しそうに本を整理する。
重い本を嫌な顔一つもせずにせっせと運ぶ織田さんは図書館が好きだ。
「『夜図書』始めてから、本のリクエストが増えたわ」
嬉しい悲鳴。ぼくらはそっと織田さんの言葉を耳に挟んだ。
灰色がかった老人は木製の椅子に座り文庫を捲る剣豪にも見える。
昼間はきっと仕事の鬼なるサラリーマンも今宵だけは少年の心を持ったヒーローだ。
つんとすました美人なお姉さんもサイケデリックなホラーに舌鼓。
ここはどんな者にもなれる図書館だ。
ぼくははやる気持ちを抑えつつ、足早に本棚へと脚を向ける。だが、マフラーを解いた因幡は一つ大あくびをしていた。
もったいないなぁ……これからだって言うのに。
「昨日、夜更かししちゃって」
「『夜図書』行こうって言ってたのに?」
「委員長は忙しいんですっ」
果してそうなのか。対して芹沢は広場を得たイヌのようにきらきらと目を輝かせていた。ブーツを入れたビニル袋を尻尾のように
揺らすって、まるでこどもだし。明かりが点る街を見ながら、今宵を共にする一冊を選ぶ贅沢を大人になる前に味わえる。
こんな時期が訪れてくる。ぼくらはまだかまだかと待っていた、夜の図書館がぼくらの学園で開かれる。
一季節に一週間だけやって来る、静かで、尊い時間。
ここに集う者みな、本が好き、人が好き、うつろいゆく四季が好き。
歳も、性別も、職業も、種族も、何もかも問われることはない自由な聖域。
春は夜桜をカーテンに、夏は天の川をスクリーンに、秋は紅葉をマフラーに、冬は澄み切った空気を枕に。
各々自分が好きな季節を背景に書に耽る。中にはそんな贅沢なシチュエーションをよそに活字の世界に浸かる者。
そんな者たちが夜な夜な集う『夜の図書館』。通称『夜図書』。
「犬上、外がきれいだよ!」
冬季限定、街を彩るイルミネーションさえ、小さく見える書痴の窓。
夜間限定、数多に広がる星空さえも、鳴りを潜める文学の小道。 この活字の森に入ることを許されるものは。
@この街に住む者。
Aこの学園の生徒。
Bそして、本を愛する者。
外の景色を眺めながら星の写真集を捲る芹沢。
ハードカバーの感触を味わう因幡。
そして、ぼくは一気に活字へと前のめり。
しばし、ちょっとおいとまします。
おしゃべりができそうにもないので……。
#
翌日は普通に学校があった。
一週間たりとも『夜図書』を逃したくなかったから、平日でも足を運んだのだ。
一晩寝ずに読みまくるつもりだった。
すべての本を読み尽くすつもりだった。
だが、ぼくも芹沢も因幡も夜の魔物に太刀打ちできず、本を枕に夢の中で朝を迎えてしまったのだ。
本当に夢中になってしまうと時の流れは無力なんだ。因幡が寝ぼけ眼でぼくを起こすと、顔を見られるのを極端に嫌がりながら
カバンを肩にかけていた。『夜図書』はおしまい、日差しが眩しい。外のイルミネーションさえも姿をくらます一日の始まり。
本当は明日が休みならば嬉しいんだけど、星明りに集まるオトナたちの為にも開いているっていうから、オトナがちょっと羨ましい。
おかげで生あくびばかりしながら今日の準備を図書館でする始末だ。昨日までの賑やかさがウソのようにひっくり返る。
老人も、サラリーマンも、美人もいない、ぼくらだけの学園が朝日とともに戻ってきた。ちょっと寂しい。
「犬上、リオー。おっはー」
芹沢が制服姿でぼくらの目の前に戻ってきた。 いつの間にか自宅に戻っていたらしい。
やはり見慣れた制服姿だと芹沢も芹沢らしく見えるんだな。おはようを返そうとするとまた一つあくびが出て、芹沢にも共鳴。
「モエも犬上も起きた!起きた!朝イチの授業は目をかっ開いて受ける!」
「化学だよね……」
「リオ、後でノート写させて。犬上はダメ」
いちばん元気な因幡はぼくらの背中を押して大人しく喧しい教室へといざなった。
おしまい。 モエ「超クリスマスって感じじゃね?」
リオ「超……?」
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投下おしまいです。 白せんせー、おめでとうございますー!
ttp://dl1.getuploader.com/g/sousaku_2/671/shiro_birth.jpg 今年もおしまいですね。
投下します……ん?
『白い夜』
空想が過ぎると、つい甘い物が欲しくなる。
薄暗い部屋の中、乱雑に並ぶ骨董品は、一抓みのスパイスだ。
黒咲あかねは自宅の自分の部屋で、自分の妄想をペンに託して、つらつらと真っ白いノートに書き連ねていたはずだった。
リラックスした時間だから、お気に入りのパジャマ姿だからかもくもくと妄想が沸いてくる快感。そんな気分に浸っていたのに。
それに、愛用していた万年筆がどこにも見当たらない。いつも手にしていたものが見当たらないてことが、どんなに不安なことか。
かちこちと時を刻む振り子時計、ゆらゆらと腕を伸ばす天秤、真珠の輝き色褪せない首飾り。オリオン座が天窓に写る。
暦どおりならば今年最後のオリオン座。ただ、確かな暦さえも把握できないもどかしさ。
自分が見たこともない空間に放り投げられた事実を実感出来ずにいるなんて。ネコ脚の机にチーズケーキが一切れあったから、
ついつい手が伸びてつまみ食い。あかねには覚えのある食感だから、幻覚ではないことを確信した。
知らぬ間に高校の制服姿であったあかねは、いまいち自分が置かれている現状を飲み込めず、口いっぱいの濃厚なチーズを愉しんで
真空管ラヂヲのつまみを捻っていると、真っ白い影がふらりと近付いてくるのに目を丸くした。
人か。
獣か。
はたまた。
あかねと白い影とは自分と明らかに違う姿だと分かった。
ただ、人間であるあかねと同じくように二の足で立ち、まるで大きなイヌのような耳に尻尾に興味が向く。
みどりの黒髪を長く伸ばしたあかねは、白い髪をたくわえたイヌをじっと見ていた。
……イヌの少年だ。
いわゆる『獣人』。ケモノだ。
なぜ、少年?
