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■LAST EXILE■ラストエグザイル■二次創作ス2
0001創る名無しに見る名無し垢版2013/12/08(日) 11:35:51.44ID:DC8N01MB
1期アニメ「LAST EXILE」、2期アニメ「ラストエグザイル 銀翼のファム」、漫画の「砂時計の旅人」等ラストエグザイル関連の二次創作スレ
単発・短編・長編・ネタ問わず。
エロネタや18禁ネタはエロパロ板に専用スレがありますのでそちらへどうぞ。

前スレ
■LAST EXILE■ラストエグザイル■二次創作スレ
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1344867493/
0047創る名無しに見る名無し垢版2014/07/26(土) 21:17:47.77ID:lKT03Hkw
ダリウスがエグザイルを発見するまで その14


ガラガラガラ
船体に取り付けられていたオドラデクのワイヤーが緩められ湖底に向かって沈んでいく。
ギルド製ヴァンシップのオドラデクは軽量化されているとは言え機体は金属なので、ロボットモードにして関節部分から水を機体内部に入れてしまえば浮力も小さくなる。
機体自体も地面との落下の衝撃に耐えられる程頑丈な為、無人で操作し浸水も許容したこのオドラデクはクラウディア船改造した潜水艇よりも深海探索に向いているとダリウスは考えていた。

コーン

「ん?何だ今の音は?シカーダ聞こえたか?」
「センサーを使わなくても聞こえました。着水時の衝撃音が湖底に反射したのでしょうか?生物が発する物ではないと思われます」

コーン

「まただ。シカーダ、オドラデクのセンサーを使え。クラウディア船のアンテナも使って音源の方向を精査する」
「了解しました。オドラデク、センサー開放します」

ウィーン、ガシャッ
オドラデクの背中から出したセンサーを動かし、シカーダは音の出所を探る。

コーン

「方向は…真下です。ダリウス様、この音は真下から断続的に発生しています」
「こっちでも確認した。なんだこれは下方向にクラウディア反応?シカーダ、ちょっとオドラデクを左側に動かしてくれ、オドラデクの反応を拾っているのかも知れん」
「畏まりました。9時方向にオドラデクを動かします」

コーン

「クラウディア反応は変わらず下を指している。シカーダ、そっちはどうだ?オドラデク側で何か異常はあったか?」
「機体自体にエラーは発生していません。ダリウス様、これがネストル艦長の言っていたエグザイルの鼓動なのではないでしょうか?
何がこの音を発生させているのは分かりませんが、この湖の伝説を考えれば地上人がエグザイルと結びつけてもおかしくはないかと」
「エグザイルの鼓動とされる音か…。うん、折角だ。この音を反響音として湖の地形を調べよう。大まかで構わない。
地形の把握が終わったら今回の探索は終了。グランドストリームに戻って次回探索の為に潜水艇の改修を行う」
「ではこの音紋を登録してデータ収集を開始します。ノイズを除去する為に暫くお静かに願います」

コーン
コーン
コーン
コーン

待つ事数分。
「うむ、これ位で良いだろう。データの解析はグランドストリームに戻りながら実行する。それでは戻るぞシカーダ。浮上!」
「浮上」

クラウディア機関を起動したダリウスの潜水艇は水中から水面に向かって上昇し、水面から浮上した後も速度を緩めずグランドストリームに向かって上昇し続け、
やがてギルドの定めるデュシスの空とグランドストリームとの境界面を突破し、暴風域の風を受けながら潜水艇はギルドを目指して飛んで行った。
0048創る名無しに見る名無し垢版2014/07/26(土) 21:30:43.20ID:lKT03Hkw
ダリウスがエグザイルを発見するまで その15


・ギルド城:エラクレア家
「ただいま、ハニー。今帰ったぞ」
「お帰りなさいダーリン。あらシカーダも一緒?折角だから夕食食べて行かない?今日はデルがトマトスープを作ってくれたのよ」
「いただきます」
「即答するかシカーダ。そこまで腹が減っているようには見えないが」
「いえ、ダリウス様の無茶に付き合わされたのでこれ位はいただかないと体が持ちません。腹が減っては戦はできませんから」
「あ、お父様お帰りなさい。ほらディーオ、お父様が帰って来たわよ」
「あー、お父さんお帰りなさーい。あれ凄かったねー。船がグルグルビューンと落ちて行って格好良かったー。ねえ、またあれやってよー」
「おお、ディーオも見ていたのか。そうだな、ディーオが大きくなったら探検に一緒に行くか?」
「うん!」
「駄目よディーオ。ディーオはまだ小さいんだからお父様のアクロバットな操船に付き合ったら怪我しちゃうわよ。それにまだ免疫の事もあるんだから地上に行ったら何の病気に感染するか分かった物じゃないわ」
「えー、いーじゃーん。デルフィーネのケチー」
「ははは、では一緒に探検に行けない代わりにデュシスの湖にエグザイルを探しに行った話でもするか。聞きたいかディーオ?」
「うん。聞かせて聞かせてー」
「うむ、では私とシカーダが改造したクラウディア船でデュシスの湖に飛び込んだ時だ。水の中を少しずつ潜って行き次第に地上の音が聞こえなくなって辺りは真っ暗な何も見えない状況になった」
「何で音が聞こえなくなったのー?」
「分厚い水の層が音を遮断するからだ。潜って行けばその水の層もどんどん厚くなっていくから水面より上の音は聞こえなくなり、水中に差し込む光も水に吸収されてるから段々と暗くなっていく。
そうして私とシカーダは何も見えない何も聞こえない水の中で息を潜めながら船のモニターを見ていた時、外から音がした」
「誰か船の窓をノックしたの?」
「デュシスの湖に住むって言う水生哺乳類がぶつかったのかしら?」
「いや、船体の外壁に何かがぶつかった音では無い。計器類を見ても船体にヒビが入ったとか水圧で船体が歪んだとか言う音でもなかった。
それで私とシカーダはその音の出所を探そうと耳を澄ませた。そうしたらまたコーンと音がするのが聞こえた。
今度は気のせいではないと私もシカーダも確信した。この湖には我々の知らない何かがあると」
「どうせ地上人が湖でモールス信号か何か叩いてたんでしょう?」
「ところが音は湖の下から聞こえてきた」
「あー、分かったー。デュシスの人がもっと深くに潜って鍋をお玉で叩いてたんだー」
「普通の人間はそこまで深く潜れないわよディーオ」
「えー、でもダゴンてご先祖様は昔湖の底まで泳いで行けたって聞いたよー」
「ご先祖様のように肉体を水深の圧力に耐えられるよう改造すれば不可能ではないが、デュシス人にそこまでの技術は無い。
我がエラクレア家がデュシスに医療技術を提供すれば話は別だが、デルフィーネの言う通り普通の人間は寒い時期に湖に潜って鍋をお玉で叩かない。
音紋を記録して解析した所、音は湖底からしている事が分かった。そして音と一緒に確認されたクラウディア反応も湖底からしている事も分かった」
「湖底からクラウディアが?昔の沈没船が今でも動いてるのかしら」
「その可能性も考えられる。500年前に起きたギャラハッド騒乱ではギルドも多大な被害を受けたらしい。デュシスの湖にクラウディアユニットが落ちて、500年間動き続けている事も有り得ない話では無い。
だが湖底のクラウディア反応はクラウディア船100隻では足りない程の量だった。
クラウディア波は水に潜ると遮断されて反応が小さくなるが、地上の音もクラウディア反応も探知できないのに、湖底から有り得ない程の量のクラウディア反応を発する物があるとは不思議だとは思わないかね?」
「計器の故障かしら」
「うーん…わからなーい」
「クラウディアは出力が大きければ大きい程浮かせる重さも増す。しかしクラウディア船100隻以上のクラウディアを発していてそれでも浮かずに湖底にいると言う事は、湖底に固定されているか浮けない程その物体が重いと言う事だ」
「水の重さだか圧力で浮けないだけじゃないのかしら?昔話ではこの世界の外は空気の存在しない真空って空間になっていて、デュシスの湖はその真空が入ってこない為の蓋だって言ってましたわよ?」
0049創る名無しに見る名無し垢版2014/07/26(土) 21:51:40.21ID:lKT03Hkw
ダリウスがエグザイルを発見するまで その16


「水槽の水抜き穴を抜こうとしても、水圧が高ければ栓は抜けないか…。成程、そう云う見方もできるか」
「お父さーん。それでその湖の底にある謎の船はどうするの?音を聞くだけ?」
「まさか。取り敢えずデュシスの昔話の根拠となるエグザイルの鼓動とされる音は確認できたのだから。明日もまた湖底に潜って今度は音の発信源が何であるか確認するつもりだ。
そしてそれがギルド由来の物であるならば引き上げてグランドストリームまで持ち帰って調べようと思う」
「じゃあさ、宝物を見つけたら僕に頂戴!」
「沈没船にある物なんてどうせガラクタばかりでしょ。ディーオはホントガラクタとか汚い物集めるのが好きねえ」
「デルフィーネ。男の子とはそう云う物だ。他人からガラクタに見える物であっても、本人からしたらそれは価値のある宝物なのだよ。
だからディーオが色んな物を集めていても勝手に捨てたりしてはいけないぞ?」
「ダーリン、そう言うのだったらせめて散らかってる書斎を片付けてくれないかしら?私にはどれが捨てて良い物かどうか判断がつかないわ」
「ダリウス様、せめてギルド人として恥ずかしくないレベルで整理整頓する事は必要かと思われます」
「シカーダまで…。あー分かった分かった。デュシスの湖の調査が一区切りしたら一度片付けるよ。調査資料の分析も必要になるから良い機会だ」
「とか言ってまた調査だとか仕事だーって理由でお片付けサボるんでしょー」
「お父さんまたお仕事でどっか言っちゃうの?」
「う、ううむ…分かった。デュシスの湖底探索はなるべく早めに終わらせる。そうしたら暫く仕事を休んで家で一緒に遊ぼう。約束だ。一週間以内に終わらせて、後は来年の誕生週まで家で休みだ!」
「わーい、やったー。お父さんが遊んでくれるー」
「良いのですかダリウス様安請け合いをしてしまって」
「ずっと調査で家族を疎かにしていたからな…。自分の趣味も大切だが家族も大事だ。年末年始は家でゆっくりしてまた来年から調査を再開するよ。何、この世界に残された時間はまだある。
私が駄目でもデルフィーネやディーオ達が気象制御装置のヒントを探す仕事を引き継いでくれるだろう。その時に家族仲が悪くては上手く行く物も上手く行かない。
他の4大家系もバシアヌスに至っては地上に降りた位だ。せめて我がエラクレア家だけでもギルドの仕事を引き継いでいかねばご先祖様に顔向けできない」
「では潜水艇の改修を急ぎます。改修箇所は以前仰られていた箇所だけで宜しいですか?」
「そうだな、折角だからエラクレアなりのアレンジを入れるとするか。アイディアを書いたノートを渡すから、シカーダの判断で改造してみてくれ」
0050創る名無しに見る名無し垢版2014/07/26(土) 22:09:10.61ID:lKT03Hkw
ダリウスがエグザイルを発見するまで その17


・ギルド城:戦艦ドック
ギーギュイーンガゴゴゴゴ

「朝から随分と忙しそうだなシカーダ。またダリウスに頼まれて船の改造か?」
「おはようございますダゴベール卿。ダリウス様が改造するには手を痛めますので、大雑把な力仕事は私が受け持っております。ダゴベール卿はまたアナトレーに降りるのですか?」
「ああ、マリウスの奴を放ってはおけんからな。まあそれとアナトレーが作るヴァンシップにも興味があるのでな」
「バシアヌス卿はギルドに戻る予定は無いのでしょうか?最近ではアナトレーで宰相の仕事をしていると聞いてますが」
「マリウスは地上人と結婚して娘も地上で暮らしている。家族が地上にいるのだからギルドに戻って来る事は当分無いだろう。
下手に帰ってきたら反逆者として処罰される可能性もあるからな。お前が作られた時代もバシアヌスが地上人と結婚するしないで大騒ぎしていたからな。
ジェームスの奴はマリウスがクーデターを起こす事を考えてお前のような気性の荒い護衛官を作ったが…現在に至るまでクーデターが発生してないからこのまま平和な時を過ごせそうじゃないか」
「私やドルクス達はバシアヌスの反逆に対抗する為に敢えて攻撃的な精神を持つように作られました。ですが平和な時代が続けばやがて今の私のように昔の攻撃性が衰えてしまいます。
マエストロやグラフとしては穏便にしたいのでしょうが、私としては少々不満があります」
「子供時代と比べて随分と大人しくなったのはエラクレアに任せた結果か。ダリウスについていれば飽きなくて良いだろう」
「それはまあ…毎回ダリウス様の気まぐれに付き合わされていますから一々驚いていたら身が持ちません」
「お前をエラクレアに任せたジェームスの判断は上手く行ってるみたいだな。この調子なら誓約の儀で精神処理を施さなくても自力で感情制御をしたままプリンシパルになれるかも知れんな。
どうだシカーダ。プリンシパルになったらマエストロを目指してみないか?」
「御冗談を。私はまだ成人してません。その話は無事プリンシパルになってから考えます。取り敢えずは目の前の仕事を片付けてからです」

ギーガガガギュイーン
ガシャンガシャンガシャン

「ん?なんだあの機械は?」
「あれは…ダリウス様が書斎で資料を探していた時に見つけたと言う水中作業用ロボットです。設計図には『ウミグモ』と書かれていましたが」
『おーいシカーダ。作業は進んでいるか?レシウス殿もご一緒なら丁度良い。この機械をちょっと見てくれませんか?』
「中に入ってるのはダリウスか?何だこのオドラデクのような機械は」
『書斎にあった古代の資料を基にオドラデクの部品を使って作った水中作業用ロボットですよ。ちょっと待ってて下さい。今コクピットを開きます』

ダリウスがそう言うと水中作業用ロボットの丸い胴体部分の先端がネジのように回り始めて、先端部分のハッチが取れて中からドロリとした液体とダリウスが出てきた。
0051創る名無しに見る名無し垢版2014/07/26(土) 22:19:53.43ID:lKT03Hkw
ダリウスがエグザイルを発見するまで その18


「おわっ、何だこのゼリーは?!大丈夫かダリウス」
「御心配ありませんレシウス殿。この『ウミグモ』はこれが正常な状態なのですよ。機体内部にもゼリー状の物質を満たす事で機外の水圧と内部の圧力を相殺するような構造になってるようです。
いやあ、昔の設計図から試しに作ってはみましたが、上手く動く物ですなあ。はっはっは。やはり物は試してみる物ですな!」
「ダリウス様。その作業機械をご自分で作られたのですか?エラクレア家の腕は医療の為にある物。このような物を作ったら細かい指の動きを阻害するような事になりませんか?」
「大丈夫だシカーダ。ヴァンシップを弄る程度の器用さがあれば問題ない。この機体も空は飛べないがヴァンシップと似たような物だ。
オドラデクの整備場にあったスクラップを使って作ってみたが、ちゃんと動くぞほれ。飛びはしないが船体の外壁を歩く事位はできるから、今からこれで私も潜水艇の改修工事に加わるよ」
「ダリウス。水中作業用と言う事はこれからその…『ウミグモ』とやらと使ってデュシスの湖に潜るのか?」
「勿論ですレシウス殿。水中探査用に設計図を発掘して組み上げたのですから今回の調査で試験すれば時間の有効活用になります。大丈夫ですよ。危険だと判断したらすぐに引き上げます」
「むう…エラクレア家にこんな機械の設計図があったとは。何故エラクレアに…」
「このゼリー状の物質を分泌するのに生体技術の知識が必要でしたから我が家の元にあったんでしょうなあ。そう言う意味ではこのウミグモはサイボーグとも言えますが、やはり興味がありますか?レシウス殿」
「ううむ、生体技術を使ったロボットか…。興味はあるが医療技術が必要ではうちでは畑違いだ。うーむ、惜しい。実に惜しい」
「ちなみに水中ではこのような形に変形します」

ガシャン
ダリウスがコクピット内部のスイッチを入れると、ウミグモなる作業機械は鋏や足を折り畳んで水中巡航モードに変形した。

「おおっ、変形もするのか!」

年甲斐もなく目を輝かせるレシウス。機械工学を司るダゴベールの当主から見ても未知の機械は好奇心を擽る物のようだ。

「ダリウス様。ダゴベール卿。はしゃぐのは分からなくもないですが、作業が進みません。その作業機械を使うのであればそこの装甲板を支えてはくれませんか?」
「良し分かったシカーダ。この古代の設計図から組み立てたウミグモが見かけだけでは無い事を証明しよう。あの装甲板を持ち上げれば良いんだな?」
「はい、お願いします」

ダリウスはウミグモと言う作業機械に再び乗り込むと作業用アームの巨大な鋏を使い、潜水艇に取り付ける装甲板を持ち上げた。

「うーむ、クラウディアを使わなくてもこれ程の力があるのか。ダリウスよ。この作業機械にクラウディアを取り付けるつもりはないか?何だったら俺が手伝うぞ」
『お心遣いは有難いのですが、まだ水中での試験を実施していないので、クラウディアを取り付ける改造は水中での試験運用が全て完了してからになりますな。
何でしたらこの潜水艇とウミグモの設計図を後日ダゴベール家にお届けしますがどうでしょう?』
「是非頼む」
『では今度ギルドにお戻りになられるまでに纏めて、ダゴベール夫人に渡しておきます。その時に感想をお聞かせいただければ幸いです』
「分かった。ではまた戻って来る時を楽しみにしとるよ」
『それではごきげんようレシウス殿。マリウス殿にも宜しくと伝えて下さい』
「うむ、ではまた近い内に会おう」
0052創る名無しに見る名無し垢版2014/08/03(日) 22:16:21.72ID:Y9wnvnnu
ダリウスがエグザイルを発見するまで その19


