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【明城学院】シンジとアスカの学生生活5【LAS】 [無断転載禁止]©2ch.net
レス数が1000を超えています。これ以上書き込みはできません。
0001名無しが氏んでも代わりはいるもの2015/12/21(月) 21:17:54.60ID:???
★アスカとシンジの学生生活を想像してどんどん書き込んでください!★

貞本義行氏の漫画版「新世紀エヴァンゲリオン」の「LAST STAGE 旅立ち」を起点とします
「明城学院附属高校」の受験日に起きた二人の出会いから始まる学園モノを想像/創造しよう!

内容は「貞エヴァのラストから始まる学園LAS」という形に準じていれば特に制限はありません
TV版・旧劇場版・新劇場版の設定・登場人物・エピソードを織り交ぜたり等々

そういったミクスチャーもOK!職人さんの裁量にお任せ!
構想をお持ちの方はジャンジャン投稿してください!
短編・小ネタもドシドシ投稿お待ちしています!

よ〜し職人さんの作品に挿絵を付けちゃうぞ
という絵師の方もガンガン投下お願いします!

★前スレ★
【明城学院】シンジとアスカの学生生活4【LAS】
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/eva/1437394781/

【明城学院】シンジとアスカの学生生活3【LAS】 [転載禁止]c2ch.net
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/eva/1416674769/

【明城学院】シンジとアスカの学生生活2【LAS】
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/eva/1384532292/

【明城学院】シンジとアスカの学生生活【LAS】
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/eva/1370587184/
0002名無しが氏んでも代わりはいるもの2015/12/21(月) 21:18:35.77ID:???
★前スレまでに投稿されていた職人の方々★

「予告の人」さん
「台本屋」さん
「265の人」さん
「シンジとアスカは結婚する」さん
「方言エヴァ」さん(東北弁も) (仮)
「ごくたまに小ネタを投下してた者」&「大学生LAS」さん
「もうダメポ…_(┐「ε:)_無理書けない」さん (仮)
「勢いで書いてしまった後悔はしてない」さん (仮)
「フユツキ」先生
「短編」さん
「386」さん (仮)
「ATLAS」さん
「◆arkg2VoR.2」さん
「需要もないのに勝手に供給」さん
「通りすがり」さん
「脳内ポエムシンジ君」さん (仮)
名無しさん達

(漏れや間違いがあればご指摘ください)
(仮:筆名が確認できていない方の仮称)

素敵な作品をありがとうございます!!
0003名無しが氏んでも代わりはいるもの2015/12/21(月) 21:55:59.20ID:???
★前スレまでに投稿されていた職人の方々★
★4スレ目からの新職人さん

前スレ271からの「侵入社員」さん
前スレ436からの「22話分岐」さん(仮)

素敵な作品をありがとうございます!!

------
付け足すの忘れてすみませんでした… orz
0005名無しが氏んでも代わりはいるもの2015/12/23(水) 15:54:25.70ID:???
こんにちは、通りすがりです
前スレ埋めお疲れさまでした…というか一人で随分消費してしまってすみません
特に職人さん方、スレを早期に流してしまって書きにくいと思います、申し訳ありません

前スレ>>613 1さん
いつも嬉しい感想をありがとうございます、励みになります
読んでくださった方々には感謝です
現在暇人間なので無駄にがんばっております…少しでもお楽しみいただければ幸いです

文化祭編、また少し続き行きますね
00061/82015/12/23(水) 15:55:03.63ID:???
「ほんまに上手く行くんか…?」
危ぶむ顔でケンスケのを追いかけるトウジ
指の先で眼鏡を直し、さらに大股になってずんずん進むケンスケ
「上手く行かせる。だって他にいい方法、あるか?
 シンジの性格からして、策を弄して搦め手から行っても拒絶される。上っつらじゃ感づかれる。
 だとしたら外堀埋めて、正々堂々、正面から民主的に頼むしかないだろ」
「…民主的なぁ」
ますます疑惑の目になるトウジ
「立派に民主主義だよ。ちゃんと多数決の形態を取ってるだろ。しかも企画が全て通れば、
 やりたい奴は誰でも参加可能。ラストを盛り上げるにはピッタリだろ。
 この作戦、毎年フィナーレ失速で悩んでる実行委員会が蹴るはずがない! 異論反論は
 俺がその場で却下する! 見てろ!」
「…めっちゃ策を弄しとるやん…」
聞いてないケンスケ
眼鏡を光らせ、急ごしらえの企画書(ルーズリーフの束)を掴んで怪気炎をあげる
「いいか、だから援護頼む! 行くぞ! …頼もーう!」
溜息つくトウジを従え、勢いよく『文化祭実行委員会臨時本部』の扉を開く

「投票、ありがとうございまーす」
「皆にもどんどん話して、広めてねー。私たちのバイト代もかかってんの。お願いっ!」
あえてぶりっ子キャラ全開で笑顔を振りまくミドリ
友人たちが面白半分で立ち止まる
「よそのクラスのバイトしてんだ?!」「あはは、何やってんのー。まあ自力でガンバレ」
00072/82015/12/23(水) 15:55:47.53ID:???
「えー、なんか皆冷たいー。私がんばってるじゃん!」
ぽってりした唇を突き出すミドリ
「でも面白いよ、これ。部活の方にもついでに広めとこ」「バイト代までは知らないけど!」
「これ2-Aで渡せばいいんでしょ? じゃ、無料ドリンクもらいにいこー。ラッキー」
「午前中は衣装チェンジもしてたし、よく考えるよね」「成功するといいね」「ファイトー」
「ありがと、よろしくぅ」
手を振るミドリ
片手の看板を見上げて、ふうとひと息
冷静にポイント集計するスミレ
残りのワッペンを数えながら歩き出す
横目で見ながらぶーたれるミドリ
「あー、思ったよりめんどくさーい。
 やるなんて言わなきゃ良かったかもー。結局、あたしたち二人だけだし。だいたい、
 謝りに行こうって言ったときすでに皆やる気ゼロだったよね。ふこうへーい」
「渚のあれで済んだ気になっちゃってたからね。今更謝るなんて気が重いんだよ、皆」
緩くウェーブのかかった前髪を顔の前から払いのけるスミレ
「もう関わりたくないって思うのも仕方ない。個人の気持ちの問題だし、強制はできないよ。
 それより、あたしはミドリがやるって言ってくれたことの方が不思議だな」
「あ、何それ傷つくー」
また唇をとがらせるミドリ
目を逸らして看板を持ち上げる
00083/82015/12/23(水) 15:57:17.47ID:???
「だってカッコ悪いじゃん。そりゃめんどくさいのは嫌だけど、言われっぱなしも嫌だし。
 …碇君のあの怒った顔見せられて、それで何もしないとか、あたしどんだけ嫌な奴?って」
顔を向けるスミレ
ちょっと口元に笑いを含む
照れまじりに怒った口調になるミドリ
「惣流のこと全部認めるのは、まだ無理。だって態度でかいのはホントだもん!
 同じハーフで帰国子女なら、ちゃんと周りに溶け込んでるスミレを見習えっての」
「あたしとはタイプが違うよ。それにあれはあれでキツイと思うよ、…そのキツイ原因を作っといて
 言うのは矛盾してるけど。…どうかしてた。今わかっても遅いけどね」
「ほらまたー。頭にくるならくるでいいじゃん。私まだ生理的には納得してないよ?
 だからただ謝るだけってのはちょっと…でも何かリアクションしたいとして、仕返し方向が絶対
 嫌なら、あとはできる形で応援する側に回るしかないじゃん。もちろん文化祭限定でだよ。
 …それと、これでまた堂々と渚君と話せるしっ」
跳ねるように階段を下り、つやつやした髪を弾ませるミドリ
苦笑するスミレ
「結局そっち? まあ、いいんじゃない。義務感とか開き直りで『やってあげる』になるよりは」
「そーゆうこと。まー、要するに、私なりにやってみたいことあった、だからやる、ってだけだよ。
 お祭りだしさ。私はもう資格ないけど、せめて惣流たちには、笑顔で終わってほしいじゃん?」
振り向いて、制服の胸に留めたワッペンをつっついてみせるミドリ
頷いて追いつくスミレ
二人でまた看板を掲げて呼びかけを始める
そろそろ勢いの落ちてきた文化祭の人波
00094/82015/12/23(水) 15:58:23.53ID:???
食堂で遅い昼食をとるシンジとアスカ
隅のテーブルの端っこで向かい合う
近くの体育館や多目的小ホールでは午後の部が始まり、音楽や演劇の声が洩れてくる
これが見納め!とばかりに声を嗄らしていた呼び込みの姿も今はない
人はほとんど見物に流れて食堂は閑散としている
目立たずに済むことに安堵しつつ、ちょっと苦笑いのシンジ
「『行くよ』って戻ってきたつもりなのに、こんなとこで呑気にしてていいのかな」
「何言ってるのよ。腹が減っては戦はできぬって言うでしょ。
 ほら、この私がおごってあげたんだから、ちゃんと食べる!」
「うん、ありがと…」
購買部に残っていた一番安いおにぎりのパックを開き、素直にかぶりつくシンジ
もぐもぐやりながらもう一度溜息
両肘ついて身を乗り出すアスカ
「何よ、まだ何か不満があるわけ」
「…不満って言うんじゃないけどさ」
飲み込んで、アスカをじーっと見据えるシンジ
「お昼食べるのも、ちょっとぐらい息抜きしたいのもわかるけど…
 でも、『どうせなら』って文化部の展示全部回ったり、空いてるからって普通にお化け屋敷
 入ったり、茶道部でお茶とお菓子もらって寛ぐのはどうなのかな、って思うかな、さすがに」
「な、何よ」
ぐっとつまるアスカ
上体を戻して軽く腕組みしてみせる
00105/82015/12/23(水) 15:59:45.50ID:???
「別にいいじゃない。私たち、昨日はバタバタして結局お昼休憩しかなかったし、今日は今日で
 午前中ほとんど接客だったし。働きづめでまともに文化祭楽しめてなかったもの。ちょっとぐらい
 羽根伸ばしたって、罰は当たんないわよ」
「…罰はともかく、皆に悪いと思うんだけどなぁ」
「何か言った!」
再びテーブルに乗り出して、ほとんど額と額がくっつきそうに距離を詰めるアスカ
突然迫ったアスカの髪の匂いにうろたえるシンジ
思わず笑ってしまう
「言ってない。…でも、ありがとう、アスカ」
「なにがよ」
まだむくれた顔のままのアスカ
覗き込まれた体勢のままで見上げるシンジ
「すごく楽しかった。…隣で笑ったり驚いたり、一緒に楽しんでくれる人がいるだけで、こんなに
 文化祭が楽しく思えるなんて、知らなかった。…初めて、人に囲まれるのが嫌じゃなかった。
 ありがとう。一緒にいられて、良かった」
たじろぐアスカ
言葉に迷い、結局いつもの台詞にする
「…ばーか。
 自分で壁作ってないで、もっと早く気づきなさいよね」
おでこをこつんと当てる
反射的に目をつぶるシンジ
00116/82015/12/23(水) 16:00:27.78ID:???
閉じてちょっと震えるまぶたを間近で見つめるアスカ
ひそかに微笑む
口調だけは強気で付け足す
「…絶対に避難するなって言ってるんじゃないの。怖かったら、逃げても隠れてもいいの。だけど
 楽しいことだってあるんだから、諦めちゃったら、もったいないでしょ」
額を離し、柔らかく見開いた目で見つめ返すシンジ
「…うん。…君といる方がいい。
 そうだ、ねえ、これからはさ、…いつもとは言わないけど、もう少しこうやって、皆の前でも
 普通にしてみない? もちろん、アスカが嫌なら、今まで通りでいい」
ほんのわずかシンジを見つめるアスカ
すぐに大きく笑う
「ま、少しならいいわ。…だけどキスは当然駄目、手を繋ぐとかもなしよ? そういうのは、
 誰も見てないところでするから特別になるんだもの。大勢に見せつけて自慢する趣味もないし」
「そうだね」
一緒に照れ笑いするシンジ
安心したように身体を戻すアスカ
食堂を見渡す
軽音楽部か管弦楽部の公演が終わったのか、ぽつぽつ人が戻ってきている
「そうね、こんなふうに一緒にお昼食べるくらいなら、いいかもね。…そういう意味では、今日は
 嬉しかったな。シンジと堂々と一緒に食事できたんだもの。しかも普通のカッコで」
制服の袖を引っぱるアスカ
着てたら休憩にならないというケンスケの一言で、コスプレ衣装は荷物と一緒に教室の中
他のコスプレメンバーも二人が抜けるのを文句も言わず承諾してくれた
「うん。…あとでケンスケや皆に、そのこともお礼言わなきゃ」
穏やかに笑うシンジ
00127/82015/12/23(水) 16:01:18.25ID:???
いろいろな人の配慮に囲まれていることを改めて実感する
時にはうとましいし、一方的に押し付けられたり、見返りを期待されることもあって、
優しく有難いだけでは決してない
それでもとどのつまり他人の間で日々を送っているということ
(自分で慣れて、馴染んでくしかないんだ。僕なりに。…一人じゃいられないってことに)
得体の知れない他人という不特定の塊
それでも一人一人は親しい人になりうるし、繋がっていける
その中で一番近い一人として今傍にいてくれるアスカの存在
一緒に同じ方向へ歩いていける人
シンジの微笑に戻った落ち着きに、自分も解放されるのを感じるアスカ
はにかみ混じりに笑い交わす二人
向き合っているだけでたわいないほど嬉しい
目と目で確かめ合い、どちらからともなく一緒に席を立つ
明るい色の髪を広げてくるりと振り返るアスカ
思わず見とれたのを隠さないシンジ
アスカも自然に微笑む
「休憩、終わり」
「うん。戻ろっか、皆のところに」
頷くシンジ
歩き出そうとしたところに声がかかる
「アスカ、碇君! 良かった、ここにいたのね」
「ヒカリ? どうしたのよ」
急ぎ足で近づいてくるヒカリ
はっとなるシンジ
「もしかして、教室で何かあった?! ごめん、いつまでもサボッちゃってて。すぐ行く」
00138/82015/12/23(水) 16:02:27.01ID:???
笑って首を振るヒカリ
「ううん、違うわ。大丈夫だから、二人はゆっくり戻ってきて。それを伝えたかったの。
 あ! そうそう、必ず中央廊下、通ってきてね」
「え? 遠回りになるじゃない」
けげんそうなアスカになぜか悪戯っぽい笑顔を向けるヒカリ
「いいから。それと、私、このまま実行委員本部に戻るからって、鈴原たちに伝えておいて
 くれないかしら」
「あ、うん。わかった」
「いい? 二人とも、必ず通ってきてね」
何度も念押しして去っていくヒカリ
訳がわからず顔を見合わせるシンジとアスカ
「…どうしたんだろう。僕らがいない間に、やっぱり何かあったのかな。それに中央廊下って、
 何のことだろ」
気にせず先に立つアスカ
「いいじゃない。行ってみれば済むことよ。百聞は一見に如かず、ってね」
「…そうだね。クラスの方とも関係あるのかな」
とりあえず食堂を後にする二人
徐々に人の流れが戻ってきている校舎
あちこちのクラスではぼちぼち片付けも始まっている
早々に解体されている大道具や仕切り壁、山積みされた元・飾り付けやお品書きの類
祭が終わっていくというのに、妙に張りきって片付けている連中も見えるのがおかしい
種々雑多な賑わいを眺めながらゆっくり歩いていくシンジとアスカ
0014名無しが氏んでも代わりはいるもの2015/12/23(水) 16:05:03.67ID:???
*追記
途中に登場した「ミドリ」「スミレ」は
Qのヴンダークルー、北上ミドリ(ピンクの子)と長良スミレ(操舵士)です(ただし女子高生)
自分は顔がわからないと動かしづらいので無理やり出演してもらいました

ではまた、通りすがりでした
0017侵入社員2015/12/25(金) 07:03:50.92ID:???
クリスマスネタ…書きたかった…
00191/52015/12/25(金) 21:15:54.04ID:???
こんばんは通りすがりです
今日は文化祭の続きではなく、番外としてクリスマスネタ一本行きます
一日遅れですがイヴの話として読んでいただければ嬉しいです
--------

終業式の夕方
街灯がともり始める時刻、並んで街を歩くシンジとアスカ
少し渋い顔のシンジ
「さっきはびっくりしたよ。昼間に終業式終わって別れたばっかりだっていうのに、突然家まで
 迎えに来いだなんて言ってくるから」
「どんな一大事かと思った?」
平然と微笑んでみせるアスカ
ちょっと頬をふくらませて頷くシンジ
「うん。…で、何かと思えば」
両手を見下ろす
手袋の指に食い込む大量の買い物
自分のバッグだけ持って前を行くアスカを眺めるシンジ
「…要するに、荷物持ちして欲しかったの?」
「違うわよ」
マフラーをなびかせてくるりと回るアスカ
後ろ向きになって歩きながら答える
00202/52015/12/25(金) 21:16:45.73ID:???
「ちゃんと言ったでしょ。クリスマスの買い出しに行くからエスコートして、って。
 マリが仕事遅くなるって言うから、急に私一人で済ませなきゃならなくなったのよ。で、
 どうせなら」
まだむすっとしているシンジを上目遣いに覗き込む
「…荷物持ち?」
「ううん。あんたと一緒に歩きたかったの」
ストレートに言われて、とっさに何も返せなくなるシンジ
茶化すでもなく真顔で見つめてくるアスカ
「…そんなの、いつもやってるじゃないか」
「冬休み中はいつ会えるかわかんないでしょ。あんたは年末年始にまた帰省するだろうし、
 こっちにいる間くらい、一緒にいる時間、増やしとこうかなって思ったのよ」
うろたえてしまうシンジ
勝気な笑顔から一転、睨むアスカ
「何よ、嫌だったら来なきゃいいじゃない」
「そんなこと言ってないだろ」
背を向けてずんずん行くアスカに追いつくシンジ
ちらりと視線だけ投げてくるアスカ
少し黙り、正直に言うシンジ
「…僕だってそうだよ。学校終わったばかりなのに、もう寂しい。…みっともないけど」
隣で上下するアスカの頭を見つめるシンジ
明日からは、何もなくても毎朝並んで歩けた学期中のようにはいかない
口にして改めてその事実を噛みしめるはめになる
小さく溜息をつくシンジ
突然、横からぶつかってくるアスカ
00213/52015/12/25(金) 21:17:35.47ID:???
「うわっ」
両手がふさがっていて防げないシンジを素早く抱きしめ、ぐいっと顔を近づける
「え、アスカッ、…ちょっとっ」
周りの視線を気にして焦るシンジ
腕を緩めないアスカ
逃げられないシンジを間近でじいっと見つめる
小さく笑う
「…正直に言ったから、許してあげる」
頬に軽くキスしてぱっと身を離す
真っ赤になるシンジ
アスカの唇が残したかすかに湿った感触
頬が燃えるように熱いまま、置いていかれまいと人の流れに乗る
振り返るアスカ
悪戯っぽい笑顔で周囲を指さす
「馬鹿ね、誰も気にしやしないわよ。今日は」
つられて見渡すシンジ
まばゆいイルミネーションの下をせわしなく、けれど楽しそうに歩く人々
ショーウィンドウに見入る二人連れ、繋がれた手と手、ツリーの下で堂々とキスする一組
言いながらも照れているらしく、自分も顔を上気させているアスカ
にっこりするシンジ
「…そっか。クリスマスだもんね」
「そ」
頷くアスカ
さっきより少しお互いの距離を縮めて、また歩き出す二人
「そうだ、クリスマスケーキは? まだ見てないけど」
00224/52015/12/25(金) 21:18:11.59ID:???
「あ、ケーキはいいの。ママがね、ドイツからシュトーレン送ってくれたから。
 今年は一緒に祝えないから、ってね。お詫びに、今年仕事先で見つけた中で、一番
 おいしいお店のやつ予約してくれたんだって。小さい頃から毎年恒例だったの、ママは忙しくて
 手作りは無理だから、クリスマスシーズンまでに必ずいいお店を見つけて、そこのシュトーレン
 買ってきてくれるの。アドヴェントには届いて、もう飾ってあるのよ」
少し幼い笑顔になって喋るアスカを見つめるシンジ
「ナイフを入れるのは今夜が初めて。マリの味見も阻止したし。あー、食べるの楽しみ!
 …そうだ、シンジ」
熱っぽい笑みを残したままの顔を向けるアスカ
自然に目で微笑むシンジ
「ん?」
「帰ったら、少しうちに寄ってかない?」
きらきらした目で覗き込んでくるアスカ
大いにうろたえるシンジ
また耳たぶまで熱くなる
「…それって」
笑うアスカ
「何変なこと考えてんのよ。お茶淹れて、特別に最初の一切れ、ごちそうしてあげる。
 今日付き合ってくれたお礼と、約束守って毎日帰り送ってくれたことへの感謝ってとこ。…すぐに
 マリが帰ってきちゃうから、それ以上の何かを期待しても無駄よ」
怒ったふうを装って顔をそむけるシンジ
「…別にっ、期待とかそういうのはしてないよ」
00235/52015/12/25(金) 21:19:01.29ID:???
「嘘ばっか。期待もシタゴコロも、顔に全部出てるわよ」
「え…嘘っ、ホントに?!」
「ばーか。すぐ本気にするんだから」
「ええ?! 何だよそれっ」
心底おかしそうに明るく笑い声をたてるアスカ
むくれながらも結局許してしまうシンジ
天を覆っていた薄い雲が晴れ、冴えた夜空が覗く
イルミネーションの向こうを指さすアスカ
「あ。見て」
アスカの指の先に金色の円い月
にぎやかな街の灯りにも負けずに滴るような輝きを放っている
「きれい」
素直に呟くアスカ
頷いて、重い荷物を持ち直すシンジ
「…じゃあ、帰りはずっとあれを見ながら歩いていけるね。一緒に」
「うん」
シンジの笑顔を見てくっついてくるアスカ
腕に抱きついてしっかり掴まえる
その手の強く引っぱる力に身を預けるシンジ
「今日、来られて良かった。ありがとう、アスカ」
「馬鹿ね。お礼ならちゃんと家についてから言いなさいよね」
ますます混雑を増して行き交う人波の中、しっかり寄り添って歩いていく二人
しだいに高く昇る月が金色に地上を照らしている
0027名無しが氏んでも代わりはいるもの2015/12/27(日) 22:47:07.72ID:???
シンジ「アスカに年賀状書こうかな。ミサトさん、これ」
ミサト「自分で出してきて。はじめてのおつかいじゃないんだから」
シンジ「はい」
0029名無しが氏んでも代わりはいるもの2015/12/30(水) 00:12:26.73ID:???
はぁ〜やっと帰ってこられた〜

>>14
おおっ、通りすがりさんの文化祭編の続きが来てる〜嬉しい!
お、ケンスケ作戦開始、トウジは助太刀というより巻き込まれ?
どんな作戦立てたのか、文化祭の行方をも変えてしまいそうな予感にwktk
おや、シンジ達の教室に現れた例の女子二人がカフェの宣伝を…
オトシマエは滅私奉公でつける、ってところかな
反省して謝罪しているだけ残りの女子達よりはまだマシなのかな…?
この二人、ミドリとスミレなのか、面白いポジションだなぁ
シンジとアスカ、カフェに戻ってないのか〜
お化け屋敷、茶道喫茶でお茶、ランチもって、まるっきりデートだなぁw
アスカが一緒にいてくれるおかげで、人の中でもストレスを感じる事無く
文化祭を楽しめる様になったシンジの姿がとても嬉しい!
そして、それはアスカも同様、シンジといることで素直に嬉しさを感じられるんだね
ヒカリが二人のもとへ、なにか誘導しているね〜ケンスケの作戦が発動しているのかな?
二人にとって、いや、文化祭を楽しむ皆にとって嬉しい事だといいなぁ
続き、めっちゃ期待してます!

>>17
侵入社員さん、リアルタイムじゃなくてもいいじゃないですか〜
ぜひ、クリスマスネタを投下してください〜

>>23
終業日の午後、アスカの買い物、シンジは荷物持ち?
アスカ、シンジと一緒に歩きたかったの、ってデートしたかったのね〜
シンジ、午前中ずっとアスカと過ごしたのにもう寂しい、ってシンジの心の全部はアスカで出来てるんだなきっとw
そんな姿にキュンと来たアスカ、シンジを抱きしめて頬にキスを…温かくて柔らかくて…悶絶!
月明かりのもと、じゃれ合って歩く二人、この後はアスカの家でキョウコさんが送ってくれたシュトレンを頂きながら
二人でイヴを過ごすのか〜 …マリが帰ってくるまではw
いやぁ〜じゃれあう二人の姿が愛に溢れていて、読んでいるオイラも幸せな気分で悶絶です!
とっても温かいステキなお話を有難うございます!次回も悶絶させてください!
0030名無しが氏んでも代わりはいるもの2015/12/30(水) 00:17:54.03ID:???
>>27
おっ、これは分岐師匠ですか?
ドイツで家族と暮らしているアスカに年賀状を送るのね
シンジが描く年賀状、どんなのだろう
新年の挨拶の他に、どんな事を書き伝えるのかなぁ
続き期待してます!
0032名無しが氏んでも代わりはいるもの2015/12/31(木) 23:53:21.23ID:???
通りすがりです
ぎりぎりになっちゃいましたが走り描きを一枚

今年、このスレに出会えて本当に幸せでした
何より「幸せな子供たちを書きたい」という願いをどうにか形にできて、しかも他の方にご覧頂けたのが嬉しかったです
皆様どうかよいお年をお迎えください

ttp://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=54362936
0033名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/01/01(金) 00:46:07.51ID:???
>>32
おおっ!通りすがりさん!
4人の笑顔がステキです!
とても嬉しい光景を有難うございます!

そして、スレ住人の方々、
明けましておめでとうございます!
今年もステキな出会いがありますように!
0035名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/01/03(日) 01:06:46.36ID:O2Nwh9Ix
あけおめー
やっとるかねー?
0036小ネタですいません2016/01/04(月) 19:20:33.87ID:???
「もしもし、…えっと、あけましておめでとう、アスカ」
『何よ、ちゃんとこっちに年賀状送ってきたじゃない。
 …でも一応、おめでと。馬鹿シンジ』
「…あは」
『?! 何よ?』
「あ、いや、別に。アスカの初『バカ』が聞けたなって思って」
『え…、ばーか、『初』かどうかはわかんないでしょ。あんたがこっちにいない間に、
 もうマリに言った後かもよ?』
「あ…そっか…」
『…、ちょっと、もう、何しょぼんとした声出してんのよ。嘘よ。初よ、初。今のが』
「ごめん。でもアスカこそ、声が慌ててる」
『うっさいわね。で、何の用よ』
「用っていうか…遅くなったけど、今年もよろしく、って言いたくて。
 それと、明日の夕方には寮に戻ってられると思うんだ。…ごめん、おばさんたちが思ったより
 引き止めてくれてさ。お世話になってるから強くは断れなくて」
『何言ってるのよ。恩義のある人に情と礼を尽くすのは当ったり前でしょ。でもそうね、夕方なら
 …ちょっとぐらい、顔見せに来てくれても、いいわ。家にいるから』
「! うん、行く。遅くなっちゃうかもしれないけど、必ず行くから」
『ばーか。あんまり待たせるんじゃないわよ』
「わかってる。最善を尽くすよ」
『よし。…あ、そうだ、シンジ、ついでにもう一個、『初』をあげる。いい?』
「え、何…?」

回線越し、耳元で意外なほどリアルに聞こえるキスの音

「…、…、あ、アスカッ」
『あ、今、顔真っ赤になってるでしょ! 馬っ鹿ねー。本番は、帰ってくるまでお預け。じゃね」
「え、うん、じゃあ東京で…って、もう切れてる…
 まあ、アスカらしいか。…ん? うわッ」
(……初膨張…)
0038名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/01/05(火) 08:05:35.83ID:???
>>36
おおっ!新年の挨拶編ですね!

シンジ、年賀状は送ったけどやっぱりアスカの声を聞きたいよね〜
アスカの発する初バカは自分だけのものって感じのシンジ、
アスカのフェイントにショック受けるなんてカワイイのぅw

期待してるシンジをあしらったつもりなのに慌て声のアスカも萌える!
アスカの初キス(音)は二人会って本当のキスまでの約束ですね

アスカ、さっさと電話切っちゃったのは照れてるからなのかなぁ、カワユスw
シンジ初膨張乙!w

いやぁ〜新年からとても嬉しいお話に出会えて超幸せですね〜幸先良し!
有難う御座いました!
続編も期待してます!
00411/82016/01/07(木) 23:26:54.83ID:???
こんばんは
世の中明日から新学期だというのに未だに文化祭書いてる通りすがりです
まとまらないのは平常運転ということで、続き行きます orz
-------

文化祭終了まであと一時間
最後の熱気で賑わう校舎を通り抜けていくシンジとアスカ
食堂でヒカリに言われた通りゆっくり2-A教室に戻るつもりが、だんだん調子が狂ってくる
知り合いという知り合いが二人を見るなり声をかけてくる
普段ほとんど接点のない他学年からも気さくな言葉を向けられる
そこまでせずとも、視線や目配せ、興味深そうな表情になるだけなら軽く倍はいる
「お、ほんとにコスプレしてない」
「じゃあマジなのか!」「マジだろ、よその女子も巻き込んでたし」「やべ、ちょっと投票してくるわ」
「宣伝見たよー。すごいね、がんばるね」「部活の皆で票入れといたから!」
「お願いしますよ碇君、惣流様のあのお姿をもう一度拝みたいんですよ」
「そうだよ、俺、まだ改造バージョン見てないんだよ。頼むよー」「実行委員指名なんてやるぅ」
「あーもう解散ムードだったのに、これじゃ早退できないだろ」「責任取れよ? いや、冗談」
「これで企画倒れなんてことないよね?」「今年はサボんないで閉会式出るつもり」
「行ってきたぜ2-A。がんばれよ」「票、入れといたからな」「楽しみにしてるよー!」
怪訝ながらもとりあえず受け流していく二人
少しこわばってきた顔を見合わせる
ほとんどくっつきそうな互いの肩
硬く眉間に力がこもるシンジ
「やっぱり何か起きてるんだ。僕らがいない間に、どうなってるんだろう…?」
00422/82016/01/07(木) 23:27:28.56ID:???
同じくぎゅっと眉をひそめるアスカ
が、不快そうではない
「行けばわかるでしょ。ほんとに大ごとなら、さっきヒカリが言わないわけないわ。
 …まあ、知らないところで自分たちがネタにされてるらしいってのは、気に食わないけど」
不敵に微笑む
「どうせあのメガネ馬鹿がなんか愚かなことたくらんでるんでしょ。
 …平気よ、私。だから、あんたも」
言いさした横顔に一瞬だけたゆたう願いの色
受け止めて、頷くシンジ
素直に笑う
「うん。平気でいられる。…と思う」
「ばーか、彼女の前でくらいカッコつけなさいよ」
軽くシンジのおでこを弾くアスカ
そろそろ本館と別館を繋ぐ中央廊下
実行委員会の出張所や何個も並んで設置された臨時掲示板の列が見えてくる
その手前、直行する別の廊下からどこか耳慣れた声
相前後して立ち止まってしまう二人
「…ねえ、あれって」
「うん。もしかして」
目と目を見交わして覗いてみる
奥の教室の前に人だかり
人混みの真ん中から不思議に張りのある声が届く
00433/82016/01/07(木) 23:28:01.70ID:???
「…私たちが活躍できるかは、皆さんにかかってるんです。
 賛成してくれる人が多ければ本当に二人も戻ってきてくれるかもしれない。そのために、
 私たちに、皆さんの声を貸してください。…あっ」
突然声を呑んだレイの視線を追って振り返る一同
その注視を集める恰好になって慌てるシンジとアスカ
「おおー」「あれが問題の」「ヤラセじゃないっぽい」「へえー」「なるほど」
好奇心を隠さないたくさんの目
たじろぐ二人
「…な、何だよ」
とっさにアスカを背後にかばうシンジ
と、前方でも同じように、手にした看板を背中に隠すコスプレ姿のレイ
「あ…駄目、まだ秘密なの。言わないで」
慌てた素の声で周囲を見回し、後ずさる
「…ごめんなさい。続きは別の場所で、説明します」
そのまま看板を抱えてぱたぱたと走り出すレイ
「え?!」「ここで切るの?」「何何ー?」「待って!」「よしきたー」
面食らった数人と面白がった何人かがレイを追いかけていく
残り数名も二人を気にしつつ撤収する
取り残されるシンジとアスカ
「…? 何がどうなってんのよ」
「今の、綾波だよね…? 秘密って言ってたけど、僕らに秘密ってことかな」
小さく鼻を鳴らすアスカ
「それしかないでしょ。ったく、ますます怪しいったらないわ」
困惑するシンジ
「どうする? まあ…ここまで来たら、言われた通り中央廊下通って戻るしかないけど」
00444/82016/01/07(木) 23:29:28.18ID:???
「そこが癪なのよね、上手いこと乗せられてるって感じが」
ケンスケ辺りを思い浮かべているのか、一種険悪な目つきになるアスカ
ふっと表情を緩める
「…けどいいわ。ここまで来て尻込みするなんて、主義じゃないし。
 それに、ヒカリとレイが中身を知った上で乗せられてるんだもの。きっと大した面倒じゃないわ」
きっぱり言い放った語尾ににじむ別の配慮
何となく通じてしまうシンジ
「委員長や綾波のこと、信じてるんだ。…僕のことなら心配しないでよ。アスカがいるなら、
 どこにだって、僕は行くしかないから。でなきゃ僕は僕でいられない。もう、そうなってるんだ」
ぱっとシンジを見るアスカ
一瞬揺れる瞳の深さ
微笑
「…大げさね。…行きましょ」
「うん」
改めて中央廊下に踏み込む二人
無意識に警戒しつつ進んでいく
実行委員の駐在席は空っぽで、片付けに入ったのか広い廊下そのものが閑散としている
何となく掲示板を一つ一つ眺めていく二人
実行委員会からのお知らせ、注意事項
体育館などの主な公演日程表
全体のイラスト地図
やがて、真ん中の掲示板の前で二人の視線が固まる
どちらからともなく立ち止まる
00465/82016/01/07(木) 23:31:35.05ID:???
『文化祭写真コンテスト 一般投票ランキング中間発表』
模造紙にマジックの文字列の下、文化祭の時間を切り取った幾つもの写真が貼られている
スマホ撮影のいかにもな記念写真風から、写真部が撮ったらしい本格的なスチールまで
多数の応募写真から特に得票数の多かった十数点が大きく上部に掲示されている
「…なんで」
袖口を引っぱられるシンジ
見下ろすと、ぎゅっと捕まえているアスカの白い指
無防備に目をみはった横顔
「私たちが、こんなにいるの…?」
答えられず、ただアスカの手をほどいてちゃんと握りしめるシンジ
見つめる二人の目の前に並ぶ写真の群れ
その大半に写ったシンジとアスカの姿
接客中の二人 看板構えた校内巡回の二人 コスプレのまま休憩する二人
不思議と、どちらか一人ではなく、必ず二人のところを捉えているものが大多数
得票が多い写真には必ずしっかり二人が揃っている
訳がわからないアスカ
コスプレ姿の自分を嫌らしく写したものや二人を揶揄したものぐらいは覚悟していたつもり
なのに、どう受け止めていいのか全く掴めない
真っ白な事実の怖さ
「…ほんとだ」
傍らでほっと息をつくように呟くシンジ
視線だけ向けるアスカ
「きっと、あの子たちも言ったんだよね。アスカに」
「…え」
理解した瞬間、全身の血が逆流するような悪寒を覚えるアスカ
女子トイレで向けられた顔のない悪意たち
(いいよね公認のオトコがいる人は)(愛しの碇君)(見せつけちゃって)
00476/82016/01/07(木) 23:32:39.55ID:???
(誰も見てないとでも思ってたの?)(いい気になりすぎ)(陰じゃ皆がそう言ってるんだよ)
顔をそむけ吐き気をこらえるアスカ
(嘘。シンジには何も話してないはずなのに…違う、もしかして、本当は聞こえてて)
自分でも驚くほどの強烈な拒絶感
両膝からくずおれそうになる
見開いた両目を前に据えるだけで精一杯のアスカ
悟る
(ああ、私、やっぱり、最低だ。
 偉そうなこと言ってシンジを諭したりして。…なのに信じてない。あの時と、何も変わってない)
(抱きしめてくれたのに…それだけじゃ、変われないんだ、私は)
(シンジはずっと私を見てたくて、苦しいくせに変わろうとしてくれてるのに)
「…アスカ」
はっとなるアスカ
凝集していたような周囲の空気が融ける
シンジの方を向くのが怖い
が、シンジが続けたのは別の言葉
「行くのが遅くて、あの子たちが何を言ってたのか、僕も渚も聞いてないけど…
 これ見てたら、なんか少しわかる気がするんだ」
思わず、きっと向き直るアスカ
ちょうど向けられたシンジの眼差に脆い虚勢が崩れる
頼りないくせに芯の強い目
それに値する存在になりたいと願ったのは自分
その自分自身で、傷つけるだけの情けない甘えの言葉を今は呑みこむアスカ
シンジの目が気遣う
一度まぶたを閉じるアスカ
意識して開いて、見つめ返す
00487/82016/01/07(木) 23:34:35.78ID:???
とまどったように揺らぐシンジの表情
「…先。言いなさいよ」
「…え」
もう自分を取り戻しているアスカの勝気な顔
「そんな言い方されたら気になるでしょ。ほら、聞いてるから」
あんたの傍で、という言葉は声に出さない
でも願いはもう目に満ちている
微笑むしかないシンジ
少しうつむく
「当たり前だけど、…皆、僕たちのこと見てるんだよ。幾らこっちが気をつけてたって、
 ずっと一緒にいるんだから、どこかで誰かが見てる。見て…何か思うっていうか、感じる」
やや翳る声をじっと聞いているアスカ
「別にいいかって受け入れてくれる人もいるし、どうしても違和感あるって人もいる。
 アスカが昨日出遭ったのは、結局は、そういうことじゃないのかなって。
 …だからアスカが自分を責めたりすることない。だって、それはその人たちだけのことだ。
 それに、その反対だって、こうしてあるんだから」
言いながらいつか顔を上げているシンジ
見つめるアスカ
少し仰ぎ見る角度なのが、今はひそかに嬉しい
でも言葉ではそう言わないでおく
「…ばぁーか。もっと堂々と言いなさいよ。
 『その反対』じゃなくて、『あの二人、なんかいいな』って思ってる奴も多い、ってことでしょ。
 ううん、むしろそっちが圧倒的多数ね」
「え、ちょっとアスカ、それは」
00498/82016/01/07(木) 23:35:14.83ID:???
反射的に周りを気にしてしまうシンジ
「何よ? 論より証拠、これを見れば一目瞭然よ。文句なんか言わせないわ。
 要は私たち、好感度高いってこと。自信持ちなさいよね」
「だから、…普通、自分でそんな風に言わないってば」
改めて照れた顔になるシンジ
血の昇った頬をちょんとつついてやるアスカ
「ヒカリが言ってたのはこれだったのね。…昨日のことがあってフラフラしてた私たちに、
 自信とか自覚を、取り戻して欲しかった」
「うん。そうだね、きっと」
頷くシンジ
ふふんと笑うアスカ
いろいろと疑問が氷解したという表情
何となくぎくりとするシンジ
「…となれば、この先に待ってることは一つしかないじゃない。行くわよ、シンジ!」
繋いだ手を握り直し、引っぱって大股に歩き始めるアスカ
慌てるシンジ
「急に何?! 一つって何だよ、ねえ、アスカ」
何かと不穏な予感がするが、結局、抵抗もなく引きずられていくはめになる
それを嫌だと思っていないことの安堵
「あんたもいい加減覚悟できたでしょ。他人なんてどうってことないのよ。向こうは見てる、
 けど見てどう思ってるかなんて、あんなふうに、案外簡単なことだったりするんだから。
 あんたはあんたでいればいいの。…たまに昨日みたいにフラつくけど、私もそうするから」
腕を引っこ抜きかねない勢いでずんずん行くアスカ
「…わかったよ。でも、待ってるっていうのは」
やっと歩調を揃えたシンジを振り返り、鮮やかな笑顔を見せるアスカ
「決まってるでしょ。主役の復活よ」
0050492016/01/07(木) 23:49:26.56ID:???
>>45
うおわ?!
支援ありがとうございました
00511/72016/01/08(金) 22:52:32.95ID:???
こんばんは今夜も文化祭の通りすがりです
まだもう一回はないと終わりません…

すみません、まず前回投下分の訂正から
前回冒頭(>>41)の「終了まであと一時間」コピペミスで消さないまま書き込んでしまいました
シンジとアスカ、残り一時間までダラダラしてるなんて幾らなんでもサボりすぎ…
二人にあんまりなのでなかったことにくださると有難いです orz
-------

2-A教室の前に佇むシンジとアスカ
入り口に飾ってあったはずの地球防衛カフェの看板がなくなっている
代わりに、閉じた扉にものものしく貼られた『地球防衛戦隊作戦室』なるコピー用紙
「…あからさまに怪しいわ」
不信丸出しのアスカ
ガラッと扉が開く
顔を出したのはヘルメット以外コスプレ衣装のトウジ
「お」
二人を見てにかっと笑う
振り向いて、教室内に声をかける
「おーい、来たで!」
おおーとかええーというざわめきが中で膨れ上がる
「…え」
思わず身を引くシンジ
その手を掴んで自分から前に出るアスカ
躊躇なく教室に踏み込んでいく
一歩引いて道を空けるトウジ
二人が入った後でまた元のように扉を閉める
00522/72016/01/08(金) 22:53:05.00ID:???
緊張した顔でざっと周囲を見渡すシンジ
すっかり片付けられた教室
中央の机を囲んで集まったクラスメートたちの生き生きした表情
注目されると見るやすかさずシンジの手を離すアスカ
机に広げた紙面から顔を上げ、眼鏡を直して立ち上がるケンスケ
トウジに突っつかれて彼らの前に立つシンジ
既に仁王立ちで腕組みしているアスカ
「やっぱりあんたね」
睨みつけるアスカの肩に軽く触れ、ケンスケを見据えるシンジ
小さく溜息
「一体、何なんだよ、これ。皆まで…
 …僕らが朝から迷惑かけてたせいなら、謝るよ。遅くまで時間もらったことも。…ごめん」
頭を下げようとするシンジを遮るケンスケ
「いや、違うって。謝るのは…というか、頼むのは俺の方だ」
「え?」
不穏な感じに光るケンスケの眼鏡
「シンジ、惣流。俺の、今文化祭…いや、高校生活最大の頼みだと思って聞いてくれ」
「…は」
あからさまに嫌そうな顔をするアスカ
困惑しながらも苦笑するシンジ
「何だよ、そんな大げさなこと言わなくていいって。何?」
言いつつ、もう半分は予想している表情
やや勢いをくじかれるケンスケ
「…要するにまあ、今朝、一度断られたことなんだけどさ」
00533/72016/01/08(金) 22:53:58.08ID:???
「…、うん。閉会式の話だよね」
弱く笑うシンジ
敏感にシンジの躊躇を察するアスカ
ケンスケにくってかかる
「何よ、今朝って!
 私、何も聞いてないわよ。勝手に人のいないところで話進めておいて、いざ本人が
 来たら都合よく頼むなんて、無責任。無神経にもほどがあるわ。いい加減にしてよ」
「う、いや、そりゃ…」
歯切れよく言い立てるアスカに押されるケンスケ
迷った目がトウジを見つける
皆の後ろから、しっかりせんかい、と小声で叱りつけるトウジ
思いきりへの字口になるケンスケ
ここで引く訳にいかず半ばやけくそで一気に吐き出す
「わかってる! だが敢えて頼む!
 朝話した、ただフィナーレに出演協力するってのとは全然違う。むしろお前らが主役だ。
 目立つなんて程度じゃ済まないと思う。だけどお前らを推したいのは俺だけじゃない!」
横に片手を突き出すケンスケ
笑って看板やポスターらしきものの束を手渡すクラスメート
ぽかんとするシンジとアスカ
地球防衛カフェのものを改造したらしき急ごしらえの宣伝
『文化祭実行委員会公認! 地球防衛戦隊最後の戦い!』
『文化祭フィナーレを完遂するため、戦隊メンバーがあなたのクラスを駆け抜ける?!
  …現在コース設定中!』
00544/72016/01/08(金) 22:55:47.88ID:???
『ゴール:校庭中央をめざす戦隊メンバーを妨害する挑戦者(グループ可)を募集!
 対戦相手はコース次第! 我こそはという猛者を待つ!
 大道具等持ち込み可(ゴミはやめてください。by実行委員会)』
『映画部全面協力によるライブ撮影決定!(後日編集して上映会開催予定)』
唖然とするだけの二人
何人かがくすくす笑いながら別の立看板を運んでくる
顔をしかめるアスカ
「あ! また人の写真、勝手に…」
途切れる声
段ボールつぎはぎで拡大した一面いっぱいに躍る文字と、昨日撮った二人の写真
下方には大量のシールがべたべた並べて貼ってある
息を止めるようにして文字を読むシンジ
『セカンドレッド&サードパープル再登場なるか?!
 二人の復活はあなたの一票にかかっている(かもしれない)!
 投票結果により参加メンバー変動あり! 2-A他にて投票受付中(ドリンクサービス付)
  現在の投票数↓』
アスカの手がはね上がり、口元を押さえる
ざっと数えただけでも全校生徒の半数分以上はあるシール
途方に暮れたような顔で振り返るシンジ
引き結んだ口を緩めて笑ってみせるケンスケ
「何ていうか…こういうことなんだ。
 面白がってるだけの奴もいるだろうけど、結構な数の連中が、お前らのこと待ってるんだよ。
 だから頼む! もう一度、クラスの代表役やってくれ!」
00555/72016/01/08(金) 22:56:31.61ID:???
喉がつまったようになるシンジ
アスカと目が合う
瞳の奥で少女の心細さが一瞬だけ揺れる
自分でそれを振り払って、シンジが心を決める前に、いつものように先に立つアスカ
勝気に微笑む
「上等じゃない。いいわ、受けて立つ。…あんたもよ? シンジ」
答えようとするシンジ
教室の後ろの戸が勢いよく開く
全員の注視を浴びてちょっと嫌な顔をするカヲル
シンジとアスカがもういるのを見つけて、更に顔をしかめる
「…なんだ。もう来ちゃってたのか」
呆れ顔で声をかけるトウジ
「当たり前やろ。集合時間決めといたやないか。毎回変なタイミングで顔出すやっちゃな」
「うるさいなー…委員長さんも回収してきたんだから仕方ないだろ」
後ろから遅れて入ってくるヒカリとレイ
コスプレ姿のレイはさっきの看板を抱えている
集計用紙の束を掴んだ手を上げて皆に振ってみせるヒカリ
「ごめんなさい! 職員室寄ってきたの。
 フィナーレの許可、正式に通りました! この投票数見せたら、先生たちもいいって!」
「サンキュー委員長っ」
級友たちを押しのけてヒカリから用紙を受け取るケンスケ
そのまま戻ってきてシンジの目の前に突き出す
「どうだ! 現在の最新の投票結果! 頼む、シンジ!」
無言で文字列を目で追うシンジ
集計数はさっきの立看板の分を越え、生徒数の四分の三近くに迫っている
00566/72016/01/08(金) 22:57:19.72ID:???
小さく息を吸い込むシンジ
教室を見回す
クラスメートたち、意気込むケンスケ、腕組みして頷いてみせるトウジ、心配そうなヒカリ
いつもと同じ無心な信頼の目で見守っているレイ、めんどくさそうなカヲル
軽く両手を腰に当てて待っているアスカ
シンジにだけ見て取れる気遣いのたゆたい
静かに一つ呼吸して、力を抜いて笑うシンジ
「…そこまでされて、今さら、断るなんてできないだろ。
 やるよ。こっちこそ、よろしく」
アスカの目がきらっと光る
わっと盛り上がる教室
「うおお、ありがとうシンジ! くそ、みんな最高だ!」
既に感極まりそうなケンスケ
いつものごとく水を差すカヲル
「…最高はいいけどさ、どうすんの? あんな大見得切って、妨害チームなんか募集して、
 しかもコースも何も決めるのこれからだろ? これで失敗したら目も当てられないんじゃないの」
聞こえてないふりのケンスケ
ヤケ半分で張り切って采配を始める
結構本気で面白がって、活発な意見交換を始めるクラスメートたち
取り残される恰好で集まる当事者こと戦隊メンバー五人
それぞれ顔を見合わせて苦笑する
「…ほんま、どないなるんやろうな、ワシら。
 何や? 要はアドリブ障害物リレー、みたいなもんでええんか? …不安材料満載やな」
頭を掻くトウジに不機嫌顔するカヲル
00577/72016/01/08(金) 22:57:35.41ID:???
「同感だね。はぁ…実際走るのは僕らだからって、作戦立てる方は気楽でいいよね」
ちょっと笑ってカヲルをつつくレイ
「駄々こねないの」
「そうよ。こんな大役、私たち以外に誰ができるっての? ここまで来て手を引くなんて論外よ」
「…君の『私たち』って、なんとなく君とシンジ君しか入ってない気がするけどね」
「はぁ?! どういう意味よそれ!」
「やめんかい、戦う前にワシらが仲間割れしてどうするんや」
レイが困った顔を向けてくる
本気で怒り出しそうなアスカを抑える形で、仕方なく口を開くシンジ
「まあ、きっと、何とかなるよ。
 確かに危なっかしすぎるけど…できたらさ、楽しんでもらおうよ。賛成してくれた学校の皆に」
騒ぐのをやめて、それぞれに頷きを返してくれる四人
今もさっきも、ごく自然に、構えない普通の笑顔になれていたことに気づくシンジ
アスカの目が笑う
背後でまたどっと盛り上がる教室
大きく傾いた午後の陽射し


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今回はここまでです
長くて非現実的な話にお付き合いさせてしまって申し訳ありません(こんな高校生いねーよ)
あと一回で終われる…と思いますので、どうか生温く笑ってご寛恕ください
通りすがりでした
00601/192016/01/11(月) 23:59:21.60ID:???
通りすがりです
遅くなってしまいましたが、ラスト行きます
すごい量になってしまったので、どなたかいらしたら支援をお願いします