それは、目が物語る。
「きみは?」
「ごめんなさいっ。勝手にチーズケーキをっ」
「かまわないよ。いつかはなくなるものだし」
白い影の歳はあかねと同じぐらいか。そんな判断が出来る程度にあかねは落ち着きを取り戻した。
一安心したあかねは食べかけのチーズケーキを皿に置く。罪が赦されると思いつつ。
空になった皿を片付けているイヌの少年は、真っ白い毛並みが煤けることを恐れながら、王女を誘うかのようにあかねへと近寄った。
「ここは?」
あかねは素朴な疑問をぶつける。 「ぼくも分からない。ただ、長くはここに居られないはずなんだ」
うっすらと見えるイヌの少年。あかねにも彼の身なりが徐々に明らかになってきた。
ファンタジー小説から飛び出したような、魔法の世界が舞い降りたような。鋼と革で固められた防具と腰に帯びた一振の剣。
長い旅を覚悟の上でのマント。足元はたくましいブーツが守る。二次元でしか出会えないような、一人のイヌの少年。
弓矢を操る白いイヌ、秋の紅葉を背に幻想の空を駆ける刀を振りかざした白いイヌ。
そんなイヌたちの類なのかどうかは分からない。
「行かないと。たたかいが始まるから」
「戦争ですかっ」
「いや、たたかいだよ。時間だ」
イヌの少年の口調はひらがなだ。漢字を好まない少年はあかねを好意的に見ている。はず。
「時間を止めることができれば、たたかいには行かなくてもいいんだ。でも……」
「止めることなんて」
「あの振り子時計をこわせばいい。永久(とわ)にオリオンはぼくらを見守り続けるはずだよ」
天窓の星は遠すぎる。
ヒカルの腰の金具が時計の声を黙らせた。白金にも負けない両刃。イヌの少年は自分の剣を鞘ごとあかねに渡す。
ヒカルと違って素肌の白い手と触れることにイヌの少年はちょっと臆病になっていた。
「冷たい……」
ヒカルは鞘から刀身を出すようにあかねに求めた。
不思議な感覚だ。刃が意思を持って光って見える。柄と鞘が離れれば離れる程に、だんだんと脈が速くなる。
そして、背筋を突き抜ける金属音と共に、剣は本性を現した。ずしりと重い。鉄だし、剣だし。初めて武器を手にするあかねは、
剣先を定めることが出来ずにたじろいだ。黒タイツの両足さえ頼りにならず、一歩前にも動けずに。
対するは振り子時計。素直な心も邪気も持たないはずなのに、巨大な魔王と対峙する気持ちへと麻痺してきた。
針は双方とも重なり合うとき。僅かな針と針の隙間が狭まる度にあかねの呼吸の間隔も狭まる。
「この部屋は居心地がいいね。でも、ぼくはたたかいに行かなくちゃ」
「……」
星を見守るイヌの少年はあかねに背を向けて死の覚悟をしていた。
雑然としている天井裏のような部屋でさえ、心のよりどころになる。
誰かが誰かの救いになる。それが出来ない者など、ろくでなしの極み。
「みんなが待ってる。みんなが救われる」 その声を、その声を最後の言葉にだけはしたくない。もっと彼の声を聞かせて欲しい。
彼はケモノだ。
獣ではない。人が操る最大の武器を彼は持ってるのだから。
意気地無しのあかねは自分の罪を断つように、足元の木目目掛けて剣を振った。
高笑いするのは一日の終焉を告げる振り子時計の鐘だった。
「ごめんなさいっ。どうしても……本当はあなたをたたかいから。えっと」
「ぼくの名前?ぼくは犬上ヒカル」
「ヒカルくんっ。黒咲あかねって子は……ヒカルくんも時間も止められない、何も出来ない悪い子ですっ。
どんな罰でもうけるから、どんな嘲りでも拒まないから、どんな蔑みでも耐えるから、わたしに力を!」
黒タイツの脚揃えて沈むように膝付いたあかねには、恥など罪など全て被るつもりだった。
長い髪さえもすべてを手に入れられるのならば、天帝に捧げようとさえも辞さない覚悟。
「あかねさんはもう手にしてるよ」
誰かが誰かの救いになる。それが出来ない者など、ろくでなしの極み。
ただ、それを気付くことが出来るかは、また別の話。
床に突き刺さった剣とひとつになり立ちすくむあかねは、ヒカルがいなくなる前にヒカルの声が聞けたことに安心した。
いつかは誰もいなくなる。食べかけのチーズケーキさえも、天寿を全うするのだから。
あかねが残ったチーズケーキを惜しそうにぱくりと口に入れる。甘くて濃厚な味が甦りつつ、あかねを慰めた。
「あかねさん。たたかいは終わることはないけど、またあかねさんに会える気がするんだ」
タイミングを誤ったあかねは口にチーズケーキを入れたことを悔やんだ。
なぜならヒカルを言葉で止めるいとまさえも、チーズケーキのお陰で失ってしまったのだから。
チーズケーキが姿を消したときには丸腰になったヒカルの姿も消えた。あかねの手にはヒカルの持っていた、
白金の輝きの剣だけが星の光を写して残っていた。億の値が付くかもしれない骨董品さえもガラクタに見えてきた。
いっそのこと……。
あかねはすべての力を出し切ったように、冷たい床の上、剣を枕にして泥のように眠った。 #
あかねが自室の時計が新年を知らせる音で目を覚ませると、万年筆を握ったまま机に伏していることに今更気付いた。
「24時だ」
一足早い初夢は泡沫になって夜空に消えた。
骨董品もチーズケーキもないけれど、そしてヒカルもいないけど、あかねには万年筆があった。
万年筆は剣と比べて軽く感じた。当たり前だと突っ込まれようが、あかねにはそれが嬉しかった反面、
ヒカルを忘れてしまうのではないか、どこか遠くに行ってしまうのではないかと目を潤るませた。
大丈夫、眠気のせいにしておけ。夜が白いからいいことよ。
キャップをつまみ上げ、寝ぼけ眼で歪んで反射する自分を省みる。
さあ、これから何を書こうか。とりあえず、夢オチの話だけは避けよう。
おしまい。
おまけ。
しろせんせー!暮れも迫った頃に……やりましたね。
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投下おしまい。 モエ、タスク姉弟はやっぱええなぁ。
ttp://dl6.getuploader.com/g/sousaku_2/745/serizawa_lunch01.jpg りんごちゃんからのバレンタインチョコだよ。
もらってくれないと○○ちゃうぞ!
ttp://dl1.getuploader.com/g/sousaku_2/759/rinngo_valentine.jpg
はせやんとヒカルくんのバレンタイン。
どぞ。 「ヒカルくん!数で勝負だ!」
「……」
「バレンタインデーに貰うチョコだよ!どれだけ貰えるか、一枚でも多くのチョコを手にいれた者こそ真のリア充!」
「アキラ!もうすぐ白先生が帰ってくるって」
「……」
「ヒカルくーん!」
青すぎる果実が歯にしみる。
保健室の中と外では温度差が違う。
アキラは裁判ゲームの主人公のように犬上ヒカルを指差して、息を切らしながら保健室の入り口で仁王立ちをしていた。
一方、主の居ない部屋でぬくぬく本を読んでいたヒカルは、どこ吹く風かだらりと尻尾を垂らしてアキラを眺めていた。
世間はまもなくバレンタインデー。リア充、非リアが真っ二つに分かれて聖戦を繰り広げる裁きの日。
日頃「もてたい!もてたい!」を口癖にして、青臭い少年の日々を過ごすアキラにとっては、何としても負けることが出来ない日だ。
いや。誰に?とアキラに問うも、明確な答えは返ってこない。おそらく仮想敵国を勝手にこしらえて、燃えているんだろう。
そこでだ。犬上ヒカルだ。アキラの為に、2月14日をハッピーに、めでたくやり過ごす為にアキラはヒカルに勝負を挑んだ。
「さあ!ヒカルくん。また保健室で会おう!」
第一審は閉廷の時間。
法廷で会おう。
昔のドラマの見すぎです。
アキラは友人二人に脇を抱えられて、ずるずると保健室から摘み出されてゆく。スローモーションで見るにも、勿体無さ過ぎる程だ。
本を再び開いたヒカルが目を丸くしていると、ほんのちょっと保健室の温度が下がっているかの錯覚がする。カーテンだって揺れる。
確かにもうすぐバレンタインデー。これに興味を抱かない少年は皆無とでも言えるのか、それとも大人びて萌え出でる3月を待つのか。
迷い多い少年は本で気持ちを紛らわせるしか、選択肢は残されていなかった。
本は優しい。
ぼくらを優しく包むお姉さん。
でもさ……時折、厳しいんだぞ。
努々油断すること勿れ。
ね。ヒカルくん。
「……」
ヒカルは書の杜に迷い込んでいた。
ふと。
音が。
こん!こん!