・デュシスの湖
「ダゴベール家に設計図を渡すと約束して良かったのですか?」
「問題ない。このウミグモの生体技術はダゴベールには専門外だし、機械の事ならダゴベールの方が詳しい。湖の調査や試験をする上でダゴベールからアドバイスを受ける事が出来れば、調査も捗るだろう。
この潜水艇も本当はバシアヌスにアドバイスして貰いたかったんだが…マリウス殿はギルドに立ち寄る事も少なくなったからなあ。娘さんがもうすぐ成人する歳らしいが、その時にギルドに来たら話しかけてみよう」
「バシアヌスはプリンシパルの地位を放棄しています。それに地上人の成人年齢はギルドと違います。バシアヌスの御息女がギルドに来て誓約の儀に参加するかどうかも分かりません」
「ま、良いさ。バシアヌスがギルドではなく地上で暮らすのであればそれがバシアヌスの選択だ。我がエラクレア家の先祖達も過去には地上に降りて生活せざるを得なかった時代があった。
ギルドの伝統を失わなければ1代2代地上で暮らした所で問題ない。マリウス殿も彼なりにこの世界を救おうとバシアヌスなりに行動しているのだろう。それよりもそろそろ前回の音が聞こえてきた深度に到達するな。シカーダ準備は良いか?」
「潜水艇は順調に潜航し続けています。前回のように潜航速度が落ちる様子はございません。水密隔壁の漏れも今の所はありません」
「水圧の事を考えて大改造したからな。深海魚の仕組みを機械で再現してどこまで潜れるか実験開始だ」

今回のダリウスの潜水艇は前回と比べて水圧に耐える目的の装甲板を備えていたがダリウスのアイディアはそれだけではない。
装甲板を持たない深海魚が水圧に耐える為に体内の圧力を高めて、外側と内側の圧力差を少なくするよう工夫している。
更にクラウディア船ももう1隻丸ごと流用し、クラウディア船をそのまま引っ繰り返して背中合わせに接続させて、上になったクラウディア船のクラウディア管のクラウディアの力場で外からの圧力を軽減するようにしている。
水を利用した水圧軽減構造とクラウディアの力場の2つで船体内部のブリッジ部分は膨大な水圧から守られている。

コーンコーン

「例の音が聞こえてきたな。クラウディア反応の方はどうなってる?」
「潜航するに連れてセンサーに感知できる量が増えています。方向を見た所、音源とクラウディアの反応はここからだと同じに見えます」
「音源とクラウディア反応に向けて進路を取れ。目標の直上に着いたらそのまま真下に潜航を続けて湖底が近づいたらウミグモで探索を行う」
「畏まりました。このまま潜航を続けます」

コーンコーン
尚も潜航を続ける潜水艇。
暫くすると船外のライトでもうっすらと見える程湖底が見えてきた。

「ダリウス様。どうやら湖底に到着したようです」
「クラウディア反応があるのはこの真下か。む、シカーダ、船体が揺れていないか?」
「どうやら湖底の水流が安定しないようです。船外のカメラの映像を映します。湖底の堆積物で水流の流れが分かるかも知れません」

そう言ってシカーダが湖底の映像をモニターに表示すると、そこには湖底の一部が上下に動いているのが見えた。

「何だこれは?あの上下に動いてる湖底…いや、キューブか?あれが水流を乱しているのか?」
「ダリウス様。音源とクラウディア反応の元はあのキューブのようです。このまま観察を続けますか?」
「うむ。シカーダはこのままあのキューブを観察し続けていてくれ。私はウミグモで直接湖底を調査する」
「ダリウス様。デュシスの言い伝えでは触手が襲って来るとの話がありましたのでお気を付け下さい。この水深では何かあっても助けは呼べません」
「この潜水艇は下手なギルド戦艦よりも装甲を厚く頑丈にしている。刀匠ラドクリフの剣で切り付けでもしない限りは大丈夫だろう。さあ、格納庫の水密隔壁を開けてくれ。船外作業の開始だ」
「…了解しました。少々お待ちください」

ガシャンゴゴゴゴゴ、プシュー
隔壁を開いてダリウスはウミグモなる水中作業機械に乗って湖底を回遊する。
0053創る名無しに見る名無し垢版2014/08/03(日) 22:25:30.82ID:Y9wnvnnu
ダリウスがエグザイルを発見するまで その20


『操作性は良いようだ。通信状態はどうだシカーダ』
「クラウディアの影響が強い為にクラウディア通信は安定しません。有線での通信は良好です」
『そうか。ではこれから湖底に着地してあのキューブの周りを探索する。そちらでも何かあったらすぐに知らせろ』
「早速ですがダリウス様、ウミグモとのクラウディア通信のノイズとあのキューブから発せられるクラウディア反応を比較してみたのですが」
『うん?どうした?』
「クラウディアの反応が途中で消えています。クラウディア反応がキューブから少し離れた場所で徐々に弱くなるのではなくいきなり0になっています」
『ほう。それはどの辺りだ?』
「一番近い所はダリウス様のいる場所から7時方向に50mと言った所です」
『分かった。そちらに向かってみる』

キュルルルルカシャン
ウミグモは水中で軽快に泳ぐと、シカーダに示された場所に細長い脚を伸ばして着地する。

『この辺りか。壁らしい物は見当たらないな。…む、地面に何か刺さってる。これは…剣か?』

ダリウスが湖底の状況をカメラで見ると、クラウディアの反応が途切れる場所に金色に輝く剣があった。

『殆ど錆びていない…。これがクラウディアの反応が消える原因か?シカーダ、今からこの剣を抜いてみる。そちらでクラウディア反応が変わらないか確認してくれ』
「クラウディア反応の記録開始しました。ダリウス様どうぞ」
『良し、では折れないように…ラドクリフの剣だから折れないよなあ?多分…。このウミグモのアームでどこまで精密作業ができるか…良し掴んだ。今から抜くぞ。ほれっ』

ウミグモのアームに掴まれた剣は音も無くすんなりと抜けた。流石は噂に聞く伝説の刀匠の作った剣。切れ味が全く落ちていない。

「クラウディア反応増大…。ん?この音は…。ダリウス様そこを離れて下さい!湖底が隆起します!」
『何?おおっとどうした事だこれは』

先程までウミグモが立っていた場所がいきなり激しく動き始めた。

「ダリウス様、クラウディアが活性化しています」
『剣を抜いたら影響か…。と言う事は他の場所も…そうかやはりな』

カメラを離れた場所に向けるとそこにもまた湖底に突き立つ剣があった。

『この剣が湖底のクラウディア活性化を阻害していたのだ。我が家にもラドクリフの作った刃物が幾つかあるが、この金色に輝く合金には伝説通りの力があるようだな』
「噂では大昔のバシアヌスがラドクリフの刀剣を買い集めて、今でもバシアヌスの武器庫に保管されていると言う話でしたが…」
『我が家の物置にもラドクリフ製の手術道具を置いてるが、クラウディアを非活性化させる実験なんてしていなかったからなあ。
それにラドクリフの作品も全部が全部この剣のように不思議な力を持っている訳ではないだろう。家に帰ったら物置にあるラドクリフ製のメスを調べてみるか』
「この様子ですと他にも剣が突き刺さってるように思われますが如何しますか?」
『全て抜き取ってみたいが、そうなるとこの辺一帯が隆起する地形になるな…。取り敢えず何本か回収してグランドストリームに戻って分析しよう。残りは次回の調査に回す』

そう決定したダリウスは近くにある金色の合金の剣を引き抜く。
すると今まで隆起するだけだった湖底に触手が生えて、波のようにうねりながらダリウスの乗る水中作業機械に近づいて行った。

「ダリウス様!湖底に生えた触手がそちらに向かっています!すぐに逃げて下さい!」
『落ち着けシカーダ!このスピードならばこのウミグモの方が素早く動ける。あの触手の動きも随分と弱弱しいな。水圧の影響か?どれ、付かず離れず観察してみるか』

ダリウスが言ったように湖底から生えた触手は動きが鈍い。
ダリウスの乗る水中作業機械をのろのろと追いかけていたが、やがて湖底に突き刺さった剣の側まで来ると力が抜けたように湖底に沈み、そして湖底と融合した。
0054創る名無しに見る名無し垢版2014/08/03(日) 22:31:51.86ID:Y9wnvnnu
ダリウスがエグザイルを発見するまで その21


『ふむ、どうやらあの触手はラドクリフの剣で作られたクラウディアを非活性化させる結界からは出れないらしい。
湖底から突如出現して、また湖底と一体化した所を見ると、どうやら湖底のキューブと同じ物質で作られているのかも知れないな。
伝承にあるプレステールやエグザイルを構成するナノマシンと同じ物なのか?だとしたら化石化してないと言う事はまだ生きている状態の遺跡か…。
生きていると言う事はまだ役目を終えていない?もしこの触手がエグザイルの物であるならば、エグザイルの役目はこの世の終わりに人々を清浄の地へ運ぶ事だ。
しかし何故あのような触手を出すのだ?このアンチクラウディアの結界が無ければあらゆる物に襲い掛かる怪物なのか?
いやいや、結論を出すにはまだデータが足りない。ではどうするか…良し、あの触手を1本持ち帰ろう!』
「ダリウス様。その触手はラドクリフの剣で作られた結界で動きが遅くなってるだけで、この湖底から離れたら凶暴化して船を破壊するかも知れません。
私はギルドの護衛官としてプリンシパルの命を危険に晒すような行為には賛成できません」
『危険と言われて『はいそうですか』とエラクレアが引き下がる訳にはいかん。うちは過去には何人もの護衛官を輩出してきた家系だぞ?
うちからしたらこの程度の事は危険の内には入らん。まあ見てなさいシカーダ。あの触手に掴まらずちょいと切除してくるから』
「ダリウス様!」
『五月蠅いぞ。少し静かにしててくれ。すぐに終わる』

ダリウスはそう言うと通信を切り、湖底の触手を切る作業に集中する。

(まずは湖底からあの触手を出さなくてはならんな。クラウディア反応のある領域に入って…良し出た!)

近づいたダリウスの乗る水中作業機械に反応したのか、湖底から触手がせり上がりダリウスの方へのろのろと向かって来る。

(触手の根元は湖底に繋がっている。ならばその根元部分を切り離して、湖底に融合する前に持ち去れば良い)

触手の根元を辿ると、隆起する湖底のキューブとは違って動きが見られない部分に触手が繋がっているのが見えた。

(あそこか。遺跡を傷付けるのは気が引けるが、何か証拠となる物を持ち帰らねば誰も信じないし評価もしない。
ナノマシンが生きているのであれば暫くすれば再生するだろう。すまんがエラクレアの名誉の為に回収させて貰うぞ)

ダリウスは触手の根元へ機体を近づけ、機体の鋏(作業用アーム)で触手の関節部分を引き千切ろうとするが、思うように千切れない。

(この機体のパワーでも千切れない程頑丈とはな。ならばこのラドクリフの剣ならばどうだ?)

機体の鋏部分でラドクリフの剣を器用に掴んで、剣を触手の関節部分に走らせる。
スパン
切った感覚に気が付かない程の切れ味を発揮し、触手は呆気なく切断される。

(切れた!後はこの触手が湖底に融合する前に全速力で回収するだけだ)

機体のアームで力無く垂れ下がった触手を掴み、ダリウスは機体を水中航行モードに変形させて湖底から離れた。
0055創る名無しに見る名無し垢版2014/08/03(日) 22:40:48.13ID:Y9wnvnnu
ダリウスがエグザイルを発見するまで その22


『見たかシカーダ。ほれ、私の手にかかれば謎の触手の1本や2本どうって事無い。この通り私もウミグモも無事だし、シカーダの乗ってる潜水艇も危険に晒してないぞ』
「…」
『どうしたシカーダ?反応が無いぞ?通信機の故障か?おーいもしもーし、シカーダ聞こえているかー?』
「…」
『通信機にエラーは無い。潜水艇の駆動音も聞こえる。潜水艇で待機しているはずのシカーダが応答を寄越さないと言う事は…。
はっ、もしかしてあまりに暇なので眠ってしまったのかな?』
「ね・む・っ・て・な・ど・お・り・ま・せ・ん!」
『おお、起きてるじゃないかシカーダ。声が聞こえないから心配したぞ』
「心配したのはこっちの方です!一体何なんですか、あれ程危険な真似をしないようにと言いましたのにそれを無視して、生きてきたから良かったものの何かあったらどうするのかですか?!
ダリウス様はギルドの4大家系の一つであるエラクレア家の当主なのですよ?!ダゴベールとバシアヌスがギルドを離れがちになってギルドに残っているのはハミルトンとエラクレアだけになっていて、
それでもしダリウス様が死んでしまったら次のエラクレア当主はデルフィーネ様です!まだ子供のデルフィーネ様に当主の仕事はまだ重すぎます!ギルドのパワーバランスが崩れたらここぞとばかりにバシアヌスが活気づいて地上人と組んで…」
『あー分かった分かった。そんなにまくしたてるなシカーダ。お前の言いたい事は良ーく分かった。心配かけて済まなかったなあ。反省してるよ。
いや本当に。あー、でも危険を冒した甲斐はあったぞ?ほれ見てみろこの触手を!この触手を証拠として持ち帰って調べればこの湖底の遺跡…デュシスの言う沈んだエグザイルの事も何か分かるかも知れないぞ?』
「ならばダリウス様は集めたデータを分析する事に集中して下さい。今後湖底の調査や危険が及ぶ可能性のある活動は私が担当します。
この提案を受け入れなければ私はダリウス様の湖底探索を許可しませんし、ギルドの議会に報告してエラクレア家の活動に制限を加えるよう働きかける所存です」
『おいおいシカーダ幾らなんでもそれは酷過ぎないか?この調査活動はプレステールの命運を左右するかも知れないんだぞ?』
「何度も申しましたように4大家系の当主たる者は命の危険を晒す事は控えて頂きます。下手に当主が命を失えばまたギルド内部で疑心暗鬼を煽る血みどろの権力抗争が始まるかもしれません。
その犠牲者になるのは次期当主であるデルフィーネ様かも知れないのですよ?」
『今のギルドで権力抗争が起きるような余裕は無いと思うが…』
「と・に・か・く、今後の調査では私がダリウス様の代わりに現場作業を実施します。ダリウス様は潜水艇にて作業指示をして頂きます。良いですね?!」
『あー、いや、しかしだなシカーダ』
「よ・い・で・す・ね?」
『あー、分かったよシカーダ。今度は現場作業はお前に任せる。全く最近大人しくなったとこんなに五月蠅くなるとは…蝉と名付けられた性格は根本的な所はそのままか』
「何か仰いましたかダリウス様」
『いや何でもない独り言だ。とにかく今日の探索はこれで終了だ。触手とラドクリフの剣を持ってグランドストリームに帰還する。シカーダ、潜水艇にウミグモと採取した触手を収納するからハッチを開けてくれ』
「了解しました。ではそのウミグモもダリウス様が勝手に動かせないようにロックをかけさせて頂きます」
『そこまでするか…まあ良い。明日はシカーダに操縦を任せる。今の内に慣らしておけ』
0056創る名無しに見る名無し垢版2014/08/20(水) 00:09:25.85ID:cg1yoTr4
ダリウスがエグザイルを発見するまで その23

・ギルド城
「マエストロ。ダリウス殿がデュシスの湖から奇怪な物を引き上げて来ました。ご覧になられますか?」
「ダリウスめ、また何かガラクタを拾ってきたか。どれ、他にやる事も無いし気分転換に奴の探検話でも聞きに行くか」

ウィーン、プシュー
ジェームスがグラフを連れてダリウスのいる戦艦ドックに行くと、そこではクラウディアで動く触手のような物が動いていた。

「おお、マエストロにグラフ殿ではありませんか」
「何やらデュシスで珍しい玩具を拾ったらしいが、これがそうか?見た所ギルド戦艦の旗と同じようなカラクリで動くマジックハンドのように見えるが?」
「ええ、デュシスの湖底に生えた触手を採取してきまして、今クラウディアを接続してどのように動くか調べている所です。マエストロの仰るように、原理的にはクラウディアを使った旗と同じ原理で動くようです。
このように近づく物は自動で排除する機能も備わっています」

ダリウスはそう言うと、浮いている触手に向けて傍にあった小型のドラム缶を投げつける。
クラウディアの力で宙に浮いて漂っているだけの触手は突如ドラム缶に反応するとそれを触手をくねらせて跳ね飛ばした。

「形は異なっても旗と同じ程度の動きをするだけですか。外部にクラウディア管が露出してない所を見ると内部にクラウディアが入ってるのでしょうか?」
「グラフ殿の仰る通りこの触手の内部にクラウディアが流れているのでしょう。そしてこの触手の機能はそれだけではありません。シカーダ、戦艦の装甲を用意しろ。マエストロとグラフ殿にこの触手の力をお見せする」
「マエストロの御前でですか?少々危険ではないかと」
「グラフ殿もいるから大丈夫さ。なあに、触手が危険な動きをしてもこのラドクリフの剣さえあれば無力化できる。問題は無い」
「そうですか。では装甲板を投げますので破片に注意して下さい」

シカーダがオドラデクを操作し、ギルド戦艦の装甲板を触手に向けて投げつける。
ヒューン、チュイイイン、スパッ

「何と、戦艦の装甲がここまで簡単に切断されるとは」
「それだけではありません。この触手は巻き付く事で戦艦をへし折る事も可能です。いやー、この触手を持ち帰る時に潜水艇を締め付けてきた時は驚きましたよ。ギルド戦艦の装甲よりも頑丈に作っていたのに、あのように跡がくっきりと」

ダリウスが潜水艇を指差すと、確かに潜水艇の表面部分に触手が巻き付いたような跡が付いていた。
触手の威力を見たジェームスはダリウスに尋ねる。

「ダリウス。この触手はデュシスにあったと言ったな?」
「はい、先日から続けているデュシスの湖の調査でこの触手を発見しました。湖底にはこの触手を封印したと思われるラドクリフの剣が多数刺さっておりました。ああ、このラドクリフの剣は偽物ではありません。
伝説にあるようなクラウディアを抑制する性質を持っています。この通り触手に突き刺すと…」

ジェームスの前でダリウスは黄金色に輝く剣を触手に向けて投げる。すると触手は浮力を失いドックの床に落ちてピクリとも動かなくなった。
それを見てジェームスは何やら考え込む。
0057創る名無しに見る名無し垢版2014/08/20(水) 00:23:28.41ID:cg1yoTr4
ダリウスがエグザイルを発見するまで その24


