>>176
【橋合戦シーン】
大音声を掲げて
「遠からん者は音にも聞け。近からん者は目にも見給へ。
三井寺には隠れなし。堂衆の中に筒井浄妙明秀とて、一人当千の兵ぞや。我と思はん人々は、寄り合へや見参せん」
とて、二十四さいたる矢を、さしつめひきつめさんざんに射る。
やにはに敵十二人射殺し、十一人に手負うせたれば、箙に一つぞ残りたる。
その後、弓をばからと投げ捨てて、箙も解いて捨ててげり。
貫脱いで裸足になり、橋の行桁を、さらさらと走りける。人は恐れて渡らねども、浄妙房が心地には、一条二条の大路とこそふるまうたれ。長刀にて、向かふ敵五人薙ぎふせ、六人に当たる
敵に逢うて、長刀中より打ち折って捨ててげり。その後太刀を抜いて戦ふに、敵は大勢なり、蜘蛛手・かく縄・十文字・蜻蛉返り・水車・八方すかさず切ったりけり。
向かふ敵八人斬りふせ、九人に当たる敵が甲の鉢に、余り強う打ち当てて、目貫の本よりちょうと折れ、くっと抜けて、河へざっぶとぞ入りにける。