びくっと尻尾を振り上げる。
保健室の窓を叩く音がヒカルの手を止める。
本を読む手を止めて、窓の鍵を開けると外から一人のオトナの女子がにこにこと笑っていた。
「ヒカルくん!ちょっと早いけど」
彼女はヒカルのクラスの担任だ。二十過ぎた女の先生だ。ヒカルからすれば、オトナの女……お姉さん。だけど、ヒカルのことが……。
好きだ。
でも、オトナの癖に何故か制服姿が被って見える、泊瀬谷が目を輝かせて窓が開くのを待ちわびていたのだ。
「お口に合うかなぁ」
「ぼくは雑食ですから」
「そっかぁ」
泊瀬谷がここに来ることを前もって知っていたヒカルは、訪れたひと時の安らぎに甘えつつ窓のさんに腕を乗せて、
校庭の泊瀬谷を妹のように眺めていた。後ろ手で隠していた小さな紙袋を自慢げにヒカルの目の前に突き出した泊瀬谷が目を背ける。
品の良い紙質に、リボンをあしらった紙袋の重さはヒカルを喜ばせた。重ければ重いほど、浮き足立つ不思議。
ヒカルが泊瀬谷の目の前で紙袋を開け、中身を取り出す瞬間、泊瀬谷は俯いて存在を悔いるようにぼそっと呟いた。
「随分、探したんだぞっ」
「先生っ」
ずっしりと手に圧し掛かる泊瀬谷の思い。
微かに鼻腔をくすぐる香り。
そして、表面に書かれた心躍る文字。
「わぁ……」
「ヒカルくん好みでしょ?先生は何でも知っているんだから」
出来ることならば、今すぐここで味わいたい。
でも、コドモみたいと笑われるかもしれないから、ヒカルはぐっと泊瀬谷の贈り物を抱きしめることにした。
「今度、感想聞かせてね」
「先生っ、誰かが」
「じゃねっ」
焦った表情を浮かべてヒカルは窓を閉めると、自分の顔がぼやけて写っていることに目を丸くした。
泊瀬谷とヒカルを遮断する窓ガラスが硬く口を閉ざしているけど、ヒカルの余韻は未だに続いているのだった。
「犬上。どうした」
声は保健室の主・白先生。三十路を頂戴して久しい白先生はこの時期がアキラのように憂鬱になるどころか、諦めさえついていた。
バレンタインデー?ナニソレ……と、とぼけることがオトナの流儀だと信じなければならないお年頃だ。
白先生はヒカルの手に収まる泊瀬谷からの贈り物が気になり、ちらりちらりと目線を合わせていたが、ヒカルはわざと揺らしていた。
逆光が味方して、泊瀬谷からの贈り物は白先生にまともに届かず、白先生は尻尾を大きく揺らして機嫌を露にしていた。
ヒカルくん、これがオトナってやつだ。
「何を持ってるんだ?」
「『ショ・コラ』です」
「チョコ?」
「いや……『ショ・コラ』です」
泊瀬谷からの贈り物の名前を素直に話したヒカルに、白先生は近づいてひとつデコピンをお見舞いした。 「オトナをからかうんじゃないっ」
「……すいません」
「しかし、なかなか良いチョイスをするなぁ、お前は。その本はわたしが『じぇーけー』時代に読んだ本だぞ」
「『じぇーけー』……」
「すまん、犬上。女子高生だ」
「はぁ」
『ショ・コラ』とアルファベットで書かれた表紙が古臭さを感じさせず、書痴の琴線をくすぐる一冊。
ヒカルが読みたいと思っていた本を泊瀬谷に教えていたが、それが贈り物となってヒカルの手に届くなんて。
奇跡は願えば必ず叶う。本の出会いにヒカルは天にも昇る心地だった。イヌの背中に羽根が生えたっていいじゃない。
「しかし、この本……。読んでてホント甘くなるよなぁ。これだけのチョコレートの話をこれでもかって」
「そうなんです!チョコレートにまつわる短編集って、余り聞かないじゃないですか!でも、それを一つの作品として
纏め上げて、さらに綿密に張り巡らされた伏線だって最後の最後まで引っ張ってぼくらを飽きさせないって聞きましたから
この本を読まなきゃ!って。ぼくが生まれる前に書かれた本との出会いって……奇跡ですよね、白先生」
この本は白先生がじぇーけー時代に初版が発売されたものだった。
『ヒカルが生まれる前』というフレーズに軽くショックを受けつつも、白先生は窓の外を覗いた。
2月14日の放課後。
第二審の開廷だ。
保健室にはヒカルとアキラ、そして弁護団。つまり、アキラの友人たちが、ぐだぐだとカーテンに巻きついていた。
アキラは手をぎゅっと握り締めて自信満々にヒカルに吼えた。泊瀬谷が贈った本をぱらりと捲りつつ、アキラの遠吠えを耳にした。
「さぁ!ヒカルくん!幾つ?」
「……」
「おれは……おれは、一つだ!!いや……」
誇るべき戦績だと思わないかと言わんばかりに、アキラは瞬きを繰り返して判決のときを待った。
一つで充分。
たった一つ。
どちらとも取れる結果にアキラの如月の風が薄ら寒く吹き抜けてゆく。
「で、ヒカルくんは?」
第一章はガトー・ショコラ。
第二章はチョコレート・パフェ。
第三章はチロルチョコ。
泊瀬谷からの贈り物の本に登場する幾多のチョコレートを数えているうちに、本当に口の中が甘ったるくなってきた。
思わずヒカルは指折りながら……。
「えっと、六つ?かな」
「まじ?」
これにて閉廷。
アキラが膝付いて目を丸くしている側で、ヒカルは活字に目を奪われる喜びに溺れながら第六章の板チョコを味わった。
おしまい。
そんな中、ルイカと真面目のまー子の委員長は…
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投下おしまいです。 ネコの日、おめでとうございます。
『夜食テロ』
画像フォルダから自慢の一枚をネットの海に投下すると、この世を司る全知全能な神になったつもりになる。
二柱の神が混沌とした海を矛でかき混ぜて、大地を創生する気分がひしひしと良く分かる。
下界の民よ、我が手の平に詰られるがよい。支配者は支配される者がいて、初めて存在しうるのだ。
深夜二時過ぎた2月22日、世間はネコの日で賑わうなか、ウサギの少女がネットの夜空で呟きながら、
深夜2時のネコの日で浮かれるネコたちを夜食テロで震え上がらせていた。
ネコの日だから、呟きだらけのSNSサイトでは『#ネコの日』のハッシュタグで、ネットでもネコたちの祭典で盛り上がる志向だ。
ぐだぐだと、ゆるゆるとネコらしく。生産性を求めずに時間を共有するだけで、二言三言の会話で過ごす年に一度の夜。
「ふふふ。ネコたちよ。わたしの料理に喉を鳴らすのよ」
クリック。クリック。
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OKですね?
アップロード……完了。
見ているだけでも舌が垂涎する画像がSNSサイトに一枚現れた。画面からは香りはないものの、
不思議とくんくんと鼻をならしてしまう一品だ。しかし、それは序の口。
これでもかこれでもかと何枚もとタイムラインに貼られ、たまたま居合わせた者どもは揃ってお腹をぐぅと鳴らす。
「鮭のムニエルはどうかな。ついでに人参のソテーもつけちゃう」
「鯛のカルパッチョは外せないよね。あっ、函館のイカ飯もいいな」
「鰯のタタキもイケるよね?」
実行犯のウサギの少女・星野りんごは料理が得意だ。家が小さなレストランだということもあり、
料理に関しては誰よりも自信があった。そして、料理たちはデジカメで丁寧に画像として残されていた。
幾多の料理画像をお腹が空くこの時間に狙って投下する密かな楽しみだ。アカウントも「ネコのJKです」と、
種族を偽ってネコの夜会に電網上ながらに参加してみた。ネコたちの舌の琴線を狙ったのも彼女らしい。
「いいよなあ。ネコの日があって」
りんごの計画通り、腹を空かせたネコたちがこぞって料理画像をリツイートしていた。
夜食テロ、恐ろし。午前2時18分、夜の闇はネコだけのものじゃない。
#
その頃、覚束ないフォーク捌きでカップラーメンをすすると、真っ白な口元の毛並みがほのかに染まった。
白い子ネコのコレッタはひんやりと肌寒い川辺でネコたちにとっては特別な夜を過ごしていた。
ネコの日だから夜更かししてもオトナたちから怒られることはない。むしろ、夜を共に過ごすことを歓迎される。
パステルカラーのダウンジャケットを纏い、ぴかぴかのブーツを自慢すると隣でスマホをいじるオトナのネコに笑われた。
感情に素直なコレッタは尻尾を膨らませていた。周囲ではざわざわと静けさとネコの群れがあたりを賑やかす。
白黒模様で耳が欠けたカギ尾の男。髪は顔の半分に被さり、少年を拗らせた悪いオトナの見本のよう。
ただ、彼からは紳士の余裕がほのかに感じられた。自由人を絵に描いたネコはコレッタのカップラーメンをにまにまと眺めていた。
「美味いか?」
「おいしいニャ」 おいしいものは気持ちを晴れやかにさせることを証明。素直に答えたコレッタはカップラーメンを恥ずかしげにそっと隠した。
午前2時20分。
コレッタ未踏のオトナの時間をカップメンと共に過ごす。
「世界各国を飛び回ったおれもいろんな物を口にしたなぁ。だがな、一番美味いのは……」
「おじニャん、なにやさん?」
「写真家。世界中を撮り尽くす不肖・浅川とはこのおれさ」
写真家の意味さえも分からず、ただの気のいいおじニャんだと捉らえたコレッタは、口から白い息を吐き出して春の訪れを待ち侘びた。
「ふーん。鰊の漬物に石狩鍋か。どれも食材の旨味を活かし、じつに美味そうだがな……」
スマホの画面に食らいついている浅川にコレッタが興味を抱いた。オトナのやることなすこと気になるお年頃のJSだから。
そんな子ネコに浅川はただ一言。
「世界中で一番美味い食べ物を自慢してやるか」
ぱちり。
午前2時22分。
時は来た。
「わー!」
「ネコの日、おめでとう!」
「ねこおめ!」
「おめでとう!」
コレッタと浅川の周りから歓声が花火のように上がる。ネコたちによるネコの日のお祝いだ。
黒の闇が色とりどりに染まる瞬間を目の当たりにするかのよう。
全国的に2月22日午前2時22分、どこもかしこもネコの日だから。
「おじニャん、どうしたニャ……?」
「おれってさ、浅川だから」
カップラーメンを片手に固まったコレッタが脚を揃えた。
真っ黒な夜に湯気立つラーメンの写真。写真家とはこうだ、と言わんばかりに浅川は得意顔だった。
「送信っ」
#
星野りんごのパソコンにコレッタの食べるラーメンが映った。りんごのSNS夜食テロ作戦は新たな脅威によって壊滅した。
流れに乗ってはるばるネコの夜会の河原からやってきた画像にりんごはごくりとつばきを飲んだ。一口ちょうだいのセリフが漏れる。
りんごが作ったどんなに立派な料理よりも、遥か遠くの一皿でさえも、この時間、この景色ではコレッタのラーメンに軍配が上がる。
理屈ぬきに暖かく、誰の舌を楽しませるから。
窓からネコたちの声が聞こえてくる。
「ぐうぅ……いいなあ、ネコは」
ウサギのりんごは陰からネコの日を祝いつつ、カップラーメンを作るためにやかんでお湯を沸かしはじめた。
おしまい。
にゃー!