「どうなさいましたマエストロ?」
「デュシスにはグランドストリームを超える技術を与えた…。アナトレーのマリウスはデュシスと手を組みギルドを倒す事を考えておる…。両者が手を結んでもギルド艦隊が負ける事は無いはず…。
しかしこの触手をデュシスが手に入れアナトレーに引き渡したとしたら…。いや、ラドクリフの剣だけでも脅威になるやも知れん、となると最良の選択は…」
「マエストロ?」
「ダリウス。この触手とラドクリフの剣はまだデュシスの湖に多数あると言ったな?」
「はい、詳しく探査すれば剣も触手もおそらく大量に発見できると思われます」
「引き上げる事は可能か?」
「え?ええと…明日も潜る予定ですが、シカーダが作業をする予定になっておりますので作業人数が限られますが回収する量は事は可能かと」
「時間がかかっても構わん。デュシスの湖からこの触手と剣を出来る限り…いや、全てだ。全ての触手と剣を回収せよ。地上人の手に渡ったら危険だ」
「全部ですか?!幾らなんでもあれだけの広さの湖底に眠っている触手の数を考えたら途方もない時間と労力がかかると思われますが…」
「グラフ、もし地上人がこの触手と剣を手に入れたら最悪どうなるかをダリウスに説明せよ」
「はい。もしデュシスがこの触手と剣を手に入れてアナトレーと和平を結んだ場合、反ギルドの気運が高まってるアナトレーにも触手と剣が提供されると思われます。
地上人が湖底から『拾った』物であればアナトレーにもたらされたヴァンシップ技術のように、ギルドは地上人の作り出した技術には干渉できません。
この剣が伝説にあるような力を持つとすれば、クラウディアを使って空を飛ぶ船は浮力を失い地に落ちるでしょう。数さえ揃えればギルド城を地上に落とす事も不可能とは言い切れません。
更にギルド戦艦の装甲を破壊するこの触手ですが、地上人の扱う交戦規程に違反せずにギルドの船を破壊する事も可能です。
交戦規程では大砲の威力と戦艦の装甲については制限がありますが、逆に言えば大砲でなければ規定を逸脱している事にはなりません。
アナトレーに伝えられているギャラハッド騒乱の話でも、当時のギャラハッド王は部下に命じて大砲を用いない戦艦を作り、武装に強力な機械式の弓を装備してギルドに弓を引いたと伝えられています。
ギルドの装甲を貫通する切れ味とクラウディアを無力化する合金製の矢で当時のギルド戦艦も多数撃墜され、今でもミナギス砂漠から当時の戦艦の残骸が見つかる程です。
この触手も交戦規程による『大砲』には該当しないので、地上人がこの触手を分析して鞭のようにしなる剣状の兵器を作ればギルドとしてもそれを禁じる事はできません。
ギャラハッド王が討ち取られた後にクラウディアを無力化するラドクリフの剣はギルドが回収し、製造方法に至ってはバシアヌスでさえ作成不可能と言われてますので地上人の力でラドクリフの剣を量産する事は難しいと思われますが、
デュシスの湖に存在する剣の量によってはギルド艦隊も無傷では済みません。よって地上人が剣と触手を手に入れる前に秘密裏にこれらの遺物を回収するのが得策かと思われます」
0058創る名無しに見る名無し垢版2014/08/20(水) 00:35:03.74ID:cg1yoTr4
ダリウスがエグザイルを発見するまで その25


「と言う訳だダリウス。地上人共の気が立っている今の状況で、地上人がギルドに立ち向かえるような武器を手に入れれば何をするか分からん」
「今のデュシスに湖底まで潜るような技術は無いのでデュシスが触手を手に入れる事は無いと思われますが…」
「デュシスがアナトレーと手を組んだ場合はマリウスがデュシスにやってくる事も考えられる。お前が潜水艇を作った事はアナトレーに降りたレシウスからマリウスに伝わるだろう。
そうなればマリウスも湖底の触手と剣に興味を示す。デュシスとアナトレーが戦争を辞めるのはまだ先になるだろうが、和平を結ぶ前までには湖底の遺物を回収しておきたい」
「湖底の遺物を全てですか…。マエストロ、私の推測ではデュシスの湖底に眠るこれらの遺物はギルドの神話に出て来るエグザイルに繋がる物と見ていますが、
湖底の剣を引き抜いてエグザイルが目覚めた場合、最悪この世界が終わるかも知れませんが宜しいでしょうか?」
「エグザイル?ははっ、伝説の箱舟であれば直接この目で見てみたい物だ。構わん。世界が滅びると言うのであればギルドの全戦力を持って叩き潰すまでだ」
「分かりました。ではデュシスの湖底の遺物の回収につきましては引き続き私にお任せ下さい。シカーダ、剣の回収計画を変更するぞ。作戦会議だ。ついて来い」

そう言うとダリウスはシカーダを連れてドックを後にした。


「マエストロ。良いのですか?ダリウス殿は今回の調査にかなりの自信を持っているようです。もしかしたら本当にこの世を滅ぼすような物を引き上げて来るかも知れません。
触手一本であの威力ですから、それを大量に引き上げるとなると彼らにはかなりの危険が伴います。
スクトゥムやアスピス部隊を引き揚げ作業に協力させれば安全に作業を行える物と思いますが」
「人数を増やしても湖底で作業できる機材はダリウス達しか持っておらん。あのウミグモとか言う作業機械もエラクレア家の所有物だ。機材が少ないのに人数だけ増やしても作業はできん。
儂らはダリウスが引き上げた触手が野放しになった時を想定してギルド戦艦を待機させておけば良い。グラフよ。あの触手を破壊するにはどの兵装が適切か」
「地上人に触手の破片を渡さないようにする為であればエボナイト砲で破壊するのが確実です。触手を非活性状態にするのが目的であれば、オドラデクにラドクリフの剣を装備させるのが宜しいかと。
ラドクリフの剣に関してはダリウス殿が引き上げた物を順次装備させる事になりますので、今できる事はギルド戦艦を待機させておく位しかできません」
「それで良い。ダリウスにも触手が暴走した時の為にギルド戦艦を待機させておく旨を伝えておけ」
「畏まりました」
0059創る名無しに見る名無し垢版2014/09/16(火) 21:53:06.47ID:JQGNgYp7
ダリウスがエグザイルを発見するまで その26


・デュシスの湖
「との言伝が届きましたので、私はまずラドクリフの剣を優先して回収するべきと考えます」
「ああ、それで構わない。あの触手も湖底に剣が刺さってる状態では姿を現さないからな。だがウミグモでちまちまと剣を抜くのは時間がかかる。
作業をするならば剣にワイヤーを順次巻き付けて複数の剣を芋づる式に一気に引き抜くのが良いだろう。多数の剣を一度に引き抜くのだから活性化した触手の数も速さも増加するが良いな?」
「はい。ではダリウス様は潜水艇での作業指示をお願いします」
「うむ。ではシカーダはウミグモに搭乗してワイヤーを剣に巻き付ける作業に専念してくれ。ワイヤーを引っ張るのはこの潜水艇でも十分だ。
ワイヤーを引っ張る時は合図をするから触手に掴まらないように注意してくれよ」
「畏まりました。それでは作業を始めます」

シカーダはダリウスの代わりに水中作業機械のウミグモに乗り込み、湖底に刺さっている剣目掛けてワイヤーを巻き付けていく。
巨大な鋏を持ってはいるが細かい作業も可能な機体なので、シカーダの腕でも問題なく作業は進んでいった。

「そろそろワイヤーの残りが短くなったな。シカーダ、一度ワイヤーを引き抜くから上昇して触手の届かない場所まで待機してくれ。
大量の触手が生えて来ると思うから、一本一本ラドクリフの剣を使って触手を湖底から切り離す」
『了解しました。それでは一度安全深度まで上昇します』

シカーダの乗ったウミグモはダリウスの潜水艇と同じ位の深度まで移動し、それを確認したダリウスは潜水艇を動かして剣に巻き付いたワイヤーを引っ張った。

ピン、プス、プスプス、ゴゴゴゴゴ

芋づる式に剣が巻き取られると同時に湖底が活性化し今まで何も無かった場所に大量の触手が生えて来る。

「ここまでは予想通りだな。さて、では生えてきた触手を端から順番に切り取って…何だ?触手が上昇してきている?」
『ダリウス様。深度計を見て下さい。上昇してきているのは触手だけではなく湖底もです』
「湖底が上昇?本当だ。クラウディア反応が増大して浮いてきているのか?シカーダ、触手に掴まる前に上昇するぞ。ひょっとしたら今回の作業はもっと簡単に終わるかも知れん」
『どういう事ですかダリウス様?』
「触手を一本一本切り取って回収するのではなく、この湖底丸ごとグランドストリームに持ち帰れるかも知れないと言う事だ。ラドクリフの剣がこの湖底の遺跡…恐らくはエグザイルその物の活動を抑制している物であれば、
剣を全て除去すればエグザイルは全ての機能を取り戻して初期の伝説にあるようにグランドストリームで漂う状態になる」
『この触手の束をグランドストリームにですか?』
「そうだ。マエストロとグラフ殿の話ではギルド戦艦を待機させると言っていた。触手は膨大な数になるがギルドに待機させてあるギルド戦艦の艦隊のエボナイト砲ならば、全ての触手を破壊する事も可能だろう。
或いは危険と判断したらまたこのラドクリスの剣を刺して、クラウディアを非活性状態にしてしまえば良い。そうすれば触手も大人しくなるだろう。ギルドの方には私の方から伝えておく。
シカーダは再度ワイヤーで剣を抜く準備を続けていてくれ」
『この湖底丸ごとグランドストリームに持ち帰るとは本当にそんな事ができるのでしょうか』
「また剣を引き抜けば湖底が浮上して来るはずだ。データを解析して触手が湖面に出ないように調節すればデュシスに被害を与えないよう頃合いを見計らう事もできる。
シカーダ、抜いた剣を何本か刺してくれないか?湖底と触手の反応を見たい」

ダリウスからの指示でシカーダがラドクリフの剣を湖底に刺すと湖底の上昇が緩やかに止まり、刺す剣を増やすと今度は湖底が沈み始めた。

「うむ、思った通りだ。この湖底の上昇は剣を刺す事で調整できる。グランドストリームに持ち帰っても、ギルド艦隊とこの剣で対処は十分可能だろう。
シカーダは破棄続き剣にワイヤーを巻き付ける作業を続けてくれ。私は湖面に出てマエストロ達にこの事を伝える」
0061創る名無しに見る名無し垢版2014/10/16(木) 21:35:20.56ID:FRHEsPDU
ダリウスがエグザイルを発見するまで その27


・ギルド城
「湖底丸ごとだと?ダリウス、それは確度の高い情報なのか?」

マエストロ・ジェームスはデュシスで作業をしているダリウスからクラウディア通信で湖での作業報告を聞いている。

『ええ、深度計は異常ないですし、クラウディアの反応が増大しているデータも取れました。
マエストロも先程の話で世界が滅びるような事になってもギルドの力で対処すると言っていたのですから、
ギルド艦隊を待機させておいたままで構いません。危険度が上がるだけですがグラフ殿が率いるギルド艦隊なら対処できるでしょう』
「ちなみにその引き上げる湖底のサイズはどの程度の大きさなのだ?」
『幅と広さは湖と同サイズですが、高さに関しては不明です。何せラドクリフの剣を引き抜く度に上昇して来るのですから、高さは湖から引き上げて全景を見てみないと分かりませんな。
形状に関しては中程が若干縊れていて…砂時計と言うか瓢箪と言うか、デュシスの戦艦をそのまま大きくしたような形…これぞ正しく伝説のエグザイルに相応しい大きさです』
「ギルド艦隊は既に待機させていますが、それ程の大きさの物を引き上げるとなると、デュシス人に確実に見られますな。秘密裏に引き上げる事は無理ですか」

ギルドのセキュリティの責任者であるグラフがダリウスからの報告に危惧を抱く。

『この時期はデュシスは連日大吹雪で視界が悪く、夜になれば更に視界は効かなくなります。
いくらギルド城に匹敵する構造物でも視界の効かない吹雪の夜間なら目撃者の数は限られるかと。
デュシス人もわざわざ窓を開けて暖気を逃がしてまで外を見ないでしょう。
準備を盤石にしたいならば、夜空のスクリーンに投影する月を動かして皆既月食にすれば尚宜しいかと』

ギルドの管理するプレステールでは地上の空とグランドストリームの境界面に星空の動きを投影して人工的に太陽や星の動きを再現している。
ギルド人が仕事を疎かにしなければ空の天体は正しく動くが、ギルド人が管理を怠ると途端に天体の動きも怪しくなる。
その為プレステールでは夜空の星が動く時は、世界を管理するギルドに異変があった事を意味し、気象異常等の変事に通じる物として凶事の兆しと思われるようになった。

「星空の運行を変える事はできせまん。ただでさえ異常気象でデュシスとアナトレー両国から批判を受けているのです。いきなり皆既月食を起こしたらそれこそ地上人の信頼を失います」
『では星空は操作せずに視界の悪い夜間に一気にサルベージを実行する事にしましょう。シカーダ、準備の方は出来ているか?』

ダリウスはギルドと通信しながら湖底に伸ばした有線ケーブルを通じて作業中のシカーダへ声をかける。

『こちらシカーダ。指示通り剣を抜く準備は整っています』
『良し、ならばシカーダは湖面で待機してくれ。潜水艇でワイヤーを抜く前に回収する』
『承知しました』
『ではマエストロ、また後ほど』

そう言ってダリウスからの通信が終わると、マエストロとグラフは顔を見合わせる。

「ダリウスめ。湖丸ごとと来たか」
「何度も湖とグランドストリームを往復するよりも一度に引き上げた方が手間は省けますな。
作業が長期化する事で夏場にデュシスの艦隊に触手の事を知られるよりは、冬場の今の方が知られる可能性は低いかも知れません。
ですが、もしデュシスに触手の事が見られた場合は隠し通す事は難しいかと」
「まあ良い。デュシスに目撃されたら目撃されたでその時は何とかしよう。
グラフ、ダリウスの引き上げる触手の数を考慮に入れて待機させる人員と装備も増やせ。デュシスに被害が出る事も考えられる。
立会い船とギルド戦艦をデュシスに降ろす事も許可する」
「承知しましたマエストロ。ではもしもの時の為に布陣を整えます」
0062創る名無しに見る名無し垢版2014/10/16(木) 21:56:56.97ID:FRHEsPDU
ダリウスがエグザイルを発見するまで その28


・デュシスの湖
「さて、日も暮れた事だし、早速作業を再開するか」
「ダリウス様、その前に少し宜しいですか?作業していて触手の稼働時間を計測してみたのですが…」
「触手の稼働時間?そう言えば一度動き出した触手が沈静化しているな。ラドクリフの剣の影響か?」
「それはわかりませんが、剣を抜いて触手が稼働状態になっても、何もしなければ20分ほどで触手は動きを止めて湖底と一体化します。
湖底が上昇を始めても攻撃を与えなければ安全にグランドストリームまでこの遺跡を持ち帰る事もできるのではないかと」
「成程!良く気付いたシカーダ。そうか20分か、オドラデクの全開戦闘時間と同じなのは偶然か?
いや、伝説を考慮に入れて考えればオドラデクの活動時間が触手の活動時間とセットになっていると考えた方が自然だ。
となるとオドラデクの活動時間は触手の攻撃を回避できるだけの時間を稼げればそれで良いとの設計思想なのか?
それならばバシアヌスに伝わる伝説でムカデの化物と切り結んだと言う刀匠ラドクリフの話の根拠も裏付けられる。
そもそも何故触手の活動時間が20分なのかを考えると、創造神話以前に生きていたと言われる我がエラクレア家の先祖のデルタに、
アルファからオメガまでの兄弟姉妹がいて、最初のアゴーンの試練で戦った限界活動時間を元にしたと言う話も満更嘘ではないと言う事だ。
それに20と言う数字は銃兵戦での生還章の数でもあり、決闘方式で戦えば20回戦う事で生還者を1人出すには2の20乗で104万8576人の人間の命が必要になる。
100万人殺して英雄になったからこそ初代のデルタはミュステリオンを受け継いで4大家系になる事が出来たとなれば、
他のアルファやオメガ達は地獄と天国に移り住んだと言う話は死んだ事を意味しない?
となれば神話のエグザイルの行き着く先はあの世ではなく…」
「ダリウス様。考察は後でも出来ますので、まずは目の前の作業から先に片付けるべきかと」
「む、うーん、折角想像力が湧き出てきたのに…仕方ない。サルベージ作業を再開する。シカーダ、ワイヤーを巻き取り潜水艇を触手の届かない安全圏まで浮上せよ」
「了解。ウインチ作動と同時に安全圏まで浮上開始します」

ウィーン ピン、プス、プスプス、ゴゴゴゴゴ

シカーダが潜水艇のハンドルとレバーを操作し湖底の剣に張り巡らしていたワイヤーが巻き取られ、湖底に突き刺さっていたラドクリフの剣が次々と抜かれていく。
それと同時に触手が出現し、近くに存在する物を掴もうとするが、ダリウス達の潜水艇は既に湖面へと向かって上昇を始めていた。
暫くしてデュシスの湖底も触手の動きに合わせるかのように上昇を始め、段々と湖面へ近づいていく。

ガガガガガ

「む、この振動は」
「地震…でしょうか?振動の発信源は湖の周りの地面です。湖底の上昇と連動している物と思われます」
「クラウディア反応もあるな。間違いない。湖底のエグザイルの動きに影響されて、この湖自身も動いているのだ。気を付けろシカーダ。湖岸から何か生えて来るかも知れないぞ」
「また触手でしょうか?」
「すぐに分かる。ほら出てきた」

ダリウスが潜水艇の窓から湖岸を指差すと、先端の欠けた二等辺三角形のような構造物が湖岸から突き出て来るのが見えた。

「触手のようにこちらを襲うような動きは見られません。この様子ですと湖岸をあの構造物が覆うので、触手が湖周辺に被害を及ぼす事は無さそうです」
「これならばデュシス人に被害も出ないだろう。伝説ならばこの湖はエグザイルが浄土に向けて人を運ぶ為のトンネルと言う事だからな。
ネストル殿の昔話にあった傷ついたエグザイルを覆う鋼の壁とはこれの事だろう。
あの壁はエグザイルを保護すると同時に、この世界や湖周辺に被害を及ぼさないように作られている訳だ」