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明城学院高等部文化祭最終日
外部からの参加客は帰り、夕闇に校舎の明かりがこうこうと並ぶ
否応なくみなぎる期待の雰囲気
位置に向かいつつ、想像以上のプレッシャーに肩をすぼめるシンジ
「…なんでこんなことになっちゃったんだろ」
「成り行きだよ。単に」
簡潔に言い捨てるカヲル
嫌な顔をするシンジ
補修した自分のコスチューム姿を見下ろしてさらに溜息
「つまりさ…無駄な抵抗は諦めろってこと?」
「まあね。考えても仕方ないことは考えない。動いた方が楽だよ。状況も変わるし」
「そりゃそうだけどね…」
「何だよ、腹を括ったのかと思ったらまだ恥ずかしがってんの? しょうがないなぁ君は」
やや意地悪な目で笑うカヲル
むっとしてそっぽ向くシンジ
「…悪かったな」
「じゃあさ、こう考えてみなよ。皆に見せるつもりで行かなきゃいい」
「何言ってるんだよ、そんなの無理だって」
「だからさ。皆に見てもらおうとしなきゃいいんだよ。君はただ…」
目を向けてちょっと黙るシンジ
00612/192016/01/11(月) 23:59:47.00ID:???
悪戯っぽいような、けれどひどく優しい表情をしているカヲル
「…アスカさん一人に、見せに行けばいいのさ。君なりのカッコ良いところってやつを。違う?」
言い返そうとして、結局笑ってしまうシンジ
頷く
「…わかったよ、渚」
目元だけで素早い笑みを返すカヲル
「じゃ、僕はこっちだから。がんばりなよ」
軽く肩を突いてシンジから離れる
少し笑って見送るシンジ
根深い不安と困惑を振り払うように一人で小さく気合を入れる

「どう? どっか変じゃない?」
身体を伸ばし、背後のレイに訊くアスカ
補修に使った赤テープを手に、一歩離れてみて頷くレイ
「平気。綺麗よ」
ちょっと睨むアスカ
「…って、そういうことサラッと言わないでよね」
「だって、本当だもの」
「んもうっ」
軽くぶつ真似をするアスカ
微笑むレイ
自分も支度する
真顔になってその少女らしいしぐさを見つめるアスカ
「…ありがと、レイ」
00623/192016/01/12(火) 00:00:50.22ID:???
「何?」
不思議そうに顔を上げるレイ
ぱっと目を逸らすアスカ
「今回。いろいろ。…昨日、シャワー終わるまでいてくれたこと、とか。
 レイが傍にいてくれて…シンジのこと、一緒に見送ったり、話したりできて、良かった。上手く
 言えないんだけど、すごく安心できたもの。馬鹿シンジとはまた違う感じで、ね」
軽くうつむくレイ
かぶさる髪を指先でそっとよける
「私も同じ。二人を見てると安心する。…何か、願いが、叶った気がして」
「え」
ふと不安げな表情になるアスカ
時たまレイが見せる底知れない深さ、いたたまれないほどの優しさ
素早く覆ってわざと無造作に言い返す
「なーに言ってんのよ。あんたの願いはカヲルとでしょ。まだ先は長いんだから、こんなとこで
 安心しちゃ駄目。油断大敵!よ」
「うん。そうね」
真面目にこっくり頷くレイ
にっこりするアスカ
急に踏み込んでレイの頬をつっつき、つかまる前に笑って教室を逃げ出す

『さあやって参りました今年度文化祭フィナーレ!
 今年はなんと現場参加型イベント開催! 戦場はキミの教室だ!
 果たして、2-A地球防衛戦隊は、校内に控える数々の障害を突破し、閉会式会場である
 校庭へたどり着くことができるのか?!
 …放送部・映画研究会による独占実況&生収録でお送りいたします!』
00634/192016/01/12(火) 00:01:20.62ID:???
アップテンポのBGMとともに始まる校内放送
うわーっとどよめく校舎
スタート地点の2-A教室前
とんとんと靴のつま先で床を打つレイ
くすっと笑う
(きっと今頃、碇君、困ってる。大ごとになっちゃったなって。アスカは、きっと平気な顔してる)
『ルールは簡単!
 本番まで非公開のコースに沿って走る戦隊メンバーを、応募した各チームは事前申請した
 地点にて妨害。突破されるまでに最も時間を稼いだチームには、文化祭実行委員会より
 豪華商品が授与されます!』
身体をひねって黄色のコスチュームをチェックするレイ
手には陸上部提供の赤いバトン
胸を静めるようにひとつ深呼吸
周囲には見物の生徒たちが壁を作り、興奮気味に出発を待っている
『走者がいつどこに現れるか、そしてバトンタッチのタイミングは本番に初めて明かされます!
 また各妨害チームの用意した作戦は、走者たちには知らされていません! 展開は
 全く予想できません! 一体どうなってしまうのかっ!』
人垣の前にはハンディカメラ二台他機材を構えた映研部員たち
マイク片手に実況する放送部員
時間計測のためストップウォッチを持って立ち会う文化祭実行委員
校内各所に、ヒカリを含め他にも実行委員たちが待機している
『スタート地点はここ2-A前! 最初の走者はファーストイエロー!』
00645/192016/01/12(火) 00:02:20.71ID:???
スタッフの少し後ろに、何だかんだで一番心配そうな顔をして立つケンスケ
戦隊メンバーと一緒に回るつもりらしい
ちょっと笑いかけるレイ
すぐ床にテープで描かれたスタートラインに屈みこむ
実行委員が放送部に耳打ち
『はい? …おっと、では準備が整ったようです!
 それではいよいよ開始です! …3! 2! 1! スタート!』
全身で飛び出すレイ
「?! はやっ」
ざわめいて輪を解く見物
慌てて追いかけるスタッフ一同
廊下にむらがる生徒たちが驚いた顔で道を空けていく
階段を駆け上り、最初の教室に飛び込むレイ
「え?! もう来たの?!」
驚きの声には取り合わず、喫茶店のセットを流用した机と椅子の迷路を抜けていく
教室出口でばさっとカーテンが目の前に落ちてくるが、対して動揺もせずに突破
しなやかに廊下をまた駆け抜けていく
茫然と後ろ姿を見送る最初の妨害チーム
実行委員会がストップウォッチを示して、首を振る
『…なんと最初の妨害地点はわずか14秒で陥落! 強い! 強すぎるぞ防衛戦隊!
 女子だからと甘く見てはいけなかったー!』
実況しながら次の地点へショートカットする撮影班
俄然盛り上がる校内
走るレイの前後を歓声とどよめきが一緒に移ろっていく
00656/192016/01/12(火) 00:02:49.52ID:???
次の教室を突破し、息を弾ませて走るレイ
ショートカットを使いながらも必死の面持ちで後を追う撮影班と実行委員、およびケンスケ
三階連絡通路で立ちふさがる管弦楽部チーム
各自重いか大きい楽器を持ってバリケード代わりにする構え
ちょっと迷うレイ
『おーっとこれは難問だ! 何と全て学校楽器だから傷つけるとオケ部の責任問題に!
 セコいぞオケ部チーム! そして楽器を傷つけず通るにはどうすればいいのか!
 さあどうする?!』
さすがに困るレイ
通路幅的にすり抜けるのは難しい
時間がどんどん経っていく
と、管弦楽部員たちの先の人垣をかきわけてコスプレ姿のカヲルが顔を出し、叫ぶ
「レイ! 上!」
驚くレイ
「…どうして、交代、まだ先なのに」
笑うカヲル
「大変そうだから迎えに来たんだよ。当然だろ。…ほら、投げて」
はっとして手のバトンを見るレイ
すぐ頷いて身構える
オケ部員たちが対応する間もなく、楽器群の上を弧を描いて飛ぶ赤いバトン
見事通路の先で受け止めるカヲル
やっと事態を呑み込んで、猛然と文句をつけるオケ部の一人
00667/192016/01/12(火) 00:04:12.44ID:???
「ちょっと待ってくれよ! 今の、突破になってないじゃん! ずるいって! 無効!」
他部員も後について無効を言い立てる
観客サイドからはオケ部セコい!のブーイングの嵐
両者を見比べて慌てる実行委員
一つ息をつくカヲル
バトンを手にオケ部リーダーに歩み寄る
「な、何だよ! 違反は違反だろ、一応! ほら、バトン戻して!」
憮然と答えるカヲル
「ひどいなぁ。二日も公演、手伝ったのに」
「…そうだけど! それとこれとは別だろ」
やや焦るオケ部リーダー
どうでもよさそうに視線を投げるカヲル
「…もしこのまま通してくれたら、来月の地区コンクール予選も手伝うけど?」
固まるオケ部一同
かたずを呑んで見守る実況班と観客
実行委員がそっと訊ねる
「…どうするの? オケ部、ほんとに無効要求します?」
「…有効でいいです」
わっと沸く観衆
じゃあねとレイ一人にバトンを振って走り出すカヲル
スタッフと見物人が追う
一人通路に残されるレイ
アスカを真似て、小さく、ばか、と呟いてみる
00678/192016/01/12(火) 00:05:36.88ID:???
化学準備室(化学部+地学部有志連合)を突破し、折り返して階段を下るカヲル
踊り場で立ち止まる
階段全面に広げられた野球部のネット
あちこち丸められてうず高くなったネットが下までの段を覆っている
『野球部チーム、とにかく時間を稼ぐ手に出たぞ! これはかなり注意して下りないと
 危ない! というか明らかに危険だ! 実行委員が代表に文句をつけている!』
大騒ぎの下の階をよそに周りを一通り見回すカヲル
下までの距離を測り、ちょっと戻って助走をつけるなり一気に跳ぶ
目を剥く野球部員
悲鳴があがる
床に絡まったネットの溜まりの上にきれいに受身を取って着地し、立ち上がるカヲル
悲鳴が主に女子の歓声に変わる
騒ぎが大きくなる前に走り出すカヲル
通り過ぎる一瞬、観衆の中にアスカをトイレに押し込めていた女子たちの何人かを認める
もう忘れたのか無責任に周りと一緒にはしゃいでいる楽しそうな顔
呆れるのも嫌になってさっさと後にするカヲル
走りながらふと気づく
(…しまった。今の、どうせならレイが見てる前でやれば良かった)

カヲルから無言でバトンを受け取るフルフェイスメットの怪人ことフォースブラック
無言で走り、無言で障害を突破し、無言で手を上げて歓声に応える
担当分ラストの教室に入って立ち止まる
お化け屋敷を解体途中のままバリケードにし、段ボールの壁を巡らせて視界を塞いでいる
お化けの恰好で寄ってくる妨害チームの生徒たち
身構えるフォースブラック
00689/192016/01/12(火) 00:06:06.42ID:???
外の廊下、へろへろになって追いついてきたケンスケ
様子がおかしいのに気づく
立会い役のヒカリがここのクラスらしい生徒を詰問している
「事前申請した以上に人数増やしちゃ駄目って、最初に通達したでしょう!
 妨害するだけで通すのが前提っていうのがルールなのよ。よそのクラスの大道具まで
 持ち込んで!」
「いや、だってさ、いろいろ入れた方が盛り上がると思って…」
「だからって何してもいいわけじゃないでしょ!」
ずれた眼鏡を掛けなおすケンスケ
教室に踏み込んでいきそうな勢いのヒカリ
出口側の扉を開けようとして、簡単に開かないようガムテープで何箇所も留めてあるのに気づく
慌てて駆け寄るケンスケ
本気で怒り出すヒカリ
「やりすぎよ! もう駄目、ここで中止にします!」
「委員長、落ち着け。とりあえず中の奴らに知らせて…」
ガタガタッと大きく揺れる扉
無理やり中から開けようとしているらしい
反射的に扉から離れる一同
ガムテープがちぎれ、段ボールやら資材やらを巻き込んで一気に開く
無言で肩で息をしているフォースブラック
廊下の観客がおおーっとどよめく
『何と強行突破! 常人離れした腕力を見せつけた! しかしかなり無理しているようだが、
 ここからさらに走れるのか?!』
007010/192016/01/12(火) 00:06:34.00ID:???
「…大丈夫?!」
駆け寄るヒカリ
と、強引にこじ開けられた引き戸が溝から外れ、ヒカリの上に倒れかかる
一斉に悲鳴
かなり重い音を立てて倒れる教室の扉
水を打ったように静まる一同
続いて教室から出てきたもののどうしていいかわからない撮影班
我に返った見物の男子数名が扉にとびついてどかす
下からヒカリをかばった姿勢のフォースブラックが現れる
大騒ぎになる廊下
『やったーっ! 巻き込まれた実行委員を身を挺して守った! かっこいい、かっこよすぎるぞ
 フォースブラック! お前なら本当に地球を防衛できると思う!』
両肘をついて、恐る恐る顔を上げるヒカリ
がぽりとヘルメットを取るトウジ
「大丈夫か、委員長!」
泣きそうになってその顔を仰ぐヒカリ
「す、鈴原…」
「何や、ワシなら大丈夫やで。
 これかぶっとったお陰やな。コスプレがほんまに役に立つとは思わんかったわ」
ヒカリに手を貸して一緒に立ち上がるトウジ
人垣の中からバスケ部員が指さす
「あーっ! 鈴原!」
一拍おいて『しまった』の顔になるトウジ
ヘルメットをヒカリに押しつけ、床に転がったバトンを掴んで慌てて走り出す
「待てこら! お前、中の人だったのか!」「何度も教室行ったのに黙ってやがって!」
「…中の人などおらんわい!」
駆けていくトウジとバスケ部員数名を追いかける観衆
007211/192016/01/12(火) 00:19:03.97ID:???
>>71 ありがとうございます!
長くて馬鹿馬鹿しい文化祭編、お付き合いいただきありがとうございました
それでは、ラストです
-------

ヒカリに歩み寄るケンスケ
「委員長、本当に大丈夫か? 怪我とかないよな?」
茫然とヘルメットを抱えているヒカリ
「うん…大丈夫…」
「…そっか。あー、じゃあ俺、追っかけるからさ」
既に聞こえてないヒカリ
頬を染めてうつむく
「…守ってもらっちゃった…」
何ともいえない表情をしてやけくそ気味に次の地点に向かうケンスケ

へばる寸前の顔で走るトウジ
ふと気づくと、前方から走ってくるシンジの姿
安堵でへたりこむトウジ
慌てて駆け寄るシンジ
「助かったー…すまんな、シンジ…」
「ちょっと、大丈夫?! …さっきの放送聞いて来たけど、何があったんだよ?!」
床に座り込んでしまうトウジ
「まあ、いろいろな。何でもあらへん。それより、ほんまはまだワシの担当なのに、すまんな…
 けど、ワシの戦いはここまでみたいや…」
「…ほんとに大丈夫?」
危ぶむ表情で覗き込むシンジ
バトンを押しつけられる
「あとはお前らに託す、頼んだで…!」
親指を立てた右手を天井に突き上げ、そのまま大の字に寝転んでしまうトウジ
「え?! ちょっ…トウジ?!」
007312/192016/01/12(火) 00:19:29.30ID:???
三々五々歩いてきて、動かないトウジを囲むバスケ部の面々
シンジに首を振って苦笑いする
「平気平気。張り切りすぎたんだよ」「あとは俺らで面倒見るから」「尋問もあるしな」
尋問のひとことに無言で逃げ出そうとし、バスケ部に捕獲されるトウジ
犯人検挙のようなシーンを面白がって映す撮影班
「えっと…じゃあ、お願いします」
とりあえず立ち上がるシンジ
追いついてくるケンスケ
「おいシンジ、勝手に出てくるなよ! 投票で期待させた意味ないじゃないか」
「ごめん、実況聞いてたら事故みたいなこと言ってたからさ。心配で」
膝に両手ついて息をつくケンスケ
「まあ、今さら仕方ないか…惣流は?」
前方を指して頷くシンジ
「配置について待ってる」
「よし。じゃ、このまま走れ。撮影班と実況がそこで追いつくことになってる」
「わかった」
行きかけてきびすを返し、声をひそめて訊くシンジ
「…けど、最後なのに、僕とアスカが一緒でいいの? リレーにならないんじゃない?」
わかったわかったと手で宙を払うケンスケ
「いいんだよ。お前らが一緒に走るのが最終目的なんだからさ。…あ、言っちまった」
素直に目を見開くシンジ
ばつの悪そうな顔になるケンスケ
シンジが何か言い返す前に、両手で追い立てる
「ああ、くそ、早く行け! 皆を待たせてんだぞ!」
007413/192016/01/12(火) 00:20:00.55ID:???
「あ…うん」
慌てて走り出すシンジ
一度振り返って叫ぶ
「…ありがとう、ケンスケ!」
照れた顔でさっさと行けと手を振るケンスケ

『さあついに最後の走者となりました!
 ラストはもちろん、全校の熱き声援に応えて復活! サードパープルと、男子人気絶頂!
 我らがセカンドレッドだぁー!!』
「うおおお!」「待ってたぞー!」「惣流様ぁあああ」「並んで走るのかコノヤロウ!」
始まった実況および男子主体の大歓声の中、微妙な表情で走ってくるシンジ
すでにコースに出て待っているアスカ
シンジが追いつくのにタイミングを合わせて走り出す
並びながら、揺れるアスカの横顔を覗き込むシンジ
ちらっと視線を返すアスカ
微笑をひらめかす
「この私を待たせるなんて、いい度胸してる。…さっさと行きましょ!」
理屈でなく胸がいっぱいになるシンジ
笑みだけを返し、一緒にスピードを上げる
息が上がるせいだけではなく頬がほてってくる
周りの視線が痛い
でもよく見れば、皆が文化祭のラストを盛り上げようとして声援を向けてくれている
気づくとアスカの顔も赤い
思わず微笑んでしまうシンジ
両足に力がこもる
お互い抜きつ抜かれつする恰好で駆けていく二人
最後の盛り上がりを逃すまいと人の流れがその周りを大きく囲む
007514/192016/01/12(火) 00:20:44.45ID:???
「どぉりゃあああああっ!」
長い出番待ちのストレスを爆発させる勢いで、次々妨害を粉砕していくアスカ
宙に舞う段ボール、すっ飛んでいくホウキ、中身をぶちまけるバケツ
上からかぶせられた暗幕を逆に引っぱり、マントのようにさっとなびかせて投げ捨てる
あっけにとられて見とれる妨害役の生徒たち
アスカのキレのある動作のいちいちに盛り上がる観衆
バトンの運搬役に甘んじるシンジ
「アスカッ、ちょっと…その、やりすぎじゃない?」
「いいの!」
生き生きした表情で言い切るアスカ
「派手な方が、見物のしがいがあるってもんでしょ! それにあんたの障害は、全部私が
 殲滅するって決めてるんだから!」
「え?!」
「嫌なことは、全部、ずっと、私が傍でやっつけてあげるって、言ってるの!」
答えられず、ただ息を弾ませるシンジ
きゃーと歓声を上げる女子たち
「碇君、かわいー!」「惣流ちゃんよく言ったー!」「もう二人で爆発しろー!」
「…もうっ、何言ってるんだよアスカッ!」
「いいでしょ! 本気なんだもの!」
二人を囲んだ観衆が膨れ上がり、いつのまにかかなりの人数の生徒が一緒に走っている
必死で並走しながら撮影を続けるスタッフたち
行き会った先生がぎょっとした表情で道を空ける
弾けるように明るく笑うアスカ
肩をすくめながらも一緒に笑うシンジ
「えっと、あと何だっけ!」
「後は校庭に出るだけ! もうちょっとだ!」
007615/192016/01/12(火) 00:21:29.37ID:???
「了解! このまま行くわよ!」
昇降口に向かう一同
外はもう暗い
青い宵闇の降りた校庭に走り出る二人
後に続く撮影班
そのさらに後ろにたくさんの生徒たち
とにかく走るシンジとアスカ
最後のスパート
刺すような寒気が肺の中で暴れる
黒い影になった樹木や植え込み
グラウンドに出たところに、昼間の模擬店や屋台を片付けた一角が仕切ってある
その横に三角コーンを並べて作られたゴールが見えてくる
アスカを見るシンジ
暗い中でも見返してくるアスカ
同時に手を繋ぐ二人
昇降口に溢れた生徒たちを後ろに、一気にゴール
「でやぁっ!」
三角コーンの一つをアスカが思いきり蹴っ飛ばす
そのとたん、破裂音とともに白い光が宙に弾ける
「?! 何っ」
「アスカッ!」
再び破裂音
その場に座り込んで、固くまぶたをつむっているアスカ
風のざわめきが戻ってくる
はっと目を開く
007716/192016/01/12(火) 00:22:10.37ID:???
アスカに覆いかぶさるようにしてかばっているシンジ
抱きしめている両腕は力強いのに、触れた胸はまだ息を抑えて震えている
思わず抱きつくアスカ
破裂音は続いている
周りがぱあっと明るくなり、すぐに暗く沈み、また明るむ
背後の屋台を振り返る二人
資材置き場の陰からまた光の筋が暗闇に走り、頭上で色とりどりに弾ける
「…花火?」
ぽかんとして呟くアスカ
「…みたいだね」
同じく呆然と答えるシンジ
市販のものらしい花火が、最後にまとめて宙に打ち上げられ、きらめいて散る
うわーっと生徒たちの歓声
『以上をもちまして、今年度文化祭は終了となります! 皆さんお疲れさまでした!
 そして、見事フィナーレを飾ってくれた2-A地球防衛戦隊に、今一度盛大な拍手を
 お願いいたします!』
どよめきが弾けるような拍手に変わって響いてくる
少しそのままぼうっとしている二人
ふと気づいて驚くシンジ
「って、今の、ケンスケ…? いつのまに実況まで」
「あの仕切りたがりが、ラストの締めを外すわけないじゃない」
予想済みという顔でべーっと舌を出すアスカ
マイクがキーンと鳴ってトウジの声になる
『…そして、今回の言いだしっぺにして名監督、2-A相田ケンスケにも拍手を!』
007817/192016/01/12(火) 00:23:01.92ID:???
『えっ? やめろって、俺はいいよ!』
『がたがた言っとらんで前に出んかい!』
笑い声と再びの好意的な拍手の渦
一緒になって噴き出すシンジとアスカ
と、近くの屋台陰から人のシルエットが現れる
振り返って息を呑む二人
花火の残骸と水のバケツを提げたミドリとスミレ
二人の視線に気づいて少しびくっとする
アスカの身体が固くなる
少し迷い、自分から口を開くシンジ
「あの、今の花火、君たちが…? もしかして、ずっとこの寒い中、待っててくれたんだ」
後ろめたげな目になり口を尖らせるミドリ
「…そー、寒かった。死ぬかと思ったもん」
「ミドリ」
低くたしなめるスミレ
すぐにでも立ち去りたそうなミドリを引っぱり、揃ってアスカの方に向き直る
黙り込んでいるアスカ
唇を噛むスミレ
「…惣流、ごめん」
それだけ言ってきっぱりと頭を下げる
しぶしぶそれにならうミドリ
二人が何か答える前に、きびすを返して校舎の方に戻っていく
何となく無言で見送る二人
そっとアスカの顔を覗き込むシンジ
「…大丈夫?」
007918/192016/01/12(火) 00:24:58.71ID:???
はっとしたように視線を戻すアスカ
痛みを思い出したように目を逸らす
「…平気よ。調子いい奴ら、わざわざ謝られても全然嬉しくないのに」
「…そうだよね」
少し黙るシンジ
もう一度穏やかに口を開く
「…だけどさ、そんなこと言わないでよ、アスカ」
「何よ、あいつらの肩を持つわけ」
首を振るシンジ
「そうじゃないけど。…何ていうかさ、…アスカが許しても許さなくても、同じ学校にいる以上、
 これからもしばらく、一緒の場所にいなきゃいけないんだなって思って。それって結構きつい
 ことかもしれない。それに、謝りに来てくれただけいいじゃない。あの子たちは、アスカから
 逃げなかったんだからさ」
「…ふーん」
シンジを見上げるアスカ
そのまましばらくじっと見つめてくる
うろたえるシンジ
隙を射抜くように告げるアスカ
「あんたなら?」
瞬きするシンジ
「え」
「あんたなら、逃げる? 私を傷つけたとき。…私から」
眩しいほどまっすぐにシンジを見据えるアスカ
小さく息を吸い込むシンジ
ゆっくりとかぶりを振る
見つめるアスカの頬をそっと両手で包む
「…逃げない。…誓うよ。絶対に、アスカをおいて逃げたりしない」
みるみるアスカの表情がほどけて、あどけないのに大人びた、不思議な笑顔になる
008019/19 ありがとうございました2016/01/12(火) 00:26:06.68ID:???
「…ばか」
もう一度思いきり抱きつくアスカ
倒されそうになって危うく受け止めるシンジ
強く抱きしめる
「…アスカ、人前ではこういうことしないって言ってなかったっけ?」
「馬ー鹿、いいの、今日は。文化祭だもの、特例よ」
アスカの笑いを含んだ甘い声
花火の名残の煙も薄れ、濃さを増す宵闇
生徒たちがゆっくり各教室に戻っていくざわめき
急に戻ってきた寒さに気づいて身震いするシンジ
腕の中でアスカが身じろぎし、胸につけた頭をすり寄せるようにしてくる
黙ってじっとしている二人
明るい校舎の窓の列を見つめているシンジ
(そうだ、お祭りは今日で最後。
 ちょっと行き過ぎても許される特別な時間は、これで終わり。
 明日からはまたいつもの学校だ。嫌なことや困ることは、また幾らでも起こるかも
 しれないけど…そのときは、いつでも思い出せばいいんだ。近くで一緒に歩いて
 くれてる人たちのことを。
 隣にいてくれる、アスカのことを)
アスカの髪の匂い
細くて柔らかな身体をそっと抱きしめるシンジ
小さく笑い声を洩らすアスカ
「…私の、ばかシンジ」
くぐもって聞こえる優しい呟き
深く息を吸い込むシンジ
片づけで賑やかな校舎の方から近づいてくる人影
二人のコートを持って迎えに来てくれたらしいカヲルとレイのシルエット
顔を上げて軽く手を振るシンジ
頭上に瞬き始める星
0081802016/01/12(火) 00:28:13.78ID:???
レス忘れ orz

>>69さんも支援してくださってたんですね! お陰で完走できました、ありがとうございました!
0085名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/01/15(金) 23:45:45.73ID:qq5DqLts
やっとるかねー?
0086名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/01/17(日) 21:04:47.62ID:???
こんばんは、通りすがりです

1さんやポエム氏、265氏はお元気でしょうか? 最近お見かけしないので心配です
スレ住民の皆様、時節柄体調には十分お気をつけくださいませ

というわけで、寒いというだけの小ネタです
-------

寒気の厳しい夕刻
はやばやとともされた街灯や店の明かり
急ぎ足で行き交う人々
頭上には曇り空が重く垂れ込めている
「…さむーい」
マフラーとコートのフードに顎までうずめたアスカ
傍目から見てもわかる不機嫌顔
隣で白い息をついて笑うシンジ
「アスカ、それ今日十回以上は言ってるよ」
「うるっさいわねー。寒いもんは寒いの。
 ま、雪と湿気がないだけ東京はましね。マリがニイガタとかキョウトに
 住んでなくて助かったわ。…にしてもさむいわねー」
手袋の上から両手に息を吹きかけるシンジ
「今年はずっと暖かかったからね。身体がついていかないんだよ、きっと」
「何よ、自分だけ平気そうな顔して」
「そんなことないってば。僕だって寒いよ」
困ったように笑うシンジ
そのまま雪のちらつきそうな空を仰ぐ
その横顔をちょっと睨むようにするアスカ
今日はなかなかくっついていくきっかけが取れない
近づいても冷気とコートの厚みに隔てられた感じがして、何となく気に入らない
くすんと鼻を鳴らすアスカ
「なんか、ほんとに変。…風邪引いたかな」
00872/42016/01/17(日) 21:05:31.84ID:???
「…え」
慌てて覗き込むシンジ
思ったより間近まで踏み込んでしまって内心うろたえる
精一杯さりげなく身を引く
「…、大丈夫? 今日は早く帰ろう。ちゃんと、マリさん家まで送ってくから」
「…そうね」
動揺するでもなく素直に頷くアスカ
はぁーと息を吐いてまたマフラーに頬を埋める
自分だけ焦ったようなのが気恥ずかしくて、こっそり溜息をつくシンジ
傍らを歩くアスカをそっと見る
よほど寒いのか、すっぽり手袋に覆われ、さらにポケットに入ったままのアスカの手
今日は何となく繋ごうと言い出せないまま時間だけ過ぎてしまった
一応、冷たいのを我慢してずっと外に出しているシンジの両手
空しく握っては開きを繰り返してみる
アスカが小さく首をすくめる
「…寒い。すごく」
「…うん」
頷くしかできない自分が嫌になるシンジ
かといって肩を抱いたり引き寄せたりするのは慣れ慣れしそうで気後れする
「…やっぱり、早く帰ろう」
「…そう、よね」
もう一度隙を見てシンジを睨むアスカ
シンジももっと近づきたくて、でも遠慮しているようなのがもどかしい
承知の上でこっちから言い出せない自分はもっとずっと腹立たしい
ポケットの中で両手を握りしめる
うつむいて、それでもシンジの方に目をやってしまう
ふと気づく
00883/42016/01/17(日) 21:06:15.46ID:???
横を歩くシンジを見上げるアスカ
視線にたじろいでしまうシンジ
「な、何」
「…ねえ、あんたの手」
不思議そうに目をみはっているアスカの白い顔
さっきの手を動かしていたしぐさを見られたのかとぎょっとするシンジ
気持ち悪いと思われたのかもしれない
が、アスカの顔に嫌悪感はない
「寒いなら、ポケット使えばいいのに。ほら、私みたいに」
ポケットに突っ込んだままの両手をぶらぶら動かしてみせるアスカ
「…あ、いや、大丈夫だよ」
「でも、そのまんまじゃ冷たいでしょ? まあ両手は使えなくなるけど、それは仕方…」
途中で声を呑み込む
息をつめて待つしかないシンジ
数回瞬きするアスカ
「…そっか」
ぽんと片手をポケットから出す
シンジの手を掴む
ちょっと微笑む
「これを待ってたのね、ずうっと。でしょ?」
とっさに何も言えずに、ただアスカを見つめるシンジ
さっきまでの気持ちを全部読まれたようで頬が熱くなる
街の明かりを映してアスカの目が星を包んだようにきらきらしている
そのままを口にしてしまうシンジ
「…綺麗だ」
言ってからはっとなる
00894/42016/01/17(日) 21:07:35.22ID:???
「え」
今度はアスカが息を呑む
一瞬ののち、怒ったようにぶつかってくる
危うく抱きとめるシンジ
そのままその場でぎゅっと腕に力をこめる
強く身体を押しつけてくるアスカ
周りを過ぎる人波
やめなければと思いながらもアスカを離せないシンジ
「…ごめん」
自分の腕なのに言うことをきかない
それとも、頭や心よりもずっとまっすぐに、シンジ自身の望みを知っている
「…ばーか」
腕の中でアスカが居心地よさそうに身動きする
「謝るようなことしてないでしょ。…最初から、もっと素直になりなさいよね」
私もだけど、と付け加えた声は小さくくぐもっている
ただ微笑むシンジ
「…そうだね。ごめん、アスカ」
「もう。ほんっと、馬鹿シンジなんだから」
「うん」
身体を離し、赤くなったシンジの顔を覗き込むようにして悪戯っぽく笑うアスカ
思わずその額に額を軽く触れさせるシンジ
くすぐったそうにするアスカ
もう言葉も要らない
改めて手を繋ぎ、並んで歩き出す二人
暮れていく街
0093名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/01/20(水) 01:00:02.27ID:???
あけましておめでとうございます。
気がついたら年が明けてスレが変わってたのでサクっと
ポエったシンジくんを投下していきたいと思います。



「脳内ポエムシンジ君〜パターン顔面蒼白・全力正座説得編〜」
前編
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/eva/1437394781/399-405
中編
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/eva/1437394781/548-553

前回までのあらすじ。
 親元に呼び出された我らがシンジくんとアスカ。
 そのナチュラルな距離にアスカのご母堂、キョウコさんの目が光る。いつものような態度ではお母さんが黙っちゃいませんな。
 そもそも関係性を明確にしてないという致命的欠陥を抱え 
 果たして清く正しい変則的男女交際の許可は下りるのか。

 
 これは多分完結編だと思うから…、はじまります。
 
 10レス程度あるので、投稿制限に引っかかったら途中までで
0094M2016/01/20(水) 01:00:45.10ID:???
初めて出会った時の感想は「面倒そうな女の子」だった。
あの時から変わっていない。口に出してはいない。気づかれているかもしれないけど。
それはそれでかまわない。僕は満面の笑顔で彼女にそう告げる気でいる。


緊張感が僕を満たしていた。せっかく入れてもらった紅茶も味が半分飛ぶくらいに。
湯気の向こうで、キョウコさんが微笑んでいる。表情を変えないというのも恐いものだ。
僕達はリビングにあるテーブルで、猫足の椅子に座り、向かい合わせにしていた。

遅い朝食という時間でもあるので、ソーセージの乗ったパンなどの軽食が出てきた。
えらくマスタードが多い気がするのだけど気のせいだろうか。
アスカは懐かしそうにその味を頬張っている。ああ、こんな感じの朝食もいいな。
対してキョウコさんはあまり手をつけず、僕らの方を眺めているだけである。
僕はいつもの癖を出さないように気をつけているというのに。

アスカが食事の途中で手を伸ばしてきた。
時間が固まる。冷たいものを感じる。アスカも固まっている。
僕の部屋ではよくある仕草。手づかみで食べた時に僕に手を拭くものを要求する仕草。
キョウコさんの笑顔が恐かった。アスカの手が、しおれた植物のように縮んでいく。
僕はその指先を、そっとナプキンで包み、緩やかに撫でる。

キョウコさんの眉が跳ねるのが見えたような気がしたが、僕は固まったままのアスカの指先を
そっとナプキンで拭い、そのまま僕の片手に持っていた紅茶を飲み干した。

「…ゴメンナサイね、無作法な娘で」
「いえ」

こういう時は笑顔だったほうが恐いというのが、僕の結論だ。僕も同じような表情をしてる。
僕の脳裏の中に焼きついている、ある女性のような笑顔で。
アスカが指先を見つめながら固まっている。そういや、直接拭いたのはコレが初めてか。
0095N2016/01/20(水) 01:01:27.62ID:???
「ずいぶんと仲がよくて驚いたわ、シンジくん」
食後の後に、出し抜けにそんなことをキョウコさんが語った。食器は片付けられている。
殊勝なことに洗い物を申し出たアスカは、台所のほうに皿を持っていった。
向かい合えば剥き出しになるかと思っていたが、柔らかい言葉だった。
「わざわざ来てくれてありがとう、一人娘だから色々と心配で、過保護かと思うかもしれないけど」
そうやって左手で自分の頬をなでる。どの指にも指輪は、なかった。

「そうですね、アスカ、さんは」
「さんづけで読んでるの?」
「いえ…」
「遠慮しないで。いい機会だと思ってるの。というか、本当に来てこっちの方がびっくりしてたし」
…。意図が読めない。キョウコさんは少し姿勢を崩し、足を組んだ。
黒ストッキングの脚線美の膝に、掌を置くようにして。

「あの子、いい子なの。私にとって」
睫が少し下がっただけ、それだけのハズなのに心臓に悪い。女性の機微には、やっぱりまだ慣れない。
「私の可愛いアスカ。自慢の娘。その愛情を注いで、あの子もそれに応えてきてくれた。
だからかしらね、外面(そとづら)だけはいい子に育っちゃって」

まあ、明城に入学した当初は猫被ってたからなアスカ。
それは高級品にかかった薄っぺらいビニールカバーのように彼女を覆っていた。
半透明のそれが、僕には気に入らなかった。それはどうやら、キョウコさんも同じようで。
「…ねえ、どうやってシンジ君は、あの子の化けの皮をはがしたのかしら。私はそれがとても気になってるの」

見えない銃口を突きつけているかのような圧迫感。上等だ。いつかはあるんだこんな日が。
0096O2016/01/20(水) 01:01:54.16ID:???
「別に、大したことは。…そうですね、僕視点ですけど、ざっと今までをお話します」
疚しいことは何もない、してない、僕はただ、アスカに普通に接しただけだ。

明城学園の入学当初からアスカは耳目を集めていた。容姿と能力が華々しい彼女は、他人
との距離の取り方も心得ていた。他人と深く関わらないように、広く浅く。
僕も似たようなものだが、僕は先んじて相田ケンスケという趣味に生きる男と友情を育んでいた。
 進学校にも関わらず勉学そっちのけで趣味に没頭する彼に、色々と考えさせるものが多かったが、不思議と気が会った。
 そのうち、彼と僕には共通の認識が生まれていた。
 ケンスケは語っている。被写体としてのアスカは確かに素晴らしいが、何か違う、と。
 要するに、アスカの猫被りは彼女の輝きを損なっているだけという意見が一致した。
 で。
 僕とケンスケはアスカを構い倒した。

 ケンスケは「お前がこういう事にノッてくれるやつだとは思わなかった」と言っていた。
 カメラ馬鹿の相田と、鉄面皮の碇と当初は呼ばれたものだが、事あるごとにアスカの仮面をはがすべく、色々とアホなことをしたものだ。

 棒読みでアスカを賛美したり、そこかしこに皮肉を言ってみたり、そしたら鉄拳が飛んできた。堪忍袋の限界だとアスカは言っていた。
 『何よあんたら、私のこと馬鹿にしてんの!?』
 胸倉を掴まれながら、苛立ちを噴出している素のアスカを見て、僕は微笑んでいたらしい。

 『シンジ、マジで殺意向けてきて僅かながらにビビったので俺はもう無理。後頼む。』

 と、放課後のアスカの2人呼び出しを、メール一本で逃げた彼の友情には何も言うまい。
0097P2016/01/20(水) 01:02:39.66ID:???
茜色に染まった夕暮れの校舎裏で、僕とアスカは対峙した。
 のこのこと出向いた僕に対して、アスカは初めから眉を斜めにし、怒りを隠さなかった。
 ケンスケはいなかったが、ある意味僕にとっては好都合だった。
 顔を見るなり罵声を連ねる彼女に対して、僕はただ一言。
 『そういうのって、疲れない?』

  彼女は虚をつかれ、しばし呆然としていたように思う。視線が遠くなっていくのを感じ、
僕は言葉を続けた。どうして、何故、誰のために、何で。問いかけを羅列した。
 大人や他人の顔色を伺わなければならないほど、彼女は弱い存在なのか。
 そしてありのままの姿であることを、許されない存在なのか。
 特別と言えば聴こえがいいが、僕にとってはそうではない。

人の顔色を伺い演技をするのも、人から孤立するために距離を取るのも。
 どちらも寂しくて、心が冷たくなるだけで、痛くはないけど、暖かくはならない。
 一時期の僕がそうだった。両親ととある理由で疎遠になりかけた時の僕が。

 君もまた、普通の少女の一人に過ぎないんだ。
 ほっといたら遠くへ行ってしまいそうな彼女を、僕はそうして釘を刺し、留めた。
 我ながら、ひどい男だ。

 まあ、その後に酷い罵倒の連打を耳が痛くなるまで聞いた。
 今にして思えば、あれは破れた殻を捨てていくような、ストレスの発露だったのだろう。

 そして後日、アスカは今のように解き放たれた。
 ケンスケ曰く『いい表情をするようになって写真の売り上げが伸びたぜ!』と。
 僕は彼に手厚い友情を込めた関節技をキメた後、ただ満足していた。
 で。
0098Q2016/01/20(水) 01:03:12.25ID:???
「…その後からなんですよ。今度はアスカの方から、僕に構ってくるようになって」
 
 彼女の行動力を侮っていたわけじゃないが、それはあっという間だった。
 曰く『あんたのせいで私の評判が地に落ちた。覚悟しなさい』だ、そうで。
 素を解放した彼女の評判は一変した。しつこい他方面の勧誘を文字通り一蹴し、
取り扱い注意品目として教師達に見られるようになった。
しかし生き生きとしたアスカはむしろクラスにより馴染んだような気がするし、
彼女が起こす騒動に何故か巻き込まれる僕は、正直に退屈しなかった。

『シンジ…お前も表情柔らかくなったんじゃないか』
ケンスケ曰く、入学時の僕はトゲが多少あって、とっつきにくい部分もあったそうだ。
まあ僕も、外面を気にする風潮は、多少はあったし。
 でもまさか、ある日いきなり、お隣に引っ越してくるとは思っても見なかったけど。
 その後に僕の私生活が徐々に侵食されていくことを説明していく段になって。

 キョウコさんが爆笑していた。口元を押さえても漏れる声で、案外と笑い上戸らしい。
 
 「ちょっとあんた!ママに何吹き込んだのよ!」
 珍しいエプロン姿のアスカが台所からダッシュしてきていた。台所で走るのは危険だと思うなぁ。
 「ママは一度ツボに入ると中々笑いが止まらないの、マジで何言ったの!?」
 未だに肩を震わせて笑うキョウコさんの揺れる背中に、泡が少しついた手でアスカが触れる。
 キョウコさんが顔を上げる。大丈夫大丈夫と、アスカの手に触れながら。
 「あらアスカ、丁度いい所に来たわね」
 その言葉にアスカがギョっとするが、キョウコさんはそのままアスカを引き寄せ、胸に抱いた。
 「あなたがとても楽しそうに過ごしている理由をシンジ君から教えてもらっただけよ。安心して」
 
0099R2016/01/20(水) 01:03:42.27ID:???
「え?え、どういうことなの…」
 「ああ、私の可愛いアスカ。とてもとても可愛い私の天使」
 いまだ混乱の渦中にあるアスカに、柔らかい発音の言葉が囁かれていく。
 「遠い学校に行くと言った時からママはとてもとても心配だったけど、彼に出会うためだったのね」
 「え?」
 「ふふ」
 目を細めながらアスカの髪をキョウコさんが撫でている。アスカは、いつもより幼く見えた。

 「えーっと、洗い物まだ残ってるんだったら、僕がやってくるよ」
 僕はそう言って、アスカと入れ違いに台所の方面に向かっていく。
 半分くらい残っていた皿と、手付かずの鍋。他人のお宅の台所というのは緊張するな。
 リビングの方から、戸惑いが混じったようなアスカの声と、楽しげなキョウコさんの声。
 距離が離れて内容は聞き取れないそれが、自然と耳に入る。
 僕は、指先に触れる温水の冷感に少し驚いていた。
 火照った熱が指先から出て行く。耳も、熱い。
あんなことを口走らなければ良かった。話の流れとは言え、何で僕は言ったんだ。
深呼吸をする。鼓動が今になって、落ち着かない。
あの言葉が自然と口から零れ落ちた時、僕はどんな表情をしていたんだろう。


 『どうしてそこまで構ったかってのは、んー…
僕はたぶん、彼女の、ありのままの笑顔が見たかったんです』
 

頭の中が茹であがりそうな熱を放ちながら、僕は無心になるべく、入念に機械的に洗い物を片付けた。
0100202016/01/20(水) 01:04:44.04ID:???
リビングに再び行った時には、にこにこと座っているキョウコさん。
その正面の席で、バツの悪い表情を浮かべたアスカがいた。
僕が視線を向けていることを察すると、アスカはぷいっと顔を背けた。
いたたまれない気になりそうになると、キョウコさんがまたクスっと微笑んでいる。
「大丈夫よシンジくん。洗い物をありがとう、お客様なのにね」
「…いえ」
着席を促される。僕はアスカの隣の席に、座っていいのだろうか。
一瞬の逡巡の際に、上着の裾を引っ張られて座らされた。無作法だよアスカ。
「もー、本当に無作法よアスカ」
「い、いいのよママ、シンジなんだから。シンジだからいいのっ」
どういう理由だよもう。でも、その態度に僕は安心してしまう。
「あらあら」
 親御さんの前だからなのか、何故か僕も死ぬほど恥ずかしい。
 向こうを向いたままのアスカは僕を見ない。僕はキョウコさんにとりあえず向き直る。
 「もー、今からちょっと面白い写真を見せてあげようかと思ってたのに」
 キョウコさんがニコニコとして、いつの間にか、一冊の本を手に取っていた。
 色あせかけた古いアルバム。日付は遠く、僕達の生まれる前。
 「何よママ、てっきりアタシの昔の写真でも持ってきたのかと…」
 「ふふ、シンジくんを少し驚かせようかと思って」

 嫌な予感がする。慣れた様子のウインクの仕草で、ぱらりとページを開く。
 アナログ特有の色あせ加減を持ったカラー写真。その一枚。
 その一枚、集合写真。その面影のいくつかに、強烈な見覚えを覚えた。

 「…あれ、これママ?こっちの人…え、なんかシンジに…」

 僕は頭を抱えた。そして、キョウコさんが僕に対して向けていた眼差しの理由を。
 写真の中に、僕にとってこの世界で敵わない女性が微笑んでいる。
 写真の端っこに、僕にとって、面影を追い求めている男性がそっぽを向いている。
 その2人の面影を足して2で割ると、丁度僕になる。
 「大学のころ、ちょっとね。これも運命のイタズラなのかしら」
 キョウコさんはまた一つウインクをした。僕はこの女性(ひと)にも敵いそうにもない。
0102212016/01/20(水) 01:06:43.38ID:???
要するに、アスカもキョウコさんも、一度隙を見せてはいけない相手なのだ。
 緊張で満たされていた午前中とは打って変わって、僕とアスカの毎日を楽しそうに
聞き出していくキョウコさんの表情は母親と話好きの女性のそれだった。

 僕は学校からプライベートから根掘り葉掘り聞かされて、というかアスカに内緒に
していたはずのことも多く聞き出されていった。アスカはアスカで、自分の一番尊敬する
キョウコさんとその昔の友人に僕の両親がいたことに驚きながらも、妙に納得していた。

僕が常日頃から、両親は普通の人だと言っているのを明確に否定できて喜ばしいようだ。
でも僕にとって母さんは滅多に怒らないけど恐い人だし、父さんは滅多に笑わないけど
家族には優しい人なんだ。数年前に息子を放って『何かドイツ辺りにいる秘密結社が世界
を滅ぼしそうだからおしおきしてくるわね』と笑顔で妄言を吐いてそのまま本当に何年も
帰ってこないけど、時々は預け先の親戚宅に連絡もくれたし、高校進学も反対はしてたけど
最後には賛成してくれたし。
ということを苦々しくも言うと、キョウコさんは引きつった笑顔で
「あなたも大変ねぇ。彼女は…まあ、有言実行を地で行くから、ちゃんと帰ってくるわよ」
「え?本当にシンジのママ、何物なの。エージェント?ジェームスボンド?」
知らないよ本当に。どうせ昔の研究に関するものでもやってるんじゃないかな。
何を研究していたかは知らないし、父さんとは出国前に色々と話せて、だから旅立てたし。

『自分の足で地に立って生きろ。お前は、そうできるように育ててきた』

僕は拳を握る。この掌の中に、父と母の暖かい想いが残っている。だから、いいんだ。

「ふうん。帰国したら、大人びたあなたを見て、あなたのママは驚くかも」
僕は苦笑した。大人になんてまだ成れてもいない。夢を見つけても、どう生きていくかも。
ただ、今の僕は。僕はアスカの横顔を少しだけ見つめて、そのままキョウコさんに向く。
「あの、キョウコさん」
「なあにシンジくん。そんな強い瞳を向けないで。あなたの言いたい事、大体分かるから」
強い想いをぶつけられる。母親として、一人の女性として、想いの嵩が、僕にずしりと。
0103222016/01/20(水) 01:07:32.68ID:???
僕が気圧されかけ、下っ腹辺りに気を込めて言い返そうとした時だった。
隣でアスカがぴくっと肩を揺らして、僕の裾を掴み、そこから掌を、僕の手の上に乗せた。
「マ、ママ!あの、私ね…あの学校で…ちゃんとやれてるから。勉強だって、スポーツだ
って誰にも負けないでいるの、楽しいの。クラスメイトとか、先輩とか、街とか、あの。
…だから、こっちに帰ってくるのは、少なくなったけど、それはママが嫌いになったわけ
じゃなくて…その」

指先って柔らかいなあ。たどたどしい声のアスカというのも意外というもので。
僕はもう先ほどからの攻撃で脳みそが沸騰してしまってもう何がなんだから嗚呼。
ぐっとアスカが僕の身を引っ張った。んで、僕の片腕に抱きつくくらいに密着して。
「シンジは頼りないから、あたしが付いていないとダメなの!」
と、言い放った。え?
「こいつったら一人でいるとずっと一人でいるし、若者っぽいアグレッシブさもないし、
気が付いたらカップラメーンで済まそうとするからご飯食べに行って栄養バランスを考えさせたし!」
いやそれって君の事だよね?女の子の手料理に夢を見てもいいんじゃないかな?
というかテンパって何を言い出すんだよ。僕は反論を脳みそが出力しないやわらかい
というか、視界が ぐるぐるとして ああ 揺れるあすかの髪がきらきらして

「あらあら」

そんなキョウコさんの声が遠のいていく。前日からの寝不足だった僕の意識は左側に感じる
アスカの柔らかな感触に沸騰し続け、脳みそのシンタックスエラーによって限界を迎え
ぷつん、と途切れた。
0104232016/01/20(水) 01:08:19.22ID:???
目が覚めた時は夕暮れだった。ソファに横たわりタオルケットがかかっている。
照明が抑えられたリビングの中に、僕の視線はまどろみながら誰かを探していた。
茜色に染まった空に、星が少しずつ輝き始めている。
庭先に2人が座っていた。僕は半身を起こさずにその声を聞いていた。

「ねえ、ママ。…私、変わったのかな」
呟くような、甘やかな彼女の声。穏やかな声がもう一つ、それに応えた。
「ええ、可愛い私のアスカ。あなたはもっと魅力的になったのよ」
「え…いやそうじゃなくて」
「違わないわ。あなたのまま、一つだけ進んだの。変わったわけじゃない。
新しい場所に行って、押し潰されることも歪むこともなく、狭苦しい場所にいるわけでもなく。
 シンジくんが、あなたをあなたのまま、こうして連れて帰ってきてくれたわ。
 少し悔しいけど、それよりも遥かに嬉しいことよ」
 「…ママ」
 「私は安心して、ここで待っていられる。あなたの変わらない笑顔が、魅力的になっていくのを、楽しみに待っていられる。
 ずっと、心は傍にいるわ。寂しくなったら、いつでも帰ってらっしゃい」
 「うん、ママ…」

 寄り添う二つの後姿を盗み見る。…僕の中で、重たいものが解けていく。
 その緊張感が、僕をもう一度まどろみの中に落としていく。

 「あ、でもシンジくん。自分から攻めないと上手いこと主導権握れなさそうね」
 「そうなのよ!アイツったらどうやっても反応が鈍くてアッタマきちゃうの!」

 …不穏な会話が聞こえたけど、僕は聞こえないフリをしよと思う。
…密室とか寝込みとかスマホに追跡アプリとか何か嫌なキーワードなど僕は聞いていない。
聞いていない…。…荷物には注意しておこう。うん、いや、何となく。
0105242016/01/20(水) 01:08:58.56ID:???
 2日間、早かったな。僕は再び赤いカマロの後ろの席で、そんな事を考えていた。
 結局あの後、キョウコさんは僕とアスカをいつもにこにこしながら眺めており、時折に
飾ってある写真の由来を語り、その都度アスカが話を逸らそうと躍起になっていた。
 僕はキョウコさんとメールアドレスを交換し、僕がケンスケから押収したアスカフォルダの
一部を解放する代わりに、惣流家秘伝レシピを教えてもらうという取引を結んだ。
 ありがとうケンスケ。君が売ろうとしていた写真は僕にとって有意義なものになったよ。
 友情って素晴らしいなあと棒読みを心の中で呟きながら、歌謡曲を聴きながら公道を行く
 キョウコさんの後姿を見ている。アスカは今日も、僕の隣に座っている。
 あの家の中にいるアスカは自然で、僕はその中で異物にならないか心配だったけど。
 心の中に生まれたその気持ちに驚きながらも、今この時間に満たされる。
 
 そんな思考が時間を進めていくかのように、駅のロータリーについた。
 帰りの新幹線の時間までは余裕があったけど、キョウコさんはからっとしていた。
 また、映画のポスターのようなハグをアスカに、ついでに僕にもして。
 頬にキスをされた時は心臓が跳ねたけど。悪戯な笑顔で、そのまま紅いカマロをかっとばしていった。

 僕はアスカに足を踏んづけられ、耳を引っ張られてそのまま帰路に着いた。
 よく知っている街へ。車窓で途中にまたあの遺跡を見たけど、僕の心はざわめかなかった。
帰りの新幹線の車内で再び眠る彼女の横顔と繋いだ手の暖かさが、僕の心を占めていた。

寒い季節が来るね。僕と君が出会ったあの季節だ。僕はあの寒空の下で。
掌の中で握っていた心を、君に触れさせて、そのまま離れられなくなっている。
僕の隣に、いつの日も太陽のような暖かさがあって、その傍でまどろんでいたい。
いつか、僕の母と父にも、アスカを会わせる日がくるのかな。
その時、僕は彼女のことをどのように、どれほどに、何て説明したもんかな。
                            
                         おしまい。
0106名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/01/20(水) 10:23:36.54ID:???
>>105
ポエム氏だーーー!!!
ずっしり読み応えのある長編お疲れさまです!大満足の完結篇でした!!
ユイさんって何者…w
ポエム氏の書くシンジ君は何というか、すごく貞本版シンジ君なんだなと強く感じられて好きです
芯に確かなものがあって、人当たりはいいけど冷めていて、そのくせ内心は案外柔らかいというか
嫌いなものは嫌い、逆に好きなものには好きと正直にはっきり言いそうなところ等々
随所に見られる男の子らしいところも好感度高し!
アスカも貞本版の彼女らしさがしっかり踏まえられていて、時々見える少女らしさが可愛すぎです
これからもきらきらしたアスカとの日々が続いていくことを願います…
(いろいろと)がんばれ我らのシンジ君!!
本当に乙でした!
一方的に長文語りすいません、次回も超待ってます! ネタ切れの通りすがりでした
01091/82016/01/22(金) 21:59:24.76ID:???
こんばんは通りすがりです
書いてたら長くなっちゃいましたが、何でもない日常ネタ一本行きますね

--------
放課後の教室
ふっと目を覚ますシンジ
机に突っ伏して寝てしまっていたらしい
気恥ずかしさに自嘲しながら頭を起こすと、目の前にアスカの呆れ顔
こちらをじっと見つめている
「…うわっ」
全身で動揺するシンジ
ガタついた椅子が背後の机にぶつかる
「んー…?」
後ろの席で同じく居眠りしていたカヲルがおっくうそうに顔を上げる
ぼんやりした目で不思議そうにシンジとアスカを見比べる
「…何?」
慌てるシンジ
案の定アスカの両眉が吊りあがる
「何じゃないでしょうが! 何十分寝てる気よ」
「ごッごめん」
あたふたと壁の時計に目をやるシンジ
いつから眠っていたか全然記憶がない
尖った視線をよこすアスカにとりあえず平謝り
「ごめん、もしかして待たせちゃってた…よね? ずっと、ここで?」
「別にあんたなんか待ってない」
明らかに不機嫌な声で吐き出すアスカ
01102/82016/01/22(金) 22:00:07.96ID:???
首を縮めるシンジ
きっぱり目をそむけたアスカの横顔をただ見守る
「レイが図書委員の当番終わるまで、ここで荷物見てるだけ。もしレイが戻ってくるのが
 早ければ、あんたなんか放っといて二人で帰るつもりだったわよ」
「そんな…って、そうだよな…」
正直に情けない表情になるシンジ
気づいてやや眉を緩めるアスカ
しばらくシンジの顔を眺め、急に悪戯っぽい目になってぐっと身を寄せる
うろたえるシンジに囁く
「ねえ、あんたって…結構、かわいいのね。寝顔」
「えッ」
身構える余裕もなく素直に慌てるシンジ
「って、その、やっぱりずっと見てたの?! もしかして?!」
「そりゃそうよ」
あっさり身体を離すアスカ
重たい冬生地のスカートをひるがえして脚を組む
じろっとシンジを一瞥
「退屈だったもの。誰かさんたちのせいで」
「う…ごめん」
言い返せなくなるシンジ
援護を求めるべく振り返って、呆れる
机に両肘ついてまたうとうとしているカヲル
「…ちょっと、渚! いつまで寝てるんだよ」
照れ隠しついでに揺り起こそうとするシンジ
すかさずアスカの一言が刺さる
「あんたがそれ言うわけ?」
「…う」
01113/82016/01/22(金) 22:00:41.83ID:???
叱られたように小さくなるシンジ
自分のみっともなさに溜息
半睡状態でシンジの手をどけ、再び顔を横向きにうつぶせて寝息を立て始めるカヲル
もう一度大きく溜息をつくシンジ
「ごめん、アスカ。全然気がつかなくて。…授業終わるまでは、何とか起きてたと思うんだけど」
「別にいいわよ、そんなの。ほんとにここで待ってただけだし」
ひらひら手を振るアスカ
もうその顔はあっけらかんとしている
やっと少し笑うシンジ
満足げな微笑でそれを嘉納してやるアスカ
「にしてもどうしたのよ、二人揃って。夜更かしでもしたの?」
「…うん、まあ」
決まり悪いのを隠さないシンジ
「笑っちゃうと思うけど、先週のセンター試験の問題、試しに解いてみてたんだ。渚が
 予備校のHPかどっかからプリントアウトしてきてさ。何点くらいまで行けるか、ちゃんと
 科目ごとに時間計って、採点もして。…そしたら案外白熱しちゃって」
再び呆れ顔になるアスカ
「まさか、全科目やったんじゃないでしょうね」
「全部じゃないけど…まあ、今の時点で手を出せるところは、大体」
後ろめたげに視線を逃がすシンジ
思いきり溜息ついてみせるアスカ
「馬…っ鹿じゃないの? あんたたちって」
「…おっしゃる通り」
更に小さくなるシンジ
脚を解いて身を乗り出し、シンジの机に両肘ついてその顔を覗き込むアスカ
01124/82016/01/22(金) 22:01:26.91ID:???
「それでこの私やレイを待たせたわけ? そんな、どうでもいいことに二人して熱中しちゃって」
ばつの悪さに身じろぎするシンジ
それでもちょっと見返す
「…どうでも良くはないだろ。来年はたぶん、僕らも受けることになるんだから」
「だから何よ? あーもう、そこがわかんないのよね」
かぶさってきた髪の房をぱっと払うアスカ
口を結んでそのしぐさを見つめているシンジ
「試験ってのは、基本、今まで習ってきたことしか出ないんだから。普通に授業受けてれば
 何も困ることなんかないのに、ほんと日本人ってベンキョーが大好きよね」
「…好きってわけじゃないと思うけど」
苦笑いになるシンジ
本気で訳がわからないという顔で見つめ返すアスカ
「好きじゃない。試験対策とか夏期講習とか、どこの塾がいいとか予備校の模試がとか、
 いちいち大騒ぎして馬鹿みたい。あーあ、前から薄々は思ってたけど、あんたも同類とはね。
 別に自分の能力を高めるのが悪いとは言わないわ。でも、それしかないって悲壮な顔されると、
 もっと視野を広げて、ちょっとは自分に自信つけたら?って言いたくなるのよね」
「…自分に自信、か」
自分の手に視線を落としてしまうシンジ
「何よ」
暗く自嘲するような表情を見とがめるアスカ
机の脇から鞄を取り上げ、教科書やノートをしまい始めるシンジ
「別に、今のあんたがそうだなんて言ってないでしょ」
「…そう思ったわけじゃないよ。ただ、中学の頃の僕はそれに近かったなって、思い出してさ」
手を動かしながら答えるシンジ
じっと見ているアスカ
01135/82016/01/22(金) 22:02:10.48ID:???
寒々しいようなシンジの横顔
おとなしくて、意固地でも頑なでもないのに、どこかひどく投げやりで他人を突き放す目
昔のシンジの顔なのかもしれないと一人見つめるアスカ
「僕には特に才能とかとりえはなかったし、あそこを出て一人になるには、とにかく勉強して、
 文句のつかないだけの成績を出すしかないと思ってた。勉強が好きだとか、本気で何か
 学びたいことがあるわけじゃなかった。一人になれば…自由になれれば何か見つかるかもって、
 何となく期待だけはしてた。…アスカが一番嫌うタイプだったかもね」
ちらっと一度目を上げるシンジ
「ばか」
一蹴するアスカ
表情を変えずに促す
「で? 全部吐いちゃいなさいよ、ラクになるから」
今の顔に戻って笑うシンジ
帰り支度を終えた鞄を閉める
机の上に置かれた両手
「吐くも何も、それだけだよ。首尾よくいい成績修めて、ここの受験を許してもらった。
 それで、また受験勉強して…ここに来た」
「で、また勉強してる。次は大学? その次は?」
自分の内側を覗き込むような顔で苦笑するシンジ
「そこまでまだちゃんと考えられてないよ。…うん、だからやっぱり、勉強が好きでやってるんじゃ
 ない。ただ単に、今まで続けてきたのが勉強ぐらいだったってだけ。アスカに馬鹿にされても
 仕方ないよ」
「…そこまで萎縮することないでしょ」
「うん。でも、誇らしく思えることでもない。…それにさ、こんなふうに突き放して思えるように
 なったのは、ちゃんと理由があるんだ」
アスカを見るシンジ
01146/82016/01/22(金) 22:02:50.34ID:???
思いがけず強い眼差にとまどうアスカ
「…何よ」
寝ているカヲルの方を一瞬気にし、それからまっすぐアスカに向き直るシンジ
「ここに来て、勉強する以外にも、僕には続けていけることが一つ持てた。だから、少しは
 今までの自分を、冷静に振り返れるようになった」
瞬きするアスカ
痛いほど真剣なシンジの目
視線を合わせているのが眩しい気がして、馬鹿らしいくらいたじろいでしまう
勘づかれないようにさっさと訊き返す
「何よ、それは」
ごく静かにふっと微笑むシンジ
真摯な視線がそれだけでいっぺんに柔らかくなる
目を離せずにいるアスカに告げる
「アスカを好きでいること」
「…え」
今度こそ不意をつかれて声を失うアスカ
ゆっくり頬に血が昇ってくるのをどうにもしようがない
自分も照れた顔でもう一度笑うシンジ
「あの日、アスカの手を掴めて良かった。…たぶんあの駅のホームから、今の僕は始まったんだ。
 それまで自分が人を好きになれる奴だとは思えなかったのに、アスカのことは、考える前に
 好きになってた。だから変われた。…嘘みたいに聞こえるかもしれないけど、本当なんだ」
そっぽ向くアスカ
「…嘘だなんて思ってないわよ」
「…ありがとう。…ごめん、変な言い方しかできなくて」
「いいわよ、別に。…嫌いじゃないわ、今のも。でも」
今度はシンジが瞬きする
「でも?」
01156/82016/01/22(金) 22:02:50.58ID:???
思いがけず強い眼差にとまどうアスカ
「…何よ」
寝ているカヲルの方を一瞬気にし、それからまっすぐアスカに向き直るシンジ
「ここに来て、勉強する以外にも、僕には続けていけることが一つ持てた。だから、少しは
 今までの自分を、冷静に振り返れるようになった」
瞬きするアスカ
痛いほど真剣なシンジの目
視線を合わせているのが眩しい気がして、馬鹿らしいくらいたじろいでしまう
勘づかれないようにさっさと訊き返す
「何よ、それは」
ごく静かにふっと微笑むシンジ
真摯な視線がそれだけでいっぺんに柔らかくなる
目を離せずにいるアスカに告げる
「アスカを好きでいること」
「…え」
今度こそ不意をつかれて声を失うアスカ
ゆっくり頬に血が昇ってくるのをどうにもしようがない
自分も照れた顔でもう一度笑うシンジ
「あの日、アスカの手を掴めて良かった。…たぶんあの駅のホームから、今の僕は始まったんだ。
 それまで自分が人を好きになれる奴だとは思えなかったのに、アスカのことは、考える前に
 好きになってた。だから変われた。…嘘みたいに聞こえるかもしれないけど、本当なんだ」
そっぽ向くアスカ
「…嘘だなんて思ってないわよ」
「…ありがとう。…ごめん、変な言い方しかできなくて」
「いいわよ、別に。…嫌いじゃないわ、今のも。でも」
今度はシンジが瞬きする
「でも?」
01167/82016/01/22(金) 22:03:58.27ID:???
位置をずらして頬杖つくアスカ
赤くなった顔でシンジを一瞥する
「卑怯」
「え」
揺らいだシンジの視線に追い討ちをかけるように、もう一回ぶつけるアスカ
「ずるい。…そういうことは、告白の時とかにちゃんと打ち明けてよね」
改めて気づいたように急にどぎまぎし出すシンジ
「…、ごめん、その」
「馬鹿。もう黙って」
「…うん」
がたんと椅子を鳴らして立ち上がるアスカ
相変わらずすうすう寝ているカヲルをじろっと観察してから、座ったシンジの上にかがみこむ
顔の前に落ちてきた髪を押さえながら、一気にキス
思わず目をつむるシンジ
机の上で握りしめられた両手
暮れかけた教室の静寂
唇を離すときに、そっと小さく笑うアスカ
慌ててまぶたを開けるシンジ
「な…何だよ」
ふふんと含み笑いしてみせるアスカ
焦るシンジを間近で眺めてから一言
「やっぱり、かわいい。あんたの目ぇつぶった顔」
言葉もなく真っ赤になるシンジ
笑顔で見つめるアスカ
立ち上がり、机を回り込んでふいにカヲルの机の足を軽く蹴る
01178/82016/01/22(金) 22:05:23.32ID:???
びくっとなって顔を上げるカヲル
唖然としているシンジを睨み、それからアスカに気づく
頭上で頷くアスカ
「よし。ほんとに寝てたわね」
「…いきなり何するんだよ」
「何してるんだよアスカ!」
ほぼ同時に抗議する男子二人を無視するアスカ
廊下の方を振り返り、ちょうど戻ってきたレイの姿を見つけて手を振る
その顔はすっかり普通の無邪気な女子
何ともいえない目を見交わすシンジとカヲル
急ぎ足に教室へ入ってくるレイ
「ごめんなさい、遅くなった」
「いいの、待つのは私が言い出したんだし。それに諸悪の根源はこいつらだし。
 レイは全っ然気にすることないの」
何事もなかったかのように帰る体勢になっているアスカ
「ほら、さっさと帰るわよ。もうこんな暗くなっちゃったじゃない」
追い立てられる男子二人
こっそり訊いてみるシンジ
「…あのさ、さっきはほんとに寝てたんだよね?」
「何が」
まだ眠そうな顔をしているカヲル
内心胸を撫で下ろすシンジ
「何でもない。寝てたんならいいよ」
「? 何だよ、気になるだろ。アスカさんのこと?」
「気にしなくていいってば」
「二人とも、何グズグズしてんのよ! 行くわよ!」
教室の戸口に立つアスカの叱咤が飛んでくる
その横で困った顔をしているレイ
どちらからともなく溜息をつき、諦め顔でそちらへ歩いていく二人
01181172016/01/22(金) 22:08:29.08ID:???
途中二重書き込みしてしまいました、すみません…
一般ブラウザ使いづらい…
0123名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/01/25(月) 23:40:12.37ID:9Ak5WDtq
やっとるかねー?
01271/62016/01/29(金) 16:09:05.96ID:???
はよ×3とまで言われたのでがんばってみました
お天気がらみで短い小ネタ行きます
--------

明城学院高等部 昼休み
冬の雨
寒気と冷たい水滴が窓ガラスを曇らせる
昼間からこうこうと電灯を点した教室
普段より行き場を限られて何となく自席付近に溜まりがちな生徒たち
「…あーあ」
重苦しい灰色の空を仰ぐカヲル
立ち上がったのにもう一度椅子にどすんと腰を下ろし、そのまま寝る体勢
振り返るシンジ
「どうしたの。昼、食べるんだろ?」
「…いい。面倒くさい」
本格的に突っ伏してしまうカヲル
「何ふてくされてるんだよ」
呆れ顔になるシンジ
寄ってくるケンスケ
「あれ? 渚がこの時間いるなんて珍しいな。いつも、昼休みが始まったとたんに姿くらまして、
 終わるまで戻らないくせに。…シンジ、悪い。俺、写真部で打ち合わせあってさ、行かないと」
「あ、うん。わかった」
弁当の包みを提げて教室を出て行くケンスケ
何となく見送って、再度カヲルを眺めるシンジ
「…トウジも試合でいないし、とりあえず、ここで食べるか」
独り言のように口にして椅子に座り直す
肩越しにカヲルを一瞥する
反応なし
溜息つくシンジ
「シンジ!」
顔を上げたシンジの表情が、控え目に、けれどぱっと明るくなる
01282/62016/01/29(金) 16:10:09.30ID:???
自分のお弁当を手に机の合間を縫ってくるアスカ
カヲルを見下ろして変な顔をしてみせる
「どうかしたの? …あ、わかった。レイが休みだから拗ねてるんでしょー。しょうがないわね」
「拗ねてない」
途端に顔を上げるカヲル
なぜかシンジを睨む
ややうろたえてアスカを見上げるシンジ
「アスカこそ、どうしたの。綾波は休みとして、委員長は? いつも一緒に食べてるのに」
「ヒカリは早めに食べて図書室。…鈴原に今日の分のノートの写し、作ってあげるんだって。
 ご苦労さま、よね」
言い方の割に口調は柔らかい
どこか楽しげなアスカに我知らず微笑んでしまうシンジ
目ざとく見つけて自分も笑うアスカ
「だから、私も今日は一人ってわけ」
手近な椅子を引き寄せ、シンジの机に向かって座る
当然のようにお弁当を置いて包みをほどき始める
ちょっとまごつくシンジ
眉を上げるアスカ
「何よ、いいでしょ? たまには。あ、先約があるなら引っ込むけど」
「ないよ、ない。全然。歓迎するよ、もちろん」
「じゃあ何でそわそわしてんのよ」
「何でって…そりゃ、するよ」
一瞬目を逸らすシンジ
01293/62016/01/29(金) 16:10:40.01ID:???
けげんそうなアスカを横目で軽く睨む
「…アスカと一緒にいるんだから、そわそわくらい、いつだって、してる。決まってるじゃないか」
小さく吹き出すアスカ
「ばか」
ふてくされたようなシンジの顔を見つめて、もう一度目を細めて柔らかく笑う
照れながらも見とれてしまうシンジ
ふいに自覚して、慌てて昼食の包みを広げる
正直睦まじいとしか見えない二人をぼんやり眺めているカヲル
興味を失くしたようにまた机にうつぶせる
シンジの肩越しに目をとめるアスカ
「ちょっと、何寝てんのよ。せっかくだから、あんたも入れてあげてもいいわよ。レイはいないけど」
「いいよ」
くぐもった声だけで答えるカヲル
椅子をずらして上体ごと向き直るシンジ
「どうしたんだよ、ほんとに」
箸を出しかけたまま覗き込むアスカ
「そういえば、いつもはどうしてるの? 教室で食べてるの見たことないけど」
「たまに一緒に食べるときは、屋上とか、人のいないところに行きたがるよ。…ってまさか、今日
 雨でその手の場所に行けないせいで、って訳じゃないよな」
「はあ? ほんとなら、何なのよそれ」
「…ちょっと違う」
やっと顔を半分起こすカヲル
「あんたね、面倒くさがるのもたいがいにしなさいよね」
「だから違うってば。…まあ、同じかな」
01304/62016/01/29(金) 16:11:16.11ID:???
困惑するシンジ
「要するに何なんだよ。それとも、やっぱり綾波がいないから?」
「やっぱりって何だよ…でも、違う。…単に、他人のいるところで食事する気がしない」
「…あのねえ」
思いきり顔じゅうで呆れてみせるアスカ
「面倒くさがりじゃなくて、極度の神経質とか過敏体質に訂正されたいわけ? ていうか、
 それじゃ子供のわがままじゃない」
同じような困惑と呆れの表情を見せている二人を見比べるカヲル
溜息をついて上体を起こす
「…いいよね、君たちは。心から信頼できる相手がいてさ」
一瞬顔を見合わせ、ほぼ同時に真っ向から照れて目を逸らすシンジとアスカ
頬杖ついて続けるカヲル
窓の外は降り続ける氷雨
「僕はたまに耐えられなくなるときがあるんだ。周りに他の人間がいて、その一人一人が
 自分と違う価値観とか信条を持って生きてるってことが。…理屈では理解できるし
 尊重すべきだってことも学べるんだけど、何ていうか、生理的に嫌になる。ときどき、だよ。
 だから君たちがうらやましいけど、同じくらい、自分が本当はここにいないような気がす…」
シンジに目をやって黙り込む
寒々しいものに襲われたようにどこか傷ついた表情をしているシンジ
はっきり後悔の顔をするカヲル
それ以上言い訳はせず、口を結んで視線を逸らす
曇ったガラスを伝い落ちる雨の滴
何でもないようにアスカが沈黙を破る
「…何言ってんの? あんた、シンジのことは平気じゃない」
01315/62016/01/29(金) 16:12:34.93ID:???
同時にびくっとなる男子二人
急に目を覚まされたような顔で揃ってアスカを見る
「シンジとは、たまに一緒に食事するんでしょ。お互い寮の部屋にも上がりこんでるみたいだし。
 なら全然平気じゃない。それに、レイのことだって平気でしょ。本気でキスできるくらいだもの」
「…ちょっと、アスカ」
大声ではないとはいえ、さすがに周囲の耳を気にするシンジ
聞かないアスカ
カヲルをじっと見据える
反射的に睨み返そうとし、結局諦めて視線を和らげるカヲル
「…うん。そうだった。…君の言う通りだ」
「…渚、…別に、無理することないよ。…つらいなら、僕ら、どこか他に行こうか?」
首を振るカヲル
また外の暗い雨空を見る
「シンジ」
振り返ってはっとなるシンジ
真顔のアスカ
「それじゃ違うでしょ。…ほら、あんたもこっち来なさいよ。別になんか食べろとは言わないから、
 同じ食卓につくぐらい、できるでしょ」
「…アスカ」
頑なな子供に言い聞かせるようなアスカの声
現実に幼い子供というより、かつて自分がそうだった子供の頃を遠い痛みとともに振り返る響き
もしかするとアスカにも覚えがあるのかもしれないし、シンジ自身、カヲルの言葉と似た感覚は知っている
だから違和感にはならずに素直に耳を傾けられる
いつのまにか背筋に張りつめていた冷たい緊張がそっと解けていく
01326/62016/01/29(金) 16:13:08.94ID:???
「…わかったよ」
短い逡巡の後、素直に椅子を引きずってシンジの机に寄るカヲル
叱られた子供のような顔でシンジを見る
勝気に笑うアスカ
「ほら、この方が落ち着くでしょ。
 ほんっと、あんたたちって頼りないんだから。こういうときは私の言うことに従ってりゃいいの」
何とも言えない表情で笑う男子二人
それでもさっきより気持ちが解放されているのがわかる
「もう、ぐずぐずしてるから昼休み終わっちゃうじゃない! さっさと食べましょ」
さっさとお弁当を開くアスカ
つられて食べ始めるシンジ
自分の椅子の背によりかかって二人の食事を眺めているカヲル
いつも外に向けている冷めて突き放す表情はなく、見守る目はただ懐かしげで柔らかい
思わず口にしてしまうシンジ
「…何だよ、アスカのことも平気なんじゃないか。渚って」
ちらっと視線をよこし、平然と答えるカヲル
「何言ってるのさ。そんなの、当たり前だろ。シンジ君の選んだ人なんだから」
同時に口の中のものを噴きかけるシンジとアスカ
上気した顔で睨みつける
小さく笑うカヲル
「…嘘じゃないよ」
「嘘だなんて思ってないよ」
まともに言い返し、それから複雑な表情になって睨むシンジ
「…ただ、よくそんなこと平気な顔で言えるよな。しかも食事の最中に。教室で」
「だって本当のことだろ。ほら、早く食べないと時間なくなっちゃうよ」
時計をみやり、慌てて残りを詰め込む二人
もぐもぐやりながら恐ろしい目を向けるアスカ
「あんたってほんと信じらんない。この非常識馬鹿。レイが気の毒になってきたわよ」
ただ笑い返すカヲル
まもなく昼休み終了のチャイムが鳴り、ノートを抱えたヒカリが駆け込んでくる
0135名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/01/31(日) 21:35:42.75ID:Y4xWJ39Z
やってるねー
0138名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/02/03(水) 00:50:47.02ID:???
風邪に注意する季節になってまいりました。
 みなさんに注意喚起を促したく、しかし説教臭くはしたくなく。
 ポエってみよう。そうしよう。
 脳内ポエムシンジくん、小ネタ風味。シンジくん風邪引き編。

 6レスほどお借りして、お送りします
0139@2016/02/03(水) 00:51:39.89ID:???
 『拝啓、惣流・キョウコ・ツェッペリン様。
 年始の挨拶以来の事ではございますがいかがお過ごしでしょうか。
 最近、都市部でも流行り病といいますか、インフルエンザが蔓延しております。
 学校や買出しに行く際にもマスクをした紳士淑女を見かけます昨今、僕も罹患致し、
 己の節制の無さを痛感しておるところでございます。
 つきましては僕の部屋のドアを叩いてこじ開けようとしている娘さんに対し、
 彼女にまで感染させるわけにはいかないという旨の説得を―――』


 メールの文面を途中まで入力して、僕のスマホ操作は止まった。
 ガチャンという音が聞こえて、窓にヒビが入ったのが見えたからだ。
 僕の部屋に吹き込む冷たい風。細かく広がるガラスの破片。

 そして、据わった瞳で僕を睨む金髪をたなびかせる闖入者。
 病床に臥せっていた僕は、スマホを片手に硬直していた。
 マスクをずらして、僕はしゃがれかけた声で言った。


 「…あのさ、敷金帰ってこなくなるのは困るんだけど」
 「うっさい!」
 涙目のラフメイカー。そんな君には、僕の小粋なジョークも通用することはなかった。
0140A2016/02/03(水) 00:52:11.74ID:???
 3日ほど前のことだ。おもむろに38度近い熱を発熱した僕は学校を早退し、その日のうちに病院へ。
不幸にもインフルエンザの判定を受けた僕は、被害を最小限に抑えるべく、外界との接触を断った。
いくら処方箋があるとはいえ、高熱と倦怠感に支配された僕は、手短なメールをするのが限界だった。
『薬は飲んだから3日ほど寝る。君も気をつけてね』
そのまま僕は安静にしていたのだけれど、充電を忘れたスマホがそれ以降音を立てることは無く、丸々2日眠っていて、今日が3日目である。

僕の熱は下がったし、スマホの不具合も確認した。
まあ、電源を入れた途端にすさまじい量のメールがあったのは正直に驚いた。

そして現在進行形での彼女の蛮行。参ったな、寝てた間シャワーも浴びてないのに。

彼女はとりあえず、3点破壊で少しだけ割れたガラス窓を閉め、僕の部屋に入ってきた。
「…110番かな?」
「…呼ぶなら呼べば」

冗談を言う雰囲気ではない。というより、僕のスマホを持った方の腕に爪が食い込んでいる。
アスカは今までになく剣呑で、不機嫌で、危うくて、真っ直ぐだった。
いつもの調子で僕が何かを言うのもためらう程に。
髪がやや乱れ気味で、整えたツーサイドアップは解かれて、ストレートヘアーが重たげだった。
僅かに前髪の間から見える瞳の青色は、高温の炎のように危うげで、揺れてる。
0141B2016/02/03(水) 00:53:02.47ID:???
どうして君は、こういう時に限ってへし折れそうなほど危ういんだ。
剥き出しの茎を見せる薔薇のように。
いつも僕を刺すトゲよりも、それは僕を黙らせて、ひどく不安にさせてしまう。

ああ、僕が病もなく、勇気のある無謀な男であるならば。
君をこのまま抱きしめて、シーツの海の中へ没入していきたい。
・・・病気のせいにすれば、それもまた一手かな。
莫迦なことを考え始めた程度には落ち着き始めた僕は、握っていたスマホを離した。

「…メール、誰としてたの?」
ぞっとするほど冷たい声。毛布の上に落ちたスマホが回収される。
連絡は君とケンスケと、後はまあキョウコさんくらいしか最近は取ってないよ。
ごく自然な指捌きで、僕が送ろうとしていたキョウコさんへのメールは削除された。
「ふーん、ママに告げ口しようとしてたんだぁ」
「…正当な抗議だと思うけど」
「あんたが扉を開ければ済む話だったでしょ」
「開けれるわけないでしょ。1週間は様子見なきゃいけないって」
「だ・ぁ・かぁ・らぁ、私はワクチン接種したって言ったでしょ!」
 ・・・予防接種とタイプが合うかどうかも分からないじゃないか。
 僕が臍を曲げた子供のように言うと、ようやくアスカも落ち着きかけたような声音で。
 「あたしだってね、こんな野蛮な真似はしたくなかったのよ」
 腰に手を当てて、ふんぞり返りながら僕を見下ろす。
 「でもメールには出ないわ鍵は開かないわで心配になるじゃない、
挙句の果てにようやく返事が来たと思ったら」
0142C2016/02/03(水) 00:53:51.67ID:???
そこでアスカは戦慄いた。
 『ごめん電源切れてた。ちゃんとご飯食べてる?』
 自らのスマホを突きつけ、僕の文面が表示された画面を押し出してきた。

 「ふっざっけんじゃないわよ!私だって16の乙女よコンチキショウ。お湯くらい沸かせるっつーの!」
 あ、やっぱカップラーメンだったのか。油断するとアスカは佐世保トンコツラーメンばっかり食べるからなぁ。
 「いや…自炊っていうのはもっと…栄養バランスを…」
 「予防接種もしなかったあんたに言われたくないッ。何で行かなかったのよ!」

 いやさぁ…前に一緒に近所の総合病院に付き添いに行った時にさ、その翌日にケンスケに。
 『お前らが病院に入ってくの目撃したから、産婦人科に行ってたってメールを流しておいてやったぜ』
 とサムズアップされ、クラスメイトにあらぬ疑いを掛けられ、学校の先生に呼び出され、
休み時間に襲撃を受け。
 それからケンスケ他をシメた後に、僕の足が病院から遠のいたことは言うまでもあるまい。

「ばっっっっっかじゃないの!?そんな下らない理由で…アイツマジぶっ殺す。具体的には明日」
やめてくれよ。結局誤解は解けたし、ケンスケも眼鏡が割れる程度で済ませたし。
0143D2016/02/03(水) 00:54:59.52ID:???
「あのさ」
 僕はとりあえず、一呼吸を置くために、自分の襟元を開いた。
 アスカがカチンと固まるのが見える。べたついたシャツが気持ち悪い。
 「ちょっと着替えるから、部屋の外出ていってくんない?」
 「………脱走しない?」
 「しないよ。てかどうやってベランダ越えてきたんだよ」
 「……着替えたら鍵閉めたりしない?」
 「襖にどうやって鍵閉めるんだよ」
 「…40秒で」
 「10分は待って」
 「なんでよ」
 「そこのウェットタオルで体拭くから」
 「…仕方ないわね」
 ようやくアスカは部屋を出て行った。とはいえ、一人暮らしだから隣はすぐ台所なのだが。
 あ、僕のスマホも一緒に持ってかれてる。
 僕はため息を吐いた後、おもむろに肌着を投げ捨てた。べとついた体を拭いて、
 一通り新しい服に着替えていく。
 ・・・うがいくらいしたい。洗面台に行くか。

 僕は出し抜けに襖を開けた。台所にはいつの間にか、何だか色々持ち込まれていた。
 そして、そこでコトコトと音を立てる土鍋と、その中をしゃもじでかき混ぜているアスカが見えた。
 「あ゛」
 目が合う。玄関の鍵と合金チェーンは開けられている。いつの間にか大荷物が入っている。
 「5分で出てくるなー!」
 
 僕の顔面に鍋つかみが炸裂した。ぽわぽわとした真新しいそれは、
こないだキョウコさんの家で見たやつと同じ柄(がら)だった。
0144E2016/02/03(水) 00:55:32.23ID:???
 顔を洗い、口を漱ぎ、髪に櫛を入れてようやく僕も落ち着けた。
 目の前には、湯気を立てる深皿。その中に煮込まれた卵粥。
 んでもって、目の前でいつもとは違う感じで睨むアスカ。
 レンゲの先で柔らかく輝くそれを口元に含んで、僕は言った。
 
「おいしいよ、アスカ」

 それは本心からで、偽りもなくて、自然と僕にしてはだらしなく笑っていた。
 「………」
 一瞬の後、目の前を閃光が瞬いた。目を瞑りかけて前を見ると、アスカがスマホを構えていた。
 「チッ…、こういう時だけすばやく反応しおって。ねえ、もう一口食べなさいよ」
 「なんでだよ、ご飯食べてる姿を映すのはマナー違反だよ」
 「あんたがクッソ珍しい表情を見せるから悪いのよ!ほら、もっかい!」
 「えー」
 「やっぱり日頃のアレは作り笑いだったのね、この顔面詐欺師」
 何だよその謂れのない評価は。僕は呆れ果てたまま、せっかくの手料理が冷めないうちに食べることにしたのだった。


 『拝啓、惣流・キョウコ・ツェッペリン様。
 年始の挨拶以来の事ではございますがいかがお過ごしでしょうか。
 最近、都市部でも流行り病といいますか、インフルエンザが蔓延しております。
 僕も不覚ながら先日罹患し、病に臥せっていた所をお宅のお嬢様に助けられて
 おります。ところでそのままお嬢さんが家に帰らず、インフルエンザの潜伏期間中
僕の世話をすると強弁しておりますので、何卒説得の程を…

PS、惣流家伝統のお粥は美味しかったです。今度レシピを教えてください。
                       敬具』
 おしまい
0145名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/02/03(水) 00:59:13.22ID:???
みなさんも風邪をひいてご家族に謎の理由でキレられないようにしませう。

エアコンのフィルター掃除してないくらいなんだってんだよう・・・
では失礼しました。
0146名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/02/03(水) 20:01:28.97ID:???
きたっ
お腹の底からあったまる話乙!!
いいなぁお粥おいしそう
さすがに「ほら、あーんして。…しなさいよ!病人でしょ!」とはいかないのね

お風邪ですか、お体大切になさってくださいね
01491/102016/02/06(土) 00:41:47.43ID:???
こんばんは、通りすがりです
またちょっと行きますね
何だかレイの影が薄いので、今回は少しだけレイの話です
-------

午後の授業
与えられた演習問題に黙々と取り組む生徒たち
早めに解き終えて、ふうと顔を上げるシンジ
クラスメートたちの案外真剣な横顔を一瞥する
シャーペンがノートの紙面を擦る音と時折教科書のページをめくる音
手持ち無沙汰になった両手を何となく動かすシンジ
斜め前にアスカの後ろ姿
流れるような金髪をときどき細い肩から払いながら、右手を動かしている
しばらく見守っているシンジ
しまいに自分で照れて目を逸らす
そのまま脇の窓から空を見上げ、ふと思いついて背後の席を振り返る
誰もいない机
一瞬とまどうシンジ
すぐに思い出す
そこにいるはずのカヲルは、管弦楽部の地区音楽コンクールの助演で朝から欠席
小さく溜息をつくシンジ
ふっと何かを感じて教室を振り返る
廊下側の席からこちらを見ているレイと目が合う
びっくりしたように瞬きし、何事もなかったようにまたノートに顔を伏せてしまうレイ
少しの間そのままでいるシンジ
気づいて、再びカヲルの席を肩越しに振り返る
机の上に落ちた冬の午後の光
01502/102016/02/06(土) 00:43:29.79ID:???
「はぁ? 当ったり前じゃない、そんなこと」
呆れ顔で見返すアスカ
ほうきをくるりと持ち直し、空いた片手を腰に当ててみせる
視線は戻した机の列を雑巾で拭いているレイの方へ
黙って手を動かしているレイ
いつも通りのもの静かな所作
「…いや、だって、綾波はそういうの平気な方かなって思ってたからさ」
同じくレイを見ているシンジ
しゃがみこんで、アスカが掃いてきた床のごみをちりとりにまとめる
「思ったこと直截に口にしたりとか、他人に押しつけたり、したがらない。…あんまり顔に出さない。
 強い、のかな。だから、どっちかっていうと、大事な気持ちは隠し通すタイプかと思ってた」
返事がない
顔を上げるシンジ
まだレイの方を見ているアスカの、斜め下から見上げた横顔
なにげない表情なのにひどく無防備で傷つきやすそうに思えて、息を呑むシンジ
両肩にこもった力をごまかすように静かに立ち上がる
アスカが振り向く
「顔に出さないのは、感じないってのとイコールじゃないでしょ。
 強かろうと強くなかろうと、寂しいもんは寂しいの。ましてや相手はあいつだもの」
呟くような話し方なのにどこか力がある
知らず聞き入っているシンジ
「あんたが思ってるよりずっと、レイはあいつに恋してるのよ。近くにいればわかるもの。顔や
 言葉に出さないならなおさら、心の中では苦しいぐらい強く、想ってるのよ。きっと。
 …たとえあいつがあんな、無軌道でガキな、捉えどころのないヤツでもね」
言葉の割にちゃかさず真顔で言い切るアスカ
01513/102016/02/06(土) 00:44:24.06ID:???
思わず言葉に出してしまうシンジ
「アスカ、心配してるんだね。綾波のこと」
けげんな顔になるアスカ
「当たり前でしょ。レイのことなんだから、…? あ、わかった。なーんだ」
急にからかうような目をする
反射的に身構えるシンジ
ほうきを後ろ手に、一歩距離を詰めるアスカ
「さ・て・は、悔しいんでしょ。私がレイのことばっか気にしてるから」
揺れる前髪を透かしてまっすぐ見つめてくる両目
内心大いに動揺するシンジ
半歩ほど穏便に退く
「…考えすぎだよ。でもまあ、否定はしないでおく」
ちりとりを拾い上げ、アスカのほうきも引き取って片付けにかかる
小さく吹き出すアスカ
「やっぱりね。ばーか」
掃除用具の片付けはシンジに任せ、ゴミ袋を持ってレイに声をかける
「レイ! もう終わりでしょ。ゴミ捨て、付き合って」
困ったように小さく首をかしげるレイ
「でも、雑巾、まだ洗ってない」
「そんなの馬鹿シンジに任せればいいの。ね、やっといてよ!」
「…りょーかい」
仕方なく手を挙げて答えるシンジ
ためらっているレイの手から雑巾とバケツを受け取る
「こっちはやっておくから。ごめん、行ってきてくれる?」
「…うん」
いつもよりほんのわずか長くシンジを見つめているレイ
すぐに目を逸らしてアスカの方へ歩み去っていく
水の揺れるバケツを手に、少し黙ったまま二人を見送っているシンジ
01524/102016/02/06(土) 00:45:51.73ID:???
外廊下を歩くアスカとレイ
「ゴメンね、さっき話してたの、あんたのこと。聞こえちゃってた?」
「ううん。でも、何となく、わかった」
「ま、そうよね」
手にしたゴミ袋を大きく振るアスカ
「馬鹿シンジがね、心配しててさ。今日、何回か目が合って、気になってたんだって。
 いつもより元気ない感じだ、やっぱり渚がいないせいかな、大丈夫かな、なんて。
 …実は、ちょっと悔しかった、私。子供っぽいけど」
返事がない
視線をやるアスカ
少しうつむいているレイ
気づいて微笑む
「ごめんなさい。ケンカ、したの?」
「ううん、ていうか、ならないわよ。あいつ私には弱ッヨワだもの」
「うん。知ってる」
また少し笑うレイ
ちょっと安堵したアスカの前で、再びその表情が翳る
「…でも、ごめんなさい。
 今日、碇君を見てたのは、本当だもの」
「…え」
一瞬足の運びが止まるアスカ
すぐに察して首を振るレイ
「碇君のことじゃないの。…彼のことで、少し、碇君に」
瞬間的にとはいえ邪推した自分を内心戒めるアスカ
どこか心ここにあらずのレイを見つめる
「何か…馬鹿シンジに言ってやりたいことでも、あるの?」
「…ううん、…碇君には、言えないわ」
眉をひそめるアスカ
01535/102016/02/06(土) 00:47:10.05ID:???
「じゃ、何? …あ、私にも言いたくないなら、無理にとは言わないわ」
黙ってしまうレイ
校舎隅のゴミ置き場に着く二人
積み上がった数個のゴミ袋の上に、自分の持ってきた分をえいっと放り投げるアスカ
ぽんぽんと手をはたいてきびすを返す
歩きかけて立ち止まる
振り返ると、佇んだままのレイ
白い顔を上げる
「…やっぱり、…聞いてくれる? さっきのこと」
すぐしっかりと頷くアスカ
「もちろん。誰にも言わないわ、馬鹿シンジにも」
寂しげに微笑むレイ
「…ありがとう。…どうしても、碇君には言えないことなの」
校舎の中へ戻っていく二人
長い影が暗さを増す
わざと明るく促すアスカ
「そんな言い方されたら気になるじゃん。で、何て?」
ためらうレイ
小さく口にする
「…カヲルを、取らないで、って」
「え」
声を呑むアスカ
思わずレイを見つめ返す
自身の抱える気持ちに圧されるように、深くうなだれるレイ
抑えた声でぽつりぽつりと話し始める
01546/102016/02/06(土) 00:48:38.71ID:???
「…カヲルは、ずっと碇君を心配してた。今も、いつも、ずっと心配してるの。
 小さい頃、碇君のご両親が亡くなって間もないのに、彼と私も碇君と離れ離れになった。
 カヲルは、たぶん、それをずっと気にしてる。一番つらいときにシンジ君を一人にした、って。
 だからいつも気にかけてるの。こっちに来てからも。また友達になれたのも嬉しいんだと思う、
 だから、碇君の近くにいられるのが嬉しくて、楽しくて、…それを見てると、私」
制服の裾をきゅっと掴むレイの手
「…駄目なの。碇君は彼には大切な存在で、何でも言える友達で、…碇君のせいじゃない、
 彼が悪いのでもない、わかってるのに、ときどき、すごく…苦しく、なる」
胸を刺されたような感覚に覚えるアスカ
レイを見つめるしかない
「…駄目なのは私。私は、私のことが…怖いの。
 碇君には言えないわ。これは私の心。打ち明けたら、甘えるだけになってしまう。碇君を
 ただ傷つけるだけ。心配させるだけ。今日みたいに。…碇君のせいに、してしまうもの。
 それは、駄目」
宙に途切れるレイの声
唇を噛むアスカ
何かせずにはいられなくて、立ち止まったレイの顔をぐいっと覗き込む
痛々しいほど寂しい、レイの人形めいた微笑
無意識の反発に襲われるアスカ
「…バカッ」
正面に回り込んでレイの両肩を掴む
「そんなのないわよ! あんたね、それじゃ…」
言葉が続かない
肩を落とすアスカ
レイの手が静かに持ち上げられて、アスカの手を包む
「…ごめんなさい。碇君の悪口にしか、ならなかった。…ごめんなさい」
「…そうじゃないわよ」
01557/102016/02/06(土) 00:49:25.84ID:???
沈黙
薄暗い廊下に長く射し入った遅い午後の光
手が離れ、どちらからともなくまた歩き出す二人
言葉が見つからない悔しさに歯噛みするアスカ
ほんのわずか後悔の色を覗かせているレイの顔
教室が近づいてくる
急に立ち止まるアスカ
振り返るレイ
金色の陽射しを受けてまっすぐ立っているアスカの姿
向き直るレイ
生徒の大半は部活に行くか帰途につき、無人の廊下に立つ二人
斜めに伸びた影
「…約束通り、シンジには、言わないわ。安心して」
「ありがとう」
「でも…だけど」
「…何?」
初めて表情を少し崩すアスカ
上手く言えないのを隠さずに伝える
「…でも、それじゃあんた、まるで…まるで馬鹿シンジよ。一人でくよくよして、抱え込んで。
 他人を傷つけないで自分だけ傷ついて、そんなのないでしょ。そんなことより…シンジなんかの
 ことより、考えすぎないで、正直に、…素直に、ちゃんとカヲルに甘えなさいよ」
気恥ずかしさにいたたまれなくなりながらも最後まで言い切るアスカ
怒ったようなしぐさで前髪を払う
うつむくレイ
思わず注視するアスカ
小さく目を見開く
柔らかい表情をしているレイ
01568/102016/02/06(土) 00:50:11.77ID:???
「…ありがとう。…アスカに言ってもらえて、良かった」
とっさに目を逸らしてしまうアスカ
「何よ。いいわよ、このくらい。…大したこと言えたわけじゃないし」
珍しく気弱げに窺うアスカに、いつもの静かな笑みを向けるレイ
「ううん。どうしたらいいか、少し、わかったから。
 …大丈夫。返してなんて言わなくても、彼を待てると思う、私。だって、彼のことがとてもとても、
 好きだもの。…だから、平気」
少し息をつめるアスカ
ほっとしたその顔にやっと笑いが戻る
「…なら、いいわ」
「うん」
廊下の窓からグラウンドの運動部の声が届く
教室に戻っていく二人

並んで校門を出るシンジとアスカ
心配そうに校舎を振り返るシンジ
「…良かったのかな、綾波を一人で残してきて」
「いいの」
さばさばと答えるアスカ
余計気になるシンジ
「でも、オケ部が何時頃学校に戻るかわからないし。渚は重い楽器じゃないから、そもそも
 一緒に戻ってくるかどうかだって」
「いいんだってば。レイはあいつを待つことにしたの。あの子が自分で決めたんだから、いいのよ。
 何も連絡つかない訳じゃなし、私らがあれこれ気を揉んでもしょうがないでしょ」
「…それはそうだけど」
まだ気がかりなそぶりのシンジ
横目でそれを見やり、手を伸ばして軽くシンジの鼻先を弾くアスカ
01579/102016/02/06(土) 00:51:03.34ID:???
思わず目をつぶるシンジ
「ッ、何するんだよ」
ふんと顔をそむけて足を速めるアスカ
慌てて追いつくシンジ
「何だよ、どうしたんだよアスカ」
「あんたがしつこく気にしてるからよ。それとも何、隣にいる私より、レイが心配なんだ」
「そんな訳ないだろ」
ますます慌てるシンジ
アスカの横に並んで、指先で軽くアスカの白い手の甲に触れる
ぴくっと肩で反応するアスカ
じろりと視線をよこす
真っ向から気恥ずかしさに耐えている表情のシンジ
過敏な自分にうろたえながら小さく告げる
「…アスカは特別だよ。誰とも比べられない。アスカは、ただアスカだけなんだ、僕には」
ちょっと見開かれるアスカの目
ゆっくり瞬いて、ふいに一気に間近まで迫る
「?! ちょっ、アス…」
間に合わず宙を掴むシンジの手
その首筋を捕まえてキスを奪ったアスカ
唇を離し、耳元まで真っ赤になったシンジを満足げに見上げる
文句言おうとして言えないシンジ
鮮やかに微笑むアスカ
「降参?」
015810/102016/02/06(土) 00:55:16.10ID:???
「…うん。敵わない」
ゆっくり緊張が解け、代わって優しさの広がっていくシンジの顔
もう一度、もっと柔らかく、弾むように笑うアスカ
「…でしょ」
くるっと身を翻して先に立つ
今度は慌てずに横に並ぶシンジ
揃った足音
「ねえ、確か今頃だったわよね。去年の」
「何が?」
訊き返して、ふいに理解の表情になるシンジ
「そうだったっけ。確か、場所もこの辺」
「そ。私たちの、公開キス第一回」
気持ち良さそうに言い切るアスカ
人通りは少ないものの周囲を気にしてしまうシンジ
「…そんな言い方しないでよ、恥ずかしいから」
「いいでしょ。ホントなんだもの」
「何だよ、それ」
半分照れ、半分誇りながら笑い交わす二人
歩きながらシンジが手を伸ばしかける
途中で気づいて、自分からシンジの手を掴むアスカ
機先を制されてちょっと挫かれたようなシンジ
すぐに穏やかに微笑む
勝気に笑い、繋いだ手にぎゅっと力をこめるアスカ
シンジの目の色がふっと深くなる
身をかがめるようにしてもう一度静かなキス
ひそかに力が抜けてしまう自分を、不甲斐なくて怒りたいような、逆にシンジごと
抱きしめてやりたいような気持ちになるアスカ
お互いの顔に心の揺らぎを確かめ合いながら歩いていく二人
つのる寒気
それでも日脚は伸び、冬はそろそろ終わりに近づいている
空に満ちる光
0160ギンコ ◆BonGinkoCc 2016/02/07(日) 13:00:25.29ID:???
ギンコ
「これ、もしかしてウォッカ?」