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投下おしまいです。 コレッタとカップめん食べたいおっお
投下おつっす〜 >>164
白先生「魚を食べると頭が良くなるらしいぞ」
コレッタ「にゃにゃにゃ?おさかなさんかにゃ?」
白先生「あぁ。ドコサヘキサエン酸が含まれてな、記憶力が良くなるんだ。コレッタも魚を…」
コレッタ「にゃ!おさかなさんだにゃ!まてーーーー!」
白先生「待て!それは、新サーバーのマグロ…」
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/3274/1327657246/171
ぱくっ
ttp://dl1.getuploader.com/g/6%7Csousaku/813/Coletta_maguro.jpg
コレッタ「ニャ!」 !!!! WARNING !!!!
創発のまとめもある「atwiki」が乗っ取られ個人情報流出 ウイルスまみれに
詳細は↓で
http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/1790512.html コレッタ「『ミャー、ニャンニャン』」で、ねこの日ニャ」
『二週間遅れのホワイトデー』
「ってか、ホワイトデーってなんだろうね」
答えの見付からない問い掛けなどいらない。
隣でため息ばかりの友人への返答は目で送ればいい。
ウサギの因幡リオの結論はこうだ。
二人並んで長い歩道橋から地上を見渡す。だだっ広い貨物ターミナルを一気に横断する橋の上では、なんでもない悩みも
素直に共有できる。なぜならば、秘密の話も線路が軋む音で全て掻き消されるからだ。
アスファルトの地面の上、おもちゃ同然に整然と積み重ねられたコンテナの実直さ。曲がったことを許せないリオには、
どことなく自分と重なると過大評価してしまう。学校帰りの寄り道、日が長くなったから、見たくないものまで見えてくる。
リオは少し錆び付いた手摺りに前のめりに身を委ね、広大な敷地をせかせかと動き回るフォークリフトを目で追った。
「モエはいくつもらった?」
「教えない。ってか、リオは?」
「教えない」
「なにそれ。ずるいじゃん」
なんか、ずるいことした。
真面目が取り柄の自分だけど、リオと違って軽いモエに近付けたと、好意的に錯覚することにした。
リオと同じ格好で、イヌの芹沢モエは耳をおったてていた。ホワイトデーの恩恵をさほど受けなかった二人もやはりオンナノコ。
誰よりもピカイチに見られたいし、光り輝くあまたの星も全てわたしのものだからと、猫撫で声で腹の探り合いだ。
ただ、両者とも隠したい場所は山ほどあるから猫撫で声は遠吠えに変わってしまうザンネンな夕暮れ。鉄と錆の音を立てて、
コンテナをわんさと積んだ長大な貨物列車が二人の足元に吸い込まれるように近付いてきていた。
列車が歩道橋を潜り二人の足元を掠めるように通過してゆくとき、止められない流れことだってあるんだと二人の胸に刻んだ。
抗がえば、抗がうほうど、自分を深く傷つける。 「だから、リオにあげたんだしー」
「何を?」
「ってか、わたしからのホワイトデー」
今更、ホワイトデーだなんて。しかも二週間遅れだし。
過ぎ去ったものを引っ張り出してまでこだわるのはリオには痛痒い。
それに反してモエは何度も初恋が訪れたような淡い笑顔を含んでいた。
「そういえば、ハルカはいくつもらったんだろね」
「ハルカは彼氏持ちじゃん」
「だよね」
「だから、二週間遅らせたしー」
「……そうだよね。ウチらとハルカを比べちゃうからね」
「一週間じゃ足りないしー」
リオのメガネに屈曲して写り込むモエからのホワイトデープレゼント。女子らしく水色のリボンで装飾された手の平サイズの包みが、
褐色の線路が弦のように並ぶ鉄の背景に浮かび上がっていた。
ここから見ればモエの包みも地上に並ぶ貨物列車のコンテナも同じサイズに見えるけれど、アイツらは真面目一直線だ。
四角四面の塊とはちょいと違う。そっと胸にしまい込めるモエのプレゼントに女子らしいひねくれを感じた。
電気機関車に牽引された長くたゆみないコンテナ列車が、そろりそろりとターミナルから旅立ってゆく。どっかに旅出る理由など
考えれば、後乗せすればいくらでも見つかるのだが、理由を探すとうやっぱり苦しくなる夕暮れ。
「あの列車、どこに行くんだろう」
連結器同士が互いに手を繋ぎ、がちゃがちゃと金属音を撒き散らせる間に秘密の話しをしておきたい。
間が悪いのか、そんなときに限って思い浮かばず、どうでもよいことを尋ねてしまう因幡リオ。
「ウチらの知らないところじゃね?」
「そんなところあるの?」
「リオ、マジで知らないの?」
きっとわたしたちには分からないものがたくさんある。例えば、ホワイトデー。
歩道橋の手摺りからモエの包みがころんと落ちた。まるで小鳥が篭から逃げ出すように。
包みはコンテナ列車の屋根に落下して、モエとリオが知らない街へと連れ去っていった。
おしまい。 モエ「早く渡り終えた方に奢り!」
リオ「まじ?」
ttp://dl6.getuploader.com/g/sousaku_2/782/moe+rio_terminal.jpg よーもーぎーもーちー。
って、もう子供の日なのね。
ケモスレには幼女しかおらんね! >>177
コレッタ、かわええ。みゃー。
幼女風呂やー。
帰り道。
ttp://dl6.getuploader.com/g/sousaku_2/798/ruika_sasano.jpg
『花の種』
ちょっと目付きの悪い男子高校生が花屋の店先で花束を抱えていた。
とんがったケモ耳だからか無条件に不機嫌な雰囲気に見える。
それの何がおかしい。
笑いたければ笑え。
その代わり自分で責任取れよ。
薄黄色のパーカーにエプロン姿の彼は捻くれた気持ちを薄っぺらくあらわにしていた。
「こっちの花がいいわ」
「早く決めろよ」
「でも、あっちの花もよくない?」
遊びなれた感じのネコとイヌのカップルがじゃれ付くように花を選んでいる。
店内でのいちゃこらはお断りだと、言わんばかりに男子高校生の店員は口元を震わせていた。
あんなオトナにはなりたくないと、彼は抱えた花束をそっとレジカウンターに置いた。
「でも……」
「いいじゃんいいじゃん。おれが金を出すんだから」
「だって……」
四の五の言わずに金を出せ。お前らいい歳したオトナだろ?
頭はゆるいが、財布の口はかたいんだな?
犯罪犯したら名前が万人に知られわたるようなヤツだろ?
