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死がテーマの小説を作るスレ 2
0001創る名無しに見る名無し垢版2010/08/03(火) 18:39:00ID:M0C6y4DZ
・題名通り
・前スレ落ちちゃったみたいなので
0231創る名無しに見る名無し垢版2011/05/19(木) 18:22:04.53ID:Jbg4IRAG
フリーゲーム、セラフィックブルーの二次創作です。
死をテーマにしている作品なので、投下させてください。



 冥い闇が、私を優しく抱いている。
 それはとても冷たく、でも、ずっと私が求め続けてきた「救済」と酷似している。
 この冷たくも優しい虚無に包まれて、私という存在はゆっくりと、けれど確実に消滅していく……。
 私は、ようやく「救済」を得る。現世という鳥籠から放たれ、何処までも堕ちて逝けるのだ。
 でも、待って。
 私は、まだ責任を果していない。「彼ら」に託された責任を私は果さないままに死に逝こうとしている。
 レイクやユアンの想いを私は無駄にしようとしている……。

「哀れね、ヴェーネ。そんなくだらないモノのために縛られているなんて」

 聴き慣れた、けれど、忌々しい声が発せられた方へと振り向く。
「もう少しで、お前の望む『救済』に手が届くというのに……」
「エル……!!」
 エル。リフューズ・セラフィックブルー。
 私の最初の友人であり、私の忌々しき本性。
 生命を否定し、運命を憎み、世界の終焉を望む。
 滅びの担い手。死天使・Refuse Seraphic Blue。
 その死天使が私に妖艶な笑みを向ける。
「ねえ、ヴェーネ。お前はもう十分に『救世の道具』としての責任を果したというのに、どうして意地らしくもこの世に留まっているのかしら? 
 この星からしてみれば、お前はもう用済みの『塵』でしかないというのに……」
「…………………」
「言っておくけれど、ドラッグに頼っても無駄よ。廃人になったとしても、お前は「私」からは逃れることはできない。お前は死ぬまでこの悪夢を見続けることになるのよ」
 私はおもむろに懐から注射器を取り出し、首許に注射する。
「まあいいわ。今は逃避していればいい。だけど、私は、いつまでもお前の傍にいる。
 ヴェーネ。お前がお前であるが故に」
 そして、悪夢は消え去り、視界が薄れて全てが私の前から消え失せていく。
 私はまた深い眠りに落ちていった。
0234 ◆69qW4CN98k 垢版2011/05/22(日) 00:15:49.22ID:s3f+/zTl
教室の人影はまばらだった。
時間つぶしなのか、昼寝している奴もいる。
しかしそれは仕方のない事なのかもしれない。
必修科目ではないし、魅力的な講義は他にもたくさんある。
だが今の俺には、この教授の話は琴線にふれる物があった。
縊れ鬼は相変わらず俺の側に居る。ただ黙って立っている。
周りの人には見えてはいない。良いことだ。
教授はつらつらと己の持論を展開していき、俺はそれに聞き入った。

「……妖怪は存在するのか? その問いかけにですね、私ははっきりとイエスと答えましょう。
しかしそれは概念的なものでありまして、多くの現象が妖怪の定義に含まれるわけです。
前にもお話しましたが、人は理解できない事、天災、疫病など、
自分ではどうすることも出来ない現象を納得させる為に『妖怪』という物を生み出しました。
何が起こったか理解できないより、とりあえず『あれは○○の仕業』と自分を納得させたのです。
これはですね、心理学的にもですね、わかりやすい。
人は不安を抱えては生きていけない生物でして。ストレスに弱い。
皆さんもいないですか? 何か不調があると重病に違いないと思ってしまう人。
鍵かけたかな、とわざわざ戻って確認する人。いないかな? いませんか?」

教授は教室を見回した。俺の居る場所にもちらりと顔を向ける。
間が入ったにも関わらずに寝てる奴には敬意を表する。
もっとも、お喋りされるくらいなら寝ててくれた方がましだ。
鍵なんざ、かけても窓ガラスを割られてしまいだろう。
別段そんなものは気にしてない。
親から貰ったこの身体は健康そのものだ。最近死に急いだが。
誰も手をあげたりはしない。
それを確認して、ふむ、と教授は頷き先を続けた。

「これみんなストレスです。この行為が行き過ぎると、心理学的には病気と判断されます。
心気症とか強迫性障害、ですね。意外と人間というものはストレスや不安に弱い。
その不安を解消するためにですね、理由をつけたわけです。
こんな現象が起こった。でもそれがどうして起こるかわからない。不安が残ります。
こんな現象が起こった。それは何々の仕業です。何々はこういう時、こういう場所で現れます。
自分をね、納得させて不安を解消したわけですよ。見えないモノに怯えるよりもね、
妖怪というスケープゴートを生み出して精神の安定をはかったわけです。
未知に対する恐怖が妖怪を生み出しているわけです」

教授はスライドを動かしてスクリーンに地図を投影させる。
そこには数々の妖怪の名前が書いてあった。
俺でも知っている名前もある。
教授がポインタを当てながら続ける。

「みんなもわかる通り、世界地図ね。名前だけ見てるとわからないけど、これみんな妖怪です。
海外では悪魔とか妖精とかいった方がいいのかな? まあいいや。
人間の不安というものはですね、場所かわっても変わらないものですよ」

スライドが次々と変わっていき、妖怪の姿が映し出されていく。

「河童、ケルピー、ヴォジャノーイ、ニクシー、ペグ・パウラー、ネック、はいちょっとここまで。
なんだかわかります? 河童でわかったかな? はいそうです。これ全部、川に関係する妖怪です。
昔は河川とか荒れ放題でしたからね、茂みとかあってちょっと何か出そうな雰囲気なんですよ。
まあ橋とかない場所もありますから、ぬかるみに嵌ることもあったでしょう。
馬とか人とか溺れるのをね、妖怪のせいにした。で、子供とかに戒めるわけですよ。
川に近づいちゃいけません、河童がでるぞ! てね。子供は水遊び好きですけどね、お化け怖いですね。
で、結果的に溺死は少なくなるわけです。『妖怪』に教訓を持たせたわけですね。
そして現代になるわけですが、皆さん、河童の仕業とか聞いた事ありますか?」
0235 ◆69qW4CN98k 垢版2011/05/22(日) 00:16:58.74ID:s3f+/zTl
また教授は周りを見回した。
河童? そんな話はついぞ聞いたことはない。
コンクリ塀の河川敷に河童の絵は映えない。
この現代に河童などいるのだろうか。

