【歯科大】 象牙質の巨塔 【教授選】
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています
浪速歯科大学・歯内療法科准教授・財前五浪は大いなる野望に燃えていた。
財前の目の前には、目下鋭意建築中の浪速歯科大学新病棟が、大きな槌音を立てながらも徐々にその雄姿を現しつつある。
この巨大な新病棟が竣工する来年、歯内療法科の主任教授・吾妻貞三が定年退官し、新たな教授が生まれる。
浪速歯科大学の権威の象徴たるこの新病棟で、教授の椅子に座るのは、当然この俺だ
という強い自負が財前にはあった。
事実、近年の財前の活躍には目を見張るものがあった。
抜髄・感染根幹治療において、どんな難症例でも奇跡のように治癒に導くその臨床手技は「神の手」とも呼ばれ、
名声は近畿地方内を越えて東京まで伝わり、在京マスコミの取材を受けるまでになっていた。
自信に満ちた財前の態度に、多くの患者、教職員、学生が魅了され
もはや財前は浪速歯科大学一の寵児と言っても過言ではない。
来年は俺が教授となり、歯内療法科の陣頭指揮をとっているのだ。
財前はそう信じて疑わない、と言いたいが、懸念材料がないわけではなかった。
それは現主任教授・吾妻貞三の財前に対する態度である。
どちらかと言えば地味で内向的、臨床はそこまで得意ではなくむしろ学究肌で生きてきた吾妻にとって、
もはや己の権勢をも凌ぐような勢いで派手に注目される財前を快く思わない、
そんな嫉妬に似た感情を近年は隠すことができなくなっていた。 近所の飼い犬、連れ去った疑いで男逮捕 犬は懐いて…:朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com/articles/ASM5Y4RZ7M5YTPOB001.html
沖縄県名護市の男(60)が28日、占有離脱物横領容疑で県警に逮捕された。自転車や遺失物を無断で自分のものにしたときに適用されることが多い容疑だが、今回は市内の男性が放し飼いにしていた首輪付きの雑種犬を自宅に連れ帰った疑い。
署によると、飼い主は以前も男に犬を連れ去られており、いなくなった犬を捜して男の家に見に行ったところ、犬がいるのを見つけた。返すように求めたが、聞かなかったため被害届を出した。男は調べに「保護した」と供述している。
犬は2人が犬猿の仲にならぬよう気をつかったのか、ひたすらしっぽを振っていたとか。署幹部は「どちらにも懐いてしまっていて、尾を引きそうだ」と話した 財前五浪はその晩、北新地のキャバクラ「アラヅン」にいた。
「ケイ子、いつものハイボールを頼む。」
呼ばれた森花ケイ子は
「あら五浪ちゃん、今日はやけに上機嫌ね。何かいいことあったんでしょ。」
「その五浪ちゃんという言い方はやめろよ。あなたとか先生とか、他に呼び方があるだろう。」
「あなたと呼ぶのは奥さんだし、先生と呼ぶのは患者さんでしょ? 私はあなたの奥さんでも患者でもないわ。キャバ嬢と客という関係。
五浪ちゃん、機嫌がいいのは、今日また大学で活躍したんでしょう。」
「右上7番の抜髄即日根充をわずか9分45秒で終わらせた。しかも湾曲根管という難症例だぞ。それでも我ながら惚れ惚れするくらい芸術的なピッタリ根充だ。
同様の症例では、信濃歯科大学の川端先生が10分6秒という記録があるが、ついにこの俺が10分を切る新記録を打ち立てたのだ。」
「ずいぶん誇らしげなのねウフフ。」
「近ごろは浪速歯科大学歯内療法科は、吾妻エンドではなく、財前エンドと呼ばれている。名実ともに俺が歯内療法科の主役なのさ。」
「ところで後任教授の方はどうなの? 吾妻教授は来年退官なさるんでしょう?」
「もちろん次期教授は俺に決まっている。もはや歯内療法科は、いや、浪速歯科大学自体が俺無くしては成り立たない状況だ。
日本を代表するエンド医であるこの俺を差し置いて、他に誰が教授になれるってんだ。」
「大そうな自信ね。でも五浪ちゃん、気をつけた方がいいわよ。あなたって意外と間抜けな所があるから。」
「俺を侮辱するようなこと言うなよ。今夜は店を出たらお前の家に寄るぞ。」
「あら、そんな遅くまで帰らないで、奥さん大丈夫?」
「心配ない。今日は後輩の送別会で帰りが遅くなると伝えてある。」 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています