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911コメント722KB
スポーツ総合スレ
レス数が900を超えています。1000を超えると表示できなくなるよ。
0001創る名無しに見る名無し2010/08/14(土) 17:28:00ID:95LtTUF3
小説でも絵でもスポーツに関連してればなんでもアリ
雑談もお待ちしてます

前スレ:スポーツをテーマにした小説を書くスレ
ttp://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1226658606/
0011創る名無しに見る名無し2010/08/29(日) 21:42:05ID:5YB1pJzu
あげ
0012創る名無しに見る名無し2010/09/07(火) 18:42:04ID:MG847HN5
保守
0013創る名無しに見る名無し2010/09/08(水) 23:34:14ID:dYtyT10P
えーっと…
前スレでちまちま書いてた野球小説です
ちょこっと書き直してますのでご了承下さい
0014創る名無しに見る名無し2010/09/08(水) 23:35:17ID:dYtyT10P
1/7
 慣れないスーツ姿に身を包み、指定された場所に向かう一人の男。
「ここか……」
 ごくり。その男は思わず唾を飲み込む。
「しかしいきなり監督をやれだなんてな」
 それを告げられたのは三日前だった。

 前の監督が体調不良で辞任する事になり、急にこの男に仕事が回ってきたのだ。

 男の名前は栗田永一。甲子園で優勝し、プロ野球の老舗球団東京ガイアンツにドラフト
1巡目で指名され入団、だが度重なる故障で一軍での登板の無いまま十年が過ぎ昨年の秋
に現役を引退した。
 小さな頃から野球しかしてこなかった栗田に他の仕事をする当てもなく、プロに入って
以来の貯金を切り崩しながら生活をしていた。そんなある日、元所属球団から突然連絡が
入ったのだ。
「栗田君、監督をしてくれないか」
 一瞬耳を疑ったが、その後の説明でさらに驚いた。
「東京シャイニングヴィーナス……ですか」
 その名前には聞き覚えがあった。今から十年ほど前に華々しく開幕した女子プロ野球の
チームだ。ちなみに東京ガイアンツと同じく読読新聞社が親会社である。
 指導者の経験など無かった上に女子プロ野球という未知の世界。
 だが、栗田に迷いは無かった。

 しかし、道に迷ってしまった。
「1時間の遅刻か……初日からこれじゃあ先が思いやられるな」
 宮城県えびの市総合運動公園。ここが東京シャイニングヴィーナスのキャンプ地だ。
 もちろん東京ガイアンツのキャンプに比べると寂しい雰囲気は否めないがそれなりに
見物客も来ているようだった。

「遅れてすいません。栗田です」
「ああ、お待ちしてました。どうぞこちらへ」
 栗田は球団スタッフの男に案内され、野球場の中へと向かった。
0015「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第一話2010/09/08(水) 23:38:12ID:dYtyT10P
2/7
 掛け声と打球音とグラブの音が入り混じるグラウンドに栗田が足を踏み入れた。
「これが女子プロ野球のキャンプか……」
 すると、ガイアンツ時代の先輩である緒川孝太郎が栗田に近づいてきた。
「よお、栗田」
「お久しぶりです。緒川さん」
「いきなり呼ばれたんだって? 大変だな」
「緒川さんがコーチをしてたんですね」
「ああ。気軽に引き受けたものの、女の子相手は疲れるよ」

 久々に再会した緒川と栗田が談笑していると、そこに一人の少女が寄ってきた。
「何やってるんですか? 緒川コーチ」
 その少女はユニフォーム姿だったのでおそらく選手なのだろう。と栗田は察した。
「ああ、悪い悪い。今行くから」
「えと……そちらの方は……」
「俺の後輩の栗田だ」
「はじめまして。栗田永一です」
「で、こっちは大木姫子。見ての通り、我がチームの選手だ」
「大木です。はじめまして。栗田さんって言うんですか。……取材か何かでしょうか」
 大木姫子はほわんとした雰囲気で、とてもプロ野球の選手には見えないがれっきとした
東京シャイニングヴィーナスのレギュラーである。
「いや、取材じゃなくて監督を……」
「あ、そうなんですか。それじゃあ、がんばって下さいね」
 にこり。と微笑む姫子。今一つ呑み込めていない様子だ。
「あ、ああ。がんばるよ(……あれ?)」

「まあ選手については改めて紹介するから、今日のところは練習の様子を見ていってくれ
よ」と、緒川。
「あ、はい」
 栗田は緒川の後をついて行った。
0016「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第一話2010/09/08(水) 23:39:10ID:dYtyT10P
3/7
「それじゃあ、今から打撃練習だな」
 緒川が選手を集めて言った。栗田は少し離れた位置から見ている。
 まずは打撃練習用のバッティングケージなどの用具を選手達が運ぶ。
 用具を並べ終わると、緒川や打撃コーチの山瀬が打撃投手を務める。
「へえ。コーチ自ら打撃投手をやるんだ」
「もともと専属の打撃投手なんていませんからね」
 そう言って近づいてきたのは大咲さくら。東京シャイニングヴィーナスの、いや日本を
代表するエースピッチャーである。
「あ。俺は新監督の……」
「栗田さんですよね」
 さくらはニッコリと微笑んで言った。
「あれ、知ってるの?」
「甲子園で優勝した瞬間見てました。それで私、野球始めたんです」
「え、そうなんだ」
 少し興奮気味に話すさくら。その言葉に偽りは無いようだ。
「大咲さくらです。ピッチャーなんで、手取り足取りよろしくお願いします」
 さくらは深くお辞儀をした。栗田も悪い気分はしないようだ。
「うん。よろしくね」
 打撃練習を見ながらさくらと談笑していた栗田だったが、このまま見てるだけというの
も我慢できなくなってしまった。
「あの、俺も手伝いますよ」
 栗田はジャケットを脱いで、ネクタイを緩め、グラウンドに足を踏み入れた。
0017「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第一話2010/09/08(水) 23:40:08ID:dYtyT10P
4/7
「なあ、さくらー」
「何? あづさちゃん」
 栗田の姿を見ていたさくらに話しかけたのは東京シャイニングヴィーナスの4番打者で
ある御堂あづさ。昨シーズンは31本(全81試合)の女子プロ野球本塁打記録を打ち
立てたスラッガーだ。さくらとは同い年で特に仲が良い。ちなみに大阪出身である。
「あの人さ、元ガイアンツの栗田投手やろ」
「そうよ。監督に就任するんだって」
「あー、そういやおじいちゃんの姿が見えへんなあっておもたら、そういう事か」
「おじいちゃんって……大河原監督は勇退されたのよ。もうご高齢でしたしね」
 なにせ大河原前監督はもう80歳である。昨シーズン優勝した時に行われた胴上げでも
冷や冷やものだった。
「新監督なんかぁ。ちょっとからかったろかな」
「その顔は何か企んでるわね……ほどほどにしときなさいよ」

「おーい。ちょー待ちぃ!」
 打席に入ろうとする小宮奈美をあづさが止める。
「なんなんスか、御堂センパイ。いててっ、髪を引っ張らないで下さいっ」
「ええから代われ」
「それが人に何かを頼む態度っスか……いたいいたいいたいっ、やめてくださいっ」
 結局、強制的にケージから引っ張り出される奈美。
「おいおい。一体なんなんだ」
 その光景を見た栗田が呟いた。だが、あづさはそれをスルーし、栗田に向かって唐突に
話しかけた。
「栗田さん。まだウチらはあんたを監督と認めたワケやないで」
「な、何ぃ……!?」
 そんな話は聞いてない、と栗田は思った。
「ど、どういう事だ」
「(おっ。食いついてきたな)せやから、今からウチと勝負せえ!」
「しょ、勝負だって!?」
「いわゆる一打席勝負。負けたほうが勝ったほうの言うことを一つ聞く条件でどうや!」
 どうや、と言われても困る栗田。あづさは人の話を聞かない。
「どうしたんや。逃げるつもりちゃうやろな」
「……ったく。まあいいや。勝てば監督と認めてくれるんだな……ちょっと付き合って
やるか」
0018「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第一話2010/09/08(水) 23:40:58ID:dYtyT10P
5/7
 栗田は軽く体をほぐし、投球動作に入る。
 全力投球とはいかないが、7〜8割の力をこめたストレートがキャッチャーのミットに
ズバッと突き刺さる。打席のあづさは握ったバットをピクリとも動かさず見送る。
「どうした。速すぎて手も出ないかな」
「ふぅん。こんなもんかいな」
「へぇ、言ってくれるじゃん」
「本気で頼んますわ」
「わかってるよ……ん?」
 あづさは無言でバットをスーッと持ち上げ、レフトスタンドにその先を向ける。これは
いわゆるひとつのホームラン予告である。
「な……馬鹿にしてんのか。まあいいだろう。腐っても元プロ野球選手だって思い知らせ
てやろうじゃないか」
 栗田もまた単純な男であった。

 カキーン。
 あづさの放った打球は高く舞い上がり、左中間にポトリと落ちた。
 栗田は驚いた。
 一軍では通用しなかったとは言え元プロ野球選手である。
 ど真ん中のストレートでも空振り、万が一バットに当たったとして内野ゴロが関の山だ
と思っていた。それを左中間まで飛ばされたのである。
0019「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第一話2010/09/08(水) 23:42:54ID:dYtyT10P
6/7
「くそっ」
 そう漏らしたのはマウンドの栗田ではなく、打席に立つあづさだった。
「あかんわ。完全に打ち損じや。勝負はウチの負けですわ」
 あづさは悔しさを滲ませて言った。
「おい、どーいう意味だ」
 栗田は問い掛けた。今のはヒットだろう。
「ヒメ。今の打球はどうや」
「うーん。正直に言うと、あたしの守備範囲ですけど……」
 大木姫子が答える。
「せやろ。ほなウチの負けっちゅう事で」
「ちょ、ちょっと待て。あんなに遠くまで飛ばされて俺の勝ちなんて納得できるかよ」
「いくら飛ばそうが今のはセンターフライ。せやからあんたの勝ち。文句あんの」
「でも……」
 お互いに勝ちを譲り合う二人。
「それでしたら、実際にあたしが捕れるかどうかやってみるというのはどうでしょうか」
 姫子が割ってはいる。
「そうだな。それじゃ大木、センターの守備位置についてくれ」
 緒川がそう言うと、姫子はてとてととグラウンドへと歩いていく。
「どうみても俊敏には見えないのだが」
「まあ、見といて下さいよ」
 栗田の呟きにあづさが言い返した。
0020「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第一話2010/09/08(水) 23:43:54ID:dYtyT10P
7/7
「は〜い。お願いしま〜す」
 緒川はノックバットを握り、外野に向かってボールを打ち上げた。
 その打球はさっきあづさが放ったのとほぼ寸分狂わず左中間に飛んでいった。

 タタタタ……タタッ……バシッ!

 姫子は余裕のある足取りで落下点にたどり着き、さらっとキャッチした。
「うわっ。捕った」栗田は驚きの声を上げた。
「どうですか、カントクさん」
 軽々とボールを捕った姫子がてとてとと歩いてきた。飛球を追う時の眼が嘘のように
おっとりとした表情に戻っている。

「何て言うか……今まで知らなかったけど、女子でもここまでやれるんだな」
「その発言は失礼だぞ、栗田。ま、俺も最初はそうだったけどな」
 緒川は栗田に注意した。
「ま、この件はこれにて終了という事で」
「ちょお待って下さいよ。約束は約束です」
 あづさが言い寄る。
「そんなの別にいいよ。俺も大人げなかった」
「良いわけありませんて。女に二言はありえへんのです」
 まいったな。と栗田は思った。そこであづさが最初に放った言葉を思い出した。
「それじゃあ、俺を監督だって認めてくれるかな」
「そんなんやったら別にええですけど……」
「何を言ってるんですかカントクさん。あづささんの言うことを間に受けたらいけません
よぉ〜」
「こらヒメ、余計な事ぬかすな!」
 姫子が口を挟み、あづさがそれにツッコミを入れた。
 さらにあづさはバットを持ったまま、姫子を追いかけて走り出した。
「お、おい……」
「栗田監督! この借りはいつかリベンジさせてもらうで!」

 とにかく、うやむやのままキャンプ初日は終了した……かに見えた。

 つづく。
0021創る名無しに見る名無し2010/09/08(水) 23:49:06ID:dYtyT10P
投下終了です。
お手柔らかにお願いいたします。

>>14にタイトル入れ忘れてますね
0023創る名無しに見る名無し2010/09/09(木) 10:09:57ID:Xv1O/cu3
これもスポーツ系?

81:◆Qb0Tozsreo :2010/09/07(火) 13:22:05 ID:VSFBBcQM [sage]
コーチ「監督! たいへんです!! アイツに不倫問題が発覚しました」

監督「何?! アイツはうちのエースストライカーではないか! この大事な試合を前になんてことをしてくれたんだ……」

コーチ「あの精神状態では、とてもじゃありませんがアイツをスタメンで使うわけにはいきませんね」

監督「うむ、仕方あるまい……。ところで不倫とは、どんなことをしたというのだ?」

コーチ「奥さんが妊娠中に、複数の女性と関係を持っていたようです」

監督「そうか! あのときは、夜もハットトリックを決めていたのか」



88:◆Qb0Tozsreo :2010/09/08(水) 09:25:31 ID:YQO3juS6 [sage]
選手A「おいっ! 何でオレにパスしなかったんだよ」

選手B「おまえにパスしたって、どうせアシストにはならないからな」

選手A「なんだと!! もう一回言ってみろ! おまえなんかな……」

選手C「おいおい、そんなことで争ってんじゃないよ。オレたち、みんな同じ女を抱いた謂わば兄弟じゃないか。仲良くやろうぜ」
0024創る名無しに見る名無し2010/09/18(土) 20:31:10ID:AQHYcf1t
保守
0025創る名無しに見る名無し2010/09/19(日) 21:18:32ID:WoduN4uh
さらに保守。つか見てる人いるのかな
0026創る名無しに見る名無し2010/09/19(日) 21:26:58ID:eYRCnVW+
見てるどころか実は矢田のおっさんの続き書こうか考えてる。
果たして矢田を知っている奴が居るかすら微妙だが……。
0027創る名無しに見る名無し2010/09/21(火) 07:37:08ID:4K75XL8f
矢田のおっさん続きあるんですかww
野球ばっかりになっちゃうのが申し訳無いなと思いつつサイレントKを着想にした作品を妄想中
つっても今悩んでいるところなんですけどね……
0030「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二話2010/09/26(日) 02:31:41ID:zC7jfMvw
1/7
 キャンプ初日の夜。シャイニングヴィーナスの選手たちによる、歓迎会が行われる。
 歓迎会といってもささやかなもので、おそらくお酒や食事を囲みながら新監督である
栗田と選手が自己紹介したり、歓談したりといった程度のものであろうと予想される。
「さてと、もう少し時間があるな……これを見るか」
 栗田は、シャイニングヴィーナス球団の全選手、指導者およびスタッフが宿泊している
ホテルの一室でDVDを見ようとする。
 もちろんいかがわしい代物では無く、昨シーズンの女子プロ野球リーグの戦いを収録
したDVDを3年前から同球団のコーチをしている緒川から借りていたのだ。
「……あれ? なんじゃこりゃ」
 雲ひとつ無い青空、透き通るような青い海、照りつける太陽。色とりどりの水着を身に
まといはしゃぐ若い女の子……どうやら緒川さんがアイドルのイメージDVDと間違えて
渡したようだ……と、栗田は思った。
 せっかくなので堪能させてもらおう。と栗田はその映像を観賞することに。

 コンコン。
「おーい、栗田。開けるぞー」
 ガチャ。
「お、緒川さん! ノックぐらいしてくださいよ」
「ノックならしたぞ。それより、DVDを間違えて渡していたようだ。すまんすまん」
 緒川の手には当初渡すつもりだった昨シーズンの試合映像を収めたDVDがあった。
「……これ、緒川さんの趣味なんですか?」
 しっかり見ておいて言うのもどうかと思うが、独身の栗田と違い、緒川には妻も娘も
いるのだ。とはいえ、もしそういう事に関して寛容な人ならばいらぬ心配ではある。
「お前、何か勘違いをしてないか? それは優勝旅行の映像だぞ」
「えっ?」
 栗田は映像を止め、プレイヤーからDVDを取り出した。
 その面をよく見ると“20XX年リーグ優勝記念ハワイ旅行”との文字があった。
「ああ、優勝旅行の映像ですか。なるほど……ん? ということは、あの海で戯れていた
水着の女の子達は……」
「これからお前が指導するシャイニングヴィーナスの選手たちだ」
0031「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二話2010/09/26(日) 02:33:04ID:zC7jfMvw
2/7
 と、ここで場面は歓迎会が行われる予定の食堂に切り替わる。
 御堂あづさ、大咲さくら、大木姫子、小宮奈美の4人が何やら相談している。
「あのー……わたしはコレを着るんですか?」
「ええから、ええから。騙されたと思て♪」
「やけにノリノリねぇ……あづさちゃん」
「てゆーかヒメちゃんセンパイ、完全に騙されてるっス」
「じゃかましわ! ほれ、奈美はこれ着ぃ」
「これ……って、パン……中身が見えちゃうっスよ!」
「見せたったらええねん。減るもんやなし」
「あづさちゃん……完全にオヤジ化してるわよ」
「そーいう御堂センパイはどんなの着るんスか?」
「ウチ? 何も着ぃへんよ」
「!? なんという大胆な! そこまでするんスか!」
「大胆って言うか、破廉恥ね」
「ん? ちゃうちゃう! そういう意味とちゃうわ!」
「いいじゃないスか。減るモノじゃ無いんスか」
「アホか。そんなもんタダで見せたるかい」
「いや、お金の問題じゃ無いでしょ……」
「あのぅ、似合うでしょうか」
「いつの間に着替えてるんスかヒメちゃんセンパイ(……あ、でもかわいい)
「えっと、なんとなく流れ的に?」
「……って何の流れなのよ」

 結局、奈美も体育会系の掟に従い強制的に着替えさせられるのだった。
「これで2体のメイドが完成やね。元々飲み会の罰ゲーム用に持ってきたんやけど、
ちょうど良かったわ」
「全然良くないっス……」
「んー? 何か言うたかな」
 あづさは奈美のほうを笑顔で睨んだ。
「いえ、何でも無いっス」
「あら。どうせならみんなでコスプレしたら良いんじゃないかしら」
 と、メイド姿の大木姫子が提案した。
「そうっスよね、私らだけってのは不公平っスよ」
 姫子よりさらにスカートの短いメイド服を来た奈美が同意する。
「だって、そのほうが楽しいわよ。カントクさんにもきっと喜んでもらえると思うし」
「ヒメちゃんセンパイ……ついていけないっス」
「でも着る衣装なんて無いわよ」
 さくらがさらりとツッコむ。
「大咲センパイ。そう言って回避しようとしてないスか?」
「いや……そんなワケ、無いでしょ」
 さくらは明らかに嫌がる表情で後ずさる。
0032「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二話2010/09/26(日) 02:33:58ID:zC7jfMvw
3/7
 と、その時。
「そんな事もあろうかと、衣装を用意してきた」
「あ、三上センパイ」
 輪の中に入ってきたのは三上英子だった。まっすぐ伸びた黒髪と薄いフレームの眼鏡が
特徴の知性派投手だ。
 重度の変化球マニアで、常に新しい球種の開発に余念がない。
「せっかくの歓迎会だ。みんなで盛り上げてやろうと思ってな」
「さっすが三上センパイっス。さあみんなも着るっスよ」
「えー。マジでー。何でやねん」
 露骨に嫌な顔をするあづさ。
「これなんかどうっスか。あ、こっちも似合いそうっスね」
 奈美の反撃が開始された。あづさに着せる衣装を物色している。
「おいおい、カンベンしてくれや。なぁ、さくら」
 困ったあづさは隣のさくらに話を振ろうとする。
 自分は後輩に強要しておいて、これである。全くもって迷惑な先輩だ。
「あら。これ可愛いじゃない。ねぇ、英子さんは?」
 ウェイトレス風の衣装を手に取るさくら。ピンクを基調とした、フリルがフリフリした
服だ。
「そうだな。私は久々に学生服を着てみようかと思う」
 英子は女子高生が着るようなブレザーとチェック柄のスカートを手に取る。
「ちょお待ちぃや。ウチだけ仲間ハズレやん……」
 あづさは、そう言いながらしぶしぶと衣装が並んだケースを見やる。
「ナース、スッチー、バニーガール……って、ほとんどコスプレパブやないかい!」
 ついつい衣装にツッコむあづさ。これも関西人の性か。
「決められないなら私が決めてあげるっスよ!」
 さらに反撃を続ける奈美。手に取ったのはチアリーダーの衣装だった。だが、
「あ。これは似合わないっスね」
 奈美はそう言って手にした衣装を戻そうとした。
「ちょお待ちいな。似合わんてどういう意味なん?」
「ふ、深い意味は無いっス」
 つまり、そのままの意味という事か。
0033「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二話2010/09/26(日) 02:35:51ID:zC7jfMvw
4/7
「ええから貸してみいや」
 あづさは奈美の手から衣装を奪い取ると、いきなり着ているジャージを脱ぎだした。
 その鍛え抜かれた肉体は、同性の奈美が見ても惚れ惚れする。
「なんや、ジロジロ見て」
「み、見てないっスよ」
 あわてて顔をそむける奈美。その間にあづさは衣装に着替える。
「ゴー、ゴー、ヴィーナス!」
 ちなみにこの衣装は、東京シャイニングヴィーナス専属チアリーディングチームである
“シャイニングシスターズ”のユニフォームなのだが、それを着たあづさは思わず右手を
突き上げてポーズを決めてしまったようだ。この女、やけにノリノリである。

 ピロリン♪ 突然、電子音が鳴った。
「おいっ。何すんねんな」
「いい画が撮れたっス。待ち受けにしようっと」
 奈美のケータイだった。
「おいこら待てぇぇぇぇぇ。削除せえ。さもなくばお前を削除したる」
「ひぃぃぃぃっ。やめてくださいっス」
 あづさが奈美に襲いかかる。一気に馬乗りの格好になった。
 周りは「またか」と言う表情で2人の“じゃれあい”を見ている。
「誰か助けてくださいっス〜」
「ええい。観念せえやー」
0034「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二話2010/09/26(日) 02:36:56ID:zC7jfMvw
5/7
 ガチャッ。
「「!?」」
 栗田が食堂のドアを開けると、2人の女が重なり合ってお尻を向けていた。
 時計は歓迎会の始まる予定の8時をちょうど回ったところだった。
「これはまた随分な歓迎だな……」
 そう言って固まる栗田。
「な〜〜〜〜〜〜〜〜っ。何見てるんスかぁ!」
「おいコラァ、ジタバタすんな!」
 奈美は赤面し、逃げようとする。が、あづさがガッシリと乗っかかって身動きが取れ
ない。

「俺は、どうしたらいいんだ」
「あらあら、カントクさん。とりあえずこちらに」
 栗田はメイド(姿の姫子)にエスコートされ、椅子に腰掛けた。
「あ、ありがとう。……お、大木さん?」
「はい? なんでしょうか」
「えーーっと……。どうしてそんな格好してるんですか」
 栗田は驚いた。そりゃあそうだろう。だってメイド服だもの。
「うふふっ。どうでしょう、似合ってます?」
 姫子はそう言いながらクルリと一回転した。スカートがふわりと舞う。
 話が噛み合っていないのはいつもの事である。気にしたら負けだ。
「うん。似合ってるよ」
「ありがとうございますっ」
 満面の笑みで喜ぶ姫子。これで「ご主人様♪」なんて言われたら、これはもう完全に
メイド喫茶の店員にしか見えない。おそらく、日本で一番メイド服の似合うプロ野球選手
だろう。……どういう意味だろうか。

「んもう。しょうがないわね……英子さんはそっちをよろしく」
「うむ。了解した」
 あづさの右腕をさくらが、左腕を英子が掴んで奈美から引き離す事に成功した。
0035「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二話2010/09/26(日) 02:37:58ID:zC7jfMvw
6/7
「こほん。というわけで選手を代表しましてわたくし大咲さくらが乾杯の音頭を……」
「「「かんぱーい」」」
「あ、ちょっとぉ。それ私が……」
 前口上を台無しにされ、しょんぼりと着席するさくらであった。
 それはともかく、まずは栗田の自己紹介から。
「えー。何の因果かこのチームの監督に就任することになりました栗田永一です。監督業
や女子野球については一から勉強する事になるけど、まあよろしくな」
 ぱちぱちぱち。
 そして、各々の選手による自己紹介へと流れていく。
 それにしても……さまざまな可愛い(?)衣装に身を包んだ女の子たちを見ていると、
先ほどまでグラウンドで練習していたのが嘘のようである。

 ここからは自己紹介の一部を紹介しよう。
「三上英子、投手です。監督とは変化球について一晩中ベッドの上で語り合いたい」
 どんな自己紹介だ……。栗田は「お前が変化球だよ!」と言いたい衝動に駆られる。
「小宮奈美、守備はショートストップっス! 元気とスピードには自信ありっス!」
「……川原恵美(めぐみ)、二塁手。……チームの勝利の為に尽くします」
 対照的なキーストーンコンビ(=二遊間)。1、2番を任せる事になりそうだ。
 ちなみに、川原恵美の衣装はいわゆるゴスロリだったのだが、実は私物らしい。
「キャプテンの小松田沙織です。チーム内でわからない事は何でも聞いて下さいね」
 はい。今、この状況がわからないのですが。……ノリですか、そうですか。
 あとナース服はわかるんですが、その大きな注射器は……いえ、刺していただかなくて
結構です。
「セッシャハ、エイミー=マクスウェル、デゴザル。以後、オ見知リオキヲ」
 クリーンナップを打つ所謂助っ人外国人だが、その日本語は何処で覚えたのか。
 そんな事より出るところは出て、引っ込むところは引っ込んだ体型にバニーガールの
似合うこと似合うこと。……ごくり。
0036「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二話2010/09/26(日) 02:39:09ID:zC7jfMvw
7/7
「ピッチャーの城之内真緒です。抑えとしてやってきました。よろしくお願いします」
 かつてはあの東京大学の野球部に所属し、神宮球場で投げた経験もある左腕投手だ。
 そして、こういうシンプルなセーラー服もまた、捨てがたい。隣のお姉さんタイプだ。
「末永陽子、ピッチャーです。監督から同じピッチャーとして色々と教わりたいです」
 そう言いながらテニスのユニフォームを着ている末永陽子。エースを狙うという事か。
 やはり栗田は投手の女の子が気になるようだ。いや、別にいやらしい意味では無い。

 とりあえず全員の顔と名前は覚えておかないと……寝る前にまたDVDを見ておくか。
と、栗田は思った。
 もちろん優勝旅行のほうだ。

 つづく。
0038創る名無しに見る名無し2010/09/26(日) 03:01:47ID:2SdF8mvh
野球するだけが野球じゃねぇぜ!投下乙!
読むのは後日でw
0041創る名無しに見る名無し2010/10/02(土) 23:25:26ID:8Ko5zJMu
遅ればせながら
中日ドラゴンズファンのみなさん
おめでとうございます。
0043創る名無しに見る名無し2010/10/03(日) 16:48:56ID:lovjD/FB
マイナースポーツ物とか読んでみたいな
アイデアだけでも考えようかな?
0047創る名無しに見る名無し2010/10/05(火) 00:15:37ID:eZiQDcFA
ランジェリーフットボールなるものを初めて見たときは笑ったが
あれを日本の女子高生にさせる漫画を誰か描かないかな
何故か全国規模で鎬を削ってる設定で
0048「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第三話2010/10/06(水) 23:34:50ID:Owtdbspa
1/7
 栗田が監督としてキャンプインしてから1週間が過ぎた。
 当初ピンク色のユニフォームに違和感があった栗田だったが、時間とともに自然と慣れ
ていった。

「あれ? なんだか今日は取材陣が多いっすね」
 その日の朝、グラウンドに出た栗田は、先に出ていたコーチの緒川に話しかけた。
 たしかに栗田の言うとおり、いつもより記者やテレビ局のカメラが多い。
 観客席に目を移すと、これもやっぱり昨日までより人が多くて賑わっている。
「ああ。いよいよベールを脱ぐからな」
「何の事ですか?」
「おっと、言ってなかったか。あの三島みらいが今日からキャンプに合流するんだよ」
「三島みらい……って誰です?」
「知らないのか。三島監督の娘だよ。今シーズンからこのチームのユニフォームを着る事
になったんだ。」
 三島監督とは東京ガイアンツの監督である三島晴夫の事だ。
 そして三島晴夫と言えば現役時代は東京ガイアンツの四番打者として一時代を築いた
スーパースターで、さらに監督としても同球団を日本一に導いた。栗田がその輪の中に
加わる事は結局無かったのだが、ドラフトで指名してくれたのは今でも感謝しているし、
キャンプで一度だけ「キミが栗山君かい」と声をかけてもらった事は一生の思い出になる
だろう。結局、その名前を引退までついぞ覚えてくれなかったのは栗田にとって心残りで
あるのだが。
 それはともかく、栗田にしてみれば驚きだ。三島監督に娘さんがいたのは記憶していた
が、まさか父親と同じく野球をしているとは知らなかった。しかも女子プロ野球選手で、
自分の指揮するチームに入団していたとは。
0049「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第三話2010/10/06(水) 23:35:53ID:Owtdbspa
2/7
 とは言え、栗田が知らないだけで女子野球ファンの間ではすでに知られた存在であり、
高校卒業後の進路が注目されていた。
 もちろん人気だけでなく、女子高校野球選手権大会で神山学園の優勝に貢献した実績も
評価してのドラフト1位指名である。

 ところが、栗田には一つ引っかかった所があった。
「なんでまた今日からなんですか」
「大学受験があるから……というのが表向きの理由だ」
 これはあくまで表向きの理由……すなわち、実際は注目度の高い三島晴夫の娘がさらに
注目を集めるためにキャンプ参加の時期をこの日にずらしたというわけである。
 まあ、注目される選手がいるのはそれ自体悪い事では無いだろう。
「ところで、選手としての実力はどうなんですかね」
「さあ……それはちょっと見てみないとわからないな」
 曖昧な緒川の返答に、そんな事で良いのか。と栗田は思った。

 練習の時間が近づき、徐々に選手たちもグラウンドに顔を出す。
「ちぃーっす。栗田監督、緒川コーチ」
 ヴィーナスの主砲、御堂あづさは朝からテンションが高い。
「御堂。監督に向かってちぃーっすとは何だ」
 あづさが緒川にたしなめられる。
「まあまあ。良いじゃないですか、緒川さん」
「しかしだな、栗田……」
「ほな、行ってきまっさ」
 すっかり見慣れた光景に、栗田は苦笑いする。
0050「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第三話2010/10/06(水) 23:36:52ID:Owtdbspa
3/7
「おっ。選手が出てきたな」
「三島みらいは何処だ」
「いたぞ。カメラを向けろ」
 待ち望んだアイドルの登場に、報道陣やファンの視線が一点に集まる。
 周囲のざわめきにも慣れているのか、当の三島みらいは平然とした表情だ。
「はじめまして。三島みらいです。よろしくお願いします。」
「あ、はじめまして。監督の栗田永一だ」
「色々ありまして、遅れてしまいました。すいません」
「いや、それは全然構わないよ。がんばってくれ」
「はいっ」
 その少女は、野球選手というには少し華奢な身体であるが、あの三島監督の娘らしく
明るく元気そうだな。というのが栗田のみらいに対する第一印象だった。

 まずは守備練習。みらいは父・三島晴夫の現役時代と同じ三塁の守備位置につく。
 みらいがノックを受けるたびに、観客席からどよめきが起こる。
「おおーっ。ナイスキャッチ!」「みらいたーん。がんばれー」
「おぉ……あのやわらかいグラブさばきは、往年の三島晴夫の生き写しじゃあ……」
 中には感涙するオールドファンもいたようだ。

「なんやねん。正面に来たボールを捕ったくらいでギャアギャアと」
 その光景を苦々しく見ているのは御堂あづさだ。不動の四番であり、レギュラー三塁手
でもある。
 守備面でも攻撃面でも、もちろんプロポーションでも何一つ負けていないはずの自分が
注目度で負けるなど、己のプライドが許さない。
「せや、次は打撃練習やったな(ニヤリ)」
 あづさは、何かを企むような顔をした。
0051「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第三話2010/10/06(水) 23:37:51ID:Owtdbspa
4/7
 そして、打撃練習。あづさはポンポンと打球をスタンドに運ぶ。
 このパワーなら男子選手に混じっても遜色ないかもしれない。と、栗田はいつも思う。
 続いて、三島みらいが打席に向かう。果たしてどのようなバッティングを見せるのか。
「あ、栗田監督。ちょっとええですか」
 打撃練習を終えたあづさが、打撃投手を務める栗田に近寄る。
「なんだ? いつぞやの一打席勝負のリベンジか?」
「いや、それはまた今度っちゅうことで……それより、打撃投手を代わってもらおう思い
まして」
「え? まあ、それは別にかまわないが」
 打者が打ちやすいようにコントロールできるのか? と栗田が一応訊くと、高校時代に
は投手も兼任していたの事。それなら大丈夫か。納得した栗田はグラウンドの外へ。
 だが、その考えはすぐに覆される。
「くらえっ!」
「ひゃあっ」
 打席のみらいは自分の体に向かってくるボールに仰け反った。
「どないしたんや。腰が引けとるで」
「こ、こんなの、打てないですっ」
 涙目で訴えるみらいだった。
 と、その時。
「危険球キター!」
「すないぽktkr」
「僕達のみらいたんに何をするだー!」
「当たったら危ないじゃないか!」
「あやまれ! みらいたんにあやまれ!」
「ぶつけてリタイアさせるつもりか!」
「ババアの嫉妬みっともねーぞ!」
 みらいのファンと思われる観客から野次が飛んだ。
 ぶちん。
「じゃかましわーっ! 鼻から指突っ込んで奥歯ガタガタ言わせたろかっ!」
 あづさがキレた! どうやらババアという言葉に反応したらしい。
0052「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第三話2010/10/06(水) 23:38:54ID:Owtdbspa
5/7
「お、おい……御堂」
 一旦グラウンドの外へ出ていた栗田だったが、あづさを止めに再度グラウンドに入ろう
とする。
 ところが、
「お、お願いします。御堂先輩!」
 バットを強く握り直し、なおも打席に立つみらいの姿があった。
 その真剣な眼差しに、栗田も野次を送っていたファン達も黙ってしまった。
「ええ根性してるやん。ほな遠慮せんといくで」
 あづさが大きく振りかぶる。みらいはグッと身構える。
(ギリギリまで見極めて……)
 ボールはまたしてもみらいの体に向かって飛んでくる。
 危ないっ。投げたあづさがそう思った瞬間、みらいはその体をわずかに捻って紙一重で
ボールをかわした。
「はぁ、はぁ、……なんとか避けれました」
「へぇ……中々やるやん。もいっちょいくで」
 あづさの声にみらいはもう一度構え直す。
「くらえっ!」
(またインコース……でも今度はストライクゾーンだ。
 みらいは思い切ってバットを振った。
 しかし、その球はバットに当たる寸前でふわりと落ちた。
 カーブだった。みらいは空振りした。
「変化球なのに思わず体が仰け反りそうになりました……」
「まあ、そういうこっちゃ」
 高校時代はインコースも難なく打ち返していたみらいだったが、やはりプロではこの
ままでは通用しないだろう、と悟った。
 その後もあづさの熱のこもったピッチングに対し、積極的に挑んでいくみらいの姿が
あった。そして時折、とんでもないインハイの球を大根切り打法で打ち返す。父親譲りの
悪球打ちである。
「なかなかやるやんけ。でもまだまだレギュラーの座は譲らんよ」
「はいっ。簡単にレギュラーを貰えるならプロに入った意味がありませんっ」
「ほー、言うてくれるやん。ほなビシビシ行くで」
 ここに、御堂あづさと三島みらいの師弟コンビが誕生した……?
0053「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第三話2010/10/06(水) 23:39:56ID:Owtdbspa
6/7
「さて、どうしたものか」
 その夜、宿泊先の部屋で栗田は一人迷っていた。二日後の練習試合のオーダーについて
である。
 ちなみに昨年の最終戦のスタメンは、以下のようであった。なお、1〜8番はシーズン
通してほぼ不動のオーダーである。

 1番ショート、小宮奈美。
 2番セカンド、川原恵美。
 3番センター、大木姫子。
 4番サード、御堂あづさ。
 5番ライト、マクスウェル。
 6番ファースト、小松田沙織。
 7番レフト、中本寛子。
 8番キャッチャー、丸山みのり。
 9番ピッチャー、大咲さくら。

 このオーダーで日本一になり、オフにも三島みらいの加入以外に選手の異動が特に無い
のだから、普通に考えれば怪我や余程の好調・不調でもならなければ入れ替えるべきでは
無いだろう。
 三島みらいはあくまで内野の控えと栗田は考えた。
 いくらプロ野球が興行とはいえ、そこは実力の世界である。
 それに、終盤に代打で登場させたほうが盛り上がるかも知れない。
 ……などと考えていたその時であった。

 コンコン。誰かが栗田の部屋の扉をノックした。
「はい……?」
 こんな時間に誰だろう、と栗田は思った。
 返事が無いので栗田自ら扉を開けに行く。
「おにぃちゃん……みぃ、ねむれないの」
 扉の前に立っていたのは水色のパジャマを着た三島みらいだった。右手は目をこすり、
左手はクマのぬいぐるみを持っている。寝ぼけているようだ。
「なんだ三島か。自分の部屋に戻るんだ」
「やだ。おにぃちゃんと一緒じゃなきゃねむれない」
 環境の変化と注目度ねの高さで不眠症になったのかも知れない。
 言うまでもなく栗田はみらいの兄では無い。みらいが寝ぼけているだけだ。
 ちなみにみらいには同じくプロ野球選手の兄と、プロゴルファーのもう一人の兄がいる。
「昔みたいに一緒に寝ようよう」
 重ね重ね言うが、みらいは寝ぼけているに過ぎない。
0054「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第三話2010/10/06(水) 23:40:55ID:Owtdbspa
7/7
「おいこら、何してんだ」
「おにぃたん……すぅ」
 みらいは栗田のベッドの上に倒れると、そのまま寝息を立てた。
「ったく。しょうがないな」
 おい。相手は高校を卒業したばかりの……しかも、これから指導する選手だぞ。
 栗田には弟はいるが、男二人の兄弟だったので、妹というものに憧れがあったのだとか
そういう事はここでは関係ない。関係ないはずだ。

 栗田はみらいの小さな体を動かし、布団をかけてやった。
 あくまで布団をかけただけだ。それ以外はなにもせず、やがて自分も眠りについた。

 新しい朝が着た。希望の朝だ。
「んん……むにゃむにゃ……もう投げられな……ハッ」
 栗田は目が覚めた。
 その隣には三島みらいが寝ていた。すやすやと、天使のような寝顔で眠っている。
「何もしてない。俺は何もしていないんだ」
 栗田は誰かに言い訳をするかのように独り言をつぶやいた。
「うーん……」「!?」
 みらいが目を覚ました。栗田は何故か焦っている。
「あれ? なんで監督がいるんでしょう……」
 どうやら昨夜の事は覚えて無いらしい。
「ここは俺の部屋で、寝ぼけた君がおにぃたんねむれないあうあう……」
 弁明モードに突入。かなり理解に苦しむ日本語だが、みらいが寝ぼけて部屋に来たのは
事実である。
「な、何を言ってるんですか?」
 みらいは栗田に疑いの眼差しを向けた。
「と、と、とにかく、この事はみんなには内緒で……」
 栗田は何故だか全身に嫌な汗をかいている。
「……は、はい。わ、わかりましたっ」
 みらいは少し考えた後、いつもの明るい声で答えた。
 そして、周囲にバレないようにそっと自分の部屋へと戻った。

「どうしてこうなった……」
 栗田は頭を抱えた。
 クマのぬいぐるみはベッドの上に放置されたままだった。

 つづく。
0055創る名無しに見る名無し2010/10/06(水) 23:45:36ID:Owtdbspa
投下終了です。
次回はやっと試合ができそうです。
0056創る名無しに見る名無し2010/10/07(木) 20:35:29ID:6UFNQTud
>>43
考えているがルールを理解しないとかけない
0058創る名無しに見る名無し2010/10/08(金) 21:32:28ID:4C5sBC72
エクストリーム・アイロニングとかあったな
小説や漫画になってないのかな
0059創る名無しに見る名無し2010/10/10(日) 00:14:47ID:bxokMTWt
「いっしょにあいろにんぐ!」

行方不明になった伝説のエクストリームアイロニストの父・鉄人を
探すため、鉄哉は突然現れた幼女型アイロン台・アイと共に
世界最高峰でのアイロン掛けに挑……いや、無いな
0061創る名無しに見る名無し2010/10/10(日) 12:47:07ID:+qIQvVKp
そんでageてねえし!
0062創る名無しに見る名無し2010/10/10(日) 22:46:25ID:bxokMTWt
みなさん
囲碁もスポーツらしいですよ
0065創る名無しに見る名無し2010/10/17(日) 18:59:31ID:6sWpOqit
と言うわけで
今年のタイガースは終了です。。。
…創作に専念するか
0067創る名無しに見る名無し2010/10/20(水) 02:13:04ID:MehuK0XQ
結局パのCSはロッテが勝ったのかー

あとは中日と巨人のどちらが勝つか、だな
0068創る名無しに見る名無し2010/10/20(水) 06:52:18ID:ksUm7NdI
ロッテマジかよ!
ホークス来ると思ってたのに……。

つーか現役を知ってる選手が監督やってるとなんかいろいろと複雑w
秋山さん頑張れw
0070創る名無しに見る名無し2010/10/21(木) 23:52:13ID:SMDwSHhr
あっ
セのCSは中日が王手みたいですね
このまま3連勝で決まるか
それとも巨人の大逆転なるか
0075創る名無しに見る名無し2010/10/25(月) 22:27:45ID:ZUDg7W6+
高校野球スレに負けじと頑張ろうぜ
0076「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第四話2010/10/31(日) 23:52:51ID:kZF3ZqLs
1/7
「シャイニングヴィーナス、恐れるに足らず。私に先発させてください」
 園原香澄は自信満々に言い放った。
 宮崎県都城市でキャンプ中の女子プロ野球チーム・千葉スティンガーズは、今年初めて
の実戦となる練習試合を翌日にひかえ、監督以下、選手、コーチを集めてミーティングを
していた。
「相手は日本一の打線だぞ。本当に抑えられるのか?」
 千葉スティンガーズ監督の松芝清志郎は聞き返した。
「大丈夫です。1点も……いや、ヒット1本すら打たせませんよ(キリッ」
 ちいさ……控えめな胸を張り、園原は即答した。
「ピッチャーのみんなはどうだ?」
 松芝監督は投手陣に話を振ってみた。
「私は、かまわんと思います」
 黒河ちひろは落ち着いて言った。マウンドに立てば闘志溢れるピッチングでチームを
牽引する“魂のエース”である。
「カスミならやってくれマスネー。期待シテマース」
 マリア=ドゥリトルは軽やかな調子で言った。球速の女子最高記録を持つ、女子野球界
きっての速球派投手だ。
「わたしは調整が遅れてるんで……園原さん、どうぞ」
 倉橋まどかは控えめに答えた。アンダースロー投手だが、そのリリースポイントは地上
わずか数センチであるという。
「別にええけど、尻拭いは勘弁な」
 チームの不動のストッパー安本育美が、かったるそうに言った。
 20代とは思えぬ貫禄ゆえか、投手陣のなかでも一目置かれた存在だ。

「ははっ。リリーフの皆さんには休養を差し上げますから」
 園原は語気を強めて返した。
 いったいその自信はどこからやってくるのか。
 松芝監督は、先発オーダー表に名前を書き入れる。
「よし、先発投手は園原香澄……と」
0077「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第四話2010/10/31(日) 23:53:45ID:kZF3ZqLs
2/7
 そして、試合が始まった。
 先攻は東京シャイニングヴィーナス。日本一になった昨年の不動のオーダーで臨む。
 対する千葉スティンガーズはシャイニングヴィーナスと同じ東地区だが、昨年は3位に
終わった。
 巻き返しを図りたい松芝監督は、ともにプロ3年目の西浦はづき、早坂絵梨菜の2人を
それぞれ1番と2番に抜擢し、若い力でチーム力の底上げに期待する。

 1回表。マウンドには千葉スティンガーズ先発の園原香澄が上がった。
「あっはっは。ギッタギタにしてやんよ」
 マウンド上の園原は威勢良く声をあげ、ちっちゃ……あまり主張しない胸を反らせる。
 東京シャイニングヴィーナスのトップバッター、小宮奈美が打席に入る。
 スイッチヒッターの奈美は、左投手の園原がマウンドに立ったので右打席に入った。
「先手必勝っス!」
 初球だった。簡単にストライクを取りにきた直球を躊躇いも無く振り抜く。
 鋭い打球が三遊間を抜けていく。
 サードの森口史恵も、ショートの西浦はづきも、一歩も動けないほどのクリーンヒット
だった。
「あれ……?」
 マウンドの園原は、打球の方向を見ながら小首をかしげる。
「何やってんだい! 先頭打者に簡単に初球を打たれやがって」
 キャッチャーの河内玲子がホームベース上から園原に向かって怒鳴った。
 この日は正捕手の橋詰祐美ではなく、ベテランの河内が先発マスクを被っていた。
「そんなんだからいつまで経っても敗戦処理なんだよお前は!」
「うう……カワさん、怒らないで下さいよお……」
 園原はその気迫に押されて少しビビっている。
 さっきまでの威勢はどこへやらである。
「ほらっ、シャンとしなっ」
「シャン!」
「口で言うヤツがあるかい、ったく……」
0078「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第四話2010/10/31(日) 23:54:39ID:kZF3ZqLs
3/7
 呆れた河内が座り、試合再開。
 2番バッターの川原恵美が右打席に入った。
「……ここは確実に送る」
 コツン。恵美は一塁線へバントで転がした。ファーストのモラレスが捕って、一塁の
カバーに入ったセカンドの堀田由紀奈にトスした。
 その間にランナーの奈美は二塁へ。
「……バント成功」
 淡々と仕事をこなし、ベンチに戻る恵美。
「ナイスバントです〜(ぱちぱち」
 次打者の大木姫子が手を叩きながら恵美に声をかける。
「……これが私の仕事だから」
「相変わらずクールですねぇ、川原さんは」
「くーるー。きっとくるー」
「え? なんですか」
「……なんでもない、ベンチに帰る」
 頭の上に?マークを乗せながら、3番バッターの姫子が左打席へ。
 だが、打席に立つと集中し、雰囲気まで変わるのが姫子の姫子たる所以である。
「ヒメー。ランナーはウチが返すさかい、残しときやー」
 ネクストバッターズサークルには4番打者の御堂あづさが入っている。
 姫子は0ストライク2ボールからストライクを取りにきた甘い直球を打った。
 あづさの言いつけを守ったのか、園原の球を流し打ちでレフト前に運ぶ。
 これで1アウト一塁三塁になった。
「どうぞ〜、あづささん。決めてくださいね〜」
「っしゃーっ。任せたらんかい」
 気合いを入れ、右打席に入るあづさ。
 マウンドの園原は息を整える。
「久しぶりやね、園原。今年も打たれてもらうで」
「うう……、思い出させないで……」
0079「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第四話2010/10/31(日) 23:55:37ID:kZF3ZqLs
4/7
 それは昨年のレギュラーシーズン最終戦だった。
 千葉スティンガーズのホーム球場である千葉県千葉市天台球場で行われた、東地区1位
の東京シャイニングヴィーナスとの第12回戦。
 すでに順位が確定し、後は御堂あづさのシーズン本塁打新記録なるかというところに
注目が集まっていた。
 試合は序盤から東京の打線が繋がり、大量リードを奪う。そして、9回(最終回)表の
マウンドには園原香澄が立っていた。だって敗戦処理だから。
 2アウトになって打席には4番の御堂あづさが立った。
 訓練された千葉ファンはこの時すでにホームランを覚悟していたという。
 千葉スティンガーズベンチは不名誉な記録は作りたくないと敬遠を指示した。
 しかし園原は無謀にも勝負を選択した。だって園原だから。
 迷い無く振り抜いたあづさの打球は、それは美しい放物線を描いてバックスクリーンに
飛び込む。
 あづさは31本の女子プロ野球シーズン本塁打新記録を達成し、一方の園原は新記録を
献上した投手としてファンの脳裏に刻まれた。

「新記録、ありがとさん」
「べ、別に私一人で31本打たれたわけじゃないんだからっ」
 回想が終わり、試合再開。
 園原は気を取り直して投球を続ける。慎重になっているのか、ストライクが入らない。
「へいへ〜い、ピッチャービビっとる〜♪」
 あづさは打席から園原を野次る。園原は少しムッとしている。
 だが、3球続けてボールになり、ストライクゾーンで勝負せざるを得なくなった。
 園原香澄、万事休すである。
 でも投げるしか無い。園原は腹をくくった。
 4球目は直球が低めに決まり、なんとかストライクを一つ取った。
 ここを抑えて、開幕投手……は無理でもローテーション入りに一歩でも近づきたい。
 故郷でお腹を空かせて家族の為にも、女子プロ野球の世界で活躍せねば……。
 いや、そんなお涙頂戴な展開になってもらっても困るのだが。

 カッキーン。
 野球場に快音が響き渡る。先制のスリーランホームランである。
「やっぱホームランは気持ちええね。練習試合やから金にはならんけど」
 ダイヤモンドをゆっくりと回るあづさ。園原はそれを恨めしそうに睨む。
「ど、どうして私ばかりこんな目に遭わなくちゃいけないのよ……」
 当然である。格が違うのだ。
0080「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第四話2010/10/31(日) 23:56:48ID:kZF3ZqLs
5/7
「長くなりそうやな。アタリメ買ってくるわ」
 千葉スティンガーズの安本は、そう言ってベンチから球場の奥へと消えていった。
 なんというフリーダム。
「や、安本。ちょっと待て」
 スティンガーズ投手コーチの小野山悟史が、呼び戻しに行こうと試みる。
「まあまあ小野山さん、やっさんのことじゃから、あげん言いながらも……」
 右腕で投げる仕草をしながら黒河が小野山を呼び止めた。
 生まれ故郷である宮崎の訛りが出てしまい時々聞きづらいのはご愛嬌。
 あと、安本はやっさんと呼ばれているらしい。
「なるほど、ブルペンか」
 小野山はそう言って納得したが、安本は本当に売店でアタリメを買っている。
 ちなみに、アタリメというのはいわゆるスルメの事だが、「する」では縁起が悪いので
「あたり」と言い換えたのが語源だ。へぇー。

 さて、試合のほうはどうなったであろうか。
「いやぁぁっ。うっちゃらめぇぇぇっ」
 園原はその後も滅多打ちにされていた。
「もう限界ちゃうんか? 楽にしたるわ」
 打席にはふたたび御堂あづさが立っている。
 つまり、打順が一巡していたのだ。
 尚、園原がここまで取ったアウトは送りバントの二つだけだ。
「これじゃあ、どうしようも無いな……」
 一塁側ベンチから松芝監督が出てきた。
 練習試合だし1イニングは任せようと思っていた松芝監督も、さすがにこれでは我慢の
限界のようだ。
「か、監督。私の実力はこんなものではありません! 本気を出せば必ずや……」
 だったら何故最初から本気を出さないのか。
「さあ、行こうか。園原」
 にこやかな表情でやさしく語りかける松芝監督。あたかも駄々をこねる子供を諭す親の
ようである。
「もう一人だけチャンスをくださいっ! あの打者だけは抑えないと気が済みません!」
「はっきりと言う。お前には先発投手としての格が無い」
「そ、そんな……」
 がっくりと肩を落とす園原。
「河内、お前は教育係としてコイツをみっちり鍛えるんだ」
「はい。わかりました」
 河内は頷いた。
「それじゃあ園原、今から戻って練習だよっ。ビシバシいくから覚悟しなっ」
「いやあああああああっ。敗戦処理はいやあああああああっ。先発がいいのっ。マウンド
降ろさないでっ。やめてえええええええっ」
 園原は、文字通りマウンドから引きずりおろされた。
0081「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第四話2010/10/31(日) 23:58:04ID:kZF3ZqLs
6/7
「それでは参りましょうか、マリア」
「ソウですネ、ユミ」
 ここで、千葉のバッテリーはマリア=ドゥリトルと橋詰祐美に交代した。
 マリア=ドゥリトル――3年前、時速151km/hの女子野球史上最速記録をマーク
した(スピードガンの故障でなければ)右腕投手だ。その投球の約90%がストレートと
いう真の速球派投手である。
 余談だが、千葉ファンからは親しみと尊敬を込めて“マリア様”と呼ばれている。
「マリア様が投げてる……ナンチテ」
 ……三塁ランナーの川原恵美がつぶやいた。

 結局、ドゥリトルが四番のあづさを速球で詰まらせてファーストへのファールフライに
打ち取り、長い長い1回表は終了した。
 東京シャイニングヴィーナスは初回に打順一巡の猛攻で7点を先制した。

「よーし、気合い入れていくかー」
 東京先発の末永陽子がマウンドに上がる。去年は大咲、三上に次ぐ先発3番手で起用
された、直球を主体に時折カーブを混ぜた小気味良いピッチングが持ち味の右投手だ。
 千葉スティンガーズの1番打者は西浦はづき。2番打者の早坂絵梨菜と共に若い俊足の
スイッチヒッターを上位に並べている。
「あの二人は去年までは代走や守備固めが主だったな」
 三塁側・東京ベンチの緒川コーチが、昨年の千葉スティンガーズとの対戦を思い出し
ながら言った。
「なるほど。俊足の選手で塁をかき回そうってつもりか」
 シャイニングヴィーナス監督の栗田は内野安打を警戒し、内野手に前進守備を指示。
 1番の西浦は速球に押されてサードゴロ、続く2番の早坂はセーフティバントを試みた
ものの、ピッチャー末永が素早く反応し処理してアウトにした。
「ツーアウトー! 気を抜かないでいきましょうです!」
 キャッチャーの丸山みのりがナインに檄を飛ばす。
0082「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第四話2010/10/31(日) 23:59:30ID:kZF3ZqLs
7/7
 千葉の3番はシュワルツ。ドイツ出身で、愛称はファーストネームのシャルロッテを
縮めて“ロッテ”と呼ばれている。たまに“ロッチ”と呼ぶ人もいるが、それは偽物なの
で注意されたし。
 大好物はビールとソーセージという余りにも典型的なドイツ人像を醸し出しているので
国籍詐称疑惑が持ち上がっているとかいないとか。
 ちなみに本名はシャルロッテ=ヴォルフガング=フリードリヒ=フォン=シュワルツと
いう長ったらしい名前なのだが、できれば忘れていただきたい。

 末永と丸山のバッテリーは左打席のシュワルツに対してインハイへの直球で押した。
 シュワルツの打球は、高く上がったもののセンター大木姫子の守備範囲だった。
「いい感じじゃないですかね」
 栗田は末永の1回裏のピッチングについてまずまずという評価を下した。
「ああ、初回はこんなもんだな。課題は中盤以降だ」
 シャイニングヴィーナス投手コーチの久山博が栗田に話しかける。

 2回表、ドゥリトルはシーズン前とはいえ女子野球界では類まれなる剛速球で並み居る
打者を次々と打ち取っていく。
 一方の末永もそれに触発されたのか、ひたすらストレートを投げ込む。

 1回表の7点をノイズとして取り除くと、試合は投手戦の様相を呈してきた……いや、
無理があるな。
 しかし、まだ試合は始まったばかりだ。
 これから何が起こるかは、誰にもわからない。

 つづく。
0083創る名無しに見る名無し2010/11/01(月) 00:00:56ID:OJEILGJE
投下終了です。

園原投手の次回登板にご期待ください。
0085創る名無しに見る名無し2010/11/02(火) 04:23:21ID:PtKoJQdR
俺的に中日はまだサムソンやソンドンヨルのイメージがチラついて困るw

0089創る名無しに見る名無し2010/11/07(日) 23:56:26ID:aVw2XkLy
千葉ロッテマリーンズ日本一おめでとう!
0090創る名無しに見る名無し2010/11/08(月) 05:09:58ID:6tbYjXCU
巨人―毎年優勝候補。近年はバランスのよい打線を組むがやはり重量打線はチームカラーか。

中日―言わずと知れた投手王国。昔からリリーフが強い。何故か外国人の長距離砲が必ず一人居る。

阪神―過去のダメ虎っぷりを払拭し、現在は猛虎に相応しい強さ。打線の威力は巨人以上か。

ヤクルト―セ・リーグの不気味なチーム。毎年地味に強い。気が付いたらさりげなく優勝してた年も。古田が抜け少し勢いは落ちたがその遺伝子は受け継がれている……はず?

横浜―かつての栄光は消え失せた感は拭えない。マシンガン打線と呼ばれた強力打線は過去の遺物。しかしながら、村田を始め強力な打者は居たりする。

広島―球界一厳しいと言われる練習量は本物か。選手は優秀なのが多い。江藤、金本、新井と四番が次々と移籍していく呪いがかかっている。栗原ェ……。
なぜか球界屈指の本格派のエースが常に一人居る。
0091創る名無しに見る名無し2010/11/08(月) 22:23:21ID:H2nL2gjJ
>>90
パ・リーグは……?
0095創る名無しに見る名無し2010/11/12(金) 22:48:20ID:abXrFBbV
ネタも無いのにageてみたり…

さて今年のストーブリーグはどうなりますかねぇ
0099創る名無しに見る名無し2010/11/14(日) 00:18:00ID:LwBfIXo0
というわけで
ロッテがSKを下してアジア王者(で良いのかな?)になりましたが

そういえば来年アジアシリーズが復活するとかしないとか
0103創る名無しに見る名無し2010/11/18(木) 20:40:46ID:I3/QV3fW
そんな事より
あの広島が…ついにFA選手の獲得に乗り出したみたいですよ
0105創る名無しに見る名無し2010/11/18(木) 23:57:03ID:I3/QV3fW
横浜の内川と今日交渉だとか

ソフトバンクも手を挙げそうだけど
西武の細川が本命&多村の動向次第みたいだね
0107創る名無しに見る名無し2010/11/20(土) 23:04:42ID:ZLUNv90/
いつも野球の話ばっかだけど
Jリーグでは名古屋グランパスが初優勝らしいです
0109創る名無しに見る名無し2010/11/21(日) 19:24:01ID:LOHjtNyX
というわけでキックベース部とかどうだろ
まずルールを統一しないといけないが
0110創る名無しに見る名無し2010/11/21(日) 21:05:36ID:LOHjtNyX
部活モノじゃなくて、その町全体でキックベース盛んとか…
んで5〜10人でチーム作って地区内のリーグに参加みたいな形でも良いかも
0111創る名無しに見る名無し2010/11/21(日) 21:13:57ID:LOHjtNyX
そうだな
町の名前は夢ヶ森(ゆめがもり)町で

…相変わらず若い世代無視だなおい
0112創る名無しに見る名無し2010/11/21(日) 23:54:24ID:LOHjtNyX
まあいいや
なんかネタ思いついたら
ちょこちょこ書いておこう
適当に使って下さい
0113創る名無しに見る名無し2010/11/22(月) 14:09:13ID:K5n2MHnx
>>110

ここはS県H市夢ヶ森町。
――夢ヶ森商店街
かつては賑わいを見せたこの商店街も
不況や大型ショッピングモールの進出により
過疎化が進みつつあった。
そんな折、町内会長の提案で始まったキックベース大会が思いのほか盛り上がる。
そこで会長は考えた。
このキックベース熱を冷ましてはならないと。
そしてキックベース大会をこの町の名物にしようと。

「ここに、夢ヶ森キックベースリーグ(YKL)の開幕を宣言する!」

0114創る名無しに見る名無し2010/11/23(火) 15:04:14ID:iBBj9Z1W
アジア大会で女子サッカー日本代表が優勝しました

女子サッカーって…何かあったっけな
0118創る名無しに見る名無し2010/11/28(日) 17:44:33ID:A3vTeWAA
bjリーグのチームがいつの間にか16に増えてる…しかも来年また増えるらしい
島根スサノオマジックって名前がやたら気になるなー…つか島根にチームがあるんだ
0119創る名無しに見る名無し2010/11/29(月) 21:08:23ID:DEKzOvpi
なんでも最終的には各都道府県に1チームずつの
計47チームを目指すそうな…>bjリーグ
0121創る名無しに見る名無し2010/12/01(水) 23:40:35ID:jsEyM8Ib
内川→ソフトバンク
森本→横浜
に移籍する事が決まったようで

今年のストーブリーグはソフトバンクが優勝かしら
0123創る名無しに見る名無し2010/12/04(土) 23:18:07ID:aPAk1nat
>>113
なんか思いついた

☆小林飯店ブラックドラゴンズ
・夢ヶ森商店街にある中華料理店、小林飯店の従業員5名によるチーム。
「チームが試合に勝った翌日は全メニュー半額!」を謳い文句に連戦連勝の強豪。
0125「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第五話2010/12/12(日) 13:09:52ID:jW//ENwf
1/9
 東京シャイニングヴィーナス対千葉スティンガーズの練習試合は、3回裏まで終わって
7‐0とシャイニングヴィーナスが大量リードしていた。
 なお、この練習試合は両チームの得点如何に関わらず7回で終了となっている。

 千葉スティンガーズは4回から竹本真美子、野々宮美優、戸田理利子のセットアッパー
三人組、通称“TNTトリオ”を順番に繰り出す予定だ。
 まずは4回表、竹本真美子がマウンドへ。マリア=ドゥリトルに続いてこれまた速球派
の右腕だ。球速こそドゥリトルにには劣るものの、豪快なフォームから腕が千切れんばかり
に強引に投げ込む姿が印象的である。
 なお、千葉ファンの間では「もげるほど腕を振る」ところから「もげたん」と呼ばれて
いる。

「……速い。無理」
 4回表。東京シャイニングヴィーナスの先頭打者だった2番の川原恵美はかすりもせず
三振に倒れた。
「う〜ん。詰まらされてしまいました〜」
 続く3番の大木姫子はレフトフライに倒れた。
「何やってんねん。まかせんかい」
 ツーアウトから4番の御堂あづさがセンター前ヒットで出塁し、三者凡退は免れた。
「セッシャもスケダチいたしたくソウロウ」
 あづさに続けとばかりに初球を打った5番のエイミー=マクスウェルだが、ボール気味
の速球に押されてショートへのフライを打ち上げてスリーアウト、チェンジとなった。

 竹本の好リリーフで初回の大量失点がもったいない展開に……えっと、先発した投手は
誰だったか忘れてしまったが、まあいいか。
0126「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第五話2010/12/12(日) 13:10:54ID:jW//ENwf
2/9
 そして5回裏、シャイニングヴィーナスのマウンドには、依然として先発の末永陽子が
上がる。末永はここまで4イニングスでスティンガーズの打線をヒット2本、四球1個で
無失点に抑えている。

 この回の千葉スティンガーズの攻撃は、7番の大内澄子から始まった。
 かつては首位打者にもなった巧打者だが、近年は衰えを隠せず。スタメンを外れる事も
しばしばである。とは言え、「まだまだ若いモンには負けへんで」と気を吐く場面も度々
見せる。
 そんな大内が末永の速球を打ち返し、センター前に運んだ。ノーアウトの走者が出る。
 さらに、8番の橋詰が送りバントを決め、ワンナウト二塁となる。

「おハナ! 代打いくぞ、準備だっ」
「あ、はーい」
 千葉の松芝監督が、ベンチに座る新人選手に声をかける。
 おハナと呼ばれたその選手の名前は高島はな。
 弱冠15歳でプロ入りした“天才少女”だ。
「じゃあ、行ってきまーす」
 元気良くベンチを飛び出す高島。そしてヘルメットをかぶり、バットを持ち、左打席に
入った。
 その時、シャイニングヴィーナスのキャッチャー丸山みのりがタイムをかけ、マウンド
に向かっていった。
「末永さん、警戒してくださいです。この回から球のキレが悪くなってるです」
「あんな毛も生えてないようなガキには負けねーよ」
「生えてないかどうかは野球とは関係ないと思いますですが」
「んな事はわかってるって」
 ぺちっ。末永は丸山の頭を軽く撫でるように叩いた。
「アピールの為にもここは無失点で切り抜けましょうです」
「当然だろ。しっかり捕れよ」
「はいです」
0127「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第五話2010/12/12(日) 13:12:44ID:jW//ENwf
3/9
 丸山みのりは元気良く返事をし、ホームベースに戻った。そして、左打席に立つ高島に
声をかける。
「あの、毛は生えてるですか?」
「はい?」
「いえ、なんでも無いです」
「え?」
 いったい何のことだろうと思った高島だったが、すぐに気持ちを切り替え、ピッチャー
の投球に集中した。

 丸山は低めにミットを構えた。カーブのサインを送ると、末永はこくりと頷いた。
 末永の投じた球は、空中に弧をえがいてキャッチャー丸山のミットに吸い込まれた。
 高島はそのカーブを微動だにせず見送った。審判の右手が上がる。まずはストライク。
(見極めたですか。それならば……)

 末永さんの球種は基本的にストレートとカーブだけです。この二つを高低、内角外角と
投げ分けさせないといけないです。とは言え、投げたら行先はボールに聞いてくれという
大雑把なコントロールですので、これは結構キャッチャー泣かせです。
 さくらさんや英子さんはその点、投球術に幅がありますからリードしがいのある投手な
のですけどね。
 でも、末永さんはストレートに力のある投手ですので、それを軸にして組み立てること
ができるのは強みです。まあ、偶に棒球(ぼうだま)になることがあるのが玉にキズなん
ですけど……。

(次、高めのボールになるストレートです)
(オッケー。揺さぶろうって事か……慎重すぎる気もするけど)
 末永は2球目を投げた。サイン通り、高めに外れる威力のあるストレートだ。
 打席の高島は、思わずバットを出したが、あわてて止めた。
「おっと」
「スイングです!」
 丸山は三塁塁審にアピールした。三塁塁審の右手が上がる。カウントはツーストライク
になった。
0128「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第五話2010/12/12(日) 13:14:08ID:jW//ENwf
4/9
「う〜ん、まいったなぁ〜」
 一旦打席を外し、軽く素振りをする高島はな。とは言え、言葉ほど追い込まれてる様子
は無い。
 素振りを終えると、高島は再び打席に戻った。
(ツーナッシングですから、ボール球で様子見です)
 末永はストレートをアウトローに外した。が、高島が見送ってカウントは2ストライク
1ボールになる。
(ちっ、次で勝負だ!)
(はいです!)
 勝負球は高めのストレートを選択した。末永にとって最も直球の威力の出るコースだ。
 末永が4球目を投じ、高島も負けずにフルスイングで迎え撃つ。
 キーン。鋭いスイングでバットに当てるものの、ボールは打者の後ろに飛んだ。

「うわっ、チョー速いね」
 驚いた表情で打球の行方を追う高島はな15歳。
「よく当てましたです、高島さん」
 割と本気で関心している丸山みのりだった。
「おハナでいいよ。なんかみんなそう呼んでるし」

 5球目、丸山は今度は低めのストレートを要求。
 追い込まれている高島はバットを合わせた。またもやファール。今度は三塁側にボール
が転がっていく。
「なんか疲れてきたんだけど」
「じゃあ三振してくださいです、おハナさん」
「えー、そんなのイヤに決まってんじゃん」
 だったら、これです。丸山は今度はカーブを要求した。
 末永は、要求通りに高めから低めに落ちるカーブを投じる。
「いただきっ☆」
 待ってましたとばかりに、高島がカーブを狙い打った。
 打球は三塁線へと飛ぶ。そして、フェアグラウンドに落ちた。
 レフトの中本寛子が打球を追う。その間に、二塁ランナーの大内が三塁を回って一気に
ホームへと還って来る。ようやくスティンガーズに1点が入った。
「いぇーい♪」
 二塁に達した高島は高々とピースサインを掲げた。
0129「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第五話2010/12/12(日) 13:15:50ID:jW//ENwf
5/9
「さぁ、おハナに続けよ!」
 千葉のベンチから松芝監督の声がグラウンドに響く。よく通る声だ。
 そして打順は1番に戻って西浦はづき。
 西浦は初球からセーフティーバントを試みる。
 ボールは三塁線へと転がった。サードの御堂あづさが右手で掴んでファーストへ。
 だが間に合わず、セーフ。これで一塁三塁とチャンスが広がった。

