青空教室から屋根付き教室へと移行できて
俺を好いてくれる中学生たちは大喜びでした。
「雨の日でも教えてもらえる」「体育座りは苦手だからよかった」という声、
「先生からもらったキットカットを地面に落としても大丈夫、
これからは土と違って床だから、3秒ルールの威力発揮」なんてワイルドな声もありました。
公園を散歩する誰かの飼い犬におびえるA君の
「雨の日でも先生の授業を傘を差しながら受けていたけど
実はボク、遠くで鳴る雷が怖かったんだ」と涙ながらの言葉を聞いたときは
そんなに怖がりながらも俺の授業を聞いてくれていたのかと
俺の方が雷に打たれた気分でした。
こうして屋根付き教室で授業をスタートさせたのがちょうど13年間の今頃、
今ふりかえると何でもないようなことが幸せだったと思います。
その年の冬はまさにイケイケでした。冬期講習は熱い熱気に覆われ
教室の窓はその熱気でいつも白く曇り、
生徒らは指でその窓に「志望校合格!」などと書いていました。
そして俺は、代ゼミが大晦日恒例で行うアントニオ猪木を召喚しての
闘魂注入イベントを真似ることにしました。
大晦日の深夜、生徒1人ずつを並べて、猪木のようにビンタをしました。
生徒達はたいそう気合いが入ったと思います。俺の顔をまじまじとみていました。
翌朝の元旦は朝8時に全員集合し、近所の神社に合格祈願のマラソンの予定でした。
ああ、そういえば今年は酉年かと思いながら教室で生徒らを待っていました。
けれども生徒らは全員8時になっても9時になっても来ません。とうとうその日は誰も来ませんでした。
翌日も生徒は誰もきませんでした。俺はまた呟きました。ああ、今年は閑古鳥年か、と。
俺は、その春、行政が主催する標語募集キャンペーンに応募し、当選しました。
12年前の酉年の唯一の嬉しい思い出がそれです。
そのときの標語がこれです。「暴力、ダメ絶対」