「多分みなさん聞いたこと無いですね。今は舗装や柵などで川は綺麗になっていますからですね、
恐怖を感じないわけです。恐れる必要がなくなった。そもそも川に近づく必要性がない。
河童という『妖怪』をですね、恐れる意味がない。この時初めて『妖怪』は死んじゃうわけです。
我々が『妖怪』という存在を忘れたら、居ないも同然、死んじゃうってわけです。
しかしですね、人間はとかく悩みがちなものでして、あらたな恐れがですね、新たな妖怪を生むわけです。
アンサーさんでしたっけ? 携帯電話からウニョーンって出てくる奴。
これは携帯電話が普及してない頃にはまったく聞かなかった名前ですね。
ジーコジーコ黒電話回しても誰も出ませんでしたよね?
我々は新しい妖怪の出現に立ち会ってるわけです。
おそらく携帯が普及してなかったら生まれてませんでしたよ。
いつでも、どこでも、顔の見えない誰かに、通話できるという、見えない不安。
妖怪を調べるとですね、その時代の背景がみえてくるわけですよ。
土着の妖怪を調べるとですね、その世俗がみえてくるわけです。面白いですね。
人が生きている限り、妖怪は存在し続けていくでしょう」

上手いもので、時間きっかりに講義は終わった。
学生たちもパラパラと散っていく。
俺は教授のもとへと向かった。
俺の要件は講義ではなく、教授にある。
『妖怪と民俗』を研究している、柏木教授に。
俺は教壇から離れて部屋を出ようとしている教授に声をかけた。

「教授、柏木教授」

教授はくるりと振り向くと、俺をしげしげと眺めた。

「なんだね……ええと」
「佐藤 真司です。実は教授に尋ねたい事があるのですが」

ふむ、と教授は首を傾げた。

「悪いが研究生活で金が無くてね」

誰が借金を頼むか。第一学生が教授に金策を工面するはずがなかろう。

「いえ、そうではなくて。講義の内容について質問したいのですが」
「ああ、そういう事」

なんだ、といった顔をする。
なんだろう。飄々としてとらえどころがない人だ。
俺も学者とかになったら、こんな他人を気にしない人物に成るのだろうか。

「まあ、立ち話もなんだし、座りながらでも聞きますか。喉も乾きましたしね」

むかった先は、大学の食堂。
俺と教授は、少し早目のランチを取ることにしたのだった。
0236 ◆69qW4CN98k 垢版2011/05/22(日) 00:18:35.90ID:s3f+/zTl
教授が食事を平らげるのを待って、俺は尋ねた。

「実はですね。俺の友人が妖怪を見たと言ってるんです」
「へえ」

妖怪を見た。
こんな事を言われたら人によってはからかわれていると思うかもしれない。
が、さすが研究者だ。教授は真っ直ぐと俺を見つめている。
その目には好奇の色が浮かんでいる。

「それで?」
「友人には見えますし触れます、しかし他の人には見えません」
「その友人だけ、という事かな」
「いえ、友人以外にも見える人はいるそうです」

友人というのは、もちろん自分の事だ。
さすがに、いきなり自分ですと告白するのは敷居が高い。

「ふむ。私だったらまず精神科に受診することを薦めるね」

模範解答。まあ俺もそう返すだろうな。

「しかし、教授は妖怪は居ると唱えていますが……」
「うん、確かにいった。だが私の提唱するのは妖怪は心の中に居るという事。
幽霊の正体見たり枯れ尾花、という言葉がある。人間は理性を働かせる生き物だ。
わからない、などという不安材料は出来るだけ無くしたいのだよ」
「しかし友人は確かに見た、と言ってます」

ちらりと横を見る。
縊れ鬼が俺の横にいる。触れるし声をかければ反応するだろう。

「それが全て、見間違いだというのですか?」
「こんな話がある」

ウォルター・スコットという人物がいた。
彼は小説家として名高いが悪魔や魔術に関する書簡も出していた。
そして彼が集めた説話の中にこういう事例があるそうだ。

河川から湖畔へと続く場所で奇怪な現象が起こった。
昼過ぎになると、たびたび帽子や銃や剣が雨のごとく降り注いだ。
さらには川沿いの空中を数団の武装兵が行進したり、互いに戦った。
それが消えると、また別の兵団が現れた。
人々はこれを見ようと大勢集まったが、その三分の二は目撃し、残りには見えなかった。
目撃者たちは銃砲や剣の種類を克明に覚えていたそうである。

「興味深い話ですね」
「また、こんな話がある」

ある医者が患者を往診しにいった。
患者には病の兆候は見られず、健康体だった。
しかし彼は食欲を失い衰弱し、寝室に引き籠るようになった。
医者の説得に彼は答えた。

――先生、私は想像の病にかかっているのです

最初、それは猫の姿をとっていたのだという。
ところが、それはやがて恐ろしい物へと変貌していったのだ。

――死のイメージ……骸骨です
0237 ◆69qW4CN98k 垢版2011/05/22(日) 00:21:27.01ID:s3f+/zTl
骸骨は彼が、一人のときも、誰かとあってる時も片時も離れず、じっと立っているのだという。

――ソレは今も居るのですか
―――はいそうです
――カーテンの隙間に、います

医者はカーテンの近くに立って尋ねた。

――まだ見えていますか
―――完全には見えません、しかし骸骨の頭だけは見えています

医者はその後色々な検査を行ったが、患者はやがて衰弱して死んでしまった。

「前者は集団ヒステリー、後者は神経異常による幻覚と思われる」
「はっきりと見えて……他の人も見えているのにですか?」
「ふむ」

教授がコーヒーにひとつ口をつける。
俺もつられる様に飲み物に手を伸ばした。
教授の話は興味深い。……いや、不安になるのだ。
とくに骸骨の話は他人事ではない。
四六時中佇んでいるという状況は俺にそっくりだ。
あらためて縊れ鬼を見る。少女の姿、それが側にいる。
俺は病気なのだろうか? 幻覚を見ているのだろうか?
いつのまに神経に異常をきたしているのだろうか?

