2005年7月18日朝日新聞朝刊「声」より

図書館の本を廃棄した心は
大学院生 井内亜弥(千葉県船橋市 22歳)

朝日新聞の社説「蔵書廃棄 自由の番人でいる重さ」(15日)は、船橋市の市立図書館の
司書が意図的に本を廃棄した事件についてだった。
この図書館は、子どもへの本の読み聞かせで先駆的役割を果たしたことで有名だ。
尽力したのはこの司書だった。
私が中学生の時、その取り組みに憧れ、夏休みの課題の職業インタビューで取材した。
彼女は、子どもにとって本との出会いは、かけがえのない経験であると語ってくれた。

事件の衝撃は大きい。
司書が独断で処分を行ったのは、採択が論じられている「新しい歴史教科書をつくる会」に
関係する本だが、司書の中立性は職務であり、彼女の行為は違反である。
しかし、子どもと良書に尽くしていた彼女だからこそだったと私は感じる。
表現や思想の自由と、教育。
「新しい歴史教科書」が国内を越えて問題となる中、このジレンマは見逃されるべきではない。

私は大学の図書館でアルバイトをしている。
私に本の廃棄を決定する権限はないが、本の大切さを彼女から学んだ私が、どのように本と
向き合うべきかを考えさせられる出来事だった。