続々・怪物をつくりたいんですが
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サイコ、特撮、SF、ホラー、オリジナル、二次創作、フィギュア、イラスト、テキスト、動画、どんとこい
512K規制により終了した前スレの続きにござる……。
バス停のベンチに腰を下ろしていたのは、美川のかつての親友、名越花代。
それも昨日ラーデンに殺されたときの姿ではなく、二十数年前の、中学生のころの名越花代だった。
(は、花っぺ!)
美川が思わず息を飲んだ瞬間、花代がふっと顔を上げた。
「……」
無意識に相手の名を呼ぼうとした美川の口を、グローブのような手が塞いだ。
ダメだ!と、サージが顔を横に振る。
昼間でさえ薄暗い切通しの道。
暗視装置を使っているから美川からは花代が見えているが、花代の側から美川は見えていないはずだ。
……だが……花代は静かに顔をこちらに向けると、闇を見透かすようにして言った。
「……寿美枝ちゃん?」
(なぜ判ったの!?)
サージがもう一度首を横に振る。
見えているはずはない。
「寿美っぺだね」
花代はベンチから立ち上がった。
「ごめんなさい!」
(え!?)
「本っ当に、ごめんなさい」
花代の口から飛び出したのは、美川に対する謝罪の言葉だった。
「一緒に村を出るって言ったのに、必ず行くって約束したのに……あたし……間に合わなくって……」
「……花っぺ、来てくれてたの!?」
サージの手をもぎ放して、美川は口にしていた。
「私、花っぺ、来てくれなかったんだと思ってた……」
「約束どおりの時間に家、出ようとしたら、なんだかみんなバレてて……それで納戸に閉じ込められちゃって……」
泣いているのか笑っているのか、よく判らない顔で花代はつづけた。
「………明かりとりから抜けだして……一所懸命走ったんだけど……目いっぱい急いだんだけど……バス、行っちゃったあとで……それで……」
「謝んなきゃなんないの、私の方だよ。花っぺじゃないよ!」
美川は何度も首を横に振った。
「私、待ってればよかった。花っぺのこと信じて待ってればよかったのに……私、花っぺに裏切られたと思って……」
「ううん、寿美っぺは全然悪くないよ。だってアタシが時間守んなかったのがいけないんだから……でも、よかった……」
涙は流していても、そのとき花代はハッキリ笑顔を見せた。
「ここで待ってて本当によかった。寿美っぺに会えた。もう会えないと思ってたのに……」
……花代は涙を拭った。
(……あ)
美川は瞬時に言葉を見失った。
涙を拭う右手が、二本あったのだ。
(…右手が二本!?)
気がつくとラーデンの手が美川の肩を掴んでいた。
「退ガレ美川!」
「見てラーデン!手、手が……」
美川の様子が変わったのを闇ごしに気付いたか、花代は急に泣くのを止めた。
そして、いまはじめて気がついたというように、自身の右手、二本ある右手を不思議そうに眺めた。
ひとつは中学生らしい若々しい右手。
もう一つは筋の浮き出した年配風の腕。
「……なんで余計にあるの?」
呆けたような顔で花代は言うと、へなへなとその場に座り込んだ。
「この手、私の手じゃない……そう言えば私……私、なんでここに居るんだろ?ここに来るまで、いったいなにやってたんだろ??」
「Damn!」
低い声で唸ると、サージは美川を引き摺って下がり始めた。
「私、どうしちゃったんだろ?…いったい私、どうしちゃったんだろ??」
花代の混乱が高まっていくのが手に取るように判る。
「私、なにやってたの?なんでここにいるの?私、どうしちゃったの?私……私……私……」
そのとき、頭上の木々が揺らめいたか?美川の上だけに微かな星明かりが降り注いだ。
「…………………あんた、誰?」
言葉を交わしていた相手の姿を目にしたとたん、花代の口調が一変した!
「寿美っぺだとばっか思ってたのに……あんた……誰よ!?」
「わ、わたしよ花っぺ!四方の寿美枝!あなたの親友の……」
「うぞだぁ!」
花代の声に、濁音が混じった!
「寿美っぺは、あんだみだいな、おばさんじゃないぃぃぃぃぃ」
「時間が経ってるの!あれから、私が村を出てから、もう20年以上経ってるのよ!」
「う、うぞだあ!いながもん(田舎もん)だどおもっで、ぞんなごど言っでも、だまざれねえどおおおおおおおおおおおおおおお!」
花代が絶叫した次の瞬間、彼女の体が音をたてて破裂した!
(花代が!破裂した!)
……すくなくともその瞬間、美川にはそう思えた。
花代の右肩のあたりが体液まき散らして裂け、何かが奔流となって噴き出したのだ!
「Run!」
サージが低く唸って、ついに腰の拳銃を抜いた!
「ランってったって何処に?」「村ダ!村ニ戻ルシカナイ!」
美川の手をとりラーデンが駆けだす!
手を引かれながら振返った美川が目にしたのは、とても不条理な光景だった。
右肩から噴き出したもの。
それもまた花代だった。
ただし、それまでの若々しい顔とは違い、深い皺とむくんだ頬、白髪混じりの髪……生活に疲れた中年の顔だ。
「こんな村に!アタシ独り置きざりにしゃあがって!」
中年女の花代が叫んだ!
「アタシだって、アタシだって逃げたかったんだぁ!!」
唱和するように若い花代も叫ぶ。
「ごろず、ごろごごろずごろごろごろごろずぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
二つの叫びが重なると同時に、双頭の花代は美川を追って、狂ったように走り出した!
走りながらも、花代の姿は変異し続けた!
いつのまにか一本だけだった左腕も二本に、右腕に至っては三本に増え、どの腕にもアリクイのようなカギヅメに変化。
体そのものも小柄な女子学生から牛ほどの大きさにまでふくれ上がっている。
変異の速度も変異量も、良庵和尚より酷い!
(やはり重度変異者か!)
何事かブロークンな英語で叫び、サージが踏み止まった。
「美川!走レ!」
「でもサージが!?」
「ココハ小此木ヲ見習エ!」
小此木は皆の先頭きって、しゃにむに全力疾走していた。
美川らと並走する位置に多々良伍平も、老人なりに精いっぱい走っていた。
「こらっ!小此木!一人で逃げるな!」
「そんなこと言われたってー、死にたくなんか……」
そのとき横合いの藪から人影が、金切り声で喚き散らしながら飛び出した!
(銃は使えんか…)
銃声が変異者を集めてしまうことを惧れ、一旦は構えた拳銃を下ろしかけたサージだったが……。
「た、たーすけてー!」
背後まぬけな悲鳴に、考え直して銃を上げた!
しかし、狙う頭は二つある。
脳幹があるのはどっちの頭か?!
「…両方撃ちゃいいだろ!」
バン!バン!でなく一続きのババンという轟音とともに、名越花代の二つの頭が、二つ同時にザクロとなって散った!
噴き出す体液で尾を引きながら、「名越花代だったもの」は仰向けにぶっ倒れた。
バケモノの二つの頭部は、二つとも木端微塵となった。
背後ではさらにもういちど、男の悲鳴が上がった!
しかし……拳銃を倒れた花代に向けたままでサージは動かない。
「いつまで死んだフリしてやがんだ!とっとと立ちやがれ!!」
スラングてんこ盛りの英語が、田舎女に通じるわけもないが……。
サージが吠えたとたん、花代の首無し死体がむっくり上体を起こした。
「た!たーすけてー!」
口では悲鳴を上げながらも、喚き散らす怪物の広げた両腕に向かって小此木は一直線に駆けこんでいった!
「ひえーーー」…ヒュンッ!
小此木の鼻先で何かが閃き、怪物の首がころりと落ちる。
「……子供は急に止まれないって?」
鼻で笑うとファン・リーテンは、怪物の切断された頭にダメ押しの一撃を突き立てた。
そのとき、後にしてきたバス停の方からババン!という銃声が!
「サージが撃ったか…かなりの強敵らしい」
銃声を耳にして軍医が振返ったとき、こんどは真っ暗な村の方で、いくつもの声が続けざまに上がった。
「やれやれ、いまの悲鳴と銃声でゲームルールが変わってしまったか」
叫びが叫びを呼び、村は騒然とした気配に包まれた。
「お医者さん!やっぱりさっきの……やっつけて突破した方がいいんじない?!」
「でも、あのキミの旧友は附子の出身なんだろ?」
「……それ、どういう意味?」
「いや、特にどういう意味ってことは……」
そのとき小此木が泣き声を上げた!