やがて湖岸を覆う鋼の壁が完成すると湖から無数の触手と触手を生やす湖底の巨大遺跡が姿を現す。
その様子は上空から湖を監視しているギルドの船からも確認できた。
そしてギルド城でも湖から浮いてくる巨大遺跡の情報は思いもかけないルートで知らされる事になる。
0063創る名無しに見る名無し垢版2014/11/15(土) 23:18:04.16ID:WZ5JlvZo
ダリウスがエグザイルを発見するまで その29

・ギルド城
「マエストロ!至急聖コントロールルームにお出で下さい!」

ギルドの立会人が興奮状態でマエストロに緊急コールを入れる。

「何事だ。騒々しい。デュシスの湖の事ならダリウスから報告を受けているぞ。その件はグラフに一任してある」
「それと関係ある事です。とにかく聖コントロールルームへ!実際に見て頂いた方が早いです。」
「聖コントロールルームだと?葬式でもないのにあのような辛気臭い所に何が…先代マエストロの幽霊でも出たか」

聖(セント)コントロールルームはギルドの中枢を占める施設と伝説では伝えられていて、
エグザイルの制御もここで行い歴代マエストロもプレステールにもしもの事があった時はここから指揮を執ると伝えられている。
最もジェームスが生まれる前から聖コントロールルームのモニターも計器類も動いておらず、暗く寒い場所なので使われるのはもっぱら葬式等の儀式な為、近寄る者は少ない。
だが現マエストロであるジェームスが聖コントロールルームに入るとそこには以前とは打って変わってモニターに光が入り、計器類も何らかの数値を示すべく激しく動いていた。

「どうした事だ…聖コントロールルームに光が入っているとは。む、ギータ。これは一体どうした事だ。何があった」

マエストロ・ジェームスはモニターと操作盤の計器類から何かを読み取っているハミルトン家の家令のギルド人女性に声をかける

「マエストロ、早速ですがこちらをご覧下さい」

ギータと呼ばれた女性のギルド人はモニターの一点を指差す。そこには何かの座標とグランドストリームに近づいている物体のマークが点滅していた。

「この座標の物体が聖コントロールルームが動き出した原因か」
「その座標と物体の名称をご覧下さい」
「この座標は…ダリウスが調査していたデュシスの湖か、物体の名前は…エグザイル?!」
「はい、ここで当番をしていた護衛官の話では先程聖コントロールルームの各種モニターが動き出してエグザイルの座標を示したと言ってました」
「……」
「マエストロ、如何します?」
「ここから儂が直接指揮を執る。ギータ、グラフにもこの事は伝えたか?」
「いえ、マエストロの確認を取る方が先決と思いましたので」
「そうか、ならば儂の方から伝えよう。グラフ、儂だ。聞こえるか?今、聖コントロールルームにいる。お前もここからギルド艦隊の指揮を取れ」
『如何しましたマエストロ?ダリウス殿がデュシスの湖から巨大建造物を引き上げた事はこちらのモニターからも確認しております。そちらで何があったのですが?』
「エグザイルが復活した」
『は?今何と仰られましたかマエストロ』
「エグザイルが復活した。聖コントロールルームのモニター群が起動しておる。ダリウスがデュシスから引き上げた物体に『エグザイル』との表示が出ておる」

通信機の向こうのグラフは一呼吸置いてから応答を返す。

『ダリウス殿の引き上げた物が伝説のエグザイルであるならば、私は尚更前線を離れる訳にはいきません。
デュシス方面からのクラウディア反応はこちらの艦隊でも観測できる程巨大な物です。
私がギルド城から指示をギルド艦隊に出した時に、エグザイルのクラウディアのノイズで指揮系統にノイズが混じる可能性があります』
「ならば城からの通信が受け取れるようにオドラデクや立会船をリレーさせよう。
非常事態につきこの回線は切らずに繋いでおく。グラフ、そちらからも状況を逐次知らせよ」
『畏まりました。それとマエストロ。もしもの事態に備えて城に残っている者達にはマエストロの名で避難命令を出して下さい。
もしエグザイルがこの世界を破壊する物であった場合、城が墜ちても避難した者は生き残ります』
「城に残る者と避難する者で2つに分ければどちらか片方は生き残るか。
分かった。まだ成人してない者とギルド復興に必要な人材から優先して避難させる。
聞いての通りだギータ、ギルド全域に非常事態宣言を出す。培養室新生児室を優先に城をブロック毎に分離する準備をせよ。
城に残っているプリンシパル達にも作業を手伝わせるのだ」
「承知しました」
0064創る名無しに見る名無し垢版2014/12/01(月) 23:56:15.66ID:dCWBmkbg
ダリウスがエグザイルを発見するまで その30

・ギルド城下部
「城を分離するってどういう事?マエストロは何故避難なさらないの?」

マエストロの名でギルド城に非常事態宣言が出された後に、デルフィーネは新生児らと一緒に城の下部に避難させられていた。
周りでは城に待機させられていたスクトゥムやアスピス達が各ブロックを分離するべく各接合部に爆薬を設置するべく走り回っていた。

「デル、落ち着きなさい。あなたはギルド4大家系の一つであるエラクレア家の後継者なのよ。ギルドのプリンシパルたる者がそのように不安がっていては周りの者に恐怖が伝染してパニックを起こすわ」
「お母様、私は別に不安になってなんかいないわ。それに皆も私達の事なんて気にしてないわよ。どうせ家が何か言っても真面目に聞こうとしないんだし」

エラクレア家は数十年前から続く気象制御装置の異常を直せずにいた事と、現当主のダリウスが気象制御装置の修理を放り出して趣味を優先しているとして、一部のギルド人からはまともに相手されなくなっていた。

「あなたがそう思っていても周りの目はそうとは判断してくれないわ。将来のギルドを背負う立場の人間はちょっとした事で狼狽えていては駄目。何が起きているのか分からなくても、全てを見透かすような余裕のある態度をしなさい。
ディーオみたいにはしゃぐ必要はないけれどね」

ダリウスの留守中に家を預かる母の足元ではまだ小さいディーオが慌ただしい現状を見てはしゃいでいた。

「今日は皆何だかザワザワしていて楽しそう!ねえデルフィーネ、僕達も一緒に皆と遊ぼうよ!」
「ディーオ、皆は遊んでる訳じゃないのよ」
「ふーん、じゃあ何やってるの?」
「ディーオ、デル、良くお聞きなさい。今ギルドはお父様が釣り上げたエグザイルを掴まえようとして忙しいのよ」
「お母様それどこで聞いたの?マエストロにに聞いても答えてくれなかったのに」
「クラウディアのノイズが酷いけど、多少の雑音じゃ私の耳は誤魔化せないわ。
マエストロとグラフさんの会話を聞いた限りじゃ、聖コントロールルームのモニターにエグザイルが復活を示すサインが出たみたいよ。
それでエグザイルがこの世界を破壊しようとした時の事を考えてマエストロ達は私達に避難するように指示したの。
マエストロ達は情報が正しい事を確認してから発表するつもりなのでしょうね。間違っているかもしれない情報を伝えて混乱するよりは黙っている方が良いと判断したのだと思うわ」

デルフィーネの母はノイズの混じる複数の通信機を耳に当てながら傍受した内容を子供達に答える。

「それでね、お城が墜ちた時を想定してリスクを分散する為にギルド再建に必要な4大家系は最優先でここに集められた訳。私達エラクレア家は怪我人が出た時に負傷者の手当てと手遅れになった者を楽にする為に待機させられているのよ。
私達以外にもダゴベールさんやハミルトンさんは他の部屋から城を分離するお仕事の指示を出している訳」
「バシアヌスは?」
「ギルドを離れて地上へ降りた者を当てにしてはいけません。今ここに無い駒を当てにするような無い物ねだりするよりも、今手元にある駒で戦局を打開するしかないのよデル。
でもマエストロは4大家系を城から逃がすつもりだから、最初から逃げてる分だけバシアヌスは手間が省けて良かったかも知れないわね。
ダゴベールさんの所も当主がアナトレーへ降りてるからリスクの分散は出来ているわ」
「リスクの分散?じゃあマエストロはっ!」
「そうね、ハミルトン家も既に避難しているから城に残ったマエストロは最悪自分が死ぬ事を覚悟しているかも知れないわ。ギルドの責任者がお城を捨てて地上に逃げるなんてあってはならない事なのよ」
「マエストロが死んじゃうの…?嫌、そんなの嫌。お母様、私マエストロの所に行く。私もマエストロのお手伝いする!」
「デル?」
「デルフィーネ?」

デルフィーネはそう言うと部屋を飛び出しマエストロのいる聖コントロールルームへ走り出した。
0065創る名無しに見る名無し垢版2014/12/17(水) 23:37:48.68ID:MFhQ5YbE
ダリウスがエグザイルを発見するまで その31


・グランドストリーム:ダリウスの潜水艇
「随分とノイズが酷いな。これではギルドとの通信も聴き取れん。そっちはどうだシカーダ」
「この距離でも立会船との通信にノイズが混じりますが会話に支障はありません。立会船がオドラデクを経由して通信をリレーする模様です。それまでは有線か発光信号を使うのが確実かと」
「ギルド城に匹敵するサイズの物体を浮かべるクラウディアの力場だ。生半可な出力では届かないだろう。だがこれ程の力場ならギルド城の方でもエグザイルの浮上の様子は見えているはずだ。
無線が通じなくてもオドラデクで直接手紙を届けにくるかも知れん。こちらも万一に備えて地上人のように通信筒を使っての連絡をする準備を整えておくか」
「いえ、その必要は無いようです。通信回復します」
『聞こえ…かダ…ス殿…カーダ…らの様子…』
「グラフ殿か?シカーダ、まだノイズが酷いぞ。もう少しクリアにできないか?」
「暫しお待ちください…周波数安定しました。こちらシカーダ。聞こえますか?どうぞ」
『聞こえますかダリウス殿。』
「こちらダリウス。通信感度良好です。私もシカーダも五体満足です。そちらの様子はどうですか?」
『ギルドでもエグザイルの浮上を確認しました。マエストロもデュシスの湖からサルベージされたその巨大物体を伝説のエグザイルであると確認しました』
「おおっ、マエストロ達もエグザイルの実在を認めてくれましたか!聞いたかシカーダ。私の長年の研究が遂に実を結んだぞ!」
「おめでとうございますダリウス様」
『それはともかくマエストロはギルド城全域に非常事態宣言を発令しました。エグザイルがギルド城に被害を及ぼした時を考慮して、新生児ら未成熟な者を優先にギルド城からブロック毎分離する準備をしてます。
ダリウス殿もエグザイルから離れて急ぎギルド城に帰還し、マエストロとプリンシパルと共に万一の事態に備えて下さい。シカーダはそのままエグザイル周辺空域でエグザイルの監視を継続しなさい。
良いですかなダリウス殿?』

シカーダは今はダリウスの助手としてダリウスの作業に付き合ってはいるが、本来は黒服のロリカ、灰色服のスクトゥムと同様にギルドの治安を維持する白服のアスピスである。
その為緊急時にはダリウスの指揮を離れてロリカであるグラフの指揮下に入る事が優先される。
0066創る名無しに見る名無し垢版2014/12/17(水) 23:41:13.05ID:MFhQ5YbE
ダリウスがエグザイルを発見するまで その32


「私が現場を離れてギルド城に?いや、エグザイルの事について今一番詳しいのは私だ。私はこのままエグザイルを監視し続けるとマエストロに伝えて下さい。
通信が途絶した場合の事を考えて、現場で適切な指示をできる人間は必要です」
「ダリウス様…このような状況で我儘を通すの如何な物かと」
「我儘などでは無い。本来ならばグラフ殿が現場で指揮を執るべきなのだろうが、グラフ殿がエグザイルを監視して私がマエストロの傍でアドバイスするよりは、
私が現場からエグザイルの状況を逐一報告しつつグラフ殿が状況に応じて城からマエストロと共に対応を指示する方が適切だ。
城の方でマエストロの手に負えないような出来事でも発生していたら話は別だが」
『マエストロは聖コントロールルームの制御で手一杯です』
「何?」
『エグザイルの浮上と同時に聖コントロールルームのモニター群が起動しました。今現在ギータがマエストロと共に聖コントロールルームの制御を試みています。
ダリウス殿。エグザイルを含め過去の遺物や遺跡については長年研究していたあなたの方が詳しいはずです。適任者は他にいません』
「聖コントロールルームが起動…。む、うーむ、しかしエグザイルの事があるし聖コントロールルームの方も調べてみたいし、ああっ、何故私の体は1つなのだ?!これでは手が足りないではないか!」

ダリウスが頭を抱え悩んでいると、その問題の聖コントロールルームからノイズの無いクリアな通信が入る。

『お父様?聞こえますかお父様?』
「む、その声はデルフィーネ?どうした。どこから通信している?」
『やりましたわマエストロ!古文書通りに操作すれば聖コントロールルームの制御は可能です』
「マエストロも一緒なのか?…そうか、つまりはそう言う事か!マエストロが聖コントロールルームの制御で四苦八苦している時に、
うちのデルフィーネが私の書斎から聖コントロールルームの操作方法を解読した古文書を持ってマエストロを助太刀するべく飛び出したと言う訳だな?そうなんだなデルフィーネ?!」
『こちら聖コントロールルーム。ギータ・ルジュナです。今し方エラクレア当主の仰られたように、
避難命令を無視したデルフィーネ嬢が古代の操作手順書と思われる古文書を持ち込み、聖コントロールルームに飛び込んできました。
今もデルフィーネ嬢とマエストロが聖コントロールルームの操作を試している最中です。
試行錯誤を繰り返しているようなので会話中の通信に割り込むような形になってしまったようです』
「グラフ殿の通信が切れたのはその為か。ならば話は早い。私が直通回線を通じて聖コントロールルームの操作方法をマエストロにアドバイスできる。
聞こえるかデルフィーネ?ちょっとマエストロと話をさせてくれないか」
『今代わった。ダリウス、お前の娘には助けられたぞ。早速だがこの古文書…いや手順書か。少々分からない箇所か幾つかあるのだが構わんかのう』
「分からない箇所と言うのは手順書の「中央(セントラル)コントロールルーム」と記されている箇所でしょうか?」
『話が早くて助かる。この書物には「聖(セント)コントロールルーム操作手順」とは書かれてなく「中央(セントラル)コントロールルーム操作手順」と記されている。
この書物の内容は本当にこの聖コントロールルームの物で合っているのであろうな?』
0067創る名無しに見る名無し垢版2014/12/17(水) 23:48:46.30ID:MFhQ5YbE
ダリウスがエグザイルを発見するまで その33


ギルドには各種機材の操作方法を記された聖典なる操作手順書が各家系や部署に大量に存在する。
ハミルトンにはハミルトンの、エラクレアにはエラクレアの、ダゴベールにはダゴベールの、
バシアヌスにはバシアヌスの聖典がありその内容は他の家系の者には意味が通じなかったり内容の大半が理解できない。
もし違う家系や部署の聖典を無理矢理実行すれば、それは蒸気機関の分解手順書を見ながら人間の手術をするような物で重大な事故を発生させる原因となる。
その為ギルドは聖典たる手順書の管理は厳格に行っており、表題が違えばそれは別の家系や部署の手順書となるので運用されないはずであった。

「聖(セント)コントロールルームと中央(セントラル)コントロールルームは同一の物です。話せば長くなりますが、
元々はセントラルコントロールルームが正式名称だったのが、長年の間に省略されてセントコントロールルームと呼ばれるようになったのです。
切っ掛けは500年前のギャラハッド騒乱を始めとするギルドの権威の失墜と、それに起因するバシアヌスのギルド改革や反乱を経て4大家系の権力抗争時代に突入し、
マエストロ・メビウスとツインDDによる100年体制。その2人に命じられた我が祖先デミアルコス・エラクレアが、
抗争の原因となる歴史を隠蔽するべく記した誤解を招くような記述の歴史書編纂と言った具合です。
地上人の認識に関しましても、後の時代に地上に降りた我が祖先のデヴィルとディアベルらが地上人に話した不完全なギルドの伝統を吹聴して、
地上からグランドストリームに戻ったダイダロスが地上人のギルドへの誤解をギルド人に広めてしまったのではないかと推測されます。
この事に関しては過去の当主のダズルやダミアンも日記で「初期のエラクレア当主の日記に記されている世界と現在の世界について違和感がある」
「過去の歴史書は嘘は記してなくても真実を記してるとは言い難い」と述べております。
ですがその手順書はデミアルコスが編纂した歴史書よりも前の時代…ギャラハッド騒乱よりも更に前の時代に書かれた物です。
マエストロ・メビウスを輩出したハミルトン家にも心当たりはあるのではないでしょうか?」
『メビウス・ハミルトンとDD・エラクレアが時代に合わせて聖典を書き換えたと言う伝説は理解している。その書き換えられた内容にこの聖コントロールルームも含まれていると言う事か?』
「私の考察が正しければ、500年前にエグザイルがデュシスに沈んだので、当時のギルドはエグザイルの存在しない世界に合わせて各種聖典を修正しようとしたのではないかと思われます。
チェスでもチェス盤の大きさが変わったり駒の数や動きが変われば、既存のルールに従った戦略は意味を成しません。
マエストロ・メビウスとツインDDが聖典の書き換えを命じたのは伝説にあるような悪意や私利私欲だけとは限らないと思われます。
エグザイルが復活した今となってはメビウス時代の書き換えられた聖典ではなく、書き換えられる前の聖典に目を通す事も必要かと思われます」
『ならばその言葉を信じるとしよう。デルフィーネ、聞いた通りだ。今からその手順書をギルドの正式な聖典と認める。
こことエグザイルの制御が回復するまでこの老い耄れに少々付き合って貰うぞ』
『はい!お手伝い致しますマエストロ』
『まずは途絶した通信を回復せねばならん。デルフィーネ、聖典の通信機器の項目を開いてくれ』
0069創る名無しに見る名無し垢版2014/12/31(水) 23:22:13.89ID:rB1Sb0zO
ダリウスがエグザイルを発見するまで その34


