寝て起きたら、一日中寝っぱなしだった爺さんのことを思いだした

二人部屋にいたとき、しんどくて起きてられないのか、意識レベルが維持できないのか知らないけど一日中寝っぱなしの爺さんが隣だった
とにかく一日中寝てる、起きるときというと看護婦が痰を吸引する時だけ
吸引器を突っ込むと「てめえ、やめろ!」と怒鳴る、そしてそのまままた眠ってしまう

その爺さん、毎晩ベッドの横に誰かが訪ねてくるようで
きまって夜中の2時になると、懐かしそうに、親しそうにしばらく話こんでいた
はなしをしているとはいっても、何をしゃべってるかよくわからないんだけど、目を開いてしっかりと相手を見て話をしている

自分にはその相手が見えなので、ある晩、楽しそうに話をしてるところに
「爺さん、誰と話してんの?」とわりこんでみた
すると爺さんは、俺に気が付いて、驚きと恐怖の混じったような目でこっちを見た
そこに存在してはいけないものを見てしまったかのような表情で

それからも、毎晩2時になると誰かが爺さんを訪ねてきていた

正月を迎えるときに、そこの院長が、何かあったら何時でも戻ってきていいから家で正月を迎えなさいと外泊を勧めてくれた
大みそかの午後、病院を出て年が明けて病院に戻ると爺さんのベッドが空になっていて
爺さんはどこに行ったのか看護婦に聞くと、俺が出て行ってすぐになくなったそうだ
なんの病気だったのか聞いたら「あなたと同じ病気」ということだった

ともかく、爺さんも毎晩尋ねてきてくれて誰かと一緒に年を越して正月をむかえたのなら
それはきっと良いことなのだろう

残念なのは、訪ねてきてた人に爺さんを介して、あっちの世界のことを聞きたかったんだけど
それができなかったこと