 打席には2番の早坂絵梨菜。
 強く地面に叩き付けた打球はワンバウンドで前進守備をしていたショート小宮の頭の上
を越えた。高島が生還して2点目が入る。
「大丈夫です。まだ2点です」
 丸山みのりがナインに檄を飛ばした。

 3番のシュワルツが左打席へ。
「ここでホームランを打てば一気に3点ですの、そしたら2点差ですのっ」
 気合を入れるシュワルツ。本名はシャルロッテ=ヴォルフガング=フリー(以下略)。
「打たせるかよっ」
 マウンド上の末永が意気込む。ところが、ここで末永のコントロールが乱れる。結局、
シュワルツにフォアボールを与えてしまう。
「や〜の〜。打たせてくれませんですの〜」
 バットを置いて一塁へ歩くシュワルツ。本名はシャルロッテ=ヴォルフガ(以下略)。
「というわけでモラちゃん、後はよろしくですの!(ビシッ」
 シュワルツはこれから打席に向かうモラレスに敬礼のポーズを見せた。

「ハイ。モラちゃんデス」
 一死満塁となって千葉の4番、ジュリア=モラレスが右打席へ。
 千葉スティンガーズの誇る強打者であり、ホームランを打った後のパフォーマンスでも
おなじみ、子供からお年寄りにまで人気のベネズエラ出身選手だ。
(うーん……ホームランだけは、避けるです)
 キャッチャーの丸山は低めにミットを構えた。
 モラレスにとって低めは得意なコースなのだが、逆に力んで空振りを取れるコースでも
ある。
 丸山はストライクゾーンから外れる、バットが届かない所へのカーブを要求した。
 マウンドの末永は小さく頷き、セットポジションから投球を開始する。

 だが、その一球は少し高めに浮いてしまった。
「イタダキマース」
「だめです〜〜」
 丸山みのりの叫びもむなしく、強打者モラレスのバットが振り抜かれる。
0130「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第五話2010/12/12(日) 13:17:07ID:jW//ENwf
6/9
 鋭い打球がレフトスタンドに突き刺さった。満塁ホームランだ。
 主砲の一撃に、よっしゃー。一気に逆転するぞ。と盛り上がる千葉ファン。
 対する東京ファンは、まだ一点リードだ。慌てる事は無い。と静観している。
「コントロールミスですか」
「だな。この回から明らかに乱れている」
 東京側のベンチでは、栗田監督と久山投手コーチが相談している。

 対する千葉側のベンチでは、打撃コーチの松塚勇造が声を荒げた。
「いけるいける、絶対いけるぞ! ガンガンいこうぜ!」
 その声に乗せられたのか5番の森口、6番の堀田が続けてヒットを打つ。
 追い詰められたマウンド上の末永。その額からは汗がしたたり落ちていた。
 一死走者一塁二塁で打席にはこの回の先頭打者だった大内が再び立つ。
 “5回の壁”。末永の頭にふとそんな言葉が浮かんだ。
 昨シーズンも5回付近で連打を浴び、結局最後まで投げきれずリリーフ陣に後を任せて
ばかりだった。
 かと言ってエースの大咲さくらのように序盤は力をセーブしたり、球数を計算した投球
は技術的にも性格的にもできないのだが……。
 東京のベンチは動かない。シーズン中ならば交代でもいいが、練習試合という事もある
のか、栗田監督は腕を組んでグラウンドを見つめるだけ。

 ボール。ボール。ボール。ボール。――ボールが4つでフォアボールだ。
 これで再び満塁になり、打席には8番の橋詰祐美。
「末永さん……」
「だ、大丈夫……ふぅ」
 その時だった。今まで腕を組んで戦況を見守っていた栗田がベンチを出て、グラウンド
に姿を現した。そして、主審に向かって歩いていく。
「えっ……ウソだろっ。交代?」
 驚く末永を無視し、栗田は主審に交代を告げた……。
0131「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第五話2010/12/12(日) 13:18:37ID:jW//ENwf
7/9
「選手の交代をお知らせいたします。サード、御堂に代わりまして、三島。背番号33」
 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ。観客席から歓声があがる。
「な、なんでウチなんですか!」
 意表を突かれた御堂あづさが栗田に駆け寄る。
「まあ練習試合だし。1本打ったからもういいだろ」
「それはええですけど、なんでこのタイミングなんですか……」
「すまん。忘れてた!」
 んなわけ無いやろ。とあづさは思ったが、まあええわ。とベンチに戻った。
「えっと、エラーだけはしないようにがんばりますっ!」
「ん。でもあんまりきばんなや」
「はいっ」
 あづさにポン、とお尻をたたかれ、グラウンドへと駆けていく三島みらい。東京ファン
ならずとも目が離せないゴールデンルーキーの初お披露目である。

(フォアボールの後の初球はストライクを取りにくるのがセオリー……もらった)
 右打席の橋詰は試合再開の初球を思い切って引っ張った。
 その打球はサード強襲の痛烈なヒット性の当たりだった。サードの守備に入ったばかり
の三島みらいがこの打球をバックハンドで掴み、目の前の三塁ベースをしっかりと踏む。
 さらに流れるようなスローイングで一塁へ送球し、ダブルプレーが成立した。
 なんと、三島みらいが交代で登場した後わずか一球でピンチを脱した。

「やはりな。野球界には昔から“代わった所に打球が飛ぶ”という格言があるからな」
 名采配だと言わんばかりに栗田が力説する。
「んなもん。たまたまやろ」
 ベンチに座り他にやることも無いあづさがとりあえずツッコんだ。

「ふぅ……助かったぜ、三島」
「はいっ。でもっ、今のは打ち取った打球でしたからっ」
 末永の感謝の言葉に、みらいは笑顔で答えた。
0132「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第五話2010/12/12(日) 13:19:53ID:jW//ENwf
8/9
 6回裏。東京のベンチは城之内真緒をマウンドに送った。球界でも珍しい左のアンダー
スロー投手だ。
 大学時代には東京六大学リーグでも登板し、男子選手相手に三振を奪った事もある。
 ちなみに、昨シーズンはチームの守護神として堂々たる成績を残した。
「よろしくおねがいしまーす(ペコリ」
 左打席にはこの回の先頭打者、高島はなが立っていた。5回裏に代打で登場し、6回表
の守備では大内に代わってレフトの守備に就いていた。

「左対左……セオリーなら投手有利だが……」
 栗田は一つ前の打席でヒットを放った高島はなを警戒していた。
 彼だって元プロ野球選手だ。一目見れば打撃センスの良さくらいは解る。

(今のうちにプロの厳しさを教えてあげるです)
 キャッチャーの丸山はあらかじめ栗田から城之内登板の意図を聞いていた。
 左のアンダースロー投手である城之内真緒の武器はシンカーだ。独特の変化をするため
に、特に左打者にとっては非常に打ちづらい。
 城之内はゆったりしたフォームから、ストライクゾーンの端を使って攻めた。その投球
はさながらシーズン中のようだった。
 しかし、打者の高島はこの厳しい攻めに対して対してしつこくカットする。
「このバットコントロール、ただものでは無いな」
 栗田は高島の打撃センスに改めて目を見張った。いや、相手チームの選手を褒めている
場合ではない。こういうタイプの打者は球威の無い城之内にとっては厄介な相手だ。
 8球目がワンバウンドし、カウントは2‐3になった。ここでバッテリーは次の一球に
決め球のシンカーを選択、空振り三振を狙っていく。
 城之内が9球目を投げた。ボールは、左打者の膝元へと揺れて落ちていく。対する高島
は果敢にバットを振る。
(よしっ。三振だ……)
 ピッチャーの城之内は心の中でガッツポーズをした。
 ところが、高島のバットはシンカーを捉えた。その打球はファーストの小松田の頭の上
を越え、ライトを守るマクスウェルの前にポトリと落ちる。

「うわっ。当たっちゃったよっ」
 打った高島はとぼけているのか、一塁ベースへ駆けながら驚きの言葉を漏らす。
 ルーキーにプロの洗礼を浴びせる事には失敗した城之内と丸山のバッテリーだったが、
気持ちを切り替え後続を断った。
0133「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第五話2010/12/12(日) 13:21:14ID:jW//ENwf
9/9
 そして7回表、東京の先頭打者は5回の守備から途中出場している三島みらい。
「4番サード、三島」のアナウンスには一段と大きな拍手が起こっていた。
 一方、千葉の投手はなんとエースの黒河ちひろがマウンドに。
 シーズン前とは言え、そのボールは直球、変化球共に一級品だ。
 結局、注目された三島みらいのプロ入り初打席は三球三振に終わった。

 最終回、7回裏のマウンドに満を持して東京のエース大咲さくらが立った。
「みのりちゃん。なんだか久々な気がするんだけど、気のせいよね?」
「はい、気のせいです。さくらさん」
「大丈夫よね? 私、忘れられてないわよね?」
「何を言ってるですか? さくらさん、落ち着いて下さいです」
「うん。わかってるわ、みのりちゃん。さあ、バリバリ投げるわよー」
「はいです!」

 大咲さくらは、千葉スティンガーズ打線を三人で抑えた。
「え、それだけ!?」
 はい。それだけです。
 試合は7‐6で東京シャイニングヴィーナスが千葉スティンガーズに勝利した。

 つづく。
01341252010/12/13(月) 00:09:05ID:nJHMoI1A
連投規制により書き込めなかったのですが、
投下終了です。

それにしても盛り上がりませんね
0136創る名無しに見る名無し2010/12/17(金) 23:59:44ID:0PwmyOuw
ふと思ったが
エロ要素抜きの
女子相撲漫画って無い気がする
0137創る名無しに見る名無し2010/12/18(土) 08:24:23ID:GHHBP5ym
ていうかエロ漫画で見たことあるんだよな女子相撲漫画
つまり需要はあるってことなのかしら?
0138創る名無しに見る名無し2010/12/19(日) 05:17:12ID:XE4+ixUx
現実とは逆に土俵が男子禁制になっている世界の話なら
何の問題も無いんだろうか

となると必然的?に
主人公が男であることを隠して女だらけの相撲部に…
という話になるのかなあ
0139創る名無しに見る名無し2010/12/19(日) 10:52:00ID:XE4+ixUx
神奈川県代表・東海大相撲高校

どっちかというとラスボスっぽいな
0141創る名無しに見る名無し2010/12/19(日) 18:20:07ID:XE4+ixUx
>>139
・小暮山大門
自らを魔界よりの使者だと公言する東海大相撲高校相撲部顧問。部員からは閣下と呼ばれている。
相撲を通じて世界を制圧する予定だとか。
その顔は断じてメイクではない。
0142創る名無しに見る名無し2010/12/19(日) 21:06:06ID:XE4+ixUx
>>138
N〇Kで夕方から(現実とは逆で女だらけの)大相撲を
生中継してるのか…

一方でアマチュア相撲はスポーツブラとスパッツの着用が許可されてるから
恥ずかしくないもん!
0143創る名無しに見る名無し2010/12/19(日) 21:47:45ID:XE4+ixUx
>>138
主人公(♂)が相撲部に入るきっかけを考えてみようかな

まあ色々なパターンがあるよね
ベタなのは誰かの意志を継ぐって形か
あるいは元々別の目的で入ってたけど訳あって…って形かな
0144創る名無しに見る名無し2010/12/21(火) 16:08:43ID:Aj80lcBH
>>143
主人公に双子の姉がいて、相撲部のある高校に行く予定だった
ところがある日、姉と庭で稽古をしていた主人公が
たまたま勝ってしまい、以後姉は引きこもりに…
責任を感じた主人公が姉の代わりに姉が入る予定だった相撲部へ入部を決意する
というのはどうだろう
0145創る名無しに見る名無し2010/12/23(木) 00:19:23ID:HV2fzt0p
>>139
・藤ヶ峰千代乃
東海大相撲高校相撲部3年
高校相撲界に君臨する女王
必殺技の猫だましで幾多の力士を土俵に沈めた
完全無欠のクールビューティー
0146創る名無しに見る名無し2010/12/24(金) 22:27:24ID:PEKjU7E7
>>138
高知県代表・青龍義塾高校

読みは「しょうりゅうぎじゅく」
モンゴルからの留学生を集めて躍進中の新鋭校
0149創る名無しに見る名無し2010/12/26(日) 07:01:39ID:WdZOqdFK
元横浜ベイスターズの古木が出るとか出ないとか>Dynamite!
プロ野球ファン的にはカブレラvsローズとか見てみたいw

あと今日は競馬の一年を締めくくる有馬記念ですね
0151創る名無しに見る名無し2010/12/26(日) 22:04:16ID:WdZOqdFK
相撲以外にも空手やらボクシングやらプロレスやら様々な選手が集まってやる
異種格闘技戦がキャットファイトというイメージですね
むしろアンダーグラウンド的な雰囲気?
0152創る名無しに見る名無し2011/01/04(火) 05:37:53ID:XAixh7KA
保守
0153創る名無しに見る名無し2011/01/08(土) 21:27:04ID:BGF1pDE0
>>150
都内の某所にあるイベントスペース
そこはキャットファイトが開催されていた
主人公はレスリングの有力選手だったが判定に抗議して審判を殴り、その場から逃走、生きる為にキャットファイトに参加
しかしそこには色々な罠があった
こういう話もありそうだ
0154創る名無しに見る名無し2011/01/24(月) 03:26:26ID:0IlDWtf8
あげ
0155創る名無しに見る名無し2011/01/25(火) 13:55:39ID:jUy8kj0Y
規制解除っと…
さて、どうしましょうかね
0156創る名無しに見る名無し2011/01/25(火) 22:50:42ID:jUy8kj0Y
来期のタイガースは
久保田→小林宏→球児(藤川)で
KKKリレーになるようで
これに左の川崎を加えるとKKKKに!
…クワトロKやないか…
0158創る名無しに見る名無し2011/01/25(火) 23:24:42ID:Py6fDA/w
キャットファイトって名前の響きの割に実際出てくるのが熊とかゴリラばっかりでガッカリした事あるw
0159創る名無しに見る名無し2011/01/26(水) 18:29:20ID:v5q8uBok
>>153
負けたら輪〇みたいなシチュエーションしか思い浮かばないw

えーっと…健全な方向でいきましょう
0160創る名無しに見る名無し2011/01/26(水) 21:35:34ID:v5q8uBok
>>159
格闘技の細かい知識は無いので
イベントのシステムでも考えようかな
あくまで叩き台という事で…

・参加者はプレイヤー(男性女性共に可)とファイター(女性のみ)に別れて登録されます
・ファイターに登録するとカードが発行され、プレイヤーはオークションによってカードを手に入れます
・プレイヤーが持つ事ができるカードは1人5枚までです
・対戦はプレイヤー同士で行われ(1、3、5回戦があります)、プレイヤーが選んだファイターが登場し戦います
・対戦に勝つとプレイヤーは相手のカード(ファイター)を手に入れる事が出来ます
・試合に勝ったファイターは相手の戦績に応じた賞金を手にします
・試合に敗れて相手が不要だと言ったファイターはオークションに掛けられます
・カードの売買は特定の場所で主催者を通じて行う事ができます
0161創る名無しに見る名無し2011/01/26(水) 23:24:25ID:lemUeNBh
>>160
非合法の地下リングかな
自衛官や警官が潜入してそうだ

あとコスプレもありかな
セーラー服やカラーガードでのキャットファイトもありそう
0163創る名無しに見る名無し2011/01/27(木) 23:49:07ID:sPUjj6Ft
試合の無い時間帯はウェイトレスとかもするわけですよ
でもレスリング一筋の女の子なんてそんな仕事したこと無いし
「背高いし肩幅広いしこんな服着れないよぉ」って恥ずかしがったりするんじゃないかなー…とか
0164創る名無しに見る名無し2011/01/28(金) 22:35:54ID:+EwJzsy3
他のキャラも考えよう
不良をボコボコにしたために高校を退学になり
「強い奴に会いに行く」とだけ言い残し実家を出た少女
タイで出会ったムエタイの現役王者から本場の技を学んで日本に帰ってきた彼女だったが
制服を着れるからという理由でコスプレ格闘バーで働いている…みたいな
0165創る名無しに見る名無し2011/01/30(日) 07:46:12ID:YG3uV5wl
オリンピックで金メダル確実と言われながら銀メダルに終わって
日本中から物凄いバッシングを受けた元天才柔道少女とか

何を間違えたのか古武道系アイドル="こぶドル"として売り出された、
由緒正しき古武道の達人の一人娘とか

他にも色々といるんでしょうな
0169創る名無しに見る名無し2011/01/31(月) 23:39:24ID:XKKV+Fwq
というわけで
明日からプロ野球はいよいよキャンプインです
0171創る名無しに見る名無し2011/02/01(火) 08:42:29ID:dKfRjbhT
超絶技巧 と 世界最速技術64ビート の融合
@http://www.youtube.com/watch?v=cLbWRxOmJ10
Ahttp://www.youtube.com/watch?v=8B9BGJ-O6XM
Bhttp://www.youtube.com/watch?v=aMOI_94eTaA

世界一位 128ビートドラム
@http://www.youtube.com/watch?v=BA3xWue5ua8
Ahttp://www.youtube.com/watch?v=bBUcRzpytdY
Bhttp://www.youtube.com/watch?v=zMh8Lnn1iSU

400 BPM 16ビートドラム 史上初の実現
http://www.youtube.com/watch?v=BfYP71zuLZQ
0175創る名無しに見る名無し2011/02/06(日) 02:18:13ID:r39arhN5
>>173
店によるんじゃないか?
まあ、バーって言っても、格闘技とか流してるような
所は、そんなに堅苦しい感じではないんじゃないかとは
思うけど、行った事が無いんでわからないw

役にたてなくてすまんね。
0176創る名無しに見る名無し2011/02/06(日) 12:37:49ID:3+/xcKa7
>>175
いえいえ、わざわざありがとうございます
まあ、創作に繋がればラッキーくらいなノリの雑談ですので
0178創る名無しに見る名無し2011/02/17(木) 18:02:59ID:KnBVVB2F
プロレスを書きたいのに、裏を知っている自分が邪魔をして、
リンドリみたいな熱い展開を書ききれない・・・。
0179創る名無しに見る名無し2011/02/18(金) 23:46:14ID:Sm9Vui6T
久々に投下します。
0180「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第六話2011/02/18(金) 23:47:46ID:Sm9Vui6T
1/9
「そうそう。明日のイベント、監督は出ないんですか?」
「イベント?」
「はい。オープニングファンフェスタの事ですけど」
「あー……聞いて無いな。何のことだ」
「毎年この時期に、開幕戦で戦う両チームの選手とファンが球場前に集まるイベントが
あるんですけど」

 女子プロ野球リーグのレギュラーシーズン開幕戦を一週間後に控えたこの日、東京都内
にある専用グラウンドでの練習が終わって帰るところだった東京シャイニングヴィーナス
監督の栗田永一は、同球団のエースである大咲さくらから開幕前イベントの話を聞いた。
「ふーん。そうなんだ」
「あ。興味無いんですか?」
「そういうわけでは無いんだが……」
 栗田は複雑な気分だった。
 新監督だと言うのに球団のイベントに呼ばれてないだなんて……。

「おーい。さくらー、何しとん? 帰ろうやー」
 栗田とさくらが歩いているところに、チームの主砲である御堂あづさが近づいてくる。
「あ、あづさちゃ……ちょっと、どこさわってんのよっ」
「おっと、スマンスマン。手が勝手に動くねん」
 あづさはさくらに後ろから抱きついた。いやいや、手が勝手に動くとか病気だから。
しかし、さくらも満更ではない様子だ。
「おい、お前ら……何やってんだよ」
「あ、カントク。おったんですか」
「御堂……俺ってそんなに存在感無いのか?」
 栗田は、さっきの事がまだ引っかかってるようだ。
「じょ、冗談ですやん」
 あづさは苦笑いし、さくらから離れた。
「監督……? どうしたんですか?」
 沈んだ表情を浮かべる栗田に対し、さくらはが尋ねた。
「ん? ああ、何でもないよ。寮に帰ろうか」
 三人は練習場を後にし、シャイニングヴィーナス選手寮(栗田もここで生活している)
へと戻った。
0181「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第六話2011/02/18(金) 23:49:00ID:Sm9Vui6T
2/9
 ここ東京都江東区有明に10年前に完成したトーキョーベイスタジアム有明(有スタ)
は東京シャイニングヴィーナスのホーム球場であり、一週間後には横浜ブルーマーメイズ
とのレギュラーシーズン開幕戦が開かれる。
 球場前に設置された特設ステージには開始予定時刻30分前には既に人だかりが。
 とりあえずイベントが始まるまでしばし待つことにしよう。

 それから30分後、司会者と思われる男性がステージの中央に姿を見せた。
「さぁー。皆さんお待ちかねッ! 東京シャイニングヴィーナスと横浜ブルーマーメイズ
の選手達の登場ですッ!!」
 わああああああああああっ。特設ステージの最前列に陣取った両球団のファンが歓声を
上げると、その後ろを歩いていた通行人の一部が「おっ、なんだなんだ」とその足を止め、
ステージの方へと顔を向ける。

「はいはい。皆さん落ち着いて。それではッ、順番に登場願いましょうッ!!!」
 わー。わー。少し自重しながらも声と拍手で囃し立てる両球団のファン達。
 と、その時だった。会場にメロディが流れる。
 そして、ステージの衝立の裏側からアイドルっぽい衣装を着た女の子が現れた。
 さらにそのアイドルが歌い始めると、一部の観客のテンションが上がっていく。

「あれ? なんで急にアイドルショーみたいになってんだ?」
 つぶやいたのは栗田だった。なんだかんだ言いながら見に来てるじゃないか。

 ここからおよそ5分間の熱唱とダンスが続く。しばらくお待ちください。
 ・
 ・
 ・
「みんなー、声援ありがと。ミウミウの新曲“恋は直球ストレート!”来週発売だよっ。
私のファンなら最低十枚は買ってねっ☆ 初回限定特典は――」
 いやいやいや、この期に及んで宣伝かよ。なんという図々しいアイドルだ。と、栗田は
心の中でツッコんだ。
0182「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第六話2011/02/18(金) 23:50:54ID:Sm9Vui6T
3/9
「まずは横浜ブルーマーメイズのエースと言えばこの人しかおりますまいッ! みんなの
ミウミウこと浅沼美羽だッ!!」

「どうもー、浅沼美羽でーす。開幕戦は完封するから、しっかり応援してねっ☆」

「おーッと! 早くも完封宣言が飛び出したーッ!」
 観衆の横浜ファン及び浅沼美羽のファンから声援が上がる。
 一部からはブーイングが聞こえるが、多分東京のファンだろう。まあ気持ちは解る。

「ボケーっ。おんどれのワンマンショーとちゃうねんぞっ、無駄に尺取んなや!」
 ステージに大音量の関西弁が響き渡る。この声は栗田も聞き覚えが……。
 御堂あづさがいてもたってもいられない様子で衝立の向こうから飛び出して来た。
「おっと、つづいてはッ! シャイニングヴィーナスの誇る超・長距離砲、御堂あづさの
登場だーーッ!! ちょっと打ち合わせとは違いますが、盛り上がれば良しッ!!」
 それで良いのか司会者の男よ。
「良いんですッ! さあどんどん参りましょうッ!」
 司会者の男に促され、ぞろぞろとステージに集まる両チームの選手たち。

 東京シャイニングヴィーナスからは、お馴染みの大咲さくら、御堂あづさ、大木姫子、
小宮奈美、三上英子、丸山みのり、三島みらいの7人だ。
 対する横浜ブルーマーメイズからはエース浅沼美羽を筆頭に、関内史織、宇働美和子、
五十川亜樹、矢尾つかさのリリーバーカルテット、通称“SWAT”の4人、さらに主砲
として期待される栃原かなえ、スピードが自慢のリードオフマン屋城昴(すばる)が顔を
揃えた。

 それから、両球団の選手が左右に分かれてイスに座り、お互いに今シーズンの抱負など
を語り合った。
 小粋なジョークなども交え、会場がいい感じに暖まってきたところで、司会者の男が
トークを切り上げた。
「ここで、両軍の皆さんに前哨戦として対戦していただきたいのですがッ! 何か提案は
ございますでしょうかッ!」
 無茶ぶりにも程がある。そういうのは事前に決めておけ、と栗田は思った。
「おっと、早速手が上がりましたッ。浅沼美羽さんッ、どうぞッ!」

「この場で野球というわけにはいきませんから、野球拳で対決というのはどうですか?」
 浅沼美羽はニヤリと笑って言った。や、野球拳だと!?
0183「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第六話2011/02/18(金) 23:54:19ID:Sm9Vui6T
4/9
「な、な、なんとッ。浅沼選手からの提案は、ドキッ! 女だらけの野球拳大会だッ!」
 司会者の男のセンスは、少し古かった。
 だが、最前列のファン達は「おおっ」と沸き上がる。
「馬鹿馬鹿しい……やってられないわ。どうしてそんな事……」
 大咲さくらが浅沼美羽の提案を即座に却下する。
「あれあれー? 敵前逃亡ですかぁー? 日本一の球団が聞いてあきれますね〜」
「なんやて? 誰が逃げる言うたんや」
 浅沼美羽の挑発にアッサリと乗ってしまう御堂あづさ……。
「じゃあ、決まりですねっ☆」
 してやったり、と言わんばかりに浅沼美羽は満面の笑みを見せた。なんだか楽しそうだ
なコイツ。

「よっしゃ、ほんなら行くで! 準備はええな、奈美!」
「なーっ、なんで私なんスか!」
 と、小宮奈美が示し合わせたかのような大袈裟なリアクションを見せる。
「シャイニングヴィーナスの切り込み隊長と言えばお前しかおらんやろ」
「それもそうっスね……ってマジっスかぁー!?」
 奈美の叫び声が、春の空に虚しく響いた。

「それでは参りましょうッ! 青龍の方角ッ! 平成の蒼い稲妻ッ、小宮奈美ッ!」
 名前が読み上げられた奈美は、しぶしぶながらステージの中央に足を進める。

「白虎の方角ッ! 歌って踊れる速球派アイドルッ、浅沼美羽ッ!」
 とびっきりの営業用スマイル(¥0)と共に手を振りながら美羽もステージ中央へ。

 ミウミウ! ミウミウ! ミウミウ!
 鳴り止まぬミウミウコール。会場は完全に浅沼美羽寄りだ。対する奈美はいきなり劣勢
を強いられる事になった。
 そんな奈美に三上英子がそっと近づいてアドバイスを送る。
「奈美っち、野球拳は強い者が勝つんじゃない。勝った者が強いんだ」
「み、三上センパイっ、テキトーな事言わないで下さいっス」
「うふふっ、すでに勝負アリですねっ☆」
 美羽は白い歯を見せて余裕綽々といった表情だ。
0184「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第六話2011/02/18(金) 23:55:28ID:Sm9Vui6T
5/9
「プレイボールッ!」
 わー。わー。ついに開幕の前哨戦となる(?)野球拳大会の火蓋が切られた。
 第一戦。東京・小宮奈美対横浜・浅沼美羽。
「野球するならッ、こういう具合にやらさんせッ。投げたらッ、こう打ってッ。打った
ならッ、こう受けてッ。ランナーになったらッ、えっさっさッ。アウトッ! セーフッ!
よよいのよいッ!」
 ……これ、長いな。つーか、歌ってるのか?

「ジャンッケンッホイッッ!!」
 奈美はパーを出した。だが、
「残念でしたねー、小宮さんっ」
 対する美羽の繰り出した手はチョキだった。
 ハサミは神を切り刻む。
「勝者ッ、浅沼美羽ッ!」
「イエーイ☆」
 勝った美羽は指の形をVにしたまま頭上に掲げた。会場のボルテージが上がっていく。

「ふむ……流石は横浜のエースだ。奴のあのチョキの強さ、侮れんな」
「英子さん、解説っぽく言ってますけど意味わからないですから」
 さくらはしたり顔で解説(?)する三上英子にさらっとツッコんだ。

「うぅ。負けたっス……」
 へぼのけ、へぼのけ、おかわりこい。敗れた奈美に代わって、あづさが前に出た。
 なお、今回は本家野球拳のルールに基づき、脱衣はありませんのでご了承ください。

「しゃあないな。仇はとったるさかい、見といてや」
 奈美は「かたじけないっス」とあづさに告げ、後ろのイスに腰掛けた。
「がんばってくださいっ。御堂先輩っ」
「おう」
 あづさはみらいの応援に答えた。

「よろしいですねッ! 青龍の方角ッ! 球界の女番長ッ、御堂あづさッ!」
 誰が女番長やっ。清楚で可憐な美少女スラッガーやっちゅうねん。とか何とかたわごと
を吐くあづさをスルーして、司会者の男は進行に徹する。これがプロの仕事だ。

「白虎の方角ッ! 陸(マウンド)に上がったリアルマーメイドッ、浅沼美羽ッ!」
 名前を呼ばれた美羽は、相変わらずの取って付けた様な笑顔で、軽く返事をした。
0185「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第六話2011/02/18(金) 23:57:24ID:Sm9Vui6T
6/9
 第二戦、東京・御堂あづさ対横浜・浅沼美羽。
「野球するならッ(都合により割愛されました)ジャンッケンッホイッ!!」
 あづさの繰り出した手はパーだった。
 そして、美羽もパーを出した。

「あいこ……だと!? ……なるほど、両者の実力が拮抗しているという事か」
「いや、同じ手を出しただけですから……」
 英子は解説を続けた。さくらはそろそろ付き合いきれないといった様子だ。

「あいこでぽんッ!」
 試合は続行された。あづさと美羽は今度は双方共にチョキを出し、再びあいこに。
「浅沼のチョキに対して一歩も引いてない……ふふっ、流石はあづさだ。その実力は伊達
じゃないな」
「良く見てくださいです。チョキの指の開き具合では浅沼さんにも負けてないです」
「ふむ。この勝負、長期戦もありうるな」
 さくらに代わり英子をフォローする丸山みのり。チームの正捕手であり、投手陣の性格
はだいたい把握している。拾えないトークがあるものか、構えたミットで受け止める。
「何なのよ……あなたたち」
 そして、さくらはそんな2人のやりとりを見て呆れている。

 試合続行。あづさと美羽は今度は共にグーを出した。
「しつこいですよー、御堂さんっ」
「それはおんどれやろっ、とっとと負けろやっ」
「さあッ、ヒートアップしてまいりましたッ。ドンドンいきましょうッ」

 あいこでぽん。あづさはパーを出した。対する美羽の手はグーだった。
「よっしゃー! 仇は取ったで!」
「あぁ〜ん。負けましたぁ〜」

 へぼのけ、へぼのけ、おかわりこい。浅沼美羽は退場し、横浜側は2人目の栃原かなえ
がステージ中央へ。
 例によって脱衣はありませんが、どうしてもミウミウの裸体が拝みたい方は“浅沼美羽
1st写真集「ほわすと!」”をお買い求め下さい。勿論大事なところは隠しているが、
セミヌードを披露し話題になった一冊だ――以上、宣伝乙でした。
0186「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第六話2011/02/18(金) 23:58:51ID:Sm9Vui6T
7/9
「青龍の方角ッ! 清楚で可憐な球界の女番長ッ、御堂あづさッ!」
 称号が採用されたようです。でも女番長は相変わらずなんですね……。
「白虎の方角ッ! ハマのホームランプリンセス、栃原かなえッ!」
 栃原かなえ。高校時代から“御堂あづさ2世”と注目されていた右の強打者だ。守備も
御堂あづさと同じくホットコーナー(三塁)を守っている。

「直接対決ですね。正々堂々とやりましょう、あづささん」
 かなえはニッコリと微笑んだ。彼女にとって御堂あづさは憧れの人である。
「よっしゃあ、負けへんよ」
 改めて気合いを入れるあづさ。同じポジションの先輩として、ここは負けられない。

「とっちぃー、勝たなきゃダメだよっ! わかってるよね?」
 栃原かなえの後ろから声がした。前の試合であづさに敗れた浅沼美羽だった。
「み、美羽さんっ。が、がんばりますからっ。えと、その……」
 そう返事をしたかなえは何故か背筋を伸ばし、顔もどことなく引きつっている。
「今はウチと栃原の勝負の最中やで。外野は黙っとき」
「えっ、わ、私ですかっ? あづささんっ」
 あづさの言葉にうろたえたのは大木姫子だった。普段はおっとりとした様相なのだが、
試合になれば打って変わって走攻守三拍子揃った外野手に一変するのだが……ん、外野?
「なんや、ヒメ」
「す、すいません。おとなしくしていたつもりだったんですけど……」
 そう言うと、姫子は口をつぐんだ。何だったのだろうか。
0187「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第六話2011/02/18(金) 23:59:57ID:Sm9Vui6T
8/9
 第三戦、東京・御堂あづさ対横浜・栃原かなえ。
「―――よよいのよいッ! ジャンッケンッホイッ!」
 勝負は一瞬で決まった。あづさの拳が、かなえの二本指を砕いた。←比喩です。
「はぁ……流石はあづささんですね。まだまだ私の力は及びません」
 かなえは素直に敗北を認め、座っていたイスへと戻った。
「んもう〜。とっちぃはしょうがないなぁー。後でおしおきだからねっ☆」
 後ろで見ていた美羽が、かなえに冗談を飛ばした。

「青龍の方角ッ! とどまるところを知らぬ女子野球界の巨砲ッ、御堂あづさッ!」
 ここまで立て続けに2人を倒したあづさが歓声に答える。
「白虎の方角ッ! ハマの爆走クローザーッ、矢尾つかさッ!」
 わああああっ。横浜の三人目として名前を呼ばれたのは、同球団の不動の守護神として
君臨する矢尾つかさ……だったのだが。

「ちっ。何であたいなんだよ。屋城、お前が出ろよー」
 矢尾つかさは露骨に嫌がっているようだ。
「私は……子供の頃からジャンケンだけは勝てないのだ……」
 屋城昴は昔を思い出した。鬼ごっこの時はいつも自分が鬼だったな、とか。給食で余り
のプリンやアイスクリームをゲットすることができなかったな、とか。
「マジかよー、メンドくせーなー」
 やっぱり矢尾つかさはやる気が無いようだ。
「まあまあ、そう言わずに」
「そうだよー。最後はやっぱりストッパーにビシッと締めてもらわないと」
 関内史織と五十川亜樹に促され、やおら立ち上がる矢尾つかさ。いかにも気だるそうに
見える。
 とは言え、勝負事となると話は別だ。その目は勝負師の目へと変わった。

 第四戦、東京・御堂あづさ対横浜・矢尾つかさ。
「――――ジャンッケンッホイッッ!」
 つかさは、伝家の宝刀フォークボールを彷彿させるチョキを繰り出した。
「くっ……」
 勝負あり。あづさの出した手は、パーだった。
0188「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第六話2011/02/19(土) 00:01:55ID:Sm9Vui6T
9/9
 両チームの三人目が登場し、いよいよ最終戦が行われる。
「青龍の方角ッ! スーパースターのDNAッ、三島みらいッ!」
 一段と大きな声援に包まれて三島みらいが立ち上がった。
「白虎の方角ッ! 横浜の総大将ッ! 矢尾つかさッ!」
 つかさは腕を組んで仁王立ちしている。威風堂々といった感じだ。

「え、えと……よ、よろしくお願いします……」
 みらいが恐る恐る握手を求める。スポーツマンシップにのっとった行動だ。
 だが、対するつかさはそれを「フッ」と鼻で笑う。
「悪いけど、あたいはそういう馴れ合いは嫌いなんだよ」
 すかさずみらいのファンからブーイングが起こった。いいぞもっとやれ。

「試合前から熱くなってきましたッ! それではまいりましょうッ!」
 最終戦、東京・三島みらい対横浜・矢尾つかさ。
 百戦錬磨の守護神に、怖さを知らない黄金ルーキーが挑む。そんな構図だろうか。
 実はみらいは内心ビビっているのだが、なんとか耐えている。何それかわいい。
「野球するならッ――――よよいのよいッ! ジャンッケンッホイッッ!」
 みらいの繰り出した手は、パー。だが、つかさの手はまたしてもチョキだった。
 やはり、パーではチョキにはかなわないのか……。
 圧倒的な力の差を見せつけられた格好となった。

「勝負ありッ! 勝者、矢尾つかさッッ! したがってッ、横浜ブルーマーメイズの勝利
ですッ!」
 わああああああああっ。横浜ファンから歓声が上がる。
「ふっ。逃げ出さなかった事だけは、褒めてやるぜ」
「本番では……リ、リベンジさせてもらいますっ」
「へっ。負けねえぜ」
 グラウンドでの再戦を誓い合うつかさとみらいの二人だった。
 みらいは今度こそはと握手を求めたが、またも拒否されてしまった。

 イベント終了後……。
 選手寮の食堂での夕食時、今回もあまり目立たなかった大咲さくらが三島みらいに話し
かけた。
「みらいちゃん、リベンジするとか言ってたけど、開幕戦でみらいちゃんの打席があるか
わかんないわよ」
「お、大咲先輩っ。それを言ったら台無しですよぉ……」

 つづく。
0190創る名無しに見る名無し2011/02/19(土) 00:16:59ID:HQze+6k0
>脱衣はありませんので
ちっくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおお

ってかじゃんけんしてるだけなのに盛り上がりすぎだw
0192創る名無しに見る名無し2011/02/20(日) 01:29:10.89ID:k8qf5uCm
ほうほう
0193創る名無しに見る名無し2011/02/22(火) 23:41:06.30ID:B8iJl7cn
http://imepita.jp/20110222/849330

横浜ブルーマーメイズのエース
浅沼美羽(ミウミウ)を描いてみました。
0198創る名無しに見る名無し2011/02/27(日) 13:59:12.23ID:iMzamOre
http://imepita.jp/20110227/500700
横浜ブルーマーメイズの主砲・栃原かなえ
0199創る名無しに見る名無し2011/02/28(月) 22:56:16.42ID:ZDqpn4p7
横浜スタジアムでミルキィホームズが始球式するらしいな…
チケットとグッズの抱き合わせ販売もあるんだって
0205創る名無しに見る名無し2011/03/06(日) 01:22:08.07ID:QxyjCLCT
>>199
一方、巨人は「白熱教室」のサンデル教授が始球式だとか…

これからの「プロ野球」の話をしよう
0207創る名無しに見る名無し2011/03/14(月) 19:02:03.46ID:5ns0s+hI
プロ野球オープン戦やJリーグは中止が相次いでおりますが…
センバツ高校野球は予定通り行われる模様ですね

1日も早い復興を願っております。
0209「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第七話2011/03/27(日) 00:45:55.93ID:rCQf2jn/
1/9
 ついに女子プロ野球リーグの今シーズンの開幕戦の日が来た。
 試合開始2時間前。打撃練習を見ていた東京シャイニングヴィーナス監督・栗田永一に
本日の対戦相手、横浜ブルーマーメイズのユニフォームを着た男が近づいてくる。

 至近距離で見たその男は、185センチある栗田より大きい体格だった。
「ヘロー」
「ん?」
 どこかで見たようなその男……おそらくアメリカ人。そう、歴史の教科書で見た。
「ペリーだ。ペリー提督じゃないか」
「ミスタークリタ、ナイストゥーミートゥ」
 ペリー提督(仮称)は、栗田に握手を求めた。
「は、はじめまして……ないすつーみーちゅう……ミスター、ペリー?」
 その体格に圧倒されながら、握手に応じる栗田。いや、ペリーじゃないだろ。
「HAHAHA、Nicejoke。マイネームイズ、ウィル・アンダーソン」
 どうやらジョークだと受け取られたらしい。
 その男、名をウィル=アンダーソンという。そう。何を隠そう横浜ブルーマーメイズの
監督である。

「か、監督っ、勝手にあちこち行っては困りますっ(←英語で)」
 アンダーソン提……監督の後ろから女の声がした。栗田がその方向を見ると、あわてて
走ってくるジャージを着た女の人の姿が現れた。
「はあ、はあ……」
「あの……大丈夫ですか?」
 栗田が心配して声をかけると、さっきまで息を切らせていたその女性は表情をキリリと
一変させた。

「失礼しました。栗田監督」
「いえいえ。えっと、そちらは……」
「通訳の宮永です。お気軽にミヤーンとお呼び下さい」
「は?」
「失礼しました」
「いえいえ……??」
 ともかく、栗田とアンダーソンはお互いの健闘を誓い合った。
0210「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第七話2011/03/27(日) 00:47:04.96ID:rCQf2jn/
2/9
 栗田はブルペンに足を運んだ。そこでは今日先発する大咲さくらが肩を作っている。
 その投球がミットに吸い込まれるたび、バシッと心地よい音が栗田の耳に届く。
「調子は良さそうだな」
「あ、監督。見ての通りです」
 さくらの表情からも、調整の順調さが窺える。
「いよいよ今日は監督の初采配ですね」
「いやあ、采配なんて言われても手探り状態だよ」
 ほんの半年前には選手だった栗田にとって、自分が監督をするなんて頭に無かった。
 二軍のチームメイトの中には戦力外になった後の事を考えていた選手もいたが、栗田は
とにかく一軍の舞台で投げる事だけが目標だったのだ。

「そんな事じゃ困りますよ。せめてベンチでは堂々としていてもらわないと」
「ん、そうだなぁ」
 堂々と……か。栗田がしばし考えていると、さくらがボソリとつぶやいた。
「監督。今日勝ったら、私からプレゼントをあげますっ」
「えっ? プレゼントって何なんだよ」
「それは秘密です! でも監督にあげたいんです。もらってくれますよね、ね?」
「ん、ああ。もちろん」
 なんとなくさくらの勢いに押し切られてしまった栗田であった。これは期待しておいた
ほうが良いのだろうか。

 時刻は18:00になった。セレモニーも終わり、ついにレギュラーシーズン開幕戦の
火蓋が切って落とされた。
 マウンドには大咲さくら。3年連続の開幕投手だ。昨年は見事に完封勝利を挙げた上に
自らも決勝点となるタイムリーヒットを放ち、まさに“大咲さくらナイト”であった。
「今年もシーズンが始まるわね。みのりちゃん」
「はいです、さくらさん。落ち着いていきましょうです」
「もちろんよ。私はエースなんだから」
0211「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第七話2011/03/27(日) 00:48:14.00ID:rCQf2jn/
3/9
 プレイボール。キャッチャーの丸山みのりが定位置に戻って試合開始。
 一回表。先頭打者として左打者に立つのは屋城昴。高校時代は陸上部で100メートル
と200メートルの兵庫県記録を持つ短距離ランナーだった。将来のオリンピック出場も
期待されていたのだが、元高校球児の父親の勧めもあり、女子プロ野球のトライアウトを
受験し合格、そして現在に至る。

(塁に出すと厄介だからね。高めでフライに打ち取るわよ)
 ピッチャーの大咲さくらはそう考えた。
 屋城昴の足の速さは女子野球界でも一、二を争うと言われている。って誰にだよ。

 マウンド上のさくらは打席の屋城に対し、高めのストレートで攻める。対する屋城は
ファールで粘りながらも4球目をサードに打ち上げる。
 まずは先頭打者を打ち取った。

 女子プロ野球を代表するエースピッチャーの大咲さくらと言えど、開幕の立ち上がりは
緊張するものだ。
 その最初の打者を打ち取った事で、ようやく落ち着いたピッチングができる。
 2番の賀藤春奈、3番のローラ=マスカーニを続けて打ち取り、初回は三者凡退という
上々の投球内容を見せた。

 横浜ブルーマーメイズの開幕投手は、宣言通りにエース浅沼美羽。今日はユニフォーム
を着ての登場だ。
 三塁側の観客席から「ミウミウ! ミウミウ!」とコールが起こる。マウンドの美羽は
それに手を振って応えた。
 一見すると、始球式に呼ばれた芸能人のようにも見える浅沼美羽だが、実際に投げる球
を見ると、やはりプロの投手である。投球練習から東京のエース大咲さくらに負けるとも
劣らない球を、捕手のミットに投げ込む。
(……さてと、野球モードにチェンジ……っと)
 美羽は、気合いを入れ直した。
0212「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第七話2011/03/27(日) 00:50:45.15ID:rCQf2jn/
4/9
 一回表。東京シャイニングヴィーナスの攻撃は、不動のトップバッター小宮奈美から。
 昨シーズンの奈美は、一年目ながらショートのレギュラーに定着し、打率三割をマーク
した。そしてオフにはルーキーオブザイヤー(いわゆる新人王)として表彰を受けた。
 今シーズンは当然ながら対戦チームからのマークもきつくなるだろうが、さらなる飛躍
を期待されている。
 一番打者の仕事はとにかく出塁することだ。先発投手というのはどうしても立ち上がり
は不安なので、時には1球目からガツンとヒットを飛ばすと、それだけで崩れていく場合
も無きにしもあらずだ。
 逆に、最初の打席では相手投手のその日の球のキレとかノビとかを見極めようと、球数
を投げさせるタイプの一番打者もいる。ちなみに、奈美は性格的にも早めのカウントから
ガンガン打ちにいくタイプのようだ。

 浅沼美羽の初球はインコース低めへのストレートだった。奈美は積極的にスイングした
ものの、バットにかすりもしなかった。
「なかなか伸びてるっスね……」
 奈美は2球目もストレートを空振りし、早くも追い込まれる。
 結局、ボール球を一個はさんでからのゆるいカーブで、奈美は三振に倒れた。

「……どんまい」
「ううう……頼んだっス」
「……了解」
 二番打者の川原恵美が右打席に入る。現在、塁上に走者はいない。
「……打つしかない……鬱だ……ナンチテ」
 思い切りの良いスイングの奈美に対して、恵美はきわどいコースをひたすらカットして
ファールを重ね、失投を待ちながらあわよくば四球ででも塁に出ようという姿勢だ。

 だがしかし、ピッチャーの美羽はストライクゾーンへ力強いストレートを投げ、恵美を
セカンドゴロに打ち取った。

 続く三番の大木姫子はショートフライに倒れ、一回裏の東京シャイニングヴィーナスの
攻撃は、浅沼美羽の前に三者凡退に終わった。
0213「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第七話2011/03/27(日) 00:52:43.49ID:rCQf2jn/
5/9
 二回表。打席には横浜ブルーマーメイズの主砲、栃原かなえが向かった。
「今年初打席……気合い入れていかないとね」
 きっかけは、ニュース番組だった……と思う。たしか、女子野球界に怪物が現れたとか
言っていた。高校生(当時)の女の子に対して“怪物”だなんてあんまりだと、かなえは
思った。
 それはともかく、画面の中の少女が打ったホームランは確かに衝撃だった。
「私もあんなホームランを打ってみたいなぁ……」
 その時中学生だった栃原かなえはソフトボール部で投手としてプレーしていたが、進学
の際に女子硬式野球部のある高校を選んだ。高校で三塁手になったのはたまたまだったの
だが、四番の座だけは絶対に譲らなかった。
 そして今、あの時の少女と同じく女子プロ野球の舞台に立っている。

「でも、まだまだあの人には届かないかな」
 かなえはちらりと三塁のほうを見た。サードを守る御堂あづさと目が合った。
「かかってこいやっ。絶対三塁線は抜かさへんでー」
 あづさはグラブをバシッバシッと叩き、挑発している。

 打席の栃原かなえは大咲さくらの変化球に的を絞った。そして2球目の甘めのカーブを
右中間へ打ち返したものの、センター大木姫子の守備範囲だった。結局、センターフライ
で1アウト。
 シャイニングヴィーナス先発・大咲さくらは5番のジェニファー=キングマン、6番の
沢本美沙江も続けて打ち取り、この回も三者凡退に抑える。対するブルーマーメイズの
打線は、突破口すら見つけられないようだ。

「みなさんどんまーい。勝負はこれからですよーっ、次こそがんばっていってねーっ☆」
 浅沼美羽がナインに檄を飛ばす。そして、マウンドに向かった。
 打線の援護が無いのはいつもの事だ。美羽は、相手打者を打ち取る事に集中した。
0214「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第七話2011/03/27(日) 00:54:17.96ID:rCQf2jn/
6/9
「ほな、先制弾といきますか!」
 二回裏の先頭打者としてシャイニングヴィーナスの主砲、御堂あづさが打席に入った。
 あづさはレフト方向に高く打ち上げた。だが、レフトを守るキングマンが飛球をポトリ
と落っことしてしまう。
 
(はぁ……ジェニファーの守備には目を瞑るしか無いわね……)
 マウンドの美羽は、そう思った。たが、守備に足を引っ張られるのは慣れている。
 美羽は、次の打者を打ち取る事に専念した。
 続く5番マクスウェルはカーブを引っ掛けてショートゴロ。6‐4‐3のダブルプレー
で一気に二死無走者に。結局、この回も先制とはいかなかった。
「メンボクナイ。アヅサドノ……」
「まあええて、エイミー」
 併殺打を打ったマクスウェルをあづさが慰めた。

 三回はさくら、美羽共に相手の下位打線を三者凡退に抑え、序盤は投手戦となった。
 やはり開幕戦はこうでないと。だが、監督の仕事は無さそうだ。
「あの、監督っ。どうですか、私のピッチング」
 手持ち無沙汰な栗田に、好投を続けるさくらが明るく声をかける。
「ん? ああ。良いんじゃないかな」
 確かに、ここまでは非の打ち所のないピッチングと言える。
「もー。ちゃんと見てるんですか?」
「えっ? もちろん見てるけど……」
 さくらは少し拗ねたような顔をした。
「じゃあ、行ってきますね!」
「あ、ああ……が、がんばれよ」
 すぐさま笑顔に戻り、次の回のマウンドに向かうさくら。栗田はその後ろ姿を見ている
だけだった。
0215「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第七話2011/03/27(日) 00:55:31.49ID:rCQf2jn/
7/9
 四回表の横浜ブルーマーメイズの攻撃は、トップに戻って1番の屋城昴から。
 俊足の選手なのだが、塁に出さなければ怖くはない。しかし、転がせば内野安打になる
可能性がある。さくらとみのりのバッテリーは、高めの速球で攻める。
 屋城はセーフティーバントを試みるものの、ポップフライを上げてしまう。この飛球を
キャッチャーのみのりがファールゾーンでキャッチした。これで1アウト。
「無念なり……」
 がっくりと肩を落とし、屋城昴はベンチに帰った。

 2番の賀藤春奈をショートゴロに抑え、この回もあっさりと2アウトに。そして、3番
のローラ=マスカーニが右打席に入った。
 イタリア出身のローラだが、彼女がなぜ野球を始めたのか。そのきっかけとなったのが
日本の漫画作品、「大宇宙野球軍」である。

 ある日、神様からのメッセージを受けた女子高生が野球部を結成し、宇宙からの侵略者
や魑魅魍魎、歴史上の英雄たちと地球の存亡をかけて戦う(ただし野球で)。という自分
でも何を言ってるのか解らない話だが、とにかくその漫画を読んで幼少のローラは色々な
意味で衝撃を受けた。そして“野球”というスポーツ(そこで行われているのがスポーツ
だという事を最初は理解できなかったのだが)に興味を持った、とのこと。

 そんな事はさておいて、ローラの打席である。
 ローラ=マスカーニの持ち味は、右へも左へも打ち分ける広角打法だ。また、変化球に
対応する能力が高いのが特徴でもある。
 対するさくらは力のある直球で勝負した。打席のローラは右方向へと打ち返す。
「……守備の範囲内」
 だがしかし、その打球は一二塁間を守る川原恵美のグラブの中へと吸い込まれる。
 結局、大咲さくらはこの回もマーメイズ打線を三者凡退に抑えた。

 一方のヴィーナス打線も浅沼美羽の前に3回までノーヒットである。二周り目のトップ
から始まる4回に何とか先制したいところだ。
「さあ、緒川さん。どうしましょう」
 と、栗田はコーチの緒川に尋ねた。
「俺に訊くな。お前が監督だろ」
「はは。そうですね」
 栗田は苦笑いした。
0216「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第七話2011/03/27(日) 00:56:51.54ID:rCQf2jn/
8/9
 四回裏、先頭打者の1番小宮奈美が打席に立つ。監督からの指示は特に無いようだ。
「とにかく塁に出るだけっス!」
 奈美は第一打席と同様に初球からガンガン打っていく。
 3球目のカーブを綺麗に打ち返し、センター前へのヒット。この日、両チームを通じて
初めてのヒットである。

「……一応確認」
 続いて右打席に入る2番川原恵美へのサインは、当然ながら送りバントだった。横浜の
内野陣も警戒してバントシフトを敷くが、それでもキチンと決めるのは流石である。

 1アウト二塁と先制点のチャンス(横浜側から見ればピンチ)を迎え、打席に立つのは
3番打者の大木姫子だ。
「ヒメ、先制点は譲ったるわ。ガツンと打ったれや」
「うーん。浅沼さんは苦手なんです〜」
 姫子がそう言うのには理由がある。昨シーズンには浅沼美羽から3個のデッドボールを
受けていて、それで無くても普段からインハイの厳しいコースを突いてくるのだ。

(むっ。あの胸……イマイマしいっ)
 マウンドの浅沼美羽は、左打席の姫子をキッと睨んだ。
(……っ! 視線からエースとしての気迫を感じます……)
 美羽に睨まれた姫子は、少し怯んだように見えた。
 結局、姫子は内角への直球をなんとか一塁線に転がし、その間に奈美は三塁へと進む。
 しかし、これで2アウト。打席には4番の御堂あづさが向かった。
0217「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第七話2011/03/27(日) 00:58:25.22ID:rCQf2jn/
9/9
「ああん。あづささん、たのみます〜」
「よっしゃ、いくでー」
 大きな素振りを2回。それから右打席に入るあづさ。気合いは充分だ。
「うふふっ。御堂さん、負けませんよっ!」
 マウンド上の浅沼美羽は、その威嚇にも似た行為に負けるまいとボールを握ったままの
右手をあづさに突き出した。
「おっしゃー、かかってこいやっ」
 あづさの眼は、ホームランしか狙っていないかのようだ。ここで四番打者として求めら
れる仕事は、三塁走者の小宮奈美をホームに返す事だ。
 だが、あづさはこう答えるだろう。4番の仕事は相手のエースを叩きのめす事、だと。

 一方、マウンドという名のステージに立ち、スポットライトを存分に浴びる浅沼美羽だ
が、この場面で悲劇のヒロイン役を演じるつもるは毛頭無い。
 4番の意地と、エースの意地がぶつかる。
 この日最初の山場が、やってきた。

 つづく。
0222創る名無しに見る名無し2011/04/01(金) 02:45:40.40ID:QBuHjR6E
>>221考えてみた。

かつてこの世界を救い、魔王を封印した勇者たちがいた。
彼らは旅の途中、各地に「ゲートボール」なる競技を伝えたという。
世界が平和になり、勇者たちが元の世界に戻った後、勇者たちの伝説と共に
「ゲートボール」なる競技は世界中の子供たちの間で受け継がれていったという。
やがて、「ゲートボール」なる競技で優秀な成績を残した者が、この世界を治める役目を担う
というルールが制定された。

これは、そんな世界でのお話です。
0228創る名無しに見る名無し2011/04/10(日) 19:01:47.84ID:xeqfOjaa
ロボットでアメフトとかラグビーとか面白いかも知れませんね。
多くなると書きづらいので7人制くらいで。
0229創る名無しに見る名無し2011/04/12(火) 23:58:17.90ID:o1u1YwUE
プロ野球開幕age
0231「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第八話2011/04/18(月) 00:32:51.95ID:ivBGZT82
1/8
 御堂あづさの座右の銘は『人生フルスイング』である。おそらく彼女はフルスイングを
する為に生まれてきたんじゃないか。もちろん、4番として、チームの勝利のためにプレー
している。でも、それは送りバントをするとかそういうことじゃない。そんなことをして
もナインの士気は上がらないし、ファンだってそんなシーンを見たくて野球場に足を運ぶ
わけではない。すなわち、御堂あづさにとってはフルスイングこそが仕事なのだと言って
も過言では無いだろう。

 今、本日2度目の打席に立つあづさの目の前には開幕投手の浅沼美羽がいる。アイドル
をかじったような態度はいけ好かないが、投手としての実力は認めている。さらに、自分
に対して無謀にも真っ向勝負を挑んでくる。敬遠される事の多いあづさには対戦しがいの
ある投手の一人だ。
「おらーっ。いてまうぞ、こらぁー。ピッチャーライナーでドタマかち割ったる」
 ……あれ?

 しかし、浅沼美羽はそんな事ではビビらない。ダテに場数は踏んではいない――場数と
いってもライブやコンサートのことだが。
 ちなみに、去年から今年にかけてのシーズンオフには全国ドームツアーも成功させた。
 どちらが本業なのかわからない、まじめに野球だけをやれといった批判も有るのだが、
彼女はそんな声に耳を傾けない。歌いたいから、歌いたい。見せたいから、見せるだけ。
野球をしたいから、野球をするだけ。それだけである。

 初球は外角低めへのストレート。あづさが見送って1ストライク。0対0でランナーを
三塁に置いた場面だが、一塁が空いているなどという事は美羽の頭の中には無い。
 打席のあづさもまた同様である。この場面においてまさかフォアボールで“逃げる”と
いう選択肢は、二人の間には存在しない。それが四番とエースの対決なのだから。
 だが2球目は高めに外れる。これで、1ストライク1ボールの平衡カウントになった。
 つづく3球目は、ほぼど真ん中へのストレートだった。それをあづさがフルスイングで
応える。
 三塁側スタンドに陣取る横浜ファンは一瞬ヒヤリとしたが、空振りで2ストライクと
御堂あづさを追い込んだ。
0232「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第八話2011/04/18(月) 00:34:32.43ID:ivBGZT82
2/8
 浅沼美羽の持ち球はストレートにカーブ、そしてスライダーとチェンジアップといった
ところだ。基本的には速球で追い込んでからカーブで空振り三振を狙うパターンだ。型に
はまれば最高に気持ちの良い配球である。
 ところが、御堂あづさに対してはほぼ全球ストレートで攻める。力でねじ伏せたいのだ
ろう。
 もちろん打席に立つあづさもそれを理解している。だからこそ、フルスイングで応える
のである。
 次の球もほぼど真ん中へのストレート。無謀とも言える真っ向勝負だ。

「もろた!」
 あづさは全力でバットを振りぬいた。打球はセンター方向へ。
 センターの屋城昴が飛球を追う。
 自慢の俊足を飛ばして追った。
 グラブをはめた手を思いっきり伸ばし、白球を掴んだ。見事な背面キャッチだ。
 これには敵も味方も関係無く、惜しみない拍手と声援がグラウンドに投げ込まれた。

「た、助かったぁ……」
 マウンドの浅沼美羽は、へなへなと倒れそうになりながらも踏ん張る。そして、屋城が
大飛球をキャッチしたのを確認すると安堵の表情を浮かべた。

「屋城さんっ。私のために、ありがとうございますっ。助かりましたっ☆」
 ピンチを助けられた美羽は屋城に深々と頭を下げ、お礼を言った。
「んっ……」
 一方の屋城は素っ気ない反応のようだが。
「それにしても超ファインプレーでしたねっ☆ 素晴らしいですっ!」
「何だと……?」
「へっ?」
「わかってない。浅沼美羽よ、君は何もわかってない」
 三塁側ベンチの前で立ち止まり語り出す屋城。美羽も立ち止まって話を聞く事に。
「本当は打球音を聞くと同時に落下点に直ぐに入り捕球体勢をとり、正面を向いて余裕を
持ってキャッチしなければならなかった。結果的に追いついたが……ファインプレーとは
言い難い」
「は、はい……仰せの通りで……ございます」
 外野守備に熱く語る屋城昴に対し、美羽はただただ頷くばかりだった。
0233「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第八話2011/04/18(月) 00:35:44.69ID:ivBGZT82
3/8
 こう着状態のまま、試合は中盤へ。
 5回は共に3人で攻撃を終え、6回表の横浜ブルーマーメイズの攻撃は7番のバンクス
から。
 ここまで東京の開幕投手・大咲さくらに対してノーヒットの横浜打線だが、この6回も
簡単に2アウトを取られ、打席には9番のピッチャー・浅沼美羽が向かう。
 別に侮っていたというわけでは無いと思うが、3球目の直球が甘めに入ってしまった。
 打席の浅沼美羽はこの球を思いっきり叩く。そう、思いっきり。
 ここまで打線の援護も無い美羽の思いを乗せた打球は、レフトの左を抜けていく。
 長打コースだ。急いで一塁を回って一気に二塁へと到達。なんと、横浜の今シーズンの
初ヒットはピッチャーの浅沼美羽だった。
「ハア、ハアッ……」
 ふいに全力疾走した美羽は、セカンドベースの上で烈しく息切れしている。
(ぜえ、ぜえ……せっかくこの私が打ったんだから、ホームに返してよね……)
 打席には1番の屋城昴が立つ。果たして浅沼美羽の願いは届くのか。

 屋城に対する初球のスライダーを捕手の丸山が後ろに逸らした。
 パスボールだ。二塁ランナーの浅沼美羽はすかさず三塁へ。
(なんで……こんなに走らなきゃいけないのよっ……私、ピッチャーなんだけど?)
 と、そんな思いは微塵も感じさせず、一歩でもホームに近づくんだという執念にも似た
走塁を見せるエースの姿がそこにはあった。
「よお、アイドル。お前に全力疾走は似合わへんな」
 サードを守る御堂あづさが、浅沼美羽に話しかけた。
「ふんっ。私はいつだって全力よ、御堂さんっ」
 美羽は腰に手を当て、背筋を伸ばし、強がって見せた。この女、負けず嫌いだな。
 ともかくこれで、2アウト三塁になった。マーメイズが先制のチャンスをむかえた。

 だが。ヴィーナスの、いや日本のエースは動じない。威力のあるストレートで屋城昴を
簡単に2ストライクに追い込んだ。
 大咲さくらと丸山みのりのバッテリーは一応スクイズの可能性も考えたが、3球目まで
はその気配は無し。
 ところが、追い込んでからの4球目にスクイズを敢行。一塁線に転がるボールを急いで
ピッチャーのさくらが拾って一塁に投げるも、間に合わず。屋城は内野安打になった。

 そして、その間に三塁ランナーの浅沼美羽がホームインした。まずはブルーマーメイズ
がまさかの先制点を奪った。
0234「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第八話2011/04/18(月) 00:36:41.65ID:ivBGZT82
4/8
 6回裏、マウンドに上がる浅沼美羽には明らかに疲れの色が見える。屋城のスクイズで
生還した直後、2番打者の賀藤は事もあろうに初球を簡単に打ち上げてしまったのだ。
 一方、先制されたシャイニングヴィーナスのこの回の攻撃は、8番の丸山みのりから。
 反撃の為に何とか出塁したい場面だが、丸山はじっくり見ていこうと思い打席に入る。
 ところが、1球目から急に甘い球が来たので、思わず振ってしまった。
 三塁線に飛んだ打球は、ファールと判定された。
 この一打にビビったワケでは無いだろうが、浅沼美羽のコントロールが乱れ、丸山には
フォアボールを与えてしまった。

 これで無死一塁。打席には9番の大咲さくら。ここはセオリーなら送りバントだろう。
「よし。しっかり送ってくれよ」
 もはや存在自体が忘れ去られ気味な栗田監督が、さくらにバントのサインを送った。
 9番の大咲さくらがバントを成功させ、一死二塁で打順はトップに戻った。
「大咲、ナイスバント!」
 ベンチに戻るさくらを拍手で出迎える栗田。
「美羽ちゃんの球ですけど、少し高めに浮いてきてますね」
 さくらは、浅沼美羽の投球についての感想をベンチに伝えた。

「まずは同点スね。私にまかせるッスよ!」
 元気良く左打席に入る小宮奈美。気合いは充分だ。
 対するマウンドの浅沼美羽は、なんとか踏ん張りたいところだ。
 奈美は3球目にセーフティーバントを試みた。
 ピッチャーとサードのちょうど中間あたりにボールが転がっていく。
「とっちぃ、私が捕るからっ!」
「は、はいっ」
 美羽は咄嗟に声を出し、とっちぃ=栃原かなえはそれに従い、三塁ベースにつく。
 そして、美羽はボールを右手で掴んでクルリと回って、三塁へと投げる。
 その華麗な動きには微塵も迷いが無かった。送球を受け取ったかなえが急いでランナー
の丸山みのりにタッチすると、三塁塁審の手が上がる。アウトだ。
 おおおおおおおおおおっ。今の美羽のプレーに、スタンドが沸いた。
 次の打者の川原恵美を打ち取り、この回のスコアボードに0が刻まれた。
0235「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第八話2011/04/18(月) 00:38:10.16ID:ivBGZT82
5/8
 ピンチを脱し、三塁側ベンチに戻るブルーマーメイズナインの表情は、やはり明るい。
「ナイスプレー。と、監督がおっしゃっております」
 通訳の宮永美里が、ベンチに戻ってきた浅沼美羽に話しかけた。
「まあ、あれくらいは普通のプレーよね」
「それもそうですね」
「どっちなのよっ」
「あ。今のは私のつぶやきです」
「そ、そう……」
「はい。せっかくなのでフォローして下さい」
「じゃあ……遠慮しとくわ」
 宮永の中では何かが流行ってるのかも知れないが、浅沼美羽には関係の無い事だ。
 とりあえず、美羽はベンチに腰掛けることにした。
「よっこいしょ」
「宮永さん……何を言ってるのかしら?」
「浅沼美羽の頭の中を通訳してみた」
 宮永は、しれっと答えた。
「いや、私はそんな事を言うキャラじゃ無いんだからねっ」
「存じております」
 通訳キャラには気をつけろ。隙を見せたら勝手に通訳されるぞ。

 野球界では、7回は俗にラッキーセブンと呼ばれている。とは言え、ラッキーと呼んで
は失礼なのだが、ここでラッキーな一発が出る。
 ブルーマーメイズの5番打者、ジェニファー=キングマンの打球が、ライトスタンドへ
一直線に飛び込んだのだ。
 これで、横浜ブルーマーメイズがなんと2点のリードに。

「まだ2点です、切り替えていきますです」
 豪快な一発を浴びた大咲さくらを、キャッチャーの丸山みのりが励ました。
「うん、大丈夫よ。みのりちゃん」
 試合再開。大咲さくらは落ち着いて後続を断ち、味方の反撃を待つ。
0236「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第八話2011/04/18(月) 00:39:12.18ID:ivBGZT82
6/8
 その裏、シャイニングヴィーナスはクリーンナップで、浅沼美羽を迎え撃つ。
 まず3番の大木姫子が打席へ。本日ここまではノーヒットだが、去年も3割打ったし、
そろそろヒットが出ても良いだろう。

 マウンド上の浅沼美羽は、疲れているようです。はあはあ言ってるのが聞こえます。
 それでも何とか踏ん張っている。これがエースとしての意地なのか。
 あるいは、「こんなにバテバテなのにがんばってる私を見て」的な感情も、まあ少しは
あるのかも知れないが。
 一方、左打席でバットを構える大木姫子は、這いつくばってでも塁に出たいところだ。
(またインコース……胸元を狙ってくるのでしょうか……)
 とは言え、相手の狙いさえわかっていれば、対応する事は可能なハズだ。
 しかし、姫子は浅沼美羽の速球の前に、あっという間に2ストライクと追い込まれた。