真希波・マリ・イラストリアス
「いっけねえ〜、水と間違えて持って来ちゃったにゃ〜。
ううっ!気持ち悪いにゃ〜。」

ギンコ
「こら!吐くな!エントリープラグの中だぞ!
こんなところで吐かれたら、あたり一面まで混ざっちまうぞ!」
0161ギンコ ◆BonGinkoCc 2016/02/07(日) 13:37:29.29ID:???
エヴァのパイロットは万が一の嘔吐に備えて、ちゃんとエチケット袋が用意されています。
L.C.Lの中で嘔吐すると、嘔吐物はあたり一面に混ざって大変な事になる。

シンクロ中に嘔吐した場合は、エヴァがえづくことも…。
※シンクロ中はパイロットの姿勢に反映されるからな。
0163名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/02/08(月) 18:29:39.83ID:???
 /:::::::::::::::::::::::::::,ィイ/〃:.i:.,:.:.l.:..i:..:.ヽ=弌iiヽ
 !::::::::::::;r_、:r'"'´_^'>{:{/_!:|.:.:|:..|:.:、.ヾ、彡li/=-.、 一万年と二千年前から愛してる
 ';:::::::::::ゝヘ'l    `_!ツ!L_ヾ、|i:ト;.:.}、リヽ:.彳ヽ:.ヾ丶 
  ヽ、:::::::/^、     ゝ     リ,rN_Vz/|:!.l.:.i.トヽ 八千年過ぎたころからもっと恋しくなった
   イi/!   : 、  ハ     '、='イ://::.:.|:..|:..l:.| ';!  
  _,/_    /  ̄ ´ 'ー-、'   レ//|::.:..|:..|:.:|i:| 
 ゞ.:.:.:.:.:ヽ、〈           ,ヽ /〃!:l::.:..|:i.|.:.| l 一億と二千年後も愛してる
/:.:.:.:.:.:.:.:.;、_;ヽ       /:イ//⌒ー'フ:|:l.|.:.| !  
:.:.:.:.:.:.:,:ノィー‐ヽ、     /〃/ノ   、>:!.l.:.|  君を知ったその日から僕の地獄に音楽は絶えない
.:.:.:.:.:.'ーニ´-‐ッ ヽ    /;:'::/  ,、 _ イi|:l.:l.:.|
0168名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/02/12(金) 23:17:06.59ID:QRX897UZ
やっとるかー?
01721/42016/02/15(月) 00:30:47.08ID:???
こんばんは、通りすがりです
日付変わっちゃいました…簡単なのだけ行きますね
殴り書きみたいですみません
--------

深夜
寮の自室で漫然と机に向かっているシンジ
ときどき溜息
去年のアスカの、はにかみながら睨んできた顔を思い出してみる
(来年は、ちゃんとするから!)
未だにメールも着信も来ない携帯を取り上げ、恨みがましく見つめる
時刻表示に再び溜息
「…もう寝よう」
立ち上がるシンジ
と、ドアに抑えたノックの音
いぶかしげに立っていくシンジ
ドアを細く開けて廊下を覗き、呆れ顔になる
「良かった。まだ起きてたんだ」
真っ暗な寮の廊下に立っているカヲル
「…なんだよ」
仏頂面のシンジに、思わずという感じで笑いをこらえるカヲル
更に不機嫌になるシンジ
「消灯過ぎてるだろ。早く自分の部屋帰って寝ろよな。僕ももう寝るから」
「だから、それはちょっと待ってってば」
「なんで」
「うん、説明するからさ。ちょっと入れてよ」
「え? …あ、こらっ」
勝手に部屋に入るカヲル
まっすぐ窓に寄り、身を低くしてカーテンの隙間から外を窺う
01732/42016/02/15(月) 00:31:57.45ID:???
「…何やってるんだよ」
仕方なくドアを閉めて室内に戻るシンジ
振り返って唇に指を当てるカヲル
「大声出さないでよ。…あ、来たかな? さすがマリさん、時間通りだ」
「マリさん? って、アスカがホームステイしてる、あのマリさん?」
「他にいないだろ」
目は外の路上に向けたまま、楽しげに答えるカヲル
いい加減いらいらしてきたシンジを見透かすように急に振り返る
案外真剣な顔
とまどってしまうシンジ
部屋の時計を見て素早く微笑むカヲル
「…ぎりぎり間に合ったね。じゃ、行っておいで」
「…だから何なんだよ! って、何?!」
訳がわからないシンジの背中をぐいぐい押して廊下に押し出す
怒った顔になるシンジに階下を指す
「バレンタインだろ。アスカさんが今、下に駆けつけたところ」
他の全てを忘れるシンジ
「え」
面白がっているような、気遣っているような表情のカヲル
「一生懸命お菓子作ってて、こんなに遅くなっちゃったんだって。マリさんが教えてくれたんだ。
 だから、行ってきなよ。あ、僕は部屋に帰るから、戻る時に表の鍵、忘れないでね」
「え? え…? …ああもうっ」
ろくに言葉が耳に入らない
混乱したまま、とにかく外へ向かうシンジ
01743/42016/02/15(月) 00:34:02.16ID:???
暗闇に沈んだ寮の館内
なるべくこっそり戸外へ抜け出す
とたん、息を呑む
同じように路上で目をみはっているアスカの姿
胸に抱えた小さな包み
生暖かい夜気を押しわけるようにして駆け寄るシンジ
まだ信じられない思いと苦しいぐらいのいとおしさが胸でせめぎあう
確かにそこにいるアスカ
傍に来たシンジにかえってたじろいで、怒ったようなしぐさで目を逸らし、また見つめてくる
コートの肩にかかった髪を払い、はあっと大きく溜息
「馬鹿シンジにしては、妙にタイミングよすぎ。
 …マリね?」
ちょっとつまるシンジ
「…あ、うん、マリさんが知らせてくれたって、さっき渚が」
「やっぱり。こそこそキッチン覗きに来たと思ったら…ったく、油断も隙もないんだから」
胸の包みをぎゅっと握っているアスカ
シンジの視線に気づき、その瞬間、顔じゅうに幾つもの表情が生き生きと溢れる
目を奪われてしまうシンジ
ほてった面を伏せながら、包みをシンジの胸に押しつけるアスカ
「はい。これ。たぶん日付、変わっちゃったけど」
01754/42016/02/15(月) 00:35:04.35ID:???
「これ…もしかして、手作りしてくれたんだ。チョコレート」
綺麗にラッピングされたそれを両手で包み込むシンジ
その手つきの優しさにまたうろたえるアスカ
そっぽを向いて言葉を押し出す
「そ。私の貴重な休日の数時間の成果。…遅くなったのは痛いけど、味は、自信あるから」
「…アスカ」
胸がいっぱいになるシンジ
名前を呼ぶしかできない
こんな誰もいない夜道で受け取っている自分が嬉しくて悔しい
一人でここまで来たアスカを思うといたたまれなくなる
「…呼んでくれれば、僕がマリさん家まで行ったのに」
「それじゃサプライズになんないでしょ。結局、ならなかったけど…、?!」
包みを片手に、もう片腕でアスカを抱きしめるシンジ
「…ありがとう。すごく嬉しいよ」
一瞬もがきかけるものの、すぐに力を抜いて、素直に全身を預けるアスカ
それぞれの境界もわからないほどに包みこむぬくもりと感触
佇んだまま互いの息遣いの数に耳を澄ます二人
首に回した両手越しにシンジの耳元に囁くアスカ
「これで約束、守ったわよ」
「…うん」
深く頷くシンジ
チョコの包みを落とさないよう気遣いながら、抱きしめる腕にぎゅっと力をこめる
路上で重なった二つの影
寮の窓から様子を見ているカヲル
小さく笑って、迎えに来るタイミングをはかっているだろうマリに、作戦成功の一報を入れる
0176名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/02/15(月) 00:55:25.67ID:???
 まだ2月14日の24時だということで何と言うか滑り込みをしたいと思います。
 
 ぱぱぱっとやったので纏まりはないですけど、ハッピーバレン鯛ンデー
 脳内ポエムシンジ君シリーズ「チョコなんて貰えるわけないじゃない」編
 短編でサクっとポッキーの如く置いてくんでよろしくゥ
0177@2016/02/15(月) 00:55:58.28ID:???
伝説に、聖人は愛する人々を守り、慈しみ、祝福し、それが故に処せられた。
すなわちヴァレンタインデーとは犠牲と奉仕と庇護が混在する、与えることに対する祝福。


教室、僕の机の上に一つの紙箱が乗っている。それを上の方から展開する。
甘やかな香り。濃厚な黒と焦げ茶色の重なり。横に添えておいた小さな包丁で、その円形が少しずつ割られていく。
紙皿の上に乗ったそれに小さなプラスッチックフォークをつけて。

「はい、ケンスケ。君の分」
「…シンジ、俺はこんな時どんな顔をしてお前の友チョコを食えばいいんだ」
「普通に食べればいいと思うよ」


 世の中がチョコで甘ったるい匂いの強い2月の第一週から第二週にかけて、催し事の好きなうちの国での奇妙な習慣。
 明城学園は進学校で、その体裁は真面目な堅物であるというイメージを世間に放っているが、内側には色々緩いもので。

・ チョコレートはお菓子に相当し、デザートとして昼に食すならよし。
・ 即ち昼以降に学校内で飲食した場合は没収及び反省文。
・ 包装を解いた場合もまた没収及び反省文。
・ この期間は2月第一週から2月第二週の間までとする。
・ 死して屍拾うものなし。
・ 死して屍拾うものなし。
・ 死して屍拾うものなし。

などと言う伝統の不文律が存在することを、部活動をしている生徒は先輩から教わり、クラスに周知し、継承されているらしい。
 そんなわけで僕は日頃お世話になっているクラスメイト数名のリクエストで、
昨日にかけてガトーショコラを焼き、こうして久しぶりにクラスで昼食を取っている。
 
0178A2016/02/15(月) 00:56:30.35ID:???
 既に早弁をしていたケンスケは、誰よりも早くガトーショコラを頬張っているのだが、
一口食べるたびに「おお!?」「こ、これは」「なんちゅうもんを…食わしてくれたんや」
とかリアクションに余念が無い。頼むから静かに食ってくれないかなあ。

 「いやこれは感動ものだって。このサクサクとしていてしっとりしてそれでいてべたつかないうめえおかわり」
 僕は水筒で紅茶を注ぎながらケンスケに渡す。そのまま紙皿にもう一つ取り分けたケーキのピースを渡す。
僕は自分の弁当も残っているので、口をつけて食べ始めた。昼休みは始まったばかりだ。
 
「いやあ感動的な美味さだよコレ。手作りということでさらにポイント高い。金取れるんじゃね?」
「んなわけないだろ。結構失敗もしてるよ。ていうか後何人かに配るつもりだから、それで終わりにしてね」
 「まあ取りに来る度胸のあるやつがいればだけどな」
 ケンスケの眼鏡が少し鈍く光る。
 「…あー…」
 僕は頭を抱える。
 そりゃあ僕もせっかく焼いたから食べてもらいたいさ。でも、教室の中には緊張感が漂っていた。
 僕の前の席でガンを飛ばす、金髪碧眼のクラスメイトの視線の圧力のせいで。

 今週のアスカはえらく不機嫌である。据わった瞳で、クラスメイトを睥睨しながら、お弁当にも手をつけてくれない。
 結局後半になったら食べるのだけど、何をそんなに警戒しているんだか、というやつだ。
 「あのさ、アスカ」
 「あ゛あん?」
  そんなドスを効かせた声を作っても、君の声は可愛いんだよ。
 「碇くぅーん、趣味悪いよその感想ゥー」
 僕の呟きを聴いたケンスケの言葉をスルーしつつ、僕は半分くらいになった自分のお弁当箱を置いた。
 
0179B2016/02/15(月) 00:57:09.86ID:???
「ご機嫌斜めだね」
 「うっさいわい。…あんたこそさっさと食ったらいいじゃん。あたしの勝手でしょ」
 と、相変わらずにべもない。僕はわざとらしくため息をついて。
 「…今日のおかず、口に合わなかった?」
 と、目を伏せがちにすると、ぴくっとアスカの動きが止まる。威圧感も少し、薄れた気がする。

 「そーいうわけじゃなくて…あの」
 「一応ちゃんと作り置きじゃなくて作ったんだけど、キョウコさんに聞いたレシピ通りにさ」
 ぴたっと、アスカの動きが固まる。彼女にとっての魔法の言葉のように作用している。
 「…え?コレ、ママが教えてくれたやつ。え…あ、そういや見覚えあるような。ウソ、この味ってマジで」
 アスカはフォーク片手にぽいぽい食べ始める。僕は彼女の反応に会心の手ごたえを感じる。よし、シナリオ通りだ。
 「碇くぅーん、用意周到にも程があると思うよこの手管ァー」
 僕はケンスケに向かって、持ってきた紙箱を押しつつ、目配せをした。
 ケンスケは一つ頷いて、ケーキの入った箱と紙皿とフォークをひったくる。

 「さあさあ碇くん特性チョコレートケーキ、ガトーショコラだっけ?先着残り後10切れ!
なお手作りが控えてる女子はオススメしないぜ、マジで自信無くすからなぁ」 

と、にぎやかにクラスの中央で言い出した。クラスは途端に騒がしくなって、教室の中で大移動が起きた。
緊張感から解放されたクラスメイトたちが、ケンスケの周りを取り囲み、ジャンケン大会へと移る。
その流れを上手くコントロールするケンスケの手腕に、僕はいつも感心を隠せない。
0180C2016/02/15(月) 00:57:54.64ID:???
 僕が視線を前に戻すと、アスカの青い視線がそこにあった。睨んではいるけど圧迫感は無い。
猫がこっちを見ているような気持ちになって、僕は微笑を返した。
「…ごちそうさま」
お弁当箱は空になっている。紅茶を注いで渡すと、カップをぐびぐびと飲み干した。
「お粗末様でした。また作るから、その時も感想を教えてね」
「んもぉ…いけしゃあしゃあと。アンタそんなに八方美人だと刺されるわよ」
何か危ない事を言い出したので、さすがに僕の箸も止まる。
「気に食わないかい?」
「とっても」
そうばっさりと正面から談じられては、意見を捻じ曲げることも出来ない。
「少しはクラスにサービスしとかないと、4月のクラス換え以降で何言われるかわかったもんじゃないよ?」
「言わせておけばいいじゃない。あたしがそんなもん気にすると思う?」
「僕は気にするなぁ」
「あんたこそ、そういうのを気にしないタイプだと思ったけど」
まあ、そうなんだけどね。僕と彼女は騒がしくチョコケーキに群がるクラスの輪を遠目から見ている。
結局、今年、クラスメイトの中で深い交流は、それこそケンスケくらいなもので、僕の日々は殆どアスカと繋がっている。
もし、クラス替えで――
「ないわね。絶対ない」
僕が眉を潜めたのを、正面でアスカはにやっと笑っている。
「なぁに、あたしとクラスが別になるのが恐いの?大丈夫よ、何かそんな気がするの」
僕は思わず口を紡ぐ。どうしてそこまで断じることが出来るんだ。去年を振り返って、
破天荒な行動をしていた君の隣に、来年以降もいれるかどうかわからないじゃないか。
もしかしたら、君の才覚に害があると思われたとしたならば。
そんな僕の言い知れぬ不安をよそに、アスカは僕のお弁当に手を伸ばして残っていたものを摘んだ。
「その時はその時よ。でも大丈夫、寂しがりやのシンジくんのために、アタシは会いに行ってあげる」
齧りかけのプチトマトを僕の口に押し込めながら、彼女が悪戯っぽく笑っている。
0181D2016/02/15(月) 00:58:39.23ID:???
 僅かな酸味が僕の口の中で広がり、喉の方に消える。アスカの根拠のない自信に、僕はいつも押し切られる。
僕は苦笑しながらお弁当箱を仕舞っていると、何故か制服の着衣が乱れかけたケンスケが戻ってきた。
「任務完了したぜベイベー…。あれな、いざという時の腕力は男子も女子も変わんないのな…」
引き裂かれかけた紙箱を丸め、ゴミ箱にシュートを決める。バウンドしたそれは、少し外れかけて上手く入る。
「ありがとうケンスケ。…好評だったかい?」
「女子の何人かが頭を抱えているのが見えるだろう。お前のクオリティはそこまで高まっているのさ」
あ、本当だ。いやあ実際作ったらそれほど難しいことじゃないんだけどなあ。
「そういえば碇くんよ」
「…何だよ相田くん」
制服を直し、眼鏡を少しくいっと指先で直しながらケンスケが続ける。
「君の本気チョコはどんくらい美味しいのかね?」
僕が口を開くよりも早く。

「そりゃあもう、この程度の作品より遥かに美味しかったわよ」
何故か胸を張るアスカのドヤ顔に、僕とケンスケは少し顔を見合わせて。

「…碇くぅーん、君、ちょっとお姫様の舌肥やし過ぎじゃないのぉー?」
「逆に考えるんだケンスケ。僕のハードルはいつも高いと考えるんだ」
「シンジ、その言葉一つで何か俺口の中が少ししょっぱくなるような気になるぜ」

伝説に、聖人は愛する人々を守り、慈しみ、祝福し、それが故に処せられた。
すなわちヴァレンタインデーとは犠牲と奉仕と庇護が混在する、与えることに対する祝福。
『だからあんたにとっては毎日がヴァレンタインみたいなもんね。』
と、ヴァレンタインウィーク初日からずっと、甘いものを要求する彼女。
僕は素直にそれに応えることにした。何、僕にも見返りを欲しがる下心はあるよ。
14日の君の口元は、さぞかし甘い香りがするんだろうな。

             おしまい。
0182名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/02/15(月) 01:05:28.19ID:???
 脳内ぽえむシンジシリーズもそろそろ一区切りというか、最終回的なことを
挟もうと思います。具体的には、シンジ君のご両親が帰ってくる話を書いたらで。
現在鋭意脳内妄想中ですけどちーっとも筆が進まないので、
しばらくは小話でお茶を濁しつつ、つまりいつものスタンスで進めますので
これからもはいよろしくお願いします。
ホワイトデー?そんなもんこの世界には無いよ… では失礼します。
0183名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/02/15(月) 10:04:45.73ID:???
ダブルできてたー!!

>>175 滑り込み乙!
>>182 シンジとアスカ、もはや夫婦の呼吸だねwほぼ同居状態だしw
一区切りかぁ…寂しいけど我らがシンジ君の渾身の最終回、待ってます
その前の小話もできればちょこちょこ載せてくれると嬉しいw
0186名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/02/17(水) 23:27:05.97ID:78qJvnHi
やっとるねー
0188名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/02/19(金) 01:01:39.84ID:???
バレンタイン明けの月曜日

「アスカ、これ」
「え? 友チョコ?! くれるの? ありがとーレイ!」
「いいの、いつも助けてもらってるから、感謝の気持ち」
「あは、なんか照れちゃう。じゃ、これ、私から」
「! ありがとう。すごくかわいい包み」
「ふふん、やっぱ赤にピンクは王道よ。中身はそこそこだけど、勘弁してね」
「……」
「何見てんの、シンジ君」
「?! えっいや、別に見てないよ」
「いいなー楽しそうだなーって、顔に書いてあるよ。
 けど、何で? 昨日ちゃんと、アスカさんから本命チョコ、もらったじゃないか」
「それは…そうだけど、…なんか、ちょっとうらやましいっていうかさ」
「ふーん。欲張りだなぁ君は」
「…悪かったな。どうせ僕は渚と違ってガキだよ。ちぇ、いつもお見通しみたいな顔してさ」
「お見通しはアスカさんだと思うよ。ほら」
「え? …あれ? これ…アスカ?!」
「一個余ったから、ついでにあげる。ありがたく思いなさいよね」
「あ…うん」
「ほらね。…あ、もう嬉しそうな顔してる。正直者」
「うるさいなぁ。いいだろ、正直だって。嬉しいものは嬉しいんだから」
「あ」
「何だよ」
「じゃ、君はホワイトデーに二回返さなきゃいけないのか。そっかー、頑張りなよ」
「…えっ」

-----
という感じの落書きです
ttp://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=55363574
01971/82016/02/26(金) 23:40:40.27ID:???
ご無沙汰の通りすがりです、すいません特に起伏もない日常ネタいきます
>>195 その通りなのです otz
-------

「「おっはよう碇くんっ」」
威勢のいい声に振り返るシンジ
校門で追いついてくるトウジとケンスケ
二人の視線が揃って隣のアスカへ
「な…何だよ」
慌て気味なシンジに対して落ち着いているアスカの表情
「…?」
素早く顔を見合わせるトウジとケンスケ
方針変更し、大げさな笑顔で乗り出してくる
「なんやセンセ、今日も仲良く同伴出勤かいな。隅におけんなぁこのこの」
「さすが校内公認カップルだな。文化祭以来皆に認められてるだけあるよ」
シンジの肩を叩いたり脇腹を小突いたりいじりまくる二人
あまり手加減のない攻撃ぶり
悲鳴をあげるシンジ
「何すんだよ、痛いって」
アスカが向き直る
「ちょっと」
とたんに動きを止める二人
揃ってアスカの顔を窺う
反撃してくるかと思いきや、案外普通の表情のままのアスカ
ついっと手を上げて、シンジの肩を掴むトウジの手を、指先で軽く払う
呆れ顔で二人を眺める
「朝から何やってんのよ。中学生じゃないんだから、少しは落ち着きなさいよね」
あくまで平静な口調
間の抜けた顔で見返すトウジとケンスケ
また互いの顔を見合わせる
01982/82016/02/26(金) 23:41:19.46ID:???
さっさとシンジの隣に寄り添い、コートから引っ張り出された制服の襟を直してやっているアスカ
「あーもう、何よこれ。シンジ、だいじょぶ?」
「あ、うん、まあ…結構痛かったけど」
「いつものことでしょ。さ、放っといて行きましょ」
二人を置いて歩き出すシンジとアスカ
納得いかないというか腑に落ちない顔で振り返りながら遠ざかるシンジ
「……」
まだ立ち止まっているトウジとケンスケ
深刻な顔を作って頷き合う

休み時間終わりのチャイムが鳴る
例によって居眠りしているカヲルを何とか起こそうとしているシンジ
「何やってんだよもう、先生来ちゃうだろ」
「えー…いいよ…」
「良くないだろ! こら、寝るなってば!」
少し離れた自席からはらはらしながら見守っているヒカリ
同じく眺めているアスカ
「渚君たら…碇君、困ってるわね」
「みたいね」
廊下の方を窺いながら二人を気にするヒカリ
「いつも面倒見てるのね、碇君」
「そうね。放っとけばいいのに、あんなの」
興味なさそうに答えるアスカ
くすっと笑うヒカリ
「それが出来ないのが、碇君なんじゃない?」
ちょっと目を見開くアスカ
ちらっと時計を見やり、立っていく
教室の反対側でおおっと目を向けるトウジとケンスケ
01993/82016/02/26(金) 23:41:53.86ID:???
シンジの机から教科書を取り上げ、ぱしっと軽くカヲルの頭をはたくアスカ
「…ん」
眠そうに眉をひそめて顔を上げるカヲル
特に不機嫌そうにでもなく、普通に声をかけるアスカ
「駄々こねないの。相手がシンジだからって甘えちゃって、馬鹿みたい」
何か言い返そうとしてやめるカヲル
納得した顔でふうと溜息ついて起き上がる
ほっとするシンジ
アスカを見上げる
「ありがとう、アスカ。…ていうか、ごめん、わざわざ」
「ほんとよ」
指でシンジの額をとんと突くアスカ
「あんたがいつまでも甘やかすからでしょ。ったく、どっちもいつまでも子供なんだから」
ぱっと髪を払って自席に戻るアスカ
何となく目を離せずに見送ってしまうシンジとカヲル
教室の反対側、重々しく頷き合うトウジとケンスケ
「…マジみたいやな」
「…ああ。報告の通りだよ」

放課後、当番の掃除を始めるシンジとアスカ
部活に向かう準備をしつつ、ひそかにその動向を観察するトウジとケンスケ
低めの語調で声をかけるシンジ
さりげなく傍に寄って、通り過ぎながら小声で答えていくアスカ
シンジが笑う
アスカも穏やかな顔
目立たないながらも、注意していればごく親密な雰囲気が見て取れる
鞄やら荷物で視線をごまかしつつ観察を続けるトウジとケンスケ
02004/82016/02/26(金) 23:42:31.08ID:???
レイを後ろに連れたカヲルが廊下から覗き込む
「じゃあ、今日は先に帰ってるから。問題集は後で届けに行くよ」
「わかった、ありがと。じゃ、後で」
シンジの後ろからちょっと伸び上がるアスカ
鞄を持ったレイに目を止める
「あ、なーんだ、レイも帰っちゃうんだ」
「そう。今日は二人」
はにかむレイ
笑顔になるアスカ
「そっか。よし、じゃ上首尾を祈ってるわ」
「何言ってるんだよ、君らだって帰りは二人一緒だろ。お互い様ってやつだよ」
親しみはこもっているものの、けっこう皮肉っぽく言うカヲル
思わず首をすくめるトウジとケンスケ
が、アスカは怒りもせずさらっと流す
「うっさいわね。あんたはちゃんとレイを見てりゃいいの」
「…そうなの?」
「そうよ」
顔を見合わせて小さく笑い、手を振って去るカヲルとレイ
そろそろ潮時と立ちながら、またも深刻に頷き合うトウジとケンスケ
「…ますますマジみたいやな」
「ああ。これでほぼ確証が取れたと言っていいと思う」
「何が?」
全身で跳び上がる二人
振り返ると渋面のシンジ
「え?! い、いや、何でもないって。なぁ鈴原君」
「せ、せやで。何でもあらへん」
ますます眉根を寄せるシンジ
02015/82016/02/26(金) 23:44:15.53ID:???
普段は穏やかな顔に割と本気らしい怒りを見せているシンジ
大いに焦る二人
小さく息を吐くシンジ
「…朝から今まで、授業中とかも、ずっとこそこそ見てたろ。
 アスカの何がそんなに気になるわけ? いくら二人でも、ちょっと黙ってられないんだけど」
その背後から頷きながら歩み寄ってくる当のアスカ
険悪な眼差
観念するトウジとケンスケ
二人の前で腕組みするアスカ
言いにくそうに頭を掻くトウジ
「…い、いやな。最近何ちゅうか、惣流の様子が、そのな…」
「アスカの?」
思わず前に出るシンジ
目で必死にケンスケに助けを求めるトウジ
視線を逸らすフリを続けるもアスカに睨まれて諦めるケンスケ
「いや、ほんとに大したことじゃないんだって。
 本人の前で言いにくいんだけど…要するに、惣流が最近、可愛くなったって話があってさ」
「は?」
「ほんとだって、皆言ってるんだよ。文化祭の後辺りから、前みたいにトゲトゲした近づきがたい感じが
 なくなったっていうか、雰囲気が柔らかくなった、ってさ」
ぽかんとするアスカ
シンジと顔を見合わせる
困惑顔になるシンジ
「…その話を確かめるのに、今日一日、アスカのこと見てたの?」
「あー、そんなとこだ。お前らの気に障っちまったのは、すまん」
「…気に、っていうより、傍から見てもかなりバレバレだったけどね」
「何や、ほなハナっから気づいとったんかい」
怒りが消えたらしいのを見て取って安堵するトウジ
02026/82016/02/26(金) 23:45:05.25ID:???
「ワシらはクラス同じやし、毎日顔合わせとるからあんまはっきり感じへんやろ。
 まぁでも今日見てて納得したわ。確かに、丸くなっとるわ、惣流。…いや、いい意味でやで」
逆に警戒するアスカ
何か魂胆があるのではと二人をじろじろ睨む
「…何よそれ。私は私よ、ずっと」
「それでもさ」
鞄を肩に掛けなおすケンスケ
「前は他人を攻撃するのに、何も遠慮しなかったろ。言い方悪いけど、無理に肩肘張ってたっていうか、
 ちょっと神経質なくらい周りを拒否してたっていうかさ。そういうのがなくなってるんだ、今は。
 …たぶん、シンジと付き合うようになったおかげなんだろうな」
「…え」
虚を衝かれるシンジ
「はぁ?!」
さすがに照れるアスカ
大声になる
「ッ、余計なお世話よ! そんなのあんたたちにカンケーないでしょ!」
「な、何や、やっぱり怖いまんまやないか!」
「何ですってぇ?!」
「前言撤回しとく!」
いきなりの剣幕に慌てて退散するトウジとケンスケ
教室の戸口まで追いかけていって、そこでぱたっと足を止めるアスカ
くるりとシンジを振り返る
混乱やら気恥ずかしさやらで呆然としていたシンジ
ちょっと目をみはる
どこか頼りなげな表情になっているアスカ
片手で頬を押さえる
思わず傍に行くシンジ
見上げるアスカ
「…ねえ、そうなのかな」
02037/82016/02/26(金) 23:46:04.07ID:???
「え?」
やや上体をかがめるようにして覗き込むシンジ
ぼんやりと視線をよそに投げるアスカ
「…私、変わった? 変わったように見える?」
ほとんど聞こえないくらいの小声
かすかに息を呑み、それから微笑して頷くシンジ
「うん。変わったと思う」
ぱっと目を上げるアスカ
受け止めるシンジ
「ケンスケが言ってたみたいに、何ていうか、余裕が出てきた気がする。
 前は…前から、アスカは皆の憧れで、何でも出来て、アイドルみたいだったけど、同じくらい
 他人に対していつも気を張って、疲れてピリピリしてるように見えた」
聞き入るアスカ
微笑んで、急に睨む
「…何よ。あんた、その頃からずっと私のこと見てたわけ」
瞬きしてその視線を受け、ちょっと怒ったように頷くシンジ
「そりゃ、見てたよ。…当たり前じゃないか、好きだった、んだから」
「…ばか」
小さくシンジの胸を叩くアスカ
苦笑するシンジ
「…だから、なんか恥ずかしいけど…ケンスケの言うように、もしアスカが僕と付き合ったことで
 ちょっとでも前より良く変わったんなら、…嬉しいよ」
ふっと笑うアスカ
真正面からシンジに顔を近づける
「…当たり前でしょ。あんたが私を変えたの、あんたがもっと好きになるような私にね」
02048/82016/02/26(金) 23:46:53.50ID:???
うろたえるシンジ
反射的に後ずさろうとして、後ろの机にぶつかる
手を伸ばして肩をつかまえるアスカ
掴んで引き寄せ、囁く
「あんたのせいよ。責任、取りなさいよね」
すぐ目の前で揺れているアスカの肌と髪の匂いに一瞬何もかも忘れるシンジ
頷く
「…うん。必ず」
にっこりするアスカ
「…よし」
手を放してあっさり離れる
思わず引き止めそうになるシンジ
からかうように笑うアスカ
「馬鹿ね。先に掃除、済ませなきゃなんないでしょ」
「…うん。そうだった」
素直にしょぼんとなるシンジを見つめるアスカ
ふいにまた近づいて、頬にごく軽くキス
耳元に唇を近づける
「…あとは二人っきりになるまで、お預け」
真っ赤になるシンジ
今度こそ素早く身を翻して掃除に戻るアスカ
放置していたホウキを手に取って振り返る
「ほら、早く。馬鹿シンジ」
鮮やかな変わり身ぶりに、呆れる前に見とれてしまうシンジ
苦笑いして後に従う
校庭から部活の声が響き始める教室
ひそかに背中で互いを気にし合いながら掃除する二人
0207名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/02/28(日) 20:58:19.45ID:2bp2HOvi
やっとるねー!
0211名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/03/03(木) 06:46:25.25ID:???
                 r‐、r―、
             ハ>^´ ̄`´ ̄`¨ヽ.__ ,,..r‐<⌒⌒>、i、_
           ,イ´: : : : : : : : : : : : : : :`ヽノ´.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:`ヽ
           ,イ : : : :!゛"|: : : :l: : : : : : : ヽ、.:.:.:.:.:.:.:.r、.:.:.:.:j\.:.:.:.:.:.ヽ
             / /,: : : :l __」: : : :k: :__: : : : :ヽヽ: |ヽ、Wヽ、 ! l \.:.:.:.:.:|
         /l/f |: :ト、j´ ト` : :| ゙\`ヽ)  } 人|-、  ` 二ミヽ!.:.:.:.:.:j
        /: : ヘ !: :| lx'´`ヾ弋j,,r=x\/ イ:.:「,r=ミ   f廴ム レ⌒i ,′
     ,ィ/: : : : : :ヘ.从 ゝ  、_ ´   `ナ,イトf j マチ )  //// jソ/
.    //: :: :/: : : : : :`Y "゙゙ r― - _"゙゙/ノ丿!ゝト、///ヽ     ノノ
  // / : : / : :/: :_}}ヽ、弋_.ノ /,r==ノ'   \ t='    ,イ
 i: :// / : : / : :/ /´{{〃`ー|>、_ .ィイ7{{ヾ⌒ヽ,.x-‐、/卞、. _ / |
 !.// / : : / : :/: :! 〃 ; j一/〃 ij jj   }   `ヽ \   1`ー- _
 ||/ / : : / : :/ : :|.〃  `' / 〃       |     ヘ   `マ ヽ  rく入
  [│ / : :〃: :/~ヽ   _〃  、_,     |  ,    ヘ ./|==〉 〉)ヘ,
  |/!. / : :〃/    `ー´   `ヽ. ,' |    !.  ',  !   ∨ ヽ、 レ´ /  j}
   Vj. : :r 〈            ヘ |.   |   ヘ j/     Y   //
    |: :/j: :.ヽ            ', |   |   ム        | |゙ーァ´〈
      V|│ : : ', ´` 、        j |   !    ソ       | | .{|  ',
       Vレ|/|/l        ̄`     / !.   l    〈        ',_ノ|!  〉
          ',             /  .l    |    ゝ          ',  〉
02131/102016/03/05(土) 00:21:16.21ID:???
ニヤニヤできるかわかりませんが時節ネタいきます

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3月3日放課後
いつも通り帰ろうと腰を上げたところでそれぞれ固まっているシンジとカヲル
いかにも嬉しげな満面の笑みで前に立つアスカ
後ろには鞄を持ったレイとヒカリ
「…そういうことで、今日はレイん家に直行するから。じゃね、また明日」
胸前で軽く手を振り、長い髪をひるがえして背を向けるアスカ
レイ・ヒカリと何やら仲良く喋りながら教室を出ていく
取り残される男子二人
興味深々で寄ってくるトウジとケンスケ
「何や何や、今日は二人とも彼女に置いてけぼりか。珍しぃな」
「雰囲気からしていつもみたく校門で合流って訳でもなさそうだし、こりゃ、明日は雪でも
 降るんじゃないのか?」
野次馬顔の二人に溜息をつくシンジ
「…大げさな言い方しないでよ。別に約束してる訳じゃないし、毎日一緒には帰ってないって」
すかさず突っ込むトウジ
「せやけど、置いてけぼりは置いてけぼりやろ」
「まあ…そうだけど」
「で? 原因は何なんだよ」
カヲルの露骨な迷惑顔をものともせず乗り出してくるケンスケ
もう一度溜息を洩らすシンジ
とりあえずいったん鞄を机に下ろす
「よくわからないけど、綾波の家で雛祭やるらしいよ。委員長も呼んで」
へえーと感心する二人
「これまた今どき珍しなぁ」
02142/102016/03/05(土) 00:21:45.85ID:???
「要はパーティか。何だよ、それならお前らも一緒に行っても良かったんじゃないの?」
「女の子のお祭りだから、男子禁制なんだって」
ちょっと不服そうな顔をしているシンジ
「まあなぁ。妹も小さい頃やっとったけど、クラスの女子しか呼んでへんかったな」
「っていうか、高校生にもなってやるか? 普通。…まあ、綾波ならわからんでもないか」
「それどういう意味」
カヲルに睨まれて慌てて机に乗せた腕をどけるケンスケ
焦って身振り手振りが大きくなる
「いや、ほら、綾波って独特の雰囲気あるだろ。自分の世界持ってるっていうかさ」
「せやな。お嬢様ちゅうたら大げさやけど、なんやこう育ちがええ感じやな」
隣で普通に頷くトウジ
目を細めて二人を観察しているカヲル
「そうだ、あれだ、わからんでもないじゃなくて、似合う! 似合うだよ、うん」
「ならいいや」
あっさり元の無関心顔に戻るカヲル
呆れるシンジ
「…あのさ、渚ってほんと綾波のことになると人が変わるよね」
「君だってアスカさんのことになれば同じだろ」
「…う」
面白そうに二人を眺めているケンスケ
特に他にネタはないらしいと見て、自分の鞄を取り上げる
からかいながら部活に向かうトウジ
お互い冴えない顔を見合わせ、帰途につくシンジとカヲル

寮への帰り道
無意識に何度も溜息をついているシンジに、さすがに辟易した目を向けるカヲル
「…そんなにがっかりする? 僕と帰るの」
02153/102016/03/05(土) 00:22:20.95ID:???
やっと気がつくシンジ
弁解ぎみに照れた顔をそむける
「そんなことないけど、アスカとの帰りとはやっぱり違うからね」
「…はっきり言うね君って」
カヲルの、呆れるのを通り越して感心しているような顔
我ながら自分がはがゆいシンジ
いつもなら一緒に通る風景のいちいちがアスカを思い出させる
結局また溜息をつく
隣で同じく浮かない表情になるカヲル
「…雛祭ね。集まって何やるんだろ」
意外そうに視線を向けるシンジ
「何って…普通に、綾波のお雛様見たり、お菓子食べたりするだけじゃないの。
 そういえば僕らも小さい頃やったよね。綾波の家に呼ばれてさ」
「そんな昔のことよく憶えてるね」
「憶えてるよ。あの頃はまだ何も心配事なかったしさ。父さんも母さんもいて」
気遣うカヲルに小さく首を振るシンジ
ちょっと思い出し笑い
「考えてみたらさ、渚と綾波って、その頃から一緒って見られてたんだよね。
 うん、憶えてる。二人で並んで座ってたら、色白でかわいい、お雛様みたい、とか
 周りの大人に言われてさ」
複雑な表情になるカヲル
「…それ、言われた方はあんまり嬉しくないんだけどね」
「そうなの?」
「要するに人形みたいにいい子でいてねってことだろ。大人の言うことよく聞いて、って」
「そうかな…単に見た目がかわいいっていう程度の、よくある褒め方だと思ってたけど」
「それだって同じさ。外側だけ見てる。僕らがどう思ってるかは問題にしてない」
突き放す言い方をするカヲル
とまどうシンジ
02164/102016/03/05(土) 00:23:11.09ID:???
「…何か、嫌な思い出とかあるの? 渚。…だったら、無神経でごめん」
「違うよ。ごめん、そういう意味じゃない」
珍しく鬱屈を残した顔で前髪をくしゃくしゃに弄ぶカヲル
「…たださ、いくらかわいかったからって、君もアスカさんに『お人形サンみたいに綺麗だね』
 なんて台詞は吐かない方がいいよ。なんか上から目線っぽく聞こえるし。アスカさんだと、
 ものすごく反発される気がする」
「…わかった。気をつけるよ」
追及せず引き下がるシンジ
もう一度カヲルを見る
はっきり言って端整な顔と姿
同じく容姿端麗なアスカを思い浮かべる
(…確かに人形くらい綺麗かも。雛人形じゃなくて、高価なビスクドールとか、そういうちょっと
 近寄りがたいくらいの感じの綺麗さ。…最初はほんとに信じられなかったもんな、アスカが
 僕を見てくれてるってことが)
最後に自分のどう転んでも平凡な外見に思い至り、何度目かの溜息をつくシンジ

「たっだいまー」
玄関を上がるなり驚くアスカ
漂う焼き菓子の匂い
キッチンからマリの声
「お帰りー、姫」
鞄も置かずにキッチンを覗き込むアスカ
エプロン姿で振り返るマリ
「ケーキ焼いてるの? …マリのバースデー、今日じゃないわよね?」
「違うよ。姫、今日、友達の雛祭に呼ばれたんだよね? だからこっちもせめて、と思ってさ」
「せめて…って」
02175/102016/03/05(土) 00:23:43.20ID:???
出された紅茶のカップを手に、ケーキを仕上げるマリの手元を見守るアスカ
けっこう真剣にデコレーションしているマリ
「うちにはお雛様ないじゃん。それに私はキョウコママじゃないからね」
「ママ? 何で?」
アイシングで器用に雛人形の絵を描いていくマリ
目を上げずに答える
「姫は知らないか。雛祭はさ、女の子のお祭りでもあるけど、母と娘の日でもあるんだよ。
 でもま、日本暮らしでもない、ドイツで仕事に飛び回ってるキョウコママに、そこを要求するのは
 無理があるし。私も、お昼に姫からメールもらうまですっかり忘れてたしね、雛祭なんて」
ふと真顔になるアスカ
「…マリ、もしかして気にかけてくれたんだ。私のこと」
笑うマリ
「そこまで深刻に悩んでにゃいよー、さっきも言ったけど、私はキョウコママじゃないから。
 それに気にかけてるのはいつもだよん」
あくまで軽く言うマリ
それにならって、あえて笑顔で冗談にしてしまうアスカ
「何よ、マリのくせに、偉そうな顔して」
「にゃはは」
夕食前だけどと言い訳しながら、できたてのケーキを切り分けるマリ
さっそく口に運ぶアスカ
「でさ、姫はどうだった? 初めての雛祭体験。…彼氏も抜きで、さぞかしガールズトークが
 盛り上がったんじゃにゃーい? 花の女子高生!」
「結局それが聞きたいわけ。ダーメ、黙秘」
むくれてみせるマリをよそに、レイの家の雛壇を思い出すアスカ
「そうね、綺麗だったわ。それに人形が男女、対等に並んでるってのが気に入った。
 女の方が衣装とか小物がなんかカラフルで豪華だし」
02186/102016/03/05(土) 00:24:36.74ID:???
「十二単! 日本の女の子が一度は憧れるんだよね。姫もあれ好きなんだ」
「そりゃそうよ。だって将来は自分もあれ着るかもしれないって思えば、当然じゃない」
ん?と変な顔するマリ
気づかないアスカ
「まあ、見た感じ長いしすっごく重そうだけど、あれが正式な衣装なんでしょ? 動きづらくても、
 あれだけ華やかなら我慢する価値ありそう。ねえ、色とかは自分で選べるの?」
しばらくアスカを眺めているマリ
数回瞬きを繰り返し、にやりとする
「うん、みんなそれにすっごい時間かけるんだよ。一生に一度の晴れ舞台だからね」
「やっぱり! んー、ドレスとあれならどっちがいいかな…」
「へぇー、姫、式は日本で挙げるつもりなんだ」
はたと我に返って口をつぐむアスカ
にやにやしているマリを睨みつける
「…かっ、仮定の話よ、あくまで。ほら、馬鹿シンジがドイツに来る度胸あるかわかんないし!」
「あーそう、本気なんだ。うんうん、いいねぇ」
「何よその顔! 悪い?!」
「悪かないけど、彼氏にはちゃんと先に聞いとくんだよー」
「うっさい! 大きなお世話よ!」
ますますにやつくマリに文句やら照れ隠しやらを山ほど投げつけて自分の部屋に逃げるアスカ
皿を片付けながら改めて噴き出すマリ
「…完全に思い込んでる。うーむ、いつ気がつくかにゃあ」

3月4日早朝
いつもの場所でアスカとレイに合流するシンジとカヲル
何となくいつもより距離感を意識し合っている二組
ぎこちないような照れくさいような空気を払拭すべく、昨日のことを笑い話にする
「でさ、シンジ君てば夕食の間もずっとボーッとしててさ。もう溜息つきっぱなし」
02197/102016/03/05(土) 00:25:20.07ID:???
「渚こそ、明日綾波に会えるか心配で眠れないとか言って、人の部屋にずるずる長居しただろ」
「しょうがないだろ、本当だったんだから。あ、そしたらシンジ君もつられてだんだん落ち込んで
 きて、二人してお通夜みたいな空気になっちゃったよね」
「よく言うよ。お通夜どころじゃなくて自分が死にそうな顔してたくせに」
大笑いするアスカ
レイも口元を押さえている
「あんたたち、馬っ鹿じゃないの? 一日離れてただけでそんなに寂しがるわけ? 子供?」
「うるさいなー、なんて繊細なんだくらい言ってよ」
文句言いながらも目はレイを気にしているカヲル
放っておいてシンジのすぐ隣に身を寄せるアスカ
一瞬止まるシンジの息遣いに目ざとく気づいて、微笑んでみせる
苦笑するシンジ
「どうなのよ。寂しかった?」
ちょっと迷ってから小さく答えるシンジ
「…うん。みっともないけど、自分がどうかなっちゃうんじゃないかと思った」
「ふふん」
満足げに見つめ返し、軽く肩に肩を触れさせるアスカ
「正直でよろしい。それ聞いただけでも、昨日行った分の元は取れたかもね。
 大事な情報も手に入ったし」
「…情報?」
傍らを歩きながらなにげなく髪をいじるアスカ
「ねえ、シンジ、…これはあくまで仮の話なんだけど、…シンジなら、どっちがいい?
 やっぱり日本人なら、ドレスよりお雛様衣装の方がしっくりくるのかしら」
けげんそうなシンジ
心なしか小声で、けれど生き生きと喋っているアスカをしげしげと見つめる
「あ、私は別に、普通に白のブライダルガウンでもいいんだけど。でも、ほら、…ああやって
 並ぶのもなんか、いいかもしれないし。私もシンジがあの恰好するの、ちょっと見てみたいし」
02208/102016/03/05(土) 00:25:56.10ID:???
ふとシンジの顔を窺って口をつぐむアスカ
嬉しそうでも恥ずかしそうでもないシンジの表情
「…何よ、子供っぽいと思ってるわけ」
「いや…そうじゃなくて、何の話…? お雛様のこと話してるんじゃなかったっけ?」
本当に訳がわからない様子のシンジに苛立つアスカ
「だから、その話よ! 一応聞いてみただけ! 別に嫌ならいいわよ、私は!」
「…えーと」
ようやく事態を察するシンジ
慎重に言葉を選ぶ
「…アスカ、雛人形って別に、日本の結婚式を表してるわけじゃない、んだけど」
「え」
一瞬ぽかんと目を見開くアスカ
信じられないように数回瞬きする
「…え? だって、ああやって並ぶのが日本の伝統なんじゃないの?
 あれが日本の結婚衣装なんでしょ?」
異様な雰囲気を見て取って後ろから覗き込むカヲルとレイ
「そうなんでしょ? 十二単って、マリもそう言ってたし…あ」
真相に気づくアスカ
羞恥と怒りでみるみる真っ赤になる
あまりの急変ぶりに慌てるシンジ
「マリ!! あの猫メガネ!! 最低、根性悪、イカズゴケ、信ッじらんない!!」
背後で我慢できずに噴き出すカヲル
状況は理解したもののどんな顔していいかわからないレイ
「アスカ、ちょっと落ち着いて」
「落ち着けるわけないでしょ! そこ、笑うな!!」
気の毒そうに涙を拭くカヲル
「マリさんか。ならしょうがないよ。あの人、調子に乗るとこあるからなぁ」
「ごめんなさい、私、そういえば全然説明、しなかった」
02219/102016/03/05(土) 00:26:44.80ID:???
怒りもあらわに両手で荒っぽく宙を払うアスカ
「いいの! もういいわよ、どうせ私が馬鹿で物を知らないってだけよ! 
 …馬っ鹿みたい、もう、今日は先に行くから!」
大股に三人から離れるアスカ
馬鹿馬鹿しいやら恥ずかしいやら、よりによってシンジに訂正された悔しさやらで顔が熱い
後ろから追いついてくる足音
きっと振り向くアスカ
黙って傍らに並ぶシンジ
表情を見られたくなくて顔をそむけるアスカ
しばらく足音だけが響く
やがて、ぽつりと言うアスカ
「…いいわよ、馬鹿にして。もう諦めついたから」
「しないよ。そんなことで追いかけてきたんじゃない」
「なら、何よ」
隣でシンジがためらう気配
怒った顔のまま耳だけ澄ましているアスカ
シンジの声
「…なんていうか、嬉しくて。
 アスカが、雛人形見ながら、そんなふうに思ってくれてたんだなって。…まだ少し信じられない
 くらいだけど」
情けなくなるアスカ
うつむく
「…どうせ信じがたいほどの馬鹿よ、私は」
「そうじゃなくて。ごめん」
抑えた声が遮る
「アスカ、…本当に、僕でいいの? アスカの隣に並ぶのが、僕、なんかで」
息を止めるアスカ
022210/102016/03/05(土) 00:28:25.02ID:???
思わず向き直ってシンジを睨む
「馬鹿、あんたしかいないわよ」
言ってからもう一度、声もなく真っ赤になる
自身もうろたえて目を合わせられずにいるシンジを、前髪で顔を隠すようにして見る
唇を軽く噛み、続きを言う
「…あんたしかいないわ。あんたはどうなの」
感電したようにシンジの両肩が跳ねる
無防備に見開かれた目
そこに自分の望み、願い、祈りそのものを一瞬重ねるアスカ
怒ったように顔を伏せるシンジ
「…僕も、アスカしか、いないよ。
 誇れるような自分じゃないけど、それでもアスカが好きだから。…こんな僕でも」
「なら、充分よ」
吐き出して、また目を逸らすアスカ
乱れた足音がまた落ち着き、揃っていく
ふと視線を向けるアスカ
とたんにシンジと目が合い、内心、爆発しそうに焦る
同じくらいまた無防備に感情を見せているシンジの顔
しばらく見守り、小さく微笑むアスカ
つられたようにシンジが照れ笑いの表情になる
どちらからともなく手を手に触れさせ、やがてしっかり繋ぐ二人
互いのほてった頬を胸のうちで誇る
揃った足取りで歩いていくシンジとアスカ
春の陽射しに眩しげに目を細め、笑い合って、行く手に見えてきた校門を目指す
0231名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/03/13(日) 02:19:45.21ID:rzr6kvNK
やっとるかねー?
0233名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/03/14(月) 10:52:09.05ID:AnJoYgFT
エヴァの学園シーンは好き
02371/82016/04/05(火) 23:33:03.92ID:???
一ヶ月も空けちゃいましたね…すみません、通りすがりです
いつものごとく小ネタ殴り書き行きます
---------