「ちょっと美川さんー!あ、あっちー!あっちー!」
小此木の指さす方、美川らが出てきたT字路の縦棒の道から、バタバタという足音、それからギャーギャー叫ぶ声が迫っていた!
「これでも戻るかい?美川くん?」
上体を起こした首なし死体から、体液が幾筋も噴水のように噴き出した!
体から噴水のように湯気を放って噴き出す体液。
だがそれなのに花代の首無死体は、体液を流出させながら逆にみるみる膨れ上がっていく!
そして牛ほどだった体が軽トラックサイズにまで膨れ上がったとき、噴き出す体液は突然液体であることを止めた。
レルネーの水蛇ハイドラ、あるいは記紀神話のヤマタノオロチ……噴き出す体液の流れ一筋一筋が、地を這い空にうねる首へと変わる。
ただし、その先にあるのは蛇の頭でなく人の顔だ!
男の顔、女の顔、年寄りの顔、子供の顔!
口々に呪詛の言葉を喚き散らす、狂気を湛えた9つの顔!
(他の変異者の死体を吸収してやがる。これがファン・リーテンの言う『第四の感染経路』か……)
二足から四足へ……怪物は、両手でがっしと大地を掴んだ。
めいめいの口でめいめいの妄執を垂れ流していた顔からは、ハラハラと髪が風に散り、唇と瞼が腐り落ちていく。
「……ライオン・オブ・ヘル」
そしものサージも、腹の底が冷たくなるのを感じていた。
四足の姿勢に、のたくり絡みあう首のタテガミ。
怪物の姿は、地獄のライオンにほかならない!
九つの口が一斉に吠え、怪物は大きくひと飛び跳躍した!
美川らが辿って来た裏道から、バタバタという足音、ギャーギャー喚く声が迫っていた!
「ともかく村だ!村に戻れ!」
「そのあとは!?」
「戻ってから考える!さあ、走れ!」
軍医がなにごとか手真似で合図すると、ラーデンが美川の手首をとった。
「サア、早ク!」
右手でM14ライフル、左手で美川の手首を掴んで引き摺るように走り出すラーデン。
多々良伍平がピタリと二人を追う。
軍医は逆に後ろに回ると、背中に掛けていた奇妙な型の小銃=M2カービンのソウドオフモデルの安全装置を解除した。
「援護は僕に……」
ズドン!
最後まで言わず、軍医の銃が火を吹いて、横合いの藪の向こうで叫び声が上がった。
「うわぁ!?ま、回りじゅうバケモンだらけだぁー」
妙な節をつけて喚くと、腰を抜かして座りこんでいた小此木も、美川らを追って駆けだした。
暗視装置の視界の外は真の闇だ
どこから変異者が飛び出してくるか判ったものではない。
暗視装置の視界の外は、耳と……それから鍛えたカンだけが頼りだ。
(…来タッ!)
掴んでいた美川の手を放してライフルの前床を掴んだとき、牙を剥く顔はすぐそこまで来ていた!
すでに狙い撃てる距離ではない!
ラーデンは迷わず後床を旋回させた!
ショートフック気味の一撃!
ボグッ!
弾かれたように怪物が仰け反り、折れた牙がその後を追う。
「止マルナ、美川!」
ラーデンは足を止めず怪物の脇を駆け抜けた。
村のいたるところで叫び声が上がって、足音がバタバタ集まってきているのだ。
「足を止める」ことは、即座に死を意味する。
走りながらラーデンは、から現れた新手の変異者二匹を、セミオートの二連射で処理!
更に素早く振り返って、上体を起こしかけていた一匹目の怪物の頭部に改めて引き金を引いた。
そしてまた前方に三連射で、変異者三匹を片付けた。
美川にはついて行くのがやっとという速さで走っているのに、総てセミオートでの頭部狙撃で、無駄弾は一発も撃たない。
兵士というより戦闘機械の動きだ。
「美川!学校ハ!?」
「ぶ、分校なら…村に入ってすぐのY字路を左よ!でも……」
美川の言うY字路はもう目の前だ。
だが、美川の答えた左の道から、ひときわ大勢の叫び声があがった!
緑の視界の中、顔をあちこちに向け、手をでたらめに振り回しながら、一団の人影がバラバラと駆けだしてきた。
唇の落ちかけた口から歯を剥き、泡混じりの唾液の糸を引く姿は紛れもない変異者だ。
その先頭駆けてきた怪物が、真一文字に美川めがけて掴みかかって来た!
「きゃあっ!」
……
(シット!こいつも空頭か!)
大跳躍をみせたライオン・オブ・ヘルの下を転がり抜けながら、サージは蛇のように蠢く首を二つ、巨弾をもって撃ちとばした。
しかし、怪物は何事も無かったようにそのまま四足で着地!
サージへと向き直ったときにはもう、新しい頭が生え出していた。
(脳幹のある本物の頭は、いってえどれなんだ!?)
地獄のライオンが再びジャンプ!
こんどは横っ跳びにかわしながら、三つ目の頭を撃ち飛ばした。
……今度も空振りだった。しかも始末の悪いことに、頭を吹き飛ばした傷口から、新たに二つの頭が生え出してきた。
(最初の跳躍のときより正確になってやがる……視覚が闇に対応して進化してやがるぜ!勝負は急がんといかんな)
今はまだ暗視装置を使って夜目が効く分、サージに利が残っている。
……だが、新たに生え出した頭の目は、黒豆のようにドロンと一色に染まっていた。
わずかの間にも怪物は、夜行性動物のように闇夜に対応していっている。
変異は果てしなく続くものなのか?
更にサージらの出て来た脇道からも、足音が間近に迫っている!
(……くそが!)
カチャッと乾いた音をたてて、怪物が腕……いや、前足を踏み出した。
それはもう人の手の形をしていない。
人の手には、あのような出刃包丁のような爪など生えてはいない。
(あいつをくらったら…ジ・エンドだな)
サージは拳銃による頭部狙撃を諦め、もはや「愛用の」と言っていいシャベル斧を構えた。
地獄のライオンが更に一歩間を詰める。
背後の足音はもうすぐそこに……。
そのとき遠くで女の悲鳴が上がった!
「きゃあっ!」
(…いまのはミカワ!?)
一瞬背後にサージの注意がいった瞬間、地獄のライオンが三度跳躍した!
(…いまのはミカワ!?)
一瞬背後に注意がいった瞬間、地獄の獅子が三たび跳躍した!
(しまった!)
咄嗟に地面へと身を投げたサージの上を、獅子は軽々と飛び越え、そしてそのまま足を止めることなく闇へと消えた!
「ズミエエッ!」
(あくまで美川を狙うか!)
だが、すぐさま跳ね起き魔獣を追うサージの前に、脇道から新手の変異者の一群が飛びだしてきた!
「…ザコは邪魔だ!」
足を止めるどころか更に一層加速しながら、変異者の群れの中にサージは飛びこんだ。
シャベルの斧の一撃で左のバケモノの頭部を叩き割り、横殴りの柄の打撃で右の変異者の
最初の一撃で一気に二体を潰すと、三体目は肩からの体当りで跳ね飛ばし、その横を駆け抜けざま軍靴の踵で頸骨を踏み折る。
(…どけっ!)
銃剣術の要領でスコップの柄を銃床代わりに振るうと、飛びかかって来た変異者の口元が、卵の殻のように砕けて陥没!
顔の下半分が無くなった変異者が、体液の糸をひきながら仰け反り倒れた。
普通の人間なら恐怖にすくみあがる光景だ。
だが…行く手に湧きだす変異者にその気配は無い!
(ダミッ!分断された!)
急ぎ合流しなければ。
先行したファン・リーテンや美川らとサージの距離は、せいぜい150メートルかそこらだろう。
…が、その僅かの距離が無限と等しくなっている。
あいだには無数の変異者が立ちはだかり、更には地獄の獅子もいるはずだ。
(邪魔だ!!)
突っ走りながらの右前蹴りで相手を蹴り倒すと、次の左足で頸骨を踏み折る!
横から飛びかかって来た変異者の首にシャベルの斧を叩き込んだとき、ガギッと音をたててスペードが嫌な音をたてた!
(ヒビが…)
そして次の変異者の脳天を叩き割った瞬間、シャベルの斧は乾いた音とともに折れた!