「私は学者だ、自分にとって有利な説も疑ってかかる」
「……と、いいますと?」
「妖怪は居ると説をあげたらね、まずは居ることの証明をしなければならない」

教授は自嘲気味に笑った。

「長年研究を続けたが、証拠のほとんどは見間違い、思い込みさ。
中には疑わしいものがあるが……眉唾だねぇ」
「友人の件も、ですか?」
「精神に変調をきたし、幻覚幻聴を見る症例は報告されている。そしてそれを抑えることもね」

教授は空いた食器を片づけ始めた。
どうやら切り上げる気らしい。

「それが妖怪だと決めつけずにまずは友人の話相手になってあげなさい。それからカウンセリングも。
そういうのを一つ一つ潰して、なおソレを見るようなら」

よっこいしょと、席を立つ。
そして、俺を見て微笑んだ。

「それが『妖怪』なのだろう……その時はまあ、私のもとへきなさい。喜んで話を聞くよ」
0238 ◆69qW4CN98k 垢版2011/05/22(日) 00:24:55.51ID:s3f+/zTl
バイバイ、と手を振って教授は去っていった。
その場に俺が残される。
ぐるぐると、ぐるぐると不安が駆け巡る。
俺は病気だったのか?
たしかに親元を離れて慣れない一人暮らしだ。
自分では自覚していないが、いらんストレスを抱えているのかもしれない。
俺は縊れ鬼を見た。ここに居る。
手を伸ばして頬を撫でる。
人の肌の触感、そして指にかかる髪の触感。
これが全て、俺の思い込みなのだろうか?
思い込みだから、他の人には見えないのだろうか。

「……なあ、お前はいったい何なんだ?」

ぽつりと呟く、ぽつりと声が聞こえた。

「鬼よ、縊れ鬼」

確かに声が聞こえる。これも幻聴?
骸骨の話のように、俺はこのまま死んでしまうのか?
ぐるぐると思考が駆け巡る。
ぐるぐるぐるぐる、ぐるぐると駆け巡り、だんだん腹が立ってきた。

「なんでだよ!」

けたたましい音でテーブルを叩くと、食堂に居る人間が何事かと俺の方を見る。
きっと変人扱いだ。ああそうだよ、変人だよ。
可愛い女の子の幻覚を見ている変態さんだよ。
だがな、俺は死ぬ気はない。こうやって食欲もある。
引き籠って衰弱なんてするもんか。ちょっと前までは引き籠ってたけどな!
とりあえず、冷水を飲んで落ち着くことにした。

……ふう。
落ち着いて、改めて考えると疑問が湧く。
幻覚の一種だというが、はたして本当にそうなのだろうか。
仮にこれが幻覚だとしても、だ。

―――あの人、死ぬわ

人を殺す幻覚なんて存在するわけがない。
つまり俺は幻覚では死なないという事だ、多分。
仮にコイツがまだ証明されていないUMAのお友達だったとしても、だ。

(俺はこうして生きているし、死ぬつもりもない)

そういたら学会に珍しい事例を報告できるってものだ。
そうすれば一躍時の人だ、俺の未来は明るい。
なんだか心のモヤモヤが晴れてきたような気がする。
そうだよな、あれこれ悩むのは俺らしくない。
さっきまで悩んでいたが、腹が膨れてきたらどうでも良くなってきた。
俺、なんだかワクワクしてきたぞ。
縊れ鬼の頭をワシャワシャと撫でてやった。

「……なんのつもり」
「別に。これからもよろしくな」

さて、当座の問題は置いといて、せっかく大学にきたんだ。
サークルにも顔を出すことにしようか。
そう思い直し、俺も食堂を出ることにした。
0239創る名無しに見る名無し垢版2011/05/22(日) 00:30:35.23ID:s3f+/zTl
投下終了

その二人の御方の靴の紐を解く価値もない男ですが、ご期待にそえるように頑張ります


0241創る名無しに見る名無し垢版2011/06/20(月) 20:49:14.97ID:7Ulaeao1
主人公が後の妻とのセックスの最中に主人公の両親が祖父の妾に殺害されて
主人公の父親の少年時代からの壮絶な人生が回想されて
やがて主人公の息子が生まれるも祖父の妾に主人公はおろか全人類の人生が目茶苦茶にされて
そんな中でも主人公の息子に息子がうまれ
しかしながら主人公は妻とともに両親のように祖父の妾に殺されて息子が主人公になり・・・
0242創る名無しに見る名無し垢版2011/08/01(月) 10:58:53.86ID:wpQaMJ1S
もう僕は死んでしまうと思う。多分もうだめだね。
正直なんで自分が死ぬか分からない。というよりも分かりたくはない。
自分の死を認めるみたいで分かりたくない。
自分の死を受け入れたくはないのはみんな同じでしょ。
受け入れたくないと言うよりは、実感が湧かないのかも知れないのかもね。
いきなり医者に「貴方は余命一ヵ月」って言われて「はいはい」なんて言える分けないじゃん。
病名は癌だって。この17年間の人生が癌で消されるみたいで嫌だ。
最近は症状も酷い。食べ物も喉に通らないし、気分も悪い。もう宣告から三週間経過した。
後一週間で死ぬ。怖くないし悔いも人生に対する未練もない。
なんかいきなり真面目な口調になってしまったね。僕らしくない。
みんな、いつもより優しく接してくれた。僕は嬉しかった。楽しかった。
この時間がずっと続いて欲しいと神サマに願ったこともある。けど、ルールは守らないとね。
けど死にたくないなぁ〜。もう少し生きたい気持ちもどこかにある。
あーもう!またネガティブになっちゃった。
みんな、ありがとうね。こんなバカでも優しくしてくれて。

癌患者少年Kの遺書より一部引用
0243創る名無しに見る名無し垢版2011/08/01(月) 12:57:41.39ID:wQ1YJdaf
 もう、後には退けない。
 男は心の中で呟き、鬱屈した怨執で双眸をぎらつかせ、マリファナ葉巻に火を点けた。
 親兄弟。孤児院の皆。そして、ただ一人愛した人・・・自分には、失ったものが余りに多すぎる。
 ――全部、「奴ら」に奪われた。
 辺りに漂うフレッシュな生き血の匂いを嗅いで、男は獣のような息遣いで恍惚を覚える。
 鉄の塊のような、旧式のバトルライフルを携えて、動かなくなった屍の背中を踏みにじった。
 そうしてマリファナの紫煙を吐きながら、30口径のライフル弾を連射して、屍の頭を吹き飛ばす。
 頭蓋骨が砕け散り、脳髄が溢れる様を見ると、男は言い様のない幸福感に包まれた。
 罪と罰なら甘んじて背負おう。
 ここから先はもう、正義も法も関係はない。
 俺を殺すまで、誰にも俺は止められない。
 男は、福音を伴って空から天使が舞い降りるのを見た。司祭のようなローブとストールを纏い、胸元には小さな聖書を抱えた、長い銀髪の美しい乙女。
 それを見る、彼のズボンのファスナーは、今にもはち切れんばかりに膨れ上がっている。
「汝が憎み恨む者全てを殺すがいい。但し、汝の魂は地獄の深淵に堕ちたまま、永遠に救われることはないだろう。地獄の釜の炎で骨の髄まで焼かれ、数千年先までお前は呪われ続けることだろう」
 透き通った乙女の声で、天使は厳かにそう言うのだった。
「俺は・・・罪を犯すことを恐れない!」
 片手にマリファナを燻らせながら、幻覚を見上げた男は、酷く興奮した声色で、天使にそう叫ぶ。
「では行くがいい、神の御意に逆らいし者よ。汝の罪が数千年先まで呪われ、永遠に償われることなきよう。汝が深い闇の底でもがき苦しむよう」
 そう言い残して、天使は男の唇にそっと口付けると、無数の光の粒となり、閃光と共に霧散した。
 ――男は、興奮の余り下着に射精していた。
 視界の先には、彼が手にかけた屍が海のように広がっている。
 男は不敵に笑うと、最後にマリファナを深く吸い込んで、吸い殻を指で弾いて捨てた。
 生きてここを出るつもりはない。
 だが、全てを殺戮し、「奴ら」をこの世から殲滅し尽くすまでは、死ぬつもりもない。
「さあ・・・どいつもこいつも皆、俺を恐れろ。調教の時間だぜ、クズども!」
 ライフルのマガジンを交換し、金属音と共にコッキングボルトを往復させると、男は叫んだ。
 その瞳は、生と死の狭間に生きる野良犬のように、ぎらついた輝きを放っていた。
0244創る名無しに見る名無し垢版2011/08/02(火) 16:56:13.81ID:Fhw1uP3e
博士「フッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ……。」
0245創る名無しに見る名無し垢版2011/10/04(火) 22:34:00.40ID:MxXyLUyM
 灯りも人通りも絶えた盛り場の裏通りだった。


