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鬼の独立愚連隊と、姫
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0001創る名無しに見る名無し垢版2011/10/17(月) 01:35:56.97ID:NcIkVugL
SS速報から落ち延びて来ました。
ここで完結までのんびりしたく思います。

42文字で強制改行してます。読み難かったらごめんなさい。
0034創る名無しに見る名無し垢版2012/06/24(日) 23:21:08.07ID:7hCsQQYy
 新年を控えた凍える夜に、奴らはやって来ました。落ちぶれたとは言っても元は正規兵。あ、
そうでした。どうしてそうなったのかをお話していませんでしたね。

 ――十余年前。共和国の版図を削り取り、肥沃な穀倉地帯を確保した帝国は、東に目を向け
ます。国境を接する旧い小国の群れを越えた先、連邦の抱える鉱山と大森林に。
 帝国のやり方が徹底的な同化であり、歴史、言語、習慣に至るまでが抹殺されることを知る
小国の領主たちは慄き、かつては犬猿の仲だった連邦に膝を折りました。属州に甘んじてでも、
それだけは残したい、と。
 同様に帝国を警戒していた連邦はこれを受諾し、大軍を新しい国境に寄せました。その数は
およそ三〇万。蛮族と揶揄はされても、国のどこかでは何かしら戦っている兵がそれだけ集ま
れば、おいそれと帝国も手出しはできない、と。しかし話はそこで終わらなかった訳で。
 この三〇万ですがね、なんと糧秣を持参しなかった。守って欲しけりゃ食わせろとね。

 あとはお察しの通りです。同情? とんでもない。まわり回ってこちらが襲われたってのを
抜きにしても、国のありようとしては下の下ですな。

 ――特に、今日という日を迎えてみれば、尚更に。ええ。
0035創る名無しに見る名無し垢版2012/06/27(水) 02:52:45.52ID:rT+kVS1Q
 南が額に入れて題をつけたくなる程の峻険であるのに対して、北のそれは生ぬるいと申しま
すか、命を燃やすまでの覚悟は要らないと。まあ、馬でそれを試みればいのいちで藻屑、骸を
嗤われて仕方がない、という程度には優しくないのですが。
 種籾を食い尽くして、護らねばならぬものがある。綺麗事はとりあえず措いて、生き延びる
ために。飢えた子らを充たすために。だからこれは許される、これは罪であるが正しい、と。
 わが国の乙女が其奴の貧相なイチモツを、敢えて喰い千切らなければならぬだけの理由が、
この有様ですよ。万死に値して宜なるかなですよ。その罪はここでも同様ですから。

 ――その夜までの姫さまは範たるべき兵士でした。その夜からの姫さまは一個の戦士でした。

 山の民が獲物を追う疾さが、あれほどに残虐だったのは他に知り得ません。切れ切れの懺悔
を同じ口からの絶叫が遮り、そして死ぬるを許されない。それが向かいの麓まで続きました。
 はい。その時点で国境は越えてます。まだ生きてますから。
 囚えてからの、という発想には至りませんでしたね。それじゃ楽に過ぎます。覚悟みたいな
ものをされては心外ですから。

 血だるまの盗人を麓まで転がして、ええ、その時点で帝国の領に這入ってますね。私も気に
はしませんでしたが。元凶があるならこの機会に断ってしまえと、私の場合はそれでしたね。
姫さまのそれはもっと恐ろしいものでしたけど。
 農具で武装した賊に対したことは? ですよね。これが聞かないんですよ、こちらの理由を。
お前らが悪だと、疑問もなく断言をね。やあ、おめでたい。
 殺しましたよ。ええ。あの死に損ないどもが盾にして、彼らは疑いもなく、それを拠り所に
矛を向けたのですから、我らに謝る理由がありません。
 国境に接する旧国の、小さきとはいえ州の一つを負った領主の城が略奪の本陣だと、断固た
る罰を加えるのはここであると判明したのが、始まりから五日目のことでした。

 我らの? 三〇〇〇が総数でしたね。私と姫さまの先陣が五〇〇、残りは制圧と退却の備え
を。え? いやもう、その頃には姫さまの隊が先鋭化を極めてまして。私としては首が落ちる
のを容れてましたから、怖れるものものなど。ええ。
 城? や、確かにそうは言いましたが、ここのそれと比べてしまわれたら宰相殿に申し訳が
立ちません。あばら屋と山ほどに別物ですよ。
0036創る名無しに見る名無し垢版2012/07/09(月) 09:25:34.92ID:DWEvGGF3
 並の城で三倍、堅ければ五から一〇の兵を以って攻めよと昔の本にありますが、我らは寧ろ
寡兵にて掛かりました。賢しきを上回る熱病にでも罹っていたのでしょう。
 飢えて他国に踏み入るまでの連中が籠城策など取れる筈もなく、だからそこは地の利として
しか機能しなかった訳で、そうなれば士気と膂力に勝る者がもう一方を蹂躙するのが道理です。
 景気よく燃える廃城を背に、帰還を開始した時点からこの話は始まります。今まで? ああ、
前置きですよもちろん。枕がなければ話が薄くなりますから――


「破城槌が出ましたっ」
 軍団長は即座に、ああそうだろうよ、と納得した。バリスタにカタパルトが続けば、ラムが
揃わねば格好がつかない。敵が何であれ、その辺の機微を弁えているのは確かだと彼は知って
いる。
「損害は?」
 伝令の汚れっぷりを心算に加えて訊く。邪な期待は措いて。
「百人隊が六つ呑まれたところで急ぎ走りましたので、それ以上は……」
「そうか。――で、また続きが凄いんだろう?」
「はっ、その……」
「いいから。見たままを」
「一人、いや、そもそも人と言ってどうかとは思いますが、とにかく一つのそれが、私の身の
丈の倍もある何か≠抱えて走り抜けたのは間違いなく。正面は串刺しの後に四散し、その
近くにいた者も全身を砕かれて……」
「報告になってないな。が、まあ気持ちは解る。――隊に戻ったら、それには相対せずやり過
ごせと伝えろ」
「戻らねば……なりませんか?」
「ならないな。これ以上無駄に死なれても困る」
「……ですよね」
「ま、とにかく死ぬな。生きて状況を持ち帰るのがお前らの使命だ」
「はあ」
「敵を知らばこそ策もある。そう悲観するな」
 と、そこに縛り上げられ、猿轡を噛まされた兵卒が連行される。
「団長、この者が敵の一人と接触を――」
 くぐもったこもごもの怨嗟を吐き続けるそれを転がして、蹴りを入れる。
「――果たしたようなので連行しました。城内に差し向けた兵の生き残り、と考えられます」
「そうか。で、何でこいつはこんな有様なんだ?」
「戻る、と言って聞きませんので。殺す殺すと」
「無理もないが、無茶ではあるな」
「いま話されますか?」
「ああ。解いてやれ」
 戦友の血肉と自身の小便に染まった兵卒の、激情が開放される。
「――ぶっ殺してやる! 何もかもを引き換えにしても、ぶっ殺してやるッ!」
 血走った目が、張り詰めたぎりぎりの精神が、未だ震える脚が、しとどに濡れた股が、彼の
本気を示す。それは不様であればある程に嘘を吐かない。
「ごきげんだな」
「ずっとこの調子でして」
「それほどの何かなのだろうよ、それは」
 建国の英雄である筈の彼が、後詰めのこの地にある理由もまた、この兵のように本気を示し
たからであり、故に解るのだ。真に発せられた言葉の不格好は、まず理解されないと。
「とにかく、こいつは私が預かろう。経緯は措くとして、こうして生きているだけで貴重だ」
「はっ」
「あとな、絵心のある奴を連れて来てくれ。敵の姿が人ならぬなら、それを識らねばならぬか
らな」
 暁光の訪れに合わせ、ヒトの側にも対応が始まる。片や二〇万、此方が五十三と二人の主従、
それに添う六匹の鬼。その戦力差は気の毒な程に一方的だ。
0037創る名無しに見る名無し垢版2012/07/09(月) 11:55:42.08ID:2jdIGg1/