行く手に響く銃声は、もうひっきり無しになっている……。
(こりゃヤベエな…)と思ったそのとき、サージは草叢に横倒しになったものに気がついた。
分校へと続く道から飛び出してきた変異者が、真一文字に美川のもとへ!
美川が追わず悲鳴を上げる。
…しかし、の目と鼻の距離に迫ったところで、怪物の頭部がガクンと爆ぜた。
惰性で突進する体は美川のわきをかすめて崩折れた。
ラーデンの振り向きざまの一発が、動く標的を的確に仕留めたのだ。
だが……闇を裂いた悲鳴は、かえって怪物に獲物の所在を教えてしまった!
二番手、三番手、四番手の変異者がみな一様に美川めがけて突進してきた!
バンッ!バンッ!バンッ!!
連続した発砲音に呼応し、美川に突進してきた変異者が次々撃ち倒されるが、変異者はあとからあとから押し寄せて来る!
バンッ!バンッ!
頭部が弾けて五匹め六匹めが相次ぎひっくり返る。
ラーデンは素早く七匹めの標的に狙いを移す……が!?全力疾走から一度は両膝ついて崩折れた六匹めの変異者が、唸り声をあげ再び美川に襲いかかった!
(…シット!脳幹を外した!)
慌てて狙いを戻すが、ラーデンが引き金を引くより早く、怪物は美川に掴みかかった。
「きゃ…」…スカッ!
美川の鼻先で白刃が閃いて、怪物の首がころりと落ちた。
「美川くん!こういう場面で女になるのは反則だよ!」
そしてファン・リーテンは,流れるような動きでさらに二匹の変異者の首を仕込み剣で斬り飛ばした。
ラーデンのライフルも続けざまに吠え、更に三匹の変異者を撃ち殺した。
……しかし!分校へと続く左の分岐からは、あとからあとから変異者が駆けだしてくる!
分校への直進は、どう考えても不可能だ。
「止むをえん!右だ、美川くん!交差点を押さえられるまえに、右に抜けろ!!」
遠間の敵をラーデンが射殺し、それをかいくぐった変異者はファン・リーテンが斬り殺す!
そして5人はラーデンを先頭に、左から押し寄せてきた変異者集団の鼻先でY字分岐を右へと抜けた!
「コッチノ道カラ、分校ニ行クニハ!?」
「そ、それは…」
分校まで逃げきれれば、ファン・リーテンらの乗って来たニセ軍用ヘリがある。
しかし混乱した美川の頭に、正しい道筋は思い浮かばない!
「…道なりじゃ!」
美川に代わってラーデンに答えたのは伍平だった。
「山裾ぞいの遠回りじゃが、道なり石橋渡ったところに通学路の黄色い標識があるはずじゃ!」
「黄色イ、標識ダナ!」
ところが、その右の道からも数匹の変異者が現れた。
「ひゃあーーーーーっ!」
(シット!)
小此木の素っ頓狂な叫びにラーデンが素早く二回引き金を引くと、二匹の変異者の額に、たちまち黒い穴が開いた。
だが、続く三発めは、疾走する変異者の左頬を深く抉っただけだ。
「シマッタ!」
「ぎいぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
頬に肉片をひらひらさせながら手負いの変異者が叫んだそのとき!
…ブンッ!そしてガツン!!
多々良伍兵の振り回した棒切れが、手負いの変異者にぶち当たりなぎ倒した。
そしてすかさず、バケモノの頭部にトドメの打撃を二度三度と振り下ろす。
「伍平じいちゃん!」
「寿美枝譲ちゃん、わしのそばを離れちゃいかん」
前の闇からは変異者が次々駆けだしてくるが、一方、背後からの足音は、地鳴りのようだ!
「…止マルナ!コノママ、強硬突破スルゾ!」
(ジャマダ!)
バン!バン!バンッ!!
駆けながらラーデンが三度引き金を引くと、三匹の変異者の頭が破片となって散った。
最後尾で殿を務める形のファン・リーテンも追手の足を遅らすべく銃を撃ちまくる。
しかし、押し寄せる変異者の数は、前からも後ろからも減る気配が無い。
「……クタバレ」
さらにラーデンは走って来る怪物の中でひときわ変異の進んだ個体に狙いをつけた。
残り少ない弾を、より危険度の高い敵に使うためだ。
フロントサイトの向こうで、怪物が牙を剥き………
「……クタバレ」
そのときラーデンの耳が、右手に広がる雑木林の闇の中、自分たちと並走する音をキャッチした。
(…あれは!?)
バキバキ!メキッ!!
黒い影が一気に間を詰めたかと思うと、下枝がへし折られる音がして次の瞬間……。
美川の目には、森が村に向かって「爆発した」と見えた。
木々の折れ枝や枯れ落ち葉の尾を曳きいて巨大な影が森から飛び出すと、ラーデンの狙っていた先頭の重度変異者をただの一撃で踏み潰した!
「な、なんなの!?あのバケモノ!?」
息を飲む美川に、後ろからの敵を30カービン弾で打ち倒しながら軍医が叫び返した。
「……判り切ってるだろ?森をショートカットして僕らの先回りしたのさ」
「山の魔物になってしまいよったか」と伍平じいさんが漏らす。
森から飛び出してきたのは、獅子のようなシルエットのバケモノだった。
タテガミのようにのたうつ首。
その先端の顔は、みな瞼と唇が腐り落ち、牙を剥きだした重度変異者のそれになっている。
目はドロンと闇を湛えた黒一色になり、腐り落ちぶらさがった唇の間からはギザギザの葉がのぞいている。
蛇体のような幾つもの首がのたくり、絡みあい、もつれあいながら、その総ての目線は美川の上にあった。
そのタテガミのようにのたうつ多数の首が、幾つもの口が、一斉に叫んだ!
「……ズミッペェ!」
怪物の叫びに、一瞬美川は凍りついた。
「おじいちゃん!それじゃあ、あの怪物は!?」
「名越の花代……いまは附子の鬼じゃ」
ファン・リーテンが最も警戒していた「『附子の鬼』第四種感染」の存在であり、「附子の鬼の子」。
地獄の獅子が、美川ら一行の前に立ちふさがる!
一方、後ろから押し寄せるのは変異者集団。
完全な挟み撃ちだ。
(……ヤバいね。これじゃ本気にならんといかんな)
軍医が仕込み剣を構えたとき…………変異者集団の向こうで耳慣れた爆音が沸き上がった!
ババン!ババン!…バタバタバタバタ……
(この音は?!…4ストロークガソリン!)
状況にそぐわぬ、軽いエンジン音がぐんぐん大きくなって、変異者集団のあいだを縫い丸いライトが射し入った。
「邪魔だっ!」
怒声があがる!
ガツッと鈍い金属音がして、変異者の頭部が形状を変える!
白い車体に黄色いPOLICEの文字!
白バイではない!
派出所御用達のスーパーカブだ!
変異者集団のど真ん中に乗り入れると、ビジネスバイクはド派手に後輪を滑らせ停止した。
そしてすぐさまエンジンを空吹かせし、クラクションを鳴らす!
「ザコども!オレについて来い!」
サージの英語の怒声が、脳まで侵された変異者たちに理解できるはずはない。
が……ケダモノの群れは、ヘッドライトの光と甲高いエンジン音に敏感に反応した!
(しめた!変異者集団の流れが変わった!)
それまで銃声目指し殺到していた怪物が、一斉にサージにカブへと殺到する!
「食えるもんなら、食ってみろ!」
その場でもう一回、後輪を滑らせ反転ターンを決めると、サージのカブは三差路めがけ走り出した!
そのすぐ後を怒涛のように追う変異者集団!
もうファン・リーテンらの方に向かって来る新手の変異者はいくらもいない。
(よし、これで敵は正面の……)
そのとき正面を塞ぐ怪物と変異者集団にも、思いがけない騒ぎがまき起こった!
「…ズミッペエェッ!」
美川めがけ猛然と突進してきた重度変異者が、鈍い咆哮とともに獅子の前足の下に消えた!
すぐさま獅子が足下の「獲物」の上に覆い被さる!
変異者の悲鳴!そしてガツガツ何かを貪る音!
再び獅子が上体をもたげたとき、のたうつ顔はすべて緑に染まっていた。
「ダベルゥ……ナァ」「ダベル……」「ダベル……ノア………アダヂヨ」
緑に染まった牙がグロテスクな輪唱を吐きだす。
「ズミスミズミズミエェェェ」「ズミエエエエエ」「ずみべええええをだだだだべだべだべべべべ」
獅子は手当たり次第という感じで変異者を次々喰い殺し始めた!
