綾は、壁際で自分の長弓を取ると、甚五郎とともに壁伝いに広間の奥まで歩いた。

畳の端から壁までは、わずかに隙間がある程度だ。
歩きながら畳を数えると、
「爺ちゃん、気味悪いわ……なして、十三畳もあるん? この広間は、八畳四方の畳がすっぽり収まる部屋の筈やに」
泣きそうな顔で、綾が言った。


――思ったとおりやな。
甚五郎は、頭の中に描いた図形を反芻した。


「綾、もいっぺん聞くで。この畳は、全部で何枚や」
「せやから、六十四言うとるやん……けど、今は何枚になってまったんやろ」

横は五畳、そして奥行きは今確認した通り、十三畳である。
従って、この部屋は六十五畳。

もとは六十四畳ある筈なのだから、
「一畳分の“誤魔化し”があるんや」
という甚五郎に、綾は広間をぐるりと見渡した。

「畳はどこも欠けとらんやん……」
「いいや、“仕掛け”があるんは、真ん中あたりやな」

そう言って、甚五郎は懐紙に硬筆で図面を描きだした。


  ttp://dl6.getuploader.com/g/6%7Csousaku/477/%EF%BC%98%C3%97%EF%BC%98%EF%BC%9D%EF%BC%95%C3%9713.jpg


「まったく、出鱈目もいいとこやのう。儂ぁ、虚仮にされとる気分やに」

甚五郎は、白く濁った目を見開いて言った。