なんか下がってるのでage
0038創る名無しに見る名無し垢版2012/07/09(月) 13:41:32.35ID:DWEvGGF3
「……ん。ああ」
 遅い朝を始めた姫を、執事たる宰相が直立で迎える。ややあって、姫が応える。
「この日を迎えて、どうだ、爺は?」
 主従たるを決めたその日から、この時をお待ちして、とは決して彼は言わない。王がそれを
許し、民がそれを願い、自身が渇望したその朝は、常であるように始まらなければならない。
「どうもありませんな。お嬢さまには本日も麗しく」
「陛下≠ヘ、やめたのか?」
「むしろ今だけに許されると諭されまして」
「なるほどな。その調子で頼む」
「御意」
「や、おはよう諸君」
 昨晩の客が、眠い目をこすりつつ朝に参加する。
「遅いわ」
「すまんな。何しろ敵の気配が一向になかったからな。起きられもせん」
「で、なければここを建てた理由が立ちませぬよ」
「畏れず誇らず、か。いや、実に好ましいな」
「どうでもいいが、そのしたり顔をやめないと殺すぞ」
 ぬるい空気の一切を拒絶する姫が、近習を引き締める。彼女の内で昨晩の出来事は消化を済
ませている。だから何だ。
「まあいい。こうして十八の誕生日を迎えたからには、嫌でも王だ。努めは果たす」
 この日を待ち続けた宰相には言葉もない。
「そうか」
 侍にしても一言だ。主と決めた者の言に差し挟む無粋はいらない。
「ああ、始めよう」
0039創る名無しに見る名無し垢版2012/07/09(月) 13:48:51.52ID:DWEvGGF3
>>37
3.74$のL.A.Noireに50時間も寄り道しちゃう盆暗のスレは下がって当然なのです。
でも日がな一日この話のことを考えてるのは間違いないので、精進しますはい。
0040創る名無しに見る名無し垢版2012/08/01(水) 03:17:58.92ID:VGwL1kbx
 焼き締めたライ麦パンに硬チーズを厚く。熾火の熱は調理を済ませると隠れ家を巡回して、
無数の風穴に拡散される。壁面を埋める麦酒の樽から好みの一杯を注ぎ入れば、朝食は滋養に
満ち、洞窟に活気が足りる。
「王たるに」
 宰相がまた、前のめりに芳ばしい三枚目を差し出しつつ、説く。
「この逆境はむしろ好機にあらねばと」
 姫はしかし、もぐもぐと咀嚼に忙しく、耳は記銘と保持に専念する。
「おかわりだ」
「おかわりだ」
 侍の傍らの樽は、早くも空こうとしている。朝食としても、ちと早い。
「ここの麦酒は濃く苦いのだな。これはうまい」
「違いない。清涼と芳醇が競う所にガツンと差し込む弩級の苦味、これが我が国の麦酒だ」
「我が国の主要輸出品の一つでもありますな」
「そう。そうだ、この爺が推し進めた農地改革と製法の洗練によってここまでに、な」
 薄桃に染まりかけた頬を紅く燃やして、しかし宰相は警鐘を打つ。
「それはさておき、お嬢さまはお召にならぬよう。まだ朝ですから」
「何を言う、爺。それどころか私は今日で成人だ。つまり、火酒を嗜むに足りると――」
「なりません。一国の当主が朝酒など」
「とろり、と濃厚ながら喉越しの荒々しさがむしろ心地よく、抜ける息に芳香が満ちる様は、
喩えて至福だったな」
「ほれ見ろ」
「何がですか。とにかく、朝食に火酒を宛てるなど言語道断、亡き王が許してもこの私が」
「ほう、その線で来るか。ならば――」
 ならば、と奥の手の一つを繰り出そうとする姫を、侍が諌める。
「ま。姫はこれが初めてなのだろう? なれば、今宵の晩餐にはそれ相応の代物が用意されて
いるに違いなかろうさ。それを――」
「いや。隊にいた頃は随分世話になった。寒さと失血から、何度救われたか知らん」
「……」
「くく、これは筋金入りだな。どうする?」
 侍の問いに宰相はにわかには応えられない。初耳だったのだ。
「……そう、でしたか。では今日の日にと用意した、一八年物の逸品には退場願うしか」
「嘘だっ!」間髪入れずに姫が叫ぶ。
「は?」
「いや、あれはアレだ、ええと、新兵にありがちな虚勢を誇ってのちに自爆する云々の……」
「――だよな。俺も傍で聞いてて身が切られる思いだったよ。つい、な? やっちまうんだ。
昔は悪かった、だとか、一人殺すも二人殺すも同じだ、とか、な? でも本当は心根の優しい
このちびっ子が、そんな悪事に手を染めてる訳がねえ。アンタもそれは判ってるんだろう?」
 昨晩より旨い酒を飲みたい侍が無理矢理な助け舟を出すがしかし、この宰相が舐めた辛酸は、
主にこの姫の所為であるが故に、だから通用しない。
「ははは、ではいずれ」
「っ!」
 この鬼を前にして……と、姫が恨みがましい感心をすると同時に、鬼が笑う。
「はっ。いや実に見事な忠節、恐れ入った」
「……まあいい。夕刻まで待てば、それでいいのだろう?」
 諦める気配のない姫が脅迫的に念を押し、究極には断れない宰相が眼の色で肯定を顕にする。
「ならば、昼の勤めを済ませよう。爺、まずはこのうざったい髪を切ってくれ。邪魔だ」
「何、ですと……?」
 腰まである赤髪を鷲掴みにして、腰の短刀に気配を延ばす姫を、苦味の効いた既視感と共に
見上げて、宰相はまた失敗する。
0041創る名無しに見る名無し垢版2012/08/01(水) 03:28:11.83ID:VGwL1kbx
初サマーセール、抑えた筈が$60。計20本とか終わらせられる気がしないんだけど、ここはちゃんとします。
0042創る名無しに見る名無し垢版2012/08/02(木) 21:11:47.68ID:e3MikJZT
「何だそのツラは。爺が出来ぬなら自分でやるしかなかろうが」
 こと、己に関する限りにおいて、加減の利かぬ姫が散髪を自前ですれば、それ自体の価値を
重くしていた者は泣きを見る。
「……くっ」
「面構えが増したな。よく似合ってる」
「し、しかし、これではまるで……」
「蟄居を命じられて二年。父には悪いが、兵たるはこうであらねばな」
 過剰な切れ味が斜めに働き、またその髪色がこれであった結果、それは炎を表現したが様相
である。
「……不覚……っ!」
「淑女的に上品に早く死ねというなら、長いのもアリだと思うが?」
「……くそう! くそう!」
「まあ、そう虐めてやるな。女娘にはどうしても、斯く有らんが入ってしまうのが男の性よ」
「面倒臭いわ」
「…………っ」
「っと、それ以上は、な?」
 半世紀をこの国のために、そして一八年を全てのために尽くした男泣きが、場に沁みる。
「いや、あの、ごめん。悪かった」
「ほれ見ろ」
「……いえ、お嬢さまの覚悟が、そこまでであられるならば爺はもう……っ!」
「あ……」
「これで、いま憤死したら姫の責任だな。くくく」
「っ! やかましいわ! 死因を撲殺にされる前に止んで立て!」
 この喝が欲しかった、とも取れる瞳で宰相は復活を果たす。いわば、お約束でもある。
「……で? あの皇帝≠フ首をこの手が刎ねる算段はどうした」
「――は、三通りが。しかしどれも死線を越えることに」
「上等じゃないか。全部を試してもいい」
 醒めやらぬ涙目を見下ろす三白眼が白刃の色を宿す。
「そこには勿論、俺らが噛むのだろう? そうだろう?」
 侍の人ならず大きな瞳が濃くする期待の色に、二人はそれを些か迷惑に感じた。
0043創る名無しに見る名無し垢版2012/08/03(金) 00:02:48.00ID:j84Qtkfn
「帝国の狙いが連邦にあって、我が国への侵攻がそのための足掛かりでしかない、という事は
お解りかと思います」
「我が家を根絶やしにするには過分であるし、な」
 王国の二万に対する三十万の帝国軍が意味するものに、他の理由を思いつく者はいなかった。
方や故に折らざるやと攻め、しかし此方はだからこその反攻を極める。その明日がこれだ。
「ん? では昨夜のアレは総掛かりではなかったのか?」
「無論。五万やそこらで落ちる城を建てた覚えはありませんが、まさかの二〇万を想像できな
かったのは偏に私の至らなさが――」
「その二〇万相手に、二千で一昼夜持たせてそれを言うか」
「はは、それは偏に愛の成せる――」
「――百倍か。それは難儀だったな」侍は空気を読める。
「ふん。平原の一万が五万を削った王軍にそれを誇ったら嗤われるわ」
 但し、その一万は全滅をしている。
「叶うなら、もう少しだけ早く着きたかったな。その戦に間に合うように」
「我らには、ここに確固たる戦果があります故に」
「……私が、それを聞いて喜ぶとでも?」
 姫の奥歯が軋み、その瞳に朱が混じる。
「――っ!」
「仇を討つのが、望みか?」
 咄嗟に否定を表す宰相が見返せば、彼はそこに血塗れに笑う姫を視る。
「ああ、そうだとも。私が望むのはそれだ」
 失われた全てを瞼に灼いて誓う。
「そして、それ以上を」
 不幸なのは、これを思いついた者どもの浅薄であり、彼女に罪はない。ここに鬼がいるのも
誰かの所為ではない。敢えて言うなら運が悪いのだ。
0044創る名無しに見る名無し垢版2012/08/03(金) 01:13:44.38ID:j84Qtkfn
「ただいま!」
 俵担ぎに熊を背負った首刈りが、鮮血を滴らせつつ帰還を知らせる。腰に佩いた斧には一点
の曇りもない。
「早かったですな。――で、それは?」
「ああ、俺と熊のどつき合いを観戦しててな。可愛いだろ?」
 虎である。
「いや、その」
「心配するな。お前らは歯牙に掛けんように躾けるし。ほれ、こいつらは敵じゃねえからな、
喰うなよ?」
 回復の半ばにあって、満足に動けない兵たちにふんふんと鼻を鳴らし、まるで猫のように虎
は主に従う。既に野生の決定戦は済んでいるようだ。
「ほらな? んじゃ、ちょいとこいつを鍋に仕立ててくるから、待ってな」
 よく見ればその鬼は腰に牛蒡と葱を差しており、図体と面構えが並でさえあれば世話好きの
主婦に見えないこともない。
「ぐるる」
 虎もまた上機嫌で鬼を追って厨房を目指す。
「……はは」
「理解ります。もう笑うしか」
「これは死ねないな……ああ、それどころじゃない」
 同意の渦が奇妙に廻る。さっきまでの死に損ないどもの興味が、尽きた寿命を凌駕する。
0045創る名無しに見る名無し垢版2012/08/03(金) 02:37:43.20ID:j84Qtkfn
 人死に慣れるのは兵の必須であり、それは敵味方の別を問わない。殺すのと殺されるのに、
さしたる違いはなく、死のこちら側と向こう側に立って流す血の量を競う。
 死が自身のそれを上回らない限りに於いて、兵はこれを享受するし、不満といえば飯が不味
いの程度。決して故郷に残した婚約者に未練など残さない。