満開を少し過ぎた桜
あいにくの曇天の下でもほのぼのと微光を含んで差し交わす枝々
花明かりの下を登校するシンジとアスカ
振り仰ぐ頭上から音もなく花びらが舞い落ちてくる
並んで歩く互いの靴音に耳を澄ます
いつもの道、いつもの風景がどこか新鮮で不慣れなものに感じさせるかすかな不安
「新学期か。もう三度目なんだね、この同じ桜の下を歩くのって。…これで最後。
 なんか、不思議だね」
「なーにしみじみ浸ってんのよ」
感慨深そうなシンジを笑ってみせるアスカ
「時間は黙ってても過ぎてくんだから、そんなの当ったり前でしょ。
 振り返るのはもっと年を取ってからよ」
むっとした表情を次第にほどいて、結局照れ笑いするシンジ
一瞬見つめるアスカ
また少し背が伸びた
けれど、歩調はいつものようにアスカに揃えてくれている
その額を吹く同じ風にアスカの長い髪がそよいで流れる
「…そうだね。たださ、…ときどきまだ、信じられないような気になるときがあってさ」
「何がよ」
鞄に付けた十字架のペンダントを見つめ、軽く触れるシンジ
振り向いてアスカの眼差にとらわれる
白い小さな顔、吸い込まれそうな青い目
ふと言葉の先を忘れてしまうシンジ
02382/82016/04/05(火) 23:33:57.81ID:???
待ち構えるアスカの表情にせかされて慌てて思い出す
「…何もかも。東京の学校に通って、いろんな経験して、今まで全然知らなかった人たちと
 友達になって。君に出会って、こうして隣にいることも。…違和感じゃないんだ、ただ、
 幸せって言っちゃうには、少し…怖くて、さ」
言いながら気恥ずかしくなってくるシンジ
やや伏せた目でアスカを窺う
きりっとした横顔を見せて歩くアスカ
一瞥
「馬鹿ね」
苦笑するシンジ
「…そう言うと思った」
急に手を握りしめてくるアスカ
思ったよりきつい感触に息を呑むシンジ
「どうしたの?」
「…別に」
目を逸らすアスカ
熱くなってくる頬を自分でいぶかしむ
手の中のシンジの手をもっとぎゅっと強く掴んでやる
そうしなければ、今この瞬間にもすり抜けて消えてしまうかもしれない
でもそんな恐れは言葉にはしない
「…アスカ?」
ひと呼吸で自制を取り戻して顔を上げるアスカ
02393/82016/04/05(火) 23:35:15.75ID:???
「何でもないわよ。…あんまりフワフワしたこと言ってるから、私があんたを、繋いどいて
 あげよっかなってだけよ。何年経っても、ホント、馬鹿シンジね」
気弱な表情になるシンジ
「…ごめん」
「いいわよ、わかってるから」
「うん。…でも、ありがとう」
「…ば」
一瞬脚がもつれ、つんのめりかけるアスカ
慌てて支えるシンジ
自分から握りしめた手が震えそうになるのに焦る
それぞれに、勝手に反応する自分の身体をどやしつけたくなる二人
過敏でどこか親密な沈黙
花だけがしきりに舞い落ちる
やがて、ふうと息を吐き出すアスカ
「…サクラ、か。
 ほんっと、日本人って桜大好きよね。東京じゅうどこに行ってもこの花ばっか。ニュースじゃ
 毎日どこのサクラがどのくらい咲きましたーなんて大真面目にやってるし。ヘンよ」
いつもの調子で小気味よく言い放つアスカ
苦笑いするしかないシンジ
「日本人でもときどきそう思うよ。…アスカは、じゃあ桜はあんまり好きじゃないんだ」
「べっつにー。まあ綺麗だけど、好きでも嫌いでもないわ」
まだ続いている桜並木を見上げるアスカ
ほのかな薄紅色の広がりを透かし見る
降りかかる花びらに包まれた顔が、ふっと静まる
「…でも、ドイツに帰ったら懐かしくなるかもね、たぶん」
02404/82016/04/05(火) 23:36:10.52ID:???
「え」
歩みが止まるシンジ
流れる花
何でもないように先を行くアスカ
振り返る
まだ足を踏み出せないシンジ
周りの光景が急速に退き、取り残された自分を遠巻きにするのを感じる
口を開いても言葉が出てこない
こちらを見ているアスカ
いきなりぷっと噴き出す
「え…?」
混乱するシンジ
鞄を胸に抱えて大笑いしているアスカ
涙目を拭きながら戻ってくる
「馬鹿ねー、ジョークよ、ジョーク。真剣な顔で心配しちゃって、おっかしー」
ようやくからかわれたことを納得するシンジ
「ちょっ、…何だよそれ、ずるいだろ!」
「あーもー、本気で怒っちゃって。顔、真っ赤よ。ちょっと恥ずかしー。やーねー」
「あ、アスカのせいだろっ!」
まだ笑っているアスカ
憮然とするシンジを残してくるりと身をひるがえし、また歩き出す
「ほら、いつまでも拗ねないの。置いてくわよ」
無造作に言われ、悔しいけれど後を追うしかなくなるシンジ
いつのまにか自分でも声に出さずに笑っている
並ぶのを待たずに急に足を速めるアスカ
呼び止めようとして、道の先に気づくシンジ
少し前方を歩いているカヲルとレイ
「おっはよー、レイ! 今日は二人なんだ」
02415/82016/04/05(火) 23:37:05.86ID:???
ぱっと見開いた目をまた優しく伏せるレイ
「…うん」
「どう、いいでしょ? 一緒って」
にこにこ顔で覗き込むアスカ
ますますうつむいて頷くレイ
「うん。うれしい」
「でしょ!」
自分まで嬉しそうに頷くアスカ
明らかに邪魔されたという顔で割り込むカヲル
「…君らはいつも通りだよね。ケンカするとこも含めて」
きっと振り向くアスカ
「は? 何でそこでケンカが出てくんのよ」
「聞こえてたから。さっきからずっと。君さ、声大きいんだよ。自覚ないだろうけど」
「え…ほんと?!」
動じないアスカと逆に慌てだすシンジを、呆れたように眺めるカヲル
横で小さくくすくす笑うレイ
ふんと顔を逸らすアスカ
「別にケンカじゃないわよ。馬鹿シンジが勘違いしただけ。ね、シンジ」
「…って、勘違いじゃないだろ、アスカが変なこと言い出すからじゃないか!」
思い出してもう一回腹を立て、さっきのいきさつを二人に打ち明けるシンジ
全然悪びれないアスカ
「何よ、あんなの本気にする方が悪いのよ」
「だからって卑怯だよ、いくらなんでも。そう思わない?」
意外と冷めた、どこか突き放す目でシンジを見返すカヲル
やや勢いを削がれるシンジ
「…何だよ」
「別に。どっちもどっちだし」
02426/82016/04/05(火) 23:38:21.29ID:???
「どっちもって…」
「君も悪い」
さっさと視線を逸らすカヲル
またも憮然となるシンジにたたみかける
「君がいつまでもフラフラしてて頼りないからだろ。
 せっかく二人でいられる時間なのに、君はどうせ、新学期で少し不安だとか、どうでもいい
 こと愚痴ったんじゃないの? その割にこの先なんか全然実感ないんだろうし、進路も確か
 いまだに迷ってるし、そんなんじゃアスカさんじゃなくても叱りたくなるよ。むしろ冗談に
 紛らわしてくれたことに感謝すべきだと思うね」
「…そこまで言うんだ…」
いちいちごもっともなので反駁できないシンジ
うんうん頷いてみせながらちょっとむっとしているアスカを横目で見る
ふふっと笑うレイ
ぱっと構えを崩されるカヲル
「ごめんなさい。碇君は悪くないわ。
 向こうに呼び戻されるかもしれなくて、少しナーバスになってるだけ。八つ当たりなの」
ぽかんと目を見開くシンジとアスカ
「どういう意味よ?」
「呼び戻されるって、渚が? …どこに」
穏やかな目のままふっと微笑を曇らせるレイ
「また、日本を離れることになるかもしれないの。…大丈夫、まだ決まったわけじゃない」
「…レイッ」
本気でうろたえた表情を見せるカヲル
「何言ってるんだよ、シンジ君にはまだ話さないでおいてよって頼んだじゃないか」
02437/82016/04/05(火) 23:39:35.59ID:???
首を振るレイ
「駄目。言わない方が、ずるいもの」
「そうだけどさ…ああもう、だけど僕は嫌だったんだよ」
「嫌なのは、碇君たちと離れることの方でしょ。強がることない」
前髪をぐしゃぐしゃかき回し、情けない顔でシンジとアスカを見るカヲル
それぞれに気遣う表情をする二人に少し眉根を緩める
「…本当なの? 渚」
訊かずにはいられないシンジ
「…うん。嫌だけどね。…まあ、レイも言ったけど、決まったわけじゃないから。気にしないでよ」
「だけど…」
「だからやめてってば。そうやって気遣われる方がしんどい」
返す言葉を持たないシンジ
四人の沈黙に降りかかる桜の花びら
シンジの沈んだ顔を見て自分がやりきれなくなったようにかぶりを振るカヲル
簡単な言葉を重ねないアスカをちょっと尊敬の目で見やる
「そういう訳だからさ、僕だっていつまでも君のこと心配してられないんだよ。もっとしっかりしなよ、
 アスカさんに見ててほしいならさ」
「…渚」
口ごもるシンジ
思い直して、頷く
「…わかったよ。すぐには無理かもしれないけど、自覚くらいする」
ふいに見つめられて、一瞬無防備に驚くアスカ
シンジの眼差の強さに素直に心を寄せる
「アスカに置いてきぼりにされないような、…男、になるよ。…だって、さっきわかったんだ。
 アスカに置いていかれたら、僕は何もできなくなる。そんなのは絶対に嫌だ」
言い切るシンジ
ゆっくり高鳴る胸を抱きしめるアスカ
大切すぎて、馬鹿、といつものように軽く退けることもできない
02448/82016/04/05(火) 23:40:52.14ID:???
黙っているアスカの隣でレイが微笑む
「そう。アスカは碇君に、いつも繋ぎ止めていてほしいの。だから、いつでも先に行こうとするの。
 アスカを、ちゃんと見ていてあげて。碇君」
淡いけれど確かな声で言葉を紡ぐレイ
紅潮した頬で文句を言おうと振り向くアスカ
とたん、シンジの目と目が合って、そのままレイの言葉を否定もできずに横顔を向ける
自分も顔じゅうが熱くなっていくのを意識するシンジ
ふと視線を移すと、やや不安げな、けれどひどく優しい目で彼らを眺めているカヲル
小さく笑い返すシンジ
「…うん。ありがとう、渚、綾波」
その手をアスカの手が掴む
はっとするシンジ
何も言わずに強く握り返す
振り返り細い肩越しに見上げてくるアスカ
もういつもの強気な表情
「じゃ、さっさと行くわよ。…何まとまったみたいな顔してんのよ、まだ朝よ、朝! 一日まだ
 始まってもいないでしょうが。時間は黙ってても過ぎるけど、過ごすのは私らよ。
 ほら、急ぐ!」
はっぱをかけるアスカ
お互い顔を見交わして、誰からともなく笑いがこぼれ、あっという間に皆に伝わる
せかすアスカを先頭にまっすぐ桜の道を進んでいく四人
花の雲が連なる先に校門が見えてくる
四月

---------
受験のお話を書ける自信がないので(265さんが始めてくださってますし)もうちょいでひとまず完結かもです
というか実のところ、毎回これで終わってもいいつもりで書いてます、基本小ネタですし…
あと一回くらい絵も描きたいなーと思いつつ、今夜はこれで失礼します、通りすがりでした
02531/82016/04/26(火) 22:27:46.46ID:???
こんばんは、通りすがりです
もうすぐGWですね(自分は仕事で全滅)ということで小ネタを一つ
自分には珍しく?前後篇の前篇みたいな感じになります

-------
新緑に囲まれた学校
明日からの連休を前に、教室にも廊下にもどこか浮かれた雰囲気が流れる
やや喧騒の薄い三年の教室
先ほど配られた連休明けの実力テストの日程のプリント
深刻な顔で覗き込む生徒数名
そのうちの一人たるケンスケ
おおげさに溜息をつく
けげんな顔するシンジ
「どうしたの? いつもテストはうまくやってるのに」
「それどころじゃねーんだよ…」
演技たっぷりに呻いて額に手を当てるケンスケ
プリントに印刷された日付の一つを指さす
「この日! この日だけなんだよ、横須賀の乗艦見学ツアー!
 今年初のタイプの寄航もあるし、これを逃しては或いは永遠に、なんだよ!」
らんらんと反射する眼鏡
やや引くシンジ
「え…っと、…何だっけ、軍艦?見に行くって言ってたっけ…?」
「それ以外あるかー!」
がっくり突っ伏して頭を抱えるケンスケ
呆れ顔でとりあえず見守るシンジ
「あああ畜生、最優先でパス確保したのに! 何でよりによってこの日なんだぁああ!!」
「何騒いどるねん。
 んなもん、写真部の2年にでも頼んで代理で行ってもらえばええやん」
02542/82016/04/26(火) 22:29:40.57ID:???
覗き込むトウジ
見上げるシンジに肩をすくめてみせる
まだ机にごつごつおでこをぶつけているケンスケ
絶望のあまり聞こえていないらしい
同時に目をやり、揃って緩い顔で溜息をつく二人
「そういえばトウジ、今度のテストは普通枠で受けてみるって言ってたけど、ほんとなの」
「まぁな」
「特待生枠なら優遇されるのに。…部活、何か上手く行ってないとか?」
「そういうわけやない。けどな…」
ちょっと言いよどんでがしがし頭を掻くトウジ
「受験どこにするかはまだ決められへんとして、そろそろまともに勉強せぇへんと、
 なんて思ったりしてな。…この学校には特待生で入れたけど、ワシなんかよりもっと
 才能ある奴は幾らでもおるしな。いろんな大会行かせてもらって、ようわかったわ。
 せやから、まぁ諦めるわけやないけど、一度学生としての腕試しっちゅうか、今後の
 運試しみたいなもんやな、ワシなりの」
精悍な感じのトウジの横顔
ふっと不安になって自分の内面を省みてみるシンジ
未だに進路をはっきり決められずにいる自分
同い年のはずのトウジがふいに幾つも年上の大人のように見えてくる
シンジの視線に気づいて照れ笑いするトウジ
鼻の下をこするしぐさが子供に戻す
「何やろ、ま、ゲンかつぎとか、けじめやな。うん」
02553/82016/04/26(火) 22:30:48.60ID:???
つられて少し笑うシンジ
「覚悟、みたいなもの?」
「せやな」
「何言ってんのよ、この嘘つき」
「…おぅわ?!」
変な声出して1mくらい退くトウジ
その身体の陰から向こうを見透かすシンジ
「…アスカ?」
ふふんと鼻で笑って歩み出るアスカ
両手を腰に当ててトウジを見上げる
「な、何が嘘なんや、この」
「嘘よ嘘、大嘘つき。…ヒカリと一緒の大学行けたりしないかなーとか思ってるんでしょ?
 それで勉強頑張る気になったってとこ」
全身でガタッと横の机に逃げるトウジ
泡食って否定しようとするが言葉にならない
教室の反対側で同じく全身で動揺して周りに心配されているヒカリ
完全勝利の目で笑うアスカ
「別に悪いことでも恥じることでもないでしょ。堂々としてなさいよ」
まだ百面相しているトウジは放って、シンジに向き直る
「ね、馬鹿シンジ。あんたはどうするの? 連休。また、あんたのおばさんとこに帰省?」
「…え」
急に自分が話題にされて慌てるシンジ
シンジの机に片手をついて覗き込むアスカ
「どうなのよ」
02564/82016/04/26(火) 22:32:15.56ID:???
「あ、ううん。今回はこっちに残って、テスト勉強に専念しようかなって思って。
 そろそろ授業も受験モードだし」
「…ふぅん」
急に身体を引くアスカ
思わず目で後を追うシンジ
つんと顔を逸らして髪を払うアスカ
「なぁんだ、つまんないの。勉強くらいいつでもできるでしょ。ちっとは若者らしく遊びなさいよ」
言いさしてシンジの様子を横目で窺い、ふと視線に囚われる
照れながら柔らかい表情で苦笑しているシンジ
いつくしむような眼差
引き込まれるアスカ
「…それって、もしかして、誘え、って意味?」
ぱっと顔をそむけるアスカ
「そこまで言ってないわよ。私も今日から明後日までは、家、空けられないし」
指先がスカートの生地を意味なくいじっているのに気づくが、抑えられない
「空けられないって…マリさんの家、だよね?」
気づいても注視することなく、先を訊ねるシンジ
「そうよ」
ちょっと唇を噛むアスカ
ほっとすると同時に、もっと気にしてほしいような悔しさを少し持て余している
「こんな時期に出張だって。帰ってくるまでは一応、私が留守番してないといけなくて。
 面倒くさいけど、ま、居候させてもらってる身だし、このくらいしないとね」
「そうなんだ…」
今のうちにとこそこそ退却していくトウジを目で追うシンジ
とたんに、目の前にアスカの手がばんと突かれる
02575/82016/04/26(火) 22:33:45.88ID:???
焦って見上げるシンジ
「そうなんだ、じゃないでしょうが」
ほとんど鼻と鼻がくっつきそうなくらい顔を寄せて睨みつけるアスカ
おおーと色めきたつ周囲には目もくれない
お互いだけに聞こえるくらいの低い声で憤りを突きつける
「女の子がたった一人で三日も留守番させられるのよ? 心配じゃないわけ?」
「い、いや、心配は心配だけどさ…だからって、僕が何かするわけにもいかないし」
じりじりと椅子を引くシンジ
逃すかと机ごとさらに詰め寄るアスカ
「…あんた、連休帰らないなら、寮よね」
「…そうだけど」
容赦ない目で見据えるアスカ
「泊めて。今夜」
「は?」
理解とともに頭が真っ白になるシンジ
同時に椅子もろともバランスを崩す
「…うわッ」
「シンジ…!」
小声で叫ぶアスカ
直後、安堵もそこそこにものすごく嫌そうな顔になる
「…ぐ」
両脇掴まれて目を開くシンジ
がたんとそのまま椅子ごと前に戻されて、元の体勢になる
慌てて振り返るシンジ
心底呆れ果てた目で見下ろすカヲル
「…ほんっと、君らって見てて飽きないよね」
02586/82016/04/26(火) 22:35:57.30ID:???
小さくなるシンジ
「…ごめん、ていうか、ありがと」
軽く頷いてやや目を逸らすカヲル
ふんと腕組みするアスカ
「何よ、またシンジのこと見てたわけ。このストーカー予備軍」
「違う。君の動きがいちいち無駄に派手だからだよ」
「は? 無駄とは何よ」
「…やめようよ、アスカ、渚も」
さすがに周囲の好奇の目を気にしてそわそわと二人を制するシンジ
聞かない二人
「やめるならアスカさんだろ。ていうか、僕は被害者だし。君の。あー、重かった」
「う…悪かったよ…」
「馬っ鹿みたい。あんたが勝手に手ぇ出したんでしょ。あ、さては今日レイが
 模試休みだからって、寂しいの紛らわそうとしてんでしょ! それでシンジに絡んで
 きてるわけ? あ、ほら、怒ってる! 図星!」
「違うよ。何だよ君、シンジ君の傍だからって安心して強気になってさ」
「はぁ?! どういう意味よそれ!」
「だからやめようって…」
伸ばしたシンジの手をぱんっと払うアスカ
思いがけず本気の怒りの目を向けられてひるむシンジ
アスカがなぜそこまでむきになったのか訳がわからない
余計苛立つアスカ
「何よ、そもそもはあんたがぼーっとしてるからでしょうが! もういいわ、知らない!
 オトコ同士勝手に仲良くやってなさいよ! 馬鹿っ!」
勢いよく言い捨ててきびすを返す
慌てて立ち上がるシンジ
02597/82016/04/26(火) 22:39:13.78ID:???
「アスカ…」
一瞬だけ振り返るアスカ
背中を向けてとどめの一言
「今日は一人で帰る! ついてこないでよ!」
絶句するシンジ
呆然と立ちすくみ、そのまますとんと椅子にへたりこむ
苦い味を噛みしめたような表情のカヲル
ざわざわし出す周囲

男子寮 深夜
自室の天井を見上げているシンジ
結局、本当にあれからアスカは一切話しかけてこず、帰りもさっさと一人で行ってしまった
問いただすはおろか何を言う隙も与えないアスカの固い表情が甦る
小さく息を吐き出すシンジ
何も手につかず、ベッドに入る気にもならず、ただカーペットに両脚を投げ出して呆然としている
どうしてこんなことになったのかばかりをずっと考え続けている
今日の出来事を繰り返し思い返す
(…何がいけなかったんだろう)
(何が悪くて、アスカをあんなに怒らせたんだ? すぐ前までいつも通りだったのに、何で)
(僕、か…? 僕だよな…僕の何が、そんなに気に障ったんだろう)
出口は見えない
ただ一人で考えているだけだから当たり前
それもわかっていて、でも誰かに打ち明けたり近づく気にはどうしてもなれない
もう一度、今度はやや長く息をついて目を閉じるシンジ
ノックの音
眉根を寄せるシンジ
そのままの姿勢で声を投げる
「渚? 悪いけど、今日はもう寝る。明日にしてよ」
固く目をつぶり、ふいに怒った顔で見開くシンジ
さっきより強いノックの音
02608/8 つづく2016/04/26(火) 22:40:15.62ID:???
ドアを叩く音が苛立ったように何度も続く
口を引き結び、とうとう溜息をついて立っていくシンジ
乱暴にドアを開ける
と、シンジの表情が固まり、みるみる怒りが崩れる
カヲルと、その陰に隠れるようにして立っているアスカ
「…あ」
言葉が出ないシンジ
目でカヲルに訊く
彼なりに困惑顔になっているカヲル
「…君、携帯切ってるだろ。それで僕に掛けたんだって」
呆然としたまま首を振りかけ、ふと思い当たるシンジ
充電が切れたのを、帰ったまま投げやりな気持ちで放っておいたのを思い出す
何度か口を開いては閉じる
ようやく声が戻ってくる
「…アスカ、どうしたの。…何で」
ずっとうつむいていたアスカが顔を上げる
何かを強くこらえている不安定な目
胸の一番奥をぎゅっと掴まれるシンジ
思わず一歩前に出てアスカの両肩を手で包む
アスカの表情が痛いほど揺れる
突き刺さる沈黙
必死に覗き込むシンジ
少しして、心なしか青ざめた唇を開くアスカ
突きつめた声
「…悪いけど、今夜、いさせて。…ちょっとでいいから」
0263名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/04/28(木) 21:52:10.76ID:???
通りすがりです、続きはもうちょいお待ちください orz

>>261-262
いつも見てくださってありがとうございます
…大人な方面はあまり期待しないでいただけると…

お詫び代わりと言ってはなんですが、
先ごろ描いた絵があるので、ご覧いただけると幸いです
ttp://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=56321693
0266ギンコ ◆BonGinkoCc 2016/04/30(土) 04:35:19.20ID:???
ギンコ
「シンジ君!はよう来い!
爆弾が落ちてきたらどうするんだ?」

ゴキッ!

碇シンジ
「いてっ!」
0270名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/05/05(木) 02:27:06.43ID:???
高速のS.Aから訪問
GW中に職人がどんなネタを集めてくるんだろうね

今夜はもう遅いので車中泊になります
おやすみなさい
02731/92016/05/06(金) 22:53:49.74ID:???
こんばんは通りすがりです
進行遅くて本当にすみません
やってはみたけど上手くまとまらないのでこのまま投下します
GW全然関係ないネタで申し訳ないです

--------
明城学院男子寮 深更
シンジの部屋
緊張の面持ちで床に正座しているシンジ
少し離れた隣に同じく腰を下ろしたカヲル
両者の見上げる先、シンジのベッドに向こう向きに座り込むアスカの姿
部屋に入ってからまだ一度も口をきかない
見ているだけで背中に冷や汗が浮いてくるシンジ
散らかったままの室内を打つ手なく眺める
階下の自販機で買ってきた飲み物は手も付けられず放置されている
世にも気まずい沈黙
肩をすくめ、そうっとカヲルに視線を送るシンジ
「…あのさ」
「断る」
小声で即応するカヲル
「僕は案内しただけだから。もう帰りたいんだけど」
「ッて、だからそれは困るってば。頼むよ」
「嫌だね。アスカさんは君に会いに来たんだろ。君が何とかしなよ」
「何とかするったって…」
揃ってアスカの背中を見る両者
と、きゃしゃな肩がぴくんと上がる
どやしつけられたように背筋が伸びるシンジ
呆れ顔のカヲルに目で助けを求めるも無言で断られ、仕方なく恐る恐る声をかける
「…アスカ? …その、大丈夫?」
02742/92016/05/06(金) 22:55:44.96ID:???
「…うん」
ゆっくり半身をこちらに回し、両脚をベッドから下ろすアスカ
ついその動きを目で追ってしまうシンジ
一瞬それを認め、けれどすぐまた瞳を曇らせるアスカ
思わず立ち上がりかけ、しびれた膝下でよろけるシンジ
片手をついて何とか顔を上げる
「アスカッ、何だよ、どうしたんだよ。マリさん家で何かあったの? …まさか、泥棒とか」
本気で焦った顔をするシンジ
剥き出しの心配にやっと少しだけ笑うアスカ
「ううん。何でもない。…単に、一人の家でちょっと心細くなっただけ。
 …もう落ち着いたから、帰るわ。ありがと」
「…帰るったって、もう電車ないじゃないか。今からじゃ無理だよ」
ようやくきちんと起き直るシンジ
膝立ちになってアスカと目を合わせる
されるがままにシンジを見ているアスカ
黙っているとまるで人形のように綺麗で、内面の揺らぎを一切掴ませないアスカの顔
ふいに自信を失うシンジ
視線が床に落ちる
「あ…どうしても帰りたいなら、…送っていく、けど」
「…二人で、歩いて?」
アスカの声がちょっとだけ笑いを含む
ぱっと顔を上げるシンジ
02753/92016/05/06(金) 22:57:49.51ID:???
意気込んで強く頷くシンジ
「うん。ちょっと遠いけど…明日からどうせ休みだし、僕は平気だ。何なら誰かに自転車借りて
 乗せてってもいいし。とにかく危ないよ、こんな遅くに」
アスカの目がふっとためらい、試すように上目遣いに見つめてくる
「…危ないと、思うんだ。私のこと」
目を見開くシンジ
別の言葉を囁かれたような、ほとんど触感に近いざわめき
危ぶむ気持ちのまま頷く
「…、当たり前だよ。何があったのかわからないけど、アスカを一人で放っておけない」
「…そうなんだ」
目を閉じるアスカ
そのままゆるやかに素直な微笑を浮かべる
見とれるシンジ
アスカがまぶたを開く
もう落ち着いている表情
きっぱり首を振るアスカ
「なら、それで充分よ。…心配ご無用、一人で帰れるわ」
「駄目だよッ」
後先考えられず、腰を浮かせたアスカを思いきりその場で抱きしめるシンジ
小さく耳元をかすめるアスカの吐息
真っ赤になってアスカをつかまえているシンジ
「…一人にさせられるわけ、ないだろ。…ここにいてよ、お願いだから」
02764/92016/05/06(金) 23:00:03.98ID:???
静かに息を吸い込み、ゆっくり両手をシンジの背中に回すアスカ
ぎゅっと抱きしめ返す
「…わかった。あんたが頼むなら、聞いてあげる」
お互いの息遣いの中に身を寄せる二人
昼間のいさかいなどもうすっかり消えている
熱い頬に頬をすり寄せてくるアスカ
両腕にそっと力を込めるシンジ
横目でそれを眺め、わざと気配を隠さずに立ち上がるカヲル
「…じゃあ、僕は部屋に戻るから」
我に返るシンジ
アスカをベッドに座らせ、つんのめるようにドアのところでカヲルに追いついて腕を掴む
不機嫌に振り返るカヲル
「…何。あとは二人でいいだろ。それとも僕に見物してろってわけ」
「違うってば。そうじゃないけど…アスカと僕の二人だけでこの部屋にいるなんて、幾らなんでも、
 その、まずいよ」
ものすごく冷めた目で見据えるカヲル
「何がまずいの? 別に告げ口したりしないけど」
「そんな意味じゃないって。とにかく…頼むから、もう少しいてよ、渚」
必至に言いつのるシンジ
アスカと密室で二人になると考えただけで、どうにかなりそうなほど心臓が暴れる
いったん目を閉じて胸を静めようとするシンジ
「…自分でもどうなっちゃうかわからないんだよ。…アスカに、嫌な思いさせたくないんだ。
 アスカを傷つけたくないんだ。…迷惑なのはわかってる、でも」
行かせまいと握った手に力を込めるシンジ
と、カヲルの冷めた目がシンジの顔から背後に動く
02775/92016/05/06(金) 23:01:38.81ID:???
つられて振り返るシンジ
全身が引きつる
目の前にアスカの顔
凍りついたシンジを徹底的に呆れ果てた様子で眺め回すアスカ
おもむろに口を開く
「…いくじなし」
固まった男子二名を放って、くるりときびすを返してベッドまで戻り、どすんと腰を下ろす
完全に思考が止まっているシンジ
少し遅れて、カヲルがおかしそうに小さく噴き出す

消灯後の部屋
カーテンの隙間から射す街灯の弱い光線が真っ暗な天井に映っている
見るともなく見つめているシンジ
「…馬鹿シンジ?」
びくっとなるシンジ
掛け布団を掴み、ベッドの方を見上げる
隣で無心に寝息を立てているカヲル越しに、ベッドのアスカがもそもそ身動きする気配
少し息を呑み、それからふうと吐き出すシンジ
仰向けのままそっと答える
「…どうしたの、アスカ」
「…ん」
くぐもった返事
02786/92016/05/06(金) 23:03:52.66ID:???
言葉、それとも声を探す沈黙
何も言わず待つシンジ
やがてアスカが身体ごとこちらに向き直り、先ほどより声がはっきりする
「…ありがと。…いさせてくれて」
「…、いいんだ。…それより、ごめん。寝心地、良くないよね…ああもう、布団干しとけば
 良かった、こんなことなら」
ふふっと声を洩らすアスカ
やっと聞き取れるぐらいの笑い
シンジの耳をくすぐる
「別に。悪くないわ、…シンジの匂いがするもの」
全身水を浴びせられたように動揺するシンジ
気のせいだけでなく身体じゅうに汗が滲む
恥ずかしさといたたまれなさと、もう一つ別の衝動が頭の中いっぱいに反響する
追い討ちをかけるアスカの囁き
「…何よ、ドキドキした?」
喉元までせり上がってくる鼓動を無理やり飲み下すシンジ
息遣いを抑え、やっとのことで答える
「…した。…してる」
「でしょ」
くすくす笑うアスカの、匂いやぬくもりまで伝わってきそうな気配の近さ
何とか落ち着けたはずの心臓がまた爆発しそうになる
「…ねえ」
ふいに沈むアスカの声音
はっとするシンジ
横たわったまま伸び上がるようにして耳を傾ける
02797/92016/05/06(金) 23:05:23.73ID:???
「…おかしいでしょ。17にもなって、一人で留守番するのが怖いだなんて」
淡々と語る声の底に覗く不安
答えに迷うシンジ
結局、素直に答える
「別におかしくないよ。…僕だって、自分一人でいるのが耐えられなくなることがある。
 そういう時って、年とか、場所とか、関係なくなるから」
「…そうね」
少し黙っているアスカ
待っているシンジ
「…小さい頃から、ママは仕事で家をしょっちゅう留守にしてたわ。
 だから一人でいるのは慣れてた。お仕事だもん、仕方ないって、そう思ってたんだけど、
 …私が大きくなってからね、ママは仕事以外でも家を空けるようになったの。
 好きな人ができたから。幾ら何も知らないふりしたって、それはわかったわ。それでね…
 私はまた、一人が怖くなったの。…ママがもう、この家に帰ってこないんじゃないかって」
息をつめるシンジ
呼びかけたいのにまるで言葉が見つからない
シンジの沈黙を聞いているアスカ
「…久しぶりにマリがいない家にいたら、なんか、その頃の気持ちを思い出しちゃって。
 ごめんね。無理言っちゃって」
「…いいよ、そんなの。アスカなら」
「…、うん」
頼りなく細いアスカの答え
胸を衝かれ、考えがまとまらないまま声を押し出すシンジ
「…アスカ、…っと、その、…そうだ、…ありがとう。うん、ありがとう、アスカ」
02808/92016/05/06(金) 23:07:50.89ID:???
「え」
アスカの気配に少し生気が戻る
「…何がよ」
「何って…その」
懸命に自分の思いをつかまえようとするシンジ
「…アスカが、ここに来てくれたこと。
 だって、別にここじゃなくても良かった訳だから。ただ誰かといたいだけなら、例えば、綾波の
 家だって良かった。でも、アスカは僕のこと思いついてくれた。…それが嬉しいんだ」
寮の傍の道路を車が通り過ぎ、青白い光が天井を移ろう
アスカの溜息のような甘い囁き
「…、何よ、馬鹿ね」
小さく笑うシンジ
いつしか胸の鼓動は穏やかになっている
「…そうだね。馬鹿みたいだ」
「そうよ。…でも、そうね。…真っ先に、あんたのことしか思いつかなかったの。私は」
「…アスカ」
「だから、私も大馬鹿ってこと」
黙り込む二人
夜風の鳴る遠い響き
部屋の一部にでもなったようにごく静かに眠り続けるカヲル
いつまで続いても苦にならない沈黙
同じ夜を聞いている二人
「…ねえ、シンジ」
暗闇の中で目だけ動かすシンジ
「何?」
アスカの声がふいに、切りつけるように真剣になる
「…こっちに、来る?」
02819/92016/05/06(金) 23:10:19.37ID:???
「…え?」
一瞬何を言われたかわからないシンジ
何度か頭の中で繰り返す
そのとたん、思考が弾けて形をなさなくなる
「…え…?!
 でも、アスカ、…ちょっと待って、だって」
無意味に空を掴んでは開く手のひら
抑えても声が上擦る
それを聞いて満足そうに笑うアスカ
「ばーか、冗談よ。
 …おやすみ。馬鹿シンジ」
寝返りを打って向こうを向く気配
肩透かしされるシンジ
闇の底でしばらく口を開いて閉じを繰り返す
感覚が走り、せっかく静まった身体がまた熱を持ちそうになる
息を殺して自分と格闘するシンジ
何度もアスカの方を窺ってしまう目
が、本当に眠ってしまったのか、アスカの方からは何も聞こえてこない
やがてやるせなさごと短く息を吐き出し、寝静まった暗闇をちょっと睨むシンジ
アスカと反対側を向いて固く目を閉じる
無理やり眠ろうと念じているうちに、意識が溶ける

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以上です、お粗末でした
やっぱり自分には大人な展開は無理みたいです
あと一回か二回この流れでしょうか、通りすがりでした
02871/72016/05/11(水) 23:35:01.86ID:???
こんばんは、通りすがりです
何だか本当にまとまりません…
単なる続きになっちゃいましたが、もう流れのままにということで、行きます
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肩を揺さぶられて目覚めるシンジ
ぼんやり自室の天井を見つめる
いつもと視点が違う
背中の固い感触
(…そっか、ゆうべは床で寝たんだっけ…ベッドはアスカに使ってもらっ…)
昨夜の記憶が甦り、一瞬で眠気が飛ぶ
全身をひきつらせてがばっと起き上がるシンジ
それぞれの表情で見返してくるアスカとカヲルの顔
「おはよう」
「やっとお目覚めね。おはよ、馬鹿シンジ」
「あ…うん、…おはよう」
少しの間そのまま固まっているシンジ
立ち上がって顔を洗いに行くカヲル
アスカはもう済ませたらしく、昨夜と同じくベッドの上に座り込んで手ぐしで髪を整えている
軽やかに揺れる毛先をさばくしなやかな白い指
鏡も見ずに器用にいつもの髪型を作っていくアスカ
空いた片手で脇の髪留めを拾って、一動作で束ねた髪の房をすくい、ぱちんと押さえる
02882/72016/05/11(水) 23:36:55.15ID:???
もう片方のサイドテールを束ね始めるアスカ
ちょっと頭を傾けたり指で梳いて流れる髪を整え、束の量を決めて手早く掴み取る
見つめているうちに熱を持っていくシンジの頬
他でもないアスカが、今、自分の部屋という日常の真ん中に座っている
夢でも見ているように頭がふわふわする
何度か強く瞬きしてみるシンジ
ぱちんと髪留めが締まる音
首筋にまとわりつく髪をぱっと払って、ふいにこちらを向くアスカ
びくっとなるシンジ
睨むアスカ
「…何よ、じろじろ見て。失礼だと思わないわけ」
「え?! ごっごめん、つい、その、…見とれちゃって」
最後の方は口の中でもごもご言うシンジ
どんどん熱くなる顔を伏せる
「何よ、はっきり言いなさいよ」
「な、何でもないよ」
アスカの顔をまっすぐ見られない
必死に何か話題を探す
「えっと、…そうだ、アスカ、それ、まだ使ってくれてるんだね」
とりあえず床に広がった布団を片付けようと手を動かすシンジ
顔は逸らしながら、それでも気になって仕方なくて、横目でちらっとアスカを窺う
そんなシンジを余裕の表情で眺めているアスカ
「それって、ああ、これ?」
02893/72016/05/11(水) 23:38:03.11ID:???
片手を上げて指先で髪留めをはじく
ふふっと含み笑い
「そりゃそうよ。
 あんたの最初のプレゼントだもの。私は、これって決めてるの。もうずっとね」
思わず目を向けたシンジの前で、当然という顔をしてみせるアスカ
勝気な表情の端ににじむ少女のはにかみ
また見とれてしまうシンジ
ぼうっとしたまま布団を持ち上げたとたん、ちょうど戻ってきたカヲルに思いきりぶつける
「?! ちょっ、何すんだよ」
「うわ、ごめん、ごめんってば」
笑い出すアスカ
慌てて口に指を当てる男子二人
あ、と気づいて口をふさぐアスカ
「…ごめん、ここ男子寮だったのよね」
「一応、連休で人少ないけどね。それとまだ早いから、笑うと響くよ」
おたおたしているシンジから布団を取り上げてベッドに放るカヲル
要領よく受け止めてまとめて横につくねるアスカ
時計を確かめて唖然となるシンジ
「…5時前?! 何でこんな時間に起こすんだよ…もう、道理でまだ眠いと思った」
「だって、人目につかずにアスカさんを帰さないといけないだろ」
「…それはそうだけど」
不満顔のシンジをよそに静かに窓を開けるカヲル
02904/72016/05/11(水) 23:48:52.07ID:???
通りを一瞥して振り返る
「新聞の配達とかはもう終わってるから、普通に静かに出れば大丈夫だよ。
 電車あるよね?」
言われて、自分の携帯でチェックするアスカ
「あるわ。休日ダイヤだから、たぶんちょっと待たされるけど」
「なら、駅前で朝ごはんでも食べてけばいいんじゃないの。シンジ君と二人でさ」
「あ、そうか。それでいいわよね、シンジ? どうせ急がないし。何にしよっかな」
機敏にベッドから降り立つアスカ
シンジに歩み寄ってぐいっと手を引く
慌てるシンジ
「え? え…? ちょっと待ってよ、いいの? そんなの」
「君が嫌じゃなければ、別にいいだろ。あとは朝ごはん代出せないってんじゃなければさ」
あっさり答えるカヲル
「ていうか、あんたも何でそんなに手際いいのよ。…さては脱走常習犯なわけ?
 あ、わかった。レイね」
「え? え、そうなの?!」
「あー、まあ、うん。…断っとくけど、別に変な真似に及んでる訳じゃないからね。
 ご両親に悪いし。どうしても会いたくなったときに、レイの窓んとこまで行って、ちょっとだけ、
 顔合わせるだけだよ。窓も開けてない。どうせ夜中で話もできないし」
「…何よそれ、どこのロミオとジュリエットよ」
「えー? だって、会いたいんだから仕方ないだろ」
あたふたと二人の顔を見比べるシンジ
もう一方の手でその顎を掴んで、自分の方を向かせるアスカ
逃げ場を失うシンジ
02915/72016/05/11(水) 23:49:43.35ID:???
試すように目を細めて見据えるアスカ
「…嫌なの?」
ふざけているようで真剣な眼差
数度瞬きし、大きく首を横に振るシンジ
ふっとほどけて微笑むアスカの顔
小さく笑ってシンジの肩をつつくカヲル

早朝の路上を行くシンジとアスカ
辺りはもう明るいが、休日らしく人も車も全く見えない
あちこちの庭先でみずみずしく光る新緑
繋いだ手に落ち着けないでいるシンジ
軽く笑ってやるアスカ
「何気にしてんのよ。どうせ誰も見てやしないわ、こんな時間に」
「そうだけど…そうじゃなくて、こんな時間だから、だよ」
「何よそれ」
言い返そうとして、何となく先が続かなくなるアスカ
ほてった頬を隠すように顔をそむけるシンジ
少年の横顔
見つめるアスカの顔にも血が昇ってくる
お互い目を逸らす二人
しばらく黙ったまま歩く
明けた空に満ちる青
遠くで電車が走る響き
どこかの庭木を飛び移る小鳥の声
ふいにぎゅっと手を握りしめるアスカ
はっとして振り向くシンジ
02926/72016/05/11(水) 23:51:48.60ID:???
まっすぐ前を向いたまま、静かに頬を染めているアスカの顔
「…アスカ? 大丈夫?」
そっと覗き込むシンジを睨むアスカ
「あんたが変なこと言うからでしょ。…ばか」
「…ごめん」
いつもの呼び方に、少し息苦しさが解けて微笑むシンジ
つられてほぐれるアスカの表情
笑って、思いきり朝の冷たい空気を吸い込む
「…なんか、うれしいな。馬鹿みたいだけど」
素直な声音
シンジを見上げて気恥ずかしそうに唇を結ぶアスカ
「…そんなことないよ」
小さく答えてほんの少しだけ身を寄せるシンジ
黙って寄り添うアスカ
「馬鹿な真似したけど、こうやって誰にも知られずに二人でいられるから、まあ良かったわ。
 …カヲルに、後で礼を言っといて。いろいろ助けてくれたこと」
「…うん。そうするよ」
低く答えるシンジ
昇り始めた朝陽よりもずっと近しくて親密なぬくもり
今手の中にある繋がりの感覚がいとおしくて、時間を惜しんでゆっくり歩く二人
ふっと口を開くシンジ
「…このまま」
言いかけて、自分で自分の言葉に驚いてひるみ、先を言わないまま息を止める
カヲルを引き留めてアスカと二人きりになるのを避けたのと同じ、未だ自分の中にあるためらいと迷い
願いを前にしてたじろいでしまう自分
02937/72016/05/11(水) 23:52:02.78ID:???
(…でも、そんなの、卑怯だよな)
自己嫌悪を噛みしめてアスカの方を向き、視線に囚われるシンジ
鮮やかに笑うアスカ
もう一度強く握りしめてくる手
「…馬鹿ね。そんなこと、今すぐ言わなくてもいいの。
 永遠を誓うのは、あんたが私のヴェールを上げるときまで待ってあげるから」
言いながら自分で照れて、怒ったようにそっぽを向く
かすかに息を吸い込むシンジ
「…わかった。…ありがとう。
 今は…まだ自信ないけど、いつか、ちゃんと覚悟を決めて、君に誓うよ。…約束する」
アスカの目が揺れる
「ほんとね」
すがるように身を乗り出すアスカ
ためらいと迷いと不安のさらに底にある、自分の本当のこと
恐れの向こうにどうしても失いたくないものがある
受け止めて、しっかり頷くシンジ
光が閃くように笑い、そのまま身を投げてくるアスカ
ぶつかり合うキス
強く深く合わせた感触がしだいに優しくなる
言葉よりずっと正直にしがみつく互いの手
世界の全てがこの触れ合いに収束する
やがて身体を離し、見つめ合ってくすぐったそうに笑う二人
何事もなかったようにまた並んで朝の道を歩き始める
03031/62016/05/23(月) 00:45:57.88ID:???
大きな目をまんまるにみはっているレイ
やや気まずい顔のアスカ
ひと呼吸おいて、素直に訊ねるレイ
「…そうだったの?」
ほっとするアスカ
肩の力が抜ける
放課後、人のいなくなった教室
日が長くなりいつまでも光が明るい
「そ。…それで、コンビニで適当に買って、公園で二人で朝ごはんして、解散。
 要するに何にもなかったってこと。あーあ、なんか話すとブザマだな。私の方から
 押しかけたくせにね」
かぶりを振るレイ
「そんなことない。…うらやましい、私」
ひらひら手を振るアスカ
「なーによ、カヲルだってこっそり脱け出してレイの顔見に行ってるんでしょ。聞いたわよ」
はにかんでもう一回首を振るレイ
「そうじゃなくて。アスカが」
「私?」
きょとんとなるアスカ
03042/62016/05/23(月) 00:46:48.40ID:???
自分の指先を見つめるレイ
「そう。自分から、動いていけて。
 迷わず碇君のところへ行けるのが、まぶしくて、うらやましいの。
 私は、待ってるだけで精一杯だから」
「え…」
照れるアスカ
にこっとするレイ
瞬きし、強い眼差で笑ってレイの方へ身を乗り出すアスカ
「でも、それがレイのやり方なんでしょ。私は単に、我慢できないってだけ。
 馬鹿シンジはすぐに考え込んで動けなくなるから、私からリードしてやらないと、
 いつまでたっても話が進まないでしょ?」
ちょっと誇張ぎみにうそぶいてみせるアスカ
微笑んでいるレイ
「でも、碇君だって、ちゃんとあなたの手を引くわ。ときどき」
真顔で一瞬考え込み、急にしゅんとなるアスカ
慌てるレイ
「あ…どうしたの」
顔を上げるアスカ
ふーっと息を吐き出して髪をかき上げる
03053/62016/05/23(月) 00:49:18.19ID:???
「…ううん、確かにそうだなって。
 結局、私はいざとなると、シンジのこと…シンジがこっちに来て、シンジの方から
 何かしてくれるのを待っちゃうのよ。
 こっちから押し切ればいいのに、そういうときは動けないの。臆病…違うわ」
耳を傾けているレイ
自分の心を覗き込んでは言葉を探しあぐねるアスカ
「…そう、違う。ずるいのかも。…期待してるから、責任も持ってほしいと思っちゃう、のかな。
 でもそれも言い訳かもしれない。単純に、思春期のガキが自分の心とカラダを扱い損ねてる、
 ってだけで。今回のことも、全部」
深く沈む眼差をするアスカ
組んだ腕に顎を埋める
こぼれる呟き
「ねえ、私って変? ずるい? いやらしい?
 気持ちだけで突っ走って、いざシンジの前に出たら何もできずに待ってるなんて、
 …やっぱり自分勝手、よね」
静かに首を振るレイ
「そんなこと、ないわ。アスカはまっすぐなだけだもの」
「…そうかな」
レイを見上げるアスカ
組み合わせた指先を見つめ、じっと考えながら言葉を綴るレイ
「そう。自分から目を逸らさない、強くて澄んだ人。
 でも碇君も悪いんじゃない。心のことは、誰かが外から急かしても、どうしようもないから」
「…そう。わかってる、だけど」
腕の中に顔をうずめたまま、ほんの少し語気が強くなるアスカ
03064/62016/05/23(月) 00:50:57.96ID:???
「だけど駄目なの。嫌なのよ、じれったいし、もどかしいの。私のこと、怖がらないで、ちゃんと
 見てほしい。もっと一緒にいたいし、一緒の気持ちでいたい。離れないって言ってほしい。
 …なのに怖いの。ぎりぎりのとこでいつも踏み込めない。…だって、シンジがもっと怖がったら、
 怖がって私のこと嫌になったら…どうしよう、って。馬鹿みたい。でももしそうなったら」
顔を伏せるアスカ
「…どうしよう、何でこんなに、好きなの」
痛みの表情で見守るレイ
ちょっとうつむく
埃っぽい放課後の校舎の沈黙
「…それでいいと思うわ」
うつぶせたまま目だけ見開くアスカ
「え」
レイの声
「そのままでいい。…私には、いい考えも言葉もないけど、今のアスカはとても綺麗よ」
息を止めているアスカ
「碇君にもきっと伝わるわ。自分で傷つくほど心の痛みに敏感で、やさしくて強い人だもの。
 だから、悩んで怖がってるあなたを、自分で大切にしてあげて。
 今のあなたはどこも悪くない」
思わず大きく顔を上げるアスカ
03075/62016/05/23(月) 00:53:02.91ID:???
まっすぐ見つめているレイ
半分泣きそうだったアスカの顔が、ゆっくり落ち着きと自信を取り戻していく
机の上に投げ出した両手を引いてきゅっとこぶしを作るアスカ
「…そっか」
ただ小さく頷くレイ
ぱっと照れた顔をそむけるアスカ
逸らした視線がそのまま大きく流れて、光の当たるシンジの席を見つける
力まずに破顔するアスカ
「そうよね。好きなんだもの、しょうがないか」
「そう。しょうがないわ」
顔を見合わせて小さく笑い合う二人
やがて鞄を手に席を立ち、並んで教室を出ていく

別の夕方、いつものように並んで下校するシンジとアスカ
何となく会話が途切れる
振り返るシンジ
少し後ろで立ち止まっているアスカ
向き直るシンジ
「どうしたの? 良ければ、今日もマリさん家まで送ってくけど」
「シンジ」
真剣な目で見据えるアスカ
03086/62016/05/23(月) 00:54:01.72ID:???
思わずたじろぐシンジ
怯んだ自分を内心叱咤し、アスカの傍まで歩み寄る
少しも逸らさず見上げてくるアスカ
「アスカ…?」
「今日はいいわ」
ちょっと拍子抜けするシンジ
その先を聞いて目を剥く
「マリの奴今日も外泊で、誰もいないの。
 だから、…あんたが嫌じゃなければ、…このまま、連れてって。私を」
息が止まるシンジ
「…え? って…」
意味もなく瞬きを繰り返す
脳裏に明滅するこの前の夜の出来事
全然整理されていない自分の気持ちと、なおも身を引いてしまいたがる根強い衝動
アスカの目がふっと翳る
はっとするシンジ
無防備にあらわにされたアスカの強さと脆さ
うつむく首の細さ
夕風が髪を舞い上げ、肩を覆う
ゆっくり意識して呼吸するシンジ
大きく息を吸い込み、心を決めて吐き出す
わずかな変化を感じ取って顔を上げるアスカ
一歩踏み出すシンジ
迷いと不安を感じながらも、しっかりと答える
「…うん」