「スミエヲ……食べるノハ……あたしよ!」
「アダジダ!アダジダ!アダジダ!アダジダジダジダジダ……」
「ジャマズルヌァ!」
「ゴロジデヤルゥゥゥ」
獅子の狂ったような殺戮を前にして、囁くように伍平が言った。
「寿美枝譲ちゃん!!いまのうちに逃げるんじゃ」
「……え?!で、でもラーデンたちが…」
「美川さん!さっさと逃げましょうよー。僕らが居たって何の役にも立ちませんってー」
「こん人の言うとおりじゃ…さ、こっちじゃ」
小此木と伍平に引っ張られるように、美川も右に分岐する農道へと駆けだした。
「マ、マデ!逃ゲルナ!ズミエエッ!」
遠ざかる美川の気配に気づき、バケモノ獅子が吠えた。
「ゼッテェ、逃ガサナインダガラァ!」
しかしダミ声の女言葉で喋る怪物の前に、ラーデンが立ち塞がる。
「追ワセルワケニハ、イカン」
蠢く多頭の幾つかを次々と素早くポイントし、立て続けに穴を開ける!
だが、獅子動きを止めるのは一瞬だけ。
一つ死ねば二つ、二つ死ねば4つと、新たに生え出た頭が口々に喚き散らした!
「ズミエズミエズミエ!」「ズミエ、食ッテヤルカラ、ズミエ!」「アダジガ食ッテヤルガラ!」
「…Shit!」そしてバン!バン!バン!
ラーデンの銃声と獅子の叫び!
二つを背に聞きながら、伍平を追って狭い農道を美川はひた走った。
ところが……。
(えっ!?行き止まり!?)
農道というより獣道と言った方がふさわしいかもしれないその道は、整備された村道から十数メートルほど入ったところで不意に途切れて無くなっていた。
伍平、美川、そして小此木の折れた小道の行く手は本道からいくらも行かぬところでプッツリ草叢に見えなくなっていた!
だが伍平は、道が無くなっても足を止めない!
「ついて来るんじゃ!」
一声残して伍平は、行く手を塞ぐ草叢に飛びこんだ。
(そうだわ、この道は……)
そのときになって、美川は不意に思いだした。
あれはまだ美川が幼かったころ、悪夢にうなされ、泣いて目覚めたときのことだ。
泣きじゃくる娘を優しく抱あげ、そっと背中を叩きながら、母は話してくれたのだ。
「寿美枝、悪いもの、怖いものに追っかけられたら、ヤライ道に逃げなさい。
ヤライの溝を飛び越えりゃ、鬼もそれ以上追っかけては来られんから」
「オバケも……追っかけて……こない?」
「そうよ。鬼も、オバケも、ヤライは越えらりゃせんの」
(この細道はヤライ道!さっき伍平さんが飛び越えたのが……)
あの日の母の面影を胸に、美川も細長い葉の並ぶ草叢を飛び越えた!
(畜生!、撃ッテモ撃ッテモ、マルデ効カン!ソレドコロカ、コレデハ……)
頭部以外、脳幹以外を撃っても変異者は死なない。
しかし、その脳幹が何処にあるのかまるで判らない。
本体の所在が判らないままの頭部狙撃は、獅子の頭部を増やすだけ。
…だが、それでも怪物の足を止めるには撃ち続けるよりほかは無い。
(コウナッタラ、弾ガ尽キルマデ……)
気を取り直してラーデンがライフルを構えなおしたときだった。
「ド、ドコ行ッタ!?マ、マデ!マデ、ズミエエッ!」
猛り狂っていた獅子の様子が一変した。
のたうつ幾つもの首が、見失ったものの痕跡を求めて八方に蠢いた。
……だが求めるものを見出すことは出来ない。
「ヤライニ、逃ゲダナァァ!」
バケモノ獅子は、このときはっきり「ヤライ」と口にした。
「ヂグジョウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!……ゼッテエ!ゼエッテェェェ、逃ガザネェがラネぇェ!」
ダミ声の女言葉で叫ぶと、バケモノ獅子はラーデンらと変異者たちを残して闇の中へと身を翻した。
藪を踏み、木立を折る音が遠ざかっていく……。
「ズミエェッ!ドゴ逃ゲダァァァァァァァァァ!」
次に叫ぶ声が聞えたのは、かなたの藪の闇の中だった。
ブンブンブンブンッ!
力感こそ無いが、頼もしいエンジン音が喚き立てる。
闇夜に白のカラーリングともあいまって、村中の変異者を曳き付けずにはおかない!
後からは津波のような足音が追って来る。
「Come on!」
一声サージが叫んだとき、右手の藪から一匹の変異者が飛び出した!
それをギリギリのハンドル捌きでかわしつつ蹴り飛ばす。
反動で滑った後輪が縁石にぶつかって派手にバウンド。
小さな車体の動揺をスピード落とさぬまま力づくで押さえつけると、サージは闇の明戸を疾駆し続けた。
(……ったく、タフなヤツだぜ)
相変わらずの好調さをキープするエンジン音に、サージはつくづく舌を巻いた。
ホンダのスーパーカブは、世界で最も生産されているバイクだ。
その総生産数はカナダの人口を超える。
ティーンエイジャーだったころ、サージが初めて盗んだバイクもこのカブだった。
そのエンジンは、ガソリンが無くとも、食用油や灯油でも回る。
事故ってフレームがオシャカになったとしても、エンジンは死なない!
(心臓の強さなら奴らと良い勝負だ。)
サージを追って来る「奴ら」は、弾を雨あられとブチ込まれても死なないバケモノの集団だ。
ヘッドライトの中に現れた数名の変異者集団の鼻先で後輪を滑らせターンを決めると、サージのカブは急こう配の未舗装路を駆け上った。
その先にあった短い石段を、つま先の蹴返しでシフトダウンしつつ駆け上ると、上は摩耗した石が幾つも並んだエリアだった。
(ここは…ジャパニーズ・セメタリーか)
肩越しに振返ったとき、追ってきた変異者の最初の何匹かが階段を上って墓地内へと姿を現した。
(来たか!)
月星の明かりも見えない闇夜に、苔むした墓石のあいだを突っ走る!
多くの墓石は震災で倒れており、そのいくつかは墓地内の歩道に転げ出して危険極まりない障害物と化していた。
しかし、揺れるライトの中に、墓石のあいだに変異者たちのシルエットが浮かぶ!
(安全運転してる余裕は無ねえな)
スロットルを開く!
一瞬タイヤが苔に滑ったが、すぐにスピードメーターの針は80に届いた!
そのときカブの前に、事務員姿の女変異者が喚き散らしながら飛び出した!
「ギャアア!」
墓石のあいだを縫う道に、それまでのように回避するスペースは無い!
カブを飛び越える勢いで、変異者が唾液の尾を曳きジャンプした!
とっさにサージは、墓石の脇に刺してあった木剣?=卒塔婆を引っ掴んだ!
(これでも喰らえっ!)
目の前にアップになった変異者の口に、サージは卒塔婆を突き入れた!
バイクのスピードと変異者自身の突進力!
「ごがあ!?」
その合わさった運動エメルギーは、卒塔婆の先端を変異者の後頭部まで突き抜けさせた。
サージはすぐさま、次の卒塔婆を引っ掴んだ。
手にした卒塔婆を頭上で一回転させ左小脇に抱えると、先端部分をハンドル上に構える。
そしてスロットルを一杯に開くと、エンジンの絶叫に合わせサージも叫んだ!
「Suck my dick!」
いくつも吠え声が上がり、墓石あいだを抜け、あるいは墓石を飛び越えて変異者が来る!
(止まったら殺られるな…)
どんずまりの右直角コーナーにもトップスピードをキープしたまま突入!
突き当りにあった墓石を蹴倒しカーブ!
そのとき墓石を飛び越える変異者の姿が目に入った。
カブのスロットルはハンドル右側にある。
反撃するため右手を放せば、カブの速度がたちまち落ちる!
(Shit!)
緑の爪が振りかざされた瞬間、サージはカブの車体を大きく右に傾かせた!
同時に自身はカブの左側面、苔むした地面ギリギリまで体をずらす!
極限まで低姿勢化したその上で、変異者の爪が空を斬った!