・ギルド城:聖コントロールルーム
通信機の向こう側でマエストロ・ジェームスとプリンシパル・デルフィーネが協力して聖コントロールルームの制御を次々を物にしていく。
暫くするとギルド全域にノイズの混じらないクリアな音声でマエストロの放送が届く。

「現マエストロのジェームス・ハミルトンである。エグザイル浮上によるトラブルで通信が途絶していたが、エラクレア協力の元にエグザイルと聖コントロールルームの制御に成功した。
エグザイルはこちらから攻撃しない限りは反撃してこない。ロリカ・グラフを始めとするスクトゥム、アスピスら全てのギルド護衛官はギルド城に帰還せよ。
エグザイルはグランドストリームを回遊するがギルド城には接触しない。以後別命あるまでエグザイル周辺空域には接近する事を禁ずる」

マエストロの放送が終わると、グラフからマエストロに向けて回線が繋がる。

『マエストロご無事でしたか。それと今の放送は…』
「すまんなグラフ。時間が惜しかったのでな。お前との通信を回復させるよりも先にこことエグザイルの制御を取り戻す事を優先させた。詳しい話はこちらでしよう。
城に戻ったらそのまま聖コントロールルームに来てくれ」
『承知しました。直ちにそちらに向かいます』

程無くして聖コントロールルームにグラフが入って来た。

「何と…これがあの静かだった聖コントロールルームなのですか?ギータからモニター群に光が入ったとは聞きましたがこれ程とは…」

以前のグラフの知っていた聖コントロールルームはモニター群は明かりが消えていて薄暗く静かで涼しげな場所だった。
だが今の聖コントロールルームはまるで地上人が年末の冬至の太陽の復活祭でやるような光の飾りつけもかくやと言う程の光の洪水の溢れる場所となっている。

「儂もまだ理解の及ばない所もあるからの。暫くはこのままにして操作に慣れたら不要な明かりやアイコンは閉じるつもりだ。それまでは聖典を片手に持ちながら操作の練習だ。
まさかこの歳になって書物を見ながら機械の操作をする事になるとは思ってもみなかったわ」
「大丈夫ですわマエストロ。私がお手伝いしますもん」

マエストロの横には作業を手伝っていたらしいデルフィーネが胸を張りながら立っていた。

「さて、それでは現時点で主なプリンシパル…ダゴベールとバシアヌスの当主が不在なのは残念ですが、主な者が集まった事ですし私の方から今回の一連の出来事について説明させて頂きます」

聖コントロールルームのど真ん中で自信満々な様子のダリウスが話し始める。

「まずは私が家の書庫で過去の当主達の日記を読んでいた時に」
「お父様、まずは現状の結果と結論から話すべきなんじゃないの?」

ダリウスが長話を始めようとした所をデルフィーネが注意する。
0070創る名無しに見る名無し垢版2014/12/31(水) 23:24:25.84ID:rB1Sb0zO
ダリウスがエグザイルを発見するまで その35


「ぐ…そうだな。ではまず現状の説明から。デュシスの湖から引き上げた伝説の巨大移民船エグザイル。
これが今回の件の発端となっていますが、肉眼で見ても分かるように現時点でギルドに攻撃も仕掛けてこなければ、プレステールを破壊するような行動も起こしてません。
伝説にあるような「エグザイルが起動するとこの世が終わる」と言った事態にはなっておりませんのでご安心を」
「質問しても宜しいでしょうか?プリンシパル・ダリウス」

プリンシパルの一人がダリウスに尋ねる。

「あの巨大物体がエグザイルとして、今後我々ギルド人やギルド城に危害を加えるような事は無いのですか?
当初このサルベージ計画ではエグザイルの防衛機構の触手がギルド戦艦をも切り裂くとの話があったようですが」
「ええ、エグザイルの防衛機構である触手は未だ健在です。ですがエグザイル本体に衝撃を加えなければその防衛機構は発動しません。
もし防衛機構が動いて触手が伸びても、触手の長さには限度がありますので、距離を取ってしまえば安全にエグザイルを見物できます。
この聖コントロールルームでエグザイルを監視しているので、エグザイルがグランドストリームを回遊してもギルド城にぶつかって攻撃を加えるような事はありません。
エグザイルが近づくようであればギルド城も自動でエグザイルから距離を取るように設定されています。
但し防衛機構が動いた場合、エグザイル自身がどのように攻撃対象を選んでいるかはまだ不明なので、今後調査を必要とします」

ダリウスが語り終えるとまた別のプリンシパルが質問を始める。

「エグザイルの存在は地上人にはどのように説明する予定でしょうか。特にグランドストリームを航行するデュシスから質問された場合はどう致しましょう」
「あー、地上人への対応については…マエストロ?」
「デュシスには『グランドストリームを漂う巨大物体には近づくな』と伝えておけば良かろう。ダリウスの話ではデュシスは元々エグザイルの存在を確信していた。エグザイルの音紋もデュシスの方が詳しかろう。
我々が話さなくてもエグザイルがデュシスの湖からグランドストリームに移動した事は気付くだろう。デュシスとて馬鹿では無い。グランドストリームを回遊する巨大物体が危険だと判断したら自力で回避できるはずだ。
問題はアナトレーの方だが…グラフ、お前はどう思う?」
「アナトレーでは現在地上人達の技術力でヴァンシップを使いグランドストリームを飛行する計画が存在します。ですがまだ未熟な段階なので、もしエグザイルに到達したとしても生きて帰れる見込みはありません。
エグザイルの存在に関してはダゴベールとバシアヌスの当主に伝えて、ギルドからアナトレー人にエグザイルの存在を伝えるのはアナトレー側の様子を見てからでも良いかと」
「私も同意見です。アナトレーに関しては彼らがグランドストリームを飛べるようになってから通達するのが適切かと」
「と言う意見が出たが他にこの件で他に意見は無いか?無いならばここで決を取る。アナトレーへエグザイルの存在を通達するのは彼らがグランドストリームを飛べるようになってからで良いか?」

マエストロがプリンシパルに決を取るよう促す。
プリンシパルが原始的な挙手で議決をするが、マエストロが宣言したのでこの決議は有効だ。
0071創る名無しに見る名無し垢版2014/12/31(水) 23:43:19.71ID:rB1Sb0zO
ダリウスがエグザイルを発見するまで その36


「ふむ、賛成多数で可決だな。さて、他に何か議題は無いか?無いのであればダリウス、説明を再開せよ」
「はっ、ではエグザイルについては今後調査を継続するので問題無し。デュシスの湖に関しても伝説にあるようなエアロックの機能を一部確認できました。
調査は継続しますが、伝説にあるようにあの湖がこの世界プレステールの果てである事は事実のように思えます。
今までこの世界が維持できてましたので、今後もあの湖の湖底の彼方から地獄だが災厄の地に残されたプレステールに移住出来なかった者が侵攻してくる可能性はまず無いとは思いますが、将来的には0ではありません。
が、心配した所で何も出来ないので外の世界にいる未知の存在については優先度は低く設定して良いと思われます」
「今までその冥界に住む者…ハデスでしたか?がこの世界に侵攻してこなかったのはエグザイルがエアロックに蓋をしていた為ではないでしょうか?」
「この古い聖典によると災厄の地に住む者の名前はアデスになっているが?」
「元の名称が長い年月の間に変化したのでしょう。名称はともかく、エグザイルがエアロックに蓋をしていたと言うのは有り得る話です。
エグザイルを沈めたのはアナトレーのギャラハッド王ですが、ギャラハッド王配下の刀匠ラドクリフはこの世を去った後に災厄の地からこの世に戻って来る事を当時のギルドが危惧したとの話も古文書に存在します。
エグザイルが蓋として機能していたから災厄の地の住民はプレステールに侵攻して来なかったのか、それとも蓋は関係なく災厄の地にはプレステールに侵攻する能力が無いのか…。
伝説通りなら元々この世界に移住する為の条件を揃えられなかったので、今災厄の地に住む者が存在したとしてもこの世界にやってくる事は考えなくても良いかと。
逆に我々が青き清浄なる地が辿り着けるかどうかの方が確率が高いかと思われます」
「プリンシパル・ダリウス、あなたはその災厄の地や清浄なる地は死後の世界ではなくて、生きたまま辿り着ける場所だとお考えなのですか?」
「ええ、過去の記録を見る限りでは生きたまま辿り着ける場所であると私は考えております。勿論距離がとんでもなく遠かったり、我々がそこに辿り着ける条件を満たせるかどうかは話が別ですが」
「…その条件とは?」
「エグザイル、ミュステリオン、清浄の地の受け入れ条件が整った時に産まれる巫女。この3つです。えー、この場にいるプリンシパルの中には4大家系でない者も含まれますが、ミュステリオンの話を少々宜しいですかな?」
「構わんダリウス。エグザイルの存在が証明された今、ミュステリオンの使い道も事実である可能性が出てきた。他のプリンシパルも知っておく方が良かろう」
「ではミュステリオンについて。4大家系に伝わるミュステリオンは巫女に対して使うとエグザイルが移民船として清浄の地にプレステールに存在する人間を運ぶ為の物です。
ミュステリオンの存在については4大家系しか知らない極秘事項である為、ミュステリオンがどのような物なのか知らない者もいるでしょうが厳然として存在します。権力抗争時代に作られたハッタリやブラフではありません。
が、ミュステリオンを受け継ぐ事が出来るのは4大家系の人間とそれに準ずる…大抵は信頼のおける人物か婚約者等に限られます。もしそうでない人間が不正な手段でミュステリオンを手に入れたら良くて死罪。
悪ければ若き刀匠ラドクリフのようにこの世から去って貰うか、古代のミナギス王族領民のように一族郎党関係者含めて支配地丸ごと塩漬けにされるケースも有り得ます。
くれぐれもミュステリオンについては軽々しい言動行動は慎んで頂きたい」
0072創る名無しに見る名無し垢版2014/12/31(水) 23:47:47.36ID:rB1Sb0zO
ダリウスがエグザイルを発見するまで その37


ダリウスの説明に4大家系出身ではないプリンシパル達の顔が強張るがダリウスは涼しい顔で説明を続ける。

「エグザイルはご覧の通り存在し、ミュステリオンも4大家系に伝わっていて、残る巫女なのですが…こればかりは私よりはハミルトン家の人間が詳しいと思われますので、マエストロに説明をお願いしたいのですが良いでしょうか?」
「良かろう。先のダリウスの話に出てきた清浄の地から我々の住むプレステールのギルド、アナトレーデュシスら地上人を含むプレステールの全生物の受け入れが整った時に我がハミルトンの家系に御子が生まれる。
その御子に4大家系のミュステリオンを使えばエグザイルが我々を載せて清浄の地へ我々を導く。我が家に伝わっているのはそのような話だ」
「その巫女が巫女である事を判別するにはミュステリオンを使えば普通の人間とは違う反応を示すと言う事ですか?」

プリンシパルの一人がマエストロに問う。

「…そうだ。伝承の通りならばな」

マエストロの声が沈む。
エグザイルとミュステリオンが存在する今、残るはハミルトン家で誕生するエグザイルの巫女だけなのだ。
しかしデュシスが寒冷化で滅亡に突き進んでる今でもハミルトン家にはそのような巫女は産まれていない。
ハミルトン家出身であるマエストロにプリンシパル達の視線が突き刺さる。
皆口には出さないが巫女が誕生していない事で伝承やハミルトンの家系に疑問を持っているのかも知れない。
「マエストロの家に巫女が誕生していなければ、それはまだ清浄の地が私達を受け入れる状態じゃないって事よ。
だったら巫女が生まれるまで待たずに私達の力でエグザイルを無理矢理動かしちゃえば良いのよ」
その場の空気を変えたのはエラクレア家のデルフィーネだった。
「お父様が古文書や古代の聖典を研究してエグザイルをサルベージ出来たんですもの。だったら大昔の伝説で私達の祖先がエグザイルやこの世界を作ったってのも本当なんでしょう?
巫女が生まれてない時代にエグザイルを動かしてプレステールを作ったんならその方法を探せば良いじゃない」
「鍵となる巫女無しにエグザイルを起動?」
「そんな事が可能だとしても聖典に記されている正規の起動手順を逸脱してしまうのでは?」

デルフィーネの提言に他のプリンシパルから疑問の声が上がる。しかしダリウスは何か思い当たる事があったのか、いつものように独り言を呟き始める。

「古代の聖典通りならばエグザイルを移民船として動かすには清浄の地からの信号が必要…だが、清浄の地へ行く事を前提としないプレステール内で動かす分には…。
待てよ、プレステールはエグザイルがコロニービルダーとして動いて30年近い年月をかけて作ったとの記述もあった。
と言う事は清浄の地へ行かない分にはエグザイルを動かす方法がある?いや、あったのか?ミュステリオンはその時の起動コードならば当時の巫女がハミルトンの始祖で…」
「お父様はエグザイルを起動させる為の方法に心当たりがあるのよ」
0073創る名無しに見る名無し垢版2014/12/31(水) 23:51:10.40ID:rB1Sb0zO
ダリウスがエグザイルを発見するまで その38


ダリウスの考察の様子をいつも見ているデルフィーネがダリウスの独り言を勝手に意訳する。

「待て待て。幾らなんでもデータが足りない。エグザイルはサルベージしたばかりだし、防衛機構がある事とデュシスの湖と連動している事位しか分かってないのだぞ?
幾ら私でも根拠も無いのにエグザイルを操れると断言する訳にはいかない」
「ダリウスよ。この場で断言はできなくても、幾つか可能性の高そうな案は無いのか?清浄の地まで行けとは言わぬ。だがデュシスとアナトレーの滅亡を先延ばしにできる位の事はできぬのか?」
「可能性の話であるならば幾らでも方法はありますが…その内幾つかは今現在このギルドや地上においてもルールを逸脱したり、名誉を傷つけるような物もありますが宜しいでしょうか?」
「構わん。マエストロの儂が許す。述べてみよ」
「では…エグザイル抜きでも出来る事でギルドの科学技術を地上人に提供し、グランドストリーム並の過酷な環境でも生存できるコロニーを形成する事。これは過去にも議題に上がった物なので説明は省略します。
次にギルドの権限を使ってデュシスのアナトレーへの移民をアナトレー側に認めさせる事。これはアナトレー側の反対が予想されます。
更に移民後にデュシスとアナトレーが接触する事でのトラブルはギルド・アナトレー・デュシスどの勢力でも増加する事が予想されます」
「その2点は既に予想済みだ。それ以外の、今回エグザイルが存在する事で明らかになった過去の伝承から実行できそうな案は無いのかと問うておるのだ」
「となりますと、プレステール創世神話でエグザイルがプレステールを建造した事ですが、エグザイルがプレステールを作ったのが事実であるならば、
エグザイルを解析する事でミニチュアサイズのプレステールを建造できる小型のエグザイルを作れる可能性はあります。
これは先程の話にあった地上人にギルド並のコロニーを作らせる案と大して変わりませんが、アナトレーに存在したギャラハッド王の話で、
ミナギスにギルドに匹敵するコロニーを形成しようとして失敗したとの伝説もありますので、もしかしたら500年近く前にアナトレーの方で似たような計画があったのかも知れません」
「アナトレーとなるとバシアヌス当主の管轄になりますな」
「アナトレーの情報を集めるにはマリウスの協力が必要か…。良かろう、ギルドの特権を使って当時の資料を集めさせよう。グランドストリームを飛ぶ地上人とも接触してアナトレーとのパイプを太くすれば何か有用な情報が手に入るかも知れん」
「それとそのギャラハッドの伝説に登場するプレステールに穴を開けた戦艦…クルエラだったかクリエラだったかそんな名前の船でしたが、
その船にもう一度プレステールの外壁に穴を開けて貰い、その穴からエグザイルを外に放出してコロニービルダーとしての機能を復活させる方法もあります。
これは危険性が高いので後回しにしたい所です。後はそのクルエラだかクリエラだかがアナトレーに作った複数のドックが今現在アナトレー貴族の所有するダム湖となってるとの話がありまして、
私は写真でしかそのダム湖を見た事がないのですが、どうも今回のデュシスの湖を覆う壁の形状と同じパターンで形成されているように見えます」
「どういう事だ?」
「500年前にギャラハッド王はエグザイルを解析して、デュシスの湖の小型版のエグザイルドック若しくはエアロックを作る所まで成功していたと云う事です。
ギャラハッド王の遺産を発掘してアナトレーの砂漠地帯にダム湖を大量に作り水を溜めれば、アナトレーにデュシスが移民しても水の奪い合いで起きるトラブルを減らす事は出来る物と思われます。
先程のプレステールに開けた穴の件も含めて考えれば、500年前の時点でギャラハッド王は自力でエグザイルを作ってプレステールの外に出て清浄の地を目指す事も技術的には可能だったのではないかと」
「またしてもギャラハッドか…」
「何にせよアナトレーやバシアヌスからの情報提供が必要ですな」
0074創る名無しに見る名無し垢版2015/01/01(木) 00:08:53.45ID:JMB1NSgS
ダリウスがエグザイルを発見するまで その39


プリンシパル達の間でアナトレーにいるバシアヌスの重要性が高まってきた所でマエストロが纏める。

「バシアヌスもアナトレーもエグザイルが存在する情報を掴めば違う動きを見せるだろう。もしエグザイルを手中にしてギルドに刃向うと言うのであれば、
それを口実にギルドの戦力を持ってアナトレーを懲罰しギャラハッド時代の資料を接収する事もできる。
だがまずはマリウスにエグザイルの事を話し、様子を見てからでも遅くは無いと儂は思う」
「ではここで決を取りましょう。バシアヌスとアナトレーへの対処はエグザイルの存在を知らせた後にする。この案に賛成の者は挙手をお願いします」
「異議なし」
「異議なし」
「まあそれ位の時間的猶予を与えるのであれば問題はないでしょう」
「では賛成多数で可決と…。他に議題は無いですかな?」
「後は時間を置いてエグザイルの情報やアナトレーの動向を見てからと言った所でしょう。マエストロ、今回の緊急議会はこれで良いと思われますが如何しますか?」
「うむ、儂からも特にない。皆の者、この度は良く集まってくれた礼を言う。暫くは混乱で忙しくなるだろうが、今日はゆっくり休んでくれ。これにて今回の議会を終了する」