「松風義烏之丞だな!神妙にいたせ!」
 三人の御家人風の男たちは、義烏之丞に一間を開けて、ゆくてを塞いでいた。
 三者とも大刀を抜き、正眼に構えている。
 義烏之丞は懐手で首の垢をつまんでは地面にぽろぽろと落としていた。

「抜けい!松風!」
 右の浪人が焦れたように吠えた。
「俺に何用か、怒鳴ってくれても良いのではないかな」
 義烏之丞は、垢を掻き掻き応ずる。
「我等の剣が、弱者を甚振るのみか、己が身で知るが良い!」
 左の男がつばきを飛ばした。
「では、うぬらは俺を上と認めて、多勢でかかってきているのだなあ」
 義烏之丞は口元を大きくほころばせ、ひとりごちるように言った。
「貴様ごときw少し游んでやろうというのよ」
 真ん中の男が言った。今にも吹き出しそうである。

「俺は、お点前方とはちごうて、弱い。抜けば游んではいられぬぞ」
「口ばかりの居酒屋攘夷が!」
 左の男が振りかぶり一歩踏み込んだ。
 義烏之丞も、踏み出した左踵を軸に体を左に回しつつ、腰の大刀を横へ払うように引きぬく。
 義烏之丞の体が一回転し終えた時、刀は鞘へ戻っていた。
 左の男は、刀を振り上げ、踏み込みかけた姿勢のまま、つんのめるように倒れる。
 地に伏せた男の体の下から、どす黒い血溜りが拡がった。
「居酒屋がぁー!」
 真ん中の男は正眼から踏み込み、突きに転じた。
 対し義烏之丞は右足を踏み出して身を屈め、大刀で正面を凪ぐ。
 突いてきた男は、振りかぶった男と同じ最期を迎えた。
 血の匂いが、濃くなった。

「きっ……貴様!貴様等の攘夷が何を生むか!」
 残った右の男は正眼の刀を震わせながら、裏返った声で叫んだ。
 袴の股間のあたりの紺が濃くなってい、拡がっている。
 義烏之丞は、突きに来た男の袴で刀を拭い、刀身を鞘に戻した。
 今や全身を震わせる右の男に向いて言う。
「開国ならば、すべての諸外国と向かえ合えねばなるまい。お主らのように、特に定めた国のみに
へつらうのでは、それは、開国とは言わぬ」
「……い、居酒屋ごときが、聞いたふうな……」
「俺たちは歪んでいるやもしれぬが、そういった芯がある。お前らは、それが目障りというだけだ
それでは、俺たちには、いや、俺にすらも勝てぬ」

「居酒屋攘夷風情が何を偉そうに」
「民と時代は開国に傾いていることもわからぬ愚か者が」
「未だに謙朝とは哀れな……」
 辻々より、六名の人影が、口くちに嘲りの言葉と共に現れた。

 義烏之丞は腰を落とし、大刀の柄に手を置く。
 口元に、微笑が大きく拡がっていた。


『義烏之丞魔道之道行』第一章「通り渡り」より
0246創る名無しに見る名無し垢版2012/01/10(火) 07:11:01.45ID:T10haLH4
0247創る名無しに見る名無し垢版2012/03/30(金) 18:21:33.07ID:WzCU9cSW
0249創る名無しに見る名無し垢版2012/06/18(月) 14:41:41.70ID:gPUUVDYC

 /\     /⌒\
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 ヽ|   /  彡   ⌒ヽ
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     イ  |::|   ミ7 ̄ |
     ハ._V   |:|\ |
     |       V__ノ\
     N      i. и
      VN. i |、ヘV
        W/V
0251創る名無しに見る名無し垢版2012/07/14(土) 12:45:30.36ID:n7f5Ulf+
>>250
一応、居るには居るぜ
基本的にROMだがね
0252創る名無しに見る名無し垢版2012/08/13(月) 13:16:22.70ID:TgE3Zv+5
過去 壱

おねえちゃんがジンチュウ様に選ばれた。

とと様もかか様もばば様もみんな喜んでるけど

わたしはかなしい。

だっておねえちゃん死んじゃうから。

おねえちゃんきれいでやさしいおねえちゃん

みんなジンチュウ様に選ばれた娘は幸せだって。

あの世で神様におつかえできるからって。

0253創る名無しに見る名無し垢版2012/08/13(月) 13:25:53.85ID:TgE3Zv+5
過去 弐

おねえちゃんがジンチュウ様になる前の日

あきちゃん、あきちゃん、ちょっとここにいらっしゃいってわたしを呼ぶの。

おねえちゃんはこれから神様のところにいくからね。

あきちゃん哀しまないでね。

神様におつかえできるのはとてもめいよな事なのよ。

だからあきちゃん泣かないで。

おねえちゃんも神様の元で幸せになるから。

あきちゃんもこっちで幸せになって。

っていうとわたしにくしをくれた。

おねえちゃんが大事にしてた黒いくし。

0254創る名無しに見る名無し垢版2012/08/13(月) 13:37:27.93ID:TgE3Zv+5
過去 参

だめだよ、もらえない。
だっておねえちゃんすごく大事にしてたくし。お祭りの日も、お参りの日もこのくしで髪をとかしてた。

おねえちゃんも泣いている。

あきちゃんこまらせないで。
あきちゃんが哀しんだらおねえちゃんも悲しくなってくるの。

だからあきちゃんそのくし、わたしだとおもって大事にしてね。

おねえちゃんがジンチュウ様になる日。
お化粧したおねえちゃんすごくきれいだった。

おでこに十字のおまじないをかけられて。

それじゃあ、あきちゃん元気でね。

そういって宮司様に連れていかれた。

おねえちゃん大好きだった、おねえちゃん。

くし、すごく、すごく大事にするからね。







0256創る名無しに見る名無し垢版2012/08/14(火) 19:28:08.62ID:BE85XkPm
解析された林勝広のメール


なあ、保、俺達友達だよな。明日は三枚でいいよ。
昨日パチンコですっちまって、ピンチなんだよ。
0257創る名無しに見る名無し垢版2012/08/14(火) 19:34:45.69ID:BE85XkPm
解析された林勝広のメール#2
おい!!なんで昨日来なかったんだよ!!
金が必要なんだよ!!

