●【美幸線】議長!私を第一に指名してください。なにしろ日本一の赤字線なんですから。

●【添田線】美幸さんよ、北九州の添田じゃが、去年はワシが日本一じゃった。

●【美幸線】去年は事情があるんです。私の住んでいる美深町の町長が東京の銀座の四つ角にタスキ掛けで立って、私の切符を売ったからなんです。
そんなことするから去年は第5位に下っちゃった。それまでの実績から見れば私が実力日本一であること、みんなご存知じゃないですか。輸送密度とかも断然第1位じゃないですか。

●【清水港線】美幸さん、あなた、頭がすこしどうかしてやしませんか。あなたは何かというと「日本一」とおっしゃるが、要するにビリッってことでしょう。
「最低」と言うべきを「断然第1位」と言ったり、「上った」「下った」の使い方にしても目茶苦茶だ。

●【美幸線】それが国鉄のことばの使い方じゃないですか。海面すれすれの低いところにある東京駅へ向っていく列車は「上り」で、碓氷峠を上る列車は「下り」。そのくらいのこと、ご存知でしょう。

●【議長】助けてくれ。こっちまで頭がおかしくなってきた。

●【清水港線】要するに美幸さんは成績が最低、ビリ。普通の人なら恥じ入って顔を伏せるはずなのに、駅前に「日本一の赤字線に乗ろう」なんて塔を建てたりして、みっともないったらありゃしない。
それなら私だって日本一ですよ。一日一往復ってのは私だけですからね。

●【美幸線】あなたも立候補すればいいじゃないですか。ひとのこと言わずに……。

●【清水港線】そこがあなたと違うところです。だいたい、戦後派の連中は厚かましい。恥というものを知らない。
大きな赤字を出しておきながら「責任はすべて他人さまにあり」って顔でヌケヌケとしている。私は絶対に立候補なんかしませんよ。みっともない。

●【深名線】そんな議論、やめてください。どうだっていいじゃないですか。そんなことより、雪です。雪には戦前も戦後もありゃしません。
私のとこなんか3メートルものドカ雪で、窓から何も見えない、耳も聞こえない、客もいない、雪、雪、雪です。

●【議長】なるほど。それで?

●【深名線】それだけです。ほかに何かあるはずないじゃないですか。

●【議長】そうですか。……私、なんだか気分がわるくなってまいりましたので、これで失礼させていただきます。
あとは皆さんで適当になさってください。