-------
なかなか書けなくて申し訳ないです
次回かその次でだいたいまとまるんじゃないかと思います
いつもながら乱文すみません、通りすがりでした
0321名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/06/04(土) 07:32:35.95ID:KWda9DLc
ボードゲームのオリジナルオーダー制作
http://www.logygames.com/logy/ordermade.html
簡単に本格自作ボードゲームが作れる時代到来!!
http://jellyjellycafe.com/3869
100円ショップでボードゲームを自作しよう
https://sites.google.com/site/jun1sboardgames/blog/makeyourbg
ノーアイデアでボードゲームを作ろう第1回「100円ショップで物を買う」
http://boardgamelove.com/archives/boardgame-make-1/
ボードゲーム市場がクラウドファンディングの出現で急成長を遂げ市場規模を拡大中
http://gigazine.net/news/20150820-board-game-crowdfunding/
03261/242016/06/08(水) 23:00:39.02ID:???
こんばんは、通りすがりです
ずいぶん長くかかってしまいましたが、何とか終わりましたので投下します
どなたかいらしたら連投支援してくださると嬉しいです
---------

初夏の夕刻
並んで電車に揺られているシンジとアスカ
窓外を流れ過ぎていく風景
遠方、街並が構成する人造の稜線を眩しい夕陽がかすめては翳る
提げた鞄をやや強く掴んでいるアスカの手
指の固さに隠したつもりの緊張を見て取り、周囲にわからないようそっと身を寄せるシンジ
アスカがかすかに息を呑み、知らないそぶりでそのまま体重を預けてくる
一瞬黙って目を閉じる二人
電車が駅に停まり、ドアが開き、人が乗り降りし、また閉まる
どこまでも続く街並
まばゆい太陽だけが少しずつ傾いていく
もう幾つ駅を過ぎたのか、すっかり人もまばらになった車両
窓の外には大きく花開き始めた夕映え
霞む空 煙る遠景 繊細な光の饗宴 輝いて融けてしまいそうな雲の色
「…ふう」
光をまとって、初めて大きく息をつくアスカ
見とれているシンジに軽く微笑む
「広いのね、東京って。まだ街から出れてない」
ふっと懐かしいような笑顔になるシンジ
アスカの目の色が深くなる
「そうだね。毎日暮らしてる街なのに、本当は全然知らないね、ここのこと」
シンジを見つめるアスカ
ふいに顔を逸らす
「ね。座ろっか?」
弾むように言って、自分から先に腰を下ろす
03272/242016/06/08(水) 23:02:35.75ID:???
シートの隣をぽんぽん叩いてシンジを急かすアスカ
「ほら、こんなに空いてるんだから。いつまでも立ってる方がヘンよ」
「わかったよ」
苦笑して隣に座るシンジ
わが意を得たりという笑顔で迎え、細い身体をひねって窓の外を眺めるアスカ
夕映えに優しく染まった横顔を見ているシンジ
「それにしても、いつもよりずいぶん遠くまで来ちゃったな。…どこまで行こうか?」
振り向かずに答えるアスカ
遥かを見つめてきらきらしている瞳
「決まってるじゃない。私が、いいって言うまでよ」
微笑んでしまうしかないシンジ
「そうだったよね。…ねえ、アスカ」
「何よ?」
まだ彼方の夕空に見入っているアスカ
と、幾つかの建物が車窓を覆い、いっとき薄暗くなったガラス面に二人の顔が映り込む
かりそめの鏡越しに繋がる二人の視線
陰が通り過ぎ、再び金色の光がなだれ込んでくる
手で触れられそうな光の束の中で向かい合うシンジとアスカ
いつのまにか二人以外無人の車両
息苦しいほどアスカを意識するシンジ
光のせいだけでない眩しさを強く覚えるアスカ
夕照にふちどられた互いの顔を見つめる
ふいに先日の記憶がかぶさってくるのを感じるシンジ
03283/242016/06/08(水) 23:03:26.61ID:???
五月の連休初日の早朝、アスカを駅まで送って男子寮に戻ってくるシンジ
自室の前まで行って立ち止まる
少し考え、入らずにそのままきびすを返す
ひと気のない静かな廊下をたどる
カヲルの部屋の扉を見上げ、控えめにノックする
静寂
もう一度ノックしてみるシンジ
今度は室内で気配が動き、待っていると不器用にドアが解錠されて開く
「…何? 寝直すとこだったんだけど」
見るからに眠そうなカヲルのしかめ面に、悪いと思いつつ小さく噴き出すシンジ
けげんそうに眉をひそめるカヲル
まだ微笑しながら謝るシンジ
「ごめん。…一言、お礼言いたくて。ありがとう、付き合ってくれて。また助けてもらっちゃったね」
「いいよ、別に。そこまで畏まられるほどのことはしてないし」
すぐにも引っ込みたそうなカヲル
静まり返った廊下
自分一人だけ浮かれていたようで、気後れするシンジ
「そっか…でも、助かったよ。僕も、それにきっと、アスカも。だから、ありがとう。渚。
 …うん、それだけだよ。邪魔してごめん」
ふいにはっきりした眼差になるカヲル
ちょっとたじろぐシンジ
非難か拒絶を思わせる強さでこちらを見ているカヲルの目
が、すぐに素早く伏せられる
本当に眠いだけなのか、別の意図が潜むのか掴みきれない
「そう。…良かったね。じゃあ僕は寝るから」
03294/242016/06/08(水) 23:04:48.27ID:???
「…あ」
かえって気がとがめるシンジ
衝動的に、カヲルが閉めようとするドアに手をかける
睨むカヲル
「何」
とっさに答えられないシンジ
迷ったままカヲルの顔を見据える
何か言うべきだと思うのに、何を訊いていいのかわからない
逡巡を見て取って大きく溜息をつくカヲル
閉めかけた扉を押し開ける
とまどっているシンジを一瞥する
「…廊下じゃなんだし、とりあえず入ったら」
「あ…うん」
頷いて、室内に戻るカヲルに従うシンジ

カヲルの部屋
だるそうにベッドに腰を下ろしたカヲルに向き合う形で、椅子を引いて座るシンジ
物の少ない室内を見回す
「あれ…こんなに片付いてたっけ? 渚の部屋って」
答えないカヲル
細い髪をくしゃくしゃかき回し、何度か瞬きしてようやく目が醒めた顔になる
じろりと見られて身をすくませるシンジ
いきなり訊ねるカヲル
「で、ゆうべはちゃんとアスカさんと一緒になれたの?」
「…ッ」
ほとんど椅子から飛び上がるシンジ
カヲルを睨む
03305/242016/06/08(水) 23:05:32.73ID:???
「…何言ってんだよ、ヘンな真似するわけないだろ! アスカが…いいって言った訳でもないのに」
しどろもどろなシンジ
アスカとの夜中の会話や含み笑いの記憶が頭を熱くする
冷たく目を細めるカヲル
「ふーん。じゃあさ、アスカさんがオッケーすれば君は最後まで行くんだ」
「…何」
恥ずかしさ半分、怒り半分で、椅子を蹴って立ち上がるシンジ
怒鳴る前に次の言葉を突きつけるカヲル
「違うよね。君は何もしない」
「…え」
カヲルの語調のよそよそしさにかえって突き放されるシンジ
少し迷い、座り直してカヲルの方に膝を乗り出す
苛立ちが抑えた声に出る
「どういう意味だよ、それは。…僕より僕をわかってるような言い方して」
動じないカヲル
力を込めて見据えるシンジ
薄明るい室内に落ちる沈黙
かすかに聞こえる戸外の音
ふいに憤りを失うシンジ
「…そうなのかな」
視線を逸らし、顔を伏せる
反応するカヲル
苦くうつむくシンジ
急に押し寄せてくる悔いと疑い
「…そうかもしれない。…僕はアスカのこと、まだ怖いんだ。自分でもわかってる。
 好き、なのは絶対間違いないのに。…いつだって本気で抱きしめてるのに」
03316/242016/06/08(水) 23:06:00.75ID:???
口を開きかけてやめ、黙って聞くカヲル
両膝に肘をついて深く首を垂れるシンジ
「…何でなんだ? 昨夜だって、たぶん渚がいなきゃ何か言い訳してあのままアスカを帰してた。
 いつもそうだ。アスカのこと、本当に受け止める覚悟がまだ、僕にはできてない。
 …アスカが、女の子だっていうのが怖いのかな。アスカと本当に付き合って、それで責任を
 抱えるのが怖いのかな。だったら僕は卑怯で最低な奴だ」
「…あーあ」
びくっと顔を上げるシンジ
退屈そうに顔をそむけているカヲル
むっとして、かえってより深い自己嫌悪に陥るシンジ
一瞥するカヲル
溜息をつく
「ああもう、違うだろ。…君、ていうか、君とアスカさんの問題はそういうんじゃない」
「え?」
悄然とカヲルの顔を見守るシンジ
自分でも何かに失望したように沈んだ表情のカヲル
シンジを見る
その目つきの中の何かにふと恐れを覚えるシンジ
「本当にわかってないの?
 昨日、アスカさんが教室で怒って、それから君のとこに来た直接の原因は、僕だよ。
 僕は君らを邪魔してる。君の一番の友達でいたいってだけの利己的な理由で」
唐突すぎて頭が空白になるシンジ
顔じゅうを疑問でいっぱいにしてカヲルを見つめる
それを見てちょっとだけ笑うカヲル
03327/242016/06/08(水) 23:06:37.69ID:???
「別に自意識過剰じゃないよ。ほんとのことだから。
 いつも身勝手に君にくっついてく僕と、それを許す君に、アスカさんはイラついてる。
 彼女は君と一緒にいたいだけだよ。そこに僕が割り込んでるんだ。幼なじみの君に甘えて」
何でもないように言うカヲル
語る口調の底の痛みを聞き取ってしまうシンジ
「もうずっと前からわかってた。僕は君から離れないといけないんだ。
 君といるのが楽しくて、懐かしくて、何でも一緒にやりたくて。そんなのはもっと幼い子供の
 うちにやっとくべきことだったんだ。それを未だに引きずってるから、アスカさんを苛立たせるし、
 レイを寂しがらせてる。君じゃないよ。僕のせいだ」
何か言わなければと焦るシンジ
とにかくカヲルの言葉を遮らずにはいられない
「何言い出すんだよ、…そんな訳、ないだろ」
「あるんだ」
また笑うカヲル
突然怖くなるシンジ
先を聞きたくない
「…渚、何言ってるんだよ、やめろよ、どうしたんだよ。僕にからんでくるのはもうずっとじゃないか。
 それで誰も嫌がってないだろ。僕だってアスカだって、綾波だって、みんなよく知ってて、今更
 文句言ったりしないよ。何だよ、いつも何でも平気な顔してる渚らしくないだろ、こんなの」
視線を膝に落とすカヲル
白い顔に残る諦めたような微笑
03338/242016/06/08(水) 23:07:14.61ID:???
「うん。わかってる。ありがとう、だけどさ、いつまでもそれじゃおかしいんだよ。
 君がいつまでも今の君じゃいられないのと同じに」
黙り込むシンジ
膝の上で所在なげに指を組み合わせているカヲル
さっきシンジがしたように室内を見回す
どことなくがらんとした印象の部屋
ふいに理解するシンジ
口にする前に、先にそれを言うカヲル
「…ちょっと前にさ、向こうに戻る日が決まったんだ。もう飛行機とか荷物の手配も終わってる。
 ごめん、話さずにいて。レイにはすぐ言えたんだけど…君には、なんか、怖くてさ」
情けなさそうに笑うカヲル
もう無理にでも吹っ切ってしまっているのだと悟るシンジ
かける言葉がない
カヲルが自分よりこちらのことを気遣っているのがわかるのが悔しい
「だから…何だろ、うるさいのは承知だけど、最後になる前に話しておくよ。
 僕の問題は君だ。君とアスカさんの問題は僕と、それから君。そのことについて」
アスカの名にはっとなるシンジ
思わず呟く
「…僕」
頷くカヲル
「うん。…まあ君だけじゃなくて、きっとアスカさんにも自分の抱えた問題があるだろうけど、
 僕にわかるのは君の方だから、そっちだけ話す」
03349/242016/06/08(水) 23:07:56.79ID:???
ただ見つめ返すシンジ
もう一度笑うカヲル
さっきよりはずっと柔らかい笑みに、少しほっとするシンジ
組んだ指にわずかに力を込めるカヲル
「僕は君が好きだ。…ああ、前も断ったけど、別にヘンな意味じゃないよ。
 さっき言ったみたいに、君の一番の友達でいたい。…それはたぶん現実に無理じゃないけど、
 僕が今思ってるような、とにかくずっと一緒にいて何でも一緒にやっていきたいっていうのは、
 僕らの年齢じゃもうおかしいんだ。特に僕らはね。お互い、もう一番大事にしたい人がいる。
 僕はレイ。君はアスカさん」
試すようなカヲルの眼差
意図を汲み取って、しっかり頷くシンジ
「…うん。そうだ」
微笑するカヲル
「だから、今回のことはいい機会だと考えることにした。
 当分…たぶんまた何年も会えなくなるけど、君のことはずっと大好きで、大事な友達だと
 思ってるよ。…構わない?」
再び強く頷くシンジ
「…当たり前だよ」
一瞬ひどく無防備な顔をするカヲル
今の顔つきに戻って笑い、すぐ元の距離感を取り戻す
そのことに既に寂しさの一端を感じるシンジ
033510/242016/06/08(水) 23:08:39.99ID:???
大きな目をかすかに見開くカヲル
「ありがと。
 …僕は君たちが好きだ。でもそうだね、これからは、レイにもっと支えてもらうことになると思う。
 だけど、レイは君の不在の埋め合わせじゃないし、君は僕の幸せな子供時代の代わりじゃない。
 二人は今の僕の、今の現実だ。
 …そしてさ、同じように、アスカさんは君の未来そのものじゃない」
思いがけない言葉に息を止めるシンジ
「…未来?」
また不安がこみ上げる
続きを聞くのが怖い
ためらいを見て取るカヲル
それでもいつものように容赦なく言い当てる
「そう。君が怖がってるのはアスカさんじゃない。君自身の自由だ。君が踏み出すことで
 無限に広がってく、君の未来。その果てしなさだよ。君は、今になってそれが怖くなって、でも
 誰にも言えずに途方にくれてる。だから動けない。違う?」
じっとシンジを見据えて訊くカヲル
内心の動揺を短い沈黙で守るシンジ
やがて頷く
逃げられることでも、逃げることでもないと自分に言い聞かせる
重い口を開く
「…うん。
 すごく不安だ。もうずっとそうなんだ。…そうか、アスカじゃなくて、僕だったんだ」
両肩を寄せるシンジ
心の深いところを覗き込んで翳る目
見守るカヲル

-------
ひとまずここまでです、いったん外します
033711/242016/06/09(木) 00:07:34.03ID:???
>>336
ありがとうございます
-------

少しずつ思いを手探りするシンジ
「二年ちょっと前、この学校の入学試験に来たときは…
 あの雪の日、僕にとって未来は新しくて無限で、確かで、どこまでも頼もしく感じられてた。
 でも今は…わからない。
 うん、渚が言う通りだ。本当は自由に何でもできるってことが、僕は今は怖いんだ」
語るうちに思考がはっきりしてくる
右手を広げ、手のひらを見下ろすシンジ
自室に置いてきた十字架のお守りを思う
広々と明るい未来
望めば一人で自由にどこにでも行ける自分
それは素晴らしいだけではないことを少しずつ思い知ってきた、ここでの時間
「…うん。僕は、自由な僕が怖い。
 いろんなしがらみから離れて自由になりたくて、ここに来たはずなのに。でも自分一人で自由に
 できるってことは、楽しいとは限らない。頭では知ってるつもりだったけど、現実になったら違ってた」
カヲルを見るシンジ
「何て言えばいいんだろう…自分の自由は、自分で引き受けるしかないんだ。
 それは誰も代わってくれない。
 他人とぶつかることになるとか、責任がつきまとうから厳しいんじゃない。そんなのとは全然違うんだ。
 誰も、僕に自由でいるななんて命令しない。だから自分で決めなきゃいけない。
 たぶん、本当につらいのは…自由を制限されることより、されないことの方なんだ」
033812/242016/06/09(木) 00:08:42.06ID:???
言い終えて溜息をつくシンジ
直視したくなかったことを新しい目で確かめる
自由というものの途方もなさ
それは常に胸のどこかを噛み続ける底なしの恐れ
生きていく限りつきまとうだろう未来の痛み
故郷や家族は束縛ではなく自分を守ってくれていた場所
戻りたいけれど戻りたくない
それでももう、自分の足で歩き出してしまったから
小さく笑うカヲル
「そんなの君だけじゃないよ。少なくとも僕もそうだ」
ちょっと目をみはって見直すシンジ
平然とした顔の陰で、カヲルが何度も傷ついてきただろうことを今になって知る
なのに語る声は凜とした芯を失わない
何故だろうと思いながら聞くシンジ
「君の言う通りだよ。誰も、僕自身の自由から僕を庇ってくれることはできない。
 未来はいつだってあやふやで、思う通りにはなってくれないし、現実はすぐ僕の足をすくう。
 自分の意志で決めたつもりのことは、結局あらかじめ用意されてた選択肢の一つだったりする。
 大人とか、僕の先に生きてる人たちからやれって押しつけられるいろんなことが、正しいのか
 間違ってるのかもわからない。そのくせ本当に自分だけで歩く力はまだない」
静かに自嘲するカヲル
同じ侘しい笑みを浮かべるシンジ
それを認めて、ちょっとだけ痛みを覗かせるカヲル
「…だから、他人が怖いんだよ。
 心が自由だから人を好きになれる。でも同じ自由が、いつかはその人を傷つけてしまうことになるから」
033913/242016/06/09(木) 00:09:28.20ID:???
息を止めるシンジ
ゆっくり頷く
「…うん。
 だから、そうなんだ…アスカのことも、なのか。
 アスカにこれ以上近づくのが怖くて…好きでいるくせに、踏みきれない。それは他人をわからない
 から怖いんじゃなくて、それよりも僕自身が、不安で、ちゃんと立っていられないからだったのか」
やっとわかったねと言いたげに頷くカヲル
軽く息をついて少し前に乗り出す
揃った高さで合う二人の視線
「…ねえシンジ君、でもさ、だからなんだよ」
真摯な眼で語りかけるカヲル
「アスカさんは、君の背負うべき自由や、未来そのものじゃない。
 今の、君の、傍にいてくれる人だ。君とは違う他人で、君と同じ不安を抱えた同い年の子だ。
 だから君がどんなに自信なくて不安でも、それでアスカさんまで遠ざけて怖がるのは、フェアじゃないよ。
 そんなの、君だって嫌だろ」
カヲルの言葉を自分の迷いごと受け止め、ゆっくりと頷くシンジ
「うん。絶対嫌だ」
「だろ」
いつものように笑ってみせるカヲル
そこで言葉が途切れる
少し笑い、今度は自分から先を続けるシンジ
「わかったよ。
 すぐには無理かもしれないけど…必ず向き合うよ。アスカがいない僕なんて考えられないから。
 …だけど、君もだ。君が強いのは知ってるけど、僕の前でくらい、強がるなよな」
ふいに足元を失ったように頼りなくなるカヲルの目
立ち上がるシンジ
034014/242016/06/09(木) 00:11:06.44ID:???
見上げるカヲルに手を差し出す
「今までが子供だったんなら…
 これからはさ、いつもはお互い別々の場所にいても、一緒のときはこんなふうに本当のこと
 何でも打ち明け合える、そういう友達になろう。渚」
シンジの手を見つめ、自分の手で掴んで立ち上がるカヲル
初めて見るような、大人びた自負と子供の危うさが同居する表情
眩しそうに頷いて笑う
「…そうだね。シンジ君」
同じ笑みを返すシンジ
窓の外で五月の陽射しが強くなる

カーブで電車が大きく揺れ、今に引き戻されるシンジ
夕陽の車内で向き合っているアスカ
規則的な電車の振動に乗って高まる胸苦しさ
今も身体の奥に根深く残っている、このままアスカに近づいていくことへのためらいと不安
心を決めたつもりでもたやすく脆くなっていく覚悟
カヲルの眼差と声で自分に問う
まだ迷いは消せていない
でもその先に、何度でも乗り越えていきたいと願う、自分の心の消せない痛みを見つける
深く息を吸い込むシンジ
「アスカ」
そうっと手を伸ばす
知らないそぶりで待っているアスカ
息を殺している細い身体
アスカの感じているかすかな熱を、皮膚そのものが感じ取る
その頬に触れる
一瞬いつものように強がろうとしたものの、やめて、素直に息を洩らして目を閉じるアスカ
唇が微笑む
シンジの表情もほぐれていく
「…アスカ」
034115/242016/06/09(木) 00:12:07.72ID:???
何度でも、その名前を呼ぶシンジ
繰り返すだけで身体が熱く安らぐ
触れた部分が燃えているように感じられる
アスカが目を開く
初々しい眼差
静かに打たれるシンジ
それをシンジの目の中に見て取って、もう一度蕾が開くように微笑むアスカ
覗き込む大きな目
鼓動
「…あんたといると、ドキドキする」
とまどうシンジに大きく身を寄せるアスカ
ためらいなく顔を近づけ、キスしようとして小さく笑い、額を額にくっつけて囁く
「好きよ。私の、馬鹿シンジ」
息をこらえるシンジ
目を開けていられずに、震えるまぶたを閉じる
心の全部が満たされる
息遣いだけでかすかに笑うシンジ
薄目を開けて見つめているアスカ
もう少しだけ身体を寄せ合う二人
電車が減速する
次の停車駅を告げる車内放送の声
夢から醒めたように開いた目と目を見交わし、電車がホームに着く前に、何食わぬ顔で
行儀よく並んだ姿勢に戻る二人
ドアが開き、向こうの車両をわずかな乗客が出入りする
悪戯を隠す子供の顔で声に出さず笑う二人
再び電車が動き出す
速度を増していく振動に身をゆだねるシンジ
034216/242016/06/09(木) 00:12:50.01ID:???
しだいに深く暮れていく空
次々に通り過ぎる見知らぬ家並み
隣を見る
見つめ返すアスカ
秘密めかして微笑み、かと思うと知らん顔で流れる景色に目を見開く
いとおしさで苦しくなるシンジ
カヲルの言葉を思い返す
(アスカさんは、君の背負うべき自由や未来そのものじゃない。
 今の君の傍にいてくれる人だ)
(…そうだよな)
穏やかに今の自分の恐れと望みを受け止めて、ごまかさずに確かめていくシンジ
「何よ、一人でニヤニヤして」
指を突き出して額を軽く弾いてくるアスカ
今度は本当に笑うシンジ
流れ去る夕景を見渡す
「何でもないよ。…ねえアスカ、どこに行きたい? ここからさ」
「え?」
ぱっと目をみはるアスカ
身を引いてシンジを睨む
「私に訊くわけ?」
たじろがず頷くシンジ
「うん。
 アスカが行くところに、僕も行きたいんだ。
 どこだって構わない。アスカが行きたいなら、必ず僕がそこに連れてくから」
まっすぐシンジを見つめるアスカ
不器用に重ねられたシンジの思いを理屈でなく悟り、ちょっと照れて微笑む
「…ほんとに?」
034317/242016/06/09(木) 00:16:30.95ID:???
「うん」
見えない糸で繋がれたように見つめ合う二人
息を合わせて膨らんでいくひそかな喜び
先にアスカが笑い出す
ようやく恥ずかしさが追いついて、自分で自分の台詞に赤面するシンジ
肩を震わせて笑っているアスカ
素早く目元をぬぐってシンジに向き直る
「馬鹿ね。そんなのわかってるわよ、ずっと前から。
 …私も馬鹿ね。シンジがそう言ってくれるの聞きたくて、こんなとこまで来ちゃうなんて」
苦笑するシンジ
「ごめん。いつも気づくのが遅くて」
「ほんとよ」
両手を組み、気持ち良さそうに隣で伸びをするアスカ
「…でも、いいわ。
 そうね…今日はもう座り疲れちゃったから、この辺で戻ってやりましょ。
 心配しそうな奴もいっぱいいるし。大げさに騒がれて、マリにバレても面白くないし。
 …あ、けど、何もせずに電車乗っただけってのもしゃくね。どっか寄ろっか?」
晴れ晴れと背を反らしたかと思うと顔をしかめ、考え込んではまたさらっと笑う
くるくる変わるアスカの表情に見とれるシンジ
この人の隣にいることの幸福
不確かで張りつめていてもどかしくて、そのくせ満ち足りていて
これだけで良かったのだと何度でも理解する
敏感に気づくアスカ
「何よ、じろじろ見て。そんなに私から目が離せない?」
微笑のまま頷くシンジ
「…うん」
逆に言葉につまるアスカ
034418/242016/06/09(木) 00:17:37.65ID:???
白い頬に血の色が昇る
怒るかと思いきや、ひどく柔らかく笑う
「…ほんとに、馬鹿シンジね」
抑えた声で笑い合う二人
席を立ち、次の駅で上り線に乗り換える
出発したときと同じくらい生き生きしているアスカの輝く目
傍らで見ていられる安らぎに静かに浸るシンジ
お互い目は向けないまま、身体の陰で手を伸ばし、探り当てた相手の手を固く繋ぐ
頼もしい電車の振動
窓の外を過ぎる灯の数がみるみる増え、宵闇の東京が近づいてくる

「あ、来た! もう、アスカったら!」
改札の向こうで声をあげる私服のヒカリ
やや遅れて二人に気づくトウジと、少し離れてレイ
「おお、やっと帰って来たわ。ほんま二人揃って人騒がせなやっちゃ」
「ごめん、わざわざ来てもらわなくても良かったのに」
「そういう訳にもいかんやろ。えらい心配しとったんやで、委員長」
ヒカリに駆け寄るアスカ
「ヒカリ、ごめんね。でも…何よ、鈴原と来れたなら、ちょっとはいいんじゃない?」
とたんに小さく飛び上がってトウジから距離をとるヒカリ
「…話を逸らさないの! えっと、そうよ、制服のまま家出するなんて信じられないわ!」
「ごめんってば、もうー」
謝りながら片眉を上げるアスカ
「ん? 相田のヤツはいないの? こういうの絶対面白がると思ってた」
034519/242016/06/09(木) 00:18:27.98ID:???
笑い出すトウジ
「あいつはまだ謹慎やと。あれやな、親とガッコの両方に嘘ついて、実力テスト中に戦艦見に
 行ったんが大きいわな。ったく、バレんわけないやろ」
「はは、あれは言い訳できないよね」
歩み寄るシンジの頭にゲンコツ落とす真似をするトウジ
「お前もたいがいやっちゅうの。ほんまに駆け落ちしたらどないしよ思うたわ。
 『さがさないでください』って、お前の場合、ふざけとんのかマジなんかわからんわい」
「え、途中でメール打ってたのって、そんなのだったの? 何考えてんのよ」
「綾波にはちゃんと事情伝えたよ。トウジにはまあ、軽くしといた方がいいかなと思って」
「どんな基準やそれ!」
言い合う面々を優しく見守るレイ
アスカと視線を交わし、レイの前に拝む手を立てるシンジ
「ごめん、心配かけて。…えっと、その、渚には」
「言わないわ」
微笑むレイ
「…そんなこと教えたら、今から日本に飛んで帰ってきかねないもの。彼」
苦笑いするシンジ
「…そうかな」
「そうよ。あいつ馬鹿シンジにはとことん甘いもの」
わざと憎まれ口をきくアスカ
何となく揃って東京の夜空を見上げる一同
電飾に押されてほとんど星も見えない闇を、航空機の灯火が明滅しながら横切っていく
ぽつりとトウジが呟く
「…元気にしとるんかなぁ、あいつ」
034620/242016/06/09(木) 00:19:44.66ID:???
ふんと顎を持ち上げるアスカ
「そりゃ、あの調子でやってるわよ。心配するだけ無駄よ、あいつの場合」
想像したのか、くすっと笑い声を洩らすレイ
頭を掻くトウジ
「せやけど、最後の挨拶の時は意外やったな。
 あの人見知りの気難し屋が、シンジたち以外の前で笑い顔見せるなんて思わんかったわ」
「そうね…私、そういえば初めて見たかも。渚君が笑うの」
「ケンスケが悔しがっとったで。あれを文化祭で撮りたかったーちゅうて」
三々五々歩き出す一同
一人で歩くレイを気にするシンジ
(今までありがとう。楽しかったよ、この学校にいられて)
見慣れない夜の街の喧騒を大きな目で眺めているレイ
言葉にしない強さと内側の寂しさを思うシンジ
敏感に気づいてシンジの手をぎゅっとつねるアスカ
「痛っ」
「ちょっと何見てんの、領域侵犯よ」
睨むアスカに目をしばたたかせるシンジ
「何だよ、それ」
「渚と約束したでしょ。レイはあんたじゃなくて、この私が守るの。だから不要な接触は禁止!」
呆れ顔でコメントするトウジ
「…何や、妬いてるなら妬いてるて素直に言えばええやないか」
「はぁ?!」
「ちょっと、アスカ、周りの人が見てるでしょ」
身長差をものともせずに突っかかるアスカと逃げ回るトウジ、慌てるヒカリ
くすりと笑うレイ
それでもやっぱりその横顔に寂しさを見てしまうシンジ

------
連投規制になってしまうので、再びここまでです
034721/242016/06/09(木) 01:00:16.05ID:???
気づいてレイが目を向けてくる
「…平気。私はアスカに守ってもらうから、碇君は、アスカを守るの。約束」
「…うん。そうだったよね」
また夜空を仰ぐシンジ
空港で三人で見送ったカヲルのことを思い出す
(迎えに来れるまでの間、レイが心配だけど…
 ま、それはシンジ君がいるから、不安には思わないどくよ)
(駄目! こんな馬鹿に任せられる訳ないでしょ。レイはこの私が守るわ。心配ご無用)
(そう? じゃあ…シンジ君は、アスカさんを守りなよ。それなら安心できる)
(…ッ、どさくさに何言ってんのよあんたは)
(だってその方が安全っぽいし。ね、約束しなよ)
(ああもう! 何であんたはそう態度でかいのよ! 初対面からそうだったし!)
(え? 何かしたっけ)
(いきなり変なセリフ吐いたでしょうが! 『どっかで会ったっけ』なんて!)
(あー…そうだっけ。でもあれは嘘じゃないよ。ほんとに見覚えある気がしたんだ)
(私はないわよ!
 …だいたいあれは、馬鹿シンジだけに許されるセリフよ)
(へえ、そうなの? あ、例の運命的出会いのときの話?)
(うんめ…ちょっと馬鹿シンジ、あんた、私との出会いの話をこいつにしたわけ?!)
(え?! いや、だって、別に隠すことじゃないと思ってさ)
(あんな恥ずかしい話、他人にしてどうすんのよ!)
(アスカ、声、…周りの人が見てるわ)
(あは、もしかして君らって前世かなんかで出会ってたのかもね。ついでに僕とも)
(だ・か・ら会った覚えなんかないって言ってるでしょうが!)
(アスカちょっと、静かにってば、…渚も、ヘンなこと言い出すなよ)
(えー? きっと案外そんなものなんだよ。で、何度も生まれ変わって、出会ったり出会わなかったりする。
 でも君らはだいたい毎回出会ってて、それで何となく覚えてる。運命ってやつだね)
034822/242016/06/09(木) 01:00:49.35ID:???
(あっそう。じゃ、あんたとも間違いなくまた出会うわね)
(そうかも。私や、碇君とも。みんなが、みんなと)
(だといいな)
ふと我に返るシンジ
トウジたちと駅前で別れ、いつものようにマリの家を目指して道をたどる二人
アスカがぐいっと腕を掴む
「またボーッとしちゃって。
 …どうせ別れ際の、あのヘンな話でも思い出してたんでしょ」
笑うシンジ
「うん。…でも、僕はあの日本当に、君のこと、また会えたなって感じたんだ。…すぐにはわからな
 かったけど、なんだかすごく、嬉しかった。
 単なる僕の思い込みっていうか、勘違いかもしれないけどさ」
「ふぅん…でも、ま、勘違いでも、別にいいじゃん?」
何でもないように言い放つアスカ
目を見開くシンジ
出会ってからもう数え切れないほどの日々と同じに、歩調を揃えて傍らを歩くアスカの姿
存在の確かなぬくもりと、それとは逆に絶え間なく奇跡を見ているような新鮮な驚き
何度も目を凝らすシンジ
あの雪の日の思いが重なる
そんなシンジを眺め、またこともなげに口にするアスカ
「その勘違いのおかげで、あんたと私は知り合えたんだし。…好きにまでなれたんだし、ね。
 それが運命なら、私、けっこう満足よ。この巡り合わせってやつに」
少し浮き立った口調に照れが覗く
きらめく目で見つめてくるアスカ
「あんたはどうなのよ」
034923/242016/06/09(木) 01:01:26.94ID:???
答える前、自分でも意識しないうちにもう微笑んでいるシンジ
呼吸を忘れるアスカ
ほんのり染まっていく頬
気づいたシンジの顔も熱くなる
答えられず、問いつめられず、しばらく黙って歩く二人
でもそのぎこちなさも、そこまで居心地悪くはないとお互い感じている
思い込みかもしれない、勘違いかもしれない
それでも繋がっていると思えることの強烈な確かさと嬉しさ
いとおしすぎて正視できず、そっと横目でアスカを見るシンジ
同じ速度で歩くアスカの横顔
いつもの風景に重なって浮かぶこれまでの時間
未来へ続く自由とはまた違うもう一つの果てしなさ
ふと、生まれ変わりや運命という言葉を信じてもいい気になる
一人そっと笑ってみるシンジ
(…繰り返す世界、か)
また今年も巡ってくる夏を思う
世界は無限に繰り返しながら移ろっていく
(だけど…
 それはきっと、ここにいる僕と無関係じゃない。全てが今いるこの場所に繋がっているんだ)
(今まで何度も生きてきたかもしれない多くの僕と、その一回きりごとの僕が歩いて作られた、
 無数の見えない足跡)
(遥かなその一つ一つは、もう思い出せはしないだろう。だけど数えきれない僕の過去は全て、
 確かに今、僕が立つここに通じていて、そして僕の進む先には、まだ誰も決められない、
 真っ白な未来が広がっている)
(僕の自由と、僕の未来)
(この生が、無限に続く僕の繰り返しの一つだとしても、構わない)
035024/242016/06/09(木) 01:09:28.02ID:???
(これからも、僕は自分の足で地に立って歩く。みんなのことを忘れないよう戒めながら。
 それが僕にできる、たった一つの生きるやり方なんだろう)
(…そして、そのとき)
(僕の隣に、一緒にいてほしいのは)
(君なんだ)
いつしか沈黙はほぐれ、歩くうちに言葉が戻って、たわいない話に花を咲かせる二人
小さく笑い声が夜空に昇る
泡立つように揺れる住宅街の木々の影絵 強く漂う新緑の香り
潤いを含んだ夜風
彼方に傾いた半月
真っ白いその面を、どうしてか強く見つめずにはいられないアスカ
やがて足を止めるシンジ
遅れて、アスカも気づいて立ち止まる
暗く静まったマリの家の前
どちらからともなく笑って、暗い路上で向き合う二人
何の合図も必要とせずに、呼吸の続きのように近づいて静かにキスを交わす
身を離して改めて笑い合う
懐かしくて新しい、どんなに見つめても足りない、相手の顔
「今日は、なかなか楽しかったわ。じゃまた学校でね。シンジ」
「うん。…また明日、アスカ」
気負いのないお互いの笑み
立ち去り難くて佇んでいる二人の上にちりばめられた星座
また、この星に夏が来る

-----------
以上でひとまず完結となります
約一年半、大変お世話になりました、ありがとうございました
ダラダラ更新の小ネタの数々を気長に読んでくださったスレ住人の方々に心から感謝を
お礼代わりに例によってヘタレ絵を置いていきます
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&;illust_id=57298148
これからもこのスレが再会したシンジとアスカの幸せを語る場でありますように
本当にありがとうございました、通りすがりでした
0352名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/06/10(金) 02:58:50.64ID:M0VVLsno
神スレ
0362名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/06/20(月) 21:30:32.96ID:/u/SiBsl
やっとるかねー?
0384名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/07/11(月) 00:34:57.57ID:???
「にゃにゃにゃにゃにゃぁぁぁ・・・」バタリ
「あら、コネメガネ久しぶりじゃない、今までどこ行ってたのよ?」
「…呑気なこと言ってるにゃ…、ブラックも真っ青な265の元からようやく隙を見て逃げてきたにゃ…」
「げっ、あいつまだ生きてたの?っていうか、何ヶ月あたしたちを放置してたのか、
分かってんでしょーに…」メラメラ
「あ、あの、アスカ?目の奥がまた青く光ってるけど…、」
「あん?そりゃそうよ、怒るのは当たり前でしょ、今までなんとか時系列を死守していたのに、
あいつが肝心なところでいなくなるから、とうとうあたしたち受験も卒業も出来ずに4年目の夏よ!
イヤよあたし、どこぞの江戸川コナンみたいに小学一年生を20年とかやるの」
「僕だってイヤだよ…どこかの映画みたいに14年とかかかって、寒いギャグ言わされて、
メンタル破壊されたりとか、死んでも御免だよ…」
「…それは微妙に狙って言ってるのかにゃ?シンでも、とか」
「え?いやいやいやいや」
「怪しいわ…あんた、なにげにそういう微妙な親父ギャグチックなこと、言うわよね…それも無意識に」
「…ごめん」「なんで謝んの?」「…え…いや、そのなんとなく」
「まあいいわ、で、コネメガネ、あいつ、まだやる気あんの?黙ってフェードアウトするつもりなら、
あたしだって考えがあるわよ」
「…んー、265の人だけど、仕事でまっっっったく心身の余裕がなく、今は完全に病んでるにゃ…」
「あいつもどこかの誰かさんに似て、メンタル弱いわねぇ…」「え?僕?」「あら、自覚なかったかしら?」
「はいはいはい、そこで夫婦喧嘩はしまいにするにゃ」
「でもこうやってるってことは、多少はやる気あるのかしらね…?」「多分」
「多分、って、だからあんたがここに派遣されてきたんでしょうが」
「まあね、拙者、都合がいいキャラクターでござるから、うまく作者に使われるでござるよ、なんてにゃ」
「で、肝心の続きはいつになるの?」「…さあ?」
「さあ?って、じゃああんたがここに来た意味ないじゃない」
「そんなことはないにゃ、少なくてもネタというか、やる気だけはミジンコ程度にはあるみたいだし、
最後までは時間がかかってもやり切るつもりはあるみたいにゃ、
ただ、今は時間と心の余裕がないだけで」
0385名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/07/11(月) 00:36:17.16ID:???
「言い訳なんて聞きたくないわ」
「まあ、ぶっちゃければ、脳味噌がLASとか、そういうこと考えるモードになってないみたいにゃ」
「うーん…それも困ったね…」ポロロン
「何あんた、呑気にギターのチューニングなんてしてんのよ、」
「え、いや、僕には何も出来ないし、ただ待つことくらいしか出来ないし、それならギターの
練習でもしていようかと…」
「…なんか随分達観してるわねぇ…」「そりゃ、もう長いからね…」
「はぁ…、まあ、しょうがないわね。待ちましょ、でもそんなに長くは待てないわよ」
「それは多分あっちも分かってると思うにゃ。」
「さあ、どうだか。庵野みたいにズルズルと引き延ばされてもたまったもんじゃないわ、
とりあえず、この夏中になんか上げなさい!でないと一生後悔させてやるから!
コネメガネ、そう伝えときなさい!」「御意」スタコラ

「ん、行ったわね…。これであいつがやる気出せばいいんだけど…」
「でも、いつものパターンだとあまり関係ないかもしれないよ…」
「そんなの分かってるわ、でも少なくとも受験とあたしたちの………をなんとかしてくれないと、
あたしゃ死んでも死にきれないわ!」///
「う、…うん。確かにそうだね…」ゴクリ
「ちょ、ちょっとシンジ、顔近いわよ…」ゴクリ
「…なんか、久しぶりでドキドキしちゃうね…」「…そうね」

チュッ


「えー、お楽しみ中のところ済まんが、」
「…!!!ふ、ふふふ冬月先生、いつからそこに?」
「いつからと言われたら、一番最初、真希波君が息を切らせてここに入ってきた時からだが」


と、ととりあえずはこんなところで勘弁して下せぇorz
0386名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/07/11(月) 23:27:56.76ID:???
>>385
お久しぶりです265さん
そして忙しい中乙です
なんか相当ヤバいみたいですが大丈夫でしょうか・・・・・・・・

無理してEOEのアスカみたいにならないようにしてくださいw
0387名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/07/12(火) 23:12:29.38ID:???
>>385
満身創痍の中乙乙乙ー!w
てかそんな状態じゃ小説どころじゃないんでは
こちらは気長に待ってるので焦らないでよ
でもこれだけは言わせry










小説はよ
0391名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/07/16(土) 08:01:00.54ID:1wRNGLTv
むう
0405名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/07/28(木) 00:52:57.26ID:???
暑い最中で熱中症になりそうな日々いかがお過ごしでしょうか。
ご無沙汰しておりますがポエムは定期的に書かねば鈍ってしまう、そう感じたので
脳内ポエムシンジ君の短編などを久しぶりに書いてみようと思いました。

脳内ポエムシンジ君シリーズ「ある雨の日に」

それでは7レスほどお借りすることにいたします。
0406@2016/07/28(木) 00:53:57.80ID:???
もし何がしかの大きな破綻が起きて、その時に、一つだけ持ち出せるものがあるとしたら。
僕は君を、首根っこを捕まえてでも持っていく。その首に手をかけて、でも。


湿度の高さと窓の外からのざんざとした音。音と水分に閉じ込められた季節、梅雨。
ねずみ色の空を、彼女がつまらなさそうに見上げている。寝転がったままで。

「ねーシンジ…」

僕は室内乾燥したタオルをたたんでいるので、彼女を見ることもなく対応もしない。
というよりこのタオルほとんど、隣人の少女、つまり僕の部屋の中心で座布団と袋菓子を
独占している同級生、惣流・アスカ・ラングレーのものなんだけど。

「曲変えて」
「やだ」

僕はにべもなく断る。広がった金髪の真ん中にある白肌の眉根が、思いっきり歪んだ。
アスカは自分の言葉に引きずられるタイプだ。要するに文句を言い出すと機嫌が悪くなる。
よって僕は、それまで室内に流れていたミニマル系のテクノを止めた。
0407A2016/07/28(木) 00:54:44.53ID:???
「ねえアスカ、いい加減僕の部屋に入り浸るようなら少しは色々手伝ってほしいんだけど」
僕は穏便に言っているはずだ。仏の顔も3度って言うし。

「男子高校生の中に美少女女子高生がいる。それだけで部屋の彩りにこれ以上にないく
らいに貢献しているじゃないの。表彰ものよ?」

アスカの即答に、僕はうわぁ・・・とか呻きながら悪びれのない響きに佇んでいた。
悔しいのは発言の内容には頷く部分もそれなりにあるということで。

丁度僕の手が洗濯物をたたみ終えていた。僕の宙ぶらりんの手は、どうしたものか。
ショートパンツにTシャツ姿でくつろぐアスカの方に、何となく掌の甲を向けた。

「何、触りたいの?」

ぴたっと僕が固まる。何を言ってるんだこの娘さんは。
その僕の反応が、アスカの某かの琴線に触れたようで。

「ねぇ〜シンジ、あたしがもし、どこでもいいから触らせてアゲル♪って言ったら」
さっきまでの不機嫌はどこにやら、ニヤついた笑顔で半身を起こし、人差し指を自分の
唇に触れさせながら、自然、僕の視線はつややかなアスカの口元に視線を釘付けにして。

「あんたは、どこに触れたい?」
0408B2016/07/28(木) 00:55:35.17ID:???
僕はついこないだの6月に17歳になったばかりの男子高校生です。
脳の中のサーキットに、様々な感情が一気に過負荷を起こしかける、が。
「なんだよそれ、自分を安売りしないんじゃなかったの?」

視線を横に逸らして、僕は辛うじて、いつもの皮肉めいた態度をとることに成功した。

「ふっふっふ、そうね、安売りはしないわ。あたしは――」
アスカはゆっくりと距離を詰めはじめていた。まずい、横を向いたのは失敗だったか。

「欲しいと思ったものは全部手に入れたいわ、女の子だもん」

言葉の意味味は分からないけど、声の距離はどんどん近づいていて。
猫科動物のような俊敏で音もない動きが、僕の手首を掴んでいる。

強く圧迫しているのは親指と人差し指だけ、3本の指先が、肌を撫ぜるように触れてる。
あのさ、僕はこんな時、どうすればいいかわからないんですけどー。

アスカと僕の距離は、膝のつき合わせられるほどの距離だ。
悪戯っぽく微笑むアスカは、もう殆ど勝ち誇っているかのようだった。
この状況で僕がもし、どこぞに触らせてくださいと言おうものなら。
僕の今後がどれほどアスカにもってかれるのか。

僕にも意地がある。跪き、従い、意志を無くすのは少なくとも男のすることじゃあない。
僕が知っている、男というのは。

脳裏に浮かんだ僕の最も遺伝子的に近い男性、即ち父親は――

…母さんのために、全てを投げ出しているような人だった気がする。
0409C2016/07/28(木) 00:56:28.15ID:???
・・・やるか?
僕の様子が少し変化したのが感じられたのか、アスカの目が少し見開くのが見えた。
そうだね、結局、僕らが2年に進級した時、クラスは変わらなかった。
ケンスケも一緒のクラスで、新しい友人も色々出来て、それは満足しているんだけど。
なにより、アスカが傍にいることで感じた安堵に、僕は驚いていたんだ。

「え、あの、シンジ…」

アスカが少したじろぐ様子が見えたが、そんなことは関係なく、溢れ出し始めた。

『シンジ…いいか、機会というものは実は頻繁に与えられているものだ。
それをものに出来るかどうかが、人間の能力は、『そこ』で決まる』

低い声の響、僕がまだ中学生だった時、暑い夏の日に、並んで海釣りにいったあの日。
揺れない釣り針に対して、父さんが訥々(とつとつ)と語り始めた言葉。

『釣りにはアタリというものがある。餌につられ、魚がその餌を完全に飲み込んだ感触だ。
釣り針がかかるまでには、いくら糸を巻いたところで逃げられてしまう』

その時、父がたらした釣竿の先は、波間に揺れていた。

『知識…経験…それらは確かに大事だ。だが人生は予習が出来るものだけではない。
では、未知の存在、海の中のように、見ないものと戦う場合に必要なのは――』

糸の先で、水面から銀色に反射しながら魚が飛び跳ねた。父はにやりと笑った。

『――欲しいと思う心と、それを炊きつける、まあ、『度胸』だな」
0410D2016/07/28(木) 00:57:40.18ID:???
父に、ありがとう。母に、なんというかごめんなさい。
僕は今、その、気になっている同級生の女の子がグイグイ前に来てくれたので、
彼女の手をとっています。アスカは、この僕の対応に僅かな戸惑いと、気の強さからくる
来るなら来いやこのやろうみたいな強気な姿で、青い瞳で僕を見ています。

雨が僕らの部屋の外で、世界の全てを閉じ込めているかのように。
このまま止まなくて全てが流されるようなことがあっても、
掴んだものを離したくはないんだ。

少しだけ、アスカの唇が震えているのが、見えたんだ。
「…手で、よかったの?」
「だけじゃ、ないよ」
僕はなるべく冷静に言ったつもりだった。でも、お互いの心臓が跳ねたのは感じた。

「…めっちゃお高いわよ」
「かまわない」
「返品、不可だし…」
「好都合だね」
「…あの、その…」
「条件、それだけなら」
僕はもう片方の掌で、アスカの肩を掴んだ。青い瞳が揺れているのが、見えたよ。
0411E2016/07/28(木) 00:58:36.93ID:???
「アスカ」

本当に色々と込めて、名前を呼んだ。アスカがきゅっと、唇を噤むのが見えた。

「初めて会った時からだよ、正直に言うと。一年くらい、かかったけど」

17歳の少女の心に、決して抜けない針を刺した。僕の心にもそれは刺さっていて。

「欲しいなら、僕の全てをあげても構わない。僕も欲しいんだ、まるごと、その」

男は、度胸だ。

「アスカ、僕は、君の」
途端
「!ッッッ、あああ゛ッッツ」
アスカの瞳がものすんごく見開いて、小動物みたいにびくんと肩が跳ねた。
僕もさすがに急停止した。喉元まで出掛かっていたんだけど。

「ごめん、まじごめんシンジ、ちょっとストップ!」
は?
「その、あたしとしたことが今日油断してて、パッケージングが済んでない!」
は?え?
「ちゃんとピーチ・ジョンの上下揃えてくるから、ちょっと待ってて!」
言うが早いかアスカは僕の手をするっと抜けて、猛然と自分の部屋にダッシュしていった。

後に残された僕は固まったまま、行き場のない掌をとりあえずは額に触れさせた。
0412F2016/07/28(木) 00:59:39.55ID:???
…なんというかあれだ。釣り上げる寸前で糸が噛み切られて、その後に、魚の方が自分で飛び込んできた場合、どんな顔をすればいいんだろう。

雨はまだ降っている。とりあえず、アスカが帰ってきたら、うーん。

言葉では言ったけど、本当にアスカが全力振りしてきそうで、うーん。
とりあえず、ちゃんと言葉を聞いてもらった上で、まだ学生だから、お互い分割払いみたいに
ゆっくりと進んでいけないかなって、しっかり相談しないといけないや…。

僕はため息をついた。さっきまでの度胸とかは何なんだって自分で思うけどさ…。
上気した頬をぴしゃりと叩きながら、とにもかくにもなるべく考えなきゃ…。

本当にこれが正解なのかはしらないけど、僕と彼女の奇妙な関係の新しいステージ。

こんなんでいいのかな、マジで。
脳内の父さんに聞いても答えは返ってこなかったけど、瞼の裏の母が、くすくすと
笑って、それから親指を立てて歓迎しているような気がした。

                             おしまい。
0413名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/07/28(木) 01:02:26.81ID:???
以上でございます。
何か芸風が変わっているかのように感じられましたら、
それも全て、「ピコピコ中学生伝説」ってやつのせいなんだ。

第三巻まで絶賛発売中なのに近所の書店で3巻がなかったので、入荷して買えたら
またちらほらと書けたらいいなと思います。
それではみなさんも経口補水液を用意しつつ、夏の暑さにはお気をつけて下され。
0414名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/07/28(木) 23:00:42.94ID:???
>>413
乙です
てか久しぶりですね
なんかアスカスレで以前ピコピコ中学生の話題で盛り上がってたみたいですね
私も読んでみようかな

ポエムさんの小説は読み応えがあって個人的に好きです
0419名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/08/01(月) 00:45:13.40ID:???
本編のシンジはアスカのことなんか好きじゃないのにね
貞本のシンジなんてなおさら
キモイオタクがシンジに憑依してるだけだろ
0444名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/09/04(日) 02:32:18.49ID:???
「んもぉぉぉ!!また部屋干しで部屋が狭くなるぅ!!」

ピトッ

「こここここ、これは洗濯物で部屋が狭くなるから必然的にアンタとくっついちゃうだけなんだからね!!!////」

「あ、じゃあもう干しきれないから、コインランドリー行ってくるよ」

「…むぅ」
0446名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/09/05(月) 01:43:16.72ID:???
「うへー、ひどい雨で全身びしょ濡れだわ〜」
「だから僕ひとりで行くって言ったのに…」
「早速洗っちゃお」
「わー、アスカここで脱がないで!!!」
0455名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/09/12(月) 08:03:16.88ID:???
「むぅ…台風…」
「台風待つっていうのも変な話だよね…」
「だって…ところでアンタ何やってるの?」
「あぁ、コロッケ作ってるんだ。台風が来たらコロッケ作る風習があるってミサトさんに聞いてさ。台風じゃないけど、しばらく雨が続くらしいから。ほら、アスカも手伝って」
「なんでアタシが…」ブツクサ
「ほらほら、手早くお芋つぶして、混ぜて…揚げるのは僕がやるから…はい、手伝ってくれたから綺麗にできたよ!熱いうちに食べてよ!」
「はむっ…おいしい…」
「よかった」ニコニコ

こんな時間の過ごし方なら長雨も悪くないな、と外を眺めるアスカさんでした。


甘々ですな!
0457名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/09/12(月) 21:24:22.73ID:???
>>455
>>456
乙乙乙ー!
いいねー!大好きなシンジの作ったコロッケをおいしそうに食べるアスカ
それを楽しそうに見つめるシンジ
そして何故か用水路を見に行くアスカw

いいぞ、もっと甘々でイチャラブなアスカとシンジを!