おまえはいいよな、就職できて、俺は先月バイト首になってピンチなんだよ!!

いいか、三年前を思いだせ。俺達が何をしたか..あの小野寺って親父を四人で....
今日、あそこで待ってるから。
ちゃんと三枚持って来いよ!!
絶対だからな!!
0258創る名無しに見る名無し垢版2012/08/14(火) 19:38:28.50ID:BE85XkPm
解析された林勝広のメール#3

この間はありがとう。
パチンコで六枚に増えました。

ところで白木死んだんだって?
あいつロクな死に方しないって思ってたが、やっぱりそうなったな!!
0259創る名無しに見る名無し垢版2012/08/14(火) 19:44:32.09ID:BE85XkPm
解析された林勝広のメール#4

...なあ、保...
最近俺、疲れるんだ...見られているんだ、あいつに...
誰か解るだろ?あの親父さ...俺達が...


明日二枚持って来てくれ。
俺があの免許証と財布を持って警察行けば、お前もどうなるか解ってるだろ?

今日はもう疲れた。
じゃあ明日。
0260創る名無しに見る名無し垢版2012/08/14(火) 19:47:58.92ID:BE85XkPm
解析された林勝広のメール#5

保!!助けてくれ!!今部屋にあいつがいる!!
押し入れの中に隠れてる!!
だめだ....

もう見つかっ....




......うみ......................
0261創る名無しに見る名無し垢版2013/04/21(日) 11:10:41.04ID:WsbtKPC7
八巻正治教育学博士は【好きな人のパンティ】を被ると変態仮面となり、父譲りの慎重さと母譲りのスタイリッシュを武器に悪者を懲らしめ、ピンチの際は仮面姿+キャミソールを身に付ける事で究極の変態パワーを解放するのだ!!
0262創る名無しに見る名無し垢版2014/01/22(水) 14:11:24.92ID:r55ZESTV
 
0263435201垢版2015/09/24(木) 03:02:18.96ID:froNlSAL
「 孟 公 の 犬 」

北周朝 延文王の時代、水害により黄河の流れが変じたため洛陽から戴了へと
王都が移されていた頃の話である。 辺境を守る北周軍部隊の中に、弘農の人で
孟然という者があった。

孟然は上背と骨柄に秀で腕力にも恵まれた勇者で、騎射に巧みであったので
戦場で幾度も武功を立てるうちに認められて兵卒から将へと徐々に引き立てられた。

孟然には故郷から連れて来てそのまま軍中に伴っている一頭の犬があった。
黒毛の雄犬で、並みの番犬などより優に一回り大きいその犬を孟然は「 片雪片牙 」
と名付けて熱心に訓練を繰り返していた。
片雪とは犬の模様である。全体は黒一色だが、右の眼の周りから前足にかけて
吹き散らしたような小さく輝く真っ白の斑点があり、そこだけが雪に降られた
ようになっていた。片牙は歯並びの様 ( さま ) である。右の上顎から一本だけ
長めの牙が生えていて、離れた所からもそれとわかるほどに良く目立った。

非常に賢い犬で、普段は人なつこく遊び好きだが、ひとたび孟然に従って戦いに
臨むとその働きは練達の兵にも劣らない。

戦車を曳く敵方の馬たちは低く響いてくるその犬のうなり声を耳にするだけで前に
進むことにひるみを見せ、兵を背に駆ける騎馬でさえもひと吠えされると脅え狂って
竿立ちになり、乗り手を振るい落として逃げて行く。
初めのうちは味方の馬まで無用に驚かせるというので厩兵の職にある同僚たちは
孟然の犬が近くに寄り付くことを嫌ったが、しばらく経つと人よりも馬の方が先に
守られるのに慣れて犬を頼るようになった。

行軍中に誰よりも早く伏兵に気付いたり敵の進軍した方角を嗅ぎ分けて示してみせる
力などは人の及ぶところではなく、部隊の危機や錯誤を犬の耳と鼻は未然に良く防いだ。
身動きは素速く、しばしば孟然を狙って放たれた敵からの矢に躍り上がって宙で口に
捕らえ、長い牙を使い噛み折って主の身を守ることもあった。

犬は陣中で人気者となり、味方ばかりでなく敵にも良く知られるようになった。孟然は
片雪片牙と呼び続けていたのだが、多くの者はただ一語で「 片 」と呼んだ。
片よこの肉をやろう、片よ今日も元気か、と呼ばわって犬を可愛がる兵があまりに
増えたため孟然は苦笑しつつ 「 衆呼すなわち名を固す。汝は片だ 」と宣じて犬の名を
改めた。
0264435201垢版2015/09/24(木) 06:03:16.40ID:froNlSAL
犬は孟然と共に日々を送り務めを果たしていたが、やがて主人より先にその命を
落とす時がやって来た。
彭陵候が延文王に叛旗をひるがえし、黄河下流と徐湖に面する諸城を占領した
東徐の乱が起きたのである。
緒戦は舟を用いた水上での戦さとなり、数に劣る北周軍は苦戦を強いられた。
北周の戦舟は陣形を失って崩れたつうち次々と沈んでいき、孟然が乗り込んで
指揮する一隻も敵の苛烈な攻撃にさらされて浸水が始まった。
矢が雨のように降り注ぐ中 孟然も犬も身に数条の傷を負いながらお互いを
かばいつつ戦うが、敵の優勢をくつがえすことがどうしてもできない。
やがて犬の悲痛な一声に耳を打たれた孟然が振り返ると、片は一本の矢に首の
中心を貫かれて、もはや起き上がる事もかなわない姿に成り果てていた。
孟然は愛犬の血だまりにひざまづいたまま天を仰いで嘆き、失われた多くの
仲間と、最後のその時まで自分に付き従った片の復讐を誓って乱戦を落ち延びた。