「何だよこれは!」

 覚悟なき行いに赦しを得る資格はなく、頭蓋に落とされる石の重さを後悔しないだけの罪は
それと知って重ねて来た。死を免れるための全てを、戦友の血で濯ぎ、今日の命を決して離さ
ないと腰までの血に嵌って猶も。

「ふさけんな!」

 同じ血を流すのが友だから、だから耐えられた。人が人として死ぬなら俺にもそれはアリだ
ろうと思った。慣れた痛みの先に冷たいものがあるだけだ、と。

「こんな死に方があるかよ!」

 あれはオニだと誰かが呟いて、その音に奇妙な納得がいった。人ならざるもの。朧な輪郭が
赤く、人型にしてはどうしても大き過ぎる恐怖の塊を型取り、それがここに。

「いやだ」

 正中線で切り分けられた人間を、これから起こる自身の死と認められない。絶対に許せない。
そんな死だけは。あああ、何だよあれ。人が死んだ姿じゃねえ。

「次はお前か」

 その声は死であり、命が終わる瞬間であり、彼に抗う術は、ない。
0046創る名無しに見る名無し垢版2012/08/14(火) 03:51:12.92ID:ObU2Z8Sq
「お。隊長」
 血塗れというか血溜まりを担いでるかの若造が、いつの間にか後にいた上司に慌てない振り
で声を掛ける。
「こっちは問題ないぞ。怠けてもねえし」
「見てりゃ判るさ。前に出過ぎないのには感心した。どこで習った?」
「え、あ、いや。……弓のおっさんだよ畜生!」
「だよな。その調子だ」
 ずばんと軽く若造の肩を叩き、隊長は門前の有象無象を見やる。渾身の矢羽が降り注ぐが、
蚊の射すより気にしない。
「で、夜まで持つか?」
「ったりめえよ! つうかこいつら、まるで歯ごたえがねえ」
「だが侮るなよ? お前らがくたばるのは、何やかやでいつもそれだからな」
「ここで? それはないぜ隊長! これは死ねねえや。敵が安過ぎるって」
「くく。それでもごま塩程度には覚えておけ。うっかり死ぬのがお前らのお約束だってな」
「この俺が? 他のヌケサクみてえに? はっ、最高だぜ隊長!」
 城門を目指す坂道を決死の兵たちが駆け上がり、そして一様に下半身と泣き別れる。
「――ヒトがどんだけやるか、お前はまだ知らねえからな」
「そんなら連れてきてくれよ! ヒト如きに負ける気がしねえ」
「若いな、若造。例えばな、侍の師匠が本気出したら、お前なんざ二秒で骸だ」
 在りし日の血闘を想い、隊長の二の腕が震える。
「マジか。倭の国って二〇年前だよな。くっそ、生まれんの遅過ぎだろ、俺」
「残念だな。ああ、残念だ」
 腰のものを城壁に預け、関節を不気味に鳴らして、隊長は新人教育を開始する。
「ちょっ、あの」
 嗚呼と叫ぶ若造が四方に舞い、戦場は混迷の度を深める。
0053創る名無しに見る名無し垢版2013/01/28(月) 15:41:20.74ID:Rr2eurz4
 宰相と侍の溢した、巨大な空洞で姫は運足に専心する。かの鬼の、それだけを一〇年やった
という胡散臭い台詞を受けて。
 背に負うは彼の脇差であるが、彼女の体格に比せば大剣もいい所である。「又弟子になるの
であれば、これが入り用になるさ」と、言って鬼はそれを軽く譲った。

「……あのような生き物が実在する世界、か」

 呟いて、にわかに紅潮した姫のそれは、もちろん恋心のそれではない。もっと凶悪で、残忍
極まりない将来を懸想した結果だ。

 甲冑までを相手にした経験ははないが、彼女の敵は少なくとも鎧を纏っている。装甲を前提
とした攻撃、それが身につけた生き残りの術である。可動部を破壊する事により人体を不能に
至らしめ、次の敵を同じ目に遭わせる。その次も。


規制が明けたと知ったので取り急ぎ。
0054創る名無しに見る名無し垢版2013/03/09(土) 22:55:50.69ID:etAiUMAY
「あれか。見事に道理だ」
 遥か眼下の二列縦隊を眺め、問わず語りの侍に宰相が応える。
「その程度にはお役に立てませんと、王に合わす顔がありませんので」
 彼らがこれからすることを、たぶん、その主は激しく悦ぶだろう。