「うぅ……困りましたぁ〜」
 一旦打席を外し、ふう……っと息をつくヒメちゃん。困った顔もかわいい。
 そして、気を取り直して再び打席に戻った。
 ピッチャーの浅沼美羽は、2ストライクからまたもインハイへの速球を投げた。だが、
今度は外れてボール。打席の姫子は、間一髪で避ける。ナイス反射神経である。
 4球目、今度はストライクゾーンに入ってきた速球に合わせて、バットを出す。
 姫子の打球は、ボテボテと三塁線に転がった。強めの打球に備えて、定位置よりも少し
下がって守っていたサードの栃原かなえは、あわてて前進した。
 姫子は一塁に向かって全力で走った。その様子は、まるでライオンから逃げるウサギの
ようだ。よく見ると、ユニフォームの上からでも姫子の胸が、ぶるんぶるんと強く揺れて
いるのが解る。

「んっ、はあっ、ふうっ、はっ、はうんっ」
 姫子は息を切らせて走った。姫子の胸はひたすら揺れた。それはもう、凄い事になって
いるのだが、彼女は気にも留めずに一心不乱に全力疾走した。
 そして、一塁ベースを駆け抜けた。
「ふう、セーフですっ!」

 ……アウトのような気がする。いや、確かに姫子の足の方が早かった。
 内野安打になった。一塁側ベンチならびにライト側応援席が沸き上がった。
「ナイスやヒメ。グッジョブやで!」
 ネクストバッターズサークルで待つ御堂あづさが、一塁の姫子に声をかけた。
0237「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第八話2011/04/18(月) 00:40:21.14ID:ivBGZT82
7/8
 打席には、4番の御堂あづさが向かう。一発が出れば、もちろん同点になる。
 色々と細かいプレーのできる打者でも無いので、栗田もノーサインで打席を見守る。
 と言うか、サインとかいつも見てないし。
「覚悟しいや、浅沼」
「はーい。抑える覚悟はできてまーすっ☆」
 と、口では強がっている浅沼美羽だが、かなり疲労は蓄積している模様だ。
 美羽はセットポジションから投球を開始する。一塁ランナーの姫子が動く気配は無い。
 普段から、あづさにより「目の前でウロチョロせんといてな」と、言われている。
 御堂あづさへの初球、大きく外れたボール。外したのではなく、外れたのだった。
「ふう……」と息を吐いた浅沼美羽。疲れの色は隠せない様子だ。
 打席の御堂あづさはバットを握りしめたまま、投手を睨み付けている。だが、その口元
は少しにやけている。

 もう一球ボールを挟んで3球目、ストライクゾーンに入っていたストレートを渾身の力
でバットを振りぬいた。
「ああっ……だめーっ……」
 思わず悲鳴を上げる浅沼美羽。だがその声もむなしく、ライナー性の打球が左中間へと
一気に飛んでいく。センターの屋城が打球を処理し、内野へと返球する間に一塁ランナー
の大木姫子は二塁、三塁を蹴って一気にホームへと生還した。ブルーマーメイズのリード
はわずか1点に縮まった。
0238「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第八話2011/04/18(月) 00:42:05.32ID:ivBGZT82
8/8
「どんなもんじゃい」
 二塁ベース上の御堂あづさは高々とガッツポーズを見せ付けた。まさに四番打者として
面目躍如の一打である。
 ノーアウト二塁になり、押せ押せの展開で5番のマクスウェルが打席に向かう。
「カイシャクイタシ、ソウロウ……ゴメンクダサイ」
 エイミー=マクスウェル。チームではあづさに次ぐパワーヒッターである。ヴィーナス
は同点、さらに逆転のチャンスだ。

 その時、ファーストの沢本美沙江がマウンドに近づき、浅沼美羽に声をかけた。
「ファンの視線は独り占めやなー、美羽ちゃん。無様なトコは見せられへんね」
「だ……大丈夫ですよ。私は、このチームのエースなんですからっ☆」
 美羽はそう言って自らを奮い立たせる。

 試合は再開され、美羽はマクスウェルをセカンドゴロに打ち取る。その間にランナーが
進んで、一死三塁とまだまだピンチは続く。

 6番の小松田、7番の中本を打ち取り、浅沼美羽は何とか後続を断った。美羽は何事も
なさげに堂々とマウンドを降りる。

 両エースの投げ合いで締まった展開のまま、いよいよ開幕戦はクライマックスへ――。

 つづく。
0239創る名無しに見る名無し2011/04/18(月) 00:45:11.00ID:ivBGZT82
投下終了です。
>>209からの続きになります。

試合になるとどうしても長くなってしまいます…
0240創る名無しに見る名無し2011/04/20(水) 02:34:33.00ID:lSOPr5b0
横浜ブルーマーメイズ・屋城昴
http://upfile.tv/Files/32405
0242創る名無しに見る名無し2011/05/04(水) 10:30:18.25ID:qRqqy/Ur
保守
0246創る名無しに見る名無し2011/05/09(月) 03:08:01.19ID:wZGB6Mso
俺に野球もの構想があるのはなんだか申し訳無く思ったり
ところでモータースポーツってここで扱うの?
0247創る名無しに見る名無し2011/05/09(月) 03:25:30.02ID:Qm2SLxNA
スレタイ的にも色んなスポーツを扱ったほうが良いのかなーと思っただけです。
すでに構想があるなら全然構わないと思いますよー。
0248創る名無しに見る名無し2011/05/10(火) 17:18:06.66ID:VYRyL4BA
例えば、麻雀や百人一首でも
対抗戦やトーナメントがあればスポーツ物扱いで構わないのでは無いかと
0256創る名無しに見る名無し2011/05/26(木) 21:40:30.27ID:KxABN/CX
0257創る名無しに見る名無し2011/05/27(金) 01:00:18.22ID:ur9/sT5J
うーん…
現役女子高生でプロ野球選手というネタは
色々使えそうだけどなー…
0259「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第九話2011/05/29(日) 01:36:01.87ID:fbqiTCTd
1/8
 東京シャイニングヴィーナス対横浜ブルーマーメイズの開幕戦は、7回を終えて横浜が
2対1で1点リードしていた。

「8回か……。まだまだ球威もコントロールも落ちる気配は無いですね」
 東京シャイニングヴィーナス監督の栗田が、同投手コーチの久山に言った。
「大咲は2試合分くらい投げても平気なスタミナは持ち合わせているからな」
「ほう、そうですか」
 各選手の能力や性格については、新任監督の栗田よりコーチ陣のほうが詳しい。何年も
見ているのだから当然と言えば当然なのだが。

 8回の表。7番打者のジーナ・バンクスが打席へ。アメリカ人のキャッチャーである。
 クチャクチャとガムを噛んでいるバンクスだが、ここまでは2三振と当たってない。
 ところが、大咲さくらはこのバンクスをデッドボールで出塁させてしまう。
 その時、横浜のベンチが動いた。アンダーソン監督がそのどっしりとした大きな巨体を
ゆっくりと動かし、主審に交代を告げる。
「おや、代打かな?」と栗田は言った。
 しかし、代打ではなく代走だった。出塁したバンクスに代えて、背番号0の豊原早瀬が
一塁ベースへ向かった。

「はやせ、行きまーす!」
 右手で“敬礼”のポーズを作りながら、三塁側ベンチにアピールする豊原。
 この見慣れた光景に、三塁側スタンドに陣取る横浜ファンの一部が沸く。

 説明しよう。豊原早瀬は、昨シーズン盗塁成功率10割(盗塁数は25個。全て代走)
を記録した、代走のスペシャリストである。
 無論、代走で終わるつもりは毛頭無く、いずれは打撃力を鍛えてレギュラーをと思って
いる。ちなみに、高校時代は内野手だったが、一年目のキャンプでエラーを連発し、外野
に即刻コンバートされた過去を持つ。
 いつか、センター屋城とライト賀藤と合わせて俊足外野トリオが完成すると思うと胸が
熱くなるんだ(横浜・高城コーチ談)。
0260「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第九話2011/05/29(日) 01:39:45.04ID:fbqiTCTd
2/8
 8番の野原唯花が左打席に入った。打順でも解るように、守備が売りの遊撃手である。
 だがしかし、足の速い豊原が一塁にいるので、当然ながらバッテリーは走者をも警戒し
なければいけなくなる。
「という状況です、さくらさん」
「そうね、みのりちゃん。まあ、去年もあの子には見事に走られまくったわね」
 ちらりと一塁方向を見る大咲さくら。一塁ベース上の豊原はぺこりと軽く会釈した。
「はい……申し訳無いです」
 キャッチャーの丸山みのりは、去年の試合を思い出し、反省。
「今は良いから。それより、この試合に集中よ」

 この場面は打者より走者を警戒する事にした、さくらとみのりのバッテリー。
 改めて野原唯花が左打席に入る。そして、ベンチからのサインを確認する。
 果たして横浜ベンチは豊原をどのタイミングで走らせてくるのか。

 初球、まずはアウトコースに外して様子を見る。バッターの野原は見送ってボール。
ランナーの豊原は動かず。
 2球目も外したが、豊原は自重。結果ボールカウントが増えただけだった。
 ここでスリーボールは避けたいので、仕方なくストライクを取りにいく。
 もちろん打者の野原はこれを狙ってくる。さくらはインローの厳しいコースを突く。
 野原から空振りを奪う。このあたりのコントロールはやはり日本のエースだ。
 ここまで一塁ランナーの豊原は動かず。さらに、バッター有利のカウントである。
 だが、マウンド上の大咲さくらはこれしきでは動じない。
 甘めの変化球でファールを打たせ、2ストライク2ボールの平衡カウントにした。

(ここで動かなきゃ……せっかく代走で出たのに意味ないジャン……)
 今度は逆に一塁ランナーの豊原が焦り出す。
 一方のさくらは、一塁の方に目線を送るものの、牽制球はここまで一球も無し。
(逆に……誘ってる? 二塁で刺せるって思ってんのかなぁ)
 だったら、行くしか無いっしょ。豊原早瀬はそう心に決めた。
0261「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第九話2011/05/29(日) 01:42:53.62ID:fbqiTCTd
3/8
 野原への5球目はカーブだった。豊原はスタートを切った。変化球ならば、悠々セーフ
なハズだ。
 カツーン。バットにボールが当たる音が球場に響いた。
 打球はフラフラと三塁側の観客席に飛び、ファール。
「むー、タイミング的には絶対セーフだったのにぃ〜」
 すでに二塁まで到達していた豊原は、ブツクサ言いながら一塁に戻る。
 彼女の言うとおり、もし打者の野原が空振りしていたら、盗塁は成功していただろう。
 それはさておき、2ストライク2ボールのカウントからゲーム再開。
 なんとか三振は避けたい打席の野原。一方、走者の豊原は投球と同時にスタートを切る
構えだ。

 さくらが6球目を投げた。刃の如く鋭いストレートが、インハイへと突き刺さる。
 これには野原もスイングが間に合わず、空振り三振。
 その間に一塁ランナーの豊原は二塁へと走った。速い、たしかに速い。
 キャッチャー丸山みのりの送球は、しゃがんだ大咲さくらの頭上を通過、二塁ベースに
ついたセカンド川原恵美のグラブに収まる。ここまでの動きにロスは無かった。しかし、
それより先に豊原の足が二塁ベースに到達していた。

「やったぁー。チーズケーキ、ゲットだぜ!」
 豊原早瀬は自分の中で決めていた。盗塁を決めた日は、大好物のチーズケーキを買って
帰ろうと。
「もちろん一人で丸ごと食べるよ。誰にもあげないよーだっ」とのこと。

 追加点のチャンスだが、次の打者は9番の浅沼美羽だ。セオリーならば、ここで代打を
送って確実に点をとりに行くべき場面だ。
 ところが、横浜ベンチは浅沼美羽をそのまま打席に送る。
 前の打席ではヒットを放った浅沼だが、マルチヒットを期待できる打者ではない。
 一方、東京のベンチでは栗田監督と久田コーチが相談している。
「完投させるつもりでしょうか、それとも後ろに不安が?」
「いや、抑えには矢尾がいる。やはり、エースには完投させたいんだろうな」
 その考えは東京ベンチも同じだ。もう一点もやれない場面とは言え、セットアッパーを
送るという選択肢は無かった。今シーズンの戦い方を左右する開幕戦だからこそ、エース
らしいピッチングを期待したい。むろん監督としての仕事を放棄している訳ではない。
0262「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第九話2011/05/29(日) 01:45:59.09ID:fbqiTCTd
4/8
 力強く素振りを2回して、右打席に浅沼美羽が入る。気合いは充分だ。
 この場面で代打が無いという事は「この試合はお前に託した」という意味である。
 さらに、自分のバットで追加点をあげる事ができれば、ピッチングが楽になる。
 もちろん、美羽に言わせれば、1点でもリードがあれば逃げ切る自信はあるだろうが。
 シャイニングヴィーナスの外野陣は、豊原の本塁突入に備えて前進守備を敷いた。
 これならば、 俊足のランナーと言えど、シングルヒットではホームへは還って来れない
だろう。

 小細工はいらない。とにかく力で押さえつける場面だ。
 大咲さくらはストレートで攻めた。程よく体重の乗った美しいストレートだ。
 対する浅沼美羽も果敢にバットを出すが、セカンドゴロに倒れる。これで2アウトに。
 その間に二塁走者の豊原は三塁へと進んだ。
 そして打順はトップに戻り、1番の屋城昴が左打席に立った。それに伴い、スクイズや
内野安打を警戒し、ヴィーナスの内野陣が若干前めに守備位置を移動した。
「王者のクセに、浅ましい……」と、屋城が呟いた。

 屋城昴は左打席でゆったりと構え、大咲さくらの直球に的を絞った。
 さくらはストレートを投げた。屋城はそれに対し、ここぞとばかりにフルスイング。
 打球は右中間へ飛んだ。しかし、センター大木姫子の守備範囲だ。
姫子は軽々と捕球し、スリーアウトになった。

「なんとか踏ん張ったな、大咲。さすがはエースだ」
 栗田はベンチに戻ったさくらに、ねぎらいの言葉をかける。
「ありがとうございます、監督。逆転しましょうね」
 さくらはニッコリと微笑む。まだまだ余裕綽々といった表情だ。
「ああ、もちろんだ」
 栗田は頷いた。
0263「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第九話2011/05/29(日) 01:48:25.51ID:fbqiTCTd
5/8
 ブルーマーメイズが1点リードしたまま試合は8回裏、シャイニングヴィーナスの攻撃。
 そして、打順は8番の丸山みのりからなのだが。
「ここは代打もあるか……」
 栗田は一瞬迷った。ベンチには、控え選手達が自分の出番を待っている。その中には、
注目の新人である三島みらいも当然ながら含まれる。
 今日2打席ノーヒットの丸山に、代打を送るべきか否か。
 昨年のデータを思い返す。もちろん指揮を執っていたのは前監督であるが、あらかじめ
受け取っていたスコアブックによると、大咲さくらが先発した試合で丸山の打率は4割を
超えていた。
「丸山、ちょっといいか」
「は、はいですっ」
 監督に声をかけられて緊張する丸山みのり。まさか……という考えが頭がよぎる。
「大咲に白星をつけてやりたいんだ。ここは絶対に出塁してくれ。頼んだぞ」
「わかってますです!」
 代打のコールは無く、丸山みのりが打席に入る。さらに、ネクストバッターズサークル
には、9番の大咲さくらが向かった。

 対する横浜のマウンドには、依然として浅沼美羽がいる。
 初球は少し高めのストレート。これを豪快にフルスイング。当たれば場外まで飛びそう
なスイングだ。当たれば……だが。
「みのりちゃん! リラックスよ」
 さくらから声が飛ぶ。だが、2球目も大きな空振り。今度はアウトコースに外れる低め
のスライダーだった。あっという間に追い込まれてしまった。
 3球目、美羽は決め球のカーブを投じる。遊び球は無かった。
 とこらが丸山はそれを読んでいたかのように狙い打つ。打球は浅沼美羽の足元を転がっ
て、センター返しになった。
0264「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第九話2011/05/29(日) 01:51:01.04ID:fbqiTCTd
6/8
「リードが単調なのですよ、宮永さん」
 丸山みのりは一塁ベース上でほくそ笑んだ。
 なお、横浜のキャッチャーはこの回にバンクスから宮永美里に代わっている。チームの
通訳だが、控え捕手でもある。
 丸山がヒットで出塁し、打席には大咲さくら。ここは当然送りバントのサインが出る。
 そして、さくらがキッチリと初球を一塁に転がし、1アウト二塁に。

 一番打者の小宮奈美が打席へ。普段は切り込み隊長の奈美だが、ここはランナーを返す
場面だ。大げさに素振りをしてから、左打席に足を踏み入れる。
「ここで燃えなきゃ女がすたるっス。覚悟っスよ! ミウミウ!」
「ミウミウって言うな! ここは戦場(スタジアム)なんだからっ!」
 ムキになる浅沼美羽。ロージンを指に付け直し、セットポジションに入る。

 奈美の打球はショートの頭の上を越えた。レフト前ヒット。二塁ランナーの丸山みのり
は三塁ベースを蹴ってホームへ直行した。
 レフトを守っているのは、8回表に代走で出た豊原早瀬だった。素早く捕球し、即座に
本塁へ返球した。
 丸山がホームへ滑り込むものの、返球のほうが早かった。
「アウト!」
 主審の右手が振り下ろされた。同点ならず。あと1点が遠い。

 奈美は二塁まで達したものの、ツーアウト。次の打者は川原恵美。バントなど小技には
定評があるが、大きな当たりは期待できない。
 ヴィーナス監督の栗田としては、相手に傾きかけた流れを変えたい場面だ。
「動くべきは、ここだな」
 一塁側のベンチから栗田が出てきた。そして、主審に交代を告げた。
「……お役御免か」
 ネクストバッターズサークルにいた川原が、顔を伏せ気味にしてベンチへと戻る。
 その表情は、普段から無表情なので変化が良く解らないが。
「すまんな、川原。ここは下がってくれ」
「……どうして謝る? あなたは監督。私達を自由に使っていい」
「ああ、そうだな。おっと、明日もスタメンだから、頼んだぞ」
「……私は、与えられた仕事をするだけ」
 川原はこくりと頷いた。
「……例えば銭湯の番台に座るとか」
「えっと……。実家が銭湯なのか……?」
 川原は意味の解らぬ栗田の横をすり抜け、静かにベンチに座った。
0265「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第九話2011/05/29(日) 01:54:03.01ID:fbqiTCTd
7/8
 栗田はこの時、試合前に球団社長から言われた事を、思い出した。
 それは、「開幕戦では、三島みらいを出場させてくれ」という相談だった。
 さすがに御堂あづさに代えてスタメンサードで、という申し出は断ったものの、監督と
言えども雇われの身である。現役引退した自分に仕事をくれた球団社長の頼みを無視する
事は、栗田には出来ない。監督としての実績があれば、また違うのだろうが。
 球団としては、やはり三島みらいを前面に売り出そう、という事らしい。
 不動の4番打者、御堂あづさとポジションが被るという事もあり、なかなか起用法には
頭を悩ませそうではあるが、将来が楽しみな素材であるのは間違いない。
 その点に関しては、打撃練習をその目で見ている栗田も異存は無いのだが。

「選手の交代をお知らせいたします。バッター川原に代わりまして、三島。背番号33」
 おおおおおおおおおお。うわああああああああ。
 この日一番の歓声が球場中に鳴り響く。少しうるさいくらいだ。
「ちょっとっ、何なのよぉ。気に入らないわねっ!」
 マウンド上の浅沼美羽は苛立ちを露わにした。それは、この明らかに自分よりも大きい
声援に対してだった。
 ペコリ。と小さくお辞儀をしてから、右打席に入る三島みらい。
 この春に高校を卒業し、大学に入ったばかりのみらいだが、その体つきはまだ高校生に
見えなくもない。いや、下手をすると中学生でも通用しそうなくらいだ。

「冷静にいきましょう。ミウミウ」
 キャッチャーの宮永美里が、マウンドまで歩いてきて、浅沼美羽にそう言った。
「だからー、試合中はミウミウとか呼ばないでよねっ!」
「じゃあ、ウミウミと呼ばせて頂きますね」
「じゃあって何なのよっ。変なあだ名つけるのはやめてーっ」
 宮永はホームベースに戻った。結局何をしに来たのか。
0266「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第九話2011/05/29(日) 01:56:18.81ID:fbqiTCTd
8/8
 三島みらいへの初球はストレート……と見せかけて、カーブだった。宮永の出すサイン
に怪訝な表情をしつつも投げた美羽だったが、まずは空振りでストライクを奪った。

「ナイススイングです。三島みらいさん」
 キャッチャーの宮永が、打席のみらいに囁きかける。
「あ、ありがとうございますっ」
 みらいはその声に対して、素直に反応し、丁寧にお辞儀をする。
「やはり、父親が偉大すぎると色々と大変でしょう……」
 浅沼美羽が2球目を投げる間、宮永はみらいの動揺を誘おうと再び囁いた。
 三島みらいの父親は、言わずと知れた野球界のスーパースターであった三島晴夫だ。
 ところが、みらいは宮永の声を無視し、またもフルスイング。今度はバットに当たり、
三塁側スタンドに飛び込む大ファールとなった。
「あ。何か言いましたか? 宮永さん」
 みらいは打球の方向を確認すると、しれっとした顔で言った。聞こえてなかったのか。
「いえ、何でもありませんが」
 冷静に対応する宮永だが、今の一打を見て「こやつ、ただものでは無いな」と感じた。

 つづく3球目の外角に逃げるスライダーを見極め、カウントは2ストライク1ボールと
なった。
「選球眼も親譲りですかね。三島みらいさん」
 宮永はピッチャーへと返球しながら、またしても打席のみらいに話しかけた。

「うーん……どうでしょう」
 みらいはニコリと笑って答えた。

 つづく。
0269創る名無しに見る名無し2011/06/04(土) 00:42:00.67ID:KZdEg+fP
あげ
0270創る名無しに見る名無し2011/06/04(土) 21:33:08.26ID:KZdEg+fP
もうちょっと住人が参加しやすいシステムというか、企画みたいなのが
必要だな
0271創る名無しに見る名無し2011/06/07(火) 17:20:05.68ID:qyMRva4n
ストーリーは後回しで、チームや選手個人の設定だけを
考えるとか…どうだろ
0272創る名無しに見る名無し2011/06/08(水) 13:47:09.74ID:Z7cY+GU/
それ衰退一直線の道だからな。
住人名乗るならテメエで話を書けよ、今すぐ。
0273創る名無しに見る名無し2011/06/09(木) 16:00:02.42ID:3q+iTRVj
なんでそんなに喧嘩腰なの…
まあ今はスポーツものを書きたい人が居ないだけなんじゃないかな
反応無くても淡々と書き続けている人はスゴいと思うよ

女子野球のはキャラが多くて正直、誰を中心に読んでいったらいいか戸惑ってしまうんよね
把握しにくいというか
試合も、途中を端折ってもいいとは思う
現実の試合だってハイライトは数ヶ所だし

がんばって!
0275創る名無しに見る名無し2011/06/13(月) 21:32:47.12ID:RiEeenyL
東京シャイニングヴィーナス・小宮奈美
http://loda.jp/mitemite/?id=2176
0276創る名無しに見る名無し2011/06/18(土) 21:52:50.40ID:nzq610d5
なあ、なんか好きなスポーツとか無いの?
0279創る名無しに見る名無し2011/06/22(水) 19:01:51.98ID:F4knai3L
中日のドアラが二軍落ちだそうで…

そういやGirlsBaseballClassicの球団にも
マスコットキャラクターとかいても良いよね
考えて無かったけど
0282創る名無しに見る名無し2011/07/04(月) 05:16:00.24ID:rvwlDEH4
保守
0283「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十話2011/07/08(金) 01:27:47.47ID:tMnUhb5y
1/7
 少女は打った。
 無心で振りぬいた。
 打球はぐんぐんと伸びて――そのままスタンドイン。

 僅かな静寂の後、堰を切って狂喜乱舞する一塁側スタンド。
 まさにお祭り騒ぎだ。
 打った三島みらいでさえ、一瞬何が起こったのか解らなかった。
 ふらふらと、夢遊病者のようにダイヤモンドを一周するみらい。
 ゴールデンルーキーと呼ばれた少女の、公式戦初打席初ホームラン。
 シャイニングヴィーナス不動の4番、御堂あづさでさえ成し得なかった快挙である。
 女子プロ野球界に新たなるスターの誕生を予感させるには、十分すぎる一打だった。

 ひとつ、ふたつ、みっつ……そして、よっつ。
 三島みらいはベースの踏み忘れだけはしないように注意して、ホームインした。
「おめでとう、みらいちゃん」
 大木姫子の澄んだ声に、みらいはハッとする。
 ふと見上げると、そこには姫子の右手が開かれていた。
 パチーン。渾身の力を込めて、ハイタッチするみらい。
「い、痛いわ、みらいちゃん。わたしの腕がもげちゃうわよ」
 少し力を入れすぎたみたいだ。
「あわわ、すいませんっ」と、慌てふためくみらい。
「良いのよ。若い子はこれくらい元気が無いとね」と、微笑む姫子。
 いやいや、姫ちゃんもまだまだ若いですけど。

「おい。何やっとんねん、二人とも」
 ベンチから出てきた御堂あづさが、姫子とみらいに声をかけた。
「あっ。見てくれましたか! 御堂センパイ!」
 満面の笑みを浮かべたみらいがあづさに迫る。
「すまん、見てへんかったわ」と、とぼけるあづさ。
 またまたご冗談を……。
0284「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十話2011/07/08(金) 01:29:38.46ID:tMnUhb5y
2/7
 さて、寸劇はそのくらいにして……試合再開。代打三島みらいのツーランホームランで
試合はひっくり返って、東京シャイニングヴィーナスの1点リードとなった。
 マウンドに立ち尽くす横浜ブルーマーメイズのエース・浅沼美羽に、捕手の宮永美里が
つかつかと寄ってきて何やら話しかけている。
「ウミウミの力強いストレートだったからこそ、あそこまで飛んだんですよ」
「何よそれ、慰めてんの? つかウミウミって言わないで。定着しないんだからねっ!」
「失礼しました。試合はまだまだ続きますので」
 と、それだけ言って、宮永はホームベースへと戻る。だから何しに来たんだよ。
 結局、浅沼美羽は次打者の大木姫子をサードゴロに打ち取り、後続を断った。

 三島! 三島! 三島! ……鳴り止まぬ三島コール。一旦ベンチに戻ったみらいも、
これでは試合進行の妨げになるかもという事で、再びグラウンドに顔を出す。
 ところが、これが火に油を注ぐ結果になる。一塁側スタンドを中心に、次々と観客が
立ち上がり拍手を送る。いわゆる一つのスタンディングオベーションが巻き起こった。

 流石にこのまま下げるわけにはいかないか……。と、東京シャイニングヴィーナス監督
の栗田永一は思った。
 三島みらいに代わって退いた川原恵美の守っていたセカンドの控えとしては、広島から
来たユーティリティプレイヤーの井村卓美がベンチ入りしている。投手以外のポジション
を全て守れるこのスーパーサブの存在は大きい。

 ところが、栗田はここで思い切った(?)策を打つ。
 ショートを守る小宮奈美をセカンドに回し、空いたショートに三島みらいを入れた。
 キャンプでの守備練習で、三島みらいはショートでも良い動きを見せていた。
 実戦経験は無いが、何とかこなしてくれるだろう。と、栗田は思った。
「代打した三島が、ショートに入ります」のアナウンスに、観客が再び沸き上がる。
 ショートの守備位置に向かうみらいが、それに手を振って応えた。
0285「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十話2011/07/08(金) 01:31:46.40ID:tMnUhb5y
3/7
 東京シャイニングヴィーナス対横浜ブルーマーメイズの開幕戦は、いよいよ9回の攻防
を残すのみとなった。
 点差はヴィーナスがわずかに1点のリード。マウンドには 当然、エースの大咲さくらが
立っている。
 横浜ブルーマーメイズの攻撃は、2番の賀藤春奈から。身体は小柄ながらガッツ溢れる
プレーが身上の選手だ。
 賀藤はファールで粘りながらも、三振。まずは先頭打者を打ち取った。
 続く打者は、3番のローラ・マスカーニ。主砲の栃原かなえの前に、一人でもランナー
を出したい場面だ。
 ローラは、さくらの投じた甘めのカーブを右方向に流し打つ。打球は一二塁間を破って
ライト前へ転がる。これで1アウト一塁になった。

 打席には、4番の栃原かなえが立つ。“ハマのホームランプリンセス”の愛称(?)を
持つ、ブルーマーメイズきっての和製大砲だ。
 ちなみに当の栃原かなえは、こう呼ばれるのは正直恥ずかしい。と思っている。
 いや、ネーミングそのものでは無く、自分にとってホームランはあくまでもオマケで、
“ヒットの延長がホームラン”という感覚で打席に立っているからだ。
 現在戦っている相手である東京シャイニングヴィーナスの4番打者、御堂あづさに憧れ
てソフトボールから硬式野球に転向したかなえだが、プロになり“本物”を目の当たりに
して、この人には適わないな、と思い知らされた。
 近づけば、近づくほどに遠くなる……。それでも、近づきたい。そして今日もバットを
振るのだ。

 100球を超えてなお球威の衰えない大咲さくらの速球を、栃原かなえがフルスイング
で打ち返す。
 かなえの打球はさくらの足元を抜け、センター前に転がる……と思いきや、マウンドで
まさかのイレギュラーバウンド。なんと、この回からショートのポジションを守っている
三島みらいの前へ、ボールが跳ねた。
「よっしゃっ、ゲッツーだっ!」
 一塁側ベンチの栗田は思わずガッツポーズをして叫んだ。このまま6‐4‐3とボール
が渡ってダブルプレーが成立すれば、試合終了だ。
0286「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十話2011/07/08(金) 01:34:00.20ID:tMnUhb5y
4/7
 ああっと!

 三島みらいがその球を後ろに逸らした。ボールは転々と左中間へ。センターの大木姫子
が素早く処理し、セカンドの小宮奈美に返球した。
 だが、二塁は間に合わず、これで1アウト一二塁になった。

「あわわわっ、すすすすいませんっ!」
 誰にというでもなくひたすら謝るみらい。自らのエラーに動揺しているようだ。
「ドンマイっス、みーりゃん。切り替えるっスよ」
 いつもはショートを守っている奈美が、みらいに声をかけた。
「あ、小宮センパイ。大丈夫です、落ち着きました。……みーりゃん?」
 小首をかしげるみらい。
「あだ名っスよ。みらいの“み”を取ってみーりゃん……イマイチだったスか?」
「いえっ、そんな事ありせんっ。むしろありがとうございますっ。えへへ」
 あだ名にイマイチもヘチマも無いと思うのだが、みらいは感激したようだ。
「ま、まあ、とにかく試合はまだ続いてるっス。エラーするたびに一々落ち込んでるヒマ
は無いっスよ」
 そんなみらいに対して、奈美は先輩面をしてアドバイスを送った。
「それ、お前がルーキーの時にコーチに散々言われてた事やないかー!」
 サードの御堂あづさが、すかさず奈美にツッコミを入れる。

 続く打者は途中から5番に入っている宮永美里。8回の守備から試合に出場し、この回
が今日の初打席となる。
 ピッチャーの大咲さくらの球数だが、既に100球を越えている。7回にホームランを
放っているスタメン5番のキングマンが、ベンチに下がっているのがせめてもの救いか。
 ともかく、打席の宮永は7ヶ国語を操る語学力以外はどこにでもいる普通の控え捕手で
ある――控え捕手なんてどこにでもいるのか。というツッコミはこの際置いといて。
 この時、大きい当たりで一気に逆転ではなく、次の打者に繋げるようなバッティングを
しよう。と宮永は考えた。
 そんな宮永に対しピッチャーのさくらは、真っ向勝負だ。結局、宮永は直球に押されて
一塁ゴロに終わった。その間に2人のランナーがそれぞれ二塁と三塁に進塁したものの、
これで2アウト。あと一人……。
0287「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十話2011/07/08(金) 01:36:05.28ID:tMnUhb5y
5/7
 ここで、横浜のアンダーソン監督が主審に交代を告げる。
 今日ノーヒットの沢本に代えて、代打の切り札・大谷千明を打席に送った。
「チアキ、アーユーレディ?」
「うすっ」

「大谷さん来たぁーっ!」「大谷さんかっけぇーっ!」「大谷さんマジ男前ッ!」
「俺男だけど、大谷さんには惚れるッ!」「大谷さんになら抱かれても構わない!」

 女とは思えない(失礼!)筋骨隆々な鋼の肉体をユニフォームに包んだ大谷が三塁側の
ベンチから登場すると、観客席の横浜ファン(の一部)が大いに沸いた。
 投手のさくらにとっては、昨シーズンも豪快な一発を打たれた苦手な相手だ。しかし、
チャンスには強くないようで、打たれたのはソロホームランだけだった。

 おそらくパワーだけならば4番の栃原かなえを凌ぐ大谷が、このように控えに甘んじて
いるのは何故だろうか。
 チャンスに弱いというのもあるが、何よりその拙い守備力である。なんでもないような
イージーフライを見失い、いざ捕ったら捕ったで明後日の方向へ投げてしまうのだ。
 宝くじのようなソロホームランと、彼女を守備に就かせるたびに胃腸薬を買うコストを
天秤にかけた結果、このようにベンチに座らせるという判断に至ったわけですな。

 というわけで試合再開。2アウト、ランナーは二塁三塁で、左打席に代打の大谷千明が
入った。
 ちなみに次の打者は代走で途中出場の豊原早瀬だが、代打の根本友美がスタンバイして
いるようだ。根本は長打力こそ無いが勝負強いベテランだ。
 よって、ヴィーナスのバッテリーは、大谷との勝負を選択した。
0288「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十話2011/07/08(金) 01:38:34.40ID:tMnUhb5y
6/7
「せいっ!」
 大谷は初球から思いっきりフルスイング。しかし、大きく外れるストレートに空振り。
 空振りにも関わらずおおーっ、と沸く三塁側スタンドの一部の方々。
 ここで踏ん張れば勝利だ。そうすれば監督に……。さくらは自らを奮い立たせた。
 2球目はタイミングを外すカーブ。またもフルスイングの大谷が空振りし、カウントは
2ストライクになった。

 ヴィーナスのファンの「あと一球!」コールが遠くに聞こえる中、大咲さくらは最後の
力を振り絞って投げた。
「ぬん!」
 さくらの全力のストレートに対し、大谷も全力のスウィングで打ち返した。
 大谷の打球は、内野のグラウンドに強く叩きつけられ、マウンド上のさくらの足元を
襲った。
 その強い打球を処理しようと、さくらは反射的に右足を出した。
 さくらの右足に当たった打球は、勢いを弱めながらショートを守る三島みらいの前に
転がった。
 みらいは素早くボールを拾って一塁へ投げた。

 しかし、その送球は大柄な大谷の背中に当たってしまう。
 三塁ランナーがホームインし、これで同点に! さらにボールがファールグラウンドに
転がる間に二塁ランナーの栃原かなえが三塁を蹴って一気にホームを狙う……!
 捕手の丸山みのりがボールを拾い、ホームのカバーに入った大咲さくらに送球……する
も間一髪、栃原かなえの足が早くホームベースに到達した。

 なんと、横浜ブルーマーメイズが土壇場で逆転に成功。横浜ベンチも三塁側の応援席も
お祭り騒ぎだ。

「ツラ上げんかい、三島ーっ。試合は終わってへんぞ!」
「あ……は、はいっ……」
 一方、致命的なエラーを喫してしまったみらいは、あづさの呼びかけにも力無く返事を
するのが精一杯だった……。
0289「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十話2011/07/08(金) 01:41:07.56ID:tMnUhb5y
7/7
 ――その後のことは、正直頭の中が真っ白で覚えてません。
 翌日の試合前、記者に対して三島みらいはそう語った。プロ初打席初ホームランの歓喜
から、一気に奈落の底へ。これが野球の怖さか。

 気がつくと、マウンドで両手を挙げてガッツポーズを見せる浅沼美羽の姿があった。
 三島みらいは、ベンチに座ってそれをボーっと見ていた。
「何ボケーっとしとんねん、帰るで」
「あ、はい……」
 あづさの声に生返事をしながらも、みらいはそのまま座り尽くした。

 それからどれくらい時間が経っただろうか。みらいがハッと気がつくと、周りの選手は
誰もいなかった。
 いや、一人だけいた。監督の栗田永一だ。
「監督……私のせいで……」
「言うな」
 それを言うなら、慣れないショートに起用したのは俺だ。と栗田はみらいを庇った。
 つまり責任は監督である栗田にあるのだ。そう、栗田が悪い。みらいは悪くないのだ。
「ですが……」
「ま、今日は帰ろうぜ。明日もあるしな」
 明日と書いてみらいと読むんですね。わかります。
「……はいっ」

 栗田は、みらいを慰めつつ選手寮に帰った。栗田の言うとおり、明日になればまた試合
がある。一つ負けてクヨクヨしてたら長いペナントレースは乗り切れないのだ。
 大丈夫だ。三島みらいの性格なら、一晩眠れば切り替えてくれるだろう。とりあえず、
今夜はベッドを空けて待っておくか。と栗田は思った。

 結局その夜、みらいは栗田の部屋には来なかったわけだが。

 つづく。
0292創る名無しに見る名無し2011/07/10(日) 02:17:34.61ID:qapViIvr
>>290
投下乙
0293創る名無しに見る名無し2011/07/14(木) 18:31:09.91ID:BUMCaXvp
なでしこジャパンW杯決勝進出ですか
さすが創発では話題にもなってませんが
0296創る名無しに見る名無し2011/07/16(土) 18:58:04.24ID:lhuoVSeU
サッカーとフットサルは違うスポーツだとあれほどry

主人公はサッカー部の高校生で、
女子小学生のフットサルチームのコーチを頼まれて…

ん、どっかで見たぞこんな話w
0297創る名無しに見る名無し2011/07/16(土) 22:16:50.60ID:lhuoVSeU
東京シャイニングヴィーナス・大咲さくら
http://loda.jp/mitemite/?id=2278
0298創る名無しに見る名無し2011/07/18(月) 06:51:54.62ID:KkuZ0h5p
なでしこジャパン、女子ワールドカップ優勝かあ
おめでとう〜☆
0299創る名無しに見る名無し2011/07/20(水) 22:56:41.55ID:SnKjXbUF
これで女子サッカーを題材にした漫画やラノベが増えたりすんのかな
0301創る名無しに見る名無し2011/07/23(土) 23:42:22.16ID:QZHUtf+m
高校野球擬人化スレに投下あり
0308創る名無しに見る名無し2011/08/22(月) 00:58:16.72ID:0dUmo5Jf
高校野球の話もいつか書きたいね
49代表校の全選手の設定を考えて
0309「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十一話2011/08/24(水) 02:41:48.11ID:EFCH9+Cu
1/8
 “女子プロ野球の聖地”こと、トーキョーベイスタジアム有明(通称“有スタ”)。
 此処をホームとする昨シーズンの覇者、東京シャイニングヴィーナスは開幕戦をまさか
の逆転負けで落とし、この日は第2戦を迎える。
 試合開始約2時間前、東京シャイニングヴィーナス監督の栗田永一がグラウンドに足を
踏み入れると、ストレッチをしているエースの大咲さくらの姿を見かける。

「あ、監督。昨日は残念でした……」
 ちなみに昨日先発し、今シーズン初黒星を喫したさくらは今日はベンチを外れる。
「ああ。そうだな。今日こそ初勝利だ」
「初めてのウインニングボールをあげるのは、英子さんになっちゃいそうですね」
 はて、何のことだろうか。栗田は記憶を辿った。
「もうっ。忘れたんですか?」
 口を尖らせるさくら。少し拗ねている?
「すまん。監督としての最初の試合で、色々とあったしな」
「はあ、それならしょうがないですね……」
 さくらは少しあきれたような顔をした。
「昨日の試合で勝ったら、監督にウイニングボールをあげるって約束ですけど」
「あ、あの時の……」
 栗田はようやく思い出したようだ。

「今日勝って監督争奪戦に一歩リードするのは私だな」
「な、何を言ってるんですかっ。英子さん」
 三上英子がさくらの背後から突然現れて耳元で囁く。さくらは何故か焦っている。
「おう。三上か」
「ご無沙汰しております、栗田監督」
「調子はどうだ?」
「はい。クッキリと見えております。視界良好ですね」
「え……?」
「ああ。てっきりレンズの調子を訊かれたのかと」

 その日の先発投手にそんな事を質問する監督がどこにいるのかと……。
 まあ、冗談を飛ばせるくらいだから調子は絶好調と見て良いだろう。
0310「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十一話2011/08/24(水) 02:43:53.05ID:EFCH9+Cu
2/8
 ここは試合開始直前のブルペン。
 三上英子がキャッチャーの丸山みのり相手に投球練習をしている。
「あ、今日はアレにするかな……」
「アレって何ですか? 英子さん」
「みのりん、私と言ったらメガネだろ」
「メガネならかけてるですけど?」
「ああ、これはクロちゃんだろ」
「はい。確かに黒縁です」
 どうやら、英子は黒縁メガネをクロちゃんと呼んでいるらしい。
「今日はミドリちゃんの日だな」
「そうなんですか」
 ということは、ミドリちゃんは緑色のフレームなのだろうか。
「ああ。スライダーのキレが悪いからな」
「そ、そうですか?」
「じゃあ、ミドリちゃんを取ってくる」
 そう言って、英子は再び更衣室に戻った。

 英子が更衣室のロッカーを開けると、そこには無数のメガネケースが並んでいた。
 それらの中から緑色のケースを手に取り、新しいメガネを丁寧に取り出す。
 フレームの色はやはり緑色だ。ケースを元の位置に戻す。
 緑色のフレームのメガネを右手に持ちながら、装着している黒縁のメガネを左の親指と
人差し指でそっと……。
「乙女の着替えを覗くのは、関心しないなあ」
「誰が乙女やねん。つか、別に女同士やからええでしょ」
 更衣室に入ってきたのは主砲の御堂あづさだった。
 英子にとって、メガネをかけていない顔を見られるのは全裸を見られるより恥ずかしい
……とのこと。たしかに裸眼とは言うけど。
 むしろ、メガネさえかけていればハダカを見られても平気……って何の情報だよ。
0311「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十一話2011/08/24(水) 02:46:18.74ID:EFCH9+Cu
3/8
 横浜の先発は阿和野透子。端正なルックスで黒い髪に長い美脚、さらに飾らない性格で
エースの浅沼美羽とはまた違ったファン層を生み出しているサウスポー投手だ。
 迎え撃つ東京の先発は三上英子。黒髪ロングの眼鏡っ娘……もとい、眼鏡っお姉さんと
呼ぶべきだろうか。ちなみに、英子の好きなタイプはナックルボールのようにふわふわと
何処に行くのか解らない人……だそうだ。誰か貰ってやって下さい。

 緑色の縁の眼鏡に変えた三上英子は、横浜の上位打線をキッチリ3人で抑える。左打者
で足の速い二人(屋城、賀藤)は右方向に打たせて内野安打を防ぐ丁寧なピッチングだ。
「ナイスピッチングです。英子さん」
「うむ。やはりバッターを打ち取るのは楽しいな」
「はいです」
「もらった。と思ってフルスイングして凡退した時の打者の表情は、実に愉快だな」
 フフ、フフフフ……と、妖しい笑みを浮かべて英子はベンチに戻る。

 つづいて1回裏、横浜ブルーマーメイズ先発の阿和野透子がマウンドへ。
 昨日の浅沼美羽の登板時に比べると、レフトスタンドの横浜ファンもおとなしいように
感じる。いや、むしろ浅沼美羽のファンが異常なのか。
 阿和野透子は、英子とは対照的に速球を打者の懐に投げ込み、シャイニングヴィーナス
の1、2番を立て続けに三振に切って取る。
 3番の大木姫子もインハイへの直球で詰まらせ、ライトフライに打ち取る。こちらも
負けじと三者凡退のスタートとなった。

「きゃーっ。透子さまーっ!」
 三塁側スタンドの女子から黄色い声援が飛ぶと、マウンドからベンチに向かう阿和野は
恥ずかしそうにはにかんだ笑顔で返した。
 すると、目が合った女子の一人がその場で卒倒、救急車が呼ばれるという事態に発展。
 開幕第2戦は早くも風雲急を告げる展開に。
 まあ、それは大げさですが。
0312「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十一話2011/08/24(水) 02:48:42.19ID:EFCH9+Cu
4/8
 昨日に続いて投手戦になるかと思われたこの試合だが、早くも2回裏にマクスウェルの
今季第1号となるソロホームランが飛び出し、東京シャイニングヴィーナスが先制した。

「セイバイイタス」
「うわあ、やられたです……(バタン」
「アンシンセイ、ミネウチジャー」
 何が峰打ちなのか意味が解らないが、一塁側ベンチの前で出迎えた丸山みのりを相手に
得意(?)の居合い抜きポーズを決めて、ご満悦のエイミー・マクスウェル。
 そして、この回の攻撃が終わるまで一塁側ベンチの前で倒れたままの丸山みのり……。

 早々に1点の援護を貰った三上英子だったが、相変わらず自分のペースで投げ込む。
 あるいは、自分の投球にしか興味が無いのかもしれない。
 カーブ、スライダー、シュート、シンカー、チェンジアップ、カットボール……。
 英子の右腕から次々と繰り出される七色の変化球。それはまるで蝶の如く舞う。
 ひらひらと揺れ、キャッチャーミットに吸い込まれる。あるいは、バットの芯から外れ
てボテボテの内野ゴロに。まさに芸術。まさにアート。爆発しろ。

 両エースの投げ合いに終始した昨日とは打って変わって、この日は4回を終えた頃から
両チームのブルペンが忙しくなる。

 横浜ブルーマーメイズ側は、ご存じ“S.W.A.T.”のうちの二人、五十川亜樹と
関内史織が並んでキャッチボールを開始する。
 東京シャイニングヴィーナス側も、昨年セットアッパーとしてチーム最多登板を果たし
た大岩ゆうなが、捕手を立たせての軽い投球練習を始めた。
0313創る名無しに見る名無し2011/08/24(水) 02:50:40.64ID:EFCH9+Cu
5/8
 試合は5回まで進んだ。
 東京シャイニングヴィーナス先発の三上英子は、三塁まで走者を進められたものの、
この回も0点に抑えた。
 これで、わずか1点のリードながら勝利投手の権利を得た。
 さあ、問題はここからの継投策である。9回はストッパーの城之内真緒で確定として、
その前に挟むセットアッパーをどうするか。
 栗田は考えた。
 この日の東京のベンチにいる中継ぎ投手は、右なら大岩ゆうなと村尾一恵、川野弘子。
そして左の畑中良子と岡村智沙。さすがに頭数は揃っているようだ。

 5回裏の東京シャイニングヴィーナスの攻撃は、6番の小松田沙織から。
 もし一人でも出塁すれば、9番の三上英子に打順が回る可能性がある。
 リードを広げる為に英子に代打を送るか、それともそのまま打席に立たせて続投させる
のか。ここでは監督の判断が問われる。

「あ。丸山、ちょっと」
「はいです」
 栗田がキャッチャーの丸山みのりを呼んだ。
 そして、先発の三上英子の調子について尋ねた。
「そうですねー。変化球のキレも落ちてないですし、次の回も全然大丈夫ですよー」
「うん。わかった」
 栗田は、全然大丈夫。という言い回しに違和感を感じた。
 だが、今はそんな事はどうでも良かった。
 この回に9番に打順が回っても英子に代打は送らない。栗田はそう決めた。
0314「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十一話2011/08/24(水) 02:53:41.72ID:EFCH9+Cu
6/8
 そしてその5回裏、先頭の小松田がヒットで出塁し、続く中本が送りバントをきっちり
決めて、一死二塁とした。打席には8番の丸山が向かう。
「私が打たないと、この回は点が入らないです……よね」
「それでは私が打つほうがサッパリみたいじゃないか、みのりん」
「あ、英子さん。失礼しましたです。英子さんもきっと打てますですよ」
「いや、多分私には阿和野の速球は打てないな」
「どっちなんですか!?」

 丸山みのりが打席に入った。
 マウンドには先発の阿和野透子が依然として立っている。
 ちなみに、阿和野は6回表の先頭打者になる。おそらく代打が出る可能性が高い。
 つまり、この回は全力で抑えに来るだろう。
 また、一塁が空いていて次はピッチャーの三上だ。丸山は歩かせても良い、という場面
でもある。

 丸山に対する阿和野の1球目は高めのストレート。これを丸山が振ってしまう。
 2球目は低めに外れる直球だったが、これも空振りしてあっという間に追い込まれる。
 すると、フォアボールでもと思っていた阿和野とバンクスのバッテリーにも、“欲”が
出てくる。
 インハイへの強烈なストレート。三球勝負だ。しかし丸山もそれを読んでいた。
 阿和野の直球をセンター前にはじき返し、一塁三塁とチャンスを広げた。
 そして、9番の三上英子が打席に向かう――
0315「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十一話2011/08/24(水) 02:55:47.43ID:EFCH9+Cu
7/8
 この場面、ダブルプレーを避けるためにワザと三振させるか、それとも追加点を狙って
スクイズや強攻策に打って出るか。
 栗田は考えた。いずれにせよ、決断は早く下さねばならない。

 よし、決めた。積極的に行こう。
 打席の三上英子にサインを送る。ちゃんと見てくれているのか……。
 彼女はコクリと頷いた。
 ついでに口元が少しにやけている。一体何がおかしいのだ。

 阿和野の初球、様子見のストレートを思いっきり空振りする打席の三上英子。
 一塁側スタンドの一部からは、早くもため息が漏れる。
 今のスイングでメガネが少しずれた英子は、右手の中指で位置を直した。
 阿和野がセットポジションから2球目を投げる。と、その瞬間に三塁ランナーの小松田
がスタートを切った。
 なんと、スクイズだった。英子が何とかバットにボールを当てる。
 ボールはピッチャーの前に転がった。阿和野は急いでボールを処理するが、ホームは
間に合わないと判断し一塁へ。これでツーアウト。
 小松田がホームインし、ヴィーナスは1点を追加。これで2点リードになった。

 6回表、横浜ベンチは先発の阿和野に代えて、新人の内村聖奈を代打に送る。
 内村は大分県出身だが、地元に硬式野球部のある高校が無かった為、隣の福岡県にある
高校で3年間汗を流した。
 だが、九州地区予選では女子高校野球界で古豪として名高い神山学園の前に全国大会へ
の道を阻まれた。
 昨日は出番が無く、同じ高卒ルーキーの三島みらいのホームランを目の前で見ていた。
 ふと、内村は思い出した。
(そういや元々横浜のドラフト1位はアイツだったんだよね……)
 たしかに全国大会には行けなかったが、九州に内村聖奈ありと言われ……多分言われて
たと思う。
 一方の三島みらいは東京生まれヒッ……じゃなかった、超セレブ育ち。父親は言わずと
知れたプロ野球界のスーパースター、三島晴夫。さらに母親は国民的女優、永峰百合子。
 この二つのDNAを受け継いだ、生まれながらのスター候補である。
 しかし、いざグラウンドに立てば、スーパースターの娘だろうが農家の娘だろうが一切
関係無い実力の世界だ。
 少なくとも内村聖奈はそう信じてバットを振り込んできた。一振りに賭ける。
0316「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十一話2011/08/24(水) 02:57:44.89ID:EFCH9+Cu
8/8
「うっちぃー、ちょっとちょっと」
 これから打席に入る内村聖奈を、チームメイトの野原唯花が呼んでいる。
「なんですか? 唯花さん――」
 はぐっ。
「なななななにするんですかっ!?」
 いきなり抱擁する唯花さんに困惑する内村。やはりこういう事はきちんと段階を踏んで
……って、いったい何の話でしょうかね。
「うふ、リラックスリラックス♪」
 ニコリと笑う唯花さんじゅっさい。いやリラックスできないだろ常識的に考えて。
「はい。これで肩の力が抜けましたね。それじゃあ行ってらっしゃい」
 ぽんっ。唯花さん(30)が両手で背中を押し、内村はそのまま打席に入る。

「はぁ……また唯花さんの発作が出ましたね」
「若い子を見ると我慢できんらしいね。ってもうほぼ病気やな……」
 三塁側ベンチで並んで座っているマーメイズの栃原かなえと沢本美沙江がやれやれ……
という表情で唯花さんと内村のやりとりを見ていた。
「……なあ。とっちぃもやられたクチかいな」
「ええ、まあ……新人の時に(照」
 ……ということらしいです。

 つづく。
0319創る名無しに見る名無し2011/08/25(木) 23:16:01.34ID:RtzVfW+p
なーんか新しい企画でも考えようかね
盛り上がるようなヤツを
0322創る名無しに見る名無し2011/08/30(火) 01:13:07.68ID:qSMsywVd
室伏選手金メダルおめでとうございます
0323創る名無しに見る名無し2011/08/30(火) 07:26:33.67ID:kbm2tNX7
モータースポーツとかあまりないよな?
0326創る名無しに見る名無し2011/09/01(木) 23:22:51.57ID:A4lufnMB
セリーグの優勝争いが混沌としてきたのは良いが
何故わざわざ5位までの順位表を出すのか
0327創る名無しに見る名無し2011/09/06(火) 15:41:59.37ID:8mqfJ4q7
女子ドッジボールにスポットを当ててみたい
最初はユニフォームを着ているのだが、
当てられて外野に出るときにユニフォームを脱ぐ
というルールはどうだろうか
こんなことばかり考えている
0328創る名無しに見る名無し2011/09/08(木) 23:52:09.34ID:p2xZq80A
なでしこジャパン、ロンドン五輪出場決定しました。
おめでとうございます。
0330創る名無しに見る名無し2011/09/12(月) 02:12:45.30ID:XOOC6Fcx
保守あげー

なんかネタ無いですかねー
0333創る名無しに見る名無し2011/09/24(土) 23:29:53.64ID:HsbwGju2
あげー
0334「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十二話2011/10/05(水) 23:21:13.43ID:/1scNRPF
1/8
 東京シャイニングヴィーナス対横浜ブルーマーメイズの第2回戦。
 ヴィーナスの2点リードで迎えた6回表、反撃を目論むマーメイズの攻撃は9番の打順
から。まずは9番ピッチャー阿和野透子に代打が送られた。

 代打の内村聖奈が右打席に入る。マーメイズ期待の高卒ルーキーのプロ入り初打席だ。
「なんか、打てそうな気がする」
 と、自信満々に言い放った内村。その表情に緊張の色は見えない。
 キャッチャーの丸山みのりは、そんな内村に言い返す。
「そうはいかないですよー」
 みのりはマウンドの三上英子にサインを送った。
 英子は涼しい顔でサインにこくりと頷く。
 ランナーは居ないが、英子はセットポジションの構えから投げる。

 内村への1球目。
 英子の指先から放たれた白球は、大きな弧を描いてキャッチャーミットへ。右打者から
一番遠くなるアウトローへのスローカーブだった。タイミングを外された内村が見送り、
まずは1ストライク。

 2球目、今度はインコースに食い込むシュート。内村も慌てて打ちに行くが、三塁側に
転がるファールになる。内村は2球で簡単に追い込まれてしまった。
「さあ、どうするかね。新人君」
 さらっと呟く三上英子。
 英子とみのりのバッテリーは勝負を焦らない。
 だが、打席の内村は際どいコースも見逃せない場面だ。

 3球目は低めに外れるチェンジアップ。内村はこれをカットし、ファールにする。
「さあ粘れ粘れ、どんどん粘るがいい」
 完全に弄ぶ格好になったピッチャーの三上英子。まさに至福の時である。
 次から次へと投げ込まれる変化球に対応を迫られ、自分のバッティングをさせてもらえ
ない。打者にとっては非常に分の悪い勝負を強いられている。
0335「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十二話2011/10/05(水) 23:24:00.34ID:/1scNRPF
2/8
「ボール!」
 主審は堂々とコールした。右打者のアウトローに僅かに外れるスライダーだった。
 打席の内村は身体を前に倒しながらも、なんとかバットを止めた。
 まさに翻弄の二文字である。こういうのがすごく楽しい。三上英子はそんな人間だ。
 でも多分、良いところもあるよ。って、多分かよ。

 一方の内村聖奈も、並々ならぬ意志を持って打席に立っている。
 そして、体勢を崩されながら6球目のチェンジアップになんとか喰らいついた。
 バットの先に当たった打球が、ショート小宮奈美の頭の上をふらふらと越えていく。
 ボールはレフト中本寛子の前に落ちた。
 いわゆるポテンヒットというやつだ。

「はぁ、これがあるから金属バットは嫌いなんだよ」
 三上英子は小さくため息をついた。それはともかく、無死走者一塁で打順はトップへと
戻った。
 続く1番打者の屋城昴はサードゴロに打ち取る。二塁はフォースアウトも、一塁は屋城
の足が早く、結果的にランナーが入れ替わった。
 2番賀藤春奈の打席で屋城が初球から盗塁を試みる。流石に速い。余裕で成功だ。
 これで一死二塁になった。さらに賀藤が右打ちでチャンスを拡大しようと目論む。
 そうはさせじと、東京のバッテリーはアウトコースへとボールを集める。
 結果、賀藤はショートゴロに打ち取り、ランナーは進塁できず。これで二死二塁に。

 しかし、まだこれから横浜のクリーンナップが続く。3番のローラ・マスカーニが右の
打席へ。
 変化球打ちと広角打法に定評のある右の巧打者である、ローラ・マスカーニ(登録名は
ローラ)であるが、実は三上英子と相性が良かった。
 この日はここまでノーヒットだが、昨シーズンは対三上英子の打率が4割を越えた。
 そんなローラが3打席目にして見事な右打ちを見せる。走者の屋城がホームへと還って
マーメイズが1点返し、これで1点差に詰め寄る。
 タイムリーヒットを放ったローラは、巧打者としての面目躍如の一打となった。
0336「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十二話2011/10/05(水) 23:26:18.99ID:/1scNRPF
3/8
 さらにローラを二塁に置いて、4番の栃原かなえが打席へ。“ホームランプリンセス”
の異名(一体誰が名付けたんだろうか)を持つ強打者だが、こういう場面では走者を還す
バッティングに徹する。
「こんな時、あづささんならどういう気持ちで打席に立つんでしょうね」
 栃原かなえがキャッチャーの丸山みのりに話しかけた。
「あの人は来た球を思い切り打つ事しか考えてないと思うです」
「なるほど。そうでしょうね」
 シンプルな思考。いつかのインタビューで御堂あづさが言っていた言葉を思い出す。
「バッティングちゅうたら、ビューンと来たボールをガツーンと打ち返すだけですわ」
 かなえには、その言葉の意味は解らなかったのだが。

「へっくしょいっ!」
 三塁を守る御堂あづさがくしゃみを一つ。
「まだまだナイターは肌寒いんかいなあ」
 あづさは鼻水をすすりながら、そう呟いた。かなえとみのりの会話は耳に入っていない
ようだ。

 栃原かなえは三上英子のスライダーを踏み込んで打った。打球はセンターの前へ。
 二塁走者のローラは三塁で止まった。センター大木姫子の肩の強さから考えて、ホーム
への突入は無謀と三塁コーチが判断したようだ。
 ツーアウトを取ってからの連打で、さらにピンチが広がった。そして、打席には昨日の
試合では豪快な一発をスタンドに叩き込んでいるジェニファー・キングマンが立つ。彼女
は、オーストラリア代表では4番を任される左のパワーヒッターだ。
 一方、マウンド上の英子にも疲れの色が見え始めている。シャイニングヴィーナス側の
ブルペンでは、リリーフ投手の大岩ゆうながスタンバイしている。
 だが、キングマンは変化球に弱い。ここは英子に任せよう。栗田は動かなかった。
 最後はフォークで空振り三振。なんとかピンチをしのぎ、三上英子は6回表のマウンド
を降りた。
0337「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十二話2011/10/05(水) 23:29:27.30ID:/1scNRPF
4/8
「それじゃ、行ってくるよっ」
 6回裏、三塁側のベンチから元気良く飛び出して来たのは、五十川亜樹だった。
 横浜ブルーマーメイズの誇るリリーバーカルテット“S.W.A.T.”の一人だ。
 高速のシュートとスライダーを武器に、強気の投球を見せる右腕投手である。
「1点ビハインドか……でも、逆転してボクに勝ち星が付くかもねっ」
 意気揚々とマウンドに上がった五十川亜樹。投球練習から勢い良く速球を投げ込む。

 この回の先頭は2番の川原恵美。しかし、速球に詰まらされて内野ゴロに倒れた。
 つづく3番の大木姫子は速球に負けない鋭いスイングでセンター前ヒットを放つ。
 4番の御堂あづさの前にランナーが出た。
「よっしゃ。追加点いくでー」
「そうはいかないよっ。ボクが抑えるからねっ」
 どっしりと構える御堂あづさに対し、投げる五十川は当然の様に真っ向勝負を挑む。
 真っ向勝負にはフルスイングで応えるべし。それが、御堂あづさの流儀だ。
 初球から思い切って引っ張った打球は、レフト方向へ大きな弧を描く。
 シュートにタイミングが外れたのか、その打球はポールの外側に切れる。
 五十川亜樹のウイニングショットである高速シュートは、ストレートと同じフォームで
投げ込まれるのでタイミングが取りづらい。さらにインコースを狙うと効果は抜群だ。
 五十川はこのインコースへのシュートを一球目からひたすら投げ続けた。
0338「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十二話2011/10/05(水) 23:31:35.88ID:/1scNRPF
5/8
 ぼこっ。5球目のシュートが御堂あづさの左肩に当たった。
「わわわっ、すいませんっ」
 慌てて帽子を取り、あづさに謝る五十川。
「しゃあないなぁ。でも、次やったらボコるで」
 あづさはさり気なく脅し、一塁へと歩いていく。これも強打者のさだめか、インハイへ
と攻められるのは日常茶飯事だ。受けた死球の数で女子プロ野球歴代記録を更新するのも
時間の問題だろう。

 打席には5番のエイミー・マクスウェルが立つ。東京シャイニングヴィーナスの中でも
御堂あづさと肩を並べる強打者である。
 左の大砲マクスウェルに対し、横浜ベンチは右の五十川を続投させた。
 もし、これが終盤でリードしている場面ならば、迷わず左投手の関内史織をマウンドに
送るだろう。しかしまだ6回という事もあり、関内は温存するようだ。
「この回はボクに託したって事だね。それじゃあ行くよっ!」

 五十川亜樹はさらに気合を入れ、マクスウェルに対してインコース低めへのストレート
とスライダーで攻める。
 結局、マクスウェルはショートゴロに倒れた。6‐4‐3のゲッツーでスリーアウト。
 五十川はピンチを脱し、ヴィーナスは追加点ならず。

 そして試合は7回の攻防へ。東京のマウンドには先発の三上英子が続けて上がる。
 英子にもそろそろ疲れの色が見え始める頃だが、この回の投球はどうなるか。
 ちなみに、一塁側のブルペンでは大岩ゆうな、岡村智沙の二人がスタンバイしている。
 この回は下位打線だからなんとか頼む。と栗田監督に言われ、三上英子がマウンドへと
向かう。
0339「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十二話2011/10/05(水) 23:33:32.66ID:/1scNRPF
6/8
「なあ、みのりん」
「はいです。英子さん」
「なんとかって何だろうな」
「ええっと……(汗)。と、とりあえずこの回を0点に抑えれば良いと思うです」
「まあそうだろうなと思うが。それで次の回からゆうなっち(大岩ゆうな)に交代かな」
「だと思うです。当面は、去年までの戦い方で行くそうですので」
 8回を大岩ゆうなが繋ぎ、9回を城之内真緒で逃げ切るのがシャイニングヴィーナスの
勝ちパターン――いわゆる勝利の方程式ていうヤツ――だ。
 余談だが、この二人を合わせて“ゆうまお”と呼ぶのだとか。特に深い意味は無いが。

 横浜ブルーマーメイズの7回表の攻撃は、6番の沢本美紗江から。前の球団では控えに
甘んじていた沢本だが、横浜の水が合ってたのか、すっかりレギュラーに定着している。
 そんな沢本がヒットで出塁し、反撃の口火を切る。
 つづく7番打者のジーナ・バンクスは一塁へのファールフライに倒れたものの、8番の
野原唯花はベテランらしいしぶといバッティングでレフト前へヒットを放ち、チャンスを
拡げる。

 9番の五十川に打順が回った。ここで、横浜のアンダーソン監督が動く。
「選手の交代をお知らせいたします。バッター五十川に代わりまして、大谷」
 球場内にウグイス嬢のアナウンスが流れた。
 すると、三塁側に陣取る横浜ファンの一部から野太い声援が上がった。
 代打の大谷千明が左打席に立つ。その鍛え抜かれた鋼の肉体は、“ハマのヘラクレス”
と呼ぶに相応しく、男が惚れるのも無理はない。いや、れっきとした女性ですが。
0340「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十二話2011/10/05(水) 23:36:44.34ID:/1scNRPF
7/8
「6番からの攻撃……一人出ればピッチャーに回る……そこで代打だな」
「栗田?」
「右の塩原か左の清美か……あるいは思い切って三島みらい」
「おーい、栗田ー!」
 独り言を呟く東京シャイニングヴィーナス監督の栗田に、投手コーチの久山が近づいて
声をかける。
「あ、すいません。裏の攻撃の事を考えてました」
「そんな余裕は無いだろう。ピンチなんだぞ」
「大丈夫でしょ。大谷は三上のような変化球投手を苦手にしているというデータが……」

 うわああああああああっ。スタジアムに歓声が上がる。
 初球だった。高めに浮いたチェンジアップは完全なる失投だ。生粋のパワーヒッターは
この一球を見逃さなかった。
 大谷の打球は、ライトを守るマクスウェルの差し出したグラブのさらに上を通過した。
 まず、二塁ランナーの沢本が三塁を回って一気にホームイン。これで同点になった。
 さらに、一塁ランナーの野原も二塁、三塁ベースを次々と蹴ってホームを目指す。
「セイバイイタス、カクゴセイ!」
「……カットは……不要か」
 セカンドの川原恵美は一応カットの位置に入るものの、強肩で知られるマクスウェルの
送球は一気にホームへと向かう。
 だが。
 その送球は、キャッチャーの丸山みのりがジャンプしても届きそうもない(実際に丸山
はジャンプしたがやはり届かなかった)大暴投だった。

 このマクスウェルの強肩っぷり、一部ファンの間では“マックスキャノン”と呼ばれて
いるそうだが、ときおり暴発してしまうらしい。

「え、逆転?」
 栗田は困った。勝ちパターンの投手をつぎ込むつもりが狂ってしまった。
 さあ、どうしよう。
 先発の三上を信頼していたと言えば聞こえは良いが、やはり交代のタイミングが遅れた
と言わざるを得ない。
「まいったな……」
 栗田は投手起用を練り直すことになった。
 一方、マウンド上の三上英子は一つため息をついて、後続の打者を抑える。
0341「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十二話2011/10/05(水) 23:42:46.05ID:/1scNRPF
8/8
 試合は2対3と東京シャイニングヴィーナスの1点ビハインドとなった。
 これから7回裏のヴィーナスの攻撃が始まる。当然ヴィーナスは同点に追いつき、一気
に逆転したいところだ。
 なお、場内アナウンスによると「東京シャイニングヴィーナス、ラッキーセブンの攻撃
です。ファンの皆様、より一層のご声援をお送り下さい」とのこと。
 しかし、ヴィーナスの攻撃は6番の小松田沙織から。いわゆる下位打線である。

 マウンドには横浜の3番手として、宇働美和子が上がった。
 宇働と言えば、勝ち試合でも負け試合でも登板し、黙々とミットに投げ込む姿が印象的
な右のサイドスロー投手だ。
 そして今日もまたキャッチャーのサインに小さく頷き、淡々と投げる。
 まず先頭の小松田はレフトフライに、続いて中本寛子はショートゴロに倒れる。
 だが、三者凡退だけは避けたい場面で8番の丸山みのりがツーベースヒットでチャンス
を作った。
 9番の三上英子の打順だが、ここはもちろん代打が登場する……のだが。

「なんで私なんですか、この場面は塩原さんでしょ!」
 栗田から代打に指名された清美瑞希が、何やら反論している……?
「そう言われても……もう審判に言っちゃったしな……」
 選手からのまさかの反応に、栗田は戸惑ってしまった。
 ちなみに、塩原由佳は御堂あづさ入団まで4番を任されていた強打者だ。
 ここ数年は代打の切り札として、ここぞの場面で起用されている。

「バッター、早く」
 主審が一塁側ベンチに声をかける。無論、このまま打席に立つのを拒否し続けるという
わけにはいかない。
 結局、塩原にも諭されて渋々打席に立った清美だったが、宇働の前に三振に倒れた。

「まいったなこりゃ……」
 栗田はすっかり参ってしまった。
 いや、参っている場合では無かった。リリーフする投手を選ばねばならない。
「悪いな大岩。ビハインドで出番になってしまったが……」
「投げろと言われれば、いつでも投げますよ私は」
 申し訳なさげな栗田に対し、大岩ゆうなは素直にマウンドに上がった。
 しかし、ストッパーの城之内は負け試合で使うわけにはいかないだろう。
 さて、栗田監督の采配の見せ所である。

 つづく。
0343創る名無しに見る名無し2011/10/08(土) 01:52:25.41ID:vXig9Sda
ランジェリーフットボールが気になってしょうがない
ちなみにランジェリーバスケットボールというのもあるらしい
0344創る名無しに見る名無し2011/10/09(日) 00:15:33.01ID:J8nwXfQz
…で、スポーツの秋がなんだって?
0346創る名無しに見る名無し2011/10/10(月) 09:20:54.25ID:kY6Z6tn1
今日は体育の日だよね
0347創る名無しに見る名無し2011/10/15(土) 21:38:22.89ID:EjKvfLt2
セリーグは中日の逆転優勝かと思いきや足踏みしてるなー
0348創る名無しに見る名無し2011/10/16(日) 02:39:19.19ID:fUlr1iMD
>>343
創作でやるんなら女子高生の部活にしたほうが良いだろうね
まあ、女の子いっぱい描かないといけないけどね
いや、それより肝心なのはストーリーなんだが
0351創る名無しに見る名無し2011/10/20(木) 23:16:25.81ID:oM1CVUyT
と思ったら今度は京浜急行が買収に名乗り?
てことは京浜ベイスターズになるんですかね
0352創る名無しに見る名無し2011/10/22(土) 22:55:22.80ID:x20MWIBx
>>348ですけど
とりあえずのタイトルで「PrincessBowl」にしましょう
高校女子ランジェリーフットボールの日本一を決める大会の名前でもある(という設定)
0353創る名無しに見る名無し2011/10/25(火) 01:58:30.02ID:i0K/wLFP
シェアワの件は綺麗に流されたけど
結局のところ「一緒にやりましょう」「何かやりたい」
って人が集まらないと何も始まらないんだよなー

まあ、一人で出来る事は一人でやりますけども
0354創る名無しに見る名無し2011/10/27(木) 12:27:32.44ID:9kw7s7Rs
いよいよ今日はプロ野球ドラフト会議なわけだが


なんだか緊張するわー
0356創る名無しに見る名無し2011/11/03(木) 10:40:39.17ID:059MZABA
あげー

アイデアは常に募集中ですよ〜
0360創る名無しに見る名無し2011/11/09(水) 23:37:29.94ID:n6ioJURf
そういえば、女子野球ジャパンカップというのが開催されるみたいですね。
プロアマ(大学高校含む)混合で行われるトーナメントだそうで。
0362創る名無しに見る名無し2011/11/16(水) 22:22:01.56ID:1tS/GKlw
日本シリーズは、これで2勝2敗の五分だね
面白くなってきたんじゃないかな
0363創る名無しに見る名無し2011/11/19(土) 23:56:19.76ID:78OJU2+y
結局第7戦までもつれたか…
ここまで全部ビジターチームが勝利というのも珍しいな
0364創る名無しに見る名無し2011/11/20(日) 22:25:37.53ID:IZkSwkMa
福岡ソフトバンクホークスが日本シリーズを制しました〜!
おめでとうございます!