デモデモダッテと唱えていれば、わたしびっちでかわいいこ?
おもっているよりかるくはないから、かるい子だとおもってほしくないからデモデモダッテの大合唱?
そんなカップルの客に水でもぶっ掛けてやろうか?マジ邪魔なんだけど?
「ルイカくん。花は人の気持ちを解するよ」
男子高校生の店員は自分の名前を耳にして、自分が抱いた悪意の塊を飲み込んだ。
声の主は鋭い牙を持つ彼さえも子猫のように扱うのが慣れているらしい。
「『くん』付け?もしかして、いい人ぶりアピール?」
「店先は戦場です。どんなお客様(あいて)でも、きちんとお相手(げいげき)しましょう」 ルイカと呼ばれた少年はこのあたりでは珍しいカルカラと呼ばれる種族だ。
とんがった耳に鋭い眼光。ただ、そこにいるだけで目立つネコ科の種族だ。
目付きが悪いのは仕方ないとして、愛想まで引きずるのは御免被りたいと少年よりちょっと年上の娘は笑った。
ただでさえ男子高校生が花屋で働いているのは目立つのに、カルカラという種族だ。店の評判に関わるので、
出来るだけ愛想よくしてほしいと娘は願うが、男子高校生のやることだと見逃すしかない。ふん、とルイカは花束をバケツに生けた。
「昨日ね。センセイの生徒さんが書いた小説読ませてくれて、寝不足です」
「センセイ……ああ、帆崎な」
ルイカを『くん』付けする娘の旦那さまは高校教師だ。ルイカもお世話になっている。古文を教えているとのこと。
なので、文章にはちょいとうるさい。教え子が書いた小説に帆崎が興味を持ち、あれこれ形にしてあげたいとのこと。
ルイカには作り物の話などとんと興味はなかった。
「面白かったです。次回作が楽しみですね」
「あそ」
「その子遅筆でねー。次回作が何時出るのか分からないのね」
花は人の気持ちを解すのか、娘の周りの花々はいつもより輝いて見えた。
「ルル姉いいのかよ。出掛ける時間だろ。配達……」
「はいはい。労働少女、行きます」
少女?成人してるだろ。
人間の娘であるルルは外の日差しを気にしていた。ルイカは「まだ行かねーの?」と素っ気なく聞くが、
日焼けを気にするルルの乙女心をまだ理解していなかった。
「日傘、日傘」と出支度するルル。ルイカはルルが出掛けることでつかの間の休息を願っていたのだが、まだまだ遠い。
客でも来たら面倒だとルイカは心の中で毒付いたが、むしろ一人のときに来られても困ると複雑な顔をした。
そのうち、店内でうろうろしていたイヌネコのカップルは何も買わずに去ってしまったが、むしろルイカにとっては
風向きがよい方へと変わったとしか受け取っていなかった。
願いは叶う。
ルイカの為にではなく、意地悪の神様の為に。 一人のウサギの少女がおどおどしながら店先を右往左往していたのだ。
客だ。客が来てしまった。面倒だが迎えいれなければ。相手は小学生並の背丈の少女だ。ロップイヤーで三つ編みスタイルが
いやがうえにもロリ力(ぢから)を全開させている。
「いらっしゃいませ!ルイカくん、お客様ですよ」
エプロンを脱いだルルのアシストがルイカを突き抜ける。
♯
連休の間でもいいから、ウチの店で一緒に働きなさい。
#
ルルからの提案にルイカは反発できなかった。
あれやこれやと理屈を付けて断ってもこちらに利はない。
むしろ門前払いは身の破滅。女の子って、幾つになっても怖いんです。
ルイカは渋々とルルの働く花屋でアルバイトをすることにしたのだ。力仕事が意外と多いから男手があるのは助かると、
店主も歓迎はしていたがルイカには今ひとつ面白くない。暇潰しの為のようにルイカは花屋の店先にいた。
そこに現れた客。
ウサギの少女はいまだにおどおどとしながら店に入ろうとはしない。
ワンピース姿が勿体ない。
花屋というシチュエーションは、三つ編み少女にお誂えだというのに。
店の奥でルルが花の種の袋をさっさと振る。その音に引き寄せられるように少女は店内に入ってきた。
ルイカの鼻先を少女の頭がかすめ、ふんわりとした香りをルイカの鼻孔をくすぐった。
「お探しでしょうか」
「……えっと」
「何でも聞いて下さい、ね」
ザッツ・営業スマイル!
一言一言に少女はびくつき、ルイカは仕事をするふりをして視界から遠ざけていた。
ルイカはどうもこんな娘が苦手だ。ルルのように勝ち気な娘も苦手だが、真逆な性格も手を焼く。泣かれたりすれば、
どうしようもない。涙は武器、最終兵器だ。ルイカは命乞い無視してぶちまいて、ジェノサイドをかまされることが不愉快だった。 「分からないことありましたら、彼に何でも聞いてくださいね」
「はぁっ!ルル姉?!」
ルルはそんな言葉を残してルイカと少女の二人っきりの舞台を作った。
健全なる男子高校生ならば、もしかして恋愛フラグがびんこ立ち?といくものだが、残念ながらルイカは(性格が)健全なる
男子高校生とは言えなかった。そんな場面を尻目にルルは日傘をさして配達へと出掛けていった。
残されたのはルイカと小さなウサギの少女だけ。
いかにも作られたシチュエーションに見えるだけに居心地が悪い。
「あ、あの」
「……」
「花の」
花の?ってなんだ?
声、ちっちゃくて、聞こえねーし。
おれ、ルイカって名前なんだけど。
売買契約早く交わしてくんないと、時間まじもったいないんだけど。
「ごようはなんでしょうか」
なるべく低姿勢で。ルイカは店員を演じるふりをしつつ、面倒な時間が過ぎるのを待った。
誰かの真似をするということほど、ルイカにとって苦痛を感じるものはなかった。針の筵の上でスクワット千回の刑なんて。
「花の種下さい!」
なんだそりゃ。さっきルル姉が持ってたからとっとと言えばいいのによ。ルイカは感情を抑えつつ花の種の袋を指差した。
少女はぱたぱたとぜんまい仕掛けのおもちゃの動きでルイカの指先の方へと駆けた。
じっと色とりどりの花が描かれた袋を見つめ、思案を重ねているようかに見えた。結局、少女が選んだのは朝顔の種。
今日び小学生でも選ばないぞと、それだけ悩んでそれかよと呆れるルイカは首をこきっと鳴らした。
「あ……あの」
「はぁ」
「違うのにすればよかった、ですかね。でも、こっちもいいかもですし」
聞かれても困る質問ほど困るもんはない。少女はレジに品物を差し出すのをためらった。
「あっちがいいかも。でも……」
「どれも同じ値段だし」
「だって……せっかく買うのに」
「どうせ、買うんだろ」 少女の消えそうな声を掻き消すようにルイカは『キンギョソウ』の種の袋を奪い、乱暴にレジ済みのテープを貼った。
「デモデモダッテ?そんなオトナになるなっ」
「ひっ!」
「持ってけ。ルル姉いないから内緒だっ」
「で……」
言うまでもなく、少女の言葉は「でも」だ。だが、ルイカを信頼するように少女は言葉を飲み込んだ。
花の種を手に入れた少女は、自分の周りに一足早く花咲かせながら店を後にした。
それを確認したルイカはそっと自分の財布から硬貨を取り出してレジに忍び込ませた。
#
連休が過ぎ、日常が戻る。
ルイカも勤労少年の日々を忘れ去りたい思い出にすることが出来てほっと胸を撫で下ろしていた。
廊下から窓を覗いて風に当たる。こんなしあわせなことが花屋では出来ないなんて。
校庭に咲くちいさな花々。金の匂いを沸き立たせずに眺めることが出来るなんて。
「たりー……」
悪態をついてくるりと回れ右。ポケットに手を突っ込むのは癖だからあまりいちゃモンつけるなよ、とルイカは一歩足を出すと
その足にちいさなウサギの少女がつまづいた。ばさっと大きな音を立てて、抱えていた数冊の本をあたりに撒き散らす。
ころりころげたウサギの子。
じっと待っていたんじゃないけれど、ウサギが一羽ころげて木の根っこ。
「ったく!おれ、こんな面倒、お断りなんだけどなー」
膝を押えて、涙目ながら顔を上げた顔に見覚えは無いか。