マエストロが議会の終了を宣言すると、聖コントロールルームに臨時に集まったプリンシパル達は立ち上がり部屋を出ていく。
ダリウスと会議を傍聴していたシカーダは眠ってしまったデルフィーネを背負って自宅へ向かって歩き始める。

「エグザイルの解析にアナトレーの情報収集か。これから忙しくなりそうだ」
「ダリウス様は楽しそうですね」
「そう言うシカーダは楽しく無さそうだな。当てて見せようか?ズバリ、暴れられなくてストレスを発散できなくてイライラしている!
エグザイルが浮上してこれから世界が終わるかどうかの混乱が始まるかも知れないとワクワクしていたのに、
護衛官が派手に動く事もなく聖コントロールルームでエグザイルが制御されて全力で空振りして振り上げた拳をどこに振り落して良いか分からない。と言った所か」
「…」
「図星か。まあ心配しなくても物事が何事も無く上手く行くなんて事にはならんよ。トラブルを回避しようと努力してもこのご時世だ。いつか必ずどこかで血生臭い事が起きる。
トラブルにならないように努力しつつ、トラブルが起きた時の対策を怠らない事も重要だぞ。だからシカーダ、お前のそのイライラした感情はその時まで心の奥にしまって置きなさい。
そしていざと言う時にその感情を爆発させるんだ。心配しなくても将来バシアヌスの息のかかった地上人の対ギルド人部隊と戦わなきゃならない事態はきっとあるさ」
「ダリウス様の物言いですと、バシアヌスとの衝突を楽しみにしろと言っているように聞こえますが、プリンシパルがそんな事で良いのでしょうか」
「はっはっは。悩んでも仕方ない事なら、その時が起きる事を前提にして人生を楽しむのも一つの生き方さ。
私も世界が滅亡する事態が避けられないと分かれば残りの人生を滅亡を受け入れる事前提で楽しく生きる事をきめるさ」
0075創る名無しに見る名無し垢版2015/01/01(木) 00:10:15.25ID:JMB1NSgS
ダリウスがエグザイルを発見するまで その40


・アナトレー
数日後、アナトレーでギルドからの報告を聞いたレシウスとマリウスはチェスをしながら今後の事について話し合う。

「エグザイルが存在が確認されたと報告が来たがマリウス、お前さんはどうする?」
「レシウス殿。エグザイルが存在が確認された所でデュシスもアナトレーも厳しい状況は変わっていません。私は今まで通りデュシスとの和睦をアナトレーに進言し続けるつもりです。
ギルドがエグザイルを権威を保つ為の道具として使うのであれば、500年前に我が祖先のラドクリフがやったように腐敗したギルドとエグザイルを破壊するまでです」
「マエストロはお前さんの技術供与を今は大目に見ているが、火遊びは程々にな。自分が主導権を握っていると思ったら思わぬ所から突かれるぞ。そらお前のクイーンが射程範囲内だ」
「な、いつの間に?」

エグザイルの情報がマリウスに伝えられていてもマリウスは別段変わった反応を見せなかった。
だが王宮内部では500年前のギャラハッドの遺産を復活させようとする考える勢力が動き始めていた。

「陛下。マリウス殿の報告から、ギルドは伝説のエグザイルを手中に収めたとの事です」
「エグザイルを低下したギルドの威信を復活させる為に使うか、それともこの異常気象を解決させる為に使うのか…。
もし前者であれば我がアナトレーはギャラハッド王がしたように、刺し違える覚悟でギルドに一矢報いる事も考えなければならん。
ヴィテリウス。500年前のギャラハッド王がどのようにしてギルドと戦ったのか調査せよ。だがギルドに気取られてはならん」
「畏まりました陛下」

アナトレーは表向きはギルドに反逆しないように見せながら注意深く対ギルドへの戦力を増強し始める。
この後、500年前のギャラハッド騒乱に使われたスコロペンドラ砲の設計図が某貴族の館から発見された事で、アナトレーの対ギルドの戦略は荒唐無稽ではなく現実的な計画として歩みを始めるが、それはまだ少し先の話である。


終わり
0076創る名無しに見る名無し垢版2015/01/29(木) 21:42:19.42ID:trDyCfKO
マドセインの引退 その1

時系列:1期と2期の間で砂時計の旅人の後
・ノルキア
ギルド城の残骸が落ちて今では居住する者も少なくなったアナトレーの最下層都市ノルキアを統治するマドセインは頭を悩ませていた。

「旦那様。今期の人口調査と税収のリストになります」

マドセイン家の執事ワースリーがノルキア領主のデーヴィット・マドセインに調査リストを渡す。

「戦が終わったとは言えすぐには復興は進まないとは思っていたが、ここまで酷くなるとは」

マドセインは頭を痛める。
リストにはノルキアの人口統計や各家庭からの税収が纏められている。
デュシスと戦争していた時代は気象異常による旱魃で税収が酷かったが、今では気象異常は解決している。
だがノルキアには他の復興した地域と違って墜落したギルド城の残骸が地面に突き刺さっている。
残骸による衝撃でノルキア全土に大規模な被害があり、戦後も残骸の引抜きは進んでいない。
ギルドとの戦争によってアナトレーデュシス連合王国は一時的にギルドの力を制限する事を決定。
具体的にはギルドの所有するクラウディアユニットを地上人の政府であるアナトレーデュシス連合王国の許可無しには使えないようにしてしまった。
そのせいでギルドの反撃を恐れる事は少なくなったが、ギルド城を修復したいギルドの残党は城の残骸を引き上げられずにいる訳だ。
それとは別に被災したノルキアに住み続けるよりも、伝説のエグザイルを使って青き星に移住したいとの被災者の希望が多かったので、
アナトレー皇帝ソフィアはノルキアの住民を優先的に母なる青い星の入植地に移住する事を許可した。
その影響で今のノルキアは人が少なくなり復興もままならない廃墟となっている。

「民のいない国の領主とはまるでお伽噺のギャラハッド王だな」

ギャラハッドとは500年前のミナギスにいた地方領主である。配下に刀匠ラドクリフを初めとする優秀な人材を揃えミナギスを繁栄させたが、
慢心によりギルドの覇権を手にしようとしてギルドに返り討ちにされ、ギルドの懲罰によりミナギスには塩が撒かれて不毛の砂漠になったと云う良くあるお伽噺だ。
アナトレーがギルドに勝利した今となっては愚かな地方領主との評価よりも、ギルドに抵抗する先進的な知見を持った賢王とする見方も出てきた。
だが目の前にギルドの城の残骸が突き刺さった廃墟の都市を収めるマドセイン本人としては笑ってられない状況である。

「奥様はギルドの方の助力をもっと受け入れてはどうかと仰っていますが…」
「む…」

ギルド城がノルキアに落ちてきた時に、邸宅を改造した野戦病院に気を失ったギルド人が運び込まれてきた事があった。
その時マドセイン本人は自分の艦に乗ってノルキアを離れていたが、妻と娘のホリーが負傷者にアナトレー人もデュシス人もギルド人も関係ないとの立場を表明し、兵士達とは別の場所でそのギルド人を介抱したようだ。
結局そのギルド人は病院のヴァンシップを奪って脱走したのだが、戦争終了後にその介抱したギルド人の仲間達から礼を言われ、ノルキアの復興にも協力すると打診された経緯がある。
だがそのギルドとの関係でマドセインはアナトレーの貴族達から白い目で見られていた。
0077創る名無しに見る名無し垢版2015/01/29(木) 21:47:12.62ID:trDyCfKO
マドセインの引退 その2


・アナトレー王宮
「副長。無線から傍受した貴族艦からの話を分類して纏めたリストです」
「すまないわねウィナ。あなたにこのような仕事をさせてしまって」
「いえ…」

ギルドとの戦争末期にクラウディア機関を用いた無線での通信法が広まった事でアナトレーとデュシスはギルドに勝利する事ができた。
しかし今ではヴァンシップ組合の仕事を奪わないとの名目で無線での通信は一般には解放されていない。
終戦直後は「何故マリウス宰相はこの通信技術を我々に教えてくれなかったのだ」「シルヴァーナにいたギルド人も何故無線技術を秘密にしていたのか」
「先の戦争で味方したと言うギルド人もまだ我々に何か隠し事をしてるのではないか」との疑惑が持ち上がり、ソフィアがその疑惑を否定してもアナトレー貴族の間に広まったギルドに対する不信感を払拭させる事はできなかった。
その為現段階では聴音員のウィナに貴族間の無線を傍受してもらう事で、どの貴族が反ギルドの感情を持っているか洗い出している最中である。

リストを捲るソフィアが呟く
「ヴィンスからも話を聞いたけど、やっぱりマドセイン公に対する不信感が多いわね…」

ソフィアはマドセイン公の人柄や、戦争中に自腹で有志のヴァンシップ乗りを募り、即席のヴァンシップ隊を作り上げた業績等彼の此度の戦争の功績は良く知ってる。
だがウィナから渡された貴族達のマドセインに対する噂にはマドセインがギルドと組んでギャラハッド王のようにプレステール全土を支配する野心家であるとか、マドセイン公がヴァンシップを率いてシルヴァーナを倒そうとしている等の悪い噂が多く見られる。
ソフィアは情報を分析する。
何故貴族達はマドセインを目の敵にするのか?結果論だけで言うならばそれは嫉妬だ。
ギルドとの戦争では貴族艦の砲撃はギルド戦艦には有効打を与えられずにエグザイルの触手を破壊する位の事しかできなかった(勿論触手を撃破するだけでも味方の被害を少なくできたので、ソフィア自身は貴族艦の働きを良く理解している)
だがギルド戦艦を沈めたのはヴァンシップを駆るヴァンシップ乗り達であって、貴族はそのヴァンシップ乗りを戦艦に載せて運んでいただけど認識している。
本来なら貴族は自分が戦場に赴く事で平民を戦災から守るといった騎士道精神で騎士を名乗っている。
だがギルドとの戦争で役に立たのは平民であって貴族ではない。
騎士道精神を掲げていた貴族達は振り上げた拳を敵に当てる事が出来ずに横から殴りつけてきた平民に手柄を横取りされたと思っている。
その為ヴァンシップ乗りに対して良からぬ感情を持っている。
だが戦績で言えばギルド戦艦を撃沈した功労者であるヴァンシップ乗りに正面切って批判するような事はしない。
だから平民のヴァンシップ部隊を作り上げたマドセインに矛先が向くのだ。
0078創る名無しに見る名無し垢版2015/01/29(木) 21:52:24.79ID:trDyCfKO
マドセインの引退 その3


それとマドセインがギルドと組んでると言う話の根拠は全く根も葉もないという訳ではない。
マドセイン邸で負傷者を救助していたマドセイン夫人らが介抱したギルド人とはディーオなのだ。
ディーオ・エラクレア。
ギルドの独裁者であったマエストロ・デルフィーネの実弟。
クラウス達と一緒にギルド城から脱出したディーオを偶然マドセイン夫人が介抱して、戦後にディーオの素性がどこかから漏れてマドセイン公がギルドと組んだとの噂に発展したのだろうとソフィアは推測する。
ソフィアはシルヴァーナに乗っていた時にディーオの様子を観察する事で、ディーオが根は悪くない人間だと知っている。
だがディーオを直接知らないアナトレーの大衆からしたら、異常気象を放置したギルドの独裁者の身内で、地上人が苦しい思いをしていた時に空で贅沢を謳歌していた腐った権力者の一味と映るだろう。
マエストロが異常気象を放置していたとしてもディーオにその罪は無い。
レシウス機関長の話でもディーオは異常気象の事については知らされていなかったとの事なので、ディーオからすれば姉の仕事の責任のとばっちりを受けていると言う訳だ。
ディーオは今クラウスやタチアナ達と一緒に母なる星に移住している。
プレステールのアナトレーで息巻いてる貴族達の手がディーオに伸びて危害を加えるような事はまだ無いだろう。
だが一部の過激派が母なる星に赴きディーオと接触しようとすれば、同じギルド人であるアルヴィスの存在にも気付くだろう。
戦争が終わった今でもエグザイルの鍵であるアルヴィスの素性は極秘扱いで、アルヴィスの重要性を知っている者はシルヴァーナ乗組員とその他極一部の人間に限られる。
もしアルヴィスがエグザイルの鍵である事が知られれば、彼女を巡ってまた血生臭い戦闘が起きる事は想像に難くない。
母なる星にいる彼女達に手が及ぶ前にプレステール内部でこの不穏な動きを処理しなくてはならない。

「ギルドがこちらの話を聞いてくれれば良いのだけど」

ソフィアは一人そう呟いた。
0079創る名無しに見る名無し垢版2015/01/29(木) 21:57:36.47ID:trDyCfKO
マドセインの引退 その4


・グランドストリーム:ギルド城
戦争に負けてもギルド人の生活は左程変わらない。
今まで独裁者であるマエストロ・デルフィーネの元で機嫌を損ねたら即死亡の恐怖と共に10年もの間生きてきたギルド人の間では、地上人に負けた所で自分達を管理する者が変わった程度の扱いでしかない。
マエストロ・デルフィーネ以前の治世を知る老いた世代のギルド人はその殆どが死んだかギルドを離れたか洗脳されて意識を消されている。
今ギルド城にいるギルド人で誓約の印に意識を縛られていない者はディーオの世代とそれより下の幼い世代だけだ。

「コキネラ。アナトレーの皇帝が会見を希望しているがどうする」
「僕達は負けたのだから選択肢は存在しないよアピス。会見に応じよう。問題は僕達を監視している地上人の兵士がそれを許してくれるかどうかだけどね」

デルフィーネが死に、ディーオもプレステールにいない今、戦時を知るギルド人のトップはコキネラとアピスの2人だけだった。
デルフィーネの命令でシルヴァーナを制圧した事から顔も知られており、シルヴァーナがギルド人部隊に全く歯が立たなかった事からアナトレー政府もこの2人を警戒している。
コキネラが会見に応じる旨を見張りの兵士に伝えた所、兵士は2人が暴れた時に備えて人を呼び、監視部屋の扉を開けた。

「準備ができた。2人とも出ろ」

兵士が扉を開けると、扉の前にはコキネラ達と同じギルドの衣装に身を包んだ母なる星出身のギルド人がいた。

「いつも出迎え痛み入りますツイン・ウロクテア」
「これがこちらのルールなのだから仕方ない。いつもの事ながら手枷をつけさせて貰うぞ」

ウロクテアと呼ばれたギルド人はコキネラ達に手枷を嵌める。
コキネラ達の技術を使えばこの程度の手枷を外す事は造作も無い事だが、それだと地上人が怯えて発砲してくるので地上人を安心させる為に彼らなりの自衛策に付き合っているだけだ。

「まだ地上人は俺達を信じてないようだなコキネラ」
「仕方ないよアピス。皇帝ソフィアは自分の父親から暗殺者を仕向けられたんだ。身内に命を狙われるような経験したら他人を簡単に信じるようにはならないさ」

暗殺者の件を言葉にした所で、地上人の兵士の肩がびくんと震える。
この兵士が先程の話に出てきた先代皇帝の命令でソフィアを殺そうとしたノックスと言う名の近衛兵なのはコキネラ達も知っていた。
彼は皇帝ソフィアに刃を向けた罪を償う為に、ギルド人のマエストロ親衛隊であったコキネラ達に怯えながらも与えられた命令を果たそうと精一杯振る舞っているのだろう。
元よりコキネラ達には地上人をどうにかしようとか思ってる訳ではないのでそんな事は杞憂なのだが、先の戦争で起きた様々な事情を知る者からしたらコキネラ達ギルド人は油断ならない相手なのだろう。
それは母なる星で対峙した起源のギルドとの戦闘を知る者の方がギルド人の力を良く知っているからかも知れない。

「あなたは地上人から信用されているようですが、どのような振る舞いをして地上人の信頼を得たのですか?ツイン・ウロクテア」
「我々は特に何もしていない。お前たち砂時計の同胞と違う点を挙げるなら、大地の巫女様が地上人との間を取り成してくれた事か」

ツイン・ウロクテアはプレステールではなく母なる星で生まれ育ったギルド人である。
アナトレーが母なる星の土地に入植した時に帰還シークエンスの手違いから入植者と衝突を起こし、流血沙汰にはなったがアルヴィス・ハミルトンと2人のヴァンシップ乗りが仲立ちをした結果アナトレー軍との深刻な戦争を回避する事ができた。
今では入植者はギルドの管理を必要としないとの意思を表明し、正式な帰還シークエンスとプロトコル等の手続きを経た上でプレステールの4大家系から正式に任務終了を宣言されたので、
ツイン・ウロクテアら起源のギルドは自分の意思でプレステールにやってきて、プレステールギルドの残党であるコキネラ達と地上人との仲介役緩衝役を務める事になった。
0080創る名無しに見る名無し垢版2015/01/29(木) 22:03:46.35ID:trDyCfKO
マドセインの引退 その5


「俺達が今の待遇であるのはアルヴィス…様がシルヴァーナ制圧の件でまだ俺達を許してないと云う事か」
「仕方ないよアピス。それ以前にルカヌスがオドラデクでアルヴィス様を捕まえようとしてたし、その後の襲撃でも僕達に不信感を持つのは自然な事だよ。マエストロの命令だからと言われても命を狙われた本人からしたらそんなの関係ないだろうし」

コキネラはノックスの様子を伺うが先程と比べると見た目で分かる程の反応は示さなかった。

(アナトレーの皇帝が僕達をどうするつもりか知らないけど、マエストロと同じような扱いをするならこちらとしても今から使えそうな手駒を作って不信感を植え付ける事はしておいた方が良いよね)

コキネラが内心そう思った事を感じ取ったのかウロクテアがコキネラを見る。

「それでか。私が巫女様をお迎えに上がった時にオドラデクを見て悲鳴を上げていたが、お前達が砂時計で巫女様にした行いが原因でオドラデクに良い印象を持ってないようだ」
「俺達はただ与えられた任務を実行しようとしただけだ。それに結果だけ見ればアルヴィス様にミュステリオンを使って気象制御装置の異常が治ったのだから、
アルヴィス様を捕獲しようと追い掛け回してシルヴァーナの艦長に倒されたルカヌスの行動も間違っていない」
「アルヴィス様が赤ん坊の時に4大家系を召喚しようとしたマエストロの判断もね」