しかし中日ドラゴンズも最後までよく戦いました
落合監督お疲れさまです
0365創る名無しに見る名無し2011/11/21(月) 23:06:37.68ID:zN2lNUxe
さて、日本シリーズも終わったということで
他のスポーツにも目を向けていきましょうか
0366 ◆dFZPiudNYU 2011/11/27(日) 20:37:44.37ID:T1Jtx/o7
野球に期待だな
0368創る名無しに見る名無し2011/11/30(水) 22:27:23.05ID:WWWUfGRW
そういやアジアシリーズはやはりみんなスルーなのね…
0371創る名無しに見る名無し2011/12/01(木) 04:47:21.93ID:7u/rJi+4
やり初めは盛り上がったけど、突然スポーツニュースで触れなくなった印象。
0372創る名無しに見る名無し2011/12/02(金) 12:22:21.35ID:+I1VDCst
結局DeNAに決まったね
楽天は最後まで反対してたみたいだけど
0373創る名無しに見る名無し2011/12/03(土) 09:52:44.04ID:ApSW+nDJ
Jリーグは今日の最終節で優勝が決まるみたいですけど
創発にサッカーファンっているのだろうか?
0374創る名無しに見る名無し2011/12/05(月) 00:44:21.50ID:14DxQt3I
鯖落ちしてたみたいね
0377創る名無しに見る名無し2011/12/09(金) 16:57:48.75ID:QEWD7F3e
〜数年前〜

ダル「僕は日本のプロ野球を盛り上げたいんだ。メジャーには行かないでずっと日本でプレーする」

当時からまー行くだろうとは思ってたけど。
0378「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十三話2011/12/11(日) 19:37:04.48ID:2JKUpcpQ
1/8
 東京シャイニングヴィーナス対横浜ブルーマーメイズの第2回戦も、いよいよ終盤へ。
 まず、2回と5回に東京が続けて得点を上げて2点リード。
 しかし、対する横浜もこのまま黙ってはいなかった。6回に1点を返し、7回に代打の
大谷千明がタイムリーを放って逆転し、今度は横浜の1点リードとなった。

 既に両先発投手はマウンドを降り、リリーフ投手どうしの投げ合いとなった。
 試合は8回表。マウンドには東京シャイニングヴィーナス2番手の大岩ゆうなが立って
いる。

 この大岩ゆうなはプロ入り以来毎年チーム最多登板を誇るリリーフエースだが、一度も
故障した事が無い、とにかくタフな投手だ。
 ゆうな曰く「丈夫な体に産んでくれた両親に感謝です」とのことだが、勿論それだけで
無く本人の日頃のトレーニングと摂生の賜物である。

 対する横浜ブルーマーメイズの攻撃は、クリーンナップからだ。まずは3番バッターの
ローラ・マスカーニが右打席に立った。
 ここでマウンドの大岩ゆうなは、精神集中の“儀式”に入る。左の脇をキュッとしめ、
グラブをピタリと付ける。さらに右手を胸に置き、鼓動を確かめる。そして、瞼を閉じて
息を整える。この瞬間、球場の音は消え、心の中に静寂が訪れる。

 数秒が経ち、瞼を上げて闇の中から帰還すると、観客の声がより大きく聞こえる。
 スイッチオン。こぶしを握り、トンと軽く胸を叩いて踵を返す。

 キャッチャーミットにストレートが突き刺さる。ローラは空振り三振に終わった。
 4番の栃原かなえに対しても、臆することなくインハイを攻める。
 かなえは特段インハイが苦手というわけでは無いのだが、気迫に押されたのかあっさり
三振を喫する。
 さらに5番のキングマンまで三振に切って取り、大岩ゆうなの今シーズンが最高の形で
“開幕”した。
 これがチームの勝利に繋がれば言うことは無いのだが。
0379「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十三話2011/12/11(日) 19:40:56.95ID:2JKUpcpQ
2/8
「ナイスピッチ、大岩」
 東京シャイニングヴィーナス監督の栗田永一は拍手をしながら笑顔で出迎える。
「そんな、たまたまですよ」
 と、ゆうなは答えた。またまたご謙遜を。でもそれがあなたのいいところ(?)。
「次の回はどうされるんでしょうか……監督」
 ゆうなは栗田に尋ねた。もちろん次のイニングも行けと言われたら投げるつもりだ。
「しかしビハインドだからな。無理はしなくて良い」
 栗田はそう言って、畑中良子を3番手に指名した。

 試合は8回の裏。1点差を追うシャイニングヴィーナスの攻撃は、1番の小宮奈美から
始まる上位打線だ。同点と言わず一気に逆転してしまおう。
「それじゃあ行って来るっス」
 切り込み隊長としての役割を背負って打席に入る小宮奈美が、気合いを入れる。
 マウンドにはマーメイズ3番手の宇働美和子が、7回に続いて上がっている。このまま
マーメイズがリードを保てば9回には不動の守護神、矢尾つかさが出てくるだろう。
 さらには左投手の関内史織も控えている。他にベテランのリリーフ陣もまだベンチには
残っている。
 まさかの横浜優勢の展開に、三塁側スタンドの横浜ファンも浮き足立つ。
 そんな雰囲気の中、小宮奈美がファーストストライクを積極的に狙い、レフト前ヒット
で出塁する。

「……送る?」
 これから打席に入る2番打者の川原恵美がサインを確認する。
(……了解)
 恵美は心の中で呟いた。しかし、その表情はピクリとも動かない。
 と言ってもこの子の場合、いつも無表情なんですけどね。
「……ほっといて下さい」
0380「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十三話2011/12/11(日) 19:43:51.04ID:2JKUpcpQ
3/8
 さて。この場面はどういう策が考えられるだろうか。送りバントでも良いが、1点負け
ているので、できれば走者を溜めてクリーンナップに繋ぎたいところだ。
「リー、リー、リーっスよー」
 一塁ランナーの奈美は先の塁を窺っている。当然ながら横浜バッテリーも警戒している
わけだが、そんな事で自重する奈美では無かった。

 一塁ランナーの奈美が走った。宇働とバンクスのバッテリーは、クイックで対抗する。
 だがしかし、打者の恵美もそれを黙って見送りはしない。アウトコースのストレートに
バットを合わせる。
 打球は一二塁間を転がる。一塁手の沢本美沙江がファーストミットを思い切り伸ばした
が、わずかに届かず。打球はライト前に転がった。走っていた奈美は一気に三塁まで到達
した。
 奈美と恵美の見事な連携プレーで、ヒットエンドランが成功した。これで無死一塁三塁
とチャンスが拡がった。

「ではでは〜、行ってまいりますぅ〜」
「任せたで、ヒメ」
 打席には3番の大木姫子が立った。
 同点ならびに逆転のチャンスである。一塁側スタンドのヴィーナスファンが姫子コール
を繰り返す。後は姫子がバットで応えるだけだ。
 ここでマーメイズのベンチが動いた。
 三塁側のブルペンから登場したのは、左投手の関内史織だった。
「わかってるな。関内」
 マーメイズ投手コーチの掛端道則が宇働からボールを受け取り、関内に手渡した。
「ええ。左打者を抑えるのが私の仕事ですから」
 関内はキッパリと言い放った。落ち着いた雰囲気ながら、その内心は闘志がみなぎって
いるようだ。
 マーメイズでこの日ベンチ入りしている唯一の左のリリーフ投手として、この場面では
打たれるわけにはいかない。
 一方、打者からすればとりあえず外野フライを打ち上げれば同点というかなり楽な場面
だ。当然ながら姫子も頭の中にそういう考えは入っていた。
 横浜のバッテリーは、高めのボール球で誘う。
 もらった。と姫子が打ちにいったものの、逆に力んでしまったのか、キャッチャーへの
ファールフライを打ち上げてしまう。
 これでは、三塁ランナーが俊足の小宮奈美と言えど、タッチアップは無理だ。
0381「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十三話2011/12/11(日) 19:46:28.77ID:2JKUpcpQ
4/8
 大木姫子が抑えられたものの、一死一塁三塁と依然チャンスの場面だ。そして打席には
4番の御堂あづさが入る。
 言わずと知れた右の大砲であるあづさに対し、関内とバンクスのバッテリーはどの様に
立ち向かうのか、注目の場面と言える。
 ところが、ここでバンクスはスッと立ち上がる。関内は、迷い無く山なりのボール球を
キャッチャーミットへ投げ込む。
 これは……けいえん!
「ほう、逃げるんかい。チキンやのう」
 構えはそのままに、あづさがキャッチャーに向かって挑発する。アメリカ人のバンクス
にも、チキンくらいは理解できるだろう。鶏肉のことでは無い。
 だが、バンクスは何も言わずにボールをピッチャーに返す。相変わらず立ったままだ。

 敬遠の四球であづさが出塁し、一死満塁になった。
 ここからシャイニングヴィーナスの打線はマクスウェル、小松田と左打者が並ぶ。
 関内は左打者に絶対の自信を持っているようだ。
 だが、ヴィーナス監督の栗田は動かなかった。
「マクスウェルは左、しかも技巧派の関内を苦手にしている……あくまでデータ上だが」
 一応代打も頭には入れていたが、結局はそのままマクスウェルを送り出した。
「それでもあのパワーは脅威だ。あわよくば押し出しも……」

 マクスウェルは関内の投球に対して窮屈なバッティングを強いられ、結果セカンドへの
ゴロに打ち取られる。セカンドのローラは迷わずバックホームし、これでツーアウト。
 さらに、キャッチャーのバンクスが一塁に投げてダブルプレーを狙う。しかし、一塁に
全力で走るマクスウェルの大きな体に当たってしまう。
 ツーアウト満塁で、打席には6番打者の小松田沙織が立つ。

 この小松田沙織は満塁での打率が非常に高く、むしろ満塁じゃない場面ではやる気が
出ないのかと疑ってしまうくらいだ。勿論、そんな事は無いのだが。
 誰が言ったか、“満塁の女王(クイーンオブフルベース)”とも呼ばれている。
 ちなみに、高校時代には満塁時に敬遠されたという逸話まである(試合は負けた)。
 とまあ、ここまで持ち上げておいて、この場面は凡退なんですけどね。
 たまにはこういう事もある。
 ここでは、このピンチを何とか凌いだ関内史織を素直に褒めるしか無い。
0382「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十三話2011/12/11(日) 19:49:11.77ID:2JKUpcpQ
5/8
 そして最終回、9回表裏の攻防である。ここまで2対3と東京シャイニングヴィーナス
が1点を追いかけている。
 昨年は直接対決で1勝しかしていない横浜ブルーマーメイズが、開幕から2連勝しよう
としているのだ。このままいってしまうのか?

 9回表、横浜ブルーマーメイズの攻撃は6番の沢本美紗江からだ。
 対する東京シャイニングヴィーナスの3番手は、2年目の畑中良子だった。
 久山コーチからも将来的には先発として期待されている速球派左腕だ。
 しかし、課題もある。
「フォアボール!」
 先頭打者の沢本にいきなり四球を与える。そう、コントロールに難があるのだ。
「うーん、しっぱいしっぱい。今度はちゃんと投げよう」
 良子はマウンド上でそう呟いた。あまり気にしていない様子だ。

 横浜ベンチは代走に豊原早瀬を送った。1番打者の屋城にも匹敵する俊足の持ち主だ。
 続く打者は7番のジーナ・バンクス。アメリカ・カリフォルニア州出身のキャッチャー
だ。あまりバントの得意なほうでは無いが、ここでは送りバントをキチッと決め、得点圏
に走者を進める。
「ジーナちゃん、ナイスバントよー! 褒めてあげよう」
 次打者の野原唯花が、ベンチに戻ろうとするバンクスに近づいていく。
「オゥ、ノーセンキュー……」
 しかし、バンクスは抱きつこうとする野原を軽くかわした。

「唯花さん、見境無しやな……」
「そ、そうですね(汗」
 三塁側ベンチに座る沢本美紗江と栃原かなえは、野原の行動に少し引き気味だ。

 まあそれはともかく、野原の打席を見ていこう。左対左だが、横浜のアンダーソン監督
は動かず。
 ここは、ベテラン(って呼ぶと怒られるかも)のバッティングに期待する。
 一方、マウンド上の畑中良子はセットポジションに苦労している。どうしても球威が
落ちてしまうのだ。
「ぐぬぬ。やっぱ投げづらいよぉ」
 それでも投げないわけにはいかないので、良子は投げた。やはりというか、ストライク
が入らない。
 と、その間に二塁ランナーの豊原がいつの間にか盗塁を決めていた。セットポジション
やクイックとか意味無くね? と思わせるほどのスピードだ。これには捕手の丸山みのり
も投げることすらできなかった。
0383「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十三話2011/12/11(日) 19:52:08.75ID:2JKUpcpQ
6/8
 一死三塁。横浜に追加点が入るピンチに、捕手の丸山がマウンドに向かった。
「みのり先輩〜〜。ピンチです〜」
「落ち着くです。りょーちん」
 ちなみに“りょーちん”というのは、畑中良子のあだ名である。“りょーこちゃん”が
縮まっただけで、特に深い意味は無いのだが。
 それはともかく、この回の裏には確実に横浜のストッパーの矢尾つかさが登場する。
 つまり、1点すら許されない場面である。
 ヴィーナスのバッテリーは満塁策を選んだ。
 8番の野原唯花と、代打で登場した根本友実を立て続けに敬遠し、左打者の屋城昴との
勝負に賭ける。
 栗田監督は動かない。グラウンドではキャッチャーの丸山みのりに任せてある。
 結局、屋城と賀藤を打ち取り、この回は何とか0点に抑えた。

 9回の裏、東京シャイニングヴィーナスの攻撃は7番からの下位打線になる。
 マウンドには、横浜ブルーマーメイズの誇る絶対的守護神、矢尾つかさが上がった。
「3人で終わりだ。いや、9球で終わらせる」
 つかさは捕手のバンクスにそう言った。9球とは、3人続けて三球三振という事だ。

 万有引力に逆らって真っすぐ進むストレートと、まさに垂直落下するフォークボール。
 ストレートに的を絞るとフォークに空振り、フォークを見極めようとすればストレート
に振り遅れてしまう。もし狙い通りにストレートを打っても、力の無い打者は前に飛ばす
のはおろかファールで粘るのが精一杯だ。正直、お手上げだ。
 7番の中本寛子、8番の丸山みのりが連続で三球三振。もう後が無くなった。
 そして、次の打順は9番の畑中良子。当然ながら、代打の登場だ。
0384「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十三話2011/12/11(日) 19:56:41.52ID:2JKUpcpQ
7/8
「選手の交代をお知らせいたします。バッター畑中に代わりまして、三島。バッターは、
三島みらい。背番号33」

 歓喜と驚嘆が混じり合った声が球場に響く。最後の打者になるかも知れないこの大事な
場面で、代打の切り札としてチームに貢献してきた塩原由佳ではなく、新人の三島みらい
が打席に向かう。
 たしかに、昨日の開幕戦では横浜のエース浅沼美羽からまさかのホームランを打った。
 たが、二日連続で、しかも今度は横浜の守護神である矢尾つかさから打つというのは、
さすがに出来過ぎと言うか、ご都合主義的展開と言うかなんつうか。
 しかし、ヴィーナスの栗田監督は三島みらいに賭けてみたのだ。
 そう、言うなれば三島みらいは何かを“持ってる”予感をさせる選手だ。

「よろしくお願いしますっ」
 元気良く挨拶をし、打席に入る三島みらい。マウンドの矢尾つかさと比べると、まるで
子供のようである。
 対する矢尾つかさは、そんな三島みらいを見てもノーリアクションだ。
 つかさの頭の中にあるのは、あと一人、目の前の打者を打ち取れば試合終了。それだけ
である。その目の前にいるのが誰だろうと関係ない。

 初球は挨拶代わりの高めの直球。打席のみらいは思い切ってスイングする。
 キーン。
 バットに当たった。だが、捕手の後ろに飛ぶファールになった。
 前には飛ばない。いや、飛ばせない。
(ふん、この程度の実力か。まあ、よくビビらずに初球からフルスイングしたが……)
 この打者にはストレートで十分だな。矢尾つかさはそう判断した。

 2球目。ほぼど真ん中に近いコースに、力強いストレートがビシッと突き刺さる。
 みらいも負けじとフルスイングするも、今度は空振りだった。これで2ストライクに。
 スタンドの横浜ファンからの“あと一人”コールが“あと一球”コールへと変わる。
 奇跡(?)の開幕2連勝へ、戸惑う横浜ファンの声援を背に、矢尾つかさが投球動作に
入る。

 フォークは……無い。一瞬で選択肢を捨て去り、みらいは思い切りバットを振り抜く。
 少しストライクゾーンから外れたインハイへの速球を、小さな体で打ち返した。
 打球は左の方向へ飛んでいく。レフトを守る豊原早瀬の頭の上を軽々と越えていった。
0385「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十三話2011/12/11(日) 20:00:24.16ID:2JKUpcpQ
8/8
 飛距離は充分、入れば同点だ。入るか……切れました、ファール!!

 ざわざわ。あの絶対的守護神が新人に打たれる!? 横浜ファン達がざわめいている。
「いちいち騒ぐんじゃねーよ。ギャラリーども」
 打球の方向も見ずに仁王立ちしていたマウンド上の矢尾つかさが呟いた。
「なあ、三島」
「は、はいっ」
 いきなり話を振られたので思わず返事をしてしまったみらい。確かに冷静に振り返って
みると、打った瞬間の手応えでファールだと瞬時に理解していた。

 とにかく、今のファールで3人連続三者三振は無くなった。しかし試合の展開が有利に
なったわけでは無い。あと1球に追い詰められた状況のままだ。
 ストレートか、フォークか。表か、裏か。白か、黒か。天国か、地獄か。二つに一つ。
 打席のみらいに迷っている時間は無い。
 つかさは主審から新しいボールを受け取ると、すぐに投球を開始する。
 4球目はまたもストレートだった。
 みらいは打った。打球は今度は一塁線へのファールとなった。
 球場のほぼ全員が、矢尾つかさと三島みらいの対決を固唾を呑んで注目している。

 つかさの右腕から5球目のストレートが放たれる。
 みらいがそれを思い切って打ち返す。
 またしてもファールだった。今度は三塁線へ強烈なライナーが飛んだ。
 投手と打者の維持と維持がぶつかり合う。

 だが、ついにしびれを切らしたのか矢尾つかさの右腕からフォークが投げられる。
 くるり。三島みらいの体は独楽のように回転し、その場に尻餅をついた。
 さらに、かぶっていたヘルメットが、みらいの足元にポトリと落ちた。

 あっけない幕切れだが、代打の三島みらいが三振に倒れ試合終了。
 横浜ブルーマーメイズが開幕戦に続いて2連勝を果たした。

 つづく。
0387創る名無しに見る名無し2011/12/12(月) 23:01:13.01ID:BfgYLEyQ
なんつーか、女の子が野球やってるだけで
ストーリーが何にも無いな…
0388創る名無しに見る名無し2011/12/14(水) 13:45:14.60ID:Mj2KObzk
どうしても登場する選手が多くなるね
やはり応援したくなるようなキャラがいないと…
0389創る名無しに見る名無し2011/12/17(土) 10:42:35.32ID:olb5NOGg
女子スポーツ好きは理解されにくいのか?

女子野球とかもっと普及すれば良いのに
0390創る名無しに見る名無し2011/12/17(土) 11:26:13.35ID:JXg//mMl
いや、普通に野球もソフトもボクシングも見るぞ。
女子相撲とか予想外な迫力w
0392創る名無しに見る名無し2012/01/11(水) 03:40:18.83ID:6rQDJAQA
てすと
0393創る名無しに見る名無し2012/01/11(水) 21:25:47.50ID:6rQDJAQA
今年はオリンピックイヤーだから
このスレも盛り上がると良いですね
0394創る名無しに見る名無し2012/01/16(月) 00:33:35.19ID:DDq6jdcz
保守〜

カズのフットサルデビューとかbjリーグオールスターとか
色々あったみたいですね
0395創る名無しに見る名無し2012/01/22(日) 23:44:25.53ID:pPjc9BMf
何か創作しようとは思うのだが…
なかなか難しいね
0398創る名無しに見る名無し2012/01/27(金) 01:35:02.73ID:ph2i9HVN
野球のユニフォーム着た女の子とか
可愛いと思うんですけどねぇ
0403創る名無しに見る名無し2012/02/01(水) 22:55:40.02ID:/Amk++E0
というか、方向性がはっきりしないんだよなぁ…
野球小説(?)がメインなのか、架空の球団づくりがメインなのか
目的がしっかりしてないと参加しにくいもんな

なんか凄い今更だけど
0404創る名無しに見る名無し2012/02/02(木) 21:53:36.43ID:UqzWAs+x
まあ総合スレなんだから
一つの作品に拘る必要も無いしね
何か新しい企画でも考えてみるか…
0405創る名無しに見る名無し2012/02/04(土) 01:18:46.21ID:qwWloIsx
静岡にプロ野球チーム…?
他の県にも呼びかけて一気に16球団化みたいな話もあるようですね

静岡の他には新潟、四国、沖縄が候補みたいですけど
どうなるんでしょうね
0406創る名無しに見る名無し2012/02/04(土) 14:47:12.22ID:Y0JDCoiB
ちょうどセパ16球団な妄想してる俺が居た
全く書いてないけど
0409創る名無しに見る名無し2012/02/05(日) 00:33:04.09ID:kDdgpZPc
でもあと四球団も増えるとリーグ編成が悩みどころだな。
ただ、クライマックスシリーズとかわけわかんない事してる現状を考えるとリーグを三つに分けて、それぞれの優勝チームとワイルドカードで争う真の日本シリーズが再び見れるかもしれない。
0410創る名無しに見る名無し2012/02/05(日) 22:04:57.45ID:yykQhQz1
リーグを三つに分けてみる…
☆は新球団

セリーグ:中日 巨人 阪神 広島 ☆静岡 ☆新潟
パリーグ:ソフトバンク 西武 楽天 ロッテ ☆沖縄
新リーグ(仮称):ヤクルト DeNA 日本ハム オリックス ☆四国

6・5・5になるから常に交流戦になるけど
あとはオールスターが問題かな
0412創る名無しに見る名無し2012/02/06(月) 13:07:49.98ID:R2PC3k5s
>>406な俺だけど
セリーグ:巨人 ソフトバンク 中日 新潟(ヤクルト移転) 広島 阪神 ☆鳴門 横浜
パリーグ:西武 ロッテ 日ハム オリックス ☆愛媛 ☆鹿児島 ☆金沢 楽天

2軍
イースタン
巨人 ヤクルト 横浜 西武 ロッテ 日ハム ☆金沢 楽天
ウエスタン
ソフトバンク 中日 広島 阪神 ☆鳴門 オリックス ☆愛媛 ☆鹿児島

☆は新球団

みたいに考えてた
選手とかスタッフとかまで全然頭回んないけど
0413創る名無しに見る名無し2012/02/06(月) 22:59:59.43ID:JNbx4FVU
新球団の選手は楽天が参入した時みたいに
分配ドラフトをするんだろうか
0417創る名無しに見る名無し2012/02/15(水) 22:56:04.29ID:Y3tSdpoN
東京シャイニングヴィーナス・大岩ゆうな
http://loda.jp/mitemite/?id=2799
0418創る名無しに見る名無し2012/02/16(木) 01:18:45.77ID:v/lRiAGc
>>410で話を考えたいが、とりま主人公とライバルはそれぞれ新球団のいずれかに入団(静岡と新潟とか)させるとして
既存球団の扱いが困るか…個人的にはキャットルーキーみたいな形で良いと思うんだが

そもそもキャットルーキーをどれだけの人が知ってるのか不安だ
0419「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十四話2012/02/21(火) 23:27:12.27ID:SL5XYNaa
1/8
 開幕シリーズ第2戦終了後の夜。
 東京シャイニングヴィーナス選手寮の2階、末永陽子の部屋。
「悪いな、明日登板だから行けなくて」
 陽子は携帯電話で学生時代からの友人と会話している。
 その友人は高校時代には陽子と同じ女子野球部に所属し、現在は就職して東京に住んで
いる。
 他にも似た境遇の元部員が何人かいて、度々集まって遊んだりしている。
 その中で今でも野球を続けているのは、女子プロ野球選手になった陽子だけである。
 この日は陽子を除くメンバーで女子会(笑)を開いて盛り上がっているらしい。
「ああ、うん。チケットは明日渡すから。じゃーな」
 プツッ。陽子は電話を切った。

「ふぅ……」
 部屋のソファに独りで座る陽子がため息を一つ。……幸せが逃げていきますよ?
「そっかー。結婚かー……」
 なんですか急に。
 先ほどの電話によると、元女子野球部メンバーのうちの一人が近々結婚するらしい。
 陽子だって女の子の端くれなので、そういったものに関心が無いわけではない。
 ただ相手がいないだけだ。
「……って、そんな事を考えてる場合じゃねーな。明日に備えて寝ないと」
 そうだった。東京シャイニングヴィーナス先発三本柱の一角である陽子の今シーズン
初登板が明日に迫っているのだ。
 しかも、今季チーム初勝利を我が手で掴むチャンスでもある。

「あいつ、学生の頃から男子と付き合ったりしてたっけ。私は野球一筋だったけどな」
 ベッドの上で独り言を呟く陽子。早く寝なさい。
「野球が恋人か……って、どんなギャグだよっ」
 まったくだ。そんな事より早く寝なさい。
「どっかに私の愛情をストレートに受け止めてくれる女房役、もとい旦那様はいないもん
かなー。いないよなー」
 と、強引に野球に例えてみたりする。いいから早く寝なさい。
「へっへっへ。陽子ってベッドの上では荒れ球なのな……って、意味不明だし」
 何やら妄想が始まったようだ。おい早く寝ろ。
「……Zzz」
 やっと寝たか。
0420「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十四話2012/02/21(火) 23:31:26.52ID:SL5XYNaa
2/8
 そして翌日。球場の時計の針は午後6時30分を指している。
 異様な熱気の中、試合が始まった。
 東京シャイニングヴィーナス対横浜ブルーマーメイズ第3回戦。
 奇跡(?)の2連勝中であるブルーマーメイズの先発は河尻多衛子。
 一方、まさかの開幕連敗スタートとなったシャイニングヴィーナスは末永陽子が先発の
マウンドに上がる。

 ちなみに、リーグのレギュレーションにより日曜と祝日の試合はDH(指名打者)制を
採用している。この日は日曜日なので、両チームともDHを起用した。
 今日のブルーマーメイズ打線は、DHにジェニファー・キングマンを入れ、レフトには
豊原早瀬を入れている。

 1回裏。横浜の攻撃は、1番打者の豊原から。第2回戦まで1番を打っていた屋城昴を
3番に据え、1〜3番を俊足のバッターで固めている。
「ふーん。塁に出さなければどうという事は無いけどな」
 先発投手の末永陽子は強気に言い放った。
 陽子が初球を投じる。もちろん拘りのある直球だ。ズバッとインコースに突き刺さり、
まずは1個目のストライクを奪う。
 打席の豊原は確かに俊足だが、打撃は苦手だ。だから普段は代走なのだが。
 ヴィーナスのバッテリーは、極端に言えば四球さえ気を付ければ大丈夫。という考えで
ストライクゾーンへと投げ込み、まずは豊原をセカンドフライに仕留めた。
 続けて2番の賀藤春奈を打ち取った後、今日は3番の屋城昴にヒットを打たれる。

 初回から三者凡退とはならなかったものの、4番打者の栃原かなえが右打席に立つと、
陽子はすぐに気持ちを切り替える。
 ところが、栃原に対しての1球目を投げる間に一塁ランナーの屋城が盗塁を決めた。
 これで横浜に先制のチャンスが転がってきた。
 しかし、陽子はランナーの方を振り向かない。目の前のバッターを打ち取ることだけを
考えた。
 4番の栃原かなえをサードフライに打ち取り、この回は0点に抑えた。上々の滑り出し
と言える。

「ナイスピッチです。末永さん」
 ベンチへ戻る途中、キャッチャーマスクを被る丸山みのりが末永陽子に話しかける。
「あぁ。三者凡退とはいかなかったけどな」
 と、笑顔で返す陽子。気分も上々のようだ。
0421「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十四話2012/02/21(火) 23:34:34.79ID:SL5XYNaa
3/8
 本日の東京シャイニングヴィーナスのオーダーは、新人の三島みらいをDHに入れたが
守備は昨日までと投手以外は変わらない不動のメンバーだった。
 打順は、1番の小宮奈美から6番の小松田沙織までがそのままで、7番に三島みらいを
入れ、8番9番は中本寛子と丸山みのりがそれぞれ繰り下がった。

「河尻さんには恨みは無いっスけど、2日分のフラストレーションをぶつけさせてもらう
っスよ!」
「……小宮、慎重に」
 やたらテンションの高い1番打者の小宮奈美と、それとは対照的に落ち着いた雰囲気で
ネクストバッターズサークルに入った2番打者の川原恵美。この2人が得点の鍵を握って
いると言っても過言では無い。

 横浜ブルーマーメイズの先発投手、河尻多衛子がマウンドに上がる。丁寧なピッチング
が身上の、まあ言ってみれば特長の無い投手だ。
 男性ファンの多い浅沼美羽や女性ファンの多い阿和野透子に比べると、どうしても地味
に思われがちな河尻。でも、そんな子が好きだと言ってくれる人もいると思うんだ。
 話が逸れたが、とにかく試合が始まりマウンドに立てば、やはり投手には注目が集まる
ものである。そこだけが自分の輝ける場所だからこそ、河尻は今日も投げるのだ。

 河尻は右投手なので、スイッチヒッターの小宮奈美は左打席に入った。
 積極打法の奈美は、河尻に対して初球から打っていった。
 だがしかし、その打球はポップフライに。セカンドが難なくキャッチしワンナウト。
 続く川原恵美は粘ったもののショートゴロに倒れる。野原唯花が軽く捌いて2アウト。
 相手投手としては塁に出したくない1、2番があっさりと凡退した。

「アカンやん、2人とも」
 シャイニングヴィーナスの主砲、御堂あづさがベンチから出てくる。
「たのむで、ヒメ」
 あづさはこれから打席に向かう大木姫子に声をかけた。
「もちろんです〜。見てて下さいね〜」
 3番の姫子が打席に入る。三者凡退は避けたいところ。
 ピッチャーの河尻は落ち着いて低めへの変化球で攻める。
 姫子は結局サードゴロに倒れて、シャイニングヴィーナスの1回表の攻撃は三者凡退に
終わった。
0422「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十四話2012/02/21(火) 23:38:04.83ID:SL5XYNaa
4/8
「ナイスピッチです。尻さんっ」
 ブルーマーメイズの三塁を守る栃原かなえが、好投した河尻をねぎらった。
「ありがと。とっちぃ」
 控えめにニコリと微笑む尻さんこと河尻多衛子。尻さんって呼ばれてるのか……。
 横浜が今日勝てば、昨年日本一の東京シャイニングヴィーナスに3タテを食らわせる事
になる。
 だが、そう考えると逆にプレッシャーがかかる。よって、河尻は平常心でのピッチング
を続ける事を心掛けた。
「……今は連敗中よ、連敗中。今日負けたら最下位転落なの……ブツブツ……」
 河尻は心の中で呟いた。周囲には聞こえないように自分に暗示をかけた。
「尻さん?」
 ベンチに戻ろうとする栃原かなえが振り返った。気付かれたのか?
「な、何でも無いからっ」
 河尻は少し慌てた。だが、何事もなく済んだようだ。

 2回、3回も両先発投手が好投した。序盤は投手戦となりそうだ。
 シャイニングヴィーナス先発の末永陽子は、自慢の速球を惜しげもなくインコースへと
投げ込んでいく。
 試合が動いたのは4回表だった。先頭打者の3番屋城昴がショートへの内野安打で出塁
し、続く4番栃原かなえの打席の初球に盗塁を決めたのだ。
 さらに栃原がセカンドへのゴロで屋城を三塁に送り、5番ジェニファー・キングマンが
ライトへ軽々とフライを打ち上げ、横浜ブルーマーメイズが1点先制した。
 まさに、もぎ取ったという表現が相応しい先制点だった。
「この1点は、チームのみんなで奪い取った1点だ。と、監督が申しております」
 控え捕手兼通訳の宮永美里が横浜を率いるアンダーソン監督の言葉を選手に伝えた。
 宮永の英語は大学時代、アメリカに一人旅をして身につけた本場の英語であり、発音も
問題無い。と監督からのお墨付きも得ている。
 それはともかく、この1点で一気に横浜ベンチは盛り上がった……ハズだ。

 対する一塁側、東京シャイニングヴィーナスの栗田監督は落ち着いている。
「なに、慌てる事は無い。昨年の河尻はウチに対して一つも勝っていないじゃないか」
 と栗田は言い放った。もちろん、昨年の試合を実際に見たわけでは無いのだが。
 ……ちょっとは作戦でも考えてみたらどうか。
0423「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十四話2012/02/21(火) 23:42:25.78ID:SL5XYNaa
5/8
「あ。次の回は私からっスね」
 その通り、4回裏は1番打者の小宮奈美から始まる上位打線だ。
 それは同時に、初回から3イニング続けて三者凡退という事でもある。
「切り込み隊長として、責任を感じるっスね。二周り目は私が口火を……」
 そんな奈美に対し、栗田が声をかける。
「あまり気負いすぎるなよ。えーっと……そうだな、しっかりボールを見極めていけ」
「あははっ、なんだか監督みたいっスね」
 そう言って、奈美はさっさと左打席に入った。
「お、おい。……まあいいか」
 栗田はそんな奈美をやれやれという表情で見送った。

 淡々と丁寧に投げる横浜先発の河尻だったが、ヴィーナス打線はそれを中々捉えられず
にいた。
 対照的に闘志をむき出しにして打者に攻めていく東京先発の末永陽子も、2点目の失点
は許さない。

 こう着状態のまま、試合は中盤に差し掛かっていた。
 そして、6回表のマウンドに末永陽子が向かう。ここまでの球数は、87球だ。
「0点に抑えているとは言え、球数が多いな。特に前の回は三者凡退だが、かなり荒れていてボール球が多かったしな……」
 栗田は、陽子の投球をそう分析した。
 開幕前の練習試合では、5回途中でマウンドをセットアッパーに譲った末永陽子だが、
 今日は7回までは投げて欲しい。と栗田は考えている。
 だが、一応念のためにブルペンでは、リリーフエースの大岩ゆうなが準備を始めた。

 さて、試合のほうである。6回表の横浜の攻撃は、1番の豊原早瀬から。
 俊足の豊原ではあるが、塁に出なければその“武器”を生かす事は出来ない。
 ここまでの2打席は出塁ができず、自慢の足を披露する場面は無かった。
 このまま全打席凡退で終わると、まだスタメンは早かったか……と、アンダーソン監督
が判断しかねない。
 ピッチャーの末永陽子は、直球で攻める。だが、序盤のような球威は無かった。
 豊原が果敢に打ちにいった打球は、三遊間に力無く転がった。その瞬間、豊原は左打席
から猛スピードで一塁を目指した。
「よっしゃ、もろた!」
「……っス!?」
 転がったボールはショートの小宮奈美の守備範囲だったのだが、サードの御堂あづさが
グラブを伸ばして捕ってしまった。いや、それは問題ないか。ともかく、捕ったあづさが
ファーストに送球した。
0424「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十四話2012/02/21(火) 23:45:17.21ID:SL5XYNaa
6/8
 一塁塁審の両手が左右に広がる。一塁はセーフ。内野安打だ。
「アカン。あいつ足速すぎるわ。スピード違反やろ」
 あづさは驚きの声を隠せなかった。

 豊原早瀬は中学時代、サッカー部でフォワードとして活躍していた。
 また他のスポーツでも、ルールさえ覚えれば軽くこなした彼女だったが、どういうわけ
だか野球(特にバッティング)のセンスだけは無かった。
 将来の女子サッカー日本代表入りも夢では無いと言われた逸材だった彼女だが、何故か
高校から苦手な野球を本格的に始める事となる。

 さて、試合に戻ろう。打席には2番の賀藤春奈。通称ガトりん。チームの中でも小柄な
選手なのだが、打席の中での気迫はチーム一と言っても過言ではない。2番の打順でも
送りバントをせず、思い切って踏み込んで打ちにいくタイプの打者でもある。
 ピッチャーの末永陽子は賀藤に対し、インコース高めの直球で攻める。ホームベースに
覆い被さらんと構えている左打者の賀藤春奈に一歩も引かない。

 それは賀藤への3球目だった。一塁走者の豊原が、たまらずスタートを切った。
 捕手の丸山みのりが二塁に送球するも、豊原の脚の方が二塁ベースに早く到達した。
 盗塁成功。今夜はチーズケーキを買って帰ろう。
 これでマーメイズは追加点のチャンス。賀藤のカウントは2ストライク1ボール。
 陽子はなおも直球で攻める。二塁ランナーの豊原は様子を見ている。
 5球目、高めの釣り球に手を出して賀藤は三振。これでようやく1アウト。
「ふぅ……」と、陽子は息を漏らした。
0425「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十四話2012/02/21(火) 23:49:21.67ID:SL5XYNaa
7/8
 打順はクリーンナップに回った。本来はリードオフマンの屋城が走者を還す場面で打席
に立った。
 東京シャイニングヴィーナスのベンチは、ただじっと見ているだけだ。
 一塁側のブルペンでは大岩ゆうなが軽くキャッチボールを始めたが、まだ登板する状況
では無いようだ。
 この場面は私が抑えるしかない。陽子はロージンをしっかりと手に付けた。

「陽子、自分だけで抑えようとしないでバックを信頼して。まあ、言われなくても解って
いるだろうけど一応ね」
 キャプテンである一塁手の小松田沙織が、マウンドで独り闘っている陽子に優しく声を
掛けた。
 陽子は沙織の言葉に小さく頷き、ふたたび打者の屋城昴の方を向いた。
 ヴィーナスの内野陣は屋城の足を警戒し、やや前進守備になった。
 豊原の三塁への盗塁も頭に入れ、陽子は左打者のアウトコースを中心に直球で攻めた。
 だが、陽子の直球は序盤のような球威は無く、屋城にセンター前に弾き返される。
 センターの大木姫子が素早く処理したので豊原のホームインとはならなかったものの、
1アウトでランナーは一、三塁になった。

 打席に立つのは横浜4番の栃原かなえ。一発もあるスラッガーだが、こういう場面では
走者を還すバッティングに専念する傾向のある打者だ。
 陽子は打席の栃原に対し、やはり直球で攻めた。しかし、どうにもこうにも球が高めに
浮いてしまう。
 さらに一塁ランナーの屋城と三塁ランナーの豊原は共に俊足で、当然ながら盗塁を警戒
しなければならない。

 3球目のカーブがすっぽ抜け、カウントは0ストライク3ボールになった。
 ピッチャーの末永陽子はマウンドの土を蹴り、キャッチャーの丸山みのりはさりげなく
一塁側ベンチを見る。
 主砲との対決を避けるか、それとも勝負するのか。監督に判断が委ねられた。
 シャイニングヴィーナス監督の栗田は、迷うことなくバッテリーに勝負を選択した。
 次に待つのは左のパワーヒッター、ジェニファー・キングマン。素振りの音がこちらの
ベンチにまで聞こえてくるかのようだ。
0426「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十四話2012/02/21(火) 23:53:44.57ID:SL5XYNaa
8/8
 末永陽子はセットポジションから、ストライクゾーンに直球を投げ込んだ。
 打席の栃原かなえが見送り、とりあえずストライクを取った。問題は次の球である。
 栃原は狙いをストレートに絞る。対する陽子とバッテリーを組む丸山みのりは、カーブの
サインを送った。
 5球目のカーブが丸山みのりのミットに吸い込まれる。栃原は思い切りの良いスイング
を見せたが、バットが空を切り、これでフルカウントになった。

 四球は出したくないし、ここはストレートを投げるしか無い。栃原はそう読んでいた。
 まさにその通りの直球を、横浜の主砲が力いっぱい打ち返した。
 その打球は、右中間へと飛んで行く。あわやスタンドインかという当たりだった。
 フェンスに跳ね返ったボールを、ライトのマクスウェルが処理する。
 その間に一塁ランナーの屋城昴までも一気にホームへと生還し、横浜ブルーマーメイズ
が2点を追加する。

「追加点やで。やったな、尻さん」
 三塁側ベンチにて、沢本美紗江が河尻多衛子に話しかけた。
「う、うん。だ、大丈夫です。だいじょうぶ……」
 1対0の接戦から、中盤に味方打線から2点の援護を貰った河尻だが、今はそれどころ
では無いようだ。がくがくと体が震えている。
(どどどどどうしよう……このままでは、たたたたいへんなことに……)
 河尻は、心の中で呟いた。

 それはさておき。
 このまま横浜が押し切り、開幕三連勝となるのか。
 それとも、王者が反撃を見せるのか。
 まだまだ試合は終わらない。

 つづく。
0427創る名無しに見る名無し2012/02/21(火) 23:57:19.43ID:SL5XYNaa
投下終了です。

>>385からの続きになります。
0430創る名無しに見る名無し2012/03/12(月) 20:30:54.34ID:kE1cGWjh
>>428
いい事言うなあお前。
みんなが頭じゃわかっててもなかなか実践できない事を口に出して言えるなんざ大変な自信だよ。
それで出来てなかったらあのインチキ占いのバアさんと一緒だぞお前。
そんなに当たり前の事を言いたかったら尼さんにでもなってから説教したらどうだ。
0432創る名無しに見る名無し2012/03/20(火) 21:16:39.71ID:KsUeqJRx
いつかロッキーみたいな話を書きたい。
0433創る名無しに見る名無し2012/03/21(水) 16:24:31.62ID:VJFTf5SU
センバツ始まったage
0434創る名無しに見る名無し2012/04/04(水) 23:38:20.70ID:fff7Q8v9
>>433
センバツ高校野球は大阪桐蔭の優勝で幕を閉じました
光星学院は東北初の栄冠には後一歩届かず…
0435「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十五話2012/04/08(日) 11:43:06.35ID:FwKWo06M
1/8
 横浜ブルーマーメイズ打線が止まらない。
 ジェニファー・キングマンとローラ・マスカーニの舶来砲コンビが、ヒットを立て続け
に放ち、さらに1点を追加した。これで4対0と横浜がリードを拡げる。
 打席には沢本美紗江。前の球団では代打の切り札という事になっていたが、実際は出番
があまり無かった。故にトレードで横浜にやってきてスタメンで出られる今は、プレーが
出来る喜びに目覚めたのだろう。移籍2年目にして早くもチームに馴染んでいるようだ。

「大丈夫……まだやれる……」
 マウンド上には末永陽子。開幕3連敗の阻止に燃えて先発した彼女だったが、この回に
遂にマーメイズ打線に捉えられたようだ。
 ヴィーナスのベンチは依然として動かない。ブルペンではセットアッパー大岩ゆうなが
待機しているが、どうやら出番では無いようだ。

「まだなんですかねー」
 ゆうなはブルペンの椅子に座る城之内真緒に尋ねた。真緒は勝ちゲームのクローザーを
任されている。したがって、開幕してからの2試合とも出番は無い。
「うーん。そうねぇ……監督にも考えがあっての事だと思うけど……」
 真緒は小首をかしげる。
「えっと、栗田監督は1イニング限定でって考えみたいですね。昨日もそうだったし」
 ゆうなはそう言った。
「まあ、去年までのゆうなちゃんは投げ過ぎよね」
「そうですか。投げろと言われたら、いつでも行けるようには準備してましたけど……」
「うん。ゆうなちゃん、ブルペンでもずーっと投げてたもんね」
 と、去年のブルペンでの様子を振り返る真緒。紅茶をすすっているのは余裕の表れか。
「ダージリンですか?」
「ええ。ファーストフラッシュ。一杯どう?」
「じゃあ、いただきます」
「スペシャル・ファイン・ティッピー・ゴールデン・フラワリー・オレンジ・ペコーよ」
「えっと……よくわからないですけど……飲んでみます」

「あ。和穂ちゃんも御一緒に、どうかしら」
 真緒は同じくブルペンにいた山浦和穂に声をかけた。山浦はキャッチャーで、だいたい
この場所でリリーフ投手のボールを受けている事が多い。
 ちなみに、ベンチ登録人数の関係もあって、この日は山浦が出場する機会は無い。
0436「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十五話2012/04/08(日) 11:48:45.40ID:FwKWo06M
2/8
 真緒らがブルペンで紅茶を嗜んでいる間にも、試合は続いていた。当然だが。
 沢本美紗江がタイムリーヒットを放ち、点差は5点に。マーメイズ打線が爆発だ。
 一方、マウンドには末永陽子が立ったままだ。一塁側ベンチはまだ動かず。

「これじゃあ大岩の出番は無いかな……」
 シャイニングヴィーナス監督の栗田がポツリと呟いた。
「久山さん。畑中と村尾に作らせてください」
「この試合は捨てるつもりか?」
 投手コーチの久山が栗田に問い返した。
「いえ。ですが、大岩ばかりを使う必要は無いでしょう」
 栗田はそう答えた。今日はリリーフエースを温存か。

 末永陽子は下位打線を抑えてなんとか3アウトを取った。
 栗田監督もやれやれといった表情で迎えた。

「真緒さん。また点入っちゃいましたけど」
「そうねえ」
 ゆうなと真緒は紅茶を飲みながら、ブルペンのモニターで試合を見ている。
 そこへ、投手コーチの久山博がやって来た。
「あ。久山さん、お疲れ様です〜」
「おう。相変わらずだな真緒」
 久山は、畑中良子と村尾一恵に肩を作るように指示した。
「あの、私は……?」
 ゆうなが久山に尋ねた。ビハインドだろうと登板する準備は出来ている。
「次の回は左が続くから畑中、その次は村尾でしのぐ。その間に打線が繋がり逆転すれば
ゆうなと真緒を投入する。これが栗田監督の考えだ」
 ということで、畑中と村尾がキャッチボールを始めた。
「ゆうな。とりあえず、監督の指示に従ってくれ」
「はい。わかりました」
 ゆうなは久山の言った事を素直に聞き、こくりと頷いた。
0437「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十五話2012/04/08(日) 11:53:32.94ID:FwKWo06M
3/8
 試合は横浜ブルーマーメイズの大量リードで6回裏まで進んだ。
 この回の東京シャイニングヴィーナスの攻撃は、7番の三島みらいから。
「三島、この回は……」
「あ、監督。とりあえず1本ですよね」
「おう。とにかく1点ずつでも返していかないと」
「それもあるんですけど……もしかして、お気づきでない?」
「ん? 0対5でビハインドだろ。ビッグイニングを作らないと」
「あの……スコアボードを見て下さい」

 栗田は三島みらいに言われるがまま、スコアボードを見た。当然ながら0が並んでいる
のだが……?
「あ、ノーヒットじゃん」
 栗田は今頃気付いた。確かに今日のシャイニングヴィーナス打線の安打数はゼロ。
 ブルーマーメイズ先発の河尻多衛子に対し、ヒットはおろか走者すら出せていない。

 それはつまりどういう事なのか。昨年度リーグ優勝した東京シャイニングヴィーナスの
名だたる強打者が、昨シーズンBクラスに終わった横浜ブルーマーメイズの先発三番手に
過ぎない投手に対して1回から5回まで、すなわち打者15人がいずれも凡退していると
いう事だ。
 もしこのままノーヒットノーランで試合を終えれば、ブルーマーメイズの投手としては
初の快挙となる。
 余談だが、ノーヒットノーランならば東京シャイニングヴィーナスの三上英子が2年前
に達成して以来であり、エラーや四死球による走者も無ければ、女子プロ野球リーグでは
史上二人目の完全試合になる。
0438「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十五話2012/04/08(日) 12:00:42.14ID:FwKWo06M
4/8
 マウンド上の河尻多衛子は、今まで通りの淡々としたピッチングを続けている様に見え
る。だが、その内心は穏やかではない。
「ああっ……気づかれたっぽい……」
 河尻は焦っていた。大量リードを背負っての投球だが、とてもそんな余裕は無い。
(もし……ここで1本ヒットを打たれたら、そこから急に崩れて大量失点という事も……
有り得なくも無い……だって私のメンタリティは……絹ごし豆腐のように……脆いし)
 何やら心の中で呟きながらも、河尻はこの回も三者凡退に抑えた。

 東京の2番手は畑中良子だった。対する横浜の攻撃は、1番の豊原早瀬から。
 この回は左打者が3人並ぶという事もあり、サウスポーの畑中がキッチリと三者凡退で
抑え、7回表のマーメイズの攻撃は0点に終わった。
 その裏、ヴィーナスの攻撃はこちらも上位打線から始まった。まずは1番の小宮奈美が
左打席に入った。
 なんとかマーメイズ先発の河尻多衛子から、初ヒットを奪いたい場面だ。
 そこで奈美は初球からセーフティーバントを試みる。
 ところが、ボールはピッチャー河尻の前へ。フィールディングもそこそこという評価の
河尻だが、これを難なく処理してワンナウトとした。
 さらに後続も倒れて、ノーヒットは継続中となった。

「すごいっすねー、尻さん」
 平常心を装いながらベンチに戻る河尻多衛子に、レフトを守る豊原早瀬が声を掛ける。
「あ、早瀬ちゃん……」
「このままだとノーヒットノーランやっちゃうんじゃないっすかー。あははっ」
 ちょっ、おまっ。豊原を除くマーメイズナインに戦慄が走った。
「おい早瀬、いいからちょっと来い」
 チームリーダーの野原唯花が豊原の口を押さえ、そのままベンチ裏に連れ去った。
 まあ、次の守備までには帰ってくるでしょう。

「尻さん、気負わずにいつも通りに行きましょう……」
 栃原かなえが河尻に言った。
「えー、あー、うん。大丈夫大丈夫。マイペースマイペース……」
 どこか遠くを見ながら呟く河尻。本当に大丈夫だろうか。
0439「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十五話2012/04/08(日) 12:14:06.94ID:FwKWo06M
5/8
 試合はまだ続いている。東京シャイニングヴィーナスの3番手投手は村尾一恵だ。
 先発、中継ぎ、敗戦処理と何でもこなす“何でも屋”である。
 村尾一恵は8回表を、シングルヒット1本を打たれただけで無失点で抑えた。
 そしてその裏、東京シャイニングヴィーナスの攻撃は4番から始まる好打順であるが、
果たして河尻多衛子からヒットを打つ事が出来るのか。
 まずは、主砲の御堂あづさが右の打席に入る。

「このままじゃあ、終わられへんな……」
 打席のあづさは一旦点差は忘れて、ピッチャーの河尻を打ち崩す事に集中する。
 河尻は初球を投げた。少し高めに浮いたボールを、あづさは迷わずフルスイングした。
 打球は三塁側に大きく外れるファールだったが、球場を沸かせるのには十分だった。
「たえちゃーん、しっかりー」
 ショートの野原唯花がピッチャーの河尻に声をかける。
 河尻はこくりと頷き、再び打者と対峙する。
 二球目は高めに大きく外れ、ボール。御堂あづさは余裕を持って見送った。
 このあと2球続けてボールになり、カウントは1ストライク3ボール。
 次の一球がボールになれば、フォアボールになりパーフェクトは無くなる。
 打席のあづさは投手を睨みつけたままだ。一方、マウンドの河尻は一旦プレートを外し
て、気持ちを入れなおす。そして、再び投球動作に入った。
0440「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十五話2012/04/08(日) 12:22:22.98ID:FwKWo06M
6/8
 御堂あづさへの5球目、河尻多衛子は低めに構えるバンクスのミットに向かってカーブ
を投じた。
 だが、その一球はストライクゾーンをわずかに反れてしまった。
 打席のあづさはこのボールを見送り、フォアボールを選んだ。
「ま。ストライクが来んかったら、しゃあないわな」
 渋々と(?)一塁に歩いていく御堂あづさ。
 この四球で、とりあえず完全試合は無くなった。もちろんノーヒットノーランは継続中
だが、得てしてこういうきっかけで投球のリズムが崩れるものなのだ。

 続く5番のエイミー・マクスウェルが打席へ。大きな当たりを期待される場面だ。
 対する河尻多衛子は、気持ちを切り替えて次の打者に挑む。
 ところが、さっきの四球に動揺したのか、初球のフォークが暴投になった。
 一塁ランナーのあづさが二塁に進んだ。特典のチャンスだ。
 マクスウェルは変化球を引っ掛け、ファーストへのゴロ。結果的にランナーのあづさを
三塁まで進める事になる。これで1アウト三塁になった。
 打席には6番の小松田沙織。チャンスには強いバッターだ。1点差ならば勝負を避ける
場面であるが、ここは1点ならやっても構わない……ただしノーヒットノーラン継続中で
無ければ、だが。

 ここで捕手のバンクスは主審にタイムを要求し、通訳の宮永美里を伴ってマウンドへ。
「河尻さん。ここは歩かせるか? と、バンクスさんが申しております」
 通訳の宮永がバンクスの英語を日本語に訳して河尻に伝える。
「いえ、記録よりも勝利です。1点はあげても良いと思います」
 河尻はハッキリと言った。そして、通訳の宮永は英語でバンクスに伝えた。
0441「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十五話2012/04/08(日) 12:30:00.34ID:FwKWo06M
7/8
 捕手のバンクスがホームベースに戻り、試合再開。通訳の宮永はベンチに下がった。
 左の打席には6番の小松田沙織。この開幕3連戦ではここまであまり目立って無いが、
シャイニングヴィーナスのキャプテンである。私生活ではともかく、試合では頼りになる
ベテラ……ゴホンゴホン、不動の一塁手だ。

「そろそろ打っとかないとね。いつ若い子に代えられるかわからないものね」
 何やら呟きながら、バットを構える沙織。
 ピッチャーの河尻は、直球とカーブで一気に追い込んだ。
 打席の沙織は3球目の高めのボール球を見送り、4球目の低めのスライダーを打った。
 これがライトへのフライとなった。
「あ、アカンわ……無理やね」
 三塁ランナーのあづさは浅いと判断し、タッチアップを自重した。
これで二死三塁になった。
「小松田さん。どんまいですっ」
「みらいちゃん。あづさを還してあげてね」
「はいっ。精一杯がんばりますっ」

 今日7番に入っている三島みらいが右の打席へ。
 その打棒で河尻のノーヒットノーランを打ち砕く事が出来るのか。
 みらいは他の打者と同様にここまで無安打だが、栗田監督はそのまま打席に送った。
 まだデータの少ないみらいのほうが分があると思ったのだ。
 対する横浜のバッテリーに敬遠の意思は無い。新人相手に逃げるわけにはいかない。

 みらいは初球から思いっきりバットを振った。
 その打球は一塁線を襲う強烈なライナー。だが、右に外れてファールになった。
 さらにボール、ストライク、ボールと続き5球目のストレートを狙い打つ。
 やや疲れの見える河尻の渾身の一球だった。それを逃さずにフルスイングした。
「いけえーっ!」
 思わず叫んだのは三塁ランナーのあづさだった。
 打ったみらいは打球も見ずに一塁に全力で走り出す。
 その耳にスタンドの歓声が届く。しかしスピードを緩める事無く一塁を駆け抜ける。
0442「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十五話2012/04/08(日) 12:39:17.79ID:FwKWo06M
8/8
 三島みらいの放った打球は、二遊間を鋭く破ろうとする。セカンドのローラがその打球
を止めるべく左手を伸ばす。
 ローラのグラブに当たったボールはショートの野原唯花の前へ。
 野原がボールを拾って一塁へスローイングした。
 しかし、わずかにみらいの足が早く一塁ベースに到達していた。
 横浜のアンダーソン監督が抗議にベンチを出たものの、判定は覆らず。
 当然ながら三塁ランナーの御堂あづさはホームインを果たしている。
 三島みらいの内野安打で河尻多衛子のノーヒットノーランは脆くも崩れ去った。

 とは言え、これで試合が終わったわけでは無い。
 まず1点は返した。だが、残りの回は少ない。ここは一気に攻めるしかない。

 8番の中本寛子に代えて、代打の清美瑞希が打席に立つ。
 さらにネクストバッターズサークルには、塩原由佳がスタンバイした。

 つづく。
0443創る名無しに見る名無し2012/04/08(日) 12:41:32.26ID:FwKWo06M
投下終了です。

>>426からの続きになります。
0445創る名無しに見る名無し2012/05/08(火) 22:13:14.67ID:BE7jGPMh
このスレどうにかならんもんかね…
スポーツ物は難しいのかな
0447「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十六話2012/06/04(月) 01:29:59.84ID:zVDkUmCE
1/8
 パーパパー、パラパパー。パーパーパラーパパー。
 ドン、ドドン、ドドッ。
 パパパパー、パラパパー。パパパパパラパパー。
 ドンドン、ドドッ。ドンドドン。
 かっとばせーっ、しーおはらっ。
 しーおはらっ、しーおはらっ。

 東京シャイニングヴィーナスのかつての四番打者、塩原由佳が代打で登場した。
 ここ数年は代打の切り札として登場する事が主だが、チャンスで打席に立てばかつてと
同様に客席が盛り上がる。
 この日も、代打塩原のコールが球場に鳴り響くと、一塁側スタンドがワッと沸いた。

 東京シャイニングヴィーナス対横浜ブルーマーメイズの開幕カード3試合目は、終盤の
8回裏まで進んでいた。
 マーメイズの5点リードで迎えたこの回、ヴィーナスの7番三島みらいがマーメイズの
先発投手の河尻多衛子からチーム初安打であるタイムリーヒットでまずは1点を返した。
 さらに代打の清美瑞希が四球を選び、二死一塁二塁となる。続いて、代打の塩原由佳が
今シーズン初打席に立った。

 マウンドには引き続き先発投手の河尻多衛子が立つ。また、マーメイズのブルペンでは
既にストッパーの矢尾つかさが、9回に向け準備を始めている。
 開幕戦、そして昨日の第2回戦には塩原由佳の出番が無かった。
 いや、展開的に出てきても良い場面はあった筈だ。
 しかし、ここまで代打塩原のコールが球場に響く事は無かった。それでもベンチの裏で
しっかりと素振りをしながらモチベーションを高めていた。無論、塩原由佳本人にとって
は出番が有ろうと無かろうと、いつものルーティンワークをこなすのみであるが、実際に
ここぞの場面で呼ばれないというのはもどかしいものである。

 もしかしたら、新しい監督は自分を信頼していないのかも知れない。
 そんな疑念が由佳の頭によぎる。
 それでも今日、こうしてチャンスを貰えた以上は全力を出す。
 4点ビハインドの終盤、ホームランが出ても追いつかない場面だが……試合はまだまだ
どう転ぶか解らない。
 自分のバットで流れを呼び込む。由佳はそう思って右の打席に入る。
0448「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十六話2012/06/04(月) 01:37:58.51ID:zVDkUmCE
2/8
 複雑な感情を振り払うように、由佳は初球をフルスイングした。
 打球は夜空を切り裂き、左中間へと伸びていく。
 スタンドまでわずかに届かなかったものの、ツーベースヒットになった。
 二塁にいた三島みらいだけでなく、一塁ランナーの清美瑞希までがホームインした。
 2点を返し、点差が2点に縮まった。さらに打順がトップに戻って、1番の小宮奈美が
打席に向かう。
 代走の高畑由梨と代わってベンチに帰る塩原由佳に、大きな拍手と声援が送られた。

 と、その時だった。
 三塁側ベンチからアンダーソン監督と掛端投手コーチが姿を見せた。
 掛端コーチはマウンドに向かい、一方のアンダーソン監督は主審に交代を告げた。

「選手の交代をお知らせいたします。ピッチャー河尻に代わりまして、矢尾。ピッチャー、
矢尾つかさ。背番号17」

 驚きの声と歓声が混じる中、マーメイズの背番号17がマウンドに歩いていく。
 8回2アウトから、ハマの守護神が登場した。
 開幕シリーズ3連戦3連勝に向けて、アンダーソン監督の本気を見せる采配だった。

 矢尾つかさに対し、小宮奈美はあえなく三球三振。
 これでシャイニングヴィーナス打線の勢いは潰えてしまったのか。

 9回の表は、8回から続投の村尾一恵が走者を出しながらも0点に抑えた。
 リードされている場面とはいえ、まずまずのピッチングと言えよう。
0449「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十六話2012/06/04(月) 01:42:33.82ID:zVDkUmCE
3/8
 試合はいよいよ大詰め、9回の裏に突入した。
 マウンドには前のイニングから引き続き、ブルーマーメイズのストッパー矢尾つかさが
立っている。
 スコアは3対5で、シャイニングヴィーナスが2点のビハインドを追う。
 うなり声を上げるストレートに、目の前でストンと落ちるフォークボール。
 2番からの好打順も、二者連続三振で一瞬にしてツーアウト走者無しになった。

 そして、4番の御堂あづさが打席に立つわけだが。
「あれあれ〜? わたしたち、さらっと流されましたよ〜」
「……存在がぞんざいだな。ナンチテ……」
 何やらベンチで話している大木姫子と川原恵美の2人であった。
 それはさておき、試合はいよいよ大詰めの大詰めである。
 マウンドには横浜ブルーマーメイズの守護神、矢尾つかさ。
 打席には東京シャイニングヴィーナスの主砲、御堂あづさ。
 同い年でもある宿命のライバルの二人が、18.44mを挟んで睨み合う。
 試合展開を度外視しても、注目の対決だ。

 初球。打席のあづさは直球に狙い球を絞った。
 しかし、対するつかさはフォークを投げた。
 あづさは空振りし、まずはワンストライクを取られる。
「次は……わかっとるやろな」
 そう呟くあづさに対して、マウンド上のつかさは無言で捕手からの返球を受け取る。
 そして返球を受け取るとすぐに次の投球動作に入る。
 つかさが二球目を投げた。あづさはまたもフルスイングしたが、それを嘲笑うかのよう
にボールがスルリと落ちていく。
 そして、そのボールはワンバウンドしてキャッチャーミットに吸い込まれる。
 これでツーストライクと追い込まれるあづさ。
 だが、3球連続でフォークは来ないはずだ。
 あづさは再び構えに入る。
 真っすぐで来いや。より一層強い眼光でマウンド上のつかさを睨みつけるあづさ。
 つかさは、またも無言のまま投球動作に入った。

 三球目、今度こそストレートが来た。
 あづさは全力で打ち返す。右方向へと打球が飛んでいく。
 引っ張ったような力強いライナー性の打球が、ライト賀藤春奈の頭の上を越えた。
 だが、スタンドまではわずかに届かず、ライトオーバーの二塁打になる。
0450「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十六話2012/06/04(月) 01:50:36.87ID:zVDkUmCE
4/8
 結果だけ見ればヒットを打ったあづさの勝利だが、二塁ベース上のあづさは渋い顔。
 欲を言えば、自らの一打で仕留めたかったというところか。
 続いて打席には5番のエイミー・マクスウェルが入った。
 パワーだけならば主砲の御堂あづさにも勝るとも劣らない強打者マクスウェルが、横浜の
守護神に挑む。
 2点差で走者が一人。もしホームランが出れば同点の場面だ。
 とは言え、そう簡単にホームランが出れば苦労はしない。

 初球から大きくバットを振り回したマクスウェルだが、高めの直球に空振り。
 結論を言えば、この一球を仕留められ無かった事が勝負を決めたのかも知れない。
 二球目はアウトローの際どいコースへの直球を見送ったがストライクを取られ、三球目
のフォークにあえなく空振り三振に倒れた。

 試合終了。昨年は直接対決でも1敗しかしていない横浜ブルーマーメイズに、開幕から
いきなり三連敗を喫した昨シーズン日本一の東京シャイニングヴィーナス。
 突然の監督交代もあったが、それでも横浜相手には勝てるはず。ホーム球場での三連戦
に詰めかけたヴィーナスファンはそう思っていたに違いない。
 よもやヴィーナスの選手たちに慢心があったとは思えないが、何か勢いの差という物を
見せつけられたような三試合だった。
 だがしかし、当然ながらシーズンはまだまだこれからも続く。
 反省点を見つけ、一刻も早く修正して次の試合に臨まねばならない。
0451「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十六話2012/06/04(月) 01:56:23.35ID:zVDkUmCE
5/8
「……以上だ」
 試合後のミーティングも終わり、あとは選手寮に帰るのみとなったヴィーナスの面々。
 翌日は完全にオフで、翌々日は週末の試合に向けて大阪への移動となる。