「あ……」
連休の日に花の種を買いに来た少女だ。ワンピースではなく制服とスクールベストに身を包んだ、古風な昭和の香りただようJKだ。
おどおどとした態度、涙溢れだしそうな瞳。忘れたくても忘れられないウサギの娘との再会にルイカは口元を震わせていた。
世話を焼くことが苦手なルイカは散らばった本を拾ってやると、はさんである栞に目を奪われた。
栞……ではない。小さな紙袋、上部が切り取られて微かに土の香りがする。 『キンギョソウ』の花の種。
乱暴に貼られたレジ済みのテープも端っこがめくれかけていた。
「気をつけろよ。お前が怪我したら、花の世話するヤツいねーだろ」
紙袋の栞をはさんだ本を心底大事そうに抱きしめて、ウサギの少女は慇懃にルイカにお辞儀をしていた。
ふと、がらっと窓が響く音がする。
「おーい、ルイカ。笹野をいじめるんじゃねーぞ」
「いじめてねーし」
教室の窓から廊下に顔出したネコの男がくたびれた顔で割って入ってきた。野次馬なら人参くわえて失せろと、
一矢報いたいけど、相手はネコだ。しかも教師だし。古文教師の帆崎だった。
「笹野は筆、進んでるのか」
「ひゃっ。あの……あの、帆崎せんせ……」
何もそんな話をルイカの前で……と言いげに、笹野と呼ばれたウサギの少女は耳を伏せたい気持ちで目を丸くした。
「ザッキー、まじ鬼畜。怯えてんじゃん」
「笹野はいつも通りだ。外道からにゃ言われたくないな」
「だから、いじめてねーし」
「この前書いたヤツ、面白かったぞ。やっぱり美女と野獣は永遠の鉄板だな。美女の大胆さと野獣の繊細さのコントラストが絶妙だ」
ルイカは思い出した。
ルル姉の寝不足の理由。
窓枠から乗り出した帆崎は紙袋の栞がはさまった本を笹野から引ったくると、栞がはさまれたページを開いた。
本とともに育ったから、本の扱いは慣れている感じだと言わんばかり。
「新作も早く仕上げないと、キンギョソウが咲いてしまうぞ。おれは待てても花は待たんからな」
「……で」
ルイカが笹野をちらと一瞥。
笹野が言わんとする一言を察したのだ。
「花はいつも前向きだ。後ろ向きの花をおれは見たことないな」
「……あの」
「しかし、いい花選んだな。待ってるぞ」
「あの……あの」
笹野はルイカがいてくれたからちょっぴり自信がついた。
しかし、笹野はその事実さえも否定するかもしれない。本をぎゅうっと抱きしめるて場を濁す。
「デモデモダッテ」は口にはしないけど、それだけでも御の字だ。
ルイカがよそ見ををしている隙に。
「はいっ」
笹野は心地の良い身震いをしていた。
おしまい。 動画添附禁止 裁判 遠隔キンピラ 詐称 ハウスアメリカNHK
動画添附禁止 裁判 遠隔キンピラ 詐称 ハウスアメリカNHK
動画添附禁止 裁判 遠隔キンピラ 詐称 ハウスアメリカNHK 白先生、運動会の季節ですよ。
着替え後の教室に忍び込んじゃダメですよ。 むしろ一緒に着替える。というわけでジャージBBA誰かはよ ,ィ廴  ̄`゙''ー‐--、__ ヽ \ \
`、 \ `丶 〉 \ ヽ、
`、 \ _,.-‐''"´ ̄ ,イヽ、丶、〉 ヽ、
\ ヽヽ _,.-''" , ', イ"',, ヽ
丶、ヾ, イ \
/ ///\ ヽ、 丶
/ {{,,//-  ̄ \ ', ヽ
||=,/ 二ニ .ヽ、 〉 }
| ,/ 三彡 ̄ ̄ ', / |
| i| 三彡 ,. ニ== .! / |
| ! l ` -―--、,,___ ! 〉 〉 / ',
ヽ /王ミ i゙ | } ! ! ! /! \
., -‐ て7 }´~~ `}===゙、 | | | ! ! / /、 \ \
, - ‐ ゙ | 丶__ // !/ ///!/ ヘヽ、 ヽ \ ゞ
{.~ 丶 ノ ヽ |/,ノ \\ ゝ \ヾ/
 ̄` -、 r ┴- .―´ i___ __}  ̄ \ /
- _ ` -、_/ }--、_ ,.´ { { { { \ , -‐¨ ̄ ̄`ヽ、 /
`ヽ ___ } {/ 川川川川川川 / 丶/
丶 てヽ{ ヽ {{{ { 彡{゙´ / で 用 言 ま 丶 /
__ ` } - ,.ノ 丶 /. す .意 い ず i /
~~ / ヽ __/. よ す 出 は i /
/ ヽ `l : .る .し. i/
. r ´ ヽ l ? べ っ i
..{. ヽ l き ぺ /
.| ヽ 丶. が /
.i 丶 丶 / まるで(いろいろと)成長していない。
ttp://dl6.getuploader.com/g/sousaku_2/804/shiro_sukumizu.jpg BBAだってスク水着たいし。
一緒にプール入りたいし。 >>173
>>174
「よもぎもち」「よもぎもち」って考えていたら、なぜかチェンジしていた…。
だけど、書いちゃった。
投下します。 いつもは本ばかり読んでいるヤツが、こともあろうに市民プールにいる。
それだけで、なぜにそこにいる理由を聞きたい欲がもくもくと湧く。
インクの代わりに塩素のにおいがつんと鼻をつき、乾き切らない髪の毛はダウンライトに照らされてきらりと光る。
100パー文学少年を地でゆく犬上ヒカルが、じゃばじゃばとバタ足している姿を想像すると、なんとなくおかしく感じてしまう。
夏の青空の装いに包まれた因幡リオは素直にそんな内容の言葉をヒカルに伝えた。
「ぼくだって、泳ぎにぐらい行くよ」
「まじ?犬上って、休みの日は部屋か図書館にヒッキーなイメージだし」
お互い私服姿をさらすのは、よそよそしさでどこかくすぐったい。
誰に見せるためのもんではないが、ワンピース姿のリオは自分の太ももをヒカルにさらすことに抵抗はなかった。
家には弟がいるリオにとっては、同級生の男子などは年下以下の子供扱いだ。一方、一人っ子のヒカルは、同級生のリオでさえも
おしゃれの霧に塗れた、光輝く、色のにおいたつ、ませた一人のレディに見えてきた。
女子高生に人気のブランドもののバッグを肩にかけたリオが、自分のサンダルをロッカーに仕舞う後ろ姿さえも、
ヒカルには背伸びしても届くことのない、高嶺の花咲く女性を意識させるものだった。
「今、すいてる?」
「うん。でも小学生たちが来るかも」
「まじ?そうなの?やばいじゃん。ってか、知ってるの?」
「この時間はね」
時計の針は午前のまま。
良い子で真面目な、まー子の時間。
「むー」
おしゃれいっぱいなリオは唇をかみ締めた。
市民プールの受付は清々しい空気が淀むことなく行き交う。
職員とすれ違うたびに、体育会系の挨拶が飛び交うからだ。
「こんにちはー!」
「お疲れ様ー!」
にこやかな笑顔が厭味なぐらいに爽やかだ。
そういえば、同じ市の施設である図書館とはえらい違いだと、ヒカルはここにくるたびに戸惑いを感じていた。
ヒカルは職員たちの目を避けるように、玄関脇のロビーの椅子に腰をかけた。ずんと疲れが腰に落ちる。
なのに、ヒカルはスポーツバッグから一冊のハードカバーの本を出し、栞のページまでたどっていた。
ぴかぴかの女子丸出しな財布を片手に、リオはヒカルの行動に義務感溢れるツッコミを浴びせた。が。 「続き、気になるし」
と、あっさりしたヒカルの答えにリオは納得がいかなかった。
誰だって、響かぬ太鼓など興味はナッシング。
「そういえば。表にわらび餅屋さん……いたよね」
自転車で荷台を引いた移動販売のわらび餅屋。
市民プール前に夏季はちょくちょく現れるらしい。
涼しげな装飾に、何故か萌えボイスの売り子の声が痛々しくも微笑ましい。
本とリオの財布にヒカルは目を移し、売り子の声に耳傾けて、夏の始まりを五感で受け止める。
「これからボディに磨きをかけて、女子力アップをたくらむわたしを誘ってる?」
「いや、ああいう売りに来たわらび餅って、コンビニのよりも美味しいし」
