余りにフィッグが素直だったので、バニェスは気味悪がった。

 「謝るな、気色悪い。
  何時も貴様は強気だったではないか……」

 「能力を失ってしまえば、私の実態とは、この程度の物だと言う事だ」

 「能力を取り戻せる様に、サティに進言してやろうか?」

 「……否、恐らく能力を取り戻しても変わらない。
  もし能力が戻っても……。
  そうなったらエティーを離れて、私は旅に出るよ」

 「どこへ行くんだ?」

 「どこへでも無い。
  愛を探しに行く」

愛とは何なのか、バニェスは恐ろしくなった。
フィッグは確実にバニェスより愛を知っていて、愛に近付きたいと思い、愛を求めている。
自分もフィッグの様になるのかと思うと、愛を知らない儘の方が、良いのではと思い始めた。
フィッグはバニェスに言う。

 「愛を見付けたら、貴様にも教えるよ。
  これが私の愛だと、胸を張って言える物を」

バニェスは何も答えられなかった。
普通なら、楽しみにしているとか、或いは、見付かる訳が無いとか、皮肉を交えて揶揄う所だが、
そんな気にはなれなかった。
同じ世界に、同程度の能力を持って生まれた物が、ここまで変わってしまったのだ。
バニェスはフィッグの事を全くの無関係と切り捨てられない。

 「……結局の所、貴様も愛を知らぬのならば、他に知っている物を探す事にしよう」

そう言ってバニェスはフィッグの元を去った。