>>422
逃げようとしたケンタウルスは座席に阻まれて方向転換が出来ない。

「だめだ族長、狭すぎて狙い撃ちされてる。
こっちは不利だ。」
「ふん、ならばこの車両には乗客はいないのだな。
応戦してる連中を引き付けておけ。」
「如何なさるので?」
「まどろっこしいことは止めだ。壁を直接ぶっ壊す。
まずはてつはうを1個ずつ車両に放り込んで連中の位置を確認しろ。
その車両にロープを窓枠にくくりつけて引っ張る。
端を破城槌をぶつけて剥がしやすくしろ。」

大陸南部
シルベール伯爵領迎賓館
シルベール伯爵家は長年の間、ケンタウルス自治伯領と帝国の仲介役としての役割を担ってきた。
帝国が滅びた後も、王国と日本国大陸総督府の代理人として彼等との仲介を任せられている。
その為に領内に迎賓館を設け、日本の大陸総督府の外務局長杉村をはじめとする代表団とケンタウルスの長老会議代表団との会談の場を設けていた。

「日本国が我が種族の若衆30名を一方的に虐殺したのは甚だ遺憾です。
謝罪と賠償を要求したい。」
「ケンタウルス若衆は日本国管理地域である鉄道線路沿線で略奪行為を働いていた。
これは明らかに犯罪である。
当方は犯罪行為に対し、実力を行使したに過ぎない。
要求を拒否する!!」
「帝国並びにそれを継承した王国では、ケンタウルス自治伯領内での人族に対する治外法権が認められている。
線路はともかく事件の起きた地域の沿線の街道は自治伯領の境界線に接している。
そして、確実に十数頭は自治伯領内で殺害されている。
これは法に反する行為ではないかね?」

南北線沿線の『ケンタウルス若衆によるキャラバン襲撃並びに装甲列車による撃滅』事件は、地域の名前を取って、ジェノア事件と呼称されることとなった。
当初は脳筋のケンタウルスなど力を背景にすれば容易く主導権を握れると思っていた。
総督府外務局は法を背景に弁護士の如く抵抗してくるケンタウルス長老会議代表団に意外な苦戦を味わうことになる。
なぜこんな会談が行われているのか?
傭兵やケンタウルスに多数の死者が出ていることからうやむやにするのは良くないと王国側から責任の所在を求める要請があったからだ。
総督府側は拒否もできたのたが、会談を受けたのはケンタウルス族に対する自治に対する介入が出来る機会と侮っていたことが大きい。
休憩を挟むこととなり、外務局員達は用意された迎賓館の部屋で予想外の苦戦に憤る。

「なんなんだあいつらは?
我々が想定していたイメージとはだいぶ違うぞ。」
「ケンタウルス族は粗野で野蛮、そう考えてましたな?
だが考えてもみて下さい。
彼等は帝国から自治権を勝ち取った種族ですぞ。
武力だけなら帝国は彼等の自治権など認めなかったでしょう。」

シルベール伯爵は仲介を担うが別に中立というわけではない。
伯爵の領地は年貢の他にケンタウルスと商人による交易に対する権利を認める運上金によって莫大な利益を上げて成り立っている。

「主な商品は傭兵、狩猟により得られる肉や毛皮、自治領特有の果実といった物です。
他にも医薬品や音楽を初めとする美術品、工芸品。
つまり野蛮な風俗とは別の文化的な側面があります。」

官僚達はシルベール伯爵の話に聞き入っている。

「ケンタウルスは性欲の強い種族ですが、腹上死は彼等の死因の上位にあたります。」

全員複雑な顔となった。
女性の官僚もこの場にいるのだから勘弁して欲しい話題である。