投稿はよ
0458名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/09/13(火) 00:46:33.06ID:???
>>457
ありがとうございます!
ちょっとはしょって書いちゃったので伝わりにくいかなと思ったんだけど、イメージは伝わったようで嬉しいです!
やっぱり甘々なLASがほっこりしますかねぇ?
0465名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/09/18(日) 17:58:45.20ID:???
久しぶりに三人で囲む食卓
ただ、アスカは少し不機嫌で。


「な〜に、アスカったらぶーたれちゃってぇ、ひっさしぶりに三人揃ってご飯食べてるのにぃ」
「…」
「…今日、トウジとやりあっちゃって…ね、アスカ…」
「…はー、ほんとムカつく!」
「とかそんなこと言って、ホントは気になる男の子なんじゃあないのぉ〜?イヤよイヤよもなんとか、っていうしぃ〜♪」ニヤニヤ
0466名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/09/19(月) 00:50:32.96ID:???
>>465
乙です
これは王道のアスカ・ミサト・シンジの三人揃い踏み
そしてトウジとの喧嘩とLAS展開を匂わせる伏線じゃないですか
ミサトの冷やかしもいい具合ですね
続き楽しみにしてます
0469名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/09/20(火) 02:29:39.22ID:???
>>465
「…なっ!」
ガタリと音をたてて思わず立ち上がるアスカ。その視線はミサトを射抜いて


「なんですってぇ?!このアタシがあんなバカをどうこうとか、あり得ないわ!!だいたいね、ヒカリが毎日どんな気持ちでお弁当渡してるかも気付けない愚鈍なバカと、アタシが釣り合うわけないでしょーが!
0470名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/09/20(火) 02:33:59.64ID:???
>>469
「『鈴原今日はお魚の方がよかったかな』とか『お肉はもっと味付け濃いめの方が好きかな』とかずっと悩んでるのに!あんなバカにはおにぎり1つでじゅーぶんなのよ!」

(僕もそんな気持ちでお弁当入れてるんだけどな…気付いてもらってるのかな…)
言い出せないシンジくん
0471名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/09/20(火) 02:41:21.75ID:???
>>470
「だからアタシ言ってやったのよ、ちったぁヒカリの気持ち考えてあげなさいよって。そしたら、『うるさいわい!わかっとるわ!』だなんて言うもんだから…!」
「アスカぁ、あなたの洞木さんを思う気持ちはとてもよくわかるけど…それは余計なお節介だわ」
0473名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/09/20(火) 21:52:28.30ID:???
>>472
乙です
これは鈴原とヒカリのラブラブな展開もありそうですね
ヒカリのことを思っての怒りとかアスカらしい
続き楽しみにしてます
0498名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/10/12(水) 08:59:05.11ID:???
「Trick or Treat!お菓子とぼk…」
「お菓子!」
シュン…


項垂れるシンジの口にペロペロキャンディーを捩じ込んで
「…を食べてるアンタ!」
と耳元で囁く小悪魔アスカさん
0505名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/10/17(月) 11:12:34.08ID:???
>>503
アスカ「んもぉぉぉぉ!!!こうなったらとことん、割ってやる割ってやる割ってやる割ってやる割ってやる割ってやる割ってやる…!!!」
0515名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/10/26(水) 05:33:52.58ID:???
アスカ「そりゃあ、魔女の帽子に魔法のステッキ。そして裸マントに決まってるじゃなーい☆これでシンジもメロメロよ!」
ミサト「あーだめだめ、そんなの10年早いわよ、大人しくこれはいときなさい」

手渡されるかぼちゃパンツ


「いやぁぁぁぁぁぁぁ」
0518名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/10/28(金) 10:20:26.91ID:???
>>516
「じゃーん!というわけで、ご希望通り裸マントで再登場よ!おっと、>>516に中身はみせないわよ!誰のために恥ずかしながらも着てると思ってるのよ、ここだけの話いつまでも手ぇ出してこないシンジをその気にさせるためなんだから!
0519名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/10/28(金) 10:22:30.96ID:???
>>518
あ、でもシンジには内緒にしといてね、しゃべったら殺すわよ」


もう一度着替えてリビングに戻ったアスカさんがみたものは!!
0521名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/10/29(土) 07:23:15.18ID:???
1 鼻にティッシュ詰めて倒れてるシンジ
2 裸エプロンで待ち受けるシンジ
3 裸かぼちゃパンツで待ち受けるミサト
4 かぼちゃマスクのペンペン


さぁどれ!?
0523名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/10/30(日) 03:00:54.53ID:???
1のcase

「ちょっと!シンジ!!シンジったら!!!」
倒れているシンジの胸ぐらを掴んで赤べこ並に振り起こすアスカ。
「…はっ!僕は何を…」
「もぉぉぉ!!!心配するじゃないの!なんで倒れてたのよ!鼻血まで出して…も、もしかしてアンタみてたの?////」
0524名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/10/30(日) 03:03:47.06ID:???
>>523
「あっ…///いや、その、あの、悪気はなくて、あの、みた、というか、あの、偶然ちょっと…みえた、っていうか…」
「もぉぉぉぉ///知らないうちにみられてたなんて、裸マントより恥ずかしいわよ!このバカシンジ!」
(と、飛び込んで来たって構わないんだから…///)
0525名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/10/30(日) 03:08:52.84ID:???
>>524
「あ…え、裸マント…だったの!?…うん…ごめん…」
(い、言えない…何度も登場シーン練習してるの可愛くて萌えてたとか言えない…『じゃーん!』って言いながら仁王立ち、から垣間見えるかぼちゃパンツのギャップが可愛すぎたとか言えない…)

結局全裸は不安でかぼちゃパンツはいてたアスカさん
0526名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/10/30(日) 20:34:13.87ID:???
>>523-525
乙乙乙ー!
アスカのカボチャパンツ姿がいいw
そして着替え中にやっぱりシンジに押し倒されることを期待してるアスカが可愛い!
ちなみにオレは3が本命
アスカとミサトの異様な修羅場とやり取りが期待できそう





続きはよ
0528名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/11/01(火) 13:17:09.50ID:???
「…結局シンジとはなんの進展もなくハロウィンが終わったわ…ぐぬぬ
11月はなんのイベントがあるのよ…」
「おひゃよ〜アフカ〜」
「んもぉぉぉぉ!!!歯磨きしながらそこらへんウロウロしないでよミサト!そんでいつまでかぼちゃパンツはいてんのよ!」
「あひゃからカリカリひないでひょ、アフカ〜二日酔いに響くぅ」

なぜかかぼちゃパンツ愛用しだしたミサト

「かあさん、葛城家は今日も平和です…」
0530名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/11/03(木) 01:22:53.80ID:???
>>528
乙乙乙ー!
結局シンジから押し倒されることなく酔っ払いのカボチャパンツ姿だけとかw
アスカ踏んだり蹴ったりだったようだな




11月の新作はよ
0533名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/11/05(土) 00:17:40.36ID:???
『第八話 アスカ、来日』

「はぁ〜何度みてもアタシの活躍する姿は美しいわよね♪」
「このあとめちゃくちゃ請求書と始末書まわってきたけどね〜グビッ」
「ま、勝ったんだからいいじゃあないの、録画してるのもう一度みよー♪」
「はいはい、私はもう寝るからアスカ一人で楽しみなさい」オヤスミ〜
「…やっと一人になれたわ。」
0534名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/11/05(土) 00:22:49.59ID:???
「あーん、アタシとお揃いのプラグスーツ姿のシンジ可愛すぎるぅぅぅぅ!!!!あの小さなおしりかわいい!!!ばーむくーへん、だなんてもう萌え以外のなにものでもないわ!!思えばこの頃から射抜かれてたのかもしれない…好き好き大好きシンジ♡」
あふれる思いをクッションで口にふたして叫ぶアスカ。


遠巻きでみてるシンジ「またみてる…アスカ自分のことすごく好きだよね…まぁ、そこも可愛いけど…」
0536名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/11/06(日) 02:09:46.11ID:???
>>535
ありがとうございます、ちょうどBSのエヴァをみたところだったのでちょこっと書いてみました。
11月は特にイベントがないので少しでもLASの刺激になればいいのですけどねぇ
0545ジャップ・エンド教 ◆.9yaQt1zVo 2016/11/13(日) 03:12:57.72ID:udYR+a1P
【ジャップ・エンド教は世界に光をあたえる】


我々ジャップ・エンド教は、アニメ・漫画・同性愛者を根絶し、美しき世界を創ろうとしている。美しき世界の創世を妨害する者には、聖なる裁きが下されるだろう。


1:アニメや漫画は秩序を乱す有害文化であり、すべてのキモオタは殺処分されなければならない。

2:女は子供を生むために存在している生物であり、男に犯されることは女の義務である。女という生物は本能的に『犯されたい』と思っているはずなのだ。

3:同性愛者のけがれた精神は、我々大韓民国人の聖なる精液によってのみ浄化される。同性愛者の女は我々に犯される義務がある。



          ≪ジャップ・エンド教≫
0546名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/11/13(日) 05:48:41.59ID:???
「はぁ…ほんと、なんのイベントもなくて辛い…」ゴロゴロ
「…」
「別にイベント好きって訳じゃないけど、イチャイチャできる言い訳たつしさー」ギュー
「…あのさ、アスカにとってイチャイチャの定義ってなに?」
「えー、人目も憚らずに二人だけで手を繋いだり抱き締めあったり、お互いの体温が等しくなるほど溶け合ったりすることよ!」
「ふ、ふーん…」

(じゃ、じゃあこの後ろから抱き付いてるアスカの状態はなんなんだろう…)


「…少しは私の目も憚ってよ…」
ないがしろにされてるミサトさん
0550名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/11/15(火) 02:25:45.08ID:???
「みてみて、シンジ!バックロールエエント…」
「うわ、ちょっとアスカ!なんでお風呂入ってくるの///」

ガラッ
ミサト「させません!!!」
0552名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/11/15(火) 02:39:43.88ID:???
ユニゾン回みたとこなので、二人が イチャイチャするとこもっと見たくなりました。
皆さんにとってのLASは、どのくらいの関係を想定されていますか?がっつり恋人?未満?
0553名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/11/15(火) 02:44:50.73ID:???
夕陽に染まる町外れの川沿いを、買い物帰りの二人が歩いていく。
「シンジー、足疲れたー、おんぶー」
「やだよ、ただでさえ荷物持ちさせられてるんだから、これ以上何ももてないよ」
「かよわいアタシがこんなに頼んでるのに!疲れた脚がむくんで太くなってもいいっていうのね、アンタは!」
0554名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/11/15(火) 03:00:03.97ID:???
すねてむくれてそっぽむいてるアスカ、こうなると意地でも動かないことは経験上よく知っているわけで。
わがままばかりで腹の立つことも多いけれど、それは自信の無さの裏返しでもあって。
つんと横向きながらもシンジの動向を探ることに必死でいる。
強がってても心の弱さは僕と同じだ、と軽く笑ってシンジはアスカの手をとった。
0555名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/11/15(火) 03:08:29.14ID:???
「ほらー、最初から素直におんぶしてくれたらいいのよ。こんなお姫様をおんぶできるなんてアンタ世界一の幸福者なんだからね!」
「へいへい、ソーデスネー」
「全然心がこもってないー。もー。あ、ねぇシンジ!もう日が暮れちゃったわよ、アンタが遅いからー」バタバタ
「ちょ、暴れないで…アスカ、あっちもう月が出てるよ…
0556名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/11/15(火) 03:15:37.82ID:???
「…ねぇ、アスカ、…月が、月が綺麗ですね」
「へ?アンタ急になに言い出すのよ、昨日も綺麗だったけど…あ、あれか、」
「…///」
「スーパームーン?ってやつ?」
「…え、あ、いや、その…まぁ、うん、そう…それ」
そっか、アスカは夏目漱石なんて知らないよな…

「…バカシンジの意気地無し」
「え…」
「…死んでもいいわ」
0557名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/11/16(水) 21:46:16.02ID:???
>>556
乙です
スーパームーンでアスカに謎のスイッチが入った?

やっぱLASは友達以上恋人未満の微妙な関係が一番2828できる
そんな関係でも普通の人以上にイチャイチャしてるから
恋人になったらすぐにでも妊娠し
0562名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/11/23(水) 07:55:13.80ID:???
>>561
まだ11月よ?気が早いわねぇ。

そ!れ!よ!り!も!
もっと大切な日をわすれてない?(ギロッ
もう、世界の記念日として制定すべき日をね!
0564名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/11/24(木) 00:12:35.40ID:???
>>563
「ねぇ、アスカ、そろそろ誕生日でしょ?何かほしいものある?あ、食べたいものでもいいよ、腕によりをかけ…
「赤ちゃん」
ブフォッ
……

とりあえず、誕生日の献立はスタミナ料理にしようと決めたシンジくん
0566名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/11/25(金) 10:31:21.85ID:xj9P1u2B
8
0572名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/11/30(水) 03:09:14.11ID:???
「シンジー、寒いー」毛布ファサ
「手が冷たい」ハンドクリームヌリヌリ
「脚が冷える」足湯ホカホカ

シンジは世話焼きだ。
アタシの望みをなんでも叶えてくれる。
でも一番あたためてほしいのは…

「シンジ…心が…寒い…」
「…ん」黙ってそっと後ろから抱っこ…
「…これでどう?」
「あったかい////」

ミサト「あっちでやってくれる?(#^ω^)」
0577名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/12/02(金) 01:05:23.43ID:???
「かーじー、聞いてよぉ…ヒック」
「おいおい、飲み過ぎだろ、明日に響くぞ?」
「もうマセガキがぁイチャイチャしてて私の家なのに居場所がないのよぉぉぉぉ」
「ほーぅ、じゃあ俺ん家くるか?w」
「ちょ!バカ!どさくさまぎれになにいってんのよ!アンタとは…もう…なんでもないんだから……//」
「ふーん、そのわりに握った手を離さないのはどういうことかな?」
「…バカ///」

「ミサトさん遅いね」イチャイチャ
「どっかでよろしくやってんじゃないの、もう子供じゃないんだし!」イチャイチャ
0578名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/12/02(金) 23:39:50.37ID:???
>>577
乙です
ミサトさんw
やっぱこの後は加地さん家に行くんだろうから・・・・・ねぇ
この流れだとミサトさんが加地さん家に泊まるんだろうから
その連絡があった後にアスカはシンジとセッ
0579名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/12/03(土) 05:32:28.92ID:???
>>578
「…シンジ」
「アスカ…」
あと数センチで二人の影が交わる…
その刹那

ガラッ
「いやぁ〜酔った葛城は重い重い〜
加持宅配便、眠れるレディを無事に配達完了しました」

ミサト、アスカ、シンジ
「…チッ」
0580名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/12/04(日) 01:53:05.62ID:???
>>579
乙です
惜しい!
あともう少しで真のLASが成しえられたのに!

やっぱり酒呑んで寝てしまったらしいミサトさんw
そして最後の舌打ちに各自の思惑が含まれているのもナイス表現
アスカとシンジはまあわかる
ミサトさんの舌打ちはガキ二人に嫌というほどLASを見せつけられて
やけくそになってるのがポイントだねw
0582名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/12/05(月) 00:00:02.19ID:???
今日という日が終わる。
いつもと変わらない、でも少し特別な。
アイツはしつこく欲しいものを聞いてきたけど、アンタがアタシのものなら他はなにもいらないのよ、シンジ。
0588名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/12/07(水) 03:29:19.97ID:???
「「アスカお誕生日おめでとう!」」
「ありがと♪」
食卓にはシンジが腕をふるったご馳走がズラリ。

「はーおなかいっぱい…眠くなってきちゃった」「ごちそうさま」
「私は酔っ払っちゃったから部屋戻るわ〜、おやすみ〜」
「ムニャ…」
「アスカだめだよ、こんなとこで寝ちゃ風邪引くよ。部屋に戻りなよ」
「やだ…動けない…スヤァ…」
「ちょ、ちょっと!起きてよ」ユサユサ
0589名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/12/07(水) 03:39:57.03ID:???
普段はキリリと上がった眉毛も寝顔では穏やかで。白く透き通った肌がとても綺麗で思わず頬に手を当ててしまった。なだらかな頬に沿って指を走らせ、唇で止まる。このまま、いっそ…

いや、だめだ。寝込みを襲うなんてズルいやり方だ。今はただこのままでいたい。ずっとこのままでいた方が、お互い傷付けることもない。
0590名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/12/07(水) 03:54:40.41ID:???
シンジは立ち上がると電気を消してアスカに毛布を掛けて立ち去ろうとした。
「逃げる気?」

暗がりの中からアスカが問いかけた。

「起きてたの?」
「…少しくらい手を汚さなければ、欲しいものなんて手に入らないのよ」
「…欲しいものなんてないよ」
「アタシはあるわよ…、アンタの全部」
「…全部ったって、ものじゃないんだし…あげられないよ…」
0591名無しが氏んでも代わりはいるもの2016/12/07(水) 04:10:01.19ID:???
「簡単なことよ、拒まなければいいのよ。アタシとアンタがひとつになることに」
「…!ひと、つ…」
「心の壁、溶かしてあげるわ…」

じりじりと壁際に追い詰められるシンジ。
二人の距離が縮まるのに従って、お互いを受け入れる気持ちも高まって。
あと数センチ…鼻先に互いの息がかかる距離。
0603スカルドラゴン(強化) ◆WuWshirBwk 2016/12/17(土) 11:21:40.90ID:???
ダイヤモンドは、主に地下深く高温高圧のマグマがゆっくりと上昇し、低温低圧になっていく中で徐々に中の炭素が冷えて結晶化していく事で生成されますが、
これはちょうど、若い頃の苦労は買ってでもしろという言葉の通りに組織の中で上からの圧力や同僚らなどとの競争の中で情熱を燃やして働き続け、
次第に出世していくと共に圧力や競争から遠ざかり若い頃のような情熱も少しずつ失っていく中、巨大化していく結晶のように社会において存在感を増していき、
やがて宝石のように社会において尊重されるようになるという、多くの日本人がかつて持っていた理想的とも言える出世観を連想し、
またダイヤモンドはその硬さから擦りあっても大概は傷つかず、ダイヤと擦った方が逆に傷つくが、
これもまた社会と言う「当て擦り合い」の中では、組織の中で出世した人間は守られ傷つかず、相手ばかりが傷つけられる結果になる事を連想する。
私は「ダイヤモンド」を目指す事を拒んだ。
ダイヤモンドはしかし、その硬さに比して衝撃には弱くハンマーで強く叩いた程度で砕け、また強い火には燃えてしまう。
そして巨大な結晶は装飾品程度にしか「用」はなく、その輝きは自身から出た光ではなく、何かを暖める事も無い。
「遺灰ダイヤ」も「死んだ者」「死んだ輝き」
0604スカルドラゴン(強化) ◆WuWshirBwk 2016/12/17(土) 11:23:58.04ID:???
私は1984年に生まれた。
小説「1984年」では、主人公のウィンストンスミスは、高度に発達した全体主義の監視社会である国家に対して反抗しようと試み、
しかし敢え無くその反抗は露見して捕まり、拷問によって自らの誇りも想いも全て打ち砕かれて洗脳された末、
何も成せず、何も残せず、無意味に死んでいった。
私は1984年に生まれた。

私には私を塞ぎ続けるこの世界を何も変える事が出来ない事を、私は知っている。
私が何も残せない事も。
しかしそれこそが、
0605スカルドラゴン(強化) ◆WuWshirBwk 2016/12/17(土) 11:44:55.22ID:???
私が現在の境遇に置かれているのは自業自得の面が強いのだろう。
だが決して「それだけ」ではなかった。
その不自然さや違和感を「見て見ぬ振り」をして迎合する事は、心を殺すような事だった。
そうして私は自分の心を殺した結果、「知」を失ったのだから。

今の自分の孤独に後悔は無い。
それはかつて人間関係で痛い目を見たからという事からではなく、「得た物」があったからである。
それが例え、人からは嘲笑われるようなものであったとしても。

私はもう一度「迎合」し、そしてもう一度「知」を手放そう。
私という人間は、「1984年」からはじまった。
0635名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/01/09(月) 20:28:43.87ID:???
正月明けネタとしては
・正月太り、襲来
・凍結路面、尻餅の果てに
・バレンタインデーまで何マイル?
辺りでしょうかねぇ
0644名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/01/15(日) 22:25:17.17ID:???
「ア・・・アスカ・・・」
と言って目を閉じるシンジ。 
シンジはアスカにすべてを任せる事を決めた。 
たった、数秒な時間が何十分とも感じ時である。 
「やっぱりいいわ・・・私寝る」 
「え・・・?アスカ?」
と拍子抜けするシンジ。 

※私は>>591ではございません。 
もし「つまんねぇ」と思う方が入れば私はこれ以上書き込みはいたしません。 
ご判断の方、よろしくお願いします。
0645名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/01/16(月) 00:15:55.18ID:???
>>644
おおー!ほったらかしてた話に続きが!
忙しさと、この手の話に繋げていくのがちょっと苦手で、「続きは読者の思いのままに…」と思っていましたので、
是非続きが読みたいです。
0646名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/01/16(月) 00:31:07.51ID:???
>>645 
591さんですか? 
ありがとうございます! 
出来る限り、591さんに笑われない物にしたいと思いますので
よろしくお願いします。
0648名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/01/16(月) 00:55:27.21ID:???
いくつかネタふりをしていただいてるのに、忙しさにかまけて何も書けず放置していて少々心苦しかったのですが、新たな書き手さんがいらしてくださったので、嬉しいです!そして自分もLASでほっこりしたいですwwww
0649名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/01/16(月) 18:05:59.70ID:???
拍子抜けするシンジをしり目にアスカは 
ベットに戻り、シンジに背を向けように横になった。 
横になったアスカは
「ねぇ?アタシ寝たいんだけど、出て行ってくんない?」と
拍子抜けして動けないシンジにサラッと言った。 
0651名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/01/16(月) 19:19:04.33ID:???
シンジも我に返り
「あ、ゴメン・・・今出るね・・・」と部屋から出ようとすると 
「おやすみ。シンジ。」とアスカがおやすみの挨拶をし
シンジも「おやすみ。アスカ。」と返した。 
0652名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/01/16(月) 19:41:52.97ID:???
部屋を出たシンジは、緊張から解放されてほっと胸を撫で下ろした。 
アスカに告白する事が出来ない自分に、嫌気を感じたが 
かと言って、感情と欲望に負けてはアスカを傷つける事になる。 
それだったら、自分がもっと成長してから告白したほうがいいとシンジは考えた。 
しかし今の彼には、明日の朝食の献立をどうするかの方が重大な案件であり 
その朝食を考えながら、自分の部屋に戻るのであった。 
一方、アスカは・・・ 
0653名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/01/16(月) 20:13:00.51ID:???
ベットの中でアスカはため息をついていた 
「アイツは、いつになったらアタシの元に来てくれるんだろうか?」かと 
本音を言うのであれば「あの時、抱きしめてくれるだけで良かった」だろ。 
自分から抱きしめればいいのかもしれないが
同時に、シンジも抱きしめてくれなければ意味がない。 
時間は掛かるだろうが、少しづつシンジが自分の元に来てくれればいい
とアスカは思った。 
0654名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/01/16(月) 20:22:44.54ID:???
アスカは横になりながらある事を呟いた。 
「Herankommen
Mehr mehr mehr
Das Lassen Sie uns uber gestern vergessen
Und wir mussen dicht und fest, und ich habe Liebling・・・」 
と呟き、シンジが早く自分の元に来る事を願い
深い眠りについたのであった・・・

「完」
次回「バレンタインデーまで何マイル? 」
乞う、ご期待!
0655名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/01/16(月) 20:58:18.56ID:???
>>644です
お粗末な出来になってしまいましたが
なんとか完成させていただきました。 
誤字・脱字の山な作品になってしまった事を
深くお詫び申し上げます。 
最後のアスカの呟きですが 
某歌手の曲の歌詞をドイツ語に翻訳したものになっています。 
機械翻訳だから、精度が低いのは仕方ないね。 
そういう訳で、私の作品は此処までになります。 
それでは皆さん。失礼いたします。
0656名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/01/16(月) 22:01:32.22ID:???
>>655
乙乙乙ー!
誰の曲だろうか
昨日のことを忘れて私はしっかりしないといけないかー
アスカらしい歌詞のチョイスだ
近づいてくるのはシンジの心のことか?






次のバレンタインネタの投稿はよ
0657名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/01/16(月) 23:41:58.04ID:???
>>656
655です。 
ありがとうございます。 
いやー如何せんただでさえ難しい日本語をドイツ語に変換しましたからね〜 
元曲発表したら「えええwww」となるかとw
「近づいてくる」というは、シンジの心であってます。 
呼んでいただき、ありがとうございました!
0661名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/01/17(火) 14:59:32.40ID:???
てか、明城学院附属高校って何処にあるんだろうか? 
「エヴァ」がない世界って事は分かるけど
日本の何処が舞台になってるんだろか?
0662名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/01/17(火) 21:30:55.44ID:???
>>655
乙です
なんだろうこのモヤモヤした気分は
この続きはあと何年か後に実現するんだろうね
そこまでの過程がまた楽しいってのもあるんで
次のバレンタイン編を楽しみにしてます
0668名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/01/23(月) 21:45:53.58ID:???
外はガチガチに凍ってます
アスカならここでツルンと滑って尻餅つくんだろうね
そこでアスカに手を差し伸べ立たせてあげようとしたシンジも滑って
アスカに覆いかぶさるように倒れる
そこでアスカとシンジの目と目が合ってお互い顔が真っ赤になる展開とか
0673名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/01/25(水) 03:04:23.81ID:???
「シンジ!早く起きて!!」
窓を開けてアスカは言う。
この白銀の世界をみせてあげたい。
「アスカ…寒いよ…窓…閉めて…」
布団にくるまって芋虫状態のシンジの願いもむなしく、叩き起こされて渋々窓際へ並ぶ。
「わぁ!真っ白だ!」
冷気に当てられて目が覚めたシンジもすっかり雪景色の虜である。
0674名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/01/25(水) 03:08:30.52ID:???
「地軸がずれてまた四季が訪れるようになったのね」
詳しいことはよくわからないけど、そういうことらしい。
朝食もそこそこに二人は家を飛び出し学校へ向かう。
何年ぶりかわからない天からのプレゼントにはしゃぎながら。
「ふわふわ!」
「冷たいけど、すぐとけちゃうね」
0675名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/01/25(水) 03:13:29.10ID:???
「わー、こっちまだ誰も踏んでない!綺麗に積もってる!」
走り出したアスカを追い掛けるシンジ…
「アスカ、走っちゃあぶ…うわぁ!」ズデーン
「何やってんのよ、アンタは」
「いてて…雪道なんか初めてなんだから慣れてないんだよ…」
「んもぉー、相変わらずドジね、ほら手貸してあげるから、早く起きなさい、びしょ濡れじゃないの」
0676名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/01/25(水) 03:20:13.51ID:???
「ありが…」ズデーン
「いたた…もぅ!そんなに引っ張ったら転ぶじゃないのよ!」
「そんな、強く引っ張ってないよ、地面が凍ってるから少しの力でバランス崩すんだよ」
「もぉぉぉそもそもアンタがどんくさいから巻き添えくっちゃったんだから!ぼやぼやしてるせいよ、たるんでるわね!」
0677名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/01/25(水) 03:22:35.20ID:???
「まだ寝起きだから少しはボーッとしてるけど…でもアスカが無理やり早起きさせるから…」
「なによ、アタシのせいだっていうの?もー、責任転嫁とは呆れるわね!」キー


「あのー、お二人さん、お熱いところ失礼するんだけど…」
0678名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/01/25(水) 03:25:58.05ID:???
「なによ!今取り込み中なんだから!ってか誰よ!…あ、ひ、ヒカリ…」
「委員長…トウジ…お、おはよう…」

「なんやなんや朝から夫婦喧嘩か、元気ええのう」
「…仲いいのはイイコトだと思うけど…さすがに外でその格好は…風紀的に…ちょっと…///」
0679名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/01/25(水) 03:32:08.27ID:???
ヒカリに言われてふと我に返った二人は…


びしょ濡れで対面座位よろしくシンジに乗り交じっている己の姿に雪もとけるほどに赤面して、無言で自宅へ直帰。翌日見事に風邪を引いて一週間欠席しましたとさ。
0680名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/01/25(水) 03:37:25.28ID:???
おまけ

ヒカリ「雪は初めてだったけど、トウジ…鈴原が…『危ないやろ…手ぇ繋いだるわ…///』って言ってくれて…あの…嬉しかったです///」
トウジ「べ、別に深い意味はあらへん!男は弱いもんを守ったらなあかんのや!それが漢っちゅーもんや///
(雪に感謝や…)」
0681名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/01/25(水) 21:25:19.62ID:???
>>680
乙です
これこれ!この展開を望んでいたんだよ!
そして極め付けは対面座位w
まだ早いけど近い将来この体位で毎晩激しく交わr
そしてオマケの委員長&トウジのネタもいいですね
単発では勿体ないくらいよくできてると思います
0682名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/01/25(水) 22:33:17.42ID:0VvlYgh6
https://goo.gl/Pj2ckp
この記事本当?
ショックだね。。
0683名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/01/26(木) 01:16:10.69ID:???
>>681
ありがとうございます!
通勤途中のバス車内からマヤが「不潔…」といったとかなんとか、
二人の看病に疲れてミサトが加持家事代行サービスを召喚したとかなんとか。
こんな平和なエヴァがみたいですねぇw
0684名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/01/26(木) 22:06:04.17ID:???
>>680
乙乙乙ー!
文章だけでアスカの様子が目に浮かぶようだったぞ
セリフが完璧だ!
当然カゼで休んだ一週間のムフフなLASも想定した小説なんだよねぇ?






続きはよ
0691名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/01/31(火) 23:38:25.06ID:???
>>690
「はい、ココア。寒くなってきたから美味しいよ」
「ん…」
「あ、熱すぎるかな、これでどう?」フーフー
「んん…」
「仕方ないなぁ」ゴクゴク
「チュー」

ガラッ
「あのね、ココア熱いからって冷まして口移しとか許されないんだからね!!!」
0692名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/01(水) 22:26:37.55ID:???
>>691
乙ですw
ココアもアスカとシンジもアツアツですね
そして二人のイチャラブにハラワタが煮えくり返ってるミサトさんも頭カンカンの熱々ですねw
0694名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/02(木) 22:59:31.79ID:???
>>691
乙乙乙ー!
ある意味ディープキスよりもエロい口移し
さすがのミサトも二人がおっぱじめるんじゃないかと血相変えて突撃だw
でも一度熱くなった体を若い二人が制御できるはずもなく・・・・・・ね?





エロい続きはよ
0701名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/05(日) 21:58:04.93ID:???
アスカ「アタシの型を取って等身大チョコを作ろうと思うのよ!」
綾波「そう…溶かすチョコで破産しそうね」
アスカ「むぅ…」



てなわけで、全身に溶かしたチョコを塗ろうと思うの、ちょっとは節約できるでしょ?だから手伝ってよミサト!

「致しかねます!!!」
0703名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/06(月) 21:40:49.92ID:???
>>701
>>702
乙ですw
チョコの女体盛りですかw
実現していれば節約にもなるしシンジも大喜びですねw
胸の型枠とったチョコも非常に気になるし加地さんナイスアイデア!

そしてお約束のミサトさんによる絶対阻止w
話が広がりますね
0707名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/10(金) 02:43:44.53ID:???
「アスカ、早くお風呂入っちゃいなよ」
「んー」
「何みてるの」
「エヴァンゲリオン、昔のテレビ版」
「懐かしいね…」
「アンタってさ、ずるくて臆病でちょっとエッチよね」
「いや、あの…ごめん…」
「でも一番人間くさいわよね」
「お風呂入ったよ?」スン
「バーーカ、本当ににおってるわけじゃないわよ、…でもアンタのにおい好きよ」
「僕もアスカのにおい好きだよ」
「ちょ、首もと息かけないで、くすぐったい」
「あの頃、アスカとこんな時間を過ごせるようになるなんて思わなかった…今は腕のなかにこうやってアスカを抱き締められることすごく嬉しい…」
「…アンタも言うようになったわね」

「お楽しみのとこ悪いけど、早くお風呂入ってもらえる?」ガラッ
0709名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/11(土) 04:36:55.13ID:???
                 _-__‐、 ,
              , -''_ 、_ ` \  `'- 、
             /  ´,  ,.-/ .'─、 ̄  、` ー 、
           ,/  , ‐‐'/ /    ゝ  、ヽ  ヽ
         /  / /    |  │ L. 、 .< ヽ
         / / ,/l     .r  ヽ  L ヽ ヽ ヽ .!
        │ ,゛  / l゙|  .!  ! ー.!  |  ! ( ヽ ゝ |
        ! / ノ ./ .!  !  ! .、 l、 |  .|    ヽ  │
        / 、 /  /l  |  .ヽ l │ !  l   .、  l  | \
        !  ! l  ,ト-= 、.‐- .、、 .! |.、/-从 │ .! /.!
         l .、 ! _イ'l|'゙Tヨヽ、  .! ハ''l|''l丁Vヽ.! | ノ.'
         `.! : j ヽ\ `‐´       ̄  /./ ` ー
            ||ヽ\ ヽ_`'' --         / / |.! l
          ヽ\ .!.ヽ` ー'''´   ´    .'〃1 /lリ./
            ヽ ー '-<    ̄   , ミ│.//゙/
             `ヽヽ,-,、ヽ、   , ‐} ! /./
                `.!  `ー‐´ .!│`
              ,rr'´冫      .!-ヽ
            /  l´       !' | ゝ
         , -‐'´    \       ./ .|.rへ、
      , -'ゝ、       ヽ   /      \
     /     \       ヽ /      , ‐' ´`ー、
    /           ||` ー-.┬ 、,乂y-‐ッ‐ ‐' l!       ヽ
   /           |  _,/ン/|∠゙<    |       ト、
  /             レ'゙r'', イ .| .7't/\ /       |ヽヽ
  |\  ,┐        lゝ'' / │ .! !\/゛/        ! : ∨
  /  '''|, 」        ヽ / : |  .! . !   !         .! . ノ|
0710名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/11(土) 21:48:09.95ID:???
>>708
ありがとうございます!
イベントで盛り上がるのもいいですが、こういう何気ない日常でのLASもいいなぁと思いまして。
外でふっと思い付いて思わずにやつく怪しい人になってましたw
0714名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/14(火) 00:34:18.18ID:???
こんばんは〜 
644です 
実は「バレンタインデーまで何マイル?〜ある少女の憂鬱〜」が完成いたしました 
えーと注意事項が何点があるのでお知らせしておきます。
※1作者には、国語力と文学がまったくありません。
ですので、誤字脱字の山となっています、
※そのせいか、途中途中に意味が解らない点がたくさん、あるかもせんで
ご注意ください。
0716名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/14(火) 01:09:04.89ID:???
バレンタインデーまで何マイル?〜ある少女の憂鬱〜

2月14日はバレンタインデーである。 
世界では、男性から女性に対してチョコを贈り、愛の告白をする日であるが 
一方日本では、女性が男性に対してチョコを贈り、愛の告白をする日になっている。 
この日を、楽しみする人とまったく、興味がない人などにも分かれる日でもある。 
そんな日をどう、迎えるか悩む女子がいた。 
0717名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/14(火) 01:22:49.15ID:???
彼女の名前は「惣流・アスカ・ラングレー」。 
日独のクォーターで、頭脳明晰で日本人離れしたプロポーションを持つ
女子高校生である。 
そんな天性の才を持つ彼女にも、悩みがある。 

そう。バレンタインデーである。 
0718名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/14(火) 17:55:08.71ID:???
彼女がチョコを贈ろうとしている相手は
同じ明城学院附属高校に通い
同居人である「碇シンジ」である。 
そう。この少年こそが、アスカが恋心を寄せる少年である。 
0719名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/14(火) 18:00:20.14ID:???
アスカは、これまでシンジに何度もアタックをかけている。
しかし、奥手で鈍感なシンジは、アスカの気持ちに答える事はなかった。 
シンジとは、同居していて他の誰よりも近い存在であろう 。
距離は、0マイルと言ってもいい。
しかし、「心」だけは100マイル以上離れている気がしてならないのだ。
0720名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/14(火) 18:12:59.19ID:???
「てか、バレンタインなのに女のあたしが
なんでアイツにチョコを作ってやんなくちゃいけないのよ!」
とベットに横なりながら、ブツブツと文句を言うアスカ。
0721名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/14(火) 19:18:20.14ID:???
海外生まれのアスカにとっては、この日本の文化は
まったく考えられない習慣であるし 
シンジ以上に、素直じゃないアスカにとっては
苦行なような物である。 
0722名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/14(火) 20:09:53.05ID:???
ましては、アスカは家で料理をまったくしない
いや、出来ないと言っても過言ではない。
料理を含めた家事全般を、シンジにまかせっきりである。 
そのせいか、シンジは完全なる「主夫」になってしまった。
0723名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/14(火) 20:31:19.51ID:???
「あぁ〜ホント、どうすればいいのよ・・・」
とベットで大の字になって悩むアスカ。 
「作ろうしても、ここで作ったシンジにバレるし・・・
それに私、チョコなんか作った事ないし・・・」
といろいろ悩んだアスカはある結論に至った。
0724名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/14(火) 21:30:43.95ID:???
「そういうわけで、ヒカリ。助けてほしいの!」 
「いきなり、家に上がって来てなによ!?」
彼女の名前は洞木ヒカリ。高校の同級生であり
アスカの良き理解者である。
「だから〜チョコ作るの手伝ってほしいの!ヒカリ!お願い!」
0725名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/14(火) 22:05:21.89ID:???
と頼み込むアスカにヒカリは
「はぁーで、本命チョコを贈る相手は碇君でいいの?」
「ほ、本命じゃないし!悪までも、同居人としての義理チョコよ!」
と顔を真っ赤にしながら否定するアスカに
「はいはい。分かりましたよ。」と半ば飽きれてるように言った。
0726名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/14(火) 22:46:04.27ID:???
そして、二人のチョコづくりが始まった。 
ヒカリのアドバイスを聞きつ、悪戦苦闘する事、数時間・・・ 
「できたー!ヒカリ!ありがとうね!」と満天の笑みをするアスカに対し 
「あーやっと出来た・・・」と少々お疲れ気味なヒカリであった。
0727名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/14(火) 23:34:16.94ID:???
>>726
乙です
好きな相手にチョコを贈るのは日本独自でドイツではそんな習慣はないのか
それでやっぱり最後に頼れるのは委員長にないましたねw
この後の展開が楽しみです
0728名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/14(火) 23:38:45.17ID:???
無理もない。あくまでも「義理」だというのに
「この味じゃない!」や「形が気に入らない!」など変なこだわりを見せたのだ。
その結果、製作に倍の時間が掛かってしまったのだ。
疲れ切ったヒカリは椅子にもたれ掛かった。 
0729名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/14(火) 23:58:50.73ID:???
疲れ切って、椅子にもたれ掛かっているヒカリは
アスカに少し意地悪な質問をする事にした。 
「ねぇ?最後に、チョコに裏になにか書いていたけど、なに書いたの?」と
とニヤニヤしなから聞くとアスカは
0730名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/15(水) 00:04:39.57ID:???
「べ、べ、別に何でもないわよ!ぎ、義理って書いただけよ!」と
顔を真っ赤にして声を大にして、反論してきた。
「はい、はい。分かりましたよ。」とからかうようにヒカリは答えたのであった。 
そして最後に、チョコが入る箱にラッピングをして完成となった。 
0731名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/15(水) 00:19:19.64ID:???
もちろん、アスカが作ったチョコが入る箱は
とても、義理チョコだとは思えないほど綺麗にラッピングされていた。 
「それじゃ、このチョコは私が預かる感じでいいのかしら?」と
少しからかうようにアスカに尋ねると
0732名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/15(水) 01:29:20.08ID:???
「た、頼むわ・・・」と少しおどおどしなから答えた。
「よろしい。あ、チョコは明日の朝、取りに来る感じでいいのかしら?」と
ヒカリがアスカに尋ねると、アスカの口から
「朝じゃなくて、学校帰りでいい?」と予想外の返事が返ってきた。
0733名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/15(水) 17:51:03.53ID:???
ヒカリは一瞬、「ん?」となったが、すぐにアスカの考えが分かった。 
朝にチョコを受け取っても、どうせ学校では渡せないし 
下手をしたら、チョコが崩れる可能性もある。
それだけは、避けたいのがアスカの気持ちなのだ。
0734名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/15(水) 18:10:51.71ID:???
その気持ちに答える為「分かったわ。学校帰りね」とヒカリは了承したのであった。
アスカは「ありがとう!ヒカリ!」と感謝し
「んじゃ、時間も時間だし、アタシ帰るね。じゃね、ヒカリ!」とあいさつをし
ヒカリも「うん。またね。アスカ」と言ってアスカを見送った。
0735名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/15(水) 19:32:18.04ID:???
扉が閉まると両手を腰に当て「ふぅー」とため息を付き
「まぁ、なんで素直になれないかなー?」と思うヒカリ。 
まぁ、女の子だし、難しい年頃なんだとは分かっている。 
けど、あれは異常だとかしか思えないのだ。
0736名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/15(水) 21:50:56.57ID:???
だが、相手のシンジも奥手の鈍感ときている。 
そんな二人の関係がどうなるか頭を抱えながら 
晩御飯を作りにキッチンに戻るのであった。 
この後、何十年の付き合いになるとは知らずに・・・
0737名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/15(水) 22:36:19.84ID:???
一方、アスカはシンジと住むマンションに着いた。 
「シンジ!ただいま〜」とシンジに声を掛けた。
「あ、アスカ。お帰り!」と出迎えた。 
「今日は、少し遅かったね。どっかに行ってたの?」と尋ねるシンジ。 
0738名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/15(水) 23:35:06.39ID:???
>>737
乙です
何十年の付き合いになるってことはアスカ・シンジ夫妻とヒカリ・トウジ夫妻のことかな?
さあチョコは無事渡せるのか楽しみです
0739名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/16(木) 00:01:26.73ID:???
「明日、バレンタインじゃない?。ヒカリに手伝ってほしいって言われたから手伝ってのよ」と
何事もなかったように答えるアスカ。 
「へーそうだったんだ。アスカも、料理できるんだね」と少し関心するシンジ。 
「あ、あんたのチョコなんかないからね?誤解してないね?」とさらっというアスカ。 
0740名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/16(木) 19:42:16.86ID:???
「わ、わかってるよ・・・そんの、興味もないし」少しすね気味にいうシンジに 
「あら〜ママのチョコでもほしいのかな〜?シンちゃんは〜」とからかうアスカに
「もう〜アスカ。いい加減にしてくれよ〜」と困り顔になるシンジであった。 
「そんな事より〜アタシ、お腹減った〜」と話題を変えるアスカ。 
0741名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/16(木) 19:53:56.68ID:???
「もう、少しでご飯できるからね。リビングで待って」とやれやれとした顔をして 
キッチンに戻るシンジであった。 
アスカは、シンジのかわいい困り顔を見て上機嫌になりながら
リビングに向かうのであった。
0742名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/16(木) 20:20:12.93ID:???
 