右から左へ、サージの上を変異者が飛ぶ!
その首元に、カブの体勢を戻しざまサージは左手の卒塔婆突き刺した!
ガラガラと墓石をひっくり返しながら落下する変異者。
だがサイドミラーにはテールランプの朱に染まりながら、猛然と追って来る別の変異者の姿を既に捉えていた。
こんどの道はごく短く、10メートルほどで右に消えている。
墓地内の道は概ね長方形を描いているようだった。
この長方形を時計回りに回ると、変異者の攻撃を右手側から受け続けることになる。
(このままの時計回りは分が悪いか…なら!)
道沿いには行かず、ハンドルを真正面に据えたまま、サージは墓地が背負った里山の藪に突進した!
サージのカブが里山の闇へと飛びこんだころ、村道の三差路付近では……。
闇のなかヒュンッ!っと微かな音がして、ゴトンと何かが落ちる音が続いた。
もし夜目の効く者が見たなら、ファン・リーテンの足元はカボチャ畑にでも見えただろう。
転がっているのはもちろんカボチャではない。
総て変異者の首だ。
もう、一発の銃声も聞こえない。
サージが変異者集団の大半を引き連れて去り、獅子も美川を求めていずこへか去ると同時に、ファン・リーテンは五体を駆使した無音殺人に切り替えた。
夜目の効かぬ変異者は、音を消す術を心得たファン・リーテンの敵ではない。
しかし、いま一対一で対峙する相手は、明らかに他の変異者とは違っていた。
顔を散弾で撃たれたらしく両目とも粉砕され、顔の上半分には鼻孔以外の穴がいくつも口を開けている。
夜目が効かないどころか両眼が破壊され尽くしているので、視力そのものが完全に失われているはずだ。
しかし…軍医が滑るように右に動くと、穴だらけの顔の怪物も同じように右へと動きながらどんどん距離を詰めて来る!
(見えているのか?……しかし……)
穴だらけの顔の怪物は、小刻みな前後動を交えた動きでゆらゆらと間を詰めてきた。
(あの前後運動はどこかで…………まさか!)
その答えの閃くのが一瞬でも遅かったら、ファン・リーテンの戦歴は極東の寒村で終わっていただろう。
奇妙な前後の揺らぎのなか、穴だらけの顔がガクンと仰け反って180度近くまで顎が開いた!
開いた顎の中には長い牙!
その先端から液体が矢のように迸った!
(毒液噴射!)
いわゆる毒蛇のなかでも、コブラの仲間には相手の目を狙って毒液を噴射するものがいる!
変異者の奇妙な前後運動から、ファン・リーテンはコブラを連想。
奇襲的な毒液噴射を間一髪回避できたのだ。
(ヤツが蛇ってことは……あの穴、ピットか)
ピットとは、蛇の仲間が持っている熱感知器官で一種のサーモグラフィ、熱線カメラだ。
光が皆無の真の闇の中であっても、このピット器官の働きで蛇は獲物を感知できる。
(目を破壊されたんで、その代わりの機能を獲得したということか!…ならば!)
毒液をかわされたと知るや、「穴だらけの顔」は唸り声を上げイナヅマの速さで飛びかかってきた!
蛇人間の牙が熱源に突き刺さる!
しかし次の瞬間、「穴だらけの顔」が肩の上からゴロッと落ちた。
(ネタが割れれば、こっちのものだね)
「穴だらけの顔」の怪物は、熱によってファン・リーテンを認識していた。
そこでファン・リーテンは自身の体温を帯びている上着をオトリに使ったのだ。
(こうも簡単に引っ掛かってくれるとは……さて、僕も美川たちを追うとしようか)
すると!美川たちの消えたを小道の奥から、迷彩服の男がフラリと姿を現した。
「ファン・リーテン殿」
「ラ、ラーデン!?」
微かに大きくなった声が、ファン・リーテンの怒りを表していた。
「…キサマいったい何をしていたのだ?美川をガードすべく追って行ったのではなかったのか!?」
「美川たちを追おうとした怪物どもを片付けていました」
ラーデンの言うとおり、細い横道にはいくつも死体が転がっていた。
「それに美川には多々良の老人がついていますから。あの老人、意外に腕の方も……」
「バカモノめ!」
軍医の声がはっきりと怒気を帯びた。
「それがマズイというのだ!気がつかなかったのか!?多々良伍平はずっとチャンスを狙っていたのだぞ!附子の地をひく女、美川を殺すチャンスをな!」
……………
………
………………
「寿美枝……寿美枝……」
(だれ?その名前で私を呼ぶのは誰?)
霧の中から響く声に、一瞬美川は身がすくんだ。
名越花代が追って来たと思ったのだ。
…がしかし、彼女はすぐさま思い直した。
(違う。花代じゃない。この声は……)
すると、霧の中からどこかで覚えのある男の影が現れた。
「……寿美枝」
「よ、与一にいちゃん!?」
霧の中から現れたのは、村を脱けて以来一度も会うことの無かった男。
多々良与一であった。
名越花代と二人で村を出ようと計画したとき、そのことを二人以外に知った者が、一人だけ村に居た。
それが与一。
同じ附子者の兄さん分として、美川が自分から打ち明けたのだ。
「寿美枝……寿美枝……」
「与一にいちゃん、なに?」
「…寿美……あ………ない」
美川に向かって与一は口を動かすけれど、何を言っているのかは聞き取れない。
「なに?なに言ってるの?聞えないよ」
「あ……い……あぶ………すみ………あ………ない……」
そして、必死に耳を澄ます美川の目の前で、与一はとうとうハッキリと二つの言葉を口にした。
「あぶない、寿美枝」
「えっ!?」
そして、一瞬にして与一の姿はかき消え、美川ははっと目を覚ました。
気がつくと美川は、板張りの壁に囲まれた納屋のような部屋で横になっていた。
部屋の隅からはゾリゾリという音が一定のリズムで聞えて来る。
首にズレていた暗視装置をかけ直すと、もう一方の部屋の隅で小此木が眠っているのが見えた。
そのとき、ゾリゾリと音のする方から伍平の声がした。
「目ぇが、覚めたか?」
真っ暗闇の中、伍平は床に尻を据えて何か作業をしていた。
体を起こし覗いてみると、伍平の手には錆びた鉈が、膝元には大きな砥石が置かれていた。
さっきまでの音は、それを研いでいたのだ。
「目ぇさめたか?」
もう一度伍平は言った。
「うん…」と答えながら、美川はやっと思い出した。
(ここはヤライ小屋なんだわ)
ヤライ小屋というのは附子の村にいくつもあった施設で、ヤライに囲まれたなかに建てられた小さな小屋のことだ。
一見納屋のようにも見えるが、農機具は置いていない。
木々に埋もれた様子は古社か地蔵堂のようにも見えるが、神仏の象や神具・仏具の類も安置されていない。
あるのは何振りかの鉈、手斧。
附子の村外れにあったヤライ小屋には刺又があったと思う。
美川の母は、それを「山の鬼が出たとき、やっつけるためのもの」だと話してくれた。
いま伍平が研いでいる鉈も、そういうものの一振りに違いない。
附子の村の回りにはこのヤライ小屋がいくつもあったが、明戸にもあったとは美川も知らなかった。
美川と小此木は、伍平に導かれてヤライを越え、それからいくつもの獣道を抜けて、この明戸のヤライ小屋まで逃げてきたのだった。
そして緊張が解けるのと同時に……。
「おじいちゃん、私、どれくらい眠ってたの?」
「時間なら気にするこたぁねえ。ほんの五〜六分じゃ」
答えたきり、伍平はまた黙りこんだ。
ゾリゾリゾリ……
低い音に合わせ伍平の背中が微かに前後を続けている……。
ボルボリエス、
