世界に取り残されるニッポン
日本の政策を批判するのは、ゴアさんだけではありません。

2015年にフランスで開かれたCOP21で採択された、「パリ協定」。

先進国に温室効果ガスの排出削減を義務づけた京都議定書以来、18年ぶりとなる温暖化対策の国際的な取り決めで、発展途上国を含むすべての国が協調して温室効果ガスの削減に取り組む、初めての国際的な枠組みとなりました。
世界の温暖化対策は、歴史的な転換点を迎えたのです。

しかし、世界がこのように「脱炭素社会」に向かう中、日本は逆行するかのように石炭火力発電所の建設を続け、途上国にも積極的に輸出。こうした日本の姿勢に対しては、世界から批判の声が高まっています。

日本はかつて京都議定書を採択したCOP3で議長国を務めたほか、2度の石油危機を乗り切った経験をもとに、省エネ技術や電気自動車、水素エネルギーの活用など、環境の分野でトップランナーの役割を果たしてきました。

それは、ゴアさんも認めるところです。

しかし、いつのまにか、世界の流れに乗り遅れてしまったのです。

日本の「技術」と「若者」に期待
それでも、ゴアさんは日本への希望を捨てていないと言います。

その理由は、2つあります。

1つは、日本の「技術」です。

「日本の技術やノウハウを、再生可能エネルギーへの移行を促進するために使うべきだ」

20年余り前、この日本で、京都議定書の採択に尽力したゴアさん。
その言葉には「どうした日本!?今やらなくてどうするの!」という、叱責ともとれる思いが込められているように私には感じられました。

日本の技術力があれば、再び環境分野のリーダーになれる、いや、なってほしい、そんな思いが伝わってきました。

そしてもう1つ、日本の「若者」に期待を寄せています。
インタビューでゴアさんは「日本にも、グレタ・トゥーンベリさんはいないの?」と逆に聞いてきました。

グレタさんは、スウェーデンの16歳の女の子です。毎週金曜日に学校を休んで温暖化対策を訴え続ける活動に、世界中の多くの若者が共感。
ことし9月の国連総会を前に各国で行われたデモには、過去最大規模の合わせておよそ400万人が参加しました。

日本でも東京で行進が行われましたが、集まったのは2800人。

ニューヨークの25万人と比べると、圧倒的に少ない数字です。そんな状況についてゴアさんは次のように述べ、理解を示しています。

「日本人はコミュニティーを尊重するから、デモといった形は難しいのかもしれない。しかし、日本の科学者や若者は、同じくらい、気候危機を訴えたいという強い思いを持っている。日本らしい訴え方を見つけられることを願っている」

批判を受けても活動を続けるのは「未来」のため
ところが、そのグレタさんは今、「大人に操られている」とか、「学校に行って経済を学ばないと環境問題は訴えられない」などといった批判の声にさらされています。

ゴアさんも以前、2006年に映画『不都合な真実』を発表すると、「政治的プロパガンダだ」とか、「地球温暖化はうそだ」といった批判にさらされました。
こうした批判を受けながらも、なぜ活動を続けるのか、尋ねました。

「いつの時代も、気候変動を訴える人に対しては批判する勢力がいる。最も典型的なのは、石炭業界などと政治的につながっていて、既得権益を失うのを恐れる人たちだ」
「私には4人の子どもと、7人の孫がいる。彼ら、未来の世代のことを気にかけている。人間である以上、いま行動することによって未来を自分たちの手に取り戻す義務がある」

未来の世代への責任は、自分たち大人が負っている。副大統領として世界の第一線で活躍してきたゴアさんの、責任感の強さがひしひしと伝わってきました。

“観測史上、最高の気温”“最強の台風”“数十年に1度の大雨”。こうした異常気象が、毎年のように押し寄せる現在。ゴアさんのメッセージを、あなたはどう受け止めますか?