 入り組んた渓谷を貫く橋を見下ろして、侍の抱える宰相が薄ら笑う。北の国境を我が物顔で、勝ったつもりのそれを、二人で嗤う。

「では、手筈通りに」
「少なく、申し訳ない」
「謝るフリなど、通じるかよ、な。笑わせる」

 侍が小太刀を抜いて掛かるのは軍の要である、輜重隊。それが峰を越えて、この国を成功の跡地にされるのが気に喰わない。
数に任せ、粛々と行われる侵略を担う部隊に、余地を与えるのが嫌で堪らない。
 それを本隊と切り離すのが彼らの役目である。どうやってか、それは物理だ。

「なに、気にすることはありません。この橋は国境のこちら側≠ノありますから」

 騎馬にて越えられる峠道が支える国益を、廃することで欠けるとして、だから何だ。国難がここにあるのだ。

 眼下の大軍を眺め、それと存分に遣り合えない不遇をそして呑み込んで、次があるさと。

「俺はまあ、師匠に言わせりゃやっと並≠セが、アレをぶっ壊すくらいなら、な」

 ヒトの手になる大願を文字通りにぶっ壊すべく、鬼の一人が断崖を走って下る。
 帝国の二方面侵攻はここに崩れ、敵地に孤立した主力は、誰かの望んだ苦境を自身と祖国に齎すことになる。

「……いやはや。この期に及んでの助力、お嬢さまの強運にはもう、笑ってしまうしか」

 さて。ここに反撃の狼煙は上がる。阿鼻とか叫喚とかの類だ。彼と彼女の敵の。
0055創る名無しに見る名無し垢版2014/05/10(土) 15:23:19.38ID:1Q5uW2a+
     __,,,,......--------......,,,,__
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  (二二二二二二二二二二二二二)
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  |:::::::::::::::::::ヽ(  ̄)          |
  \::::::::::/   ̄           |
    ̄ ̄ I WANT YOU              ニュー速(嫌儲)
     FOR POVERTY.ARMY    http://fox.2ch.net/poverty/



     【ひろゆき】今2chで何が起こっているのか?【#偽2ch騒動】
      http://www.youtube.com/watch?v=Rhi87ky-Dqo
0056創る名無しに見る名無し垢版2014/05/14(水) 10:28:26.62ID:6TPpbF/v
「子供を殺した事があるか?」
「そりゃあるさ」
「……どんな気分がした?」
「いい敵だったと思ったけどな?」
「――赤子は?」
「ああ、あの野郎は強かったな」

 強敵を求めて世界を探索する一種族の、これまでとこれからがこの世界を睥睨して謳歌する。

「橋を落として輜重隊を本隊と断絶させた。近い内に何もかもを捨てた連中がそこを通るぞ」
 地下水脈の大空洞に野太い声を散らかして侍が、隊長に報告を入れる。
「お疲れお疲れ、よく間に合ったな。半ば無理だと思ってたわ」
「着いた瞬間が際だったよ。知ってて見えてるんじゃねえかと思ったけどな」
「知ってる訳ねえだろ、無理言うな。とにかく、それが成らなかったらまあ無理だったんだ、よくやってくれたな」
「あんたに褒められると死ぬらしいからやめてくれ。で、この姫さんはどうするよ?」
「最強の剣士かつ旗印なんだ、最高の舞台を用意してやらんと無礼に当たるだろう?」
「ん? いやちょっとそれはアレだよな最終的に死ぬよな?」
「悪くないだろ?」
「悪いがそれは断る。あの姫さんは俺の又弟子になったからな」
 隣を歩く宰相の心配が極限に達した所で、侍がそれを許さない事を宣言して続ける。
「俺の弟子を俺らと同じように扱って死なせるのは、許さないよ隊長」
 うす青く光る右耳の通信機を、乱暴に中指で叩いて拒絶を示し、姫の事を思う。
「あれは俺の君主と決めたからな。俺より先に逝かせる訳にはいかん。了解したか?」
 答えて返す隊長の声が多分の愉悦を含んでいることを、聞いて判断するのは難しい。
「ああ、それでいい。お前はその信念に従って為すべき事を成せ」
 この連中には基本的に共闘の概念がない。自分の意志より優先されるものなと何一つない。
0057創る名無しに見る名無し垢版2014/10/12(日) 21:09:30.57ID:HVopgUpD
ちょっと訂正

「橋を落として輜重隊を本隊と断絶させた。近い内に何もかもを捨てた連中がそこを通るぞ」
 地下水脈の大空洞。声を立てずに侍が、隊長に報告を入れる。
『よく間に合ったな。無理でも仕方ないと見積もってたが』
 内耳に埋めた通信機に地中故の不調は見られない。地上から衛星までの疎通を最低限に設計
されて実装した唯一の機械部品がここでイカれるのは、誰の予定にもない。
「着いた瞬間が際だったな。よもや知ってて見えてたんじゃねえかと思ったが」
『そんな筈があるかよ。とにかく、それが成らなかったら一年遅れたろうな、いい仕事だ』
「あんたに褒められると死ぬらしいからやめてくれ。で、姫さんはどうするよ?」
『最強の剣士かつ旗印なんだ、最高の舞台を用意してやらんと無礼に当たるだろう?』
「ん? いやちょっと『それはアレだよな最終的に死ぬ』よな?」
 つい、声になった詰問が、隣の宰相に最大級の懸念を喰らわしているのを構わずに問う。
『まあな。英雄は死なないと完成しないからな』
 ヒトとの最大の相違である牙を、この男にしては珍しく剥いて侍はそれを否定する。
「悪いがそれは断る。俺の又弟子を安く死なせたら師匠に殺される」
 蒼さを赤みが上回った複雑怪奇な顔色の宰相を、眼力で抑えて、
「俺はあの姫さんに殺される予感がするんだよ、いい意味でな」
 虹色に困惑する老爺があらぬ誤解をする前に、話を切り上げる。
「とにかく、あれは俺の君主と決めたからな。何があろうと俺より先に逝かせる訳にはいかん。
了解したか?」
 答えて返す隊長の声が多分の愉悦を含んでいるのを、聞き取って苦味が走る。この野郎。
『――ああ、それでいい。お前はその信念に従って為すべき事を成せ』
 不安の消えない宰相に凶暴な笑みをひとつくれて、帰りを急ぐ。
0058創る名無しに見る名無し垢版2014/10/12(日) 21:11:34.01ID:HVopgUpD
「――ああ帰ったか。首尾はどうだ?」
 汗塗れの王女が横目で問う。灯火が照らす影絵もまた振り返る。
「悪くはないが、良くもなさそうだ」
「また漠然としたな。良いのと悪いのを一つづつ話せ」
「ですがお嬢さま、悪い方が最悪です」
「いい方もよく考えたら、最悪よりはマシな程度だしな」
「じゃあ何だお前ら、一体何をしてきたんだ?」
 彼女の治めるべき国が結末を迎えたがっている中で、二人は概ね最善を成したのだが、勝利
にはそれでもまだまだ足りない。何一つとして足りていないと言っても差し支えがない。
「まあ取り敢えず橋は落としたよ。爺さんはそれで死ぬ予定だったから俺が代わりにな」
「細工と鍵を使わずにあれが落とせるとは、いやはや、思っても見ませんでしたが……」
「これで連邦が干上がるのは確定したか。いいぞ!」
 何でか隣国の苦境に喰らいついた姫に、宰相は最高にうんざりした顔で諭しに掛かる。
「宜しいですか、我が国はこれで最大の優位的取引先との断絶を、緊急避難的な事情に依ると
は言え選択してしまいました。先方に最大限の筋は通してある事を考慮しても、国際的な信用
は完全に地に堕ちた事でしょう」
 恐らく、事態を正確に認識しているのは残念ながらこの男だけなのだ。
「北の鉄鋼と炭が我々に何をもたらした? カネ以上の何を対価にした?」
 しかしこの姫の感情は治まらない。国境を守った経験が絶対にそれを許さない。
「総ての国を合わせた以上のカネを積み上げて、それが忠誠か? 私はカネなんか大嫌いだ!」
 絶対に王位に就いてはいけない資質を指定するならこれだ。清濁を併せ飲んだら憤死する、
確固たる信念が肉親をすら凌駕してしまう激情を揮って後悔しない、そんな生き方がこれだ。

