S660の全長および全幅は、当然ながら軽自動車枠いっぱいの3395mm×1475mm。“S”の開祖であるS500は登録車だったが、軽自動車
であるS660の方が、全長で95mm、全幅で75mm大きいという逆転現象が起きている。全高1180mmは、ダイハツ・コペンよりも100mm低く、
国産車最低。ホイールベースはコペンより55mm長く、2285mmを確保している。重心高は460mmと、水平対向エンジンを積むスバルBRZ/
トヨタ86と同数値だ。
エンジン搭載位置は後車軸の直前で、“痛快ハンドリングマシン”というコンセプトを最大限に実現するため、リヤミッドシップというレイアウ
トを選択することに迷いはなかったそうだ。シリンダーの傾斜角はFF系と同じ。すなわち、前にあったエンジンを平行移動で後ろにもってき
た。ラジエターはフロントグリルの裏に直立して配置。重量物のバッテリーは、フロアトンネルの前端に搭載。前後重量配分は、45:55だ。
 燃料タンクはキャビンとエンジンルームの間に搭載。重量物であることから、ヨー慣性低減と重心高低減のため可能なかぎり車体中央
の低めに配置した。またガソリン残量で重量が変わる部品であり、なるべく重心に近いところに置きたい。容量は25Lと大きくはないが、モー
ド燃費から類推すると、23Lまで使うとして、400kmぐらいは走れそうだ。

では、乗り込んでみよう。身長181cmの著者では、ドアハンドルが低く感じる。しかもノブが小さいので、操作性はあまりよくないが、ここはデ
ザインを重視したとのこと。運転席ヒップポイント地上高は335mm。コペンやBRZ/86の400mmと比べても、際立って低い。それだけ乗車時の
膝の屈曲角は大きくなるが、サイドシルの幅が実測130mmと狭く、地上高も約360mmと低いため、乗降性はスポーツカーとしては良い方だ。
サイドのタンブルが強いため、著者の体格でもルーフが気になることはない。
タンブルの強いデザインを成立させるため、シートが中央に寄せられておりカップルディスタンスは実測で約600mmと横方向にはタイト。対照
的に前後の寸法は十分に取られている。特に、足元が広いのが印象的だ。フロントにエンジンがない自由度を最大限に活かし、ドライバーに
自然な運転姿勢を取らせることにこだわった結果だ。クラッチペダル基準でシートスライドを合わせると、著者でも最後端から4ノッチ前に出せ
る。頭上は座高92cmの著者がヘッドレストに頭をつけると、ロールバーが頭に微妙に触れる。もっとも、運転中はヘッドレストから頭が離れる
ので、身長185cmまでなら、なんとか乗れそうだ。
ステアリング基準でシートスライドを合わせても、ペダルが近くて足首が窮屈ということはない。ヒール位置はドライバー中心からほぼ均等。ぺ
ダルの間隔も適度に取られており、ヒール&トーもスムーズに行える。フットレストはS2000並みに立派なものを装備。シートクッションの幅も、
S2000と同じとのこと。ステアリングホイールもドライバーに正対している。ステアリングとシフトノブの位置関係は、初代NSXとほぼ同じ。肘の
関節角を変えずに、肩を中心とした円運動で持ち替えられるように配置されている。ひとことで言えば「ドライバーに与えられたスペースは、登
録車のスポーツカーと変わらない」ということだ。
これを成立させるために、涙ぐましい努力をしたのが内装設計。空調のブロワモーターやエバボレーターを納めたユニットは、他車と共有する
ケースが多いが、幅方向をフットレストに攻められたため、コンパクト化したものを専用設計。シフトレバーの操作位置とデザインを高次元で両
立させるため、奥に追い込んだ。センターパネルには、ヒーターコントロールユニットとオプションのオーディオ操作パネルを一本化して配置し、
オーディオ本体と空調ダクトを「まるでテトリスのように組み合わせて押し込んだ」そうだ。
ステアリングホイール径はΦ350mmと、ホンダの市販車としては最小径。ステアリングが小径になれば問題となるのがメーターの視認性だが、
この点も及第。大径タコメーターを中央に配置し、ホンダ軽初のデジタル式スピードーメーターをその内側に納め、スペースを有効活用。走行
中に確認したい情報を左側に、停車時に見ておけばよい情報を右側に集めることで、走行中に進行方向から視線が外れないように配慮されて
いる。