孟然は岸にたどり着くと敗走する自軍の残兵を自分の元にまとめたが、その数は
百人にも満たない。集まった者たちは口々に、ひとまず戴了を目指し本軍と合流
するべきだと言い騒いで逃げ腰になる意見が多かったが、孟然だけは
「 これは準備なく起きたにわかな叛乱であり、賊は指揮を下す将を欠いたまま
大勢だけを頼んでいる。叛主に心服する兵は少なく、彭陵候一人を討てば敵は
四散するに違いない 」と叱咤して奇襲を主張した。それに同調して踏みとどまろうと
決めた者はわずか四、五十人であり、他は戴了へと逃げた。

孟然は上陸した敵が伸びきって行軍するのを見越して曄山の隘路で待ち受け、
不意を突いて彭陵候の軍勢に挑みかかったが、あまりにも味方の数が少ない。
彭陵候はあざけって、自身の在る中軍を後方に動かす手配りを怠ったままで
孟然たちを迎え撃とうとした。
前進する孟然一行はあっという間に敵の取り囲むところとなって容赦なく弓矢
を浴びせ掛けられたが、その時不可思議な事が起こった。

虚空に、聞く者を総毛立たせる犬の唸り声が突如湧き起こって孟然の周りを巻くように
鳴り響いたかと思う間に、飛び来る矢がことごとく空中で割れ砕けてぽとぽとと
力無く地へと落ち始めたのである。
見えない力の幕は他の北周兵にも及んで、敵があっけに取られる中を孟然たちは
一人も傷付くこと無しに彭陵候の前面へと肉薄していく。
その間にも唸り声は北周兵の側だけでなく戦場と空の全体に満ちて、はるか遠くから
こだまの届くが如くに感じ取れる一方で、各人の耳のすぐ後ろから聞こえても来る。
そのため彭陵兵の一人ひとりが、自分だけが真っ先に不気味な声に狙われたと
錯覚して怪異にひるみ始めた。

「 片の霊魂が邪魔する者を取り殺すぞ 」 一人の北周兵が叫ぶと、それをきっかけに
彭陵の者どもはさらに怖れて包囲を弱め、中にはこらえきれず耳をふさいで逃げ出す
兵まで現われた。賊は勇将孟然と常にその側にある片の話を聞き知っていたので、
孟然の矢だけでなく死した犬の祟りからも身を避けようとしたのである。
孟然はまばらになった敵陣の兵列越しに、強弓をもって彭陵候を射た。
矢は候の鎧を貫いて脇腹を深く傷つけ、自領へと退却した彭陵候はやがてその傷が
もとで死んだ。
0265435201垢版2015/09/24(木) 14:02:11.05ID:froNlSAL
幽霊となった飼い犬の加護を得て叛乱を鎮圧したというので、孟然と片の活躍は
戴了で大きな評判となった。 孟然は王宮から召喚を受け、延文王直々の沙汰によって
特別な昇位を果たして奮遠将軍の貴職を授けられることが決まった。
延文王は数ある趣味の中でも特に狩猟と弓を愛し、また無類の犬好きでも
あったので、孟然の勇敢さと秀れた弓術だけでなく、片がその死後も己れの主人を
守り続けたという話のくだりを大そう気に入ったのである。

孟然は栄進し、王都戴了で大きな屋敷を構えて軍務に励む毎日を送ることとなった。

ある日、はるか西域から北周を訪れていた異国のまじない士が孟然の屋敷の門前で
足を止め、 「 ここには悪い霊気が漂っておる。なぜであろう 」 と不思議そうに
幾度もつぶやいた。 不審に思った家人が孟然に取り次ぐと、孟然の姿を見るやいなや
まじない士は告げた。
「 わかった。 霊気は将軍の周りに凝っている。 急ぎ払い去るがよろしかろう 」

孟然は笑って打ち消した。 「 客よ、それは私の犬なのだ。 片と名付け飼っていた犬が、
忠なる心で今もこの世に残っている。 私はその魂の働きによって命を救われた。
悪い霊のはずがあろうか 」
まじない士は重々しく首を振った。
「 違う。 死せる者がこの世に留まろうと欲することは、命の理 ( ことわり ) を踏み外す
ものである。 将軍よ、あなたの犬はすでに十分あなたに尽くした。 命を投げ出すまで
尽くした。 死したる後もなお天理へと収まらず、天に帰するを拒む魂は
現世にあり続ける限り存在そのものが削られ続けて、最後には一切が消え果ててしまう。
あなたはあなたの犬が二度も死ぬことを望まれるのか 」

孟然はひどく腹を立てて、まじない士を追い出した。
まじない士は嘆息して 「 この犬は舟上で命を落とした。負うは溺禍の縁 ( えにし ) である。
再び水難に遭う時その魂はたちどころに弱まり、永遠に失われるであろう 」 と
寂しげに言い残し去って行った。
0266435201垢版2015/09/24(木) 16:01:10.33ID:froNlSAL
その後しばらくして、北辺の太守 陳緯が王室を軽んじて不穏な振舞いを見せたので
討伐することが決まり、孟然自身も一軍を率いて征旅に加わった。

陳緯は兵数が少ない事を悩みとしていたため、思い余って外境に威を張る異民族の
遂戎を手を結びその兵を招き入れたが、北周軍は礫原の野でその連合軍を大いに
破って陳緯を虜にした。 危機に陥った遂戎の単宇 ( 部族の長 ) 参址被は偽って
降伏の意と条件を伝え、使者を往復させて時をかせぎつつ少数の部下を迂回させて
礫河の堤を数里にわたって決壊させ、北周軍を水攻めにした。

北周兵は上・中軍もろともなす術もなく激しい水流に呑まれ、下流で待ち受ける
遂戎の者たちにその多くが捕らえられたり打ち殺されたりしてしまった。

孟然も濁流に翻弄されながら必死に戦ううち配下ともはぐれただ一人となっていたが、
体が泥水の渦に引き寄せられ沈みかけたその刹那、鎧の腰に巻いた戦帯が上からの
何かに支えられて冷たい水の中で浮き上がるのを覚えた。

片が来たのである。
「 片よ、私を救うか 」 孟然はにわかに力を得て喜んだが、すぐに表情を曇らせた。
風に漂う犬の息吹きにはかつてのような力強さや猛々しさがない。 流れに逆らって
孟然を水面に保とうとする見えない顎の力も、徐々に失われていくようであった。

戦帯と鎧越しに伝わってくる犬の苦しみと震えを察するうち、孟然は以前に屋敷を
訪れたまじない士の残した言葉を思い出し悟った。

これは水難が今まさに片の魂を蝕んでいるのであろう、と。

「 もう良い 」 犬と過ごした想い出が孟然の心にあふれた。
「 片よ、もう良い 」
孟然は穏やかに語りかけて、何もない宙に手を伸ばして決して触れることの
できない犬を撫でた。
「おまえはここに居てはならない。 すぐに私から離れよ。 ここを離れ、天へと
帰るがよい。 このまま流れの中にあるとおまえは消えてしまうぞ 」