 しかし鍛えられた臣下は此れ式で折れたりはしない。何故にか彼を王として預かってしまい、
それを私の王と認め、これを唯一とすると決めてしまったからだ。

「この小国がここまで生き残れたのは、お嬢さま、その汚いカネの力で御座います」
「知っているからこその、嫌いなんだがな」
 姫の呟きは慟哭に近い。
「承知しているからの忠告にございます。これだけは容れて頂きます」
「嫌だ」
「なりません」
「それが誰も幸せにしないかも知れなくてもか」
「誰か一人の幸せを贖えるかも知れない、その限りに於いて」
 命を小言の対価にして睨んでみせる忠臣には、この姫だとて敵わない。まず口が敵わない。
0059創る名無しに見る名無し垢版2014/10/12(日) 21:12:52.66ID:HVopgUpD
「諸君、残念ながら大勢が決してしまったようだ」
 五万の敵を背に、隊員に事実を告げる隊長の後ろ姿は悲しげだ。
「そもそもあの帝国とやらが狙ってたのが連邦の資源だったからな、これの潰えたのちに連中
がこの国にいる理由がない訳だ」
「折角ちょっとやる気を出してくれたのにか?」
「帰還命令が出るからな。死んでる場合じゃないだろうさ」
「戻ってどこに行くんだよ?」
「本国経由で連邦に攻め込むに決まってんだろ」
「は? じゃあ連中は何しにこの国に来たんだよ?」
「誰かこの馬鹿に説明してやれ」
 名指しされた男は斧を背に、いつもの様に馬鹿の相手を取りかかり、その傍らで彼の隊員と
王国兵は状況を完全に理解している。
0060創る名無しに見る名無し垢版2014/10/12(日) 21:13:38.24ID:HVopgUpD
 温めた葡萄酒と炙った肉を腹に収めて、漢らしい人心地をついた姫が曰う。
「血統で君主を選ばない、それが最大の利点は何だと思う?」
 彼女は顔だけ笑って訊く。侍は少し考えて、応える。
「何だろうな、――暗君がある可能性の排除だろうか」
 師に対して、ぎりぎりの許容を与えた上で、王である彼女は浮かぶ凶相を隠さずに告げる。
「幼君を抱かずに済むことだよ。これが何より国にして怖ろしい」
 この弟子は手に余る程には賢いな、と何度目かになる感心を含んで相槌を打つ。
「なるほどな。後見人は毒にしかならず、当人は生きるに如かず。まるで運命だ」
 誰もが喜んで尊んで祝ったそれを呪いのごとくに決めつけて、彼女は猛る。
「ではこの私は何だ! 十八に成ると同時の即位戴冠を約束されて、嬉しい事などあるか!」
 ここはどちらに応えても不正解なので侍は黙る。
「――それに関しては人物が違うとしか……」
 慙愧を湛えて宰相が宣告する。ありとあらゆる平和を約束するのと、概ね同じである。
「姫の人気は尋常でないようだが、反感の類いはなかったのか?」
 ちょっと気になってみたような体で聞いてみた。
「ふん、あって欲しかったさ。同じ血が二代続く前代未聞を楯に廃嫡を要求してくれるとな」
「ああ……」
 何か申し訳のない気分になった侍が、なってない相槌を打つ。
「ええ、それにはまず我が国の継承権選定が如何に行われるかを――」
「うるさい」
 宰相の助け舟は無残に沈み、姫の大雑把なあらましが場を支配する。
「父が嫁取りの為だけの王位継承を成した折の狂騒は、何というか末代までの恥だ」
 姫の双眸が元よりの色を塗り替えて危険色を灯す。
「戴冠後に意気揚々と連れ帰った母を見た刹那、ここのバカ共は一斉にイカれおった」
 建国以来とされる国の吉日を、さも見たかのように語る姫の横顔は苦渋を含んでいながらも
誇らしげであるという、ちょっとした見ものである。
「皇国五大家、その直系の上位継承権持ちが他国に嫁ぐなど、絶後だろう」
 まさにその日に彼の隣にいた宰相は追憶に胸を震わせる。彼がいまここにいるのは、この日
に決定されたとして否定されないだろう。
「二人が共に生きた時は長くなかったが、民は未だその日を夢見ている。娘である私が――」
「それは違いますぞ。国民の意志は王たるに相応しき方として殿下を唯人として壮挙しており
ます」
 ふん、とまた一つ鼻息を荒くして姫は否定する。
「あの日、あの山に私がいたことで何が違ったか? 私は一介の兵の勤めを果たしただけだ。
それをお前たちが盛って祭って――あろうことか王にまでっ」
 この激昂は正当なものだ。その時彼女は戦友と共に敵に向けて最善を尽くしたのみである。
たとえそれが、野戦任官された無名の小隊長が主導した鮮烈な逆転劇だったとしても。
0061創る名無しに見る名無し垢版2014/10/12(日) 21:14:11.99ID:HVopgUpD
「……まあ、そんな日もあるさ」
 姫の三白が限りなく四白に近づこうとしている危機を察して、侍はヒトの世に習う。
「国境の北がいよいよ平定されたと、報せが届いた日のことを私は忘れられません」
 宰相の自身を守るべき何かは既にイカれているらしく、そんな鬼のことなどを構いやしない。
「我が国の領土を侵した民兵を追って討伐し、その仕儀に因縁をつけた連邦正規兵の一個連隊、
三〇〇〇名を自国内まで誘引の後に鏖殺せしめた。その際に逃走を装った殿戦の隊長が――」
「が?」
 感極まった様子の宰相を侍が促す。姫の事情は扠置いたらしい。
「こちらのお嬢さまであり、先王女殿下、現国王陛下その人です」
「それはちょっと姫が云々とかのアレじゃあねえよな」
「左様、戦歴の点であの日にお嬢様は王を越えられました」
「巫山戯たことを言うな! 私は今日この日まで父を越えたことなどないわっ」
 狂犬か山猫のような質で吠えるのが習わしのこの娘だが、さにあらん、父と母を筆頭とした
家族を愛して止まないのだ。
「! これは失礼を……」
「だよな。俺も親父を越えたことはないし、師匠なんざそれを口にしただけで死にそうだ」
「……お前はいつか越える。いまは師匠だがいつまでもは許さん」
 掛け値なしの本気である。その勢いが彼の師にまみえる時まで持てばいいが。
0063創る名無しに見る名無し垢版2014/10/22(水) 08:19:03.60ID:NLUwSLwb
 帝国本土がその報せを飲み下す前に、この星での一ヶ月を要することになったのは誰のせい
でもない。しかもそれが、およそ常識では信じ難い内容のてんこ盛りであり、それ故の遅延が
方方で冗談のごとくいちいち面倒臭く繰り広げられた挙句に、肝心の物証が紫色な腐臭を撒き
散らしていたのだから。

 文字通りの全軍を繰り出しての大戦争である。まつろわぬ小国に対する粛清の体裁を対外に
訴えた宣戦の布告は、当事者以外には物笑いの種でしかなかった。
 拡大政策による国民の増加が、必要に足る軍事力を確保するに至ると同時にこの侵略は実行
に移された。昨日まで近隣の小国民だった彼らを含めて全軍五〇万。正規兵二万の隣国が予想
外の奮戦をどれだけ積み上げたとて……

 ――そのまさかの結果的惨敗が、表沙汰になってはならない。ならば。


「奴ら帰っちまうぞ! 何やってんだ隊長ォ」
 と、生意気な口を利いた若造が、暫く手前の顎で食餌を得られなくなるのと同時に、追撃の
手筈は整った。
「深追いして死んでも笑ってやらねえからな」
「俺とこいつは慎重だぜ、隊長。このアホとは違う」
「あおおああんあー!」
「行っても国境までだ。敵をよく見て来い」
「ああ」