「おごれっ」
予期せぬリオのむちゃなツッコミにヒカルは目を背けてささやかな抵抗を見せた。
#
ヒカルの予想通りプールは空いていた。
だだっ広い市民プールは夏の香りが漂う。高い天井が開放感をいやがうえにも煽っていた。
中央のコースでは、がっつりと25メートルをクロールで往復するスイマーが占領し、素人風情を寄せ付けない空気を漂わせていた。
生きるか死ぬか、誰もが刀の柄に手を乗せる戦乱の世で、のほほんと優雅な茶会を開くようなものだ。
上級者向けだしと、ビート板を脇に抱えたリオがそんな殺伐としたコースに入るはずもなく、ロープで仕切られた端のコースに
そそくさと向かった。
眼鏡が無いことは眼鏡っ娘であるリオにはもどかしい。いつも見えている世界がぼんやりとしか写らないからだ。
だからか、塩素のにおいと激しい水しぶきの音が異様にはっきりと聞こえる。
そっとプールサイドに腰掛けた浜辺のウサギの足が生暖かい水に浸る。ゆらゆらと揺れる水面がひざ小僧をなぞり、
合わせた太ももをじわりと濡らす。なんだか不安になる気持ちは何故だろうと、リオは薄い手ですくった水をそんなに
大きくない胸に掛ける。リオの体を包み込む濃紺のスクール水着がぴっちりと体に吸い付く感触が胸を締め付ける。
ほんのちょっとの幼さと少女のはかなさを兼ね合わせたつやを放ったリオの肢体がするりと水中に吸い込まれた。
小さな水しぶきがリオの顎を濡らし、ゆらゆらと波立つ水面が胸をなぞる。
「遠いなぁ……」
たった25メートル。歩いて行けばなんともない距離なのに、プールというだけで途方もなく彼方に感じる。
ビート板を前方に突き出して、両腕をぴんと伸ばし、躊躇いつつも水面に顔を付けてスタートを切る。
壁を蹴る両足が水中で軽くなったと同時に、物凄い勢いでバタ足を始めた。
くねりながらバタ足で進むウサギのリオ。長い耳が水面から突き出してゆっくりゆっくりと前方へと舵を取る。
「ぷはぁ!」
志半ばで終了。
遥かに遠い対岸が顔を滴り落ちる水で余計に歪んで見えた。
はあはあと肺を突き破りそうなぐらいに荒い呼吸、口に入る液体がむせ返り、たらりと口角から流れ落ちる。 「ぐるぢいよぉ……」
こんなときに自分の側に素敵な男子がいてくれたら。
ぎゅっと厚い胸板に飛び込んで包み込まれたいし。
出来ることなら眼鏡が似合って、ほんの少しドSな理系男子なんぞよかろう。
「端から誰かに頼ろうだなんて、とんだ王女さま気取りだな」
「泣き顔を隠そうとして水をかぶっても無駄だぞ」
(うるさいよっ。ばーかばーか)
いもしないドS男子の幻覚をつんつんと人差し指で突いて朦朧としたなか妄想に耽っていると、隣のコースの
がっつりスイマーがばんばんと水しぶき立ててリオを追い抜いていた。
現実かあ……。
眩しい太陽の光があれば目をつぶる理由が出来たのに、残念ながら屋内プールではそんな淡い期待も泡と消える。
何度も何度も足を着きながらようやく対岸にたどり着いた頃には、小学生たちの声がきんきんに響いていた。
彼女らの声を耳にしているリオは荒くも激しい息遣いで濡れたスクール水着の脇腹をを指で弾いた。
#
ふらふらと心地好い疲労に苛まれたリオがロビーに立ち寄ると、犬上ヒカルはいまだに本を読んでいた。
とっくに乾ききった髪の毛をまた濡らしやろうかと、リオはヒカルに近付くと、目の前のテーブルに食べかけのわらび餅の容器が
置いてあることに気付いた。透明感溢れるわらび餅、控え目さとわびさびが憎いきな粉。水色とのコントラストが主張の無い甘さを
引き立てている。
きっと、食感は絶妙なんだろう。コンビニなんかのものよりも歯ごたえが本格派らしいし。
「美味しかった?」
「……」
「ごめん、いいトコなんだよね。本」
返事をしなかった理由はそれじゃないと言いたげに、ページをめくる手を止めたヒカルがリオを見上げた。
乾ききらないリオの体からは塩素と甘い汗のにおいで淡い水色の香りがしていた。
制服姿と違うリオの姿に僅かなる罪悪感を抱きつつ、ヒカルはぱたりと栞を挟んで本を置いた。
「美味しそうだよね、わらび餅。ぷるぷるぷるんって」
「うん」
「あーあ。誰かわたしにわらび餅おごってくんないかなあ」
目の前にいるのは眼鏡でもなく、理系でもなく、ドSでもないただの文学少年だ。
なのに期待を寄せて、恥じらいもない悪あがきをするリオの頬は微かに赤い。まるでビート板を頼りにバタ足で進む
スクール水着の少女みたいだ。 「あ」
立ち上がったヒカルの腕を慌てたリオが引っ張る。
いや、まじに受け取られちゃ。
空気ってもんがあるじゃない。
それに……彼氏じゃないんだから、おごってくれなくてもいーし。
「犬上っ」
と、リオが声をあげると、ヒカルの目の前のわらび餅がすっと浮かんだ。
リオとは全く面識のない男がヒカルの前に座り、食べかけのわらび餅を再び口にしていた。
「因幡が美味しそうに言うから、食べたくなったし」
ヒカルはそう言い残すと市民プール玄関前のわらび餅移動販売のリアカーに駆けた。
ヒカルの背後のリオは、ぽんとキックをお見舞いしようと脚を上げたが空振りに終わった。
#
水泳の帰りの電車は眠気を誘う。
雲の上のような揺れ具合は、乳酸の溜まった体に睡魔を召喚させる呪いのようだ。
とくに高架を走る私鉄線の車窓が催眠のための効果を高める。
「……食べときゃ良かったかなー」
意地を張って、ヒカルが買ってきたわらび餅を拒んだ。
ぷるぷると弾けるわらび餅が無駄に美味しそうだった。
きな粉の甘さが手招きしていた。
だけど、彼氏じゃねーし、わたしそんなに乾いてないし。
リオがかけていた眼鏡を外してみると、ぼんやり車窓に映った自分の姿が浮かんでいた。まるで自分が空を飛んでいるみたいだ。
なんだか、この景色、リフレイン。
そうだ、プールの中だ。
遥か遠く25メートル先の対岸目指してバタ足していたプールの中。
「勘違いも甚だしいぞ。おごってもらえると思うな」
(おごってなんて言ってないしー)
リオは電車の中でも素敵なドS男子が側にいてくれたらなと、一人妄想をしていた。
きっとコンビニのわらび餅は甘い。
おしまい。 ttp://dl6.getuploader.com/g/sousaku_2/820/rio_train.jpg
メガネなしのいいんちょって、初めて描いた気がする。
これもアリじゃないのか?異論は認める。
投下おわり。 スク水は子猫組に許された特権かと思ったけどリオのもいいね!
控えめな身体に映えそう
塩素の香りが漂ってきそうなよいSSでした NHKビデオ金銭ミルクGALコンチネンタル中東パクキン沖縄海焼きそば 西村ニューヨーク反省会ファミレス深夜ランチおしゃべり問題
NHKビデオ金銭ミルクGALコンチネンタル中東パクキン沖縄海焼きそば 西村ニューヨーク反省会ファミレス深夜ランチおしゃべり問題
NHKビデオ金銭ミルクGALコンチネンタル中東パクキン沖縄海焼きそば 西村ニューヨーク反省会ファミレス深夜ランチおしゃべり問題 初期からいた絵師さんどうしてるのかな。
むちむちかわいい絵の。 早く冷たいかき氷を食べたいニャと、サンダルを鳴らしてコレッタは自宅の扉を開けた。
こんな日のおやつはかき氷一択だ。夏休みも折り返し、盛夏の街も眩しいぐらい。子猫のコレッタの白い毛並みがきらきらと、
錦糸のようなブロンドの髪もさらさらと。暑いのはやっぱり苦手だニャ、早く冷房の効いたリビングでぐたっと平たくなりたいニャと、
重い足を玄関へ一歩差し出す。
待ちわびたかの勢いで廊下の奥から飛び出してきたのは、コレッタと同じ毛並みに同じ髪を持つコレッタの母だった。
「おかえりなさいー!コレッタちゃん!お風呂にする?おやつにする?それとも『お、か、あ、さ、ん』?」
「おやつニャ!」
ニャニャ?!