ボルボリエスはとてつもなくでかい、
ボルボリエスは強い、
ボルボリエスは最強だ、
ボルボリエスはどの宇宙とも並行しておかれないほど大きい、
ボルボリエスは対称性がやぶれる前から存在してる。
ボルボリエスは新しいスペースを定義しないと存在できないので、
現行宇宙のタイムラインが擦り合わされて破壊されないと、
この世界に影としてしか存在できない。
ボルボリエスはキャラクタと似ている。
キャラクタは際限ない力をもっている。
ボルボリエスは最初っから果てがない、
果てのないもの途方もない器は、現行宇宙をいったん終わらせないとありえないので、
ボルボリエスにとって絶好の機会になる。
ボルボリエスはボルボリエスの部分に過ぎないため全容を見ることはできない、
仮にボルボリエスらしきSF生命体を見かけたとしても、
それはボルボリエスが周期的に影を大きくしたときに派生した、
ボルボリエス影響によるモビリスにすぎないため、
ボルボリエスと呼ばれたとして、
向こう側のボルボリエスとはなんの関係も無い。
ただ、ボルボリエスが影響するさいに発生するエネルギーは、
とてつもなく大きく、全宇宙と異相宇宙を加熱する力を保有している。
うまくボルボリエス側の力を汲みだすことができれば、
現行宇宙を終わらせずとも宇宙を恒久化できるかもしれない。
このためボルボリエス自体はエネルギー資源、
可能性として認められる部分はあるかもしれないが、
下手をすれば宇宙を書き換えてしまうので、
あまりタッチしてほしくないものである。
ボルボリエスは実験されている。
ボルボリエスは確認されようとしている。
ボルボリエスは味が無い、
ボルボリエスは匂いも無い、
ただ存在に影が触れた時に出来る
ボルボリエス派級個体は、
人間の五感から十分異常と感じ取れるものである。
ボルボリエスはプラズマと関係がある、
ボルボリエスは位相プラズマと呼ばれるエネルギー体と似ている。
ボルボリエスはキャラクターの発達欲求と合致する、
ボルボリエスはキャラクターにエネルギーを与える、
ボルボリエスと酷似してしまった時点で、
キャラクターは
ボルボリエス 「伍平じいちゃん……」
立ちあがりかけた美川だったが、軽いめまいを感じてまた座りこんでしまった。
「……附子の鬼ってなんなの?おじいちゃんは知ってるんでしょ?」
「寿美枝嬢ちゃんは、父ちゃん母ちゃんからなんにも聞いとらんか?」
伍平が喋っているあいだも、ゾリゾリいう音は途切れない。
「附子谷には鬼が住んでるから、奥まで行っちゃだめだって……私の知ってるのは、それだけ」
「そうか……それしか知らんかったんか……それじゃあ、仕方ねえかぁ」
ゾリゾリゾリ……
(仕方なかったって……なにが?)疑問がちらっと頭をかすめたが、口に出す前に消えてしまった。
「何百年も、いや千年以上かの?ともかく昔々のことじゃ……」
ゾリゾリゾリ……
「附子の村はのぉ……昔っから貧しい村で……」
美川の母もそれはよく口にしていた。
明戸での暮らしも楽ではなかったが、それでも附子よりはずっとマシなのだと。
幼いころの美川が不思議に思ったのは、だったらなんでもっと早く明戸に移って来なかったのか?ということだった。
娘が尋ねても母は首を横にふるばかりだった……。
「口減らしで山に捨てられた年寄りの一人がバケモノになりおってな……」
伍平の語る故郷の昔話は、美川にとって初めて耳にするおぞましさに満ちていた。
姥捨てされた年寄りが、打っても突いても死なないバケモノになって村へと戻ってくる……そんな事件が立て続けに起こった。
怪異の正体を突き止めようと、モスケというマタギの男が附子谷の奥、捨て沢へと分け入りった。
そこでモキチはバケモノになりかけた老婆を殺す……。
このバケモノが最後の一匹だったのか、捨て沢からバケモノがやって来ることは無くなった。
勇敢なモキチは、そのあと高名な大マタギになったという……。
「これで終わりゃあ、めでたし、めでたしだったんだがよぉ」
ゾリ ゾリ ゾリ ゾリ……。
「そうが問屋は卸してもらえんかった。モキチは捨て沢の神さんを怒らしてしもうとったんじゃ」
ゾリ ゾリ ゾリ……
「……ある日モキチが、バケモンになったんじゃ」
これまで附子を襲ったバケモノを殺してきたのはモキチだった。
だがそのモキチ自身がバケモノになったとしたら、誰に殺せるというのか?
「モキチの奴は、自分がバケモンになると知っとったんじゃろうな。附子に岩牢造って、自分から閉じこもったんじゃ」
「自分から、岩牢に?!」
「モキチの叫び声が岩牢から聞えてこんようになるまで、ひと月以上かかったっちゅう話しじゃ」
ゾリ……ゾリ……ゾリ………………ピタッ。
伍平の背中が動かなくなった。
「それから……何十年に一度……思い出したみてえに、村人がバケモンになるようになった」
「…え?村人が?!」
明戸の村人から忌まれた理由を、美川は初めて知った。
何十年かに一度、村人がバケモノになる村。
何十年かに一度、岩牢からバケモンの叫び声が響き渡る村。
(嫌われて……当然だわ)
「村人がバケモンになるたんび、ふん捕まえて岩牢に閉じ込める。それが多々良の一族の役目じゃ」
研ぎ終えた鉈の端に、伍平はそっと指を這わせた。
「……鬼を逃がさんと、閉じ込めて、ぶっ殺す。それが鬼守の多々良の役目なんじゃ」
最後の部分は、お経でも唱えるような調子だ。
「……そうじゃ、それが多々良の役目なんじゃ」
鉈を手に、伍平はギクシャクと立ちあがった。
「役目なんじゃ……」
「………おじいちゃん?」
「役目なんじゃ……」
針跳びするレコードのように繰り返しながら、伍平は美川の前に立った。
「役目なん……」
そのとき、夢で見た与一の姿が蘇った。
(危ない、寿美枝!)
「役目なんじゃ」
与一の言葉に思わず身を退いたそのとき、伍平が鉈を振りあげた!
ブンッ!
(…うっ!)
まず肩先にガン!という衝撃。痛みが来たのはその後。さらに遅れて熱い液体が流れおちた!
美川が身を退いたので、伍平の鉈は狙った頭を逸れて肩を抉った。
「仕損じたか……年はとりたくないのぉ……」
伍平が再び鉈をふりあげる。
「なんで?なんでなの??」
座りこんだ姿勢のまま後ずさる美川の顔に貼りつくのは「恐怖」でなく「困惑」だ。
「……役目なんじゃ」
ブンッ!
美川が板壁に追い詰められたとき、今度は横殴りにきた鉈が来た!
とっさに床に転がってそれをかわすと、鉈の刃がガッキと板壁に食い込んだ。
激しく跳んだ木端が美川の頬に小さな傷を残すが、いまその痛みは感じない。
(に、逃げなきゃ…)
無様な四つん這いの姿勢で逃げる美川の髪に伍平の手が伸びた!
「待つんじゃ寿美枝」
節くれだった指が髪を掴んで引き寄せる。
「いやっ!放して!!私はバケモノなんかじゃないわ!!」
身をよじり手をバタつかせ必死に抵抗すると、ショートの髪は老人の指先から抜けた!
伍平が板壁に食い込んだ鉈を引き抜こうとしているあいだに、美川はヤライ小屋の戸口に跳び付いた。
メギギッ!
妙に湿った感じの音がして、鉈が壁板から引き抜かれたが、同時に美川は扉に掛けられた閂を引き抜いた。
「起きろ!小此木!!」
義務的に一応一声かけたが、カメラマンがピクリとも動かないと見て、美川は独り小屋の外に飛び出した!