アピスとコキネラはウロクテアに対して自分達の行動は間違っていなかったと主張する。

「お前達も色々と苦労はしたのだろうが、そのように主張するのであれば地上人の前で言うべきだろう。まずは話し合いからだ」

コキネラとアピスを連れたウロクテアは地上人達の待つ部屋に通された。
部屋の中には皇帝ソフィア、母なる星から来たツイン・アラネア、アナトレー軍の重鎮ヴィンセント・アルツァイ、デュシスの司令のネストル・メッシーナ、それとノルキアの領主のデーヴィッド・マドセインがいた。

「ギルドの諸君、良く来てくれた。まずは椅子に座ってコーヒーでも飲んでくれ給え」

ソフィアの横でヴィンセントがカップにコーヒーを注ぎ始める。
恐らくはコキネラ達がソフィアに何かしようとした時の為にソフィアを守る為に横にいるのだろう。
テーブルが円形なのは身分や立場の違いを問わずに話そうとする意図があるのかも知れない。

「ご機嫌麗しゅう御座います。アナトレー皇帝ソフィア殿下」

コキネラはソフィアに向けて頭を下げる。
内心どう思っていようと今は皇帝ソフィアがプレステールの支配者なのだ。
下手に機嫌を損ねたら自分だけでなくまだ成人してない幼いギルド人まで被害が及ぶかも知れない。
相手は自分の乗っていた戦艦の上司であるアレックスをマエストロ諸共殺した女だ。
過去の情報で相手の素性は知れていても内心ではどう思ってるのか分からない。
用心するに越した事はないとコキネラは判断した。

「元マエストロ親衛隊、アスピスのアピスだ。コキネラ同様今ではギルドのトップが俺達と言う事になっている。それで何の用だ地上人の王」

コキネラの横ではアピスがズケズケとした態度でソフィアに尋ねる。
アピスの態度は褒められた物ではないが、二人一組で相手と交渉する時は片方が攻撃役でもう片方が宥め役を演じて交渉するのは良くある手段だ。
アピスが強硬な態度でコキネラが穏便な態度の役割分担で現プレステールの支配者に対応しようと言う訳だ。

「それは俺から説明させてもらう。コーヒーを飲みながら聞いてくれ」

コーヒーカップ片手にヴィンセントが説明を始める。

「君達ギルド人も感づいてるとは思うが…アナトレーでマドセイン殿の立場があまり宜しくない」
「ディーオ様を助けた件で同じ地上人にあらぬ疑いをかけられている話か」
「その通りだ。話が速くて助かる。それでこちらのマドセイン公やネストル司令と相談した結果、君達にマドセイン殿を暗殺して貰ってはどうかと言う話になった」
「なんだと?」
「本当に殺す訳じゃない。あくまで演技だ。アナトレーに不満を持つギルド残党がマドセイン殿を暗殺して、死んだ事になったマドセイン殿はノルキアとは別の場所で余生を過ごして貰う。
暗殺者役のギルドも軍に返り討ちにされて死んだ事にして、マドセイン殿と同様に別の場所で余生を過ごす。マドセイン殿は貴族連中を気にしなくて良くなるし、
ギルドやマドセイン殿の率いるヴァンシップ部隊を恐れている貴族連中も脅威が無くなって大人しくなると言う訳だ。大雑把な説明だがこれで内容を理解してくれたと思う」
「何故そのような茶番をしなければならないのだ」
0081創る名無しに見る名無し垢版2015/01/29(木) 22:08:58.91ID:trDyCfKO
マドセインの引退 その6


ヴィンセントの説明にアピスが噛みつく。

「そんな事しなくてアナトレーならば皇帝の権力や威光を使えば貴族も大人しくなるだろ。俺達ギルドは負けて賊軍扱いだから今更地上人に悪者扱いされた所で何ともないが、それで母なる星に行ったギルド人達はどうなる?
もしディーオ様にアナトレーの過激派の矛先が向いて拘束されるような事があれば」
「僕達は死んだルシオラに顔向けできなくなる」

コキネラの目がソフィアを見据える。

「この場にネストル殿とマドセイン殿がいると言う事は既にお二人の了承は得ている物と見受けられます。ですが、お二人ともそのような偽装工作には何の疑問も持たないのですか?」
「アナトレーの政治形態はデュシスとは違う。アナトレーがそれがベストな解決策と考えるのであればデュシスは反対しない」

ネストルが答える。
アナトレーと連合したデュシスではあるが、政治体制以外にも習慣や文化、気候等の違いからお互いを完全に理解するまでには至っていない。

「私の領民は殆ど母なる星に移住した。領民が無事に暮らせるのであればノルキアを預かる領主としても喜ばしい事だ。だが正直な所を言うと、私の家族や私についてきてくれた人間に危険が及ぶのは避けたい」
「マドセイン夫人はディーオ様を救っていただいた恩がある。俺達で良ければマドセイン殿の身内に危害を加えようとする輩を実力で排除できるが」

マドセインに対しアピスが物騒な解決手段を提案する。

「その申し出は有り難いが遠慮しよう。此度の戦争で地上人もギルド人も大量の血が流れた。君達ギルド人が地上人を殺せば国内の強硬派が勢いづくかも知れない。私としてもソフィア様としてもそれは避けたいのだ」
「そう言う訳だ。こちらの茶番に付き合ってくれるのであれば悪いようにはしない。どうだ。ここは一つ地上人の茶番で道化役を務めてくれないか?そうしてくれればこちらも助かるのだが」
「そちらの内情は理解しました。ですが茶番に付き合うとしてもその茶番を地上の民衆が信じますかね?僕達はルシオラの手引きがあったとは言えシルヴァーナを無血で制圧したのです。
皆殺しよりも難易度の高い制圧をした僕達が地上人に返り討ちにされると言うのは無理があり過ぎます。その点を民衆が受け入れられますかね?」
「ああ、その点は大丈夫だ。国民の大半は君達の強さを把握している訳じゃない」
「「は?」」

ヴィンセントの発言にコキネラとアピスがあっけに取られる。
ソフィアが2人に説明を始める。

「あなた達の強さは私を含むシルヴァーナの乗組員に限られます。ですが戦艦のクラウディアユニットを制圧した銃兵達からすればあなた達ギルド人は決して倒せない相手ではないとの意見が主流となっています。
アナトレーデュシス連合王国政府としてもこの意見を否定するような事はしていません」

ソフィアの説明にアピスが反論する。

「お前達…敵の戦力を把握しておきながら末端にその事を周知してないのか!?それで良く組織のトップが勤まるな」
「アピス落ち着いて」
「落ち着いていられるかコキネラ!俺達どんな思いでマエストロの恐怖支配を崩す為に仲間達を犠牲にしてきたか…ルシオラをも犠牲にしたんだぞ?ルシオラだけじゃない。
スクトゥムになったエフェメラだってアスピス時代はスクトゥムとアスピスの俺達の間に中間管理職として板挟みになりながらも俺達をマエストロから守ってくれていた。
それがあっと言う間にアスピスの俺達だけだ。あれだけ犠牲を払ってマエストロが倒れたのに、この地上人は末端に敵の戦力を知らせずに盾にしようとしてるんだぞ!?こいつも所詮マエストロと同じ自分の事しか考えてない独裁者だ!」

そう言うとアピスは椅子から飛び上がりソフィア目掛けて突っ込んでいく。
独裁者をのさばらせる位なら今ここで殺しておこうとの決意だ。
だがアピスの手はソフィアには届かない。
起源のギルドのツインがアピスを取り押さえたからだ。

「離せウロクテア!この女は危険だ。生かしておくとこの世界を滅ぼすぞ!」
「落ち着くのだ砂時計の同胞よ。これは茶番だ。お前達の真意を引き出す為のな」
「何?茶番?」

ウロクテアに押さえつけられているアピスに傍らに控えていたツイン・アラネアが語り掛ける。
0082創る名無しに見る名無し垢版2015/01/29(木) 22:19:31.54ID:trDyCfKO
マドセインの引退 その7


「私とウロクテアは砂時計の事情に詳しくない。その為此度の会合に中立な立場の立会人としての参加を要請された。アピスよ、お前達が地上人に不信感を持っているように地上人もまたお前達に不信感を持っている。
母なる星で我らと戦火を交えたオットー・フリートラント艦長も当初は我々を砂時計のギルドの残党等と評していた。地上人の間にはお前達がいつかマエストロ・デルフィーネの敵討ちをするのではないかと思っているらしい」
「僕達がギルドでどのような生活をしていたか知らない人には僕達が今でもマエストロの命令を忠実に実行する忠臣にでも見えてるのですかね?」
「うむ。お前達や私達の額に刻まれている誓約の印の効力を地上人の大半は知らない。それ故に主が生きている時の命を呈してでも主を守ろうとする姿勢を死後も有効だと思っているようだ」
「皇帝ソフィアはシルヴァーナにいたダゴベールやルシオラから誓約の印の事を聞いていなかったのか?」
「話には聞いていても実際に確認できるまでは信じないと言う事だ。だがお前の今の発言で砂時計のマエストロの束縛は効力を発揮していない事は証明された。ウロクテア、アピスを放してやれ」

アピスを押さえつけていたウロクテアが腕を放してもアピスはもうソフィアに飛びかかろうとしなかった。

「茶番…茶番か…つまりは何か?お前達ツインも地上人とグルになって俺達をからかって反応を見ていたとそう言う事なのか?」
「単純に言えばその通りだ砂時計の同胞よ」

ウロクテアにあっさり答えられてアピスの力が抜ける。

「これが茶番と言う事は先程僕達に話したマドセイン殿の暗殺を偽装する話も例え話なのですか?皇帝ソフィア」

コキネラに聞かれてソフィアは皇帝らしく毅然とした態度で声を出す。
黙っていたのは命の危険を感じて怯えて声が出なかったからではないかとコキネラは推測した。
シルヴァーナの副長として何度も戦を経験していても直接刃や敵意を向けられれば腰は引ける物らしい。
だがアピスが飛びかかろうとした時にソフィアを守るように飛び出たノックスの目は、死を覚悟していながらもしっかりをアピスを見据えている。
0083創る名無しに見る名無し垢版2015/01/29(木) 22:26:33.43ID:trDyCfKO
マドセインの引退 その8


「いいえ。マドセイン公の死を偽装するのもあなた達に悪役になってもらうと言う話は本当です」
「ならば皇帝の口から何故この計画を実行しようとしたのか、そのお考えを聞かせてはくれないでしょうか」
「アスピスのコキネラ。いえ、プリンシパル・コキネラ。あなたが今のギルドの残存勢力の実質的な指導者だと認定して私の判断を話します。宜しいですか?」
「はい。僕はマエストロではありませんが、僕達が声をかければ協力してくれるギルド人はまだ存在します」
「では…先程ヴィンセントからの説明にあったように、先の戦争で活躍できなかった貴族や軍人が功を示そうと振り上げた拳を下ろす場所を探しています。
ですが今の私にそれを抑える力はまだありません。貴族達には一度拳を振り下ろす場…巨大な敵を与え、それを粉砕したら私はその功を認めるつもりです。
そうすれば貴族も自尊心を満足させるでしょう。それまでの間あなた達にはマドセイン司令の身の安全を守る為の時間稼ぎとなって貰うのが最も犠牲が少ないと判断しました」
「巨大な敵とは?」
「母なる星にはアデス連邦と言う帰還民排除を是とする国があります。まだ情報を収集している最中ですが、アデス連邦の軍事力は巨大で数千隻もの戦艦を有しているようです。
このままアデスの戦線が拡大すれば我がアナトレーもいずれはアデスと接触します。ですが母なる星に帰還したばかりの我々が彼らに受け入れられるとは到底思えません。
戦争を回避できなくても初戦でこちらの力を見せつけて講和に持ち込めれば私はそれが最善だと判断しました」
「賢明な判断です。それともう一つ。マドセイン殿の死を偽装しても後々マドセイン殿の力が必要になった時はどうしますか?死んだ人間がいきなり復活した場合、茶番劇を演じた役者は皆非難を浴びるでしょう」
「私が死んでも後任のグレール・ダンマルクなら実務に関しては私より遥かに有能だ。これからは私のような古いタイプの軍人よりも彼のような実務能力に長けた者が必要となるだろう。
私の力を必要とするような事態にはならないと思うが」
「もし死んだ人間の力が必要となったならばギルドの超科学で生き返らせたと説明します」
「…そのような説明で民衆が納得しますか?」
「地上人の大多数はギルドの事情に詳しくありませんし、最近までギルドを何でもできる全能神だと思っていた人も珍しくありません。原理が分からない不可解な技術や現象でもギルド由来の物だと説明すれば民衆は納得します」
「地上人は俺達を何だと思っているんだ。コキネラ、こんな適当な計画に乗って良いのか?」
「僕達を神様だと思ってくれているならばまだ地上人のギルドに対する信頼は残っていると解釈しようじゃないかアピス。分かりました皇帝ソフィア。
僕達のできる範囲でマドセイン殿の暗殺偽装工作に協力します。計画に細部については後日打ち合わせると言う事で宜しいですか?」
「ええ、打ち合わせについてはクラウディアを使った通信だと傍受の危険性があるので、直接対談か通信筒を使う事になりますが構いませんか?」
「では次回の会合場所はグランドストリーム、そちらのシルヴァーナの会議室でお願いします」
「分かりました。手配しておきましょう」

こうしてギルド人とアナトレー上層部によるマドセイン暗殺偽装の計画は進められた。
0084創る名無しに見る名無し垢版2015/01/30(金) 07:53:29.23ID:JFt248L3
マドセインの引退 その9


・後日:グランドストリーム:シルヴァーナ
「おい、兵士の首が吹っ飛ぶ位でないと民衆に劇やってる事がばれるぞ。精巧な案山子を作るからそこの近衛兵、石膏で顔の型を取るからこっちに来い」
「良いんですかねえ。自分そっくりの人形の首が飛ぶのは見ていて気持ちの良い物じゃありませんよ」
「良いんだよ。あのノックスって言う兵士は一度副長の命を狙って副長の命を守る為なら協力を惜しまないと言ってる。首が飛ぶのが本人じゃなくて人形なんだから文句言わねーよ」

偽装工作の為にやられ役の人形を作る者。

「違う!死んだ振りの演技はそうじゃない!お前達そんな演技で見ている人を騙せると思ってるのか?お前達がアゴーンの試練に出たら死んだ振りを即マエストロに看破されて念入りに殺されるぞ!コキネラ、こいつらに死んだ振りの演技指導してやれ」
「僕の時はルシオラに麻酔入りのナイフで額を抉って貰って麻痺していただけだから、この人達も死んだ振りするより薬入りのナイフで切り付けた方が効率良いんじゃないかな?」
「死ななくても怪我するのは嫌だなあ。痛くない方法は無いのか?」
「なら即効性の睡眠薬の銃弾でも作りますか?事情を知らない人に説明するのであれば、ギルド人にしか効果のない特製の銃弾とか説明すれば納得…しますか?」
「それ採用。後で上に言っとくからその特製の銃弾作っといてくれ」

死んだ振りの演技で民衆にそれらしく見せられるか考える者。

「おい、クラウスが母星で怪我して歩けなくなったって情報は本当なのか?」
「ああ、本当だ。あの者は我々の管理を拒否したのでギルドの医療技術を使っての治療は行っていない」
「ならクラウスの足が動かなくなった理由もこの茶番劇で説明しとく必要があるな。ついでだからお前らギルドの仕業にして良いか?」
「直接の原因はあのディーオと言う同胞だ。あの者も責任を感じているので、説明するのであればあの者が原因である事を付け加えた方が良いだろう。悪い事をしたのであれば、庇わずに罰してやる方が後腐れが無い」
「巫女様を護衛する上でもあの者の協力は不可欠だ。ルシオラと言う者が空けた心の穴を埋めるのにも都合が良い」
「…一応副長に確認してみる。ディーオは俺達にとっても戦友だからこんな事はしたくないんだが」
「あの者の心を成長させるなら突き放す厳しさも必要だ。あの者はもう保護を必要とする子供ではない」
「ディーオもあっちで成長したって事か。分かった。ディーオやクラウスが聞いたら何か言うかもしれないが、プレステール側ではクラウスの怪我については聞かれたら答えるって事にして積極的に原因の特定はしないように要請する」
「それで良い。こちらから積極的に吹聴すれば却って不審に思われる」

かつての仲間の事を思いながらも彼らの自立心を尊重する者。

「皇帝ソフィアを守る役は本当にあなたで良いんですね?」
「ああ、ギルド人暗殺者を返り討ちにする説得力を持たせるならアレックスがやった方が一番なんだが、あいつがいない以上友人である俺位しか適した人間がいないからな」
「戦闘能力で言えばシルヴァーナの整備士達の方が経験豊富なのですが」
「お前達ギルド人から見ても俺はそんなに頼りないのか?」
「決して無能と言ってる訳ではありませんが…コーヒーを飲んでいるあなたと見てると、どうにも三枚目の印象が拭えないのですが何ででしょう」
「…」

亡くなった友人の穴を埋めようとする者。
0085創る名無しに見る名無し垢版2015/01/30(金) 07:54:48.98ID:JFt248L3
マドセインの引退 その10


「アスピスのロゼ。君の役割は派手に死んで主人公の精神を解き放つ役だ。今回の計画の要でもある。薄幸のヒロインらしく地上の悲劇物の戯曲を見て事前にどのような役をすれば良いか予習すると良い」
「あ、あの私アスピスと言っても碌に戦闘訓練受けてないし未成年ですし、体当たり受けて無事にいられるとは思えないんですけど」
「大丈夫だ。君は遺伝子的にはギルド最強と謳われたシカーダやそのシカーダを倒した弟のルシオラの妹だ。君は思った以上に頑丈だから他のアスピスの体当たりを食らった程度で死ぬはずないから心配無用だ。
寧ろその緊張し易い性格を改善すればロリカを目指す事もできるぞ。まあ君はその緊張して冷や汗をかく性格だから露を意味する名前を付けられたのだろうから、精神操作しない限り性格を変えるのは難しいだろうけどね」
「せ、精神操作は嫌ああああー」