何のどっきりニャ?
今までのぐったりコレッタは速攻切り上げて、コレッタの母の脇を稲妻走るスピードでリビングへと駆け抜けていったコレッタ。
振り返り様に我が子のリアクションに戸惑うコレッタの母は、腰に巻いたエプロンをずりあげていた。
「夏休みっぽいコスチュームだったのに、コレッタちゃん、気に入らなかったのかなぁ……」
これでも結構気合い入れてゼッケン書いたんだよ?
十ンー年振りのスクール水着、オトナかわいくエプロンまでオプションしたのに。
開けたままの玄関からは、灰色の表の世界の彼方、落ち着いた風が流れ込んできた。
ひんやりとしたリビングでコレッタはアザラシになっていた。
エアコンからの丁度よいぐらいの冷風が火照った体を包み込む。やれやれこれは天国の居心地でコレッタが母のスマホを
ぐりぐりと扱っていると、母が戻ってくる足音を聞き顔を曇らせた。
「あんまり使い過ぎちゃだめよー」
「ニャ、ニャ?」
「どうしたの?」
「花火大会はあしたニャね……」
スマホの画面には夜空に花咲いた色とりどりの花火が描かれていた。明日は街の花火大会。池を囲んだ公園で、毎年行われる風物詩だ。
ただ、心配事がコレッタの猫耳に付きまとう。窓がそれを示すように。
「いけない!雨が降ってきたよ!」
ぱらぱらと雨粒がテラスを濡らし、じわじわと軒先の洗濯物を湿らせてゆくお天気テロ。
コレッタの母は目を丸くして、洗濯物を取り込みに走った。
「ぬれちゃうニャ!早く!」
「大丈夫よ!スクール水着、着てるから!」
母の返事を気に止めずに、コレッタは洗濯物を取り込む加勢に没頭した。 早く冷たいかき氷を食べたいニャと、サンダルを鳴らしてコレッタは自宅の扉を開けた。
こんな日のおやつはかき氷一択だ。夏休みも折り返し、盛夏の街も眩しいぐらい。子猫のコレッタの白い毛並みがきらきらと、
錦糸のようなブロンドの髪もさらさらと。暑いのはやっぱり苦手だニャ、早く冷房の効いたリビングでぐたっと平たくなりたいニャと、
重い足を玄関へ一歩差し出す。
待ちわびたかの勢いで廊下の奥から飛び出してきたのは、コレッタと同じ毛並みに同じ髪を持つコレッタの母だった。
「おかえりなさいー!コレッタちゃん!お風呂にする?おやつにする?それとも『お、か、あ、さ、ん』?」
「おやつニャ!」
ニャニャ?!
何のどっきりニャ?
今までのぐったりコレッタは速攻切り上げて、コレッタの母の脇を稲妻走るスピードでリビングへと駆け抜けていったコレッタ。
振り返り様に我が子のリアクションに戸惑うコレッタの母は、腰に巻いたエプロンをずりあげていた。
「夏休みっぽいコスチュームだったのに、コレッタちゃん、気に入らなかったのかなぁ……」
これでも結構気合い入れてゼッケン書いたんだよ?
十ンー年振りのスクール水着、オトナかわいくエプロンまでオプションしたのに。
開けたままの玄関からは、灰色の表の世界の彼方、落ち着いた風が流れ込んできた。
ひんやりとしたリビングでコレッタはアザラシになっていた。
エアコンからの丁度よいぐらいの冷風が火照った体を包み込む。やれやれこれは天国の居心地でコレッタが母のスマホを
ぐりぐりと扱っていると、母が戻ってくる足音を聞き顔を曇らせた。
「あんまり使い過ぎちゃだめよー」
「ニャ、ニャ?」
「どうしたの?」
「花火大会はあしたニャね……」
スマホの画面には夜空に花咲いた色とりどりの花火が描かれていた。明日は街の花火大会。池を囲んだ公園で、毎年行われる風物詩だ。
ただ、心配事がコレッタの猫耳に付きまとう。窓がそれを示すように。
「いけない!雨が降ってきたよ!」
ぱらぱらと雨粒がテラスを濡らし、じわじわと軒先の洗濯物を湿らせてゆくお天気テロ。
コレッタの母は目を丸くして、洗濯物を取り込みに走った。
「ぬれちゃうニャ!早く!」
「大丈夫よ!スクール水着、着てるから!」
母の返事を気に止めずに、コレッタは洗濯物を取り込む加勢に没頭した。 #
翌日の夜は、期待以上の星空を披露してくれたから、コレッタと母は一等星の瞳で花火大会へと出掛けて行った。
池を囲んだ公園には近隣の人々で賑わいを見せて、ひと夏のうたかたなる思い出を刻む。
池の側はすこぶる涼しい。風が流れると子猫の袖をくすぐる。自然の悪気のないいたずらにコレッタは頬を赤らめた。
浴衣姿のコレッタはぴょんと跳び跳ねる。淡い桜色
「ヒカルくんニャ!」
金色も髪をなびかせて、とみに駆け出したコレッタは、犬の少年の尻尾に飛び付いた。猫とは違う、
豊穣の麦畑を思い起こさせる、犬の尻尾だ。すりすりとヒカルの尻尾に頬擦りしているコレッタをなだめる母は、
ヒカルの足元をさりげなく一瞥したのちに、オトナも会釈でヒカルに敬意を示した。
「コレッタちゃんがぼくと行きたいって言うんです」
「ウチのコレッタが申し訳ありません(靴はわりときれい目。第一チェックポイントOKね)」
「待たせてごめんね、コレッタ」
「とんでもありません(時間はきちっとしている。第二チェックポイントよしっ)」
ヒカルの背中に隠れたコレッタからは、細い尻尾が小枝の様相でしなった。
よくて兄妹、ヒカルとコレッタの間柄は歳の差ありすぎて、邪な妄想を掻き立てる余裕さえもあり得ない。
(コレッタちゃんだもんね。男の子を虜にしても不思議じゃないし)
コレッタの母はヒカルが背中に気を取られている合間を盗んで、ヒカルの下ろした手の甲に自分の手の甲を当ててみた。
びくっと、ヒカルの胸が鳴る音が雑踏の中で響く。
ノースリーブの二の腕が、半袖姿のヒカルに触れるか触れないかの距離であやふやと揺れていた。
わたし、ヒトヅマですけど、昔オンナノコでしたよ?
コレッタの母は、コレッタをそのまま大人にした可憐さに加えて、浴衣の艶やかさに花火の儚さを持った
夏の香りでヒカルの鼻腔をくすぐった。
わたし、ヒカルくんより年上ですけど?
でも、こんな夜は同い年になってもいいですよね?
勝手過ぎる妄想だが、ヒカルの脳内は淫らな桃色の霧で霞んでいた。
「お祈りしてよかったわぁ。花火日和ね」
「はい?」
「昨日、神社でお祈りしてきたんですよ」
昨日の夕方、うとうとと惰眠を貪ったコレッタだ。もしやと、母が雨の中、神社で祈る姿を思い浮かべた。 『あした、晴れニャすように』
きっと、そうかもニャ。コレッタはほんのちょっとだけ母を尊敬した。
さすがコレッタのおかあさんニャよ……とヒカルに対して自慢げな顔をしている娘の側から母がのたまう。
「『コレッタちゃんの素敵なボーイフレンドと出会えますように』って、ですよ」
「……」
「コレッタちゃんがしあわせになるなら、わたしなんでもするね。ヒカルくん、勘違いしちゃだめよ。ふふっ」
あどけない表情を見せる母をコレッタはオトナにも似た目線でじっと見ていた。
どーん、と一番の花火が場を繋いだ。
おしまい。
「それじゃ、犬上くんわたしと……」
http://download5.getuploader.com/g/sousaku_2/848/yuuri04.jpg
おしまいです。