 ここにある状況の矛盾は、偏に敵方の軍団長による独断が故である。敵を物理的に見知った
指揮官として、如何ともし難い状況を立て直すために陣を敷き直す必要があった。

「半分は要らねえって言っただろうが。休んで治せよ」
 墓掘りを終えた守備兵のやる気に満ちた表情を見て、それでも首刈りは一言ばかり窘めねば
納まらない。
「姫さまの許しは戴きました。これよりはもう一度遣うばかりです」
「そのこれ≠チてのは一個しかねえヤツだろ? 無駄になるかも知れねえのによ」
「既に一度は無駄にしておりませんからな、これ以上はありませんよ」
 落とされ掛かった腕が繋いだばかりの弓兵が、決まりきった台詞を吐く。
「しゃあねえな。ま、なるべく俺の後ろにな」
 相変わらず、この世界の人の血を啜っていない得物を腰に、首刈りは血塗れの盾として往生
する予感に打ち震える。この男はことある毎にヒトの側に立つのを好しとし、最後に立つのが
己ではないことを希求して止むことがない。
「戴冠の儀に花を。姫さまの栄光を我らが血潮にて」
 合唱が木霊の如く鳴る、呪詛に似た響きを背に、ああ、この世界は俺好みだと痛感する。

 この世界に神はいないと姫は言った。ヒトはそれを人間に求め、たまにそういう存在がこの
世に現れる。
0064創る名無しに見る名無し垢版2014/10/22(水) 08:33:25.77ID:NLUwSLwb
>>62
見てる人がいるとか超びっくりしました。ゲームに費やす日常を改めて、これをとにかくやります
0065創る名無しに見る名無し垢版2014/10/22(水) 09:21:03.36ID:NLUwSLwb
ちなみにいま嵌ってて抜け難いのがDarkout。$1.11で2つ買えたSteamキーを置いとくので
私の代わりに軌道エレベーターを建立して下さい。日本語化はされてないです
6DNZ8-MILR2-KNDYX
0066創る名無しに見る名無し垢版2014/12/03(水) 22:14:42.35ID:R0VNzPWg
「――詐欺と強姦は別だ。これは民衆の手で裁かれる」
「石を投げる感じか?」
「まあな。易くは死なせない決まりだ」
 当たれば致命の剣戟を交わしつつ、侍とその弟子は歓談を続ける。
「先に見た限りだと、この国の連中はその手合をしそうにはないけどな」
「人であればそれなりに腐るさ。犯すのも自由だ」
「死を以って償える限りに於いて、か」
「そうだ」

 侍の指導により、姫の技量は極限を指して止まない。殺される前に殺す、それができる技量
を洞穴にて磨き続ける。何の為にか、誰の為にか。

「王の責務が必要以上に重いのは、圧力の結果か?」
「はっ、どこが重いよ。死囚の首を刎ねるのに王以外の誰がある?」
「割と普通ではないぞ」
「普通でないなら、それは欺瞞だ」
「厳しいな」

 必殺の流し斬りを難なく避けて、又弟子がこの有様になった経緯に探りを入れる。全力の彼
女に確かめるには軽々に過ぎるが、それが師の務めでもある。

「お前らの言うところの神≠ニやらがいないお蔭だろうな。絶対の何かなど度し難いわ」
「気持ちは解るが、剣筋に感情を載せるな。雑になる」

 踵を蹴り上げられた姫が、面白いように一回転する。そこを斬られたら助からないだろう。

「その辺を踏まえて、姫はどうなりたい?」
「――私が望むのは、戦友と共に迎える死よ。それが夫ならば尚良い」
「そんな奴らを、脳まで筋肉が詰まってるって、俺らは言ってるな」
「その辺りは、我らと変わりませんな」
「やはりおかしいのはこの姫か」
「左様にて」
「何だと貴様」
「俺は嫌いじゃないが、明らかにアレだ」

 そんな一言が為に彼女の師は徹夜を強いられる。概ね彼女の望み通りに。
0067創る名無しに見る名無し垢版2015/01/12(月) 11:56:12.52ID:mUbe4nm1
「……自由と平等が聞いて呆れるわ」
 林檎の如き頬をした姫に、はははと相槌を薄く笑う宰相。
「ん? 南の、だったか」
「はい。共和国の標語ですな」
「それがこの姫の何を怒らしめる?」
 皸のような皺から苦渋を滲ませる宰相が、それもやはりうんざりした顔で事情を始める。

「そもそも、我々がいまの状況にあるのは血を流さぬ奴原による怠惰と妥協の帰結と言えます」
「一五〇年前に我が国が国権の回復を果たした事により、旧来の貴族制度は斜陽を迎えました」
「それに守られて甘え、感謝の言葉を毎食後に唱えていた輩までが、その特権を舐めたくなり」
「――殺して、我が物にした」
 やや前のめりな宰相の機先を制して姫が結末を顕にし、宰相は肯定する。
「左様にございます。その折に我が国の傭兵が犠牲になった件は、必ずやその代償を」
「何があったんだ?」
 元から愛想のない姫の眉間に極太の二本線が引かれ、そこに母の面影は消え失せる。
「信念に応えて殉ずるか、保身の捨て駒になるかの違いだ」
「先王――父上の部隊は前者でしたな」
「ああ、あれこそが戦士たるの矜持よ」
「共和国のそれは宜しくなかったと」
「最悪だ。豚共も、その民も等しく、な」
 姫の言葉に怪訝な侍に、宰相が解説をする。
「――目前の処刑を一刻でも先延ばしにする為に、無抵抗の楯を強いられた彼らの拳は、己の
膂力のみで割れておりました」
「だからこの爺は喜んで彼の国を苦しめている。皇国の出でありながら、な」
「あれが祖国などと思ったことはありませんが」
「知ってるよ。だから言ってみた」
 灯火がゆらゆらと洞穴を照らし、陽の目を待ち望む彼らはそれぞれに爪を研ぐ。逆転を己の
手で成すと誓って。
0068創る名無しに見る名無し垢版2015/02/10(火) 06:58:44.18ID:HGWeEW8h
 敗走に近い撤退を率いる首刈りの表情には、斑に赤い跡がある。
「間違いねえよ、隊長。火薬は無煙で7.62mmだ」
「ああ、ある訳ねえよな。どうやらあちらさんにも開いてたようだ」
「え? それはやっといたけどよ、やられっ放しってのはどうも――」
 地団駄を一つ大地に喰らわせて、彼は王城への帰還を開始する。
「反撃はお預けになっちまった、ここに来てからの俺はまさかの不殺だよ」
「……しかしアレは一体……」
 幸いにして一人も欠けなかった追撃の兵は問うが、ある筈のないものに対しての認識が及ぶ
にはどうしても時が足りない。
「まあ、筒に詰めて石を飛ばすとこから数えたら、世代にして十は軽く超えてるからな」
「威力の程は如何なるものでしょう? 貴殿が一身に受けておられたが」
 彼らがそれを認識できなかったのには致し方がない。喰らった張本人が特に不都合なく走り、
不平を吐いているこの状況では。
「うん? ああ、お前らがアレに当たったらまあ死ぬな」
「死に、ますか……」
「人間は脆いからな。それは仕方がねえよ」
「しかし貴殿に於いてはそうでもない、と」
「まあな。あの程度じゃあ俺は殺せないさ」
 赤銅の肌を染めた弾痕を示して、軽快に笑ってみせる。ヒトとそう変わりない出自なる鬼を
射殺すには、口径にして三〇倍程が必要になる。
「その辺の説明は隊長がするだろうから、取り敢えずは出直すとするさ」