なんかゴジラとガメラがエヴァ見ながら
思い出話や今後の展開についてブツクサ言ってる
SSのまとめを見かけて
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org3655396.jpg ピカッ!稲妻が暗い雨天を裂き、雨に打たれる学園の体育館を一瞬金色に照らす。
スメラギせつな(14)と菟原てこな(14)は、息を潜めての体育倉庫に身を隠していた。
「『菟原てこな』!どこに隠れたぁ〜!」
「けろけろ、う〜〜〜〜〜〜」
甲賀衆の刺客、陀厳状介が、彼の「眷属」である何体もの魚人を従えて、体育館になだれ込んできたのだ。
腐った魚の様な悪臭が倉庫にも漂ってくる。
もはやこれまでか!震えるてこなを腕に抱きながら、せつなは覚悟を決めた。
彼の体術と、両腕を代替する「イマジノス・アーム」の膂力を以ってしても、甲賀衆の精鋭と十体を超えるその眷属を屠るのは不可能に近い難事だ。
「やはり『こいつ』を使うしかないか・・・」
せつなは意を決すると、右眼を覆う眼帯に手をかけた。だがその時だ。
ツ・・・
せつなの手に、てこなの手が重なる。
「な……!てこな……!」
戸惑うせつな。彼の髪を、てこなの白魚の指が、いやらしくまさぐった。
「せつな君……うれしい……やっと二人きりになれた。」
てこなの瞳が緑色にぼんやり潤む。彼女の口の端は淫らに歪んでいた。
「ちょまっ!てこな・・・そんなことしてる場合じゃうんぬぅっ」
言葉は封じられた。てこなが、せつなに唇を重ねたのだ。
ぬ ち ゅ 。
彼女の冷ややかな舌先が、せつなの中に這入ってきた。せつなの舌をぬめぬめと弄ぶてこな。 「んぅ〜〜〜!んぅ〜〜〜!」
口元を塞がれながらも必死で抗うせつな。だがてこなは意に介す風も無く、せつなの頭に手を遣ると彼のアホ毛を指先でチロチロと弄りはじめた。
「ふぎいぃぃぃい!」
せつなは目に涙して身を捩った。
ざわ……ざわ……ざわ……
これはいかなることか?てこなの豊かな黒髪が、風もないのに逆巻いた。彼女の髪がミミズのようにのたくり絡まりあうと、せつなの全身をさわさわと愛撫し始めたではないか。
「ふうぅぅぅああ!」
全身を貫く快楽にビクビクと痙攣して、てこなの誘うままに床に押し倒されるせつな。彼の体が、己が理性を駆逐しつつあった。
だがその時だ。
「ぬはははは!そんな所に隠れておったか!」
2人を探し当てた陀厳状介の高笑いが、倉庫中に響く。
「『菟原てこな』か・・この場に及んで男を欲しがるとは、業の深い娘じゃの!おとなしくお縄につけ!」
状介が卑猥に笑いながら二人に魚人をけしかける。
「けろけろ、う〜〜」
魚人の一体が悪臭を放ちながら二人に迫ってきた。
ああ!せつなは絶望した。睦事の最中を襲われては彼の体術も無力に等しい。
だがその時だ!
ぎらん!!!
振り向いたてこなの瞳が、緑色に輝いた。
てこなの手が、魚人の顔をガッキと掴む。
「今いいとこなんだから邪魔してんじゃねーよ!このビチグソがぁ〜〜〜〜〜!」
ぼ ご っ !
見よ!てこなが、信じがたい膂力で「深きもの」の下顎をもぎ取った!
「ア ゴ ガ 〜〜〜〜〜〜!」
どす黒い体液を撒き散らしながら魚人が啼き叫ぶ。
「あ・・・え??」
せつなの目が、点になった。 てこなが白い肩と、微かだが形のよい乳房をはだけさせながら立ち上がった。
ざわ……ざわ……ざわ……
ぐりゅん!これはいかなること?てこなの髪が蛇のようにのたくり纏まると、先端鋭い幾本もの漆黒の槍の穂を形成したではないか。
どす!どす!どす!どす!どす!どす!どす!どす!どす!どす!
不気味に蠢く黒髪の槍が大きくうねると、次々と「深きもの」どもに突き刺さる!
「げろげろげ〜〜〜〜〜〜〜!」
倉庫の壁に串刺しにされ、苦悶の声をあげる魚人ども!
「何ぃいいいい!」
余りの怪事に陀厳状介が息をのんだ。
しゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる。
なんたるおぞましさか!てこなの髪が、魔槍の態を解くと「深きもの」に絡まりつき、喰い込むと、その先端に小さな口歯を生じさせ魚人の血肉を啜り始めたのだ。
ぐちゅっ!ずじゅっ!じゅちゅるるるるる、ぴちょぴちょぴちょちゅろんりゅろんぶちぶちぶちじゅちゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる。
魚人の全身を這う黒蛇は更なる凶事をなしてゆく。髪の毛は怪物の体に浸潤、同化するとその肉体を細胞レベルで吸収し始めた!
「げっげっげっげっげっげっげっげっげっげっげっげっげっげっげ……」
どす黒い体液と緑色の臓物、僅かな脳漿を撒き散らして痙攣しながら、なす術なくてこなに啜りあげられていく「深きもの」ども。
おそるべしてこな。海神の眷属といえど、彼女にとってはただの『糧』にすぎないのだ。
「ふぅぅぅぅううううううううううううううううううううううううううぅ」
「深きもの」どもを吸収し尽くしたてこなが、朱い唇をぬたりと舐めながら、喜悦の声をあげる。
「あ……あうあうあう〜〜〜」
恐怖に固まる状介にてこなが振り向いた。
「……美味しかったぁ。おかわり!」
てこなが妖しく微笑みながら、陀厳状介にさらなる供物をおねだりした。
つづく 「その力!その御姿!まさか、まさか貴方様は……!!!」
陀厳状介が恐怖に魚眼を見開いた。彼は咄嗟に腰に下げた魚籠に手を遣った。
だが先刻の岩本虎眼との立ち合いで割られた魚籠の中には最早魚人の一匹も入っていない。
腰を抜かす状介の前に、黒髪を蠢かせながらツカツカと歩み寄るてこな。
「んー、決めた。こいつ、食べちゃお。」
彼女が朱唇に指を当てながらニタリと嗤った。
「クッキーになれ!」
状介を指差して叫ぶてこな。
ごおおおおおおおおおお!!!
状介の体から緑色の魔炎が吹きあがった。
「ぎゃあああああああああああああああああああ!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い〜〜〜〜!!」
苦悶の声を上げる甲賀忍者。
なんということか!炎に焼かれた状介の皮膚が土気色に干からびて崩れながら、何百枚ものカントリーマアムへと姿を変えていくではないか。
「い、いやだ〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
己が上主に、生きながらクッキーに変えられる恐怖と屈辱に、状介が泣き叫ぶ。 「きゃははははははははは!!おやつは別腹だから〜!!!」
てこなが緑の瞳をギラギラさせながら、サディスティックに笑う。
「ぶぼおぁぅぉぇおぉおぉぇおぇあぁあああぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあ〜〜〜〜!!!」
惨なり!異界の術を修めた魚人の頭領も、ついには崩れ果て、カントリーマアムの山へと姿を変えた。
てこなの黒髪がアリのようにクッキーに集ると、再び小さな口歯を露出させた。
かりかりかりかりかりかりかりかりかりかりかりかりかりかりかりかりかりかりかりかりかりかりかりかりかりかり!
カントリーマアムの山は忽ちの内に髪の毛に齧りとられていき、状介の体はこの世からその痕跡を消した。
そして……『食事』を終えたてこなが、倉庫の隅で震えるせつなの方を振り向いた。
「せつな君……お待たせ。さあ、一つになりましょう!!」
両手をひろげた半裸の少女が、やさしく微笑みながらせつな向かって歩みよる。
「ひ、ひひ、ひやだ〜〜〜〜〜〜〜!!」
せつなが、ケツをまいて逃げ出した。
つづく ↓ここで怪獣小説書いてるんだけどいまいち反応がないのでこっちに書こうかな〜と
ttp://toro.2ch.net/test/read.cgi/sf/1293516098/l50 研究棟に辿りついたせつな達。その門戸は開け放されていた。
「急げ!やつらが足止めされてる隙に!」
ガラス張りの研究棟に突入するせつなと焔。
「てこな……」
トッキーが不安そうに、来し方に目をやった。
「……!!なんてことだ!」
トッキーは我が目を疑った。
聖十文字通りの往来、大学正門の周辺は、極彩色の霧に覆われていた。
血だ。血の霧。だが霧を彩るのは紅の一色にとどまらない。その由は少女。
てこなが霧の中で舞っている。殺戮のダンスだ。凄艶に舞う彼女の一振りの度に、
かまいたちが『無形の御堕仔』の甲殻を切り裂いた。
衝撃波が『深き者ども』を砕き散らした。
念力発火が『空飛ぶ腫瘍』を沸騰させた。
ソニックバスターが『イクストル』を破裂させた。
冷凍光線が『ショゴス』を氷塊に変えた。
稲妻が『ユゴスよりの者』をホイル焼きにした。
「キシャーー!」「うおーーん!」「ぴきゅきゅきゅーー!」「ぶちゅるるるるうーー!」
怪物たちの断末魔の咆哮がキャンパスに響きわたる。
深紅の血しぶき、暗緑の臓物、灰色の脳漿、乳白の粘液が宙に舞い、てこなを濡らしていた。
てこなの瞳は漆黒の闇。その顔は恍惚に歪んでいた。
「そおだぁ!おそれないでぇ!みぃぃんなのたぁめぇにぃ!ぁあいとゆうき!あぁいとゆうき!あぁいとゆうきあぁあぁぁぁいとゆぅきぃぃ!!!」
てこなが黄昏の空を仰いで皆殺しの詩を詠う。
腸と脳漿と粘液に塗れたその頬を、血の涙が伝った。
「てこな・・」
トッキーは恐怖した。夢の中で何度の彼女と旅した『高原』の記憶が鮮明に蘇ってきた。
果して彼女は正常なのだろうか?何度も何度も死の淵から還る度に、時空を漂う量り知れぬ『何か』が彼女の心を取り込んでしまったのではないか?