 一旦寮に帰った後、緒川コーチから提案があり、居酒屋で飲み会を行う事になった。
 栗田は、緒川の提案を選手たちに伝える形になった。
 本来ならば監督である栗田が提案すべきだが、年齢的にも指導者としても緒川のほうが
先輩という事もあるから、それはまあ良いだろう。

 だが、選手たちの反応はイマイチだった。
 お酒が好きで、何より場を盛り上げるのが好きな御堂あづさが断るとは……。
 栗田が嫌われているとかそういう訳では無いようだが、何故だかみんな口々に「やる事
があるので……ちょっと……」という歯切れの悪い断り方をしてくる。試合終了後の行動
に関しては、これはもうプライベートの範疇なので、栗田はそれ以上は詮索しなかった。

 そんなこんなで結局捕まった選手は、小松田沙織、城之内真緒、塩原由佳、井村卓美の
4人だった。25人のうち、4人だ。
 栗田とコーチの3人(緒川、山瀬、畑山)とテーブルを挟んで向かい合うと、男女の数
が一緒になるのは何かの冗談だろうか。

「あら? もっと若い女の子のほうが良かったかしら」
 と、城之内真緒が一言。いきなりジャブ(?)を繰り出す。
「いえいえそんな事は無いですよ」
 栗田はたじろいだ。のっけからこれでは幸先不安である。何がだ。
「あ。適当に注文しときますんで〜。とりあえず一杯目はビールで良いですよね?」
 小松田沙織は店員を呼び、人数分の大生と料理を適当に選んで注文した。
そして運ばれてくる大ジョッキ8つ。それから料理の乗ったお皿が次々に並べられる。
「あら。監督さん、勝手に鶏の唐揚げにレモンを搾っちゃ駄目ですよー」
 栗田は沙織に注意された。ついつい、いつもの癖でレモンを絞ってしまったのだ。
 複数の人間で鶏の唐揚げを食べる時には、前もって周りの人たち全員の同意を得てから
レモンを搾らなければならない。それがマナーという物である。
 幸いこの場には唐揚げにレモン反対派がいなかったので事なきを得たが、もし一人でも
反対派がいたら後の祭りである。まあ、もう一品頼めよって話ですが。
0452「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十六話2012/06/04(月) 02:00:57.93ID:zVDkUmCE
6/8
 普段は選手寮の食堂で、管理栄養士の考えたメニューをきちんと食べている選手達なの
だが、こういう場では当然好きな物を食べる。
 それは良いのだが、女性と言えども彼女らはやはりアスリートである。
 次から次へと皿の上の料理が消えていく。これだけきれいに平らげてくれれば、作る側
にも調理のしがいがあるという物だ。

「あ。それ食べないんですか? だったら貰いますよ」
 塩原由佳が、栗田の前に置かれたモツ煮込みを狙っている。
「モツ煮込み、好きなんですか? どうぞどうぞ」
 栗田はそう言ってモツ煮込みの皿を由佳の方に寄せた。
 ちなみに栗田より由佳の方がやや年上なので、少し遠慮しているようだ。
「あれ? 監督さん、あんまり食べてらっしゃらないじゃないですかー」
 と、沙織が言った。
 栗田は現役時代から、周りに比べるとあまり量を食べるほうでは無かった。
 そのせいか、なかなか体が大きくならなくて苦労した。
 野球選手にとっては食べることも仕事だ、と言われた事を栗田は今になって思い出す。

 さて、そろそろ落ち着いてきたころだろうか。
 なんとなく、話題は三連戦の話題に。
「あー、私があの満塁の場面で打ってれば……くやしーっ!」
 沙織はやや大げさに悔しがった。これは少し酔ってますねぇ。
「打線が全体的に低調だったよなぁ。実力はあるからこれから上げてくると思うが……」
 と山瀬が言った。打撃担当のコーチである。
「私はぁ……出番が無かったのが残念ですぅ……」
 真緒が頬を赤らめながら言った。この中で一番多くアルコールの量を摂取している。
0453「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十六話2012/06/04(月) 02:07:00.45ID:zVDkUmCE
7/8
「おいっ、俺を誰だと思ってんだ……」
 ん、どうした?
「最近の若い奴らは、えいちゃんフィーバーを知らねえのか。……ったくよう」
 栗田である。ははーん、こいつ酔っ払ってるな……。
 説明しておこう。えいちゃんフィーバーとは、高校時代の栗田永一が夏の甲子園で一人
で投げきって優勝投手になった時のちょっとしたブームである。その年のドラフト会議で
5つの球団から1位に指名され、栗田本人がファンでもあった東京ガイアンツが交渉権を
獲得しプロ入りした。さらに、明くる年のキャンプまでそのフィーバーは続いた。

「みんな俺の言うことを聞けー。俺は監督だぞー」
 駄目だこいつ。完全に泥酔状態である。
「本当ならガイアンツのエースになってた筈なのに……なんでなんだよ……」
 栗田は左手で右肩を軽く掴んだ。
 その右肩は、高校時代には既に壊れていたとも言われている。
「野手に転向してでもユニフォームを着ておけば……くそっ……」
「栗田……お前何言って……」
 緒川は何かを言いかけたが、言葉を飲み込んだ。

「今思えば……一瞬だけの輝きだったよな……」
 栗田はぼそりと呟いて、そのまま眠りに入った。
 多少揺すったくらいでは起きない状態だ。
 どうせタクシーを呼んで帰るので、ここで無理に起こす必要も無いだろう。
 というわけで、反省会(だったっけ?)は早々に終了し、8人は選手寮に戻った。
0454「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十六話2012/06/04(月) 02:12:36.27ID:zVDkUmCE
8/8
「あ、皆さん。おかえりなさい!」
 寮の前で出迎える大咲さくらの姿があった。服装はジャージで、一汗かいてシャワーを
浴びた後のようだ。
「監督……?」
「んあ? おー、ねーちゃん……」
 栗田はまだ寝ぼけている。
「えっと……。私はあなたの姉ではありませんけど……」
「いや、さくら。酔っぱらいの相手は良いから」
 緒川が丁重に突っ込んだ。足元がおぼつかない栗田を肩に担いでいる。ご苦労様です。
 さくらは緒川の反対側に回って栗田の左腕を持ち上げた。
 二人で力を合わせて栗田の部屋に一人の酔っぱらいを運搬した。

 よいしょ。

 よいしょ。

 よいしょ。

「ふうー。大人の男性は重いですね……」
「すまんな。さくら」
「良いんです。私、エースですし」
「いや、エースだからこそあまり負担をかけないほうが良いと思うんだが」
「それなら大丈夫です。それに、こういう時こそアピールして稼いでおかないと」
 稼ぐと言っても、当人は酔って覚えていないような気がするが。

「ぐー、ぐー」
 この通り、栗田はベッドの上で熟睡している。
「私も一緒に寝た方が良いんですかね」
「さくら……それはやりすぎだ」
 緒川の言うとおりである。
「そうですね。月並みですが、投げる方でアピールしますね」
 さくらは決意を新たにした。
「ああ。今度は負けないようにしないとな」
「はいっ」
 東京シャイニングヴィーナスの今シーズン初勝利なるか。
 それはエース大咲さくらの右肩にかかっている。

 つづく。
0457創る名無しに見る名無し2012/06/09(土) 21:39:51.07ID:sfGrsRJP
ま、特に無いですけどね
いつも応援ありがとうございます
0461創る名無しに見る名無し2012/06/20(水) 22:37:40.53ID:AJO3Gz/2
野球の話ばっかになるのもアレかな…
おすすめのスポーツとかありますかね
0465創る名無しに見る名無し2012/06/27(水) 22:48:18.74ID:HLDp2LaY
むしろ拘りがあるようには見えない
とりあえず野球をさせているという印象
0466創る名無しに見る名無し2012/07/01(日) 18:09:59.57ID:cLSuj+uc
さて、どうしたものか…

二次創作でクロスオーバーとかならともかく
オリジナルで大勢のキャラクターを出すには
見せ方を考えないとな
0467創る名無しに見る名無し2012/07/02(月) 22:16:01.23ID:n1JBYQBA
リーグ戦はトーナメントと違って負けても終わりじゃないから緊張感が無いとか?
0469創る名無しに見る名無し2012/07/06(金) 03:13:38.37ID:bZ1VkxxA
もうすぐロンドンオリンピック開幕ですけど、
〇〇がもしオリンピックの正式種目だったら……みたいなネタから考えるのも
面白いかも知れませんね

いや、野球とかソフトボールとかそういう意味じゃなくて…
0471創る名無しに見る名無し2012/07/09(月) 00:43:20.58ID:ZBjmo1lp
テレビ自体見ない人が多いしな。ボクシングとか見たいけど大抵仕事中だし民放だとあんまりやんないし。
でも冬期は好きw
0473創る名無しに見る名無し2012/07/21(土) 01:26:39.20ID:MT8QhVuT
中村ノリ選手、一時は引退の危機から復活してオールスターMVPとか凄いですね
0475創る名無しに見る名無し2012/08/08(水) 23:47:16.36ID:YohJhsSk
夏の甲子園が開幕しました
0478創る名無しに見る名無し2012/08/10(金) 05:36:51.94ID:QwRG3OZK
プロの日本記録は野田の19だっけ。
0479創る名無しに見る名無し2012/08/10(金) 05:37:25.13ID:QwRG3OZK
正直パワプロでもキツイな22はw
0480創る名無しに見る名無し2012/08/11(土) 14:31:41.41ID:zdxOaFeq
それどころか自分で3ラン打ってるんだよな……しかも10連続奪三振もやってるし
0481しめひt2012/08/12(日) 22:19:21.74ID:3lDJ1/O3
大阪府三島郡島本町の小学校や中学校は、暴力イジメ学校や。
島本町の学校でいじめ・暴力・脅迫・恐喝などを受け続けて、
心も身体も壊されて廃人同様になってしもうた僕が言うんやから、
まちがいないで。精神病院へ行っても、ちっとも良うならへん。
教師も校長も、暴力やいじめがあっても見て見ぬフリ。
そればかりか、イジメに加担する教師もおった。
 誰かがイジメを苦にして自殺しても、「本校にイジメは
なかった」と言うて逃げるんやろうなあ。
 僕をイジメた生徒や教師の名前をここで書きたいけど、
そんなことしたら殺されて、天王山に埋められるかもしれ
へん。それで誰にも発見されへんかったら、永久に行方不明のままや。
島本町の学校の関係者は、僕を捜し出して口封じをするな。
0482氏名秘匿2012/08/12(日) 22:20:13.50ID:3lDJ1/O3
大阪府三島郡島本町の小学校や中学校は、暴力イジメ学校や。
島本町の学校でいじめ・暴力・脅迫・恐喝などを受け続けて、
心も身体も壊されて廃人同様になってしもうた僕が言うんやから、
まちがいないで。精神病院へ行っても、ちっとも良うならへん。
教師も校長も、暴力やいじめがあっても見て見ぬフリ。
そればかりか、イジメに加担する教師もおった。
 誰かがイジメを苦にして自殺しても、「本校にイジメは
なかった」と言うて逃げるんやろうなあ。
 僕をイジメた生徒や教師の名前をここで書きたいけど、
そんなことしたら殺されて、天王山に埋められるかもしれ
へん。それで誰にも発見されへんかったら、永久に行方不明のままや。
島本町の学校の関係者は、僕を捜し出して口封じをするな。
0485創る名無しに見る名無し2012/08/17(金) 23:29:05.44ID:P0N+a4mg
落ちた?
0486創る名無しに見る名無し2012/08/20(月) 23:17:30.39ID:hGTmux1l
女子野球ワールドカップで日本が優勝しました!
これで三連覇達成!
凄いですね
0488創る名無しに見る名無し2012/08/22(水) 08:29:51.34ID:TCINVOBG
いやまぁ、長年プロ野球見てるしメジャーリーグ見るのも珍しくない昨今、言っちゃなんだがそれらに比べたらレベル低いからな。
女子野球で150キロの速球投げる投手も居なければ場外放つ打者も居ない。迫力で一本負けだから観戦するならプロになっちゃう。芸が細かいから見てると面白いんだけどね。
0489「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十七話2012/08/31(金) 23:37:59.66ID:rbqSvkgG
1/8
 この日、大阪市内のとあるグラウンドにて東京シャイニングヴィーナス所属の選手たち
による野球教室が行われた。
 大阪へ遠征に行く際には恒例になっており、大阪市内外の少年野球チームでプレーして
いる女子中学生が集まっている。
 この中には、もちろん将来は女子プロ野球選手になりたいと思う野球少女がいる。
 そんな彼女たちにとって貴重な体験になる事は間違いない。

 栗田は元投手という事で、同じく投手の女の子達に指導(いやらしい意味では無い)を
していたが、たまたま少し離れた所でティーバッティングの練習をしていた一人の少女に
目が留まったようだ。
 決して好みだったという事では無く、どこかで見たような顔だったからなのだが。
「あれ、君は……?」
 栗田の声に少女が気付いて近づいてくる。
「オレはかえで。御堂かえで、中学3年生や」
 その女の子は、東京シャイニングヴィーナスの御堂あづさをそのまま一回り小さくした
ような容姿だった。とは言っても中学生にしては大柄だが。
 苗字でも解るとおり、御堂あづさの妹である。
「サインあげよっか? 後でええ値がつくで」
 それは、ええね。川原恵美ならそう答えるのだろうか。
「気持ちだけ貰っておこう……かな」
 栗田は曖昧な返事を返すのが精一杯だった。
 ちなみに、川原恵美は熱心に送りバントの仕方を教えようとしているが、女の子たちは
興味が無いご様子。

「おい何しとんや……かえで、ウチの監督に迷惑かけんなや」
 そこへ、御堂あづさ(かえでの姉)がやってきた。
「あー。クソ姉貴ー。久しぶりやん」
 久しぶりの再会だと言うのに随分と口が悪い妹のかえでだった。

「誰がクソ姉貴じゃボケ。相変わらずやのう」
「フンだ。クソな姉貴にクソ姉貴って言って何が悪いんじゃ」
「……ったく誰に似たんやろな。ほんならお前はクソイモやな」
 このあづさの発言にかえでがブチギレた。
「縮めんなーーっ! せめてクソ妹って言えーーっ!」
 そこかよ!
 ええい、誰か止めてくれ。これでは楽しい楽しい野球教室が台無しである。
0490「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十七話2012/08/31(金) 23:41:17.66ID:rbqSvkgG
2/8
 大阪市内のとあるホテル。
ここに東京シャイニングヴィーナスの一行が宿泊している。
 監督の栗田とコーチ陣が一室に集まって、話し合いが始まろうとしている。
 この日は水曜日。翌日に地元のクラブチームとの練習試合を挟み、女子プロ野球リーグ
公式戦として大阪トライアンゴッデスとの三連戦が金曜日から行われる。

「ふむ。三連戦の先発は先週と同じく大咲、三上、末永で行くんだな」
 投手コーチの久山が確認した。監督が決めた通りで異論は無かった。
 続いて、対戦するゴッデスの選手について、編集した映像を見ながら対策を考える。
 まずは打撃陣。とにかく打線の上位から下位まで振り回してくる。塁に走者がいようが
いまいが関係無く、一発長打を狙ってくる。そうイメージしてもらえば良い(久山談)。

 まず画面に映ったのは一番打者の福森一葉。小柄な左打者で、典型的な一番打者という
雰囲気だ。余談だが、御堂あづさと同じ高校の一年先輩らしい。
 福森は相手投手の初球を空振りしたが、まるでスラッガーの様なスイングだった。
「うちの一番(小宮奈美)も積極的なタイプだが、こいつはちょっと違うな」
 守備走塁コーチの緒川が言った。
「わかりやすく言えば、一番にいきなり四番打者が出てくるようなもんだ」
 実にわかりやすい。流石は緒川コーチだ。
「ん? じゃあ四番には何番打者が出てくるんです?」
「そりゃあ、四番は四番だろ」
 栗田の質問に、緒川はさらりと答えた。それはそうだろう。

 ともかく、順番に見ていこう。
 二番打者は亀丸たまき。新人だ。足は速いようだ。映像の中ではデッドボールを受けて
出塁し、いきなり盗塁を決めていた。
「亀なのに速いんだな」と栗田。
「お前は唐突に何を言ってるんだ」と緒川。
 本当に何言ってんだこいつは……。
0491「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十七話2012/08/31(金) 23:43:52.21ID:rbqSvkgG
3/8
 次に画面に登場するのは――三番打者のレニー・バーンズだ。
「流石はアメリカ人。デカいな……」と栗田はボソッと呟いた。
「ドコを見て言ってんだよ」と緒川は軽くツッコんだ。
「打球ですよ、打球」確かに言うとおり、バーンズのバットから放たれたボールは上空へ
高く舞い上がり、そのまま球場の外へと消えていった。

「このパワーは……ホントに女子なんですか?」
 栗田の正直な感想だった。それについては日本女子野球機構が現在調査中である。
 バーンズに関して今までに解っている事は、大阪トライアンゴッデスの打撃担当コーチ
であるランディ・サンダースが地元で子供らに野球を教えていた時に、たまたま見つけて
日本に連れてきたという事だけだ。
 時折、規格外の化け物(註:人間ですよ)が混じっていた方が多少は面白いのでは無い
でしょうか。

「出てきたぞ。なにわのホームランアーチスト」
 緒川がそう言うので、栗田は画面に注目する。右の打席に打者が入るところだった。
 その名は真淵みゆき。大阪トライアンゴッデスの四番打者である。
 打席に入った真淵。そしてゆっくりとバットを構える。
「いかにも強打者という構えだな」と、栗田。
「構えだけじゃないぞ。まあ見てな」
 緒川の言うとおり、映像の真淵は豪快なフルスイングで綺麗な弾道を描きながら打球を
なんとバックスクリーンまで運んだ。

「すごいな……」
 栗田は驚いた。敵ながら思わず見とれてしまう美しいアーチの軌道がそこにはあった。
0492「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十七話2012/08/31(金) 23:46:50.68ID:rbqSvkgG
4/8
「まだまだ続くぜ」
 何故かテンションのあがる緒川コーチ。
 続いて登場したのは五番打者の金山智香。ゆったりと左打席に入った。
 投手がボールを投げる。やや高めに浮いたフォークボールだ。打席の金山はその一球を
見逃さなかった。
 これも行ってしまうのか。ライナー性の打球はそのままライトスタンドヘ。

「三者連続ホームラン……!」
 栗田はまたまた驚きの表情を見せる。
「いや、これは編集したヤツだけどな」と緒川。
 これは栗田の早とちり。しかしそれくらいインパクトのある映像だった。もうお腹一杯
である。

「主力の打者はこんなところか。だが、下位打線にも要注意だぞ」
 久山がそう言うので、下位打線にも注目しておこう。
 6番の今西美琴。まずは走者無しの場面をどうぞ。
「なんてゆーか、頼りないスイングですね」
 栗田は率直な感想を口にした。映像の今西は初球を簡単に打ち上げ、サードへのフライ
に倒れた。
「あれ? 大した事無さそう……」
「そう思うだろ。ところがだな、まあ見とけよ」
 少し拍子抜けしたような栗田に対し、緒川は何やら意味深な発言をする。
 またしても今西の打席。今度は塁上に走者が溜まっている。
「打席での佇まいはそれほど変わらないですね……」
 栗田がそう口にした瞬間、鋭いスイングから放たれた打球は一気に左中間を破る。
 走者一掃のツーベースヒットだ。
「まるで別人ですね……」
 栗田は正直な感想を口にした。
 今西はチャンスの場面では要注意だな。栗田はそう感じた。

「これは7番バッターの高岡あきら……なんだが」と緒川。
「はい」と栗田。
 画面の中では小柄な左打者、高岡あきらが打席に立っている。
「あ、打ちましたね」と栗田。
「そうなんだよ。こいつは足が速いのに、やたらと打ち上げたがるんだよ」
 何故か敵に対して愚痴る緒川。指導者としての性なんだろうか。
0493「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十七話2012/08/31(金) 23:50:45.11ID:rbqSvkgG
5/8
 続いて投手陣。こちらも開幕三連戦で先発した三人がそのまま出てくると思われる。
「それじゃあ順番に見ていこう。まずはエースの真淵」と打撃担当コーチの山瀬。
 真淵と言えば同じ苗字の選手がいたな……と栗田は思ったが、画面を見て驚いた。
「あれ……さっきの四番打者?」
「だから真淵だと言っただろ、栗田」
 山瀬の言うとおり、紛れもなく主砲の真淵みゆきがマウンドに立っている。
 エースで四番。黎明期ならともかく、今の女子プロ野球でも珍しい“二刀流”選手だ。
「気持ちで投げるタイプのピッチャーで、特に敵の主軸に対しては闘志をむき出しにして
向かってくる」というのが山瀬コーチの評価だ。
 今までのデータを見ても、シャイニングヴィーナスの打者では大木姫子、御堂あづさ、
エイミー・マクスウェルの三人は抑えられている。それとは逆に小松田沙織や丸山みのり
といった下位の打者には分が悪いようだ。

「2戦目は上田だな」と山瀬。
 上田夏穂。右投げのサイドスロー。エースの真淵とは違って技巧派タイプのようだ。
 映像の中の相手打者も、内野ゴロの山を築いていた。
 ヴィーナスの2戦目は三上英子が先発予定だが、まさに技巧派対決となりそうだ。
「タイミングが取りづらそうなフォームだ……」と栗田は感想を述べた。
「ああ、そうだな。いかに相手の術中にはまらないかがキーだと思う」
 と山瀬は言った。

「そして3戦目は井波だが」と山瀬。
 井波桂は速球派の左ピッチャーである。ちなみに決め球はチェンジアップだ。
「この投手の特徴は、そうだな……茨城の水戸出身なのに納豆が苦手だという事かな」
 山瀬が重ねて説明する。いや、この情報は野球に関係あるのか?
「あとそれから、実は野球よりサッカーが好きだという噂だ」
 今度は緒川が言い出した。だからその情報はいるのか?
「ブログでも水戸なんとかっていうサッカーチームの話題ばっかりだよな」
 久山まで話題に加わった。だからその情報は本当に必要なんだろうか。
「おー、いい投げっぷりだなー」
 井波の投げる映像を見ながら栗田が感想をもらす。聞いてないし……。
0494「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十七話2012/08/31(金) 23:53:09.99ID:rbqSvkgG
6/8
 それはともかく、先発投手に続いては中継ぎ投手の紹介である。
 打撃陣は強力であるが、投手陣は盤石とは言えないのがトライアンゴッデスの特徴だ。
 序盤でリードを奪い、リリーフ陣が少しずつ貯金を吐き出しながら最終的に1、2点差
で逃げ切るのが勝ちパターンだという。まあ、見てる方はヒヤヒヤだろうが。
 最終回、ゴッデスがリードした場面で登板するのが、“守護神”の御子神零だ。

 御子神の映像を見る栗田たち。
「これが……御子神のピッチングか……」
「どうだ、栗田」
「久山さん。このピッチャー、アンダースローなんですね」
「おう、珍しいだろう」
 アンダースローの投手自体は数こそ少ないものの、そこまで珍しくは無い。
 だが御子神の投球フォームは、栗田が今まで見てきたアンダースローとは違っていた。
「こんな投げ方で故障しないんですかね」
 栗田は率直な感想を口にした。
「1イニング限定っていうのも有るんだろうが、やはり体が柔らかいんだろうな」
 と久山は分析した。
「なるほど……しかも直球でグイグイ押すんですね」
 栗田は小さく頷いた。モニターの中では、ダイナミックなフォームから浮き上がる直球
で打者から空振りを奪う御子神零の姿があった。
0495「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十七話2012/08/31(金) 23:56:23.83ID:rbqSvkgG
7/8
「大阪の掛井監督って、あの掛井さんですよね」
 選手名鑑を見ながら栗田が尋ねた。
「ああ、そうだ」
 緒川が答えた。
 大阪トライアンゴッデスの掛井雅明監督は、プロ野球で東京ガイアンツと一、二を争う
人気球団である西宮タイタンズで長らく四番に座り、現役時代はミスタータイタンズとも
呼ばれた名選手だ。
「やっぱり……でも、こういう形でまた会う事になるとは……」
「あれ? 現役時代に対戦した事あったか?」
「はい。まあ、オープン戦ですけど」
「あー……お前が一年目の時か」
「そうですそうです。緒川さんもライトを守ってましたよね」

 それは栗田がガイアンツに入団して初めてのオープン戦だった。
 三島監督の計らいか、西宮タイタンズとの試合に栗田は先発投手として登板した。
 初回こそタイタンズの上位打線を三者凡退に抑えたものの、続く2回の先頭打者として
打席に立った四番打者の掛井に直球をバックスクリーンに運ばれた。

「今となっては良い思い出ですけどね」 栗田はそう振り返る。その試合で栗田は3回5失点で降板し、その日の内に二軍行きが
告げられた。
 掛井はその年に引退し、栗田は一軍で登板する機会が無かったため、結果的に一度きり
の対決となってしまった。

 引退後の掛井は西宮タイタンズの監督候補に挙げられながら、再びユニフォームを着る
機会が無いまま年月を重ねた。
 ところが3年前の秋、なんと女子プロ野球チームの監督として掛井が再びグラウンドに
戻ってきたのだ。
 当時のゴッデスは、打てば凡退、守ればエラー、投げる投手はすぐ炎上。リーグ最下位
に低迷していた。そんな駄目チームにかつてのスター選手が監督としてやってきた。
 するとそのカリスマ性のなせる業か、見る見る内に選手達は上達していった。逆に言え
ば、それまでのチームが如何に緩んでいたかという話にもなるのだが。
 それはともかく、掛井監督によって着実にチーム力を上げた大阪だが、ここ2年連続で
優勝まであと一歩の所で涙を呑んでいる。
 そして勝負の掛井監督就任3年目。さらに戦力を補強し、狙うはリーグ優勝ただ一つ。
 ここで前年度チャンピオンを叩いて、まずはスタートダッシュだ。
0496「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十七話2012/08/31(金) 23:58:54.29ID:rbqSvkgG
8/8
「なるほど……こちらとしても負けられないですね」
 栗田はそう言った。女子プロ野球ファンにとっても、東京と大阪の一戦は注目を集める
カードだけに、両チームの選手達も気合いが入るだろう。
 特に大阪出身である御堂あづさには奮起を期待したいところだ。
 やはり四番打者が打たないとチームは乗っていかない。ゆえに豪快な一発を大阪の空に
打ち上げてもらいたい。

「せやなー。やっぱウチが打たんとアカンわなー」
「私だってまだ1勝もしてないし……」
 御堂あづさと大咲さくらの二人は、ホテルの同じ部屋でくつろいでいた。
 共に缶ビールを飲みながら、タコヤキと焼き鳥を食べながらのガールズトーク。
 いや……ガールズトークか? まあ良いけど。
「だって去年のホームラン王なのに、まだ1本も打ってへんし」
「やっぱりあづさちゃんとしては、かえでちゃんの前で良いところ見せたいわよね」
「何でやねん。どーせアイツはいっつも一塁側やし、ゴッデスを応援しとるし」
「ふーん。でも妹がいるって羨ましいなー。ほら、私は一人っ子だし」
「ほな一人やろか? もう一人おるし」
「またまたー。でもお兄ちゃんは欲しかったなー。キャッチボールとか憧れたわ」
「グゴー」
「え、あづさちゃん? 何なのよ、そのリアクション」
 さくらが横を見ると、あづさはその場で倒れて寝ていた。
「ふう、しょうがないわねえ。もう……」
 さくらはあづさの体を担ぎ上げて布団の上に寝かせた。そして、掛け布団をかけた。
「これでよし、と。じゃ、私も寝ようかしら」
 机の上を片づけたさくらは、部屋の電気を消した。

 つづく。
0497創る名無しに見る名無し2012/09/01(土) 00:52:28.99ID:XdG37aIu
投下終了です
>>454の続きですね

一応ageとくか……
0501創る名無しに見る名無し2012/09/04(火) 21:49:20.53ID:BFrvDhqN
なんだろうなー
よくわかんねえなー
どうして女が野球をやるのかって部分が弱いのかも
0502創る名無しに見る名無し2012/09/08(土) 00:20:54.22ID:wWUg+F6z
でもこれは女子スポーツ全体の課題でもありますね
何故、あえて女子の競技を見るのかって言うのは
0503創る名無しに見る名無し2012/09/11(火) 23:44:26.89ID:D1/nRlGR
創作でスポーツって難しい題材なんだろうな
特に甲子園とか、どうやっても現実の方が面白くなるし
0505創る名無しに見る名無し2012/09/13(木) 23:19:35.78ID:dlLMjcd/
正直、王道物よりエクストリームアイロンとかのほうがまだネタ成分多目でやりやすそうなんだよねw
0506創る名無しに見る名無し2012/09/15(土) 00:38:05.92ID:FjgZPC81
アイロンを擬人化してヒロインにするとか?
そういうのしか思いつかないなあ…
0507創る名無しに見る名無し2012/09/15(土) 11:55:07.22ID:HBZ9LpVY
それもうスポーツじゃねぇw
0508創る名無しに見る名無し2012/09/16(日) 01:22:22.61ID:VgYCJU9Z
「そもそもアイロン掛けはスポーツじゃないよ!」

「その言葉を二度と口にするな……命が惜しいのならな」

0509創る名無しに見る名無し2012/09/16(日) 17:29:28.65ID:VgYCJU9Z
じゃあエクストリームスポーツ部とか?

山登りについて詳しくないと書けない気がするんだが
あと、海の底に潜ったりするらしい
0510創る名無しに見る名無し2012/09/16(日) 22:53:17.14ID:vPsjTIkM
でも法律で禁止されてたりするからなw
0512創る名無しに見る名無し2012/09/22(土) 22:11:39.59ID:j8p5PMcQ
まあ優勝したらしたで
この戦力なら優勝して当然とか言われるのが
巨人の巨人たるところかな
0513創る名無しに見る名無し2012/09/22(土) 22:39:52.95ID:6OAJFpqv
阪神ファンからして弱い巨人はつまらないとか言うくらいだしな。憎まれ役として強くあるべきなんだろうw
0515創る名無しに見る名無し2012/10/07(日) 01:05:43.89ID:wog49ssn
誰もいないので…

スポーツで異世界物だとどうなるだろうか?
いくつかの大陸があり、大小の国に分かれていて国ごとにリーグが存在する
各リーグで優勝を目指すと同時に各国代表(種族別?)による世界大会が行われる

・ホームタウンの設定
・選手、監督やコーチ、チーム関係者を集める
・ユニフォームのデザインを考える
・チームマスコットを考える
・オーナー及びスポンサーにはどんな企業があるか

あとなんだろ。考えてみる。
0516創る名無しに見る名無し2012/10/07(日) 03:03:49.69ID:wog49ssn
>>515
競技はサッカーを想定しているが
総合スポーツクラブ的な所があってもいいかな
0517創る名無しに見る名無し2012/10/08(月) 21:03:13.77ID:vWDLAox6
>>515
・チーム名、チームロゴ、エンブレムの設定

チーム名は町の名前そのままで、地元民が呼ぶ愛称が別にあると格好良い
0518創る名無しに見る名無し2012/10/10(水) 21:36:04.13ID:rlCbHHmF
>>515
異世界ものだと、
体の大きいのとか足が速いのとか空飛べるのとか
色々いるんだろうな
0519創る名無しに見る名無し2012/10/11(木) 19:08:47.90ID:fbYzrQaM
>>518
「これは手じゃなくて前足だからハンドじゃないよ」とか言い出す奴もいたりして
0521創る名無しに見る名無し2012/10/14(日) 23:08:44.17ID:cvsFbRIV
>>515
国ごとにリーグがあるというより、リーグが国として扱われるイメージ
リーグの拡大によって国が大きくなったりする
まずスタジアムがあってその周辺に人が住み、町が生まれる
ある町で生まれた人は原則的にそのチームのファンと見なされるが、他のチームを応援する場合は移住したりする(全員では無いが)
0522創る名無しに見る名無し2012/10/16(火) 22:13:53.91ID:5OetIzIu
>>521
いきなりスケールの大きい話は取っ付きにくいかも知れませんね
最初は小さな町の話にしたら良いと思います
0523創る名無しに見る名無し2012/10/19(金) 01:27:38.42ID:1S/bBTHQ
>>522
とある小さな町のサッカークラブの物語…
かつては国内チャンピオンにもなった強豪クラブだったが、今では落ちぶれて2部リーグの下位に沈んでいる。
若い世代は国内外のビッグクラブに引き抜かれ、峠を越したベテランばかりで何とかチームを形成している。
そんな弱小クラブに遠くの島国からやってきた黒い髪の少女は、強豪クラブだったころのメンバーの息子である少年と出会う。
将来は海外のビッグクラブに行きたいと夢見ていた少年だったが、やがて地元のクラブを強くする事を願うようになる。
はたして、クラブが強かったあの頃の熱気は町に戻るのか。

うーん、ベタ過ぎるな…そして異世界設定どこ行ったの
0524創る名無しに見る名無し2012/10/23(火) 22:41:33.94ID:r1ixa3LC
デブ初心者とバスケ

ここまでは決まってる
でも読んでて楽しいかって聞いたらたぶんつまらないと思い始めた
練習シーンばかりで試合シーンがほとんどないし地味って言われても仕方がない
0526創る名無しに見る名無し2012/11/01(木) 00:36:52.84ID:goRhpzN1
巨人と日本ハムの日本シリーズはこれでお互い2勝2敗のタイになりましたね
それにしても試合中継延長でえらいことに…
0529創る名無しに見る名無し2012/11/14(水) 23:37:20.26ID:YMc0ZRCC
野球の話で恐縮ですけど
日本代表とかそういうのは想像してる間が楽しいね…
0530創る名無しに見る名無し2012/11/15(木) 02:33:01.96ID:rqMa39So
あの野村さんも日本代表とかになると結構熱くなるんだよなw 
0531「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十八話2012/11/18(日) 23:30:29.71ID:LhGJ89lo
1/6
「さあっ、いよいよ始まりますっ。女子プロ野球リーグ公式戦、大阪トライアンゴッデス
対東京シャイニングヴィーナスの第一回戦。まずは両チームのスターティングオーダーの
発表を致しましょう!」

 場内アナウンスに煽られるように、ここ大阪・舞洲ベースボールスタジアムに集まった
女子プロ野球ファンが拍手と歓声で応える。

 まずは東京シャイニングヴィーナスのスタメン、1番の小宮奈美から9番の大咲さくら
の名前が一人ずつ読み上げられた。
 相手側に比べると少ないながらも、シャイニングヴィーナスのファンも三塁側スタンド
には居るようで、各選手の名前が呼ばれる度に、太鼓の音と共に声援が上がる。

「それでは参りましょうっ。迎え撃つ大阪トライアンゴッデスのスターティングオーダー
の発表ですっ!」

「1番、センターフィールダー、カズハー、フクモーリ。ナンバーセブン」

「2番、ライトフィールダー、タマキー、カメマール。ナンバーゼロゼロ」

「3番、ファーストベースガール、レニーー、バーーンズ。ナンバーフォーティフォー」

「4番、ピッチャー、ミユキー、マブーチ。ナンバーワン」

「5番、レフトフィールダー、トモカー、カナヤーマ。ナンバーテン」

「6番、セカンドベースガール、ミコトー、イマニーシ。ナンバーシックス」

「7番、ショートストップ、アキラー、タカオーカ。ナンバーエイト」

「8番、キャッチャー、マミコー、ヤマムーラ。ナンバートゥエンティツー」

「9番、サードベースガール、セイラー、オサムーラ。ナンバートゥエルブ」

 以上、大阪トライアンゴッデスのスターティングオーダーを紹介しました。
 まもなく試合開始です。
0532「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十八話2012/11/18(日) 23:33:27.33ID:LhGJ89lo
2/6
 1回表、まずは守備に付く大阪トライアンゴッデスのナイン。
 マウンドには、エースの真淵みゆきが上がった。
 軽く投球練習を終え、後を振り向いてバックに気合いを入れる。
「しまっていこうーっ!」「「「っしゃーっ!」」」

 打席にはシャイニングヴィーナスの切り込み隊長こと、小宮奈美が立つ。
「最初から全力で行くっスよ!」
 奈美は初球から思い切りスイングしていった。
 だが、1球もバットに当たらず空振り三振に倒れた。
「……ん、ナイススイング」と川原恵美。
「慰めは要らないっス……にしても向こうのエースさんは絶好調っスね」
 次打者の恵美と入れ替わり、凡退した奈美はベンチに帰った。

「今日もいけそうやなあ。連続完封勝利狙ったろかな」
 マウンド上の真淵みゆきはニヤリと微笑んだ。
 ちなみに真淵は、先週の開幕戦では被安打1の無失点完投で今季初勝利を挙げている。
 真淵は川原恵美と大木姫子に対しても速球が冴え、共に三振に抑えた。
 叩きつけるように振り下ろされる右腕に、どう立ち向かって行こうというのか。

「こっちも負けてられないわね。行くわよ、みのりちゃんっ」
「はいです! さくらさん」
 大咲さくらと丸山みのりのバッテリーだ。お馴染みのコンビである。
 その二人がマウンドとホームベースに分かれて、1回裏のゴッデスの攻撃が始まる。

「よっしゃ、景気付けの一発といこかー」
 大阪のトップバッター、福森一葉が左の打席に入る。
 一番打者の第一打席。固め打ちの傾向のある福森だけに、バッテリーとしては是非とも
抑えておきたい場面である。
 ピッチャーさくら、初球はカーブ。打者が見送って、まずはストライクを奪う。
 2球目は直球を福森が打ちに行くがファール。コースは少し外に外れていたようだ。
 追い込んでからの勝負球はフォークだった。しかし、この球は福森が見送ってボール。
 カウント2ストライク1ボールからの4球目はインコースの高め。ストライクゾーンを
わずかに外れた直球だった。

「よっしゃ、もろたー!」
 福森が打った。その打球はセンター方向へぐんぐん伸びて……フェンスを越えた。
 一気に湧き上がる大阪の応援席。打った福森はそれを味わうかのように、ダイヤモンド
をゆっくりと回った。
 まずは大阪トライアンゴッデスが1点先制した。
0533「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十八話2012/11/18(日) 23:36:18.96ID:LhGJ89lo
3/6
 1点を奪われたものの、さくらは落ち着いたピッチングで次打者の亀丸を打ち取った。
 エースだからね、当然だね。
 そして、その次の打席には強打者のレニー・バーンズを迎える。
「出たわね……ここで打たれたら流れが向こうに行ってしまうわ」
 敵のクリーンナップを警戒するさくら。初回から大崩れするような事態は避けたい。
 左打席でゆったりと構え、ピッチャーの方向を見つめるバーンズ。その表情こそ穏やか
だが、二つの眼は獲物を狙う野獣の眼だ。
 キャッチャーのみのりは考えた。当然ながら甘いコースは禁物だ。ストライクゾーンの
出し入れで勝負しなければいけない。
 しかしそこはエースの大咲さくらである。わずかにゾーンを外れるボール球を打たせて
何とかライトフライに抑えた。
「それでもあそこまで持っていくのは、ただ者じゃないわね」
 さくらはそう思った。これが、レニー・バーンズのパワーだ。

 バーンズを打ち取ったさくらだが、安心してはいられない。“4番打者”の真淵みゆき
が打席に立つ。
 強打者の匂いをぷんぷんさせながら、真淵は他の打者よりやや長いバットを構える。
 実際、大咲さくらをはじめとしてエース級投手にはめっぽう強いので厄介だ。
 現在2アウト走者無し……シングルヒットなら大丈夫な場面だ。さくらはそう考えて、
低めへの変化球で攻める。
 真淵は3球目のカーブを引っ張ったが、その打球はサードを守る御堂あづさの守備範囲
だった。あづさが難なく捌いて、3アウトチェンジとなる。

「ナイスなピッチングです、さくらさん」
「どこがよ。1点取られちゃったし」
「あれは事故みたいなものです。その後に崩れないのは流石です」
「事故、ねえ……」
 キャッチャーの丸山みのりが慰めるも、さくらは不満げな表情だった。
 やはりエースとしてのプライドか、たった一球の失投も許せないのだろう。
0534「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十八話2012/11/18(日) 23:40:40.70ID:LhGJ89lo
4/6
 2回表のシャイニングヴィーナスの攻撃は、4番の御堂あづさからだった。
 同点ホームランを狙うか、それともまずはヒットで出塁するか。
「御堂ちゃんはそんな、セコいバッティングなんかせえへんよな?」
 マウンドから真淵みゆきが挑発ともとれる発言をした。
 その声が聞こえたのかどうなのか、打席のあづさは初球からフルスイングした。
 2球空振りしたところで、あづさが一旦打席を外す。
 そして、軽く一振り。
「エースには負けられへん……せやけど」
 3球目のボール球を見送り、4球目の低めに来た直球をすくい上げる。
 あづさの打球はセンターに飛んだが、福森一葉の守備範囲だった。センターフライ。
「くっ……」
 悔しさを露わにしてベンチに戻る御堂あづさ。
 続くマクスウェルと小松田沙織も凡退し、この回も三人で攻撃を終了。

 そして2回裏、大阪トライアンゴッデスの攻撃は、5番の金山智香から。
 広島の球団からFA移籍で大阪に来た強打者だ。その打撃だけでなく野球に対する姿勢
も含めて評価されている。
 早くもチームに溶け込み、選手だけでなくファンにとっても頼れる“アネキ”としての
存在感を確立している。
 マウンド上の大咲さくらにとっては、さらに相性の悪い相手がライバル球団に加わる事
になった。
 そう。実は広島時代から、金山は大咲さくらを得意にしていた。
 しかし、連覇を目指すチームのエースが、苦手だのなんだのと言ってはいられない。
 さくらは力を込めて投げた。
 金山の打球はセカンド方向への大飛球になった。
 これを落ち着いて川原恵美がキャッチして、まずは1アウト。
 さらに今西、高岡からは連続三振を奪い、こちらも三者凡退に抑えた。
 ようやくエースの本領発揮か。
 だが、相手のエースも譲らない。3回、真淵もヴィーナスの7、8、9番を三者凡退に
切って取った。

 序盤3イニングスを終えて、大阪が福森の初回先頭打者ホームランだけの1点リード。
 大阪が突き放すか、東京が追いつくか、次の1点をどちらが取るかに注目が集まる。
0535「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十八話2012/11/18(日) 23:46:06.38ID:LhGJ89lo
5/6
 開幕からの連敗を止めたいシャイニングヴィーナス打線だが、真淵みゆきの前に凡退の
山、山、山。気付けば5回を終わって依然ノーヒットという有り様だった。

 しかし6回表、沈黙するヴィーナス打線に活を入れるかの如く、チーム初安打を放った
のは、先発投手で9番打者の大咲さくらだった。
 さくらの打球は左中間を破り、外野のフェンスまで転がる。レフトの金山智香がボール
を処理する間にさくらは一気に二塁まで到達した。
 2アウトながらランナーは二塁となった。そして打順はトップに返り、1番の小宮奈美
が打席に向かう。

「よーし、一気に追いつくぞ。小宮っ」
「あいあいさーっス!」
 栗田が威勢良く次打者の奈美を送り出す。監督として特に細かい指示は無く、とにかく
ヒットを打てという事だ。
「そう簡単には、打たせへんで!」
 この試合で初めて得点圏にランナーを背負った真淵が気合いを入れ直し、渾身の直球を
キャッチャーの山村真実子のミットに向かって投げる。
 魂のこもった投球に対し、奈美はピッチャーの前にボールを転がすのが精一杯だった。
 真淵は落ち着いて打球を処理し、一塁にボールを送った。
 一塁塁審のアウトのコールを聞いた真淵は、小さくガッツポーズをしてベンチに歩いて
いった。

 6回裏。1アウトから右中間を破るツーベースヒットで出塁した福森を二塁に置いて、
2番打者の亀丸たまきが左打席に入る。
 おそらく送りバントは無い。決めつけるのは良くないが、初球のボール球へのスイング
を見る限りは強攻策だと思われる。
 ただでさえ身体の小さい亀丸だが、さらに身をかがめたバッティングフォームで打席に
立っている。
 小さなストライクゾーンに苦心しながらも、さくらは変化球を駆使して打ち取る。
 結果はショートゴロ。これでは二塁ランナーは動けない。
0536「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十八話2012/11/18(日) 23:50:39.16ID:LhGJ89lo
6/6
「すいませんでした。せめてランナーを三塁に……」
 凡退して一塁側ベンチに戻った亀丸が、監督の掛井雅明に話しかけた。
「いやいや、バーンズ君なら二塁も三塁も変わらないですよ。それよりも、自分で決める
というくらいの気持ちで打ってくれないと」
 と掛井はにっこりと微笑んだ。
「は、はい。頑張ります」
 すっきりとした表情で、亀丸はベンチに座った。

 これで2アウト、ランナーは二塁。
 そして、3番打者のレニー・バーンズがゆっくりと打席に入る。
 一つ前の亀丸の打席よりも多くの声援が、背番号44に注がれる。
 対するマウンド上の大咲さくらの表情は変わらない。気の強い真剣な眼差しだ。
 一塁ベースは空いている。だが、ネクストバッターズサークルでは主砲の真淵みゆきが
マスコットバットを豪快に振り回している。バーンズが敬遠されたら、自分が打ってやる
というアピールの意味もあるのだろう。
 さくらのバーンズへの初球は、高めへのストレート。コースは外れた。まずは1ボール。
 これは平然と見送られた。ボール球で攻めるのが定石だが、相手もそれは解っている。
 2球目の低めへのスライダーでストライクをとる。
 続く3球目のフォークを空振り、2ストライクに追い込んだ。
 4球目も続けてフォークを投げるが見送られ、今度はボールに。
 やはり、ストライクゾーンのど真ん中は危険だ。
 キャッチャーの丸山みのりがバーンズの体のほうに寄った。
 さくらはインコース高めへ、ややボール気味のストレートを思い切り投げ込んだ。
 バーンズは少し窮屈な体勢になりながら、一気にバットを振りぬいた。
 打球は大阪の夜空に高く舞い上がった。
 それと共にスタンドがわあっと沸いたが、それらはすぐにため息に変わった。
 ホームベースのほぼ真上からボールが落ちてくる。キャッチャーフライだった。
 みのりが落ち着いてキャッチしてスリーアウト。ピンチを切り抜けた。

 6回を終わって1‐0で大阪トライアンゴッデスがわずかにリード。
 スコアボードには1回裏の1点が輝いている。

 つづく。
0537創る名無しに見る名無し2012/11/18(日) 23:53:57.33ID:LhGJ89lo
投下終了。>>496の続きです。
0538創る名無しに見る名無し2012/11/21(水) 21:59:34.05ID:reArj/Np
>>529
まさかのメジャーリーガー全員辞退だからなー
それぞれ事情があるから仕方無いんだろうけども
0539創る名無しに見る名無し2012/11/24(土) 21:43:46.42ID:6UvpPK/U
広島が優勝しました!
おめでとうございます〜

カープじゃなくてサンフレッチェですけどね。
0540創る名無しに見る名無し2012/11/24(土) 21:59:41.14ID:L3wVCSzo
いわずとも分かるくらい野球の方の広島は……
0544創る名無しに見る名無し2012/12/07(金) 01:04:30.12ID:haquE0jR
東京ヴ「ガンバ君!」
千葉「J2を」
京都「舐めない」
横浜FC「ほうが」
山形「良いぞ」

ガ大阪「お、お前らは…!」

福岡「ゆっくりしていってね!」

ガ大阪「イヤやあああああ」
0547創る名無しに見る名無し2012/12/28(金) 18:05:58.01ID:zEpz6KJP
まぁ怪我の影響モロだったし、今巨人に戻っても晩年の清原化の恐れもあるからなぁ。なら引退、か。
といっても松井のトークは何気におもしろいので解説に期待w
0548創る名無しに見る名無し2012/12/29(土) 20:56:58.17ID:nHQFjX1O
(二)今岡
(遊)石井
(左)金本
(右)松井
(三)小久保
(捕)城島
(一)北川
(中)英智
(投)高津

今年は大物の引退が多かったなあ…毎年言ってるような気もするけど
0550創る名無しに見る名無し2012/12/30(日) 23:22:43.31ID:t7cJlLa5
まぁ50代投手も過去にはいたしなw
0552創る名無しに見る名無し2013/01/12(土) 21:16:07.93ID:kj8loSja
FAでソフトバンクに移籍した寺原の人的補償として、馬原がオリックスへ。
0553創る名無しに見る名無し2013/01/12(土) 21:34:02.80ID:l3WJZh2z
深層筋を鍛えるトレーニングは種類がいっぱいあって分からんから、
基本的なやつ、王道の鍛え方を教えてほしい。

ちなみに剣道をやっている。剣道もスポーツに入るだろ。
0554創る名無しに見る名無し2013/01/12(土) 21:38:24.03ID:0w6Kg5/C
板違いにもほどがあるw
0555創る名無しに見る名無し2013/01/12(土) 21:43:13.32ID:l3WJZh2z
間違って悪かった。
0557創る名無しに見る名無し2013/01/13(日) 18:41:34.57ID:38Il3QxM
>全国都道府県対抗女子駅伝かー。
>出場チームの半分くらいは野性味あふれるパワーが持ち味なんだろうなー。
>京都代表は千数百年伝わる古式走法で直角に曲がるのが得意。
>沖縄代表は海を泳いでショートカット。
>静岡代表は樹海を渡ってショートカット、そこで山梨代表とはちあわせし因縁の対決。
>福井は眼鏡。

こういうのはここでやればいいんじゃね?(※転載です)
0558創る名無しに見る名無し2013/01/14(月) 21:54:12.45ID:vvBfpGJj
都道府県対抗って何につけ楽しそうですなあ
自分は兵庫県なんで兵庫代表を応援します
0559創る名無しに見る名無し2013/01/17(木) 21:48:39.43ID:7Xpqmz3S
女子プロ野球がリーグ再編 今季から4球団に
http://www.47news.jp/CN/201301/CN2013011701001869.html

なんか大幅に変わったな、という感じ
これで女子プロ野球ファンが全国に広がれば良いけど
0561創る名無しに見る名無し2013/01/23(水) 23:40:38.35ID:1q4N3ZDi
キャンプ直前に大きなニュースが飛び込んできたね。
F糸井・八木⇔Bs木佐貫・大引・赤田のトレードだって。
0563創る名無しに見る名無し2013/01/25(金) 18:58:53.18ID:kyNdFYSn
マジかよ。正直ダサいw
0565「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十九話2013/02/13(水) 00:33:39.74ID:/dzmL165
1/7
 東京シャイニングヴィーナス対大阪トライアンゴッデスの1回戦もいよいよ終盤の7回
を迎えた。
 7回表のシャイニングヴィーナスの攻撃は、2番の川原恵美から。
 マウンドには、先発の真淵みゆきが立ち続けている。ここまでツーベースヒット1本の
無失点に抑えているが、終盤になって球数は90球を越えている。
 打席の恵美はバットを短く持って、真淵の速球に対応するつもりだ。
 なんとかファールで粘り、フルカウントからのフォークを見送った。
 フォアボールで一塁に歩く恵美。ついに先頭打者が塁に出た。
 次の打者は3番の大木姫子だ。4番の御堂あづさに繋ぐか、それとも自分で決めるか。

「ここは、ランナーを進めよう」
 栗田監督はそう考えて、打席の姫子に進塁打を指示した。
 指示を受けた姫子は、真淵の直球を一塁方向に転がす。一塁ランナーの恵美は、打球が
ゴロになったのを確認して二塁へと向かう。
 ところが何と、一塁手のレニー・バーンズが捕ったボールを二塁へと送球した。
 これが二塁に入った遊撃手のグラブの上を越えて、外野にボールが転がる。
 レフトの金山智香がすぐに追いついて三塁に返したので、恵美は二塁を回りかけた所で
ストップした。
 だがノーアウトで一、二塁と、さらにチャンスが広がった。

 打席には4番打者の御堂あづさが向かう。
 今日の試合はここまで二打席ノーヒットだが、4番の意地を見せて頂きたい。
「わかっとるわ。黙っとき」
 あづさは気合いが入っているようだ。
 マウンドの真淵みゆきもそれを肌で感じ取っていた。
 女の意地と意地とがぶつかる。果たして勝つのは……?
0566「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十九話2013/02/13(水) 00:42:04.16ID:/dzmL165
2/7
 御堂あづさへの真淵みゆきの初球、渾身のストレートがズバッとインハイに決まる。
 決して打てない球ではない。あづさはそう確信した。
(もう1球おんなじの投げてみいや……)
 あづさは心の中で呟いた。
 対する真淵はそれを察したのか、小さく微笑んだ。
 バッターの目の前へと迫り出して来るような豪快なピッチングフォームから、もう1球
インハイへ鋭いストレートを投げ込む。
 打席のあづさは待ってましたとばかりに、これをフルスイングでぶっ叩く。
 その打球はレフトの方向に飛んだ。左翼手の金山の差し出したグラブの上を越えていく
大きな当たりになった。
 二塁ランナーの川原恵美が生還し、まずは同点。さらに一塁ランナーの大木姫子は三塁
に到達し、打った御堂あづさは二塁まで進んだ。さらにチャンスが続く。

「どうやっ! 見たかオラァ!」
 あづさが右の拳を突き上げる。ようやく4番の仕事を果たしたといった所か。
「いやいや、まだまだ行くでー!」
 その通りだった。まだ同点でさらにランナーは二塁、三塁。ここで一気に逆転したい。

 左の打席にエイミー・マクスウェルが入った。今日はここまでノーヒット(三振2)。
 大きく振り回すタイプのバッターなので、当たればデカいが当たらなければ……。
「ソロソーロ、ネングノオサーメドキ、デゴザル」
 マクスウェルはそう言って投手を挑発(?)した。
 その言葉の意図はよく解らないが、そろそろ(ランナーを)返すという事だろうか。
 ネクストバッターズサークルには勝負強い小松田沙織が控えており、歩かせるわけには
いかない。
 いや、ピッチャーの性格からして、敬遠という選択肢は存在しないだろう。
 ストレートには滅法強いマクスウェルだが、今日はここまで2打席とも三振。
 しかし当てにいくようなバッティングはしない。元々そこまで器用な打者でも無いが。

 初球を空振り、2球目も空振り。これはまた三振か……三塁側ベンチもやや落胆気味
になる。
 だが勝負の3球目、真淵の右腕から放たれた渾身の一球は、ストライクゾーンを大きく
外れて打者に向かっていく。

「アウチッ!」
 ボールはマクスウェルの背中に当たった。
「シンパイ、ゴムヨウ」
 しかし大した痛みは無かったようだ。マクスウェルは元気に一塁に歩いていった。
0567「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十九話2013/02/13(水) 00:50:09.89ID:/dzmL165
3/7
 無死満塁。ここで打席に立つのはキャプテンの小松田沙織。
 満塁の場面になると、その勝負強さが最大限に発揮されるクラッチヒッターである。

 初球から積極的に打っていく沙織。惜しくもファールにはなったが、ここまでの劣勢を
吹き飛ばすには充分と言える飛距離だった。
 初回から快調に飛ばしてきた真淵が、呑まれているのか。
 ファールの後は、ボール。ボール。ストライク。ボール。これでフルカウントに。
 仕留めるには一球あれば良い。沙織は集中している。
 6球目のストレートを綺麗にセンターの前に打ち返す。
 真淵のボールには既に序盤のような球威は無かった。
 三塁ランナーの大木姫子がホームに生還して勝ち越し。これで2対1となった。

 続く7番中本寛子はセカンドゴロを打ってダブルプレーに倒れるものの、その間に走者
が生還しさらに1点を追加し、3対1とシャイニングヴィーナスが2点リードを奪った。

 一転してリードを背負う形になったヴィーナス先発の大咲さくらが、そのまま7回裏の
マウンドに向かう。
 対するゴッデスの攻撃は4番の真淵みゆきから。
 投手として打たれた分を、自らのバットで少しでも返していきたい。
 初球の甘めのスライダーを引っかけるも、腕力でセンターの前に持っていった。
 まずは先頭打者の真淵が出塁した。
 だがしかし、大咲さくらはその程度では揺るがない。
 続く5番・金山智香が左打席に入る。5回ウラにはさくらからヒットを放っている。
 しかしこの打席は、さくらのカーブが低めに決まり、三振に倒れる。
 6番の今西美琴がライト前へヒットを打って一、二塁になり、7番の高岡あきらに打順
が回った。

 ゲッツーだけは避けてくれ。そんなゴッデスファンの願いも空しく、高岡はスライダー
を引っかけて、ショートの真っ正面へのゴロを放つ。
 ショートの小宮奈美が二塁に送球し、さらにセカンドの川原恵美がファーストへ。
 俗に言う6‐4‐3のダブルプレーである。
 大咲さくらはこれでピンチを脱した。
0568「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十九話2013/02/13(水) 00:57:15.83ID:/dzmL165
4/7
「よくやったぞ、大咲」
「あ、はい。監督」
 マウンドから戻ってきたさくらに対して、栗田は声をかけた。
 8回表。東京シャイニングヴィーナスの攻撃は、9番のさくらから。
 だが、ここで栗田は主審に交代を告げた。

「選手の交代です。バッター大咲に変わりまして三島みらい。ピンチヒッター、ミライ、
ミシーマ。ナンバーサーティスリー」

 三島みらいがベンチから出てきた。敵地とは思えない大きな歓声に包まれながら。
 大阪の女子野球ファンも、注目のルーキーを一目見たかったようだ。
 みらいは少し戸惑いながら、一礼して右の打席に入る。
 マウンドには、先発の真淵みゆきがいる。この回も続投のようだ。
「ミスターガイアンツ、三島さんの娘……やな」
 みゆきは呟いた。みらいに対して何やら意識しているようだ。
 大阪トライアンゴッデスと東京シャイニングヴィーナスは、所謂ライバル関係にある。
 まあ、少なくともゴッデス側はそう思っている。
 ゴッデスのエースである真淵みゆきにとっては、将来ヴィーナスの主軸になる可能性の
ある打者には負けるわけにはいかない。
 対する三島みらいの頭の中には、そんな事を考える余地など無かった。
 とにかく食らいついていこう。みらいはバットのグリップを短めに握った。
 まずはファール、ファールと続いて2ストライクに追い込まれる。
 一気に勝負を決めたい真淵。少し焦ったのか、ストレートが甘いコースに
入ってしまった。

(来たっ……ほぼ、ど真ん中っ!)

 みらいはバットを振り抜いた。その打球はピッチャーの頭の上を越え、三遊間を抜けて
センターの前へ。見事なクリーンヒットだ。
 先頭打者が、塁に出た。
0569「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十九話2013/02/13(水) 01:04:36.18ID:/dzmL165
5/7
「よし、ここは送ろう」
 栗田は犠牲バントのサインを出した。ちゃんと次打者の小宮奈美に届くだろうか?
 コツン。ボールがフェアゾーンに転がった。みらいはそれを見て、二塁へと走った。
 奈美はサイン通り犠牲バントを遂行し、2番の川原恵美に後を託す。

「……ワンナウト、二塁か」
 恵美が右の打席に入る。ちらりと一塁コーチャーズボックスの方を見る。一塁コーチの
山瀬は“自由に打って良し”のサインが出ている。
 自分の後ろにはクリーンナップが控えている。そう考えると、最低限でも走者を三塁に
進めるべきだろう。恵美はそう判断した。

「かっとばせー、めぐりーん!」
 三塁側の観客席からとある男性の声が聞こえた。大阪に住むシャイニングヴィーナスの
……というより、川原恵美のファンである。
 私の追っかけなんてあの人くらいだから自然と憶えます……と恵美は言うが、彼の地元
である大阪のみならず、全国津々浦々まで試合やイベントに駆けつけては恵美に熱い声援
を送っている。
 それはともかく、何故いつも「かっとばせ」と言うのだろう。恵美は疑問に思う。
 高校時代はソフトボール部でエース兼4番であった恵美だが、硬式野球を始めてからは
ずっと内野手で打順は主に2番だ。プロの公式戦でホームランを打ったことも無い。
 疑問に思っていた恵美はそれとなく聞いてみた事もある。
 去年、東京でのサイン会で彼に会った時だった。
 彼は笑いながら言った。
「かっとばせは、かっとばせですよ」と。……恵美はそれ以上は聞かない事にしたが。
0570「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十九話2013/02/13(水) 01:11:19.37ID:/dzmL165
6/7
 疲れからか、真淵の投球はボール球が先行した。恵美はノーストライク2ボールからの
3球目、ストライクゾーンに入ってくるカーブをカットしてファールにする。
 右打者の恵美は、ライト方向へ転がそうと意識している。最低限でも二塁走者を三塁に
進めるのが今するべき“仕事”だ。
 そして4球目、ピッチャーの真淵がバッターの恵美に対して直球を投げ込んだ。
 恵美はバットを出した。だがその瞬間、あの「かっとばせー」の言葉が耳に届いた。
 それで少し力んだのだろうか、狙った右方向ではなく、打球はショートへの小フライに
なってしまった。
「……ミスった」
 当然ながら走者は三塁に進めない。
「めぐりん、どんまーい! 次はいけるよー」
 さっきの男が声援を送っていた。

「3番、センターフィールダー。ヒメコー、オオキ」
「はいはーい。今行きます〜」
 選手紹介のアナウンスに律儀に返事をして、3番打者の大木姫子が左の打席に入る。
 タイムリーが期待される好打者の登場に、三塁側のファンが沸き上がる。

 一方の一塁側、ゴッデスのベンチは投手起用について考えていた。
 先発の真淵はそろそろ疲れている。だが、まだ8回かつリードを許している状況で抑え
の御子神零は使えない。とは言っても、中継ぎ投手陣は心許ない。
 ここはエースとして踏ん張って貰わねば。そういう判断を下した。
 そんなベンチの判断を真淵は意気に感じた。打席もあと1回は回ってくる。この場面は
とにかく抑えて、自分のバットで取り返す。

 大木姫子への初球、まずはストレートから入る。姫子が見送ってストライク。
 2球目はインハイへ、またもやストレート。相変わらずの強気なピッチングだ。
 姫子はその球を空振りし、ツーストライクに追い込まれた。
 3球勝負か? ピッチャー真淵が投げたのは決め球のフォークだった。

 あっ、と思った時には姫子はもうバットを振っていた。
 何とか先っぽに当てないと……姫子は一瞬のうちにそう考えた。
 そして、辛うじてバットの先端にフォークボールを当てた。これはファールになった。
 助かった……などと安堵している暇も無く、真淵は4球目を投げてくる。
 今度は直球だ。
バッターの姫子は、やや振り遅れながらもバットに合わせる。
0571「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第十九話2013/02/13(水) 01:18:28.34ID:/dzmL165
7/7
 打球は三塁線の方向に飛んだ。ファールか? いや、三塁を守る長村星夜がその飛球を
追いかけていく。
 結局、長村がファールフライを掴んでスリーアウト。チェンジとなった。

 8回裏。ここまで3‐1とシャイニングヴィーナスが2点リード。
 先発の大咲さくらに代わってマウンドに上がるのは、セットアッパーの大岩ゆうな。
 この回のトライアンゴッデスの攻撃は、8番打者の山村真実子から。

(さくらから受け取ったバトン。ちゃんとアンカーの真緒さんに繋ぐよ)
 マウンド上のゆうなはそんな思いを胸に、精神を集中してバッターに挑む。
 まず8番の山村、9番の長村を共に内野ゴロに打ち取り、簡単に2アウトを取る。
 あとは3人目の打者を抑え、ストッパーの城之内真緒に繋ぐだけだ。
 しかし、その目論見はあっさりと覆される。
 1番打者の福森一葉がセンターオーバーのツーベースヒットを放ったのだ。
 まだリードは2点あるが、失点のピンチを迎えた。
 ここでトライアンゴッデスの掛井監督がベンチを出た。選手の交代だ。
 さらに一塁側ベンチから出てきたのは、背番号4だった。

「出番だ。思いっきり暴れて来い」
 掛井監督がそう言って送り出したのは、大阪トライアンゴッデスの代打の切り札として
活躍する梶浦裕子だった。人呼んで“代打の女神様”の登場だ。
 大阪トライアンゴッデス創設時のメンバーであり、初代4番打者だった梶浦。
 怪我などもあって、ここ数年はベンチを暖めてはいるが、その勝負強さは健在だ。
 代打・梶浦裕子のアナウンスに、一塁側スタンドがどっと沸く。
 それに応えるように豪快に素振りを1回して、梶浦が右の打席に入る。

 一方、三塁側ベンチの栗田は動かない。
 このイニングは、大岩ゆうなに託したようだ。
 梶浦が打てばさらにクリーンナップに繋がる場面……果たしてピンチを切り抜ける事は
できるのか。

 つづく。
0575創る名無しに見る名無し2013/02/14(木) 04:25:10.61ID:q3rkdKM9
なぜレスリングなんだ。
0576創る名無しに見る名無し2013/02/14(木) 22:03:34.35ID:KBFtN58O
レスリングは完全に除外ではなく、野球や空手、スカッシュ等と1枠を争う形になるようだ
0579創る名無しに見る名無し2013/02/20(水) 22:14:04.89ID:YdmiFRpZ
村田外れたか
0581創る名無しに見る名無し2013/03/03(日) 00:54:16.31ID:yU/mqIBa
WBCは侍ジャパンがブラジルに勝利しました
そしてJリーグも開幕しましたねー
0583創る名無しに見る名無し2013/03/06(水) 17:46:54.08ID:dolWQQpE
意外過ぎたな。強豪国でも油断禁物か。
0586創る名無しに見る名無し2013/03/09(土) 00:06:35.01ID:JGqBiK2g
侍ジャパン勝ちましたね〜
9回の井端選手のタイムリーは痺れました
0587創る名無しに見る名無し2013/03/10(日) 22:38:07.03ID:l9lIw8MY
侍ジャパン、オランダに大勝!
決勝トーナメント行きを決めました!
0588創る名無しに見る名無し2013/03/16(土) 22:58:58.47ID:qLo5K4HD
アメリカは2次ラウンド敗退…

日本、オランダ、ドミニカ、プエルトリコが決勝ラウンドへ
0589創る名無しに見る名無し2013/03/17(日) 01:02:19.44ID:JXt/4ZXa
相変わらずアメリカはやる気が足りないな。
0590創る名無しに見る名無し2013/03/18(月) 15:17:54.58ID:sen4yXoi
侍ジャパン、プエルトリコに敗れWBC3連覇ならず…
0592創る名無しに見る名無し2013/03/18(月) 20:28:03.82ID:OAkKsKDM
いうてもメジャー組もおっさんメインだしダル一人抜けた程度じゃ戦力の低下ってほどは感じなかった。ていうか年末の企画でいいから90年代メンバーでチーム組んでメジャー組と試合してくれんかなw
0593創る名無しに見る名無し2013/03/18(月) 20:29:38.59ID:OAkKsKDM
とりあえず投手は斉藤か野茂か伊藤だろ。
メジャーの90年代ったらランディージョンソンにロジャークレメンスにグレッグマダックス。

あれもう勝てる気がしない。
0594創る名無しに見る名無し2013/03/18(月) 21:52:54.52ID:e7LjnCEe
全盛期の伊藤智仁なら・・・全盛期の伊藤智仁ならやってくれる・・・!
0596創る名無しに見る名無し2013/03/18(月) 22:24:48.54ID:e7LjnCEe
山本昌のドロップと伊藤智仁の高速スライダー、そして野茂のフォーク
今中のスローカーブも入れるか?
0597創る名無しに見る名無し2013/03/19(火) 04:29:06.93ID:yjgEZ/xw
今中のストレートならきっと……きっと!