 帝国の隠し玉はこのようにして不発に終わり、この世界の混沌は少し、足を止める。
0069創る名無しに見る名無し垢版2015/02/10(火) 07:05:24.16ID:HGWeEW8h
補足。このユーラシア大陸のパチもんを舞台にした世界には中国と中東とアフリカとイギリスが欠落しており、
その辺が由来の技術は未発達であります。故に文化・文明の歩みがこの世界とは異なります
あと、他の大陸は南米のみが存在する予定です
0070創る名無しに見る名無し垢版2015/02/10(火) 08:54:49.78ID:HGWeEW8h
「この国には他所にないものが二つあり、他所にあるものが二つない。何だと思う?」
 回避を凌駕した姫が、当たらぬ位置に立って問う。
「ここが仮に善い国だとして、あるのは公共の概念と生存の自由、ないのは貧民窟と奴隷制、
だろうか」
 その師を前にした時を回顧しつつ、侍は応える。
「ほぼ正解だな師匠、流石は我が先達だな」
「いや、驚きましたな。我らが理念を理解される日があるとは」
 夕食を設える傍らの宰相が感嘆を漏らす。
「ヒトの種に限らないが、まずそれをして後に改めるのは割と正統な流れだからな」
「しかし一つだけは欠けていたぞ師匠。我が国民の最大にして唯一の義務は幸福の追求であり、
それが他のボンクラ共には足りてない」
「権利、ではなくて義務なのか」
「当たり前だ。それを権利だと錯覚したら腐る。独り善がる。義務なればこそ携えるのだ」
「かなり厳しい生き方が前提にあるようだな」
 尽きぬ修練を己が身に強いるこの姫が、それを言うからには覚悟がある。
「よく生きる、それに尽きるだろう。王はそれを保証し、民はそれを今際の時まで尽くすのみ
だ」
「それはしかし、この世界の共通認識ではないんだな」
「残念ながら、な」
「故に我が国は独立独歩、何人にも侵されずに、これからとこれよりを」
「侵されは、したよな?」
 もっともな問いであるが彼らの認識は異なる。
「継承権の絶後と民の根絶が成されなかった時点で、我らに敗北はありませぬよ。そこまでの
覚悟なくして我が国を攻めてはいけない」
「まあな。あの父がいてこの娘が継いでしまった以上、何より民の全てが東に安泰であるから
には、滅ぶのはあの国で違いない。この爺もいるしな」
「取り敢えずではありますが、帝国内に於ける我が国の資産を換金する手筈は終了致しました」
「ははっ」
「そうなると、どうなるんだ?」
「信用取引が不能になるな。そもそも、彼の国の通貨はまだ弱い」
「敗戦国が通貨不況を仕掛けるのか」
「そうだ」
「技術立国が国際的な信用を金銭に換える手段は、多くありません」
「モノ、そしてその青図か」
「はい。宣戦と同時に彼の国の技術を連邦と共和国に流出させました」
「諸刃の剣ではあるが、技術の独占による優位は瓦解する」
「そうです。なのでここ一番を連邦が凌ぎ切れば――」
「逆転があり得るのか。えげつないな」
「小国故の智慧、と」
 ここに至っても得意を露わにしない宰相の策略は、近く帰還する斧使いの報告によって瓦解
する。だがしかし、それならばそれでやりようはあるのだ。
0071創る名無しに見る名無し垢版2015/02/13(金) 13:28:38.01ID:vz9VTFxl
「終ったかい?」
「はい、討ち死にした兵は全て地に還りました」
 落城から幾度かの中天の元、碑銘を刻まれた城壁を前に、兵の一人が応える。
「特に、あの――斧を担がれた方には過分な厚意を」
「ああ、あれの半分は趣味だから何も言わなくていい」
「はあ」
「それより、ここも何とか片づいたってことで、明日にも嬢ちゃんが帰って来るぞ。何か支度
がいるなら、いまの内にな」
「姫さまが! そうですか、これは食材に万全を期しませんと」
「食いしん坊で通ってるのか」
「それはもう。寝床は泥でいいから旨い肉をと、王にすら求めておられました」
「うおう」
「嘆かわしい……と、王であるお父上と我ら、全く逆の意味で呻吟をしたものです」
 娘がアレでは、その父の気苦労は察するに余る。
「聞いてはいるが、そこまでか」
「それ以上ですよ。あの方が躓く石と刺し違える機会があれば、その任は奪い合いになります」
「格好いい所を見せられたら、命はいらないってか」
 食事に命を懸けるとかの与太ではないな、とさすがに察して隊長は応える。
「ご冗談を。それを見られてしまったら死に切れますまいよ。故に我らは、こうして」
 工夫のなりをした兵が、応えて苦笑する。死の狭間を、格好がつかないからで乗り越えて、
次のそれに備えている彼の表情には淀みがない。
0072創る名無しに見る名無し垢版2015/02/13(金) 14:19:00.27ID:vz9VTFxl
「この樽は持って行けないのか?」
「幾ら何でも無理でございます。侍殿の積載量は既に限度を」
「俺は馬車かよ。いいから寄越せ、姫は徒歩でもいいよな?」
「任せろ」
 この国が誇る高級品と、超高級品に慣らされてしまった彼らの引っ越しは重い。それらを
嬉々として設えた宰相の罪は重いのかもしれない。
「これから王になられる方を歩かせるなど言語道断、いざとなればこの爺が樽を」
「いやそれは死ぬだろうよ」
「だよな。いいから爺さんはまた俺の腕に収まっとけ」
「主君を差し置いての――」
「黙れ」
 姫の一喝は殊の外重い。極上の大麦火酒が、それも三〇年物が掛かっているのだ。
「……で、あれば」
「他には何かあるか?」
「ないな。良いものは全て師匠に持たせた」
「な?」
 脱力する宰相に、これは無理だと彼女の師たる侍が諭す。この姫を望んだ以上は諦めろ、と。
0073創る名無しに見る名無し垢版2015/02/13(金) 15:49:28.40ID:vz9VTFxl
「如何されましたかな叔父上、自慢のしたり顔が些か褪せておりますが」
 もの凄い侮辱を先手に放った皇子に、しかし彼は言い返せない。
「聞けば、虎の子の火槍隊が効力を上げるどころか、自慢の逸物を鹵獲されて帰還したとか」
「あ、あれは――」
「予想外の想定外だから致し方がない、と?」
 嗜虐に満ちた彼の勢いは留まらない。
「……お前だったら、どうだと言うのだ」
「だから言ったでしょう? 模倣はそれに甘んじた時に死を迎えると」
 帝国戦争相であり、この五〇年を新兵器開発に擲った肉親を煽って、続ける。
「数が大勢を決める戦場は終わりますよ。誓ってもいい。今後はただ一つの極大が有象無象を
凌駕する時代が来ると」
「――地下の実験場を二〇も沈め、数多の民を踏み台にした代償が報われると?」
「彼らとその遺族には十分以上の保証をしておりますよ、叔父上。我が帝国の覇権に殉ずると、
宣誓の者のみが参加をしております故」
「詭弁だ……」
「道理ですよ。何でしたらこの身を、その手に掛けて下さってもいい。そこな従僕が叔父上に
罪なしと証言もするでしょう」
「何……だと……?」
「ですが、私はあなたのことが他の誰やらよりは余程好きなのですよ。だからここで終わって
頂きたくない」
「何を……?」
「愚かしいまでに一心で、忠誠に疑いを感じたこともない。小心を隠し切れてもいない」
「き、貴様っ」
 侮辱を宣うのとは、如何にもかけ離れた皇子の直視が彼の意思を縛る。
「故に協力を願いたいのです。私に誠意があれば、あなたはそれを決して裏切らない」
「しかし、私は……」
「これは離心ではありません。ただ、帝国の、臣民の未来を、今日より良くしたい。それだけ
の、切なる願いです」
 懐柔はこれで成り、一国の皇子が武力の根幹を把握する道筋が決まる。この戦争はそう簡単
には終わらない。
0074創る名無しに見る名無し垢版2015/02/13(金) 17:54:53.18ID:vz9VTFxl
 快活な洞穴を引き払い、姫とその一行は王城を目指す。日にすれば然程でもないが、秋口の
開戦から落城を経て、反撃の狼煙を抱いた彼女が踏んで歩むのは早めの霜である。
「早く雪を見たいものだ」
「好きなのか?」
「ああ、あれに足を取られた敵兵に、止めの一撃を加えるのが好きだ」
「この世界の、この時代の生まれでよかったな」
「何が言いたい?」
「戦を忌避するヒトの世界は多いからな。正当に見える復讐でも、縛られるのは果たした方の
首だぞ」
「ふん。退く理由がないわ」
「それで縊られてもか?」
「それを悪だと断じるなら、違えてるのはその連中の方だ」
「倫理と心中するのもまた、ヒトなんだろうよ」
「下らん生き方だな。戦がないのと平和なるは全く以て筋が違う」
「では、どうあるのがいいと思うよ、姫は?」
 即位の時を眼前に捉えて、宿命を呑んだ彼女は宣告する。
「私の根本は兵だからな、殺さなかった後悔はしない」
 極めて個人的な何かを察して、侍は質問を変える。
「では、その力を持たない民にはどう振る舞えと?」
「ふん。変わらんよ。余所ではどうか知らんがな」
「誤解の可能性やそれぞれの事情があるとは?」
「刃を向ける敵に何があるかなど知るか」
「いやほらアレだ、人質を取られたりもするだろ?」
 彼の師匠がそれをした敵に施した残虐を、それは扠置いて訊いてみる。
「質に取られて命を乞う民など、見たこともないわ」
「マジかよ」
「ああ、私の目の前で果てた女には、賊共を八つ裂きにしろと誓わされたよ」
 過日の人を、己が如く誇る姿に偽りはない。
「なるほど変態だ。これは並じゃあないな」
「褒めてるのか?」
「ああ、全くだ」
 揺り籠の如き安楽に身を任せて眠る宰相が、これを耳にしなかったのは幸いだろう。
0076創る名無しに見る名無し垢版2015/03/13(金) 12:57:14.68ID:zUqc3sqH
3.81からの書き込みテスト。移転はします