それから、いつもの日常であった。
いつものように二人で、ご飯を食べてしゃべって過ごした。
今の彼らには、これの状況が一番の理想なのだろう。
しかし、今日のアスカはある事を考えていた。 
0743名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/16(木) 20:25:28.72ID:???
そう。明日のバレンタインの事である。
シンジにチョコを渡すタイミングをいつにするかだった。 
帰ってすぐ渡すか、寝る前のこっそり渡すかで悩んでいた。 
もちろん、渡すと時は「チョコ、余ったからアンタに上げる」とサラッというつもりだ。 
0744名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/16(木) 21:25:15.61ID:???
だが、不器用なアスカにシンジを目の前にして
そんな事をサラッと言えるかが問題なのだ。 
意識しなくても、シンジを見てしまうと
なにも、言えなくなってしまいそうだからだ。
0745名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/16(木) 22:31:01.71ID:???
そんな事を頭の中でずっと考えていたら 
いつの間に、寝る時間になっていた。
アスカは「しゃーない。こうなったら出たとこ勝負ね・・・」と思いつつ 
眠りに付くのであった。
0746名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/16(木) 22:45:10.49ID:???
そして、バレンタインデー当日の朝を迎えた。
学校では、チョコが欲しいキョロキョロする男子に
好きな人に、渡すタイミングが分からなくて困っている女子や 
女友達は、各々が作ったチョコを交換し、食べ比べをする子たちなどで溢れていた。
0747名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/16(木) 23:46:26.50ID:???
しかし、ある学年のあるクラスだけは、そんな平和ではない空気が流れていた。
そう、シンジとアスカが居るクラスである。 
そんな空気の中、コソコソ話す二人組が居た。 
二人の名前は、関西鈍りがある「鈴原トウジ」と
サバゲー大好きなメガネっ子「相田ケンスケ」の二人
0749名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/17(金) 17:50:14.45ID:???
「しかしまーなんちゅう空気やんね・・・ここは・・・」と小声で話すトウジ。
「したないだろ・・・あのオーラを出されたら誰も
なにも言えなくなるよ・・・」と同じく小声でケンスケが
視線を向ける先には、アスカが居た。
0750名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/17(金) 18:22:09.66ID:???
アスカの体からは鬼の様なオーラが出ていた。 
そんなオーラを出しながら、見ている先にはシンジがいた。 
「他の女からチョコもらったら、ただじゃすまないわよ・・・」と言わんばかりオーラである。
そんな視線を感じるのか、シンジも少し怯えている。
0751名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/17(金) 19:37:16.56ID:???
「しかしまぁーあれは「鬼」にそのものだね・・・」と小声で話すケンスケに
「ちゅうな。あれは「鬼神」や・・・」と返すトウジ
「鬼神?なんだそれは?」とトウジに尋ねるケンスケ
0752名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/17(金) 19:49:07.99ID:???
「鬼神っていうんは、鬼の中の鬼ってこってや」と説明し
「ほんでもさわったもん、ぜええんぶひとつのこらずなぎ倒して行くんや」と
トウジは小声で話すのであった。
「うわぁーマジかよ・・・てか、この状況が1日続くのは勘弁してくれよな・・・」と呟くケンスケであった。 
0753名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/17(金) 20:15:32.67ID:???
この状況で、誰もアスカに声を掛ける事はできない。
まして、この状況でアスカに触れようものなら
触れた人は崩れゆくだろう。 
そんな、状態が放課後まで続いた。 
0754名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/17(金) 22:55:42.79ID:???
「はい。アスカのチョコよ。」とヒカリは保管していたチョコをアスカに渡したのであった。 
「ありがとうね。ヒカリ。」とヒカリに感謝を述べた。
「ちゃんと作ったんだから、ちゃんと渡すのよ!」とアスカにエールを送った。 
「わ、分かってるわよ!」と少し顔を赤くして言い放った。 
0755名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/17(金) 23:10:47.31ID:???
「いろいろ、ありがとうね。ヒカリ。またね」と言って玄関を後にした 
ヒカリも「じゃねと、アスカ」と言って見送った。
ヒカリの家を後にしたアスカは、シンジと住むマンションについた
アスカは緊張を誤魔化す為に、自然体である事を意識し扉を開けた。 
0757名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/18(土) 00:16:59.94ID:???
「シンジ〜ただいま〜」と何時ものようシンジに声を掛けた。
シンジも「お帰り、アスカ」と出迎えた。 
「ねぇ、シンジ。アタシ、お腹減ったんだけど、なんか食べる物ない?」とアスカが尋ねると 
シンジは「あぁ〜リビングにお菓子があったはずだけど
あんまり食べ過ぎちゃダメだよ?」とアスカに注意する。 
「分かってるわよ。んじゃ、お菓子いただきまーす」と言ってリビングに向かった。 
0759名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/18(土) 20:51:46.02ID:???
それからは、いつもに日常みたいな物だった。
キッチンでは、シンジが何時ものように晩御飯の準備をし
それを遠目から、見るアスカが居た。 
それが、彼らのなんでも日常だった。 
0760名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/18(土) 21:03:27.62ID:???
日が沈み、晩御飯の時間になった。 
「アスカー晩御飯、出来たから手伝ってー」とアスカに声を掛けた。 
「オッケー!で、今日の晩御飯はなに?」とアスカがシンジに尋ねると 
「今日は、アスカが大好きなハンバークだよ!」と答えた。
「本当に!?シンジ、ありがとう!」と満天の笑顔を見せてた。
0761名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/18(土) 21:15:54.10ID:???
それから二人は、何時ものように二人仲良く晩御飯を食べて、テレビを見て過ごした。 
晩御飯が終わりシンジは食器の洗い物をして、風呂を沸かした。 
しばらくしてお風呂が沸いたので、シンジはアスカに
「アスカーお風呂沸いたよー」と声を掛けた。 
「分かったー今入るー」と言って風呂場に向かった。
0762名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/18(土) 21:46:50.04ID:???
お風呂に入りながらアスカはある事をずっと考えていた。
そう。チョコを渡すタイミングである。
昨日から、それだけを考えていた。 
「しゃーない、覚悟を決めるしかないわね」と心の中で思ったアスカは風呂を出た。 
0763名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/18(土) 22:00:35.93ID:???
アスカがお風呂から上がり、リビングでいつものように牛乳を飲み始めた。 
シンジが風呂から上がるのを持つ事にした。 
しばらくして、シンジも風呂から上がってきた。
シンジも同じく、牛乳を飲み始めた。 
0764名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/18(土) 22:15:25.26ID:???
しばらくして「あ、そろそろ僕、部屋に行くね。おやすみ」とアスカに声を書けると
アスカが「あ、シンジ。ちょっと待って。」とシンジを呼び止める。
「なんだい?アスカ」とシンジが立ち止まる。
「チ、チョコ余ったから、あげる!「義理」だから勘違いしてないでよね!」と顔を赤らめながら話すアスカに
「本当?うれしいな。ありがとう!」とニコっとアスカに微笑んだ。
その瞬間、アスカの顔がさらに真っ赤になったのであった。
0765名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/18(土) 23:38:17.45ID:???
「じゃ、おやすみ。アスカ」とシンジは言って部屋に戻っていった。
しばらくして、アスカは地面に座り込んだ。
シンジに「好き」という事は言えなかったが
チョコを渡した時に、シンジが見せたあの「笑顔」だけで
今のアスカは十分だった。 
0766名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/18(土) 23:53:09.56ID:???
アスカは「まぁ、いいわ。今日の所はここまでね。」と思い
なにか、満足したような顔をするのであった。 
一方、部屋に戻ったシンジは・・・
「ふー」となにかホッと胸をなでおろした。
0767名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/19(日) 00:50:54.51ID:???
理由としては、昼間のアスカのあのオーラである。
いくら鈍感なシンジでも、さすがに気づいたのである。
「どうしだんだろ・・・アスカ。怒ってるのかな・・・?」とずっと感じでいたのだ。 
そこで、晩御飯はアスカの大好物なハンバークを作って 
機嫌を直そうとしたのであった。 
0768名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/19(日) 02:23:33.16ID:???
>>767
乙です
まあ今のアスカにしては十分攻めたバレンタインだったのではないかと
次のバレンタインは堂々と本命チョコとして渡せるようになってればいいですね
0769名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/19(日) 16:01:55.39ID:???
シンジは「アスカの機嫌も直ったみたいだから、良かった」と感じ
明日の予習をする為に、机に向かった。 
予習をする前にシンジは
アスカが作ったチョコ食べる事にした。
0770名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/19(日) 16:22:10.66ID:???
ラッピングを剥がして、箱を開ける
その中には、とても綺麗なハートのチョコが入っていた。
「お、綺麗だし、おいしそうだな」と思った。
一口、食べて口の中に入れると
とても、甘いチョコの風味が広かった。
0771名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/19(日) 17:00:15.43ID:???
「うん。おいしい!さすが、洞木さん監修だけはあるな」と感心していた。 
しかし、シンジはある大事な事に気づかなかったのだ・・・ 
それはアスカが、チョコの裏にチョコペンで書いた文字であった。
アスカは精一杯の気持ちで、ドイツ語で「愛する人」と言う意味の「Liebling」と書かれていた。
そんな事は、知らずにシンジは全部食べてしまったのだ。 
0772名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/19(日) 17:09:02.15ID:???
「ふーう。美味しかった。さて、明日の予習をやんなくちゃ」と言って予習を始めたのであった。
今日の話は、二人が結婚してバレンタインの時期になると
この話で、盛り上がると事とはこの二人はまだ知らないのであった・・・・

バレンタインデーまで何マイル?〜ある少女の憂鬱〜
【完】
0774名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/19(日) 20:40:59.47ID:???
>>773
乙乙乙ー!
長編でしかも中身の濃い小説だったぞ!
しかしチョコ裏のメッセージについては後日どうなってしまうのかが気になるなー
まあドイツ語がわからないってごまかすこともできるんだろうけどなw
あーでも結婚後にどんな会話になるのか非常にきになるなぁ〜・・・・・・・





次作はよ
0775名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/19(日) 22:36:36.89ID:???
>>774
読んでいただきありがとうございます。 
いやー今改めて読むと誤字・脱字の山で恥ずかしいです。 
初めて投稿したのですが、ネタを考えるまで大変でした・・・
実は、次回作の構想はあるのですが
少しお休みをいただきたいと思っております。
0776名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/19(日) 22:44:26.75ID:???
644です
少し追加があります。 
>>753の後に次の文章を追加するのを忘れていました。
深くお詫び申し上げます。

そして、放課後・・・
アスカはヒカリと一緒に下校し
ヒカリの家に向かったのであった。
下校中は、学校に居る時のようなオーラは発してはなかった。
0779名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/21(火) 00:24:45.30ID:???
>>777 
ありがとうございます。
原作の二人の関係に近いように意識して、作らせていただきました。
次回作を書く機会があれば、その時はよろしくお願いします。
>>778 
ありがとうございます。
書いてたら、無意識に長い物を書いてしました。
いやーバレンタインデーのお話しはここまでかなと考えてます。 
ですので、次回作は別の物語にするつもりです。
0783名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/23(木) 23:36:11.33ID:BkIiLfDI
https://goo.gl/ax86ST
これは、普通にショックだな、、
本当なの。。?
0789名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/02/28(火) 03:37:29.76ID:???
高層ビルをすごいスピードで上がっていくガラス張りのエレベーター。
箱のなかにはアタシとアイツと二人だけ。
誰も乗ってきやしないってわかっているのに、手を繋ぐのも恥ずかしくて。
なのに、アイツから不意打ちのキス。
こんな時だけ大胆になるのズルイ…
だけど、バカだから監視カメラでみられてるって気付いてないはず…
降りたらきっとミサトが仁王立ちでお出迎え、ならばそれまで甘い時間を楽しむか…ガラスも曇るような熱いひとときを。
0806名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/03/11(土) 17:20:35.72ID:CC8Vyivb
https://goo.gl/OFauup
この記事本当?
普通にショックだわ。。
0809名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/03/12(日) 21:44:36.15ID:???
>>808
「暑くなったり寒くなったりで、こっちも引っ付いたり引っ付いたりで忙しいわ!まったく、日本の気候ときたら気分屋なんだから」
「…引っ付いてしかしてなくない?」
0829名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/03/30(木) 22:06:11.12ID:???
入学シーズンのAnotherWorld版LASとか見てみたい
もう一つのアスカとシンジの人智を超えるような時間が過ぎた後の再開を
0864名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/04/30(日) 21:38:25.37ID:???
暑かったです
アスカならこんな日は「もう暑ーい!」とか言いながら
シンジに後ろからベタベタ抱き着いて愚痴るんだろうね
0867名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/05/04(木) 00:32:26.57ID:???
ある映画を見たとき、あれっアスカが出てる……と思った個人妄想です



アスカの部屋で。大切に保管された古い1枚の写真。

シンジ「ずいぶん古そうな写真だけど……すごい綺麗な人だね。髪型を変えたら、アスカ
   に似てるかも(というより、瓜二つだよ……)

アスカ「それ150年以上前の写真よ。その人私の先祖なの。私の先祖はね、アイルラン
ドからアメリカに渡った移民なのよ。アメリカの南部で農園を経営して成功を収
めた一族だったんだけど……あんた、南北戦争って知ってるでしょ?」

シンジ「うん。世界史の授業で習った」

アスカ「アメリカの南北戦争で南部が敗けて、先祖は一代で築いた財産を全て失った……
それだけでなく、一族には不幸が次々と襲ったそうよ。でもその写真の人は、本
当は大富豪のお嬢様として何不自由なく育ったんだけど、その日の食べ物にも困
るどん底に落ちても、その絶望的な境遇に立ち向かっていったそうよ
    『神様、私は誓います。私は負けません。家族を二度と飢えさせたりしません』
    ……そう誓ったと、その人の自伝に書いてあったわ。
    私が尊敬するご先祖様。その人に似てるって言われると誇りに思えるのよ」

シンジ「ふうん。裏に英文で何か書いてある。ス、スカーレット、1861……?」

アスカ「スカーレット・オハラ。それがその人の名前なの」
0868名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/05/04(木) 04:14:25.45ID:???
>>867
乙乙乙ー!
スカーレット・オハラかw
たしかに雰囲気はアスカっぽいかもな
なんかこの二人の会話の続きがきになるなぁ・・・・・・








続きはよ
0873名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/05/07(日) 21:28:47.67ID:???
俺昔工場で働いていたけどいつも勤務終了したら機械を止めるんだが
いろいろスイッチとかきっていったりバルブとか締めたりするんだ
そんで最後に熱いバルブみたいなんをしめなきゃいかんのだが
それを締めながら「綾波ぃぃぃ」っていいながら毎日しめてる
一度課長に見つかって俺がしどろもどろしてたら
「こんな時どんな顔すればいいかわからないの」とかぬかしやがった


                _..___
               ( r‐.'::;; //´ \    ,/
             _ ,. -|;;;;;|;;/      `ヽ、. /i
          ,. '´  __,|;...v'    /      /i ,.
        /,.-‐ '' ´ ,ノ   /  /  lll゙ ハ
       ,/      -=彡 '´ ///    ! /iハiiii/ 'lii
      〃_  _,,... -:〆_,y         ∧ .! 'iii/il ii liii/
  _,. '´ヽ、  ̄  / '´ /     / ,/7 ,.、! |      |
,. '´ /         !  ,. - '´ :レ'´ /_´ ', -i ,'ヾ,    ヽ!;;        i i!
        /      レ´i          ヾミュ,ヾl  ミ―   ヽ!;;   、-、;       i
       /      `゙~フ´,イ           _/`         ii! !' ,、'' |      ,'
  ///        { v'7           ヽ、           //  ./ i、i
       /     人V               '、_         | ./ !、 !ヾ!
             / ./    ヽ            ヾ!          ノ ,   |
  //     /   /      ゙ヽ、           ,'、       /      |
        /   ,. '/         `ヽ      ,! !   ,._ '´'´
      /    //           \  ./゙ 7‐-- '´|
0882名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/05/16(火) 22:47:24.06ID:jihD9Ggv
>>867
アスカがドイツ系でなくアイルランド系アメリカ人というのはしっくり来るな
どことなく古いアメリカ娘って感じがするんだよ

アイルランド系アメリカ人の父と日系アメリカ人の母キョウコの間にできた娘なんて設定もいいかもしれん
んでシンジは仕事の都合で一家揃ってアメリカに越してきた日本人

アメリカ社会に溶けこむことが出来ず孤立していたシンジにアスカが声をかけたところから始まるLAS……

って明城学院じゃねえなこれ
0883名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/05/16(火) 23:21:42.84ID:???
>>882
逆に考えるんだ逆に
その設定でアスカ側が両親の仕事の都合で日本に来る
そしてあのシンジと満員電車での運命の出会いへとつながる
これでしっくりくるだろ





投稿はよ
0887名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/05/19(金) 23:32:49.19ID:3LSSyE75
正直難しいネタだな
>>882の設定使ったって日本が舞台だと普通のネタと変わりなくなっちゃいそうだし
0891しょうがないなあ2017/05/23(火) 00:31:37.10ID:e8STI+vK
「シンジ、転校だ……仕事の都合でアメリカに行くことになった」

僕はこの言葉を初めて聞いたとき己の耳を疑った。
父さんはなにを言ってるんだ?転校?学校に入ってまだ一ヶ月ちょっとなのに?
しかも行くのはアメリカ?
余りに唐突なそして急すぎる出来事に僕の頭はついていくことができなかった。

「勝手だということは分かっている、しかしこれは既に決定事項だ」
混乱する僕を余所に父さんは高圧的な態度でそう呟く。
仕事とは言え、なぜこのタイミングでいきなりアメリカなのか?
0892名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/05/23(火) 00:33:15.63ID:e8STI+vK
いや、研究職の両親には以前から急な異動はよくあることであり今回もその一環だという
事はわかる。僕も今までは両親が転勤となるたびに住処を変えてきた、いわゆる転勤族というものである。
しかし僕も今や高校生になってしかも学校では充実した生活が始まろうとしているのだ
。そんな中での急な転勤には納得が行かない、だいたい転勤なら父さん一人で単身赴任をすればいいだけの話である。
それをなぜ僕や母さんまで付き添わなければならないのかということを尋ねると父さんはこう答えた。
「今回の異動は私だけではなくユイも一緒だ、子供一人残して両親のみが海外赴任など
 漫画でもあるまい、そんな事ができると思うか?」
父さんの言うことはごもっとも、理屈の上じゃ反論の余地など無い。
0893名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/05/23(火) 00:33:46.93ID:e8STI+vK
しかし僕だって青春を謳歌したい一人の若者だ、理屈の上で納得できたところで
感情もそうはいくかというとそうではない。僕はみっともなく駄々をこねて
なんとか日本に留まれるよう食い下がったが結果は残念に終わった。
既に理屈の上で負けている以上、僕に勝利の栄光は無いにも等しかったのである。
こうして僕の明城学院での生活は約一ヶ月で終わり、友達との別れを惜しみつつ
僕は両親と共にアメリカへと旅立っていったのだ。
0894名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/05/23(火) 00:35:22.16ID:e8STI+vK
アメリカ合衆国アイオワ州はちょうどアメリカの真ん中辺りにある州である。
日本を離れて半月、僕はそんなアイオワ州のウィンターセットという街で生活を始めていた。
さて、両親の仕事の都合でアメリカに移住となると皆さんはどんな街を連想するだろう?
僕は最初にアメリカでの暮らしを想像したときニューヨークやロサンゼルスなんていうテレビでも
おなじみの大都会で煌びやかに生活する自分を思い描いていた。
日本を離れるのは辛いけれど世界に名だたる都市で生活できるというのならそれも悪くあるまい、
僕はそんな風に楽観的に考えていたわけだけれどそんな期待は空港を降りて
車で町へと向かうなかで段々幻であるということを思い知らされた。
0895名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/05/23(火) 00:36:51.63ID:e8STI+vK
僕は最初にウィンターセットという名を出したとき「街」と言ったが
正確にはこれは誤りで実際には「街」ではなくむしろ
「町」と称するべきような場所だ。
それもそのはず僕たち一家が越してきたウィンターセットは人口約5000人のとても小さな
田舎町だったのである。
ああ、何ということだろう……この思い言葉にしようにも言葉にはならない。
0896名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/05/23(火) 00:39:00.17ID:e8STI+vK
なにが嬉しくて僕は言語も通じない国のこんなド田舎で貴重な青春の時間を
浪費しなければならないのか?今一度改めて父さんには文句を言いたいところで
あったが今さら愚痴を言ったところで何も変わらない、どう足掻いたところで
僕はこのウィンターセットで暮らすしかないのだから。
しかしそれにしても父さんたちはこんな田舎町で一体どんな研究の仕事をしているのだろう?
僕の見た限りじゃこの町にはとても何かの研究を行っているような施設は見当たらないのだが、
それとも映画の本場アメリカらしく地下にSF映画顔負けの巨大な研究所のようなものでもあるのだろうか?
まあいい、いずれにせよ僕にとってはなんの関係もないことなのだから。
0897名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/05/23(火) 00:39:33.14ID:e8STI+vK
そんな事を思いつつ僕は改めて目の前にある小さな赤い屋根付きの橋を見上げる。
いや見上げるという表現はこの橋を例える上では少々大げさな言い回しかもしれない。
周囲を木々と草花に覆われた小川の上にかかるその橋はどこか古ぼけた雰囲気であり
屋根付きとは言うもののその屋根もむき出しの木の柱で支えられているだけの非常に
簡素な作りのものであった。なんでも母さんが言うにはこの橋はかつて有名な映画監督の
撮った作品の舞台にもなったことのある由緒正しき橋なのだそうだが僕にはとてもそんな大層な橋には見えなかった。
0898名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/05/23(火) 00:40:31.53ID:e8STI+vK
「こんな橋を舞台に一体どんな映画を撮ったんだろう?西部劇かな?」
僕がそんなことを呑気に考えていると橋の向こう側から車のエンジン音のようなものが
聞こえてきた。その車はものすごいスピードで橋へと近づいてくると僕めがけて勢い良く
クラクションを鳴り響かせてきた。
0899名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/05/23(火) 00:41:12.57ID:e8STI+vK
プップー!ププププ!

「アンタ車の通るところで何やってるの!?邪魔よ、どきなさい!」
橋の中全体に広がるような女の子の大きな声、僕はその声に驚き反射的に橋の隅に寄った。
するとその車は橋の出口手前で停まった、そして扉が開くとさっき大声を出していた女の子が降りてきた。
僕は思わず身構える、その女の子がとても怖い顔をして息を切らしながら近づいてきたからだ。
「あ、あの……僕に何か用ですか?」
0900名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/05/23(火) 00:42:20.28ID:e8STI+vK
僕は恐る恐る尋ねた。
「何か用?じゃないわよ!アンタのおかげで危うく私が人を轢きかけたじゃない!」
「アンタが轢かれて怪我するのは勝手だけど、この私をひき逃げ犯にでもするつもり!?」
この子は一体何を言っているのだろうか?僕は一瞬理解できなかった。
轢きかけたって、僕はあのクラクションの音を聞いて結構余裕を持って隅によったつもりなんだけどな、
どうやら彼女はそれでも僕の振る舞いに不満があるらしい。
これがアメリカ人の気質なのだろうか?もしこの町で暮らすアメリカ人がみんな
こんな性格だとしたら僕にはとてもやっていける自信がない。
僕はアメリカでの生活において早くもアウェーの洗礼というものを感じつつあった。
0901名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/05/23(火) 00:43:47.11ID:e8STI+vK
「ちょっとアンタ何ボケっとしてんのよ!?人の話聞いてんの!?」
「ご、ごめん……」
僕は悪くもないのに咄嗟の判断で謝ってしまう、気の弱い僕の昔からの悪い癖だ。
「ふん、反省の色が見えないわね」
「そ、そっちこそスピード出しすぎなんじゃないのか?もっとスピード落とせよな」
僕もさすがに納得が行かないので少しだけ反発の意を見せた。
「何よ!アンタ余所者の分際でこのアタシに楯突く気ぃ!?」
「余所者って酷いな!い、一応僕だってこの町の住民なんだぞ」
「住民?その割には見ない顔ね」
「そりゃあ越してきたばかりだからな……」
「ふうん、……ってあんたもしかして日本人?」
「うん、そうだけど……あれよく考えると君もアメリカ人なのに日本語だね」
なんで今まで気がつかなかったのだろう、それはここまでの一連のやり取りが
あまりにも自然な流れだったからであろうか?
あるいは僕の中に未だ日本にいるという感覚が残っていてここがアメリカだという
現実をしっかりと認識していないからだろうか?
0902名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/05/23(火) 00:44:44.80ID:e8STI+vK
いずれにせよ僕はここに来てようやく彼女と日本語で意思疎通ができるということに気がつくのであった。
それにしてもこの女の子以前にもどこかで見かけたような……
僕がそんな事を思っているとどうやら彼女の方も同じようなことを考えていたようで。
「そういや、アンタのことどっかで見たような気がするのよね」
「ねえ、君はどうして日本語が話せるの?」
「そりゃあ、アタシのママが日本人だからよちょっと前に私も日本に行ったことが……」
そこまで言ったところで彼女の言葉が一旦止まる、そしてしばしの間の後……

「あっ!?アンタ(君)あの時の!?」
僕たちの言葉はものの見事にシンクロしたのである。
0903名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/05/23(火) 00:45:49.60ID:e8STI+vK
「にしてもなんであの時のナンパ男がここにいるわけ?」
「ナンパ男って……そういう誤解を招きそうな表現はやめてよ」
「怪しいわね、こんなところまで私を追いかけてきてストーカーなんじゃないの?」
「ち、違うよ!そもそも僕は君がこんなところにいるなんて知らないわけだし……」
今から数ヶ月ほど前、あの明城学院に入るための入学試験を受けるため僕は慣れない電車に揺られ試験会場のある街へと向かった。
僕が彼女と出会ったのはその列車を降りたときのことである、たまたま降りる駅が僕と一緒だった彼女は降りようとしたんだけれど
その時ちょうど列車は満員で彼女は人混みに押されてとてもじゃないが自力ではホームに出られそうにない状況だった。
偶然にも僕はそんな彼女に気づくことができ彼女を引っ張り出してあげようと手を差し出したのだ。
0904名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/05/23(火) 00:47:20.80ID:e8STI+vK
まあ思い返してみればこれ自体は別に大した出来事ではない。日々日常を送っていれば
誰しもが遭遇しうるであろうありふれた些細な出来事の一つである。
事実僕自身、つい先程異国の地でまさかの再会を果たすまでこの出来事のことを半ば忘れていたくらいだ。
しかし今にして振り返ってみるとこの女の子確かに日本人離れした容姿をしている。
さらっとした流れるような栗色の髪の毛、青々と輝くターコイズブルーの瞳、
目鼻立ちはくっきりとしており肌は透き通るようなミルク色、ほんのり朱色に染まった唇もなんとも麗しい。
なるほど、見れば見るほどアメリカ人と言われて納得の風貌だ。
0905名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/05/23(火) 00:48:00.49ID:e8STI+vK
駅で出会ったときも思ったことだけど本当僕なんかとは不釣合なくらい素敵な女の子だ。
歳は幾つくらいなんだろう?見たところ僕とそう変わらないはずなんだけど
彼女は器用にも旧式のフォルクスワーゲンを運転している。
日本では僕と同世代の人間が車を運転するなんてそうそう見かける光景ではないんだけど
アメリカなら普通のことなのだろうか?
「私くらいの女の子が車を運転するのってそんなに珍しい?」
運転席に座る彼女が真っ直ぐ正面を向いたまま僕の心の中を見透かしたような事を言う。
「日本じゃ君みたいな子、滅多にいないからね」
僕は思った通りのことを告げる。
0906名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/05/23(火) 00:49:02.10ID:e8STI+vK
「こっちじゃ割とよくあることよ、免許制度が日本ほど厳格じゃないのよね」
彼女が取り留めもなく僕の疑問に答える。車はなおも牧歌的な雰囲気の田舎道を
突き進む、辺りは緑豊か農村となっており目に付く建物といえばこのへんで農業を営む民家や牧場の厩舎くらいなもので
それも住宅街のように密集しているわけではなく一つ一つがとてもまばらだ。そんな日本の田園地帯とはまた違う
アメリカ特有の田舎の風景を眺めつつ僕は運転席に座る彼女との不思議な縁について思いを馳せた。
日本の駅で出会いそのまま別れた女の子、それも名前さえも知らぬ少女と異国の地で再会し今こうして同じ車に乗り込んでいる……
冷静に考えればかなり凄いことだ。
0907名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/05/23(火) 00:50:38.44ID:e8STI+vK
普通に生きていてこんな偶然はそうそう起きることではない。そういえばあの時駅のプラットホームで彼女の顔を見たときも
何故か初めて見た顔じゃないような気がした、それどころかまるで古くからの知り合いと久しぶりに会ったような
そんな奇妙な感覚に囚われたのを覚えている。まさか彼女とは前世からの知り合い?
僕はこの不思議な再会を前に思わず発想を飛躍させようとしたがすんでのところで踏みとどまる。
止めようこんなことを考えているようじゃまるで本当にストーカーみたいじゃないか、前世から続く運命的な出会い?
馬鹿馬鹿しいそんなことあるはずがないじゃないか、そうこれはただの偶然。
僕がそう必死に自分に言い聞かせていると運転席の彼女がこんなことを尋ねてきた。
0908名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/05/23(火) 00:51:25.29ID:e8STI+vK
「そういえばアンタ、名前はなんて言うの?」
名前か……奇妙な縁で結ばれていた僕たちであったが言われてみると未だ自己紹介の一つもしていない、僕はここにきて初めて彼女に自分の名前を告げることにした。
「僕はシンジ……碇シンジだよ」
「シンジかあ……へえ」
特に感心があるわけでもなさそうにそう呟く彼女、しばしの間車中を静寂が覆った後今度は僕が彼女の名前を尋ねてみることにした。
「えっと、君は……君はなんて名前なの?」
「アタシはアスカ……惣流アスカラングレーよ」
0909名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/05/23(火) 00:52:21.46ID:e8STI+vK
「そうりゅうアスカラングレー?」
この名前を聞いたとき、僕は再び既視感のようなものを覚えた。この名前初めて知る名前じゃないような気がする……
僕は内心自分でも馬鹿馬鹿しいと思いつつまたしてもそんな考えを思い浮かべてしまった。
彼女と会って以降今日の僕はどこかがおかしい、慣れない異国の地にいるからだろうか?普段であればこんな妄想みたいなことはしないんだけどな。
僕がそんな風に一人頭の中で葛藤を繰り広げていると彼女……アスカラングレーが再び話しかけてくる。
0910名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/05/23(火) 00:54:51.67ID:e8STI+vK
「アタシの名前、変だと思ったでしょ?」
「変だなんて……別にそんな事はないよ」
これは嘘偽りない本音である。確かにちょっとばかり長い名前だなと思ったのは事実だけれども
かといって変な名前だとは思わない、惣流アスカラングレー……
うん、割といい響きの名前じゃないだろうか。
「アタシね父方の先祖がアイルランド人なの、南北戦争の少し前にアメリカに渡ってきたんだってさ、一方のママは日系アメリカ人
 でしかもその血の半分はドイツ系、だからその娘のアタシはこんな名前なわけ、どうなかなかミックスされてるでしょ?」
なるほど、流石はアメリカだけのことはある。両親ともに極普通の日本人という家系に生まれた僕には
想像することさえ難しい複雑な生い立ちだ。
「えっと……結局それで惣流さんは何人なの?」
僕はアスカの語る難解な家系図に頭を混んがらせながら質問する。
「さあ……アタシもよくわかんない」
「よくわかんないって……」
「まあ、アメリカ人ってことでいいんじゃないの?」
なんとも大雑把な回答だ、これでいいのだろうか?僕は甚だ疑問に感じつつも
これ以上質問したところで彼女の複雑怪奇な血筋を理解することは困難だと考え
それ以上深く問いかけるようなことはしなかった。
0911名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/05/23(火) 00:56:32.45ID:e8STI+vK
さて僕は今までこんなたわいもない話をしながら彼女の運転する車の助手席に座っていたわけだ
けれどよくよく考えてみれば彼女がどこへ向かって走っているのかさえ知らずに
ここまでついてきてしまったことを思い出す。
あの後僕は橋で彼女と話をしつつ流れのままになんとなく彼女の車に乗ってしまいそのまま今に至っているのだ。
しかしこれって結構まずいことなんじゃないだろうか?いくら相手が女の子とはいえ
異国の地で見知らぬ人と二人きり、周囲は田舎で人の気配はあまり無い。
0912名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/05/23(火) 00:58:29.31ID:e8STI+vK
まさかこの子に限ってとは思うけれどここは日本ではなくアメリカなのだ。万が一にでも銃を持っていれば
華奢な女の子にだって人を脅すことは十分に可能だ。まして僕はこのあたりに土地勘など持っていない外国人、もしこのまま彼女の運転する車が人気のない
森の奥にでも進んでいきその先で銃口など向けられようものなら……恐らく僕に助かる術はない。ああどうしよう、もしもこの予感が的中していれば
僕の人生の残り時間はとてつもなく短いということになる。
0913名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/05/23(火) 01:00:51.92ID:e8STI+vK
こんなことならば軽い気持ちでよく知らない人の車になんて乗るんじゃなかった、父さん母さん僕の先逝く不幸どうかお許しください。
……と急に自分の置かれている立場と状況に恐ろしさを感じていた僕がそんな陳腐なホラー映画のシナリオのような妄想を繰り広げていると
そんな僕の気持ちを知ってか知らずか彼女が再び口を開いた。
「そういえば、アンタに行き先を告げてなかったわね」
行き先?アスカの言葉に僕は少々身構える、次に彼女の口から発せられる言葉の内容次第では僕の人命に携わる問題だからだ。
もしも彼女が『アンタの逝く先は地獄よ』などと言った暁には……僕は日本からおさらばした次には
自分の肉体からもおさらばしなければならないことになる。
0914名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/05/23(火) 01:02:30.47ID:e8STI+vK
ああ神様、どうか僕をこの哀れな子羊めをお救いください……日頃ろくすっぽ信じてもいない神にこんな時だけ
すがろうだなんてなんとおこがましい人間だろう、しかし僕はこの先に待ち受ける己の運命を想像するとこんな時だけでも神に頼らざるを得なかった。
さて結果的にみれば僕の祈りが神に通じたのか、あるいはそもそも単なる考えすぎだったのか、怯える僕を余所に彼女の口から発せられた
目的地は彼女の母親が働いているという仕事場、そこへ行って母に冷えたレモネードを届けるという至って平和的なものであった。
0915名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/05/23(火) 01:03:03.52ID:e8STI+vK
とりあえず今回ここまで
続きはまた後ほど
0916名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/05/23(火) 01:06:56.75ID:e8STI+vK
すまん>>891修正


「やっと友達もできたのにな……」
僕は目の前にある小さな赤い屋根付きの橋を見ながらそうため息を吐いた。
15歳、やっとの思いで入学した高校では友達もできて順調な学生生活が始まろうと
していた矢先のこと、父さんは僕に無慈悲な宣告をした。

「シンジ、転校だ……仕事の都合でアメリカに行くことになった」

僕はこの言葉を初めて聞いたとき己の耳を疑った。
父さんはなにを言ってるんだ?転校?学校に入ってまだ一ヶ月ちょっとなのに?
しかも行くのはアメリカ?
余りに唐突なそして急すぎる出来事に僕の頭はついていくことができなかった。

「勝手だということは分かっている、しかしこれは既に決定事項だ」
混乱する僕を余所に父さんは高圧的な態度でそう呟く。
仕事とは言え、なぜこのタイミングでいきなりアメリカなのか?
0921名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/05/27(土) 01:29:20.56ID:6bZQ52F3
現在執筆中
明日辺り途中まで投下するかも知れません
0929待たせたね2017/06/01(木) 23:47:01.14ID:eqjcw+AH
ほぅ……僕は心のなかで安堵の溜息を吐いた。
どうやら僕にはまだ残された時間がかなりあるらしい。
ふと横目に運転席のアスカを見る、そこには鼻筋の通った綺麗な横顔があった。
ついさっきまでの僕はなんて馬鹿な事を考えていたのだろう、こんなかわいい女の子が殺人鬼なわけあるものか。
いくらここがかの悪名高いアメリカ合衆国とはいえさすがにそこまでぶっ飛んだ話は早々あるわけがない。
0930待たせたね2017/06/01(木) 23:48:34.43ID:eqjcw+AH
僕は飛躍した自分の思考に対して自分でツッコミを入れつつ再度彼女の顔を見て
まあ仮にこの子が殺人鬼だったとしてもこんなに見目麗しい女の子になら
殺されるのも悪くはないかもしれないなどと先ほどまでとはうって変わって
そんな脳天気なことを思うのであった。
0931待たせたね2017/06/01(木) 23:49:00.30ID:eqjcw+AH
そうこうしているうちに車の窓に映る風景は農村から商店などが集う
ウィンターセットの中心部へと切り替わっていた。
どうやら僕が人知れぬ森林奥深くへ連れ去られるという事態は回避されたらしい。
尤も町の中心部と言っても所詮は人口5000人の田舎である、先程の農村地帯と
比べればそれなりの建物や人で賑わっているがそれでももっと大きな都市と
比べてしまえばこじんまりとした小さな集落という印象以上の感想は出てこない。
そんなウィンターセットの市街地に入り車が一つ目の信号で止まったところで
アスカは後部座席に手を伸ばす。
0932名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/06/01(木) 23:49:42.60ID:eqjcw+AH
古いフォルクスワーゲンの後部座席には彼女が母親に届けるというレモネードが
入れられたクーラーボックスが載せられており、アスカはそれを慣れた手つきで
開けると中から一本のレモネード瓶を掴み取ってそれ口元へと運んだ。
相当渇いていたのだろうか?アスカの飲みっぷりはなかなかのもので、ゴクッゴクッと
いう勢いのいい音と共にレモネードの液体が瞬く間に彼女の体内へと
取り込まれていく。アスカがレモネードを飲み込もうとする度に
彼女の喉仏はまるで脈を打つかのようにうねり、そのうねりを見ていると
喉の動きに合わせて飲み込まれたレモネードが彼女の身体の奥底へと
流しこまれていくのがはっきりと分かった。
0933名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/06/01(木) 23:50:33.82ID:eqjcw+AH
ただジュースを飲む、たったそれだけのことなのにその仕草がどことなく淫靡に
感じられるのは何故だろうか?不覚にも僕の心音が高鳴る。
いけない、こんな事で猥雑な妄想をしていては変態になってしまう。
僕は思考を変えるべく彼女から目線を逸らして頭の中を切り替えた。
一方、そんな僕の内なる衝動との葛藤などつゆ知らずであろうアスカは瓶入りの
レモネードを半分以上一気飲みした後、ようやく瓶のふちから唇を離して一息つく。
「くぅ〜」と唸る彼女のその声が年頃の娘にしてはどことなくおじさんくさかったので
僕がそれに対して失笑すると彼女はこちらの方を向いて僕の笑いに不満げそうに
睨みつけてきた。
0934名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/06/01(木) 23:51:17.85ID:eqjcw+AH
「なによ?私がレモネード飲んでる姿がそんなにおかしい?」
「いや別に……そんなおかしくなんてないよ」
「じゃあなんで笑ったのよ?」
「それはその……飲んだあとくぅ〜って声がおじさん臭かったからからかな」
「はぁ!?何よそれ!おじさん臭いって……それが女の子に言う言葉!?」
彼女の言うことはごもっともだ、女の子ならば誰だって自分がおじさん臭いなどと
言われれば不愉快に感じるだろう。心で思ったこととはいえそれを口に出すのは
軽率すぎたと僕は反省した。
「アンタ最低……」
「ごめん……」
ああ、どうやら今の発言で僕はかなりの心証を落してしまったらしい。
僕は己の迂闊さを激しく後悔する、彼女が割とざっくばらんな性格のおかげで
僕としたことが少々踏み込みすぎてしまったようだ。
0935名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/06/01(木) 23:52:14.67ID:eqjcw+AH
あるいは僕と彼女の関係が親類であるとかもしくは幼少より数多くの思い出を
共有しているような幼馴染といった関係であれば先程のような発言をしても
よかったのかもしれない。しかし実際の僕と彼女の関係は所詮出会ったばかりの
他人同士だ、発する言葉にはもっと気を遣うべきだったのである。
とはいえ言ってしまったことは仕方がない、僕は自分の行いに気落ちしつつもなんとか
彼女に許してもらおうと再度丁寧に侘びを入れることにした。
「いや……今のは本当に余計な発言でした、ごめんなさい惣流さん」
「ふん……」
まずいな、どうやら彼女のはらわたは相当煮えくり返っているようだ。
0936名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/06/01(木) 23:53:17.13ID:eqjcw+AH
ほんの少し前まで楽しくおしゃべりをしていたのにたった一つの失言でこうまでも
空気が悪くなってしまうとは……僕は心が折れそうな心境になったがだからと言って
引く訳にはいかない。とにかく謝り続けて彼女の機嫌を直さなければいけないのだ。
「あ、あの……本当に悪かったと思ってるから」
「…………」
「その、なんというかさ……今みたいなこと言われたら傷つくよね」
「あったりまえでしょ、自分の言ったことを考えてみなさいよ」
「うん……本当ひどいこと言ってしまいました」
「…………」
やはり駄目なのだろうか、アスカは不機嫌そうに顔をしかめて真正面を向いたままだ。
嫌な沈黙が車の中全体に広がり空気の流れを重くする。
「あの……」
「…………」
「許してはもらえませんか?」
僕はお伺いを立てるように恐る恐る彼女に質問する。もしこれでアスカからの返答が
ノーであるようならばもう僕に出来ることはない。
0937名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/06/01(木) 23:54:07.69ID:eqjcw+AH
そうなったら僕は黙ってこの車から降りるしかないだろう。けれどもできればそんな
後味の悪い別れだけは絶対に避けたい。何しろこっちに来て半月、僕にとってアメリカ
で初めて友達になれるかも知れない相手なのだ。
せっかくの貴重な縁をこんな形で途絶えさせるようなことだけは絶対に嫌だった。
「ねえ……」
アスカが口を開く、ここから続く彼女の言葉の内容とそれに対する僕の返答が
これからの命運を分けることになるだろう。
僕は息を呑んで彼女からの言葉に耳を傾ける。
「アンタ、私のことどう思う?」
「えっ?」
0938名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/06/01(木) 23:55:12.83ID:eqjcw+AH
僕は彼女の言葉が理解できなかった、どう思うとはどういう意味なのだろう?
「私ってやっぱりおじさん臭い?」
まさか……彼女を見てどこをどう見ればおじさん臭いと言えるのか。
僕がおじさん臭いと称したのは彼女自身のことではなく彼女がレモネードを飲んだときの
仕草についてだけである。彼女自身がおじさん臭いなどあるはずがない。
とはいえここからの返しは言葉を選ばなければ取り返しの付かないことになる。
僕は慎重を期して返事をした。
「そんな……そんなわけないよ」
「でもさっきはそういったじゃない」
「それはさっきのはその、言葉の綾みたいなもので……飲んだあとの仕草が
 そう見えたってだけの話なんだ」
「だから僕は別に君自身がおじさん臭いだなんて言ったつもりは全く……」
「ふうん……なんだか取って付けたような言い訳ね」
アスカはまだ僕を疑っている、ここが正念場だ。
0939名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/06/01(木) 23:56:13.46ID:eqjcw+AH
今引いたらその瞬間全てが終わる、僕はここにきて大胆にいくことにした。
「そ、そんなことない!」
「……っ!?」
僕が突然大きな声をあげたのでアスカはこっちを見ながら驚いてその目を見開く。
その隙に僕は畳み掛けるように一気に勝負を仕掛けた。
「惣流さんは可愛いよ!おじさん臭いなんてとんでもない!」
「へ……?」
「か、かわいいって……」
アスカはしばし呆然としている。
「ほらその惣流さんの青い目とか綺麗だと思うし髪の毛なんかもとってもふわっと
 していて女の子っぽくて素敵だと思う、そそれから……」
自分でも何が言いたいのかよく分からない、ひとつ言えるのは僕はいつだって正直で
あるということ。そんな僕の言うことを聞いてアスカは無言で硬直しており
その間僕は彼女を褒め称えるような美麗字句を言い並べ続けた。
「ああその今日はまだ夏でもないのに暑いよね、でも惣流さんの首筋から
 流れる一筋の汗なんかもなかなか色っぽくていいかな……なんてね」
僕はまたしても口を滑らせているような気がする、これでいいのだろうか?
そうこうしているうちに硬直していたアスカの顔はゆでダコのように赤くなっていき
やがて返ってきたのは罵声であった。
0940名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/06/01(木) 23:57:06.51ID:eqjcw+AH
「バカっ!もういいわよっ!」
マズい、許してもらうはずがますます怒りを買ってしまったのだろうか?
僕の脳裏に最悪の展開がよぎる。
しかし実際の彼女の反応は僕の予想とは少々異なったものだった。
「誰もそこまで褒め称えろとまでは言ってないでしょ……!」
「えっ?」
「もうアンタの気持ちは十分に伝わったからさ」
「そ、それじゃあ……?」
最悪は回避されたらしい、僕はどうにかアメリカで初めての友人を初日で失うという
考えたくもない悲劇から逃れることに成功したようだ。
「まっ、許してあげるわよ」
アスカのこの言葉によって僕の心が重圧から解放されていく。なんとも過酷な戦いで
あったがこの戦いのおかげで僕は口は災いの元ということを身に染みて理解すること
ができた、これからは己の発する言葉には細心の注意を払っていこう。
0941名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/06/01(木) 23:58:15.69ID:eqjcw+AH
と、僕がこの出来事から一つ教訓を学び得たところでアスカは僕に対して
とんでもないことを言い放つ。
「というか今の芝居だし」
「えっ?」
「はなっから本気で怒っちゃいないわよ」
なんということだ、それでは一体今までの僕の苦悩は何だったのであろうか?
「ホント、簡単に引っかかってくれたわね、それともアタシのお芝居が
 レッドカーペット級だったのかしら?」
どうやら僕はアスカに一杯食わされたらしい、僕が一所懸命彼女に対する
謝辞の言葉を考えたり美麗字句を並べている頃当の本人は傷ついた少女のフリを
しながらうろたえる僕を内心嘲笑っていたのだ。
今彼女はそんな本性をむき出しにしたかのようなおちょくった笑みを浮かべて
僕のことを見つめている。
「ぼ、僕を騙したな!」
「フフッ、おかげで面白いもの見させて貰っちゃった」
彼女は得意げな表情をしてそう言う。
「ひどいよっ……!僕は本気で謝ってたのに」
「引っかかるほうが悪いのよ」
果たしてそうだろうか?今のを初見で見抜けるのはエスパーくらいだと思うけど。
「にしてもまあアンタって顔に似合わず平気で小っ恥ずかしいこと言えるのね
 おかげでこっちまでなんだか恥ずかしくなってきちゃったじゃないの!」
彼女の言葉を聞いて僕はついさっき自分が言ったことを思い返してみる。
0942名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/06/01(木) 23:59:33.99ID:eqjcw+AH
『その惣流さんの青い目とか綺麗だと思うし髪の毛なんかもとってもふわっと
 していて女の子っぽくて素敵だと思う』
確かに……振り返ってみると我ながらこの台詞はクサすぎる、今にして思えばこの僕が
よくもこんなことを言ってのけたものだ。
そう思うとなんだか急に自分が恥ずかしく思えてきて今度は僕が顔を赤らめる番となった。
「それから何よ?アタシの首筋から流れる汗が色っぽいってのは……」
「そ、それは……」
アスカの追求に僕の頬はますます赤みを帯びてくる。
「これ完全に変態の言う台詞じゃない、もしかしてアンタそういうフェチなの?」
「ち、違うよ!それもやっぱり言葉の綾というやつで……」
「ふ〜ん、それじゃあホントは全然色っぽくなかった?」
「え、えと、それはその……あの」
「アハハハハハハ!」
しどろもどろになって返す言葉も出てこない僕のことを指さしてアスカは心底
楽しそうに大きな笑い声をあげる。、ペースは完全に相手の方に握られてしまっている。
僕は完全に彼女に振り回される哀れなおもちゃとなってしまった。
0943名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/06/02(金) 00:00:13.54ID:rH3HA1c2
「ほら、アンタいつまでふてくされてんのよ?」
「だ、だって……」
別に不貞腐れているつもりはなかったんだけど、恥ずかしがって俯く僕の態度が
アスカにとっては気に入らないらしい。
「私に騙されたこと怒ってる?」
「そんなことは……ないよ」
「じゃあ顔上げなさいってば」
それでも僕が顔を下に向けたままでいるとアスカは右手にレモネードの瓶を持って
それを僕のほうへと差し向けてきた、もちろんそれは彼女の飲みかけである。
「アンタも喉乾いたでしょ?これあげるからさ、機嫌直しなさいって」
それを飲んだら間接キスになるのでは?と思いつつも車中の空気はとてもじゃないが
それを言い出せるようなムードではない、僕は黙って手を伸ばし瓶を受け取った。
「美味しいわよそれ、なんたってそれアタシのお手製ですからね」
「これ、君が作ったの?」
「アメリカ人なら誰しもが作ったことあるんじゃない?まあレシピはママのだけどね」
そう語るアスカの口ぶりはどこか自慢気で表情や声のトーンからして
彼女がよほど自分の母親のことを好いているというのがうかがい知れた。
0944名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/06/02(金) 00:01:13.13ID:rH3HA1c2
僕はそんな彼女ご自慢のレモネードが入った瓶の縁をじっと見つめる。
つい先程隣にいる娘が口をつけたところだ、そして今そこに今度は僕が口をつけようと
している。年頃の女の子の唇が触れた部分に自分の唇も触れようというのだ、未だキスさえ経験のない子供の僕にとってこれほど甘美で胸をドキドキさせるような経験が
かつてあっただろうか?いや無い、女子と一つのジュースを回し飲みするなんて
初めてのことである。ふと隣に座るアスカを見た、彼女にはこういう経験が
過去にもあるのだろうか?まあこれほど可愛らしい少女であれば恋人がいても不自然では
ないしそのボーイフレンドと同じようなことをしているのかもしれない。
いやそれどころかもっと凄いことも……とそんな思案を巡らせていると僕の脳裏に
ふとアスカのあられもない姿が浮かび上がる。いけない、出会ったばかりなのに
こんなことを考えていたんじゃ彼女に失礼だ。
僕は自分にそう言い聞かせて頭の中からあらぬ妄想を払い除ける。
とはいえ仮に彼女にボーイフレンドの一人でもいるのならこうしたことにためらいが
ないというのも当然のことなのかもしれない。
一見ド田舎に見えるこの場所といえどもここはアメリカなのだ。そうした文化が
日本よりはるかに進んでいてもおかしくはないだろう。
0945名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/06/02(金) 00:02:07.41ID:rH3HA1c2
「アンタなに固まってんの?もしかしてレモネードは飲みたくないわけ?」
「そ、そんな事ないよ!ただ今少し考え事してただけで……」
「へえ、トロそうなアンタにも考えることとかあるんだ?」
「ひ、ひどいな!僕にだって考え事や悩みの一つや二つくらいあるよ!」
「そうは見えないけれどね〜」
好き勝手に言われ放題である。僕ってそんなにだらしなく見えるのかな?
とはいえこのままじっとしていれば彼女は不信感を募らせる。
僕は意を決してレモネードを飲む覚悟を決めた。
瓶を握った左手を持ち上げゆっくりと口元へ近づけていく、ふと瓶の入り口に
目をやるとそこにはかすかに口をつけた彼女の唾液で湿った跡が残っていた。
それを見て僕の鼓動がまた激しくなる。今や僕の唇と彼女の唾液のついた瓶との
距離はほんの数センチだ、あと少し左手を上にあげれば僕の唇と彼女の唇が触れた部分が
接触する。そのことを意識すると僕の顔がとても熱くなってきた。
このように未だ羞恥心を捨てきれずに一人悶えている僕であったが、見ず知らずの人が
口をつけた飲み口に自分も口をつけるということそのものには不思議と不快感を
感じるようなことはなかった。
0946名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/06/02(金) 00:02:46.95ID:rH3HA1c2
普段の僕であれば割と潔癖症な部分もあってこうしたことには躊躇いを覚えることも
あるのだが本日にいたってはそのような躊躇が一切ない。
相手がこの娘だから?だとしたら今までの僕は潔癖症ではなくただ単に面食いだった
ということになるが果たしてどうだろう、これは勝手な憶測に過ぎないがもしも
このレモネード瓶を渡してきたのがアスカラングレーという少女でなければたとえ
それが容姿端麗なる女性だったとしても僕は遠慮したように思える。
本来潔癖の要素を持つ人間というのは相手が誰であれ、仮にそれが血を分けた
親兄弟だったとしても一つの飲み物を回し飲みするような行いには嫌悪感を示すものだ。
そして僕も普段であればそうした人間の一人なのであるが、どうやら今日の僕は普段とは
違うようで手に握ったレモネード瓶を不潔だと思ったり汚らわしく感じるような
気持ちは全く芽生えてこなかった。
再び彼女が僕のほうに視線を送ってくる、早く飲めと催促しているのだ。
これ以上飲まないでいようとするのは彼女に対して失礼となる。
それこそ今度は冗談抜きで彼女の気持ちを不愉快なものにしてしまうだろう。
僕はついにレモネード瓶に口をつけた。
0947本日はここまで2017/06/02(金) 00:04:18.14ID:rH3HA1c2
その刹那、かすかに彼女の甘い香りが伝わってきたような気がした。
レモネード瓶を通して僕の唇と彼女の唇とが間接的に交差していく、たった二度の
出会い……それも一度目はすれ違うような出会いに過ぎなかった僕と彼女が再び
異国の地で遭遇しそこから僅かな時間で今こうして互いの粘膜と粘膜とを重ね合わせて
いる。それはアメリカ人のアスカにとっては取るに足らない事なのかも知れないが
15年生きてきて恋人一つ居ない僕からしてみれば生まれて初めて味わうまるでレモネード
のように甘酸っぱい刺激的な出来事であった。
0948名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/06/03(土) 02:20:19.20ID:???
>>947
乙です
アメリカの田舎町を車で走るって光景が目に浮かぶなぁー
そしてレモネードを介したアスカとの唾液の交換・・・・じゃなくて間接キス
こんな体験できるシンジが羨ましい
続き楽しみにしてます
0949名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/06/04(日) 01:49:14.70ID:???
>>947
乙乙乙ー!
すげー!これマジで名作の予感!
カラー(ガイナックスは関係ないのか?)非公式のラノベでも通用しそう
かなり本格的だな
早く続きが読みたい!






投稿はよ
0962第0使徒 サリエル2017/06/16(金) 20:28:17.23ID:qRwMCP2d
楽しみやで。思い出しエンドも良さそうやな。
0969名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/06/21(水) 01:16:32.28ID:3qEUBt8M
アメリカエヴァ今書いてます
続きはもう少しお待ちくだされ
0993名無しが氏んでも代わりはいるもの2017/07/12(水) 20:34:25.40ID:QQ8Ce218
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