亡くなった友人の親族を見守る者。
かつては敵で今でも味方とは言えなくても、平和な世界を手に入れた者同士この世界を維持する為にあまり褒められた物ではない計画を実行しようと協力している。

「ま、優しい嘘で世界を救えるなら裏方や黒幕やるのも悪くないかな」
「おいコキネラ。地上人達が今回の偽装工作の作戦名をどうするかって話してるぞ」
「作戦名?なら生きてる友人死んだ友人が守ろうとした世界にちなんでFriendsってのはどうかな」

後日この作戦が実行され、死人扱いとなったマドセイン司令やプレステールギルドの残党は表舞台から姿を消す。
後にアナトレーがアデスと衝突するが、マドセインやヴァンシップ隊、コキネラ達のようなアナトレー側のギルドが姿を見せなくても、アナトレーデュシス連合はウルバヌス級とクラウソラス級の戦艦群とグランレイク周辺国と協力して戦争を終わらせる事に成功した。

・第2回グランレース会場:観客席
「お父様。こっちよー」
「凄いな。この星にこれだけの人がいるとは」
「このワースリーも今まで生きていてこれだけの人間を目にしたのは初めてでございます」
「あなた、これだけ人がいるならあのヴァンシップ乗り達と偶然出会うような事にならないかしら?」
「人を隠すなら人ごみの中と言います。マドセイン夫人。あなた方も我々も貴族やギルドの服装ではなく平民の服を着ているので、知人とすれ違った程度では気付かないでしょう」
「君達もその服装が板についてきたな。今は何を仕事に?」
「僕達は二人でヴァンシップ乗りをしています。トラブルも多いですが概ね自由な生活を満喫しています。そちらは?」
「家の前の畑に種を撒いてようやく芽が出た所だ。この歳になって職を変えるのは大変だったが土と触れ合うのも悪くない」
「オリーブの花が咲いたらアピス達も見に来てね」
「ああ、立ち寄らせてもらう」

一家と耳が尖った二人組は多様な人種の集まる会場で平和な一時を満喫していた。


終わり
0086創る名無しに見る名無し垢版2015/07/31(金) 00:13:43.11ID:Reqd1+pM
高度制限 その1
時系列:1期と2期の間(砂時計の後)

・アナトレー入植地

グランレイク湖畔をアナトレーの新型戦艦シルヴィウスが飛んでいる。目的は母星での性能試験だ。

「こちら機関室。クラウディア圧正常。今の所異常は見当たらん」
「こちらブリッジ、了解した。これから高度上昇試験を始める。異常があったら直ちに報告してくれ。操舵そのまま、速度10mで上昇開始」
「上昇開始します」

シルヴィウス新任艦長タチアナの指示の元、機関室とブリッジで各機器の計測が始まる。
秒速10mで上昇始めたシルヴィウスは順調に高度を上げる。順調に行けば1分で600m、3qまで5分で到達する計算だ。

「高度1000m突破…高度1200m、上昇速度に変化はありません」
「こちら機関室。こっちも異常は無い。今の所順調だ」

シルヴィウスの機関室には元シルヴァーナ機関長でギルド人のレシウス・ダゴベールが詰めている。
レシウス機関長はシルヴァーナの建造にも関わっており、プレステールでも故マリウス宰相と共にアナトレーにヴァンシップ等の技術発展に協力してくれた人物だ。
プレステールでも母星でもアナトレーにはレシウス以上に詳しい人間は存在しない。
しかし母星での環境はプレステールと違う所もあり、流石のレシウスでも分からない事があった。

「高度2q突破、上昇速度に低下が見られます」
「こちら機関室。クラウディアは正常だが酸素濃度が薄くなっとる。このままの回転速度だと高度は上がらんぞ。どうするタチアナ?」
「こちらブリッジ。機関の回転数を上げて下さい。機関部の限界になるまで上昇続けます」
「了解した」

ブリッジの指示に従いクラウディアユニットを操作し、計器類がクラウディアユニットの出力が上がった事を示す。
しかし母星の空はシルヴィウスが想定していた高度に達する事はなく、高度3q程で上昇を止めた。

「こちら機関室。これでも機関全開だがそちらの状況はどうだ?」
「こちらブリッジ。高度計も3q前後で止まっています。気圧計も気圧の低下している事を示しています。機関部はこの状況でどの位持ちますか?」
「燃料と酸素があれば飛び続けられるが…このままだと燃費の悪いまま飛ぶ事になるぞ?」
「構いません。燃料消費すれば多少は船体が軽くなるのでそのデータも計測します。その間にヴァンシップの上昇限度も試験します」
「了解した。機関部はこのままの状態を維持する」
「では私とアリスはヴァンシップの高度限界を調査する。ディーオはブリッジで待機だ」
「りょーかーい」
0087創る名無しに見る名無し垢版2015/07/31(金) 00:15:52.79ID:ZVCSOAfO
高度制限 その2

・シルヴィウス格納庫

格納庫に赤く巨大なヴァンシップが鎮座している。
母星用に新しく新造されたタチアナのヴァンシップだ。
プレステールで使っていた機体よりも一回り大きくなっているがこれには理由がある。
入植当初、タチアナやクラウス達アナトレーの入植者はプレステールから持ち込んだヴァンシップで入植地の空を飛んでいた。
しかし母星の空をが飛び始めて分かった事がある。
『高度5q辺りから息苦しくなってエンジンの調子がおかしくなって飛べなくなる』
最初はヴァンシップの故障と慣れない母星での環境から体調を崩したせいだと思われていた。
しかしタチアナやクラウスらアナトレーでもトップクラスのヴァンシップ乗りも同じ症状になり、アナトレーの戦列艦も一定の高度から上昇する事ができない事が分かり、この異常事態を解決するべく新造艦シルヴィウスに高度限界の原因を調査するよう命じた。
この新しい巨大なヴァンシップもその過程で作られた物である。
「上昇できないのはエンジンの出力が足りないからだ」と判断でエンジン出力を追求した結果機体の大型化を招いた訳だ。

「ベリファイチェック完了。タチアナ、行けるわよ」
「了解。アリス、エンジンだけでなく自分の体調にも異変が起きたら言ってくれ。この星の空は何かおかしい」
「分かったわタチアナ。昔に比べて成長したわね」
「アリス、私語を慎め。それではテストを始めるぞ。ハッチ開け!」

・入植地上空

「現在高度3q。アリス、息苦しくはないか?」
「プレステールに比べたらそんなような気もするけど、もうこの星の環境に慣れたから分からなくなってるわ」
「問題はないか…ではこの状態のまま上昇を開始する。秒速10mで上昇開始」

操縦桿を握ったタチアナは機体を垂直にし、ヴァンシップにしてはゆっくりとした速度で上昇を始める。
10秒、20秒、次第に高度を上げていくと後席のアリスからヴァンシップの異常が報告される。

「エンジンに異音発生。酸素不足による混合不調。燃料と空気の混合比率を調整します。タチアナ、一度機体を止めて」
「了解。上昇停止、機体を水平にして待機する」

操縦桿を戻し機体を水平にしたままナビのアリスが混合比を調整するとエンジンの不調が直る。

「混合比変更完了。良いわよタチアナ」
「了解。上昇試験を再開する」

再びヴァンシップを上昇させるタチアナ。
だが暫く上昇するとまたエンジンが不調を起こし、再度混合比を変える。
結局タチアナとアリスは高度5q辺りまでしか上昇するのが精々で、パイロットとナビも息苦しさを感じたので採取したデータをシルヴィウスまで持ち帰って高度試験は終了した。
0088創る名無しに見る名無し垢版2015/07/31(金) 00:19:25.33ID:ZVCSOAfO
高度制限 その3

・シルヴィウス機関室

「タチアナか。ヴァンシップの様子はどうだ」
「データは取れましたが、やはり高度5q程でエンジンが回らなくなります。私もアリスも失神まではしませんでしたが呼吸するのにも苦しくなりました。
ヴァンシップの方は高度に応じて自動で混合比を変えるか、効率が悪くなる事を見越してエンジン全開にして飛ぶようにすればこの星での運用は十分可能と思われます」

高度試験を終えたタチアナは機関室に立ち寄り、機関長のレシウスとこの高度上昇によるクラウディア機関の不調について意見を交わす。

「ヴァンシップのエンジンを大型化しても変わらんか。となるとまたヴァンシップを新造しても問題は解決しそうにないな」
「シルヴィウスの格納庫もシルヴァーナより広いとは言え巨大化したヴァンシップを多く置けるスペースはありません。ヴァンシップを大型化すれば搭載できる数は少なくなります。
アリスと話した結果搭載するヴァンシップは20機に制限して、後は限られた高度で運用と考える方向で上層部にも報告しようと思っています。シルヴィウスのユニットの方はどうですか?」
「あれから色々弄ってみたが、やはり高度3q辺りからユニットの効率が悪くなる」
「原因は分からないのですか?」
「恐らく酸素濃度の問題だとは思うが、何故この星で上に行く程酸素が薄くなるのかが分からん。マリウスならば分かったかも知れんが、俺は機械以外の事に関しては専門外なのでな。ディーオやプレステールに残った仲間に聞いても原因が分かるかどうか…」

レシウス・ダゴベールはギルド4大家系のダゴベール家の当主であり、機械工学を受け継ぐ家系である。
他の家系はハミルトン家は遺伝子工学、バシアヌス家は物理と化学、エラクレア家は医学を受け継いでいた。
しかし過去のギルドの権力抗争とデルフィーネの起こしたクーデターでギルドの伝承してきた科学技術は一部しか受け継がれておらず、エラクレア家のディーオに至っては友人のクラウスの足を治療できないレベルにまでなっていた。
他の家系も同様で、バシアヌス家の末裔だったマリウスも先の戦争の混乱で死に、娘のユーリスに至ってはグランドストリーム越えで行方不明となっている。
しかしダゴベールの機械工学とバシアヌスの物理化学に関しては当主達がアナトレーに積極的に技術供与してきたおかげで地上人にも対象理解できるが、ハミルトン家の遺伝子工学とやらに関してはアネトレーもデュシスもどんな物なのか未だに理解できていない。
遺伝子と言うのは細胞の中にある生物の設計図でモールス信号だか音符みたいな物で、それを変える事で生物の形状は働きも変わるらしいが、具体的にどうすればその遺伝子を変える事ができるのかタチアナ含む地上人には皆目見当がつかない。
しかも同じギルド人であってもレシウスからしたら遺伝子工学は他所の家の専門外の技術なので、やはり分からないらしい。
ギルドの独裁者であったマエストロ・デルフィーネはハミルトンの技術を理解していたようだがそれは例外であって、普通のギルド人でも基本的な技術や知識は知っていても専門外の事となるとお手上げである。
よってこの星の空を上昇すると酸素が薄くなる現象についてはギルド人のレシウスでも理解できなかった。

「ラヴィは炎の空が酸素を奪っているのではと言っていましたが…」
「炎の空か。俺もエグザイルに乗ってこの星に来た時に見た。あれがこの星を包むクラウディアか何かの障壁なのか、それともエグザイルの帰還シークエンスによる物なのか…。もし上昇してもクラウディアの出力が変わらないのであれば、
エグザイルを使わんでもこの星からプレステールまでヴァンシップを使えば時間がかかるだけで到達する事も可能なのだろうが、ギルドの神話でもプレステールの外は『宇宙』と言う空気も重力も存在しない世界と伝えられていたからな。
エグザイルを作ったのもヴァンシップでは到達できないからあそこまで巨大な船を作り上げたのかも知れん」
0089創る名無しに見る名無し垢版2015/07/31(金) 00:22:26.26ID:ZVCSOAfO
高度制限 その4

炎の空とはエグザイルがこの星に戻ってきた時に船体下部が燃えるような火花を発した事に由来する。
最初に帰還した入植者達がエグザイルのモニターから外の様子を見てパニックになったが、今ではその程度の炎ではエグザイルは燃えないとして軍が周知しているので混乱にはなっていない。
しかしプレステールと往復している間に何故かいつも必ずエグザイルの外壁がこの星に到達すると燃えるので、原因は不明ながら
「母星の空には炎の空があって、その下にヴァンシップや戦艦が飛ぶ普通の空がある」と入植者やプレステールの軍部も認識するようになった。
グランドストリームを突破した英雄の一人であるラヴィ・ヘッドは「あまり高く飛ぶと炎の空で焼けるから高く飛ばない方が良い」と他のヴァンシップ乗りに忠告していたので、
英雄の忠告を素直に聞いたヴァンシップ乗りは高度限界ある上空まで飛ぼうとせず、結果的に酸素不足による失神や炎の空に焼かれる等の事故は今の所発生していない。

「高度が上がらなければ後は速さを出す方向で戦術を考えなくてはなりませんが、機関長から何か意見はありますか?」
「速さか、速さで思い出したが昔マリウスの奴が『音速を超えると機体が熱くなって空中分解の原因となる』とか言っておったな」
「音速?機体が熱くなる?何ですかそれは」
「物理だか化学でそのような現象があるらしい、音よりも早く飛ぶと空気の摩擦だか断熱圧縮とか言う現象で機体に負担がかかるらしい。
おおそうだ、マリウスとエグザイルの話をしてきた時に『大気圏突入の熱にエグザイルは耐えなければならないから、エグザイルの装甲を破壊するには並大抵の熱では難しい』とも言っていた」
「大気圏突入ですか。ひょっとしたらそれが炎の空の事なのでしょうか」
「バシアヌスの使う用語だから俺には分からん。だが関係あったとしても今のギルドの技術でも音より早く飛ぶような機体は作れんから暫くは音速だの何だのの心配はしなくて良いだろう。
アラネア達のオドラデクの性能もプレステールと変わらんかった。この星に他のギルドやギルドの技術を受け継ぐ連中がいても、上昇限度や速度に関しては我々とそれ程違いは無いと考えて良いかも知れん」
「最悪の事態を想定した場合、ギルド戦艦とギルド星型の大群が有能な指揮官の命令で攻撃してきた場合でも今の我々の戦力で対応可能と言う事ですか?」

戦後分かった事だが、プレステールで起きたギルドとの戦争でアナトレーとデュシスの連合艦隊が勝てたのはギルドの指揮系統に問題があった事で、
もし指揮系統が無事で指揮官が有能だったらアナトレーとデュシスの戦艦群はシルヴァーナも含めて1隻残らず沈んでいただろうとの結論が出た。
アナトレーはギルド対策の戦術でヴァンシップ5機編成でギルド戦艦を沈める戦術を編み出していた為ギルドと戦えていたが、アナトレーとデュシスの戦列艦ではギルド戦艦に有効打を与える事は出来なかった。

「ギルドの技術でウルバヌスも強化されてシルヴィウスにもギルド戦艦と戦えるだけの攻撃力と装甲はあるが、高度に制限があれば取れる戦術は限りがあるな…まずデュシスの戦列艦は役に立たない」
「主砲が下にしかありませんからね…。もしこの星の環境に適した戦艦やヴァンシップを作ったら我々が見た事も無い形状になるのでしょう」
「そうだな。この星の環境に合わせて戦艦やヴァンシップが進化を遂げたらどのような形になるのか…もしこの星の未知なる隣人の船やヴァンシップを見かけたら写真でも撮ってこちらに回してくれ」
「分かりました」
0090創る名無しに見る名無し垢版2015/07/31(金) 00:23:32.99ID:ZVCSOAfO
高度制限 その5

・アデス

「ルキア。第3艦隊と第4艦隊の新型艦の数が揃った。これでノトスとトゥラン方面の戦いを有利に進める事ができる」
「トゥランの様子に変化は?貴族連中はトゥランが東の離宮に隠しているギルド戦艦を動かすかどうか気にしているようだが」
「問題ない。もし帰還民国家全てが白の遺産のギルド戦艦を持ち出してきたとしても、プレステールとは違い高度制限のあるこの星ではギルド戦艦の機能も制限される」
「ギルド戦艦に対してはエボナイト砲を上下に避けて接近し、衝角でブリッジを破壊する事を想定してはいるが、訓練はしてもギルド戦艦と交戦した経験はどの艦隊も無い」
「ギルド戦艦のユニット数は10。対して我々アデスの新型艦のユニットは4。効率から言っても我々の方が有利だ」
「高度に限界がある環境では被弾面積の少ない平たい形状が有利。縦に長いギルド戦艦相手でも側面からの砲撃で沈める事も可能か」
「形状的に厄介なのはトゥランの戦列艦だ。平たい形状に加えて翼で揚力を得ている。高度を稼いで位置エネルギーを利用するのであればトゥランの方がやや有利だ。ルキア。リリアーナ姫と対峙する覚悟はできているか?」
「トゥラン国王が病で弱っている今が好機だ。ノトス方面はソルーシュとオーランに任せて、トゥランは私が外交で時間を稼ぐ。トゥランの補給支援が無くなればノトス艦隊を撃破するのも時間の問題だ。
もし他の勢力の鍵が見つかった時は…アラウダ、君の出番だ」
「分かっている。ルキア」

この後、アナトレーはトゥランの調査隊と接触する事になるが、アナトレーはアデスに存在を悟られないようトゥラン側にアナトレーと言う国の存在を公にしないよう要請。
アナトレーと言う帰還国家をアデスが知り、その軍事力を認識するのはもう少し先の事である。

終わり
0093創る名無しに見る名無し垢版2017/12/27(水) 10:54:48.76ID:C1Z7QFDy
家で不労所得的に稼げる方法など
参考までに、
⇒ 『武藤のムロイエウレ』 というHPで見ることができるらしいです。

グーグル検索⇒『武藤のムロイエウレ』"

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0094創る名無しに見る名無し垢版2018/05/21(月) 08:17:17.01ID:tRZnwP6O
知り合いから教えてもらったパソコン一台でお金持ちになれるやり方
参考までに書いておきます
グーグルで検索するといいかも『ネットで稼ぐ方法 モニアレフヌノ』

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0095創る名無しに見る名無し垢版2018/07/03(火) 19:37:08.81ID:f1dClnnX
KW3
0096創る名無しに見る名無し垢版2018/10/17(水) 18:28:15.16ID:ZU7x6aHX
中学生でもできるネットで稼げる情報とか
暇な人は見てみるといいかもしれません
いいことありますよーに『金持ちになる方法 羽山のサユレイザ』とはなんですかね

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