>>831から続き


珍々軒への道すがら、同僚は今日の出来事を淡々と話してくれた。
俺の行動は、俺の妻にも同僚達にもバレバレだったという事。
俺の妻は祖国の大使館を動かして、ステルス機で先回りしていたという事。
そして俺の妻は、今夜は娘を小雅ちゃんのママへ預けているという事。
お泊まりのお礼に、同僚達が心を込めてパンダ団子を作ったという事。

同僚の言葉は短いものだったが、俺の心に深く深く突き刺さった。
自分のしでかした事の大きさに、思わず頭を抱えた。少し乱れた呼吸に、下町の中華料理屋の匂いが混ざってきた。

「あらリーさん、いらっしゃい。お連れ様も」

珍々軒に着くと、化粧っ気のない柔らかな笑顔が俺達を迎えてくれた。シンシンの店に出ている時とは違う笑顔で、少しドキッとした。

「やあ…忙しそうだね…」
「ごめんなさいね、シャン子ちゃんお預かりしてるのに。二時間だけ入ってくれって頼まれちゃって」

彼女はテキパキとテーブルを片付けて、俺達の席を用意してくれた。

「小雅と一緒に留守番させてるけど、私もう上がりますから心配なく。お飲み物はビール?」
「あっ、あのね!ビールの前にね!娘の事なんだけどね!」

俺は立ち上がって頭を下げて、重箱を差し出した。