その言葉に応えて、迷うような、あるいは別れを告げるような一筋の物悲しい遠吠えが
地から天へと向って伸び、やがて溶けるように静まった。

孟然の体はあっという間に泥でにごった奔流の中に沈み、気を失って下流の岸に
至るとそのまま遂戎の捕虜となった。
0267435201垢版2015/09/24(木) 18:16:48.99ID:froNlSAL
数年の時を経て、北周と遂戎の間に和議がととのって双方の捕虜が交換される
取り決めが定められた。
孟然もその中の一人として辺境の果てから都へと生きて帰ることがかなったが、
北周の法では異民族に捕らえられたことのある将軍は兵権を失ない、兵士の衣食を
世話するだけの無官の者として軍に留まるか、一介の平民へと身分が落とされる。

孟然は身辺を整理すると軍を退き、以後は市井で人々に弓を教えて暮らそうと考えて
帰郷を願い出た。

この時分、宮中の一高官に張公朔という待中の者があって、かつて孟然が将軍職に
あった頃に賄賂と不正を糾弾され恥をかいたことから強く憎んでいた。
当時の恨みを今こそ晴らしてやろうと目論んだ張公朔は延文王に孟然の無事を
隠したまま孟然を死罪人の表に書き加え、市中にて斬首するよう画策した。 敵の
虜囚となった科により死罪を言い渡される不名誉と曲解された法の不可解さに
孟然は内心疑いを持ったが、王威を振りかざして臨んで来る張公朔の配下と争えば
謀叛の罪まで加わってしまうため、抗う道はなかった。

人々の行き交う戴了の広場に曳き出された孟然がすべてを諦めて刑台の刃座へと首を
差し伸べようとしたその時である。

突如として、百雷の轟きにも匹敵する、怒りの念が音に変じた犬の咆哮が空から降り落ちて、
全天にこだました。

戴了の犬という犬もまた、その変事に感応して狂ったように吠えはじめた。
それは岩積みで組まれた衛門の大柱が震動し続けた末にその位置をずらすほどの
すさまじい音量であって、史書殿の竜額に用いられていた縁飾りの白玉細工に
ひびが入ったのはこの時のことであったとも伝わる。

首斬り役人たちはそれでも蛮勇を奮って孟然の首を打ち落とそうとしたが、自身の
握る大鉞が、犬の噛み跡そのままのへこみを幾重にも刻み込みながらメキメキと音を
立てて歪みねじれていくのを目のあたりにすると、皆たまらず逃げ散ってしまった。
0268435201垢版2015/09/24(木) 20:33:22.48ID:froNlSAL
混乱の中、何者かが人ごみのどこかで大声を発した。
「 罪無き者の首が断たれようとしているぞ 」
人々は孟然の評判を改めて思い起こしてざわめいた。
「 奸計奸計、これは小人の奸計なり 」 義憤を感じつつも手を出しかねて
刑を見守っていた民の中から孟然の人となりを良く知る数人が語らって出て、一人
刑台にたたずむ孟然の縛めを解いた。

孟然は急転した己の命運と耳を圧して吠え猛り続ける空のありさまにしばらく絶句
していたが、やがて息を整えると自分を助け出した人々に再拝した。
「 将軍、災難でございましたな 」
その声は最前の大声の主である。 見ると、それはかつて孟然の元を訪ねた西域のまじない士
であった。

孟然は犬の姿を求めるように空を視線を注いだまま、異国のまじない士へ語りかけた。
「 あなたは正しかった。 あの時の教えと言葉がなければ、私はきっと片の霊魂を
ただ便利な物であるとのみ考えて、ついにはそれが消え去るまでこき使い続けたに
違いない 」 孟然が自由の身になったことに満足したものか、空の声は潮が引くように
ゆっくりと小さくなっていく。 「 だがなぜ、私はまた救われることを得たのだろうか。
あの声は片のものだ。 すると、片は未だこの世をさまよっているのだろうか 」

「 あなたの犬は 」 まじない士は軽い仕草で上を示した。 「 すでに天へとその処を
定めておる。 きっと先ほどは、かつての主の難儀をうち払うため天帝に許しを乞うて
ひとときの間だけここに降りてきたのであろう。 あの声の遠さから察するに、もはや地を
離れて天に帰らんとしておるのではなかろうか 」
さらに何事かを尋ねようとする孟然を手で制して、まじない士は人ごみの中に身を没した。
「 わしも帰るとしよう 」
まじない士は二度と姿を見せなかった。


市中の大騒ぎは当然王宮にも達したので、事情を調べさせた延文王はすぐに
一部始終を知った。 孟然が存命しているとの報を得ると大いに喜び、張待中を
叱り飛ばして死罪を取り消すとともに、孟然を近衛部隊付きの弓術師範として
礼を尽くして迎えよとその場で厳命した。

孟然は王の望みを奉じてその後長く近衛の兵に弓術の奥義を惜しむことなく伝え、
すぐれた射手を多く育てたのでその徳と人柄を称えられて最後には公の位を得るに
至り、弘農に九百戸の封地をたまわった。

弘農から世に出て公となった孟姓の者は幾人かいるが、北周弘農の孟公といえば
この孟然を指す。


片は、その後も気が向くとしばしば孟然の元を訪れたようである。 というのも、
一頭だけで飼われている孟家の雌犬がいつの間にか右の牙だけが長い仔犬を
産み落としたり、孟然の弟子が放った矢が狙いを定めた的 ( まと ) の手前で
突然に折れたり跳ね返ったりする出来事があり、それを見た孟然が
「 ああ、片よ、いたずらをしに来たか 」 と笑いながら見えない犬を叱ることが
一度ならずあったからである。
戴了から洛陽へと都が戻って孟家の場所が移り変わっても犬の幽霊がもたらすそれらの
怪異は時おり思い出したかのように起きることがあったが、孟然が寿命を全うして
世を去るとぴたりと収まった。

戴了の町では今も片目の周りに白斑を持って産まれてくる犬を 「 片雪相 」 と呼んで
珍重している。


終わり
0269創る名無しに見る名無し垢版2015/10/04(日) 03:04:43.09ID:OnxjgY3/
※乱文&ボキャ貧な素人の小並感ですみません

>>263-268
 もともと乏しい集中力が年々低下する一方な上、中国の時代小説や歴史などの素養も無いもので
こういった昔の中国が舞台の小説は、どうも目が滑るというのか
なかなか内容が頭に入ってこないことが多いのですが、これは非常に読みやすかったです。
途中で嫌になることなく、むしろ続きが早く読みたくて最後まで一気に読めてしまいました。
 悲しい話は苦手なのですが、辛いだけで終わらず
悲しみを乗り越えてカタルシスを得られて良かったです。
普遍的な思いや、亡き者へのスタンスに胸を打たれました。
 構成や配分も良かったと思います。
ある程度の長さなのに長いと感じさせず
逆にこの短さなのに短いと感じさせず(冗長という意味ではなく)
そこにも素質・力量を感じました。
0270435201垢版2015/10/05(月) 21:36:02.10ID:Ly3AY4PB
>>269
もし楽しんでいただけたのであれば望外の喜びです。書いて良かった !

