どれくらい経ったろうか、徳川ははっと目覚めた
どうやら泣き疲れて眠ってしまったようだ、冷たいソファーの感覚が現実に引き戻した
「やれやれ、帰ってレッスンをしなくちゃだめなのですよ」徳川は苦笑しながら呟いた
立ち上がって伸びをした時、徳川はふと気付いた

「あれ・・・?お客さんがいるのです・・・?」
控室から飛び出した徳川が目にしたのは、2階席まで埋めつくさんばかりの観客だった
千切れそうなほどに旗が振られ、地鳴りのようにイルミルミルミが響いていた
どういうことか分からずに呆然とする徳川の背中に、聞き覚えのある声が聞こえてきた
「まつりさん!出番だよ!」声の方に振り返った徳川は目を疑った
「も・・・桃子ちゃん?」  「まつり、居眠りでもしてたの?」
「ひ・・・響ちゃん?」  「まつりさん頑張ってくださいね!」
「星梨花ちゃん・・・」  徳川は半分パニックになりながら台本を見直した
少女:箱崎星梨花 妖精:周防桃子 オオカミ:我那覇響 旅人:永吉昴 魔法使い:徳川まつり
暫時、唖然としていた徳川だったが、全てを理解した時、もはや彼女の心には雲ひとつ無かった
「やれる・・・やれるのです!」
貴音から帽子を受け取り、舞台へ全力疾走する徳川、その目に光る涙は悔しさとは無縁のものだった・・・