するとロバートは茶目っ気たっぷりに提案した。「じつは、私の護衛官が合気道に対してたいそう興味を抱いたようすだ。
かれは、ボクシング、柔道、空手などあらゆる格闘技を身に付け、達人の域に達してる男だ。
しかし、残念ながら、今日まで合気道については学ぶ機械がなかったそうである。そこで、
いまからかれと立ち会って、合気の真髄を見せてやってほしい」
「よろしい。お相手をいたしましょう」道場の中央に進みかけた私に、ロバートはウィンクしながら念を押した。
「護衛官の肉体は、鍛えに鍛えてあるから、鋼鉄同然。どんな荒っぽい技を掛けても、決して泣き言はいわないから、
遠慮なく稽古をつけて欲しい。それと同時に、彼は手加減という事を知らない。ことによると、
ミスター塩田あなたは大ケガをするハメになるかも知れない。それでもいいか?」
オーケーだ、と答えて私は相手と向かい合った。
護衛官は身長二メートル、体重は百キロを超えていただろう。きびしい訓練で鍛えた体であることは、一見して分かる。
身のこなしも柔らかく、俊敏そうである。私のほうはというと、身長1.50メートルそこそこ体重は50キロにも満たない。
まさに、おとなと子供のケンカなのだ、ロバート.ケネディの一行は、すべて護衛官が勝つものと信じきっており、
私がどんな形でギブアップするのか、いろいろ想像しては胸を躍らせているようであった。
審判の試合開始の合図があると、護衛官はすさまじい勢いで襲い掛かってきた。想像以上の機敏な動きである。
その突進力から、アメリカンフットボールの選手をした事があるのかもしれない、と私は一瞬感じた。
小山のような護衛官の体が小さな私にのしかかり、私が身動きも出来ない状態で試合は終わり__
と、一行のめにはうつったようだ。
確かに試合は終わっていた。
ただし、道場の畳にはいつくばり、身動きができずに手足をばたつかせていたのは、護衛官のほうであったが__

以上引用終わり