「トッキー!早く!ここはてこなに任せるんだ!」
せつなが叫ぶ。研究棟に転がり込んだ3人。
「なんだこれ……」
棟内を、言い知れぬ邪な空気が漂っていた。 >>79 乙!
研究棟といい、色合いの描写といい、なんか昭和の怪獣モノ映画のワンシーンをみているようだ〜
でも、皆殺しの詩がアンパンマンww 青空町耳嚢 第20/21話
【ケーキ入刀】
とある新郎の体験談である。
人生の一大イベントである結婚式。
可憐な婚約者の望むがままに素敵な教会を予約し、半年前から入念に準備をして迎えた式当日。
「それでは、ご夫婦のはじめての共同作業、ケーキ入刀です」
運ばれてきた、2メートルほどの巨大なウエディングケーキ。
司会の声にうながされ、新郎は刃渡り50cmほどのナイフをもちあげた。
やさしく手を添える新婦の頬はほんのりと朱に染まっている。
「そう照れるなよ」
「だって、みんなから見られてるなんて、やっぱりちょっと恥ずかしいもの」
確かに、招待客たちの熱い視線をかんじる。あつい視線を……。
ふと、対峙しているケーキからも視線をかんじた。
まさかと思って、顔を上げると、そこには新郎新婦を見下ろす、二つの目玉があった。
「うわあ!」と新郎は思わずナイフをとりおとした。
次の瞬間、ケーキからにょきにょきっとクリーム状の手足が生え、そのまま巨大ケーキは台の上から飛び降りた。
どよめく会場。
「あなたのお友達の余興?」新婦がきっと睨んできた。
「違うよ」
新郎の否定を聞くなり、新婦はナイフを拾い上げて高砂を駆けおりた。
左右をきょろきょろと見回していた巨大ケーキは、ナイフを振りかざして迫り来る花嫁の姿をみとめ、悲鳴をあげた。
ただの怪物の鳴き声ではなく、たしかに恐怖の悲鳴だったと新郎は断言している。
やあっ! と花嫁が間合いをつめてナイフを振り下ろす。
それを来賓席の燭台でとっさにうけとめるケーキ。
「えー、これはどうしたことでしょう」司会が気を取り直してフォローにまわる。
「共同作業などもう古い! これからの時代は女が強い!
二人の未来は花嫁が、そう花嫁がひらいてみせよう!
そんな画期的な新時代のウエディングパフォーマンスが、今まさに、われわれの目の前で繰り広げられております!」
力技でじりじりとおす花嫁。
じわじわおされながらも、切られてなるものかと全力で抵抗するケーキ。
「あなた!」と花嫁が新郎に叫んだ。「ほら! 今のうちにファーストバイトするのよ!」
「おおっと、ファーストバイト宣言きました! ケーキ入刀を省略しての、ファーストバイト宣言です!」
司会はノリノリだ。
「ファーストバイトは欧米の結婚式における伝統で、新郎新婦がケーキを一口ずつ食べさせあうというもの。
その意味するところは『僕が一生食べるものには困らせないよ』『私も一生おいしいごはんを作ってあげるわ』というラブラブアツアツなもので……」
司会は由来を説明しながら腕をぐるぐるとまわして、新郎に行け、と合図をおくる。
あれを食べろと? 新郎がただただ呆然としていると、司会がスピーチをしながら近づいてきた。
「さあ、新郎! 男をみせろ! 今、新婦が全身全霊をかけて『一生何があってもごはんを作ってあげる』宣言をしてくれているぞ!
こうなったらもう『どんなものでも、いただきます』って返すのが男ってもんじゃないか!」
新郎は内心で嘘だろと連呼しながら、司会に手をひかれ、なされるがままに高砂をおりて、死闘を繰り広げているケーキの背後へ導かれていった。
「さあ、このスプーンを」と、司会がそこら辺のテーブルからとっさにとりあげたスプーンをおしつけてきた。「えぐり込むように打つべし!」
新郎は覚悟をきめ、えいとスプーンでケーキをえぐった。
背後からの不意打ちに泣き叫ぶケーキ。
「新郎、やりました! ケーキに痛恨の一撃!」
司会が高らかに宣言した瞬間、新郎は司会もろとも生クリームの手に張り飛ばされた。
返す手で突き飛ばされた新婦も、悲鳴をあげて絨毯に叩きつけられた。
ケーキは背中にできたスプーンの跡をしきりとなでる。しだいに生クリームにおおわれて、痛ましい跡は見えなくなっていく。
その間に、新郎は新婦にかけよった。
「だ、大丈夫かい?」
新婦をゆっくりと抱き起こす。
新婦が目をあけた。そのうるんだ瞳の前に、新郎はクリームとスポンジのまざったスプーンをさしだす。
「ほら、君のおかげで勝ち取ったファーストバイトだよ」
新婦がくすりと笑って、スプーンの先をくわえた。
「夫婦はじめての共同作業で勝ち取った、貴重な貴重なファーストバイトです!」起き上がった司会の声に、会場は拍手につつまれた。
巨大ケーキもぺちぺちと拍手して、まわりに生クリームのしぶきをとばしている。
「あなた。はしたないまねして、ごめんなさい」新婦がうなだれた。
「ううん。そんな君のおきゃんなところも、大好きだよ」
友人席から野次と冷やかしの口笛が飛んでくる。
新婦に手を貸し、共にたちあがる。
来賓客に一礼すると、ひときわ大きな拍手がわきおこった。
「新郎と新婦の共同作業、愛のあふれるファーストバイトでした!」司会がうまくまとめる。「さて、そんな新郎新婦の前途を祝して、次は乾杯にうつりたいと……」
「司会さん、ちょっと待って!」花嫁が司会をとめた。「順序は逆になっちゃったけど、次はいよいよ、ケーキ入刀よ!」
巨大ケーキの拍手する手がぴたりと止まる。
新婦は床に落ちていたナイフを拾うとピシッとケーキに向かって宣言した。
「さあ、覚悟を決めなさい!」
ケーキは身をひるがえすと、招待客のテーブルの間をすりぬけて会場のメイン扉へと走る。
「待ちなさい! さあ、あなた、行くわよ!」
新婦は片手にナイフ、片手に新郎の手をしっかりと握って、駆け出した。
メイン扉をあけて、外の世界に飛びたしていった巨大ケーキ。
「私たちの愛、待てー!」
そう言いながらロングドレスをものともせずに追いかける新婦の顔は、きらきらと輝いていた。
結局ケーキはとりにがしてしまったが、式は異常な盛り上がりの中、つつがなく終了した。
だが、その衝撃的な体験のせいか、新郎は今でも時々、新妻のつくる皿の上のステーキやポテトサラダがまばたきするかのような錯覚にとらわれることがあるという。
【終】
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【8/27】創作発表板五周年【50レス祭り】
詳細は↓の317あたりをごらんください。
【雑談】 スレを立てるまでもない相談・雑談スレ34
ttp://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1361029197/ ☆蛇狐(へびぎつね)
その名の通り蛇と狐の融合妖怪。
「鰻犬(うなぎいぬ)」と呼ばれると異常に怒る。
最終形態「八岐九尾(やまたのきゅうび)」に
なったら、もう誰も止められない。 家で不労所得的に稼げる方法など
参考までに、
⇒ 『武藤のムロイエウレ』 というHPで見ることができるらしいです。
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48MCAKI0CW 知り合いから教えてもらったパソコン一台でお金持ちになれるやり方
参考までに書いておきます
グーグルで検索するといいかも『ネットで稼ぐ方法 モニアレフヌノ』
Q89AT 中学生でもできるネットで稼げる情報とか
暇な人は見てみるといいかもしれません
いいことありますよーに『金持ちになる方法 羽山のサユレイザ』とはなんですかね
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