相手がカルリプケンにバリーボンズにマグワイヤにサミーソーサにケングリフィージュニア、カービーパケット。

……お、おう
0602創る名無しに見る名無し2013/03/26(火) 22:29:09.66ID:1aYyCQgD
今夜のヨルダン戦に勝てば、日本のワールドカップ出場が決まるんですかね
0603創る名無しに見る名無し2013/03/27(水) 01:18:27.89ID:x81dq+Vl
ヨルダンに負けたか…

次は6月にオーストラリア戦です
ホームで決められるか
0607創る名無しに見る名無し2013/04/03(水) 18:34:32.80ID:z1v+c2q0
浦和学院センバツ優勝おめでとうございます。

そういえば、夏は埼玉県勢は優勝してないそうですね
0608創る名無しに見る名無し2013/04/04(木) 02:02:35.80ID:O+n891fY
済美はエース安楽投手が力投を続けていましたが、最後は力尽きた感じですね…
まだ2年生なんで、これからも頑張って欲しいです
0609創る名無しに見る名無し2013/04/07(日) 01:40:44.98ID:NmXy7+5E
横浜DeNA・ラミレス選手が通算2000安打達成しました。
外国人選手では初めての記録なんですね。
0610創る名無しに見る名無し2013/04/10(水) 00:32:47.91ID:gxSkArHI
山本昌投手(47)最年長先発勝利記録更新!
まだまだ更新していきそう。
0611創る名無しに見る名無し2013/04/13(土) 12:31:55.79ID:XFl/yqpP
あらー、中日とソフトバンクが最下位なのかー
まあ、まだ順位の話は早いか…
0612「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十話2013/04/23(火) 00:35:48.51ID:Bg1GFIlp
1/7
 東京シャイニングヴィーナスは、プロ野球の老舗球団・東京ガイアンツと同じ親会社を
持つ女子プロ野球の強豪である。
 リーグ初年度から圧倒的な実力を見せつけ、初代女王に輝いた。
 強すぎて逆にリーグが盛り上がらないのでは無いか、そんな危惧すらあったという。

 そこでヴィーナス一強時代に待ったをかけたのが、大阪トライアンゴッデスだった。
 地域性も考慮し、関西出身のメンバーを集めたトライアンゴッデスは、チームプレーを
第一とするシャイニングヴィーナスとは結果的に対照的なチームカラーになった。
 勢いに乗って一度は優勝を掻っ攫ったゴッデスだったが、その後は低迷することに。
 チームはバラバラなまま、さらに大阪出身の大物である御堂あづさをドラフトの抽選で
外すなど、運にも見放される。
 だが、掛井監督を中心にチームは再び頂点を目指して歩き出している。
 そんなチームをずっと中から見続けていた梶浦裕子が、代打として登場した。

 2アウトながら二塁には俊足の福森一葉がいる。
 ピッチャーの大岩ゆうなが1球目を投げると同時に、福森が三塁にスタートを切る。
 もしアウトになれば、そこでこの回は終了する。リスクを考えればありえない三盗だ。
 たが走った。そして盗塁成功した。これで二死三塁になった。
 福森はユニフォームに付いた土を軽く手で払い、すぐにホームを狙う姿勢をとる。

 大岩ゆうなと丸山みのりのバッテリーは、打者の梶浦裕子を打ち取る事に集中する。
 1ストライクからの2球目、ゆうなは縦に曲がるカーブを選択した。
 梶浦はこの球を見送った。そして、ボールはホームベースの前でワンバウンドした。
 これを丸山みのりが体で止める。もし後ろに逸らしたら三塁ランナーの福森がホームに
突っ込んで1点取られていたところだ。

 カウント1‐1からの3球目、今度は右打者の内角にシュートを投げ込む。
 バッター梶浦が打って三塁方向へのファール。これで2ストライクと追い込んだ。
 まだボール球を投げる余裕はあったが、ヴィーナスのバッテリーは勝負を急いだ。
 ゆうなは力強いストレートをアウトコースへ投げ込む。
 梶浦はこれを打ち返した。強烈なピッチャー返しがゆうなを襲う。
0613「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十話2013/04/23(火) 00:37:52.56ID:Bg1GFIlp
2/7
 危ないっ。ゆうなの顔面に向かって打球が一直線に突っ込んでくる。
 ゆうなは左手に嵌めたグラブで顔を庇おうとするが、間に合うのか。

 バシッ。梶浦の放った強烈なピッチャーライナーは、ゆうなのグラブに収まった。
 これでスリーアウト、チェンジ。マウンドのゆうなは一仕事を終え、ベンチに戻る。
 あとは、9回の攻防を残すのみとなった。

 9回表のマウンドに真淵みゆきが上がる。裏の攻撃では4番に回るので、ここで降りる
わけにはいけない。
 右の打席に御堂あづさが入る。この日4度目の対戦だ。
 イニングの先頭打者でランナーは当然いない。ここは自由に打っていこう。
 まず初球からフルスイング。後ろに飛ぶファール。一瞬だけワッと沸く観客席。すぐに
次の勝負に備える。
 残る全ての力を込めて、真淵みゆきは思いきり振りかぶって投げた。
 またも渾身のストレート、もちろん打席のあづさもそれを打ちにいく。
 打球は今度は右方向へ。だが、またしてもファール。
「次は、がっつり仕留めるで」
 あづさは言い放った。そして再び打席で構える。
 対する真淵も真っ向勝負。捕手のミットを目掛けて、あらんかぎりの力を込めて直球を
投げ込む。

 ズバン。という音がキャッチャーミットから響いた。御堂あづさの全力のフルスイング
が空を切った。
 マウンド上の真淵は雄叫びを上げた。展開とか勝敗とかは関係の無い、二人だけの対決
に勝利した喜びを爆発させた。
 真淵は後続を断ち、この回は三者凡退で終了。あとは9回の裏を残すのみだ。
0614「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十話2013/04/23(火) 00:40:08.62ID:Bg1GFIlp
3/7
 ここまで3対1と東京シャイニングヴィーナスが2点のリード。
 9回裏のマウンドには、“東京の守護神”城之内真緒が上がった。
 先発の大咲さくらが7イニングを1失点、2番手の大岩ゆうなが1イニングを無失点、
そして城之内真緒が最後を締める黄金リレーで今シーズン初勝利となるか。
 さらに、ライトには守備固めとして高梨由梨が入った。

 打席に入るのは、3番のレニー・バーンズ。この日はここまで当たりが出ていない。
 ここは反撃の口火を切りたい場面だ。
 たがそんなバーンズの目の前にいるのは、左のアンダースロー投手の城之内真緒だ。
 かつて、東京六大学野球で男子をバッタバッタと打ち取っていった“伝説の女投手”。
 その投球術、マウンド捌きは今も変わらない。
 とある野球漫画のキャラクターにも例えられる、美しいアンダースローから投げられる
変化球に、特に左打者はキリキリ舞いにさせられる。
 レニー・バーンズもまた、インコースに落ちるシンカーの前に空振り三振に倒れた。
 抑えましたが、何か? というような表情でキャッチャーからの返球を受け取る真緒。

 そして、次の打者を迎え撃つ。
 次の打者とは、そう。4番の真淵、エースの真淵みゆきである。
 先発して9回まで3失点。まずまずと言えるピッチングだった。だが、バッティングの
ほうではヒット1本のみ、打点は無し。チャンスに回ってこなかったというのもあるが、
ドデカい一発を求められながら、その打棒は鳴りを潜めている。
 左のアンダースロー投手に対して、左打者は背中からボールが飛んでくる感覚で非常に
打ちづらい。右打者の真淵みゆきが何とか打たねばならない。

 しかし、そこは百戦錬磨のストッパーである城之内真緒。ギリギリまで左手を体で隠す
ピッチングフォームから、インコースへの角度のあるストレートで攻める。
 真淵が打ちにいくものの、その打球はレフトへのイージーフライに終わった。
0615「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十話2013/04/23(火) 00:43:03.43ID:Bg1GFIlp
4/7
 あと一人。あとアウト一つで、シャイニングヴィーナスの今シーズン初勝利となる。
 そうはさせじと続く打席に入るのは、5番打者の金山智香。
 左打者対左投手は打者が不利だと言われるが、好打者には右も左も関係無い。
 そうで無ければプロでレギュラーは張れない。
 しかし、それでも絶対的守護神の城之内真緒には苦戦を強いられるようで、ポンポンと
2ストライクを奪われてしまう。

 3球目のシュートを打ってファールになると、やや沈んでいたスタンドが再び沸いた。
 まだ終わらない。終わらせない。そんな想いが、地元大阪のファンから打席の金山へと
注がれていく。
 4球目のストレートを逆らわずに左方向へ運んだ。
 その打球はレフトの前に、落ちる。2アウトから金山がヒットで出塁した。
 三振凡退では終わらないぞという意地を見せた。いや、試合はまだこれからだ。

 6番打者の今西美琴が右の打席に入る。
 ホームランが出れば同点になるが、どうだろうか。広い球場だが、女子野球の試合限定
で設置されるラッキーゾーンまでなら何とか届きそうだ。
 一塁にランナーがいるが、ヴィーナスのバッテリーは打者に集中する。
 今西への初球。アウトコース低めで、まずはストライクを取る。
 簡単に見送った今西。一体何を狙っているのか、そのフォームからは見当が付かない。
 あるいは、何も考えず来た球を打とうというのか。
 2球目はインコース低めへの直球。左右の揺さぶりをかけるが、これも見送る。今度は
ボールでカウントは1‐1。
 3球目も低めを攻める。今西は打ちにいくと見せかけてバットを止める。またも外れて
ボールになった。

 そして、4球目はインコース高めへのストレート。
 これを今西が思い切り引っ張る。
 レフトの方向へふらふらっと打球が上がった。レフトの中本寛子が追いかける。
 追いかけて、足が止まる。振り向いて、飛球を捕る。
 最後は平凡なレフトフライでスリーアウト。これでゲームセット。
0616「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十話2013/04/23(火) 00:46:59.37ID:Bg1GFIlp
5/7
 東京シャイニングヴィーナスが大阪トライアンゴッデスを下し、ようやく今シーズンの
初勝利を挙げた。

 エースが投げ、セットアッパーが繋ぎ、ストッパーが抑えた。
 まさに絵に描いたようなような勝利だった。これならいけると栗田は確信した。
「はい。ウイニングボールですよ。監督さん」
 栗田の目の前には真緒がいた。彼女の左の手にはボールが握られている。
 紛れもなく最後のレフトフライの球だ。
「でも、これはみんなで……」
 栗田は躊躇した。
「全員で分けるわけにもいかないですし、せっかくですから監督が持っていて下さい」
 真緒が強く勧めるので、栗田はウイニングボールを受け取った。
 プロ野球選手としては体験できなかったシーン。まさか自分が監督として受け取る側に
なろうとは。栗田は少し複雑な気持ちになった。
 それはともかく、これでようやく今シーズンのシャイニングヴィーナスが始動した。
 今夜は祝杯をあげよう。だが、浮かれているばかりではいけない。明日も試合がある。
 まだ1勝3敗。まずは借金を返済しなければ。

「みんな、明日も気を引き締めて行くぞ! あと2つだ」
 栗田が檄を飛ばした。試合後のミーティングでの一幕だ。
 ところが、選手たちのリアクションは今ひとつ……。
「何言うてはるんですか、監督」
 沈黙を破ったのは、御堂あづさの一言だった。
「シーズンは長いんですから、そこまで気を張らなくても良いんじゃないでしょうか」
 あづさの隣に座る大咲さくらが口を開いた。言われてみれば確かにその通り。
「とは言え、カード勝ち越しはしておきたいですね。せっかく一つ勝ったのですし、良い
流れでホームに帰りたいです」
 さらに丸山みのりが続いて言った。
「という事は私が投げる明日の試合が重要だな。明日勝たないと……」
「ちょっと、どういう意味だよっ」
 明日先発登板する三上英子と明後日先発登板する末永陽子のやりとりが見られた。
 一つ勝ったからなのか、チーム内の雰囲気は悪くないようだ。
 ここは監督の自分がとやかく言う場面では無いな。栗田はそう思った。
0617「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十話2013/04/23(火) 00:51:34.42ID:Bg1GFIlp
6/7
 翌日。この日は昨日の舞洲から場所を移し、大阪ドームへ。
 大阪ドームと言えば、プロ野球チームの近畿バッカルーズが本拠地としている球場だ。
 現役当時は縁の無かったプロ野球のホームグラウンドに、栗田は女子プロ野球チームの
監督として初めて足を踏み入れる。
 ちょうど東京シャイニングヴィーナスの練習中だった。
 キーン。カキーン。と甲高い金属バットの音が鳴っている。
 二つ並んだバッティングケージでは、小宮奈美と大木姫子がそれぞれバッティング練習
を行っている。

 栗田も打撃投手を手伝う為にマウンドへ向かおうとしたその時、御堂あづさがその姿に
気付いて近寄ってきた。
「おー、監督さん。今日もおっとこまえやねー」
 あづさは屈託の無い笑顔を浮かべている。
「どうしたんだ? いきなり。藪から棒だな」
「冗談ですやん」
 なんだよ、冗談だったのか。栗田は少し残念そうだった。
 それはともかく、あづさは話を続けた。
「今日の向こうの先発、夏穂やったやろ?」
「夏穂……ああ、上田夏穂っていう名前だったな」
「そうそう。それでな、今日のウチの打席はノーサインにして欲しいんよ」
「ノーサインって……全打席か?」
「あいつとはサシで勝負したいんや……負けられへんねん!」
「お、おう……」
 栗田は何となくあづさの気迫に何となく押された格好になった。
0618「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十話2013/04/23(火) 00:53:23.77ID:Bg1GFIlp
7/7
「何してんのよ。お二人さん」
 声のする方に栗田が振り向くと、そこには大咲さくらがいた。
 ちなみに昨日先発したさくらは今日の登板の予定は無い。
「もう、監督はあづさちゃんに甘いんだから」
「そ、そうかな?」
 栗田はわずかに動揺した。
「私だって……いや、何でも無いです」
 さくらは少し拗ねたように言った。
 一方、あづさはいつの間にかバッティングケージの中に入って快音を響かせていた。

「ところで、御堂と上田の間に何かあったのか?」
 栗田はさくらに尋ねてみた。
「あー、それは話すと長くなりますけど」
 話すと長くなるのか……どうしようかな。

 つづく。
0620創る名無しに見る名無し2013/04/24(水) 18:41:40.04ID:/WYN0tpI
どうにもネタ成分が足りない
これなら二次創作で良かったのでは
0621創る名無しに見る名無し2013/04/25(木) 03:05:21.96ID:23CAEzeW
アニメキャラでドラフトとかね
人がいたら良かったんですけどね
0628創る名無しに見る名無し2013/05/07(火) 01:01:03.43ID:7No9DdRq
当たり前のように試合のシーンを書いてるけど、
何をしてるのか良く解らないんだろうな…
0631創る名無しに見る名無し2013/05/10(金) 03:20:03.00ID:SegwFNz1
>>630
あと全世界、あるいは全宇宙が熱狂する〜みたいな設定とかね
それが政府まで支配してて、ちょっとディストピアっぽい感じ
0633創る名無しに見る名無し2013/05/12(日) 21:35:59.02ID:+nAMW8ru
フィクションの世界だから女子が男子を圧倒しても問題ないと思うんだけど
実力では男子にかなわないけど女子の方が人気みたいな設定でも良いかな
0634創る名無しに見る名無し2013/05/13(月) 22:05:14.16ID:rqTWAdIH
で、男の一人が女装して女子リーグに挑戦したり

これはベタ…なのか?
0638創る名無しに見る名無し2013/05/18(土) 22:13:56.78ID:xDgtuAJT
「野球が法律で禁止された世界」って政府と真っ向から対立するより、ここまではセーフじゃね?みたいなのを
みんなで探っていくほうが面白いんじゃないかな

硬球をバットで打つのは違法だから、じゃがいもを大根で打ち返すとか。
0640創る名無しに見る名無し2013/05/20(月) 22:01:36.56ID:ns9rrRsu
「プロ野菜選手の誕生である」
というフレーズが思い浮かんだ。
0643創る名無しに見る名無し2013/05/26(日) 22:54:59.69ID:m3OymDy0
馬をメインにしたほうが良いのかしら
主人公だけが人間の生まれ変わりとか
0650創る名無しに見る名無し2013/06/02(日) 12:23:27.12ID:TqsA9t+6
調教師「んー、でも菊は距離が長いからなー。どうしよっかなー」
0651創る名無しに見る名無し2013/06/04(火) 23:59:13.30ID:mSeu4m9X
>>603
オーストラリアと引き分けて、2014年ワールドカップ出場が決定しました!
0653創る名無しに見る名無し2013/06/07(金) 01:32:37.27ID:rTncCjKf
1998年フランス
2002年日韓
2006年ドイツ
2010年南アフリカ
そして、2014年ブラジルだね
0654創る名無しに見る名無し2013/06/08(土) 00:17:45.79ID:cHTRWl9/
カズの落選はショックだったな〜>1998年フランス大会

そのカズが今でも現役ってのは驚きだが
0655創る名無しに見る名無し2013/06/09(日) 03:33:39.48ID:q6VZLuhK
今の日本代表は欧州組が大半だし、インテルとかマンチェスターUに日本人が入団するとは昔は想像出来なかったな
ここ20年で日本のサッカーも驚異的に伸びたと思うけど、これからどうなっていくんだろう
0656創る名無しに見る名無し2013/06/11(火) 21:11:36.54ID:E/Olf0YU
ドーハの悲劇と呼ばれたあの頃はワールドカップ出場自体が高い壁というか、夢のまた夢でしたからね
今や出場は当たり前で、本大会でどこまで進めるかが焦点になってますが…
0657創る名無しに見る名無し2013/06/12(水) 22:03:34.30ID:niuV39gS
コンフェデレーションズカップ、日本代表はいきなりブラジルと対戦かー
勝てるだろうか
0658創る名無しに見る名無し2013/06/14(金) 23:18:53.22ID:93p3+OPB
ブラジル「日本から勝ち点3とるぞ」

イタリア「日本から勝ち点3とるぞ」

メキシコ「日本から勝ち点3とるぞ」

日本「ど、どうしたらいいんだ…」
0661創る名無しに見る名無し2013/06/21(金) 01:52:48.16ID:8CwgAosY
コンフェデレーションズカップ、日本はイタリアに敗れ予選リーグ敗退が決定しました…
0662創る名無しに見る名無し2013/06/23(日) 21:08:50.87ID:SFmhph0A
>>658
まさか、本当にこうなるとはw

本番のワールドカップまではまだ一年あるが…もう一年しかないとも言えるな
0663創る名無しに見る名無し2013/06/25(火) 23:43:34.68ID:PQuScxAj
>>658
0664創る名無しに見る名無し2013/06/25(火) 23:44:11.65ID:PQuScxAj
››658
0666創る名無しに見る名無し2013/06/28(金) 23:15:59.43ID:iXG2o9Cr
中日ドラゴンズの山井投手が、ノーヒットノーランを達成しました。
山井投手と言えば、日本シリーズで8回まで完全試合だったのを
9回にストッパーの岩瀬投手に交代…というシーンを思い出しますね。
0667創る名無しに見る名無し2013/06/28(金) 23:53:35.96ID:OJixvMbM
テスト
0668創る名無しに見る名無し2013/07/05(金) NY:AN:NY.ANID:GWHU4bIN
セ・リーグは巨人と阪神のマッチレースかな
パ・リーグは楽天がロッテと並んで首位になってるね
0671創る名無しに見る名無し2013/07/17(水) NY:AN:NY.ANID:2H/HkeaE
日本のオールスター、3試合もやるなら1試合くらいセリーグ対パリーグじゃない組み合わせに
したらいいのにと思った
日本人対外国人とか
東日本出身対西日本出身とか
若手対ベテランとか
0675創る名無しに見る名無し2013/07/30(火) NY:AN:NY.ANID:W3HLQPZ3
ソフトバンク斉藤和巳、引退
何年も前からリハビリ中だったけど、ついに現役復帰を断念・・・
全盛期が凄かっただけに、復活する所が見たかった。残念です
0679創る名無しに見る名無し2013/08/07(水) NY:AN:NY.ANID:V/Vo6+Sa
最近の野球はあんまり見てないんだけど斎藤がバリバリだったころってやたら投手のレベルが上がった印象。
0680創る名無しに見る名無し2013/08/17(土) NY:AN:NY.ANID:WAljcbmR
楽天・田中将大、21連勝のプロ野球新記録達成!
いったいどこまで続くんだ
0681創る名無しに見る名無し2013/08/24(土) NY:AN:NY.ANID:+LdN2U2W
ヤンキース・イチロー外野手が日米通算4000安打を達成。
こんな凄い選手はもう当分出てこないだろうね
0682創る名無しに見る名無し2013/08/25(日) NY:AN:NY.ANID:TFBwV1K5
例えば実際の試合結果に合わせて即興で話を作るのは
二次創作になるんだろうかとか考えたけど
いまいち良く解らなかった
0684青空町耳嚢 〜創作発表板五周年企画SS〜  ◆ftPUzYFINd55 2013/08/27(火) NY:AN:NY.ANID:+PHEKoDF
青空町耳嚢 第6/21話
【脱げた靴】

 6歳の息子が「靴を落とした」と泣きべそかいて家に帰ってきた。
 聞けば、公園でサッカー遊びしている時に脱げてしまったのだという。
 それなら履いて帰ってくればよいものを、と思いながら、息子と一緒に公園へ行ってみた。
 そこには、どうしてそうなったのかはわからないが、息子の身長の倍ほどもある靴が転がっていた。
 たしかにこれでは履いて帰るのはおろか、ひきずっても帰ってこれないだろう、と妙に納得した。


【終】

-------------------------
【8/27】創作発表板五周年【50レス祭り】
詳細は↓の317あたりをごらんください。
【雑談】 スレを立てるまでもない相談・雑談スレ34
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1361029197/
0686創る名無しに見る名無し2013/08/28(水) NY:AN:NY.ANID:QKyBoSbx
サッカーしてたから、ここでいいかな、と……スレ違いぎみぎりぎりでごめんなさい。
0688創る名無しに見る名無し2013/08/29(木) NY:AN:NY.ANID:OHL4Mp8p
この板の5周年記念企画SSの投下先を探してたどり着いて、
これまでの書き込み見て、なんか楽しげなスレだなと思ったから。
あいにくインドア派でルールもあまり知らないから、GirlsBaseballClassicさんみたいに本格的なのは書けないんだけど。
GirlsBaseballClassicさんの試合の書き方、すごいね。試合ハイライトはじっくり、それ以外はさくさくと、テンポよく試合が進んで読んでてきもちいいや。
0690創る名無しに見る名無し2013/08/30(金) NY:AN:NY.ANID:2wwrZZoQ
そうですね。
スポーツ総合って間口がとてもひろいでしょうに……
0691創る名無しに見る名無し2013/09/08(日) 23:12:18.40ID:k/LxJw9u
2020年のオリンピックの開催地が東京に決定しましたけど、
どうなんでしょう
0692「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十一話2013/10/27(日) 15:33:36.63ID:pLLhGd2z
1/8
 1回表のマウンドに上田夏穂が立つ。サイドスローの技巧派右腕だ。
 対する東京シャイニングヴィーナスの先頭打者は小宮奈美。スイッチヒッターの彼女は
左打席で上田の投球を待つ。
 一番打者として、その日の第一打席は重要だ。
 セーフティバントだった。一塁線にボールが転がる。ファーストのレニー・バーンズが
処理に手間取っている間に、奈美は俊足を飛ばして一塁ベースを駆け抜けた。
「さあっ、まずは先制パンチっスよ!」
 一塁ランナーになった奈美がナインを鼓舞する。

 二番の川原恵美が送りバントでランナーを二塁に進め、初回からチャンスを作った。
 そして、打順はクリーンナップへ。
 三番の大木姫子はセンターフライに倒れるが、2アウト二塁で四番の御堂あづさの打席
を向かえる。
 監督の栗田は前日に言われたとおり、ノーサインであづさに任せる。果たしてこれが、
吉と出るか凶と出るか。

 初球は落ちる変化球に大きく空振り。当たればどこまでも飛んでいきそうなスイングだ
が、それは相手バッテリーも解っているので、易々と甘いコースには投げてこない。
 技巧派の上田なら尚更だ。
 御堂あづさのバットが三度空を切る。第一打席は空振り三振に終わった。

「勿体なかったっスね」
 塁上に一人残された小宮奈美がベンチに戻ってきて、そう発言した。
「ああ、せっかく二塁まで行ったのにな」と栗田。
「そうじゃなくって、送りバントのことっスよ」と奈美。
 ノーアウト一塁から川原恵美のバントで二塁にランナーを進めた件について、奈美は
何やら物申したいようだ。
 聞けば、上田夏穂との相性(つまり対戦成績)がチームで最も良いのが恵美らしい。
 そういった情報は前もって調べておくべきだが、まあいい。二周り目以降に期待しよう
と栗田は考えた。
0693「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十一話2013/10/27(日) 15:50:25.05ID:pLLhGd2z
2/8
「それじゃ、私も今シーズン1勝目を狙おうかな」
 シャイニングヴィーナス先発投手の三上英子は、ピンク色のフレームの眼鏡を指で軽く
直しながら小さく呟いた。
 英子はあらゆる変化球を操り、強打者たちを手玉に取る。
 まずトライアンゴッデスの上位打線、福森、亀丸、バーンズを三者凡退に抑えた。

「最高の立ち上がりです! 英子さん!」
「うむ。ピンク色フレームのモモちゃんの効果は、絶大だな」
 1回裏の守備を終え、バッテリーの丸山みのりと三上英子がベンチで会話している。
「いえいえ、英子さんの実力ですよ〜」
「ふ、ふ、ふ。本当の事を言われると照れるじゃないか。謙遜というヤツだよ」
「これは失礼しましたです」
「ところで、みのりんは私とさくらのどちらのボールが受けやすいんだ?」
 英子から唐突に質問がぶつけられた。果たしてみのりはどう答えるのか。
「えーっと、誰が投げても同じボールですから。どちらとかは無いです」
 みのりは無難な答えで返した。英子はつまらなそうな顔をした。
「でも、そういう所がみのりんの良さだな」
 やれやれ。といった表情で英子はみのりの頭を撫でる。
 一体何をやっているのか。とにかく試合に戻ろう。

 両先発の好投で、序盤は両チーム共に点が入らず。
 試合は、4回の表まで進んだ。
 この回先頭の川原恵美がヒットで出塁し、続く大木姫子がツーベースヒットで繋ぐ。
 そして、四番の御堂あづさが2度目の打席に入る
 大振りはやめてくれよ。そんな栗田の心配も届かず、あづさはフルスイングを続ける。
 最後は落ちる球に空振り三振。決め球はシンカーだった。
 続くエイミー・マクスウェルには、右方向へ打たせる指示を出したものの、ファースト
へ真正面のゴロ。ランナーは動けずツーアウト。
 六番の小松田沙織を四球で歩かせ、七番の中本寛子をキッチリ打ち取りスリーアウト。
 上田はピンチを切り抜けた。
0694「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十一話2013/10/27(日) 15:59:09.30ID:pLLhGd2z
3/8
「アカンわ。何や、あのチョロチョロした球は」
 ベンチに戻ってきた御堂あづさが声を荒げる。
 打てないんなら代わるか? 栗田はそんな言葉をグッと飲み込んだ。
 しかし、監督が一選手のワガママに振り回されてどうする。栗田は自らに問う。

「どうしたんですか? 監督……」
 ふと、三島みらいと目が合ってしまった。
 同じ三塁を守るあづさとみらいを比べると……みらいの方が素直でいい子だと思う。
 いや、いかんいかん。プロ野球は実力の世界だ。もちろん女子であっても同様だ。
 みらいは自らの実力で、御堂あづさをレギュラーから引きずり降ろさねばならない。

 試合は、またもこう着状態に。技巧派の二人のピッチングに、両チームの打者のバット
が次々と凡打を生み出す。
 そして6回のウラ。先頭打者として、大阪の一番打者、福森一葉が打席に入る。
「0対0かいな……まるでスコアボードに、たこ焼きが並んでるみたいやね」
「何を言ってるですか、福森さん」
 福森一葉の独り言(?)に、キャッチャーの丸山みのりが反応した。
「ほな、たこ焼きには爪楊枝を刺しとかんと」
 福森の言う爪楊枝とは一体……? それよりも試合に集中だ。ここまで二打席とも凡退
している福森に対して、英子とみのりのバッテリーは警戒を怠らない。
 福森は初球から鋭いスイングで振り回してくる。それでもバットに当てて、ファールに
してくるのが厄介だ。
 4球目、甘くなったカーブをライト前に打ち返し、先頭打者の福森が出塁した。

 福森のヒットにゴッデスのベンチが沸く。このランナーを先制のホームへ還せるか。
 二番の亀丸たまきが打席へ。
 亀丸はセーフティバントを試みた。三塁方向に打球が転がる。サードの御堂あづさが
捕って、一塁に送球した。
 一塁は間に合った。とりあえずワンナウトで、ランナーは二塁へ。
 三番のレニー・バーンズが、大きな歓声に包まれながら左の打席に入る。
 そろそろクリーンナップらしい一打が見たい。そんな期待感が球場に広がる。
 しかし、力んでしまっては投げる三上英子の術中に嵌まる。
 バーンズはファールで追い込まれながら、しっかりとボール球を見極め、フォアボール
を選んだ。
0695「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十一話2013/10/27(日) 16:11:21.26ID:pLLhGd2z
4/8
 一死一二塁とさらにチャンスが広がり、打順は四番の真淵みゆきに回る。
 昨日は先発投手としてマウンドに上がった真淵だが、この日はバッティングに専念。
 このチャンスの場面で四番としての存在感を示したいところだ。
 真淵は初球から変化球を狙っていく。大きな打球がファールグラウンドに飛ぶ。
 その度に大きな歓声が起こるが、マウンド上の英子は表情一つ崩さない。
 2ストライクから、アウトコースへのスライダーを投げる。
 真淵はこれを打ち返す。打球はその打球は二塁手の頭上を越えて、地面に落ちた。
 二塁ランナーの福森は三塁を蹴って、一気にホームへ向かう。ライトのマクスウェルが
慌ててバックホームするが、福森の足が早かった。まずはゴッデスが1点を先制した。

「まだ1点です! 次、抑えるですよ」
 マスクを被る丸山みのりがナインを鼓舞する。大丈夫だ。みんな解っている。
 栗田はバッテリーに任せた。状況は一死一二塁、打席には五番の金山智香が立つ。
 強打者の金山をセカンドへのポップフライに打ち取るも、まだまだピンチは続く。
 六番の今西美琴が打席へ。塁上に走者がいる場面では、無類の勝負強さを発揮する。
 英子とみのりのバッテリーは無理をせずに今西を歩かせて、次の打者を打ち取った。

 7回表。追いつきたいシャイニングヴィーナスは、下位打線からの攻撃だ。
 ここで三塁側のヴィーナスベンチが動く。清美瑞希を代打として打席に送った。
 マウンドには、先発の上田がまだいる。さて、反撃の口火を切れるか。
 清美は初球から打っていった。打球はしぶとく三遊間を抜けていく。
 さあ、先頭打者が出た。続く八番の丸山みのりは送りバントの構えを見せる。

「じゃあ、私は先にシャワーでも浴びてくるかな……」
 そう言って、先発投手の三上英子はベンチの裏に引っ込んだ。
「ふふっ、覗きに来ても良いんですよ?」
 英子はベンチから消える直前に、栗田にそう耳打ちした。
 何を言ってるんだ……それはともかく、次打者の英子には代打が送られる。
 1点を追う場面だが、ヒット1本で同点になるチャンスを迎えた。
 この場面で栗田が代打に選んだのは、三島みらいだった。
 少し早いかなという展開での登場だが、栗田はここだと確信してカードを切った。
0696「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十一話2013/10/27(日) 16:22:22.01ID:pLLhGd2z
5/8
「このコが三島みらいかー。生で見ると、ちっちゃくてカワイイやん」
 マウンド上の上田夏穂は心の中で呟いた。
 そう言う上田もチームの中では小柄な方だが、ここは譲れない。
「英子さんの代打か……。まずは同点にして、負けを消さないといけないですね」
 打席に立ったみらいは、気合いが入っていた。
 上田の初球は決め球のシンカーだった。みらいは必死に食らいつき、ファールに。
「ほう。ウチのシンカーを当ててきたか……」
 上田はみらいの打撃センスにやや驚いた。
 2球目はボールになる球を見送った。選球眼もまずまずだ。
 それから2ストライクに追い込んだ後に、上田は再び決め球のシンカーを投げた。
 ふわっと浮いて、するりと落ちる。しかし打者のみらいは、それにバットを合わせた。
 打球は三遊間に飛んだ。ショートの高岡あきらが腕を伸ばすもわずかに届かない。
 お見事。ショートの後方にポトリと落ちた打球は、転々とレフトの左を抜けていく。
 二塁ランナーの清美が悠々とホームイン。打ったみらいも二塁に到達した。
 これで同点に追いついた。代打策は見事に的中した。
 この回で一気に勝ち越せるか。その期待を背負って、一番の小宮奈美が左の打席へ。
 だが、奈美はシンカーを引っ掛けてショートゴロに倒れる。
 二塁ランナーのみらいは動けない。これでツーアウト二塁に。
 続く川原恵美は四球を選ぶも、三番の大木姫子が凡退し、この回は同点止まり。

 次の回のマウンドには、2番手として川野弘子が上がった。
 さらに、代打で出た三島みらいが三塁の守備についた。
 スタメンサードの御堂あづさは、押し出されるようにファーストに回った。
 あづさは納得がいかない様子だったが、ベンチに下げられるよりはマシだろう。
 7回裏のゴッデスの攻撃は、八番の山村真実子から。
 マウンドの川野は変化球を低めに集めて、三人で切って取った。
 ちなみにファーストに回ったあづさは、二つの内野ゴロの送球を無難に処理した。
「まあウチは天才やから、三塁以外もこなせるで」
 あづさは自慢げに語った。どうやらコーチに褒められたらしい。
0697「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十一話2013/10/27(日) 16:34:19.52ID:pLLhGd2z
6/8
 そして8回表。打順は四番の御堂あづさから。
 ここまでゴッデス先発の上田夏穂に対して、三打席とも三振という散々な内容だ。
 因縁浅からぬ上田とあづさの対決は、既に決着が付いたかの様に思える。
 だが、試合は1対1の同点。ここで一発をスタンドにぶち込めば勝ち越しとなる。
 となればその一発を狙わない御堂あづさでは無い。
 相手バッテリーもそれは当然解っている。そうそう甘いコースには投げてはくれない。
 それでもあづさは強引に打ちに行くが、2球連続してファールに。
 追い込まれたバッターの御堂あづさ。対するマウンドの上田夏穂は何を決め球に選んでくるのか。
 シンカーかチェンジアップか。打席のあづさは低めの変化球に的を絞る。
 上田の3球目は空振り狙いのシンカー。これをあづさは無理に引っ張らずに右へ打つ。
 打球は一二塁間をしぶとく破るライト前ヒットになる。
 四打席目にしてようやくヒットが出たが、一塁ベース上の御堂あづさの表情は重い。

 ノーアウト一塁で五番のマクスウェル。
 走者を進めたい場面だが、さすがに送りバントというわけにはいかないか。
 結果、大きなセンターフライで1アウト。一塁走者を進められなかった。
 ここでヴィーナスのベンチは、代打に塩原由佳を送る。
 疲れの見えるゴッデス先発上田夏穂に、代打の切り札が襲い掛かる。レフトオーバーの
会心の当たりで、1アウト二塁三塁とチャンスを広げた。
 続く清美に四球を与えて満塁になったところで、一塁側のベンチが動いた。
 どいつもこいつも頼りないゴッデスのリリーフ陣だが、一体どの投手を送り込むのか。

「ピッチャー上田に代わりまして、モエミー・ノノミーヤ。ナンバー、エイティーン」
 背番号18、野々宮萌実がマウンドに上がった。大学からプロ入りしたルーキーだ。
 先発候補として入団したが、まずはリリーフとしてプロ初登板となる。
 しかも一死満塁というピンチの場面で。だが、マウンド上の野々宮は落ち着いている
ように見える。
 打席には八番の丸山みのり。ピッチャー野々宮はセットポジションから、体を大きく
捻って投げる。
 みのりは直球に詰まって内野フライ。これでは三塁ランナーもタッチアップできない。
0698「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十一話2013/10/27(日) 16:44:42.78ID:pLLhGd2z
7/8
 これで二死満塁に。そして、打席には三島みらいが向かう。
 代打で出場してそのまま守備に就いたみらいの、2打席目が回ってきた。
 先ほど同点タイムリーを放った勝負強さは、この場面でも発揮されるのか。
 年齢が違うとは言え同じルーキーとして、野々宮は負けたくないはずだ。
 だが、マウンド上の野々宮はやはり表情を変えずに真っ直ぐただキャッチャーミットを
見据えて投げ込むだけだった。
 対するみらいも必死に食らいつくが、最後は三振に倒れた。ピンチをしのいだ野々宮は
ゆっくりとマウンドを降りる。

 同点のまま試合は8回裏に。ゴッデスは二番からの好打順。ヴィーナスのマウンドには
3番手としてサウスポーの岡村智沙が上がった。
 ゴッデスの攻撃は先頭の亀丸たまきがセーフティバントを試みるも、ファーストを守る
御堂あづさが華麗に捌いてワンナウト。
「これならスタメンファーストでも充分いけるな」
 栗田はそう確信した。一塁に御堂あづさ、三塁に三島みらいという布陣もアリだな。

 打席には三番のバーンズ。ランナーはいないが、一発に警戒しなければならない。
 そんなバーンズもやや力んだのか、打球は大きな弧を描いてライトのグラブの中に。
 これで2アウトになった。続いて四番の真淵みゆきが打席へ。左が並んだ後の右打者だ
が、ヴィーナスのベンチは岡村の続投を選択した。
 これが裏目に出たのか、真淵はフェンス直撃のツーベースヒットを放った。
「っしゃあーっ!」
 打った真淵は二塁ベース上でガッツポーズを見せた。
 2アウト二塁から五番の金山智香が左の打席へ。果たして二塁ランナーを返せるか。
 左対左だが、打者不利をものともせずに金山は豪快なスイングを見せた。
 その打球は一気に右中間を破る。二塁ランナーの真淵が生還してゴッデスに勝ち越しの
1点が入った。
 完全にやられたな。なおもマウンドには岡村の姿があった。
 次打者の今西美琴には四球を与えたが、その次の高岡あきらを打ち取ってスリーアウト
となった。
0699「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十一話2013/10/27(日) 16:55:23.49ID:pLLhGd2z
8/8
 試合はいよいよ大詰めの9回表に。1点を追うヴィーナスの攻撃は一番の小宮奈美から
の上位打線。もし一人でも塁に出れば、四番打者のあづさに打席が回ってくる。
 だが、その前に立ちはだかる大きな壁。
 大阪トライアンゴッデスが誇るストッパー。その名は御子神零(みこがみ れい)。
 名前の零と、最終回を無失点で抑えるその完璧な投球から、“パーフェクト・ゼロ”と
一部で呼ばれている。ちなみに本人は恥ずかしいらしいが。
 御子神がマウンドに向かうと、ゴッデスファンのボルテージが上がる。
 さあ、あとは三人だけだ。一塁側のスタンドは既に勝利を確信している。
 一番の小宮奈美、二番の川原恵美と、何とか粘ろうとするも共に凡退。
 あと一人コールを背中で受けながら、三番打者の大木姫子が左の打席に入った。
 主砲の御堂あづさに繋ぐ。それだけを考えて打席に立つ姫子だったが、御子神の直球に
押され、あっさり追い込まれる。どうする姫子。

 球場内のあと一人コールに乗せられたのか、御子神は遊び球無しの三球勝負に出た。
 姫子のバットが空を切り、スリーアウト。そして、ゲームセット。
 東京シャイニングヴィーナスの最終回の攻撃は、三人であっけなく終了した。
「向こうの投手にやられたな……昨日連敗を止めた勢いで連勝と行きたかったんだが」
 栗田は記者にそう語って球場を後にした。
 これでヴィーナスとゴッデスの対戦成績は1勝1敗に。明日は三連戦の三戦目が今日と
同じくこの大阪ドームで行われる。果たして、このカードを勝ち越すのはどちらか。

 つづく。
0701創る名無しに見る名無し2013/10/30(水) 23:15:20.60ID:duLxbC/r
投下乙です
>カワイイやん
っていう上田さんの口ぶりこそカワイイのであります!
0705創る名無しに見る名無し2013/12/01(日) 13:55:34.95ID:eSmeWw/l
   彡川川川三三三ミ〜
   川|川/  \|〜
  ‖|‖ ◎---◎|〜        / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

  川川‖    3  ヽ〜      < イケメンオシャレメン人気高いやつ以外は売り上げの為に券は買えけど行くな

  川川    ∴)д(∴)〜       \_______________

  川川      〜 /〜 カタカタカタ

  川川‖    〜 /‖ _____

 川川川川___/‖  |  | ̄ ̄\ \

   /       \__|  |    | ̄ ̄|

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0706創る名無しに見る名無し2013/12/01(日) 13:56:44.62ID:eSmeWw/l
   彡川川川三三三ミ〜
   川|川/  \|〜 プゥ〜ン
  ‖|‖ ◎---◎|〜        / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  川川‖    3  ヽ〜      <イケメンオシャレメン人気高いやつ以外は売り上げの為に券は買えけど行くな
  川川    ∴)д(∴)〜       \_______________
  川川      〜 /〜 カタカタカタ
  川川‖    〜 /‖ _____
 川川川川___/‖  |  | ̄ ̄\ \
   /       \__|  |    | ̄ ̄|
  /  \___      |  |    |__|
  | \      |つ   |__|__/ /
  /     ̄ ̄  | ̄ ̄ ̄ ̄|  〔 ̄ ̄〕
 |       | ̄
0708創る名無しに見る名無し2013/12/04(水) 23:47:06.92ID:CGGyJ6xW
どちらかと言えば架空の競技よりも、競技はそのままで架空のリーグやチームを考えてるな
0710創る名無しに見る名無し2013/12/11(水) 21:36:53.00ID:Vpr/Gb79
地方ネタとか色々使えそうなんだけどな
でも地元以外はあんまり詳しくないという
0712創る名無しに見る名無し2013/12/20(金) 23:44:15.82ID:F76jRg48
阪神タイガース、36年ぶりチアガール復活というニュースを見て
36年前にやってた人達が復活するのかと思ったら違った

つか今現在、チアがいないのって阪神と広島だけだったのか
0713創る名無しに見る名無し2013/12/29(日) 18:27:11.17ID:yAXnHvBs
実際に試合を見る機会がないと、ルールだけ覚えるのは難しいのかな
0714創る名無しに見る名無し2014/01/05(日) 22:33:53.44ID:QnzcwAOT
おっと、今年はワールドカップの年か
0720創る名無しに見る名無し2014/02/26(水) 19:38:57.29ID:UWtjEJsX
例のオリンピックのロシア人美女選手の作品はないだろうか
0721「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十二話2014/03/30(日) 22:25:50.68ID:qWnzI58W
1/7
 試合前の打撃練習中。
 ポンポンと外野に飛んでいくボール。
 東京シャイニングヴィーナスの主砲、御堂あづさが快調に打球を飛ばしている。
 昨日は上田夏穂にシングルヒット1本に抑えられたが、調子自体は悪くないようだ。
 打撃投手を務めているのは、二年目の右腕投手である渡辺侑子だった。
 もちろんピッチャーとして選手登録されているが、今年はここまで登板は無い。
 打撃投手以外にも用具の出し入れ等を率先して行っている為、栗田もスタッフか何か
だと当初は勘違いしていた。
 よくよく見れば、相手の得意なコースにきっちりと投げる抜群のコントロールだ。
 これは一朝一夕で身に付く物では無い。
 栗田はこの投手に少し興味を持った。ア、リトルね。
 快音を連発し気を良くしたあづさが練習を切り上げたタイミングを見計らって、栗田が
マウンドに歩み寄る。
「キミ……名前は? 」
「わ、渡辺侑子ですっ」
「渡辺か……覚えておくよ」
 所属選手の顔と名前と背番号くらいは把握しておけよ……というツッコミはさておき、
侑子にとっては今のが監督の栗田から掛けられた最初の言葉だった。

 3連戦3試合目のシャイニングヴィーナスの先発は末永陽子。開幕カードと同じだ。
 前回の登板では、6回5失点で負け投手になっている。
 対するトライアンゴッデスの先発は、予想通り井波圭だった。開幕3戦目に先発して、
完封勝利を挙げている。速球とチェンジアップが武器のサウスポーだ。

 まずマウンドに立ったのは、ゴッデス先発の井波。
 ヴィーナスの上位打線は、井波の立ち上がりを打ち崩せるか。
 だが井波の速球が冴え、一番二番と連続三振。三番の大木姫子は初球を叩くもショート
へのフライに倒れた。
0722「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十二話2014/03/30(日) 22:28:32.21ID:qWnzI58W
2/7
「よしっ、行くか」
「はいです!」
 シャイニングヴィーナス先発の末永陽子と、マスクを被る丸山みのりのバッテリーが、
三塁側ベンチから登場した。リーグ屈指の破壊力を誇る打線にどう立ち向かうのか。

 初回から容赦なく攻めていくゴッデス打線。ワンナウト一塁三塁で四番の真淵みゆきを
打席に向かえる。いきなり先制点のピンチとなった。
 だが、ここは陽子が後続を力で抑え、事なきを得た。

 2回表。ヒットの御堂あづさを一塁に置いて、この日は五番に入っている三島みらいが
打席に入った。
 勝負強いバッティングを期待されてクリーンナップ、しかも指名打者としてスタメンに
名を連ねたみらい。だが、あくまでも平常心で左腕投手の井波に対峙する。
 塁上の御堂あづさは動かない。決して怠慢というわけではないが、走るのは瞬足を武器
とする小宮奈美にでも任せておけばよい。
 みらいは右方向へ流して打ってみた。打球が一二塁間をコロコロと抜けていった。
 ライト前へのヒット。一塁走者のあづさは二塁ベースを回りかけて止まった。ライトを
守っている亀丸たまきからの送球がセカンドに送られる。
 チャンスを作って打席には左打者のエイミー・マクスウェルが入る。
 直球に強いマクスウェルに対して、井波はチェンジアップで三振を奪った。
 続く六番の小松田沙織がダブルプレーに倒れ、この回は走者を得点圏まで進めたものの
先制点とはならず。

 マウンド上の井波はこれで乗ってきたのか、続く3回表には三者連続三振を奪った。
 対する陽子も走者を出しながら何とか0点に抑える。序盤は両先発投手が互いに譲らず
試合は進んでいく。

 4回表。二塁に川原恵美を置いて、ツーアウトから五番の三島みらいがライトの前に落ちるタイムリーヒットで先制点を挙げた。
 試合は中盤、5回を終わって1対0とシャイニングヴィーナスがリードしていた。
0723「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十二話2014/03/30(日) 22:31:31.73ID:qWnzI58W
3/7
 6回表のヴィーナスの攻撃は三人で終わり、その裏のマウンドに末永陽子が向かう。
 このイニングを抑えれば、いよいよ完投も見えてくる。だが、相手もクリーンナップが
牙をむいて襲いかかってくる。
 まずは先頭のバーンズがライト前に運ぶヒット。四番打者の真淵みゆきが打席へ。
 ホームランが出れば一挙に逆転となる場面、この打者が燃えないわけが無い。
 それに対抗するには、打者以上に燃えなければいけない。
 かわそうなどとは考えない。陽子はインコースへストレートを続けて投げた。
 2球ほどファールになったが、強打者の真淵はそう簡単には打ち取ることは出来ない。
 ボール球を挟んでからの4球目、またも直球がインコースに向かっていく。打席の真淵
はこれを見逃さずに渾身のフルスイング。
 真淵の打球は大きく空を飛んでいく。いや、ドームなので空は無いのだが。
 さらに投手の執念がボールに乗り移ったのか、スタンドまでは届かない。
 センター大木姫子の頭の上を越えて、そのボールが外野を転々とする。
 バーンズは三塁で停まった。打った真淵は二塁まで進んだ。
 点は入らなかった。と、安堵している場合ではない。次から次へと強打者がベンチから
出てくる。

 ブルペンでは、右の渡辺侑子と左の畑中良子が準備中だ。
 続く打者は左の金山智香。ワンポイントで左の畑中か、あるいはその後の打者も考えて
コントロールの良い渡辺を投入するか。
 栗田はマウンド上の陽子を見た。次の打者を睨みつけている。代わるつもりは毛頭無い
ようだ。
 結局、この回は末永陽子が続投した。
 金山の痛烈な当たりは、ライトのマクスウェルが飛びついて何とかキャッチ。
 マクスウェルの強肩の前に三塁走者はタッチアップできず、ランナーはそのまま。
 六番の今西には四球を与えて満塁にしてしまうが、後続を何とか抑えた。

「大丈夫です。まだいけます」
 陽子は力強く言い放った。栗田もピッチャーだったので、先発したら最後まで行きたい
気持ちは痛いほどわかる。
 7回を抑えて、大岩ゆうなと城之内真緒の二枚看板に繋げれば――。
 その前に追加点が欲しい。7回表のヴィーナスの攻撃は四番の御堂あづさから。
 序盤から飛ばしてそろそろ疲れの見えるゴッデス先発の井波から、あづさは豪快な一発
をレフトスタンドへ叩き込んだ。
0724「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十二話2014/03/30(日) 22:34:33.32ID:qWnzI58W
4/7
 イニングの先頭打者だったのでソロホームランになるのが惜しまれるが、これで2点目
がシャイニングヴィーナスに入った。

 7回のマウンドに、末永陽子が立った。
 2点のビハインドを追うトライアンゴッデスは、この回の先頭打者の九番・長村星夜に
代打として濱山広美を送る。
「ハマちゃーーーーん! いったれーーーー!」
 そんなゴッデスファンの声援に後押しされて、ベンチから濱山が出てくる。
 強打者ひしめくゴッデスナインの中ではレギュラー定着とはいかないが、一発の魅力を
秘めた将来のクリーンナップ候補である。
 流れを変えてこい。掛井監督にそう言われて打席に入った濱山は、陽子のインハイへの
直球に怯まずしっかりと振り抜く。
 センター前に抜ける綺麗なヒット。一発とはいかなかったが、逆転への口火を切る一打
になるか。打順は上位へと戻っていく。
 一番打者の福森一葉が左の打席に入る。ここから左の打者が続くが……。
 栗田は続投を選択し、その期待に応えたかのように陽子は福森を三振に切って取る。
 さらには二番の亀丸をセンターへのフライに抑えて、ツーアウト。
 次の回はセットアッパーの大岩ゆうなが控えている。あと一人を抑えれば、陽子の先発
としての仕事はおそらく終了だ。

 その残り一人が大変だ。ゴッデスファンの期待を背負って三番打者のレニー・バーンズ
が左の打席に入る。
 栗田は腕を組んでマウンドをじっと見ている。ワンポイントリリーフは無いようだ。
 一方の一塁側ベンチ、大阪トライアンゴッデスのランディ・サンダース打撃コーチは、
幼少時代からの教え子の打席に思わず前のめりになる。
 プロ野球・西宮タイタンズで三冠王に輝くなど史上最強助っ人の呼び声高いサンダース
をして、自らの後継者と呼ぶレニー・バーンズ。ついにその打棒が火を噴く。
 バックスクリーンに飛び込むツーランホームラン。陽子のインコース低めへの直球は、
いともたやすく弾き返された。
 ダイヤモンドをゆっくりと回るバーンズ。ゴッデスファンはもちろん狂喜乱舞だ。
0725「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十二話2014/03/30(日) 22:37:20.78ID:qWnzI58W
5/7
「気ぃ早いんちゃうか、お客さん。主役はこれからやで」
 長尺バットを携え、四番打者の真淵みゆきが右の打席に入る。
 まだ同点、ここで食い止めれば……、なんとか先発投手に勝ちを付けさせたい栗田は、
末永陽子の続投を選択した。
 しかし、これが裏目に出る。
 真淵の放った打球は、これまたバックスクリーンに飛び込む連続アーチ。

 重量打線が自慢のトライアンゴッデスが、三番四番のホームランで一気に逆転した。
 さらに、五番の金山智香のバットが火を噴く。
 初球を大きく打ち上げた打球は、まるで再現VTRのように、センター方向へぐんぐん
と伸びていって、そのままスタンドインした。
 怒涛のバックスクリーン三連発! これで末永陽子を完全にマウンドに沈めた……。

 シャイニングヴィーナス2番手の渡辺侑子が、マウンドに上がった。
 一応準備をしていた侑子は、ゴッデスのイケイケムードを見事に断ち切る丁寧な投球を
見せた。六番の今西美琴はセンターフライ。打球が上がった一瞬だけ、おおっという歓声
が起こったが、それはすぐにため息に変わった。

「ナイスピッチング、渡辺」
「あ、はい。でも、一人だけですし」
 栗田からの労いに、侑子はやんわりと否定した。
「それじゃあ、次のイニングも行ってくれるかな……?」
 栗田はもうちょっと侑子のピッチングが見てみたいと思った。
「い、いいとも?」
 侑子もまた、貰ったチャンスを生かしたいと意気込んだ。
 しかし、その返しで良いのだろうか。
 ちなみに既に降板した末永陽子の姿は、ベンチには無かった。
0726創る名無しに見る名無し2014/03/30(日) 22:39:23.99ID:FW4LH+ht
 
0727「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十二話2014/03/30(日) 22:40:47.33ID:qWnzI58W
6/7
 8回表。ゴッデス先発の井波が続投。このままリードを保てばおそらく9回は守護神の
御子神が登板するだろう。
 2対4。シャイニングヴィーナスが2点のビハインドで、八番からの打順だ。
 八番の中本寛子は凡退したが、九番の丸山みのりに代えて塩原由佳が代打として打席に
立った。
 本当はチャンスの場面で出したかったのだが、仕方がない。
 1アウトから塩原がツーベースヒットで出塁し、打席にはトップに戻って小宮奈美が
立つ。

「まずは1点、返すっスよー」
 奈美は気合いを入れて右打席でバットを構える。
 ゴッデスのピッチャーは井波のままだ。
 井波の初球を、奈美が思いっきり引っ張った。
 その打球はショートの頭の上を越えて、レフトの前へ。
 二塁ランナーの塩原は三塁でストップした。1アウト一塁二塁とチャンスが拡大した。

「……私か」
 二番の川原恵美が打席へ。いつもは送りバントか進塁打を求められるが、この打席では
ランナーを返すバッティングが求められた。
 井波のストレートに対してやや振り遅れていた恵美だったが、この打席ではしっかりと
打ち返した。
 ライト方向への打球。ライトの亀丸たまきが追う。なおも追う。掴んだ。
 三塁走者の塩原はタッチアップで生還し、1点を返した。これで3対4の1点差に。
 2アウトで小宮奈美を一塁に残し、打席には3番の大木姫子が立つ。
 さらにネクストバッターズサークルには、前の打席でホームランを打った御堂あづさが
待っている。
 井波にもそろそろ疲れが見えてきたか、それでもストレートで押していく。
 本来は左投手を苦にしない姫子だが、この日はここまでノーヒット。しかし四打席目に
ようやく井波の直球を打ち返した。
0728「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十二話2014/03/30(日) 22:43:47.20ID:qWnzI58W
7/7
 ランナーを二人貯めて、四番の御堂あづさに打順が回った。
 二塁走者は俊足の小宮奈美。シングルヒットで同点に追いつく場面だ。
 御堂あづさにもスラッガーとしてのプライドがある。だが、ここはそれをぐっと堪えて
単打狙いに切り替えた。
 井波のウィニングショットであるチェンジアップを、狙い澄まして右方向へ打った。
 だが、その打球はライトの亀丸が身体を精一杯伸ばしてキャッチ。
 追加点とはならなかった。

 8回裏は、渡辺侑子が相手の下位打線を三人で抑えた。
 そして9回の表、トライアンゴッデスの守護神が登板する。
 2番手として御子神零がマウンドへ。
 一塁側のスタンドは、この試合の勝利を確信した。
 まだだ、まだ終わらない。ヴィーナスファンのかすかな願いを背中に受けて、9回表の
先頭打者として三島みらいが打席に立った。

 御子神の直球に必死に食らいつくみらい。打球はファールゾーンに転がる。
 たが、健闘も空しく三島みらいは三振に倒れる。
 続くエイミー・マクスウェル、小松田沙織も共に三振に切って取られ、試合終了。
 結論としては、やはり守護神・御子神が登板する前に何とかしないといけない。
 シャイニングヴィーナスの大阪遠征は、1勝2敗の負け越しに終わった。

 次のカードは、ホームに帰って札幌ホワイトブリザーズを迎え撃つ。
 昨年は東地区3位になったブリザーズたが、今年は好調なスタートを切った模様。
 2カード連続で勝ち越して、いざ東京に乗り込む。
 それに対して、昨年の女王として恥ずかしくない野球をしよう。大阪市内某所の焼肉店
でそう誓い合うヴィーナスのナイン達。
 まだまだシーズンは長い。一つや二つ負け越した位で立ち止まってはいられない。

 つづく。
0734創る名無しに見る名無し2014/04/16(水) 22:47:38.66ID:VIm2aXzF
女子プロ野球がそれなりに知名度と人気があるという設定のほうが
色々とやりやすいかな
0735創る名無しに見る名無し2014/04/18(金) 22:33:05.08ID:b8DrFfXS
プロ野球(男)とシーズンが被ってるからなあ
時間をずらすとかしてくれたら両方見れるんだが
0739わんこ ◆TC02kfS2Q2 2014/04/30(水) 18:14:27.54ID:UbGoQIXB
はじめまして。野球物書いてみたんです。
前後篇の前篇です。


        『ほむらーん』


 「なぜ、だめなんだ。お……おれが行かなければチームを救うことができない」
 「今は自分の心配をした方がいいよ。その体では救うどころか、拓也まで再起不能になってしまうわ」
 「止めるな、ミカ。ベッドの上で……死ぬぐらいなら、マ、マ、マウンドの上で死んだ方がましさぁ!!」
 「……」
 「先生、拓也に現実を見せてあげて下さい!蝕まれた身体に何ができるのだと」
 「あの……あの」
 「先生!おれから野球を……うううう、うぐっ……奪うつもりですか!」
 「あの……えっと」

 ピーっ!ピッピッ!

 ホイッスルの音が教室を切り裂いた。
 何もかも終わった。
 流れた汗が涙に変わる。

 「やめやめ!熊ヶ根!もっと、空想しろ!舞台の上だと思え!話を途切れさせたらおしまいだぞ!」

 これで三度目。わたしを囲む視線さえも痛々しい。それでも部長はわたしにうざったいエールを送った。
 教室中央で三者足を止め、手を止め、額の汗をハンカチで拭う快感に酔いしれる中、わたし、熊ヶ根莉子たった一人だけは俯いたまま
非力な自分に打ちひしがれていた。きらきら輝く光が眩しくて、同じ演劇部の仲間たちとの距離感を覚えてしまう事にもう慣れた。

 「エチュードになると熊ヶ根は全然だな。なんでもいいから言葉をつなげ」
 「あの……部長」
 「熊ヶ根っ。お前は医者という役を振り当てられたんだ。医者が言いそうなこと、医者が考えそうなことを考えなければならない」

 部長はわたしの性格を知って厳しい言葉を投げたんだろう。
 つなげつなげ言われても、喉元で止まってしまか、頭に浮かばないんだから、仕方ないっちゃ仕方ない。
 わたしたち演劇部はこうして筋書きのない即興劇を通して、アドリブ力を鍛えるのだが、わたしはどう足掻いても
無理ゲーにしか思えない。相手が思わぬ方向へと話の変化球を投げると、わたしは立ち尽くして頭の中が完全にホワイトアウトだ。

 「よーし、少し休憩だ。15分後この教室に戻って来い!解散!」

 わたしに気を使ったのか、部長の差し出した助け舟。それによりそって、わたしはこっそりと教室を後にした。
 背中に感じるのは部員たちからわたしへの呟きだけだった。

 「本番のくまちゃんはすごいのになっ」
 「一字一句間違うことなく台詞を頭に入れるなんて、羨ましい才能ですっ」

 悪いけど、それ……わたしの欠点です。
 台本がないと、ダメなんです。
 演劇するのは好きだけど……、自分自身がわからないんです。
 筋書きの無いドラマなど、怖くてしょうがないから。

   #
0740わんこ ◆TC02kfS2Q2 2014/04/30(水) 18:14:58.97ID:UbGoQIXB
 人気の無い階段の踊り場で、分厚く膨れ上がった台本をむさぼり読む。
 わたしがこの高校へと入学する前に公演された、ほこり被ったような台本だ。大学ノートの色褪せた昭和の年号が入った代物。
質の悪い紙に手書きの文字が並ぶも、しっかりとした内容でわたしの魂を鷲掴み。自分も役を頂いたつもりで一節を口にする。

 「『空腹は最高のスパイスっていうじゃない?ホント、食いしん坊なんだから!』」

 突き抜ける快感を誘うセリフだ。

 先輩たちが積み上げた歴史と力と誇りをちょっとづつつまみ食いする。見たことも無いし、全く知らないオリジナルな演目だった。
 だからこそ、夢広がるし、自分のものになる気がする。でも、台本という基盤とともに、キャラクターが存在するからこそ
安心しきっている自分が居るのかもしれないという、耳の痛い分析もありうるのだ。
 しかし、お腹がすく。
 こんなときには魔法の言葉。

 「『空腹は最高のスパイスっていうじゃない?』」
 「『ホント、食いしん坊だなっ』」
 「え?」
 「くまちゃん、見つけたぞっ」

 わたしが口にしたセリフと微妙に違っている?それは、わたしが口にしているからじゃないからだ?

 「おにぎり、食べようっ」

 形の悪い小さなおにぎりが、ずんとわたしの鼻先に現れる。
 同じ演劇部員の久遠だった。
 おにぎりを片手ににこにこと、茶色のショートの髪が窓からの日光に映え、アホ毛がゆらゆらと落ち着きが無い。

 久遠はまるで子犬のような少女だ。くるくるとわたしの周りをまとわり付いて、異様におにぎりを勧めてくる。
 真っ白なひたむきさ、艶やかな三角形。どれをとっても食欲をそそる魅惑のトライアングル。それはある種のバミューダだ。
 でも、わたしは……おにぎり……おにぎりなど。見たくも無い。
 どうしてって……幼なじみを思い出すからだ。

 (うーん。逆転勝利のあとのおにぎりは格別だな)

 そんなすっとんきょうな声が鼓膜に未だこびりつく。
 昔にしがみついていたわたしの裾を引っ張る久遠がおにぎり片手に目を輝かせていた。
 
 「台本って面白いよねっ。言葉遣いを微妙に変えるだけで、キャラが変わるんだっ」
 「そうね……」
 「『じゃない?』だと、お上品さ麗しいけど、『だなっ』だと……わお!!尻尾!尻尾!」
0741わんこ ◆TC02kfS2Q2 2014/04/30(水) 18:15:30.49ID:UbGoQIXB
 感性で動く久遠の言いたいことは分かる。
 だが、それは台本に背いているのじゃないのか。

 「おにぎり食べないなら、わたしが食べるっ」
 「……あ」

 むしゃむしゃとわたしの目の前で貪る久遠を眺めてるうちに、休憩時間が過ぎてゆくのだった。
 しかし、お腹がすく。


   #


 うまくいかなかった日にうまくいっている物を見るとやさぐれてしまう。

 「話を回すことを熊ヶ根は常に考えることだな」

 部長の言葉がちくちく刺さり、部員たちの快感なる汗が目にしみる。
 そりゃ、気持ちいいよね。あふれ出す乳酸を分解するときの快楽は他に例えようがないし。

 いいよね。

 なるべく誰かに会わず帰り道を模索したいが、やはりうまくいかないものはうまくいかない。
 わたしの後をちょこちょことついて来る、子犬みたいな子が一人。振り向けばすぐさま隠れ、尻尾がちらほらと見え隠れしている。
もちろん比喩だが、尻尾があっても不思議ではない小動物的なみどりの芝生のにおいがする。

 「久遠ちゃん……」
 「まてーっ、くまちゃんっ」
 「待たない!」
 「おーにーぎーりー!焼きおにぎりが追いかけてくるぞっ」
 
 だから、即興劇は苦手です。
 言い返すのならば、言い返せるのならば。

 (おーこーとーわーり!)

 わたしには余裕など一ミリもない。

 「くまちゃんっ、おにぎり残っちゃったから焼きおにぎりにしたよっ」
0742わんこ ◆TC02kfS2Q2 2014/04/30(水) 18:16:01.40ID:UbGoQIXB
 ぷわんと醤油の香り漂う包みを携えて、久遠がぱたぱたと絡み付く。
 わざわざわたしを追ってきたのか、はたまた偶然居合わせたのかは定かではないが、久遠の焼きおにぎりは適度に焦げ目がついて、
すっぽろ飯のおにぎりとは違った風味が味わえそうだった。
 だが、頂くことを丁重にお断りさせて頂く。
 幼なじみのことを思い出すから。
 幼なじみの声がおにぎりの中からこだましてくる予感がするからだ。

 「りーこ、またおれがグラウンドに帰ってきたならば、おにぎりを頼むぞ」

 久遠と幼なじみとは性別も体格も合致するところなどないのに、おにぎりがあるだけで幼なじみの言葉が浮かぶ。

 「やはり五万の観衆からの声援の味を占めてしまったおれは」
 「うそばっかり。五万もいないし」
 「早く聞きたいぜ……」

 包帯を頭に巻いた幼なじみが素振りをする姿が忘れられないのに。

 「くまちゃんっ」

 はっ。

 我に帰る。

 もう、ここには幼なじみなどいないのだ。
 目の前で尻尾を振るのは久遠だ。

 「くまちゃんさっ。わたし、くまちゃんの演技好きだなっ。この間の『ロミジュリ』なんて、計算され尽くした
  本のうま味をあますとこなく引き出して……なんか、台本書きの意図をすんごく読み取って丁寧に演じてる感がしてっ」
 「ありがとう。でも、わたし苦手だなあ、エチュードは……台本がないとだめで」
 「エチュードも千本ノックだよっ。今度はお医者じゃなくって、高校球児の役とかで……」

 久遠っ。

 「野球の話は止めて!」

 ごめん。

 「……ごめん。でもさぁ、そんなこと言って、やっぱり舞台に立つのが好きなんだよねっ。五万の観衆からの声援の味をしめて……」
 「やめて。幼なじみ、思い出すから」
 「……わお。妬いてるっ」

 こんがりと焼けたおにぎりは物言わず、久遠の小さな胸の中で冷めかかっていた。

 幼なじみが打席に立つのを見なくなってから、おにぎりを避けていたのに。
 たった半年でなにもかも変わる。変わらないのは幼なじみだけ。

 「ごめん、お先!」
 「わおっ。待ていっ。おにぎりが泣くぞっ」
0743わんこ ◆TC02kfS2Q2 2014/04/30(水) 18:16:32.50ID:UbGoQIXB
 そんな彼女を巻いて静かなる家路を目指すわたしは、ウサギを追うアリスだ。違う。アリスはウサギを追うんだ。
アリスを追うのはトトじゃないの。なんだか違う。トトはドロシーを追うだっけ、はたまたドロシーはウサギを巻くんだっけ。
 考え事をしながら歩くと予期せぬ事態に遭遇する。筋書きのない帰り道ほど剣呑なものはない。

 「あ……しまった」

 ざわざわと。

 「ライト、もっと下がっとけ!!」
 「うぃーっす!」

 広がるグラウンド。
 ナスカの地上絵にもまけない四角四面の線画。
 そこに兵隊のように守りを固めるプレイヤーたち。
 秦の始皇帝でさえも築くことが出来なかった王宮か。
 そこを若い歴史が塗りたくる。
 青臭い汗は勲章だ。
 一対九の四面楚歌に勇猛果敢に鉄槌を振る。
 茜雲に白球が舞い上がり、オリーブの葉をくわえたハトが希望の光をぽつんと照らす。
 眼下に広がる黄土色の海。そして、うねりにもまれる一艘の箱舟、乗組員はたったの九人。
 箱舟の行き先なんか、誰も知らない。
 海の底へ沈むかもしれない。
 光か輝く大地にたどり着くかもしれない。
 筋書きなんかみんな知らないのに、誰もが心を一つにする。
 筋書きの無い不安、わからないの?