「見ろよ隊長、こいつは削り出しだぜ」
 人体の効率的な殺傷を目的に、遠い何処かで開発された兵器が中庭に晒される。
「第二世代のそれを再現した代物か、やけに再現度が高いな。この世界で造られたと思うか?」
「どうだかな、少なくともこの国の技術体系にはあり得ないそうだ」
「帝国にも扉≠ェ、それも俺らのより前に開いてたのは違いないな」
 隊長の問いに応える鬼の調子は、少なくとも楽しげではない。
「数はどんだけだと思う?」
「分隊が四で後衛はなし。奴ら、それで充分だと思ってたらしいな」
「充分だろうよ。ヒトが相手でこの時代なら、過分に過ぎる」
「だよな。あのまま行ってたら借りた兵が全滅してた」
「問題はそれが、既定の路線なのか俺らに備えたかのどっちかってことで」
「盾と槍に攻城機で大攻勢してんのにか?」
「あれ、勝てるつもりでやってんのかね、そもそも」
「何にせよこんなもの≠ェ出てきた以上、まともには推移しないだろうさ。我が国が唯一の
勝者になるためには――」
「いいねえ不利だねえ」
「隊長、弓のおっさんがまたイカれてんぞ」
「いや、俺も同じこと考えてた」
「お前もかよ。で、どうすんだよ隊長?」
 秋の最後の日差しを背に受けて、この鬼どもの長は煉獄に想いを馳せる。
「あ? 運が良けりゃその豆鉄砲で死ねるかも知れねえだろ。やり方を考えろ」
0077創る名無しに見る名無し垢版2015/03/13(金) 13:01:25.84ID:zUqc3sqH
「ときに師匠よ、あれが判ったぞ。まだ、何となくだがな」
「ほう」
 北の森を抜け、王城をそろそろ捉える途で、見えたり見えなくなったりしながら、姫は侍にこれまでの成果を報告する。
「後の先の次だ。言葉で言われている時には何のことやら判らなかったが、いまは解る」
「ほう」
「――お前が基本の足捌きしか教えなかった理由も、な」
「ほう」
 灌木をかき分ける獣道の端を踏んで、また消えつつ、続ける。
「己の背が視える感覚だ。そこに在りながら、意識はここにあった」
 薄い胸を、叩く音がした。
「敵の剣筋が幾重にも薄く赤く曳いて、私はその最中にあってしかし当たらない。それが見えるからだ」
「物理的に、見えない筈でもな」
「卑怯だぞ師匠、当たらないことを知ってて『避けた』とか吐かしただろう?」
「他にどう言えってんだ」
「育てる気を疑いたくなる」
「言葉ではどうにもならぬこともあるのだよ」
 その言いようが気に食わない姫の飛び蹴りがやはり、盛大に空振った辺りで、そろそろ彼女の城が見えて来る。
0078創る名無しに見る名無し垢版2015/03/13(金) 13:03:32.67ID:zUqc3sqH
たぶんこれで切りがいい筈なところまで取り急ぎ。

 そして一同は会する。この国の王になる女子と、その忠臣と、死に損ないの兵と、戦狂いの
鬼の群れが。

「楽には死なせないぞ」
 そう、姫が問えば、
「お互い様ですよ、姫さま」
 と、兵が応え、
「即位の次第が整いました、お嬢さま」
 と、宰相はこれを促し、
「戦争だな、いいぞ」
 と、鬼どもは今日を祝福する。

 そしてこの日、王位の継承は成り、新王の命による西伐が開始される。
0079創る名無しに見る名無し垢版2015/03/13(金) 14:15:03.44ID:zUqc3sqH
 半壊した主塔を背に、死に損ないの六〇名が膝をつく中庭にて継承権は移譲を果たし、最後
までそれを望まなかった姫は、王としての責を担うこととなった。
「王国騎士団団長にして、唯一の爵位持ち貴族であり、あろうことか皇国の王位継承権第三位
でもあられ、先王の私兵たる近衛騎士団の長の座を引き継がれた、我が国の最大にして唯一の
最高権力者、我らが姫さまに祝福あれ」
「応」
 轟く号令に珍しくも苦しげな笑顔を見せ、宰相と近衛団長の接吻を手に享けた姫は、この時
よりこの国の王となる。独裁を望まれて許される最高権力者の誕生である。
「陛下と呼んだら打ち首だからな」
「畏まりました、陛下」
「くそう」
 一人の民が証人として立ち会うことが、即位に至る条件である易さが、半壊した城の晴天に
彼女のこれからを避けられないものとした。好むと好まざるを問わず、ただ一人の王に就くし
かなかった彼女の懊悩は喜んで無視された。仕方がないのだ。
「では陛下、お言葉を」
「ぶっ殺すぞ」
 満月より頬を明るく染めた姫、もとい王はこれを断れない。
「――お前ら、判ってるだろうな? 我が国は敗戦の瀬戸際にあることを」
 濁りのない直視が王を貫き、彼女は王たるを示す立場にある。
「死ぬよりも厳しい試練を想像しろ。普通にあることじゃあない。それを私は強いるぞ、この
王がこれより始めるのはそんな戦争だ。総ての兵が無様に死に絶えるのを命令するのが私だ。
誰もが血反吐を吐いて死ぬように求めるのが私だ。この王は総ての兵に死地へ向かうことを、
これより命じるが、貴君らにそれに応じる用意はあるか?」
「応」
 合唱が中庭を満たす。彼らは既に一度死んでいるのだし、それがもう一度起こることに後悔
はない。そうしたらもしかしたら姫さまが、その時を思い出して笑ってくれるかもしれないか
らだ。
 総てが何にせよ終わった時に、彼らの王が生きてさえいれば他には何もいらない。彼らのそ
れぞれの望みは概ねそれだけだ。
0081創る名無しに見る名無し垢版2017/12/27(水) 12:32:17.02ID:C1Z7QFDy
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参考までに、
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グーグル検索⇒『武藤のムロイエウレ』"

BOGAOUTELD
0082創る名無しに見る名無し垢版2018/05/21(月) 06:55:52.81ID:tRZnwP6O
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参考までに書いておきます
グーグルで検索するといいかも『ネットで稼ぐ方法 モニアレフヌノ』

LDHQB
0083創る名無しに見る名無し垢版2018/07/03(火) 20:57:50.64ID:f1dClnnX
RSQ
0084創る名無しに見る名無し垢版2018/10/17(水) 16:31:49.60ID:ZU7x6aHX
中学生でもできるネットで稼げる情報とか
暇な人は見てみるといいかもしれません
いいことありますよーに『金持ちになる方法 羽山のサユレイザ』とはなんですかね

AI2
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