それと、読み返してみて気付いた打ち間違いがあったので訂正しておきます。

>>266 4行目
遂戎 「 と 」 手を結び…

>>268 12行目
… 空 「 に 」 視線を…

です。「てにをは」ミスの恥ずかしさよ。

>>266
単「 宇 」ではなく「 干 」です。浅学の恐ろしさよ。
0271435201垢版2015/10/05(月) 22:43:09.99ID:Ly3AY4PB
「査定するスレ」での書き込みにあったご質問ですが

・ 小説を書いたのは「孟公の犬」が初めてです。
・ 文章を書く仕事はしていません。ド派手な失敗をして「顛末書」を書いたことなら
あります。二回ほど。
・ 小説はわりと読むほうだと思います。ただ、より多く目を通すのはいわゆる「物語」
ではなく、ノンフィクションや専門書などです。
・ 特に好きだという作家はいません。自分はどうやら「作家主義」というより
「作品主義」のようです。 コナン・ドイル「失われた世界」、アラン・ムーアヘッド
「白ナイル」、トール・ヘイエルダール「コンティキ号航海記」、ダニエル・デフォー
「ロビンソン クルーソー」などを何度も読み返しました。
・ ネットの掲示板に小説を投下する事については特に気になりません。
今回小説に挑戦したそもそものきっかけがネットのレスでした。今まで自分は文章を
ほめられた経験がありませんでしたし、短編小説でも書いてほしいと求められたことも
ありません。それは予想もしていなかった非日常のオファーで、なんとなくですが海岸で
手紙の入ったビンを拾い上げるのに近い感覚でした。
…ちょっと返事を出してみたくなるでしょう ?
そうして生まれたのがこの作品です。

次を書くかどうかは未定ですが ( ハードボイルドでファンタジーという成層圏級の
ハードルが設定されました。しかもオプションで謎の女性が付いてきます )、仮に完成したなら
やはりここに連投することになると思います。
0272創る名無しに見る名無し垢版2016/06/06(月) 01:06:53.94ID:s8Y+aMGI
支援
というか
期待
0273創る名無しに見る名無し垢版2017/12/27(水) 11:55:59.58ID:C1Z7QFDy
家で不労所得的に稼げる方法など
参考までに、
⇒ 『武藤のムロイエウレ』 というHPで見ることができるらしいです。

グーグル検索⇒『武藤のムロイエウレ』"

AK7H6JY8YW
0274創る名無しに見る名無し垢版2018/05/21(月) 07:25:16.59ID:tRZnwP6O
知り合いから教えてもらったパソコン一台でお金持ちになれるやり方
参考までに書いておきます
グーグルで検索するといいかも『ネットで稼ぐ方法 モニアレフヌノ』

Y5648
0275創る名無しに見る名無し垢版2018/07/03(火) 20:28:10.52ID:f1dClnnX
JBN
0276創る名無しに見る名無し垢版2018/10/17(水) 17:10:29.77ID:ZU7x6aHX
中学生でもできるネットで稼げる情報とか
暇な人は見てみるといいかもしれません
いいことありますよーに『金持ちになる方法 羽山のサユレイザ』とはなんですかね

NR2
0277創る名無しに見る名無し垢版2020/08/03(月) 01:39:26.54ID:GJ9Gwyiy
『最後の賭け』

今日の妻は、どのような服装をしていただろう。
そんな事が今この瞬間にわからないというのは、人生で一番悔しい事実だ。
これでは全身の姿が思い描けないのだから。
もし妻が、この自殺を目撃したならばどういった思いを抱き、そしてどういう行動に出ただろうか。
死にたい者はどうぞ死なせてあげましょう、なんて現代じゃ一般論と言っても過言ではないほどに、世間の人情は全体的に冷めている。
もしかすると、妻もその一人なのかもしれない。
自殺志願者を間一髪救ったところで、その者にとって死ぬよりも悪い未来が無いとは言い切れない。
だが良い未来が無いとも限らない。
人間とは常に、その博打で後者にすべてを賭けて、勝敗を見守る為に息をする生物ではなかろうか。
前者にはびた一文賭けていないのだから、いくら心配してみても、負けて儲けることは無いのだ。
人生の最後にはどうしても、妻の姿を鮮明に思い出したい。
「あなた、いってらっしゃい」
とっくに飲み干した挽きたての豆で淹れた珈琲の香る玄関先で見送ってくれた、濁りのないまっすぐな声、瞳。
その目は、僕の気持ちをとらえ、共感してくれるだろうか。
そして僕の行為を許してくれるだろうか。
左の耳に、軋みながら轟々とレールを鳴らす電車が迫ってくるのを感じて、そっと瞼を閉じる。
人生の最後に焼き付けた人の姿は、最愛の妻ではなく、今しがた、僕が反対側の線路へと突き飛ばした、自殺志願者の少年だった。
0278創る名無しに見る名無し垢版2020/08/03(月) 02:42:30.18ID:QQmTrhBL
>>277
糞スレあげんな百姓
0279創る名無しに見る名無し垢版2020/08/03(月) 07:28:01.03ID:GJ9Gwyiy
>>278
すまんかった
たまたま見たこのスレの最終投稿日時が随分古かったので
もしかしてもうすぐ落ちてしまうのでは無いかと、思わず書き込んでしまった。
あげ、とか、保守、というのをよく見かけるのだけど、やるのは初めてだったので
下げたら無意味なものかもしれないと考えてのことです。
おかしなことをして申し訳ない。
0280創る名無しに見る名無し垢版2021/08/16(月) 08:01:01.52ID:PdCUuhyT
「いや『お前も上げてんじゃねーかカワラモン』て言えやてネタと見たね」
とれんげは言った
「うちじゃここが一番低そうだか遅そうだかだね」
なずなは引っこ抜いたみちのくさの幹を指で回しながら言った。会話をする気はなかった。茎から伸びた三角の種袋(あれ実なの?)同士がぶつかっていた
「マルチバース。人は速く多く高いところへ」
たんぽぽはまだ拡がっている青空と入道雲を見上げた
「思ってたより新しいんだな……じゃ行こっか」
「えーまだはやくないれんげちゃん?」たんぽぽ
「ここのテーマは死。うしなうこととうしなわれること」
なずなは二人に言って、さびしげにやさしくほほえんだ。持った草の三角種袋?がぺちぺちと幽かなおとをたてた
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