 ハトよ。

 どこへ。

 野球場なんか……二度と来ないって、あの時誓ったのに。
 野球部なんか……二度と目に触れるもんかって、あの時心に決めたのに。
 金属音響き、若者たちの声がざわついた。もう、二度と聞くことなんかないと思ったバットの音がわたしの鼓膜を突付く。

 「バークッ!バック!」

 白球を追う若者たちは天に祈る気持ちで行方を案じていた。
 放物線を描いて、ボールはゆっくりとてっぺんに上り詰める。

 「あーっ。ファール!」
 「君!逃げて!」

 わたし?
0744わんこ ◆TC02kfS2Q2 2014/04/30(水) 18:17:10.74ID:UbGoQIXB
 あれはハトなんかじゃない。
 飢えに駆られたタカだ。
 地を這う動物の血を嗅ぎ分けて、矢のように迫ってくる。
 牙がきらりと白く光る。
 一直線に軌道を描き、わたしの眉間狙って飛んで来る白球。
 ふと、脳裏に浮かぶのは……。

 幼なじみ。

 「わおっ」

 ずばん?

 不思議だ。
 わたしを目掛けて飛来してきた白球が見えない。
 それどころか、グラウンドに散らばる若者たちはわたしを凝視する。
 血の気が引いたわたしの足元に野球のグローブが転がって、そこからボールがころりと転がって出てきたことに気付いたのは
わたしの名前を呼ぶものの存在を確かめたときだった。
 飛来する白球をグローブを投げつけて叩き落す……常人を超えたばかげた行動をとるのはアイツしかいない。

 「りーこ!やっぱ、おれのプレイを見たくてここに舞い戻ってきたのか?」

 軽はずみのお調子者。
 すっとんきょうを極めた男。
 彼を形容する言葉など、検索するだけで無駄なことだ。
 無駄に大きな体から、軽い言葉が機関銃の乱射の如く。

 「樫木!いい加減にしろ!」
 「ちーっす!おれの幼なじみちゃんが奇跡を起こしてくれたことに、おれは今、猛烈に感動している!」
 「次、打順だぞ。準備しろ」
 「おいっす!りーこ、見てろよ。りーこは日本一の幼なじみですっ」

 わたしの幼なじみは幼かった頃のイメージを存分に残してくれていた。
 どこかにちゃぶ台ありませんか。ひっくり返したいんですけど。
 どこかに重いコンダラありませんか。轢き潰してあげたいんですけど。

 樫木柾緒。
 かしきまさお。
 わたしより一つ上の野球バカなる男子だ。


 つづく。

前篇・おしまいです。
0746わんこ ◆TC02kfS2Q2 2014/05/01(木) 20:20:12.18ID:sTIf036P
後篇参ります。


        『ほむらーん』


 ユニフォーム姿の柾緒はぺこりと帽子を脱いで同じユニフォーム姿の若者たちに頭を下げる。それでも柾緒は笑顔を絶やすことなどない。
柾緒曰く「真面目にふざけている」らしい。そのセリフも飽きるぐらい聞いたから、脳にこびりついている。

 ファールボールからわたしを救った張本人は、すずしろ的舞台役者のように頭を抱えていた。

 「うーん。我がチームがファールの連続に苦しむなんて、なんてテンポの悪い試合運びだ!」
 「ただの紅白戦だけどな」
 「よし。この流れ、絶ってやる!筋書きの無いドラマは最高だぜ!ひゃはぁー!!」

 筋書きの無い……。

 意気揚々とペンの代わりにバットを持つ柾緒が見えた。

 なんか、足が震える。
 嬉しいとじゃなくって、ここから早く立ち去りたいような。
 きゃーっと叫びたいぐらい。

 でも、そんな媚びるような声なんか出ないし、出す気もないし。
 出るとするなら、見たくも無い現実をかき消す声だ……。

 「わたし、帰る」
 
 このシチュエーションを振り切るようにわたしが脚を一歩出すと、制服の裾を引っ張る感覚が引きとめていた。

 久遠だ。
 彼女は尻尾で動く。
 理屈などは無用。
 感性で動く久遠の伝えたいことは分かる。
 だが、それは台本に背いているのじゃないのか。

 台本では『ここでわたしは舞台から降りる』はずなのに。

 「あの人だーれっ。なんかすごいから、見ていこっ」
 「知らない」
 「わお」

 柾緒が打席に立つのを見るのは何年ぶりだろう。
 最後に見た姿と全く変わっていないこと、それは柾緒が全く成長していないことを意味しているのだろうか。
 ぶんぶんとバットを素振りする格好だけはいっちょ前、天高く、弁慶の薙刀のように突き上げる様だけは一人前。

 「バッタービビッてる!へいへいへい!」

 調子の外れた声援を柾緒が自作自演している。その割には落ち着いた構えだった。
 グラウンドは差し詰め舞台のよう。
 演者はプレイヤー。
0747わんこ ◆TC02kfS2Q2 2014/05/01(木) 20:20:48.43ID:sTIf036P
 (もっと、空想しろ!舞台の上だと思え!話を途切れさせたらおしまいだぞ!)

 ふと、部長の声が海馬から蘇った。いやな気分だ。
 グラウンド間近で空想などは……もういやだ。

 投手、渾身の一球を腕(かいな)から放つ。
 ずばんと捕手のミットに吸い込まれる。
 バットが宙を切る匂いが鼻腔をつんざく。短銃の硝煙にも似た焦げ臭さ。

 「すーとらいく!」

 柾緒、自己申告の判定だ。
 バカ正直ならぬ、正直バカだ。

「はっはっは!グランドには銭が落ちてるぞー!がっはと掴み取れー!出来るんだったらな!」

 投手、打者。共に間合いを計りながら、二投目の時を待つ。
 水を張ったような静まり返ったグラウンドだった。

 二投目。
 力みすぎた球は打者の足元かすむ。

 「ぼるー!」

 余裕の自己申告。

 「いいねぇ!じらすテクは誉めてつかわすぞ!えっちいDVDでも、いきなりクライマックスはないからな!」
 「樫木ー!黙って打席に立てねーの?」

 チームメイトからのナイスツッコミ。

 「バットがダメなら、言葉で打ち返すのがおれの流儀だぜ」

 だ、そうで。

 そして、三投目。

 「すーとらいく!」

 柾緒は必死だ。話を途切れさせることは好まないはずだ。何故なら、打席に立っている間、ずっと投手……いや、白球と真正面から
ぶつかり合っているからだ。だから、全力で。エチュードで立ち回るように、即興の節をつけるように。

 「なんか、すごいねっ。ホームラン、でるかなっ」
 「打つわけ無いよ」
 「わお……」
 「ってか、打たないし、打たるわけない」
0748わんこ ◆TC02kfS2Q2 2014/05/01(木) 20:21:19.93ID:sTIf036P
 ラップに包まれた焼きおにぎりを持った久遠の声で、わたしは部長の言葉を思い出した。
 久遠の存在はイヤでも演劇を思い起こさせるからだ。

 (もっと、空想しろ!舞台の上だと思え!話を途切れさせたらおしまいだぞ!)

 打者も、投手も、一塁手も二塁手も三塁手も……誰もが魅せる為に、即興劇を繰り広げている。
 きらりと汗が滲む投手がおもむろに足を上げ、大きく振りかぶって四投目。
 ロケットの勢いで柾緒を目掛けて弾道を描く。
 今後のストーリーなど、誰も保障はしない。
 だから、空想しろ。

 空想……、このシチュエーションでわたしに空想を求めるなんて。
 わたしに最悪な思い出をリフレインさせるだけの労徒を求めるのは、いかにも……トラウマなんです。

 たった一年前のことなのに。
 忘れ去ることが出来ない罰を与えてくれたメフィスト様。

 わたしの目の前で起きた、打者への仕打ち。

 あのときわたしは叫んでいた。
 息を切らして叫んでいた。

 「柾緒ーーーっ」

 苦痛に顔を歪め、地面に横たわる打者。
 転がる白球。
 なすすべないバット。
 そして、悲鳴。

 阿鼻叫喚のグラウンドでは、わたしは非力な存在だった。

 デッドボール。
 死の球。

 純粋な、純情な白球が真っ黒なローブを纏い、鎌をもって襲い掛かった。

 凶弾に斃れた名士にも劣らぬ悲劇のヒーローが幼なじみだった。

 そのとき、わたしはおにぎりを持って駆けつけていた。
 柾緒の桧舞台を楽しみに、息を切らせてグラウンドにやって来た。
 間に合ったかと胸を撫で下ろしたとき、目に入ったのは鉛の球と化したボールに倒れた幼なじみの姿だった。
 さっきまで「すーとらいく」と叫んでいた幼なじみが言葉をうめき声に変えていた。
 とある戦場写真家が撮った奇跡的な一枚『崩れゆく兵士』。その写真が柾緒とダブって見えてきた。
0749わんこ ◆TC02kfS2Q2 2014/05/01(木) 20:21:50.78ID:sTIf036P
 それ以来、わたしは野球のやの字さえも受け付けないし、ボールのボの字も見たくもない。
 柾緒が拳を振ってダイアモンドを一周する姿など想像したくもなくなった。
 筋書きの無いドラマなど、怖くてしょうがないから。

 「はっ」
 「わおっ」

 戻った。
 闇夜に塗られたわたしの記憶から、会心の一撃が腕を引っ張った。

 ぽかちーん。

 バットが球を打つ。
 茜色の空を一粒の球が舞う。
 籠から飛び立つ自由を掴み取った小鳥のように。

 ぐんぐん伸びる。
 ぎゃんぎゃん飛ぶ。
 ざくざく走る。
 あれはなんだ、ロケットか。
 いや違う、ただのボールですよ。
 なんだ、ボールか。
 でも、そんじょそこらの球と違う。

 だって、あれは『ホームラン』。

 単純なことなのに、若者たちはいっせいに視線を集めた。

 「うおおおおおお!!!!」

 目が覚めた。
 目が覚めた。
 眼が醒めた。
 芽が冷めた。
 女鹿鮫太。

 どんなに漢字を変換しても冷静になれない現実。
 足が震える。
 呼吸が荒くなる。
 そして、尻尾!尻尾!尻尾!

 真っ暗闇の空想を打ち破った、真っ赤な現実の世界。
 幼なじみは拳を振りながら、四角四面の地上を駆け抜けていた。そして、一周を果たしバック転。

 「どう?ほむらーん!」

 柾緒は会心の『ほむらーん』で観客の喝采を一気に浴びていた。


    #
0750わんこ ◆TC02kfS2Q2 2014/05/01(木) 20:22:35.23ID:sTIf036P
 「うーん。逆転勝利のあとのおにぎりは格別だな」
 「だから、くまちゃんも食べろいっ」
 「……」

 わたしは久遠のエチュードに騙された。
 アドリブを否定し続けてきたわたしがアドリブで全てを変えた。
 だというのに、小さい頃から全く変わることの無い柾緒と言ったら。
 久遠がわざわざ追いかけてまで届けてくれた焼きおにぎりを「美味美味」と、柾緒は心底美味しそうに食べていたのだから
微妙に腹が立つ。これ以上の高級食材を否定するほどの味わいが憎たらしい。

 そんな一言が聞きたくて、わたしはあの日おにぎりを持って走っていた。
 そして、間の前で起きた惨劇。

 「打っちゃったね。ホームラン」
 「ああ。ヤツは全力でおれに飛び掛ってきたんだ。だからおれも全力で受け止めなきゃ失礼だろ?」
 「そうね」

 わたしは柾緒の死球でボールの存在がダメになった。
 だが、柾緒は彼が遭遇した事件でさらにボールとの友情に目覚めたのだ。
 全身全霊でボールは飛んできたんだから、おれも野球を続けなければヤツの本気が無駄になる……と。

 しかし、微妙にお腹がすく。
 柾緒の空腹を満たす顔が余計にわたしを苦しめるからか。
 そして、微妙に腹が立つ。

 筋書きの無いドラマに心打たれてしまったことが悔しいからだと、今は思っておくことにしよう。



    おしまい。
 




これにて完結です。
ではでは……。
0758創る名無しに見る名無し2014/06/12(木) 01:43:44.64ID:fOL4J7Ug
前にブラジルでやったワールドカップで、ブラジル代表は決勝で負けたんだっけ
だからこそ、今回は優勝するしか無いだろうね
0766創る名無しに見る名無し2014/06/28(土) 21:21:43.55ID:KycKmhnB
ワールドカップはまだ終わってないから
むしろここからが本番だから
0767創る名無しに見る名無し2014/06/30(月) 01:39:23.46ID:tRGtcWiN
ブラジルvsチリはPK戦までもつれ込む熱戦でしたねー
優勝候補ブラジルが負けちゃうんじゃないかとヒヤヒヤしました
0768創る名無しに見る名無し2014/07/05(土) 18:54:57.53ID:HlNHyr3R
ブラジルがコロンビアに勝って準決勝進出を決めたけど、10番ネイマールの負傷はかなり痛いな‥
0769創る名無しに見る名無し2014/07/06(日) 21:12:44.10ID:nT46+k5J
ベスト4が出揃いました!

ブラジル
ドイツ
オランダ
アルゼンチン

いずれも強豪国ばかりですね
0770創る名無しに見る名無し2014/07/09(水) 07:53:16.38ID:ImH4VAcX
ドイツが開催国ブラジルを下して決勝へ!

・・・にしてもこんな一方的な展開になるとは誰が予想しただろうか
ブラジルはネイマールとシウバの欠場が大きかったな…
0771創る名無しに見る名無し2014/07/10(木) 21:55:54.45ID:i4vg2hKJ
ワールドカップ決勝の組み合わせはドイツVSアルゼンチンになりました!
さあ、どちらが優勝するでしょうか?
0773「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十三話2014/07/24(木) 00:27:27.72ID:Rb7zuBhu
1/8
 東京都港区某所。カップルで賑わうカフェにて、一人待っているのは大咲さくら。
 言わずと知れた女子プロ野球、東京シャイニングヴィーナスのエースである。
 そこへ現れたのは、綺麗な長髪の女性だった。ワイシャツにジーンズというラフな格好
をしており、さくらよりやや背が高いようだ。

「お久しぶりです。稲穂先輩」
 さくらに先輩と呼ばれた女性は、なにやら笑いを堪えているようだ。
 そしてそのまま、さくらの座るテーブルの向かい側の椅子に腰を下ろした。
 さくらの前にはアイスコーヒーが置かれている。待っている間に少し飲んだようだ。
 稲穂は近くのウェイトレスを探し、アイスカフェラテを頼んだ。
「おー、さくら。調子はどうなんだい?」
「なんだか、強者の余裕が垣間見えますね……」

「あはは。そんなつもりじゃ無かったんだけどねー。ま、お手柔らかに頼むわ」
「去年はブリザーズに相性良かったですし、叩いておきたいのが本音ですが」

「おっ、言うねえ」
「でも今年のブリザーズはひと味違うみたいですね」

「ふっふっふ。まあ、大した事は無いけどな!」
 出た。稲穂のどや顔。
「言葉と態度が合ってないじゃないですかっ」
 これにはさくらもツッコまずにはいられなかった。

「でも三番を打つ滝川って打者には注意しろよ。ここまで打率が脅威の6割超え!」
「はいはい。すごいですねー」
 さくらは冷めた顔で稲穂を見つめる。

「いや本当、振ればバットに当たるって感じだから」
「だったら当てさせませんよ」
「相変わらずの負けず嫌いだねえ」
「そりゃまあ、エースですから」
 さくらは力強く言い放った。これは頼もしい。

「うちのエースにも煎じて飲ませたいよ。あんたの爪の垢」
 稲穂が言うには、実力的には申し分無いものの、今一つ闘志に欠けるらしい。
「残念ですけど、それは無理な相談ですね。爪は綺麗に手入れしてますから」
「いやいや、そういう意味じゃねえから」
0774「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十三話2014/07/24(木) 00:31:00.12ID:Rb7zuBhu
2/8
 滝川稲穂は札幌ホワイトブリザーズに所属する外野手。だが、3年前までは大咲さくら
と同じ東京シャイニングヴィーナスにいた。それで今でもこうしてお互いに時間を作って
は会うようにしている。
 一応今では敵同士なので、お互いのチームの内情についてはシークレットにしているの
だが、割と脱線しがちである。

 さて。話題は今シーズンの札幌ホワイトブリザーズの好調ぶりに対してだ。
「そりゃあ、やっぱりうちゅ――」
 稲穂は何かを言いかけて、その言葉を飲み込んだ。
「ん? 今何か……宇宙って言おうとしませんでした?」
 さくらはすかさず問い返す。でも、宇宙って何だ。野球と関係が有るのか?
「いや、えと、その、うちゅ……右中間! 今年のウチは右中間が良いんだよ!」
 今これ明らかに何かを誤魔化しただろ。
「それは……どういう意味なんですか?」
 さくらはさらに聞き返してみた。
「つまり、右中間というのはセンターとライトの間の事だ」
 そんな事は流石に相手も知っていると思うのだが。
「ブリザーズのライトは稲穂先輩で、センターは赤嶺さんでしたっけ?」
「そうそう。二人の守備が安定してるからな」

 稲穂は移籍してからずっとレギュラーとして安定した成績を残しているが、センターを
守っている赤嶺史香は今年からスタメンに定着した若手の外野手だ。
 赤嶺の俊足と広い守備範囲はアマチュア時代から定評があったが、課題だった打撃面の
安定により1番打者として様になってきた。
 また、ベンチでも積極的に声を出すなど、ムードメーカーとしてもチームの勝利に貢献
している。
 今年になって人格が変わったみたいだ、などと口にするチームメイトもいるが、まさか
そんな事は無いだろう。

「そういや史香の奴、東京に来るの楽しみにしてたなー。今頃あちこち見てんのかもな」
「でも、新人じゃないんだから去年も来てる筈ですよね」
 さくらは疑問を口にした。

「あー……、ほら、今年は絶好調だからさ。気分も違うんじゃねーのかなー。あははっ」
 何かを誤魔化すように、稲穂が説明を重ねた。
「なるほどー。そういうのって、ありますよね」
 ニッコリと笑顔で返したさくらの真意はわからない。
0775「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十三話2014/07/24(木) 00:33:21.39ID:Rb7zuBhu
3/8
「こうやって休日に一緒になるのは珍しいっスね!」
「……そうね」
 東京シャイニングヴィーナスの小宮奈美と川原恵美は、都内千代田区某所にいた。
 休日ということで、それぞれ出掛けた先でたまたま出会ったのだった。
 プライベートでは別々になることが多いという彼女たちが向かったのは、とある有名な
メイド喫茶だった。

 どうして2人がそんな場所にいるのか。
 次の3連戦の初戦、金曜日の試合は御堂あづさのプロデュースデーとなっていた。
 プロデュースデーというのは、選手自身が趣向を凝らしたイベントや当日限定グッズの
配布、特製フードメニューの販売等を行う日なのだが、その日の担当だった御堂あづさが
提案したのがファンをメイド姿で出迎えるというアイデアだった。
 だが、流石に全員分の衣装は用意出来ないようなので、じゃあ誰を“選抜”するのかと
いう話になったわけだ。
 ちなみにネット上で行ったアンケートの結果は、1位から順に大木姫子・三島みらい・
大咲さくら・小宮奈美・川原恵美・・・と並んだ。
 この上位5人と提案者のあづさを加えた6人が、メイドに変身する事になった。

「姫ちゃん先輩やみーりゃんはわかるっスけど、なんで私がこんな順位なんスかね?」
「……これは陰謀かも」
「ええっ。どういう事っスか!?」
 大げさなリアクションを見せる奈美に対して、恵美は淡々と話す。
「……我々は踊らされている。……まさに陰謀ダンス」
「えええっ。どういう意味っスか!?」

「……ナンデモナイデス」
 恵美は俯いて黙ってしまった。
 まあ、とりあえずお店の中に入ろう。と、その時だった。
0776「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十三話2014/07/24(木) 00:36:37.69ID:Rb7zuBhu
4/8
「あれー? どこかで見たような顔だと思ったら」
「ヴィーナスの小宮さんと、川原さんではございませんか」

 奈美と恵美の後ろから唐突に現れたのは、水田松子と雪本星乃の2人だった。
 共に明日から対戦する札幌ホワイトブリザーズの選手だ。
 グラウンドの外では会う機会があまり無いので、お互いに普段着姿が新鮮に映る。

「どうしたんスか? その荷物……」
 奈美がふと尋ねた。水田と雪本の両手には紙袋が下げられていた。
「東京に来たついでに、ね」
 水田は紙袋の中から一冊の本を取り出して、奈美らに見せた。

「漫画……っスね。これは、私達のユニフォーム?」

 シャイニングヴィーナスのユニフォームを着た女の子のキャラクターが描かれた表紙。
 ユニフォーム姿の女の子が二人、あたかも恋人同士のように見つめ合っている。
 これは俗に言う野球漫画……なのか?

 ぺらり。
 ぱたん。

 奈美は見てはいけない物を見たような気分だ。すぐに本を閉じて、顔を赤くする。
 一瞬の記憶を辿ると、表紙ではユニフォームを着ていたはずの二人が、裸で愛し合って
いた。しかめお互いに恵美とか、奈美とか呼び合っていた。
 という事は、あのキャラクター達は……。

「あちゃー。流石にご本人に見せるのは刺激が強すぎたかー」
 水田はいたずらっぽく笑いながら言った。
「ナミメグは鉄板だからさ。あ、体型の話じゃなくてね」
 奈美が手渡された本は、その界隈ではナマモノと呼ばれる、女子プロ野球選手を題材と
したいわゆる同人誌である。
 水田は同人誌集めが趣味である。が、当の選手が自分から集めていくのか……。
 ちなみに紙袋の中には、他にも様々な漫画やアニメ等の同人誌も入っている。
 実は自らも同人活動をしているのだが、それについては追々明らかにしていこう。
0777「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十三話2014/07/24(木) 00:41:02.83ID:Rb7zuBhu
5/8
「あんた達も入るんでしょ? 行きましょ」
 水田に促され、奈美と恵美は店内に足を進める。

「そうっスね。それじゃあ今日は松子さんのおごりで〜」
「松子って言うなっ! つか何で私が奢らなきゃいけないのよ」
 奈美の提案は即座に却下された。あと、水田は下の名前で呼ばれるのは嫌らしい。

「でも本名っスよね……」
「チーム内では“まつさん”って呼んでおります」
 雪本が補足した。どうやらそういう事らしい。

 カランコロンカラン。すったもんだの末、4人は入店した。
「お帰りなさいませ、お嬢様。こちらのテーブルへどうぞ」
 店内に入ると、早速メイド姿のウェイトレス出迎えてくれる。
「おおっ。本物のメイドさんっス……。初めて見たっス」
 おいおいお前は初めて日本にやってきた外国人かっつーの。というツッコミを入れたく
なる程の反応を見せた奈美だった。
 あえて言わせてもらえば、メイド服の彼女達は接客業であり本物のメイドでは無い。

「こちらのボロニア風ミートソースパフェをいただこうかしら」
 雪本星乃が真っ先にメニューを選んだ。人気のスイーツだ。
「まるで本当にお嬢様みたいっスね。雪本さんって」
「そうかしら? 小宮さん」
 やや驚いたような表情の雪本。マウンドでは少し華奢な体躯と、すらりと伸びた腕から
スローカーブを繰り出すサウスポー投手という印象だ。名前から“星のお姫様”の異名を
持つが、マウンドを降りてもお姫様のようだった。

「……お腹すいてない。お冷やだけでいい」
 川原恵美の胃袋は満たされていた。元々食事をする目的では無かったので致し方無い。
「そんなー、せっかくなのに。じゃあ、これを二人で分け合うっス」
 そう言って奈美が指さしたのは「愛情たっぷりジャンボオムライス」だった。
0778「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十三話2014/07/24(木) 00:45:37.65ID:Rb7zuBhu
6/8
「き、きましたわーっ!」
 水田が歓喜の声を上げた。いきなりどうした。
「なっ、何なんスか。まつ……いや、水田さん」
 奈美は驚いた。そりゃ驚くわな。
「そういうの、すごく良いと思うわ。推奨、マジ推奨」
 水田の目がキラキラと輝きだした。ちょっと怖いよ。
「……それはクリスタル的な意味で?」 また意味の解らない言葉を口走る恵美。最早誰もツッコむ事すらできない。

「ところで、まつさんはどうされるんですか?」
 雪本が尋ねた。そう言えば、水田はまだ注文を済ませていなかった。
 おかずはこれで充分でございます。と言いたいのをぐっとこらえて、水田はメニュー表
から「メイド長の気まぐれ過ぎるサラダのような何か」を注文した。
 こちらのメニューがどれくらい気まぐれかと言うと、この前はプチトマト(ミニトマト
とも言う)が一個だけお皿に乗せられて出てきた(お値段はそのまま!)という代物だ。
 しかし何故かこれを頼むお客さんが絶えないという。

「ケチャップで文字っスか? え、イラストでもOKなんスか!?」
「……では、ダイイングメッセージを」
 ちょっと恵美さん、店員さんを勝手に殺さないように。たしかに、トマトケチャップは
赤くて血みたいな色ですけど。
 これに対して店員(メイド)は、わっかりました〜。と甲高い声で答えて、ケチャップ
で器用に文字を書き出した。こんなムチャブリにも応えるとは、やはりプロだな……。

「はぁ〜い、できましたぁ。おいしくな〜れっ。キュン!」

 死 し て 屍 拾 う 者 無 し

「……こ、これは」
「い、潔いっス……」

 これでは真犯人は見つからない。事件は迷宮入りだ。
0779「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十三話2014/07/24(木) 00:49:56.16ID:Rb7zuBhu
7/8
「いやー、今日は楽しかったっスね」
「……右に同じ」
 奈美と恵美は初めてのメイド喫茶を堪能したようだ。

「あの辺りには、もーっと楽しいお店が沢山あるからね。また連れて行ってやんよ」
 水田は満足げだ。札幌の球団に所属する水田が、地元東京の球団の選手を案内しようと
いうのもおかしな話だが、水田松子にとってはこの地がある意味で“ホーム”なのだ。

「私たちの住む札幌にも楽しいお店が色々とございますので、お越しの際には紹介させて
いただきますわ」
 雪本が優しく微笑んだ。
 敵チームと言えど、グラウンドの外ではいがみ合ってもしょうがない。
 球団を越えたカップリング。そういうのも良いんじゃないか、水田はそう思った。
 いや、そんな事を考えるのは多分この人だけです。

「……ところてん」「なんスか? メグ先輩」
 奈美と恵美の二人は札幌組の二人と別れ、選手寮へと向かっている。
「……じゃなかった、ところで」
「はい」
「……当初の目的は」
「えーっと……?」
 どうやら忘れた模様。

「まあ、面白かったから良いっスよ」
「……大丈夫かな」
 恵美は少し不安になった。

「メグ先輩は、どうだったっスか?」
 なんというか、あまりにも漠然とした質問が奈美から投げかけられた。
「……オムライス、美味しかった」
「そうスか? 普通の味だったと思うスけど……オムライスが好きなら今度は私が作って
あげるっスよ」
「……いや、そういう意味じゃなく」
 と言うかオムライスくらいなら自分で作れる。そう恵美は思った。
0780「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十三話2014/07/24(木) 00:54:32.02ID:Rb7zuBhu
8/8
「こう見えても料理の腕には自信あるんスよ」
 そもそもどう見えてると思ってるのかというツッコミはさておき。
「……わかった」
 そう言われて断るのもどうかと思ったので、恵美は許諾しておいた。
 いつとは言っていないので、奈美の気分次第で明日かも知れないし、あるいは十年以上
も先かもしれない。
 ……流石に十年経ったら向こうも忘れてるだろう。
 まあいい。その時はこちらからオムライスを振る舞おう。
 今日みたいに大きな一つのオムライスを二人で食べよう。
 さらにその上にトマトケチャップでどんな文字を書こうか。
 そんな事をぼんやりと想像する恵美なのでした。

 つづく。
0785創る名無しに見る名無し2014/08/16(土) 22:12:53.22ID:+GZyoYFl
東海大相模が負けたかー
平安といい優勝候補が早くも消えていくな
0790「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十四話2015/02/22(日) 18:54:55.90ID:VyHoNGPz
1/9
「これが、雪本のスローカーブか」
 東京シャイニングヴィーナス監督の栗田は、対札幌ホワイトブリザーズ初戦のオーダー
を考えていた。
 まずは初戦に先発予想の札幌・雪本星乃のVTRをチェックしていた。
 細身のサウスポーで球速はそこまででも無いが、ストレートとスローカーブを駆使して
打ち取る。そんな印象を持った。
 過去のデータを見ると、大木姫子を除く左打者は軒並み低打率に抑えられている。
 ところで三島みらいなら、初対戦でこのスローカーブを打てるだろうか。
 むしろ今後の事も考えると、相手のエース級に慣れさせておいたほうが良いだろう。
 栗田はスタメン表の五番打者の空白に、三島みらいの名前を入れた。
 一方で、左打者のマクスウェルと小松田がスタメンから外れる事となった。
 ライトにはユーティリティプレイヤーの井村を入れ、スイッチヒッターを含めて右打者
が8人も並んだ。
「エース同士の先発だし、1点を争うゲームになるだろうな」
 栗田はそう予測していたが、果たして実際の試合はどうなるのだろうか。

「打つ方もチェックしておこうか」
 ディスクを入れ替え、今度はブリザーズ打撃陣の映像を見てみる。
 まずは1番打者の赤嶺史香。好調な打線を引っ張るけん引役である。
 初球から積極的にバットを振っていくタイプで、長打もあるので警戒が必要だ。
 3番の滝川稲穂は、現在打率が6割越えとノリに乗っている。さらにこの打者が打つと
チーム全体も調子に乗っていくらしい。やはり警戒が必要だ。
 そして主砲、4番の勝村誠。豪快なフルスイング持ち味のスラッガーだ。
 打席に立った姿は“侍”を髣髴とさせる。雰囲気に呑まれないよう警戒が必要だ。
 さらに6番に座るフランス代表でもあるフランソワーズ・ミシュランも、甘く行ったら
大きいのを打たれる可能性があるので、これも警戒が必要だ。
 それから8番の伊集院公子は、いかにもキャッチャーらしい体型で、当たれば飛びそう
なので警戒が必要だ。

「こうしてみると、警戒してばっかりだな……」
 栗田は小さなため息をついた。
 おいおい。指揮官がそんな戦う前からネガティブでどうするんだ。
 栗田は自分の中で気持ちを入れ直した。と言っても戦うのは選手たちなのだが。
0791「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十四話2015/02/22(日) 18:59:43.19ID:VyHoNGPz
2/9
 試合は静かな立ち上がりと……は、ならなかった。
 先頭打者の赤嶺が初球を思い切り振り抜くと、打球はフェンスを越えてしまった。
 これが勢いなのか。まずはアウェイに乗り込んだブリザーズが先制点を上げた。

「うーん、これは失投だわ」
 マウンド上の大咲さくらは苦笑いした。
 別に対戦相手を舐めていたのでは無いのだが、初球は簡単にストライクを取りに行って
しまったようだ。
 続く2番の田野中明華をセカンドゴロに仕留め、最初のアウトを奪う。
 そして打席には、3番打者の滝川稲穂が立つ。
「先制点は私のバットからって決めてたのにな」
 少し残念そうな表情の滝川だった。
「それじゃあ、おとなしく凡退して下さいです」
 キャッチャーの丸山みのりが、ボソリと話しかける。
 そう言っておとなしく凡退してくれたら、どれだけ楽なことか。
 滝川はさくらの直球をはじき返し、ツーベースヒットを放った。
 これでまた打率が上昇、もはや誰にも止められないのか。

 追加点のチャンスを作り、打席にはブリザーズの4番・勝村誠が立った。
 あたかも現代に蘇った侍が如し雰囲気を漂わせる勝村。
 魂のフルスイングが、見る物の心を酔わせるという。
 2ボールからの三球目、低めへの速球を勝村が振り抜いた。
 打球は強烈なピッチャー返し。さくらの股間を抜けてセンター前へ。
 これでランナーは一、三塁となった。
 立ち上がりを攻められるヴィーナスのエースだったが、その心中は落ち着きを取り戻し
ていた。
 ふと味方のベンチを見ると、自分以上に慌てている男の姿があった。
 それを見てさくらは噴き出しそうになるものの、ぐっと堪える。
 集中だ、集中。5番の田島を変化球で引っ掛けさせる。注文通りのセカンドゴロ。
 4−6−3とボールが渡ってダブルプレー。これで3アウト。この回は最小失点で踏み
とどまった。
0792「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十四話2015/02/22(日) 19:04:23.36ID:VyHoNGPz
3/9
「もう、何やってるんですか。監督」
 栗田がさくらを労うより先に、さくらが栗田に話しかけた。
「監督は監督らしく、ドシッと構えててください」
「お、おう……」
 そう言われても、やはり遠くで見ているだけというのはもどかしいもんだ。
 栗田は苦笑いした。そしてふと相手のベンチを見る。札幌ホワイトブリザーズを率いる
若杉潤一監督の姿が目に入った。
 プロ野球で日本一も経験している名監督だけに、流石の貫禄である。見習わねば。

 雪本星乃がマウンドへ。三連戦の初戦、ブリザーズもエースの左腕を立ててきた。
 1点差を追いつきたいヴィーナスの打線だが、初回の攻撃はあっさり三人で終わった。

「何やっとんねん。簡単にひねられよってからに」
 ネクストバッターズサークルの御堂あづさは愚痴をこぼした。
 残念ながら主砲の御堂あづさに初回から打席は回らず。
 だがそんなあづさも、二回裏の先頭打者としての打席では内野フライに倒れる。
 1アウト走者無し。三島みらいが第一打席で雪本星乃に相対する。
 まず初球、雪本はいきなり決め球のスローカーブを投じた。
 この球を初見で打てというのも酷な話かもしれないが、みらいは初球を見送った。
 緩やかな放物線の先が、ストライクゾーンの底辺にキッチリ収まる。ワンストライク。
 すごいコントロールです……。と打席のみらいは思った。
 だが見とれてる場合か。すぐに次の投球に備える。
 二球目はストレート。やや甘いコースだった。だが、来たと思って振り抜いた時には、
そのボールはキャッチャーミットの中に吸い込まれていた。
 ネクストバッターズサークルで見た時より、速くなってる?
 打席のみらいが戸惑っている隙に、三球目がやってくる。
 最後はボール球のストレートに呆気なく空振りしてしまう。三球三振に終わった。
0793「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十四話2015/02/22(日) 19:08:50.95ID:VyHoNGPz
4/9
 試合は1−0のまま、進んでいった。
 なんとか最小失点のまま粘り続ける大咲さくらだが、味方の打線が得点を取れない。

 4回裏には川原恵美がサード強襲の内野安打で出塁するものの、ベンチからのサインで
盗塁を敢行し刺されたりもした。
 エースの粘りの投球に応えたいヴィーナス打線は5回裏、先頭打者の御堂あづさが四球
で出塁し、今日は5番に入っている三島みらいが二度目の打席へ向かう。
「ここは……送るか」
 監督の栗田はバントのサインを出した。みらいは前の打席で手も足も出なかった雪本の
スローカーブをキッチリと三塁線に転がした。
 スラッガータイプと思いきや、こういった小技も上手い。栗田は改めて感心した。
 だが、後続が倒れて得点を奪うことはできなかった。

「もう一本、いっときますかぁーっ」
 赤嶺史香が威勢良く打席に入った。バットを天高く突き上げ、ゆったりと構える。
 6回表の先頭打者としての登場だが、出塁だけを狙うような真似はしない。
 赤嶺は3球目のストレートをセンター方向へ打ち返した。第1打席のようにフェンスを
越えるのか。ブリザーズのファンがワッと盛り上がる。
 しかし、この打球はセンターの大木姫子がキャッチした。投手の球威が勝ったようだ。
 結局この回は、さくらが三者凡退に抑える。流れを呼び込みたいところだ。

「さあー、逆転するわよー」
 6回表のピッチングを終えてマウンドからベンチに帰ってきた大咲さくらが、ナインに
対して葉っぱをかける。葉っぱじゃないよ、発破だよ。
「ほな、まずは口火を切って、頼むわ」
 御堂あづさがさくらにバットを手渡す。6回裏の先頭打者は、さくらだった。
 さくらはピッチャーだが、打つのも好きだった。大阪の真淵みゆきみたいにはいかない
けれど、投げても打っても一流を目指したい。
 打席のさくらはストレートに的を絞って、綺麗なセンター返しを放った。これが今日の
チームで2本目のヒットとなった。
 続く9番の井村がきちっと送りバントを決めて、上位打線に回す。
0794「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十四話2015/02/22(日) 19:13:43.04ID:VyHoNGPz
5/9
 ワンナウト二塁で、1番打者の小宮奈美が右の打席に入る。
 ここまでは雪本星乃の巧みな投球術に翻弄されていたが、この三打席目では遂に決め球
のスローカーブを捉え、左中間へと持っていった。
 二塁ランナーのさくらは三塁を蹴ってホームを狙う。センターの赤嶺がボールを掴んで
強烈なバックホームを見せる。
 ダイレクトな返球がキャッチャー伊集院のミットにすっぽりと吸い込まれた。
 ああっ、これではホームに突っ込めない。結局、さくらは三本間に挟まれてアウトに。

 赤嶺史香の強肩は解っていたはずだ。それなのに、焦ってしまった。
 対照的に、同点のピンチを防いだブリザーズのナインは活気付く。
 主砲の勝村から始まる札幌の攻撃。先頭の勝村は強烈なライナー性の打球をライトの前
に弾き飛ばす。むしろシングルヒットで助かったと言いたくなるような当たりだった。
 5番の田島は送りバントを決め、一死二塁で左の打席にフランソワーズ・ミシュランが
立った。
 母国フランスでは、4番として代表チームを引っ張るミシュラン。まだまだ競技人口の
少ない祖国を離れ、遠い異国の地で奮闘中。オフには里帰りし、子供たちに野球を教える
“伝道師”の役割も担っている。
 チャンスということで、ミシュランは力んだような空振りを見せる。
 来日当初は変化球にタイミングがあわず、フランス製の大型扇風機と揶揄されたことも
あったという。
 しかし、この打席では追い込まれてからのカーブを左の方向へ流し打ち。
 もし抜ければ二塁から一気に還ってこようかという当たりを、三塁を守る三島みらいが
懸命に飛びついてダイレクトキャッチした。
 みっしっまっ。みっしっまっ。球場全体から響く三島コール。
 続く駒野のサードゴロを簡単に捌くと、あたかもファインプレーを披露したかのように
再びスタンドが湧き出す。

「お前がプレーすると、凄い歓声だよなー」
 栗田は三島みらいの人気に改めて驚かされる。やりにくいんじゃ無いのかという問いに
対して当のみらいは、
「もう慣れましたし、逆に何も騒がれないと寂しいじゃないですか」
 と、事も無げに答える。流石に生まれもってのスターは違うなあ。と栗田は感心する。
0795「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十四話2015/02/22(日) 19:27:21.23ID:VyHoNGPz
6/9
 そんな三島みらいにチャンスの場面が巡ってくる。
 7回の裏、シャイニングヴィーナスの攻撃。先頭の3番大木が四球を選んでまずは出塁
を果たす。さらに、4番の御堂あづさがストレートを捉えてレフト前へのヒット。

 無死一、二塁のチャンスで打席に三島みらいが入った。
 最低でも同点、できれば一気に逆転したいところだ。
 マウンドにはまだエースの雪本が立っている。新人を目の前にして交代させるわけには
いかないのか。ブリザーズ監督の若杉は動かなかった。
 一打席目ではタイミングが合わなかったスローカーブを、見事にセンター前に弾き
返した。二塁ランナーの大木姫子は、三塁を回りかけた所でストップした。
 センター赤嶺はキャッチャーへストライク返球を見せた。もしホームへ突入していたら
確実に姫子は憤死していた。
 無死満塁。これ以上無いというチャンスの場面で、ヴィーナスのベンチが動いた。
 シャイニングヴィーナスの代打の切り札である塩原由佳が、打席へと向かう。
 犠牲フライだなんてセコい事は言わない。一振りで試合をひっくり返すつもりだ。
 マウンド上には、依然として雪本星乃がいる。自らが作ったピンチをリリーフに尻拭い
してもらう訳にはいかない。無失点でこの回を切り抜ける事が出来るでしょうか。

 やや高めのストレートを打った塩原由佳の打球は、左中間へと飛んでいった。
 これは抜ける。そう確信した当たりだったが、センターを守る赤嶺史香が横っ飛びし、
この打球をダイレクトで捕球した。
 おおおおおおおおおおっ。敵も味方も無く、このプレーにスタンドが大きく湧いた。
 三塁ランナーの大木姫子は、しっかりタッチアップでホームを踏む。
 これで、シャイニングヴィーナスが同点に追いついた。
 最低限の仕事を果たした塩原由佳だったが、ベンチに戻る顔はやや複雑な表情だった。
 やはり、犠牲フライでは満足出来ないようだ。

 1対1。試合は振り出しに戻って、なおも一死一、三塁のチャンスの場面で打席に立つ
のは7番打者の丸山みのり。今日はここまでノーヒット。ネクストバッターズサークルに
は大咲さくらがバットを持って備えている。
 栗田はベンチを見回す。控えとして残っているのは左打者ばかりだ。雪本がマウンドを
降りないと出番が無いだろう。
 大咲さくら登板時には打率が跳ね上がるという丸山みのり。ここはその打棒に期待する
しかない。
0796「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十四話2015/02/22(日) 19:31:29.27ID:VyHoNGPz
7/9
 2ストライクと追い込まれ、決め球は当然スローカーブ――と見せかけてストレート。
 しかしキャッチャー伊集院公子の配球が、打者の丸山みのりには読まれていた。
 必死に食らいついた打球は、左中間を破るタイムリーヒットになる。
 東京シャイニングヴィーナスが勝ち越しに成功した。

 雪本は後続を断ったが、7回を終了して2−1とヴィーナスが1点リードに。
 こうなると後は大岩ゆうなと城之内真緒に繋ぐだけ、の筈である。
 しかし8回表、マウンドには先発の大咲さくらが続投。このまま完投させるのか?

 先頭の伊集院は倒れたが、続く雪本の打順で代打の北野朱音が登場した。
 気合い十分の左のピンチヒッターに対して、さくらは力で押さえ込む。
 今日当たっている1番打者の赤嶺史香の前に、走者は出したく無かった。
 北野の打球はレフトの方向へ。この回から守備に就いている清美瑞希が落下点に入って
難無くキャッチした。これでツーアウト走者無しで赤嶺史香の打席を迎える。

「このまま完投させても良いくらいの調子だなあ。でも最終回はストッパーで抑えるべき
か……悩むところだ」
 栗田はこの時点で、ほぼ勝利を確信していた。
 だが、その慢心が命取りとなるかも知れない。
 ツーアウトから赤嶺、田野中と連打を浴びる。そして3番の滝川稲穂が打席に入った。

「これはもう、打つしかねーよなっ」
 滝川のテンションは最高潮に達した。札幌から駆けつけたブリザーズファンも同様だ。
 もしここがホーム球場ならば、飛び跳ねて応援する勢いである。
 ネクストバッターズサークルには4番の勝村誠が控えているが、滝川は自分のバットで
決める事しか考えていない様子だ。
 一方、マウンド上の大咲さくらも、辛抱して投げてきてようやく逆転してくれた。その
流れを無駄にしたくは無い。
 初球は空振りを誘うカーブを投げた。打席の滝川もしっかりと見送る。
 ボールが先行すると、落ち着いてピッチングを組み立てていく。
 フルカウントからのフォークボールが、放物線を描いて捕手のミットに収まる。
 滝川のバットは、むなしく空を切る。
 空振り三振でピンチを脱した。これぞエースのピッチングだ。
0797「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十四話2015/02/22(日) 19:35:23.30ID:VyHoNGPz
8/9
「いやー、よく抑えたな。あとは守護神に任せよう」
 栗田はベンチに戻るエースを拍手で出迎えた。
「ヒヤヒヤさせて、ごめんなさいね」
 さくらは冗談っぽく言ってみた。
「何を言ってるのかな。全然そんな事無いけど……」
 栗田は精一杯首を横に振るのがやっとだった。

 ブリザーズの2番手は森松まりも。下から読んでもモリマツマリモでお馴染みである。
 豊満な肉体に目を奪われてしまいがちではあるが、先発でも中継ぎでも使い減りしない
スタミナが売りのサイドスロー右腕だ。
 8回裏のシャイニングヴィーナスの攻撃は、1番からの好打順。
 しかし先頭の小宮奈美は、初球を簡単にポップフライ。
 それに釣られたのか後続もあっさりと倒れ、この回の攻撃は3人で終了。

 そして9回表。東京シャイニングヴィーナスの2番手として、城之内真緒が登板した。
 もちろんクローザーとして3人ですんなり終わらせる。その為に送り出された。
 ヴィーナス側のブルペンには既に誰もいない。リリーフ陣は投球練習を切り上げた。
 先発の役目を果たした大咲さくらも、リラックスした表情でマウンドを見つめている。

 この回のホワイトブリザーズの攻撃は、4番の勝村誠から。今日はここまで2安打。
 豪快なフルスイングながらしっかりとボールを捉える技術は、まさに現代の侍を名乗る
に相応しい。左対左と言えども、侮れない相手だ。
 対するヴィーナスのバッテリーは、シンカーとカーブを使って揺さぶっていく。
 それでもバットに当ててくるのだから、一体どうなってるんだ。
 勝村の打球は大きな放物線を描いて、次々とファールエリアに飛び込んでいく。
 最後はライトへの大飛球に倒れたものの、その為に11球も要した。
 ふう、まずはワンナウトだ。あと2人だ。
 続いて打席に入るのは、右打者の田島美玖。対左投手の打率が高い事から“左殺し”の
異名を持つ。なんだか物騒だな、おい。
 早めに追い込もうとしたのが裏目に出たのか、中央寄りに投げられたカーブをセンター
の前に弾き返される。

「なあ、大丈夫……だよな?」
「大丈夫です。落ち着いて見ましょうよ」
「お、俺は落ち着いてるけどなっ」
 動揺を隠せない監督の栗田に対して、エースのさくらが笑顔で諭す。
0798「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十四話2015/02/22(日) 19:42:37.02ID:VyHoNGPz
9/9
 6番のミシュランをダブルプレーにすれば試合終了だが、バッテリーは一人ずつ抑える
考えのようだ。
 左打者のミシュランは、真緒の左手から放たれる変化球にタイミングが合わない。
 わずか3球で打者は三振に倒れる。これでツーアウト。あと一人だ。

 7番打者として打席に立つのは駒野敬子。この日は三打席とも凡退だが、意外性の一打
を放つ実力を秘めているので注意が必要だぞ。
 ほら、言わんこっちゃ無い。駒野が振り抜いた打球はセンターの頭を越えた。
 一塁ランナーは三塁で止まった。ホームへ突っ込んでも良かったかも知れないが。
 2アウトながら、ランナーが二塁三塁の大ピンチを招いた。

 札幌のベンチから、若杉監督が登場した。主審に代打を告げる。
 8番打者の伊集院公子に代わって、山元茂亜が右打席に立つ。
 対する東京のベンチは動かない。いや、動けなかった。
 ブリザーズファンの期待を目一杯背に受けた代打の山元だったが、結果的にはレフトへ
のふらふらと力の無いフライに倒れた。

 ひと仕事を終え、平然とマウンドを降りてくる守護神の城之内真緒。
 その真緒と握手をして、ようやく落ち着きを取り戻した監督の栗田永一。
 シャイニングヴィーナスとホワイトブリザーズの三連戦初戦は、2対1とヴィーナスが
見事な逆転勝ちを収めた。

 つづく。
0800創る名無しに見る名無し2015/03/13(金) 21:00:37.66ID:LparJjmS
800
0802超音波テロの被害者2015/03/22(日) 22:40:49.83ID:Zh8FAOt4
超音波テロの被害にあっています。
卑劣極まりない被害にあっています。

何が起こったかわからないときから、
わかってみれば、
まだ世の中に知られていない超音波テロ。

世の中のどれだけの音の振動源・発信源が
使用されているのかわからないが、
多数の振動源・発信源がシステム化され、
ネットワークを通して、
超音波・音波を集中させて
対象を攻撃するらしい。

人や社会が襲われ、罪もない人が超音波で襲われ、
卑劣な被害にあっています。
0803超音波テロの被害者2015/03/22(日) 22:41:20.14ID:Zh8FAOt4
聞こえる声、音。超音波テロの加害者の声。
「もらいました」という声とともに、
形のあるもの、ないもの、奪っていき、壊していく
超音波テロの加害者の声。

超音波による物理的な力で、
ものが飛び、ものが壊れる。
それが人間の体に対してまで。

身体の表面を突き抜け、内臓を攻撃される。
頭蓋骨を突き抜け、意識を失わされる。
聞こえる声、認識できない声で、精神的なダメージ。
人間の体を壊そうとする超音波テロ。

「見続けるのがいやだから、殺して終わる」、
「証拠隠滅だ」という超音波テロの加害者の声とともに
強烈な超音波の攻撃。
叫ばされ、いたぶられ、
超音波テロの卑劣な被害にあっています。
心の底から被害を訴え、祈っています。

天に神に届きますように。
0804創る名無しに見る名無し2015/03/22(日) 22:41:51.63ID:Zh8FAOt4
I'm suffering from dirty strong supersonic attacks!! Supersonic terrorisms!!
Help me!!
0807創る名無しに見る名無し2015/07/15(水) 12:55:23.10ID:iHkzSezO
保守
0808創る名無しに見る名無し2015/08/02(日) 01:01:31.96ID:QEfd6GAQ
あげ
0810「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十五話2016/01/09(土) 12:17:55.76ID:foeQTGcs
1/9
 東京シャイニングヴィーナス対札幌ホワイトブリザーズの2回戦は、三上英子(東京)
と西脇美広(札幌)の両右腕の先発で始まった。
 この日は、前日とは打って変わって打撃戦になった。
 先制点は1回の裏、ヴィーナスの主砲・御堂あづさの豪快な2ランホームラン。
 対するブリザーズも2回表、6番打者の駒野がタイムリーヒットで応酬する。
 さらに畳み掛けるように3回には赤嶺史香、滝川稲穂が共に打点を挙げ、2対3と一気
に逆転した。
 まだまだこのままでは終わらない。4回の裏にはスタメン復帰の小松田沙織が同点打と
なるツーベースヒット。続いて5回裏に大木姫子のヒットで、ヴィーナスが再逆転に成功
した。
 だが、6回表に滝川のスリーベースを足がかりに、勝村誠の犠牲フライでブリザーズが
またしても同点に追いつく。
 ところが、その裏に今度は5番打者のエイミー・マクスウェルがその持ち味のパワーを
見せ付ける、ライトスタンドへの勝ち越しホームラン。これで確実性が増せば言う事無し
という感じだ。

 4対4のまま、試合は中盤から終盤へ。お互いに2番手投手が投げ合う展開に。
 8回表にはブリザーズが走者を三塁に置いて、伊集院公子のライト前ヒットでいよいよ
勝ち越しに成功する。
 このまま黙って見過ごすわけにはいかないヴィーナス打撃陣は、その裏にブリザーズの
2番手投手・糸川絵梨沙に襲い掛かる。
 御堂あづさ、エイミー・マクスウェル、小松田沙織の三人で作った満塁の大チャンスに
今日は代打の三島みらいが、これぞ千両役者というタイムリーヒットで逆転を果たす。

 9回表は二日連続の“最後の締め”をストッパーの城之内真緒がキッチリと果たして、
東京シャイニングヴィーナスが昨年度女王の意地を見せる2連勝。これでカード勝ち越し
を決めた。
0811「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十五話2016/01/09(土) 12:23:10.80ID:foeQTGcs
2/9
 だが、2つ勝ったら当然3つ勝ちたくなるのが当然だ。
 連勝したその日の試合後。栗田は監督室で翌日の試合について考えを巡らしていた。
 ここまでカード3戦目はいずれも末永陽子が先発を務めている。
 だが、前回の登板では6回までは抑えながら、7回に3連続HRを浴びてノックアウト
という内容だった。
 先発投手の候補は末永の他に渡辺侑子、左の畑中良子などがいる。
 この枠は競争させたほうが良いというのが首脳陣の考えだった。
 栗田は翌日のオーダー表に末永陽子の名を書き入れた。
 三度目の正直に期待して。

 対する札幌ホワイトブリザーズの先発投手は、ヴィクトリア・ストラヴィンスカヤだと
予想される。ロシア出身の右投げで、長身(公称188cm)から角度のあるストレート
を投げ込んでくる。
 我らがヴィーナス打線との相性は良くも悪くもなく、と言ったところか。
 6番DHに三島みらいを起用し、他は特に打線を弄ることもなく、1番から9番までを
書き連ねた。
 一昨日と昨日の試合を見る限り、調子を落としているバッターは特にいないようだ。
 調子の波が少ないのは、起用する監督としては有難い限りである。
0812「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十五話2016/01/09(土) 12:36:12.26ID:foeQTGcs
3/9
 翌日。東京シャイニングヴィーナス対札幌ホワイトブリザーズの3回戦が始まった。
 ヴィーナス先発、末永陽子の立ち上がりは悪くなかった。
 先頭の赤嶺史香を三振に切って取ると、3回までパーフェクト・ピッチング。
 悪くないどころか、文句の付けようがない投球だ。

 札幌先発のストラヴィンスカヤも負けじと粘りのピッチングを見せ、こちらはヒットを
打たれながらもホームは踏ませない。

 0対0で向かえた4回のウラ、6番打者の三島みらいの犠牲フライでまずはヴィーナス
が先制点を奪った。
 まず先頭打者の4番・御堂あづさがツーベースヒットで出塁し、5番・マクスウェルが
ライト前へのヒットを飛ばす。こうして作った無死一、三塁のチャンスから三島みらいが
レフトへキッチリとフライを打ち上げる。三塁ランナーのあづさがタッチアップから余裕
を持ってホームを踏んで1点。

 先制点、取ってもらった次の回。先発の末永陽子がマウンドへ。
 5回表はピシャリと三人で抑えた。まだまだいけそうだ。
 とは言えリードが1点では心許ない。ヴィーナスの打撃陣はさらなる追加点を狙う。
 その前に立ちはだかる、巨大なる氷壁。ストラヴィンスカヤの“重い”ストレートは、
中盤になっても健在だった。

「ナイスピッチですよ。ヴィクトリア」
「ハーイ、ジュリサンノオカゲデース」
 札幌ホワイトブリザーズの先発、ヴィクトリアとバッテリーを組んでいる久慈川樹里は
手応えを感じていた。
 相性の良さからストラヴィンスカヤが先発する際には、正捕手の伊集院公子に代わって
久慈川がマスクを被る。
 余談だが、久慈川は大学時代にロシア語を専攻していた。だから相性が良いという訳で
は無いだろうが、ともかく二人はプライベートでも常に一緒にいるのが目撃されている。
 ロシアのことが知りたい久慈川樹里と、日本語について学びたいストラヴィンスカヤの
思惑が一致した模様。
0813「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十五話2016/01/09(土) 12:40:22.89ID:foeQTGcs
4/9
 ストラヴィンスカヤは5回を終わって1失点。まずまずの出来だと言えよう。
 対するヴィーナス先発投手の末永陽子は、6回を投げて無失点の好投。
 しかしそろそろバテてくる頃だろう。一塁側のブルペンはにわかに動き出した。
 6回裏、東京シャイニングヴィーナスの攻撃は、クリーンナップから。追加点の大きな
チャンスが到来した。

「逆に言えば、こういう所を抑えていれば、こっちにも流れが来る」
 ブリザーズのキャッチャー、久慈川樹里はそう思った。
「ジュリ、イキマスヨー」
 ストラヴィンスカヤの右腕が唸りを上げる。まだまだ球威は衰えない。
 3番の大木姫子が左中間への流し打ちを試みるが、これはセンターの守備範囲だった。
 赤嶺史香が軽快な横っ飛びを見せた。
 何だかいやな流れだ。ここはチームの一発屋もとい、一発のある御堂あづさに景気付け
となる当たりを期待したい。
 任せとかんかい。そう言わんばかりに豪快に素振りをして、あづさが打席に入る。
 だったら力でねじ伏せる。ブリザーズバッテリーの覚悟は決まった。
 ストラヴィンスカヤは、久慈川のミットに思い切り投げ込んだ。
 初球は大きく空振ったが、2球目を捉えた。その打球はレフト方向へとぐんぐん伸びて
いくが、わずかにフェンスまでは届かず。御堂あづさはレフトフライに倒れた。
 これでツーアウト走者無し。だが5番のマクスウェルも意地を見せる。変化球を見極め
てフォアボールを選んだ。
 今日、先制の犠牲フライを放っている三島みらいが打席に立つ。

 代走の高畑由梨が一塁へ向かう。なんとしても追加点が欲しい場面だ。
 ベンチからなにやらサインが出る。ランナーの由梨と打席のみらいに伝わったようだ。
 札幌のバッテリーは一塁走者を警戒し、牽制球を挟む。ランナーは慌てて戻った。
 みらいへの初球、ここでエンドランを仕掛けた。右方向へ転がした打球が、一二塁間を
破っていく。一塁ランナーの由梨は一気に三塁を陥れる。
 二死一塁三塁となって打席には小松田沙織。今日はまだヒットが出ていない。
 ここはベテランの意地か。いや、ベテランと言ったら怒られるので止めておこう。
 沙織の打球は三遊間を転がる。ショートの駒野が精一杯体を伸ばし、かなり深い位置で
キャッチした。そこから起き上がって二塁を見るが間に合いそうに無い。したがって一塁
へロングスロー。沙織は何とか一塁へ駈け込んで、頭から飛び込んだ。
 判定はセーフだった。この間に三塁ランナーは生還し、1点追加となった。
「ちょっとぉ、あんまり全力疾走させないでよねっ」
 やや息を切らしながら、小松田沙織がニヤリと笑う。
0814「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十五話2016/01/09(土) 12:43:50.22ID:foeQTGcs
5/9
 6回を終わって2−0とシャイニングヴィーナスが2点のリード。理想的な展開だが、
栗田はそろそろ継投を考える。
 先発の末永陽子は6回までは文句のつけようがないピッチングだった。
 7回表は札幌のクリーンナップにぶつかる。早めにリリーフ陣に託したほうが良いか。
 結局、栗田は次の回もマウンドに陽子を送り出した。ブルペンでは大岩ゆうなが準備を
続けている。ピンチになったらすぐ出て行けるようにしておく。

 先頭の田野中を三振に切って取った。続投の判断は間違ってなかった。
 いや、待て。安心するのはまだ早い。
 好調な三番打者、滝川稲穂が左の打席に入る。
 初球から積極的に打ちに行った。その打球は三遊間を破っていく。レフト前ヒット。

「まだ一塁だ、大丈夫」
 マウンドの末永陽子は気合を入れ直し、次のバッターに向かう。
 札幌の四番、勝村誠がゆったりと左打席に入った。
 鋭い眼光でマウンドを睨み付けるが、ひるんではいけない。
 2球ファールが続いて3球目、アウトコースに直球が決まった。これには打者の勝村も
手が出ない。見逃しの三振を奪った。これでツーアウト。
 続く5番打者に四球を与えたものの、次の打者を抑えればこの回もスコアボードに0を
並べる事が出来る。
 結論から述べると、野球というのは本当に恐ろしい物である。たった一球だけの失投で
天から地へと叩き落されるのだから。
 フランスの至宝ミシュランの打球は、綺麗な放物線を描いてフェンスを越えた。
 そして今、ゆっくりとベースを一周して、しっかりとホームを踏んだ。
 盛り上がる三塁側ベンチ。
 結果論だが、この回の頭に代えておけば良かったのか。
 いやまだ、試合は終わっていないのだが。
0815「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十五話2016/01/09(土) 12:45:58.16ID:foeQTGcs
6/9
 ここまで投げ続けてきたブリザーズ先発のストラヴィンスカヤ。ついに逆転してくれた
と言う事で、再びテンションを上げてくる。
「フフッ、オタノシミハコレカラデース」
 7回裏は三者連続三振。まだまだ球威は衰えを見せないどころか尻上がりに良くなって
きている。
「マダマダ、イケマスヨー」
 ベンチに戻ってきたストラヴィンスカヤはそう答えた。これにボールを受ける久慈川も
太鼓判を押す。
「次のイニングも大丈夫でしょう、問題はありません」久慈川はそう言った。
「ジュリガソーユウナラ、ダイジョブデース」とストラヴィンスカヤ。
 ブリザーズ監督の若杉は久慈川の言葉を信じ、次の回のマウンドも託す事にした。

 一方、追いかける展開となったシャイニングヴィーナスは、投手を2番手の渡辺侑子に
スイッチした。
 8回のブリザーズの攻撃は侑子の変化球主体のピッチングの前に三連続内野ゴロ。追加
点とはならなかった。
 その裏のヴィーナスの攻撃。3番の大木姫子からと言う事で、まずは出塁してあづさに
回したい。
 そんなわけで姫子は、際どいコースをファールで粘り、四球を奪い取った。
 ヴィーナスの四番打者が打席に向かう。逆転の一発を期待する声援が飛んでくる。
「まあそう急かさんといてや。じっくりいこうやないか」
 ゆっくりと、ゆっくりと千両役者の登場だ。最早ビハインドを感じさせない雰囲気作り
は正に御堂あづさの真骨頂である。
「マケマセンヨー。ゼンリョクデ、イキマース!」
 マウンドのストラヴィンスカヤも闘志が沸々と湧き上がる。
 長身から繰り出される“重い”ストレートが、久慈川のミットにズシリと刺さる。
 そしてカウント1−2と追い込んでからの4球目、アウトコース低めへの直球を右方向
へと力強く打ち返した。打球は右中間を破って転がっていく。
 一塁ランナーの大木姫子は二塁を蹴って三塁へ。ライトの滝川が打球を処理している。
 よし、いける。姫子は三塁ベースを蹴って、ホームへと一気に駆け込んだ。
0816「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十五話2016/01/09(土) 12:52:34.64ID:foeQTGcs
7/9
 ボールはセカンドを経由してホームへ返ってくるが、姫子の足のほうが早くホームイン
した。これでシャイニングヴィーナスが追いついた。
 代走で出てそのままライトの守備に就いていた高畑由梨が送りバントであづさを二塁に
進めて、6番の三島みらいが打席に向かう。
 ブリザーズは投手コーチの左藤がマウンドへ。キャッチャーの久慈川と内野陣も投手
の周りに集まる。

「んーと、交代……ですかね?」
 三島みらいは一旦打席を外す。集中力を切らさないように。
 だが、交代は無いようだ。マウンドの輪が解けて、各々のポジションに散っていく。

 3−3の同点。一死二塁から、三島みらいのバットに勝ち越しの期待がかかる。
 だが、マウンドのストラヴィンスカヤも最後の力を振り絞り、目の前の打者を捻じ伏せ
ようとする。
 みらいは5球目のチェンジアップを引っ掛けて、セカンドゴロ。チャンスを生かせず。
 これで二死だが、次の小松田沙織はフォアボールで歩かされ、八番の中本寛子がライト
へのイージーフライに倒れた。
 ブリザーズ先発投手のストラヴィンスカヤは、ここでお役御免のようだ。

 9回表のホワイトブリザースの攻撃は、2番からの上位打線だ。マウンドには2番手の
渡辺侑子がそのまま上がった。
 延長戦も考えて、慎重な投手継投になりそうだ。
 まずは先頭打者の2番・田野中を打ち取る。
 だが、続くバッターは滝川稲穂。そう簡単には凡退してくれない。
 きわどいアウトコースにもバットがついていく。ファールで粘られる。
 これだけ思いっきり振れるのは、やはり好調な証拠だろう。
 結果、滝川にはフォアボールを与える。
 ここで4番ながらこの日はノーヒットだった勝村誠。意地を見せて右中間を破る強烈な
ツーベースヒット。二塁三塁と勝ち越しのチャンスを作る。
 ここでブリザーズのベンチは、風谷水穂を代打に起用した。
 アイヌの血を引く風谷が、満を持して登場した。そして、左の打席に入る。
0817「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十五話2016/01/09(土) 12:56:18.99ID:foeQTGcs
8/9
 一塁は空いていた。だが、ネクストにて待つのは今日一発を放っているミシュラン。
 サウスポーの城ノ内真緒に交代させても良い場面だが、栗田は侑子に任せた。
 侑子は腹を括った。低めに変化球を集める。犠牲フライを打ちたいバッターの風谷は、
強引にすくい上げるものの、打球は内野を越えない。セカンドフライでツーアウトだ。
 ミシュランは敬遠し、続く7番北野をサードゴロに抑えた。渡辺侑子が何とかピンチを
切り抜けた。
 一塁側ベンチではヴィーナスのナインが侑子を拍手で出迎える。さあ、後はこの好投に
打線が応える番だ。

 そして迎えた9回裏。まず先頭の代打・清美瑞希が、ブリザーズの2番手として登板
したばかりの森松まりもからレフト前へのヒットで出塁した。
 サヨナラのチャンスが到来した。さらに打順は上位に戻り、1番の小宮奈美が打席へ。
 ノーアウト一塁という事で、送りバントも選択肢にはあったが、ここは強行策でいく。
 左打席の奈美が強く引っ張った打球は、一塁線を破って一気に外野へ。
 ノーアウト二塁、三塁。1点が入ればシャイニングヴィーナスのサヨナラ勝ちだ。
 一方、後の無くなったホワイトブリザーズは、抑えの切り札を投入する。
 緊急登板となったリリーフエースの糸川絵梨沙だが、このピンチをどう切り抜けるか。
 打席には2番の川原恵美。ベンチには代打要員が控えていたが、監督の栗田は、お前が
決めて来いとばかりにそのまま送り出した。
 糸川の直球に振り遅れながらなんとか喰らい付き、ファールで粘る。
 そして、7球目のチェンジアップをセンターの前に運んだ。
 サヨナラだ! ベンチもスタンドも、打った恵美もそう確信した瞬間、センターを守る
赤嶺史香が果敢に打球に飛びついた。
 まさかのダイレクトキャッチに、三塁ランナーは飛び出したまま帰れず。サヨナラ勝ち
のチャンスが一気に2アウトとなった。
 続く3番の大木姫子がサードへのファールフライに倒れ、試合は延長戦に突入した。
0818「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十五話2016/01/09(土) 13:00:37.03ID:foeQTGcs
9/9
 やはり、決められる時に決めておかないと。その後はそんなお手本のような展開に。
 10回以降はお互いに決定打が出ず、試合は引き分けで決着した。

 同一カード三連勝とはならなかったものの、東京シャイニングヴィーナスは今シーズン
初めての勝ち越しとなった。

 このままの勢いで、東京ナインは九州・福岡へと乗り込む。
 ちなみに次の対戦相手は福岡ハニーダイナマイツ。九州出身者を多く揃え、元々打撃が
中心のチームカラーだが、今シーズンは若手の先発投手が台頭してきたらしい。
 その代わりにエースを後ろに回すなどして、投手陣に厚みが増してきているのだとか。
 そうは言われても、栗田は昨年までを知らないのだが。
 これから伸びていきそうなチームを、シーズン序盤に叩いておこう。
 とりあえず、そういう事になった。

 つづく。
0819創る名無しに見る名無し2016/01/09(土) 22:12:42.52ID:213t1rmJ
相変わらずスポーツ小説の書き方はわからんな
0825創る名無しに見る名無し2016/02/01(月) 01:35:21.36ID:cVQof8FK
ああ、キャンプインだな
0829創る名無しに見る名無し2016/03/12(土) 21:28:47.58ID:IJaIGV9R
はあ
0830創る名無しに見る名無し2016/04/03(日) 23:24:37.62ID:ZUTT3bRw
面白くなりそうな気配すら無いのな
何を目的に書いているのか…
0831創る名無しに見る名無し2016/04/07(木) 02:41:06.12ID:VjSLmx41
ネタにもならないしねぇ…
0833創る名無しに見る名無し2016/04/14(木) 02:51:20.29ID:h/OZVIK3
でも今さら避けては通れないのかな
そういう言いづらい部分も含めて野球だとしたら…
0837集ストテク犯被害者必見!2016/04/21(木) 21:27:47.43ID:z1gxfqzY
[拡散希望!]
参考になりそうなURL送っておきます
電磁波による拷問と性犯罪
http://denjiha.main.jp/higai/archives/category/%E6%9C%AA%E5%88%86%E9%A1%9E
公共問題市民調査委員会
http://masaru-kunimoto.com/
この方たちは集団訴訟の会を立ち上げてマスコミに記事にしてもらう事を目的に集団訴訟を被害者でしようという試みを持っている方達です
訴訟は50人集めてしようという事なのですが50人で訴訟をすると記事に書けるそうです
記事には原発問題を取り上げてテク犯被害を受ける様になった大沼安史さんらが取り上げて下さるそうです
大沼安史さんがテク犯に遭っているという記事
http://ameblo.jp/hilooooooooooooo/entry-11526674165.html
大沼安史の個人新聞
http://onuma.cocolog-nifty.com/blog1/4/index.html
この方たちは電話相談等も受け付けている様で電話番号を載せている方達は電話かけ放題の契約をしていますのでこちらから電話して本人にかけ直してくれと頼むとかけ直してくれます
音声送信被害等を受けている「電磁波による拷問と性犯罪」の記事の水上さんは年金暮らしなので時間には余裕があるそうで被害内容の話等を聞いてくださると思います
もう一人の電磁波犯罪には遭っていない国本さんという方は電磁波犯罪をしっかり理解されている方で年金暮らしの方なので長電話も大丈夫です
大沼さんはこちらのページからメールを受け付けておられる様です
http://onuma.cocolog-nifty.com/about.html
電話をかけたい場合は人によってはメールで電話番号を訊くと教えてくれると思います
この文章を見られた方は全文コピーをしてできるだけ多くの知り合いの被害者の方等にメールを送るなり被害者ブログに書き込むなりしていただければ大変有難いです
もし大勢の方に送る事が出来なければまだこの文章に触れていない知り合いの被害者に少しでも全文コピーで送っていただけるとその方が次の何人かの方に繋いで頂ける場合があり結果として大勢の方に見て頂く事が出来るはずです
ご協力よろしくお願い致します 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:f70dfdc711a7c6ae6accccb939f27fbf)
0838創る名無しに見る名無し2016/04/25(月) 03:09:30.17ID:exaCFym6
おそらく読んでも全員は把握できないからなあ
その辺の工夫は必要だろうな
0841創る名無しに見る名無し2016/05/14(土) 13:02:43.95ID:8C7h8pUl
とりあえずタイトルと設定だけ・・・

  「シュカッと!」
エアホッケーに青春をかける中学生たちの話。
0843創る名無しに見る名無し2016/05/14(土) 23:11:23.24ID:4iu1Thgu
男子バレーで書きたかったけどハイキューとか桐島とかあるからなんか劣化コピー作るみたいでやだな…両者とも読んだことないけど…
0844創る名無しに見る名無し2016/06/07(火) 00:53:05.84ID:deDP5Mt3
男子バレーはオリンピック残念でしたね…
0845「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十六話2016/07/03(日) 20:21:16.05ID:0bbUpJr1
1/8
「ひなたーん。球界一かわいいよーっ」
「アンアン。似合ってるよー」
「なっつきー」「しもにゃーん」
「みねりーん。こっち向いてー」

 異様な熱気に包まれる、福岡県福岡市内の某ライブハウス。
 なんだか場違いな気がするんですけど? と栗田。
 そんな事無いですよ? ちゃんと溶け込んでますよ。とさくら。いや、そうではなく。
「敵情視察っ、敵情視察ですよ。監督!」
 さくらにそう言われて連れてこられたのだが、ここは……?
 状況を整理しよう。目の前にはステージがあり、華やかな衣装に身を包んだ女性が8人
並んでいる。
 ステージ上の女の子たちは……よくよく見ると20代に見えるが。
 それでもミニスカートをひるがえしながら、音楽に合わせて踊りだした。
 ついつい太ももに目が……。
 これが、いわゆるローカルアイドルか。と栗田は一応理解した。
 しかし何故、さくらがこんな所(という言い方もどうかと思うが)に連れて来たのか。
 それはともかく、今は会場の雰囲気に合わせておこう。

 熱狂に包まれたまま1曲目が終了し、ここからは一旦MCタイム。
「はいたーい。今日は九州GNTのライブに来てくれて、嬉しいさー」
 九州GNT(じー・えぬ・てぃー。限定の意)とは、その名前の通り九州限定で活動を
行うパフォーマンスグループである。ちなみにメンバーは九州の各県の出身者で構成され
ている。
 まずは沖縄県出身、与那城夏生がステージの前に出た。
「ちばりよー。与那城夏生です! 暴投覚悟で全力投球で行くさーっ」
 まあ暴投は困るのだが。いや、ここはマウンドじゃないからセーフセーフっと。
 それから、他のメンバーもそれぞれ自己紹介をした。
「大分県出身。安西杏奈です。よろしくお願いします」
 安西は少し大人びた、クールな印象を与える。
「ちぇすとーっ! 鹿児島県出身っ。川嶋美祢子ですっ」
 こちらは元気一杯な所をアピールしている。
 みねりーん! という掛け声が客席から聞こえる。メンバーそれぞれの固定のファンも
いるようだ。
0846「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十六話2016/07/03(日) 20:27:03.01ID:0bbUpJr1
2/8
 一人ずつの自己紹介が済んでいって、いよいよ最後の一人と迫った。
 センターの位置にいた“ひなたん”こと深浦陽菜が前に出て、マイクパフォーマンスを
開始する。すると今まで以上の掛け声が、会場中からステージに寄せられる。

「みんなー、明日の試合はー、まあ普通に勝つから応援よろしくねー」
 ワー。ワー。さらに会場は盛り上がる。
 明日の試合? そう。察しの良い読者諸君はお気付きだろうが、ステージに並ぶ彼女達
こそが女子プロ野球・福岡ハニーダイナマイツの現役選手なのである。
 この日はあくまで公式戦の告知の為に、このようなステージに上っているわけですが、
そこはやはりプロフェッショナルとして恥ずかしくない物を、という気迫を感じる。

 さらに壇上の深浦は、観客席の中から栗田とさくらを見つけ出し、人差し指を向けた。
 ちょっと、こっちを指してるけど? と慌てる栗田。
「どうやらシャイニングヴィーナスの方も、いらっしゃってますね〜」
 深浦がそう言うと、栗田とさくらの周りの視線が一気に集まった。
「東京からわざわざ白星を届けにお越しくださいまして、ありがとうございますぅ☆」
 深浦が満面の笑みで煽りよる。周りのお客さんも当然ながら同調している。
 くっ、これがアウェーの洗礼かっ。

 試合の告知も早々に、続いての曲目が始まった。
 観客がステージに再び注目した隙に、栗田はさくらに何やらヒソヒソと。
「これは一体どういう事なんだ」
「ふふっ。福岡のファンに囲まれちゃったみたいですね」
「とぼけないでくれ……」
「まあまあ。今はこの雰囲気を楽しみましょう」
 楽しめるかーっ。

 とは言うものの、身動きも取れそうに無いので、栗田は最後まで見ることにした。
 およそ2時間。歌に踊りにトークと、何だかんだで楽しんでいる栗田とさくらがいた。

 ライブ後、集客の為とは言え大変だなあと感想をもらした栗田だったが、当の選手達に
とっては良い気分転換になるらしい。実はメンバーとも仲の良いさくらが言っていた。
0847「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十六話2016/07/03(日) 20:30:25.66ID:0bbUpJr1
3/8
 東京シャイニイングヴィーナスと福岡ハニーダイナマイツの1回戦は、男子のプロ野球
でも使用される福岡ドームで行われる。金〜日曜日にはプロ野球・福岡ホーネッツの試合
がある為、女子の試合は木曜日のナイターとなった。
 なお、三連戦の残り2試合は、熊本と鹿児島でそれぞれ開催される。

 そして、福岡ドームでシャイニングヴィーナスの打撃練習が始まった。
 流石に外野席までの距離が遠く、御堂やマクスウェルでもなかなかスタンドまでは打球
が届かない(試合中は手前に即席フェンスが設けられる)ようだ。

「そうですね。私がここでスタンドまで運ばれたのも、アレクサンダーさんだけですし」
 たまたま栗田の近くにいたさくらが、過去の対戦を振り返った。
 アレクサンダーさんって名前からしてパワーが有りそうだ。後で調べたところによると、
カナダ出身で元重量挙げの北米チャンピオンとのこと。やはり腕力は凄いようだ。
 勿論パワーだけでは無い。アメリカ帰りの一之瀬鈴音、2年目の川嶋美祢子の1、2番
コンビはスピードを武器にバッテリーを揺さぶってくるので出塁させたら厄介だ。
 ただ、下位打線については大きく振り回すだけなので、失投さえ気を付ければ良い。と
コーチ陣がミーティングで言っていた。

 そして試合開始まであと約30分というところ。本日のスターティングラインナップが
発表された。
 すでにスタンドには試合開始をまだかまだかと待ちわびるお客さんが詰めかけていた。
0848「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十六話2016/07/03(日) 20:37:16.97ID:0bbUpJr1
4/8
 東京シャイニングヴィーナスの先発投手は大方の予想通り、エースの大咲さくら。
 だが、対する福岡ハニーダイナマイツの先発投手は、エースの深浦陽菜では無かった。
 コールされた名前は、左投手のマーガレット・グリーン。今シーズン初先発となる。
 エース同士の対決が見れなくて残念だが、深浦もベンチ入りはしている。
 これはリリーフとして起用しようという算段か。

「グリーン? どんな投手なんだ?」
 栗田はベンチにいた御堂あづさに尋ねた。ミーティングでもそんな名前は出てなかった
ような・・・?
「うーん。そうやねえ……あんまり覚えてへんなー」
 あづさの答えは正直当てにならなかった。
 実際に昨シーズンは敗戦処理ばかりで、他の選手に聞いてみても、似たような答えしか
返ってこない。
 ただの奇襲か、それとも大抜擢なのか。
 答えは試合の中で出てくるだろう。

 敵地に乗り込んだシャイニングヴィーナスの打線は、いつもの小宮奈美から始まる。
 スイッチヒッターなので右打席に入る。対戦も少ないのでじっくりと見ていくのかな?
と思いきや、初球から打ちにいった。変化球にタイミングが合わず、内野フライに倒れる。
 監督としてはもう少し粘ってくれよ。という思いもなくもない事も無いが、その思いが
通じたのか否か次の川原恵美はファールを続けた。
 ピッチャーのほうを見ると、ボールを操る左腕を上からだけでなく、スリークォーター
気味やほぼ横に倒しているのがわかる。

 川原恵美は結局凡退し、3番の大木姫子も外野フライに抑えられた。
 意気揚々とマウンドを降りる福岡ハニーダイナマイツの先発投手グリーン。何か対策を
講じなければならないだろうか。

 一塁側、ハニーダイナマイツのベンチでは、香山伸彦監督がそのグリーンの立ち上がり
の好投を讃えた。
「マダマダデスヨ」とは言うものの、グリーンも何かを掴んだようだ。
「行けるところまで飛ばして行きなさい。後は こ の 私 が 控えてるんだから」
 さらにエースの深浦がベンチの奥から声をかける。その佇まいは、既に女王の風格すら
漂わせている。
0849「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十六話2016/07/03(日) 20:42:16.52ID:0bbUpJr1
5/8
 マウンドに大咲さくらが立った。
 三連戦の頭(初戦)を取るために、エースらしい投球を見せたい。
 打席には入るのは、ハニーダイナマイツの一番打者・一之瀬鈴音だ。
 ゆっくりとバットを回し、ピッチャーに向けてピタリと合わせる、一連のルーティーン
を見せる左打席の一之瀬。
 “安打製造機”とも呼ばれる天才打者に対し、さくらは際どいコースを突いていくが、
結果的にフォアボールを与えてしまう。
 この一之瀬、塁に出てからがさらに怖い。自慢の足で次の塁を積極的に狙っていく。
 次打者の初球に早速二塁への盗塁を敢行し、まんまと成功した。

「よ〜し、一之瀬さん。ここはキッチリ決めますよ〜」
 打席には2番の川嶋美祢子。ここは送りバントのようだ。
 前進守備で警戒される中、川嶋はバントを決め、ランナーの一之瀬を三塁に進めた。
 さらに3番の湯上多美がライトへ犠牲フライを打ち上げる。
 ホームの福岡ハニーダイナイマイツが軽々と先制した。しかもノーヒットでの先制点で
ある。

 そして二死無走者になり、いよいよ4番のジャニス・アレクサンダーを打席に迎える。
「ふう。それじゃあ、仕切り直しと行きますか…」
 先制点は相手に与えたが、これで試合に負けた訳では無い。マウンド上の大咲さくらは
気持ちを切り替えて、最少失点でこの回を終える事に集中した。
 アレクサンダーにはボール球を降らせて最後は落ちる球で三振を奪った。
 さあ、反撃の開始だ。
0850「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十六話2016/07/03(日) 20:45:44.29ID:0bbUpJr1
6/8
 4番の御堂あづさに、5番のマクスウェル。シャイニングヴィーナスの誇る二台の大砲
がハニーダイナマイツ先発のグリーンに襲い掛かる。
 グリーンと本城光莉のバッテリーは、女子野球界屈指の強打者コンビに対して、まとも
に力勝負は挑まない。当然である。

 あづさはスライダーを引っ掛け、セカンドゴロ。マクスウェルはチェンジアップに三振
を喫した。
 この回も三人で攻撃は終了。どうも打ちあぐねている様だ。
 とりあえず、打線が何とかしてくれるまでは粘るしかない大咲さくら。1失点のまま、
ハニーダイナマイツ打線の猛攻を何とか凌いでいく。

 3回を終えて、シャイニングヴィーナス打線は相手先発グリーンに対してヒットどころ
か出塁すらできないでいた。
 一方のハニーダイナマイツ打線は、先制点を挙げた後はさくらを打ち崩せずにいた。

「こっちも1点じゃ心もとないわ。ガンガン打って援護しましょう!」
 ダイナマイツ打撃陣に対して、正捕手の本城が檄を飛ばした。
 本城光莉は若い投手陣を強気のリードで引っ張りつつ、打撃でも主に6番に座り豪快な
バッティングを見せ、オフには後輩を引き連れて釣り三昧。そちらのほうでもプロ並みの
腕前らしい。それはともかく攻守ともにキーマンというわけだ。

4回の裏、チャンスで本城に打席が回ってくる。
 先頭打者の3番湯上がヒットで出塁し、4番のアレクサンダーは三振に倒れたものの、
5番の松村依里奈が一二塁間をしぶとく破って一塁三塁とチャンスを広げた。
 そして打席には6番の本城が入る。ゆったりとバットを構える。
 対するマウンドの大咲さくらは、この場面を断ち切れるか。

 追い込んでからさくらの投じた5球目の決め球のカーブだった。
 これを見事にすくい上げてセンターの後方へ。
 これが追加点となるタイムリーヒットになった。
 この後は何とか後続を断った大咲さくらだったが、ベンチでは悔しさを隠せない様だ。
0851「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十六話2016/07/03(日) 20:50:54.25ID:0bbUpJr1
7/8
 なんという事か、今シーズン初先発のグリーンが5回を終わって無安打に抑えている。
 昨シーズン覇者の東京シャイニングヴィーナスの誇る強力打線が、技巧派左腕に完璧に
抑えられている。実に信じられない出来事がここ九州は福岡で起こっている。
 なんとか対策を……とは考えるが、考えれば考えるほど相手の術中に嵌っていく。正に
そんな状況だった。

 そしてその嫌な流れを打ち破ったのは、9番の大咲さくらのバットだった。
 6回表2アウト、ランナー無しからグリーンのチェンジアップを捉えてようやくチーム
初安打を左中間に飛ばす。
 さらにレフトの守備がもたついている隙を突いて、打ったさくらが二塁を奪う。
 二塁手のタッチをかいくぐり、野手張りのスライディングを見せる。
「さくらセンパイっ、ナイスバッティンっス!」
 続く小宮奈美が打席に入った。そのバットに期待がかかる。
「反撃の時は来たりっス! もう2打席も見て軌道はだいたい掴めたっス」
 チームの切り込み隊長、奈美の頼もしいお言葉。だが、ここで福岡のベンチから監督の
香山が巨体を揺らしがらゆっくりと出てきた――そして、主審に投手の交代を告げた。

 ドーム内に流れる持ち歌と共にいよいよ“主役”が登場した。
 高揚感を抑えながら、堂々とマウンドへと向かっていく背番号17。
 ようやくエースの深浦陽菜が、ダイヤモンドの中心にやって来た。
 待ちわびたファンの声援を浴びながら、深浦が投球を開始する。
 アンダースローから浮き上がるような軌道のストレートが、キャッチャー本城のミット
にズドンと突き刺さる。
 小宮奈美に1球もかすらせず、三球三振で仕留めた深浦。一気に湧き上がるスタンド。
 これで試合の流れは、ホームの福岡ハニーダイナマイツが掴んだように思われた。
0852「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十六話2016/07/03(日) 20:53:26.52ID:0bbUpJr1
8/8
 いや、まだ試合は終わっていない。先ほど激走を見せた大咲さくらが6回裏のマウンド
にも当然のように続投する。
 エースの登板で士気の上がるハニーダイナマイツ打線に対して、さくらは丁寧にコース
の端を突いて0に抑える。
 さあ後は、シャイニングヴィーナス打線の反撃を見たい。
 だが、そう焦れば焦るほど、相手エース深浦の術中にはまっていく。
 何とかして攻略の糸口は見えないだろうか。
 走者を出して揺さぶろうとするが、本城の強肩がそれを許さない。

 気がつけば、試合は9回の表、この回に2点を返さなければシャイニングヴィーナスの
敗北となる窮地に立たされた。
 先頭打者は9番、ここまで8イニングス2失点と先発投手としての仕事を全うしている
大咲さくら。本人に聞いたら勝ちが付かないと好投しても意味がないと言われそうだが、
それはさておき。
 ここで監督の栗田はカードを切る。大咲さくらに代えて、代打として三島みらいを打席
に送り出す。
 マウンドには6回途中から登板している“ひなたん”こと深浦陽菜。ここまで打者9人
に対してわずかヒット2本に抑えている。
 そこでルーキーの三島みらいを送り出し、流れを変えたいというのが栗田の考えだ。

 みらいは積極的に打っていった。ここまで力投していた大咲さくらの分まで思いを乗せ
た打球は、外野手の頭の上を軽々と飛んで行った。
 みらいの打球はさらに伸びて、女子プロ野球のために設置された即席フェンスを越えて
いった。認定ホームランにより1点を返した。
 一振りで期待に応えるあたりは、やはり親父譲りか。
 ダイヤモンドを一周して帰ってくる三島みらい。ビジターながら少なくない声援に手を
振って答えた。

 しかし、反撃もここまで。試合は福岡ハニーダイナマイツが2−1で逃げ切り三連戦の
初戦を勝ちました。
0854創る名無しに見る名無し2016/07/21(木) 02:16:28.35ID:OnrZf3aJ
エアホッケーって何だったの
0855創る名無しに見る名無し2016/07/31(日) 01:19:08.50ID:tQ2137SL
勝手に話を作るわけにもいかないしな
0856創る名無しに見る名無し2016/08/07(日) 00:28:57.47ID:AcjFZdoj
オリンピック始まってるよ
0857創る名無しに見る名無し2016/08/15(月) 22:48:34.52ID:+Pe1bUkY
甲子園とか見てると、やっぱ現実の奇跡的な展開には敵わないよなあって思いますね
0859創る名無しに見る名無し2016/09/10(土) 23:53:41.48ID:w6osvrwO
広島カープ、25年ぶり7度目のリーグ優勝です。おめでとうございます。
0861創る名無しに見る名無し2016/09/19(月) 18:00:15.21ID:ld2wjjNV
マイト レーヤが出てくる!

バカにはわからない!

株式市場が大暴落したらテレビに張り付いてろ!

日本語を話す長身の物静かな外人男性を探せ!

空にも気を配れ!

UFOが姿を現すぞ!!

安倍と親米ポチのせいで日本から世界経済が崩壊する!

株式市場と原発は閉鎖される!

フクシマ安全論者も、株トレーダーも、安保タダ乗り論者もオシマイだ!

このホラ吹き、守銭奴、売国奴!

危険なのはオマエラだカス!

山本太郎にひれ伏せゲスども!

マイト レーヤのテレパシー世界演説のあとは生き地獄を覚悟しろこの人でなし!

自民信者は最高に見苦しい土下座を見せてくれよ(笑)
0862創る名無しに見る名無し2016/09/21(水) 18:35:52.90ID:42KN8dqC
ファッシズム政権の終わりは、いつでも残酷な結末しかない。
安倍晋三はどんな殺され方をするんだろう?
https://twitter.com/tok aiamada/status/605899171313246209
辺野古新基地建設反対ママの会に対して、機動隊員が「お前たちには汚い血が流れている」
「だってお金欲しいもん〜」「俺の写真を待ち受けにしろ」などと暴言。(顔写真)
https://twitter.com/MothersNoWar/status/690357793702940672


世界平和の脅威は、イスラエル、イラン、アメリカです。
イスラエルの役割は跪いて、パレスチナに許しを請うことです。
アメリカによる他国の虐待に反対の声を上げなければなりません。
彼らは今世紀(21世紀)をこの帝国が出来上がるアメリカの世紀と呼ぶ。
しかし、そうはならないでしょう。
彼らが世界中に‘民主的’制度を確立したいという衝動(1種類の政治形態が世界中を支配する)
をコントロールするのは、マイト レーヤの任務です。


史上初の世界演説は英国BBCが放送

それは非常にまもなくです。
マイト レーヤが世界に向かって話をする準備は良好に進行しています。
この時、初めての本当の身分を明らかにされます。
25分か35分くらいかもしれませんが、
歴史上で初めて、世界的規模のテレパシーによる接触が起こるのです。
14歳以上のすべての人々はマインドの中で、自国語で聞くでしょう。
https://www.youtube.com/watch?v=6cO vo6n7NOk
0863TooruShiraogawa2016/09/21(水) 19:22:14.88ID:B0L8xui/
猛獣いない地球温暖化ですね。親は出産停止の生理痛無い永遠の命の核兵器廃絶を理解不能です頑張って下さい、金融機関廃止し今と逆で客が店員に「有難う」思うビニール値札の商品過剰包装を無くす燃料不使用農業で、
都市と分け自動車必要で農村だけマンション建てますか耕作放棄地42.3万ha学校も老人介護も辞める、世界永久平和。誰か痛い時は夢無い迷惑。悔い改めは短時間の苦痛だから耐えて下さい。
冬雨が日本毎年2007年から埼玉県熊谷市40℃高知県四万十市41℃群馬県館林市山梨県39℃2016年6月の観測史上最高気温、大雨新記録京都府2015年2016年6月150mm熊本県、日本2016年冬2月20℃以上5月32℃新潟県、
台風2015年風速81m,南半球2016年2月フィジー風速82m。日本は食糧自給率2015年まで6年39%は人口増加止めなかった罰、
江戸時代約260年平和らしく産み貨幣通貨金融機関を導入、1923関東大震災後1930年代226事件1940年代太平洋戦争、1995阪神大震災重軽傷5桁後地下鉄サリン事件、2010年8月から夢多く出生数上げ2011東日本大震災重軽傷4桁、
福島第一原発事故震災避難2011年からテロ時刻は胸痛い2015年6月から夢1年少し、出生率上げ預言邪魔負傷者続出の熊本地震(2016年)重傷3桁怪我4桁、
胸痛く無い2016年6月から戦後平和有難さ知ら無い世代は育た無い妊娠停止命令熱帯移民歓迎義務。
1億総活躍社会良く金融機関9ヶ月以上予定悪い。夢で分かる結婚ですね。役場に嘘年齢登録の話。
配偶者死亡以前姦淫不妊治療は逆子帝王切開切腹、夢の唯一の夫の精子以外は夢無い同性愛者で即死の恐れ、強姦は未熟児、中絶は殺人。妊娠やさしい親に死なれたい?約3500年前旧約聖書十戒「親を敬え」ですね。
小惑星衝突か太陽消滅か高温の地球温暖化北極氷消滅2070年2040年2035年。
宗教イスラム神アラー出産拒否0600年。キリスト復活0033年イスラム復活教え0600年仏教来世も、信じ無いで、旧約聖書の十戒に従い夢みて永久に永遠に恒久に幸せに。
格闘家は早死に人間は格闘禁止ですね。スポーツを見せる意味は新記録以外は無くなりますね。
「(妊娠,性)出産,銀行(金),禁止(停止,不)?」9ヶ月以内返信28.5億人Facebook等LINE手伝えますか?

出産,金融機関,禁止?日本 Birth,bank,ban?英語
0865創る名無しに見る名無し2016/09/24(土) 01:47:58.71ID:uC2ihNGA
Bリーグが開幕しましたが
果たして日本にプロバスケットボールが
定着するのか、楽しみですね
0866創る名無しに見る名無し2016/09/29(木) 00:52:21.30ID:DceWw2R2
パ・リーグは北海道日本ハムファイターズが大逆転の末、4年ぶりに優勝しました。
序盤は完全にソフトバンクが独走するのかと思いましたが…
0867創る名無しに見る名無し2016/10/17(月) 02:21:26.26ID:MpH5k0WN
それにしても大谷翔平は凄いね。野球漫画かよ

とりあえず日本シリーズは、リーグ優勝チーム同士の対戦になりましたね
0868創る名無しに見る名無し2016/10/24(月) 02:35:01.18ID:04ULCG4j
日本シリーズは広島がホームで2連勝、さて日本ハムは札幌に舞台を移して巻き返せるかな〜
0869創る名無しに見る名無し2016/10/26(水) 00:17:20.04ID:gSW2JEch
DH大谷翔平のサヨナラ打で日本ハムが勝利しました
どちらも譲りませんね
まだまだわかりませんよ
0870創る名無しに見る名無し2016/10/28(金) 02:15:37.38ID:JbyK8ljO
日本ハムがホームで3連勝して、舞台は再び広島へ。
このままの勢いでハムが制するか、カープが地元で逆転して日本一か!?
0871創る名無しに見る名無し2016/10/30(日) 22:10:24.88ID:LWfoXeiL
日本ハムが決めてしまいましたねー
黒田対大谷も見たかったですけどねー
0872創る名無しに見る名無し2016/12/02(金) 02:20:55.84ID:GzCWEPye
「神ってる」が流行語大賞だって
0878創る名無しに見る名無し2016/12/15(木) 02:02:47.69ID:W8VL2TDI
鹿島アントラーズ、凄いですね!
クラブワールドカップで決勝進出、あと一勝で
世界一という所まで来ました!
0879創る名無しに見る名無し2016/12/18(日) 23:10:43.31ID:t4esWXBU
いやー、レアル相手に最後まで追い詰めたんですけどねー
でもJリーグのクラブがここまでやれるかって感じですね
0883創る名無しに見る名無し2017/03/08(水) 03:53:12.48ID:10ILjRF/
侍ジャパン、初戦を勝ちました!
0884「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十七話2017/03/29(水) 20:20:29.76ID:DNMaG/lY
1/9
 敗戦から一夜明け、東京シャイニングヴィーナスのナインは一路熊本へ。九州三連戦の
第2戦目の舞台だ。もちろん対戦相手は福岡ハニーダイナマイツ。
 果たして、リベンジなるか。

 熊本県八代市。女子プロ野球の公式戦を翌日に控え、シャイニングヴィーナスのナイン
は試合の行われる県立八代運動公園に到着した。
 先日のドーム球場とは打って変わって開放的な空間で、早速打撃練習の打球がポンポン
と青空に向かって飛んでいく。

 明日の相手の先発予想は左腕の渋谷亜弥子だが、昨日のケースがあるので、どうなるか
は解らない。それでも、昨日の試合で深浦陽菜から見事ホームランを放った三島みらいを
スタメンで使おうと、栗田は考えた。
 昨日の負けの嫌な流れを変えてくれるハズだ。
 主砲の御堂あづさにはファーストに回ってもらって、みらいを5番サードに抜擢する。
 将来的にはこの布陣がそれぞれレギュラーポジションになっていくのだろう。そんな事
を栗田はぼんやりと考えた。
 内野でのノックを見る限り、みらいはセカンドやショートでも適性がありそうだった。
 しかし、往年の名三塁手を父に持つ三島みらいを起用するなら、やはりサード以外では
考えられなかった。
 少し古い考えかもしれないが、栗田にとって、いや野球人にとって三島の名はそれほど
大きかった。
 三島みらいを女子プロ野球のスターへと育てるのは、球団に課せられた使命と言っても
過言では無いだろう。
 もちろん、現在のレギュラー三塁手である御堂あづさが「ほな、どーぞ」とその地位を
譲る事は無いので、一筋縄では行かないだろう。
 激しいレギュラー争いが、結果的にチーム力を引き上げていくのだ。
0885「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十七話2017/03/29(水) 20:23:33.06ID:DNMaG/lY
2/9
 第一戦の勝利に続き、連勝を目指す福岡ハニーダイナマイツの選手たちは、福岡県内の
球場で練習した後、試合当日に熊本入りする。
 2戦目の先発はローテ2番手の渋谷亜弥子で決まっているが、エースの深浦陽菜が再び
リリーフとしてスタンバイをする。

「調子はどうかしら? 渋谷さん」
 軽めの調整を続けている渋谷の元に、エースの深浦が近づいた。
「あっ、深浦さん。ええ、まずまずです」
 渋谷はそう答える。ちなみに“しぶや”ではなく“しぶたに”である。
 リリースの直前まで左腕が体に隠れるピッチングフォームから、キャッチャーミットに
真っ直ぐボールを投げる。
 大学からプロ入りして一年目の渋谷は、ここまで3試合に先発して3連勝と波に乗って
いる。しかし次の相手は昨シーズン日本一の東京シャイニングヴィーナス打線――。
 初めて対峙する打者たちのイメージを思い描きながら、渋谷はじっくりと肩を作る。

 練習の後、食事のテーブルを囲むハニーダイナマイツの選手たち。もちろん野球の話も
するが、それだけでは無い。
「ねえねえ。渋谷さん?」
 大好物の辛子明太子をご飯にたっぷりと乗せて食べながら、エースの深浦陽菜が隣の席
に座った渋谷亜弥子に話しかけた。
「なんでしょうか」
 食事を続けながら、渋谷は深浦のほうに耳を傾けた。
「GNTの件なんだけどぉ……」「お断りします」
 即答だった。
「む〜。まだ何も言ってないじゃない」
 やや拗ねたような声を出す深浦だったが、いつものやりとりのようだ。
 九州GNT――チーム内のローカルアイドル活動へのスカウト。
「では、最後まで言ってください。改めてお断りしますから」
 渋谷がそう言うので、深浦は何度目かの勧誘をしたが、やはり返事はNOだった。
「だいたい私は島根県出身ですし……」
 確かに。九州GNTは九州各県のメンバーで構成されている。
「いいのいいの。陸続きみたいなものだし」 ※島根と九州は陸続きではありません。
 深浦は強引な理論を展開させた。もはや理論でも何でも無いが、それほど引き入れたい
という事だろうか。
 むしろ島根ってどこだっけ? そう思う深浦だった。
0886「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十七話2017/03/29(水) 20:28:16.83ID:DNMaG/lY
3/9
「予想通り、向こうの先発は渋谷亜弥子ですね」「ああ」
 試合開始30分前、両チームのオーダーが発表された。
 シャイニングヴィーナスの先発は三上英子。ハニーダイナマイツの先発は渋谷だった。
「予想通り……だが、渋谷は新人なので当然我々の打線は初対戦……」「うん」
 冷静に語る三上英子の隣で、ただ頷いている栗田だった。これではどっちが監督なんだ
か判らない。
「やはり初物には弱い所があるからな」「なるほど」
 目には目を、初物には初物を。栗田はルーキー三島みらいの打棒に期待を寄せていた。

 試合開始。初回は渋谷の前に三者凡退。三島みらいには打席は回らなかった。
 そしてその裏。先頭の一之瀬がいきなりヒットで出塁し、続く川嶋がバントで送って
ピンチの場面を迎える。だが、そこで動じる三上英子では無い。後続の3番4番をともに
内野ゴロに仕留めて先制点を許さなかった。

「英子さん。最後のスライダー、少し変化させましたですね?」
 1回裏終了後のベンチにて。三上英子のボールを受ける丸山みのりが話しかける。
「ああ。狙われてるなと感じたんで咄嗟にな」
 英子は得意げに答える。
「さすが英子さんです。素晴らしい洞察力です」
「いやいや、褒めるならアンソニーだよ。彼が教えてくれたんだ」
「ああ、アンソニーさんですか……って誰なんですかっ?」
「何を言ってるんだ。この子だよ」
 英子は自慢の黒縁メガネの真ん中を中指でクイッとやる。いや、わからん。
「ええっと……、クロちゃんさんですか?」
「こらこらー、人違いなんてしたらアンソニーが気を悪くするぞっ」
 人違い……とは……。
「わわわっ。すいませんです。アンソニーさんっ」
 みのりは謝罪した。誰に対してなんだよ……。

 解説しよう。三上英子は自ら所持するメガネにそれぞれ名前を付けているのだ。
 例えば、黒縁メガネならクロちゃん、など。本日もまた黒縁メガネであるが、いつもの
とは違う新品のヤツなので、名前が違うという事だ。以上、解説終わりっ。
「アンソニー・クロムウェル。私の新しい相棒だ。よろしくな」
0887「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十七話2017/03/29(水) 20:31:26.98ID:DNMaG/lY
4/9
 2回の表。先頭の4番御堂あづさが四球で出塁し、この日5番に入っている三島みらい
が打席に入った。注目のルーキー対決だ。

「同じルーキーとは言っても高卒と大卒ですし、特別意識はしてません」と取材した雑誌
には語ったマウンド上の渋谷だが、相手はプロ入り前からメディアを賑わせた有名人”
だ。自分の投球術で牛耳ってやりたい気持ちは、当然ながらある。
 対するは右打席の三島みらい。今日だけでなく今後も対戦する相手だろうサウスポーに
対して、その投球を見定めようという狙いのようだ。
 さらにこの場面はノーアウトで一塁にランナーが出ている。最低限転がして進める打撃
を心がける三島みたいだった。
 その結果は、狙ったように一塁線の内側を転がるファーストゴロ。一塁手の松村依里奈
が拾い上げ、そのままファーストベースを踏んだ。
 得点圏にランナーを進めることはできたが、後続が倒れてこの回は先制点とはならず。
 どうやら序盤は投手戦の様相を呈して来たようだ。
 技巧派投手2人による投球術の競演が見られた。

 5回には、三島みらいが先頭打者として打席に立ち、センターオーバーの二塁打を放つ
ものの得点には繋がらず。なかなかもどかしい展開となる。
 それならば。と、6回表には三回り目でようやく出塁した1番打者の小宮奈美を一塁に
置いて2番川原恵美の打席でエンドランを仕掛ける。
 これが成功し、1アウト一、三塁とチャンスの場面でクリーンナップに回った。
 3番の大木姫子が左打席に入る。左対左で打者が不利な場面だが、果たして……。
 渋谷はインコースをしつこく突いていく。下手したら打者の体にぶつかりそうなくらい
ギリギリの所をきっちりとストライクゾーンに入れてくる。
 これには打席の姫子も窮屈なバッティングを強いられ、思うように前には飛ばせない。
 それでもあえて起用した監督の思いに答えたい。その気持ちで振りぬいた打球はレフト
方向へふらふらっと飛んでいく。

 レフトを守っているのは主砲のアレクサンダーだった。とは言え“守っている”という
表現が正しいのか分からない程度の守備範囲で、怠慢プレーも多い。
 そんなアレクサンダーの所に打球が飛んだ。さすがに定位置でダイレクトキャッチは
できたものの、ゆっくりと内野にボールを返す。その間にタッチアップで三塁ランナーの
奈美が生還した。ようやくシャイニングヴィーナスが先制点を奪った。
0888「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十七話2017/03/29(水) 20:34:59.17ID:DNMaG/lY
5/9
 さらなる追加点を狙うヴィーナス打線だったが、4番の御堂あづさと5番の三島みらい
の前にエースが立ちはだかる。
 ここまでわずか1失点の先発・渋谷に代えて、深浦陽菜が登板した。一回戦に続いての
リリーフ登板だ。
 前回の対戦では負けているあづさは、打ち取られているだけにリベンジの機会だったが
またしてもウイニングショットのスライダーの前に屈した。
 ツーアウトになって、一昨日の初対戦ではホームランを放っている三島みらいが打席に
立った。
 もう一発ホームランとは言わないが、相手エースを再び打って優位に立ちたい場面。
 だが、対する深浦も新人に続けて打たれては流石にエースの名折れだ。
 初球から武器のスライダー、さらにはシュートを駆使して、三島みらいを打ち取った。

「いよいよ出てきたな……」
 そう来るだろうなとは思っていた栗田だったが、少しイニングは早めだった。
 ヴィーナス陣営もリリーフ陣を準備させておく。右投げの大岩ゆうなと、左の畑中良子
がブルペンに向かった。
 6回裏は先発の三上英子が続投した。
 上位打線に対して得意の変化球で何とかかわし、失点は許さなかった。

 7回表は深浦の前に三者凡退に倒れ、九番の英子まで打順は回らなかった。
 打順が回れば代打を出すつもりだったが、結局そのまま英子は続投となった。
 7回裏のハニーダイナマイツは5番の松村依里奈からの打順だが、その前に三上英子の
七色の変化球が立ちはだかる。いや十色、同じ変化球でも微妙に差異が生じるため数十色
から数百色といったところか……切りが無いのでやめよう。

 松村と、さらに6番の本城も打ち取ったところで打席に入るのは、代打の岩倉朋美。
 極端にバットを短く持って、さらに体を小さく折りたたむような独特のフォームで微妙
な変化を捉え、右方向へ流し打った。
 まさに職人芸のような右打ちで一気に二塁まで到達。ツーアウトから得点圏にランナー
を進めた。
 ここで、より一層大きな声援が飛ぶ。それもその筈、一打同点のチャンスで打席に立つ
のが地元・熊本県出身のルーキー国松弘子だからだ。
 しかしその事が逆に重荷になっているのか、ここまでの2打席は共に凡退していた。
0889「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十七話2017/03/29(水) 20:39:13.80ID:DNMaG/lY
6/9
 大学日本代表の四番打者という看板を引っさげてプロ入りした国松。しかし強打者たち
が集う福岡ハニーダイナマイツに入団すると、先輩たちとの力の差に戸惑う事もあった。
 そんな国松は三上のカーブに泳がされ、この打席は外野フライに倒れた。

 試合は7回を終えて、1対0でシャイニングヴィーナスがわずかにリードしている。
 ヴィーナス先発の三上英子は、7イニングスを投げて無失点と文句の言い様の無い投球
を見せていた。だが、8回表のヴィーナスの攻撃はその英子からの打順だった。
 ヴィーナスのベンチは好投の英子に代えて、代打の清美瑞希を打席に送る。
 なお代打した清美は深浦の前に凡退し、結局この回は得点は入らず。
 徐々に流れがハニーダイナマイツの方に傾き始めた。

 八回の裏、ヴィーナスの2番手・大岩ゆうなにダイナマイツ打線が襲い掛かる。
 一死から一之瀬がセンター前ヒットで出塁し、続く川嶋の打席でエンドランを成功させ
て一、三塁のチャンスを作った。
 そして、クリーンナップがリリーフエースの大岩ゆうなに襲い掛かる。
 ピンチの場面だが栗田監督は動かない。投手への信頼の証だ。
 犠牲フライでも同点。打席の湯上多美はそんな気持ちでバットを振りぬいた。
 外野に飛べば、三塁ランナーの足なら余裕でホームインだ。
 しかし、セカンドへのフライに倒れ、ツーアウト。打席には4番だがこの日は2三振の
主砲・アレクサンダー。

「ったく。四番なら四番らしく働きなさいよね……」
 深浦陽菜がベンチでこっそり愚痴る。そう言いたくもなるだろう。
 しかし、この声がアレクサンダーの耳に届いたのか、物凄い一打が飛び出す。
 泳ぎながら変化球を叩き、左中間まで運んだ。流石にパワーがある。
 この打球が外野手のいない所に落ち、ランナーは二人とも生還し、ハニーダイナマイツ
が一挙に逆転に成功した。
 してやったりの香山監督は一塁側ベンチで喜びを爆発させている。
 残り1イニングで再び追いついて、勝ち越すことができるか。
 マウンドには深浦陽菜が立ち続けるだろう。それをどう攻略していくのか。
0890「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十七話2017/03/29(水) 20:43:39.98ID:DNMaG/lY
7/9
 9回表。シャイニングヴィーナスは三番の大木姫子からの好打順。まずは追いついて
おきたいところだ。
 栗田は姫子に「頼んだぞ」とは言ったものの、特に的確なアドバイスなどは無かった。
 それでも先頭打者の姫子は何とか出塁しようとする。
 結果はセンター前ヒット。同点のランナーが一塁に出た。

「よっしゃ、一発打ったろ」
 打席に向かうのは、四番の御堂あづさ。ホームランが出れば逆転だが。
 そうはさせじと、福岡のエースが立ちはだかる。
 自称永遠の17歳の深浦陽菜ことひなたん投手、ここはキャリアの違いを見せるか。
 2球続けてスライダー、共にファールで追い込む。
 ツーストライクから1球外すか? いや、遊び球は無かった。
 インコースだ。懐に捻り込むようにシュートを放つ。
 窮屈なバッティングを強いられながらも、あづさは内野の頭を越える打球を放つ。
 無死一、二塁とチャンスを拡げ、5番の三島へとバトンを繋いだ。主砲としては物足り
ない結果だったかも知れないが、ともかく試合はルーキーのバットに託された。

「二試合連続で打たれるワケには、いかないわね」
 深浦陽菜は前回の対三島みらいの投球を思い出した。
 果たして女王としての威厳を取り戻せるのか。
 対する三島みらいも、前回のホームランは試合の勝利には結びつかなかった。
 今度こそ、試合をひっくり返す一打を放てるか。
 ちなみにネクストバッターズサークルには、今日はベンチスタートの小松田沙織が代打
としてスタンバイしている。
 でも、自分で決めなければ。みらいは力強くスイングした。初球はストレートに力負け
したのか、後ろにファールボールが飛ぶ。
 みらいは決め球のスライダーを狙っていた。
 外へ逃げるボールを逆らわずに右方向へ。一塁線に強い打球が転がる。
 ファーストの松村依里奈が身体で止め、打ったみらいはファーストゴロに倒れたものの
チャンスは広がった。ベンチに戻るみらいを、チームメイトがハイタッチで出迎える。

 タイムリーを打ちたかったみらいは悔しさをグッと堪えて、次打者の小松田沙織に声援
を送る。
0891「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十七話2017/03/29(水) 20:46:44.55ID:DNMaG/lY
8/9
 9回表、一死二、三塁で打席には代打の小松田沙織。いつもはレギュラーで、勝負強い
バッティングが持ち味だ。1点を追うこの場面、そのバットに大きな期待がかかる。

 一塁ベースは空いている。だが、マウンドの深浦は一瞥もせず打者に相対する。
 左打者の沙織にとってはインコースに食い込んでくるスライダー、これをどう攻略する
のか。
 2ストライクまで追い込まれる。さあ、決め球はスライダーか、それとも……。
 だが打つ方も決めてかからないと、バットに当てることすらできない。
 深浦の渾身の一球が、ホームベースへ向かっていく。
 まるで打者の手元で曲がるように、ボールは急激な変化を見せる。
 少し振り遅れながら、沙織はバットを出す。ここは何とかファールで逃げる。
 みらいは良くこんな球をしっかり捉えられたな……などと感心している間も無く、次の
一球がやってくる。
 タイミングが合ってないと見るや、続けてスライダーを投げてくる。
 今度こそ。一二の三で沙織はバットを振りぬいた。
 執念で何とかバットに当てたその打球は、ピッチャーマウンドの手前で大きく跳ねた。
 これを見て三塁ランナーの大木姫子は本塁への突入を敢行する。
 二塁手の湯上多美が跳ねたボールを掴んでホームへ投げるも間に合わない!
 同点だ。深浦陽菜を攻略したとは言い難いが、とにかく同点に追いついた。
 一方の追いつかれた深浦は、非常に悔しい表情を隠せない。しかしそこはエースの意地
か、後続を断ち勝ち越しは許さなかった。

 9回の裏、シャイングヴィーナスのマウンドには守護神の城之内真緒。
 このイニングは無失点で抑えたい。いや、抑えないと試合終了なんですが。
 打線は下位打線だが、地元出身の国松がチャンスを伺っている。
 6番の本城が打席に入る。先頭打者なので、まずは出塁しようと思っているはずだ。
 アウトコースを攻めて、結果的にセカンドへのゴロに抑える。
 しかし、続く“左殺し”岩倉がライト前ヒットで出塁。国松の前にランナーを出した。
 おおおおおおおおおおおお。スタンドの歓声が、より大きくなった。

 百戦錬磨のベおっと失礼、お姉さんがテクニックを教えてあ・げ・る・と言わんばかり
の投球術で、ピッチャーの真緒がルーキーを翻弄する。
 対する国松もここまで凡退してるだけに、ファンの期待に応えたい場面だったが、結果
は大きなライトフライ。外野の頭を越える事はできなかった。
0892「GirlsBaseballClassic〜スタジアムの女神たち〜」第二十七話2017/03/29(水) 20:52:51.35ID:DNMaG/lY
9/9
 2アウトになって、9番に入っている深浦陽菜に打席が回る。延長を考えて続投させる
か、それとも代打を送るのか。深浦も打撃が苦手という訳では無いのだが、ここはこの回
で勝負を付けるべく福岡・香山監督は浅越美知香を代打を送る。
 内野の守備要因としてベンチに座っていた浅越だが、何とか繋いで上位に回したい。
 しかし、ここは城之内真緒が落ち着いて内野ゴロに打ち取る。
 試合は9回を終わって2−2の同点となり、延長戦に突入する。

 ハニーダイナマイツは、エースの深浦陽菜を降ろしたため、3番手として台湾代表にも
名を連ねる右腕投手、蔡麗君(ツァイ・リージュン)をマウンドに送った。
 深浦との対決は結局痛み分け……それはともかく、まずはこの試合をモノにしよう。
 ヴィーナスの打順は途中出場の9番・高畑由梨から。
 主にリリーバーとして活躍する蔡は、シュートやカットボールを巧みに使い、打者を
翻弄する。

 高畑に対してはインサイド高めのカットボールで、まずは三振を奪った。
 ヴィーナスの打順は4回り目になり、1番の小宮奈美が左の打席に入る。
 奈美は積極的に打っていったが、力の無いレフトフライに倒れた。
 三者凡退は避けたいところで続いて打席に入った2番の川原恵美は、粘りに粘った末に
フォアボールを選んで一塁へ。
 すると3番の大木姫子が、右中間を鋭いライナーで破る。これで二死ながら二、三塁と
勝ち越しのチャンスを作った。

 ここで打席には、主砲の御堂あづさ。これは勝ち越しを期待せずにはいられない。
 と、ここでキャッチャーの本城が立ち上がる。これは……敬遠ですね。塁を埋めます。
 二死満塁となって打席に立つのは、5番の三島みらい。一つ前の打席では、深浦に抑え
られたみらいだが、この打席では果たしてどうなるか。

 初球から狙い澄ましたように、得意のカットボールを打ち抜いた。ショートの頭を越え
て、左中間を完全に破った。ランナーが二人還ってくる。
 勝ち越しの一打を放ったみらいは、二塁ベース上でファンの声援に応えてぺこり。

 10回の裏は2イニング目の城之内真緒が、無失点で抑えて試合終了。結局この試合は
東京シャイニングヴィーナスが4−2で制した。
 これで1対1のイーブンとなって、いよいよ三連戦の三戦目に挑む。

 つづく。
0893創る名無しに見る名無し2017/04/10(月) 02:52:13.93ID:Q2uuXpe7
あげ
0894創る名無しに見る名無し2017/07/15(土) 02:57:25.80ID:j9EZpTyC
何も無いですね
0895創る名無しに見る名無し2017/08/24(木) 00:45:24.46ID:yCC1U2Wk
花咲徳栄高校が夏の甲子園で埼玉県勢初優勝を果たしました。
0897創る名無しに見る名無し2017/11/05(日) 23:49:42.06ID:XmXXDR9J
DeNAも意地は見せましたが、ソフトバンクの日本一で今シーズンは終了しましたね。
0898創る名無しに見る名無し2017/12/11(月) 00:15:21.28ID:gDsqL6rI
大谷翔平選手はエンゼルス(エンジェルス?)に決まりましたね。

関係無いけど球団の呼称を統一してほしい
0899創る名無しに見る名無し2017/12/27(水) 09:12:32.90ID:C1Z7QFDy
家で不労所得的に稼げる方法など
参考までに、
⇒ 『武藤のムロイエウレ』 というHPで見ることができるらしいです。

グーグル検索⇒『武藤のムロイエウレ』"

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0900創る名無しに見る名無し2017/12/29(金) 16:03:42.48ID:McQMlZ0o
スポーツっていいな
0901創る名無しに見る名無し2017/12/30(土) 01:10:45.05ID:RTlNJCuO
そうですねー
例えばどんなスポーツが好きですかね
0902創る名無しに見る名無し2017/12/30(土) 13:47:10.64ID:imeyuSLR
毎日会社に行かなくても
勉強しなくても
だれにも叱られない
スポーツっていいな
0903創る名無しに見る名無し2017/12/30(土) 23:39:04.17ID:mhwZWyk3
結果がすべて自分に却ってくるから
今日あるプロに会ったけど目が笑ってなかったよ
0904「GirlsBaseballClassic& ◆eKJXcc3bg0B0 2018/01/11(木) 21:19:13.29ID:sqxGcZOt
1/8
 チームは熊本を離れ、鹿児島へ。九州縦断シリーズ第3戦。舞台は鴨池野球場となる。

「うわあ、懐かしいなあ」
 球場に到着した三島みらいの第一声である。
 高校時代は鹿児島県の神山学園に所属していたみらい。出身地の東京から遠く離れた地
で三年間を過ごした。この球場でも何度もプレーしている。
 懐かしいって言うほど時間が経ってないだろというツッコミはさておき、今日はDHで
先発出場ということでその打棒に期待をしよう。

 対する福岡ハニーダイナマイツには、鹿児島県出身の若手、川嶋美祢子が2番ショート
でスタメンを張っている。九州GNTでも奮闘する“ミネリン”が、勝負のカギを握るの
か。

 ところで今日のシャイニングヴィーナスの先発は、渡辺侑子が起用される。今シーズン
ここまで三連戦の三戦目で先発起用されていた末永陽子はリリーフに回る事に。

 対するハニーダイナマイツの先発投手は、与那城夏生。沖縄県出身の右腕投手だ。
 与那城の武器は力強いストレート。だがコントロールはあまり良くないので、ボール球
を見極めていくのが肝心だ。
0905↑第二十八話です。2018/01/11(木) 21:23:49.52ID:sqxGcZOt
2/9
 試合は初回から動く。先頭の小宮奈美が四球で出ると、2番の川原恵美が送りバントを
キッチリと決めて得点圏へ進める。3番の大木姫子のヒットでチャンスを広げて、4番の
御堂あづさの打席でピッチャー与那城の暴投により三塁ランナーが生還し、先制のホーム
を踏む。
 1点を先制したヴィーナス、しかし1回の裏にダイナマイツの1番打者、一之瀬鈴音が
いきなりのランニングホームランで同点に追いつく。

「一之瀬さん! すっごーいっ。はやーいっ」
 ホームインした一之瀬を、2番打者の川嶋美祢子が出迎える。
「そうしてそんなに早く走れるんですかっ? 見てて惚れ惚れしてしまいますっ」
 川嶋、はしゃぐ。それに対して若干引きつつも、笑顔で応対する一之瀬だったが。
「ええっと、次……」
 一之瀬がバッターボックスを指差す。
「おっと、そうでしたね。それじゃあアベックランニングホームラン狙ってきます!」
 お前、アベック言いたいだけちゃうんかと。
 さすがに二者連続のランニングホームランとはならず、川嶋はレフトへのフライに倒れ
る。3、4番も続けて抑えたヴィーナス先発の渡辺侑子は、仕切り直しとなるか。

 1対1のまま、両投手の投げ合いが続く。コントロールを重視して丁寧に低目のコース
を突いていく渡辺に対して、ダイナマイツ先発の与那城は、とにかく強気にストレートで
攻めのピッチングを見せていく。コントロール? 何それ美味しいの? と言わんばかり
の荒れ球だが。
 みなさん、待球作戦です。ということで、ひたすら球数を投げさせる。
 四球などで走者は出すものの、あと一本タイムリーが出ず。1対1のまま、試合は中盤
へ向かった。

 再び試合が動いたのは5回の表だった。
 先頭打者の小宮奈美がヒットで出塁すると、続く川原恵美がバントで送って一死二塁と
する。そして3番大木姫子がヒットでさらにチャンスを拡げて、4番御堂あづさの一打で
勝ち越しに成功する。
0906創る名無しに見る名無し2018/01/11(木) 21:26:19.95ID:sqxGcZOt
3/8
 1点リードされ、そのまま黙っているハニーダイナマイツ打線ではない。その裏、二死
から走者を貯めて1番の一之瀬のツーベースヒットで一気に逆転。さらに、2番の川嶋も
タイムリーヒットで続いて2点差に突き放す。
 栗田が期待して初先発を任せた渡辺侑子だったが、この回に相手打線に掴まった。

「さて、どうするか……」
 栗田が判断に迷っているその間、投手コーチの久山がマウンドに向かっている。
 何とかあと1アウトを取ってマウンドを降りたい。侑子がそう眼で訴えかけてくる。
 よし、じゃあ次の打者までは任せてみよう。その後はリリーフに託す事にした。
 打席に立つのは、3番の湯上多美。右打ちが得意な右打者だ。
 一塁には川嶋美祢子がいる。足の速いランナーなので盗塁を警戒する必要がある。
 あるいは、打者と走者の共同作業でヒットエンドランの可能性もあるか。
 そんな事を考えつつとにかく残った力を搾り出して、侑子は打者を打ち取ろうとする。
 打席の湯上は厳しいコースをファールでカットしつつ、甘いボールが来るのを待つ。
 3ボール2ストライクから低めに落ちるスライダーがミットに収まる。
 湯上はボールと見極めてバットを出さなかった。
 しかし、主審の判定はストライク。見逃し三振で3つ目のアウトを奪った。

 ヴィーナスの2番手投手は末永陽子。この日はリリーフ待機だった。できれば1点でも
リードした状態で繋ぎたかったが、2点ビハインドの場面でマウンドに送り出した。
 6回裏。ピッチャー末永のアナウンスが球場に流れる。
 たしかに今日の先発は外された。だが完全に中継ぎにコンバートされた訳ではない。
 もう一度、まっさらなマウンドへ。まずは相手4番のアレクサンダーをレフトフライに
抑える上々の立ち上がりを見せる。
 さらに気持ちの乗った直球が、居並ぶ強打者を抑え込んでいく。

「いけるやん。これなら先発でも良かったんちゃう?」
 あづさによる監督批判とも取られる発言、まあそれは冗談だが。
「当然でしょ。それより逆転、頼むよ」
 陽子はそう返した。次の回の攻撃は4番に回る。
0907創る名無しに見る名無し2018/01/11(木) 21:27:28.84ID:sqxGcZOt
4/8
 そろそろまた今日も向こうの“切り札”が出てくるんじゃないか? そんな中で7回の
オモテ、ラッキーセブンのシャイニングヴィーナスの攻撃――。
 マウンドには先発の与那城が上がる。危なっかしいピッチングながら、ここまで失点は
わずかに1。行けるところまで行け、というのが香山監督の考えだろうか。
 先頭打者は2番の川原恵美。とにかく出塁を目指す。
 セオリー通りの待球策、そして狙い通りにフォアボールを奪って先頭打者が塁に出た。

 2点ビハインドでノーアウト一塁、すなわちホームランが出れば同点の場面で、3番の
大木姫子が打席に。
「チャンスを拡げて、あづささんに回さないと!」
 打席の姫子は、あくまで“繋ぎ”を意識して投手に対峙する。
 ハニーダイナマイツの監督は、ここでは動かないようだ。
 ピッチャー与那城、セットポジションから、大木姫子に対して第一球。
 四球のあと、ストライクを取りに来た甘いストレートを逃さず引っ張る。
 打球は一塁手の左を破る。今日三本目のヒットで無死一、二塁とチャンスを拡げる。
 そして打順は4番の御堂あづさに回る。

「やっぱ主役には相応しい場面が回ってくるんやね」
 あづさが気合を入れてバットをぎゅっと握る。
 一塁側のベンチから香山監督が出てきた。審判にピッチャーの交代を告げている。
 深浦陽菜がマウンドへ向かう。
 エースの三連投。まだシーズン序盤ながら優勝のために昨年女王を叩いておこうという
気迫を感じる。
 迎え撃つ御堂あづさ。前回の対戦では何とかヒットを打って、後ろに繋いだ。
 今度こそ逆転の一打を、自分が決めてやる。

 初球から決め球のスライダーを決め、深浦は一気にツーストライクと追い込んだ。
 しかし、追い込まれてからの集中力が凄かった。
 シュートが来ることはわかっていたのか、インコースの球を強引に引っ張る。
 この打球はファールになったが、強烈なインパクトを叩き込んだ。
 アウトコースへのスライダーがほんの少し甘く入った。これを見逃さず、ライト方向へ
力強いライナーを弾き飛ばす。
0908創る名無しに見る名無し2018/01/11(木) 21:28:53.46ID:sqxGcZOt
5/8
 二塁走者が帰って1点を返す。しかし、一塁走者の生還はライト一之瀬からの好返球で
阻止された。これは走者も三塁コーチャーも責められない。肩の強さを褒めておこう。
 リードが1点に縮まったものの、マウンドには深浦陽菜が立ちはだかる。
 続く5番のマクスウェルを三振に切って取り、ツーアウト二塁で今日6番に入っている
三島みらいを打席に向かえる。
 ここまでは三振一つに四球が二つ。ノーヒットで挑む今日4度目の打席となる。
 しかし、せっかくのスタメンのチャンス。三島みらいは存在感を示したい。
 もちろん易々と打たせるつもりはないマウンド上の深浦陽菜が、粘りの投球を見せる。
 それに対し必死に食らいつく三島みらい。二度の対決で球筋は見極めたのか、変化球に
も対応を見せる。
 だが、結果はピッチャーの深浦に軍配が上がった。みらいをショートゴロに抑えてこの
回は1失点でマウンドを降りた。
 
 7回の裏は2イニング目の末永陽子が下位打線を三人で切った。反撃の機運が高まる。
 そして8回表のシャイニングヴィーナスの攻撃は、7番の小松田沙織から。
 1点を守るハニーダイナマイツのマウンドにはエースの深浦陽菜が続けて立つ。
 小松田沙織は粘りながらも三振に倒れ、続くバッターも打ち取られツーアウトに。
 流れを変えよう。そう思って栗田は九番打者に代打を送った。
 左打者の清美瑞希が代打で登場した。果たして反撃の口火を切れるか。
 初球から狙いにいくが、バットは空を切る。やはり格が違ったか、清美は空振り三振に
倒れた。

 8回の裏。さらなる追加点は避けたいシャイニングヴィーナスは、1番の一之瀬から
始まる上位打線に対して左の岡村智沙をマウンドに送った。
 四打席目の一之瀬鈴音は、既に今日3安打、3打点と大活躍だ。今日の一之瀬のバット
はどうやっても止まりそうに無いのだが。
 しかし、左のワンポイントとして起用されたからには、投げねばならぬのだ。
 考えたってどうにもならない。ピッチャーの岡村は、開き直って投げるしかない。
 見逃せばボールかもという低めへのチェンジアップを、一之瀬は三塁線へ流し打つ。
 サードは御堂あづさ。逆シングルでキャッチし、踏ん張って一塁まで思い切り投げる。
 しかし、それよりも早く一之瀬の足が一塁ベースを駆け抜けていた。内野安打だ。
0909創る名無しに見る名無し2018/01/11(木) 21:30:55.33ID:sqxGcZOt
6/8
「この子は足があるから嫌なのよねえ」
 ファーストの小松田沙織がボソリと呟いた。
「足なら、小松田さんにもあるじゃないですか」
 一之瀬がそう返した。不思議そうな顔をしている。
 足の遅い私に対する当て付けか? と沙織は思ったが、そうでも無いようだ。
 一之瀬を一塁に置いて、2番の川嶋美祢子が打席に立った。
 左打者が続くということで、岡村が続投する。
 一塁に執拗に牽制球を投げるが、ランナーの一之瀬は走るそぶりすら見せない。
 バッターの川嶋は、送りバントの構えはしない。ここはヒッティングでチャンスを拡げ
ようという作戦か。
 
 川嶋が強引に引っ張った打球が、フェアゾーンに弾んだのを見て一塁ランナーの一之瀬
は一気に加速する。ライトのマクスウェルが処理している間に、二塁を蹴って三塁に到達
した。
 無死一、三塁。もう追加点は許せない展開で大きなピンチを迎えてしまった。
 結局1アウトもとれずに岡村智沙は降板し、リリーフエースの大岩ゆうなに託す。
 急遽マウンドに上がったゆうなは投球練習を済ませ、心を落ち着かせる。大丈夫。

 ゆうなはまずは3番の湯上を1球でセカンドフライに打ち取る。
 続くは4番のアレクサンダー。打席に入る前の素振りから、気合が入っているのがよく
わかる。そんな打ち気を逆に利用して、ボール球を空振りさせる。結果は三振。
 そしてツーアウトになって5番の松村依里奈。左打者だが、そのままゆうなが投げる。
 今日ノーヒットの松村は、この打席も少し肩に力が入っているようだ。
 高めのボール球に手を出してしまい、センターフライに倒れた。
 ピンチの場面も動じずにキッチリと無失点で抑える。リリーフエースの真骨頂を見た。
0910創る名無しに見る名無し2018/01/11(木) 21:32:10.81ID:sqxGcZOt
7/8
 いよいよ試合は9回に突入した。ここまでの試合をおさらいしておこう。
 8回を終えて、福岡ハニーダイナマイツが4対3とわずかに1点のリード。しかしその
リードを守るのが、福岡の誇るエースピッチャー・深浦陽菜。
 7回途中から、4番の御堂あづさにタイムリーは打たれたものの、その後はほぼ完璧な
ピッチングを見せる深浦に対し、上位打線が襲い掛かる。

 1番の小宮奈美が左の打席に入る。まずは出塁を目指す。
 美しいアンダースローから放たれた、滑り落ちるようなスライダー。
 このウイニングショットに何とか喰らいつくものの、結果はセカンドゴロ。湯上が捌い
てまずは一つ目のアウトを奪われる。
 続く2番の川原恵美は、塁上にランナーがいないので、兎に角出塁を目指す。
 鋭い変化球をファールで何とか粘るも、最後は力負けでキャッチャーフライに倒れる。
 これで後が無くなった。左の打席に3番の大木姫子が入るが、果たして最後のバッター
となってしまうのか。

 4番の御堂あづさに何としても繋ぐ。その事だけを考えて姫子は打席に向かった。
 対するマウンド上の深浦陽菜は、このまま4番に回さず試合を終わらせたい。
「まずは一発で同点にしてくれても、ええんやで?」
 打席に入る直前に、次打者のあづさからそんな言葉を受け取った。
 私が決める。そんな気概が無いと、目の前の敵を倒すことはできない。
 姫子はそう解釈した。

 打球はレフトの方向へ伸びる。レフトの守備に就いている国松が打球を追う。もちろん
ダイレクトで掴めば試合終了だが、国松の出したグラブの遥か向こうにボールは跳ねた。
 打った姫子は二塁へ。起死回生のツーベースヒットだ。

 4番打者というものは、やはりこういう場面に回ってくるものなのか。
 主役の登場と言わんばかりに、御堂あづさがゆっくりと打席に入る。
 球場のボルテージは最高潮だ。
 一塁は空いているが、バッテリーはどうするのか。
 ここは無理に勝負をする場面では無いと、キャッチャーの本城は思った。
 前の打席にで打たれた深浦陽菜は、リベンジの機会と思いつつもチームの勝利を優先し
ここは相手の主砲を敬遠する。
0911創る名無しに見る名無し2018/01/11(木) 21:39:03.41ID:sqxGcZOt
8/8
 遠く九州まで駆けつけたヴィーナスのファンのブーイングを背に受けながら、あづさは
平然と一塁へと歩いた。

 次の打順は5番のマクスウェルだが、栗田は代打を告げた。
 代打の塩原由佳が打席に立つ。今はベンチに座る元四番の意地を見せられるか。
 深浦は何度も対戦している相手だ、手の内はわかっている。
 だが、簡単に打たせてくれる相手じゃないことも、わかっている。
 あっという間に2ストライクに追い込まれた。
 決め球のスライダーをなんとかファールにし、チェンジアップを右方向に持っていく。
 執念で運んだライト前は、タイムリーにこそならなかったが、マウンド上の深浦陽菜を
じわじわと追い詰めていく。

 2アウトからランナーを貯めて、今日6番に入っている三島みらいに回った。
 期待を込めてスタメンに起用されたが、決定的な一打はまだ見せていない。
 しかし初対決ではホームランを放っただけに、ピッチャーにとっても嫌な相手だろう。
 初球はストレートに空振り。少し力が入ったか。
 2球目はボール球を見送り、カウントは1−1に。
 深浦はさらにストレートを続ける。力で抑えるつもりか。みらいはこれをファールにし、
2ストライクと追い込まれる。
 三島がんばれー。と声が聞こえる。小学生くらいだろうか。所属する少年野球チームの
ユニフォームを着た、未来の女子野球選手の声援を背中に受け、みらいは次の球を待つ。
 バッテリーが選択したのは、決め球のスライダー。
 しかしこれは打者も読んでいた。それでも尚、女子野球界屈指のキレを誇るスライダー
には自信を持っていた。

 なんとかバットの先に当て、打球を内野の向こうに弾き飛ばそうとする。
 セカンドの湯上が跳びながら身体を伸ばし、手を伸ばす。届くのか。
 打球の方向は見ずに、抜けてくれと願いながら一塁へと全力で駆けていくみらい。
 捕れば試合終了だったが、強い打球がセカンドのグラブを叩き、ポトリとグラウンドに
落ちた。三塁ランナーは悠々と生還して同点になった。二塁ランナーの御堂あづさは三塁
ベースを―ー回った。
 センターの出口まり恵が、急いでボールを拾い、すぐさまバックホーム。
 キャッチャー本城のミットにボールが吸い込まれる。
 タイミング的には微妙だったが、ランナーのあづさは迷わず滑り込んだ。
 審判の手が左右に広がると、三塁側のヴィーナスベンチが大きく盛り上がった。
 東京シャイニングヴィーナスが、9回表に2点を挙げて逆転に成功した。

 その裏は守護神の城之内真緒が相手の反撃を3人で抑え、ゲームセット。
 東京シャイニングヴィーナス対福岡ハニーダイナマイツの九州縦断三連戦は、2勝1敗
でシャイニングヴィーナスが勝ち越した。

 つづく。
レス数が900を超えています。1000を超えると表示できなくなるよ。

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